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とある英雄譚のようです
1
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 20:46:23 ID:G.gIoQVo0
荒野なのか、それとも峡谷なのか。吹き抜ける風に舞う砂塵に覆われた世界。
隆起と沈降の地形を適当に割り振ったかのような褐色の大地。
見渡す限り生命の痕跡が存在しないその地の、中心部。
まるで何者かによって線を引かれたかのように存在している半球の領域。
そこは周囲の澱みをものともせずに、緑豊かな環境が存在していた。
荒んだ太陽が照らすのは、小高い丘の上に伸びる、大きさも形も違う五つの影。
四種類の塊と、それらに囲まれている一つの屍。
骨だけになった腕が掴んでいるのは、身の丈ほどもある杖。
主を失ってなお溢れ続ける魔力は、丘を清浄な空間で包むために漂う。
命を司る蒼の魔力は屍から離れるごとに薄くなっていき、荒野の空気へと溶けていく。
魔力球の中に存在する最も大きな影は、腐り落ちた大樹の幹。
その両隣に突き刺さっているのは、錆びた剣と、その数倍はあろうかという巨大な牙。
向かいにはくすんだ色の十字架があり、それらは綺麗に四方向に配置されている。
人為的な痕跡を残すその場にはしかし、生命の存在は何一つ感じ得ない。
風の呼吸すら止まっているかのような、静かで荒れ果てた大地。
ジオラマのような世界で、突如として錆びた剣が音を立てて傾いた。
その音に引き寄せられるかのように、漂う魔力に流れが生まれ、
魔力によって遮られた空間を濃い霧で覆い隠す。
322
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:23:53 ID:f6Jc0GS60
( ・∀・) 「龍神の鎧」
即座に龍化し唱えたのは、全身強化の龍技。
全身の鱗に魔力を浸透させた気高き盾と、
刃と見紛うほどに鋭い両前足の大爪。
誰よりも早く、大地を蹴って低空を飛翔した。
(<●>) 「「身の程を知れ」」
大気中から生成された黒き槍。
初速から音を置き去りにしてモララーの眼前に迫った。
( ・∀・) 「っ!?」
【+ 】ゞ゚) 「驚きました。まさか呪術を扱うとは」
槍は龍の瞳を貫くこと無く空中で制止し、砕けて散った。
(<●>) 「「ほう」」
【+ 】ゞ゚) 「呪術に対抗できるのもまた呪術ですね。
呪茨棘・八重」
323
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:24:24 ID:f6Jc0GS60
(<●>) 「「呪術の発動速度をよくもこれほどまでに極めたものだ。
だが、それでもまだ遅い」」
放たれた呪術の棘と、オルフェウスの間に存在した空気が突如として大きく震えた。
目に見えない壁が、オサムの術を防ぐ。
その間に距離を詰めたモララルドが叩き込んだ爪によって、硝子のように砕けた。
( ・∀・) 「光に飲まれて消滅しろ」
大きく開いた口腔から撃ち出された魔力が、真っ直ぐにオルフェウスの身体に突き刺さった。
(<●>) 「「この程度で」」
('A`) 「どの程度だって?」
その声を、オルフェウスは背後に確認した。
同時に正面にいたはずの二人の姿が揺れていることに気付く。
( ФωФ) 「精霊の現身。これは幻覚ではない。現実だ」
ロマネスクの横に立っていたドクオとクールの姿は、
空気に滲んで消えていく。
324
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:25:07 ID:f6Jc0GS60
川 ゚ -゚) 「ドクオ合わせろ」
('A`) 「言われるまでも無い」
川 ゚ -゚) 「地平の彼方まで断ち切れ! ホライゾン!」
('A`) 「光の魔術を牢獄にとざせ。インフ・スペクラム」
(<●>) 「「うつくしい……」」
クールの放った光の斬撃。
視界に映る全てのものを距離に関係なく切り離すナインツ・ヘイブン最長射程の光の斬撃。
同時にドクオが放った魔術は、かつて天剣の所有者と相対するために考え出したもの。
単純な防御力はほとんどないものの、光の魔術を反射する百枚の魔鏡。
斬撃の魔術が何往復もオルフェウスの全身を刻む。
細かくちぎられた欠片は煙となって空に消えた。
後に残ったのは、正方形の黒い箱。
そこに一つ目の化け物の姿は無い。
( ・∀・) 「潰してやる」
箱の上部に足をかけたモララーは、
前進に感じた寒気に従ってすぐに飛びずさった。
325
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:25:36 ID:f6Jc0GS60
(;・∀・) 「ぐ……っ!」
跡形も無く消え去った足首から先。
大粒の血を流しながら大地に蹲った。
('A`) 「モララー」
( ・∀・) 「大丈夫だ!」
川 ゚ -゚) 「リフドロップ」
クールの魔術は、数秒で傷口を元通りにした。
龍が暗く澱んだ上空に向かって吼える。
川 ゚ -゚) 「なんだこれは」
天剣をも弾くほどの硬度を持ちながら、
強化された龍鱗すらも溶かす魔術を、脊髄反射のように発動させる物質。
('A`) 「見たことがない」
【+ 】ゞ゚) 「どうですか、ロマネスクさん」
( ФωФ) 「……精霊よ」
326
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:26:08 ID:f6Jc0GS60
優れた精霊術師は、ありとあらゆる精霊とコンタクトをとることができる。
この世に存在する全ての物質に宿るとされる精霊と対話することで未知を暴き、
言霊によって従わせることで力に変える。
翳した手の中で幾つかの光が明滅した。
異なる色を持つ複数の精霊術は、ロマネスクの掌から黒色の立方体へと向かう。
( ФωФ) 「ふむ……精霊が呼びかけに応えない。
つまりこの立方体は、この世のものではないということだ」
【+ 】ゞ゚) 「先程の奴の触手を凝縮したものでは?」
('A`) 「いや、もっと別のものだと思う。キュート」
o川*゚ー゚)o 「私にもわからないよ……。少なくともパパは知らなかったみたい」
川 ゚ -゚) 「硬そうだが、協力すれば壊せない程ではないだろう。
恐らく、この中で最高の攻撃力を誇るのは私だ。力を貸してもらえるか」
o川*゚ー゚)o 「何が起きるかわからないから、気を付けて」
('A`) 「頼むぞ」
327
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:27:02 ID:f6Jc0GS60
('A`) 「ルークス!」
o川*゚ー゚)o 「ルークス!」
ドクオとキュートが杖を振るい、二人で一つの魔術を編む。
完全に同期した二つの魔力がクールの剣へと注ぎ込まれていく。
川 ゚ -゚) 「集え、ナインツ・ヘイブン」
クールの背後に浮かんでいた九つの剣が、重なり一つの刃となる。
魔力で形成された切っ先を正面に向けて、大きく腕を引く。
( ФωФ) 「光の精霊よ」
ロマネスクの言霊に応え、精霊は中空に陣を描く。
強化の特性を持つ光の精霊陣が、クールと立方体との間に配置された。
【+ 】ゞ゚) 「私達は見守るだけですかね」
( ・∀・) 「同時攻撃しなくていいのかな」
【+ 】ゞ゚) 「私の場合は属性が真逆ですからね。邪魔になるだけでしょう」
( ・∀・) 「僕も見ているだけにしようかな。それに、もう充分じゃないか」
眩いほどの光をその手のうちに束ね、立方体に向けて一気に距離を詰める。
精霊陣の中心を貫くように振るうのは、全てを穿つ閃光の刃。
川 ゚ -゚) 「ペネトライト!」
328
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:27:34 ID:f6Jc0GS60
空間を震わせるほどの一撃。
自慢の髪すら輝く光と化していたクールは、英雄達の視界から消えた。
甲高い金属音が虚ろの空間内に響く。
黒色立方体の真後ろにて分離した九つの剣。
その全てを翼のように拡げて振り返ったクール。
立方体の中心部には人間大の穴が開いていた。
箱は、黒い煙を立ち上げながら崩壊していく。
( ・∀・) 「貫通したみたいだけど……」
('A`) 「やけにあっさりと……いや、なんだあれは」
o川*゚ー゚)o 「パパっ!」
溶解しながら崩れ落ちる立方体。
その内側には、何一つ生命体の痕跡が存在しなかった。
即座に置かれた状況を理解したのは、僅か二人。
上空から降り注いだ脅威に対する防備は、あまりにも脆かった。
( <●><●>) 「よく防いだな」
329
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:28:17 ID:f6Jc0GS60
人型に似た二息歩行の姿。
しかし、人間よりも二回り以上大きく、両手両足はまるで獣のよう。
背中には呪術で組まれた一対の黒い翼。
【+ 】ゞ゚) 「っあ…はっ……はっ……」
('A`) 「オサムっ!?」
( ФωФ) 「人……間……?」
( <●><●>) 「正確には、半分がそうだ」
蒸発する大地は轟々と白煙を立ち上げ、英雄達の足場は陸の孤島となっていた。
半身が吹き飛んだオサムに駆け寄るキュート。
少女の回復魔術はしかし、呪われて死ぬことの無い身体を持つ呪術師には何ら影響を及ぼさない。
【+ 】ゞ゚) 「お気遣いありがとうございます。ですが、心配は不要です」
体表に刻まれた呪いの一角を解き放ち、失った肉体を再形成する。
両の足で立ち上がり、宙に浮かぶ存在を睨む。
( <●><●>) 「まずは見事、と言っておこう」
330
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:28:49 ID:f6Jc0GS60
('A`) 「クラッシカル」
砕けた大地に転がっていた人間大の岩が、ドクオの杖に導かれ一斉に飛び放たれた。
弾道は一直線に敵の懐へ。
直撃するかと思われた瞬間、何かにぶつかったかのようにあらぬ方向へと弾かれた。
( <●><●>) 「そう焦るな。……お前もだ」
( ФωФ) 「ぐぬっ」
男の背後に音もなく迫っていたロマネスクに視線すら向けることも無く、地面に叩き落とした。
土煙の中から無傷で立ち上がったものの、精霊術師は驚愕の表情を浮かべていた。
( ФωФ) 「まさか……」
有り得ない、と続けようとした言葉を飲み込む。
むしろ大いにあり得るのだと、ロマネスクは理解した。
( <●><●>) 「ほう、流石過去四回の災禍を生き延びただけのことはある。
即座に私の正体に気付くとは」
( ・∀・) 「どういうことだ、ロマネスク」
( ФωФ) 「三術を全て扱うなんてことができるわけが……」
331
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:29:20 ID:f6Jc0GS60
( <●><●>) 「私にはその才能があっただけの事。全ての術は私が生み出したのだ。
故に讃えられた我が名は純術師オルフェウス」
('A`) 「成程、理解した。だが、得意分野の練度で負けるつもりは無い」
ドクオが構えた腕を中心にして、魔術陣が次々と現れていく。
一つが二つに別れ、それぞれがさらに精緻な魔術を編む。
('A`) 「消えろ」
全ての魔術陣が砕け、拡散した光がドクオの腕の先で舞う。
軽くふるわれた腕から放たれた魔術は、一直線にオルフェウスの胸元へと向かった。
( <●><●>) 「呪泥壁・四重」
大気中に存在するあらゆるものを消滅させた光は、
ガラスが割れる様に散り散りになった。
【+ 】ゞ゚) 「呪術で……魔術を……」
( <●><●>) 「一人ずつではなく、全員でかかってきたらどうだ、とでも言いたいのだが。
面倒事はあまり好きではないのでね」
オルフェウスが胸の前で両の手を打ち鳴らした。
拝むかのようなその姿に一瞬気を取られた英雄達は、
抵抗する間もなく暗がりの底へと飲み込まれた。
332
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:31:23 ID:f6Jc0GS60
>
( ・∀・) 「ここは……?」
自身に翼のあることを思い出したモララーは落下途中に体勢を立て直した。
上空を仰ぎ見るが、落ちてきたはずの光は無く、
足元の暗闇は何処までも続いているように見えた。
【+ 】ゞ゚) 「やれやれ、まさかあなたと一緒ですか」
(#・∀・) 「……降りろ」
モララルドの広い背中の上、オサムは胡坐をかいて座っていた。
そのトレードマークともいえる棺桶を腰の横に寝かせながら。
【+ 】ゞ゚) 「そう冷たいことを言わないでください」
( ・∀・) 「それ以上喋ったらお前を先に殺す。
背中から降りろ、でなければ殺す」
【+ 】ゞ゚) 「……何が起こるのかわからないのです。
あまり呪力を無駄にさせるものではありませんよ。ですが……。
……呪翼」
333
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:31:46 ID:f6Jc0GS60
掌の刺青の一角が消え、マントが大きな翼へと変化した。
棺桶を傍らに抱え、モララーの背から飛び立つ。
【+ 】ゞ゚) 「竪穴のようですが、上に入り口は見えませんね」
( ・∀・) 「さほど長い時間落ちていたわけじゃない。飛び続ければすぐに出られる」
そう言い残して、龍は急上昇していく。
すぐにオサムの視界から消えた。
【+ 】ゞ゚) 「そう単純な敵ではないでしょう。力を持っていてもまだまだ子供ですね」
