したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | メール | |

Purincess*

1ねここ ◆WuiwlRRul.:2011/04/07(木) 12:13:02 HOST:221x248x191x126.ap221.ftth.ucom.ne.jp
Is a wish selfish to want to become a wonderful princess?
(素敵なお姫様になりたいなんて願い、我侭かしら。)




If it is me, it is granted the wish. Substitute ――
(私ならその願いを叶えてあげられるわ。そのかわり――)


     Please bring a rose of magic having only one which stood in the world?
     (世界にたった一つしかない魔法の薔薇を持ってきて頂戴?)

2ねここ ◆WuiwlRRul.:2011/04/07(木) 13:25:17 HOST:221x248x191x126.ap221.ftth.ucom.ne.jp

     ! 注意 !

 英語の間違いが多いです(´・ω・`;) 今この時点で一つ間違いがあります。が、間違い探しとでも思って読んで頂ければ幸いです。間違いを見つけた場合は「ああ、馬鹿なんだな。」と思って流してやってくださry← よろしくお願い致します*

3ねここ ◆WuiwlRRul.:2011/04/07(木) 18:38:54 HOST:221x248x191x126.ap221.ftth.ucom.ne.jp

     * 登場人物 *


 月花ゆり 〜 つきばな ゆり 〜 / 高校一年生 十五歳 女
「幸せになれるんなら、ちゃんと皆で幸せになろうよ。」

 伊蓮遊 〜 いれん ゆう 〜 / 高校一年生 十六歳 男
「あれっ、俺また英語間違ってる!」

 リリー 〜 りりー 〜 / 年齢不明 身長的に五歳くらい 女 / お姫様
「魔法のお花をくれたらPrincessになれるの!」

 フリル 〜 ふりる 〜 / 年齢不明 身長的に五歳くらい  女 / リリーの敵
「ふふん、フリルにとってリリーなんかしょぼい相手よ!」

 那月 〜 なつき 〜 / 年齢不明 高校一年生くらい 男 / リリーの仲間
「きっとリリー以外に姫になれる奴はいない。」

 羽月 〜 はづき 〜 / 年齢不明 高校一年生くらい 女 / リリーの仲間
「リリー以上可愛い子、いるわけないよね。」

 神 〜 かみ 〜 / 年齢不明 男 
「姫になりたいんなら、これくらいの試練には耐えられますよね。」

 姫沢りあ 〜 ひめざわ りあ 〜 / 高校一年生 十五歳 女
「私だって、姫になってやるわ!」

 月夜叶 〜 つきや きょう 〜 / 高校一年生 十五歳 女
「お姫様になりたいんなら、叶の力が必要……。」

 ふわり 〜 ふわり 〜 / 年齢不明 女
「真の姫に相応しい方がいなければ、地球は滅んでしまう……。」

 スター 〜 すたー 〜 / 高校二年生くらい 男 / 王子様
「君、姫なんでしょ。俺と結婚しよーよ。」

 花乃璃羽 〜 はなの りう 〜 / 高校一年生 十六歳 女 / ゆりの友達
「ゆりー、何か悩んでる? 相談したかったらいつでもおいでよ!」


女子が多い気がする……((
気にしないで読んで頂ければ幸いです←

4ねここ ◆WuiwlRRul.:2011/04/08(金) 16:51:15 HOST:221x248x191x126.ap221.ftth.ucom.ne.jp

     * ゆり *


―――二年前。わたしと遊が中学二年生だった時のこと。


「もー、何回言ったら分かるの! お姫様はPurincessじゃなくてPrincessだってば!」

 中学校の帰り道、わたしは右手にチョコレートの棒アイスを、左手に遊の英語のプリントを持って呆れた表情で怒鳴るように言った。怒られているというのに、遊はるんるんと笑顔でスキップをしながら振り向く。

「俺の中のお姫様はPurincessだから気にしないで!」

「全くー……。」

 こんなほのぼのとした会話の裏で、わたしはあることを思っていた。


 遊のお姫様になりたい。Princessじゃなく、Purincessに―――……。


―――そして現在。Purincessになりたいと思い始めて二年経ち、わたしと遊は高校一年生になった。


 今でも学校の登下校は一緒だし、二年前みたいなほのぼのとした会話はするし、遊の周りの女子の中で一番近い存在だと思うけれど、それはただ友達として、幼馴染としての近い存在だと思うから恋人同士とかそういう関係にはなれないと思う。

「片思いって辛い………。」

「「えっ?!」」

 ふと呟いたこの言葉に男子も女子も皆わたしに注目し出した。迷惑、うるさい。そんな言葉がわたしの頭の中でぐるぐる回る中、あることに気がついてしまった。


 遊に好きだってばれちゃう……!


     * つづく *

5ねここ ◆WuiwlRRul.:2011/04/09(土) 18:52:48 HOST:221x248x191x126.ap221.ftth.ucom.ne.jp

     * ゆり *


「ゆり、好きな人いるの?!」
「へー、意外! 男子とか興味ないと思ってたー。」

 ざわざわ、ざわざわ。周りがわたしの好きな人の話でいっぱいになる中、慌てて遊を探すが教室を出てしまったのか何処にもいない。すると、友達の璃羽がわたしの元へ来てこそっと呟いた。

「遊に誤解されないように告っておいで。こっちは言い訳しといてあげるから。」

 ドンッと背中を押され、教室を抜け出す。言い訳しておいてくれるのは嬉しいけれど、告白までは心の準備が出来てない。教室のドアを離れ近くの階段に座り込めば一つ溜息を吐きこれからどうしようか考える。その時、後ろから誰かの声がした。

「………だれ。」

 くるりと声の聞こえた方を見てみると、五歳くらいの小さな女の子が立っていた。くるくるの綺麗な桃色の髪の毛に、ふりふりのリボンのカチューシャ。ロリィタっぽいお姫様みたいな桃色のワンピース、茶色いブーツ。どこからどう見ても可愛い子としか思えない。

「……わ、わたしは月花ゆり。あなたは?」

 こんな可愛い子にどんな声を掛けていいのか不安だったけれど、ごく普通の挨拶をしてみる。その表情は決して笑ってはいなく、焦っている表情だったに違いない。

「……わたし、リリー。」

 リリーちゃん……も決して笑顔ではなく無表情。だけど、そんな顔もとっても綺麗だった。なんて、平和なことを考えていたその時。

「リリー、此処にいたのね! さあ、早速バトルするわよ、かかってきなさい!」

 またお人形みたいに可愛い子が出て来た。それにその子は空を飛んでいる。不思議そうにぽかーんと口をあけて見ていると、空を飛んでいる女の子が手から光みたいなものが出てきてリリーちゃんに向かって落ちてきた。それを見て危ないと感じたわたしは急に飛び出して、リリーちゃんを庇ったのだが見事自分に命中してしまった。

「………っ!」

 あまりの痛さに声にならないほどの悲鳴を上げるが空飛ぶ女の子は気にせず攻撃を続ける。

「何よ! あんた、邪魔しないでよね! 邪魔するんならあんたにまで当てるから!」

 まだまだ当たるかもしれない辛さに冷や汗をかきつつも女の子を睨んで見せた。


 これから生きていけるかどうかは誰にも分からない。


     * つづく *

6ねここ ◆WuiwlRRul.:2011/04/22(金) 19:52:07 HOST:221x248x191x126.ap221.ftth.ucom.ne.jp

     * ゆり *


 もうわたしの身体はぼろぼろになった頃、やっとリリーちゃんが口を開いた。その表情はまるで「これ以上ゆりに手を出すな。」とでも言うような表情。そして、殺気をプンプン漂わせている。

「フリル、ゆりは関係ない。何故そこまでして倒そうとする?」

「そんなの! そのゆりとかいう子が邪魔してくるからに決まってんじゃない!」

 フリルと呼ばれる女の子も負けじと言い返す。そんな殺気の中、ぽつんとわたし一人、何だか仲間外れみたい。

「邪魔してくるからって、傷つけることないじゃないか!」

 リリーちゃんの本気なのだろうか。いくら戦ったことのないわたしでも、初めて強い殺気を感じる。殺気が痛いって、こんななのかな。とか考えてみると、フリルに指を差された。

「ゆりはリリーの仲間じゃないんでしょ? なら傷つけたって構わないじゃない!」

 何だか、胸がチクチクする言葉。今会ったばかりなのに、仲間って認められるはずないよね。わたしが暗い表情をしていると、リリーちゃんが叫んだ。

「ゆりは……ゆりは、仲間だよ!」

 吃驚した。今会ったからリリーちゃんのことをよく理解してないとはいえ、こんな一生懸命な大きい声で叫ぶなんて。流石のフリルでも驚いていると、リリーがまた口を開いた。今度はそっと静かにだ。

