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矢吹健太朗のBLACK CAT★ 黒猫No.236

1</b><font color=#FF0000>(q6iS3jc2)</font><b>:2003/02/03(月) 16:23
前スレ http://comic2.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1043402443/
少年漫画板レス削除依頼 http://qb.2ch.net/test/read.cgi/saku/1027348203/l50
矢吹先生☆22歳http://members.tripod.co.jp/train_heartnet/y.jpg
絵板(黒猫) http://isweb41.infoseek.co.jp/cinema/marotan7/
sage進行推奨☆「荒らし煽りキティは徹底的無視」推奨☆マターリでよろ
過去ログ倉庫 http://nagi.vis.ne.jp/bcat/
その他>>2-10

2六代目</b><font color=#FF0000>(YHjkPIP.)</font><b>:2003/02/03(月) 16:24
「BLACK CAT」関連スレッド・ログ倉庫
http://nagi.vis.ne.jp/bcat/
矢吹先生 その2
http://members.tripod.co.jp/train_heartnet/y02.jpg
黒猫スレの歴史 黒猫スレ初心者は読んでおこう
http://members.tripod.co.jp/kuroneko13/history.txt
黒猫スレ立てカンニングペーパー
http://members.tripod.co.jp/train_heartnet/blackcat.txt
--☆お絵描き掲示板ログ関係
旧・絵板(ETC)
http://www20.tok2.com/home/kuroneko/cgi-bin/oekaki/picture.cgi
黒猫お絵描き保存(お気に入り保存)
http://kamakura.cool.ne.jp/freshham/cat/index.html
黒猫お絵かき掲示板ログ(全画像ログ)
http://members.tripod.co.jp/train_heartnet/log/
矢吹先生作品 読者レヴュー
http://shopping.yahoo.co.jp/shop?d=ja&amp;id=ccf0bfe1b7f2c2c0cfaf
ブラクラチェッカー(怪しいURLはまずこれで調べて)
http://www.jah.ne.jp/~fild/cgi-bin/LBCC/lbcc.cgi
--☆お約束
叩くからには叩かれる覚悟も必要
黒猫に関係無い作品は理由なしに叩かない
ファンサイトに、2chのノリで乗りこまない
sage進行推奨☆無駄な発言には徹底的無視推奨☆マターリでよろ


パクリ検証サイト
ttp://page.freett.com/homoman/pakuri.html
ttp://www.geocities.co.jp/AnimeComic-Name/8212/

3六代目</b><font color=#FF0000>(YHjkPIP.)</font><b>:2003/02/03(月) 16:24
プレイム
http://www.playm.co.jp/
age
http://www.age-soft.co.jp/
tactics
http://www.tactics.co.jp/
key
http://key.visualarts.gr.jp/
Leaf
http://leaf.aquaplus.co.jp/
ShootingStar
http://www.shootingstar-jp.com/
ねこねこソフト
http://www.din.or.jp/~nekoneko/
minori
http://www.minori.ph/
JANIS/ivory
http://www.sp-janis.com/
すたじおみりす
http://studio-miris.com/
F&C
http://www.fandc.co.jp/
BasiL
http://www.basil.jp/
スタジオメビウス
http://www.studio-mebius.co.jp/
Circus
http://www.nandemo.gr.jp/~circus/

4六代目</b><font color=#FF0000>(YHjkPIP.)</font><b>:2003/02/03(月) 16:24
アリスソフト
http://www.alicesoft.co.jp/
ニトロプラス
http://www.nitroplus.net/
アセンブラージュ
http://www.assemblage.co.jp/
ちぇりーそふと
http://www.cherrysoft.co.jp/
ソニア
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ミンク
http://www.mink.co.jp/
メイビーソフト
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ROOT
http://www.orbit-soft.com/root/
light/Rateblack
http://www.light.gr.jp/
エルフ
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ジェリーフィッシュ
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シーズウェア
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アクアプラス
http://www.aquaplus.co.jp/
スタジオ e.go!
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ユニゾンシフト↑
http://www.softpal.co.jp/unisonshift/
オーガスト
http://august-soft.com/index.htm

5六代目</b><font color=#FF0000>(YHjkPIP.)</font><b>:2003/02/03(月) 16:25
フロントウイング
http://www.frontwing.co.jp
Ripe
http://www.teck.co.jp/ripe/
Marron
http://www.marron.nu/
TYPE-MOON
http://www.typemoon.com/
ムーンストーン
http://www.moon-stone.jp/index.html
いちひめ/すたじお実験室
http://www.ichihime.jp/
Gipsy
http://www.pale-aqua.com/gipsy/
e-エレキテル
http://www.odessa.co.jp/electriciteit/
TEATIME
http://www.teatime.ne.jp/

6六代目</b><font color=#FF0000>(YHjkPIP.)</font><b>:2003/02/03(月) 16:25
  /;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;::::;ヽ,             __/ ̄ ┐ ̄ /            iヽ`, i´//‐
  /;;;',;',;',;',;',;;;i゛ jfji;;l            `i    パ   〉           ヾ、,、,_, ,〃_''
  l;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;,l,.,_、〈 l             |   ク    |             _|_ ``''z -__ー
  |;;;;;;;;;;;;;;;;;;;|!' `´_r'             ノ   リ    |             ヾ>,=、_i、、 /
  ,`r-;;、;;;、;;||、_ ´f           ;;;;;;;;)  └    |            r〈 _`'''" {,Ilノ`、
. /`'、_  ミ / `''゛          ;;;;'' /    !!   /`;;;;;          r'i ノ_'〟‐'゛ /
/    `,‐亠、          ;;;;''    ̄ ̄ヽ'´ ̄`ヽl   '';;;;        / |ヽ、i l(!゛ /
 真  /   `''i     _;、,、r、,'、'',.,      _ ,、      '';;;;      / ヾ、.ヽヾゝ、_,=;;彡
 島  //     `!,  ,、! 、, 、 , `,'゛z_,   r‐;゛i=iヽ,_      '';;;;    /   ヾ ,i 〈、/''"~
.   | |       `'〈 ー`、、 l ' '- ヽ,.、/  7 ~ヽヽ,__r:r───--‐'`、   /ヽノ||.|
    `'、_''ー-、    ,ネ ニ`安西、 ミ k i, _,_ 'i  '/ ,i ー| |  矢吹   !i. /  ,:'゛/.|| l
      `''ー `iー、_ 7 Z ,. , ,、 、ヾ 、fl ,ゞ `'r'--v'''"´`|_|_____,,:-'゛   ~''iヽ_,ゝ
       //.|  `'i,、 / / v l i) ヽ、 i'.`   /   ゛i     ;;;;           /l゛l || /

7六代目</b><font color=#FF0000>(YHjkPIP.)</font><b>:2003/02/03(月) 16:25
萌え六大系統

行為系…他の属性はそれほど重要ではなく、そのキャラとの恋愛やエロに萌えを見出すタイプ。
身体特徴系…巨乳やふたなり、ロリペド、つるぺた、髪型などの身体的特徴に萌えを見出すタイプ。
職業系…メイドや看護婦、学生などの職業に萌えを見出すタイプ。
特技系…お弁当作りや格闘能力などの特技に萌えを見出すタイプ。
性格系…ダウナー、知欠、能天気などの性格に萌えを見出すタイプ。
人間関係系…幼馴染や妹、主従関係などの人間関係に萌えを見出すタイプ。

自分の系統の萌え       100%
隣り合った系統の萌え      80%
ふたつ先に位置する系統の萌え  60%
一番遠い萌え          20%

8名無しさん:2003/02/03(月) 16:29
ワショーイ

9名無しさん:2003/02/03(月) 16:30
ここならEX2のアド貼ってもらってもいけるかな?

10名無しさん:2003/02/03(月) 16:32
>>9
どういう意味?

11名無しさん:2003/02/03(月) 16:33
まさかナリのところにくるとはな・・・
まあ太郎よりはいいかな。

129:2003/02/03(月) 16:50
ヲチスレの834が立てた掲示板のこと。
EXをヒッキーで検索ってとこからサパーリわからん。素人なもんで。

13名無しさん:2003/02/03(月) 16:53
>>12
漏れもわからん

14名無しさん:2003/02/03(月) 17:26
とりあえずこちらが絶望的な状況に見舞われたら
何らかの方法でEX2への行く手立てを詳しく教えることになると思う
それまでは知る必要はないのでマターリここで語ってくれ

15名無しさん:2003/02/03(月) 17:51
>>12
もせがいつも上がってるとこ

黒猫が二重の極みじゃなくて無敵手甲でワラタ

16名無しさん:2003/02/03(月) 17:58
>>15
ここ?

17名無しさん:2003/02/03(月) 18:03
えーと、マジレスするとナリはトリップ抜かれてるから
偽者のナリが10人はいる。
少年漫画板にいるのは偽者。
自作自演がバレたのも偽者。

18名無しさん:2003/02/03(月) 18:58
まさに死角って感じのところだな。
とは言えここのナリにばれたら他所のアドレスとかもさりげなく太郎にばらしそうなんだが。

19名無しさん:2003/02/03(月) 19:02
俺はNari/uzAを信じるよ

20名無しさん:2003/02/03(月) 19:03
でもここに来たら叩くけどね。

21名無しさん:2003/02/03(月) 19:04
まぁそれは黒猫スレ住人の恒例行事だからな

22名無しさん:2003/02/03(月) 19:29
さて、またーりと雑談汁

23名無しさん:2003/02/03(月) 20:01
janeに登録するのめんどかった。

24名無しさん:2003/02/03(月) 20:15
ひさしぶりにきたら立っててびびった、
この掲示板のナリはいい奴だよ。

25</b><font color=#FF0000>(Nari/uzA)</font><b>:2003/02/03(月) 20:18
なんで黒猫スレが・・・(;´σ`)


でもみんなのこと大好きだからこんな板でよかったら使ってほしいナリよ(*´ω`*)
ただしもうぼくに死ねなんて言っちゃ駄目ナリよヽ(´∀`)ノ ?

26名無しさん:2003/02/03(月) 20:21
死ね

27名無しさん:2003/02/03(月) 20:22
>>25
死ね。

28名無しさん:2003/02/03(月) 20:23
太郎はリアルで死ね

29名無しさん:2003/02/03(月) 20:23
まさかこんなところにあるとは…
ドラマチックだぜ

30名無しさん:2003/02/03(月) 20:24
しばらくお世話になります、氏ね。

31名無しさん:2003/02/03(月) 20:25
エクソダス初日に死ね

32名無しさん:2003/02/03(月) 20:28
エターナルスノーの流れる中、英知の墓の前で詩ね。

33名無しさん:2003/02/03(月) 20:30
ナリ、家賃はグロ画像でいいか?

34名無しさん:2003/02/03(月) 20:34
今日の丸見え面白いな。

35名無しさん:2003/02/03(月) 20:37
ここは串使えないのか
ナリ詩ね

36</b><font color=#FF0000>(Nari/uzA)</font><b>:2003/02/03(月) 20:47
>>35
直し方はちょっとわかんないナリねえ(;´σ`)

37名無しさん:2003/02/03(月) 20:49
あれ?
上のほうにあるナリ漫画消えてないか?

38</b><font color=#FF0000>(Nari/uzA)</font><b>:2003/02/03(月) 20:55
あれ去年ずっと貼りっぱなしにしてたからハズしたナリよ(*´ω`*)
ぼくの漫画が見たい人はhttp://f1.aaacafe.ne.jp/~narity/こちらへどうぞナリヽ( *´ー`*)丿

39名無しさん:2003/02/03(月) 20:59
ところでこのインターネッツはナリちゃんが消し放題ですか?

40名無しさん:2003/02/03(月) 21:23
ここが本スレでいいみたいだな
>>38
太郎のパンツかぶって氏ね

41名無しさん:2003/02/03(月) 21:52
ここですか



>>38
年の数だけ豆喰って飛べ

42名無しさん:2003/02/03(月) 21:57
>>38
秘宝を77個あつめて死ね

43名無しさん:2003/02/03(月) 22:01
>38
バルド地獄にはまって氏ね。

44名無しさん:2003/02/03(月) 22:05
>>38
3と4と6のロード・ブリティッシュと戦って氏ね

45名無しさん:2003/02/03(月) 22:07
ナリ、探偵編がアボーンしてるぞ

もう氏ぬしかないな

46名無しさん:2003/02/03(月) 22:10
タバコ吸ったら虫歯が痛み出した

>38
俺の歯の痛みを鎮めるために氏ね

47名無しさん:2003/02/03(月) 22:39
見つけたぜw
ナリありがとな

48名無しさん:2003/02/03(月) 22:52
狂人のまねとて大路を走らば、則ち狂人なり。惡人のまねとて人を殺さば、惡人なり。

49名無しさん:2003/02/03(月) 22:57
吉田はいいこと言った。

50名無しさん:2003/02/03(月) 23:05
やっと見つけた。
ヲチスレの人さんくす。

51名無しさん:2003/02/03(月) 23:11
>>38
弾丸を胸にくらったが、たまたま胸ポケットに入れてあったロケットの
耐久力が無くて氏ね。

52名無しさん:2003/02/03(月) 23:35
ナリ「やっときたナリね。おめでとう! このゲームを かちぬいたのは きみたちがはじめてナリよ (*´ω`*)
01「ゲーム?
ナリ「ぼくが つくった そうだいな ストーリーの ゲームナリよ ヽ( *´ー`*)丿
02「どういうことだ?
ナリ「ぼくは へいわなくろねこスレに あきあきしていたナリよ(´・ω・`)
   そこでたろうをよびだしたナリよーヽ(´∀`)ノ
04「なに かんがえてんだ!
ナリ「たろうは くろねこスレをみだし おもしろくしてくれたナリよ(=´∇`=)  
   だが それもつかのまのこと かれにもたいくつしてきたナリよ(;´σ`)
03「そこで ゲーム‥か?
ナリ「そう!そのとうり!! ぼくは たろうを うちたおす ひなんスレが ほしかったナリ! ヽ(´∀`)ノ
01「なにもかも あんたが かいたすじがきだったわけだ
ナリ「なかなか りかいが はやいナリね(=´∇`=)  
   おおくの モノたちが ひなんスレにつけずに きえていったナリ(*´ω`*)
   しすべき うんめいをせおった ちっぽけなそんざいが ひっしにさがしていく すがたは
   ぼくさえも かんどうさせるものがあったナリよ(=´∇`=)
   ぼくは このかんどうを あたえてくれた きみたちにおれいがしたいナリ!ヽ(´∀`)ノ
   どんなのぞみでもかなえてあげるナリよ (*´ω`*)
02「おまえのために ここまできたんじゃねえ!よくも おれたちを みんなをおもちゃにしてくれたな!
ナリ「それが どうかしたナリか?すべては ぼくが つくった モノナリよ(=´∇`=)
01「おれたちは モノじゃない!
ナリ「ぼくに ケンカをうるとは‥‥どこまでも たのしい ひとたちナリ! ヽ( *´ー`*)丿
   どうしても やるつもりナリね これも いきもののサガナリか‥‥ (´・ω・`)
   よろしい しぬまえに ぼくのちから とくと めに やきつけておくナリよ!! ヽ(´∀`)ノ

5352:2003/02/03(月) 23:39
明日試験だってのにこんなコピペ作ったりして
何やってんだろオレ・・・

54名無しさん:2003/02/03(月) 23:41
>>53
息抜きも必要さ。



    適    度    に    な

55名無しさん:2003/02/03(月) 23:42
まったく おおばかやろうだ あんたは!

5652:2003/02/03(月) 23:46
>>54>>55
ありがとう・・・徹夜で勉強します・・

57名無しさん:2003/02/03(月) 23:55
>>56
ガンガレ
試験開始の3時間前には起きてろよ。

58名無しさん:2003/02/04(火) 00:41
ここは平和だなあ…(*´∀`*)

59名無しさん:2003/02/04(火) 01:07
本当に…

60名無しさん:2003/02/04(火) 01:09
今ちょっとEXが面白いので。

61名無しさん:2003/02/04(火) 01:34
>>52
もとネタは何?

6252じゃあないけど:2003/02/04(火) 01:35
>>61
http://www.playonline.com/mp/html/ms/main.html

6352じゃあないけど:2003/02/04(火) 01:36
のラスボス『神』のセリフ

64名無しさん:2003/02/04(火) 01:38
岡山で太郎OFF決定したようです。

65例の899:2003/02/04(火) 01:53
ああ…
ほとんど参加しなかったけど、結局ヲチし続けて1行も進んでない。

66名無しさん:2003/02/04(火) 01:57
キター

67名無しさん:2003/02/04(火) 02:05
さーて、一段落ついたし、これからゆるりと雑談…

今日はもう無理w

68名無しさん:2003/02/04(火) 10:12
SNOW買うのに徹夜で並んで凍死した奴がいるってきつすぎないか?

69名無しさん:2003/02/04(火) 11:30
>>68
マジで?

70名無しさん:2003/02/04(火) 12:18
SNOWそんなにおもしろいのか?

71名無しさん:2003/02/04(火) 13:27
正直DAパンツに劣る

72名無しさん:2003/02/04(火) 15:14
DAパンツって泣きゲー?
デモみた限りだと小学生くらいに見えるんだけど、本番はあるの?

73名無しさん:2003/02/04(火) 15:52
おまえら、軟弱なゲームばかりやるな。
鬼畜ゲーやれ

74名無しさん:2003/02/04(火) 17:16
―郎に見つかるのでsage推奨キボンヌ。
つーか>>47>>52は死んで良いよ。
住人がどれだけ神経質になってるかもわからないのか。

75名無しさん:2003/02/04(火) 17:17
なあみんな、一つ提案があるんだけど。ここの掲示板使ってるうちはナリ氏やめないか。
理解しあえばきっとナリと仲良くできると思うんだよな。
氏ね氏ね言われてナリも傷ついてると思うしさ。
根っからの漫画板住人じゃないからこういう考えになるのかもしんないけどさ。

76名無しさん:2003/02/04(火) 17:21
>>75
わかってるのかも知れないけどナリは確信犯。
住人も真剣に嫌ってるわけじゃないし、むしろ楽しんでる。
そんでもってナリもわかってて叩かれに来てるぽ。

あくまでも電波を演じてるだけってのが太郎以来よくわかるようになったよ。

77名無しさん:2003/02/04(火) 17:23
ナリ氏ねはお約束だからな、各自の判断でいいんじゃない?

