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マト ー)メ M・Mのようです

67名も無きAAのようです:2013/10/12(土) 03:52:05 ID:hnK84G7E0

 ここまでだといっそ清々しく感じてしまう。
 だから僕はこう返す。


( ^ω^)「そういうのが嫌いだって言ったんだお。君は僕に雇われたんだ、お金の分だけ働いてくれればそれでいい」


 僕にだって事情がある。
 思惑がある。
 だからそういうことは気にしなくていい。


マト^ー^)メ「ブーンさんは本当にドライです」

( ^ω^)「お金持ちだからね。現実的で情に絆されないし、でも余裕があるから人には優しい」

マト゚ー゚)メ「そう言えば優しいお金持ちのブーンさんに私は謝らなければならないことがあります」


 まさか、と僕が口にする前に彼女は告げた。


マト゚ー゚)メ「もうそろそろ追っ手が来ます」

68名も無きAAのようです:2013/10/12(土) 03:53:04 ID:hnK84G7E0

 *――*――*――*――*


( `ハ´)


 現れたのは背の高い男だった。
 まだ暑い日も時折ある九月には少し気が早い感じのする秋物のジャケットを羽織っている。
 全体的に黒系統の服装で頭にはニット帽。
 僕の傍にいる少女もニット帽を被っているので「あの帽子は正体の分からない怪しげな人間が被るもの」と認識が歪んでしまいそうだ。

 大陸系の顔立ちの男が懐から拳銃を抜いたのとミィがこちらに飛び掛かってくるのはほぼ同時だった。
 飛び掛かってきたのではなく僕を守る為に床に伏せさせたのだということは銃声が二度響き古びたボウリング場に弾丸が二発埋まった音で理解できた。


マト゚ー゚)メ「大丈夫ですか?」

( #^ω^)「ああ、腸が煮えくり返っている以外はな。お前との契約を打ち切って別の用心棒や探偵を雇った方が良い気がしてきたお」

マト^ー^)メ「それも賢明な判断だと思います」


 布越しに腕や腰に伝わる彼女の女性らしい柔らかな感触は僕の怒りを収めるに至らない。
 お前は『目に見えている』のかもしれないが、こっちは一瞬死んだかと思った。 
 銃弾に当たらぬようにと椅子の陰に隠してくれたのはありがたい限りなものの押し倒される時に肩を強打したのも事実である。

69名も無きAAのようです:2013/10/12(土) 03:54:05 ID:hnK84G7E0

 伏せていてください、と彼女は告げ中腰の姿勢に体勢を変える。
 ボウリング場には男の足音と声が響く。
 入り口のカウンターに座っていた店長らしき爺さんは無事だろうかとふと気になった。


( `ハ´)「ニット帽のオンナ。両手を上げこちらに来い」


 お前もニット帽だろというツッコミはご法度だ。
 あの華僑のはぐれ者かマフィアの使い走りか何かの中国人は拳銃を持っている。
 金が影響力であるのは勿論だが、銃器という暴力も分かりやすく強い影響力を持つことは僕でも分かる。
 その力で、彼は自分の望む未来を作ろうとしている。

 呼ばれた少女は僕からゆっくりと立ち上がる。
 僕から少し離れたその場所で。


マト^ー^)メ「こんばんは」

( `ハ´)「ああ、こんばんは」


 床に伏せたままで遮蔽物の陰からそっと様子を伺う。
 およそ堅気の者とは思えない目付きの男の姿はハリウッド映画に出てくる三合会の殺し屋のようだ。
 決まり過ぎていて現実とは思えない。

70名も無きAAのようです:2013/10/12(土) 03:55:04 ID:hnK84G7E0

 そんな相手を目の前にしても、あの正体不明の少女はふわふわと微笑んだままだ。 
 こうなることは彼女にとっては『目に見えていた』ことなのだろう。
 都心部を離れこんな潰れる寸前のボウリング場を訪れたのも敵が襲いやすい場所に移動するためだった。


マト゚ー゚)メ「あなたは、私を知っていますか?」


 その問いを投げ掛けるために。
 考えてみれば、自分の正体を知りたければ自分を狙う追っ手に訊くのが一番手っ取り早い。

 だが答えは芳しいものではなかった。


( `ハ´)「知らん。私が知っているのはお前を捕まえ連れて行き引き渡せば金が貰えるということだけだ」

マト^ー^)メ「そうですか」


 両手を上げたままでアプローチに立つ彼女。
 拳銃を向けられていてもその横顔に恐怖や不安の色は伺えない。
 男の立つ場所までは五、六メートルだろうか。
 その程度の距離ならば照準機などなくとも的には当たる。

71名も無きAAのようです:2013/10/12(土) 03:56:04 ID:hnK84G7E0

 デッド・オア・アライブ。
 記憶喪失の少女を捕まえに来た男は「生きたまま連れて行く」とは一言も述べていない。

 そして、全てを理解した上で彼女は笑っている。


マト^ー^)メ「ああ、あなたは私のことを本当に知らないんですね。知っていないのであれば拳銃を向けた程度で安心していることも納得できます」

( `ハ´)「……何?」


 そうでしょう?と彼女は続ける。



マト ー)メ「だって、あなたが放つ銃弾が私に一発も当たらないことは、目に見えている―――」



 男は言い返さずにただ引き金を引いた。
 それまで銃口を向けていた頭部から瞬時に狙いを変更し急所を避けて銃を撃った。
 威嚇ではなく彼女を黙らせるつもりでだ。
 その仕事振りは荒事を職業としている者に相応しい容赦のなさだった。

72名も無きAAのようです:2013/10/12(土) 03:57:05 ID:hnK84G7E0

 僕は彼がプロであることを理解し。
 また自分が雇った人間があの男以上の能力を持つことを理解した。

 外れていた。


マト^ー^)メ「言った通りです」


 身体には傷一つもない。
 少女は軽く身体をズラしただけで射線から逃れていた。
 昼が終われば夜が来ることと同じほど当然に銃弾は当たらなかった。

 ただ男の次の行動も早い。
 全く動揺することもなく二発目、三発目と撃ち少女を狙う。
 対し少女は少しずつ全身しながら躱し続ける。

 二発目。
 当たらない。
 三発目。
 当たらない。

 銃弾の速度を考えれば避けられるはずがない。
 だがそれでも当たるはずのないことは傍から見れば火を見るより明らかだった。

73名も無きAAのようです:2013/10/12(土) 03:58:04 ID:hnK84G7E0

 攻撃を見てから回避に移るのではない。
 銃口を向けられる段階、相手が照準を定める段階で既に回避行動が始まっている。
 攻撃の前に回避ができる。
 それが「未来が見える」ということの何よりの証明だ。

 五発目の弾丸を踊るように避けながら彼女は足を蹴り上げた。
 床に落ちていたタオルを男の視界を遮るように中空へ飛ばしたのだ。

 最早焦りを隠すこともできない敵はそれでも素早く彼女を狙った。
 幾度目かの銃声が響いたが、それもやはり大気を揺らし切り裂くだけに終わった。
 寸前に拳銃を掴む男の右腕を払い射線そのものを逸らしたのだ。


(;`ハ´)「くそっ!!」


 静止は一瞬。
 次の瞬間には男は左腕で新たに回転式拳銃を抜き撃つ。
 ……いや、「撃とうとした」だけだった。
 男が銃を抜いたところで彼女はシリンダーを掴み、無力化していた。

 口を開き男は何かを言おうとした。
 だがそれさえも許されなかった。
 繰り出された少女の蹴りが男の股間を強打し、全てが終わった。

74名も無きAAのようです:2013/10/12(土) 03:59:05 ID:hnK84G7E0

 *――*――*――*――*


 床に倒れた襲撃者の男は股間を抑え悶絶している。
 その姿に現れた時のような威圧感はない。 
 既に二丁の拳銃は少女に奪われ、万に一つにも彼の勝ち目はなくなっていた。

 あまりにも酷い光景に僕は訊いた。


(;^ω^)「……いくらなんでもやり過ぎじゃないかお?」

マト-ー-)メ「そうですか? あの状況で攻撃可能で最も防御の手薄な部位を狙っただけです」


 そりゃそうだろうよ。
 女子には分からんのだろうなあと思っていると彼女が銃を構えた。
 咄嗟に腕を掴み止めた。


( ^ω^)「待て。何してるんだお」


 彼女は倒れた男に銃を向けていた。

75名も無きAAのようです:2013/10/12(土) 04:00:04 ID:hnK84G7E0

マト゚ー゚)メ「彼は私のことを知りません。私にとって価値がないことは目に見えています」

( ^ω^)「だから殺すのかお?」

マト゚ー゚)メ「ブーンさんにとっても価値がないと思いますが。優しいというお金持ちはヒューマニストなんですか?」


 どうやら。
 彼女は男子特有の痛みを分からないだけではなく――そもそも人の痛みが分からないらしい。
 他人を傷付けることに躊躇いが、ない。

 僕はどう言うべきか考え、結局はこう告げた。


( ^ω^)「雇用主命令で殺しはなしだ。できれば傷付けることも。お前だって本当に指名手配犯になりたいわけじゃないだろ?」

マト-ー-)メ「それはそうですね」

( ^ω^)「未来が見えるくせにそんなことが分からないのかお」

マト゚ー゚)メ「未来が見えるから捕まらない自信がありますし、私が正確に見える未来は数秒先までです。分を超えると可能性しか見えません」

( ^ω^)「そういう細かな話はまた後で聞くお。とりあえず銃を下ろせ」

76名も無きAAのようです:2013/10/12(土) 04:01:04 ID:hnK84G7E0

マト゚ー゚)メ「いいんですか?」

( ^ω^)「何がだお」

マト゚ー゚)メ「撃たれますよ?」


 何を、と言おうとした刹那に彼女は男を撃った。
 銃声に次いで悲鳴が響き渡る。
 男に目をやると、腕を撃たれたようで右手から血が流れ出ていた。

 そして彼の近くには隠し持つことを前提とし作られた小型拳銃が落ちていた。
 股間の痛みに苦しむフリをして取り出していたらしい。


マト^ー^)メ「早速付け加えられた契約条件を破ることになりましたが……この場合は構いませんよね?」

(;^ω^)「……ああ。ありがとう」


 端的に礼を述べて僕は続けた。


( ^ω^)「でもトドメは刺さなくていいお。訊きたいことがある」

77名も無きAAのようです:2013/10/12(土) 04:02:03 ID:hnK84G7E0

 そうして僕は背後に落ちていたタオルを拾うと倒れたままの男に手渡す。
 抵抗する様子はなく、ただ痛みに耐えている。
 命を助けてやろうとしている最中に撃ってきたのだから情状酌量の余地は全くない。
 が、あんな反則な能力を持つ相手と戦ったことに関してだけは同情はしてもいいだろう。


(;`ハ´)「……なんだ。安いヒューマニズムは自分を殺すぞ」

( ^ω^)「知らないのかお? この世はラブ&ピースだ。一緒に唱えるか?」


 結構だ、と苦虫を噛み潰したような表情で吐き捨てる。
 命乞いをしないのは覚悟して仕事に望んでいたからだろうか。


( ^ω^)「質問があるお。お前はアイツを連れて行けば金が貰えると言った。依頼人がいるということだお。誰だ?」

(;`ハ´)「答えると思うのか?」

( ^ω^)「バラしたら殺されるのかもしれないが、今吐かなきゃコイツに殺されるお?」


 僕は銃口を覗き込んでいる記憶喪失の少女を指差した。

78名も無きAAのようです:2013/10/12(土) 04:03:03 ID:hnK84G7E0

 彼女がどういう存在なのかを思い出したのか遂に男は重い口を開いた。
 だが。


(;`ハ´)「依頼人は………………あ、?」

( ^ω^)「どうかしたかお?」

(;`ハ´)「依頼をしてきた人間は、会ったはずなんだ。なのに。何故だ――何も、思い出せない……!」


 支離滅裂な言葉だった。
 錯乱しているか、そうでなければ誤魔化しにも思える振る舞いだった。
 しかし僕の見る限りにおいては演技ではなかった。

 この男も、記憶を失くしている――?


