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('A`)は異世界で戦うようです

1名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 20:21:36 ID:gOpuSR2Q0
鬱田ドクオとは、一言で言えば弱い人間だ。

過去を振り替えれば後悔しなかった出来事はないし、ましてや努力なんて言葉とは無縁の存在である。

テストは赤点ギリギリ、運動能力は一般人より少し劣る程度、体つきは貧相なもので米俵一俵持つのが精一杯。かといってそれらを補うための努力をしたいなぁとは思っても、けして実行することはなかった。

そんなわけだからドクオは自分という存在が嫌いだった。変わりたいと願っても、変えようとすること自体がめんどくさくなってしまう。

大学を卒業し、なんとか内定をもらった会社も周囲の環境に溶け飲むことが出来ず、やめてしまったことも自己嫌悪の一つの原因である。

よって、ドクオにとっての自分とは、あってもなくても変わらない路傍の石のような存在で、そんな自分が世界に与える影響など皆無だと信じ込んでいた。

*鼹類燭辰榛*、この瞬間までは。

19名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 20:48:55 ID:gOpuSR2Q0
从'ー'从「えっとね〜、これから避難所まで案内するから乗って乗って」

('A`)「え?」

箒に跨がり、空いたスペースをぽんぽんと叩く彼女。乗ってと言っているが、乗ってどうするのだろう。

素朴な疑問が浮かんできたが、とりあえずドクオは従うことにした。今置かれている状況を把握するためにも、情報がほしい。

从'ー'从「それじゃあしっかり捕まってて!」

その言葉と共に、ドクオの足が地面から離れていく。

('A`;)「ちょ、え、マジで? マジで?」

数秒後、二人を乗せた箒は空を飛んだ。

20名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 20:50:14 ID:gOpuSR2Q0

◇◇◇◇

从'ー'从「私は渡辺っていうんだ。あなたは?」

('A`;)「俺はドクオだ」

从^ー^从「ここで会ったのも何かの縁だし、よろしくねどっくん!」

('A`;)「お、おう」

箒に跨がり空を飛ぶという珍しい体験をしながら、ドクオは気が気じゃなかった。何せ箒の柄の部分というのは非常に細い上に円柱なので、落ちてしまうのではないかと不安になるのだ。加えて美少女の背中に密着している。今まで女性にキモいだの臭いだの散々蔑まされてきたドクオにとって、誰もが文句なしに美少女といっていい渡辺にくっついている状況は様々な妄想が掻き立てられるのだ。

('A`;)(この高さから落ちたら死んじゃう! でも渡辺ちゃん超いいにおい!)

先程まで死にはぐっていたことはすでに忘却の彼方へ追いやり、ドクオは今を精一杯生きることの喜びを堪能する。

从'ー'从「ところでどっくんはどうしてあんなところにいたの〜? あの辺はとっくに避難が完了してたはずだよ〜?」

('A`)「……」

21名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 20:51:40 ID:gOpuSR2Q0
さて、どうやって誤魔化すか。これまでの流れで自分が違う世界に来てしまったことはおぼろ気に理解している。先程の見たことのない生き物*鼹鮄亙佞亘睚*と呼んでいた*鼹類砲靴討癲△修譴鯑颪覆*撃破し、空を飛ぶ渡辺にしても、ドクオがいた世界ではあり得ないことばかりだ。

そして、それは渡辺にも当てはまるのだ。ドクオがいた世界の文明とこちらの世界の文明は当然食い違うだろう。それを伝えたところで頭がおかしいと判断されてしまえば終わってしまう。

ドクオは慎重に言葉を選びながら口を開いた。

('A`;)「実は俺、よく覚えてないんだ」

从'ー'从「ほえ?」

('A`;)「その、どうしてあそこにいたのか、今までどうしてたのか、家族や友達も分からない」

从;'ー'从「ええー!? どっくん記憶喪失なのー!?」

('A`;)「つまり、そういうことなんだ。だから、渡辺……さんが知ってる範囲でいいから俺の質問に答えてもらっていいかな?」

从'ー'从「渡辺でいいよ〜。私でよければ力になるよ〜」

どうやら誤魔化せたらしい。普通の思考回路をしていたらまず疑うべきところだと思うのだが、この渡辺という少女、少し抜けているらしい。

22名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 20:54:50 ID:Z1RVmQCU0
('A`)「えっと、まずここはどこなんだ?」

从'ー'从「ここはニューソク大陸の王都ヴィップだよ〜」

('A`)(聞いたことない地名だな)

('A`)「それで、さっきの、魔物? だったか。あれはなんだ? 王都っていうくらいだから守りは固いんじゃないの?」

从'ー'从「えっとねぇ、人間とか他の動植物が魔力によって変質した姿っていうのかなぁ。それが魔物なんだって〜」

从'ー'从「それでね、本当は王都を守る結界があるんだけど、急に消えちゃったんだ〜」

('A`)(……俺がこの世界に来た時に消えたってことなのか? だとすりゃどっかに俺を呼んだやつがいる?)

ドクオの中で様々な推測がなされるが、それは後回しにして質問を再開する。

('A`)「魔力……ってことは、今空を飛んでるのは……」

('A`)「魔法、なのか?」

从'ー'从「うん、そうだよ〜。私は魔法学校に通ってる魔法使い見習いだから、色んな魔法を使える訳じゃないけどね〜」

23名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 20:55:52 ID:Z1RVmQCU0
('A`)「もしかして、みんな使えんの?」

だとすればドクオの記憶喪失は簡単にばれてしまう。なにせドクオは一般人で特技も特長もないヒエラレルキーの最底辺なのだ。

从'ー'从「勉強すれば誰でも使えるんじゃないかなぁ? 魔力自体は人間であれば誰でも持ってるから、術式さえ覚えれば簡単な魔法なら使えると思うよ〜」

('A`)「へー。もしかして、俺も使えんのかな」

从'ー'从「もちろん!」

('A`)「なるほどな。ありがとう渡辺。勉強になったよ」

从^ー^从「どういたしまして。どっくん記憶喪失なんだもん、私もできる限り協力するね!」

渡辺の力強い言葉に思わずドクオは涙ぐみそうになるが、同時にこんないい子を騙してしいるということに罪悪感を覚える。

('A`)(でも、怪しまれないためには仕方ねえよな)

('A`)(それに、せっかく異世界に来たんだ。アニメや漫画の妄想じゃなくて、現実に)

('A`)(だったら楽しまなきゃ損ってもんだ)

この考えが目の前の美少女によるところだとは自分でも理解していたが、ドクオはわくわくを抑えることができなかった。

24名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 20:58:16 ID:Z1RVmQCU0
第一話として書いたのまだ半分くらいの分量なんでここで一度終わらせていただきます

25名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 20:59:38 ID:Z1RVmQCU0
あと文字化けしてるとこが多々見られますのでそこも次回以降修正していきます

26名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 21:40:39 ID:b0pZzOfQ0
同じタイトルのやつすでにあるよ

27名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 21:52:48 ID:P431btTs0

似たタイトルがあっても気にしなくてもいいと思うんです

しかし、演出だと思ってたが、文字化けだったのか・・・・・

28名も無きAAのようです:2014/05/26(月) 00:00:27 ID:AcZYvZ0I0
>>26
そうだったんですか…
ですがもう建ててしまったんでこれで行こうかと思います

>>27
すいません、演出ではありませんでした
完全に私のミスです

あと次回の投下は明日の夜23時から0時くらいに開始したいと思います
一話が大分長くなってしまったので三分割です
長々とすいませんでした

29名も無きAAのようです:2014/05/26(月) 00:22:03 ID:VfcSf6MY0

王道で好みの展開と世界観
これから冒頭にどう繋がるのか続きが楽しみ

30名も無きAAのようです:2014/05/26(月) 00:36:15 ID:LRThmukIO
前VIPとかで投下してなかった?、なんか既視感がするんだが

31名も無きAAのようです:2014/05/26(月) 18:28:07 ID:54lKDAgg0
おおお、異世界ついに復活かよ!!待ってた!
仕事終わったら読むぜ!楽しみすぎる!!!!

32名も無きAAのようです:2014/05/26(月) 18:49:09 ID:OK4GL5UwO
>>31
そう思っていた時期が私にもありました

33名も無きAAのようです:2014/05/26(月) 19:49:01 ID:JExxP6H60
面白い
けど流石にタイトルは変えた方がいいかもな
(´A`)異世界って有名すぎるタイトルだし

34名も無きAAのようです:2014/05/26(月) 21:01:40 ID:tcTVOXw6O
この作品なら、ちゃんと続きさえすれば間違いなくまとめ付くだろうから、その時の為に新しいスレタイ決めてレスに書き込んで置くとまとめさんが困らないと思うよー
続きに期待

35名も無きAAのようです:2014/05/26(月) 22:40:27 ID:5cB6oqb.0
すまん、異世界違いだったか…
でも普通に面白いから期待だわ!

36名も無きAAのようです:2014/05/26(月) 23:25:27 ID:gwqTpoE20
別にわざわざタイトル変える必要もないかと
商標登録されてる訳でも無し
作者が一番気に入ったタイトルで行くのが良いと思われ

37:2014/05/26(月) 23:30:31 ID:QpEfSWjY0
どうも1です
ちょっと投下遅くなりそうなのでそのご報告です
1時過ぎになるかもしれません
時間通り投下できずすみません

38名も無きAAのようです:2014/05/26(月) 23:35:00 ID:JExxP6H60
いや、>>31みたいに間違える奴や便乗だって叩く奴も出るだろうし
こだわりが無いなら、問題を起こさない為にも変えといたほうがいいだろ

39名も無きAAのようです:2014/05/27(火) 00:46:38 ID:E8KQRd9A0
別に俺はこのままでいいと思うぜ?
設定はよくある設定だし、タイトル被りはしゃーないかと。

40:2014/05/27(火) 00:50:21 ID:In3/VVnc0
特にこだわりとかはないので、このスレで終わらないようであれば次回以降

('A`)は魔法少女と出会うようです

とかにしておきます
異世界はさすがに有名なのがありましたので自重します

あと私は今回が初めてのブーン系でして、恐らく勘違いかと思われます

拙い文章ですが皆様のお言葉ありがたく心に刻み付けながら投下していきたいと思います

41:2014/05/27(火) 00:58:05 ID:nwdzsgZA0
渡辺に連れられてやってきたのは広い学校のような場所だった。ような、というのは建物の装飾がドクオの知る一般的な学校ではなく、まるで絵画の中でしか見たことのないような豪華なものだったからだ。

そこはすでにたくさんの人でごった返しており、中には包帯を巻いていたり眼帯をしている者もいる。

渡辺は避難、と言っていた。王都の結界が消失し、魔物が侵入してきたのだ、とも。これがその結果なのだろう。

('A`)(……受かれている場合じゃないな)

渡辺が助けてくれなければ自分がああなっていたのかも知れないのだ。憧れの異世界といっても、ドクオが思い描くシナリオのようにはいかない。その中でも傷ついている人は必ずいて、そのうえで成り立っていくのがアニメや漫画なのだ。