壁面に生えた植物を千切り、すり潰してその匂いを嗅ぐ。
【+ 】ゞ゚) 「幻術の類ではなさそうですが……っと、」
浮遊するオサムの真下から高速で訪れた物体。
その正体に気付き、咄嗟に唱えてしまった呪術をすんでのところで壁に誘導した。
( ・∀・) 「なにするんだ」
【+ 】ゞ゚) 「私は龍ではないので、近づいてくるのがあなたと確認が取れなかったんですよ」
崩れ落ちていく人間大の瓦礫は、暗闇に飲み込まれてすぐに見えなくなった。
334
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:32:13 ID:f6Jc0GS60
( ・∀・) 「どうなってる」
【+ 】ゞ゚) 「どうやらここは繋がっているみたいですね。
輪っかの様に」
オサムは指先を回して円を描く。
眼前に留まった龍王は、目の前の呪術師を気にもせずに無言でその魔力を集中させる。
「やめておいたほうが良いよ」
壁から現れたのは、紫の肌をした小人。
人間の子供程度の背丈でありながら、身の丈を超える櫂を二本担いでいた。
瞳に当たる部分は暗く落ち窪み、口を持たない奇怪な姿。
【+ 】ゞ゚) 「あなたは……?」
| ^ ^ | 「僕はカーロン・ブーム。オルフェウスに囚われた英雄を相手にする者さ」
( ・∀・) 「そうか、だったらお前を殺せばいいわけだな」
前触れなく放ったモララーの魔力砲は、無防備なカーロンの正面で分散し、
一欠片も残さずに消滅した。
手心を加えたわけでもない攻撃を容易く防がれ、モララーは閉口する。
335
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:35:04 ID:f6Jc0GS60
| ^ ^ | 「せっかちだなぁ。僕は君たちを殺すつもりは無いんだ」
【+ 】ゞ゚) 「私たちの敵と言っても、本体とはずいぶんと考え方が異なるようですね」
| ^ ^ | 「まぁね。僕らは自由だから。ここで大人しく待っていれば、そのうち解放されるよ。
その頃には、お仲間は皆死んでいるだろうけどね」
( ・∀・) 「この空間を作っているのがお前だとわかれば十分だ。
すぐに殺してやる」
| ^ ^ | 「怖いなぁ……」
モララーの牙が空を切った。
予備動作なく数メートルの移動を行ったカローンは、
反撃するでもなく壁の窪みに腰かける。
小さな身体がすっぽりと収まるだけの狭い穴の中で、
片手をあげた直後に壁面に炎が溢れかえった。
| ^ ^ | 「危ないなぁ」
依然として燃え盛る火炎によって煮え立つ壁面とは逆側、
モララーとオサムの背後から声は届いた。
336
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:35:35 ID:f6Jc0GS60
【+ 】ゞ゚) 「……成程、あなたは自由にこの空間を移動できるわけですね」
| ^ ^ | 「そりゃそうさ。さて、諦める気になったかい?」
( ・∀・) 「いや、ちょこまかと逃げられない様にこの空間全てを吹き飛ばしてやるさ」
先程までとは比較にならない程、魔力を深く練り上げる。
構成された魔術は、龍王が所有していた七つの龍技が一つ。
触れるものに浸透して破壊していく毒素のような性質を持つ魔術。
( ・∀・) 「崩蝕天」
【+ 】ゞ゚) 「待て……!」
オサムの制止も間に合わず、龍王の毒素は空間を急激に侵し始めた。
壁面から崩れ落ちていき、竪穴は二倍程度にまで拡がった。
【+ 】ゞ゚) 「見境なしですか……」
呪術でコーティングされたコートの表面がモララーの龍技と反目し、
燻った煙を立ち昇らせる。
オサムは防護呪術を重ね掛けしながら、周囲の変化を観察していた。
337
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:36:08 ID:f6Jc0GS60
| ^ ^ | 「意外と頑張るね」
数十倍の広さになった暗闇の中で、
ようやく魔力の放出をやめたモララー。
その顔に浮かぶのは若干の疲労と、露骨な苛立ち。
( ・∀・) 「この空間が相当に広いことはよくわかった。
だったら、すべて破壊してしまうまでだ」
【+ 】ゞ゚) 「落ち着いてください」
高密度魔力砲の準備を始めた龍王の頭から冷や水を浴びせかけた。
呪術師があまり用いることの無い四大元素の基礎呪術。
その威力や性質は魔術のものと全く変わりはない。
(#・∀・) 「お前も一緒に屠ってほしいのか?」
巨大な瞳に一歩も引くことなく、オサムは抱えていた棺桶を穴の底へと捨てた。
【+ 】ゞ゚) 「見てください」
落下していった棺桶はオサムから少し離れた所で浮いていた。
( ・∀・) 「それがどうした」
338
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:36:32 ID:f6Jc0GS60
【+ 】ゞ゚) 「探索、調査なんて言うのは魔術の得意とするところですがね。
呪術でそれが出来ないというわけではありません。
この空間の継ぎ目……歪みを見つけるのに少し手間取ってしまいましたが」
( ・∀・) 「……俺にどうしろと」
【+ 】ゞ゚) 「全力であの場所を攻撃してください」
| ^ ^ | 「やれやれ、油断も隙もないね。別に急いで出なくていいと言ったはずなんだけどな」
以前からずっとその場所にいたかのように、棺桶の上に座っているカーロン。
静かな声のうちに微小な怒気をはらんでいた。
( ・∀・) 「ふん、小細工を弄することしかできない雑魚が」
| ^ ^ | 「僕はオルフェウスと違って争うのが好きじゃないんだ。
ただ、君たちが大人しくすることを拒むのなら僕は僕の役割を果たそう」
【+ 】ゞ゚) 「っ!?」
オサムとモララーは突然、壁面に打ち付けられた。
(; ・∀・) 「何が……」
339
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:37:05 ID:f6Jc0GS60
壁から起き上がろうとした龍王は、さらに数十メートルを転がって止まった。
さほどダメージは無かったものの、混乱が二人を襲う。
足元にいるカーロンは依然として棺桶の上に座ったまま。
魔術も、呪術も、精霊術すらも一切感じられず、
力を行使した痕跡は全くない。
| ^ ^ | 「さて、暴れられても面倒だから、もうしばらく流されていてくれ」
濁流にのみ込まれたかのような衝撃が二人を穴の情報へと押し流した。
止むことは無い渦流が龍の巨体と呪術師の身体を捉えて離さない。
【+ 】ゞ゚) 「くっ……これは……」
足元だったはずの暗闇から、頭上に向けて身体は錐揉み状に流されていた。
自身の身体に起きている現象を判断するのは簡単であったが、
理解することは到底できていなかった。
先程までの竪穴だと思っていた空間を、横穴だと感じていることに。
オサムと全く同時に、重力を壁面から受けているという事実にモララーは気づいた。
押し付けられたのではなく、落ちたのだと。
その感覚の違いに、即座に彼は状況を理解した。
( ・∀・) 「……この空間がどういう場所なのかは分かった。どうすればいいかもだ」
340
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:37:38 ID:f6Jc0GS60
変化した重力に対応し、体勢を立て直す。
拡げた翼に込めた魔力で、先程まで前方にいた敵。
今は上方にいる小さな世界の主に対し、飛翔した。
( ・∀・) 「ちっ……!」
カーロンを目前に捉える直前、その巨体が右方に崩れた。
身体を激しく打ち付けて呻く。
| ^ ^ | 「無駄無駄。この空間に対応できるわけがないでしょ」
( ・∀・) 「面倒な」
| ^ ^ | 「大人し……?」
背後から柔らかな皮膚を貫いた黒き刃。
間髪おかずにそのまま肩口まで大きく引き裂いた。
壊れた人形かのように、ぎこちなく振り返る。
| ^ ^ | 「お見事」
【+ 】ゞ゚) 「龍化したモララーならともかく、
この程度の変化で私が動けなくなるとでも思いましたか」
| ^ ^ | 「いや、何の術も行うことなく対応したことを褒めているんだよ」
341
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:38:17 ID:f6Jc0GS60
【+ 】ゞ゚) 「そう簡単にはいきませんか……」
煙と化してオサムの刃から逃れたカーロン。
彼らから数メート離れた場所で無傷の身体を再生した。
| ^ ^ | 「もう少し楽しませてくれるんだろ?」
【+ 】ゞ゚) 「さほど時間はかけられませんので」
オサムの全身から噴き出したのは、空間を塗りつぶすほどの密度を持った呪力。
人の身体を中心に、巨大な鎧を組み上げていく。
( ・∀・) 「なんだそれは」
【+ 】ゞ゚) 「呪装」
モララーの首すらも落としてしまいそうな程の大鎌を担いだ黒き鎧武者の姿。
関節部に纏った軟体の呪力が、巨躯がただの飾りではないということを示してしていた。
| ^ ^ | 「呪術師にしては随分と物騒な……」
カーロンが最後まで言葉を繋げることは無かった。
今は横穴となった空間を二つに分断する斬撃。
数秒して、霧散したカーロンが再生した。
342
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:39:12 ID:f6Jc0GS60
ひっきりなしに変化する重力に反応することすら許されず、
壁に張り付いたまま様子を窺う龍王モララー。
対照的に、オサムはその影響を全く受けないかのように自在に鎌を振るい、
目の前に浮かぶ敵の身体を幾度となく断つ。
| ^ ^ | 「なるほど。そういうことか」
十数度刻まれては再生し、洞窟全体が傷だらけになった頃、
ようやく得心がいったかのように呟いた。
| ^ ^ | 「呪力で足場だけ完全に固定しているわけだ。
それなら、どれだけこの空間の重力が変わっても関係ないか」
【+ 】ゞ゚) 「意外と気づくのが遅かったですね」
| ^ ^ | 「別に僕は全知でも万能でも無い。オルフェウスがそうであるようにね。
だからこんな時間稼ぎに徹しているんだから」
【+ 】ゞ゚) 「時間稼ぎはあなただけではないですよ。モララー!」
( ・∀・) 「うるさい、わかってる!!」
全身を伏せて壁に張り付きながら、ただ見ていただけの龍王ではない。
鎧武者が時間を稼いでいる間、体内に貯め込んだ魔力を龍技へと注ぎ込み続けた。
いくら殺しても再生し続ける敵を屠るために必要な魔術を。
343
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:40:10 ID:f6Jc0GS60
( ・∀・) 「霊炉の光」
| ; ^ ^ | 「っ……!?」
視界を完全に埋め尽くす大容量の光。
白一色になった穴倉で、オサムは自身の棺桶が存在している座標を明確に把握していた。
目くらましである龍技の影で、即座に鎧武者の呪術を書き換える。
【+ 】ゞ゚) 「呪黒槍!」
魔術と精霊術には不可能な技術でもって、光の中を進む黒き槍。
呪いの大槍は光の海に浮かんでいた棺桶を砕いた。
【+ 】ゞ゚) 「……ごほっ」
光が収まってモララーが見たのは、櫂によってその腹部を半分ほど抉られた呪術師の姿。
口の存在しないはずの紫の小人が、笑っているように見えた。
( ・∀・) 「何が……」
| ^ ^ | 「空間の歪みに気付いたのは見事。それを狙う手段も素晴らしい!
でも、足りない。一つは威力。呪術はそもそも直接破壊に向いていない。
役割は逆にすべきだったろうね。ま、この空間で直撃はさせられなかっただろうけど」
344
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:41:00 ID:f6Jc0GS60
【+ 】ゞ゚) 「はぁっ……はっ……」
| ^ ^ | 「苦しそうだね。楽にしてあげよう」
櫂は何ら抵抗もなくオサムの身体を二つに割った。
暗闇に落ちていく人間だった塊。
それに目を向けることなく、カーロンは語る。
| ^ ^ | 「二つに、魔術を使って僕の感覚と視覚を塞いだこと。僕の眼はオルフェウスと同じ能力を持つ。
忘れていたかい? 彼が三術を極めていることを。
僕程度でもそれぞれを視認することくらいならできるのさ。
魔術の中を進む呪術を見分けるのは、簡単なことさ」
( ・∀・) 「くそが…………っ!」
壁を蹴ったモララーの牙は、当たれば簡単に砕くことのできる敵に届かない。
カーロンが軽く腕を振るっただけで強く壁に叩き付けられた。
| ^ ^ | 「三つ。僕が攻撃をしないと甘く見積もったこと。
龍王を殺すだけの力を出すのは大変だけれど、
人間程度の強度である呪術師を殺すのは容易い。
面倒だから手を下さなかっただけだ」
345
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:41:27 ID:f6Jc0GS60
( ・∀・) 「喋りすぎたな。どうやら僕は殺せないし、僕ならこの空間を壊せるようだな。
だったら今すぐにこの空間ごと焼き尽くしてやるさ。
爆鎖陣……!」
モララーが吼えた。
空間を照らしていた魔力の残滓が膨張し、同時に破裂した。
爆発は連鎖し、数十秒間も続いた。
その威力は洞窟全体を揺るがすほど。
(; ・∀・) 「……な……にっ……?」
鳴りやまない爆熱の中、穏やかに浮かカーロン。
彼の直前で見えない壁に阻まれているかの如く、龍技は拡散して消えゆく。
| ^ ^ | 「やれやれ、これだけ空間中に残留している魔力を気にも留めないと思ったのか?