(;`ハ´)「馬鹿な。顔も見たはずだ、男か女かさえ思い出せないなんてことがあるはずがないのに! くそっ!!」


 腹立たしげに無傷の左手で地面を叩く。
 彼自身も訳が分からないらしかった。

79名も無きAAのようです:2013/10/12(土) 04:04:05 ID:hnK84G7E0

 少し考え、僕は質問を投げ掛けた。


( ^ω^)「引き渡し場所は覚えてるだろ? 報酬を貰う場所でも良いお」

(;`ハ´)「それは……覚えている」


 彼の告げた住所を僕はスマートフォンに打ち込む。
 こう短期間に何人も記憶喪失の人間を見ると覚えたはずのことでもメモ帳にでも書いておかないと心配になる。
 もう一度場所の確認を取り、懐から小切手を取り出す。
 胸ポケットのペンで自分の名前を記し金額の欄にゼロをいくつか書いた。


( ^ω^)「ほら」

(;`ハ´)「は……?」

( ^ω^)「情報料だお。腕の治療費にでも当てると良い」


 ついでに依頼人から命を狙われる可能性があると思われるので逃走費用として。
 流石に皮肉が過ぎると思ったので口には出さず、男のジャケットに小切手を押し込んだ。

80名も無きAAのようです:2013/10/12(土) 04:05:03 ID:hnK84G7E0

 行け、と僕は言った。
 彼は立ち上がりボウリング場を去ろうとする。
 途中何度か振り向いたが、最後には迷いなく走り去っていた。

 ボウリングボールを拭く用のタオルで止血していたから雑菌が入っただろうなあと考えていると声を掛けられる。
 声の主は無論、彼女だ。


マト゚ー゚)メ「優しいんですね。愚かなほどに」

( ^ω^)「金持ちは優しいと言ったお?」

マト^ー^)メ「そうですか。なら私が色々と言わなかったことも許してくれますよね?」

( ^ω^)「ふざけんなコラ」


 小切手の束で頭を叩くとまた少女は「ふみゅ」という風に鳴いた。
 全く最悪な月曜だと僕が呟くと、もう火曜日ですよと言ってきたのでもう一度頭を叩いておいた。


マト^ー^)メ「今日が最悪な日だったとしても、でもあなたが引いた私というカードは最高だったと思います」


 それは否定できないのが悔しかった。

81名も無きAAのようです:2013/10/12(土) 04:06:03 ID:hnK84G7E0


  こうして月曜日は終わり僕と彼女は他人ではなくなった。
  僕は彼女を雇い、彼女は無職ではなくなった。

  僕と彼女の関係はフィクションにあるような善意に基づいた甘い関係ではない。
  相手を必要としていると言えば聞こえはいいものの、それは利用し合ってるということと同義であるのは明らかだ。
  しかしそこに信頼関係が全くなかったと言えばそれも嘘ではあるのだが。

  尤もこの時には僕にも彼女にもお互いに明かしていない隠したままのことがあったのだけれど―――。




        マト ー)メ M・Mのようです


        「第二話:憂鬱な月曜日」





.

82名も無きAAのようです:2013/10/12(土) 04:07:03 ID:hnK84G7E0

【現時点で判明している“少女”のデータ】

マト゚ー゚)メ
・名前:本名は不明、現在の呼び名は「ミィ」
・性別:女?
・年齡:不明(外見年齡は15〜17程度)
・誕生日:不明
・出身地:不明
・職業:記憶を失う前は不明、現在はボディーガード
・経歴:不明
・特記:『未来予測』の能力を持ち、限定的ながら未来が見える。精確に予測できるのは数秒先までで一分以上先のことは可能性が見えるのみ。
・外見的特徴:身長160代前半。赤みがかった茶髪。整った容姿。値札の付いたままのニット帽。量販店で変えるような服装。

・備考:
 気が付いた時には記憶(エピソード記憶)を全て失っていた。
 その当時の所有物は細工の入った銀の指輪のみ。 
 一人称は恐らく「私」。この国の言語で話しているので海外に住んでいたとは考えにくい。
 知識(意味記憶)として一般には知られていない生体兵器についての知識を有する。
 人を傷付けることに躊躇いはないらしい。

83名も無きAAのようです:2013/10/12(土) 04:08:09 ID:hnK84G7E0

【現時点までに使われた費用(日本円換算)】

・食事代 約1,700円
・タクシー代 約6,000円
・ボウリング料金 約3,000円
・情報料 約3,000,000円
______

・合計 3,010,700円


【手に入れた物品諸々】

・自動拳銃(ベレッタ M96) 残弾数二発
・回転式拳銃(S&W M610) 残弾数六発
・襲撃者の男が引き渡し場所に指定された場所の情報

84名も無きAAのようです:2013/10/12(土) 04:09:11 ID:hnK84G7E0

以上で第二話は終了です。
サクッと読める作品を目指していたはずですが、二話を終えてみると割と濃い内容だったかなと反省しています。
ところでたまには次回予告でも書こうかなーと考えていますが、需要はあるでしょうか。

それでは第三話もよろしくお願いします。

85名も無きAAのようです:2013/10/12(土) 09:26:08 ID:kBnvfs320
乙!
面白かったよ、ぜひ無理のない範囲で頼む

86名も無きAAのようです:2013/10/12(土) 15:21:16 ID:SlXfupKUO
宵の時間に投下きてた、今から読む

87名も無きAAのようです:2013/10/13(日) 01:25:22 ID:MQmFTntE0

追われる身なのに慌てる様子もなく常に笑顔なミィ。
記憶喪失なのに慌てた様子もない、のほほんとしている彼女は楽天家なのか。
その反対に彼女の一挙手一投足に驚かされ、振り回されるブーン。正反対の二人が互いの目的のために手を組んだ。パートナーとなった二人にはこれから何が待ち受けるのか。

投下予告はあった方がいいです、リアルタイムで見れるので。

88【第一話予告】:2013/10/13(日) 03:39:02 ID:VqWP1CZA0

「変な語尾のお兄さんと記憶喪失の少女。まさにボーイ・ミーツ・ガールです」

「その呼び方やめろお。そしてお前が僕の物語のヒロインとか絶対に思いたくねぇお」

「どうしてですか?」

「女子を棒で貫くのは男だけで十分って話だお」

「その発言は女性に向けるようなものではありませんね。そうそう、ブーンさんはお金持ちですが、私もお金持ちかもしれません」

「は?」

「私はこの国を救うために選ばれた人間で実は記憶は自分で消したんです。百億円の電子マネーが入った携帯が何処かにあるかもしれません」

「僕にはお前が何言ってるか全然分からないお」

「私がお姫様かもしれないという話です。ブーンさんはお姫様を拾ったのかもしれません」

「お前はお姫様だったとしても、精々ブラッティ・メアリーだお」



 ―――次回、「第二話:Madding Monday」

89作者。:2013/10/13(日) 03:40:04 ID:VqWP1CZA0

自分が言った「次回予告」はこういうオマケみたいなもののことだったんですが、投下予告もあった方が良いでしょうか?
予告しておけば安価使いやすいでしょうし、検討しておきます。

90名も無きAAのようです:2013/10/13(日) 11:34:37 ID:tTTeq/8.0
安価も使うのか!
久々に期待できる作品だ

91名も無きAAのようです:2013/10/13(日) 15:46:26 ID:2FLV0xI20
つまりブーンは犬臭い、と。

乙乙

92【第二話予告】:2013/10/31(木) 01:19:27 ID:D8fkVn9g0

「そう言えばブーンさん。一つ思い出したことがありました」

「なんだお藪から棒に。その思い出したことっていうの、お前が頭の螺子を落とした場所だと嬉しいんだが」

「ボウリング場で戦ったことで思い出しました。『私はこういう場所で銃撃戦をするようなエキセントリックなマンガが好きだった』と」

「マンガの話かお! そんな元一流商社のサラリーマンが海賊やってるガンアクションみたいな展開は僕は御免だお。それこそ最悪だ」

「昼間に本屋で立ち読みしましたがとても面白かったです」

「しかも思い出したのって記憶失った後のことじゃねぇかお!!」

「ブーンさんはお嫌いですか?」

「何を訊いてるのかイマイチ掴みかねてるが、少なくとも銃と金があれば天下太平なみたいな世界は嫌いだお」

「じゃあどんな世界が好きなんですか?」

「無論、穏やかな日常が続く世界だお。一緒に唱えろ。この世はラブ&ピースだ」



 ―――次回、「第三話:Murder Machine」

93名も無きAAのようです:2013/10/31(木) 01:20:20 ID:D8fkVn9g0


というわけで、今のところは今週の土曜日(11月2日)の夜に投下予定です。
延期になるかもしれませんが、その場合は早めに連絡します。

94名も無きAAのようです:2013/10/31(木) 03:11:46 ID:l.SP0e520

待ってる

95名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 21:54:27 ID:LaKfohcg0


  彼女は僕と出逢って。
  僕と彼女は他人ではなくなって。
  彼女は一つ、記憶を手に入れた。

  だからあの月曜日以降の物語は彼女の物語であり、同時に僕の物語でもあるのかもしれない。
  少なくとも彼女はそう思っていたらしい。

  だとしたら奴との出会いにおいての諸々は初めての共同作業だと皮肉っぽく僕は言おう。  


  情けないことに、僕は今でも奴の名前を聞くだけで戦慄する。
  『ミィ』という彼女の呼び名を見て連想するのはあのふわふわとした笑みだが、奴の名を目にした僕を襲うのは、恐怖。

  ネイビーブルーの和傘も。
  咥えていた棒付きキャンディも。
  黒のセーラー服も。
  大きな傷のある顔も。
  特徴的な口調も。
  そのどれもが僕に冷や汗を流させるには十分な要素だ。

  言うなれば奴は人の形をした暴風雨。
  気の向くままに殺して奪うという在り方はまさに『殺戮機械』の呼び名の通り。
  流石の彼女も奴の前では笑みを消した。

96名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 21:55:30 ID:LaKfohcg0

  そう、奴と出会うことになったのは次の水曜日のこと。
  あの出会いは運命だったのか、それとも神が与えた一時の戯れだったのか。

  きっとこんな戯言なんて、神を殺し運命を従えようとしていた奴は一笑に付すのだろうけれど―――。




        マト ー)メ M・Mのようです


        「第三話:Murder Machine」




.