「ゆりは仲間。……だから、仲間のゆりに手を出したフリルは姫候補から外される。」

 何、それ……姫候補? リリーちゃんたちは姫候補なの? なんて、色々と疑問を残したままフリルは悔しそうに去って行った。慌てて起き上がろうとするけど、身体が動かない。


     * * *


「ゆり、ごめん。……今から仲間を呼ぶから待ってて。」

 悲しそうな、申し訳なさそうな表情を浮かべて目の前からパッと消えた。

「ふう……。(おかしなことがたくさんあったな。ほんの一瞬なのに……。)」

 ちょっとしたことを考えていると、すぐにリリーちゃんが戻ってきた。消えるのと同じように、パッと……。

「那月、羽月、この子。」


 リリーちゃんにそう言われやってきたのは二人の男の子と女の子だった。


     * つづく *

7ねここ ◆WuiwlRRul.:2011/04/23(土) 20:48:13 HOST:221x248x191x126.ap221.ftth.ucom.ne.jp

     * ゆり *


「うわあっ、痛そう……! フリルったら、関係無い人まで巻き込んでー……次会ったときは絶対倒してやるんだから!」

 ちょっぴりお喋りな可愛らしい印象の女の子が幼い顔を歪ませてわたしの怪我を見詰める。フリルと知り合いなのか、怒った様子も見せながら呟いていた。男の子はどうでもよさそうな感じで座り込んでいたわたしを見下ろす。第一印象はむかつく、かな。

「つーかこれ、どーすんだよ? 先生呼ぶっつっても俺ら生徒じゃないぜ?」

 やっと口を開いた男の子からはイラつきが感じられる厳しい言葉。やっぱりわたし一人で保健室に行ったほうが早いかな。なんて考えていると、運良く同じクラスの人が通りかかった。

「あら、月花さんじゃない。そんな怪我して、何してるの? 教室で男子や女子に騒がれてるわよ。」

「げっ……!」

 クラスの人がいて良かったものの、まさか自己中で大嫌いな姫沢りあだったなんて。最悪、コイツになんか助けられたくない。と、考えていると、男の子がりあに声を掛けた。

「あんた、この人と知り合いなら保健の先生呼んできてやって。」

 え……この男子正気かな。わたしが嫌がってんの分かんない?! ……まあいいわ、りあも男子にときめいてるみたいだし。

「え、ええ! ぜひ! 待っててね、ゆりちゃんっ!」

 ゆりちゃん……人にゆりちゃんだなんて呼ばれるの、久し振り。ずっと月花とか月花さんとかゆりだったからなあ。いや、でもゆりの場合はぶりっ子か。


     * * *


 暫くすると、りあが保健の先生を連れてきてくれた。が、歩けないわたしは男の子(後からリリーちゃんに聞いたけど那月っていうらしい。)におぶってもらうことになった。何だろう、嫌すぎる。

「………お前軽……飯食ってんの?」

 意外の一言にきゅんと胸がときめいた気がしたけど、気のせいだよね。というか那月からしたら嫌味なんじゃないのか。なんてことを考えていると、保健室なんてあっという間だった。そういえば、ずっとりあからの視線を感じてたな。睨まれてるような……あ、もしかして嫉妬だ! 結構可愛いところあんじゃん。

「……り、ゆり! ぼーっとしてないで、怪我の手当てするぞ。」

「えっ……きゃっ?!」

ドンッ!

 ぼーっとりあのこと考えてたら、手当てするってことを忘れていたわたしに声を掛けた那月。そしてわたしが後ろに片寄りすぎて那月が後ろに倒ればったん! なのに、痛くない……?

「っ……いっ………!」

 那月を見事踏み潰していた、やばいっ! でも、咄嗟に庇ってくれたんだなあって、またきゅんきゅんきてる。まさか、わたしったら遊を放置して那月に恋しちゃった? って、それよりどかなきゃ……!


 急に起きたハプニングを、まさか遊が見てるとは思わなかった。


     * つづく *

8ねここ ◆WuiwlRRul.:2011/04/24(日) 15:40:47 HOST:221x248x191x126.ap221.ftth.ucom.ne.jp

     * ゆり *


「ごっ、ごめん! 那月、大丈夫?!」

 退きたいけど、怪我が痛くて動けないわたしをそっと起き上がらせてくれる那月に慌てて謝ると、ぽんっとわたしの頭に暖かい手をのせて撫でてくれた。那月にとってこれは自然な行為なのかもしれないけど、やっぱりかっこよく感じるなあ……。

「ゆ、り………?」

 ほのぼのと那月にときめいていると、保健室のドアの方から聞き慣れた声がわたしの耳に届いた。くるりと振り向いてみると、そこには今最も会いたくなかった人、遊が立っていた。遊は那月の上にのっているわたしとそのわたしの怪我をじっと見詰め、首を傾げる。

「遊……!」

 何て言えばいいのか分かんない。というか、わたしって本当に遊が好きなの? さっきから那月にばっかどきどきして、もしかして那月に惚れちゃったとかそういうのもありえるんじゃないのかな。

ゴツンッ!

 またぐるぐる考えていると、那月に軽く頭を叩かれた。やっぱりコイツ嫌い!だなんて思いながら怒って振り向くと、那月がくすりと笑い話す。

「また、ぼーっとしすぎ。」

 どきんって、胸が鳴る。そして、顔が赤くなるのが自分でも分かった。やっぱりわたし、那月が好きだって確信もしてきたし……。そう思いながら遊がいた場所を見ると、そこに遊の姿はなかった。

「あれ……? 遊………?」

 きょろきょろと周りを見回すが、周りには羽月ちゃんと楽しそうに話すリリーちゃんの姿と、同じく楽しそうな羽月ちゃん。先程から睨んでばかりのりあに、怪我の手当ての準備をする保健の先生。そして、わたしが座っている、那月しかいなかった。「まあいいや。」なんて考えて、那月に手伝ってもらって保健室の椅子に座るけど遊が急にいなくなるなんて、ちょっと心配だなー。じいっと保健室のドアを見ていると、那月がわたしの頭を優しく撫でてくれた。

「さっききてた男子なら俺と目合ったときに笑ってどっか行ったぜ。……かなり親しそうだし、別に心配することないと思う。」

 どきんとときめいていく一方、遊と親しいと言われてちょっぴり胸が痛んだ。恋って、面倒臭い。


     * 遊 *

 吃驚した。ゆりに好きな人がいるだなんて。って……何だか涙が溢れてきた。とりあえず、教室出よう―――……。


     * * *


「(あれ……?)ゆ、り………?」

 ちょっと寝ようと保健室に来てみたんだけど、さっき廊下で見たとき嫌そうに見詰めてた男の子とあんなに仲良くしてるなんて。何か、悲しい。……あ、男の子と目合った! 俺はそんなことを考えながらにこりと笑って保健室前を去っていった。


     * つづく *

9ねここ ◆WuiwlRRul.:2011/04/25(月) 17:47:16 HOST:221x248x191x126.ap221.ftth.ucom.ne.jp

     * ゆり *


 保健の先生が丁寧に手当てしてくれたお陰で、暫くすればもう歩けるようになっていた。だけど、たまによろよろと倒れそうになることがある為学校の登下校は那月が付き添ってくれることになってしまった。

 ことの始まりは今から三十分前―――

「はいっ、ゆりちゃん。手当て出来たわよ! けど吃驚したわー! いつも授業のサボり以外で保健室に来ないゆりちゃんがこんなに大怪我をするなんて!」

 保健の先生はふふ、と女性らしく微笑み、わたしの黒歴史(歴史といってもあまり昔のことではないけれど。)を語り始めた。那月達の前で言わなくてもーって思ってたけれど、きっと先生はわたしが那月に恋してるのは分かってると思う。だから、これは先生の意地悪というか、お遊びというか。とにかく、態とだと思う。

「あ! それよりね、ゆりちゃん暫く登下校がキツイと思うの。ほら、歩けるけど、ふらふらしちゃうでしょ? だから、誰かに送り迎え、手伝ってもらった方がいいわ。」

 お喋り先生はペラペラと話し出す。けど、送り迎えかあ……。誰に頼もうかな。なんて考えていると、那月が間に入ってきた。

「俺がやる。」

「え、えええぇぇぇぇぇえええぇぇえぇえぇぇっっ!」

 あまりにもサラリと答える那月に対しわたしは思いっ切り叫んだ。リリーちゃんと羽月ちゃんに真顔で耳を塞がれたのが見えてちょっと恥ずかしかったな。でも! 今はそんな場合じゃなくて、とにかく那月よね。焦った表情でわたしは那月に問い掛ける。

