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マト ー)メ M・Mのようです

167名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 21:08:05 ID:E4.cAemc0

そして次の瞬間。
二人は小休憩を終え、戦闘を再開した。

内容としては変わらない。
ディの多種多様な攻撃を対するミィが回避するというものだ。
その攻防は宛ら舞踏のようだった。
まるで二人で呼吸を合わせ踊っているかのように噛み合っているが、選択を間違えれば致命傷は避けられない。

これまではミィの側に決定打がなかったが、今の彼女は一丁の回転式拳銃を携えている。
数え切れないほどの能力を持つ『殺戮機械』も流石に脳天を撃ち抜かれてはただでは済まない。
綱渡りのような死のダンスは続いていく。


(# ;;-)「でもどうやらお嬢ちゃん、記憶がないらしいやん?」


ディが指を鳴らすと足元のコンクリートから槍が突き出る。
いや違う、音に呼応し床が変形したのだ。


マト ー)メ「ああ、そういう言い方をするということは、あなたは私のことを知らないんですね」


それを既に予測していたミィは軽やかに躱し前に出る。

168名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 21:09:05 ID:E4.cAemc0

(# ;;-)「知らんよ。噂で聞いただけや。うちは記憶を奪うこともできるけど、お嬢ちゃんの記憶は知らんなあ」


しかしそれはディも想定済み。
攻撃を掻い潜ってきた相手を迎撃するように右腕を薙ぐ。


(;#゚;;-゚)「ちなみにあのボウリング場の人の記憶は奪っといたから安心してええ……でッ!!」

マト ー)メ「ありがとうございます」


腕の振りよりも一瞬早くミィが心臓を撃とう銃爪を引いた。
瞬時に攻撃を中断。
ディはテレポートで間合いを空けた。


(#゚;;-゚)「(……って、引いてないやん)」


距離を取り改めて見れば回転式拳銃は弾丸は一発も消費されていなかった。
こちらが咄嗟に回避を選択したのと同時に、向こうも瞬間的に選択を変更し無駄撃ちを防いだのだろう。
それとも交錯の前からこの展開を予測していたのか。
どちらにせよ厄介な能力だとディは舌打ちを一つ。

169名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 21:10:05 ID:E4.cAemc0

さて、どう攻めるか。
と、ディはそんなことを考えつつ指を弾こうとする。

だが一瞬間早く、手の平大の物体が彼女を襲う。
回転し飛来するそれはガラスの破片。
何処で拾ったのか、それ以前にいつ拾ったのかといった疑問を全て押し殺し対応。
一つ目は真上に弾き飛ばし二つ目は斜め下に叩き落とす。

間合いを詰めてくるミィに対し指を鳴らし改めて能力を発動させた。


(# ;;-)「ほぉらッ!」


これまでの戦いから、あの少女は『未来予測』を限界まで活かす為に真っ直ぐに敵を見据えていることが多いと分かっていた。
今もそうだ、だからそれをディは利用する。

「目には目を」――そうして発動するのは大天使や女神が有していたと伝わる石化の魔眼。

目を合わせた相手を石像へと変える邪視を紅い両目は真正面から見る。
そのはずだった。
しかしその瞬間に中空より落下してきたガラス片が完璧な配置で鏡の役割を果たす。
呪いが反射し、ディへと跳ね返る。

170名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 21:10:43 ID:jvCGy9vU0
支援
読んでる

171名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 21:11:04 ID:E4.cAemc0

けれども、これまでの戦いの経験則から彼女とてこの展開は読めている。
爆ぜるような音が響き空間が震えた。
既に発動していた邪眼封じが石化の呪いを跳ね除けたのだ。

幾度目かの接近戦。
攻撃と回避の応酬。

再度間合いが開いた時、遂にディが言った。


(# ;;-)「ああ、もう……うざったいわお前」


戦闘力では圧倒的に勝っているのに仕留め切れない相手。
宛ら視界を飛ぶ蝿のようだ。
そんなディの心底うんざりしたような言葉にも、記憶喪失の少女はふわふわとした笑みで返す。


マト ー)メ「奇遇ですね。私もあなたと戦い続け、多彩な能力を知覚し続けるのは目に障る」


紫から紅に色を変えた両の瞳ではより高い精度での知覚・演算・予測が可能となった。
超能力という埒外の力さえも完全に見抜く魔眼は、しかしその分、その発動には通常時よりも遥かに負担がかかっている。

172名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 21:12:04 ID:E4.cAemc0

つまりは。
両者ともに――そろそろ本当に決着をつけたくなっていた。
この戦いの終焉を求めていた。

ディは言う。


(#^;;-^)「イライラするわ時間はなくなるわ最悪やわ。……でもな、一個気付いたことあんねん」


先ほどまでは苛つきが伺える声音であったにも関わらず、奇妙なほどに笑顔で。
また一度指を鳴らした。


(#^;;-^)「お前は能力を始めとして色々とスペシャル仕様みたいやけど、基本スペックは真人間と同じみたいやって」

マト^ー^)メ「そうかもしれません」


だったら、とディはアポートの能力を発動させ、何処からかマッチ棒大の物体を取り寄せた。

その物質が何なのかを知覚したミィは瞬時に踵を返した。
壁が崩落し外の景色が見えている場所。
そこを目指し、走る。

173名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 21:13:06 ID:E4.cAemc0

未来が見えていようとも、スペックは普通の人間と同じ。
彼女の能力は特別なことができるものではない。
だとしたら。


(#^;;-^)「物理的に回避も防御も不可能な攻撃は……当たるってことやん? 死んだら困るから手加減しとったけど死んだら死んだで治せばええやん?」


ミィは答えず走る。
背後でまた指の音が鳴った。
踏み切る。
空中に身を躍らせる。

そして。
結末は訪れた。



(# ;;-)「てなわけで――伸びろ、なんとか棒」



言葉と共に廃墟の三階、その天井の半分ほどが吹き飛んだ。
瞬間的に数十メートルまで伸びた神仙の秘宝がコンクリートを硝子細工のように砕いたのだ。

174名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 21:14:04 ID:E4.cAemc0

破壊はそれだけで終わらない。
ディは五トンを軽く超える重さのそれをあまりにも軽く振り下ろす。
度を超えた腕力強化で振り回された巨大な棒に、老人ホームだった建物は為す術もなく蹂躙され、管理会社の解体の手間を大幅に省いた。

残ったのは、地震の被害にでもあったのかというような有り様の廃墟のみ。
床面積を半分に減らしたフロアでディは溜息を吐いた。


(#^;;-^)「やっぱりこのレベルの能力を使うと疲れるなあ。でもま、これで一件落着や」


相手も能力が能力だけに死んではいないだろうが、ただでは済んでいないはず。
後は満身創痍の少女から魔眼をさっさと奪い取って帰るだけ。

さてパーティーの準備はどうしようか。
そんなことを考えつつ、ディは指を弾き如意棒を仕舞うと崩壊した三階の端へと歩いて行き、コンクリートに押し潰されたであろう少女の姿を探した。
しかし彼女の視界に映ったのは想像していたものと全く違う光景だった。



(;#゚;;-゚)「…………え?」



彼女が目にしたのは離れた位置で対戦車擲弾発射器を構えこちらを狙う男達。
次の瞬間、三階の残り半分も吹き飛んだ。

175名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 21:15:12 ID:E4.cAemc0

 *――*――*――*――*


 雇った男達は、僕の感謝の言葉にサムズアップやハイタッチで簡単に応えると速やかに散っていった。
 廃墟と言えど真っ昼間から対戦車兵器をぶっ放したのだ、警察だって数分も経たない内にやって来ることだろう。
 現場を後にする彼等の判断は中々賢明だと言える。
 僕もできればこんな廃墟、という砕かれたコンクリートの山からはおさらばしたい。

 さっきまで運転していたトラックに歩み寄り、声を掛ける。
 もちろん、彼女に向けてだ。


( ^ω^)「おい。生きてるかお?」

マト^ー^)メ「お陰様で無事です。負傷は覚悟していたのですが、ブーンさんは思った以上に有能でした」

( ^ω^)「そりゃ良かった。こっちもこれは一応用意してきただけで、本当に受け止められるとは思ってなかったお」

マト-ー-)メ「そうですか」


 荷台に積まれたクッションの上に彼女、ミィは寝転がっていた。
 本人の申告通りに五体無事でだ。
 三階から飛び降り、上手くこのトラックに着地したのだから全く彼女の能力は凄まじい。

176名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 21:16:07 ID:E4.cAemc0

 クッションの山から降りてきた彼女に僕は訊く。


( ^ω^)「いつから気が付いてた? 僕がこういう準備をしてたことに」


 ミィを受け止める為のトラックをチャーターしたのは今日だ。
 だが裏稼業の人間を雇ったのは昨日。
 ただの保険であり彼女には話していなかったのだが、一体いつ気が付いたのだろうか。