97名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 21:56:12 ID:LaKfohcg0

 現実とフィクションは違うものだということは言うまでもないが「事実は小説よりも奇なり」もまた真だ。
 月曜日にはマンガかアニメのような展開に翻弄された僕が主張するのだからその正当性は疑うべくもないだろう。
 しかしそれでも僕達の人生は小説とは違う。
 その二つの最も大きな差異は、本筋とは全く関係のない、しかし重要な事柄のあるなしだと僕は思う。

 テレビの中の登場人物達は食事をしたり、入浴したり、服を選んだり、買い物をしたり、そういった諸々の行動をすることが少ない。
 日常的な習慣は起承転結という物語の流れに特に必要がないので理由がなければ描写しない。
 だが現実に生きる僕達は本筋には関係がなかったとしても生きる為に食事をし睡眠を取らなければならない。


( ^ω^)「それだけだお」


 深夜、ホテルの一室で僕は呟く。
 ボウリング場を出て当たった夜風で眠気は覚めたと思っていたが、こうしてベッドに腰掛けると一日の疲れが押し寄せてきてすぐにでも眠れそうだ。

 あの物騒な男との交戦を終えた後に問題となったのは今夜の宿についてだった。
 僕は旅行者の身分で、記憶喪失の彼女は家が分からない。
 帰る場所がなかったのだ。
 そして野宿かホテルかの二択で後者を選んだのは必然だと言える。

 捕まえたタクシーの運転手に「ホテルまで」と告げると何故かラブホテルに連れて行かれた。
 夜分ということもあるが、そういう関係に見えたのだろうか?
 流石にそんな場所に泊まる気はなかったので更に二十分ほど車で移動し現在に至る。

98名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 21:57:04 ID:LaKfohcg0

 あの場末のボウリング場から小一時間離れた駅前のホテルだ。
 幸運なことに空き部屋があり、不幸なことにツインの部屋しか空いていなかった。


( ^ω^)「……そう言えば女子と同じ部屋に泊まるのは初めてだお」


 聞こえてくるシャワーの音が虚しい。
 全然胸がときめかない。
 まさか恋人でもない相手と同じ部屋で一晩を過ごすことになるとは予想もしていなかった。
 普通、異性とホテルに宿泊すると言えば、色恋沙汰が関係するものではないのか。

 溜息を吐くと、バスルームから響いていた音が止まった。
 僕も軽く汗を流そうかと立ち上がると時を同じくして浴室へ続く扉が空き、彼女が出てきた。


マト゚ー゚)メ「さっぱりしました」


 全裸だった。
 厳密には肩にバスタオルを掛けているが、何も隠せていないので裸なのと同じことだ。

 思わず頭を抱えた。

99名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 21:58:05 ID:LaKfohcg0

 僕は額から目元にかけてを手で覆う。
 色んな意味で目も当てられない。


(  ω)「…………なんで全裸なんだお」

マト゚ー゚)メ「着替えがありません」

(;^ω^)「さっきまで着ていた服を着るという選択はできなかったのかお」

マト-ー-)メ「あの服は洗って、明日着ます」


 まさか全裸で洗濯に行かせるわけにもいかないのでコインランドリーには僕が行くことになるだろう。


マト゚ー゚)メ「ブーンさん。何か考えていたようですが、どうかしましたか?」

( ^ω^)「螺子の抜けたお前の頭の中に常識はどのくらい残っているのか考えていたんだお。あとそこにバスローブがあるからそれ着てろ」


 考えていたことなんて、そうじゃなければあのボウリング場のカウンターで気絶させられていたおじいちゃん店員が風邪を引いてないかどうかだ。 
 あの殺し屋か何かの男のプロ意識に賛辞を贈ろう。
 僕達のせいで死なれるのは後味が悪いし、人死が出ると事件的にも大事になってこれから動きにくくなっただろうから助かった。

100名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 21:59:09 ID:LaKfohcg0

 彼女の方に目を遣るとちょうどバスローブを着終わったところだった。
 バスローブでもあまり扇情的な印象を与えないのは健康的と言うか起伏が少なめな体型であるからだろうか。

 改めて彼女を見る。
 主張の強いパーツや無駄なものが見当たらない顔立ちは文句の付けようがない。
 容姿だけは作り物のように整っている。
 その独特な雰囲気とぶっ飛んだ性格さえなければ、素直に可愛い女の子と言えなくも、ない。


マト^ー^)メ「分析中ですか?」


 癖のある髪をタオルで拭いていた彼女が手を止め、問い掛けてくる。
 ふわふわとした笑みと対照的に少し鋭めな双眸をしていることに気が付いた。


( ^ω^)「いや。黙ってれば可愛いのにと思ってただけだお」

マト゚ー゚)メ「ですが黙っていては私ではありません」

( ^ω^)「確かにそうだお。ってか、『分析中』ってなんだお」


 言葉の選び方が変じゃないか?

101名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 22:00:07 ID:LaKfohcg0

マト゚ー゚)メ「私の目は知覚及び分析、演算、予測というプロセスで未来を見ます。ブーンさんが私の能力を見定めていると考えていただけです」

( ^ω^)「僕の目は少し乱視が入ってるだけで、ごく普通の目だお。目には見た目しか映らない」

マト-ー-)メ「私の容姿を見ていたということですか?」

( ^ω^)「まあ、そうなるお。不快に感じたなら謝罪する」


 いいえ、と続けて彼女は言う。


マト゚ー゚)メ「特に不快とは感じません。それに容姿も能力の一つです。だからブーンさんも私の能力を読み取っていたことになります」

( ^ω^)「能力? 容姿がかお?」

マト゚ー゚)メ「はい。魅力も一つの『影響力』です。お金がそうであるように、分かりやすく未来を変える力です」


 どんな小さな物でも必ず未来を変える力を持っている。
 言われてみれば、容姿なんてものは分かりやすく現実に影響を及ぼしている。
 見た目が良ければ買い物でも店員が割引してくれるかもしれない。
 厳つい顔をしていればチンピラに絡まれることも少なくなるだろうし、もっと単純な例ならレディースデーのような性別に応じたサービスが受けられるのだってそうだ。

102名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 22:00:57 ID:mcd4haxw0
読んでる支援

103名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 22:01:07 ID:LaKfohcg0

 前にも彼女が言っていたように、彼女の超能力は手から火が出るような普通の人間と隔絶されたものではない。
 あくまでも僕達が常日頃行っているような「こうしたらこうなるだろう」という予測がベースにある。
 その精度がありえないレベルで正確なだけで。

 それはそうと、と瞳を紫に変えて彼女は言った。


マト゚ー゚)メ「朝になったら私の服を買いに行きましょう。水曜日に向けて装備も整えておきたいですから」


 分かったと僕は答える。
 水曜日に僕達はあのニット帽の男の依頼主と会う。
 何か手掛かりが掴めれば良いのだが。


マト^ー^)メ「ところでブーンさん。ブーンさんの荷物は前に泊まっていたホテルに置いたままですよね。取りに行かなくてもいいのですか?」

( ^ω^)「それは……」


 僕はどう返答しようか暫く迷って、結局「大した物は置いてないから時間が出来た時でいい」とだけ返しておいた。
 お金持ちだから必要な物は買って揃えるさと付け加えて。

 そうして彼女の問いを躱して、僕は次の質問が来ない内にシャワールームヘ向かった。

104名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 22:02:06 ID:LaKfohcg0

 *――*――*――*――*


 翌朝。

 当然のように何も起こらず朝を迎えたわけだが、寝汗を流す為にシャワーを浴びた彼女はまた全裸でバスルームから出てきた。
 意味が分からない、一日に一度は裸にならなければいけない決まりでもあるのか?
 まさか彼女の正体は未開の地の原住民で記憶を失う前には服を着たことがなかったというオチじゃないだろうな。

 僕の懸念を払拭するように彼女は難なく昨日と同じ衣服を身に纏う。
 ……下着を身に着けるところから、僕の目の前だ。
 浮世離れしてるのではなく単に馬鹿なんじゃないかと心配になる。
 お陰で今日の彼女の下着の色とデザインという全く使い道のない知識が増えてしまった。


( ^ω^)「(そんな無防備な姿を見せて僕に襲われるかもしれないとは考えないのかお)」


 そう思って、直後に打ち消す。
 彼女は考えないのだ。
 僕がそういうことをしないと『目に見えている』から。

 だとしたら彼女の能力は必ずしも瞳の色と連動しているわけではないのだろう。
 左目が右と同じ淡褐色の今だってある程度は未来が見えている。

105名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 22:03:13 ID:LaKfohcg0

 彼女は着替え終わると最後に頭部を隠すようにニット帽を被る。
 ちゃんとドライヤーを掛けないのが悪いのか、それとも櫛で梳かないのが原因か、赤茶色の髪は今日も癖が出っ放しだ。

 そのままの状態で彼女は部屋を出る。
 僕も所持品を持って続いた。
 二日間このホテルに泊まっても良かったのだが、追っ手や昨日の事件のことを思うと同じ場所に居続けるのはマズい。
 なので少々面倒だが荷物を全て持っての移動になる。

 尤も彼女は出逢った時と同じく身一つなので苦ではなさそうだ。
 斯く言う僕にしてもスーツケースは前のホテルに置いたままなので財布と電子端末の他にはウェストバッグくらいしか持ち物はない。
 旅行者とは思えないほど身軽な装いだ。


マト゚ー゚)メ「ブーンさんの携帯電話は見たことがないです。最新型ですか?」

( ^ω^)「実用化されていない試作機だお。使い勝手はいいけどボタンのあるスマフォの域を出ない」


 考えてみれば僕はこうして試験品を使用し感想を伝えるだけで企業から報酬を貰えるので資産は増えるばかりだ。
 それはそうと、と彼女が右手に持つコンビニ袋に目を遣る。


( ^ω^)「それ。お願いだから気を付けてくれお」

106名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 22:04:05 ID:LaKfohcg0

マト゚ー゚)メ「何がですか?」

( ^ω^)「何がってお前……」


 白いビニール袋には昨日(いや今日か?)買った缶コーヒーやパンが入っている。
 だがそれはカモフラージュだ。
 奥底には新聞紙に包まれた回転式拳銃が隠されている。
 あのニット帽の男が置いていったものを拝借した。

 もう一丁の銃は同じように新聞紙に包みビニール袋に入れ人目の付かないコインロッカーに放り込んでおいた。
 彼女は護身用に欲しいと主張していたが、僕は機を見て処分するつもりだ。

 暫く歩いているとタクシーが通りがかったので捕まえ市街へ向かう。
 方角的にはボウリング場から段々と離れていく形になる。
 警察も謎の銃撃事件としてそろそろ捜査を始めているだろうかと車内に流れるニュースに耳を傾けていると、彼女が耳打ちをしてくる。