从'ー'从「あ、どっくーん。こっちこっちー」

と、少し離れたところから渡辺が手を振っていた。

从'ー'从「騎士団の人に報告にいくからどっくんもついてきて〜」

('A`)「ああ」

渡辺のあとに続き、建物の奥へと入っていく。床の材質は分からないが、リノリウムのようなかつんかつんという音が怪我人達の声に混じって響いていた。

しばらく歩いてたどり着いたのは、他と比べれば大きめの扉の前だった。渡辺は二回ノックをして、失礼しますと言ってドアを開ける。

42:2014/05/27(火) 00:59:49 ID:FR.L1.sg0
从'ー'从「ラウンジ地区担当、ニダー班所属の渡辺です! 街に取り残されていた住民を保護しました!」

( ・∀・)「報告ご苦労。ん?」

報告を受け、質素なテーブルに肘をついた聡明そうな一人の男が怪訝そうに眉をひそめる。視線がドクオを上から下まで往復し、彼は小さくため息を吐いた。

( ・∀・)「見たことのない格好だな」

从'ー'从「えっと、彼は記憶喪失のようでして、自分が何故取り残されていたのか、その記憶がないそうです」

( ・∀・)「記憶喪失、ねぇ」

男はしばし虚空を見つめ、何かを考えているようだった。

( ・∀・)「お前、名前は?」

('A`)「え? あ、ドクオ、です」

( ・∀・)「俺はモララー、騎士団の分隊長をやってる。人をまとめる立場だ」

('A`)「はぁ……」

( ・∀・)「ドクオ、お前は王都の状況は聞いたか?」

('A`)「渡辺……さんから、おおまかには」

43:2014/05/27(火) 01:05:22 ID:UGfk0BDE0
( ・∀・)「王都の結界が消失し、そこに現れた見慣れない服装の男。おまけに記憶喪失ときてる。俺が言いたいこと、分かるよな?」

('A`)「……」

モララーと名乗った男は、ドクオに聞いているのだ。お前が犯人なのか? と。

モララーの言っていることは至極当然のことだとドクオも思う。こんな状況であればその疑いは怪しい人間に向けられる。

('A`)「俺は何も知りません、と言いたいてすが、証明する手だてはありません」

( ・∀・)「ほう。じゃあ大人しく拘束されて、洗いざらい吐かされたいか?」

('A`)「……それでも俺は知らない、と主張し続けます」

( ・∀・)「……」

('A`)「……」

しばらくの間沈黙が場を支配する。ドクオは眼を逸らさなかった。逸らしたら取り返しのつかないことになると本能が叫んでいる。

( ・∀・)「ま、今はいい。緊急事態だしな。これが終わったらまた話そうか、ドクオ」

('A`)「分かりました」

この場はなんとか収めることが出来たようだ。次にどんな目に合うかは分からないが、これで時間は稼げる。

('A`)(別にやましいことは何一つないんだけどな)

( ・∀・)「とりあえず二人とも行っていいぞ」

モララーがしっしっ、と手を振る。ドクオと渡辺は失礼しました、とだけ言ってようやく部屋を出た。

44:2014/05/27(火) 01:06:30 ID:UGfk0BDE0
◇◇◇◇


部屋を出ると、ドクオは大きくため息を吐いた。

('A`;)「ぶっはぁぁぁぁ、すげえ緊張した」

こんなに緊張したのは大学時代の就活の面接以来だろうか。身体中に嫌な汗がじっとりと浮いている。

从'ー'从「私も緊張したよぉ〜」

その割にはけろっとした顔をしている渡辺。あまり顔に出ないタイプなのかもしれない。

('A`)「しっかし、あのモララーって人威圧感半端ないな。何でも知ってそうな雰囲気というか」

从'ー'从「モララーさんはね〜、魔法学校を主席で卒業して最年少で分隊長になったすごい人なんだよぉ〜」

('A`)「いわゆるエリートってやつなんだな」

从'ー'从「学校でも人気があるみたいだよ〜」

まぁ、確かに顔もよかったし、生徒が憧れるのも仕方ないのかもしれない。ドクオはあまり好きになれそうにないタイプだが。

<ヽ`∀´>「おんやぁ? そこにいるのは忌み子の渡辺じゃないかニダ」

45:2014/05/27(火) 01:07:56 ID:UGfk0BDE0
と、そこへ渡辺に声をかける男がいた。いかにも人を見下していそうな、典型的ないじめっこのような顔をしている。

从'ー'从「ニダー君……」

不意に渡辺の顔が曇る。心なしか声のトーンも下がっていた。

<ヽ`∀´>「落ちこぼれの渡辺がこんなところで何をしているニダ? しかもぶっさいくな男を連れて体でも売ってるニダ?」

ニダーと呼ばれた男はそう言って耳障りな笑い声をあげた。

<ヽ`∀´>「初級魔法しか使えないからって、まさかモララー様に変なことをしたんじゃないのかニダ? だとしたらウリはお前のことを軽蔑するニダ」

ニダーはなおも侮蔑の言葉を投げてくる。心の底から楽しそうに。

('A`#)「てめぇっ!」

从ー从「どっくん! 私は大丈夫だから!」

ドクオは思わず殴りかかりそうになる。が、渡辺の一声により足を止めざるを得なかった。

ぐっと握りこぶしを作り、行き場のない怒りを強引に押し込める。

<ヽ`∀´>「おお怖い怖い。自分に力がないから男を頼るなんて、魔法使い失格ニダ。そもそも、自分が忌み子だと分かっていながら魔法使いになろうだなんて傲慢にも程があるニダ」

はっきり言って胸糞の悪くなる言い方だ。ドクオは渡辺のことをよく知らないが、同じ人の心を持っているのならここまで酷いことは言えないはずだ。こいつには良心がないのだろうか。

<ヽ`∀´>「ま、悪いことは言わないニダ。出来る限り早く人の迷惑にならないとこで死んでくれニダ。そんじゃ、ウリは失礼するニダ」

それだけ言うと満足したのか、ニダーはモララーのいる部屋に入っていった。ドクオはそれを見届け、渡辺に詰め寄る。

('A`)「何で言い返さないんだ? あんな酷いこと言われたんだぞ?」

从ー从「……仕方、ないから。ニダー君の言うとおりだし」

('A`)「言うとおりって、お前死ねとまで言われたんだぞ? それで仕方ないって」

从ー从「私、少し外の空気吸ってくるね」

('A`)「あ、おい、渡辺!」

渡辺は早足に校内へと消えていく。振り返る瞬間、瞳からきらりと光るなにかが溢れたのをドクオは見逃さなかった。

46:2014/05/27(火) 01:09:27 ID:UGfk0BDE0
渡辺が去ったあと、ドクオは一人暇をもて余していた。というのも、校外へ出るのは禁止されており、出入口には魔法使いなのか騎士なのかは分からないが見張りが立っている。出ようとした瞬間金属の棒のようなもので制止されたものだから、思わず腰を抜かしてしまった。

仕方がないので校舎内を見回ろうと思ったのだが、思いの外面積は大きくなく、少し歩いただけで見るところがなくなってしまった。

さらに言えばドクオの格好は目立つらしく、人に会うたび奇異の眼を向けられたり、渡辺と一緒にいたところを見られていたのかひそひそと声が聞こえたというのも理由の一つである。

('A`)(そんなに目立つかねぇ。スウェットくらいこっちにもあると思うんだけどな)

ドクオはロビーのような広い場所にやってくると、適当に腰を下ろし、壁に背を預けながらそんなことを考えていた。とは言っても、実際ここにいる人達の中でスウェットもそれに類似した服装を見なかった以上はやはり物珍しいのかもしれない。

('A`)(やっぱり文化が違うんだろうな。なにせ魔法が当たり前に存在してる世界だもんな)

47:2014/05/27(火) 01:10:36 ID:UGfk0BDE0
文化が違えば文明も違う。渡辺に聞いただけではその全貌は見えてこないが、ドクオの考える魔法というものが発展すれば元の世界のような機械が発展する必要はあまりないのかもしれない。

魔法を覚えれば誰だって空を飛べるし、もしかしたら移動するのも一瞬かもしれない。錬金術だって魔法の一種だろうし、そこまでいったら機械なんて必要ないだろう。

('A`)(しばらく帰れないだろうから、渡辺に教えてもらえないかな)

そこまで考えたところで、ドクオは先程の渡辺とニダーのやり取りを思い出す。

('A`)(なんだったんだろう。渡辺があんなこと言われる原因が思い当たらないな。めっちゃ可愛いし、いい子だし)

ニダーは渡辺のことを『忌み子』と言っていた。もしかしたらその辺りが関係あるのかもしれないが、それでもあそこまで人を貶すことはないだろうとドクオは思う。

('A`)(忌み子、か)

*鼹類*前がうちの品位を下げてるんだ。

*鼹類*前さえ産まれてこなければ妹は死ななかったんだよ。

*鼹類*前さえいなければ。

*鼹類*前さえ。

( A )(……くそ、なんで今思い出すんだよ)

いつだったか言われた言葉がドクオの脳裏にフラッシュバックする。親戚の誰もが決まってニダーのような顔をしていた。

そんなことを言われたところで、産まれてきたことはどうしようもないのに。

自ら命を絶たなければいけないほど、自分の存在は忌避されるものなのか。

大人になった今でも、ドクオは自分の価値というものが分からない。生きていてもいいのか、死んだほうがよかったのか。

( A )(……本当は、渡辺に何か言わなきゃいけなかったんだよな、俺)

48:2014/05/27(火) 01:11:31 ID:UGfk0BDE0
後悔しても遅いのは分かっている。だがドクオにはかけるべき言葉が分からなかった。自分の価値にすら自信を持てない人間が何をいったところで空虚な妄言にしかならないだろう。

口から出任せを並べられればいいが、ドクオには何故かそれが出来なかった。言葉の端々に汚さが滲み出るような気がして。

( A )(くそったれ)

気づけば真っ白になるほど手を握りしめていた。この怒りは何にたいしてなのか、自分か、渡辺か、それともニダーなのか、

本当は分かっている。過去なんてものは今を形成する一つの道標であり、あれこれ考えたところでどうしようもない。過ぎ去ってしまったことは変えることなど出来ないのだから。

('A`)(せめて、自信もって気にすんなって言えるようになれればな)

ドクオがそう結論付け、顔をあげたその時だった。目の前に黒い円が現れたのは。

(・

(・(エ

(・(エ)・

(・(エ)・)

('A`)「え……」

(・(エ)・)「Wooooooooooo!!」

49:2014/05/27(火) 01:12:13 ID:UGfk0BDE0
円の中から次々と魔物が現れ、雄叫びをあげる。その数は街で見たよりもさらに多い。

('A`;)「くそっ!」

ドクオは弾かれたようにその場から駆け出した。街中での動きを見る限り、動きはそんなに速くない。運動不足のドクオでも十分に逃げ切ることが出来たのだ。

が、すぐにドクオの足が止まる。

('A`;)(そうだ、ここは避難所だった)