「で、でもさ、那月は学校違うでしょ? ていうか何処から来たの、皆して! ぱっと消えてぱっと現れ………?!」

 わたしの一生懸命な質問を途中に、那月は自分の指をわたしの唇に伸ばし、軽く触れて黙らせた。わたしの顔がぼっと赤く染まったのがよく分かる。そしてその後はひょいっとお姫様抱っこをされ廊下に連れ出される。那月の表情はとってもイライラしていた。

「わたし、何かしたっ?!」

「した! 人前で俺達が消えたり出てきたりすることバラしちゃ駄目だろ?! 馬鹿だね、お前。」

 そ、即答……。でも、何か納得だなあ。消えたり出てきたりなんて、普通の人じゃできないもん。わたしはちょっとだけ気になって、更に質問してみた。

「ねえ、那月達のこと、もっと知りたい。」


 那月もリリーちゃん達と同じく姫候補なの? あれ、那月は男か……。じゃあ、王子候補?! ……なら、わたしも姫になりたい。


     * 那月 *


 姫候補探しに此処に来ただなんて、ゆりに言えない。けど、本人がどうしても知りたいって言うんなら教えてやってもいいかな。……これじゃあまるで、ゆりだけ特別扱いしてるみたいだけど、別にいいよな。


「「(だって、気になってるんだから。)」」



  * つづく *



最後の言葉はゆりちゃんと那月くんの想いです。
……漫画とか描きたい←

10ねここ ◆WuiwlRRul.:2011/04/26(火) 20:16:12 HOST:221x248x191x126.ap221.ftth.ucom.ne.jp

     * ゆり *


「俺のことは今度話すよ。今は登下校の話だから。」

 那月への真剣な想いを遮られたような気がしてならないけれど、はあ、と溜息を吐き保健室に戻った。その時、那月が擦れ違う瞬間ぼそっと呟いた。

「一緒に登下校すんなら今日教えてやる。」

 「えっ、本当?!」なんて言いそうになってばっと両手で口を塞ぐ。それを那月が見てくすりと笑い、わたしの頭を撫でてくれた。きゅんきゅんって、また心臓がうるさい。そんななか、わたしは頬を赤く染めさせてにこりと笑った。


     * * *


 下校時刻、五時半が過ぎ、わたしは一人切りで昇降口まで行ったと思うと女子に囲まれている私服の那月がいた。わたしの方を見て、にこっと微笑んでくれる。那月を囲む女子達の視線を浴びつつも、下駄箱から靴を取り出し、履いてトントン、とつま先で地面を叩き那月の元へ向かう。

「(こんな行為一つ一つがすごいだろ、なんて自慢しちゃくなっちゃう。人間の欲ってすごいかも。)」

 ちらりと那月を囲んでいた女子達の方を向けば睨まれたり、陰口を言われていたりなどと多少傷つく面もあったが放っておくことにした。いつもなら怒ってしまうと思うけど、今は隣に大好きな那月の姿があるから。じっと綺麗な横顔を見詰めていると、目が合ってしまった。那月はちょっと意地悪な笑みを浮かべて問う。

「何、じーっと見てんの。」

 恥ずかしさからして顔を赤く染めれば次は那月が優しく笑って頭を撫でる。幸せ、嬉しい、楽しい―――……いい言葉しか思いつかない今、君はどんなことを考えているのだろうか。


     * 遊 *


「あれ……、もう下校時間?!」

 深い眠りから覚め、ぱちりと目を開けると今の時間は5時45分。3時半くらいから寝ていた気がする……ということは、授業中や掃除中に堂々と寝ていたというわけだ。眠気の覚めない目を擦り、ゆっくりと立ち上がれば教室のドアを抜け、あることを思った。

「ゆり……。(ゆりは大丈夫かな。怪我してたし、一人じゃ帰れないよね。)」

 もしかしたら待ってくれてるかも、なんて有り得ないことを思いつつも嬉しいという気持ちがどこかにあって、下校時刻の過ぎた静かな廊下をるんるんとスキップで渡っていく。ゆりのクラスは1-3で、俺のクラスは1-5。場所的に言うと、一番離れていると言ってもいいほど遠い。あ、あっという間に着いちゃった。

「ゆーりーっ!」

 しーん………

 ゆりの名前を呼んでみたけど、いない。諦めようとしたとき、ゆりの机にあるものが置いてあるのが見えた。そのあるものを見てみると、ドサッと鞄を落とし、目を大きく見開いた。

「………え…………?」


     * つづく *

11ねここ ◆WuiwlRRul.:2011/04/27(水) 17:11:58 HOST:221x248x191x126.ap221.ftth.ucom.ne.jp

     * ゆり *


「でさ、俺のことだけど。」

 那月が突然ふっと無表情になり口を開く。心の準備をまだしていなかったわたしは焦りつつも、前を向いている那月の横顔をじっと見ていた。

「俺と羽月はこの世界を代表する姫に仕える……良く言えば使用人、悪く言えば奴隷って奴なんだよ。」

 「奴隷」。この言葉を聞いた瞬間、何が何だか分からなくなり、ドサッと鞄を落としてしまった。体中に力が入らなくなり、そのまま地面に倒れ込む。気がつけば、目からは涙が零れていた。

「ゆり……?!」

 意識が遠のく中、那月がわたしの名前を呼んでいたような気がした。表情は見えないけど、きっともの凄く困っている顔だと思う。


     * * *


 突然ぱちりの目が覚めた。ふかふかの、ベッドの上。不思議なくらい、安心する―――……。

「ゆり!」

 ぱたぱたと足音をたて、リリーちゃんと羽月ちゃんが駆け寄ってきた。一人、大事な人がいないと思いきょろきょろと周りを見回すと、リリーちゃんが話し始める。

「那月は神の命令で呼び出されてるの……本当は姫に仕えるはずなんだけど、姫以上の人……王子とか、王とか、王妃とか、神の命令も聞いてあげてって、今の姫が。一日に何十個も依頼を受けて、毎日へとへとなの!」

 リリーちゃん、フリルへ対する態度とは全く違う可愛らしい口調だなあ、なんてことは置いといて!

「何、で…………何で那月がそんな目に合わなきゃいけないの?! 羽月ちゃんと那月は同じどれ……じゃなくて使用人でしょ! 何が違うの?!」

 傷が痛むのに、今出来る限りの大声で叫んだ。目からは涙が零れ落ち、それをリリーちゃんが手で受け止めるようにする。そんなわたしに、羽月ちゃんはふふっと笑って答えた。

「奴隷って言わないでくれて、ありがとう。でもね、あたしらは奴隷として生きるために育てられてきたの。昔っから奴隷になる家は決まってあたしの家と、那月の家とー……その他かな。で、それを避けることは許されないのよ。何せ、親達まで奴隷だったから、この子達にだけ楽はさせまいと思う人もいれば、楽させてあげたいけど、姫様達が怖いって思って、口出しできない人が殆ど。まあ、後がいなくなれば後継者がいなくなって王族も困るだろうから、そこまできっちり考えて親は行動してんだろうね。でも、わたしは親もマイペースだったから、結構適当に姫達への態度とか教わってて、今でも超適当なんだー。それとは正反対で那月の家っつったら厳しくてさあー……働かなかったり手抜きだったり間違ったりするとすぐ暴力! そのおかげか那月は超優秀有名な奴隷になってね、色んなところから依頼を引き受けてんの。奴隷はそーいうの断れないからさ、辛いよねえー…。」


     * つづく *


セリフが長かったためちょん切りw

12ねここ ◆WuiwlRRul.:2011/04/27(水) 17:45:39 HOST:221x248x191x126.ap221.ftth.ucom.ne.jp

     * ゆり *


 全ての話を聞き、あまりにも酷いと思いぼーっとしていると、わたし以上の怪我でボロボロな姿の那月がよろめきながら帰ってきた。

「ただ……い、ま……………。」

 流石の羽月ちゃんも、リリーちゃんまでもが有り得ないといった表情で那月を見詰めるが、那月は少しでも心配させまいと思いにこ、と笑って見せた。わたしには、そんな那月の表情が泣いているような顔にしか見えなくて、遂にぽとりと一滴、涙を零した。