これくらいのことは予期していたさ。君たちは英雄だ。
一人一人はオルフェウスには及ばないにしても、相当の力を持っていることは知っている」
( ・∀・) 「くそっ……」
| ^ ^ | 「この空間こそが僕自身なんだ。魔力を通さないことなんて造作もない。
別に君たちの攻撃を避ける必要なんか、端から無かったのさ」
( ・∀・) 「化け物め」
346
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:41:48 ID:f6Jc0GS60
| ^ ^ | 「さして変わりないよ。さて、君はどうする?
呪術師と同じ道を辿るか、それともここで大人しくしておくか」
( ・∀・) 「……あまり龍王を舐めるな」
魔力を纏った爪撃。
洞窟の壁をバターのように削っていく。
| ^ ^ | 「借り物の力で粋がっている愚かな子供だ」
瞬きする間に十数回以上も変化する空間の重力。
(; ∀・) 「ぐっ……おおっ!」
全身を回転させ、その爪を振り回した。
斬撃となって全方位へ飛び散った魔力が、カーロンを捉えることなく空間を飛び交う。
| ^ ^ | 「その鬱陶しい動きをやめろ」
暫くは傍観していたカーロンはしびれを切らし、
担いでいた二本の櫂を龍王の翼に打ち付けた。
標本の様に壁に釘付けになるモララー。
身動きの出来ない状態でありながら、闘志は未だ衰えず。
口を開いて岩石すら溶かす高熱の火炎を放射する。
347
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:42:23 ID:f6Jc0GS60
| ^ ^ | 「だから無駄だって」
( ・∀・) 「くっそ……」
| ^ ゚ | 「おとなし……ぎっ!?」
紫の小人が苦しそうにその脇腹を抑えた。
内部から零れ出てきたのは、血液ではなく霧状の魔力。
今まで本体を攻撃した時のものとは異なり、大気中に霧散して消えていく。
| ; ^ ^ | 「生きて……いたのか……ぐっ」
( ・∀・) 「何が……」
【+ 】ゞ゚) 「簡単なことです。呪術とは呪った存在の本質に影響を与える術。
死んだと思い込ませることすら、手の内ですよ。
そしてまた、この空間があの怪物の手によるものであるなら、
その組成が分からなくとも十分に有効範囲内ということです。
少々手間取りましたがね」
( ・∀・) 「……遅いんだよ」
【+ 】ゞ゚) 「失礼。ですが、これで妨害されずに攻撃することができます」
| ^ ^ | 「貴様ら……ッ! 後悔しても遅いぞ!!」
348
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:42:43 ID:f6Jc0GS60
( ・∀・) 「そのような戯言、聞く耳は持たない!」
| ^ ^ | 「糞があああああ」
【+ 】ゞ゚) 「呪茨棘・身喰」
カーロンの体内から飛び出した無数の茨によって、その姿は見えなくなった。
オサムの呪術はそのまま空間を侵食していく。
【+ 】ゞ゚) 「あそこです。外さないようにお願いしますよ」
( ・∀・) 「ふん、わかっている」
変化し続ける重力から解放されも、未だ揺れる頭を押さえながら狙いをつける。
モララーの正面に集中する魔力。
それを飲み込み、腹の中で龍技へと注ぎ込む。
( ・∀・) 「龍神の咆哮」
大気を揺るがす一撃が壁面を抉り、その場所にあった核を打ち抜く。
主とその術の基礎を同時に失ったカーロンの空間は、すぐに崩壊を始めた。
【+ 】ゞ゚) 「脱出しましょうか」
( ・∀・) 「いちいち言わなくても解っている」
オサムとモララーは光が漏れ出していた穴に飛び込んだ。
349
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:43:15 ID:f6Jc0GS60
>
「あはははは!!」
川 ゚ -゚) 「エスキューラ!」
細かく分かれた刀身は、甲高い声をあげて走り回る小さな獣を正確に貫いていく。
動かなくなった獣は地面に溶けて消えた。
川 ゚ -゚) 「怪我はないか、キュート」
o川*゚ー゚)o 「うん……ごめんなさいママ。こんなことになるなんて……」
魔術師としての知恵と力を備えてはいても、キュートは戦ったことの無い少女であった。
実戦で行う魔力のコントロールは、普段のそれよりもはるかに難しいことをクールは知っている。
恐怖と緊張で彼女が魔術を行使できなくなったことを、責めることなどできるはずもない。
川 ゚ -゚) 「無理もない。どれだけ多くの魔力を有していようと、
戦ったことの無いお前を連れて来るべきではなかった。
私とドクオの過ちだ」
350
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:45:34 ID:f6Jc0GS60
ただの少女と変わらないキュートをその背に庇い、クールは天剣を振るう。
残っていた獣も全て地面に還り、再びの静寂が訪れた。
それを破るのは、神経を逆なでするかのような声。
幼さの残る口調は、クールを苛立たせた。
「あはっ、なかなかどうしてかわいい娘たちだ。ぼくの人形にして、死ぬまで可愛がってあげるよ」
暗がりの奥、見上げるほど大きな椅子に座っているのは、不釣り合いなほど小さな人形。
人形は慈しむかのように、自分の身体を優しく抱きしめていた。
オルフェウスによってクールとキュートが飛ばされたのは、
劇場の様な半円形のホールに、血のように真っ赤な垂れ幕で何重にも覆われた世界。
その主は、人形の姿をした魔術師であった。
クールとキュートを合わせても全く及ばない程の魔力を持ちながら、
二人をからかうかのように小さな魔術のみを使う人形。
隙を見て幾度攻撃をしたところで、
魔力という圧倒的な壁に阻まれ、クールの攻撃はその喉元にも届かない。
「あはは! どうしたのかな?」
複数の属性を無理やり混ぜ込んだ小さな爆発魔術が、音もなく二人を囲うように出現する。
すぐさま天剣の持つ反射の魔術で吹き飛ばした。
劇場の隅を消し飛ばして魔術は消失し、消えた壁もまたすぐに再生された。
351
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:45:59 ID:f6Jc0GS60
川 ゚ -゚) 「何を企んでいる」
「言ったじゃないか。君たち二人とも、ぼくの人形にしてあげるって。
今は壊すつもりは無いんだ。早く抵抗をやめてくれないかな。
綺麗な長い黒髪も! 滑らかな白い肌も! 美しい曲線を描く肉体も! 全部欲しい!」
川 ゚ -゚) 「断る。変態ナルシスト。そもそも私は人妻だ」
o川;゚ー゚)o 「ママ待って! それだと私は大丈夫みたいになっちゃうから!」
焦って訂正を求めるキュート。
拒否の言を意にも介さず、人形は自分の言いたいことだけを言葉にする。
「どうしても抵抗するの? 本当に? 勝てるはずないのに?」
川 ゚ -゚) 「勝てないと誰が決めた」
「だって、その娘戦えないじゃないか。君が抵抗するなら、ぼくはその娘を狙ってもいいんだよ?
まずは両手と両足を千切って、動けなくするんだ。勿論捨てたりしないよ。
君のとってもきれいな腕も足も、大事に飾っておくから。
一応魔術師みたいだから、詠唱できないように口を縫い合わせなきゃ。
綺麗な目玉はえぐり取って保存してあげる。
たかだか数十年でその輝きが失われるなんてもったいない!
君は本当に髪がきれいだから、ずっとずっと伸ばしてあげる。
身体よりも長くなっても、痛まないように丁寧にケアするね」
352
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:46:21 ID:f6Jc0GS60
顔に埋め込まれた大きな二つの目玉が音を立ててキュートを見つめる。
何の魔力も込められていない視線ですら、彼女を恐怖させるには十分であった。
o川;゚ー゚)o 「ひっ……!」
金縛りにあったかのように動けないキュートを、背後から合われた大蛇が丸呑みしようと口を開く。
その口は光る剣によって縫い付けられ、瞬時に細切れにされた。
川 ゚ -゚) 「私がそうはさせない」
「少し、痛い目を見てもらおうかな。本当は無傷のままが良かったんだけど」
川 ゚ -゚) 「やってみろ!」
クールを囲うように展開した九つの剣。
そのうちの二本は、キュートを護る様にその上空へ待機する。
残る七つに魔力を込めて人形を睨む。
「そんな少ない魔力で可哀想。ぼくが本物の魔術を見せてあげるよ」
353
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:46:52 ID:f6Jc0GS60
立ち上がった人形は腕を振る。
何処からともなく聞こえてきた音楽に合わせて。
朱い眼をした人形が一つ、また一つ幕下から現れる。
手には玩具の包丁を持ち、ケタケタと歪んだ嗤い声をあげながら。
川 ゚ -゚) 「そんなもの……!」
飛来した天剣が頭部を砕く。
動かなくなったガラクタを超え、さらに多くの人形が押し寄せる。
「ほらほら、どんどん増えるよ! あはははは!」
川 ゚ -゚) 「鬱陶しい! エスキューラ!」
天剣の刀身が細かい破片へと分離し、人形の軍隊に降り注ぐ。
威力を犠牲に手数を増やす魔術であるが、
魔力耐久の無い生物であれば一欠片で容赦なく死に至らしめることができるはずであった。
だが、殺戮の豪雨をものともせずに、軍隊は進む。
川;゚ -゚) 「なっ!?」
「ははっ! 君は純魔術師じゃないだろう。
どうやって手に入れたかは知らないけど、剣に組み込まれた魔術に魔力を注ぎ込んでいるだけだ。
その程度だったら、一回見れば十分に対応できるんだよ」
354
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:47:13 ID:f6Jc0GS60
人形たちの包囲網はじわじわと狭まっていく。
川 ゚ -゚) 「だったら、一撃で……ッ!」
o川*゚ー゚)o 「ママ! 待って!」
キュートは魔力そのものを同心円状に放出する。
その余波を受けた人形軍の瞳からは光が失われ、動かなくなった。
「うーん、すっごい! すごいねぇ! 人形の稼働魔力を妨害するなんて!
よく気が付いたね。確かに魔術を使えなくても、魔力を打ち出すだけなら誰でも出来るから」
o川*゚ー゚)o 「私だって、戦える!」
「でも駄目だよ。君はぼくの宝物になるんだ。
傷つけたくないから、おとなしくしていてくれないかな?」
o川*゚ー゚)o 「きゃっ……」
川 ゚ -゚) 「キュートっ!」
天剣すら反応できない速度で、キュートの両腕に取りついた小鳥のぬいぐるみ。
その大きさからは想像もできない力で、少女の身体を持ち上げる。
355
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:47:50 ID:f6Jc0GS60
o川*゚ー゚)o 「はな……してっ!」
キュートが放った魔力は、小鳥に何ら影響を及ぼせない。
天井からぶら下がっている檻の中にキュートは投げ込まれる。
「残念! 今度の玩具は魔力耐性を付与してあるから、そんなただの魔力は効かないよ」
川 ゚ -゚) 「キュートを離せ! ローテイシオン!」
全てを切り裂く光の環。回転する天剣は少女を捉えた檻を砕いた。
着地したキュートのすぐ傍へ駆け寄ったクール。
護衛用の天剣をさらに二本を加えて四本とした
「二つ目だねぇ」
椅子に掛けたまま人形は手を翳す。
起き上がった巨大な人形に注がれていく魔力は、大魔術クラス数発分。
「いけっ! あの生意気な女を叩き潰せ!」
川 ゚ -゚) 「っち……! デカブツが!」
「さぁ!さぁどうするお姫様! 残りの魔術は後いくつ?
