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天界の王子-Heavens of Prince-

3竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2012/12/16(日) 20:18:03 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 魁斗は、レナと名乗る女性を自分の家に連れて行った。
 二階建ての一戸建ての家だ。家に親の姿はなかった。魁斗には母親しかいない。父親は小さい頃に蒸発した、と母が言っていたが、それは本当の親ではないのだろう。どこまでが本当の話か分からない。勿論母も本当の母親ではないのだが。
 魁斗は二階にある自分の部屋にレナを入れる。自分の部屋に女子を入れるのは初めてな、若い魁斗である。
 レナは床に行儀よく正座して、椅子に腰掛ける魁斗の方へと身体を向けた。
「では、まず何からお話ししましょうか」
「……天界の説明と、アンタが何者かってことだ」
 そうですね、とレナは頷く。
 そのレナの表情は、どこか寂しさを感じさせるものだったが、魁斗は特に気に留めなかった。
「天界というのは、平たく言ってしまえばこの世界とは違う、異世界のことです。その異世界の王、つまり天王(てんおう)様とそのお妃様の間に生まれたのが、貴方です。天王とその妃の間に生まれる子供、それを天子(てんし)と呼ぶのです」
 レナの説明は分かりやすく、はっきりとしていた。
 その天界の存在を信じる信じないは別として、よくある『必要なところだけを言う』説明とは全然違った。まるで、辞書のCDでも聞かされている気分だ。
 レナは自分の控えめな膨らみのある胸に手を当てて、
「私はその天子として生まれた貴方の養育係を命じられていました。改めて自己紹介を。レナ・エルミントと申します」
「待て」
 レナの正体が分かったところで魁斗は彼女の言葉をストップさせる。
「俺がその、天界ってとこに住んでたんだろ? じゃあさ、俺にその世界での生活の記憶がないのは何でだ? 普通あるもんじゃないのか」
「貴方が、カイト様が幼い頃にこちらの世界に送られたからです」
 魁斗は絶句する。
 それならば、自分に天界での記憶がなくても可笑しくない。しかし、何故こっちの世界に送られたのか。魁斗が聞くより早く、レナが魁斗の心を見透かしたように口を開く。
「こちらに送られた理由は……」
 そっとレナが魁斗の胸に手を当てる。
 レナとの距離が詰まり、少しどきっとしてしまう。心臓の鼓動が早くなるのが分かる。もしかしたらレナにも気付かれているのかもしれない。
 気付いていないのか、あるいは気にしていないのか。レナは同じく口調で言葉を紡ぐ。
「貴方の中に、天界で『神具(しんぐ)』と呼ばれる道具が宿っているからです。それもどういうものか分からない『シャイン』という謎の物質なのです」
 貴方は神具を狙う賊軍から逃がすために、こちらに送られたのです、とレナは言葉をくくった。
 未だに心臓の鼓動が正常に戻らない魁斗。説明が終わり気が緩んだレナが、魁斗の胸の鼓動に気付き、顔を上げる。彼女が顔を上げると二人の顔の距離は十センチ程度しか開いていない。急に顔を赤くして、レナは魁斗から離れる。
 魁斗も恥ずかしくなったのか、顔を赤くしている。この空気を変えるため、魁斗は質問をする。
「な、なあ、だったら何でお前がこっちに来たんだ? 俺がここにいる時点で、その賊軍からは逃げられたんじゃなかったのかよ?」
「それが……」
 レナの声色に真剣さが戻る。
「幼少の頃はまだ身体が未熟で、貴方の中に宿る『シャイン』も不完全。貴方の居場所を探るのも中々上手くいかなかったのです。しかし、貴方が成長し『シャイン』は完全に覚醒した。天界の賊軍が、貴方を襲ってくるかもしれないのです」
 そのための、レナの派遣。
 魁斗は事実を知って、絶句した。


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