「な、つき……? なんで、こんなにけが、してるの……りりい、なつきがけがすると、さみ……し、いよ………?」

 リリーちゃんも泣いているのか、言葉が途切れ途切れになって聞こえる。羽月までもがぐっと涙を堪えていた。けれど、那月は笑ったまま話す。

「ごめん。…………神が久し振りにお父様に会わせてやろうって。それで……………殴、られ……た。」

 神様はそんなに悪い人なのかな。那月のいう「お父様」は本当に那月の親なの? こんな厳しいの、酷すぎるよ。ポロポロと泣き出すと、那月がそっと寄ってきて、涙を拭いてくれた。いつもは暖かく感じるのに、今は那月の手がとっても冷たくて、怖い。そんなとき、冷静なある人がやってきた。わたしの知らない人。

「皆様、少し落ち着かれては如何でしょうか? わたくし特製のコーヒーを用意致しますわ。その間に那月様の手当てをするので、お待ちになって。」

 ふんわり白いレースのワンピースの裾を両手で摘み、女性らしい、お姫様らしい一礼をした後これからのことをわたしでも理解できるように言ってくれた。こくりと頷いていると、もうテーブルにはコーヒー三人分がコップに注いであり、その女性は那月を連れて奥の部屋で手当てをし始めた。わたしはその間に、リリーちゃんに疑問に思ったことを聞いてみる。

「ねえ、あの人は誰? 随分礼儀正しい人だけど……。」

「………あの子はふわりっていう子。生まれたときに両親をなくし、王家で育てられた………うーん、今の姫なのかなあ。」

 リリーちゃんの代わりに羽月ちゃんが答える。


 じゃあ、那月に酷いことしたのは姫、なんじゃないの……?!


      * つづく *

13ねここ ◆WuiwlRRul.:2011/04/28(木) 18:59:59 HOST:221x248x191x126.ap221.ftth.ucom.ne.jp

     * 遊 *


「何これ…………!」

 その紙は、ゆりの親友である璃羽が書いた手紙だった。俺は内容を目で読みあげると、ぽんっと音が鳴るほど顔が赤くなってしまった。紙の内容がこれだ。


     ゆりへ

大丈夫〜? ケガしたんだってね!

わたしに手伝いできることがあったら言ってね。

何でもやるよー!


 ここまでは全然普通なのだが、その後に小さく折り目がつけられている。まるで隠されているように。失礼かと思いつつも捲ってみると……!


ところでさ、遊のこと好きなんでしょ?
ちゃんと告ったー?

それか、一緒に下校した美男子に恋しちゃったとかー?!

どちらにせよ、ちゃんと告りなよーうっ!


     璃羽より


 この手紙を読むことで、ちょっと自信がついた。俺のことを好いてくれる人がいるんだってことと、両思いなんだなあってこと……。俺は、舞い上がりすぎてゆりの下校のことを読むのを忘れていた。そんなことも気づかずに、明日告白しようと心に決めて帰ってしまったのだ―――……。


     * つづく *

14ねここ ◆WuiwlRRul.:2011/04/28(木) 19:41:23 HOST:221x248x191x126.ap221.ftth.ucom.ne.jp

     * ゆり *


「ね、ねえ……疑って悪いとは思うんだけどさ、そのお姫様が那月を苦しめてるとかじゃないよね……?」

 リリーちゃんと羽月ちゃんを真剣な表情でじっと見詰め、もしリリーちゃん達が「うん。」という答えを出したらすぐにでも追い出してやろうと思って聞いてみた。すると、暫くの間二人とも無言だったけれど、急にぷくくっ……なんて笑いだして、必死に堪える様子を見せていた。

「あははははは!」

 遂に我慢出来なくなったのか、羽月ちゃんが大きな声で笑い出す。リリーちゃんも、今までの那月への気持ちの悲しい涙ではなく、今は笑い涙を流している。わたしは何が何だか分からなくて、怒鳴ってしまった。

「ちょ、ちょっと! わたしは本気で聞いてるの! そんなに笑うなんて、まるで那月を嫌ってるみたいで酷い! 貴女達も姫の仲間だから、そんな酷く笑ってるの?!」

 また、二人が黙る。これは流石の二人も黙っている。けれど、暫くしたら羽月ちゃんが口を開いた。

「あのさ、あたし達が笑ったのはそんな悪い理由じゃないから落ち着いてよ。あのね、姫様はとっても良い人だよ! で、それを真剣に疑ってるゆりちゃんに笑ってたの。それにさー、疑うなんて、悪いけど酷いのはそっちの方じゃない?」

 羽月ちゃんからトゲのような厳しい言葉をぶつけられる。そんな、酷いのだって分かってる! なんて思っていると、気持ちが抑えられなくなって羽月ちゃんの腕を引っ張って違う部屋に入った。リリーちゃんには待ってて貰うように、手で合図を出して。


     * * *


「あのね! わたしが酷いのは分かってるよ! 疑っちゃ悪いけどってちゃんと言ったでしょ?! 自分で分かってて、悪いって言ってんのにそれをあんなにキツく怒るなんて、貴女の方が全然酷いじゃない!」

 わたしは羽月ちゃん……羽月を指差して怒鳴った。すると、羽月も負けじと言い返す。

「あたしはね、それも怒ってるけど、笑った理由も聞かないで怒鳴ったあんたにイライラしてんの! それにさあ、あんた、那月のこと好きなんでしょ?」

「あっそう! でもあんな真剣なのに態々笑うことないじゃない?! そういう性格なんだろうけど、あたしは明るくて可愛い子ですアピールしててぶりっ子みたい! ていうかぶりっ子でしょ、あんた。それにわたしは那月のことが好きだよ! だから何? そうやって好きな人探るのがあんたの悪趣味かしら?」

「はあ?! あんたの方が全然ぶりっ子じゃない! そしてね!」

 羽月、わたし、羽月の順番で喋り、急にわたしの腕をぐいっと引っ張って顔を近づけてきた。突然のことに吃驚しつつも何を言い出すか待つ。すると、ゆっくりと口を開いた。

「あたしもね、那月が好きなの。キスしたこともあるし、両思いと言っても良いくらいよ? 正直今日の保健室のあんたには妬けたわ。あんなことしてくれるの、あたしにだけだと思ってたもん。だけどさ、ただ妹として可愛がってるだけみたい。残念ね。」

 羽月は驚く事実を述べて部屋を出た。その後、知らずに涙が零れていて、涙の数はどんどん速く、多くなってくる。とりあえず、暫くここに居させてもらうことにした。泣くために……。


   * 那月 *


 姫様からの丁寧な手当てを受け、リリー達がいる部屋に戻ったが、そこにはリリーと羽月しかいなかった。驚いて首を傾げると、羽月が口を開く。

「ゆりは帰っちゃったんじゃない? 那月に伝言頼まれてんだけどさ、「わたしはあんたなんか嫌いだから、もう一緒に登下校しないで! 大嫌い!」だってさー。酷いよね、助けてやったっていうのにー……。」

 これは本当のことなのだろうか……? 疑問を抱えたまま、違う部屋を探すことにしてドアを出ようとすると、ぐいっと羽月に腕を引っ張られ、上目遣いで見詰められる。

「行っちゃやだよ……なつくん。」

 「なつくん」というのは俺の本当のお母さんとお父さんが呼んでいた名前。けれど、1歳でお別れしたから顔は覚えていない。写真さえ、一緒に写らなかったから―――……。それに、いくら仲間の羽月の言葉も今は何だか邪魔に感じる。早く、ゆりに会わなきゃ……! 奴隷として鍛えられた俺の力とは別に、弱々しい羽月の握る力をばっと振り解いてドアを出た。羽月が少し腕を伸ばした気がしたけど、俺には届かない。ゆりに会いたい………!