諦めてその娘を差し出せば、命は助けてあげる。
綺麗にバラして、保存したその娘の隣に飾ってあげるよ?」
356
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:48:24 ID:f6Jc0GS60
川 ゚ -゚) 「黙ってろ!」
音を立てて崩れ落ちた人形の巨体。
両手両足が切断され、頭部を真っ二つにされて動かなくなった。
「すごいねぇ」
劇場に乾いた音が響く。
ぎこちない動作で両手を打ち鳴らす。
「はい、次は十体だよ」
起き上がった巨体の動きは緩慢で、一体一体はさして強くない。
天剣の破壊力をもってすれば行動不能まで追い込むのは難しくなかった。
川;゚ -゚) 「はぁっ……くっそ……」
五つの剣を自在に操り、巨体の足元を走り回りながら切り崩していく。
魔力で全身を強化してはいても、元は人間の身体。
体力にも限界はあった。
「どうしたの? もう元気がなくなっちゃった? 」
九つある天剣のうち四つはキュートの守護に。
四つを振り回して最後の人形を破壊したクールは、
額から汗を滴らせながら肩を揺らして息をしていた。
357
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:49:06 ID:f6Jc0GS60
「ん……。一本、どこにやった?」
川 ゚ -゚) 「いい加減その口を閉じろ」
椅子にふんぞり返っていた人形の頭部を貫通し、舞台に縫い付けた。
川 ゚ -゚) 「油断するなと学ばなかったようだな」
「ああ、あああ……ああ! あはは、はは! はははは!」
壊れたかのように乾いた嗤い声をあげ続ける人形。
即座にその全身をバラバラにした。
川 ゚ -゚) 「っふー……。さて、後はここからどうやって出るか」
o川*゚ー゚)o 「自信はないけど、私とママの魔力を天剣の魔術に注げば十分に……」
「ぼくも話にまぜてよ」
o川;゚ー゚)o 「なっ!?」
358
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:49:53 ID:f6Jc0GS60
人形の破片の一つ、腕の部分からその声は聞こえた。
天剣による裂け目が、笑みを浮かべているようにも見える。
ケラケラと笑う不気味な腕を、何処からともなく現れた小型の人形がその身に取り込んだ。
身体の大きさを超える腕を一飲みにした人形を、さらに大きな人形が捕まえて口の中に放り込む。
そうやって何度も捕食を繰り返し、人形は元の大きさの二倍ほどにまで成長した。
「あはは!無駄無駄! 人形魔術師の僕を殺そうなんて!」
川 ゚ -゚) 「まったく、厄介だな。本体を狙うのがセオリーだが、そう簡単には見つからないだろう。
おまけに一度見せた魔術はすぐに対策をされて使えなくなる、と。
性格の悪い術者だという事だけはわかった」
o川*゚ー゚)o 「ママ、一番大事なこと忘れてるよ。あいつは最低の変態」
川 ゚ -゚) 「ははは、そうだったな。変態下種野郎の魔術師。いかにもって感じだ」
「言わせておけば……!」
小型の人形が数十体、二人を囲うように現れる。
その手に持つのは身体に不釣り合いな大型の銃。
次々と火を噴き、無数の銃弾が二人を蜂の穴にすべく襲い掛かった。
絶え間ない銃撃音が劇場を埋め尽くす。
359
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:50:18 ID:f6Jc0GS60
川 ゚ -゚) 「怒りやすいってのも追加だな」
天剣に埋め込まれた反射の魔術、リバーサル
全て天剣を軸に九つの魔術を同時に発動させれば、
保有者の周囲数十メートルを保護することができる鉄壁の防御。
幾つかの衝撃を受けては崩壊し、再生することを繰り返す。
川 ゚ -゚) 「それに、これなら取れる対策はそう多くは無いだろ」
攻撃の魔術と異なり、防御魔術は一度見た程度でその性能を全て理解するのは難しい。
加えて、防御魔術を破る方法など本質的には一つしかないのだ。
「ふっざけるなあああ!!」
人形たちが一カ所に集まり、重なって巨大な人形と化す。
手に持っていた銃は、人間よりも大きな口径の大砲に。
集中していく魔力は、クールの全魔力よりもさらに膨大な量。
周囲をすべて消滅させてしまいかねないような一撃は、何の警告もなく発射された。
o川*゚ー゚)o 「ママっ!」
川 ゚ -゚) 「リバーサル!」
九つの盾を重ねて強化した防御魔術。
クールの身体を通して、キュートの魔力分だけその硬度は強化される。
360
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:50:41 ID:f6Jc0GS60
光で埋め尽くされた劇場。
魔力の残滓が呼吸すらも阻む濃度で満ち溢れていた。
「な……に……?」
光が収まった時、劇場に立っていたのは二人。
相当量の魔力を引き出していたせいで疲弊していながらも、無傷の姿であった。
川 ゚ -゚) 「キュート、もうひと踏ん張りだ!」
o川*゚ー゚)o 「うん!」
その本来の力を発揮したリバーサルによって反射された魔力砲。
強大な魔力の奔流が引き起こしたのは、劇場の崩壊。
天変地異にも匹敵する威力の攻撃は、
別の世界へ繋がっている歪んだ筋状の空間をいくつも生み出していた。
川 ゚ -゚) 「全て壊れろ! ……おおおおっホライズン!」
「やめろおおおおおお!!」
二人分の魔力が込められた不可視の一撃。
地平の彼方まで全てを薙ぐ天剣最長射程の魔力斬撃。
既に崩壊しかけた空間を破壊するには充分であった。
361
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:51:11 ID:f6Jc0GS60
「な──んてね」
.
362
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:51:33 ID:f6Jc0GS60
斬撃は分解され、歪みに届く前に露と消えた。
歪みの奥から新たな人形が一体、クールたちの前に歩いてくる。
川 ゚ -゚) 「なっ!?」
「期待しちゃった? 期待しちゃった? ごめんねぇ。
でも、仕方ないんだよ。君たち二人が全然諦めてくれないんだもの。
僕はさっきから言ってるでしょ。出来るだけ傷つけたくないって」
川 ゚ -゚) 「っあ! やめろっ……!」
大波のようにあふれてきた小型の人形は、クールの手足に絡みつき、そのまま動かなくなった。
天剣に破壊されるよりも早く、新たな人形が彼女の全身を縛り付ける。
まるで十字架のように。
o川*゚ー゚)o 「ママっ!」
「おっと、君も邪魔しないでね」
指の動きに合わせて射出され、地面に突き刺さる人形の腕。
キュートを囲うように数秒で檻を為す。
川;゚ -゚) 「ぐっ……あああああっ!」
363
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:52:05 ID:f6Jc0GS60
「このまま握りつぶしてもいいけど、少し痛い目を見てもらわないとね。
まさか防御魔術にあんな性質があるなんてね。おかげで大事な空間に少し傷がついた」
川;゚ -゚) 「はっ……偉そうに魔術師であるとかいう癖に、大したことないな。
私の知っている魔術師はお前よりもずっと魔力が少なくても、すぐに気づいたぞ。
っぅうあああ!!」
「やれやれ、強がりな口はきかない方が自分の為だってわからないかな」
o川;゚ー゚)o 「ママっ! お願い! 私は言う事を聞くから、ママを離して!」
「うるさいなぁ。僕は喧しいのが嫌いなんだ。君から人形にしてやろうか」
川 -゚) 「や……めろ……」
「だってさ、君のお母さんはは優しいねぇ。……でも、いくらなんでも若すぎないか。
肉体年齢を魔術で止めてるわけでもなさそうだし……」
人形はその大きなめをぎょろつかせて囚われのクールを見定める。
「ん……これはどういうこと……?」
364
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:52:57 ID:f6Jc0GS60
魔術師ゆえに、クールの身体に刻まれた魔力痕にはすぐ気がついた。
幾重にも重ねられた複雑な隠蔽魔術のせいで、即座にその元を暴くことは出来なかったが。
それでも、その意味をすぐさま理解し、人形に宿った瞳の光は暗く輝く。
「お前、子供がいたのか」
川;゚ -゚) 「っ……!」
「はははっ! 面白い! お前馬鹿か? 子供を孕んだまま終末に立ち向かうなんて!
いいぞ、いいぞ。俄然面白くなってきた。かなり複雑な魔術だが、僕に解けない魔術なんてない」
その腹に人形の手が触れる。
幾つもの魔法陣が生み出されては消えていく。
川;゚ -゚) 「やめろっ!」
「あはははは!! 面白くなってきた! 生きたままお前から引きずり出してやろうか?
それとも胎内で成長させてお前という殻を破って産ませてやろうか!
母親としては本望だろうなぁ! あっはっはははは!!!」
川 - ) 「頼む……やめてくれ……」
「だーめだめだめ! 絶対に許さない! ……くっそ、なんだこの魔術。
硬いにも程がある。どんな馬鹿だ、こんなことを考えたのは」
365
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:53:18 ID:f6Jc0GS60
川; -゚) 「っうああ!!!」
保護魔術に干渉されるたびに、激痛がクールを襲う。
膨大な魔力による力任せの解錠は、クールの精神を蝕んでいく。
額から大粒の汗を垂れ流しながら、息を荒げてひたすらに耐える。
「くそっ……! くそっ……!
もういい! 君を生かしたままえぐり出した方が面白いのに、残念だよ」
川 ゚ -゚) 「ははっ……なんだ、魔力に物を言わせただけで、大した魔術師じゃないんだな……お前」
「……こんな状況でまだ僕を挑発するなんて馬鹿な女だ」
川 ゚ -゚) 「お前がもうちょっと魔術師らしければ、私も遠慮しただろうな」
「っ!」
o川*゚ー゚)o 「よくもママを……絶対に、許さない!」
閉じ込められたままのキュートは両腕を高く掲げ、
そこに魔力をひたすらに集中させていた。
空間に流れる魔力の動きに気付いていた人形魔術師が、
敢えて放置していた拙い魔術。
その全容を黄色く光る虚ろな瞳で確認し、喉が裂けんばかりの笑い声を吐き出した。
366
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:53:49 ID:f6Jc0GS60
「なんだ……それは……あははは!! なんだそのまがい物の魔術は!!!
あーっはっはっはっは!! あはひひひい! 腹が……捩れる……っ!」
o川*゚ー゚)o 「っ! 何がおかしいの! これだって、ちゃんと立派な魔術なんだから!」
「それは一度魔術として利用した魔力の残滓、魔灰を集めただけのただの魔力の塊に過ぎない。
それ自体は確かに難しい魔術だ。この僕でも簡単じゃあないくらいにはね。
だけどいくら量を圧縮しようと、ただの魔力塊であれば簡単に防ぐことができるんだよ!!
疑うなら試してみるか!? ほら、撃ってみろ!」
川 ゚ -゚) 「やれ……キュート」
o川*゚ー゚)o 「……うん! リジェネレート!」
母の危機を前にして自身の恐怖に打ち勝った少女が放つ魔術。
父親から受け継いだ天性の才能を遺憾なく発揮したそれは、
膨大な魔力を与えられて一直線に人形を目指した。
「コントロールもろくにできていないじゃないか。
ほら、これでお前の大好きなママは消し炭さ」
367
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:54:50 ID:f6Jc0GS60
人形は身体を傾け、射線から外れる。
直線状にあるのは、囚われたままのクール。
その身体に直撃した時、魔力の暴風が全てを包み込んだ。
「あっはっはははははははははははははははははははははははは!!!!」
五感すらも奪われる大嵐の中で、風の音にも負けない程の笑い声が永遠と響いていた。
劇場の名残は無く、破壊された人形の欠片すらもどこかへと吹き飛ばされて消えた。
暗闇に申し訳程度の焔が幾つか灯った空間で、無事な人形はひたすら笑い続けている。
「あははひひひひっひーっひっひはは!
どんな気分だ? 自分の母親を消し飛ばした時はなぁ!?」
o川*゚ー゚)o 「……あなたは本当に残念な人」
「……なんだお前、その目は」
o川*゚ー゚)o 「魔力量と魔術適性が高いだけで魔術師になったあなたは、魔術師としては下の下。
それを認めたくないから、そうやって人形の身体で人の前に姿を現す。
認めたくない事実から目を逸らし続けてきたあなたでは、
たとえどれだけ魔力を有していても、私たちには勝てない!」
368
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:55:30 ID:f6Jc0GS60
「なんだっ!? ……あ」
人形の身体は縦半分に分割された。
引き裂いたのは巨大な光の剣。
川 ゚ -゚) 「最強の魔術師だと? 笑わせるな。
魔術に無知なお前が……自らは決して戦わないお前が。
ただ一つ、恵まれた魔力で相手を疲弊させて戦ってきたお前が最強なわけがない」
「なんで……生きて……」
o川*゚ー゚)o 「リジェネレートは再転換の魔術。魔灰を、魔力として活用するための魔術。
私は最初っから、ママを狙っていたんだから!」
川 ゚ -゚) 「天剣、ナインツ・ヘイブンの魔力解放術式、ギガンテア。
普段の私なら一本を振り回すことがようやくなのだが、お前が無駄に浪費した魔力と、
私とキュートの魔力、そしてこの空間を構成している魔力の大部分を喰らった私であれば、
九つを操ることすら容易い」
その刀身が数十倍にもなった天剣を魔力で自在に操る。
切っ先の速度は音速すらも越え、魔力を乗せて放たれる斬撃は劇場跡を切り刻む。
「やめろおおおお!!!!」
一薙ぎで百の人形を蹴散らし、刹那でガラクタの山を築きあげる九つの大刀。
その殺戮の中でただ一人無傷だったキュートが叫ぶ。
369
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:56:44 ID:f6Jc0GS60
o川*゚ー゚)o 「ママ! 見つけたよ!」
クールが大暴れしている間に探索魔術を幾重にも放ち、
人形の本体がいる空間を探し当てていた。
少女が指し示す劇場の天井。
崩れかけたシャンデリアのその奥深くに巨大な剣が突き刺さった。
崩壊した天井から瓦礫に混じって落ちてきた、人型の塊。
身体中の至る所が黒ずんでいる。
川 ゚ -゚) 「……それがお前の姿か」
(#゚;;-゚) 「あっはは……笑うなら……笑え……」
黒ずんだ腕をクールに向け、魔力を込める。
即座に反応した天剣がその肘から先を切断した。
(#゚;;-゚) 「っ……!」
川 ゚ -゚) 「美しいものを執拗に執着するのは、それが原因か。醜い魔術師」
(#゚;;-゚) 「ぁぁあああ!!」
370
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:57:07 ID:f6Jc0GS60
川 ゚ -゚) 「断て」
叫び声を根元で断ち切ったナインツ・ヘイブン。
その余波は空間そのものを破壊していく。
崩壊していく劇場の奥に拡がっていたのは、一面の砂漠。
o川*゚ー゚)o 「どういう……こと……」
川 ゚ -゚) 「わからない、が……。どうやら落ち着く暇はないらしいな」
足元までもが砂漠に侵されたところで、砂嵐の中から歩み寄る影が一つ。
全身を黒の甲冑で覆った騎士。
身の丈を超える長槍を構え一歩ずつ。
むき出しの殺意に、クールは背にキュートを庇い天剣を構える。
ギガンテアの魔術を破棄し、通常の大きさに戻った九つの天剣。
その全ての切っ先が警戒を表すかのように黒の騎士に向いていた。
川 ゚ -゚) 「構えろキュート……来るぞ」
o川*゚ー゚)o 「うんっ!」
劇場が跡形も無く消え去り、一面の砂漠となった世界。
そこに吹き荒れていた砂嵐が収まると、騎士は槍を構えて二人に襲い掛かった。
371
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:57:30 ID:f6Jc0GS60
>
('A`) 「ここは……」
何の変哲もない円形の広場。
魔力も、精霊も、呪術も、全く感じない空間。
( ФωФ) 「油断したな。別空間に飛ばされたんだろう」
('A`) 「闘技場……か?」
広場は石でできた建造物で囲われており、二人を見下ろす客席が何列も並んでいた。
誰一人として観客はいなかったが。
( ФωФ) 「まずいな……精霊がほとんど反応を示さない」
掌の上で風の精霊に命ずるも、涼しむ程度の流れが起きるのみ。
普段なら応えるはずの幾千幾万の声は、小さな囁きとなっていた。
('A`) 「精霊が薄い……いや、違うな。奴の支配のせいだろう」
372
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:00:04 ID:GoNX5bS20
高く昇った太陽から降り注ぐ光に混じり、巨大な影が闘技場内に落下した。
大地を激しく揺すり、砂埃を巻き上げた大男はゆっくりと立ち上がり、右腕を掲げた。
それに応える様に、無人だったはずの客席から大歓声が沸き上がる。
鬣のような金色の頭髪を後ろに流し、肉体を惜しげもなく晒していた大男は、
正面に構えるドクオとロマネスクの姿を見て露骨に肩を落とした。
彡 l v lミ 「なんだオルフェウスめ。誰がもやしと年寄りをよこせと言った。
興に乗らないことをしやがって。オレは龍属をよこせと言ったはずだ」
その無防備な顔を、炎の魔術が直撃した。
間髪おかずに異なる属性を持つ魔術が次々と爆発した
('A`) 「余裕ぶっているところ悪いが、こちらには時間がな……」
彡 l v lミ 「がっはっはっは。その意気やよし!」
('A`) 「無傷かよ……」
( ФωФ) 「こやつは何者だ……」
彡 l v lミ 「おぉ、聞いてくれるのか!