つまり魔物たちから逃げようと走り回れば、自由に動けない怪我人たちと遭遇してしまう。その瞬間この場所は地獄絵図と化するだろう。

(・(エ)・)「GYAAAAAAAAAAAAA!!」

ドクオはどうするべきかを瞬間的に判断し、くるりと魔物のほうを向いた。

('A`;)「かかってきやがれ化け物ども!? ドクオ様が相手になってやんよ!!」

何故そうしたのかは分からない。けれど、胸を張って彼女に会うにはこうするしかないと、ドクオは感じた。

50:2014/05/27(火) 01:16:31 ID:DYcRxU2Q0
◇◇◇◇

从ー从(嫌なとこ見せちゃったなぁ)

ドクオが記憶喪失だと知ったとき、渡辺は密かに歓喜した。何も知らないなら、仲良くなれるかもしれない、友達になれるかもしれないと思ったのだ。

自分の居場所はこの町にないことは知っている。渡辺という存在はあまりにも衝撃的で、未だ根強く蔓延っている。

この黒髪もそれを如実に表していた。

王都、いやこの世界を隈無く探したところで、渡辺と同じような漆黒の髪を持つ人間なんていないのだ。

ドクオの髪も確かに黒だったが、少し茶色がかっていて色素が薄い。けして自分とは同じではない。

漆黒の髪が忌み子として扱われる理由は、渡辺自身よく分からなかった。亡くなった両親も教えてくれなかったし、今後も知ることはないかもしれない。

渡辺は自分という存在に、人生に、命に、価値を見いだせなかった。人に嫌われ、蔑まれ、石を投げられても、彼女は自分に価値を与えるべく歩こうとしていた。だからこそ渡辺は暗いことを考えず、誰も恨まず憎まず、人に優しくあろうとした。魔法使いになるという道も、人の役にたちたいという願いからだ。

けれども現実は渡辺に牙を向いて襲ってくる。人のために、この世界の生きとし生けるもののために何かをしようとするほどに他人の悪意は増すばかりだった。

そんな世界に渡辺は絶望していた。そんな世界の中でしか生きることのできない自分に、価値があるとはどうしても思えない。

けれど、そんな中でドクオは初めて自分を恐れず、対等な人間として接してくれた。ニダーの台詞にも純粋に怒ってくれた。

人に優しくされたのは初めてだった。いや、あれは自分以外に向けられる感情としては当然なのかもしれない。普通の人間であれば、当たり前のように受けることのできたことなのかもしれない。

从;ー;从「嫌われちゃったかなぁ」

51:2014/05/27(火) 01:18:24 ID:DYcRxU2Q0
渡辺は初めて人に嫌われたくないと思えた。だって、あんな風に優しくされたら、知ってしまったら、もう耐えられないじゃないか。

从;ー;从「やだよぅ、嫌われたくないよぅ」

止めどなく溢れる涙は自分の意思ではどうにも出来ない。拭っても拭っても頬を濡らしていく。

しばらくの間、涙は止まらなかった。泣けるだけ泣いて、そうしたらきっと元通り。そしてドクオのところへ行って、笑顔を作ろう。

思い切り泣いて落ち着いた頃、渡辺はようやく顔をあげた。近くにあった鏡で顔を確認すると、眼は赤くなり、その周辺は腫れていた。

从;'ー'从「ひどい顔だよ〜」

化粧なんてやったこともないので、隠すこともできない。機会があれば化粧を覚えてみようと渡辺は心に決めた。

从'ー'从「早くどっくんのとこ行かなきゃ。記憶喪失だし、きっと寂しいよね」

この顔は見せたくないがやむを得ない。渡辺が校舎へ戻ろうとした時、複数の足音と悲鳴が聞こえた。

从'ー'从「ほえ?」

渡辺が騒ぎの方へと駆けつけるとそこにはたくさんの魔物が腕を振りかぶり、

('A+;)

从;'ー'从「ど、どっくん!!」

為す術もなく立ち尽くすドクオの姿があった。

52:2014/05/27(火) 01:19:32 ID:DYcRxU2Q0
◇◇◇◇

('A+;)「はぁ、はぁ……さすがに、しんどい」

(・(エ)・)「SHAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

正面の魔物がドクオ目掛けて爪を振るう。それを一歩後ろに下がり紙一重で回避。続いて右の魔物が突っ込んできた。

('A+;)「ぐぼっ」

壁に激突し、肺から空気が抜けていく。うまく呼吸が出来ない。

やはり素人の回避方法では一体ずつの攻撃は避けられても、間をおかずにこられると間に合わなくなる。ここまで致命傷をもらわなかったのは奇跡としか言いようがなかった。

それでも魔物からの攻撃は休むことなく繰り出され、じわりじわりとドクオは追い詰められていく。すでに足腰はがくがくと震えており、気を抜けば二度と起き上がれなさそうだった。

('A+;)(けど、もう少ししたら、他の魔法使いが来るかもしれない。それまで耐えろ、俺!!)

ドクオはなんとか立ち上がろうと全身を奮い立たせ、顔を上げる。そこには一斉にこちらへと腕を振るう魔物達がいた。

('A+;)(やばっ、よけきれ)

从'ー'从「どっくん!!」

そこへ渡辺が炎弾を叩き込んだ。昼間見た魔法だろうか、魔物達を巻き込んで爆発するとその体を焦がしていく。

53:2014/05/27(火) 01:20:24 ID:DYcRxU2Q0
('A+;)「た、助かったよ渡辺」

从'ー'从「どうしてこんなことしてるのよぉ!!」

そばに来るなり大声をあげる渡辺に、ドクオは少々面食らったが、しかしはっきりとした声で答えた。

('A+;)「怪我人がたくさんいるんだ。ここで逃げたら他の人を巻き込むかもしれないだろ? だから囮になったんだ」

从ー从「こんなに傷だらけになって……もしかしたら死んじゃってたかもしれないんだよ?」

('A+;)「けど、渡辺ならきっと来てくれるって信じてたよ」

从ー从「……おかしいよ、どっくん」

('∀+;)「俺もおかしいと思う。若さゆえの過ちなんだろ、きっと」

渡辺の手を借りてなんとか立ち上がり、笑みを作るが腫れた頬が邪魔をしてうまく出来なかった。

渡辺がドクオを抱き締めてくる。小刻みに震える彼女の体はとても小さくて、子供をあやすようにドクオは頭を撫でた。

从ー从「ばか。どっくんのばか」

('A+;)「ははっ。とりあえず、しばらく休みたい。もう体が動かないんだ」

从'ー'从「うん。治癒術師さんのとこに連れてってあげる」

54:2014/05/27(火) 01:21:14 ID:DYcRxU2Q0
渡辺に肩を借りて歩き出すが、体のあちこちが鈍い痛みを発し、足がうまく動かなかった。

我ながら馬鹿なことをしたとは思うが、今回ばかりはやってよかったと思えた。たくさんの命を救えたのだ。ここに来なければ、渡辺に出会わなければ、自分は一生なにも出来なかっただろう。

傷が癒えたら、渡辺に何て言おうか。こんな自分でも誰かの役に立てたのだ。ならば言うことは決まっている。

それはーー

55:2014/05/27(火) 01:21:56 ID:DYcRxU2Q0





ぐしゃっ。

56:2014/05/27(火) 01:23:36 ID:DYcRxU2Q0
嫌な音がした。

次に視界が高速で動いた。気付いたら床に転がっていた。痛みはない。

( A )(なに、が……)

( (エ) )

倒したと思った魔物が起き上がり、充血させた眼をこちらに向けている。どうやら怒らせてしまったようだ。

ゆっくりと近づいてくる魔物に、ドクオは何とか抵抗しようと体を動かそうとするが、意に反して言うことを聞いてくれない。

('A+;)(わたなべ……は……)

顔だけを動かし、周囲を見渡せば数メートルほど離れたところに渡辺は倒れていた。

背中に大きな爪痕を残して。

意識はあるらしく、彼女も立ち上がろうとしているが、魔物の攻撃をまともに食らってしまったのだ。ドクオより傷が深いのかもしれない。

( (エ) )

魔物は渡辺を標的にしたらしく、そちらへと向かっていく。

('A+;)「やめろ」

魔物は止まらない。

('A+;)「やめてくれ」

体は動かない。

57:2014/05/27(火) 01:24:59 ID:DYcRxU2Q0
('A+;)「くそったれがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

その時、神様はほんの少しだけドクオに力をくれたのかもしれない。

(゚A+;)「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

起き上がり、必死に走る。

从; ー 从「どっくん!!」

( (エ) )「GAAAAAAAAAAAAA!!」

魔物が爪を降り下ろす。あと数センチ。

その時、世界がスローになる。

風の流れさえも感じ取れるほどの極限の世界で、ドクオは地面を蹴った。

間に合え!! 間に合え!! 間に合え!!

魔物の攻撃は止まらない。

ドクオの体が魔物の爪に触れる。

渡辺が何かを叫んだとき。

ドクオの体を魔物の爪が貫通した。

58:2014/05/27(火) 01:29:22 ID:FR.L1.sg0
◇◇◇◇

ドクオの体から血が流れていく。止まることなく、ゆっくりと。

ドクオは動かない。ぴくりともしない。

魔物の爪がドクオの心臓を貫いた。一瞬だっただろう。

从;ー;从「あ……あぁ……」

目の前で倒れるドクオを、渡辺は揺する。

从;ー;从「どっくん、起きてよ。冗談はやめてよぉ」

ドクオは動かない。

从;ー;从「私を独りにしないでよぉ」

ドクオは答えない。

从;ー;从「もう、独りは嫌だよぉ。どっくん、起きてよぉ」

ドクオは、二度と笑わない。

从;ー;从「いや……いやぁ……」

ドクオは、死んだ。他ならない、自分のせいで。

从;ー;从「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

渡辺の叫びは誰にも届かない。誰にも響かない。この世界で、渡辺は独りぼっちになってしまった。

それでも現実は理不尽なもので、絶望を背負ってもまだ抗えと渡辺に地獄を突きつける。

( (エ) )「Oooooooooooooo!!」

魔物の攻撃はいとも簡単に渡辺を吹き飛ばし、彼女の体はぼろ雑巾のように床へ転がった。不思議と痛みはない。

59:2014/05/27(火) 01:30:52 ID:FR.L1.sg0
从ー从「」

だが、何故か渡辺は立ち上がっていた。戦う理由なんてないはずなのに、戦う意味なんてとうに消えてしまったのに。

从ー从「せめて、あなただけは……倒すよ」

箒を構え、残った力全てを使い詠唱をする。目の前に赤い魔方陣が浮かび、火の玉が発射された。

命中。爆発。黒煙で視界を奪われる。

これが最後の力だった。渡辺にはもうマッチほどの小さな火を出すこともできないだろう。

全身から力が抜けていき、渡辺は崩れ落ちた。

次第に煙が晴れ、渡辺は、もう何も言わなかった。

( (エ) )

魔物は頭部の大半を失い、腕をもがれ、ようやく絶命した。

そして、その後ろには、

<ヽ`∀´>「ニダニダニダニダ。さすがはウリニダ。忌み子が死にもの狂いで戦っても勝てない魔物を一撃必殺ニダ」

ニダーと、その取り巻きが立っていた。

60:2014/05/27(火) 01:31:47 ID:FR.L1.sg0
从ー从「ニダー……くん……」

<ヽ`∀´>「アンニョンハセヨ。
さてと、ここにはもう魔物はいないニダ。これで安心ニダ」

いつのまにか渡辺のそばに立っていたニダーが朗らかに笑いながら手をさしのべてくる。渡辺はこの手を掴もうとして、どうしても出来なかった。力が入らないのだ。

<ヽ`∀´>「……なんだ、ここはウリの優しさに感激して手を取るところだニダ。やっぱり忌み子は人間じゃないニダ」

从ー从「……え?」

<ヽ`∀´>「どうやら魔物はあれだけじゃなかったみたいだニダ。ここにも瀕死の魔物がいるニダ」

*鼹顥灰離劵肇魯淵縫鬟ぅ奪謄ぅ襯鵐瀬蹈Α*

*鼹顥泪皀離魯皀Ε▲淵織*タオシタヨ?