「あっ………なつ、き……なつきはもお、ゆりのものなの……? ゆりなんか……ゆりなんか、ころしてやるっ……なつきも、あたしのほうをみてくれなきゃ、やだ………!」

 俺の出た部屋の中では、泣き崩れる羽月が呟いていた。それを知らずに、俺は遂にゆりと出会っていた―――……。


     * つづく *

15ねここ ◆WuiwlRRul.:2011/04/30(土) 15:02:42 HOST:221x248x191x126.ap221.ftth.ucom.ne.jp

     * 羽月 *


「ゆりなんか、最初っから嫌いだったもん……。」

 リリーから不安そうな、心配そうな表情で見られていたが、正直そんなことはもうどうでもよくなっていた。幼い頃からずっと片思いしつづけてた初恋が、会ったばかりの奴に壊されちゃったんだから。那月はいっつもあたしに優しかったね。那月はいっつもあたしを守ってくれたね。あたし、お礼とか謝るのとかは大嫌いだけど、那月になら言えたよ。「ありがとう。」も「ごめんね。」も。

「だけど……………っ!」

 だけど、ゆりに奪われてしまったのだから。もうあたしに生きる意味はないのかなあ。………本当はゆりは嫌いじゃない。あんな酷いことされたから、嫌いって自分に言い聞かせてただけ。嫌いになれないのは―――……


     * ゆり *


「っ…………な、つき………はづ、きちゃ……りり、い……ちゃ…………!」

 狭い狭い部屋の中、わたしは一人、声を殺して泣いていた。本当は、声を出して大きな声で泣きたいよ。「寂しいよ。」「誰か慰めて。」って、叫びたいよ。だけど、そしたらわたしは邪魔者になっちゃう。羽月ちゃんはきっと、小さい頃から那月に恋してたんだよね。その努力が今実りそうなのに、これ以上、羽月ちゃんや那月の幸せを奪ってられないよ。

「で、も………っ!」

 それでも、わたしは那月が好き。強くて優しくて、かっこよくて――でも、ここで好きって言ったらきっと、お人好しな那月は困っちゃう。だから、この気持ちは心の中に閉まっておくんだ。また、遊のPurincessになれるように努力するんだ。だって、羽月ちゃんのことも好きだもん。あんな酷いことされたのに、不思議。きっと、嫌いになれないのは―――……





「「こんな短い間でも、楽しいことがたくさんあったから。」」





     * つづく *

16ねここ ◆WuiwlRRul.:2011/04/30(土) 15:53:15 HOST:221x248x191x126.ap221.ftth.ucom.ne.jp

     * ゆり *


ガチャッ!

 急に、わたしが一人泣いていた部屋のドアが開く。こんなぐちゃぐちゃな顔、誰にも見せられないと思ってわたしは部屋にあったベットに顔を伏せる。

「ゆり………!」

 顔を見なくても分かる。この声は那月だ……! でも、何で? 羽月ちゃんと結ばれたんじゃないのかな。

「なあに……わたしにはなすことなんか、ないでしょ。」

 きっとわたし、とっても酷い顔してる。那月に見られてなくても、自分で見れなくても、分かっちゃう。まるで泥をぬられたみたいにぐちゃぐちゃな感じがするもん。もう、何も分かりたくない。

「ナニモワカリタクナイヨ………!」

 そんなとき、那月が冷たいわたしを暖めるように抱き締めてくれた。初めて会ったときからずうっと一緒の優しい手がわたしの身体に触れる。触れるところがどんどん暖かくなって、魔法がとけたみたい―――……もう、那月に隠すのはやめようって思った。

「………あのね、わたし……那月に話したいことがあるの。上手く伝わらないかもしれないけど、聞いてくれる?」

 顔を伏せて小さくなっていた身体を起こし、涙でぐちゃぐちゃな顔をちゃんと見せて聞く。那月はそっとわたしを離し、こくりと頷く。………身体を離されて、しゅっと勇気が消えていく感じがしたけど、もう那月に頼らないんだ。勇気は貰うんじゃなくて、自分で掴む。

「わたしね、その……初めて会ったとき、那月のことを感じ悪い人って思ってたの。だけど、話す度に見えてくる那月の優しさとか、強さとか、かっこよさにどんどん惹かれていって、いつのまにか恋をしてた。さっきも、羽月ちゃんといっぱい喧嘩した。それでね、羽月ちゃんの気持ちが分かったの。……………だからわたしは、二人が幸せになればいいなって思うよ。二人とも、大好きだから。だから………さよなら。」

 那月は、ずっと「うん、うん。」って、優しく頷いて聞いてくれてた。けれど、「さよなら。」って言われたときの顔は怖かったし、それにときどき「えっ?」って顔をしているときもあった。途中怖くなって黙っちゃったけど、ちゃんと話を続けたよ。那月に全てを知ってもらいたかったから。涙でぐちゃぐちゃな顔を、もっともっと溢れる涙でぐちゃぐちゃにすると、優しく、だけど強く、那月が抱き締めてくれた。

「ばか。俺が羽月を好きって気持ちなんか、ないよ。俺が好きなのはゆりだから。」

 わ、抱き締められてるけど分かる。那月、耳まで真っ赤だ……! それに、好きだなんて言われたら心臓もたないよ……!

「で、どーなの? 付き合ってくれんの?」

 悪戯っぽい笑みで、那月が聞く。わたしは顔を赤く染め、笑って言った。

「つ、付き合ってあげてもいいけどっ!」

「ツンデレかよ。」

 ぷぷって、最初は我慢した笑顔も一気に大声に変わる。那月がいるだけで、こんなに世界が変わるなんて思わなかったな。


     * 遊 、 次の日 *


 今日はいよいよ、ゆりに告白する日だ! 絶対付き合うんだっ、つーか付き合えるっしょ! なんて想像しながら顔がにやける俺の顔を見て、学校に来ている人がじとーっと見詰めてくるのが分かった。恥ずかしくないけれど。そんなとき、後ろを通り掛った女の子が話しかけてきた。ゆりだ………!

「おはよー、遊! 今日の朝はごめんねっ! ちょっと用事ができちゃってさー、一緒に学校行けなかったんだよー………。」

 あはは、と残念そうな苦笑で謝るゆり。ゆりが俺のことを好きと知ってから、そんな一つ一つの仕草まで可愛く感じる。

「あ、あのさっ! ちょっと、話があるから、来てくんない?」

「………? うん、いいよ?」


     * * *


「………ここって、校舎裏、だよね……?」

 ゆりが少しビクビクしてるみたい。だから俺はそっと抱き締めてやった、のに……。

「やめっ………!」

ドンッ!

 見事に突き飛ばされてしまった。だけど、照れてるのかなーぐらいにしか思えなかった。思わなかった。

「ごめん。あのね、俺………ゆりのことが好きなんだっ!」


     * つづく *

17ねここ ◆WuiwlRRul.:2011/04/30(土) 18:57:26 HOST:221x248x191x126.ap221.ftth.ucom.ne.jp

     * 遊 *


「………気持ちは嬉しいけど、わたし、昨日彼氏できたの。今日の朝も彼氏と会ってたんだー……ごめんね。」

 ゆりはにこっと笑ってるつもりなのだろうけど、大きな瞳からは大粒の涙が零れ落ちている。初めて見た、ゆりの泣く姿。それに、昨日よりゆりは全然可愛い。でも、どれもこれも彼氏のお陰だったんだ。俺は、失恋したんだ。―――シツレンシタノ? オレトユリハ両想イナンジャナイノ? 俺はおかしくなったのかな。気持ちを抑えられなくて、ゆりにキスをした。勿論、ゆりは驚く。

「やっ………さいてー! 彼氏、できたって言ったじゃん。何か今日の遊、遊らしくない………! わたしが振ったからいけないの? わたしが遊と付き合ったら、いつもの遊に戻ってくれるの?!」

 突き飛ばされた俺は無表情で頷く。そうだよ、ゆりが付き合ってくれれば俺はいつもの俺になるよ。

「ソシタラユリハ俺ヲ見テクレルンデショ?」

バシンッ!

 にこおっと優しいけど気持ち悪い笑みを浮かべてゆりの頬に手を伸ばした。すると、破裂しそうなくらい痛い音で俺の頬が右へ動く。まさかのビンタをされ、ぽかーんと口を開けた。

「ばっかじゃないの?! わたしがいくら遊と付き合ったって、いくらキスしたって遊は戻らないよ! 遊が元に戻るには、遊が自分から入った深い穴からよじのぼって出てこなきゃ、黒いままだよ! こんな黒くて暗い遊嫌だよ……早く、振られたって笑顔になってよ。わたしはずっと、そんな遊に恋してたんだから! わたしが好きになった相手がこんなんじゃダメなんだから!」

 目が覚めた。……俺、ばかだ。もう、穴から出てきた。引っ張ってもらったんだ、ゆりに。


「「出してくれて、ありがとう。」」



 これは、ゆりに恋をした二人の男の子の言葉でした。



     * つづく *


そろそろ終わると思われます←

ゆりと那月と遊と羽月の恋愛編は。


次はお姫様編かなあー……

そしてやっと完結?になるといいな。

18ねここ ◆WuiwlRRul.:2011/05/01(日) 10:07:40 HOST:221x248x191x126.ap221.ftth.ucom.ne.jp


     恋愛編完結です! 次は姫候補編ですよー*

    それでは、恋愛編を最後までお楽しみくださいっ!