78名無しさん:2003/02/04(火) 17:48
叩いてるのは半分はネタ。


もう半分は真剣にムカついてる。

79名無しさん:2003/02/04(火) 17:48
つまり

―――だから   死ね
  ↑ネタ   ↑本心

ってことでOK

80名無しさん:2003/02/04(火) 17:51





81名無しさん:2003/02/04(火) 17:58
>>78
ムカつくのは延々と何十レスも叩き続けるからじゃないか?
一応俺はそうだったけど。

82名無しさん:2003/02/04(火) 18:16
けど本当にウザイ時もかなり多い。

83名無しさん:2003/02/04(火) 18:18
メグミルクでカルシウム摂取すればナリなど気にならない

84名無しさん:2003/02/04(火) 18:21
>>83
いろんな菌も一緒に摂れそう。

85名無しさん:2003/02/04(火) 18:41
2月に、
真三国無双3 スパロボ SO3 アヌビス
が出るのだが、どれを買った方が良いだろうか?
前者二つは新システムが激しく糞っぽいし、後者ふたつは前作の糞さを
伝承してそう。

86名無しさん:2003/02/04(火) 18:45
アヌビスは体験版が微妙
スパロボは長いだけ

87名無しさん:2003/02/04(火) 19:11
ガオガイガー目当てでスパロボを買う、延びなければSO3も

88名無しさん:2003/02/04(火) 19:13
発売日に買ったアンサガだけで一年は楽しめそうです

89名無しさん:2003/02/04(火) 19:24
3月にイース買う

90名無しさん:2003/02/04(火) 19:38
さっきフジに2chが出てた

91名無しさん:2003/02/04(火) 20:00
83 名前:番組の途中ですが名無しです[] 投稿日:03/02/04 19:55 ID:hQt/cVwG
ttp://210.153.114.238/source/up0275.mpg
さっきの2ch動画

92名無しさん:2003/02/04(火) 20:04
>>91
またなんかイザコザあったのかと思ったら普通に出てるなぁ。フジめ。

93名無しさん:2003/02/04(火) 20:05
確か小倉さん2ちゃんのこと毛嫌いしてるんだよな?

94名無しさん:2003/02/04(火) 20:51
やばい、学校へ行こうが面白い。どうしよ。

95名無しさん:2003/02/04(火) 20:55
>85
SO3とアヌビス狙いだな。グラヴィオンとワるきゅーレの
どちらかのDVDを諦めないといけなそうだ。

96名無しさん:2003/02/04(火) 21:19
>>93
嫌ってはいるが、否定はしていない。

97名無しさん:2003/02/04(火) 21:38
>>90
なんか、「大晦日の地上の星」
の時のネタに出されてたんだっけ?
『ちょっと特撮っぽかったなぁ」
とかって書き込みを紹介しながら、その前後が
「NHK逝って良し」「ソースキボンヌ」
だったのには笑ったが。

98名無しさん:2003/02/04(火) 22:27
人いない(つД`)

99名無しさん:2003/02/04(火) 22:30
いるさ!もう寝るけど。

100名無しさん:2003/02/04(火) 22:30
いるよ!

たどり着けなかった人多いのかな。

101名無しさん:2003/02/04(火) 22:43
銃人五人くらい+ナリ

102名無しさん:2003/02/04(火) 22:50
難民の236にレボが来てるぞ

103名無しさん:2003/02/04(火) 23:00
>>91
流れてるよ!

104</b><font color=#FF0000>(Nari/uzA)</font><b>:2003/02/05(水) 00:49
そういえばこれはほんとの話ナリけど
岡山で新幹線の乗り換えしてた時に矢吹先生らしき人に会った気がするナリよヽ(´∀`)ノ

105名無しさん:2003/02/05(水) 00:57
>>104
つんくとチューヤンが悪魔合体したようなヤシだぞ。
ほんとか?

106名無しさん:2003/02/05(水) 01:00
汚物柏木みたいになんか新しい太郎の名前を考えませんか?

>>104
かっこ良かった?、あと氏ね。

107名無しさん:2003/02/05(水) 01:03
岡山…?


謎は解けた!

太郎はこの中に居る。


それはお前だナリ!

108</b><font color=#FF0000>(Nari/uzA)</font><b>:2003/02/05(水) 01:04
こみっくすの作者近影で見るより少し太ってたような・・(´・ω・`)
メガネかけてる写真しか見たことないナリし
別人ナリかねえ・・・

久しぶりに相手してくれて嬉しいナリよ(;´д⊂

109名無しさん:2003/02/05(水) 01:24
>>108
縁があったらまた知欠に会えるかもな。だから氏ね。

110名無しさん:2003/02/05(水) 01:55
これおもろい
http://bizza.hp.infoseek.co.jp/denwa.swf

111名無しさん:2003/02/05(水) 04:00
声が・・・(・∀・)イイ!!

112名無しさん:2003/02/05(水) 07:45
>>105
その例え絶妙すぎ。

113名無しさん:2003/02/05(水) 16:03
ヤックデカルチャ

ttp://www.noda-ya.com/sinseihin/sin24/144-freedumgundam.jpg

114名無しさん:2003/02/05(水) 17:43
>>104
キチガイの詩を聞かされて、キチガイの仲間入りして死ね
>>108
エリア51に飛来して死ね

115名無しさん:2003/02/05(水) 18:13
黒猫ファン集まれスレで質問してた人来れた?

ここが自力で見つかるとは思えないから勘違いしてるかもな・・・・・・

116名無しさん:2003/02/05(水) 18:54
Tシャツ使ってジャミラの真似してた時の自分を思い出した

117名無しさん:2003/02/05(水) 19:21
このまま黒猫住人はバラバラになるのだろうか?
みんなでまたわいわいやりたいなー。

118名無しさん:2003/02/05(水) 19:35
奴がへばりついてる限り難しいかもなー
つーか、他のスレに被害が広がりだしてるんだけど

119名無しさん:2003/02/05(水) 19:42
アク禁頼むにはどこいけばいいの?

120名無しさん:2003/02/05(水) 19:44
>>119
アク禁依頼は受け付けてないって。

それにアク禁は板一つ潰すくらいの事しないとダメらしい。

121名無しさん:2003/02/05(水) 19:53
けど実際少年漫画板のトンでもない公害になってるのは事実。
削除人はちょっと上辺だけで人を判断する傾向がある。

122名無しさん:2003/02/05(水) 19:56
>>121
同意。
せっかく人間がやってんだから少しくらいは主観で動いて欲しいよな。

123名無しさん:2003/02/05(水) 20:03
>>116
学ランでそれやるのは自分とこのローカルで流行ってたな。

124名無しさん:2003/02/05(水) 20:15
学ランでやるとジャミラより機関車トーマス系に

125名無しさん:2003/02/05(水) 21:01
メール作戦効果でてるかな・・・・・?


もう今日は3人にメール送ったよ。

126名無しさん:2003/02/05(水) 21:03
segaはこれたのか?

127名無しさん:2003/02/05(水) 21:06
漏れは自力できた

漏れすごい

128名無しさん:2003/02/05(水) 21:09
>>127
よく見つかったな・・・・・本気で凄いと思うよ。

129名無しさん:2003/02/05(水) 21:09
>>127
自分の自慢はあまりしない方が…
ただでさえ、キチガイ脳内自慢野郎の電波にみんなムカついているので。

130名無しさん:2003/02/05(水) 21:15
                          _
      は               , - '"::::::::: ̄`‐- ._
      う             /:::::::::::................:::::::::::::\    ,
       っ            /:::::::::::::::i::::::::::::::::::::::::::::::::::::`‐-‐",.ノ,
                   |:::::::::, 、 :| |:::.|\:::::::::::::::::::::::::::::_. - '"
                   |ニニ丶ヽ._ヽ|  ヽ、 :ヽ、::::::::::ヽ
                 ⊂ニニ/   ヽ.)―( ̄")::::| |:::::::::::ヽ
                 ⊂ニニ/  |  ヽ.|i /// |::|.|ヽ、::::::::|
                    _)   \  ヽ、  .|::::ヽ、),::::ノ
                  ⊂-‐―┬、- 、  `丶 、_゛=:;ノ
                    ┌‐"| `‐-‐ `, 、    `丶.,‐. 、
                _..--―+ : :|     ::| : ;;゛‐ 、  / : : : :`丶、
              , -'": : : : : : : ヽ、\   ::/ : ; : : :./`"、: : : : : : : : : `:ヽ
           , -'" : : : : : : : : : : : : : ヽ、ヽ、/ : : ; : : : |:::::::::::`:丶、: : : : : : : :|
        , -'" : : : : : : : : :ヽ: : : : : : : : :丶 :|: : : : : : : : |::::::::;;;;;;;;;;;::`ヽ_,..-'
     , -'"....: : : : : : : : ;,. -‐'"ヽ: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : |'"´   ` ̄´
     | ,.― 、゛,..-‐'"´     |: : : : : : : : :;:;: : : : : : : : : : : |
     ヽ   丶         |: : : : : : : : ;;: : : : : : : : : : : : :|
      ヽ   ヽ        .|: : : : : : : :; : : : : : : : : : : :./
       ヽ   ヽ         |: : : : : : : : : : : : : : : : : :.|
        ヽ   ヽ、       |: : : : : : : : : : : : : : : : /
         ヽ,.-‐'´ ̄`ヽ     |: : : : : : : : : : : : : : /、

131名無しさん:2003/02/05(水) 21:18
さっき冷蔵庫から人参を取り出したら
ちょっとぬめりが付いてたんだけど使っても大丈夫かな?

132名無しさん:2003/02/05(水) 21:19
>>131
ぬめりって・・・・・

133名無しさん:2003/02/05(水) 21:20
少し前にT.R.Y.見てきたんだがエピソード削りすぎなのかそれとも詰め込みすぎなのか微妙な出来だったな。
せめて単純に時間延ばすか登場人物減らすかしたほうがよかったような。

134名無しさん:2003/02/05(水) 21:32
ここが我々の安住の地になることを願います アーメソ

135名無しさん:2003/02/05(水) 22:12
>>131
半熟のキュウリ食ったことあるけど無事だったから大丈夫

136名無しさん:2003/02/05(水) 22:26
本スレってここでいいの?
捨てアドの取り方とかわからんから違ったら鬱だ

137名無しさん:2003/02/05(水) 22:26
>>136
正解。これまたよく見つけたな。

138名無しさん:2003/02/05(水) 22:28
俺はしたらばのカテゴリで1つずつ『ナリ』で検索して行って見つけたよ。

139名無しさん:2003/02/05(水) 22:30
>126
来れてましゅ 黒猫ファン集スレで教えてくれた人さんすこ−

140131:2003/02/05(水) 22:35
半熟のキュウリってやだなぁ…
取り敢えず周り多めに削ぎ落とすことにした

俺はキャラメルリンゴスレから辿ってきた

141名無しさん:2003/02/05(水) 22:39
何だ俺たちは。ユダヤ人か。

142名無しさん:2003/02/05(水) 22:42
【そんなの】学園都市ヴァラノワール【あるんだ】
http://comic2.2ch.net/test/read.cgi/anime/1038675376/
ヤシガニを超える新たな伝説の予感(w

143名無しさん:2003/02/05(水) 23:01
ttp://wgalland.hp.infoseek.co.jp/
キャプサイト見たが破壊力あり過ぎだな。

144『ロケットランチャー』:2003/02/05(水) 23:09
>>143のサイトを見ると
『バズーカ』ってのは愛称で
正式名称じゃないんだって?
ベルーカの武器ってバズーカだったよな。
いや、どうでもいいんだけど。

145名無しさん:2003/02/05(水) 23:10
この空気・・��ゥオ「i ´Д⊂ヽ
律儀にメール送ってくれたお2人、ありが㌧

146名無しさん:2003/02/05(水) 23:12
>>145
顔文字や挨拶よりネタってことで何かいいのない?

147名無しさん:2003/02/05(水) 23:13
Σ(゚D゚G 文字化けしてるよ。。。

148名無しさん:2003/02/05(水) 23:32
中島らもって誰?

149sega:2003/02/05(水) 23:37
らも懐かすぃ… 昔ヤンタンの後にラジオやってたなぁ…
#123445;&#1234132;

150名無しさん:2003/02/05(水) 23:43
ヲチスレ(の531です)でメールくれた方々ありがとう。
ようやく来れたヽ(´ー`)ノ

151名無しさん:2003/02/05(水) 23:46
もう報告はいらないんじゃないか?

152名無しさん:2003/02/05(水) 23:48
いや、報告してくれって言われてたからさ…

153名無しさん:2003/02/06(木) 00:14
グリーングリーンPS2版の限定版含めて4本同時発売ってかなり悪どくないか?

154名無しさん:2003/02/06(木) 00:38
ジャミラよりジェロニモンの方が萌える

155名無しさん:2003/02/06(木) 01:29
南国の淫魔聖伝っつーエロアニメがすごくいいのよ

156例の899:2003/02/06(木) 02:11
時計を何度も気にしながら、不味い朝食をゆっくりと摂った。
固いパンと油でギトギトしたソーセージはいかにも体に悪そうで、上からケチャップとマ
スタードを大量にぶっ掛けて、その味だけで食べているようなモンだった。
最後の一口を缶コーヒーで流し込んだ時、ジャケットの中から携帯の呼び出し音が鳴った。
トレインの携帯電話だが、連絡待ちがあるので俺が持っていたのだ。
既に食べ終えて、左手を腰に当てて牛乳を呷っていたトレインも、一旦それを中断してこ
ちらに注意を向けた。
俺はトレインと目を合わせ、
「良いタイミングだ」
と言いながら両手を叩き合わせてパン屑を払い、口の回りをティッシュで拭いてから携帯
を取り出した。
「もしもし。アネットか?待ってたぜ」
「スヴェンか…」
アネットの声が心なしか弱々しく感じた。
「どうした?ベノンズの事、分からなかったのか?」
「いや、その事は調べ上げたさ。それとは別に、新しい情報が入ったんだよ」
それに続き、受話器から溜息が聞こえてきた。
「なんだ、悪い知らせか?」
「とっても、ね。警察が、三人目を見つけたよ」
「……!」
まるで喉が締め付けられたかのように、声が出なかった。やられた、と思った。これで警
察の完封勝利、掃除屋は三打数三三振だ。この事件に関わった掃除屋連中は、全員タダ働
きをしてしまった事になる。これからの生活の事を考えると、体中の血が凍りつく思いだ。

157例の899:2003/02/06(木) 02:12
「ど、どこでだ?」
ようやく搾り出した声では、これを尋ねるだけで精一杯だった。
「アンタ達のいるメイスペリー市のホテル・サンダルマンで。頼まれていたモーニング・
コールに応答がなかったんで、客室係が部屋に行ったら死んでいたんだそうだよ」
「死んでいた?」
「そう。それで、駆け付けた警官が、射殺されたステファノの死体を発見したんだとさ。
今朝の七時半過ぎに。死亡推定時刻とか、詳しいことはまだ発表されていないけど、多分、
昨日の夜中に殺されたと考えられるそうだよ」
「なんだよ、それ。タイミング良過ぎじゃねェかよ」
「アタシもね、妙だとは思うよ。まるで、顔写真が公表される前に始末されたみたいで」
「ダラタリのヤツらが、あの情報を手に入れられるか?」
「ダラタリくらいにデカイ組織だと、警察の中にも協力者がいるだろうからね。でも、子
飼いの殺し屋を送り込むにも行動が早過ぎるし、ヤツらは厳しいマークに合っていて雁字
搦めさ。妙な動きを見せたら、すぐに押さえられていたハズさ。ただ―――」
「ただ?」
「ベノンズの事を調べるついでに、ダラタリとメイスペリー市の繋がりも洗ってみたんだ。
アンタ達の助けになるかと思ってさ。そしたら、面白いモノが出てきたんだよ。
スヴェン、メイスペリー市長の名前って知ってるかい?」
「ああ、知っている。トマス=ヤンデンだろ」
「さすが、よく知ってたね」
「いや。たまたま、な」
「そのトマス=ヤンデンの父親、ジェシー=ヤンデン上院議員がまだ議員として駆け出し
だった頃、とある運送会社との癒着が騒がれた事があるんだけど、それは?」
「いや、それは初耳だ」
「そりゃそうだろうね。もう二十五年以上前のことだから。でも、その運送会社ってのが、
レフト・リヴァー急便だったって言えば分かるだろう?」

158例の899:2003/02/06(木) 02:12
「あ!」俺は驚きの声を上げた。レフト・リヴァー急便といえば、ダラタリ・ファミリー
が経営する会社の中でも中核をなすモノだ。頭の中のパズルが、また違った形に、それも
高速で組み合わさっていく。
「それじゃ―――」
「そう。その癒着が本物で、そしてそれが、今も尚、続いているとしたら」
「ダラタリが、ステファノの始末をトマス=ヤンデンに依頼した?」
「かも、だよ。あくまでも可能性の話さ。それに、この方法なら警察のマークに悟られず
に始末は出来ても、市長が殺し屋を雇うなんて危険を犯すハズないからね」
アネットの言う通りだ。市長という立場の者が殺し屋に、それも自分とは関係の無い他の
犯罪絡みの依頼などすれば、格好の脅す材料を与える事になる。しかも、それは父親まで
波及するのだ。それこそ、親子共々、骨までしゃぶり尽くされてしまうだろう。しかし、
それを回避する方法が一つだけある。
「もし、市長が全幅の信頼を寄せている『牙』を持っていたら」
「いるのかい?そんなヤツが」
「いや、知らん。可能性さ、ただの」
そうは言ったが、俺には、その突拍子もない可能性が、かなり現実味を帯びているように
感じられた。
「ベノンズの事を考えているんだったら、そいつは間違いだよ」
「ヤツらの事、どこまで分かったんだ?」
「チンケな連中だったから結構骨を折ったけど、かなり調べ上げたよ。ベノンズってのは、
ここ三年ばかし前に現れたんだそうだ。構成員は十人程度で、マリファナと女の売り(売
春)の元締めがアガリ(収入)のほとんどだ。あと、自分の女に店をやらせている。その
店の事務所を、一応のヤサにしているそうだ。今からその店の住所を言うよ」
「ちょっと待った………よし」
俺は教えられた住所を書き留めた。