*鼹顥灰灰縫魯錺織轡*イルダケ。

<ヽ`∀´>「ニダニダニダニダ!! やはり魔物は人間の言葉が分からないみたいニダ。いいか? 偉い人間様の言葉、ありがたく耳にするニダ」

61:2014/05/27(火) 01:33:50 ID:FR.L1.sg0
>>60
文字化けで大変なことになったのでもっかい

从ー从「ニダー……くん……」

<ヽ`∀´>「アンニョンハセヨ。
さてと、ここにはもう魔物はいないニダ。これで安心ニダ」

いつのまにか渡辺のそばに立っていたニダーが朗らかに笑いながら手をさしのべてくる。渡辺はこの手を掴もうとして、どうしても出来なかった。力が入らないのだ。

<ヽ`∀´>「……なんだ、ここはウリの優しさに感激して手を取るところだニダ。やっぱり忌み子は人間じゃないニダ」

从ー从「……え?」

<ヽ`∀´>「どうやら魔物はあれだけじゃなかったみたいだニダ。ここにも瀕死の魔物がいるニダ」

ーーコノヒトハナニヲイッテイルンダロウ?

ーーマモノハモウアナタガタオシタヨ?

ーーココニハワタシガイルダケ。

<ヽ`∀´>「ニダニダニダニダ!! やはり魔物は人間の言葉が分からないみたいニダ。いいか? 偉い人間様の言葉、ありがたく耳にするニダ」

62:2014/05/27(火) 01:35:59 ID:FR.L1.sg0
とりあえず今回はここで終わりです
色々と手直ししたはずなのに相変わらず文字化け多くてすいませんでした
次回はまた明日の夜、同じ時間に投下します

63:2014/05/27(火) 01:37:50 ID:FR.L1.sg0
とりあえず今回はここで終わりです
色々と手直ししたはずなのに相変わらず文字化け多くてすいませんでした
次回はまた明日の夜、同じ時間に投下します

64:2014/05/27(火) 01:41:32 ID:UGfk0BDE0









<ヽ`∀´>「お前のことだよクソゴミ」

65:2014/05/27(火) 01:42:29 ID:UGfk0BDE0
一つ投下忘れてましたすいません
今度こそまた明日

66名も無きAAのようです:2014/05/27(火) 07:51:45 ID:wNVw8MhIO
良い感じに鬱展開だな。乙乙続き期待

67名も無きAAのようです:2014/05/27(火) 21:53:11 ID:F1h9G66M0
期待してる

68名も無きAAのようです:2014/05/28(水) 03:56:57 ID:3A3L3B4w0
おもすれえ!

69:2014/05/28(水) 10:31:14 ID:940RRGy60
从ー从「ワタ……シ……?」

<ヽ`∀´>「お前自分が人間だとでも思ってたのかニダ? 漆黒の髪を持つなんて人間なわけないニダ」

<ヽ`∀´>「お前何で自分が忌み子なんて呼ばれてるか分からないニダ? ならウリがおしえてやるニダ」

<ヽ`∀´>「ウリ達の世界では黒髪の人間なんて産まれないニダ。黒髪は悪魔の特徴なんだニダ」

<ヽ`∀´>「周りに不幸を撒き散らし、破壊の限りを尽くす存在は、人間なんて呼ばないニダ」

<ヽ`∀´>「だから人々はそいつらを迫害し、追いやり、封印したニダ。だが、やつらは死んでいく自分達を見て、人々の中に紛れようとしたんだニダ」

<ヽ`∀´>「見た目は人間と大差ないニダ。黒髪さえ隠せば充分人として生きていけるニダ」

<ヽ`∀´>「そうして人間として生活した悪魔どもは人との子を成したニダ」

70:2014/05/28(水) 10:31:54 ID:940RRGy60
<ヽ`∀´>「長い年月のなかで人と同化した悪魔は黒髪の子さえ成さなくなったニダ。だが、時折お前のような子供が産まれることがあるニダ」

<ヽ`∀´>「悪魔の血を色濃く引き継いだ、人魔だニダ」

<ヽ`∀´>「これで分かったニダ? お前は人間なんて高尚な存在じゃない、それ以下のごみくずだニダ。『そこに転がっている男も同様』に、ニダ」

ニダーの話を聞いても、渡辺は何も思わなかった。自分が悪魔だとか、そんなことはもうどうでもよかった。自分の人生なんてそんなものだと思っていたから。

それでも、渡辺は一つだけ許せないことがある。

一時の感情なんだと理解している。

少しだけ優しくされただけの関係で、互いのことなんて何も知らない、小さくて細い微かな縁でしかない。

でも、それでも渡辺は彼が何かを言おうと悩んでいたことを知っている。自分を慰めてくれようと、足掻いていたことを知っている。

从ー从「訂正して」

71:2014/05/28(水) 10:32:47 ID:940RRGy60
<ヽ`∀´>「ニダニダニダニダ!! お前みたいなクズでもプライドがあったニダ!? こいつは悪かったニダ」

从#'ー'从「どっくんはごみくずなんかじゃない!!」

<ヽ`∀´>「うるさいニダ」

ニダーは一切の加減をせず、渡辺の腹を蹴りつけた。それでも渡辺は止まらない。それぐらいじゃ止まってやるものか。

从#;ー;从「どっくんは名前も知らない、顔も知らない誰かのために命を賭けたんだよ!! 赤の他人を救おうとして、救ったんだ!! 安全なところに胡座をかいて高みの見物をしてるあなた達に、彼を蔑む権利なんてないんだよ!!」

<#ヽ`∀´>「黙るニダ!! ウリをバカにすることは許さんニダ!!」

从#;ー;从「あなたは誰かのために命を張れる!? あなたは見返りも何もなく、他人のために動けないじゃない!! 人を馬鹿にすることしかできないあなた達が人間を語るな!!」

<ヽ`∀´>「……もういいニダ。殺す」

从;ー;从「私は悪魔だよ。どっくんに何も返してあげられなかった。どっくんを死なせてしまった。ごみくずだよ。だから、せめて私だけはどっくんの味方でいるんだ」

<ヽ`∀´>「死ね」

ニダーが詠唱を始める。渡辺の命は詠唱が終わるまでだろう。その間に、渡辺は少しでも彼のそばに行こうと体を引きずっていく。

从;ー;从(ごめんね、どっくん)

72:2014/05/28(水) 10:33:29 ID:940RRGy60
<ヽ`∀´>「ウリのまhうぇあ!!」

渡辺には、ニダーが瞬間移動をしたようにしか見えなかった。気付いたら、壁にめり込んでいた。

从;ー;从「ほえ?」

一瞬、ドクオが助けてくれたのかと思った。本当は死んでなどなくて、体力を回復していただけなのかもしれない。しかし、その願いはあっさりと崩れ落ちることとなる。

(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)(・(エ)・)

そこには、空間という空間を埋め尽くすほどの魔物で溢れ返っていた。

73:2014/05/28(水) 10:39:27 ID:llU/SGqM0
◇◇◇◇

ーーここはどこだろう。俺は何をしていたんだっけ。

真っ黒に塗り潰された視界、辺りは静寂だけが蠢いていた。

ーーああ、そうだ、俺は、死んだんだ。

事切れる瞬間、誰かが呼んでいたような気もするが、記憶に靄がかかったように不透明で思い出せない。

大切な人だったのかもしれない、大事な言葉だったのかもしれない、かけがえのない感情だったのかもしれない。

だがもう終わってしまったことだ。過去は覆せない。変えられない。自分が死んだことも、彼女が泣いていたことも、もうーー。

不意に暗闇を引き裂く光が飛び込んできた。そらはゆっくりと、彼を飲み込むように大きくなっていき、彼の中に様々な情報が氾濫していく。

ーーなん、だ、これ。

彼女の生い立ち、彼女の生き方、彼女の覚悟、過去から未来を通して彼は、彼女の全てを知った。

守りたいと思った。そばにいたいと思った。彼女の笑顔を、他人の悪意に晒したくなかった。

ーー帰らなきゃ。彼女を独りになんかさせない。

手を伸ばした。彼女を守るだけの力を得るために。

( A )「こんな現実、俺が変えてやる!!」

瞬間、暗闇が吹き飛んだ。

74:2014/05/28(水) 11:39:32 ID:KH7IFHJk0
◇◇◇◇

ドクオの体から眩い光が吹き出し、一瞬にして魔物の大半が消滅した。魔物達も驚いたのか、それとも本能が危険を察知したのか、一斉に距離を取る。

从;ー;从「どっくん?」

( A )「Oooooooooooooo!!」

いつの間にかドクオの手には赤黒い細身の剣が握られており、その刀身からは美しすぎるほど鮮明な朱が不気味に輝いている。

ドクオが一歩踏み出すと、その姿が消え、魔物達の後方に剣を横に薙いだ格好で現れた。

魔物達は倒れることもなく、まるで幻だったかのようにその姿を消していく。始めからそんなものはなかったかのように。

魔物達はドクオの姿を見て何を思ったのだろう。何が起きたかも分からず、どうしていいか分からないといったようにオロオロとしていた。

( A )「l7o*鼹*eo9cdng*鼹*8fl8h2bd*鼹*fkhpv!!」

75:2014/05/28(水) 11:40:49 ID:KH7IFHJk0
人と思えぬ言葉を発し、ドクオは暴れたりないと言わんばかりに魔物を蹂躙していく。魔物たちはドクオに攻撃を加えるが、ドクオはそれらを無視して、傷を作りながら止まらない。