マト-ー-)メ「……心配しなくても大丈夫です」

( ^ω^)「安心しろ。うっかり落としたら迷わずお前との契約を打ち切るお」

マト゚ー゚)メ「これのことではなく警察のことです。私がいる限り捕まることはありません」

107名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 22:05:04 ID:LaKfohcg0

 なんだそのことか。
 彼女は続ける。


マト゚ー゚)メ「気付いていると思いますが、私は普段から未来が目に見えています。精度は高くありませんが追っ手が来れば分かります」


 片目の色が変わっている状態では最も強く能力が発動している、というだけであって、やはり瞳がヘーゼルの今も継続して未来予測は行われているらしい。
 初めて会った際の公園での出来事を思い出す。
 警察官達が訪れる直前にあの場を去ることができたのは未来を見ていたからに他ならない。

 少し思案し、僕は訊く。
 運転手には聞こえないようにこちらも小声で。


( ^ω^)「前に『一分以上先のことは可能性しか見えない』と言ってたはずだが、『追っ手が来る可能性が見える』ということかお?」

マト゚ー゚)メ「説明するのが面倒なのでそこは省略しても良いですか?」

( ^ω^)「駄目に決まってんだろ」


 僕は軽く彼女を小突いた。

108名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 22:06:04 ID:LaKfohcg0

 目的地に到着したので、タクシーから降り手頃な店へと向かう。
 とりあえずと彼女にオレンジの肩掛けの鞄を買い与え、自分用にスリーウェイバッグを購入した。
 店から出ると即座にビニール袋を仕舞わせた。

 そして着替えや必要な物品を買い揃えつつ、僕達は言葉を交わす。


マト゚ー゚)メ「ブーンさん。未来が見える理屈は覚えていますか?」

( ^ω^)「知覚(分析)、演算、予測というプロセスの話か?」

マト-ー-)メ「そうです。算数で言えば『知覚』が問題文を読んでいる状態、『演算』が式を書き計算している状態、最後の『予測』が答えを出した状態です」


 例えば、と彼女は僕の前に右手を出した。


マト゚ー゚)メ「ジャンケンをしましょう」


 言われるがままにジャンケンをする。
 僕がパーで彼女はチョキ。
 予想通りの負け、目に見えた結末だった。
 未来が見える人間相手にジャンケンで勝てるわけがない。

109名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 22:07:06 ID:LaKfohcg0

マト^ー^)メ「今私が分析したのはブーンさんの右手の筋肉の動きです」

( ^ω^)「まあ、そうだろう」


 時折テレビに途轍もなくジャンケンが強い人が出ていたりするが、あれには理由があると耳に挟んだことがある。
 彼女がそうしたように手と腕の筋の動きを見て相手の手を予測しているのだ。

 では、と彼女は続けた。


マト゚ー゚)メ「ブーンさんが襲い掛かってきた場合はどうですか。未来を予測する為には何を分析する必要がありますか?」

( ^ω^)「ジャンケンの例を踏まえれば僕の身体の動きかお?」

マト゚ー゚)メ「そうです。ならブーンさんが誰かと共謀して私を殺そうとしてきた場合はどうですか?」

( ^ω^)「とりあえず悪い行動の喩えに僕の名前を出すのはやめろ」


 だが言わんとしていたことは分かった。
 知覚する要素の問題だ。
 あるいは、演算の速度の問題か。

110名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 22:08:06 ID:LaKfohcg0

 「目の前の相手が次に何をするのか」と「一年後にこの国に何が起こるか」では同じ予測でも考慮すべき要素が桁違い、ということだろう。
 一秒先のことを予測するのと同じように一年先を予測してしまうと膨大な時間が掛かってしまう。
 だから分を超えるような未来を見る場合には比較的大雑把に知覚と演算を行い、彼女はそれを『可能性』という形で認識している。
 あるいは『予感』という言葉が相応しいような、「こうなる気がする」程度に認識する。

 地図の縮尺のようなものだ。
 自分の国の形が分かる倍率に変えると、自分がどの街のどの通りにいるかは分からなくなる。


マト゚ー゚)メ「ですが、ブーンさんの次の行動を見ている間もこの店にハンドルを切り損なった車が突っ込んでくるような事態は予測できるので安心してください」

( ^ω^)「それは良かったが、その場合は避ける時間があるかどうかが問題だお」


 襲撃者の件のように襲われる寸前に聞かされても困るのだ。
 そのうち驚いた拍子に心臓が止まってしまうかもしれない。
 直前にならなければ確実には分からないという彼女の事情も分かったので強くは責められないが……。


マト-ー-)メ「……でも、性能がもっと良ければ、【記憶(じぶん)】が見つかる最短ルートを見出すことができるはずなのに。そんな風には思います」


 そんなふわふわとした笑みを少し収めての彼女の呟き。 
 悲しいや悔しいではなくもどかしい、そういう類の感情が見えた気がした。

111名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 22:09:10 ID:LaKfohcg0

 僕は未来は分からないが、他人の感情くらいは見えるのだ。
 表情が変わったことは『目に見えて』分かった。

 だから皮肉っぽく、僕は言葉を返す。


( ^ω^)「安心していいお。僕が諦めるまで僕の旅には付き合わせるつもりだ。だから僕は君が満足するまで、君に付き合うお」

マト゚ー゚)メ「ですが、一定以上先はなんとなくしか分かりません。ブーンさんの目的にもあまり役に立てないかもしれません」

( ^ω^)「目的達成するまで付き合わせるつもりだから安心しろと言った。……これでも、頼りにしてるんだお。契約して良かったと思ってる」


 そこまで言ったところで彼女が笑った。
 表情を戻したのだ。
 いつも通りのあの浮世離れした、ふわふわとした笑顔に。
 良かった、と素直に思った。


マト^ー^)メ「……私も、ブーンさんのことを頼りにしています。だから、」


 お腹が空きましたね、ご飯を食べに行きましょうか、と笑って彼女は続けた。
 もう暫くしおらしいままにしておけばよかったと少しだけ後悔し、僕は一つ溜息を吐いた。

112名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 22:10:08 ID:LaKfohcg0

 *――*――*――*――*


 その後はご飯を食べ、また買い物をして、ぶらぶらと街を二人で歩いた。
 僕達は兄妹に見えただろうか、それとも恋人同士に見えただろうか?

 まるでデートみたいだと僕が言うと「もしかしたら私は初めてかもしれません」と彼女は笑った。
 失念していたが、記憶を失くしているのだから異性と付き合った経験があるのか分からないのは当然のことだ。
 もしも僕が初めての相手ならば光栄だが同時に申し訳なくも感じる。

 過去の彼女はどういう女の子だったのだろうと少し気になった。


マト゚ー゚)メ「ブーンさん。言い忘れていたことがありました」


 そろそろ今夜の宿に向かおうかという段階で、彼女が唐突にそんなことを言った。
 僕は気を引き締め辺りを見回す。


マト^ー^)メ「今度は追っ手の話ではありません」

( ^ω^)「それは良かったお。最高だ。何度でも言うが、次回から危機が迫っていることが分かったら予め知らせて欲しいお」

113名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 22:11:07 ID:LaKfohcg0

 僕の言葉に彼女は頷いて、続ける。


マト゚ー゚)メ「代わりに私からも約束して欲しいことがあります」

( ^ω^)「なんだお?」

マト^ー^)メ「私は能力の性質的にどんな敵を相手にしても恐らく負けません。勝てるかどうかは分かりませんが、負けることはない」


 どんな攻撃でも予測して防御することができる。
 どころか、勝てない敵ならばその戦い自体の回避を可能とするのが『未来予測』という能力だ。

 だから彼女は負けない。
 だから僕は彼女を雇った。
 しかし。


マト゚ー゚)メ「ただ私の能力は特別なことができるわけではないので他者を守ることは向いていません。あくまでも自衛として優秀なものです」


 夕日に照らされ街が色合いを変えていく。
 彼女の髪は夕焼けにも似ている。

114名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 22:12:05 ID:LaKfohcg0

 約束してください、と彼女は言った。


マト゚ー゚)メ「私が『逃げて』と伝えた時は迷わず逃げてください。私は大丈夫なので」

( ^ω^)「僕を気遣って……というわけじゃなく、純粋に戦いにくくなるからか? 端的に言えば僕がいては邪魔だと」

マト^ー^)メ「そういうことです。やっぱりブーンさんはドライですね」

( ^ω^)「お金持ちだからね。助力できる場面では手を貸すが、情に流されてお互いが損をするのは避けたい。分かったお」


 僕としても文句はない。
 そちらの方が二人共にとって有益なのだから合理的に判断しよう。

 ただ、気になることがあるとすれば一つだ。


( ^ω^)「わざわざそんな確認をするということは……なんとなく、明日のことが分かったのかお?」


 彼女はふわふわとした笑みを浮かべたままに頷いた。
 明日は厳しい戦いになると肯定したのだった。

115名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 22:13:08 ID:LaKfohcg0

 そして水曜日を迎えた。 
 僕達はあのニット帽の男から聞いていた場所へと向かう。

 途中までは電車を利用し最寄り駅からは徒歩で進んでいく。
 目的地はある街の外れ、林の中にある廃墟だ。
 国道から近いので交通の便は良いが、最早誰も訪れることはない。
 そんなもう肝試しくらいにしか使いようがない終わった建築物が取引の場所だった。

 二人で車道沿いの歩道を歩いていると、服装が変わってもニット帽だけは変わらない彼女が言った。


マト゚ー゚)メ「連絡手段は聞いていないんですね」

( ^ω^)「ああ。水曜日の昼過ぎに指定の場所に行って、呼べばいいらしい」

マト゚ー゚)メ「呼ぶ? 名前をですか?」

( ^ω^)「いや名前は覚えていなかったから訊けなかった」


 だから「ただ呼べ」と。
 それだけしか聞いていない。
 それで十分だと。

116名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 22:14:06 ID:LaKfohcg0

 常識的に考えれば、不可解な指示だ。
 まさか取引の相手は廃墟に住んでいるとでも言うのだろうか?