マト^ー^)メ「いつからも何も、最初からです。連絡をしたことも契約をしたことも分かっていました」

( ^ω^)「最初から? ああ、だから昨日から『頼りにしてる』とか『信じてる』とか言ってたのかお」


 なんでボディーガード側が雇用主にそんなこと言うんだと思っていたが、そういうことだったのか。


マト゚ー゚)メ「私に隠れて公衆電話で話したところで距離が近ければ知覚できます。ハイテクな携帯で情報を調べたこともログを完全に消さなければ解析できます」

( ^ω^)「見てるだけでかお?」

マト-ー-)メ「はい、見ているだけで。あるいは見ていなくても。壁を透視する程度は私は能力にも数えません」

177名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 21:17:06 ID:E4.cAemc0

 なるほど。
 そう言えばあのディという少女が暗闇に突如として現れた時もミィはしっかり知覚していた。
 彼女の視界の前では明暗程度は全く問題にならないのだろう。

 いや、ちょっと待て。


(;^ω^)「……じゃあ服とか透けて見えるのかお?」

マト-ー-)メ「その気になればいつでも。構造的に弱い部位を探す過程ではもっと精密に知覚しています。ブーンさんの弱い点を教えましょうか?」

( ^ω^)「遠慮しとくお。それと以後、必要な時以外は僕の身体は見るな」

マト^ー^)メ「携帯端末に保存された動画から予測するにブーンさんはショートカットの女性が好みなんですね。ああ、だから初対面の時も優しかったんですか?」

( #^ω^)「お前マジふざけんなよ。その目潰すぞ」


 僕が真剣に行った抗議(というか脅迫)にも彼女はふわふわと微笑むばかりだった。

 彼女が勝つと信じていなかったわけではないが、こっちはこれでも結構、心配していたというのに。
 でもこの笑みがもう一度見れて良かった。
 素直にそう思う。

178名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 21:18:05 ID:E4.cAemc0

 僕の心情までは知覚できないようで、彼女は「そう言えば」と話題を変えた。


マト゚ー゚)メ「助けてくださったことはありがたく思います。ですが、ブーンさんは殺人を好まないのではなかったんですか?」

( ^ω^)「……それはそうだが、奴を僕が普段言ってる『人』に含むかどうかは議論をする余地があるお」


 人智を超えた力を有し、数え切れないほどの罪を重ねてきたというあの少女。
 人の形をした暴風雨だと自らを称していたのだったか。
 それは全く言い得て妙で、僕も『殺戮機械』のことは人間というよりかは何かしらの天災に近い存在だと認識している。

 だが、そのことはあまり関係がない。


( ^ω^)「まあ奴がどんな人間かは今回は関係がないお。もちろん、自衛の為に已むを得ないって理由もあるが」

マト^ー^)メ「では何が関係しているんですか?」

( ^ω^)「決まってるお」


 ガタガタガタ、と硬い物がぶつかる音が背後から響いた。
 コンクリートの山の一角が崩れたのだろう。

179名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 21:19:08 ID:E4.cAemc0

( ^ω^)「僕がここまでのことをやる気になったのは確信があったからだお」


 なあ、聞いてるんだろ?
 そう皮肉っぽく叫ぶ。
 これから目にするものに恐怖を感じていないわけではないが、それでも精一杯虚勢を張って。

 そうして僕は振り向いた。



(  ∀)「……無害そうなフリして酷いことするなお前。ビックリしたぞ」



 だが瞳に映ったのは想像していたのと全く違う光景だった。
 コンクリートの山に立っていたのは『殺戮機械』を名乗ったセーラー服の少女ではなかった。


( ・∀・)「俺ならこれくらいで死なないと思ってたのか? 俺だって死ぬんだぞ、全く」


 そこに立っていたのは黒髪の少年だったのだ。

180名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 21:20:06 ID:E4.cAemc0

 *――*――*――*――*


 僕は無数の超能力を持つというあの少女が建物が崩れたくらいで死ぬとは毛ほども思ってなかった。
 骨の一本でも折れれば幸運、それに怪我を負わせたところですぐ治るだろうと。
 そんな風に考えていたからこそ躊躇いなく対戦車兵器を何発も打ち込んだのである。
 それだけの話だ。

 だから、振り向いて対面することになるのはあのセーラー服の少女であるはずだった。
 だというのに僕の前にいるのは、瓦礫の下から出てきたのは、黒髪の少年。


(;^ω^)「お前は……」


 頭の中を疑問符が埋め尽くしている。
 状況が飲み込めない、問いが上手く纏まらない。

 だがそんな僕を後目にその少年は「おっと」なんて呟き、


( ・∀・)「しまった、姿を間違えた」

(;^ω^)「…………は?」

181名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 21:21:04 ID:E4.cAemc0

 そう言うと慣れた風に指を一度鳴らした。
 パチン。
 あの少女が能力を発動させる音。

 その音が終わった時、僕の前にはあの黒のセーラー服の少女が立っていた。


(#^;;-^)「すまんすまん、混乱させたか? うっかりしとったわ」

(;^ω^)「姿が変わっ……」


 いや。
 それよりも訊くべきことがあるだろう。


( ^ω^)「……今のがお前の正体かお?」

(#゚;;-゚)「さあ、どうやろな。一つ言えるんはうちは幻覚系も認識操作も身体変化も、どの能力も持っとるってことやな」

( ^ω^)「答えるつもりはないってことかお」

(#^;;-^)「そう解釈してくれたらええ」

182名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 21:22:06 ID:E4.cAemc0
 
 はぐらかされてしまったが、言ってしまえば彼女の正体などどうでもいいことだ。
 ……いや、ディという名前でないのはもちろんのこと、本当は「彼女」でもないかもしれないのか。
 何にせよ『殺戮機械』が捕まらない理由が一つ分かった。
 姿を自在に変えられるんじゃ捕まえようがない。

 さて、とディは笑う。


(#^;;-^)「確か『片膝付いたらうちの負け』……やったな。参ったわ、完敗やわ」

( ^ω^)「よく言うお」


 彼女の姿は出会った時と全く同じ。
 無傷どころか、セーラー服の穴さえも塞がってしまっていた。
 違いは和傘と棒付きキャンディがないくらいだ。


(#゚;;-゚)「うちがまだ戦えるんも事実やけど、負けたのも事実や。質問に答えればええんやな?」


 僕とミィは顔を見合わせる。
 少し考えて、彼女の方の質問に答えてもらうべきだと判断し、ミィに譲った。

183名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 21:23:04 ID:E4.cAemc0

 そうして僕達はディにいくつかのことを訊ねた。
 残念ながら彼女もミィの正体は知らないとのことだった。
 だが有益と思われる情報を入手することもできた。
 少なくとも無駄ではなかったと思える程度には望ましい成果を上げられたと思う。

 中でも、僕の父の会社名に使われていた『ミストルティン』という単語に関しては面白い情報が得られた。


(#゚;;-゚)「『ミストルティン』って名前の組織? そういう力を持つっちゅう奴がおることは聞いたことがあるけど、組織は知らんなあ」

( ^ω^)「そうか……」

(#゚;;-゚)「ああでも、待てよ? 組織やなくて作戦名……計画名か? そんなんで聞いた覚えはあるな」


 ああそうや、と彼女は続けた。


(#゚;;-゚)「確か――『ミッション・ミストルティン』。そんな名前の何かがあった気がする」


 それ以上のことはディも知らないとのことだった。
 知らないというか、覚えていないか。
 しかしとりあえずその辺りから父については調べてみることにしよう。

184名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 21:24:05 ID:E4.cAemc0

 一通りの質疑応答を終えて。
 僕達の質問に答え終わった彼女は、負けたというのに何処か満足そうに言った。


(#^;;-^)「……ほんなら、そろそろうちは帰るわ。お嬢ちゃんの目を奪うええ方法を思い付いたらまた来るし」


 どうやら今日のところは帰るというだけでミィの能力を諦めたわけではないらしい。
 縁起でもないことを言う奴だと僕は苦笑する。
 こんなことはもう勘弁願いたい。


マト-ー-)メ「できれば遠慮したいです。せめて、私が【記憶(じぶん)】を見つけるまでは」

(#゚;;-゚)「『自分』ねぇ……。過去なんて大事やないとは言わへんけど、所詮過去なんやからそこまで執着する必要はないと思うけど」

( ^ω^)「されど過去、だお。自分が何者なのか知りたいと思うのは当然のことだろ?」


 自分が何者であるのかを知りたいと考えるのは、ごく当たり前のことのはずだ。
 そう。
 僕が父のことを知りたいと願っているのと同じように。
 きっと僕とミィの唯一の共通点はそういう部分にあるのだろう。

185名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 21:25:07 ID:E4.cAemc0

 ふーん、とディは言う。


(#゚;;-゚)「まあ、そうかもしれへんな。でもなあ、お嬢ちゃん」

マト^ー^)メ「なんですか?」

(#゚;;-゚)「お嬢ちゃんの口振りから察するに、どうも『自分の記憶を奪った犯人がおる』って考えとるみたいやけど、そうとも限らんのちゃう?」


 ミィの返答を待たず彼女は続ける。


(#゚;;-゚)「その目。途中から色変わったみたいやけど、土壇場で進化したわけやないやろ?」


 あの時目覚めたわけではなく、そういう機能が元々あった。
 超能力戦闘に特化したバージョン――必要に応じてリミッターが解除される設定が備わっていた。
 そう彼女が指摘すると、ミィも首肯する。


(#゚;;-゚)「人間はそういうもんなんや。多分、記憶も」

( ^ω^)「どういうことだお?」

186名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 21:26:08 ID:E4.cAemc0

(#゚;;-゚)「自分なんて信用ならんってことや。見落としたり、目を背けたり……そんなんばっかりやろ」


 例えば。
 毎日目にしているはずの信号機の色の並びが咄嗟に思い出せなかったり。
 幼い日の思い出の都合の悪い部分を忘れていたり。
 そんなことは、人間にはよくあることで。

 だから、もしかしたら。
 ミィの記憶がないのは誰かに奪われたからではなく―――。


マト゚−゚)メ「…………」

(#^;;-^)「一般論やって、そんな顔すんなや。いくら辛い経験しても記憶全部失くすなんてことはないと思うし」


 と、その瞬間、ディが目を見開いた。


(#゚;;-゚)「あれ?」

( ^ω^)「どうかしたかお?」

187名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 21:27:08 ID:E4.cAemc0

 まさかコイツまで記憶が失くなってるとかじゃないだろうな。
 咄嗟にそう思ってしまったが、幸いなことにそうではなく。


(#゚;;-゚)「真面目な顔のお嬢ちゃん、誰かに似とるな。誰やろ?」

(;^ω^)「え? 誰かに似てるって……」

(#゚;;-゚)「誰やろなあ。服装とか髪型とかが全然ちゃうから分からんのやろうけど、誰に似とんやろ? 目元が誰かに似とる気がするんやけど……」


 ちょっと待て。
 ミィに似ている人?
 誰に似ているのかが分かったら、彼女の正体を探る上で大きなヒントになるんじゃないか?