右に左に、魔物の隙間を縫うように群れの中を縦横無尽にかけ、一刀のもとに魔物たちは消滅していく。

( ∀ )「*鼹鼹鼹顗*

やがて魔物も敵わないと本能で悟ったのか、次第に逃げ出していく。しかし、ドクオはそれを許さず追いかけて無慈悲に剣を振るう。

威嚇のためなのか、奇声を放つ魔物。口を不気味に歪ませながら戦うドクオ。

ドクオ以外に動くものがいなくなった頃。

ドクオはようやく、糸の切れた人形のように床に倒れたのだった。

76:2014/05/28(水) 11:42:07 ID:KH7IFHJk0
◇◇◇◇

『目覚めたか』

『はい。計画は滞りなく、順調に進んでおります』

『確か、ドクオといったか。彼は実に優秀な駒になってくれそうだな』

『そうですな。地べたに這いつくばっている人間とは実に御しやすい』

『しかし、果たしてあれを人間と呼んでいいのでございましょうか』

『確かに、人間というカテゴリーに当てはめるにはいささか度を越えているかもしれん』

『破滅と絶望を撒き散らす存在を、ここでは<悪魔>と定義するのでは?』

『<悪魔>か』

『では、その<悪魔>を御する我らはどのような存在になるのか』

『決まっておりまする。我々は』

川д川『この世界の<神>となるのです』

77:2014/05/28(水) 11:43:49 ID:KH7IFHJk0
第一話 終

78:2014/05/28(水) 11:52:47 ID:dbbkfKO60
投下時間を大幅に過ぎてしまい申し訳ありませんでした
3つに分割したわりには最後だけ短かったりしましたが第一話これにて終了です
次回投下は来週中に行いたいと思います
投下出来るようになりましたらまた顔を出します

面白いと言ってくれる方本当に励みになります
ありがとうございました

79名も無きAAのようです:2014/05/28(水) 12:03:18 ID:ghasd6Z60


80名も無きAAのようです:2014/05/28(水) 12:24:54 ID:BYGCZ1Lk0
待ってた乙

81名も無きAAのようです:2014/05/28(水) 17:02:11 ID:e//V4qaoO
こう言う良作が出てくるるならまだまだブーン系も終わってないな

82名も無きAAのようです:2014/05/29(木) 00:03:51 ID:BkKCapeU0
おもしろい!!
きたいしてるよ

83名も無きAAのようです:2014/05/29(木) 17:56:08 ID:M.XY0fvw0
期待期待

84:2014/05/29(木) 21:58:28 ID:TkR1Ts5Y0
どうも1です
このままの速さで書き上げることが出来れば来週の月曜日には第二話の投下ができそうです
第一話よりは短くなりそうですのでまとめて投下できると思います

85名も無きAAのようです:2014/05/30(金) 22:40:02 ID:Luwe7ZOI0
やったー

86:2014/05/30(金) 23:48:54 ID:jvxj2O7Y0
どうも1です
昨日一話ほど長くないと言ったのですが、構想していた半分を書き終えたところですでに一話よりも長くなってしまいました
ということで急遽予定を変更し、明日の夜にでもその半分を投下したいと思います
予定では月曜日までに第二話は書き上がると思いますのでよろしくお願いします

皆さんの支援を見るたび頑張ろうと思えます
本当にありがとうございます

87名も無きAAのようです:2014/05/31(土) 02:44:28 ID:GbyRxPicO
待ってる

88:2014/05/31(土) 12:28:41 ID:YWVVJOwU0
本日夕方六時から投下します

89:2014/05/31(土) 17:59:44 ID:OugCCYE.0




第二話「新たなる生活」



.

90:2014/05/31(土) 18:01:19 ID:OugCCYE.0
(´・ω・`)「なるほど。実に興味深いね」

ショボンは自室にて報告書に目を通していた。昨日の王都結界消失事件の事後報告である。

( ・∀・)「本人は記憶喪失だなんて吹いてましたけどね」

(´・ω・`)「だがそれだけでは今回の犯人だとは言い切れないだろう」

( ・∀・)「もちろんです。が、無関係ってことはない。現にドクオを狙うかのように召喚陣が現れています」

(´・ω・`)「ふーむ」

ショボンはむっつりと虚空を見つめる。報告書では禍々しい赤黒い剣を持って魔物の存在を文字通り<消滅>させていたらしい。それまで武器と呼べるものを持っていなかったにも関わらず、立ち上がった時には持っていた。

加えて人外の言葉を発し、戦闘を楽しむかのような振る舞いは、すでにーー。

(´・ω・`)「悪魔、か」

91:2014/05/31(土) 18:02:22 ID:OugCCYE.0
( ・∀・)「例の忌み子と同じ髪の色ですしね。無関係ではないんでしょう」

(´・ω・`)「なんにせよ、一度彼に話を聞くほかないだろうね。それに、例の件もある」

( ・∀・)「関係があるんでしょうか」

(´・ω・`)「様々な情報を組み合わせて柔軟に考えていかないと、国は守れないぞ」

( ・∀・)「それじゃあどうします? ドクオの件は俺がやりましょうか?」

(´・ω・`)「いや、私がやろう。モララーは黒の魔術団を」

( ・∀・)「了解」

モララーが出ていったあと、ショボンは部屋の窓から空を見上げる。騎士団の尽力により結界は元に戻ったが、王都では未だ深く傷痕を残している。

(´・ω・`)「彼は僕たちの敵なのか、味方なのか。出来れば戦いたくない相手だな」

敵の戦闘力が未知数であるし、何より彼は民間人でありながら被害を最小限に食いとどめてくれた功労者でもあるのだ。

これが杞憂で終わればいい、とショボンは願わずにはいられなかった。

92:2014/05/31(土) 18:03:31 ID:OugCCYE.0
◇◇◇◇

王都にあるとある病院の一室で、ドクオは目を覚ました。

( A )「……ん」

あれから一体どうなったのか。渡辺は無事だったのだろうか。そもそも自分は本当に生きているのだろうか。

様々な疑問が浮かんでくるが、とりあえず体を起こしてみる。特に痛むところもなく、至るところに包帯が巻いてある以外は健康そのものだと言えそうだ。

('A`)「そうだ、渡辺は!?」

病室には自分一人だけのようで、他には見当たらない。まさか、と最悪の事態が脳裏によぎる。

ドクオが急いでベッドから降りようとしたとき、がちゃりとドアノブが回った。

从'ー'从「あ」

そこから現れたのは渡辺だった。手には花瓶を持っており、一輪の花が差されていた。

('A`)「わ、渡辺……無事d」

从;ー;从「どっくん!!」

93:2014/05/31(土) 18:04:55 ID:OugCCYE.0
言い終わる前に渡辺が抱きついてきた。女の子特有の甘い匂いと柔らかさがドクオを包み込んだ。

('A`)(わんだほー)

鼻の下を伸ばすドクオと対照的に、渡辺は体を震わせている。小さく嗚咽が聞こえてくるところを鑑みるに、どうやら泣いているらしい。

从;ー;从「よかったよぉ、目覚めてくれた。心配、したんだからぁ」

('A`;)「あー、その、心配かけて、悪かったよ」

女性の涙には一生縁がないと思っていたドクオは狼狽えるしかなかった。だが、女の子が自分のために泣いてくれているという事実は案外悪くないなぁと得意気になってみたりする。

从;ー;从「どこか痛いところは? 何があったか覚えてる?」

('A`)「そうだ。なぁ渡辺。あのあと、どうなったんだ? 俺は何日寝てた? 魔物は? 避難所の人達は?」

ドクオが矢継ぎ早に質問すると、涙をぐしぐしと拭った渡辺が怪訝そうに答えてくれた。

从'ー'从「ほえ? えと、どっくんは三日間寝たきりだったよぉ。それで魔物はどっくんが全部倒したじゃない。避難所の人達もみーんな無事だよぉ」

('A`)「……俺が?」

どういうことだろうか。ドクオの記憶では渡辺に止めを刺そうとした魔物の一撃を食い止めるために自分は力を振り絞って、爪が、体をーー。

貫いていた、はず。

ドクオは穴が開いているであろう心臓部へ手を当てる。

ーー穴が、ない。

94:2014/05/31(土) 18:05:49 ID:OugCCYE.0
どころか、傷一つなかった。

('A`)(どういうことだ? 相当ぼろぼろだったよな? それとも、これも魔法なのか?)

从'ー'从「お医者さんもねー、びっくりしてたよぉ。あんなにぼろぼろだったのに、すごい早さで傷口が塞がっていったんだってー」

まさに奇跡だって。

('A`)「奇跡?」

そんなはずはない。ドクオの体は何の変鉄もない一般人よりもスペックが低いもやしなのだ。他人より傷の治りが早いという特徴があったとしても、こんなに早く傷が塞がるだなんてあり得るのだろうか。

ましてや、心臓を貫かれて、生きている人間がこの世界にいるのか。

从'ー'从「どっくん?」

('A`)「渡辺は、俺が魔物を倒したっていったよな。どうやって倒したのか覚えてるか?」

从'ー'从「うん。えっとねぇ、そこにある剣で魔物をばしっばしって」

渡辺が指差したのは見たことのない赤い刀身の両刃剣だった。手に取り、鞘から出してみる。装飾もどこか禍々しく、見るものに不快感を与えるような代物だ。

('A`)(なんだ、これ)

見覚えのないそれは、ドクオに恐怖を与える。理由は分からない。だが、ドクオにはその剣が畏怖の象徴のようにしか思えなかった。

从'ー'从「どうかしたの?」

95:2014/05/31(土) 18:06:37 ID:OugCCYE.0
渡辺が瞳に涙を浮かべながら尋ねてくる。駄目だ、今は考えないようにした方がいい。渡辺を無駄に心配させてしまう。

ドクオは剣を鞘に戻しながらできるかぎり優しい声で言った。

('A`)「いや、なんでもないよ。それにしても渡辺は俺のことずっと看ててくれたのか?」

从'ー'从「うん。命の恩人さんだし、それに……」

从//ー//从

('A`)「それに?」

从//ー//从「な、なんでもないよぅ!! うぅ、どっくんのばかぁ」

とりあえず誤魔化すことには成功したようだ。しかし、何故怒られたのだろうか。

从//ー//从「えと、きょ、今日は帰るね!! また明日来るから!!」

顔を赤くしたまま渡辺は逃げるように病室を飛び出していった。直後にがしゃーん!! と大きな音が聞こえてきて、必死に謝る渡辺の声が響いてくる。

('A`)「……なにやってんだあいつ」

96:2014/05/31(土) 18:07:29 ID:OugCCYE.0
◇◇◇◇

从//ー//从(うー、まだドキドキしてるよぉ〜)

ナースとぶつかり機材をド派手にばらまいてその後片付けを手伝ったあと、渡辺は胸に手を当てて先程自分が口走りそうになった言葉を思い出していた。

言葉にすれば簡単な感情だが、それを相手に伝えるとなると半端ではない覚悟が必要になる。ましてや出会って数日、きちんと話したのはほんの少し。その短いやり取りの中で芽生え感情は渡辺自身本物かどうかよく分からない。