 目的の建物が見え始めたその時、彼女が左目の色を変えた。


マト-ー-)メ「……そうですね」

( ^ω^)「ミィ?」

マト゚ー゚)メ「確かにそれで十分みたいです」


 彼女は未来を見る魔眼で何を見たのだろうか。
 どんな結末が『目に見えた』のだろう。

 僕はふと、未来が決まっているのかどうかが気になった。
 決まっているとすれば僕達は何の為に生きているのだろうか。
 そんなことを思った。


マト゚ー゚)メ「行きましょうか。過去と未来の為に」


 そしてあのふわふわとした笑みのままで、彼女は言った。

117名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 22:15:05 ID:LaKfohcg0

 *――*――*――*――*


 壊れた扉をくぐり、廃墟の中へと入る。
 元は老人ホームだったという建物は今は見る影もなく、ガラス片や壊れた備品が散乱し、ただ薄暗く埃っぽい。
 一度、深呼吸をした。
 そうして気持ちを落ち着けてから声を出した、

 ミィを襲うように依頼した誰か。
 彼女の正体を知るかもしれないその誰かに向けて呼び掛ける。


( ^ω^)「おい! お前が探していた少女がやって来たぞ!」


 僕の声は廃墟に虚しく響き渡った。
 辺りを見回してみても何の変化も伺えない。
 ただ空気を震わせただけだった。

 まさか、騙されたのか?
 頭を過るのはそんな考え。
 だがミィが予測を外すことはないはずだ。
 そう思って僕はもう一度呼び掛けようと息を吸った。

118名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 22:16:06 ID:LaKfohcg0

 その時だった。

 僕の隣に立っていたミィが目を見開いた。
 物音がした。
 部屋の奥の暗闇で何かが動き、その人影がこちらへ歩いてくる。



(# ;;-)「……誰や? うちを呼んだんは」



 人影は傘を差す少女の姿を取っていた。

 ネイビーブルーの和傘に黒のセーラー服。
 咥えているのは棒付きキャンディ。
 黒髪の少女の顔には大きな古傷が有り、無事な右目で僕達を見ている。
 服装だけで言えば、ショートパンツに革のブルゾンという今日のミィよりも淑やかに思えた。

 しかし見た目通りに大人しい相手とは到底考えられない。
 ミィのような目を持たない僕にもその異常さは感じ取れた。


マト゚ー゚)メ「ブーンさん。気を付けてください」

119名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 22:17:04 ID:LaKfohcg0

 分かってる、と僕は答える。


( ^ω^)「見た目で人を判断するほど単純じゃないし、少女だからって油断するほど馬鹿じゃない」

マト゚ー゚)メ「そういうことではありません」


 え?
 問い返そうとするも、僕達の会話に傷の有る少女が特徴的な口調で割り込んだ。


(#゚;;-゚)「なんや。二人で何話しとんや?」

( ^ω^)「なんでもないお。こっちの話だ」


 ふーん、と左手で傘の柄をくるくると回す彼女に僕は訊く。


( ^ω^)「色々と訊きたいことがあるが、まずは名前を教えてくれ」

(#゚;;-゚)「うちの?」

120名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 22:18:10 ID:LaKfohcg0

( ^ω^)「そうだお」

(#゚;;-゚)「ニコラス・D・ウルフウッド」

( ^ω^)「嘘吐け、明らかに男の名前じゃねーかお」

(#゚;;-゚)「どうでもええやろ。どうせホントのことなんて言わんのやし。やから、うちのことは『ディ』と呼べばええ」


 うちはアンタの名前に興味はないしな、と付け加える。
 投げやりな感じもするが名乗らなくても良いのならば黙っておこう。

 黒髪の少女、ディはキャンディを咥えたままで言う。


(#゚;;-゚)「一応訊いとくんやけど、うちが依頼したあのチャイニーズ……どうしたん?」


 僕は少し悩んで、こう答えた。


( ^ω^)「さあ? こっちとしては取引場所が知れば用済みだったしね」

(#゚;;-゚)「……まあええけどな」

121名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 22:19:06 ID:LaKfohcg0

 素直に「世界の何処かで生きてると思うよ」と答えても良かったが、そうしても僕達に得はない。
 なら適当に濁しておく方が良いだろう。
 マンガの悪の組織の親玉のように、この少女が任務に失敗したあの男を始末しに行かないとも限らないのだから。
 彼に思い入れがあるわけではないが死なれると後味が悪くなる。


(#゚;;-゚)「やっぱバイトは自分でやるに限るな。そう思わへん? 姉さんの誕生日が近くて忙しいからって横着するんやなかったわ」


 まあ、と彼女は続けた。


(#゚;;-゚)「こうしてアンタ等が来たわけやし、高い前金払っただけのことはあったけどな。……懐はちいと寂しくなったけど」


 やはりこのディと名乗った少女が、依頼主なのか。
 体型は華奢で、とても人を殺すだの攫うだのという暗い世界で生きているとは思えない。

 けれど肌で感じられる。
 この少女の異常性は見た目とは関係がない。
 纏う空気だけで既に恐怖するには十分だった。
 僕の本能が彼女を拒絶している。

 目の前の少女は――人間の根幹を脅かすほどに危険な存在だ。

122名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 22:20:10 ID:LaKfohcg0

 普段の僕なら迷いなく逃げていた。
 こうしてここに立っていられるのは隣の少女のお陰だ。
 だからミィを雇って良かったと思うし、多少は彼女の役に立ちたいと考えて僕は会話を続けていた。

 小さな声が耳に届いたのは僕が口を開こうとした瞬間だった。


マト ー)メ「ブーンさん。動かないでください」


 そして、更に次の刹那。
 和傘の少女が指を鳴らした。

 それに呼応するように暗かった室内が一気に照らし出された。
 何によって?
 困惑する僕の視界に写ったのは、赤。
 輝いていたのはディの周囲に出現した炎だった。

 驚きは終わらない。
 現れた拳大の火の玉はそのまま僕の少し右を突き抜けていく。
 火の弾丸は後ろの壁に激突し、だがそれを振り向いて確かめる暇もなくパチン、パチンと連続で指が鳴る。


(;^ω^)「なっ……!」

123名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 22:21:08 ID:LaKfohcg0

 二つ目の炎はディの右側、三つ目は斜め上と四方八方に炎の弾が飛んでいく。
 それがやっと収まったのは五度目の音が響いた後だった。

 肌に伝わる温度は、この非現実的な光景が幻覚ではないと証明しているようだった。


(;^ω^)「……超能、力」

(#゚;;-゚)「そやなあ。スキルでもコードでも回路でも変生属性でも何でもええけど、やっぱそれが一番通りええな」


 つまり、ミィの持つ『未来予測』と同じ類の力。
 条理を超えた能力。


(#゚;;-゚)「そんで避けんかったってことは……前評判通りにそのお嬢ちゃんも持っとるらしいやん、超能力」

マト-ー-)メ「はい。威嚇に過ぎないことは、目に見えていましたから」


 そのやり取りで僕はやっと先ほどのミィの言葉の意味を理解した。
 敵が火の玉で威嚇してくることを予測していたのだ。
 危機が迫った時は予め教えて欲しい、という僕の要望をちゃんと覚えていてくれたらしい。
 どちらにせよ驚いたが。

124名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 22:22:05 ID:LaKfohcg0

 室内にはあちこちに小さな炎が残り続けている。
 少しだけ最初よりもよく見えるようになったディという少女の顔を見据え、僕は訊く。


( ^ω^)「その炎の超能力者さんがミィに何の用だお。超能力を持つ学生を集めた学校のお仲間か何かか? だとしたら嬉しいんだが」

(#゚;;-゚)「残念やけど、兄さんの言葉には色々勘違いがあるわ」


 と、彼女はもう一度破裂音を立てた。
 ひゅん、と再び僕の隣を何かが通り過ぎた。
 それが水の矢だとわかったのは背後で燻っていた火が消え去る音が聞こえた時だった。



(#゚;;-゚)「うちは世紀の大悪党。気の向くままに全てを奪う。命も力も何もかも。人の形をした暴風雨。人呼んで――『殺戮機械』」



 以後よろしゅう、と彼女は微笑んだ。
 そして僕は理解する。

 このディという少女は僕の想像を超えている。

125名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 22:23:05 ID:LaKfohcg0

 *――*――*――*――*


 少しニュースに詳しい人間なら『殺戮機械』と呼ばれる国際指名手配犯のことを聞いたことがあるはずだ。
 百件以上の殺人と誘拐の嫌疑を受け、各国で膨大な懸賞金が掛けられているのにも関わらず、逮捕に至るどころか目撃情報すら存在しない伝説的な犯罪者。
 現代社会で証拠一つ残さず犯行を続けるなど到底信じられるものではない。
 その想像を絶するスコアから「全て別の事件なのではないか」「組織的に行われた犯罪ではないか」という見方もある。

 確かに常軌を逸した未解決事件を全て『殺戮機械』の仕業としてしまう傾向はある。
 そもそも彼(彼女?)が関わったとされる事件の内容も、宗教的指導者の殺害から人身売買組織に攫われた子どもを救い出すまで多岐に渡り一貫性がないのだ。

 何の為に行われたのか、どうやって成されたのか。
 その二つが不明な各種重大事件の犯人としてマスメディアによって作り出された存在が、究極の愉快犯である『殺戮機械』。
 つまり、ただの都市伝説だ。

 そう思っていた。


(;^ω^)「(……実際、どの国の警察でも同一犯として捜査はしていない。指名手配されているという話もただのデマだ)」


 言ってしまえば行方不明や疫病を「神の祟り」として片付けるのと同じだ。
 それぞれは全く別の事件であり、異なった背景があり、犯人も違うはずだった。

126名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 22:24:04 ID:LaKfohcg0

 だが――今、僕の目の前にはその都市伝説を名乗る少女がいる。


(;^ω^)「お前が、あの……『殺戮機械』?」

(#゚;;-゚)「そやで。まあ、世間で言われとるほどには色々やってはないけどな。でも兄さんが思い浮かべた事件のいくつかはうちがやったことやと思うで」

(;^ω^)「冗談はやめてくれ。じゃあアレかお、お前はあのジェット機の事件もやったって言うのかお!」

(#゚;;-゚)「ジェット機? どれやっけ?」


 その口振りは「数学の宿題って何ページだっけ?」とクラスメイトに訊ねるような軽いものだった。
 底知れぬ異常さが、僕を汚染していくようだった。


(;^ω^)「一昨年の事件だお。なんとかって言うVIPがプライベートジェットで帰国する際に起こった、あの事件だ」


 被害者は某国の要人、及び彼の秘書と護衛数名。
 彼は出先で仕事を終えてジェット機に乗り込み帰路に着いたはずだった。
 最後に目撃されたのは空港でタラップを上って行く姿だ。

 そして飛行機が着陸した時、彼は首を切り落とされた死体となって見つかったのだ。

127名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 22:25:07 ID:LaKfohcg0

 真っ先に疑われたのは操縦士だったが、フライト中はコクピットから一歩も出ていないことはすぐに証明された。
 次は何らかの理由による内輪揉めと考えられたのだが、自分以外の全員の首を切り落とした後に自らの首を切断して自殺など考えるまでもなく不可能だ。
 ならば、どうなるか。

 「高度一万メートルの空中を時速数百キロで航行するビジネスジェットの機内に犯人は突如として現れ、全員の首を落とした後、飛行機から消え去った」。
 ……到底信じられないことだが、他の可能性を全て排除するとそうなってしまう。