 しかしディはしばらく唸って考えたが、結局思い出すことはできなかった。
 そうして最後に話を纏めるようにこう言った。


(#^;;-^)「ま、こういう感じで自分なんてアテにならんって話やな!」


 ……上手いこと纏めてんじゃねぇよ。

188名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 21:28:05 ID:E4.cAemc0

 *――*――*――*――*


 僕達は二人で夕暮れに染まる街を歩いていた。

 あの廃墟を後にして数時間。
 ミィを横目に伺うが、歓楽街を行くこの少女が超常的な命のやり取りを行っていたとはとても思えない。
 ただの、普通に可愛らしい女の子に見える。

 それにしても今日は本当に疲れた。
 特にディとの会話に夢中になり過ぎて駆け付けた警察に見つかりかけた時は心臓が止まるかと思った。


マト^ー^)メ「そう言えば良かったんですか?」

( ^ω^)「何がだお」

マト-ー-)メ「あの人にお金を渡したことです。ただでさえ今日は出費が嵩んでいたのに」

( ^ω^)「見過ごすわけにもいかないお」


 別れ際に僕はあの『殺戮機械』に小切手を渡していた。
 恐喝されたわけではなく、自主的にだ。

189名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 21:29:04 ID:E4.cAemc0

( ^ω^)「『姉さんにプレゼント買わんとあかんけど金ないし、強盗でもして帰るわ』って……。訳分かんねぇお」


 小金稼ぎに強盗ってどんな日常だとツッコミたくなった。
 そんな言葉を聞いてしまえば少しは恵んでやりたくなるのも無理はないと思うのだ。
 どうせ僕はお金持ちなのだし。
 そのお金持ちな僕としてはアイツが一刻も早く捕まることを祈るばかりだ。

 またミィはふわふわと笑って言う。
 ブーンさんは優しいですね、と。

 上機嫌なのは新しく鞄を買ってあげたからだろうか?


( ^ω^)「そう言えば僕も訊きたいことがあったんだお」

マト゚ー゚)メ「なんですか?」

( ^ω^)「鞄とか服とかを気にしてたみたいだが、そんなに気に入ってたのかお?」


 ずっとそのことが気になっていた。
 少なくとも僕はどれほどお気に入りの物でも生死の境で汚れないように気を付けたりはしない。
 しかも思い出の品というわけでもないのに。

190名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 21:30:07 ID:E4.cAemc0

 だから彼女が買ったばかりの服や鞄に何故拘っていたのかが気になった。
 だが、ミィはそんなことも分からないんですか?とでも言いたげに笑って答えた。


マト^ー^)メ「ブーンさんに頂いた物ですから」

( ^ω^)「随分と唐突なデレだな。そんな可愛いこと言ったって夕食は高級料理にはならないお」

マト-ー-)メ「本心です」

 
 だって、と彼女は続けた。


マト゚ー゚)メ「私にとってブーンさんから頂いた物は立派な一つの記憶です。思い出の品だから大切にしたくなるのは当然です」


 服や鞄が彼女の記憶。
 あれがミィが自分を失ってからの生活で得た過去だった。
 紛れもなく、あれも記憶の一つなのだ。

 過去を思い出すことのできるそれらを『思い出の品』と呼ばずになんと呼べばいいのだ。
 ずっと、そんな風に彼女は思っていたのだろう。

191名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 21:31:16 ID:E4.cAemc0

 昨日の出来事だって過去は過去だ。
 今この瞬間だって次の刹那にはそうなっている。
 自分の全ての記憶を失っている彼女にとっては僕との些細な会話だって、紛れもなく一つの【記憶(じぶん)】だったのだ。

 なるほど、考えてみれば当たり前のことだと僕は自嘲する。
 訊くまでもないことだった。


( ^ω^)「なあ、ミィ」


 できるだけ平静を保つように努め、僕は言った。



( ^ω^)「……服や鞄のことなんてそんなに気にするな。また買ってやるから。その程度の記憶なら、またいくらでも作ればいいんだから」



 僕は少し紅くなってしまった顔を隠すようにそっぽを向いた。
 夕陽に紛れて気付かれなければいいのにと気恥ずかしさに目を瞑る。
 まあでも、彼女の前では望み薄だろう。

 けれど、こんな出来事も彼女の過去の一つになるのなら。
 それはそれで悪くはないとも僕は思った。

192名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 21:32:05 ID:E4.cAemc0

 *――*――*――*――*


 その日の夜。

 飲み物を買いにホテルの部屋を出た時、ポケットに入れていた携帯端末が震えた。
 エレベーターに乗り込み、建物のすぐ外にあるコンビニへと向かいながら電話に出る。


( ^ω^)「もしもし?」

『お久しぶりです、坊っちゃん』

( ^ω^)『ああお前か』


 聞き慣れた声音に母国語の言葉で応じる。

 電話の相手は年配の男だった。
 僕の家で雑用をやってくれている使用人の長だ。
 色々なことがあったからか、そう月日が経っていないのに酷く懐かしい。


『心配しておりました。ご無事でなりよりです。女中の者も坊っちゃんに会いたがっておりますよ』

193名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 21:33:07 ID:E4.cAemc0

( ^ω^)『連絡しなくて悪かった。僕は元気だ。……あと、そういう呼び方はやめてくれ』


 本当に御曹司のようで恥ずかしい。
 何より、もう「坊っちゃん」なんて呼ばれるような年齢ではない。

 エレベーターを降り、ホテルから出ながら会話を続ける。


( ^ω^)『親父の部屋の掃除は終わったか?』

『はい。概ね終了致しました。ですが少し、気になるものが』

( ^ω^)『気になるもの?』


 コンビニの前で立ち止まり先を促した。


『奥様の写真が飾られていた写真立ての中から別のお写真が見つかりまして……』

( ^ω^)『別の写真ね……。見せてくれるか?』

『準備しておりますとも。今転送致します』

194名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 21:34:05 ID:E4.cAemc0

 僕は礼を言って携帯の画面を見る。
 ダウンロード中の文字。
 仮にも最新式なのに結構時間がかかるな、と思っている内に作業が終わった。
 折角コンビニに来たわけだからミィにアイスでも買っていこうと考えつつ僕は画像を開いた。

 驚愕に言葉を失った。


(;^ω^)「は……?」


 今日一日で何度も驚いたし、絶句するような場面も幾度となくあった。
 けれど、これほどまでに自らの目を疑ったのは初めてだった。

 ……画像は破かれた写真を撮影したものだった。
 少し粗く分かりにくいものの、その一葉に写っているのが白衣姿の僕の父だということは確かに分かった。
 そしてもう一人。


(;^ω^)「ミィ……?」


 そこに写っていたもう一人は――僕が今行動を共にしている、記憶を失った少女だった。

195名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 21:35:05 ID:E4.cAemc0


  どれほど『もしも』を積み重ねたところで過去も現在も変わりはしない。
  そう、何も変わらない。
  それは気休めにしかならない意味のないことだ。

  他愛のない想像で分かるただ一つの真実は、過去の自分の選択が現在を形作っているということ。
  そして同じように現在の自分の選択が未来へと繋がっていくということだ。

  数え切れないほどの『もしも』の中の唯一の僕達は、過去と未来の為に、また『もしも』の中から一つを選んでいって―――。




        マト ー)メ M・Mのようです


        「第四話:過去の糸口、未来の行末」





.

196名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 21:36:08 ID:E4.cAemc0

ルーブ・ゴールドバーグ・マシンとは、格好付けた言い方をしているだけで、要するにピタゴラ装置のことです。
サクッと読めるように頑張ろうとしたんですが無理でした。

データとかのオマケは近い内にまた投下します。



……後書きで言おうと思ってたことがあったんだけど、僕の記憶は誰か奪ったんだろう

197名も無きAAのようです:2013/11/22(金) 22:00:01 ID:32ddNgA.0

続き待ってる。

198名も無きAAのようです:2013/11/23(土) 06:24:29 ID:pZ08DsxsO
おつ
やっぱり面白いなぁ

199名も無きAAのようです:2013/11/23(土) 23:57:40 ID:j00D4rO.0
乙!
おもしろかった!

200名も無きAAのようです:2013/11/24(日) 03:20:31 ID:w8suA8vY0

【現時点で判明している“少女”のデータ】

マト゚ー゚)メ
・名前:本名は不明、現在の呼び名は「ミィ」
・性別:女
・年齡:不明(外見年齡は15〜17程度)
・誕生日:不明
・出身地:不明
・職業:現在はボディーガード、記憶を失う前は不明
・経歴:不明
・特記:『未来予測』の能力を持ち、限定的ながら未来が見える。精確に予測できるのは数秒先までで一分以上先のことは可能性が見えるのみ。
    能力を発動している間は瞳の色が変わるがデフォルトでもある程度未来は見えている。
・外見的特徴:身長160代前半。癖のある赤みがかった茶髪。白い肌。起伏の少なめな体型。整った容姿。ニット帽。ボーイッシュな服装。
       やや鋭めな双眸。瞳の色はヘーゼル。能力発動中は左目が紫に輝き、更に集中すると色が濃くなり紅色に変わる。

・備考:
 気が付いた時には記憶(エピソード記憶)を全て失っていた。
 その当時の所有物は細工の入った銀の指輪のみ。 
 一人称は恐らく「私」。この国の言語で話しているので海外に住んでいたとは考えにくい。
 服を着る、買い物をする等のごく一般的な知識も備えている。
 知識(意味記憶)として一般には知られていない生体兵器についての知識を有する。
 ディの話によれば「目元が誰かに似ている」らしい。

201名も無きAAのようです:2013/11/24(日) 03:21:22 ID:w8suA8vY0

【現時点までに使われた費用(日本円換算)】

・前回までの合計 3,073,620円
・襲撃依頼料 約7,000,000円
・トラックチャーター料金他 約300,000円
・交通費 約2,300円
・ホテル代 約14,000円
・食事代 約3,200円
・雑費 約1,000円
・鞄新調費 約7,800円
______

・合計 10,401,920円


【手に入れた物品諸々】

・回転式拳銃(S&W M610) 残弾数八発
・鞄
・破かれた写真

202名も無きAAのようです:2013/11/24(日) 03:22:20 ID:w8suA8vY0

結局後書きで何を言おうと思っていたのかは思い出せず……。
質問あれば答えます。

203名も無きAAのようです:2013/11/24(日) 20:04:51 ID:GdZSzttk0
おつ
戦闘かっけぇわ…

204名も無きAAのようです:2013/11/25(月) 00:26:49 ID:uIq8OtlEC
>>190って途中で切れてない、それとも演出のため不自然な終わりかたなの?