オレの名はアルカイオス。オルフェウスに敗れた英雄の一人だ。
噂に名高き獅子王とはオレのことだが、お前らはオレを知っているか!」
373
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:00:57 ID:GoNX5bS20
ドクオの不意打ちを気にした風もなく、自らの名前を叫ぶ大男。
存在しないはずの観客もまた、大地が揺れるほどの大声援で応えた。
「「「「「「アルカイオス! アルカイオス!」」」」」」
彡 l v lミ 「さて、弱き者どもよ。
あらゆる卑劣、卑怯を行い、その持てる全てを尽くして挑んでくるがよい。
すべてを正面から叩き潰してやろう」
( ФωФ) 「時間がないと言ったはずだ」
彡 l v lミ 「老いた男よ。この場では得意の精霊術は使えん。何を見せてくれるのだ」
( ФωФ) 「精霊術が使えないなどと誰が言った」
ロマネスクの全身から淡い光が浮かび上がる。
その一つ一つは各属性の大精霊であり、呼びかけに応えてその力を彼に貸す。
( ФωФ) 「彼の者を打ち払え」
374
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:01:25 ID:GoNX5bS20
命令を受けた精霊たちは一直線にアルカイオスの懐へ飛び込んだ。
それを防御することも無く正面から受けた大男は、
土埃の中から無傷の姿を現し、豪快に笑う。
彡 l v lミ 「がはは、今のは少し痛かったぞ」
( ФωФ) 「ドクオ……」
('A`) 「なんだよ……」
( ФωФ) 「奴に有効な攻撃はあるのか」
('A`) 「ちょうど今自信が無くなったところだ」
彡 l v lミ 「来ないのならこちらから行くぞ」
巨体が瞬発した。
ドクオが咄嗟に展開した防御魔術を全身で突き破り、振り抜いた拳が地面に埋まった。
('A`) 「くそっ……化け物か」
辛うじて躱して距離をとった二人は、追撃を警戒して即座に構えた。
アルカイオスは僅かに生まれた隙などに興味がないかのように、ゆっくりと拳を引き抜いた。
375
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:04:24 ID:GoNX5bS20
すいません、作者です。
ブラウザがぶっ壊れたので、少し時間が空きます。
申し訳ありません。
376
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:07:44 ID:GoNX5bS20
彡 l v lミ 「軽い! 軽いぞ!」
( ФωФ) 「貴様が重たいのだ!」
彡 l v lミ 「成程、真理だ!」
('A`) 「舐めやがって!」
長杖に魔力を送り込み、身体強化の魔術を唱えた。
闘技場の端まで距離を取り、威力の高い魔術に集中しようと杖を構えた瞬間、
死の気配を指先にまで感じ、硬化の魔術を反射的に発動した。
(;'A`) 「っあ!」
すんでのところで間に合ったはずの魔術は打ち砕かれ、
左半身を消し飛ばしたかと思えるほどの衝撃で反対側の壁にまで弾き飛ばされた。
( ФωФ) 「ドクオ……!」
彡 l v lミ 「軟弱だ! 拳一つでこのざまか!」
( ФωФ) 「精れ……ッ」
377
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:08:09 ID:GoNX5bS20
精霊術を発動する間もなく、地面に叩き付けられた。
全身の骨が限界を超えて軋む音が頭の中に響く。
(; ФωФ) 「があああ……」
彡 l v lミ 「弱い……弱すぎる……」
広い闘技場にただ一人立つ無傷の男。
足元でもがく精霊術師と、遠くで壁に埋まる魔術師を順に見比べる。
彡 l v lミ 「全く楽しめなかったな。本当にこいつら終焉を超えたのか」
( ФωФ) 「ぐ……全く、死ぬかと思った」
彡 l v lミ 「ほう、年寄りの割には根性があるな。あっちの魔術師はもう気絶してるというのに」
( ФωФ) 「魔力で強化しているとはいえ、所詮人間の身体……。
貴様の強力な攻撃にはそう耐えられまいよ」
彡 l v lミ 「それで、お前は何を見せてくれるのだ」
( +ω+) 「ふぅ……ふぅ……この姿に戻るのは丁度五百年ぶりだ……!」
378
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:08:32 ID:GoNX5bS20
両目を閉じて体内に存在する精霊に呼び掛け、
人化して隠されていた精霊樹としての姿を解放する。
老人のように細い身体は膨れ上がり、身長は人間の時の倍にもなった。
目の前に立つアルカイオスよりも太く逞しい腕を持つ人間を模した大樹。
彡 l v lミ 「ほう、なかなかに面白い変身だ」
( ФωФ) 「勘違いしているようだから言っておく。こちらが本来の姿だ」
彡 l v lミ 「力比べといこうか」
ロマネスクとアルカイオスは両腕を組む。
( ФωФ) 「おおおっ!」
彡 l v lミ 「ふん!」
渾身の力を込めた二人の動きは完全につり合い、停止した。
どちらも一歩も譲らない。
彡 l v lミ 「確かに力は同格のようだな! だが!」
(; ФωФ) 「がっはっ……」
379
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:08:53 ID:GoNX5bS20
永遠に続くかと思われた力比べの途中で、アルカイオス突然力を緩める。
前のめりになったロマネスクの脇腹を、強烈な蹴りが抉った。
痛みで動きが止まった老樹の腕を掴み、地面に向けて投げ飛ばす。
受け身をとることすら許されず、叩き付けられた。
足裏での強烈な踏み付けを受け、ロマネスクの身体が軋む。
(; ФωФ) 「ぐぅぅ……」
彡 l v lミ 「人間の身体とはかくも素晴らしいものだ。
精霊樹であるお前はいくら力があろうと、根本的に近接戦には向いていないのだ」
( ФωФ) 「ふん、そんなことを俺が分かっていないと思ったか」
彡 l v lミ 「なに……?」
('A`) 「ゼロ・グラインド!」
自身が生み出した百を超える魔術の中で、最も発生速度のある破砕の魔術。
触れたものを砕く灰色の魔力がドクオの手元から射出された。
彡 l v lミ 「そんなもの……ッ!」
380
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:09:14 ID:GoNX5bS20
魔術と拳が真っ向から衝突した。
空気が弾け、衝撃の余りアルカイオスは一歩下がる。
それでも、その拳は健在であった。
彡 l v lミ 「がははっ! 少し焦ったが、大したことは無かったな!」
('A`) 「ああ。一発ならな」
彡 l v lミ 「何……」
('A`) 「お前みたいな馬鹿堅いのを相手にするために生み出した魔術だ。
たんと味わえ……!」
間をおかずに衝撃が闘技場に響く。
ドクオが魔力を注ぎ続ける限り、次々と生み出されては放たれる灰色の魔術。
「ぐぬううううううおおおおおお!!!!」
舞い上がる砂埃でアルカイオスの姿が完全に見えなくなってもなお、
ドクオは一切手を緩めない。
( ФωФ) 「念には念を、ともいうからな。押し潰せ!」
381
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:09:44 ID:GoNX5bS20
自身の内部に存在している精霊に命じる。
やまない爆発の中心部に、真上から鉄よりも堅く圧縮された空気の槌が落とされた。
(;'A`) 「はっ……はっ……無事か、ロマネスク……」
( ФωФ) 「自分の心配をしていろ。精霊樹の化身たるこの俺がそう簡単に折れるものか」
('A`) 「人間の姿がすっかり板についていた奴がよく言う」
( ФωФ) 「たしかに、久しぶりのこの姿には違和感がある。
それで、もはや肉片すら残っていないか」
闘技場の地面は大きく沈み、アルカイオスの姿は見えない。
立ち昇る魔力の残滓が煙となって空に流れていく。
('A`) 「嘘だろおい……」
彡 l v lミ 「がはっ……ははは……流石に効いたぞ」
穴倉からゆっくりと這い出してきた大男。
裸の上半身から幾筋の血を流してはいても、五体満足の姿であった。
( ФωФ) 「潰せ!」
382
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:10:11 ID:GoNX5bS20
彡 l v lミ 「ぐおっ……」
間髪入れずにロマネスクの精霊術が叩き込まれた。
大きな音を立てて穴に転がり落ちていく大男。
その数分後、何事もなかったかのようにアルカイオスは戻って来た。
静まり返っていた闘技場の観客席から歓声が鳴り響き、男の名前を叫ぶ声が木霊する。
声援に大きく腕をあげて応え、掲げた腕をゆっくりと降ろしてドクオとロマネスクに向けた。
彡 l v lミ 「このオレの肉体を傷つけるとは、見事!
おや、開いた口が塞がらないのか?」
('A`) 「理解できねぇ」
彡 l v lミ 「そうだろうか? ふぅむ、やはり筋肉が足りないと意思疎通が難しいか」
('A`) 「お前は一体何なんだ!」
彡 l v lミ 「原初の英雄が一人にして、オルフェウスと戦った最初の英雄だ。
魔力で鍛えた肉体と、精霊を宿した拳をもって、悪を薙ぎ倒す天下無双の戦士。
老いも若きも男も女も、誰もが崇めた獅子王アルカイオスとはオレの事だ!」
( ФωФ) 「……馬鹿なのかこやつは」
383
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:10:51 ID:GoNX5bS20
('A`) 「どうやらそうらしい」
彡 l v lミ 「がはは! 弱者の問いに答えるのは強者の務めだ」
('A`) 「なら教えてくれ。お前は何故オルフェウスに協力している」
彡 l v lミ 「勝者に敗者が従うのは当然だろう?」
( ФωФ) 「原初の英雄と言っておったが、
つまり貴様も世界を救うために戦ったと、そういうことか」
彡 l v lミ 「ああそうだ。オレ一人で終焉の獣の首をへし折ってやった」
('A`) 「あれを一人で……つまりお前は、滅びる前の世界で戦った英雄だってことか」
彡 l v lミ 「オレたちはみんなそうだ。
世界の秘密に気づいて戦いを挑み、そしてオルフェウスに敗れたのだ」
( ФωФ) 「たち、ということは他にも貴様ほどの実力者がいるわけか」
彡 l v lミ 「残念だが、オレ並ぶ強者はいない。
終焉をたった一人で乗り越えたのは後にも先にも俺だけだ」
384
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:11:47 ID:GoNX5bS20
( ФωФ) 「そんな貴様ですら負けたというのか」
彡 l v lミ 「奴の最初の一撃をオレは避けずに受けたのだ。
そして気づいたら身動きが取れず、オレはオルフェウスに取り込まれた」
('A`) 「本物の馬鹿か」
彡 l v lミ 「オレはこの場所に閉じ込められ、敗北を悟った。
故に、ここに送り込まれてくる英雄達を屠ることでオレに与えられた役割を果たしている」
( ФωФ) 「貴様ほどの力があれば、この空間を破ることもできたのではないか」
彡 l v lミ 「いや、無理だ。この空間はオレの命そのもの。オレ自身にはどうすることもできない。
外からならばなんとかなるかもしれんがな」
('A`) 「成程……」
彡 l v lミ 「聞きたいことは充分聞いただろう。そろそろ続きといこうじゃないか」
構えなおすアルカイオス。
その肉体には多くの打撲と裂傷で無事なところを探す方が難しい。
それでも疲労の色は見えず、体力の底は想像できない。
385
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:12:10 ID:GoNX5bS20
( ФωФ) 「ドクオ、少し時間を稼げ。俺が何とかしてみせる」
('A`) 「無茶言ってくれる」
ロマネスクは、再度眼を閉じて体内の精霊に呼び掛ける。
隙だらけの状態になった精霊術師を背に庇い、魔術師は最も苦手とする敵の前に立つ。
最高威力の攻撃魔術は殆ど通じず、防御魔術は一撃すら耐えられない。
相性でいえば最悪。彼我の実力差は歴然としていた。
それでも心折れることなく、過去最悪の敵に対して己の胸を張る。
('A`) 「シャドウリフレクト」
彡 l v lミ 「弱き者よ、その全力でもって抗え!」
水平薙ぎは魔術を行使した瞬間のドクオの側頭部を打ち抜いた。
真っ赤な血液を散らし、ぶつかった衝撃で闘技場の壁を崩壊させる。
彡 l v lミ 「他愛もない。次はお前……」
('A`) 「待てよ」
上着は派手に避け、もはやボロ布と変わらないような状態でありながら、
その身体は全くの無傷であった。
386
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:12:37 ID:GoNX5bS20
彡 l v lミ 「驚いたな。確かに頭を吹き飛ばしはずだ」
('A`) 「あらゆる物理攻撃の影響を受けない魔術だ。
お前の拳がどれだけ重たかろうと関係ない」
彡 l v lミ 「ならば試してみるか?」
凶悪な笑みを浮かべたアルカイオス。
その表情に全身を震わせるほどの恐怖を感じ、額から零れる汗を拭ったドクオ。
コンマ以下の僅かな時間で、視界から大男が消えた。
直後、爆発と振動が闘技場内で反響する。
肉片すら残らないの程激しい一撃は、しかし何ら影響を与えることは無かった。
魔術で衣服すらも再生し、現れた時と同様の姿に戻ったドクオは告げる。
('A`) 「無駄だ」
彡 l v lミ 「がははは! 面白い! 面白いぞ! ここまで壊れなかったのはお前が初めてだ!」
彡 l v lミ 「ようやく本気が出せる」
.