(#゚;;-゚)「ああ、それか」


 僕の話を聞き終わったディは事も無げに答えた。


(#゚;;-゚)「うちがやった」

(;^ω^)「!!」


 咄嗟に言葉が出てこなかった。

 嘘だ。
 ただのハッタリだ。
 そう思う僕に隣にいた彼女が言う。

128名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 22:26:14 ID:LaKfohcg0

マト゚ー゚)メ「ブーンさん。その話は恐らく本当です」

(;^ω^)「……どういうことだお」

マト゚ー゚)メ「私がこの建物に入った後、あの人が出てくる前に、何がどんな順番で起こったか覚えていますか?」

( ^ω^)「え?」


 建物に入った時のこと?
 確か……。

 僕が最初に叫び、
 次に物音がして、
 ミィが何かに驚き、
 部屋の奥の暗闇から和傘の少女がやって来た、のだったか。


マト-ー-)メ「私はその後、『ブーンさん、気を付けてください』と言いました」

( ^ω^)「ああ……そうだったか」

マト゚ー゚)メ「何か勘違いされていたようですが、私は少女の姿をしていたから忠告したわけではありません」

129名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 22:27:06 ID:LaKfohcg0

 そうして彼女は一拍置き、真実を告げる。


マト゚ー゚)メ「あの時。物音がする瞬間まで、あの人はこの建物にいなかった」

(;^ω^)「…………は?」

マト゚ー゚)メ「あの人はブーンさんが呼ぶまでここにはいなかった。呼ばれたその直後にテレポートしてきたんです」


 つまり。
 あの物音はテレポートしてきた和傘の少女が着地した音であり。
 ミィが驚き、「気を付けてください」と言ったのは――相手が超能力でこの場に来たのだと分かっていたから、だった。


(#゚;;-゚)「説明の手間省いてくれておおきにな。それ聞いたら、兄さんもさっきの事件分かるやろ」

( ^ω^)「……僕が言った通りの真相だって言うのかお」

(#゚;;-゚)「ああ」

(;^ω^)「本当に、ジェット機の中にいきなり現れ、その場にいた人間を殺して……そのまま消え去ったって?」

(#^;;-^)「そや。分かりやすいやろ?」

130名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 22:28:32 ID:LaKfohcg0

 「高度一万メートルの空中を時速数百キロで航行するビジネスジェットの機内に犯人は突如として現れ、全員の首を落とした後、飛行機から消え去った」。
 そう。
 それは、それだけのことだった。


(;^ω^)「……お前みたいなのがいるって知ったせいで、これから密室系のミステリが楽しめなくなりそうだお」

(#^;;-^)「面白いこと言うなあ。うちも迷惑しとんやで? 密室で起きた事件はぜーんぶ『殺戮機械』のせいになって」


 まあ大体はうちがやったんやけどな、とディは笑った。


(#゚;;-゚)「じゃあ次はうちが質問する番やな。ずっと訊きたかったんやけど、アンタ等、何しに来たん? 兄さんがチャイニーズの代わりしてくれたわけやないやろ?」

( ^ω^)「代わり?」

(#゚;;-゚)「うちにその子引き渡して、報酬受け取って帰るってことや」

( ^ω^)「報酬が用意されてるなら考えたかもしれないが……。お前、金払うつもりなんて最初からないんだろ?」

(#^;;-^)「鋭いやん。ご名答、その通りやで。今うちは帰りの電車賃にも困る状況でな」

131名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 22:29:17 ID:LaKfohcg0

 ミィを連れて来た時点でもう用済み。
 殺す、までは行かずとも記憶を消して有耶無耶にする程度のことはするだろうと思った。
 どうやらあのニット帽の男には依頼主を選ぶ能力はないようだ。

 僕は訊く。


( ^ω^)「じゃあもう一度僕が質問するお。お前はミィを捕まえて何をしたい?」

(#゚;;-゚)「言ったやろ、バイトや」


 言い換えるなら、と続けて彼女は咥えていたキャンディを噛み砕く。
 残った棒を吐き捨てて、天を指差し、告げた。



(#^;;-^)「うちは全能の存在になりたいんや。俗に言う、『神様』って奴になりたい。お嬢ちゃんはその為に必要ってわけやな」



 さあ、と黒髪の少女は言う。
 そろそろ問答にも飽きてきたしやろうやないか、と。
 そんな、最後通牒を。

132名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 22:30:24 ID:LaKfohcg0

 *――*――*――*――*


 正体不明の少女が訊ねる。
 あなたは私のことを知っていますか?

 同じく正体不明の少女が答える。
 さあどうやろうなあ、と謎めかして。

 向かい合うのは二人の少女。
 どちらも条理の外に立ち、どちらも異能の力を持つ。
 どちらが勝るのかは僕には分からず、ただ行く末を見つめている。


(#゚;;-゚)「一つ、ゲームをしよやないか」


 ディと名乗った少女は和傘を回しつつ指を鳴らす。


(#^;;-^)「お嬢ちゃん。もしアンタがうちに勝ったら、アンタの質問疑問に全部答えたる」

マト-ー-)メ「私が勝った時にあなたが生きている保証はありません」

133名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 22:31:05 ID:LaKfohcg0

 挑発的な、しかし真理を突いた言葉にも『殺戮機械』は笑みを崩さない。
 確かにそうやともう一度パチンと音を立てた。


(#゚;;-゚)「なら片膝付けたらでええで。うちが膝付いたらうちの負け。生憎と今日この後用事あってな、長いこと遊んでられへんねん」


 急いでいるなら無駄口を叩かずに襲い掛かればいい。
 だが彼女はそうしない。
 その余裕の姿勢が示している。

 詰まるところ、これは『殺戮機械』にとっては遊びに過ぎない。
 奪おうと思えばいつでも奪えるのだから、今じゃなくても、今日じゃなくても構わない。
 絶対的な強者の余裕。
 それが弱点にならないほどに彼女は圧倒的なのだ。

 そうしてディはまた指を鳴らした。


(#゚;;-゚)「ところで兄さん。逃げんでええんか? 今から殺し合い始まるで?」

( ^ω^)「大丈夫だ。僕は、コイツを信じてるから」

(#^;;-^)「へえ、カッコええやん。なら兄さんは狙わんといてやるわ。見届け人やな。大した戦闘力もないみたいやし。……流れ弾までは保証はせんけど」

134名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 22:32:06 ID:LaKfohcg0

 ちょっとした縛りプレイやなと言い、続けて、


(#゚;;-゚)「さて兄さん。ここでクイズや」

( ^ω^)「……戦いを始めるんじゃなかったのかお?」

(#^;;-^)「そう急かすなや。うちはお喋りなんやって」


 僕は横目で隣のミィの伺った。
 彼女は敵を見つめたまま動かない。


(#゚;;-゚)「で、兄さん。将棋やる人か? チェスでもええけど」

( ^ω^)「お遊び程度なら。それがどうした?」

(#^;;-^)「オセロとかもそやけど、ああいうゲームでスパコンに勝つのは不可能や。全部の手計算できる相手に勝つんは無理、って言った方がええか?」


 全部の手を計算できる相手。
 それは『未来が見える』という存在と似ている。
 きっとディはこう問い掛けているのだ。

135名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 22:33:29 ID:LaKfohcg0
 
 未来が見える相手に勝つ為には、どうすればいいか?――と。

 答えを聞くまでもない。
 それは呆れるほどに簡単な解答だ。

 全ての手を計算できる相手。
 未来が見える敵。
 チェスでコンピュータに勝ちたければ、「同じスペックのコンピュータをぶつければいい」。


(#^;;-^)「巫女の持つ予知能力。ある能力者の未来視。羅経盤の八卦。うちが持つ『未来を知る能力』の三つを今発動させた」


 そして。
 異能者同士の戦いが始まる。



(# ;;-)「さあお待たせしました! バイトの時間や。アンタの能力――いただくで」



 ―――いただきます。

 右腕を振り上げ、ディが飛び掛かる。
 捕食の始まりを告げる一言と共に『殺戮機械』が牙をむく。

136名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 22:34:18 ID:LaKfohcg0


  彼女の左目が全てを見通す魔眼であるように奴の右手は全てを奪う悪魔の腕だった。
  過去も生命も能力も、気の向くままに殺して奪う。
  略奪し強奪し簒奪する。

  ここに集うは二人の異能者。
  見えないはずの未来を掴む彼女の瞳が神の視界であるのなら、その神の力すら奪い去る奴の右腕は何なのか。
  思えば彼女の物語を終わりまで眺めてみても、奴ほど危険な敵はいなかったかもしれない。 
  そんな『殺戮機械』との決着があんな風だったのはなんて皮肉なのだろう。

  いや、本当に皮肉なのは、何もかもを奪う奴とのやり取りの中で――僕達が様々なものを手に入れたということだろう。  




        マト ー)メ M・Mのようです


        「第三話:咎人」





.

137名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 22:35:45 ID:LaKfohcg0

【現時点で判明している“少女”のデータ】

マト゚ー゚)メ
・名前:本名は不明、現在の呼び名は「ミィ」
・性別:女
・年齡:不明(外見年齡は15〜17程度)
・誕生日:不明
・出身地:不明
・職業:現在はボディーガード、記憶を失う前は不明
・経歴:不明
・特記:『未来予測』の能力を持ち、限定的ながら未来が見える。精確に予測できるのは数秒先までで一分以上先のことは可能性が見えるのみ。
    能力を発動している間は瞳の色が変わるがデフォルトでもある程度未来は見えている。
・外見的特徴:身長160代前半。癖のある赤みがかった茶髪。白い肌。起伏の少なめな体型。整った容姿。ニット帽。ボーイッシュな服装。
       やや鋭めな双眸。瞳の色はヘーゼル。能力発動中は左目が紫に輝く。

・備考:
 気が付いた時には記憶(エピソード記憶)を全て失っていた。
 その当時の所有物は細工の入った銀の指輪のみ。 
 一人称は恐らく「私」。この国の言語で話しているので海外に住んでいたとは考えにくい。
 服を着る、買い物をする等のごく一般的な教養は備えている。
 知識(意味記憶)として一般には知られていない生体兵器についての知識を有する。

138名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 22:37:07 ID:LaKfohcg0

【現時点までに使われた費用(日本円換算)】

・前回までの合計 3,010,700円
・タクシー代 約5,700円
・ホテル代(二泊) 約22,000円
・コインロッカー使用料金 約300円
・コインランドリー代金 約400円
・雑費 約34,000円
・電車賃 約520円
・??? 約7,000,000円
______