     * ゆり *


 遊に告白されて、正直嬉しかった。けど、わたしにはもう那月っていう世界で一番大切な存在がいる。だから、長年恋してきた遊を振った。その後遊はまるで深い深い穴に落ちるようにおかしくなったけど、ばかで単純だから、すぐに出てきてくれた。そんな遊も好きだったよ。そして今、遊を振って数日後。いつもどおり、わたし達の登下校は一緒。遊も明るく優しいけれど、一つ、二人だけの秘密がある。告白のことだけは、秘密。だけど、那月には言っていいって。ありがとう、遊。

「ゆりーっ!」

 璃羽がわたしの名前を呼ぶ。くるりと幸せそうな笑顔で振り向くと、その場には那月が立っていた。ぼっと顔を赤く染めて、那月の元へ向かう。自然に繋がる手が暖かい。


     * * *


 二人きり、場所を変えてわたしの大好きなお話の時間。那月もわたしもにこっと笑い合って、大切な話をすることにした。

「あのね、わたし……昔っから幼馴染の遊って子が好きだったの。でね、遊ったら中学二年生の頃からお姫様って英語は覚えられなくてさー……PrincessなのにPurincesって間違ってたの! でも、その時にわたしはPurincessになりたいなって思った。それでね、数日前……那月と付き合った次の日に遊に告白されて、振っちゃったんだ。那月が大好きだから、後悔なんてしてないけどさ、ずっと夢見てた、Purincessになれなかったのは残念だなあって―――……。」

 那月はうん、うんって、頷きながら聞いてくれた。わたしが話し終えると、ぽんっと頭に手を置いて、喋る。

「よくがんばったな。」

 その暖かい手と言葉に、自然と涙が溢れる。そうだ、わたし、小さい頃から何をやっても「がんばったね。」とは言われなかった。だから、嬉しいんだ。泣きながら那月に抱き締められると、那月が耳元で呟く。

「俺も中二の頃、PrincessをPurincessって間違ったことある。」

 驚きながら那月を見ると、耳まで赤くしていた。可愛いな。それに、わたしの夢も叶った。ありがとう、那月。

「ありがとう………大好き!」



 ありがとう、遊。ありがとう、璃羽、ありがとう、リリーちゃん。ありがとう、羽月ちゃん。ありがとう、りあ。ありがとう、保健の先生。ありがとう、お姫様。―――そして、ありがとう、那月。



 わたしは今、とっても幸せです。




     * 恋愛編 完結 *




次は姫候補編かなー。

話は考えてありますが微妙に感動気味。

これからもよろしくお願いします*

19ねここ ◆WuiwlRRul.:2011/05/01(日) 10:23:51 HOST:221x248x191x126.ap221.ftth.ucom.ne.jp

     * 姫候補編 ゆり *


「えーっ! リリーちゃんとフリルは姫候補だったの?!」

 いや、前々から気づいてたけど、幸せなことがありすぎて忘れてたなあ。今となっては思い出の羽月ちゃんとの喧嘩はもうどうでもよくなって、わたしと羽月ちゃんは今、とっても仲良し。それで、姫候補のことを詳しく聞かせてもらっている。

「そうなんだよー! でさ、その姫決定戦が1カ月後にあるの。その決定戦でこの国の姫が決まるんだー! 楽しみだよねえっ。」

 1カ月後って、早くない?! 楽しそうに話す羽月ちゃんとは反対に、わたしは口をぱくぱくさせて言った。

「な、何でそんなに早いのっ?!」

 すると、後ろから静かなハイヒールのコツンという足音と共にふりる姫がやってきて言った。

「わたくしの命はもう、そう長く持たないのです。なので、王家の皆様は慌ててこの国に相応しい姫を探していますの。この国が滅びないでいるのは姫がいるから。だから、わたくしが死ねば国は滅びる……。大変ですよね、姫って。」

 そんな大切な役目だったんだ。この前は疑ったりして悪かったな。


 そんなことを思っているうちに、王子の計画は実行されていた―――……。


     * つづく *

20ねここ ◆WuiwlRRul.:2011/05/01(日) 18:45:12 HOST:221x248x191x126.ap221.ftth.ucom.ne.jp

     * スター(王子様) *


「ふーん、ふりるってそろそろ死ぬんだー。じゃあ、新しい姫探さないとな! ちょ、待てよ……あのリリーとかフリルとかいう奴等、姫候補だろ? 俺は姫と結婚しなきゃいけねーのに、そんな餓鬼嫌だからな!」

 豪華な俺のお屋敷の前、午前12時を過ぎたあたり、街中静かな夜を迎えている中、俺は大きな声で叫んだ。目線はもう一つのお屋敷。窓から見える高校生の姿にドキンと胸が鳴る気がした。けれど、ずっと見ていると有名で優秀な奴隷の那月と軽くキスしているではないか。

「はあっ?! 奴隷の癖に生意気な……っ! そうだ、あの女こそ姫に相応しいんだから、ふわりに言ってもらえばいい!」

 そんなことを叫びながら、豪華なお屋敷の中に入って行った。トホホ、と後ろで苦笑する奴隷の顔面を一発殴ってみてから。


     * ゆり *


「………ねー、なつ! また仕事行っちゃうの?」

 次の日は土曜日。わたしにとって休日なのに、なつ(那月のこと。)は奴隷のお仕事がある。奴隷って、辛いなあ。なんて思いながら、小さく溜息を吐くと、なつが「招待状」と書かれた紙を差し出した。

「今回はゆりも一緒に来ていいんだって。」

 この言葉を言うなつの顔は、少し困ったような、怖い顔だった。わたしは嬉しいのになあ。心配そうに首を傾げてみるとなつは笑顔になって呟く。

「変だな。誰にも付き合ってるって言ってないのに。それに王家に関係のない人が招かれるのは初めてだ。何かあると危ないから、俺の傍を離れるなよ。」

「! はーいっ!」


     * つづく *

21ねここ ◆WuiwlRRul.:2011/05/01(日) 19:35:05 HOST:221x248x191x126.ap221.ftth.ucom.ne.jp

     * ゆり *


 王家のお屋敷が並んでいる道に着き、大きい豪華なお屋敷をじいっと見詰める。右から姫の家、女王の家、国のど真ん中にあるでっかいお屋敷は王家みんなの家、王様の家、そして、王子の家―――……。

「わあ〜っ! すごいっ、初めて見た! で、なつは何処に入るの?」

 わたしは子供みたいにその場でピョンピョン飛び跳ねて言った。なつは落ち着けとでも言うように優しく頭を撫でて、そのまま手をおろし、わたしの手を握り締めて一番真ん中の大きいお屋敷へ入る。


「来た来た、俺の台本どおりじゃん。」

 にやっと笑う男に見向きもせずに―――……。



     * * *


「これはこれは……、可愛らしい彼女だね。那月君!」

 王様らしき人物がぽよんと丸い体を動かしてわたしの元へ向かう。「可愛い」って言葉を言われても嬉しくないのは、言ってくれた人がなつじゃないからかな。とにかく、わたしも作り笑顔を浮かべてお辞儀する。

「は。初めまして! ゆりです。」

 ギクシャクしているわたしとは反対に、なつはかっこいいお辞儀と言葉。

「王様、お久し振りです。今日はお招き頂き有難う御座います。―――今回は何を致しましょう。」

 かっこいいなあ、と見惚れていると、隣からまた男の人が出て来た。きっと王子様だ。

「今日は二人に来てもらい所があるんだよ。だから、ついてきてね……?」

 にやりって笑った王子様。なつが少し後ろに後退りをしたので、わたしも動けないでいた。すると、不満そうな表情で王子様が言う。

「あのさ、那月は優秀な奴隷なんだから何回も言わせないでよね? 俺、別に何にもしないから。那月が素直な限り、ゆりちゃんにはね。」

 ゆりって何でわたしの名前を知っているの? という疑問を膨らませつつもなつが前へ進みだすのでわたしもついて行った。


     * つづく *

22ねここ ◆WuiwlRRul.:2011/05/01(日) 20:05:31 HOST:221x248x191x126.ap221.ftth.ucom.ne.jp

     * ゆり *


「さあ、ここらへんかな。」

 きょろりと周りを見回すと、広いお花畑があった。綺麗! と見惚れていると、なつが急に話し出す。

「お前っ! 此処で何をしたいんだよ?」

 なつは「奴隷」なんじゃないの? 「王子様」にそんな口聞いていいの? なんて疑問が一つ一つ増えていく中、痛々しい音と共になつが倒れた。

「お前なあ、王子様にそんな口聞いていーんだっけ?」

「やっ! なつ………!」

 わたしがなつに駆け寄ろうとした瞬間、王子が此方に向かってきて、がしっと腕を押さえられた。何が何だか分からなくなる。わたしは捕まったの? 何があったの? ナツ、助ケテヨ。

「ふっふっふ……やっとこの存在が手に入った。ゆり……ずっと俺はゆりのことを見ていたよ。だから今度はゆりが俺の方を向いてよ。」

 ゆっくりと近づいてくる顔を避けることができない。何故? と思っているとがっちりと頭を抑えられている。いや……! 助けて!