205204:2013/11/25(月) 00:34:15 ID:uIq8OtlEC
全部読み込んでなかっただけだった、リロードしたら全部読めた

206【第四話予告】:2013/12/06(金) 23:52:45 ID:2GlScmi60

「ねえ、名も知らないお兄さん。お兄さんには後悔してることってあるかしら?」

「あるお。数え切れないほどにはないと思うが、両手の指では足りないくらいにはある。でも、誰だってそんなもんだろう?」

「そうかもしれないわね。私もそうだもの。後悔ばっかり」

「それがどうかしたかお?」

「大したことじゃないわよ。私のね、好きだった人の親友が『ブーン』って呼ばれてたから……お兄さんと話してて、思い出しちゃっただけ」

「その、好きだった人のことをかお?」

「そうね。格好良くて、優しくて、でも不器用で。私も同じくらいに不器用だった。だから上手くいかなかったのかな……」

「今となっては分かりようがないことだお。もう過去のことだろ」

「他の人から見たらそうなのかもしれないわね。だけど私にとっては現在のことなの。あの時からずっと、心は痛いままだから……」

「…………」



 ―――次回、「第五話:Mind Meltdown」

207名も無きAAのようです:2013/12/06(金) 23:54:14 ID:2GlScmi60

というわけで第五話は早ければ明日の夜に投下します。
遅ければ来週の月曜日になると思います。

……あ、言いたかったことは「最終話付近で結末が決まる安価を実施します」でした

208名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 07:34:23 ID:SX83LCXQO
予告乙
楽しみだ

209名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:28:34 ID:I.IFIRxc0


  その情報屋の女は言った。 
  「こうなると分かってさえいたら、こうはならなかったのにね」と。
  続けて呟く。
  「それともこうなることは最初から決まっていたのかしら」と。

  僕は彼女のことを知らない。
  何処で生まれ、どんな風に育ち、何を愛し何を憎み、どのような半生を歩んできたのかを知らない。

  だけど知っていることもある。
  彼女が心の奥底に後悔を抱えていることを僕は知っている。
  僕がそうであるように、誰もがそうであるように、彼女だって傷跡を胸に秘めて生きている。


  僕達は後悔をせずに生きることができるのだろうか?
  それとも後悔こそが人生なのだろうか。
  だとしたら、僕達は痛み続ける後悔にどう向き合っていけばいいのだろう。

  僕達は生まれながらに自由と因果に繋がれた囚人だ。
  自分が何者であるか、その行動がどんな結果を招くのかも分からぬままに選択を繰り返す。

210名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:29:17 ID:I.IFIRxc0

  その時の僕は何も分からなかった。
  自分の頬を伝う涙の温かさだけが妙にリアルで。

  僕は立っていることもできず、誰か答えてくれと雨の街に慟哭したのだ―――。




        マト ー)メ M・Mのようです


        「第五話:Mind Meltdown」




.

211名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:30:14 ID:I.IFIRxc0

 廃墟での一件を終えてからしばらくは驚くほど平和な日々が続いた。
 あの『殺戮機械』を撃退した少女に関わろうという豪の者は裏の世界でも中々いないらしく追っ手の方も鳴りを潜めていた。
 時間にして一週間と数日。
 その間、僕達は数日おきに宿泊場所を変えつつ当てもなく移動し、名所を巡ったりしながら比較的穏やかな日々を過ごしていた。

 過去や父の痕跡を探すことをやめたわけではない。
 むしろ手掛かりを入手したところなのではやる気持ちを抑えるのが大変だったくらいだ。 

 僕達がそんな日常を送ることになったのは取引相手の都合が関係していた。


マト-ー-)メ「……本当にもどかしいですね。『ミッション・ミストルティン』という名称や私に似た人物の存在など、やっと手掛かりを手に入れたというのに」

( ^ω^)「そういう台詞は足湯から出てから言えお」


 駅に設置された無料の温泉で寛ぐ彼女に僕は言った。
 有名な観光地らしく、近くには源泉を同じくする普通の浴場もあるらしい。
 行ってみてもいいかもしれないと考え苦笑。
 気が抜け過ぎだ。

 僕は言った。


( ^ω^)「向こうが忙しいんだから仕方ないお。予定日までやることもないんだから、当てもなく動き回るよりは体力の回復に努めた方がいい」

212名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:31:26 ID:I.IFIRxc0

 『殺戮機械』との邂逅の後、僕は情報屋とコンタクトを取った。
 全員がそうだとは言わないもののお金持ちというやつは多かれ少なかれ裏社会とのネットワークを持っていることが多い。
 僕も少しはそういう繋がりを持っていたので、それを使いこの国でも有数のインフォーマーに連絡ができた。
 言葉にすると「情報屋を雇った」だけなのだが決して簡単な道程ではなかったと付け加えておこう。

 ……何にせよそこまでは良かったのだが、優秀な人間が多忙なのは世の常か、向こうの都合が合わなかったのである。
 そういうわけで取引日だけを交渉し、それまでの数日は待つことになったのだった。
 

( ^ω^)「別の人間を雇ってもいいんだけどね。でも雇うなら優秀な奴がいい」

マト^ー^)メ「私がそうであるようにですか?」

( ^ω^)「そうだな」


 下手な鉄砲も数を打てば当たるらしいが、やはり僕は量よりも質だと思う。
 彼女を見ていると余計にそう思う。
 この少女は二束三文の値で雇える殺し屋では束になっても敵わない。

 ふわふわとした微笑む姿だけでは分からないが、ミィは紛れもなく想像を絶する超能力者なのだ。
 そのことは今までの経験で十二分に理解していた。

213名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:32:32 ID:I.IFIRxc0

 と。


マト゚ー゚)メ


 僕が彼女を見ているように彼女も僕を見ていたことに気が付いた。
 平たく言えば、見つめ合っていた。

 無駄のなさが完璧さとイコールならば洗練された彼女の顔立ちは完璧に近く整っていると言えるだろう。
 切れ長の目の女性はクールな雰囲気であることが多いが、ミィは例外で、その掴みどころのない笑みが少し鋭めな目元の印象を完全に覆い隠してしまっている。
 好奇心旺盛そうな大きなヘーゼルの瞳はこうして真っ直ぐ見つめると橙にも近い色合いだった。

 数十秒ほど彼女の目を見続けた後に堪らなくなって僕は言った。


( ^ω^)「……なんだ、どうかしたかお?」

マト^ー^)メ「いえ別に」


 彼女の魔眼が心情や思考を見抜く類のものではなくて本当に良かった。
 もしそうだったら、僕が彼女のことを少なからず可愛いと思ってしまったことが見抜かれて、冷やかされていただろうから。

214名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:33:19 ID:I.IFIRxc0

 そして、そんなことよりも。


( ^ω^)「(僕には、まだ……彼女に隠したままのことがあるんだから)」


 初めて会ってから、今の今まで伝えていなかったことがある。 
 それに僕はあのことも言っていない。
 父の部屋から出てきたあの写真のことを知らせていない。

 あの一葉に写っていたのはミィではなかった。
 顔立ちは似ていたが、彼女のように癖毛ではないし色も綺麗な黒で髪型も異なっていた。
 そもそも写真の女性は僕と同じくらいの年に見えたので年齢からして違う。
 ミィと同一人物ということはありえない。

 だが――全くの無関係と言うには、顔の作りが似過ぎているし、偶然が過ぎる。


( ^ω^)「(ミィの母親……ではないにしても、姉妹か従姉妹か、その辺りの血縁関係にある人物だろう。『殺戮機械』が言っていた人物か?)」


 あの写真に写っていた女性がミィの姉だったと仮定しよう。
 だとしたら、父とミィの姉の関係性はなんだ?