・合計 10,073,620円


【手に入れた物品諸々】

・回転式拳銃(S&W M610) 残弾数九発
・衣服、鞄その他諸々

139名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 22:38:10 ID:LaKfohcg0

第三話は以上です。
何気に最後のデータの性別の部分のクエスチョンが消えているのが笑いどころ。
下着の色と言い、しっかり見てんじゃねぇか。

サクッと読める作品を目指してるので次回の能力バトルもサクッと終わらせて話を進めたいと思います。
次回もよろしくお願いします。

140名も無きAAのようです:2013/11/02(土) 22:46:46 ID:mcd4haxw0

サクサク読めておもしろい。
続き待ってまする。

141名も無きAAのようです:2013/11/03(日) 01:01:21 ID:Ht7C.zpA0
おつ
面白いわー
金の桁がやばいな…

142【第三話予告】:2013/11/19(火) 16:01:33 ID:h1UvHhpY0

「そう言えば何か好きなものってあるかお?」

「好きなものですか? なるほど、私の誕生日のプレゼントを選ぶ為のリサーチですね」

「記憶喪失の人間の誕生日をどうやって祝うんだお……。そうじゃない、ただの好奇心だ。深い意味はない」

「そうですか。ではお答えします。私の好きなものは時計です」

「時計? てっきりニット帽って答えると思ってたお」

「これは変わった色の髪を隠す為に被っているだけで、好きというわけではありません。誕生日に頂くとすれば時計が嬉しいです」

「まだ言ってるのかお……。ちなみに、なんで時計が好きなんだ? やっぱり時間に関係する能力を持ってるからかお?」

「さあ、どうしてでしょうね。私にもよく分からないんです。ただ私の体内時計は正確で、秒単位で時間を計測できます。だから安心するのかもしれません」

「秒単位で時間が分かるのは凄いと思うが、それでなんで安心するのか分からないお」

「自分の感覚と、時計の秒針。その二つが合っていると世界と繋がっている気がしますから」



 ―――次回、「第四話:Muddied Message」

143名も無きAAのようです:2013/11/19(火) 16:02:26 ID:h1UvHhpY0

第四話の投下は11月22日金曜夜の予定です。
予定は未定、延びることもあるかもしれませんがその場合はまた連絡します。

144名も無きAAのようです:2013/11/19(火) 16:08:03 ID:qphOKODU0

待ってる。

145名も無きAAのようです:2013/11/20(水) 19:03:30 ID:P0v3NIJU0
おおう金曜か、楽しみ

146名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 20:47:05 ID:E4.cAemc0


  僕は時折、IFの世界に思いを馳せる。
  「もしもあの時、あの選択肢を選んでいなかったら」などと夢想する。
  尤も想像したところで何が変わるわけでもないし、実際にその選択肢を選んだ場合にどうなったかなんて分かりようがないのだが。

  けれど、それでも考えてみるだけは自由だと思っている。
  だから今日も考えてみよう。

  あの時の――今、僕が語る物語の中にいた僕達の『もしもの可能性』について想像してみようか。


  ……とは言っても、何も「彼女と出逢わなければどうなっていたか」などと語るつもりはない。
  彼女がどうなっていたかは分からないが、少なくとも僕は父がどういう人間であったか知ることはできなかった。
  こうして彼女の物語を語ることもなかったはずだ。

  ここで考えてみたいのは、あの『殺戮機械』との邂逅についてだ。

  もしも、過去も生命も能力も、あらゆるものを奪い尽くす奴の右腕に彼女が屈していたら。
  その左目に宿った未来を見る力を奪われていたら。

  奴が狙っていたのは彼女の能力であり、それさえ頂けば僕達は用済みだ。
  だが奴の性格を踏まえると、目撃者を始末なんて面倒なことはせず、目当てのものを奪った後はさっさと帰ってしまったと思う。
  まあ運良く生き残ったとしても彼女の力が失われたのでは過去がどうとか父親がどうしたとか言っていられず、追っ手から逃れる為に海外逃亡が関の山か。
  きっと僕は彼女を自分の家に連れ帰って、これからどうするかと相談しながら、穏やかに毎日を過ごしていたことだろう。
  それはそれで幸せなエンディングだと言えるかもしれない。

147名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 20:48:04 ID:E4.cAemc0

  だが、そうはならなかった。
  最初に述べたように、そんな結末を想像したところで過去も現在も何も変わらない。

  そうはならなかった僕達は手掛かりを見つけ、少しずつ真実の闇へと近付いていくのだ。




        マト ー)メ M・Mのようです


        「第四話:Muddied Message」




.

148名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 20:49:08 ID:E4.cAemc0

 僕は超能力という概念をよく理解していないが、それでもミィの持つ『未来予測』が強力極まりない力だということは承知しているつもりだった。
 それがどれほどに埒外な力なのかはこれまでの戦闘で十分目にしていたし、少し考えただけでもその無茶苦茶さは分かる。 

 負けようがない。
 無敵だと思った。
 だからこそ、僕はミィと契約した。
 彼女を選んだ。

 ミィは「自分と一緒にいると危険な目に遭うかもしれない」と言っていたが、僕だってそういうリスクを抱えている。
 けれど彼女ならば大丈夫だと思っていた。
 実際今までの戦いでは、なんだかんだと言いつつも安心して見ていられた。

 なのに。


(;^ω^)「(アイツは……ヤバい)」


 身体が警鐘を鳴らす。
 本能が奴を拒絶する。
 この『殺戮機械』は危険過ぎると。
 
 奴がその気になればその右腕で記憶も生命も能力も、何もかもを奪える。
 それは、一人の人間の存在そのものを奪い去ることができるということなのだから。

149名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 20:50:13 ID:E4.cAemc0

マト −)メ


 そんな相手を前にして、ミィは一瞬間笑みを消した。
 だがそれだけだった。




マト ー)メ



 次の瞬間には、彼女はいつもと同じように微笑んでいた。
 あのふわふわとした笑みを湛えていた。
 そして異能者同士の戦いが始まった。

 立ち上がりは不気味なほどに静かだった。
 飛び掛かってきたディの、振り下ろされるその悪魔のような右腕を、ミィはまるでダンスのように軽やかに躱す。

 しかし相手とてこの展開は予測済み、つまり『目に見えていた』ものだった。
 空振った右腕の指が鳴らされる。
 音と同時に彼女が左手に携えていた和傘が分離した。
 傘の部分と柄の部分が分かれ、いやというよりも柄が抜けたのだ。

150名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 20:51:05 ID:E4.cAemc0

 現れたのは全長五十センチほどの刃物。
 仕込み刀。
 僕が驚きの声を上げるよりも速く、斬撃がミィを狙う。

 刀身が光を反射し刃が大気を切り裂いた。
 けれどもこれも予測していた彼女は上半身を後ろに逸らすだけで紙一重に、しかし計算し尽くし完璧に回避した――はずだった。

 ……血が一滴、コンクリートの地面に落ちた。


マト゚ -゚)メ「あ……」


 ミィの動きが止まった。
 見れば、彼女の露出した首元がうっすらと一筋、切り裂かれていた。

 細く細い血の一文字。
 手当てすら必要ないほどに些細な切り傷。
 だが、それが意味していることは重大極まりない。


(;^ω^)「(『未来予測』が、破られた……?)」

151名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 20:52:04 ID:E4.cAemc0

 攻撃を受けたということは。
 傷を負ったということは。
 つまりは、そういうことではないのか――?


(#゚;;-゚)「どないしたんや? まさか、怪我したことなかったわけやないやろ?」

マト-ー-)メ「……いえ、始めてです。少なくとも記憶を失ってからは、怪我をしたのは始めてです」


 追い打ちをかけることもなく問い掛けるディに彼女は微笑んだままそう返す。
 浮き世離れしたままに、ふわふわと。


マト-ー-)メ「痛み……。痛いです……。でも少し、懐かしい」

(#゚;;-゚)「記憶喪失かなんか知らんけど、よー分からんやっちゃなあ。で、続けるか?」

マト^ー^)メ「私の勝ちにしてくれるんですか?」

(#゚;;-゚)「そんなわけないやろ」


 瞬間、戦いが再開した。

152名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 20:53:06 ID:E4.cAemc0

 刀が突き出される。
 見切っていたミィは容易く避ける。
 指が鳴る。
 その人差し指から一直線に炎が吹き出る。
 またも回避。
 息吐く暇なく今度は逆袈裟に切り裂くように刃が投擲される。
 だが既にミィは射線上から逃れている。
 連続で二度指が鳴る。
 『殺戮機械』が笑った。
 一度目のそれに呼応し背後に飛んだはずの凶器がブーメランの如く戻ってくる。
 二度目のそれと同時に発生したのは不可視の斬撃。
 旋風が刃となりミィを襲う。
 後ろからは回転する仕込み刀。
 どちらかを避ければどちらかに当たる挟撃。
 二者択一。
 ミィは前方から迫り来るカマイタチを軽やかに躱す。
 更に振り向かないまま後方から迫っていた刀身を指二本で掴み止めた。
 また指が鳴った。
 そのままミィは刃の持つ勢いを殺さぬままに前方へと投擲。
 その刹那に光が瞬く。
 指の音によって呼び出された稲光が空間を裂く。
 狙いは勿論彼女だ。
 しかし間には一本の刃がある。
 電撃はそれに吸い寄せられ結果ミィには当たらない。

153名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 20:54:06 ID:E4.cAemc0

 そんな風に、ものの数秒の間に何度も両者は交錯した。

 未来が見えている者同士の戦いはルーブ・ゴールドバーグ・マシンのようだ。
 散りばめられた雑多な要素は一貫性がなく、けれども明確に連鎖し繋がっていく。
 力学的であり決定論的。

 そんな戦闘が再度途切れたのはミィが幾度目かの攻撃を地面を転がり避けた時だった。
 彼女は立ち上がらず、俯いていた。


(#゚;;-゚)「なんや、タンマか?」


 相変わらずこういう場面では追撃しようとしないディの問いに「はい」と端的に答える。
 そうして僕に言うのだ。


マト -)メ「……ブーンさん」

( ^ω^)「なんだお」

マト -)メ「一つ、謝りたいことがあります」

( ^ω^)「なんだ」

154名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 20:55:06 ID:E4.cAemc0

 両目を閉じ、一拍置いて彼女は続けた。


マト -)メ「買って頂いたこの鞄……。良い色ですし気に入ってたんですが、早速駄目にします。服も、多分。ごめんなさい」

(;^ω^)「…………は?」


 僕は今日の戦いで何度も絶句する場面を見たつもりだったが、今この瞬間は本当に心の底から言葉を失った。
 鞄だとか服だとか。
 ミィが何を言っているのかさっぱり分からなかった。

 けれど、彼女の姿を改めて見て気が付いた。
 あれほどまでに壮絶な切った張ったを演じておきながら、ミィの姿は、この廃墟に足を踏み入れた時から全く変わっていない。

 厳密には「姿が変わっていない」のではない。
 首元には薄く傷が残っているし頬には煤が付き汚れている。
 だがそれだけだ。
 橙色の鞄や洒落た服には――傷一つない。

 だとしたら、ミィは。


(;^ω^)「お前……まさか……!」

155名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 20:56:15 ID:E4.cAemc0

(#゚;;-゚)「つまりアレか? お嬢ちゃんはうちと戦う最中、ずっと鞄や服やなんやを汚さんように気ぃ付けとったってことか?」


 そう。
 ミィは鞄や服を守りながら戦っていたのだ。
 今の今まで、ずっと。


マト ー)メ「そうですが……。気付きませんでしたか? 目に見えていたことなのに」


 ふわふわとした笑みを浮かべ紡ぐ言葉には煙のように掴みどころがない。
 ただただ意味不明で、浮き世離れしている。

 避け切れない攻撃があったのは当然だ。
 無数の超能力を持つ『殺戮機械』を相手にしておきながら衣服に気を使っていたのだから。
 あの死闘でそんな部分にリソースを割いていたら苦戦するのも無理はない。