ドンッ!

 急に王子がわたしの傍を放れて倒れた。前を向くと、そこにはなつの姿が。で、その後ろに羽月ちゃんとリリーちゃんと……遊にりあに璃羽に、フリルまでいる! キラキラと目を輝かせ、皆に飛びつくと璃羽と羽月ちゃんがぎゅーっと抱き締めてくれた。

「ばか! こんな変態エロ王子についていっちゃうなんて!」

「もうっ! こんな危ないことしちゃ、嫌だよ……?!」

「リリー、本当にゆりを仲間だと思ってるから。勝手に危ないところに行っちゃダメなの!」

「那月君と二人なんて、ずるいわよ!」

「ゆりー! 落とし穴にはまっちゃダメだよーっ!」

「………あんたは嫌いだけど、那月がいるから来てやったわ。」

 羽月ちゃん、璃羽ちゃん、リリーちゃん、りあ、遊、フリル………そして、なつ。

「ごめん、危ない目に遭わせて本当にごめんな……。」

 助けにきてくれた皆に嬉しくて泣いた。けど、誰がこんなことをしたの? 周りを見回すと、ふわり姫の姿があった。不安そうな表情で立っている。

「わたくしです。王子がゆり様を自分のものにするなんておっしゃりますから、心配になりまして……。それよりゆり様! わたくしの代わりに姫になって頂けませんか? 姫候補にならなくても、ゆり様なら姫に相応しいので任せられます!」

 ………わたしがこの国の姫になるの? リリーちゃんやフリルはどうなるの? 姫候補にならなきゃダメじゃない。わたしは、わたしは……

「わたしは、もうPurincessだからいーの! それに、リリーちゃんやフリルの方が全然長生きできるよ! だから………だからリリーちゃんかフリル、真のお姫様になって、なつや羽月ちゃんやその他の奴隷達を自由にさせてあげて……!」

 これが、わたしの願いだから。なつも普通の高校生になって、普通に暮らすの。羽月ちゃんも、皆幸せに暮らすの。そんな夢を叶えてほしくて、ふわり姫の顔をじっと見る。すると後ろからリリーちゃんに抱き締められた。

「リリー、姫になるの……ずっと皆を幸せにするの……だから、見守ってて?」

「うん……!」


 こうして、皆が感動する中、王子(後から聞いたけどスターっていうらしい。)の処分は決まり、この国の王子はいなくなった。けれど、王子様はお姫様になった人が自由に恋すればいいよねって王国で決まって、お姫様という名の物語はラストスパートへの道を進んでいた。


     * つづく *

23ねここ ◆WuiwlRRul.:2011/05/01(日) 20:22:03 HOST:221x248x191x126.ap221.ftth.ucom.ne.jp

     * ゆり 1カ月後、姫決定戦 *


「ぜーったい姫になってね!」

「分かった! リリー、姫になる!」

 姫決定戦会場の控え室の中でリリーちゃんと約束を交わし、わたし達(わたしを助けてくれた皆)は観客席へ向かった。因みに、フリルも姫決定戦に出れる。リリーちゃんが「ライバルがいなきゃつまんない。」と言って姫候補として認めてあげたのだ。


     * * *


 皆が騒ぎ出し、わくわくする中わたしの額には緊張で冷や汗が垂れていた。そんな不安そうなわたしをなつが軽く抱き締めて、緊張を溶かしていく。

「それでは、審査に入ります!」

 一人一人の自己アピールが終わり、審査員(王様、女王様、ふわり姫)が審査しだす。緊張のせいか会場の皆がしーんと静まり返っている。そんな中、姫候補全員がステージへ出て、スポットライトを浴びるのを待っている。

「姫に選ばれたのは……!」

 ダカダカダカダカッ! 会場に響くプロの人がやるドラムロール。スポットライトがうろちょろと動き出し、まさに今、この国の姫が選ばれようとしている。司会者の人が大きな声で、姫の名前を叫んだ。










「リリー様っ!!!!!」





 ワアアアアアアアって、観客席の人がリリーちゃんをお祝いする。わたし達は、それぞれ隣にいる人と抱き合って喜んだ。皆、皆泣いている。


     * * *


 控え室に戻り、わたしはリリーちゃんを抱っこして喜んだ。その後そっとおろすと、目の前にフリルがいた。フリルは笑顔だ。

「よくやった! リリーならやれると思ったわ! さあ、さっさと那月達を奴隷から外しなさい!」

「わかったー!」

 小さい子って、いいなあ……。なんて喜んでいる中、じりじりとなつに危険が迫っていた。


     * つづく *


もしかして次で完結?

完結しても番外編を書きますb*

行事とか、同じ場面を違う人目線で見た場合とか。
なのでこれからも見てくださいっ*

24ねここ ◆WuiwlRRul.:2011/05/06(金) 17:32:44 HOST:221x248x191x126.ap221.ftth.ucom.ne.jp
すみませんっ;

ゴールデンウィーク中におばあちゃんの家に行っていました。

昨日帰ってきていたのですが、PCがヘンになったので直してもらってました((

これからは普通に毎日更新できるといいなあ…(( と思っているのでよろしくお願いしますbb

25ねここ ◆WuiwlRRul.:2011/05/06(金) 19:28:17 HOST:221x248x191x126.ap221.ftth.ucom.ne.jp

     * ゆり *


「…………っく……………!」

 いきなり後ろから聞こえた痛々しい声と共に、倒れるような音。羽音ちゃんがまさかという表情でくるりと振り向いたので、他のみんなも一斉に振り向いた。すると、そこには苦しそうななつの姿があった。

「な、つ……? なつ、なつっ! や………きゃああああああああぁぁあぁぁああぁあっ!」


     * * *


 ぽつんと真夜中、薄暗い病院に一人。わたしはなつのお見舞いに来ている。正直なつが倒れたということはよく理解できてないんだけど、病室のプレートに佐藤那月様って書いてあることで、段々理解出来るような気がしてた。付き合うまで知らなかったなつの苗字も、今では知らなきゃ良かったって後悔してる。ぼーっとしていると、病室から先生が出てきて、その瞬間に見える病室の中に苦しそうななつの姿を見つけてしまった。それも知らずに、先生はなつの症状を話し出す。

「那月くんは幼い頃から喘息の症状を持っていたようで、別の病院に通っていたようですが、その病院では治療はまだいらないだろうと思われていたようですなあ……前の病院から来た看護師さんに聞いてみたところ、この短期間でかなり悪化しているらしいですよ。倒れた原因は呼吸困難だと思われます。これから呼吸困難が何回も続きますが、あまりにも酷いと死に至る場合もあるのでその覚悟はしておいてください。」

 突然告げられた事実にまたぼーっとする。なつが死んじゃうなんて今まで有り得なかったから。喘息のことだって、羽月ちゃんの方が知ってた。何か、今まで自分が何を分かっていたんだろうって不安になってくる。

「……死ぬ覚悟は、なつは出来ているんですか………。」

 力無く聞くわたしの微かな声に、先生は深く頷いて、なつの言葉を代わりに告げた。

「那月くんはゆりちゃんのことをとっても大事に思っていたねえ……。「俺は死ぬ覚悟、出来てるけど、ゆりは俺が死ぬことを理解出来てないと思うんで、しばらくそっとしておいてください。」と言っていたよ。………先生も、あんな若い人を簡単に死なせたりしないから安心しなさいな。」

 そう言われ、わたしは何を理解したのかも知らずにこくりと頷き病院を去った。


     * * *

 
 家に着き、眠りにつこうとすると、ざわざわと胸騒ぎがして、ダメだ。

「病院に電話しよ……。」

 少しでもなつの様子が知りたくて、そっと受話器を手に取ってみる。すると、病院から早く出て! とでもいうように電話がきた。不思議そうに電話に出ると、ある事実を伝えられた。

「もしもし、○×病院ですけれども、ゆり様でしょうか? 那月様の様子が急変したのですぐ病院に来てください!]

「え……………!」

 もう、無我夢中に走っていた。早くなつに会いたくて、死んでほしくなくて。だからなつ、生きてて……!