215名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:34:12 ID:I.IFIRxc0

 こんな陰謀論的で荒唐無稽な推測はしたくないが、僕とミィは偶然出逢ったわけではなかったのかもしれない。
 あの出逢いは誰かによって仕組まれた必然だったのかもしれない。

 ……まさか、そんなことはないだろうが。
 何にせよミィの過去には僕の父やあの写真の女性が関わっていると見ていいだろう。
 その関係性が明らかになるまではミィには黙っておこうと僕は決めている。


マト^ー^)メ「ブーンさん、どうかしましたか? 最近は考え込むことが多いようですが」

( ^ω^)「別になんでもないお。考えていたのは事実だが」

マト-ー-)メ「私も考えます。過去の私がどんな人間だったのか、どんな家庭に育ち、生きてきたのかを」

( ^ω^)「ああ。僕も考えてるお。僕の父親が何をしていたのかって」


 僕の父。
 ミィの過去にも関わっているかもしれない人物。
 だとしたら、僕は。

 不安を誤魔化すように、「そろそろお昼にしようか」と僕は声を掛ける。
 ミィは相変わらずの考えの読めないふわふわとした笑みで頷いた。

216名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:35:13 ID:I.IFIRxc0

 *――*――*――*――*


 そして、その日がやって来た。

 九月も半ばを過ぎ、いよいよ秋も深まり始めた頃だった。
 とある地方駅の前に僕達は立っていた。
 地方とは言っても数十万人規模の街のそれなので、今日のような平日の朝は企業戦士や学生達が利用する比較的に大きな鉄道駅だ。
 ターミナルビルの存在やバス停が併設されている事情からか休日でも多くの人で賑わっている。

 そんな駅でも朝の九時を回ってしまえば人の波も治まってくる。
 取引場所に指定されたのは駅の二番ホームだが、この分だと約束の時間には人影は疎らになっていることだろう。


( ^ω^)「待ち合わせまで二十分ってところかお……。早く来過ぎたかな」


 何年か前の誕生日に父からプレゼントされた腕時計に目をやって僕は呟いた。
 単に貰った物だからと思い入れなく付けていたこれも最早形見の一つになってしまった。

 金があると物持ちが悪くなるというか、物を大事にしなくなると聞く。
 大抵の物は買い直せるからだ。
 僕もそういう面は少なからずあるのだが、それでもこの腕時計は大切にしている。

217名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:36:14 ID:I.IFIRxc0

 単なる市場価値で言えば端金で買える代物だが、『父親から貰った腕時計』は世界でこの、ただ一つだけだから。
 この時計はどんなにお金を積んでも手に入れることができない物なのだから。

 だから、あの時ミィが服や鞄を傷付けないようにしていた気持ちも僕はなんとなく分かるのだ。
 彼女が自分自身を知りたいと思う理由も理解しているつもりだ。
 それは多分、僕が自分の父親のことを、自らのルーツを知りたいと思う気持ちと同じもの。

 そんなことを考え僕は隣に立つ彼女を伺う。


マト^ー^)メ「どうかしましたか?」


 目が合ってしまい、「いや」と否定しつつぎこちなく顔を逸らした。
 今日も変わらぬふわふわとした笑みでミィはそう返してくる。
 服装こそローライズジーンズにパーカーという装いで変化しているが、その笑顔だけは初めて会った時とまるで変わらない。

 強いて言えば、ここ数日は目が合うことが増えた……気がする。
 思わずその微笑みにドキリとすることが多くなった。


( ^ω^)「(……吊り橋効果か?)」

マト゚ー゚)メ「?」

218名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:37:36 ID:I.IFIRxc0

 浮かんだ考えを打ち消し、僕は彼女に話し掛けた。


( ^ω^)「何か妙な気配はあるかお?」

マト゚ー゚)メ「気配?」

( ^ω^)「予兆と言えばいいか? 最近は僕達を狙っていた何処かの誰か達も大人しいが……今日も大丈夫かお?」


 ああ、と呟き、彼女は目を閉じた。
 そうして一つ溜息を吐くと「大丈夫です」と続ける。


マト-ー-)メ「私達を狙う人間はいないはずです。今日襲撃してくるということは、ない」

( ^ω^)「そうかお。そりゃ重畳だ」

マト゚ー゚)メ「私がいない方が良いのなら席を外しますが」

( ^ω^)「え?」


 一瞬耳を疑った。

219名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:38:32 ID:I.IFIRxc0

 いない方が良い?
 いくら襲撃される心配がないからって、いない方が良いとまで言うつもりはない。
 確かに『殺戮機械』との会話の時も僕が主に進めていた……というか、そういう頭脳労働は僕の担当になってしまった感じはあるが。

 内心で小首を傾げながらもとりあえず僕は答えた。


( ^ω^)「いない方が良いってことはないが、そこのフードコートを回ってる方が楽しいって言うのなら無理に同伴はお願いしないお」


 お前のことについてもちゃんと訊いておく、と付け加えて僕は財布から紙幣を何枚か取り出し、彼女に渡した。
 お駄賃というわけではないが彼女は基本的に無一文なのでお金を渡しておかないと自由時間でも何もできないのだ。


マト゚ー゚)メ「ありがとうございます。近くにいますので、万が一のことがあれば駆け付けます」

( ^ω^)「ああ」

マト゚ー゚)メ「では、また後で」


 ミィはお金を受け取ると、そう言って構内へとさっさと歩き出してしまう。
 駅に入るまでは同じなのだから途中までは一緒に行ってもいいと思うのだが……。
 今日はどうしたのだろう?

220名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:39:12 ID:I.IFIRxc0

( ^ω^)「(…………女の子の日か?)」


 彼女が何才かは分からないが、まさかまだということはあるまい。
 だとしたら深く触れない方が良いだろう。
 デリケートな話だ。

 ……しかし、結果的には良かった。
 彼女が情報屋との会談の場にいないのならば、あの写真のことも気兼ねなく訊ねることができる。


( ^ω^)「……まったく」


 やってられない、と母国の言葉で一人吐き捨てた。
 駅に入っていく女子高生の二人組が一瞬だけ僕に視線を投げ掛け、そのまま駅舎の中へと消えて行く。
 聞こえてしまったのだろうか?
 まあ、いい。

 僕の父と、ミィに似た女性。
 これからの数分の会話で今後僕がどうするか、ミィとどう付き合っていくかが変わるだろう。

 憂鬱さに表情を曇らせ僕は歩き出す。
 そろそろ約束の時間だ。
 父のことが分かるかもしれないという期待による高揚感は、なかった。

221名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:39:57 ID:Rt7ad9sE0
支援

222名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:40:08 ID:I.IFIRxc0

 *――*――*――*――*


 時間は九時三十分。
 待ち合わせ場所の二番ホームのベンチに僕は腰掛けていた。

 周囲には先ほどの女子高生二人組や、年配の男性、サラリーマンらしき人々などが電車を待っている。
 特に怪しい人物はいない。
 安全だとミィは言っていたが、何度も襲撃を受けているせいか、どうにも落ち着かない。
 そわそわして目立ってしまうのは良くないと分かってはいるのだが。

 視線の遠くへ向ける。
 駅のホームから見る空は、駅舎よりも高い建築物が周囲に少ないからか、何処までも続いているようだった。
 今は日差しもそれほど強くなく心地良い秋晴れだが、「女心と秋の空」という言葉もあるほどだ、夜の天気は分からない。


( ^ω^)「(人生と同じで、先のことは分からない)」


 センチメンタルで、しかしさして詩的でもない感想を僕が抱いたその時だった。

 ふわりと香水の匂いが香った。
 背中合わせのベンチ、僕の斜め後ろに誰かが腰掛けた。

223名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:41:16 ID:I.IFIRxc0

(、 *川「……時間に正確なのね」


 彼女はスマートフォンを耳に当ててそう言った。
 僕はその言葉が電話越しの相手ではなく、僕に向けられたものであると知っている。


( ^ω^)「まあね。待ち侘びていたから早く来ちゃったお」

(、 *川「それは嬉しいわ」


 肉感的と表現すればいいのか、とても色っぽい雰囲気を湛えた女性だった。
 黒く長い髪。
 縦の線が入ったオフショルダーのセーターに耳元で光るピアス。
 女性は化粧で化けるから分からないが、年齢的には僕とそうは変わらないだろうに、声の出し方一つとってもミィとはまるで違う大人の魅力が漂っている。

 高校時代の担任がこんな女性だったならさぞかし学校へ行くのが楽しかっただろうな、などと夢想しつつ僕は呟く。
 周囲には聞こえない小さな声で。


( ^ω^)「この国で有数の情報屋がこんな美しい女性だなんて、神は二物を与えるもんだお」

(ー *川「ありがとう。お世辞だとしても嬉しいわ」

224名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:42:09 ID:I.IFIRxc0

( ^ω^)「お世辞じゃないお」


 そう、お世辞ではない。
 ただの事実だ。
 きっと容姿を整えていることが彼女の戦略なのだろう。

 こんな魅力的な女性が裏社会でも有名な情報屋だと言われても誰も信じない。
 まだしも「舞台を中心に活躍する女優だ」と紹介される方がリアリティがあるくらいだ。

 そんな彼女は大きく伸びをしつつ、同じく小声で訊ねてくる。


(、 *川「で、どんな話をして欲しいのかしら。あなたの知りたそうなことはもう調べてきたから、大体のことは答えられると思うけれど」

( ^ω^)「事前に欲しい情報を伝えてた方がスムーズだったんじゃないかお? というか、会う必要もなかったんじゃないか?」


 最初の交渉の時から僕が抱いていた疑問に彼女は小さく微笑み答えた。


(ー *川「一般人ね、お兄さん。私もそういうことをやるから分かるけれど、ああいう電子的なやり取りは案外安全じゃないものなのよ。むしろ危険なくらい」

( ^ω^)「……直接会う方が安全、ね。そういうもんかお」

225名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:43:11 ID:I.IFIRxc0

 確かに僕の国の政府なんかは盗聴や傍受を平気でやっているが。
 彼女と連絡を取るまでの過程が妙に複雑だったのもそういうことなのだろう。
 誇張ではなく、一般人の僕にとってはM16が得物の超A級スナイパーに依頼するくらいに大変だった。


(、 *川「それでお兄さん。何についての情報が欲しいの?」

( ^ω^)「あなたみたいな綺麗な人の連絡先は是非知りたいところだが、今日は控えておくお」

(ー *川「賢明ね、私は高いもの」


 安い女よりはよっぽどいいだろ、と嘯いて僕は続けた。


( ^ω^)「まず始めに『ミッション・ミストルティン』という単語に関して知っていることがあったら教えて欲しい」

(、 *川「……いきなり失望させてごめんなさい。聞き覚えがないわ」


 さらりと告げられた一言に拍子抜けした。

 聞き覚えがないだって?
 知らないってことか、冗談じゃないぞ。

226名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:44:12 ID:I.IFIRxc0

 だが続けられた言葉は、流石はこの国でも有数の情報屋と唸ってしまうようなものだった。


(、 *川「でも分かることもあるわよ。私が知らないのだから、私が知らないレベルのものだってことが、分かる」


 尤もお兄さんがデタラメな単語を吹き込まれたんじゃなければだけど、なんてフッと笑ってみせる。
 そういう仕草が異様に似合っていた。


(、 *川「一口に『情報屋』と言っても色々なタイプがあるけれど、私は『情報屋の情報屋』という面を持っているわ。不動産の仲介業者と似ているわね」

( ^ω^)「色々なタレ込み屋を通じて様々な情報を握ってる……ってことかお?」

(ー *川「そ、そういう感じ。そのネットワーク故にそれなりに有能な情報屋で在り続けてるわけ」

( ^ω^)「なるほど。上手くやるもんだお」

(、 *川「街中のホームレスの話を聞いて回る奴やスパイとして企業に潜入してる人もいるから、欲しい情報が絞れるのなら私を通さず直接そういう人達に聞いた方が安上がりね」