(;^ω^)「(どころか、コイツは服装気にしながら戦ってあのレベルの動きができるのか……?)」


 信じられない。 
 そして驚愕はまだ終わらなかった。

156名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 20:57:05 ID:E4.cAemc0

 彼女が目を開いた。



マト^ー^)メ「ああ、気になっていたことを言ったからですね。今までよりも、もっとよく――目に見える」



 双眸が変化していた。
 片目ではなく、両の瞳が光を放っていた。
 またその色は紫から更に濃く鋭い洗練された紅へと。

 未来予測の超能力。
 彼女の魔眼が『目に見えて』――変わっていた。


(# ;;-)「笑えんなあ、そういう冗談は……!」


 言葉を否定するように『殺戮機械』が身を翻しミィへと襲い掛かる。
 だがその一撃を彼女は一歩動くだけで躱してみせる。
 続く斬撃も当たらない。
 攻防は先ほどまでと同じようで全く違う。

157名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 20:58:04 ID:E4.cAemc0

 ミィが動く度に瞳のアカイロが暗闇に淡く光の線を引いていく。
 それは攻撃を嘲笑うかのようで、ただ美しい。

 命のやり取りの中で彼女はあのふわふわとした笑みを浮かべ言う。


マト-ー-)メ「目には目を、未来予測には未来予測を。たとえ相手が自分の動きを予測していても、自分が相手の動きを予測していたのなら同じこと」


 ディの攻撃が肩を掠める。
 掛けていたバッグが切り裂かれ落ちる。 


マト-ー-)メ「どちらも未来が分かるのならば、最早分からないのと同じこと。ああ、それは確かにそうなんでしょう」


 彼女は身体から離れていく鞄を掴み、遠心力を利用して相手にぶつけようとする。
 けれどそんな攻撃は当たるはずもなく躱された。
 バッグは手から離れ空へと。
 次いでディは一気に距離を詰めた。

 攻撃と回避が一瞬の内に繰り返された。
 きっと目に見えない次元でも手の読み合いが繰り広げられていた。

158名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 20:59:05 ID:E4.cAemc0

マト ー)メ「ですが―――」


 ディが真空の刃で辺りを薙いだ瞬間だった。
 発砲音が廃墟に響き渡り、黒のセーラー服に風穴が開いた。
 血が飛び散る。
 黒髪の少女の動きが止まった。

 何が起こったのか分からないという顔を『殺戮機械』はしていた。
 いや、何が起こったのかは明白だ。
 拳銃で撃ち抜かれたのだ。

 だから疑問なのは、その過程。


(#゚;;-゚)「拳銃……何処から……?」

マト^ー^)メ「これは、あなたが出してくれたものです」


 彼女の言う通りだった。
 傍から見ていた僕には分かった。
 あの銃を出したのは他ならぬディなのだと。

159名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 21:00:05 ID:E4.cAemc0

 肩掛け鞄に入っていた回転式拳銃。
 その鞄を切り落とし、側面を裂いて中から銃を出したのはディ自身だ。
 ミィは出てきたそれを拾って撃っただけだ。

 詰まるところ、あの『殺戮機械』は誘導されていたのだ。
 都合の良いように動かされていた。

 チェスでコンピュータに勝ちたければ同じスペックのマシンをぶつければ良い。
 それは紛れもなく一つの解。
 だがその方法で実際に何が起こるかと言えば、少しでも演算能力の高い方が低い方を一方的に蹂躙するだけだ。
 大前提として完全に同等の能力を持っていなければ成立しない攻略法だった。

 そして、その前提をディは満たしていなかった。


マト^ー^)メ「あなたが持つ予知能力を全て合わせたところで、私の『未来予測』に及ばない。それだけのことです」


 どころか、服に気を使っている状態の彼女にさえ仕留め切れなかった。
 同系統の能力ではあるのだろうが、その差は圧倒的だった。
 行動を支配されてしまうほどに。

 あの『殺戮機械』の選択はミィが作る未来に組み込まれたのだ。

160名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 21:01:05 ID:E4.cAemc0

(# ;;-)「なるほどな……。うちの能力は取るに足らないっちゅうわけか」

マト-ー-)メ「考慮している要素の数が少ない。敵の動きの予測を優先し過ぎてそれ以外が疎かです。未来予測では世界の全てを知覚している状態が理想です」

(#゚;;-゚)「ラプラスの悪魔ね。ホンマに……やれやれや」


 ディは指を鳴らした。
 今度は能力を発動させたわけではなく、既に発動中だった能力をオフにしたのだろう。
 役に立たないと分かった三つの『未来を知る能力』を切ったのだ。

 拳銃を弄びながらミィが訊いた。


マト^ー^)メ「どうしますか? まだ続けますか?」


 そこで僕は気が付く。
 いつの間にやらセーラー服を紅く染めていた血が止まり、脇腹の傷が塞がっていた。
 もう勝負は決したと思っていたが、流石『殺戮機械』と言うべきか。
 そんなに甘くはなかったらしい。

 彼女は「無論やろ」と端的に答える。
 つい数秒前に拳銃で撃ち抜かれたとは思えないほど平然と。

161名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 21:02:05 ID:E4.cAemc0

 彼女は言った。


(#゚;;-゚)「うちはまだ全然本気を出してない。負け惜しみやないで。お嬢ちゃんやってそうやろ?」

マト-ー-)メ「はい」


 頷いたミィは一瞬間黙って。
 そうしてから僕に向かって告げる。


マト゚ー゚)メ「ブーンさん。逃げてください。私のことはいいですから」


 ミィが本気を出せていなかったのは服や鞄を気にしていたからだ。
 だが、理由はそれだけではないのだろう。

 きっと彼女は服や鞄以上に僕を庇い続けていた。
 ディは僕を狙わないと明言していたが、それは狙わないというだけでご丁寧に戦いの余波の影響まで考えるということではない。 
 例えばとばっちりを受け空気の刃なんかでこの身体が真っ二つになっていてもおかしくなかったのだ。
 でも現実にはそうなっていない。

 どころか、僕はロクに動いてすらいない。

162名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 21:03:05 ID:E4.cAemc0

 攻撃を避ける必要もなかった。
 彼女が相手の動きを操作してこちらに破壊が向かわないようにしてくれていたから。

 僕を――守っていてくれていたから。

 何が「他者を守ることは向いていない」だ。
 ちゃんと守ってくれたじゃないか。
 全くコイツは、と思わず笑みが溢れてしまった。


( ^ω^)「分かったお」


 そう答えて、ちょっと考えてからこう続けた。


( ^ω^)「鞄のことは気にするな。この戦いが終わったらまた買い物にでも行こう。……信じてるぞ、労働力」

マト^ー^)メ「はい。私も、ブーンさんを信じています」


 些細な言葉だけを残して、僕は廃墟を後にする。
 外に出たところで自分の発言は所謂死亡フラグに該当するんじゃないかと思ったが、まあ、別に訂正するまでもないだろう。

 僕はそんな迷信よりも、彼女と彼女の作る未来を信じているのだから。

163名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 21:04:03 ID:E4.cAemc0

 *――*――*――*――*


かつては老人ホームだった施設。
今はもう廃墟でしかない建物の階段を夕焼けような色合いの髪を持つ少女が駆け上がっていた。

部分的に崩落した場所もあるのだが、苦にする風もなく彼女は走って行く。
その両の瞳に宿った超能力はただ未来を知るというものではなく、状況の高度な分析からの予測だ。
階段のどの場所が脆くなっているかが分からないはずもない。
自分の名前も分からないのに、なんて少女は自らのちぐはぐさに笑みを漏らす。

いや、今はもう『ミィ』という名前があるのだったか。


(# ;;-)「……にしても分からんなあ」


声と共に指を鳴らす音が響いた。
その瞬間、少女――ミィが上り終えた階段がレーザーのようなものに撃ち抜かれて爆発した。

しかし未来を見る魔眼で展開を予測していた彼女は完璧にその攻撃を避けた。
だが直後に気付く。
これは攻撃ではなかったと。

164名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 21:05:07 ID:E4.cAemc0

数秒前まで階段があった空間に黒いセーラー服を纏った少女が浮いている。
『殺戮機械』という異名と全てを奪う右腕を持つ彼女は多分、上るのが面倒というそれだけの理由で階段を吹き飛ばした。
自分が飛びやすいようにと建物を粉砕した。
そういう奴だった。

彼女、ディと呼ばれた少女は空中に浮遊したまま続けた。


(#゚;;-゚)「いまいち分からんわ」

マト゚ー゚)メ「何が分からないんですか?」

(#゚;;-゚)「分からんことが多過ぎて、何から言えばええんか分からんけど……」


トンと三階の地面に着地するディ。
指を一度鳴らして言った。


(#゚;;-゚)「まず、なんでお嬢ちゃんが兄さんと一緒におるんかが分からんわ。あの人、あんま役立つとは思えへんし。彼氏とかやないんやろ?」

マト-ー-)メ「ブーンさんは私の雇用主です」

(#゚;;-゚)「ふーん。それならそれでここまで一緒に付いてきた意味が分からんけど」

165名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 21:06:04 ID:E4.cAemc0

ディの感覚では、付いてくるまでは分からなくもないが、戦闘が始まってからもその場に留まり続けることが理解できない。
戦いが始まる直前に「逃げなくて良いのか?」と訊ねたのもそれが疑問だったからだ。
あの時、あの青年はなんと答えたのだったか。


(#゚;;-゚)「(確か……)」


「信じているから」と答えたはずだ。
自分が雇った少女が勝つと、自分のことを守ってくれると信じていたから、その場に留まった。
その割には邪魔になると思ったのかもう去ってしまっている。
よく分からんなあと思う。

自分には自分の事情があるように、彼女達には彼女達の事情があるのだろう。
そういう風に納得し、またディは疑問を口にする。


(#゚;;-゚)「でも、彼氏やないんやったら鞄を大事にしとった理由が分からんわ。好きな人から貰ったもんやから大事にしとったんとちゃうんか」

マト-ー-)メ「そういう解釈でも構いません。私は、頂いた物は大事にしたい」

(#゚;;-゚)「物は大事にする主義っちゅうわけか」

マト゚ー゚)メ「ブーンさんに頂いた物は大事にしたいだけです」

166名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 21:07:05 ID:E4.cAemc0

それ好きってことやないんかと言いかけ、止める。
どうでもいいことだ。

『殺戮機械』は言った。


(#^;;-^)「さあて、そろそろお喋りは終わりにしよか。うちはこの後、帰って誕生日会の飾り付けせなアカンねん」

マト-ー-)メ「誕生日会ですか。なら、早く帰らないといけません」

(#゚;;-゚)「協力してくれるんか?」

マト゚ー゚)メ「はい。ですが多分、あなたが考えているのとは違う形で」


早く負ければ早く帰れます。
言外にミィはそう主張していた。

理解した上で首を振る。
ディはやることをやった上で早く帰りたいのだ。
つまりは、相手の『未来予測』という能力を奪ってから。

そうして一瞬間、廃墟を静寂が支配した。


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