387
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:14:22 ID:GoNX5bS20
背筋が凍るほど冷たい視線。仁王立ちする大男に先程までの陽気さは欠片もない。
闘技場内の気温が一気に氷点下にまで下がったのでは錯覚するほどの恐怖。
ドクオは杖を握り直そうと腕に力をいれ、自身が震えていることに気付いた。
彡 l v lミ 「簡単に壊れてくれるなよ?」
アルカイオスは右腕を引き、腰を落とす。
それが殴るための動作であることは、
近接戦闘を行わないドクオですら即座に理解するほどに単純な事前動作。
次にどうするかは考えるまでも無かった。
('A`) 「ディメンション・フォールト」
目の前に空間を歪める防御魔術を何重にも展開し、
さらに魔力を練り込み、物理的な威力を減衰させることのできる盾を呼び起こす。
衝撃を分解し、対消滅させるその大盾の名はアナイアレイション。
空に描かれた魔法陣の数は十二。
('A`) 「これが……俺の全力だッ!」
388
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:14:51 ID:GoNX5bS20
あらゆる防衛魔術と防御魔術を展開し、正面で構えるアルカイオスを待ち受ける。
大男はドクオの魔術を妨害しようともせずに、十秒以上かけた深い呼吸を繰り返していた。
一度吸って吐けば拳は破砕の加護を得た。
二呼吸目に拳は貫通の加護を得た。
三つと四つで増速と浸透の加護を得た。
五度目で反魔術の加護を得た。
六度目の呼吸で閉じた目を開き、拳に信念を乗せた。
目の前に立つ過去最高の敵に対して、内心で称賛を送る。
そうしてアルカイオスはようやく歩を進めた。初めはゆっくりと、数秒間もかけて一歩目を踏み出す。
二歩目はそれよりも少し早く、三歩目はさらに早く。
進むごとに加速し、僅か五歩で音の壁を越え、溜め込んだ全ての力をドクオに向けて叩き付けた。
弾けた魔力片が雪のように闘技場に降り注ぐ。
立ち昇る煙は収まる気配を見せず、爆心地では舞い上がった瓦礫と砂埃が渦巻いていた。
彡 l v lミ 「っふー……」
アルカイオスの右手は消し炭のように黒く焦げ付いていた。
痛むそぶりも見せずに、大きく息を吐く。
389
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:15:35 ID:GoNX5bS20
彼の後ろには大きく抉れた地面がだけ残り、
突き出した拳の先にあったはずの観客席は、崩壊して跡形も無い。
大男は待つ。自身の引き起こした結果を知るために。何も言わずに。
土煙は風に流されて次第に薄まってゆく。
全てが消滅したかに思えた直線状にその男はいた。
穴の開いたままふさがらない腹部から大量の血をばら撒きながら。
( A ) 「はっ……げほっ……ぁ……」
彡 l v lミ 「見事!」
崩れていく右腕を気にもせず、アルカイオスは腕を組み称賛を告げる。
膝をついた息をすることに必死でドクオはそれに応えることすらできない。
彡 l v lミ 「よくぞ耐えた。弱き魔術師!」
('A`) 「くそっ……なんで……」
彡 l v lミ 「因果を打ち砕く拳は、物理を超えた物理。存在しないものですら殴って壊すことができる。
魔術の防壁など大した障害ではない。と思っていたが、存外やるではないか。
がはっ! はははっ! これで右腕は完全に使い物にならない。次は何をしてくれる?」
390
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:16:09 ID:GoNX5bS20
('A`) 「ははっ……もう……ネタ切れだ……」
彡 l v lミ 「そうか、残念だ。その怪我だ、さぞ痛かろう。今楽にしてやる」
('A`) 「……遅ぇよ」
彡;l v lミ 「なっ……ぐぅっ……」
蹲るドクオの正面に立つアルカイオスは、突然弾き飛ばされて観客席に突っ込んだ。
完全に崩れてなくなった右腕を気にもせず、瓦礫から這い出てきた。
自らの巨体を吹き飛ばすほどの力を持つ敵に、その目は狂気の喜びで染まる。
彡 l v lミ 「っがはははは! 精霊樹よ! 貴様! その姿はどういう事だ!」
( ФωФ) 「ドクオ、再生に集中しろ。まだ助かるだろう。
クールとキュートを置いて逝くわけにもいかまい」
('A`) 「余計なお世話だ。約束は果たした。今度はお前の番だ、ロマネスク」
( ФωФ) 「言われるまでも無い」
千年を超えて生きてきた老人ではなく、口調に似合わない幼子の姿がそこにはあった。
両手は手甲のような樹木で覆われ、背中には翼と見紛う黒き枝。
額には人外であることを主張する角が一つ。
391
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:16:32 ID:GoNX5bS20
彡 l v lミ 「オレを吹き飛ばしたことは評価しよう。だが、所詮その程度だ。
貴様ではオレの身体に傷をつけることは出来ない!」
( ФωФ) 「本当にめでたい奴だ。この姿の意味が理解できておらんのか」
彡 l v lミ 「ごはっ……」
アルカイオスすら反応できな速度で、その鍛え抜かれた腹に深々と拳が突き刺さっていた。
掌から飛び出した光が弾け、巨体を浮かせる。
合わせて飛び上がったロマネスクの後ろ蹴りで、アルカイオスはよろめく。
( ФωФ) 「気づいていないわけがないだろう?」
彡 l v lミ 「精霊が……!?」
ロマネスクの呼びかけに応える淡い光が闘技場の中に集まってくる。
精霊たちは彼の全身に纏い、その意思に従う。
( ФωФ) 「ドクオが稼いだ時間でこの空間の支配は終わった。
この場所にいる全ての精霊は俺の命令に従う」
彡 l v lミ 「不可能だ。この闘技場はオレの命そのもの。この世界の支配権はオレにある!」
( ФωФ) 「そうだな。相当手間取った。見ろこの姿。半精霊化までしてようやくだ」
392
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:16:58 ID:GoNX5bS20
彡 l v lミ 「精霊化だと……?」
( ФωФ) 「貴様の生きていた時代には存在していなかったのかもしれないな。
精霊術を使いすぎた術師の末路だ。
数千倍の精霊を従わせることができるが、
時間とともに意識は薄れ一精霊と化す」
彡 l v lミ 「面白い! その力、試させてもらう!」
残った左腕を振り抜いたアルカイオス。
客席を迸った衝撃波をロマネスクは腕の一振りで四散させる。
( ФωФ) 「吹き飛べッ!」
彼の言葉に呼応し、精霊たちが持てる力を注ぐ。
そうして出来上がった強力な風の渦は、アルカイオスの全身に容赦なく叩き付ける。
彡 l v lミ 「ぐぬぅ……」
( ФωФ) 「うおおおおおおっ!!」
風に乗って加速したロマネスクの一撃。
それに対して、小細工を弄することなく正面から受ける。
絶対的な自信。それこそがアルカイオスの強さの源泉。
393
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:17:22 ID:GoNX5bS20
彡 l v lミ 「がははっ!」
( ФωФ) 「ぐぅううぬ……」
満身創痍に見えるアルカイオスの全身を覆う、溢れんばかりの荒々しい闘気。
精霊術の力を借りているとはいえ、小柄な姿になったロマネスクは押され始めた。
彡 l v lミ 「いいぞ……いいぞ弱き者! もっと……もっと抗え!」
( ФωФ) 「戦闘狂が……だが、力比べをしたいわけじゃない」
アルカイオスの拳をいなし、隙だらけの右脇腹を蹴り飛ばす。
バランスを崩した巨体の頭部を挟み込むように両腕を叩き付けた。
彡 l v lミ 「ふはっ……」
( ФωФ) 「震えろ!」
精霊化したロマネスクにとって、もはや精霊を扱うことは息をすることよりも容易い。
言葉すらも必要なく、彼が求める以上の精霊たちが集結し、その力を存分に発揮する。
高密度の大気はアルカイオスの脳を揺らせるように幾度も弾けた。
394
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:17:54 ID:GoNX5bS20
膝をついた大男にも手を緩めない。
その力を目の前で見せつけられた精霊樹に一切の油断は無かった。
彡 l v lミ 「ぐうううぅうう!」
片腕では防ぎきれない圧倒的な物量の攻撃。
( ФωФ) 「いい加減に倒れろ!」
掲げた右腕はその大きさを何倍にも増す。
握り拳は大地を砕く威力の鉄槌を下した。
僅かにその姿を保っていた観客席は、その一撃が引き起こした振動で完全に崩壊した。
いつの間にか声は聞こえなくなっており、自身の荒い息だけが耳に届く。
(; ФωФ) 「はっ……はぁっ……これで……どうだ」
動くものの姿は無く、目の前には仰向けに倒れた大男。
戦闘の最中に背中を地面につけられたことは、未だかつて経験したことが無かった。
それ故にアルカイオスは笑う。
ただ純粋な喜びでもって、声をあげて笑った。
彡 l v lミ 「訂正しよう」
395
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:18:21 ID:GoNX5bS20
寝転がったままのアルカイオスは、目の前に立つ精霊の化身に話しかける。
( ФωФ) 「何をだ」
彡 l v lミ 「貴様らを弱者だと決めつけたことだ。戦いに際し一度も膝をつくことすらなかったオレを、
仰向けに打ち倒すとはな。弱者ではなし得ない。
一つ、オレからも聞いていいか」
( ФωФ) 「答えよう」
彡 l v lミ 「お前達にも仲間がいただろう。龍と不死、魔術師と剣士の女。
あいつらも強いのか」
( ФωФ) 「俺たちと同じくらいには、強い。
だからこそ終焉のシステムそのものを終わらせられると信じてきた」
彡 l v lミ 「成程。その傲慢、面白い。行け、この滅びを定められた世界を止めてみせろ。
この場所に閉じ込められてどれだけの時間が経ったか。
お前達のおかげで少しだけ、オレというものを思い出した。
獅子王アルカイオスは、こんなつまらない場所で朽ち果てる男ではないということを」
( ФωФ) 「なっ……!?」
ゆっくりと起き上がった巨体。
静かな怒りを発しながら、残った左手を強く握り込む。
構えたロマネスクを気にも留めず、闘技場の中心に堂々と立つ。
396
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:19:00 ID:GoNX5bS20
彡 l v lミ 「奪われたことすら気づかないとは、なんと愚かなことか。
錆びた刃に価値などないというのに……。
今を生きる英雄達よ。せめてもの詫びに、道を開こう」
( ФωФ) 「何をするつもりだ……」
彡 l v lミ 「この世界を壊し、お前たちをオルフェウスの元へと戻してやる」
('A`) 「待てよ」
彡 l v lミ 「魔術師……。傷はもういいのか」
('A`) 「風穴開けられたときは死んだかと思ったがな。
この世界を壊せばお前は死ぬんじゃないのか」
彡 l v lミ 「怠惰という泥に塗れた命で、オルフェウスに一矢報いることができるのなら本望だ」
('A`) 「獅子王アルカイオス。お前は俺が戦った中でも最も誇り高く、最も強かった。
そんな男が自殺で幕を閉じるなんてつまらないことをするつもりか」
彡 l v lミ 「それしか今のオレには出来ない」
('A`) 「ロマネスクが戦っている間、俺はこの空間を完全に把握した。
世界最高の魔術師、ドクオ・ルグがお前に戦いという死に場所を与えてやる」
397
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:19:29 ID:GoNX5bS20
彡 l v lミ 「なに……?」
('A`) 「オルフェウスに取り込まれたすべての英雄世界をこの世界に引き込む。
この世界に風穴を開け、俺たちは奴の元へと向かう。
だが、ここに残らざるを得ないお前には数多の英雄が押し寄せて来るだろう。
あらゆる時代のあらゆる力を備えた英雄たちが。
おまえの意を察し味方になる者もいるかもしれないが、
多くはオルフェウスの意思に従うだろう。つまり、敵としておまえを屠るために来るはずだ」
彡 l v lミ 「ほう……オレを防波堤とするか! いいだろう! その提案にのらせてもらう」
('A`) 「カオスオーダー」
ドクオの杖から世界を歪める魔術が噴き出した。
それらは黒き奔流となり、闘技場の空に大穴を開けていく。
強制的に接続された無数の世界はゆっくりと崩壊を始めた。
その中で最大の綻びに向け、ドクオはさらにいくつかの魔術を放つ。
('A`) 「ロマネスク、奴の元まで道筋をつけた。
すぐに異常に気付いたオルフェウスによって、この世界には英雄が現れる。時間がないぞ」
( ФωФ) 「……わかっている。アルカイオス!