 つまり、そんな彼女が知らないということは。

227名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:45:11 ID:I.IFIRxc0

(、 *川「だから私が知らないということは、私のネットワークに属するどの情報屋も知らないってことを意味している」


 『ミッション・ミストルティン』。
 その単語がデタラメなものではないとして、だとしたらどうなる?
 彼女のような存在が知らないということは酷くマイナーで取り留めのない事柄か。

 それとも、と僕の思考を先読みするように彼女が言った。



(、 *川「もしかしたら並の情報屋では絶対に知ることができないような、何かの組織の最高機密……なのかもね」



 噂さえも漏れることもない深い暗闇に沈む何か。
 そんなイメージを僕は思い浮かべた。


( ^ω^)「……そうかお。本職の人間でも無理なら僕じゃかなり難しいな」

(ー *川「安心して、こっちでも調べておくから。何か分かったらまた知らせるわ。このままじゃ私のメンツに関わるし」

( ^ω^)「そりゃ嬉しい限りだお」

228名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:46:11 ID:I.IFIRxc0

 これもお世辞抜きの感想。
 このままだと僕としては方々の情報屋に訊ね続けるか、そうでなければあの『殺戮機械』に連絡を取り、何処で聞いた言葉なのかを思い出してもらうしかない。
 どっちもできれば遠慮したい手だ。
 特に後者は。

 一息置いて彼女は言う。


(、 *川「とりあえずそのことは置いておきましょう。他に知りたいことはあるかしら?」

( ^ω^)「なら、僕の父について聞こう。……僕の素性くらいは調べ終わってるんだろ?」

(、 *川「まあね」


 けたたましい音に彼女の声はかき消された。
 電車が到着したのだ。
 時間の関係もあってか車両から降りたのはほんの数人、対照的にホームで電車待ちをしていた遅めの出勤若しくは登校中の人々は次々と乗り込んでいく。


(、 *川「誕生日や血液型が知りたいわけじゃないでしょう?」

( ^ω^)「もちろんだお。知りたいのは、僕の父が、本当はどんな仕事をしていたかだ」

229名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:47:14 ID:I.IFIRxc0

 この空の続く何処かで息絶えた父。
 息子だというのに僕は、あの人のことをロクに知らないままだった。

 何を考えていたのか。
 何を思っていたのか。
 今更ながら、それを知りたい。


(、 *川「知っているとは思うけれど、『ミストルティン』という名前の企業は存在しないわ。所在地はデタラメよ」

( ^ω^)「ああ。それは知ってるお」


 ねえ、と彼女は続ける。


(、 *川「でも実際、気付いてるんでしょう? 父親が真っ当じゃない仕事をしてたか……そうじゃなければ、誰かに狙われたってこと」

( ^ω^)「……それは、」


 そうか。
 この女は。

230名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:48:10 ID:I.IFIRxc0


(、 *川「そうじゃなければ、お父様の自室やあなたが宿泊していたホテルの部屋が荒らされたりなんて……するわけないものね」



 そのことも――知っているのか。

 そう。
 父の悲報が届いてから少し後、僕の自宅に泥棒が入った。
 書斎はこれ以上ないほどに荒らされたが、その父の部屋以外の被害は全くなく。

 更には僕が以前宿泊していたホテルの部屋も同じように荒らされた。
 けれどノートパソコンや記憶媒体が失くなっていただけで金目の物は一切無事だった。


(、 *川「そのことで疑問を持ったの? いえ、確信に変わったのかしら」

( ^ω^)「……そうだな」


 いくらなんでも、あんな被害状況はおかし過ぎるのだ。
 だって、あれではまるで。

 父に関係する何かのデータだけを狙っての犯行みたいじゃないかと―――。

231名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:49:14 ID:I.IFIRxc0

 情報屋の女は言う。


(、 *川「あなたのお父様に関する情報はある程度集めておいたわ。予想通り、真っ当とは言い難くて……名前や経歴を詐称して働いてたみたいよ」

( ^ω^)「……そうか」


 そうして彼女は今までよりも遥かに小さな声で、ある多国籍企業の名前を告げた。
 それは本社を僕の母国に置く有名な製薬会社だった。
 きっとここのターミナルビルの薬局でもその企業の製品は見つけられるだろう。

 でも、そうか。
 ずっと何処にいるのかと思っていたが、もしかしたら同じ国で働いている日もあったのかもしれない。


(、 *川「内容としては結構色々なことに携わってたらしいけれど、主にフィールドワークが多かったらしいわ。海外での調査ね」


 どうやら「海外を飛び回っている」という父の言葉も嘘ではなかったらしい。


(、 *川「それ以外の詳しい経歴はUSBに纏めておいたけど……」

232名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:50:09 ID:I.IFIRxc0

 そこまで続けてから、彼女は言い淀む。
 次いで、ごく自然に鞄からタブレットを取り出すと文書ソフトでデータを開く。
 まさかこんなところで?と言葉を失ったが、見れば、内容は駅前の看板が云々という広告会社の会議用資料だった。
 カモフラージュらしい。

 指先で円グラフの大きさを微調整しながら彼女はもう一度「ごめんなさい」と謝った。 


(、 *川「具体的にどんな研究をしてたとか、どんなプロジェクトに関わってたとかはまだ調査中なの。だからこれも今は言えない」

( ^ω^)「調査中、か」

(、 *川「予定では今日までには成果が出るはずだったんだけどね……。潜ってた人がミスっちゃったらしくて。昨日、死体で見つかったわ」

(;^ω^)「したっ……」


 絶句。
 さっきの話で出ていた「企業に潜入している情報屋」はもうこの世にはいないらしい。


(ー *川「でも気にしなくていいわよ。あの企業を調べてる人は結構頻繁に事故死するから」

( ^ω^)「……まったく剣呑なことだお」

233名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:51:09 ID:I.IFIRxc0

 こんな話題も大概に剣呑か、とそれとなく辺りを見回してみるが、幸いなことに他の客は近くに見当たらない。
 少なくとも僕達の会話を聞こえるような距離には、誰も。
 きっとこの二番ホームに空白が生まれる時間帯を狙って取引しているのだろう。