159例の899:2003/02/06(木) 02:12
「よく半日でここまで調べられたな」
「ほとんど偶然さね。ベノンズの頭を知ってるって情報屋がいたんだ。そいつは元傭兵で、
その頭のヤツと同じ部隊にいたんだそうだ」
俺は、昨晩のスーツ男の姿を思い浮かべた。
(アイツが元傭兵?)
「頭の名前はトッシュ=グレイグ。主に東エイジアの戦場にいて、四年前に除隊。その頃
のツテを頼ってマリファナの密輸を始めたらしい。覚醒剤なんかは扱わないそうだ。その
情報屋が言うには、一番の戦友を麻薬で亡くしたかららしい。ま、それでもマフィアの真
似事をしてマリファナ売ってんだから、ロクデナシには変わりないけどね。
元傭兵って事で、アンタの言う『牙』にはピッタリかもしれないけど、コイツは市長とつ
るむには小物過ぎるよ」
「確かにそうだ。だが、俺がその可能性を考えるのは、『牙』の存在のせいじゃないんだ。
市長とダラタリは、今でも繋がっているからだ」
「どういう事だい?」
俺はすぐに答えずに、深呼吸をして一拍置いてから言った。
「一年前、ヤンデン市長がこの街にカジノを誘致する計画を出した。結局は撤回されたが」
受話器からはなにも返ってこなかった。アネットもその事実について考えているんだろう。
しばらくしてから、答えが返ってきた。
「その計画案の参加企業を調べたら、ダラタリ系列の不動産会社やなんやらが並んでいそ
うだねェ。カジノの経営委託もそっちに回されていたかも」
「……しかし、もうこのヤマは終わっているからな。全部、無意味な想像さ」
「そうでもないよ。もし、市長が一枚噛んでいるんなら、ブツはまだその街にあるハズさ。
二日前に警官が殺され、今日また運び屋が殺されてるんだ。街から出て行く者の監視が厳
しくなっているから、殺し屋と運ぶ役を受け継いだヤツ―――多分、同じヤツだろう。ソ
イツもまだ街にいるだろうよ。アンタ、それを追えるかい?」
今度は、俺が沈黙する番だった。チラリと横目でトレインを見る。俺の返答で、会話の内
容を少しだけ理解しているのだろう。トレインは、似つかわしくない真面目くさった顔で
俺を見ていた。
「やってみよう」
俺はアネットにそう答えた。

160例の899:2003/02/06(木) 02:15
ナリへ

板汚しでゴメンね

161なり:2003/02/06(木) 02:18
>>160
ボクの存在自体がスレ汚しなので別にいいナリよー
気にすることないナリ

162名無しさん:2003/02/06(木) 02:19
例の899、そのセリフは違うぞ。
ナリへあいさつをする時というのは
『ゴメンね』なんてセリフを吐くもんじゃあない。こう言うんだ。



                『死ね』

163例の899:2003/02/06(木) 02:38
いや、これは優しそうな台詞を吐いてボキを良い人に見せかけるためのものでね、


普段は名無しで「氏ね」連発してるんでし。「ナリ氏ね」ではぐりん捕まえたのもボキ。

164名無しさん:2003/02/06(木) 02:58
主要な連中は集まってるみたいだな
まだここが分からない人たちも居るみたいだが

165名無しさん:2003/02/06(木) 06:55
LOVERS体験版公開
200MBかよ・・・・ミラーもまだ無いし・・・・・

166名無しさん:2003/02/06(木) 10:41
今、俺しかいないな・・・



冷蔵庫に1週間入れておいた卵を卵ごはんにして食ったら体中がめちゃかゆい。
その上、掻いた所が赤く腫れ上がって体中が蚊に刺されたように・・・

まじでもうだめぽ

167名無しさん:2003/02/06(木) 10:48
    _,.,.
   |  ノノ
   |!´゙リ)) 病院に行かれたらどうでしょう。
   |ヮ゚ノリ
   |⊂
   |

   |
   |  サッ
   | ミ
   |
   |

168名無しさん:2003/02/06(木) 11:26
(((((;゜Д゜)))))ガクガクブルブル

169名無しさん:2003/02/06(木) 12:00
>>166
体中の赤いできものからヒヨコが生まれます。注意。

170mage:2003/02/06(木) 16:29
2chでオレが回ってる主要な板、殆ど止まってる
専用ブラで見ても新規のカキコないし、こっちからも出来ない
つーか例の899は書き溜めてたんだろうな、いつもよりボリューム
多くてよかったよ

171名無しさん:2003/02/06(木) 17:02
http://news2.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1044423775/
いまこんな状態みたい、もう太郎どこじゃないね。

172名無しさん:2003/02/06(木) 17:50
今、俺しかいないな・・・



病院行って薬貰ってきた・・・時間が経った卵には気をつけなきゃって笑われたよ。
病院への往復のタクシー・病院での視線・・・つらかたーよ(ノД`)

173名無しさん:2003/02/06(木) 18:23
とりあえず、無事で良かったよ。

174名無しさん:2003/02/06(木) 18:24
>>172
色々と乙。
いや、マジで時間の経った生卵は危ないよ。
身をもって知ったと思うけど(藁

175名無しさん:2003/02/06(木) 18:34
| \  シャア! シャア!
|Д`) 今はいいのさ 全てを忘れて
|⊂   ひとり残った 傷ついた俺が
|
     ♪  Å
   ♪   / \  この戦場で 後に戻れば地獄に堕ちる
      ヽ(´Д`;)ノ シャア! シャア!
         (  へ)  
          く   

          Å  
      │/   \│ ビーム輝くフラッシュバックに 奴の影
        (Д`≡´Д) シャア! シャア! シャア!
         (     )  シャア! シャア! シャア!
        ∠│   

        .Å  
       ./ \  流した血しぶき 後で後で拭け
       ヽ(´Д`;)  狙い定める 俺がターゲット
         ( ノ )
      .从 く 亅从

         Å
     Σ ..|/ \  シャア! シャア! シャア!
       (´Д` )   シャア! シャア! シャア!
         (    )>
         /  >

176名無しさん:2003/02/06(木) 18:56
http://www.zdnet.co.jp/gamespot/gsnews/0302/06/news05.html
こういうことらしいが宗教的な問題って何があったんだろうか?

177名無しさん:2003/02/06(木) 19:03
>>176
今のうちに入手しとこうかなぁ。
凶箱持ってないけど。

178名無しさん:2003/02/06(木) 19:04
よくわかんないけど、『男女差別』がテーマの一つだからそういう問題も山盛りなんだと思われ。

179名無しさん:2003/02/06(木) 19:11
446 名前:通常の名無しさんの3倍 投稿日:03/02/06 14:32 ID:???
NTのおかげでいよいよアスランが8頭身キャラに見えてきた


447 名前:通常の名無しさんの3倍 投稿日:03/02/06 15:57 ID:???
NTのライターは絶対このスレ見てるな…


448 名前:通常の名無しさんの3倍 投稿日:03/02/06 16:02 ID:???
コピペで持ってきた

『キラのことはどうしようもなく好きなのに、
彼は仲間として同じものを見てくれない。
そのことにアスランは傷つくのだ。
アスランは、もうすぐ地球に降りることになる。
職務的には「足つき」を追って。
本心的にはキラを追って。
おそらくそこにまた新たな悲劇が生まれることになるのだろう。』

まんま8頭身アスランとキラなのが笑える

180名無しさん:2003/02/06(木) 19:17
ていうか、いきなり黄金伝説はいくらネタが完全に枯渇したからってゴミ屋敷ネタばっかり。
しかも物凄いつまんないし。
何より、何でゴミ屋敷の家主はみんな電波っぽいんですか?

181名無しさん:2003/02/06(木) 19:29
深夜→ゴールデンって大抵どこかから歪んでくるよな。

182名無しさん:2003/02/06(木) 19:31
ゴミ屋敷に住んでるやつが普通のヤツだと逆に怖いだろ。

183名無しさん:2003/02/06(木) 19:43
>172
   |⌒ノノ
   |!´゙リ)) 
   |ヮ゚ノリ 元気出してくださいね…。
   |⊂
   |     甲
          │

   .〃.⌒ノノ
   !(((!´゙リ))
   ノ リ.゚ ヮ゚ノリ    ♪君を好きになって〜♪どれくらい経つのかな〜
  ( (⊂)天}つ甲   ♪気持ち〜♪膨らんでゆくばかりで〜
   ``/,然ヾ. │
   ,,んムム'ゞ│
         ̄

   |
   |  サッ
   | ミ
   |
   |     甲
          │

184名無しさん:2003/02/06(木) 19:50
黄金は1ヶ月1万円ネタしか見ないや
浜口には驚いたよ。
ベルゼー級のモリ使いで蜂の子御飯とか平気で食ってるし最強、No.XIに推薦する

185名無しさん:2003/02/06(木) 20:02
    ○
    _|]
○| ̄|_/\

186名無しさん:2003/02/06(木) 20:06
いい加減、テツandトモはゴールデンばっかり出てないで芸を磨いて欲しい。
もう1年前から進歩が無い。
ネタが全部同じじゃねーか!

187名無しさん:2003/02/06(木) 20:06
正直、テツandトモよりも「いつもここから」にヒットして欲しかった。

188名無しさん:2003/02/06(木) 20:17
今日のうたばん面白くねー

189名無しさん:2003/02/06(木) 20:19
笑えたのはノリが何故かきてたところだけだな

190名無しさん:2003/02/06(木) 20:23
にちゃん重すぎ

191名無しさん:2003/02/06(木) 20:24
>>187
がぶのみミルクコーヒーのCMに出てた人だっけ?

192名無しさん:2003/02/06(木) 20:29
>>191
そう。
個人的に暴走族ネタも面白かった。

193名無しさん:2003/02/06(木) 20:35
>>171
やべーな…
黒猫スレの奴等は2chブラウザ使ってるだろうが…

194名無しさん:2003/02/06(木) 21:01
さいたまコールにワロタ

195名無しさん:2003/02/06(木) 21:05
玉っ子ワロタ

196名無しさん:2003/02/06(木) 21:18
あややイラネ

197sega:2003/02/06(木) 21:22
っていうか「いつもここから」のネタって
「哀しいときー」と「バナナ安いよー」しか見たことないなぁ

198名無しさん:2003/02/06(木) 23:35
ひと、いない

おれ、おんな、たべたい

199名無しさん:2003/02/07(金) 00:06
まだ、ひと、いない

おれ、おんな、たべほうだい?

200名無しさん:2003/02/07(金) 00:11
だめだ おんなは おれがくう
さけと かねも よこせ

201名無しさん:2003/02/07(金) 00:18
ひと いた
おんな とられた
さけと かねも いっしょに とられた
おれ まいるどに かつあげ された

202</b><font color=#FF0000>(Nari/uzA)</font><b>:2003/02/07(金) 00:20
巡回に来たナリよ?ヽ(´∀`)ノ
調子はどうナリか?(=´∇`=)

203名無しさん:2003/02/07(金) 00:22
なりは よんで ないよ

204名無しさん:2003/02/07(金) 00:24
そう
なりは よんで ない
だから しね

205名無しさん:2003/02/07(金) 00:30
なかまに いれて やれよ
りよう させてもらってるんだし
しかたないよ
ねて あたまを ひやせ

206</b><font color=#FF0000>(Nari/uzA)</font><b>:2003/02/07(金) 00:33
またまた、みんな僕のことが大好きなのは言わなくても分かるナリよ(*´ω`*)
なんだかんだ言ってもう1年以上のつきあいナリからねヽ( *´ー`*)丿

207名無しさん:2003/02/07(金) 00:37
>>205
なら さけの つまみを もってきてくれ
それとも からだで ごほうし してくれるとでも いうのか?

208名無しさん:2003/02/07(金) 00:42
なり、
りようさせてくれて ありがとう
しんぱいしなくても だいじょうぶだよ
ねたがあんまりないんだけどね

209名無しさん:2003/02/07(金) 00:47
ええい なりは どうでもいい
そんなことより ねただ ねたを もってこい

210名無しさん:2003/02/07(金) 00:49
>206
何だかんだいって、ナリが来るのを心待ちにしているよ。
皆で死ねっていう、あの雰囲気が好きだし。ネタ書き込むのも楽しいし。
だから、利用させてくれてありがとう、太郎のIPを晒して詩ね。

211名無しさん:2003/02/07(金) 00:53
「ジャンプのギャルゲー作っています」スレでこんなの見つけたよ
ガイシュツだったらスマン

ttp://redesi.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/img-box/img20021106192107.jpg

212名無しさん:2003/02/07(金) 00:55
スさん?

213名無しさん:2003/02/07(金) 01:05
http://comic2.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1044547347/

ナリ、責任をもってなんとかしろ

214名無しさん:2003/02/07(金) 01:07
何故かふと肉が食べたくなった。

215名無しさん:2003/02/07(金) 01:12
俺もつられて肉が食べたくなった。
ようし、ナリ、買ってこい。

216名無しさん:2003/02/07(金) 02:15
いつもここからはカツゼツが悪すぎて
いつ噛むかと心配でネタを聞いてるどころじゃない・・

外部の掲示板だと、魔法使いに大切なこと始まったよー・・とか
軽い雑談する気にならないんだよな・・
はやく2chの大地に戻りたい・・

217名無しさん:2003/02/07(金) 02:40
ねこー ねこー

218名無しさん:2003/02/07(金) 05:05
(*´ω`*) ナリの漫画談話室sSP3(=´∇`=)
http://comic2.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1044561181/l50

また立てやがった。ナリ、何とかしろ

219名無しさん:2003/02/07(金) 07:29
絵だけで話は見れたもんじゃないと聞いたんだが>魔法遣い

220名無しさん:2003/02/07(金) 09:45
今、俺しかいないな・・・



魔方陣ぐるぐるに萌えまくってます

221名無しさん:2003/02/07(金) 09:54
    _,.,.
   |  ノノ
   |!´゙リ)) 昔好きだったけどまだやってんの?
   |ヮ゚ノリ
   |⊂
   |

   |
   |  サッ
   | ミ
   |
   |

222名無しさん:2003/02/07(金) 09:57
しかし俺もいたりする。



本当に誰もいなかったら寂しいよね……。

223名無しさん:2003/02/07(金) 09:58
リロードすべきだった……。

224名無しさん:2003/02/07(金) 10:00
フリーダムとジャスティス見たんだがあれは酷くないか?

225名無しさん:2003/02/07(金) 10:17
>>224
酷すぎる。

ttp://210.153.100.60/cgi-bin/animecg1/img-box/img20030207023103.jpg
ttp://210.153.100.60/cgi-bin/animecg1/img-box/img20030207023133.jpg

226名無しさん:2003/02/07(金) 10:42
ジャスティスダセー。

227名無しさん:2003/02/07(金) 11:05
>>222
誰もいないとさびしいね。
一日一回俺しかいないなをするのが日課です

228名無しさん:2003/02/07(金) 11:38
なんかフリーダムとかジャスティスってGガンに出てきそうな名前だ。
それにしても、ジャスティスマジでダサいな

229名無しさん:2003/02/07(金) 13:28
ジャスティスの塗装が
いつも俺がACで使ってる機体の色に似てる

230名無しさん:2003/02/07(金) 17:26
ガキの頃Gガンにはまってたのに、最近見たら恥ずかし過ぎて
10分も見られませんでした。

231名無しさん:2003/02/07(金) 18:36
だが、それがいい。

232名無しさん:2003/02/07(金) 19:00
マガジンのスクールランブルが日に日に酷くなっていくのが耐えられないんですが。

233名無しさん:2003/02/07(金) 19:45
D.C.アニメ化ってマジですか?

234名無しさん:2003/02/07(金) 20:10
明日は満月、種と楽しみが多いな

235名無しさん:2003/02/07(金) 20:14
キングゲイナー

236名無しさん:2003/02/07(金) 20:36
満月、楽しみだよ。鬱展開が後少しで終わるから。

237名無しさん:2003/02/07(金) 21:12
>233
D.C.〜ダ・カーポ〜 TVアニメ化決定
http://comic2.2ch.net/test/read.cgi/anime/1044609141/
何かスレ立ってるね・・・

238名無しさん:2003/02/07(金) 21:17
WSでアンチ曲芸となった俺としては腹立たしい限りなわけだが

239名無しさん:2003/02/07(金) 21:23
まあ、漏れはバルドフォースの方をアニメ化して欲しいわけだが

240名無しさん:2003/02/07(金) 21:37
ぶっちゃけカノンがエロゲーって知らなかった。

241名無しさん:2003/02/07(金) 21:50
俺だってファミマガが自分のニュースソースの全てだった頃は
同級生がエロゲーだったなんて知らなかったさ。

242名無しさん:2003/02/07(金) 23:09
PCエンジン懐かすぃ・・・

243名無しさん:2003/02/07(金) 23:10
カトちゃんケンちゃんのゲームがあったことは覚えてる

244名無しさん:2003/02/07(金) 23:16
むちゃ糞っそかっこええーーーーーー
最後の毒の登場シーン
あああああああああああ
すげーーーーーよもうおなかいっぱい

245名無しさん:2003/02/07(金) 23:27
むしろ俺は鬱な展開が大好きな人間だからなぁ・・・
るろ剣の薫死亡辺りやリヴァイアスのイクミ錯乱前後など他にも色々あるが
とりあえず満月はあの雪の中でそのまま死ん(ry

246名無しさん:2003/02/07(金) 23:32
俺はEDEN三巻で『ひいて』それ以降の単行本を買ってない。

247名無しさん:2003/02/08(土) 00:12
アウトロースターとかL/Rを見て、
「あぁ、ビバップは別格だったんだな」
と再確認。

248名無しさん:2003/02/08(土) 00:21
>>243
あれムズい。
そして志村はよくスベる。

249名無しさん:2003/02/08(土) 00:47
黒猫スレも段々メンバーが断片化してきたな

250名無しさん:2003/02/08(土) 00:48
・太郎ヲチ組
・太郎対話組
・ナリ避難組

251名無しさん:2003/02/08(土) 00:58
>250
俺は1と3時々2

252名無しさん:2003/02/08(土) 01:01
俺は1と3。

253名無しさん:2003/02/08(土) 01:19
結局昨日は肉をそれなりに食べたわけだが何故かまだ肉が食べたい。

254名無しさん:2003/02/08(土) 01:21
これを見れば肉なんて食べる気なくすさ
【韓国】都心真ん中デモの中で ‘腹切り’ 笑撃 【切腹】
http://live2.2ch.net/test/read.cgi/news/1044595836/

255名無しさん:2003/02/08(土) 01:27
ひいいいい。

256名無しさん:2003/02/08(土) 02:02
さて、こっちに人はいるかな?