人の悪意に触れながら生き続けたのだから普通の人間が普通に経験するような出来事も渡辺にとっては理解の範疇を大きく外れているのだ。

しかも誰もが彼女を人として見ていないこの世界で、彼だけは人間として、女の子として扱ってくれた。たったそれだけのことが渡辺にとって何よりも嬉しいことだった。

从'ー'从「どっくんは私のことどう思ってるのかなぁ」

意中の異性を思う女の子とはこんな思いで毎日を生きているのかと思うと、渡辺はその人たちを尊敬せずにはいられなかった。彼を思うだけで胸がぎゅっと締め付けられるようだし、体は大丈夫なのか、ご飯は食べられるのか、などと様々な感情が渡辺の中でぐるぐると渦巻いていく。

97:2014/05/31(土) 18:08:14 ID:OugCCYE.0
渡辺にとってのドクオとは、お話の中に出てくる勇者や王子様のような存在だ。誰もが見てみぬふりをする悪に憤り、あの絶望的状況さえも切り抜けた。

从'ー'从「でも、記憶喪失なんだよね」

記憶を失ってなおあれだけの力を発揮したということは、元々どこかの騎士だったり、戦場を渡り歩いた傭兵だったのだろうか。他国では未だ内紛が絶えないとところもあると先生も言っていたし。

だとすれば、戦いを楽しむような狂気は彼の本質なのだろうか。先程の様子ではそのような素振りは一切なかったように思えたが。

从'ー'从(ちょっと、ほんのちょっとだけど、あの時のどっくんは怖かったかも)

本心を言えば、笑みを浮かべなから魔物を躊躇なく切り伏せるドクオに渡辺は怯えていた。普段の彼からは想像もできないあの顔はニダーが見せた嗜虐的なものとは違うように感じたのだ。

ニダーは無抵抗の悪を殺すことで自分が英雄になれるのだと思っていたが、ドクオのそれは似ても似つかぬ殺すことそのものを楽しんでいたように見えた。

この二つは似ているようで全く別物だ。何しろ目的がかけ離れているのだから。

从'ー'从(でも、それを私が怖がったらどっくんもこの世界で一人ぼっちだもん。私は絶対に、何があったってどっくんの味方でいるんだ)

記憶を失い、宛のない彼を一人になんてさせない。これは渡辺が自分に課す最大の任務だ。

大好きで、尊敬できる彼のそばに。

渡辺はそのために、何ができるのか、何をすべきなのかを考えながら帰路につくのだった。

98:2014/05/31(土) 18:09:39 ID:OugCCYE.0
◇◇◇◇

それから数日が過ぎた頃、未だドクオは退院できないでいた。体は健康そのものだというのに、人体を構成するマナが大幅に失われており、実生活に支障をきたす可能性が高いとのことだった。

渡辺の説明によると、マナというのは魔力と違い自然界に湧いてでるようなものではなく、人間や動物などの生命体が生きていくために自分で作り出すものなのだそうだ。

マナがなくなれば命に関わると言われてしまい、ドクオとしてもせっかく拾った命である以上大人しくせざるを得なかった。なにより渡辺があれこれと世話を焼くので病院生活も満更ではないなぁという感じである。

('A`)「にしても、病院がタダってのはすごいなぁ」

从'ー'从「そうかなぁ。成人したらたくさん税金を払うんだよぉ? ずっと健康だったらちょっともったいない気もするよ〜」

('A`)「必要経費だろ。万が一ってこともあり得るしさ」

从'ー'从「どっくんは大人だねぇ」

元いた世界では税金なんてろくに支払ってこなかったが、渡辺にはそれを知るよしもない。美少女の前では格好いいことを言いたい年頃なのである。要はばれなきゃいいのだ。

('A`)「それに病院に行かなきゃ生きていけない人もいるだろうし、人助けしてると思えば安いもんだよ」

从'ー'从「なるほど〜。どっくん頭いいね〜」

('A`)「いやー、それほどでも……あるよ」

99:2014/05/31(土) 18:10:39 ID:OugCCYE.0
こんなくだらない会話も出来るくらいには仲良くなった二人だが、実はお互いのことをあまりよく知らない。ドクオは記憶喪失という設定があるため迂闊なことは言えないのだが、渡辺があまり自分のことを話そうとしないのが原因だった。

話したくない理由もあるのだろうが、ドクオとしては渡辺のことをもっとよく知りたい。恋人関係になりたいとかそういうわけではないが、友達ゼロの童貞歴イコール年齢である男にとって美少女を深く理解したいと思うのは普通ではないだろうか。

('A`)(まぁ時間はたっぷりあるし、今後色々話す機会もあるだろ。ゆっくりでいいか)

ゆくゆくはなんでも話せる間柄になりたいとドクオは密かに計画を立てている。

何せこの世界にきて初めて、いや、ドクオの人生において初めての友人なのだ。それに、現実に絶望していたドクオを掬い上げてくれたのも渡辺だった。もしあの時渡辺が来てくれなかったらドクオは間違いなく死んでいたのだから。

('A`)(……そういや、俺どうして生きてるんだろうな)

渡辺を魔物が襲ったとき、それを阻止するためにドクオは身を呈して彼女を守ったはずだ。魔物の爪が自分の体を貫く感触は確かに本物だった。あれはそう簡単に忘れることは出来ないだろう。

それに、渡辺は言っていた。あのあとに大量の魔物が現れ、それを殲滅したのはドクオなのだと。

ベッドに立て掛けてある一本の剣へ視線をやる。

('A`)(どうしてこの剣を持ってるんだろう。俺がこの世界に来たことと関係があるのか?)

考えたところで答えは出ない。しかし、全ての出来事が無関係だとは思えない。裏で誰かが手を引いているのは間違いないだろう。

('A`)(この世界に来る前に見た黒の魔術団ってのが関係してるのか?)

だとすれば、やつらは何故姿を見せないのか。他に目的があるのだろうか、それともーー

从'ー'从「ーーって、どっくん聞いてるのぉ?」

100名も無きAAのようです:2014/05/31(土) 18:11:22 ID:BPnmygfoO
はじまた、しえん

101:2014/05/31(土) 18:12:06 ID:OugCCYE.0
渡辺の声で、ドクオは現実に引き戻された。

('A`)「ん? あぁ、すまん。で、何の話だっけ?」

从'ー'从「むぅ〜。私が話してるのに無視するなんてひどいよぉ〜」

('A`)「悪い悪い」

从'ー'从「何考えてたの〜?」

('A`)「今後の身の振り方とか、まぁ色々。なんせ退院したら宿無しになっちまうし」

从'ー'从「あ、そういえばそうだね〜。どっくんお金持って……ないかぁ〜」

持ってないことはないのだが、こちらの世界では間違いなく使えない。とはいってもたかだか数千円しか入っていないのだが。

从'ー'从「それなら〜、私の家においでよ〜」

と、渡辺が名案とばかりに明るい声をあげた。

私の家においでよ。つまり、一緒に住もうと言うことだろうか?

渡辺と?

俺が?

(゚A゚)「なんですとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

きっかり三秒固まってからドクオは思わず大声をあげた。

102:2014/05/31(土) 18:13:12 ID:OugCCYE.0
('A`;)「あの、渡辺さん? 自分が今何をおっしゃったか意味分かってます?」

从'ー'从「? 一緒に住もうよ〜。私のおうた、一人じゃちょっと大きいんだよぉ」

('A`;)「いやいや、俺男、あなた女。これ分かる?」

从'ー'从「ほえ? どっくん女の子なの?」

('A`)「んなわけあるか。俺のマグナムは普段ちょっと奥手だけどいくときはぐいぐいいくよ? むしろ暴れん棒だからね?」

从'ー'从「そうなんだ〜」

駄目だこの子早くなんとかしないと。絶対意味分かってない。

('A`;)「申し出は確かにありがたいよ? 帰るとこないのは事実だし。けど、一つ屋根の下に若い男と女が一緒ってのは間違いが起こりかねないんだよ?」

从'ー'从「え〜、きっと楽しいと思うな〜。二人でご飯食べたり〜、お散歩したり〜、えとえと、あとはね〜」

ドクオは思う。渡辺は大物か馬鹿のどちらかだと。

というよりは男と女という根本的なところを理解していない。男はいつだって狼なのだ。隙あらばビーストモードに移行して赤ずきんちゃんを簡単に食べちゃうのだ。

103:2014/05/31(土) 18:15:49 ID:yMDGY0mY0
ドクオだってそれは例外ではない。

('A`)「んー、しかし、家がないのは事実なんだよなぁ……」

実に悩み所である。ドクオとしては渡辺と暮らすのは願ってもない申し出だ。男と女という性別の違いを抜きにしてもかなり魅力的だ。しかし、ドクオの理性が持つかどうか。お風呂場でばったり鉢合わせた日にはドクオの暴れん棒は渡辺をいとも簡単に蹂躙してしまうこと間違いなしである。

「ならば私としてはこちらの提案を推奨したいところだな」

思い悩んでいると、扉から声が聞こえてきた。ドクオは咄嗟に身構える。つい先程まで敵のことを考えていたからこその素早さだった。

(´・ω・`)「楽しそうに話をしていたところすまないな。少しばかり失礼させてもらおう」

('A`)「……誰だ?」

警戒を解くことなく、ドクオは短く尋ねる。自分に何ができるとも思えないが、せめて渡辺だけは守らなければならない。

ドアが開き、顔を出したのは、人の良さそうな顔をした好青年だった。モララーのような人を小馬鹿にしたような感じでもなく、落ち着きと品のよさを感じさせる。

从;'ー'从「しょ、ショボン副団長!?」

その顔を見て渡辺がすっとんきょうな声をあげる。

(´・ω・`)「そういう君は、確か渡辺さんだったかな?」

从;'ー'从「なんで私のこと知ってるんですかぁ〜?」

(´・ω・`)「君の話はこの街にいれば有名だからね。とは言っても、こうして顔を合わせるのは初めてかな」

从'ー'从「……」

104:2014/05/31(土) 18:16:47 ID:yMDGY0mY0
渡辺が押し黙り、ショボンは小さくすまないとだけ言うとドクオの方に向き直った。

(´・ω・`)「名乗るのを忘れていたな。私は王都ヴィップ魔法騎士団の副団長を務めているショボンというものだ。君はドクオ君で間違いないね?」

丁寧に名乗るショボンをじっと見つめ、彼から敵意がないことを悟ると、ドクオはようやく肩の力を抜いた。

('A`)「……騎士団って、モララーとかって人がいた、あれか」

(´・ω・`)「そういえば君はモララーに会っているんだったね。その顔を見ると、あまり好意的ではないようだが」

('A`)「その副団長様がこんなとこに何の用だ?」

(´・ω・`)「別に取って食おうというわけじゃない。今日はラウンジ地区での件のお礼と、君に話があってね」

('A`)「……話?」

(´・ω・`)「話を聞いてくれるかね? 君にとっても悪い話じゃないはずさ。記憶喪失である君にも、ね」

どうやらドクオの情報はあちらにほとんど伝わっているらしい。恐らくモララーが報告でもしたのだろう。

(´・ω・`)「ふむ。ではまず、ラウンジ地区での件、本当にありがとう。君の勇気ある行動が大勢の住民を救った。君がいなければ大勢の命が奪われていたところだ。騎士団を代表して礼を言わせていただく」