 後ろに座る情報屋の女が僕の上着のポケットにUSBを滑りこませた。
 手際の鮮やかさに関心する僕に「ところで」と彼女が問い掛ける。


(、 *川「今日は噂の護衛の子はいないのかしら? 近くにはいるわよね」

( ^ω^)「ああ。この辺りにはいるはずだし、アイツは有能だから心配する必要はないお」


 そう言えば、と僕は思い出す。
 ミィのことも訊かないといけないんだったか。

 と。



( ^ν^)「それはどうですかねー」



 男が現れたのは――その瞬間だった。

234名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:52:18 ID:I.IFIRxc0

 *――*――*――*――*


 その男は僕の隣に腰掛けていた。

 黒のスーツに黒のアタッシュケース。
 少しズレたスクエア型の眼鏡。
 見てくれは完全に、ただの一会社員という風体だった。

 それはどうでもいい。
 そんなことよりも遥かに重要なことがある。


(;^ω^)「…………え?」


 今大事なのは――僕が、この男がいつ隣に座ったのかが全く分からないという点だ。

 音も気配も何一つとしてなかった。
 いつの間にか隣に腰掛けていた。
 本当に「いつの間にか」気付いた時には既にそこにいたのだ。

 気配を殺していた?
 そんなわけがあるか、どんな相手が武術の達人であっても隣に座られて気付かないなんてことがありえるはずがない。

235名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:53:17 ID:I.IFIRxc0

 それよりは今、この瞬間にこの場所へとテレポートしてきたと説明された方がまだ納得できる。
 あの『殺戮機械』がそうであったようにだ。

 僕の、そして情報屋の彼女の驚愕とは対照的に、眼鏡の男はそんな反応は慣れっこだと言わんばかりの態度で口火を切る。


( ^ν^)「心配する必要はない? そうかもしれませんねー。普通の人間相手ならば」

('、`;川「あなた……」


 彼女はベンチから立ち上がり身構えた。
 僕も同じくだ。

 だが眼鏡の男は座ったまま。
 逃げる意思も戦う意思も見せぬまま。
 ヘラヘラと営業スマイルのような微笑みを浮かべながら、話し続ける。


( ^ν^)「まあ私も暇じゃないのですし、説明するほどお人好しではないので、そろそろ帰ろうと思います。目的の物は頂きましたしー」

(;^ω^)「目的の物だと?」

( ^ν^)「気付きませんかー?」

236名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:54:12 ID:I.IFIRxc0

 間延びした口調と共に、男はスーツの懐からある物を取り出した。 
 USBメモリ。
 僕が情報屋の彼女から受け取ったはずの物を。

 ポケットを弄ってみるが当然のように感触はない。
 どころか眼鏡の男はアタッシュケースからピンク色のノートパソコンを取り出してみせた。


('、`;川「それ、私の……!!」

( ^ν^)「そうですねー。先ほど遊んでいた玩具ではなく、あなたが仕事で使用している物ですねー」


 彼女は咄嗟に席に置いたままだった鞄に目をやった。
 きっとそこに収納していた物なのだろう。


( ^ν^)「それでは私はお暇させていただきますねー。しばらくはこの辺りにいますので、ご用があれば声をお掛けてください」


 「まあ、私を見つけられたらの話ですが」なんて、それだけを言い残して男は姿を消した。

 さっきまで男が座っていたはずの席。
 そこには空白だけが残っていた。

237名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:55:11 ID:I.IFIRxc0

 *――*――*――*――*


 彼女は駅の地下街の一番奥にいた。
 立入禁止の立て札の先。
 老朽化の為に閉鎖され使われていない階段に腰掛けていた。

 何をするでもなく。
 ただ、視線を漂わせたまま座っていた。


( ^ω^)「……おい、ミィ」

マト -)メ「ブーンさんですか。どうかしましたか?」


 僕の呼び掛けに対して彼女はごく自然に答えた。
 いつもよりテンションは幾分か低いようだが、それでも平然と答えたように見えた。


( ^ω^)「どうかしたか……じゃ、ないだろ」


 その態度に僕は苛立った。

238名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:56:10 ID:I.IFIRxc0

 心の中で十秒数えて。
 心を落ち着けてから訊ねた。


( ^ω^)「さっき、妙な眼鏡男に襲われた。データとかを奪われて……」

マト -)メ「そうですか」


 「目に見えていた通りです」と。
 そう彼女は答えた。


(; ω)「分かって……いたのか……」

マト -)メ「はい。目に見えていました」

(; ω)「ッ……」


 なんで。
 どうして。
 口をついて出そうになる滅裂な言葉達を押さえ込み、僕は冷静さを保つよう努力しながら問い掛ける。

239名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:57:10 ID:I.IFIRxc0

(; ω)「……いつから分かってたんだ?」

マト -)メ「朝、『妙は気配はあるか』と訊かれた時くらいです。眼鏡の人がお仲間とこの地下街で最終確認をしていましたから」

(; ω)「なら、どうして教えてくれなかった……?」


 教えてくれたなら。
 そうしたら。


マト -)メ「私は『最近私達を狙っていた人はいない』『私達を狙う人は来ない』と答えました。あの人達は今までとは違う所属のようですし、まず狙われたのはデータです」

(;# ω)「そんなクイズの答えみたいなことを聞きたいわけじゃない……!」

マト ー)メ「ですが、ブーンさんは言いました。『私がいない方がいい』と」

(;# ω)「……言ってないだろ、そんなことは」


 僕はそんなこと言っていない。
 それは確かだ。
 近いことは言ったと記憶しているが、似て非なる内容だったはずだ。

240名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:58:10 ID:I.IFIRxc0

 僕は、もう一度心の中で十秒数え。
 必死に心を落ち着けながら彼女に問い掛けた。


(;# ω)「…………なんで、教えてくれなかったんだ」


 彼女は顔を伏せたままで答えた。


マト -)メ「言わなきゃ、分からないんですか?」

(;# ω)「ッ!!」


 思わず僕はカッとなって彼女の胸倉を掴んだ。
 いや、掴もうとした。
 だがそんな行動など『目に見えていた』のであろう彼女は僕の手をあっさりと躱して立ち上がる。

 そうして今にも泣き出しそうな声で言ったのだ。


マト -)メ「……だって、ブーンさんも言ってくれなかったじゃないですか…………」

241名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 21:59:11 ID:I.IFIRxc0

 僕が。
 言わなかったって、それは。
 

マト -)メ「……前に、私に似た人の写真を手に入れてましたよね。それ、手掛かりですよね? 言ってくれなかったじゃないですか」


 すぐに消去したみたいですけど普通にデリートしたくらいなら私には分かるんです。
 そもそもホテルの外の出来事くらいなら私は寝たままでも知覚できるんです。

 更に彼女は続ける。


マト -)メ「自宅の部屋が荒らされたこととか、前に泊まってたホテルの部屋に泥棒が入ったとか……。それも、言ってくれなかったじゃないですか」


 今の今まで。
 ずっと。
 言ってくれなかったじゃないですか、なんて。

 僕を責め。
 僕を詰る。

242名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 22:00:11 ID:I.IFIRxc0

 僕は言う。
 「僕にも考えがあったんだ」と。
 彼女は返す。
 「なら考えがあることくらい言って欲しかった」と。

 私は、と彼女は言い掛け、目元を拭う。
 雫こそ溢れなかったが彼女が泣いていることくらいは僕にも目に見えて分かった。


マト -)メ「……部屋のことや写真のことはブーンさんのプライバシーに関わることです。だから隠すのも当たり前かもしれません。でも、言って欲しかった」


 せめて「隠していることがある」とそれだけでも。
 言って欲しかったんだと。

 彼女は言う。


マト -)メ「信じてたのに」

(  ω)「……だからって、」

マト -)メ「私はずっと信じて――待っていたのに」

243名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 22:01:08 ID:I.IFIRxc0

 僕も信じている。
 いつかのようにそう言いたかった。
 だけど、言えなかった。

 今、口にするには――それはあまりにも空虚な言葉で。
 空っぽで、虚ろな言葉でしかなくて。


マト -)メ「……私はもう、ブーンさんのことを信じることができません。もう、無理です。待ち疲れてしまいました」


 違うんだ。
 そうじゃない。
 なんて言えば。

 胸に渦巻く言葉にならない想いを纏めようとする僕を置き去りに、彼女は歩き出す。
 僕のすぐ隣を通り過ぎて、僕は呼び止めることができなくて。



「…………さようなら」



 あれほど何度も視線で繋がっていたはずなのに――今はもう、その横顔さえも見ることは叶わない。

244名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 22:02:15 ID:I.IFIRxc0


  その情報屋の女は言った。
  「こうなると分かってさえいたら、こうはならなかったのにね」と。

  きっとそれは誰もが後悔を感じる度に呟く意味のない免罪符。
  違うんだ僕は悪くないんだと、そんな言葉を叫んでみたところで胸の痛みは消えやしない。
  ただ悲しみの涙が流れるだけで。
  涙が流れなくなった後でも心は痛み続けて。

  そうして過去に戻れない僕達は――今日も心で涙を流す。




        マト ー)メ M・Mのようです


        「第五話:雨の街に、心ははぐれて」





.

245名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 22:03:56 ID:I.IFIRxc0

ブーンが隠していたことが明らかになりました。
最後の二人のやり取りはもっと詳しく書いてもよかったかなーと思いますが、まあ、そこそこに。

ではまた次回

246名も無きAAのようです:2013/12/07(土) 22:14:33 ID:Rt7ad9sE0

文字通りブーンの隠していたことも目に見えていたミィ。
互いが出会った時よりも近い関係になっていたからこそ起こってしまったすれ違い。
過ぎたことは戻らない、それでも前へと進まないといけない。
いろいろ考えながら続き待ちたいと思います。

247名も無きAAのようです:2013/12/09(月) 06:41:42 ID:LrCC/XAs0
ミィも普通の女の子みたいなことも言うのね、乙

248名も無きAAのようです:2013/12/10(火) 02:08:41 ID:4mme76Ig0

【現時点で判明している“少女”のデータ】

マト゚ー゚)メ
・名前:不明
・性別:女
・年齡:不明(外見年齡は15〜17程度)
・誕生日:不明
・出身地:不明
・職業:不明
・経歴:不明
・特記:『未来予測』の能力を持ち、限定的ながら未来が見える。精確に予測できるのは数秒先までで一分以上先のことは可能性が見えるのみ。
    能力を発動している間は瞳の色が変わるがデフォルトでもある程度未来は見えている。
・外見的特徴:身長160代前半。癖のある赤みがかった茶髪。白い肌。起伏の少なめな体型。整った容姿。ニット帽。ボーイッシュな服装。
       やや鋭めな双眸。瞳の色は橙に近いヘーゼル。能力発動中は左目が紫に輝き、更に集中すると色が濃くなり紅色に変わる。

・備考:
 気が付いた時には記憶(エピソード記憶)を全て失っていた。
 その当時の所有物は細工の入った銀の指輪のみ。 
 一人称は恐らく「私」。この国の言語で話しているので海外に住んでいたとは考えにくい。
 服を着る、買い物をする等のごく一般的な知識も備えている。
 知識(意味記憶)として一般には知られていない生体兵器についての知識を有する。
 ディの話によれば「目元が誰かに似ている」らしい。
 彼女によく似た女性が映った写真があるが、写真の女性は黒髪で癖毛ではない。

249名も無きAAのようです:2013/12/10(火) 02:09:24 ID:4mme76Ig0

【現時点までに使われた費用(日本円換算)】

・前回までの合計 10,401,920円
・交通費 約14,000円
・ホテル代 約128,000円
・食事代 約38,000円
・観光費 約2,200円
・雑費 約4,600円
・契約料(前金) 約1,800,000円
______

・合計 12,388,720円


【手に入れた物品諸々】

・情報

250名も無きAAのようです:2013/12/10(火) 02:15:39 ID:4mme76Ig0

ちなみに費用換算はかなり適当で伏線になったりしないので安心してください。
ただし適当なりに考えてはいます。
例えば十日前後ホテル暮らしだったとして掛かった費用が十三万弱なら金持ちの割に安いところに泊まってるなーとか。
(仮に十三日間だとしたら一日当たり一人五千円弱なので、多分ビジネスホテルですね)