257名無しさん:2003/02/08(土) 02:03
いるとも

258名無しさん:2003/02/08(土) 02:04
ただ太郎が面白すぎて。

259名無しさん:2003/02/08(土) 02:05
おお、掛け持ちが他にもw

260名無しさん:2003/02/08(土) 02:43
http://jbbs.shitaraba.com/comic/104/


こんな板がしたらばに出来ました。
個人板なので、太郎が来てもすぐにアク禁出来ます。
(太郎の真似をすると削除・アク禁の原因になるからしないでおくれ)

261名無しさん:2003/02/08(土) 02:59
ナリなんぞに板借りるよりも、>>260に行った方がよっぽど良さそう。

262名無しさん:2003/02/08(土) 03:51
>>260
そこは太郎防御完璧みたいだな。
みんなでそこでワイワイやって、入り込めない太郎を嘲笑する?

あと、現在太郎は語るスレを攻撃中。
>>260のとこに書き込めなくてイラついているらしい。

263名無しさん:2003/02/08(土) 07:36
mangetu miruka

264名無しさん:2003/02/08(土) 07:54
今、俺しかいないな・・・



FFタクティクス絶対買うよ。スクウェアをもう一度だけ信じてみる。

265名無しさん:2003/02/08(土) 07:57
来週はタクトあぼーん?

266名無しさん:2003/02/08(土) 09:03
>>264
GBA持ってないからスルーしようかと思ってたが意外と面白そうなんだよな……
とりあえず今月はSO3だけで我慢しそうだが。

267名無しさん:2003/02/08(土) 09:04
DBZ

268名無しさん:2003/02/08(土) 09:37
ANUBIS

269名無しさん:2003/02/08(土) 13:57
http://jbbs.shitaraba.com/comic/104/


藻前ら移転汁
ていうか避難場所が分散すると色々面倒なので。

270名無しさん:2003/02/08(土) 14:23
http://namihei.zone.ne.jp/upup/up/452.jpg
http://namihei.zone.ne.jp/upup/up/453.jpg
http://namihei.zone.ne.jp/upup/up/454.jpg
http://namihei.zone.ne.jp/upup/up/455.jpg

271名無しさん:2003/02/08(土) 14:44
PSとSFCしか持ってねエよ!ヽ(`Д´)ノウワァァン

272名無しさん:2003/02/08(土) 14:55
俺はSFCとGB(初期)とSSとDCしか持ってねェだよ。
しかもSSは半永久ストライキになってるだよ。
GBは液晶画面がバカになってるだよ。

273名無しさん:2003/02/08(土) 15:09
SFCといえばスーパーマリオカート。
馬鹿だと言われるかもしれませんが
マリオカートで遊んでいる時間は日本で5本の指に入る自信があります。

274名無しさん:2003/02/08(土) 15:59
昔はよく持ってないゲームの攻略本だけ見て気を紛らわせてたものだった。

275名無しさん:2003/02/08(土) 16:05
FC版のアテナが出てくるゲーム持ってないのに攻略本買った・・・
あれが俺の萌えスタート

276名無しさん:2003/02/08(土) 16:14
SO3とFFT買ったらレビューおねがいします

277名無しさん:2003/02/08(土) 16:25
それと真・三国無双3と真・女神転生3もお願いします!

て俺はSO3とFFTと4本とも買うけどな

寝れない予感

278名無しさん:2003/02/08(土) 17:15
誰か、ANUBIS買う香具師は居ないのか?
と言いつつも、マブラブだのSO3だのワるQだの買うんで、金が微妙だから、
買えるかどうかわからないわけなんだが。

279名無しさん:2003/02/08(土) 17:20
てめぇら移転しろってのがわかんねーのか!!!!
移転してくれないと困るのであります(ノД`)

280名無しさん:2003/02/08(土) 17:26
ぶっちゃけ移転するのが面倒だったりする

さて種だ

281名無しさん:2003/02/08(土) 17:33
    _,.,.
   |  ノノ
   |!´゙リ)) 私、何時まで放置されるんでしょう?
   |ヮ゚ノリ
   |⊂
   |

   |
   |  サッ
   | ミ
   |
   |

282名無しさん:2003/02/08(土) 17:35
とりあえず主要ゲームの発売日を教えてくれ

283名無しさん:2003/02/08(土) 17:51
本当に、移転してくださいおながいします。
面倒とかじゃなくて、ここの住人が移転してくれないと色んな意味で困る・・・

284名無しさん:2003/02/08(土) 18:08
まあちょっとこっちにも書き込んでくださいよ

ttp://jbbs.shitaraba.com/comic/104/

285名無しさん:2003/02/08(土) 18:14
黒猫板みたいのを正式に作るならせめてIDがあった方が良かったんだが

286名無しさん:2003/02/08(土) 18:19
>>283
どっちも行ってるから

287名無しさん:2003/02/08(土) 18:20
>>285
表示されるようになりますたよ。

288名無しさん:2003/02/08(土) 18:33
ナリ、おまえある意味燃料になるから
こっちの避難所きなさい。

289名無しさん:2003/02/08(土) 18:36
それはやめてくれ。

290名無しさん:2003/02/08(土) 18:38
真面目にあっちに移転した方が良さそうだ。

291名無しさん:2003/02/08(土) 19:47
太郎じゃないけど、コンソメスープができたから飯食ってくる。

292名無しさん:2003/02/08(土) 19:49
>>291
いってら

293名無しさん:2003/02/08(土) 19:51
こっそり俺も矢吹板作ったんだが
そうか先を越されたのか・・・削除するかな

294名無しさん:2003/02/08(土) 20:15
>>293
俺が行ってやるさ

295名無しさん:2003/02/08(土) 20:54
移転ヨロシク頼(ヨロ)んだぜ

296ノハ*:2003/02/08(土) 20:59
ここだけ レスが以上についてるな

297名無しさん:2003/02/08(土) 23:46
一応本スレだからねぇ。

298名無しさん:2003/02/09(日) 00:22
少年漫画板にて太郎引退宣言

299名無しさん:2003/02/09(日) 00:39
862 ”削除”人 ◆342FPVg4Ag 03/02/09 00:06 ID:96lJcIA3
ID:qSHuB/wDさんのおっしゃっている事、及び発言内容は
甚だ自己中心的で他の方との会話とまったく噛み合っておらず、しかも内容以前に「連続投稿」が多く
サーバーに多大な負担をかけており(ログからも検出されています)、「荒らし」と呼ばれても何ら依存の無いものと思われます。

正直なところ、現状ではID:qSHuB/wDさんは「監視」の状態に入っています。
最悪、このままだと近々アク禁という処置も取らざるを得ないでしょう。
ID:qSHuB/wDさんは、他人の言うことにはきちんと耳を傾け、住人の忠告には素直に従うようにして下さい。
あなたの言動は、第三者から見ても住人にとってかなり迷惑な状態のようです。まずは自覚をお願いします。

2chはあなたのものではなく、他人と語り合う「公共の場所」なのですから、
身勝手な行動は慎みもっと協調性を考えて2chを利用して下さい

300名無しさん:2003/02/09(日) 00:40
|∧∧
|・ω・`) そ〜〜・・・
|o旦o
|―u'

| ∧∧
|(´・ω・`)
|o   ヾ
|―u' 旦 <コトッ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| ミ  ピャッ!
|    旦
|

301今、俺しか居ないな…:2003/02/09(日) 02:06
   ∧_∧ 旦
    (・ω・)丿 カンパ〜イ
.  ノ/  /
  ノ ̄ゝ

302名無しさん:2003/02/09(日) 02:57
ナリよ、太郎『引退』お祝いに氏ね。

303名無しさん:2003/02/09(日) 04:04
やった!!

304名無しさん:2003/02/09(日) 11:15
ナリよさらば。もう二度と会うこともないといいな。

305名無しさん:2003/02/09(日) 14:04
おれはここで生きてくよ、これからもよろしくナリ。

306ノハ*:2003/02/09(日) 17:45
ん ここって 本スレなのか・・・・・・・
少漫板のはどうなったの?

307</b><font color=#FF0000>(Nari/uzA)</font><b>:2003/02/09(日) 21:10
みんな行っちゃうナリか・・(´・ω・`)
またいつでも遊びに来てね(;´д⊂

308名無しさん:2003/02/09(日) 21:23
>307
comic2鯖の負荷を減らすために氏ね

309名無しさん:2003/02/09(日) 21:29
>>307
アナルにうまい棒突っ込んで市ね

310名無しさん:2003/02/09(日) 21:44
ナリの板からエクソダス

311名無しさん:2003/02/09(日) 22:12
>>307
おまえもこいや、氏ねっていいたいから。

312名無しさん:2003/02/09(日) 23:02
>307
太郎が大暴れするか、鯖落ちしたらまた来るよ。
というか、お前も来い。黒猫スレに拉致監禁されて市ね。

313名無しさん:2003/02/09(日) 23:18
>>307
前立腺ガンで死ね

314山崎渉:2003/02/09(日) 23:25
(^^)

315名無しさん:2003/02/09(日) 23:32
なんで山崎がいるんだよ

316名無しさん:2003/02/09(日) 23:37
ナリの板だしな

317名無しさん:2003/02/09(日) 23:53
太郎を知ってしまったからな。ナリなんて可愛いもんだ。

でも氏ね

318例の899:2003/02/10(月) 01:55
 ベノンズのヤツらがヤサにしている店は夕方からの営業で、今から向かっても誰もいな
いと思われるから、俺達はそれまでの時間でニコラス・ステファノの死体が発見されたホ
テル・サンダルマンに行ってみる事にした。
トレインは、三人目が殺された事を知った時はさすがに驚いていたが、ホテルへの聞き込
みという地味な作業をせずに済んだのが嬉しいのか、この後一緒に殴り込みに行って暴れ
られるのが嬉しいのか、朝からの不機嫌な態度はどこへやら、いつもの軽い調子に戻って
いた。
俺の方は、軽い運動と食事で体が目を覚ましたのか、右の脇腹辺りに痛みを伴って筋肉の
張りが出てきていた。左肩も少し痛む。やはり、一晩で回復とはいかないようだ。ホテル
へ向かうまでの道程でさえ、次第にキツク感じられるようになってきた。
 ホテル・サンダルマンに着いた時、建物を見上げたトレインが、
「隠れるチンピラがこんなホテルに泊まれて、真面目に働いてる俺達があんなホテルにし
か泊まれないなんて、世の中間違ってるよな」
と呟いた。
トレインが真面目に働いているかどうかは別として、俺も同感に思った。
ブルーサンズに比べたらどんなホテルだろうとマシに思えるだろうが、確かにこのホテル
は『かなり上』のランクに分類されるだろう。
敷地の入り口からホテルまでかなりの距離があり、そこには両側に等間隔で針葉樹が植え
られている。地面も全面が無骨なアスファルトではなく、車両道路以外は白いタイル張り
の道が続いていた。ドアの前には車回しのスペースがちゃんとあり、そこに赤い制服と帽
子を着込んだドアボーイがうつむき加減で立っていた。
建物も十階以上はあり、全てが南向きの窓を有している。だが、多くの部屋でカーテンが
引かれていた。
車回しの辺りにも警察車両は見当たらない。恐らく、ホテルのイメージが悪くなるという
事で、全台が裏側の見えないスペースに停められているのだろう。

319名無しさん:2003/02/10(月) 03:54
俺も巡回コースに入れとくyo

320名無しさん:2003/02/10(月) 14:12
>>318
乙!

321例の899:2003/02/11(火) 02:36
ロビーの中も、事件のせいでか全く活気が無かった。宿泊客の姿は一人として見当たらず、
いるのは立ちん坊をしている制服警官数名と、機材を持ち込んでいるカメラクルーと同行
の記者連中だけだった。
俺達は、その両方と離れた場所にある柱に背を預け、ゆっくりとロビー全体を見渡した。
記者の一人がこちらを指差しカメラマンに向かってなにか話しかけていたが、多分、俺達
にインタビューをするかどうかを相談しているのだろう。相手のカメラマンは、ゆっくり
と首を横に振って答えていた。
連中と離れて立っているので、俺達が記者ではないと判断したのだろう制服警官がこちら
に寄って来た。俺は、トレインに目配せで「お前が相手しろ」と伝えた。トレインは軽く
舌打ちしながら、警官と向かい合った。
「なんだ、お前らは?」
トレインは内ポケットに手を入れる事を了解してもらってから、掃除屋許可証を提示した。
警官は険しい顔をして許可証を手に取り、許可証の写真とトレインの顔をチラチラと見比
べていたが、やがて、
「ふん」
と不服そうに鼻を鳴らして許可証を投げ返し、元いた場所に戻っていった。
それを見届けた後、許可証を仕舞いながら、
「記者発表もまだみたいだな。どうする?ここにいても、なにも分かんねェゼ?」
とトレインが言った。俺は、
「ああ、そうだな」
と答えはしたが、他にすべき事など思いつかなかった。
現場には“KeepOut”のテープが貼り巡らされているだろうし、そこらに立ってい
る警官も、見知らぬ掃除屋に情報を教えてくれるとは思えない。
「待つしかないさ」
俺はそう言って、トレインをロビーの西側にある喫茶スペースへと誘った。
向かう途中、記者連中が固まっている前を通り過ぎる時、中の一人が
「お。アンタ、昨日の掃除屋じゃねェか」
と声をかけてきた。振り向くと、そこにはカイト=フームの姿があった。

322名無しさん:2003/02/11(火) 17:20
(*´Д`)

323名無しさん:2003/02/11(火) 20:41
少年漫画板人多すぎ

324例の899:2003/02/12(水) 01:00
「よォ、アンタも来てたのか」
俺は立ち止まって返事をした。
「昨日って、知り合いか?」
「ああ。この街で記者をやってるカイトだ。昨日、知り合った」
ちゃんとした職業に就いている者が、副業で情報屋をしているのはそう珍しい事ではない。
しかし、それを回り、それも同業の記者達にバラすわけにはいかない。裏の世界では、表
に顔の割れた人間は、余程の大物を除き、信用を得る事ができないからだ。
俺は、情報屋であることを伏せて、トレインにカイトを紹介した。
二人は軽い挨拶を交換し、カイトが俺に向き直った。
「昨日の今日で厄介な事になったな。でも、アンタ達は諦めずに追うんだろ?」
「ああ、そのつもりだ」
俺は煙草を取り出しながら答えた。
「ここは禁煙だよ。こっちだ。おい、俺は喫茶室に行ってるからよ、動きがあったら呼ん
でくれ」
カイトは同行のカメラマンにそう告げて、俺達を案内し出した。トレインがこちらを振り
返ったので、俺は軽く肩をすくめて答え、カイトに付いて行った。
 ロビーの西側の、ガラスと観葉植物で仕切られたスペースが喫茶室だった。
ガラス際のロビーとエレベーターホールが見える位置に座り、俺とカイトは煙草に火を点
けた。灰皿を置きに来たウェイトレスにコーヒー二つとミルク一つを注文し、それが運ば
れてくるまで全員黙ったままだった。
俺がカップを持ち上げた時、カイトが話し始めた。
「どこまで掴んでいるんだ?」
「なにも。ただ、このホテルで運び屋が殺されたってアネットに聞かされただけだ」
俺は、名前と顔が割れている事を隠した。今、カイトは記者ではなく情報屋として仕事を
しようとしていると感じているからだ。
「そっちは?」
「記者発表もまだだしな。知り合いの刑事にちょこっと話しを聞けただけさ」
多分、その刑事がカイトを情報屋として飼っているのだろうと、俺は思った。
「ま、アネットには昔、世話になったからな。ここのコーヒー代でいいゼ」
有り難い申し出だったが、俺はすぐには答えなかった。涎を垂らした犬のように飛び付け
ば、足許を見られるだけだ。
「名前や顔なら知ってるゼ」
俺がゆっくりとコーヒーをすすっている横で、トレインは片肘を付いてつまらなさそうに
ミルクをチビチビ飲んでいる。困った事に、コイツはこういう駆け引きには全く興味を示
さないのだ。
「それじゃあ、簡単な現場の状況はどうだ?」
俺は煙草を大きく吸い込み、紫煙を吐き出し終わってから、
「買った」と答えた。

325例の899:2003/02/12(水) 01:19
83 名前:作者の都合により名無しです[sage] 投稿日:03/02/12 01:17 ID:Nias7bZk
そんなことより俺は、プロフィールの
>ハードボイルド小説が得意。
という一文を見ると何故か切なくなってしまうんですが。


俺はもっと切なくなっているよ…

326名無しさん:2003/02/12(水) 01:22
http://comic2.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1044873757/
スレ立ってるけど2chブラウザじゃないと見ることもできないみたい。

327例の899:2003/02/12(水) 01:34
86 名前:作者の都合により名無しです[sage] 投稿日:03/02/12 01:32 ID:rV/qjmXO
>>85
「ハードボイルドな小説が得意なんですけど」
「あ、じゃあコレやってよ」

と黒猫渡されたら俺なら荒れるね。


実際に書いている俺に喧嘩売ってんのか、とw

328名無しさん:2003/02/13(木) 21:05
10日ぶり位にパソコン弄ったけど、まだここは太郎に見つかってなかったんだ。
良かった。いや、良かった。

329名無しさん:2003/02/13(木) 22:53
ねたか?