死ぬなよ」
398
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:20:01 ID:GoNX5bS20
裂け目から飛び降りてきた槍を持つ騎士。それを追ってか二人の女性が闘技場に姿を現した。
('A`) 「なっ!? クール! キュート!」
o川*゚ー゚)o 「パパっ!」
駆け寄ろうとした少女を狙った騎士の槍。
無言で飛びかかった騎士と少女の間に割って入り、頭を一撃で叩き潰した闘技場の主。
腕を振って血の汚れを払いながら屈託のない笑顔を見せた。
o川*゚ー゚)o 「あ、ありがとうございます」
彡 l v lミ 「なに、大したことではない」
川 ゚ -゚) 「あの騎士を一撃だと……」
('A`) 「本物の化け物だ。オルフェウスにも劣らないほどのな。
それよりお前、どうしてそんなに魔力が増えてるんだ?」
川 ゚ -゚) 「さっきまで戦っていたやつの魔力を頂戴した。
そんなことより、どんどん敵が出て来るぞ」
崩壊しかかった闘技場の世界の末端部分には、あらゆる空間が連続して存在していた。
その一つ一つから、英雄クラスの実力を持つ敵が次々と現れる
彡 l v lミ 「はやく行ってこい、英雄たち。間違った世界を終わらせろ!」
('A`) 「言われなくても、そうしてやるさ」
魔術師と精霊は、歪みに飛び込んだ。
その後を少女と天剣使いが追いかける。
温かい言葉に背を押され、傷ついた身体に強い意思をもって。
世界を終わらせるために。
399
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:21:15 ID:GoNX5bS20
>
( <●><●>) 「よもや英雄の檻が破られようとは……それも、全員に」
(;'A`) 「っ! くそがっ!」
虚ろの空間に一人立っていたオルフェウス。
その足元には、二つの塊が転がっていた。
( <●><●>) 「だが残念だったな。遅すぎた」
( ФωФ) 「退け」
ロマネスクの言葉から放たれる精霊術を避け、倒れた二人の傍を離れた。
余裕すら見せながら、地べたに座り込む。
川 ゚ -゚) 「モララー! オサム!」
( ・∀・) 「ぐっ……」
o川*゚ー゚)o 「よかった、まだ生きてる」
川 ゚ -゚) 「リフドロップ!」
400
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:21:42 ID:GoNX5bS20
光の滴が倒れて呻く龍王と呪術師の身体に染み込んでいく。
魔力による再生が行われ、表面的な傷は一瞬で消えた。
( ・∀・) 「なんで……僕を庇ったり……したんだ」
龍王の傍に横たわる呪術師は動かない。
鼓動は感じられず、肉体は冷え切っていた。
('A`) 「てめぇ……」
( <●><●>) 「いくら英雄の檻を破ったところで、所詮あれらは私に及ばなかった連中だ。
その程度で私に勝てるなどという幻想は捨てることだ」
( ФωФ) 「その認識を改めさせてやろう」
拳を握り締めて飛びかかったロマネスク。
その右腕を包み込むように精霊が集う。
( <●><●>) 「よく見ればその姿……」
( ФωФ) 「穿て!」
401
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:22:16 ID:GoNX5bS20
地面を叩き精霊術を流し込むことで、大地の精霊をたき付ける。
ロマネスクに呼びかけに応え、地面そのものがうねりをあげてオルフェウスに襲い掛かった。
その身体を貫こうと生える棘を紙一重で躱しながら、
純術師はロマネスクと同様に精霊術を地面に放つ。
( <●><●>) 「これで、相殺だ」
たったそれだけの行為で大地は嘘のような静寂を取り戻す。
( ФωФ) 「厄介な」
('A`) 「状況は悪いな。過去の英雄達がいつまた出て来るかもわからない」
川 ゚ -゚) 「なるべく早くこの化け物を打ち倒さないといけないわけか」
( <●><●>) 「諦めの悪い。抗ったところで結果は同じだというのに」
オルフェウスの周囲に強力な反応が三つ現れた。
402
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:22:54 ID:GoNX5bS20
一つは魔術。
注ぎ込まれる魔力量は圧倒的で、その術式も精緻なもの。
威力は想像に難くない。
一つは呪術。
背筋が凍るほどの悪意を詰め込んだ回避不可能な範囲攻撃。
黒泥からは怨嗟の声が届く。
一つは精霊術。
大精霊を従える上位存在である精霊神の一撃。
そのあまりの眩しさに、心が折れそうになる。
( ФωФ) 「精霊術は俺が防ごう」
川 ゚ -゚) 「ロマネスク……その姿は」
身体の一部が淡い光で覆われている古老は、笑いながらこたえた。
精霊化しつつある事実と、残された時間を。
o川*゚ー゚)o 「そんな……」
( ФωФ) 「なに、俺が精霊になれば奴に使役されるだけだ。
その前にこの命、散らせるとしよう」
403
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:23:32 ID:GoNX5bS20
( ・∀・) 「邪魔にならない様に死ぬだと?
ふざけるな。命を懸けるんだったら、それなりの結果を求めろよ」
( ФωФ) 「ふん、若輩者に説教をされるとは、やきが回ったか」
o川*゚ー゚)o 「呪術は任せて」
( ・∀・) 「僕も協力しよう」
川 ゚ -゚) 「魔術は私が止める。だからドクオ、決めてこい」
ドクオを護る様に、四人が前に出る。
その後ろで、オルフェウスを殺すための魔術を組む。
('A`) 「娘の前で、かっこ悪い姿は見せられねぇよな」
対決戦用の最終魔術。世界の根幹から揺るがしかねない至高の術式。
発生までに必要な時間は、頼れる仲間たちが稼いでくれる。
だからドクオは、目の前に迫った脅威から完全に意識を外した。
( <●><●>) 「今更、何をしようと無駄だ。矮小なる生き物たちよ。
星の破壊すら容易い一撃のもとに消え去るがいい! 」
404
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:23:58 ID:GoNX5bS20
一際大きな力を発し、三つの力が爆ぜた。
( <●><●>) 「終焉の純術、羽虫を蹂躙しろ」
人智を超えた世界規模の破壊を引き起こす三術は、抗う者達に放たれた。
もはや猶予などなく、英雄達は自身の持つ最大の力をぶつける。
( ФωФ) 「集え、数多の精霊たちよ。我が意に応えて力を示せ。
我が名に従う全ての精霊よ。
その加護によって、悪しきを阻め」
自らの身体のほとんどが精霊と化したロマネスク。
枯れた節々を持つ大樹の枝の様な指先に、無数の精霊たちが従う。
精霊神の光にも勝るとも劣らない光撃が、両者の中間地点でぶつかった。
o川*゚ー゚)o 「止めます」
オルフェウスの足元に倒れたまま動かない死術師。
その力の一端を、少女は引き継いでいる。
未来において得た力を。
o川*゚ー゚)o 「オサムさん……力をお借りします!」
呪術とは本来不可避なものである。
誰にも知られることなく、命を奪う術。
強力ゆえに多くの制約があり、決して簡単に扱うことは出来ない。
405
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:24:31 ID:GoNX5bS20
だが目の前の敵オルフェウスは、その制約をすべて無視した呪術を用いた。
防御の為に必要なのは、呪術に実態を与えること。
o川*゚ー゚)o 「呪掴!」
降り注ぐ黒い靄に対して、キュートの唱えた呪術が確かな存在を与える。
( ・∀・) 「龍神の咆哮」
実体を与えられた呪術攻撃に真っ向から立ち向かったのは龍王の砲撃。
オルフェウスの英雄の檻を砕いた一撃は、しかし呪術と拮抗する。
川 ゚ -゚) 「規格外の魔術だな」
魔術の威力は、その術式によって決まると言っても過言ではない。
では、完成された術式に、大量の魔力を注ぎ込めばどうなるか。
結果は迫ってくる一撃が示している。
川 ゚ -゚) 「魔力で届かないのなら、死力を尽くそう」
天剣の持つ特性を頭の中に思い浮かべる。
彼我に差がありすぎるために、攻撃魔術で相殺することは不可能。
ならば、単なる防御魔術で対抗できるかと言われればその答えは否。
406
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:25:06 ID:GoNX5bS20
クールは、天剣九つを正面に向ける。
剣先は等間隔で大きく開いて、正面からは花弁のように見えた。
川 ゚ -゚) 「リバーサル」
剣先から編み出された術式は蜘蛛の糸のように張り巡らされ、
やがて一つの大きな反射術式を作り出した。
防ぐには、高すぎる破壊力が、
撃ち合うには、大きすぎる魔力が
弾くには、強すぎる支配力が邪魔をする。
ならばとクールがとった手段は、魔力の拡散。
魔力砲の中心を正確に察知し、置き石代わりの反射魔術を置くことで砲撃を歪め、後方へと逃がす。
たったそれだけの単純なことであった。
川;゚ -゚) 「ドクオ……! 長くは……もたないぞ!」
返答はない。
ドクオは深く、深く、ともすれば自らを見失いかねない程、意識を集中させていた。
魔術師として、彼が世界を背負うに足ると判断した最高難易度の魔術。
ロマネスクが敵の攻撃の一切を漏らすまいと歯を食いしばる。
両腕から肩に、精霊痕が拡がっていく。
407
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:25:34 ID:GoNX5bS20
モララーとキュートが一欠片の呪いも零すまいと踏ん張る。
じわりじわりと、黒き呪いは英雄達の場所に覆いかぶさるように近づいていく。
クールが限界以上に魔力を行使し、両目から血を流しながら吼えた。
光の柱は、自身を分けている魔術を食い破ろうと暴れる。
('A`) 「……墜神魔術」
ドクオの頭上には、無数の魔術式が浮かび上がっては消えていく。
組み上げられていく魔術は、触れれば壊れてしまいそうなほど脆く見えた。
掲げた両腕で、一欠片も乱れがないように魔力をコントロールする。
コインを縦に積み上げるよりもなお精密な作業を要求されるそれは、
少ない魔力でどうやって火力を稼ぐか、という問いに対してドクオが見つけた一つの答え。
長年の研究を経てなんとか完成にこぎつけた魔術。
それは、一つの魔術を構成するために、他の魔術を用いてする多重化の技術。
ドクオであっても、発動までに数十秒もの隙が生まれる諸刃の剣。
だが、その威力は桁違いである。
('A`) 「墜ちろ! オルフェウス!」
408
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:26:17 ID:GoNX5bS20
魔術式が収束し、一つの形を成した。
細身の紡錘形である魔術は、吸い込まれるかのような暗闇の色。
空間を削り取ってしまったかのようにそこにあった。
ドクオが振り下ろしたと同時に、その場から一切の音なく消えた。
とびそうになっていたクールの意識は、大気の乱れによって叩き戻された。
モララーは、仲間がいるはずの背後からくる圧力に全身を震わせた。
必死にこらえていたロマネスクが、背後で強大な力が現れて消えたのを知覚した。
目の前に迫り来る破壊の一撃よりも恐ろしいものに、キュートの背筋が凍る。
('A`) 「エクス・スピンドル」
英雄達が最初に見たものは、飛び散る黒い光。
虚ろの空間そのものを揺るがしながら、一つ一つが大魔術クラスの片鱗が流星群のように降り注ぐ。
409
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:27:13 ID:GoNX5bS20
ついで、耳を塞がなければ耐えられないほどの轟音。
堅い壁にぶつかったかのような衝撃で、キュートはしりもちをついていた。
巨大な龍の身体を持つモララーが庇っていなければ、はるか後方に飛ばされていたであろう。。
クールは魔術で、ロマネスクは精霊術で身体と意識をなんとか引き留める。
( <●><●>) 「ア……が……が……」
大部分の質量を失ったオルフェウスは、再生するでもなくその場に立ち尽くす。
その背後、広大な空間である虚ろの空に、巨大な穴が開いていた。
そこから零れて来る泥は、ゆっくりと世界を灰色に染めていく。
('A`) 「はぁっ……はぁっ……」
o川*゚ー゚)o 「今のは……私知らない……パパ、何をしたの?」
('A`) 「魔術の多重構造化だ。魔力と誤認させた魔術を用いて、更なる魔術を発動させる。
隙は大きいが威力は倍増する」
( ФωФ) 「これで終わってくれればよいのだが……そうはいかんだろうな」
溶けだし崩壊したオルフェウスの肉体。
その煙の影から、人間が現れた。
神々しい金の刺繍が為された白色のローブを被り、光り輝く装飾で全身を飾っている男。
瞳は暗く、顔や手などのむき出しにされた皮膚には、無数の文様が見えた。
410
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:27:51 ID:GoNX5bS20