予定では十話完結なのでもうそろそろ後半戦です。
では。

251【第五話予告】:2013/12/15(日) 03:42:20 ID:FgARlw.Q0

「ねえねえ、おねーちゃん。ねえってばー」

「……どうかしましたか? そもそもあなたは誰ですか?」

「おねーちゃん、どっか痛いの? それとも、おかあさんとはぐれちゃったの?」

「…………私には母親とはぐれたのはあなたの方に見えますが」

「あのねー。痛い時はねー、いたいのいたいのとんでけーってするんだよー。いたいのいたいのとんでけーって」

「おまじないですか」

「ほんとにね、痛くなくなっちゃうんだよー。ほら、おねーちゃんも。いたいのいたいのとんでけー」

「……ありがとうございます。でも、私は遠慮しておきます」

「どうして? 痛いのヤじゃないの?」

「嫌ですよ。……でも、痛みが失くなって、痛かったことを忘れてしまうのはもっと嫌ですから。だからもう少しだけ、このままで……」



 ―――次回、「第六話:Must Move」

252名も無きAAのようです:2013/12/15(日) 03:43:17 ID:FgARlw.Q0

次回第六話は12月17日の火曜日投下予定です。
予定は未定。

元は短期集中連載みたいな形で、年内に終わらせるつもりだったんだけどなあ……

253名も無きAAのようです:2013/12/15(日) 07:05:24 ID:uFjzNurAO
予告乙
ミィとブーンは仲直りできるんだろうか

254名も無きAAのようです:2013/12/16(月) 00:01:41 ID:sSEfWJkU0

ブーンだけで敵に立ち向かうのか、そしてミィはどうなるんだろう。

255【幕間:Maidenly Makeup】:2013/12/17(火) 17:38:03 ID:pge1lf7A0

 いい加減に僕も我慢の限界というやつだった。

 この記憶喪失の少女、ミィと同じ時間を過ごすようになって数日経ったが、彼女には相変わらず淑女らしさというものが欠片も伺えない。
 オブラートに包まず言えば彼女には羞恥心がほとんどないらしく、それが僕を悩ませている。


( ^ω^)「(とりあえず風呂上りに全裸でいることはなくなったが、服は脱ぎ散らかしたままのことが多いから僕が片付ける羽目になるし)」


 ついでに彼女の衣服を畳んでいる際に驚くべきことに気付いてしまった。
 脱がれた物の中にブラがなかった。
 どうやらミィは下着を身に付けずにそのままシャツを着ているらしい。

 当然、彼女がニップレスのようなアイテムを知っているはずもない。
 先日は気持ちの良い秋晴れで気温も高く、ミィの服装も胸元が緩いシャツにジャケットを羽織っただけだったが、あの下に何も身に着けてなかったと思うとゾッとする。
 というか普通に馬鹿じゃないのかと思った。
 コイツ、本当に何処かの裸族の出身じゃないだろうなと。

 まあ実際、彼女の慎ましやかな胸に下着が必要かと言えば微妙なところなのだろうが。


( ^ω^)「(支える必要はなくとも隠す必要はあるだろうに)」

256【幕間:Maidenly Makeup】:2013/12/17(火) 17:39:15 ID:pge1lf7A0

 そういうわけなので言った。
 下着を身に着けろと。


マト゚ー゚)メ「パンツは履いていますよ?」

(;^ω^)「当たり前だろ、馬鹿かお前は。上の下着の話だ。下すらなかったらスカート履けないだろうが」

マト-ー-)メ「私はあまりスカートが好きではありません。ブーンさんも私のスカート姿は見たことがないでしょう?」

( ^ω^)「そう言えば見たことないな……って、それはどうでもいいんだお。お前のファッションはお前の自由だ」

マト゚ー゚)メ「では下着を身に着けるかどうかも私の自由ではないですか?」

( ^ω^)「そこは自由じゃねえお。常識だ」


 痴女かコイツ。


マト゚ー゚)メ「そうは言いましても、私はブラジャーのことはよく分かりません。それに下着を身に着けていると血管が圧迫され、ストレスになります」

( ^ω^)「なんでブラのこと知らないのにそんな知識を持ってるんだ」

257【幕間:Maidenly Makeup】:2013/12/17(火) 17:40:13 ID:pge1lf7A0

 その目か?
 その両目は下着が人体に及ぼす影響まで知覚できるのか?

 とにかく、と彼女は言って一歩僕に近付く。
 ミィが纏っているのはシャツ一枚。
 知ってしまった今では、そんな姿を見る度に心臓の鼓動が早くなる。


マト-ー-)メ「見られることが恥ずかしいことだと言うのなら、私は特に気にしません。それ以前に『未来予測』を用い本当に見えそうな時はちゃんと隠しています」

(;^ω^)「……なんて無駄な能力の使い方をしてるんだ」


 つくづく馬鹿じゃないのか、コイツは。


マト゚ー゚)メ「そういうわけですが、何か問題がありますか?」

(;^ω^)「いやでも、万が一……」

マト-ー-)メ「数秒以内の未来ならば『未来予測』に万が一はありえません」

( ^ω^)「それでもだ。それでも万が一、お前が下着を身に着けていないと誰かに知られたら、どうなる?」

258【幕間:Maidenly Makeup】:2013/12/17(火) 17:41:11 ID:pge1lf7A0

 僕は言った。


(;^ω^)「お前の隣にいる僕は、まず間違いなく『彼女に羞恥プレイさせてる鬼畜彼氏』というレッテル貼られることになるんだお……?」


 ……最悪過ぎるだろ、それ。
 そんな性癖は僕にはない。

 僕の言葉に彼女は心底驚いたようで、オレンジに近い色合いの目をまんまるにしたまま黙った。
 そうして直後に顔を伏せてばつが悪そうに視線を落とす。
 反省してくれたのだろうか?


マト* ー)メ「……そうですね。恋人同士に見られると、困ってしまいます」

( ^ω^)「(あ、コイツ反省してねえな。口元笑ってる)」


 遂に僕は諦めて、この話題を打ち行った。

 ……なのだが、どうやら少しは反省してくれたのか、ミィは下着を身に着けるようになった。
 それは重畳であるはずなのに、やはり何処か惜しいことをした気分になってしまうのは、まだまだ幼い男の悲しい性だった。

259名も無きAAのようです:2013/12/17(火) 17:42:11 ID:pge1lf7A0

“Maidenly”は、「処女の」もしくは「少女のような・乙女のような」「優しい・穏やかな」という意味合いの形容詞。
“Makeup”は、普通は「化粧」と訳しますが、今回は「性格・性質」。

なので“Maidenly Makeup”は「少女みたいな性質」「子どもっぽい感性」みたいな感じでどうでしょうか?



ちょっと加筆修正したい部分ができたので、第六話投下は延期します。
代わりにちょっとしたオマケを投下しておきました。

260名も無きAAのようです:2013/12/18(水) 18:46:17 ID:WmK4zij60
この微妙な距離感がたまんねぇなあ

261名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:01:41 ID:UPb.tg9Q0


  僕達はふと、その痛みを思い出す。

  それは夜の孤独に震える時。
  雨の空を見上げる時。
  あるいは、一人で街を彷徨っている時だったりする。

  僕達はふと、その痛みを思い出す。

  後悔という名の傷。
  僕達を形作る過去の一欠片。

  ……そして今もまた、僕はその痛みに泣いている。


  だけど俯き、涙を流してばかりではいられない。
  痛みに浸ってばかりではいられない。
  だって僕達は知っているから。

  今動き出さなければ、もっと後悔するのだということを。


  ずっと昔から知っていること。
  これまで経験してきた沢山の後悔達が、心の奥底に残る傷跡達が、僕達にそれを教えてくれる。

262名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:03:05 ID:UPb.tg9Q0

  だから僕は立ち上がる。
  震える膝に力を入れて。
  少しだけ後先を考えることを止めて、ただ心のままに。

  そして僕は、まだ間に合うと祈るように信じながら――未来へと手を伸ばす。




        マト ー)メ M・Mのようです


        「第六話:Must Move」




.

263名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:04:09 ID:UPb.tg9Q0

 降り始めた秋の雨は身体を容赦なく濡らしていく。
 身体の熱が溶けていく。
 けれど胸は焼けるように熱く。

 彷徨い、辿り着いた路地裏は人どころか猫一匹も通らぬような、一人になるにはうってつけの場所だった。
 直後に「何を馬鹿なことを」と自嘲する。
 一人になるにはうってつけだなんて何を言っているのだか。
 僕は既に独りになっているというのに。


(  ω)「……」


 冷えた指先を温めようと両手を合わせてみるが、凍えきった身体では何の意味も成さない。
 頬を伝った一筋の涙だけが胸の熱が流れ出たかのように温かい。


(  ω)「…………あ、」


 声を出そうとして、やめる。
 どうせ出てくる言葉は決まっているのだ。
 誰にも繋がらない唇で紡がれるのは、きっと意味のない後悔と自己正当化の免罪符。

264名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:05:13 ID:UPb.tg9Q0

 だから、僕は黙ったままで目を閉じた。

 脳裏に浮かぶのは彼女のあのふわふわとした笑みと、最後に見せた泣き顔。
 どちらもが僕の胸を締め付けて、心の熱を暴走させていく。

 彼女は何処へ行ったのだろう?
 今何処にいるのだろう?
 怒っているだろうか、それともまだ泣いているだろうか?
 ああ、そうだ。
 何よりも。

 一人で――寂しくはないだろうか?



(  ω)「…………ごめんな、ミィ」



 また一筋、涙が頬を伝った。
 紡がれた言葉は謝罪。
 どの口が言うのかと自分でも思った。
 でも僕は本当にそう思っていた。

265名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:06:05 ID:A6A0yNSM0
読んでる支援

266名も無きAAのようです:2013/12/27(金) 01:06:05 ID:UPb.tg9Q0

 無神経な態度で傷付けただけなら良かった。
 でもそうじゃない。
 僕は、君のことを追いかけなかった。

 何処にも行く場所がなく、何処にも帰る場所がない。
 誰も彼女のことを知らず、彼女も自分のことを知らない。
 世界でたった一人きりの女の子。
 自分を探していた少女。

 君に謝るどころか、僕は、そんな君のことを引き止めもせずに―――。



(  ω)「……ごめん、ごめんな」



 零れ出るのは偽りのない謝罪の言葉。
 だが口にするには遅過ぎた。
 僕の声は強まり始めた雨の音に掻き消され、僕の想いは他人だらけの街に消えて行く。

 僕の言葉は。
 彼女の元には、届かない。


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