('A`;)「あ、いや……そんな大したことは……」

騎士団という組織はよく分からないが、副団長というからには相当偉いのだろう。そんな人物から頭を下げられると、こちらとしても恐縮してしまうのは自分の器が小さいからなのだろうか。

105:2014/05/31(土) 18:18:09 ID:yMDGY0mY0
(´・ω・`)「謙遜はしないでほしい。これは厳然たる事実なんだ。それにその功績を踏まえて君に提案があるのだからね」

('A`)「提案?」

(´・ω・`)「ああ。実はね、騎士団内部でも結界消失事件は極めて異例の事態だったんだ。街のあちこちにある魔力増幅炉と、街の中心にある時計塔の術式を用いて結界を作っているのだが、あれはそう簡単に解除できる代物ではないんだ」

('A`)「……加えて身元不明の男の登場。容疑が懸かるのは必然、ですか」

(´・ω・`)「理解が早くて助かる。しかし、その身元不明の男は命を張って大勢の命を救った。仮に君が容疑者だとしても、得るものは特になかったはずだ」

('A`)「現に大怪我を負って入院してますしね」

(´・ω・`)「深読みすれば我々では考えが及ばない壮大な計画があったのかもしれないがね」

('A`)「ま、否定はできませんね。証明する手だてがない」

(´・ω・`)「報告通り、意外と冷静な人間のようだ。まぁ色々と憶測を並べ立てるのはここでは控えさせてもらおう」

(´・ω・`)「先の件で君は大立回りをしてくれたのは紛れもない事実、そして君は不可思議な力を持ってあの場を切り抜けた。ここで問題なのは結界が消えたこととその不可思議な力だ」

('A`)「力? 俺は魔法も使えなきゃ素晴らしい筋肉も持ってませんよ?」

ショボンは目を細めると、ベッドの横に目を向ける。

(´・ω・`)「その剣は君が使っていたものだろう。違うとは言わないな?」

('A`)「……正直なところは、分かりません」

(´・ω・`)「その時のことを話してくれるかい?」

106:2014/05/31(土) 18:19:13 ID:yMDGY0mY0
ドクオはあの時のことを思い出せるだけ話した。自分が魔物にやられ気を失ったこと、その次に目覚めたのはベッドの上だったこと。そして、いつの間にかこの剣があったこと。

(´・ω・`)「俄には信じがたい話だが、ここに証人がいるのだから、違いないのだろうな」

从'ー'从「どっくんは嘘をついてなんかいません」

(´・ω・`)「疑ってはいないさ。信じがたいというだけでね」

('A`)「それで、俺はどうなるんです? モララーがいってた通り尋問でもします?」

ドクオの言葉にいち早く反応したのはショボンではなく渡辺のほうだった。箒を構えて臨戦態勢をとる。絶対に連れていかせないという固い意志が見え隠れしていた。

(´・ω・`)「そんなことはしないさ。言っただろう、私は提案があると」

ショボンは一旦そこで言葉を切るとドクオの目を真っ直ぐに見つめる。嘘偽りのない純粋な決意のようなものが宿っている。

(´・ω・`)「君を騎士団に迎え入れたい」

それがショボンの提案だった。

107:2014/05/31(土) 18:20:21 ID:yMDGY0mY0
ショボンの説明によれば、ドクオが魔物を退けた力の正体が理解不能なもので、その危険性も去ることながら未知の原理が働いている可能性があり放置しておくことは出来ないのだそうだ。

加えてドクオの素性が知れない以上、一般人として普通の生活を送らせるにはリスクを伴ってしまう。

それならば騎士団の監視が行き渡る所に置いた方がいいというのが騎士団や王族の総意なのだそうだ。

(´・ω・`)「もちろん君の衣食住は全て保証しよう。とは言っても一人にさせておくことは出来ないので一人見張りをつけさせてもらうがね」

('A`)「……」

悪くない、というのがドクオの率直な意見だった。

こちらの世界で宛のない生活に身を置くよりは、監視付きとはいえ生きることはできる。何より、ドクオがこちらに来た経緯を考えればより安全といえる。

('A`)「確かに俺としては願ってもない良条件ですけど、そちらにメリットがあるんですか?」

(´・ω・`)「まず一つに君の生活に制限を与えられるね。監視されてるのだから妙な動きをすればすぐに対応できる」

(´・ω・`)「二つ目に万が一が起こった場合の戦場だ。君の力は未知数だからね。被害がどれ程になるか我々でも予測がつかない。であれば騎士団だけで対応できる方が好ましい」

(´・ω・`)「三つ目は、君への圧力。騎士団に衣食住の全てを任せるということは君を生かすも殺すも我々次第」

うまく考えられている、とドクオは素直に感心する。下手なことをすればいつでもドクオを殺せると圧力をかけていけば、いつかはぼろがでるだろう。

結局のところドクオは信頼されていない。その上で一つの組織ができる最大の譲歩がこれだということなのだ。

108:2014/05/31(土) 18:21:15 ID:yMDGY0mY0
从;'ー'从「ふえぇー、どっくん騎士団に入るのぉ〜? 学校出てないのにすごいよぉ〜」

(´・ω・`)「厳密に言えば身柄を預かるだけさ」

信頼してもいいのだろうか。騎士団というものが国を守るための組織である以上、先程述べた理由は建前だ。いくらドクオが怪しいといっても身内に率いれるのは相応のリスクが伴う。ならば他に理由があると考えるのが妥当だろう。

例えば、犯人を誘き出すための囮。

騎士団にドクオが入ることで敵はドクオに手を出すことが難しくなる。それを踏まえてでも姿を見せるということはやつらの目的が達せられるのも近いということをさす。

逆にまだ時間がかかるということは実行に移す段階に至っていないことになる。国が総力をあげて守るものを奪うにはそれなりの準備と覚悟が必要になるからだ。その間に騎士団が敵を突き止めればゲームは終わる。

恐らく、ショボンはそこまで見越して提案をしているのだ。

('A`)「分かりました。<ご協力しましょう>」

(´・ω・`)「<こちらとしても手間が省けるよ>」

不意に視線を交わす二人。ショボンの目にはいったい何が写っているのか。どこまで先が見えているのからドクオには想像がつかなかった。

(´・ω・`)「では具体的な日程などは近いうちに使いをよこそう。まずは君の体を治すのが先決だ」

('A`)「分かりました」

(´・ω・`)「失礼する」

くるりと華麗に踵を返すと、ショボンは堂々たる華麗な動作で部屋を去っていった。その後ろ姿はどこか男というものを感じさせた。

109:2014/05/31(土) 18:22:06 ID:yMDGY0mY0
从'ー'从「ふわぁ〜、まさかどっくんが騎士団に入るなんて思わなかったよ〜」

ショボンが去ったあと、渡辺はそんなことを言った。

そりゃそうだろう。ドクオだって驚いている。

('A`)「まぁあっちはあっちで他の目的があるっぽいけど。にしても、なんかなぁ」

今考えると、提案の一つでもしておけばよかったかなぁと思う。

せっかくの、渡辺との同棲生活。

帰ってきたらお風呂にする? ご飯にする? それともわ・た・し? とか、お風呂場でばったりとか、ロマン溢れる展開が待っていたかもしれないというのに。

从'ー'从「それじゃ〜お祝いだねぇ〜」

ほわわーんとした口調で渡辺が告げる。聞いている者の高ぶった精神を和らげる効果に一旗あげられそうだ。

('A`)「いや、ないな」

この娘にとって男も女も全て等しく<友達>で収まるのだろうことは想像にかたくない。この数日間の生活でそれぐらいはわかるようになったのだ。

普段から頭がお花畑な彼女のことだから先程の提案にも特に深い意味はなかったのだと思う。家がないなら面倒見るよ、的な。

从'ー'从「どっくん住むところ見つかって良かったねぇ〜」

('A`)「ん? まぁ、そうだな。せっかく誘ってくれたのに悪い気もするけど」

从'ー'从「気にしなくていいよぉ〜。それに、この街にいればいつでも会えるもん」

('A`)「はは、違いないな」

ドクオの新しい生活はこうして幕をあける。魔法の世界で、新たな仲間と共に。

110:2014/05/31(土) 18:23:06 ID:yMDGY0mY0
◇◇◇◇

それからさらに数日後、ドクオは渡辺と共に騎士団の寮へと向かっていた。もちろん渡辺の箒に乗って。

相も変わらす不安定な箒にドクオは渡辺に密着していた。周囲には同じように箒で空を飛ぶ魔法使い達があっちこっちと飛び交っているが、よく落ちないなぁと感心するばかりである。

横に進むだけでなく縦方向にも動いているので体制も不安定だというのに、見ていて安心感があるのはなぜなのだろうか。

('A`)「魔法使いは宇宙に行ってもうまく生活できそうだな」

从'ー'从「ウチュウ?」

ドクオの独り言に渡辺が反応するが、ドクオは何も答えなかった。

('A`;)(あっぶね。俺ってば記憶喪失の設定なのにこんなこと口走っちゃ駄目じゃん)

自分の浮わついた心をうまく押し込めて生活しないと、すぐにぼろが出そうになる。別に記憶喪失を隠さなくてもいいとは思うのだが、簡単に言えば引っ込みがつかなくなっているのである。

渡辺にせよショボンにせよ異世界から来ましたと言えばそれに至るまでの理由をきちんと話せばそれですむ話なのだが……。

会社で小さなミスを隠してたらなんだか大事になっていた時の気分を味わうドクオ、二三歳の夏であった。

从'ー'从「あ、見えてきたよぉ〜」

111:2014/05/31(土) 18:25:38 ID:xumOU3Zc0
どうでもいいことを考えていると渡辺が声をかけてきた。直方体のアパートのような建物がいくつも並んでいるのが見える。どうやらあれが騎士団の寮のようだ。

ドクオとしてはてっきり騎士団本部の土地内にあるのかと思っていたのだが、あくまでその近くにあるだけのようだった。ドクオの知らない機密情報の守秘義務的な色々があるのかもしれない。

('A`)(つっても職場の中に寮がある会社なんか見たことないし、これが当たり前なのか)

渡辺と共に寮の前に降り立つと、ショボンともう一人ーー小さな女の子で渡辺と同様三角帽子をかぶっているーーが二人を出迎えてくれた。

从'ー'从「こんにちはー」

渡辺がにっこりと挨拶をすると、ショボンが柔らかな笑みを浮かべて、

(´・ω・`)「わざわざ出向いてもらってすまないな。本来であればこちらから迎えにいくべきなのだろうが」

('A`)「気にしないでください。住む場所を用意してくれるだけでもありがたいですから」

社交辞令のような挨拶を交わし、ドクオは今最も気になっていることを聞いてみた。

('A`)「この子は?」

(´・ω・`)「む? ああ、君の部屋の隣に住む監視役さ。こんな成りをしているが立派な騎士の一人さ」

(*゚ー゚)「初めましてドクオさん。騎士団特殊魔法遊撃隊所属のしぃといいます。これからお隣同士よろしくお願いします」

('A`;)「お、おぉう」

(´・ω・`)「こう見えて彼女は優秀でね。若干十四歳ながら大魔導師なんだ」

112:2014/05/31(土) 18:28:06 ID:rCSdatdo0
ショボンがしぃの紹介を淡々としているがドクオはその内容がちっとも頭に入らなかった。

隣? 女の子? 監視役?