330例の899:2003/02/14(金) 02:49
「ようし、決まった」
カイトがそう言って伝票をこちらに押しやったので、俺は少々面食らってしまった。
カイトは、本当にコーヒー一杯で済ますつもりで、俺一人が駆け引き交渉をしているつも
りだったようだ。視界の隅で、トレインが肩を震わせて笑いを堪えているのが見える。
カイトは、背もたれに体を預け、煙草を美味そうに吹かしながら例の手帳を取り出した。
「えーと……今日の七時過ぎ、706号室の宿泊客にモーニング・コールを頼まれていた
のに、応答が無かった事から客室係のボーイが確認に行ったところ、客のニコラス=ステ
ファノの死体を発見した、と。初見によると、ステファノはバスローブを着たままで、う
つ伏せの状態で倒れていたそうだ。背中から二発。見つかった薬莢は9mmだ。
ジョーの殺され方と一緒だ」
カイトは手帳から目線を上げ、俺の顔を見た。
「ただの偶然だろ?バスローブを着て背中からって、そりゃ顔見知りって事だ。部屋に招
き入れてるんだから、組織に関係のある人間なんだろう。ジョーはそんなヤツに背中なん
か見せねェよ」
そう言いつつも、
(本当にそれで済ませていいのだろうか)
という声が、俺の心の中にある。もし、ステファノを殺したのが市長の手の内の者なら、
ジョーにはそれがマフィア関係の者だとは分からないハズだ。可能性が無いとは言えない。
「フム、なるほど。同一犯の線は無い、と」
カイトは手帳に二本、線を引き、驚いた表情で顔を上げた。
「『ジョーは』ってアンタ、彼の事を知ってるのか?」
そういえば、俺とジョーの過去についてカイトには伝えていなかった事を思い出した。
「ん、まァ昔…な」
「じゃあ、ジョーがこの街に来る前か」
「ああ。だから、こっちへ来てからのジョーの事を知りたかったんだ」
俺はこの話題を打ち切るために、カップを持ち上げコーヒーを口に含んだ。
「話しを戻すゼ。他にはないか?物音を聞いたとか、変なヤツを見かけたとか」
「他の宿泊客への聞き取り調査なら、まだやってるよ。こんだけ時間かかってるんだから、
きっとロクな情報が得られてないんだろうな」
「宿泊の状況は?飛び込みなのか、予約を入れたのか」
「あー……それは訊いてないな」
俺は溜息混じりの紫煙を吐き出した。
「進入路はあるかい?誰にも見られないような」
今まで片肘をついて窓の外を眺めていたトレインが口を挟んだ。
「あ、ああ。それなら…そ、そうだ。非常階段がある」
突然の事で驚いたカイトが、しどろもどろになって答えた。
「じゃあ、部屋の位置も分かっているし、もし非常口が閉まっていてもステファノに予め
連絡を入れて開けさせておけば、簡単に入り込めるってわけだ。サイレンサーでも使って
りゃ、聞き込みじゃなにも出てこないだろうな」
俺はそう言うと、溜息をもう一度吐いた。
「どうする?ここらで引き上げるかい?」
トレインがそう言い終わったと同時に、ロビーの方からカイトを呼ぶ声がした。

331名無しさん:2003/02/14(金) 21:01
>>330
本スレの方にも来てくだされ、人少なすぎでさびしいです。

332例の899:2003/02/15(土) 00:02
>>331
本スレでは名無しで雑談してるよん。
ってか、黒猫ノベライズ化があるために、
本スレ復帰は地雷原に突入するようなものに思えて。

333名無しさん:2003/02/15(土) 20:37
本スレは何処すか?

334名無しさん:2003/02/16(日) 00:55
>333
少年漫画板にできてる

335例の899:2003/02/16(日) 02:36
 エレベーターの前に人だかりが出来ていた。降り立った数人を、記者やカメラマンが取
り囲んで、次から次へと質問を浴びせかけている。
「ああ、殺人課のバラックだ。俺も本業に復帰する事にするよ。じゃあな」
カイトはそう言い残して、集団の中に紛れていった。
集団の目線の中心にいる男がバラックなのだろう。ごま塩のボサボサ頭に、よく日に焼け
た厳しい顔つきをし、白のワイシャツはノーネクタイだった。肉付きのいい体をしていて、
全体的に堅物そうな印象を受ける。
回りから飛ぶ様々な質問に対し、顔に似合った濁声で、質問には答えられない、ここでは
迷惑になるから記者発表まで待て、というような事を繰り返し、外に出ようと人波を掻き
分けていた。バラックの後ろには、外見的には俺と同じ位の年齢のヤツが二人―――こち
らは両方ともキチンとネクタイを着用している―――いて、記者達と目を合わせないよう
うつむき加減で先を急いでいた。俺達は、その様子を遠巻きらかぼんやりと眺めていた。
「どう思う?」俺はトレインに尋ねた。
「なにが?」
「ステファノの殺され方だよ。部屋に招き入れてるって事は、知ってる人間だったって事
だろう?だが、自分を始末するような人間だとは思っていなかった」
「ああ。アンタが言う『市長の牙』ってのと合致するな。知ってはいるが、知り過ぎては
いないヤツ。この潜伏に分不相応なホテルも、ソイツが用意したんだと思うゼ。ステファ
ノの名前でな。だが、顔と名前が割れてしまったから消した」
「偽名で予約しなかったのは、身分証を用意できなかったから、か。元々、この潜伏が予
定にはない突発な出来事だったから」
「筋は通っているよな、一応」
そう言ってトレインは、一度大きく伸びをした。
「もしその通りだとしたら、ベノンズのヤツらが言ってた『運搬の引継ぎ』役がそれか」
「ヤツらから、“詰め”られる情報が得られればイイんだがな」
「ああ、そうだな」
俺達はホテルを後にした。

336名無しさん:2003/02/16(日) 03:10
前にSS集めてUPした者だが899は自分の文章保存してるよな?
いろんなスレに散ったからいくつか見逃してしまった

337例の899:2003/02/17(月) 01:07
あ〜多分、鯖飛びEX→難民板→ここだったと思う。
保存はしてるし、もし奇跡的にも完結したら、前の方に少し手を加えてから
ここのナリ掲示板に新規スレ建てて全部うpするよ。
で、ナリがその漫画版を描く、とw


嫌なやつだな、俺。

338例の899:2003/02/17(月) 02:42
悪い、鯖飛びには入れてなかったよ。
とりあえずdet落ちしてない分で、
難民http://that.2ch.net/test/read.cgi/nanmin/1043906366/
>>222>>264ときて、ここの>>156〜〜〜って感じ。

339例の899:2003/02/20(木) 02:31
 俺は、日中をブルーサンズの自室で過ごした。まるで、サウナに長時間浸かっているよ
うなものだったが、少しでも体を回復させておきたかったからだ。汗だくになって歩き回
るより、汗だくになって寝転んでいる方がマシだろう。
夜までする事が無いと分かったトレインは、この後、疲れる仕事が待っているというのに、
「海を前にして泳がないのは、人間として間違っている」
と言って別行動をとっていた。
睡眠が不充分だったのか俺はいつの間にか眠ってしまい、18時を過ぎてから帰ってきたト
レインに起こされた。この辺りの18時といえばまだ陽は沈んでいないハズなのだが、外の
光が射し込み難いこの部屋は既に暗くなっており、起きた瞬間は、かなり遅くまで眠って
しまったと勘違いをして、少し焦ってしまった。
時計を確認してホッと一息吐き、トレインに言われて食事の前に汗を洗い流す事にした。
シャワーを浴びてサッパリとしてからスーツを着込んだが、思うところがあって帽子は被
らなかった。
ファーストフードで軽い夕食を摂り、20時に近くなった頃、アネットから聞いた店へと向
かう事にした。
 メイスペリー市の南東側に、ナイトスポットが密集した区画がある。どこの国でもどん
な時でも、色を売る街というのは同じような顔を見せるモンだ。浮かれる男と気取った女、
店を物色する男や色目を使うのに必死な女。そういったものが、独特のネオンライトに照
らし出され、どこか現実離れした世界を作り上げている。
その中でも比較的落ち着いた雰囲気の通りに、トッシュ=グレイグが女にやらせていると
いう店はあった。
俺は少し離れた路肩に車を停め、中から店の回りを観察した。表には、黒のベストを着た
ヤツが一人立っているだけで、昨晩会った連中は見かけなかった。他にも、怪しい素振り
を見せる人間もいない。
「いけそうだな」
俺は眼帯を外して言った。
「アンタは面が割れてるんだ。俺が先に行くゼ」
トレインは車を降り、人波をかわしながら店に向かって行った。すこし遅れて、俺も続く。
店先に出ていたボーイがトレインに一礼し、中に案内していった。俺がゆっくりとその背
後に近付いたいた時、
「トッシュ=グレイグって人に会いたいんだけど」
とトレインが言った。ボーイは腰を折り、
「生憎、オーナーはまだお見えになっていません」
と答えた。
「いつぐらいなら会えるかな?」
「普段通りでしたら、もうそろそろ顔を見せられると思います。失礼ですが…?」
「約束をしててね、少し急ぐんだ。オーナーがいないんなら、それに近い人は?」
「それでは、伺って参ります。お名前の方を…」
「トレイン=ハートネット」
「こちらの方でお待ち下さい」
ボーイは隅の待合席に案内しようとしたが、トレインはそれを断った。ボーイは再び一礼
をし、座席を縫うようにして奥へと入っていった。そして、一番奥の扉の中に消えた。
「あそこが事務所らしいゼ。行くか?」
トレインは振り返って訊いてきた。
「あのボーイはベノンズとは関係ないだろう。巻き込みたくない」
俺は、扉からは死角になっている位置に体をずらして答えた。
「フム。ま、下手に暴れて警察呼ばれてもアレだしな」
今頃あのボーイは、事務所に詰めているヤツに俺達の人相を告げている事だろう。俺が帽
子を被らなかったのも、店の前で眼帯を外したのもそのためだった。もし、昨晩の連中が
あの中にいても、パッと見の特徴を聞いても俺だとは分からないだろう。

340例の899:2003/02/21(金) 01:47
「誰か一人出た。こっちを覗いている」
トレインが前を向いたまま告げた。恐らく、トレインの名に心当たりが無かったため、ベ
ノンズの誰かが客の顔を確認しようとしているのだろう。
「どんなヤツだ?こっちに来るのか?」
「いや、もう中に戻った。まだ二十歳にもなってなさそうなガキだ」
俺に銃を突き付けていたあの若造だ。ボスと一緒に俺を襲うくらいだ。たとえ10人ほどの
チームだとしても、ベノンズの中ではそこそこ上の立場にある人間なんだろう。そいつが
覗きに来るという事は、中にはヤツより上の人間がいる可能性が高い。
「行こう」
俺はトレインの先に立って、不自然でない速さで店の中を進んだ。途中、カウンターの中
のバーテンダーがこちらを見ていたが、俺は軽く手を挙げただけで前を通り過ぎた。
ボーイが入っていった扉を、二人で挟むようにして立った。
「銃は抜くなよ」小声でトレインに釘を刺す。
「わーってるよ。雑魚相手に抜くほど間抜けじゃねェって」
その時、扉のノブがゆっくりと回った。少し開いたところで、俺は扉を掴んで引いた。
扉に引っ張られるようにして出てきたボーイは、驚いた顔で俺を見上げた。
「ちょ、ちょっと―――」
言いかけたその口を俺は左手で塞ぎ、ボーイの体を中に押し込めた。カッと目を見開いて
モゴモゴとなにかを言おうとしているボーイに顔を近付け、自分の唇の前に人差し指を当
てる。そのままの状態でジッと睨み続け、怯えるボーイが足掻きを止めたところでクルリ
と反転し、店内の方に突き飛ばした。ボーイは床に尻餅をつき、トレインが扉を閉じて鍵
を掛けた。扉を閉めた事で、店内の喧騒が少し低くなった。
「フン縛って転がしときゃイイのに」
トレインがポツリと漏らした。
「心配いらねェよ」
俺は辺りを見回して、自分達のいる場所を確認した。扉を入ってすぐ事務所、というわけ
ではなく、そこは薄暗い照明が灯っている細い廊下だった。奥に向かって扉が二つある。
手前の扉からは明かりが漏れていなかった。多分、物置かなにかに使われているのだろう。
奥の方が事務所に続く扉と思われる。俺達は素早くその前まで移動した。そろそろ、店内
が騒がしくなってきた。あのボーイがそうさせているんだろう。それでも、トレインが心
配するような事態にはならないハズだ。警察に来られてマズいのは、店の方だからだ。ベ
ノンズが扱っているマリファナは、恐らくこの店の中で捌かれている。それに、店の二階
では、娼婦が仕事に精を出している最中だろう。
俺は奥の扉のノブに手をかけ、トレインを見た。トレインはうなずき、俺は扉を開いた。

341例の899:2003/02/24(月) 03:10
部屋に入った俺は、早足で奥に突き進んだ。扉の真横で煙草を吸っていたあの若造は驚き
の声をあげたが、俺の後ろから飛び出してきたトレインに壁へ押し付けられ、顔面に頭突
きを食らわされた。
俺は真っ直ぐ前を目指した。前には、大きいが古びている木製のデスクがあり、その上に
足を載せて椅子にふんぞり返っているチビアロハがいた。昨日とは違う柄だったが、また
アロハを着ている。
「な、なんだオメェら!」
チビアロハは足をデスクから降ろし、引出しの一つを開けようとまさぐった。俺がデスク
を反対側から蹴ると、チビアロハは吹き飛んだデスクの淵と椅子の背もたれに腹を挟まれ、
「ギャ!」
と短い悲鳴をあげた。俺はそのままデスクの上に飛び乗り、サッカーボールの要領で、涎
を垂らすチビアロハの顔面を蹴り上げた。チビアロハは後ろに倒れそうになったが、膝が
デスクに引っ掛かり、再び俺の方に戻ってきた。反動で、頭がガクンガクンと揺れている。
もう一度、側頭部目掛けて蹴りを叩き込んだ。チビアロハの体はようやくデスクから離れ、
椅子と一緒に横倒れになった。
俺は、乱れたスーツの位置を直してから、後ろを振り返った。トレインが若造をうつ伏せ
にし、その背中の上で胡座をかきながら腕を捻り上げている。
俺はテーブルから飛び降り、チビアロハの横に屈み込んだ。髪の毛を掴み顔を引き起こし、
歯が欠けて血塗れになった口を大きく開いて喘ぐチビアロハの顔を覗き込んだ。
「て…テメェら……なにも…だ」
と血の混じった涎を飛ばしながら、チビアロハは弱々しく言った。
「昨日の夜、俺から奪った物はどこだ?」
俺の顔を見つめるチビアロハの目がだんだんと大きく見開かれていった。
「思い出したか?ついでに、俺の拳銃と身分証、それに携帯の場所も思い出してもらいた
いんだが」
「テメェ…こんな事して―――」
「ンな事を聞いてるんじゃねェよ。俺の持ち物はどこだ、って聞いてるんだ!」
俺はそう言うと、掴んだチビアロハの頭を床に叩きつけた。一回、二回。そしてもう一度、
顔を上げさせた。
その時、俺の左後の方からドアが開く音が聞こえた。
俺は反射的に右手を腰の辺りに持っていき、意識してそれを押し留めた。警官は来ないと
思ってはいるが、もしも店員が呼んだ場合、銃を抜くのは俺を射殺する理由を作る事にな
るからだ。
「マーチン!」
トレインに圧し掛かられている若造が叫んだ。
現れたのは、あの黒人デブだった。

342例の899:2003/02/28(金) 02:53
マーチンと呼ばれた黒人デブは、体を横向けにして狭そうに扉をくぐり抜け、威嚇する獣
のような唸り声をあげながら、俺とトレインを交互に見比べた。
マーチンは、ピチピチに伸びきった黒のTシャツに、信じられないくらい腰回りの幅があ
るジーンズという、俺に比べたら随分涼しそうで動き易そうな格好をしている。だが、そ
れでも額に汗をビッショリとかいていた。
「やっちまってくれ!マーチン」
腕を捻られている痛みからか、悲鳴のような声で若造が叫んだ。その後頭部にトレインが
拳骨を落とすと、若造は静かになった。それでもトレインは、胡座の姿勢を変えようとは
せず、澄ました顔で俺を見ていた。『ここはアンタに任せる』という事なのだろう。
俺は小さく舌打ちをし、ゆっくりとデスクを回ってマーチンとの距離を取った。
昨晩の、俺の体を軽々と持ち上げた怪力を考えるに、捕まったら終わりだと思っていいだ
ろう。それどころか、素手の一対一では勝てる気がしない。俺は怪我人なのだ。
マーチンは、まだ低い唸り声をあげながら俺達を見ている。ヤツにしてみれば、トレイン
が座ったままであっても、その意図が掴めない以上、一対二の状況と考えているのだろう。
その隙に、武器に使える手ごろな物がないか、辺りを素早くうかがった。花瓶も箒もない。
チビアロハが座っていた椅子も、マーチンの方が近い。
(トレインみたいに銃を投げつけてやろうか)
ヤバイ状況で、こんな下らない冗談を思い付く自分自身に苦笑した。余裕など見せられる
相手ではないのに。
昨晩は暗がりで襲われたので気付かなかったが、マーチンには、首の左側、付け根から胸
元にかけて、ナイフで斬られたのであろう大きな傷跡があった。チンピラは勿論、マフィ
アでもそう簡単に受ける傷ではない。アレは、戦場でしか作れない類のモノだ。恐らく、
ボスのグレイグが傭兵仲間だったマーチンをベノンズに引っ張ってきたのだろう。
首くらいなら素手でも簡単に圧し折れそうな巨躯の元傭兵を前にして、今更トレインに助
けを求める事もできず、俺は覚悟を決めてゆっくりと前に出た。

343例の899:2003/02/28(金) 03:05
マーチンという名前もそうですが、「首の辺りの傷=傭兵」というくだりは
パイナップル・アーミーからパクリました。ええ、パクリましたとも。

344例の899:2003/03/01(土) 03:32
「グウゥ…ヴウゥ…」
当座の敵は俺だけだと判断したのだろうか、マーチンはこちらを向いて上体を前に倒し、
頭を低く構えた。それでようやく、目線の位置が俺と同じくらいの高さになった程度だが、
そう構えられた事で、お決まりの股間への一撃が不可能になってしまった。リーチの差は
明らかであり、それを埋めるためには懐に飛び込まなくてはならない。だが、マーチンの
構えはタックルを狙ったものであり、俺にはその突進を止める術が無いのだ。無理に狙っ
ても、その前に吹き飛ばされるのがオチだろう。
俺は、左回りで円を描くように位置をずらしていった。その方向には、若造とその背に座
ったトレインがいる。
「おいおい…」
近付く俺に、トレインが呟いた。
俺はそれを無視してさらに近付き、やがて、三者が一線上に並んだ。
「ウゴァ!」
腕を顔の前でクロスさせて、マーチンが動いた。体からは想像できない速さだった。だが、
そのタイミングで来るだろうと予想していたので、かわすのは容易だった。
かわしざまに一撃入れようとすれば捕まる恐れがあるので、ギリギリではなく大きく離れ
るように右に避ける。
俺という目標を失っても、マーチンは方向を変えずに突進を続けた。
「ウソだろ!?」
そう叫んで、トレインはその場を飛び退いた。
それでもマーチンは止まらず、そのまま壁際の棚に突っ込んだ。轟音と共に、多くの板が
圧し折れ、砕ける。まるで、重戦車の突進だった。若造は右腕を踏み潰されていた。