数多の精霊が傅き、彼の傍に控えている。
溢れ出る魔力は虚ろの中を満たして、息苦しくなるほど。
( <●><●>) 「流石に……驚かされたぞ」
( ・∀・) 「集え七星、デュプリケイト」
自身と同等の戦力を持つ龍王の影が七つ。
即座に反応して飛びかかった。
( <●><●>) 「はやるな、小龍」
(; ・∀・) 「なっ……」
ただの一撃で、七体が霧散した。
魔術によるものであることしか、モララーには認識できなかった。
(;'A`) 「嘘……だろ……」
魔術師であるドクオは、龍王の影を撃破した攻撃の詳細を理解していた。
堕神魔術として自身が組み上げたと思っていた魔術の多重構造化。
それをより効率的に用い、ほとんどタイムラグを必要としない一撃だったということに。
411
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:29:06 ID:GoNX5bS20
( <●><●>) 「おまえたちは実によく戦った。
空想体である私の姿を打ち破ったのは、未だ誰も無しえなかった快挙だ。
故に、最大限の賛辞を贈ろう」
川 ゚ -゚) 「その余裕、気にくわないな」
( <●><●>) 「気に障ったのならすまないな。
この姿で他者と接するのはこの座に来てから初めてこのことだからな。
何か褒美でもやりたいところだが……」
('A`) 「終焉のシステムそのものをなくしてくれるとありがたいんだがな」
( <●><●>) 「それはできない。
おまえたちがどう抵抗したところで、この世界の根本的な仕組みは覆せない。
この座の主である私以外には」
('A`) 「だったら、お前を倒してその座を奪い取ればいいという事か」
( <●><●>) 「夢を持つのは自由だが、現実をもう少し見据えるがいい。
お前たち全員でようやく私の空想体を倒した程度の実力で、
どうやって私に抗うつもりだ」
川 ゚ -゚) 「やってみなければ……わからんだろう」
412
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:29:51 ID:GoNX5bS20
( <●><●>) 「やれやれ……お前たちが望むのなら、英雄の檻に迎え入れてやろうとも思ったが」
( ・∀・) 「あんな飼い犬のような状態、こちらからお断りだ」
( ФωФ) 「俺たちの世界が消えてしまったその後に、自分たちだけ生き残ったところでなんとなる」
( <●><●>) 「では、世界諸共消滅してもらうしかあるまいな」
('A`) 「行くぞ……! ミリオンサンズ」
太陽を模した赤く輝く小さな光の魔術。
オルフェウスの周囲を完全に包囲した。
o川*゚ー゚)o 「ブローティング!」
ドクオの魔術に重ね掛けをすることで、疑似的な多重構造化を引き起こすキュート。
熱球は肥大化し、更なる熱量を放出する。
( <●><●>) 「フーリズ」
ただ一言で、周囲の魔術を凍結させたオルフェウス。
その首元を狙った斬撃はしかし、直前で砕かれた。
413
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:30:21 ID:GoNX5bS20
川 ゚ -゚) 「っちぃ!ホライゾン!」
八つの斬撃が同時にオルフェウスを襲う。
空間そのものを断絶するかのような鋭い刃を、次々と砕いていく。
( ФωФ) 「この身、精霊になろうとも」
既に半身が精霊と化したロマネスクが、その全力をもって突っ込む。
散らばった刃の破片の吹雪を真っ直ぐに抜け、精霊術を纏う。
( ФωФ) 「叩き伏せろ!」
巨大化させた右腕を振り下ろした。
質量、速度共に最大の一撃は、右腕一本で阻まれた。
( <●><●>) 「ロマネスク、精霊となって私にしたがえ」
( ФωФ) 「ぐうっ……」
オルフェウスの言葉の力で、じわりじわりと精霊化が促進していく。
完全精霊化の危機を救ったのは、龍王の一撃。
ロマネスクの腕の影から、音速の突進。
魔力を纏っていなかった一撃は、オルフェウスには感知できないはずであった。
414
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:30:46 ID:GoNX5bS20
( ∀・) 「がはっ……」
迎撃は、呪術による呪いの棘。
地面から突如現れたそれらは、モララーの全身を貫いた。
攻撃を受けた瞬間に、龍化をやめ拘束を解く。
棘の合間を縫ってさらに距離を詰め、至近で再度龍化。
( ・∀・) 「くらえ……っ!」
ほぼゼロ距離から龍技を叩き込んだ。
一瞬の隙に距離をとったロマネスク。
モララーもまた、それを確認して一度距離をとる
( <●><●>) 「連携も優秀だ。消すのがもったいないと思うほどにはな」
('A`) 「言ってろ……!」
o川*゚ー゚)o 「行くよ! パパ!」
('A`) 「ソウルチェイン」
o川*゚ー゚)o 「グランドロック」
二つの捕縛魔術が、同時に発現した。
一本の鎖がオルフェウスの身体に巻き付き、その両手脚を隆起した大地が抑え込んだ。
415
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:32:12 ID:GoNX5bS20
( <●><●>) 「エンプティネス……。鳴れ、黒呪雷・千条」
二人がかりの魔術を身動き一つせずに消滅させ、
同心円状に雷の呪術を放つ。
黒き雷は、全てを穿ちながら虚ろを奔った。
川 ゚ -゚) 「っ……」
( ФωФ) 「すまぬが、ここまでだ」
( ・∀・) 「ロマネスク!」
英雄達を襲った呪術をその身で防いだロマネスクは、身体の半分以上が吹き飛ばされていた。
精霊化しているがゆえに即死を免れたにすぎず、
もはやその命に幾許の猶予もなかった。
( ФωФ) 「聞け! わが身に宿りし精霊よ! 今こそ……この魂を委ねよう。
二千を越えた歳月の全てを捧げる。 神を殺す刃となれ!」
叫び、抑えていた精霊化の力を解放させた、
精霊と一体になったロマネスクの傷は、完全に癒えていた。
身体に似合わない程大きな左拳をオルフェウスに向けて飛び込んだ。
416
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:33:21 ID:GoNX5bS20
( <●><●>) 「跪け」
( ФωФ) 「その程度……!!!」
精霊使いの言葉は、精霊たちにとっては神にも等しい。
逆らうことは容易ではない。言葉に従おうとする身体と、異なる意志。
相反する二つの力を受けて、ロマネスクの背中が捩れていく。
( <●><●>) 「我が言葉に従え」
(#ФωФ) 「ぬっぅうううおおおお!」
( <●><●>) 「膝を屈して拳を降ろせ」
(#ФωФ) 「ぐぅうう……!」
オルフェウスの一言一言が、ロマネスクの肉体を締め付ける。
抗おうとすればするほど、精霊化した肉体の一部が千切れるように消え去っていく。
( <●><●>) 「命ずる……っ!」
( ・∀・) 「道をつけるぞ! 響け! 龍鐘!」
猛々しい鳴き声が与えるのは、身体能力向上の加護。
限界を超えて戦うための龍技は、傷を癒し、痛覚を奪い、疲労を軽減する。
龍王の祝福がロマネスクの全身を包み込む。
417
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:33:42 ID:GoNX5bS20
( <●><●>) 「ちぃっ! 黒呪壁・無頼。マキシフォールト」
もはや精霊術では止められないと知ったオルフェウスは、
異なる二つの壁を即座に創り出した。
呪術と魔術による二重防護障壁。
川 ゚ -゚) 「ペネトライト」
ナインツヘイブンの保有する魔術の中で最速の一撃。
光の刺突は、クールから供給される魔力でもって一直線に空間を貫く。
('A`) 「ブラストレイ」
o川*゚ー゚)o 「スパイラルレイ」
大魔術師である二人が唱えたのは光魔術。
丁寧かつ大胆に放たれた魔術は、天剣の魔術と合わさり一つになった。
一段と大きな光の槍となったペネトライト。
多重構造化した魔術光は、真正面からオルフェウスの魔術にぶつかった。
( <●><●>) 「なっ……に……!」
世界すらも分断してしまうほどの大盾は、英雄達を阻むには足りなかった。
ぶつかり合った力は一瞬だけ拮抗し、両者ともに真っ二つに裂けた。
膨張し、今にも爆発臨界点にあった魔術の塊に突っ込んだ影が一つ。
418
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:34:15 ID:GoNX5bS20
( <●><●>) 「恐ろしい執念だな……」
荒れ狂う魔力の奔流を抜け、精霊と化したロマネスクはオルフェウスの前に飛び出た。
(#ФωФ) 「ぐっ……っらあああ!」
( <●><●>) 「っ!!」
巨大な拳の一撃は、ただの殴打ではない。
ありったけの精霊に命じた術は、周囲の大気を焦がすほどの超高熱。
真っ赤に燃えた拳が、オルフェウスを捉えた。
( <●><●>) 「っは……はっ……」
膝から崩れ落ちた老樹ロマネスク。
その身体はゆっくりと光になって虚ろに溶けだしていく。
( ・∀・) 「ロマネスク!?」
( ФωФ) 「言っただろう。この力が精霊となったせいで、俺らの道を閉ざすわけにはいかない。
どうやらここまでだが……」
419
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:34:36 ID:GoNX5bS20
('A`) 「後は任せろ」
強大な一撃で吹き飛ばされていながら、何事もなかったのように起き上がるオルフェウス。
暗闇の中から歩いて現れたその細身の身体には、傷一つない。
川 ゚ -゚) 「無傷……か……」
( <●><●>) 「直撃の瞬間に精霊術で相殺したに過ぎない。
さて、これで残り四人だ。未だ抵抗するかな?」
o川;゚ー゚)o 「っ……勝てない……こんなの……」
残っているのは、魔力を糧に戦ってきた英雄達。
戦闘を経て消費された魔力は膨大で、限界も近い。
一方で、目の前に立つ純術師の魔力は一向に減る気配見えない。
魔力そのものが見えているキュートにとって、これほど絶望的なことは無かった。
('A`) 「諦めるな。ここで全てを投げ出したら、俺たちはすべてを失う。
存在したという事実さえ、すべて奪われる」
( ・∀・) 「まだだ……まだ戦える!」
上空へ飛びあがったモララー。
その姿を追うかのように、魔術がいくつも空を奔る。
420
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:35:07 ID:GoNX5bS20
('A`) 「くそっ……」
自身に向けられる攻撃を必死に避けるドクオ。
もはや相殺することすら叶わず、角度をつけた魔術をぶつけて強引に角度を変える。
そうして致命傷だけを避けるのが手一杯であった。
川 ゚ -゚) 「リバーサル……! ホライゾン! エスノストゥム!」
九つの魔術しか使えないクールは、より危機的な状況にあった。
同時に発動できるとはいえ、一つ二つ重ねた程度ではオルフェウスの魔術一つ弾くことは出来ない。
持ち前の身体能力とセンスで、辛うじて攻撃を躱す。
反撃に出る余裕など全くと言っていいほどなかった。
母親譲りの大魔力と父親の才能を受け継いでいたキュートは、
その経験不足の為に手を打てないでいた。
父親の多重構造化の魔術を一見しただけで理解した彼女は、
自分なりのアレンジを加えて防御魔術を張っていく。
破壊されるたびに、さらに丈夫なものへと、魔術を少しずついじりながら。
( ・∀・) 「ぐぅぅ……!」
モララーは全速力で飛行しても、一つも置き去りにできない誘導式魔術に苦しめられていた。
当たれば自身の身が砕けてしまいそうなほどの威力がありながら、
速度も性能も、龍王の飛翔と同等である魔術。
それらを背後に抱えながら、モララーは虚ろの空を飛ぶ。
421
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:35:28 ID:GoNX5bS20
( <●><●>) 「そろそろ連携もとれなくなってきたな。もう一押しと言ったところか」
攻撃が、さらに厚みを増した。
('A`) 「ぐっ……」
最初に膝をついたのはドクオ。
自身の持つ魔力を既に限界を超えて引き出していたせいだ。
('A`) 「こうなったら……」
o川*゚ー゚)o 「パパ! 駄目えええ!!」
奥の手である魔術を解放しようとした瞬間に、魔術に弾き飛ばされた。
オルフェウスの一撃と勘違いし、死を覚悟したドクオ。
そのせいで想像よりもずっと軽い魔術を受けた、ということを理解するのに少し時間がかかった、
o川*゚ー゚)o 「絶対だめだよ、パパ」
防御魔術を配りながらドクオの隣まで来たキュート。
川 ゚ -゚) 「我が娘ながら流石。ドクオ、それだけは認めない」
オルフェウスの攻撃に正面から全力をぶつけた反動を利用して、
クールもまたドクオの傍に寄りそう。
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