といった具合に女の子が自分の部屋の隣に住むという事実に混乱していたからである。

('A`)(渡辺が一番可愛いが、いやいやロリというのもこれはこれで)

从#'ー'从「むぅ」

鼻の下を伸ばしていたドクオの足に激痛が走った。渡辺が足を踏みつけたようだ。

('A`;)「ほあぁぁぁぁぁ!!」

从'ー'从「どっくんのバカ」

一瞬自分にフラグが立ったのだろうか、と思うが、もしかしたら渡辺はドクオのだらしなさに怒ったのかもしれないと考え直す。

自分の身の丈を考えなければ後々痛い目に合うのは知っているのだ。

(;*゚ー゚)「あの、大丈夫ですか?」

しぃがドクオの身を案じ、手を差し出すと柔らかい光が体を包み込む。光が消えた途端、ドクオの足の痛みが消えた。

('A`)「……お?」

(*゚ー゚)「回復魔法です。痛みが消えたと思います」

('A`)「これが回復魔法か」

やはりこの世界が元いた世界ではないのだと改めて認識する。

入院中にもいくつか回復魔法を受けてはいるのだが、それらは全てドクオの意識がないところでの話だった。感覚的にはこれが初めて受ける回復魔法なのである。

(´・ω・`)「さて、そろそろ君が住む部屋に案内しよう。私もこれから大事な会議があるのでな」

('A`)「あ、すいません。ほら、渡辺もいくぞ」

从#'ー'从「ぶーぶー」

113:2014/05/31(土) 18:29:17 ID:rCSdatdo0
膨れている渡辺の手を引きながら、寮へと向かう。白い壁で作られたアパートのような外見通り、ドクオの世界でよく見たタイプとほぼ同じ内装のようだ。

いくつかの棟に分かれ、その間に二階へ上る階段、内装は知らないが格安の市営アパートのようにも感じる。

建物は二階までしかないようなので高さはない。横幅を考えれば間取りはそれなりに広いのかもしれない。

(´・ω・`)「ここがドクオ君が住んでもらう部屋だ」

ショボンが立ち止まった部屋はアパートの右端の二階である。ということは、その反対側にある扉がしぃの住む部屋なのだろうか。

中に入ると玄関があり、左側にキッチン、右側にトイレとシャワールーム。奥に進むと六畳ほどの部屋が二つ並んでおり、二部屋を区切るようにスライド式のドアがあった。

('A`)「いい部屋ですね」

(´・ω・`)「最近改装したばかりだからな。このくらいなら住むのに困らないだろう」

すでに家具などは運び込まれているようで、あちらこちらに梱包用と思われる箱が散乱していた。必要最低限の家具とはいえ、結構な量である。

114:2014/05/31(土) 18:32:09 ID:Hky.zwyE0
(´・ω・`)「他に必要なものがあればこれで連絡してくれ。とはいっても審査があるだろうからすぐには手に入らないだろうがね」

そういってショボンが渡してくれたのは小さなタブレットのような端末と、お金が入った袋だった。端末の方は見た感じこの世界での携帯電話のような役割なのかもしれない。

('A`)「いやー、これで十分ですよ」

ドクオが端末をいじくりながら答えると、後ろのほうから渡辺の楽しげな声が聞こえてきた。

从'ー'从「あー、どっくん見てみてー。トイレとお風呂が別々だよぉー」

('A`)「俺より楽しそうだなあいつ」

(´・ω・`)「では近いうちに今後の予定などをしぃに伝えさせよう。私はそろそろ行かなくてはならない」

('A`)「分かりました。何から何までありがとうございます」

(´・ω・`)「なに、君が敵でないのならこれぐらい安いものさ。それではな」

ショボンが出ていくと、傍らにいたしぃがさて、と一歩前に出る。

(*゚ー゚)「それでは片付けでもしましょうか」

('A`)「え? いや、一人で出来るから大丈夫だって」

(*゚ー゚)「でもドクオさん、話によれば記憶喪失でしたよね? 魔法使えるんですか?」

('A`)「あー、いや、使えないけど」

(*゚ー゚)「それならお任せください。これぐらいなら魔法ですぐ終わりますから。では、家具の配置などを指示してください」

115:2014/05/31(土) 18:51:58 ID:EuspDjiA0
魔法ってそこまで出来るのかよ、とドクオは半信半疑ながらクローゼットを部屋の隅に置いてくれるよう頼んだ。

それを聞いたしぃはポケットから小さな折り畳み式のステッキを出してクローゼットに向ける。すると、

('A`)「おおー」

クローゼットが持ち上がり、ドクオが指定したところまでやってくるとゆっくり降りてきた。

(*゜ー゜)「こんなものです。もっと
詳細な配置図を作っていただければ一瞬で終わりますよ」

从'ー'从「ほぇー、しぃちゃんすごいよぉ〜


このようなやり取りを終えたあと、ドクオが指定した場所へしぃは家具を配置していく。その間渡辺はショボンが用意してくれた台所用品などを整理してくれた。

一日かかるかな、とドクオが思っていた片付けはしぃの活躍によってほんの一時間で終わってしまったのだった。ちなみにドクオは何もしていない。

('A`)「二人ともありがとう。すごい助かった」

(*゜ー゜)「いえいえ、これくらいなら朝飯前ですよ」

从'ー'从「私もお片付けは得意なんだよ〜」

その後、ドクオはしぃの部屋も片付けがあるのか聞いてみたが、ずいぶん前からしぃはその部屋に住んでいたとのことだった。だからこそしぃがドクオの監視役に選ばれたそうなのだが、この世界のジェンダーはどうなっているのか不安になる。

さすがにこのままはいさよならというのもなんだか申し訳なく思ったドクオは、先程ショボンからもらったお金を取りだし、

('A`)「なら、せめて飯でも奢らせてくれよ。日用品とかも買いたいし、そのついでといっちゃなんだが」

(*゜ー゜)「それくらいなら甘えさせていただきます」

从'ー'从「じゃあどっくんに街を案内するよぉ〜。んとね〜、おすすめのアイスクリーム屋さんと〜」

('A`;)「街に繰り出してから教えてくれよ」

あれこれ考えだす渡辺に呆れつつ、ドクオは彼女の手を引いて街へと向かうのだった。

116:2014/05/31(土) 18:53:10 ID:EuspDjiA0
◇◇◇◇

(´・ω・`)「報告にあがりました、陛下」

ショボンはきらびやかな謁見の間の中央に跪く。この場には自分と、玉座に腰を下ろした初老の男しかいない。本来いるべきはずの護衛のものたちは席を外させている。

( ΦωΦ)「ご苦労なのである、ショボン。して、進捗の方は?」

(´・ω・`)「依然滞りなく進めております。寮には見張りをつけておりますので妙な動きをすれば騎士団総力をあげてすぐにでも始末は可能です」

( ΦωΦ)「ふむ、しかし、報告によれば彼が持っている剣は……」

(´・ω・`)「はい。古文書を当たらせましたところ、例のもので間違いありません」

( ΦωΦ)「さらには<忌み子>もいるのであろう? 我輩の計画に支障を来さねばよいが」

(´・ω・`)「ご心配なく。遠征に行っているジョルジュ騎士団長から報告があがっております」

( ΦωΦ)「それは誠か?」

(´・ω・`)「こちらがその親書になります」

ショボンは一枚の新書を王へと献上する。王がそれを読む間、ショボンは今回の件について思案した。

そもそも、ドクオという青年がこちらがわにやってきたのは黒の魔術団の仕業であることは騎士団の上層部含め王族の連中にも知れ渡っている。記憶喪失だなんてのも嘘であることも当然分かっている。

そして、彼が偶然巻き込まれた被害者であることも。

しかし、そこが問題ではないのだ。異世界の人間がこちらがわに偶然来てしまったことは今までにも報告が上がっている。今回のことも例に漏れずその偶然の一つにすぎない。

問題なのは、彼の持っている赤黒い剣。この世界の歴史において最も人を殺し、神をも殺したあの魔剣が、何故今になって現れたのか。

もちろん黒の魔術団がそれに一枚噛んでいることは分かっている。だが、どこから魔剣を呼び出し、彼を持ち主とさせることが出来たのか、それらがショボンを悩ませているのだ。

( ΦωΦ)「どうやらうまくやっているようであるな」

(´・ω・`)「では?」

( ΦωΦ)「うむ。計画を少し早める必要があるのである。早急に件の物を見つけるのである」

(´・ω・`)「仰せのままに」

そういって一礼し、ショボンは謁見の間をあとにした。

117:2014/05/31(土) 18:54:11 ID:EuspDjiA0
(´・ω・`)「ふぅ……」

騎士団本部にある自室に入ると、ショボンは大きな溜め息を吐いた。

黒の魔術団も余計なことをしてくれたものだ。ドクオという偶然は仕方ないにせよ、魔剣はどうしようもない。何せあれにはこちらの魔法が通じないのだ。

伝承通りであれば、あれは本来人が持つことの出来ないものである神器の一つなのだ。一度剣を握れば体中のマナというマナを喰われ、最終的に死に至らしめる。

だが、どういうわけかその持ち主であるドクオは未だ健在で、特に異常をきたしている様子もない。

医者のカルテにも目を通したが、確かに通常よりはマナの生成量が少なくはあるが、生活に問題ないということだった。

つまり、黒の魔術団が何かしらやったのだろう。

不幸中の幸いは、ドクオが思っていたよりも善人だったことだろう。あれは人も、動物も、魔物でさえも問答無用で一撃なのだから。

(´・ω・`)「早く黒の魔術団を見つけなければ」

ショボンは休む間もなく次の仕事へと移る。全ては王都のため、王のために。

118:2014/05/31(土) 18:56:24 ID:EuspDjiA0
とりあえず第二話前編終了です
なんか色々詰め込みすぎた感が満載ですし地の文がグダグタしてるのは許してください
これを書きながらスキルアップでもすればなぁとか思っています
投下中の支援ありがとうございました
死ぬほど嬉しかったです


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