345例の899:2003/03/03(月) 02:40
「なんでこっちに来るんだよ!」
伏せていたトレインは、顔を上げるなり俺に向かって叫んだ。
「テメェ暴れたかったんだろうが!なら、丁度いい相手じゃねェか」
「アンタの問題なんだから、アンタに譲ったんじゃねェかよ!」
「こんな化物相手に一人でやれるか!」
言い合っている内に、全壊した棚から頭を引き抜いたマーチンが、のそりとこちらに振り
返った。なに事も無かったかのように右腕に刺さった小さな木片を抜き、頭を払って木屑
を落とす。そして、
「フウゥゥゥ…」
と唸った。
「帰りたくなってきたゼ」
トレインが呆れたように言って、左手を腰の方にやった。
「俺もだ」
そう答えた途端、マーチンが抜いた木片をトレインに投げつけた。次いで、再び突進する。
トレインは銃を抜いて、銃身で木片を弾き飛ばした。一気に間合いを詰めたマーチンは、
銃を持ったトレインの左手首を掴んで、右手一本だけで体を持ち上げた。
「う、うわぁ。クソ!」
体が宙に浮いたトレインは、地に付かない足をバタバタと振り回し、マーチンの腿や腹に
蹴りを入れた。それでもマーチンは、顔色一つ変えずにトレインを持ち上げ続けた。
やがて、トレインの顔が苦悶に歪みだした。マーチンが、手首を掴む力を強めたのだ。さ
らにマーチンは、空いていた左手でトレインの首を締めた。
「ゲ…ェ…ェ…」
トレインは右手で首を締めるマーチンの手を掴んだ。目を大きく見開き、舌を突き出し、
顔を真っ赤にさせている。
転がっている椅子を取ろうと近付いた俺は、
「動くな!」
というマーチンの一言で凍り付いた。マーチンなら首の骨など簡単に圧し折れる事を思い
出し、俺は生唾を飲み込んだ。

346例の899:2003/03/03(月) 02:41
アクションにスピード感が出せんなぁ、ちくそう
余計な描写を削ってテンポ良く読めるようにすればイイと分かってはいるんだけど…

347例の899:2003/03/10(月) 02:31
マーチンは、チラリと横目で俺が動けないでいるのを確認し、トレインの首を締め続けた。
さっきまで真っ赤だったトレインの顔は、今では蒼白になっている。左手の掌は力無く開
かれ、装飾銃はトリガーが人差し指に引っ掛かってようやく落ちないで済んでる状態だ。
銃を抜くなら今だ、と俺の中にある本能の部分が呼び掛けていたが、また別の冷静な部分
がそれを押し留めていた。銃を抜いただけで、元傭兵が大人しくこちらに従ってくれると
は思えない。抜いたとしても、俺が撃つのを躊躇えば、ヤツはトレインの体を盾にするだ
ろう。
動けないでいる俺の後ろで、ガタガタッと椅子が鳴った。
マーチンは再びこちらを横目で見、
「レイモン。ソイツを押さえろ」
と言った。
レイモンとは、あのチビアロハの名前だろう。ヤツが息を吹き返し、立ち上がったのだ。
「や、やってくれたな、野郎」
ヒューヒューと抜けた息遣いをしながらレイモンが言った。勝ち誇った声だ。場の主導
権は完全に自分達のモノだと確信しているのだろう。
俺は振り返らずにトレインを見ていた。首を締められ、意識を失いそうになっていなが
らも、その目は強い生命力で満ちていた。
レイモンがすぐ後ろまで近付くのを足音で測る。一瞬で良い。マーチンの気をこちらに
向けるのだ。
俺は体をレイモンの方に向け、肩からぶつかっていった。虚を突かれたレイモンは無様
に吹き飛ばされ、椅子に足を取られて仰向けに倒れた。
即座に振り返ると、マーチンと目が合った。怒りに燃えている。
マーチンの目が俺に向けられている隙に、トレインは左手の指一本で装飾銃を放り投げ、
そのまま右手で受け取った。掴んでいるのは銃身の部分で、トリガーに指はかかってい
ない。それでも、腕を伸ばしきって首を締めるマーチンとトレインのリーチの差を埋め
るには充分だった。
トレインは人差し指でセイフティーロックをかけ、顔を向けたマーチンの左目の辺りに、
銃のグリップを叩き付けた。
マーチンは短い悲鳴をあげ、右手で打たれた所を押さえた。
トレインは、必死の形相で顎の下にあるマーチンの手首を自由になった左手で掴み、今
度は左肩の付け根にグリップを振り下ろした。
それとほぼ同時に俺はマーチンに向かって突進し、右膝の上に蹴りを入れた。
マーチンは顔を苦痛に歪めてよろめき、トレインはようやく首吊りから脱出できた。
俺はその場で身を翻し、腰が落ちかけているマーチンの後頭部にバックハンドブローを
叩き込んだ。
マーチンは膝をつき、土下座をするように崩れ落ちた。

348例の899:2003/03/11(火) 00:36
もしかして誰も読んでないんじゃ?と不安になる日々。
乙とかマンセーとかしてくれってわけじゃない。
むしろ批評、ダメ出ししてくれる人キボン。

349名無しさん:2003/03/12(水) 02:22
来るには来てみたがよく考えたら今までの呼んでなかった。
感想にもなってない感想だが1,2巻の焼き直しだった小説版よりかはいいと思うぞ。
ただし黒猫である必然性は全くといっていいほどないが。

350例の899:2003/03/12(水) 02:32
む、

>ただし黒猫である必然性は全くといっていいほどないが。

その通りだ。
思わぬ欠点を指摘されてしまった。
今後もビジョン愛とかトリプル・クイックドローとかの「黒猫らしさ」が
登場する予定も無いので、ちょっと再考せねばならんな。

351名無しさん:2003/03/12(水) 02:35
>>350
ところでJBOOKS版の方は読む予定とかある?

352例の899:2003/03/12(水) 02:45
予定はない。ってか、読みたくもないw
既読者の感想を聞いてお腹一杯。

353名無しさん:2003/03/12(水) 05:01
今、相手しているヤシいるか?

354名無しさん:2003/03/12(水) 12:47
899さんはこっちで頑張ってたのか・・・
それはそうと、したらば黒猫板のURL忘れちゃったんだけど
誰かおせーてくんなまし?

355名無しさん:2003/03/12(水) 12:52
>>354
2chの本スレに張られてるよ。

356名無しさん:2003/03/12(水) 13:07
>>355
サンクス。

357名無しさん:2003/03/12(水) 14:10
>>350
黒猫らしさを追求したらハードボイルドどころか
思いっきり厨臭くなる気がするのだが

358例の899:2003/03/15(土) 02:40
鍛えていない拳で固い頭蓋骨をブン殴ったために、右手の甲が酷く痛んだ。
「…ッテ〜…おい、大丈夫か?」
俺は顔をしかめ、手首から先を振りながらトレインを振り返った。
トレインは首を押さえて激しく咳き込んでいた。それが少し治まると、
「なんとか、な……しかし、酷い目に会ったゼ」
と言ってから、大きく深呼吸をした。そして、力無く立ち上がって俺の隣りに並んだ。
「雑魚だっつって侮るからだ」
「ったく、デッカイ雑魚だな」
気を失って倒れるマーチンを見下ろして、トレインが自嘲気味に言った。
 その時、店の方から騒がしい声が聞こえてきた。
「こっちです。早く」
「何かが壊れる音とかしてました」
内容からして、数人の店員が誰かをこの部屋に案内しているのだろう。
俺とトレインは目を見合わせた。
「どうする?ポリは無いと思うが、新手かもよ」
トレインはそう言うと、デスクの上に腰を下ろした。
「いや、多分―――」
俺が言い終わる前に、声の集団は部屋の前に辿り着き、扉が開かれた。
「ハッ!なんとまァ…」
開かれた扉の奥に立つ昨晩会ったスーツ姿の男―――トッシュ=グレイグは、部屋の有様
に、両手を大きく広げて呆れたような口調で驚きの言葉を発した。
グレイグの回りには、ボーイが二人と、パールホワイトのイブニングドレスを纏った女性
がいる。
グレイグは、真っ赤なシャツに昨日とは違う黒一色のスーツを着ていた。前ボタンは留め
られている。髪の毛もキチンと撫で付けられており、一端の青年実業家といった感じだ。
「ここはいいから、お前達は店に戻れ」
散乱する家具類と血を流して倒れているベノンズのメンバーを見て、恐怖や不安、驚きな
どが混ぜ合わさった顔をしているボーイ達に、グレイグはそう言った。その言葉に、二人
のボーイは全ての厄介事から開放されたかのように顔を一瞬輝かせ、グレイグとドレスの
女性に一礼してから、そそくさと下がっていった。
グレイグはボーイ達が通路から店へと入るまで見送ると、女性の方に視線を向けた。あの
ドレスの女性が、この店を任されているグレイグの女なのだろう。
「お前はあの客の所へ行け。少し遅れるが、上手く取り繕っておいてくれ。少々、気難し
いヤツだからな」
グレイグは、心配そうな表情をしているドレスの女性の肩を掴んで、ぐっと突き放した。
女性はチラリとこちらに目をやり、ゆっくりと後ずさって俺の視界から消えていった。
 グレイグは部屋の中に踏み入り、後ろ手で扉を閉めた。
「来るとは思っていたが、こうも早くとはな」
グレイグは俺の目を見据え、口の端を歪めて、
「一日でこの店を割り出せるなんて、ウチも随分有名になったモンだ」
と言った。
「余裕だな」
俺は厳しい調子で言った。ヤツの態度が気に入らなかったからだ。
他のメンバーを引き連れているわけでもなく、店員や自分の女に店の営業に戻れと促す。
まるで、大した事のない、ちょっとした接客でもするかのような雰囲気だ。
「そうでもないさ。内心、ビクビクしてるよ」
グレイグはそう言って、スーツの懐に手を伸ばした。

359例の899:2003/03/15(土) 02:46
>>357
クロノスとかを話に上手く絡められたら、黒猫らしくありながら
ハードボイルドするってのも可能かと。まぁ、そんなのが出てくる予定なんて無いけど。
ハードボイルドを「男のセンチメンタリズム」と定義した場合、
CBとほぼ同じ設定だからしがらみだとか意地だとかを描けるだろう。
ただ、いかんせん俺にその力は無いのだけれど。

360例の899:2003/03/19(水) 02:35
俺は咄嗟に上着を跳ね上げ、腰のホルスターからコンバットマグナムを引き抜いた。腕を
前に突き出さず、肘から先だけを曲げて銃を構える。
「妙な真似は止してもらいたいモンだな」
銃を突き付けられ、グレイグは動きを止めた。だが、その表情にはなにも変化が無い。
追い詰められた焦りも、手下を痛めつけられた怒りも無く、先程と変わらぬどこか余裕さ
え感じられる顔をしていた。
「良い抜きっぷりだな。IBI式コンバット・シューティングか。さすがは元デカだ」
グレイグはわざとらしい感嘆の声をあげた。
「そっちこそ、銃を前にして大した度胸だ。さすがは元傭兵」
俺は感情を押し殺して言い返した。
「ハッ!そんな事まで調べ上げられてンのか」
今度は本当に驚いているようだ。
「欲しい物をすぐに出してくれる、魔法使いみたいな情報屋がいるのさ」
恐らく、グレイグは会話によって間合いを外し、こちらの隙を覗うつもりなのだろう。
俺は軽口を返しながらも、注意深くグレイグを見つめていた。
「なるほど。魔法使いがいたんじゃ仕方ねェな」
「撃てないと思ってるのか」
他愛のない会話を打ち切り、ピシャリと言い放った。俺のほうが優位にいる事を再確認さ
せ、間合いをこちらに引き戻すためだ。
「撃つだろうな、アンタは。そういうタイプの人間だ」
グレイグはそう言うと、もう一度、口の端を歪めて笑った。
「ゆっくりだ。ゆっくりと手を出せ」
俺が命じると、グレイグは短く嘆息を吐き、ジリジリと懐から手を抜き出した。
スーツの内側から手が全て現れた時、俺は思わず眉を寄せてしまった。
グレイグが握っていたのは、煙草の箱だった。

361例の899:2003/03/22(土) 02:52
「吸ってもいいか?」
グレイグは箱を振り、中の煙草をカタカタ鳴らしながら訊いてきた。
俺は頭に血が昇るのを感じ、奥歯をグッと噛み締めた。
「なめ―――」
「ちょい待ち」
低い声で俺が言いかけた時、トレインが手を挙げて割って入ってきた。トレインはグレイ
グの方に顔を向けて、
「アンタがなにを試そうとしてンのかは知らねェけどさ、俺達は―――顎で俺の方を指し
―――コイツの持ち物を返してもらいに来ただけなんだよ。どうやらアンタ、俺達と構え
る気はねェみたいだが、まずはこっちの用事を済ませてからにしてくンねェか?」
グレイグは箱を振るのを止め、目だけ動かして俺とトレインを交互に見比べた。そうして
しばらく間をとり、やがて、短く鼻で笑った。
「アンタの持ち物なら、そっちの兄さんが座っているデスクの上から二段目の引出しに入
ってるゼ」
グレイグがそう言うと、トレインはデスクに座ったまま尻を滑らせて180度回転した。
身を屈めて引出しを開け、ゴソゴソと中をまさぐる。
「あったゼ」
トレインは、俺の身分証と銃をこちらに見えるように掲げた。
「財布と携帯もあるハズだ。それと、ナイフ」
俺の呼び掛けに、トレインはさらに奥へ手を伸ばし、
「えーと…あったあった。これで全部か?」
と、一つずつデスクの上に並べていった。
「それで全部だ。…トレイン、お前がさっき言った事だが…」
「うん?」
「コイツが試そうとしているっての、あれはなんだ?」
「ああ、それか。このオッサンさ、アンタを怒らせて、どう対応するか試してるんだよ。
余計な会話で情報を聞き出したり、わざと銃を抜かせたり、さ」
トレインの言葉に、俺は眉をしかめた。そう言われれば、と思い当たる部分もあるが、そ
れを試してグレイグになんの得があるのか分からなかった。
「なんのために?」
「そいつは俺にも分からねェよ。ただ、このオッサンはこの状況を打破しようとはせず、
なぜかアンタの掃除屋としての実力を測ってる、と感じただけさ」
俺はグレイグの目をジッと見つめ、その心の奥を測ろうとした。
グレイグはその目線を事も無げに受け流し、
「吸っていいか?」
と言って、もう一度だけ箱をカタンと鳴らした。
トレインは低い溜息を吐き、デスクの上に転がっていたのだろう金色のライターをグレイ
グに向かって放り投げた。
「アンタの部屋なんだから好きにすりゃイイさ。それとスヴェン、このオッサン、抵抗す
る気が無いらしいからさ、その銃、仕舞ってもイイんじゃねェ?」
「まだだ。コイツらから、運び屋の情報を聞き出さなきゃならん」
「でもよ、銃を向けられたから吐くってタマじゃねェよ、このオッサンは」
「気を抜くな、トレイン」
実際、その通りだった。俺の右後ろに座っているトレインの方向から、緩みきった空気が
漂っている。そしてそれは、足許に転がっていたレイモンが起き上がろうとしても変わら
なかった。
ガタガタッという音に、俺は思わず振り返った。椅子に足を絡ませて倒れていたレイモン
が、そこから引き抜こうと足掻いていた。
それを制しようともせずに、所在無さげに足をぶらつかせているトレインに、
「おい!」
と注意を促しても、肩をすくませて、
「大丈夫だって」
と答えるだけで動こうとはしなかった。
「気がついたか?レイモン」
グレイグが声をかけた。
「へ、へい。すんません…」
レイモンは情けない声をあげ、ようやく上体だけ起こした。
俺はグレイグに目線を戻した。銃口はグレイグに向けたまま変えなかった。
「俺の言った通りだったろう。コイツはすぐにやって来るって」
グレイグの言葉に、レイモンは答えなかった。
俺がレイモンの方を見ていた間も、グレイグは位置を変えず同じ場所に立っていた。俺に
向けられている目線も、煙草の箱を持ち上げているのも、そっくり同じだった。
「お前も覚えておくといい。こういうのが、本物ってンだ。タフってヤツだな。どれだけ
痛めつけても諦めたりはしない。骨は折れても心まで挫く事はできない、本物のタフだ。
味方にすりゃ心強いが、敵に回せば底抜けに厄介なタイプさ」
グレイグはそう言うと、俺を見ながらニヤリと笑った。

362例の899:2003/03/22(土) 02:53
最後の台詞は色々とパクってます。分かる人にはモロ分かりだと思います。

363例の899:2003/03/25(火) 02:55
「お前は言ってる事とやってる事がバラバラだ。来るのが分かってたのなら、あの時、俺
をバラしときゃ良かったんだ。なのに、中途半端に痛めつけただけで、骨の一本すら折っ
ちゃいない」
「だから、本物かどうか試したのさ。アンタが本物なら、必ずウチのアジトを突き止めて
乗り込んでくるだろう、ってな。で、その俺の勘は、こうして実証されたわけだ」
グレイグは煙草を一本取り出し、それにライターの火を近づけた。
「試したところでどうする。お前になんの得がある?その結果、手下をやられて、自分は
銃を突き付けられているじゃねェか。一体、なにがしたいんだ?」
俺の問いに、グレイグは大きく紫煙を吐き出してから答えた。
「言ったろう?『味方にすりゃ心強いが、敵に回せば底抜けに厄介』だと」
「おいおい」
トレインが低く呟く。
「悪党に貸す手は持ってないゼ」
俺はグレイグを睨み付けながら言い放った。
「別に仲間になれって言ってるわけじゃない。俺が勝手に協力するだけさ。アンタ達はヤ
クの運び屋の情報が欲しいんだろ?俺はそれを提供する。アンタ達は運び屋を捕まえる。
それだけさ。別に俺達は、運び屋の身柄が欲しいんじゃないからな」
「………」
俺はグレイグを注視したまま、思考を巡らせていた。
コイツを信用していいのだろうか。いや、信用できるハズもない。小さいとはいえ、仮に
も犯罪集団のボスだ。そんなヤツが差し出した情報という餌に、ホイホイと尻尾を振って
飛び付くなんて、馬鹿のする事だ。だいたい、今、有利な立場にいるのは俺達の方なのだ
から。しかし、気になる事もある。ヤツらが運び屋を押さえさせようとする理由だ。もし、
本当にそんな理由があるのだとしたら…。
「話だけでも聞いておこうゼ、スヴェン」
トレインはサラッと言ってのけた。
「確かに、このオッサンは信用できねェ。だが、こっちは元々、その信用できねェオッサ
ンに情報を貰いに来てンだゼ?もしかしたら、“詰め”られるようなネタを持ってるかも
しれねェし、持ってなかったとしても、聞くのはタダだしな」
トレインはそう言うと、デスクから腰を上げて俺の隣に立った。
俺は銃を構えたまま、首を回して部屋を見渡した。
グレイグは美味そうに煙草をふかしている。椅子から足を抜いたレイモンは、床に座り込
んだまま、怒りに染まった表情で俺を見ている。どうやら、コイツもこれ以上、抵抗する
気は無いらしい。マーチンと若造は、共に突っ伏したままだった。
俺の中から先程までの緊張感が無くなりつつあるのが分かった。というのも、グレイグが
吐き出した煙を嗅いでいるうちに、自分も煙草が吸いたくなってきているのだ。
相手には抵抗する気が無く、相棒も既にリラックスしている。俺一人がマジになっている
のが馬鹿らしくなってきた。
そんな俺の気持ちの揺らぎを感じ取ったのだろうか、グレイグが
「受けるか?」
と訊いてきた。
俺はしばらく間を取り、銃のトリガーから指を離した。