     * つづく *

26ねここ ◆WuiwlRRul.:2011/05/06(金) 20:33:39 HOST:221x248x191x126.ap221.ftth.ucom.ne.jp

     * ゆり *


「先生っ! なつは……なつはっ!」

 病院に着いたわたしは、やっとなつが倒れたという事実を理解したように先生に聞く。勿論、望むのは「生きている」という答えのみ。今此処で「死んでしまった」という答えを聞いたらわたしも自殺するような勢いでいた。だから、生きてて! そう願っていたのに、先生はとっても静か。きっと悪い報告なんだろうな、とは思ったけれど、それはただ「苦しいのが悪化した」ぐらいにしか思ってなかった。

「……………落ち着いて、お聞きください。那月くんは、13時46分に―――――――――――…………………





     お亡くなりになられました。」





 この言葉を聞いた瞬間、わたしは「ああ、死ぬんだ。」って思った。それは、なつのことじゃなくて自分のこと。どうせなら同じ時間に、一緒に死にたかったね。


 さようなら、リリーちゃん。可愛くて、実はずっと憧れてたよ。さようなら、羽月ちゃん。喧嘩しても、大好きだったよ。さようなら、フリル。実は素直でいい子だったね。さようなら、りあ。自己中で嫌いだったけど、可愛いところもあったね。さようなら、スター。王子っぽくなかったよね。さようなら、ふわり姫。疑ってごめんなさい。さようなら、璃羽。璃羽にたくさん支えられたよ。さようなら、遊。これは落とし穴じゃなく、「運命」だから。

 みんなみんな、大好きだよ。




 先生の目の前で、ナイフをぎゅっと握り自分の胸に突き刺そうとした、そのとき!

「やめて……! 叶がいるからには、そう簡単に死なせないわ………!」

 見知らぬ女の子の声とともに、一気に泣き崩れた。わたしは間違ってたんだ。なつが死んだからって、わたしが死ぬことないじゃない! わたしはわたしの人生を生きるんだ……!

「なつうっ……なつ! うわあああああああああぁぁぁああぁんっっ!」


     * * *


 しばらくすると、泣き崩れるわたしの前にたくさんの人が来た。遊達だ……! みんな、泣いている。突然現れた叶っていう子が口を開くのを待つように。

「……皆さん、初めまして。月夜叶という者です。今回は那月の死と聞いて慌てて来たの。……あ、叶は姫決定戦の審査員をやっていました。皆さんに質問ですが、那月を生き返らせたいですか?」

「当たり前だよ……!」

 羽月ちゃんが即答して、みんなも頷いた。けどわたしだけは違かった。

「やだ……!」

 すると、みんなが正気?! とでも聞くように驚いていた。当たり前だよね。でも……!

「わたしは、生き返らせた偽物みたいななつ、やだよ……! それに、なつが死ぬ覚悟をしていたのは知ってるから、こうしてみんながいるだけでなつは幸せだとおもう………!!」

「そうだね……! 那月くんは、それが一番の幸せだと思うよ。」
「無理に生き返らせても、気まずいだろうしね。」

 みんな口々にわたしに賛成してくれた。初めて自分の意見を言えたような気がして、嬉しかったよ。


     * つづく *

27ねここ ◆WuiwlRRul.:2011/05/07(土) 13:48:05 HOST:221x248x191x126.ap221.ftth.ucom.ne.jp

     * ゆり *


「なつ、暑いね!」

(だな……ついこの間まで寒かったのに。)

 わたしは綺麗な砂浜に座り、一人でハートの中に色んな色で光るダイヤの入ったネックレスを見つめ話す。まるで目の前になつがいるみたいで、少しでも心がやすらぐから。でも、もう傍になつがいないのは苦しいよ、辛いよ。

「はやく、かえってきてよおっ……………!」

 ぽろぽろと涙が流れ落ちる。知ってるよ、なつが死んだことくらい。だから本当はわたしも死にたい。そのために此処に来たんだから。前は叶さんに止められちゃったけど、やっぱり死んだ方がまし。

 さよなら、だよ。





ボチャンッ!




 冷たい水の中に飛び込んだ。できるだけ、深いところに行かなきゃ。待っててね、なつ。もうすぐ逝くから……。そのとき、後ろから誰かに抱きしめられた気がした。

「死なないで!」


     * つづく *

28ねここ ◆WuiwlRRul.:2011/05/07(土) 17:44:42 HOST:221x248x191x126.ap221.ftth.ucom.ne.jp

     * ゆり *


「きゃ………!」

 抱き締めてくる相手は遊だった。遊は焦りつつもわたしを砂浜へ投げるように突き飛ばした。二つに分かれた髪がふわりと宙に舞う。わたしの格好は半袖なのに、遊は分厚いパーカーを着ていた。何で、今は夏なのに……。

「ばか……そんな格好じゃ暑いでしょ? もう夏なんだから、いくら寒がりの遊でもパーカーくらい脱ぎな。」

 生きた感じのしない笑みに遊はビクビクしてる。それに、わたしの頭が可笑しいとでも言うように額に遊の大きな手を当てた。その後大きな声で叫ぶ。

「ばかはゆりの方だよ! 今はまだ冬! それに、今日が一番冬で寒い日だよ?! 熱もあるし、家に帰ろうよ!」

「い、や………わたし、なつをまたせてる、の……っはやく、いかなきゃ…………!」

 
 遊、今は夏なのに。わたしは熱なんてないよ。ただ暑くてこうなってるだけだもん。だから心配しないで……………ね。


     * * *


 暖かい……此処は一体何処なの? 天国かな………あれ、誰かがわたしのことを呼んでる……? なつの声だ……行かなきゃ!

 わたしはぼーっとする意識の中必死に光の方へと歩いた。すると、不思議と段々意識が戻っていくのだ。


「………ん……な、つ?」

 夢から目覚めると、自然となつの名前を呼んでいた。暖かいのは毛布だったんだな、なんて思っていると、右手は遊がぎゅっと握り締めていた。わたしが目覚めたのに気づき、遊は嬉しそうに笑う。

「ゆりー! よかったあ………。」

「あ、れ……? なつは………?」

 わたしは遊なんか求めていない。なつだけを求めている。なつは死んでいるって、頭では理解しているのに心が言うことをきかなくて、死んだなつは何処にいるのかと聞いてみる。きっとまた、不思議がられるんだろうなあ。

「ゆり、そのことなんだけどね。………那月くんは、「ゆりのためにもっと強くなって帰ってくる。」って言って、修行しに行ったよ。楽しみだね! 那月くんが帰ってくるの。」

 え………? 今までの、病院でのことは嘘だったの……? 違う、よね。これはただの遊の気遣いだって、分かってる。それは嬉しいけど、なつが死んだのは本当で、寂しくて寂しくてたまらなくなってくる。わたしが涙を零したそのとき、遊が優しく抱き締めてくれた。

「ねえ、やっぱり俺、こんなゆりを見守るのは辛いよ。振られたって分かってても、やっぱり好きなままなんだ。俺さ、頑張って那月くんみたいに強く、かっこよく、優しくなるから。こうやってゆりが寂しいときに抱き締めてあげたいよ。…………ダメ、かな。」

 ばか、そんなこと言われちゃ、嬉しくなっちゃうじゃん。……わたしはもし生きていたとしたなら、もう付き合ったりしないって決めてたのに。遊は、わたしの寂しいタイミングもよく知ってて、すぐ慰めてくれる。だから、もうなつのことは忘れよう。さようなら、なつ。

「付き合って………わたしと付き合って、ください……。」

「………! はい。」


 ねえ、なつ。わたし、これから遊と幸せな人生を歩んでいくよ。そして、幸せにおばあちゃんになって、なつに会いに行くからね。だから、何十年もの長い間、わたし達を見守っててね。だいすきだよ………!





     * * *




「「おめでとー!」」

 学校の友達と、リリーちゃん達を呼んでわたしと遊の付き合って一カ月のパーティー。友達に報告するのに一カ月も掛かったのは、わたしも遊も恥ずかしがって言わなかったからなんだけど………。だけど、

「ありがとう! わたし、今すごく幸せだよっ!」

 天国にいるなつにこの声が届きますように。って気持ちを込めて、大きな声で言った。恥ずかしさと嬉しさで頬が赤くなる。




 みんな、ありがとう。





     * おわり *





最後までぐだぐだですみません;

でもこれでおわるのは正直寂しいので、番外編を書いていこうかなーと思います。
そちらも読んで頂けると嬉しいです*

29ねここ ◆WuiwlRRul.:2011/05/08(日) 19:45:28 HOST:221x248x191x126.ap221.ftth.ucom.ne.jp
番外編を書くのはちょっぴり遅れるかも。

三日に一回程度でちょこまか書いていくのでよろしくね☆((黙


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板