364例の899:2003/03/27(木) 02:32
「お前らが運び屋を押さえたがっている理由。自分達ではなく、俺達に押さえさせようと
している理由。それを先に話して貰おうか」
俺の言葉にグレイグは一度だけうなずき、
「この部屋は散らかっているからな、こっちで話そう」
と言って、左側にある隣りの部屋に通じる扉を指した。マーチンが現れた扉だ。
「レイモン、お前とマシューズは医者に診てもらえ。いつもの所でな」
「マーチンはどうしやしょう?」
「今、起こすと面倒だ。寝かせておけ」
グレイグはレイモンとの会話を終えると、俺達を置いて先に隣りの部屋へ移っていった。
俺とトレインは顔を見合わせてから、少し遅れてそれに続いた。
 その部屋の照明の数は今までいた事務部屋よりも少ないらしく、視界は薄ぼんやりとし
たものになった。中央には上辺がガラス張りの低い長方形テーブルがあり、右側に一人用
のソファが二つ、左側にテーブルと同じ長さのソファが一つ置かれていた。
目が慣れてくると、奥の方にあるのが本棚であることが分かった。上半分が本棚で、下に
はオーディオ機器のスペースに使われている。分厚い背表紙の本が、几帳面にも高さを揃
えて並べられていた。この間合いでは、本に手垢が付いているかどうかは見分けられない
ので、実用なのかインテリアとして飾っているだけなのかは判別できなかった。
その右隣、部屋の隅には木製の設置台とデカイ壷が置かれていた。壷の表面には照明を反
射した光沢があり、蔦の葉が複雑に伸びている模様が描かれている。エイジア調の陶磁器
で、そこそこ値が張りそうだ。
ソファの右側には樫の木で造られたデスクが置かれ、デスクトップPCや電話、様々な書
類が並べられていた。デスクの後ろにはハメ込み式の窓があるが、今はブラインドが降ろ
されていた。
部屋の左側の壁には、時計と絵画が掛けられている。絵画はフェルメールの『手紙を書く
女性』のイミテーションだった。その下に、ガラス窓のキャビネットが置かれていた。
事務部屋とは調度品の質が明らかに違っていた。この部屋は支配人室なのだろう。
 グレイグは長椅子の方を手で示して、
「座ってくれ」
と言い、キャビネットを開いてワインボトル一本とグラスを取り出した。
俺はソファに左側に腰を降ろし、煙草を取り出した。テーブルのほぼ中央には、灰皿と卓
上ライター、煙草入れが並べられている。三つとも同じ大理石の造りだった。灰皿だけを
手前に寄せ、愛用のジッポで咥えた煙草に火を点けると、大きく吸い込みながらソファの
背もたれに体を預けた。
肘掛に手をやり感触を確かめると、このソファも本皮のようだ。座り心地は悪くないが、
妙に大きな凹み癖がある。マーチンのだな、と思った。あのデカイ尻では、座れる椅子が
限られている。店にいる時は、大抵、このソファで座るか寝るかしているんだろう。
グレイグは、テーブルにグラスを三つ置き、ワインボトルのコルクを抜こうとした。
俺はその間にグラスを一つ手に取り、口を下に向けて置き直した。
「いらないのか?」
「長居するつもりは無い」
さすが酒を供する店らしく、グレイグが持っているワインはボルゴーヌの上質なヤツで、
ウイスキー党の俺でもつい飲みたくなるような代物だったが、ペースに巻き込まれるのを
嫌ってそれを拒否した。
そんな俺の気持ちを無視してトレインは、
「俺はミルクが欲しい」
と言った。
俺は苦渋に満ちた顔で、溜息と共に紫煙を吐き出した。

365例の899:2003/04/06(日) 03:06
「ミルクは…店の方の冷蔵庫にならあるが」
既にトレインの性格を掴んでいるのだろうか、それとも、少々“ズレ”たヤツの対処に慣
れているのか、グレイグは冷静に訊き返してきた。
「気にするな。さっさと進めてくれ」
俺は忙しげに煙草をふかしながら、不機嫌な声で言った。
「フム、そうか。どこから話せばいいだろうな…」
そこまで言ってグレイグは思案顔でワインを舐め、ゆっくりと喉に流し込んだ。
「ヤツらが運んでいるヤクの種類、知ってるか?」
「発表では、先に捕まったヤツらが持っていたのは10kgのマリファナだったな」
「ああ、そうだ。一人目も二人目もマリファナを10kgだった。
おかしいと思わないか?ダラタリがそんなせこいブツだけを大量に仕入れるなんて」
マリファナは、他のヤクに比べて中毒性が低い。煙草以下とも言われている。
中毒性の高いヤクなら、一度、二度と打ったヤツは再び打ちたくなるモンだ。打つために
金を払い、また打ち、また買う。イイ金づるの出来あがりだ。ヘロインやコカインなどの
中毒性の高いヤクは、売る方にとっては金になる商品なのだ。
中毒性の低いマリファナは、あまり金にならない。ガキがファッションとして吸ったり、
ちょっとしたリラックス効果を求めて煙草感覚で使われるようなブツだ。裏の世界でも、
マリファナは他の商品を仕入れる際にオマケとして付けられる事がある。
ダラタリのような大きな―――表の世界にも影響力を持つような―――組織が、他のヤク
を持たず金にならない商品だけを大量に仕入れるというのは、確かに妙な話しである。
その疑問は随分前から持ってはいたが、マフィアのする事だと深く考えなかった。
「おかしいとは思うがな、それとお前らが運び屋を追うのと、なんの関係がある?」
「ヤツらの狙いは、この街の港なのさ」
「港を狙っている?」
「ああ。マフィアにとっても、港ってのは大きな利益を生むからな。当然だ。
この街には、ウチの他にも小さな組織が幾つかある。その中の、ディーンズってチームは
ダラタリの息が掛かっていて、ウチと対立しているのさ。表面上、ウチは赤龍の下部組織
だからな。ダラタリと赤龍は、俺達を使い、この街で代理戦争をさせていやがるんだ」
グレイグはそこで話しを一旦止め、新しい煙草に火を点けた。
俺は、自分の煙草が長い灰を作っているのに気付き、それを灰皿に落とした。
グレイグは二、三度、ゆっくりと煙草を吹かしてから、続きを話し始めた。
「知っての通り、俺は元傭兵だ。主戦場は東エイジアだった。引退後、その頃に得たコネ
クションを利用して、チナマフィアの赤龍を通してマリファナの密輸をやっている。他の
ヤクは扱ってねェ。
だから、ダラタリは大量のマリファナを仕入れて、ヤツらの手下のチームに卸そうとして
いやがるのさ。この街にマリファナを廉価でばら撒き、ウチの力を削ぎ落とすために」
「発汗療法ってヤツか」
「そんな御大層なモンじゃねェけどな。狙いは一緒だ」
「発汗療法?」
横からトレインが訊いてきた。

366例の899:2003/04/06(日) 03:09
ブラック・ジャイアント伝説だったか

367例の899:2003/04/09(水) 02:31
「19世紀末に、ロックタイムズ財閥のスタンピード社が、対立する同業者の取り込みに
使った戦術だ。自社の保有する大量の石油を市場に放出し、価格を大幅に下落させて同業
者が競争力を失ったところを買収する。その手で、スタンピード社は殆どの石油会社を取
り込んで、一大石油メジャーとして君臨したんだ。反トラスト法によって解体されるまで
な。この手だと、体力の有る方が必ず勝つんだ。学校で習わなかったか?」
「だって俺、義務教育の途中までしか受けてねェもん」
トレインがサラリと言ってのけたので、俺は少し言葉に詰まってしまった。俺はトレイン
の過去を知っているが、その全てを知っているわけではないのだ。
「と、とにかく、マリファナの売りでダラタリが同じ手を使うつもりだってンだ。で、そ
の情報を赤龍から教えられたって事か」
「ああ、そうだ」
グレイグは笑みを浮かべながら答えた。俺は心の中でトレインに呪いの言葉を投げつけた。
「だが、それを狙うにしても30kgじゃチト少なくねェか?」
トレインが言った。
「ヤツらにしてみりゃ、マリファナのルートは少ししか持っていないからな。掻き集めて
いる途中なのさ。ヤツらのホームは中南アメリア、特にニカジェラスといった共産圏の麻
薬地帯だ。そこらはケシの栽培が主で、マリファナの量は極めて少ない。それで、タイボ
ジアのルートに接触してきたところを、赤龍に察知されたってわけだ」
「つまり、今度の30kg分の他にも仕入れて、量が集まってからばら撒くって事か」
俺の言葉に、グレイグは首肯した。その顔に、もはや笑みは無い。
「タイボジアマフィアには、チナ系の他にオロジア系と手を組んでいるのも多い。表立っ
て取り引きを妨害するわけにもいかず、運び屋の情報をサツにリークして押さえさせよう
としたのさ。だが、そっちでも失敗し、今度は俺達にお鉢が回ってきた」
「一つを潰したところで、これからもドンドンとやって来るんだろ?それを全部押さえよ
うってのかい。ご苦労なこった」
トレインが呆れたように言った。
「いや。一つを押さえれば、ヤツらも慎重にならざるを得ない。サツのマークも厳しくな
るしな。その間に、タイボジアや他の麻薬地帯への根回しもできる」
グレイグは紫煙を吐き出しながら答えた。
俺は短くなった煙草を灰皿ですり潰し、少し思案した。
ダラタリがこの街を狙っているのは、市長とカジノの件からも確かだろう。そうなれば、
邪魔なのは赤龍と繋がりのあるベノンズであり、それを排除しようとするのは当然の事だ。
発汗療法によるマリファナ価格の下落も、ダラタリがこの街近辺でのみヤクを捌いている
わけでもなく、微々たる損失で充分な効果が期待できる。
グレイグの話は一応は筋が通っており、今のところ、俺達を嵌めようとする意図も罠の存
在も感じられなかった。
俺は話を進める事にした。
「それで、昨日までは自分達で運び屋を押さえようとしていたよな。それが、今になって
俺達にやらせようってのは、なぜだ?」
「俺達は元々ヤクザ者なんでな、人探しは得意じゃねェんだ。おかげで、昨日はアンタに
迷惑を掛けちまった。なら、信頼できる本職のヤツに協力した方が可能性が高いだろう?」
「昨日、『ヤクの運搬を引き継ぐ』って言ってたよな。その情報も赤龍からか」
「そうだ。一人目が撃ち殺された後、アジトの方から『替わりの者を寄越すから、メイス
ペリー市に向かえ』っつぅ指令が残りの二人に出されたのを、赤龍の方で掴んだそうだ。
最初は、ディーンズのヤツらが引き継ぎ役だと思っていたんだが、潜伏先と思われる場所
はサツのマークが厳しくてな、ヤツらの方も動きが取れなくなっていた。それで俺達は、
今、この街に多くやって来ている余所者、つまり、掃除屋連中をマークしていたんだ。マ
フィアに抱き込まれているヤツも多いからな。
で、アンタだ」
グレイグは俺を指差した。俺は答えなかった。
「アンタが顔を出したケニス港の三番倉庫付近ってのは、ディーンズが取り引きなんかに
よく使う場所だったんだ。それで俺達は、アンタが引き継ぎ役だと判断した」
「不幸な事故だな」
トレインが口を挟む。

368例の899:2003/04/09(水) 02:36
気絶するほどどうでもいい話だけど、「ロックタイムズ財閥」ってのは
「クロノス」の前身っていう裏設定だったりする。
はっきり言って悪ノリ。

369名無しさん:2003/04/09(水) 10:05
赤流ってのはやっぱレッドドラゴンのパロ?

370例の899:2003/04/10(木) 00:58
>>369
「蛇は龍を殺す事などできぬ」とか言う長老がいます

371例の899:2003/04/14(月) 03:13
「今となっちゃ、そいつもお相子だろう。こっちもかなり痛い目にあったしな。しかし、
おかげで俺達は、アンタ達という本物の掃除屋に出会えた。昨日、アンタを取り囲んだ時
に直感したんだ。『コイツは本物だ』ってね。匂った、とも言えるな」
「匂った、ねェ」
「刑事をやってたんなら分かるだろう?刑事が犯罪者を嗅ぎ分けるように、犯罪者も刑事
を嗅ぎ分ける事ができる。戦場や裏の世界に長くいると、知らないうちにそういう能力が
身に付く。いや、そういう能力を持っているからこそ、こんな世界に長くいる事ができる
んだろうな」
「………」
思い当たるところもあった。そういう、職業的な勘というものは確かにあるだろう。
「連れの方も、変わった匂いがしている。本物だが、刑事や掃除屋とは違う。どちらかと
言えば、傭兵に似ているな。キツイ血の匂いがする。トレインって呼んでたな。どこかで
聞いたような名だ」
俺がチラリと隣を見ると、トレインは目を閉じて短く鼻で笑った。
グレイグは肩をすくめて、
「ま、そこには触れないでおくよ」
と言った。
俺は新しい煙草を取り出し、火を点けた。内心、“黒猫”の名前が出てこなくてホッとし
ていた。
「さて、こっちの事情は話し終えたし、そろそろ本題に入るゼ」
グレイグはそう言って身を乗り出した。
「こちらは知り得る限りの情報は提供するし、必要なら収集もする。アンタ達はヤクの運
び屋を捕らえて、ダラタリにブツが渡るのを阻止する。どっちにしろ、アンタ達は運び屋
を追ってるんだから、悪くない話だろ?」
「もし、押さえる事に失敗したら?」
俺の質問に、グレイグは少し考えるような表情をしてから答えた。
「ん…さっきも言ったが、こっちが勝手に協力するだけで、別にギブアンドテイクを求め
ているわけじゃない。だが、それじゃ信用できないってんなら、そうだな…失敗したら、
俺達はディーンズのヤツらと構える事になる。そん時に、ちょっと手伝ってもらおうか。
それでどうだ、受けるか?」
グレイグの厳しい視線を浴びながら、俺もトレインも、しばらく黙っていた。
エアコンの唸り声と掛け時計の秒針が進む音が、酷く耳障りなものに思えた。
ややあってから、俺は大きな溜息を吐いた。
「裏も無さそうだし受けてもイイんだがな、アンタの持っている情報はもう役に立たねェ
と思うゼ」
「でもよ、この街の事についちゃ、俺達より詳しいハズだゼ。説明してやりゃ、なにか出
てくるかもよ?」
トレインが俺の方を向いて言った。
「どういう事だ?」
こんな返事は予想していなかったのだろう、グレイグの口調は少し苛ついていた。
「引き継ぎはもう終わっている。最初にヤクを運んでいたヤツは、今朝、死体で見つかっ
たよ」
トレインの言葉に、グレイグは体を震わせて驚いた。
「なんだと!?」
「ホテル・サンダルマンで殺しがあったのは知ってるだろう?今日のニュースでもやって
いたアレだ。しかも、タイミングの良い事に、昨日、警察が三人目の身元を割り出してな、
ホントなら今日の昼くらいに公開ネットで発表されるハズだったのさ。だから、警察はガ
イシャが運び屋だってすぐに分かったし、持ち物にヤクが無いのにも気付いた」
「それじゃあ、ダラタリが…」
俺の説明で、グレイグは直ぐに悟った。
「だろうな」
「ああ…クソッ!」
グレイグは天を仰いで毒吐いた。
俺はトレインを見た。目線で、俺達が掴んでいる情報を全て伝えるかどうかを問う。
トレインは、仕方ないという感じの疲れた顔をして肯いた。
ここへは情報を貰いに来たのに、今では逆に情報を与えようとしている。俺もトレインと
同じように、今の状況に少し困惑を覚えていた。
俺は二本目の煙草を揉み消してから、今まで掴んだ情報とそれによって導き出した推理を、
ゆっくりと話し始めた。
グレイグは、時折、眉をしかめたり目つきを鋭くさせたりするくらいで、話の内容に驚く
事も相槌を打つ事も無く、ただジッと耳を傾けていた。
俺の説明が一段落つくと、グレイグは、
「そうか…市長がな」
と低く呟いた。

372例の899:2003/04/24(木) 03:26
俺は、三本目の煙草に火を点けながら言った。
「市長が出したカジノ計画にダラタリが噛んでいるとしたら、アンタの言う、ダラタリが
この街の港を狙っているって話とも合ってくる。それを証明する物はなにも持ってないが、
両者の関係は、まず間違い無いとみていいだろう」
大金が行き交うカジノは、汚い金の洗浄や、様々な取り引きの会合に使う事ができる。そ
の膝元に港があれば、得られる利益も跳ね上がるだろう。
俺の言葉にグレイグは一つ頷くと、グラスを呷って残りのワインを飲み干し、
「ヤクが市長の手に渡っているとしたら、それを押さえるのは厄介だな」
と言った。
「アンタに訊きたいんだがな、市長が、そういう汚い仕事を任せられるほど信頼している
人物に心当たりはないか?」
グレイグは思案顔で空になったワイングラスを見つめ、しばらくしてから首を横に振った。
「ダラタリもディーンズも身動き取れないから市長に頼ったんだろう?それで、その二つ
の組織以外で、“殺し”までやる市長の手の者となると、ちょっと思い浮かばないな」
そう言ってグレイグは、右手で顎を擦った。
「市長の回りにボディガードとかはいないのか?」
「市長は急進派で政策的な敵は多いが、身を守らなきゃならないほどというわけでもない。
公的にも私的にも、そういうヤツらを雇っているという話を聞いた事はないな」
グレイグは残念そうに首を振った。
「そうか……」
淡い期待だったとはいえ、空振りというものは人を落胆させるモンだ。だが、気落ちしな
がらも、俺は頭の中で次に向かう場所について考えていた。
他に可能性のある場所といえば、ディーンズのところだ。それも、ボスに会わなければな
らない。下っ端程度では、市長の手の者どころかダラタリと市長の繋がりさえ知らないと
思われるからだ。ボスか、それに準ずる立場の者に情報を訊くには、今日と同じような荒
事は避けられないだろう。
俺は背もたれに深く身を沈め、疲れた溜息を吐いた。
標的へ辿り着くまでの過程は、あくまでもスマートに行わなければならないと、俺は考え
ているのだ。荒事はなるべく避けたい、と。こういう事を言うと、決まってトレインは、
鼻で笑って馬鹿ばかしいという身振りを示す。その結果、ヤツが対象を確保する時、回り
の建造物や取り合った相手(警官や他の掃除屋)に被害を与える事になるのだが。
そういえば、昔、ジョーにも言われた事がある。あれは、窃盗グループのアジトを急襲し、
外に逃げ出した一人を追って人込みに分け入った時の事だ。ソイツを追っていた俺は、余
計な被害を出さないように、ホシが人込みから抜け出すまで逮捕を待とうとした。別の刑
事に正面へ回り込まれ、ホシは路地裏へ逃れるしか手が無い……ハズだった。前後を挟ま
れたホシは、傍を歩いていた少女を捕まえ人質としたのだ。まだ経験の浅い若造だった俺
は、予想外の事態にうろたえてしまい、その後、満足な働きはできなかった。ホシは、遅
れて来た警官隊に包囲されて投降、事件は呆気なく解決した。引き上げて行く隊列の足音
を聞きながら、俺はその場に座り込んでいた。そんな落ち込む俺に、ジョーは言った。
「捜査はスマートに。逮捕は確実に。だが、全てはケース・バイ・ケースだ。お前さんの
ミスは、追い詰められて極限状態にあったホシが、自分の思う通りに行動すると思い込ん
だ事だ。確実に逮捕できると踏んだら、その時は躊躇うな」
ジョーは、俺の頭をクシャクシャと乱暴に撫でた。俺がユーク市警に来て、半年経った頃
の話だ。

373例の899:2003/04/24(木) 03:28
なんかねー
読んでる人も殆どいないと思うけどねー
今、続きを書く気が失せてるんスよ

畜生、矢吹め…
俺のマロタンを、マロタンを…゚・(ノД`)・゚。゚

374名無しさん:2003/04/26(土) 04:58
取り敢えず最後までやり遂げてくれ

375名無しさん:2003/04/26(土) 21:42
そういえば今は全体的な構想のどのくらいまで進んでるんだ?

376例の899:2003/04/28(月) 02:14
俺が色々な事に思考を巡らせていると、不意にグレイグがそれを遮った。
「確かに、今、俺はアンタ達の役に立つような情報は持っていない。だが、話を聞いたお
かげで、役に立てるかもしれない方法を思い付いたゼ」
「方法?どんなだ?」
「俺も一人、魔法使いを知っているのさ」
「あん?」
「とにかく、三日……いや、二日くれ。上手くいきゃ、市長まで挙げる事ができるかもし
れん」
グレイグは口の端を上げて言った。その表情は、自信に溢れていた。
俺とトレインは顔を見合わせた。トレインも、不審そうな顔をしている。俺も同様だ。
「マズっても、アンタ達まで疑われるような事はない。心配するな。上手く行ったら、こ
ちらから連絡する。携帯の番号は変えないでおいてくれよ」
グレイグは、その方法とやらを俺達に説明する気は無いようだ。説明できないほどヤバイ
方法なのか、ただ俺達を驚かせようとしているのかは分からないが、内容を聞く事ができ
ない以上、この場に用は無かった。
俺は立ち上がりざま、グレイグに言った。
「無理にやらなくったってイイんだゼ」
「いやいや、俺達にしてみりゃ、アンタ達に頑張ってもらわなきゃならないんでな。存分
に協力させてもらうよ」
グレイグの返答に、俺はフンと鼻を鳴らした。
 店内を通って出ようとする俺達を、カウンターの中から店員の一人が呼び止めた。
店員は、カウンターテーブルにコースターを置き、
「こちらは、支配人からです」
と言って、白い液体の入ったカクテルグラスを差し出した。
「粋だねェ」
たちまちトレインは陽気な顔になり、グラスを持ち上げて一口流し込んだ。
「うん……ブレッシングミルクか。お洒落さんだな」
そう言って、残りを一気にあおった。トレインを見つめる店員は、ポカンと口を開けて間
抜けな顔をしていた。トレインには、早撃ちや身の軽さだけでなく、“利きミルク”とい
う特技もあるのだ。曰く、『世界中の全てのミルクを制覇する』んだそうだ。
 店を出てすぐに、俺は溜まった鬱憤をぶつけた。
「トレイン。どうにかならんのか、その主体性の無さは」
「なんだよ、いきなり」
「お前、最初の頃は、『マフィアのイザコザに荷担するのは嫌だ』なんて言って、運び屋
追うのをゴネてたじゃねェか。それがどうだ。今になって、掌を返したようにアイツの申
し出を受けやがって」
「それは、アー……猫特有の気紛れ……かな」
「『気紛れかな』じゃねェよ。そんなんじゃ長生きできねェゼ?お前そのうち、“殺す”
“殺さない”とかでも、コロコロと主張を変えかねんな」
「んな事は無い……ハズ……と思う」
最後の方は小声だった。俺はガックリとうな垂れる。
「やれやれ……半人前だな」

377例の899:2003/04/28(月) 02:14
俺達は停めてあった車の前に立ち、なにか仕掛けられていないかどうか、車体のチェック
を始めた。駐車中、離れている間に爆弾や発信機などは取り付けられていないか、タイヤ
やブレーキなどの足回りに細工を施されてはいないか、一通り確かめなければならない。
俺達に痛めつけられたレイモンが仕返しをしようとするかもしれないし、グレイグだって
信用ならない。ダラタリや市長の手先が張っているかもしれないし、他にも敵がいるかも
しれないからだ。
まず、左側二本のタイヤを足で押してみる。空気の抜ける音はしていない。トレインも右
側で同じように確認をしていた。
次に、表面になにかしらの“イタズラ”がされていないか見て回る。異常は無かった。
車には、鍵穴やサイドウインドウに異物が挿し込まれたり、ボンネットを抉じ開けようと
すると警報が鳴り響くよう、自作のセキュリティーが掛けてある。そのため、チェックは
自然と下部がその殆どを占めるのだ。
俺は膝を折って、車体の底を丹念に調べ始めた。
これは無駄な行為だった。色々な仕掛けができる時間的な余裕はあったが、今のような時
間でも、この通りは人の行き交いに事欠かない。車上荒しが多発するようなスラムならい
ざ知らず、ここで誰かが怪しい真似をすれば、すぐ人を呼ばれるだろう。この状況ででき
る仕掛けといえば、車体の下になにかを落とし、それを拾うフリをして小型の爆弾や発信
機を取り付ける程度だ。つまり、下部は手の届く範囲を確認すれば充分なのだ。
それでも俺は、できるだけ頭を低くして、車体の底をくまなく調べ、タイヤの裏からバン
パーの陰の部分まで目を通した。
臆病なほどの慎重さは、長生きの秘訣だ。それに、この確認は、すでに習慣にもなってい
るのだ。いまさら止めるわけにもいかない。おかげで、今ではこの作業もかなりの短時間
で終える事ができるようになっていた。
全ての確認を終えて体を起こした俺に、トレインが声を掛けてきた。
「さっきの話だけどよ、アンタだってミスを犯してるゼ」
「あん?」
「あのオッサンが懐に手を入れた時、アンタ、銃を抜いたろ?でも、トリガーに指は掛か
っていなかった。あのデブの頭を殴った時に手を痛めたんだろ。それで指が痺れて、トリ
ガーに合わせられなかった」
俺の顔が、無意識に一瞬だけ引き攣ったのが分かる。見抜かれていた。
「それで?」
「銃使いが考え無しに殴り掛かっちゃイケねェって事!特に、固い頭目掛けてなんて、な。
あの時は、得物を使うのが正解だった」
そう言ってトレインは、車に寄り掛かって笑みを投げてきた。俺はそれに、両手を挙げて
答えた。降参のポーズだ。
「全く、俺達は揃って半人前だな」
「二人合わせて一人前……ってのも、ゾッとしないな」
「ああ。情けねェ話だ」
 俺達はホテルへと戻り、アネットに連絡を入れた。目新しい情報は無い、との事だった。
これで今日の仕事は全て終わりとし、シャワーで汗と埃を落としてから床に就いた。
寝る前までに、缶ビールを三本空けた。

378例の899:2003/04/28(月) 02:25
>>374
アリガ㌧
がむばるよ

>>375
一応、もう一つ小さなヤマがあって、
最後の詰めの(にしては全く盛り上がらない)ヤマ、
って考えてるんだけど、時間軸の関係でもう一ヤマ欲しい。
でも良いネタが無い。思い付くネタは、行数が掛かり過ぎたり
俺の知識では扱えないようなネタばっかり。それに大詰めに
繋がる仕掛けも欲しいし。今までの中にもあるにはあるんだけど、
数が少ない上にショボイからなぁ。
どうしよ…
残りは年表で終わらせようか。



お茶濁しにどうでもいいネタ

ブレッシングミルク→メグミルク
お洒落さん→久勃起w

379名無しさん:2003/05/01(木) 20:46
武士沢でも構わないが黒猫世界の年表とかどうなってんだろ…


そういや黒猫のノベルがまた出るそうな

380名無しさん:2003/06/02(月) 22:09
もう一ヶ月放置常態か…

381例の899:2003/06/07(土) 03:02
もうクッキーも消えてたよ。
リアルで忙しくてね。

382例の899:2003/06/07(土) 03:02
 俺達がベノンズの店に向かっていた頃に『Big・SHOT』が更新され、三人目の運
び屋の名前と顔写真が公表された。同時に、ホテル・サンダルマンで発見された死体がそ
れである事も、掃除屋全員の知るところとなっていた。
翌日、俺達の他にブルーサンズに泊まっていた六組の掃除屋連中は、午前を過ぎる前に、
全員がチェックアウトしていた。死体だけでブツは発見されなかったという発表から、既
に市外へと逃げられたと見たのか、引き続き運び屋を追うのは無理だと判断したのか、多
くの掃除屋がこの街から引き上げていったようだ。
また、短期間に二件の殺人事件が発生したため、多くの観光客が、不安がってだろうかバ
カンスを切り上げ、この街から出ていっている。
普段にも増して人の流出が活発になったが、それでも運び屋は街から出ないと、俺達は判
断した。
警察は、三人目が死体で発見された事から捜査地域の範囲をこの街に限定し、市外に繋が
るあらゆる公道で昼夜の検問を敷き、駅や港には、麻薬犬を連れた捜査官を張り付かせて
いる。
今、この街から出る者は、全員が警察の厳しい監視にあっているのだ。運び屋の引き継ぎ
役がこの街の人間なら、そんな中に飛び込むという危険を犯すとは思えない。
だから、街の中に残って探すのが正解なのだ。
 その日は午前中から、俺とトレインはそれぞれ別の場所にいた。
最初は、ディーンズのメンバーが普段集まるといわれている場所を三箇所ほど訊きつけて、
今後の確認がてらに覗きに行ったのだが、三箇所とも警官の姿がチラホラ見かけられ、面
倒な事にならないうちに引き上げたのだ。
ディーンズの方は警察に監視してもらう事に決め、俺は市長と繋がりのある有力退役軍人
や退職警官の洗い出しを、トレインは市庁舎の監視する事にした。
俺の方は、市内の退役軍人会事務所に顔を出したり、ネットのニュース系データベースを
探ったりしてみたが、一向に成果は挙がらなかった。
俺は部屋の中で、灰皿の上に山を作っている吸殻を苦々しい思いで見つめながら、次の手
について思案を巡らせていた。横に置かれたPCのモニターには、トマス=ヤンデンが市
長職に就いてからの市政を分析している地元紙の論評が映されている。時計の針は、午後
四時を少し過ぎたところを指していた。
額にへばり付く前髪を掻き揚げ、新しい煙草を抜き出そうと手を伸ばした時、携帯電話に
着信があった。
トレインからだった。

383例の899:2003/06/07(土) 03:03
「どうした。何か動きがあったのか?」
「ああ。今、ちょっと面白いモノを見ている。三十分ほど前に、後姿しか見えなかったけ
ど、カメラとかを持ったどこかの記者みたいな二人組が庁舎に入っていったんだ。市長に
インタビューでもするんだろうと思ってたんだがよ、その二人組がちょうど出てきたとこ
ろでな、顔を確認した。一人は見た事も無い女だが、もう一人は、こいつぁ昨日、あの店
で見たヤツだゼ」
「ベノンズの?」
「つっても、メンバーの方じゃない。店員だ」
「ボーイか」
「そう。遠目からだが間違いない。確かに見た顔だゼ。カメラ持ってて、なんか助手みた
いな感じで付き添ってやがる」
「それで、女の方はどんなヤツだ?」
「あー、眼鏡にパンツスーツの若い女だ……けど、髪もウイッグだし化粧も濃いし、変装
臭いな」
「ソイツら、今どうしてる?」
「車に乗り込むところだ。赤のクーペ。それで、どうする?ヤツらをツケるか、このまま
市長の監視を続けるか」
「当然、その二人組だが……車か。できるか?」
「大丈夫、イケるゼ」
「なら、ソイツらの周囲に目を配ってくれ。もし、他の尾行者がいたら―――」
「押さえるか?」
「いや、まだ俺達は前面に出たくない」
「じゃあ、泳がせるか」
「ああ。いたら、ソイツが誰かさえ分かりゃいい」
「わかった」
 通話を終えた俺は、窓際に立って煙草に火を点けた。大きく吸い込み、肺の中がニコチ
ンで充満するのを感じながら、その二人組の正体について考える。
まず考えられるのが、昨夜グレイグが思い付いたと言っていた『役に立てるかもしれない
方法』だろう。その場合、あの二人組を送り込んだくらいで市長がボロを出すとは思えな
いので、次の手に備える布石だと考えられる。
もう一つの可能性は、店員の方が市長の手の者だった場合だ。俺達とグレイグのやり取り
を聞いたか、グレイグが市長になにかを仕掛けようとする命令を手下に下した事から知っ
たのか、市長に疑いを向ける者の存在を注進しに行ったとも考えられる。しかし、そんな
事は電話やメールでも用が足りるし、昼日中にわざわざ変装までして市長に面会する必要
などない。この可能性は否定できそうだ。
やはり、あの二人組はグレイグの指示で市長の元まで出向き、インタビューと称してなん
らかの言質を取ったか、カマでもかけたりしたのだろう。
もし、市長がその時の二人組の言動や仕草に不審なものを感じていたら、ヤツらに尾行を
つけているかもしれない。
トレインもその辺りの事が分かっているらしく、意思の疎通もスムーズに行われた。アイ
ツも、その二人組はグレイグが送り込んだと考えているのだろう。
俺は、狭い壁と壁の隙間に紫煙を流し込みながら、
(これで動いてくれりゃ、儲けものだな)
と思った。

384名無しさん:2003/06/09(月) 15:15
久しぶりだな

385例の899:2003/06/10(火) 03:10
 トレインからの連絡は、一時間もしないうちにかかってきた。
結局、回りに怪しい人影は見当たらなく、二人組は少し遠回りをしただけで店に戻ったそ
うだ。
「俺、思うんだけどよ……」
助手席に座るトレインが言った。
「あの二人組が魔法使いなのかもな」
「魔法使い?」
ハンドルを握る俺が訊き返す。
「ああ。グレイグが言ってたじゃねェか。そういうヤツを知ってるって」
二人組の尾行を終えたトレインを車で迎えに行き、そのままどこかで晩飯を済ませようと
しているところだった。それまで呆けたように外を眺めていたトレインが、不意に話し掛
けてきた。
「だとしたら、女の方か」
「かもな。でも、二人揃って、って事も考えられるゼ。そもそも、魔法使いってのはアン
タがアネットを指して言った言葉だろ?」
「ああ。その二人組も、なにかの道のプロなのかものな。そんな風に見えたか?」
「その筋のプロが、顔に『プロですよ』って書いてるわけないだろ」
「そりゃそうだ」
俺達は、お互いに短く笑った。しばらく間があり、
「グレイグに訊くわけにゃいかないよな」
とトレインが言った。
「そりゃそうさ。訊いて教えてくれるようだったら、昨日の時点でネタバラししている。
俺達がヤツを信用していないのと同じで、向こうも俺達の事を仲間だと思っちゃいない。
利用しようとしているだけだ」
「そうだな。俺が言いたいのはさ……」
トレインは、そう言って開け放った窓枠に肘を掛けた。
「分からない事を気に掛けていても仕方ねェって事さ。なんの目的なのか、どういうヤツ
らなのか知りようもないんだからさ、あの二人組は無視してイイんじゃねェの?」
「…………」
俺は、すぐには答えなかった。
確かに、トレインの言う事にも一理ある。しかし、俺にはどうしても捨て切れなかった。
「そりゃあ、ヤツらの動きが分かれば、イロイロやりようはあるかもしれないさ。今日は
空振りだったけど、そのうち、ヤツらに反応して市長の方が動くかもしれない。でも、実
際のところ、ヤツらの動きを俺達は掴めないんだからさ。まさか、俺達の方から、市長に
ベノンズが怪しいって教えて、燻り出すわけにもいかねェだろ?」
「ああ、そうだな」
「じゃあよ―――」
「いや、お前の言う通りだ。この線は無視しよう」
俺は、それまでの調査で成果が挙がらなかった事から、盲目的になっていたのかもしれな
い。やっと掴んだ新たな動きに期待し過ぎていたようだ。二人組の尾行も空振りに終わっ
たのを聞かされた時と、今の俺の表情から、そんな俺の感情をトレインは読み取ったのだ
ろう。
(まさか、コイツに諌められるとはな)
俺は苦笑した。
「なに笑ってんだよ?」
「いや……頼もしい相棒だよ、お前は」
トレインは複雑な顔になった。
 ファストフードのドライブスルーを利用して簡素な夕食を摂り、俺達はホテルに戻った。
時計は八時少し前というところである。
車をブルーサンズから少し離れた浜辺の無料駐車場(錆びるが金が無い)に停め、ホテル
の階段をのぼっていた俺は、自室のドアの前に人影が見えて足を止めた。
「どうした?」
後に続いていたトレインが、俺に並んで訊いてきた。
ドアの前の人影は、床を軋ませる足音が止まった事からか、こちらに気付いて振り向いた。
「お前……」
俺は呟いた。
「おやおや」
トレインがとぼけた声をあげた。
「お久し振りです」
私服姿のリック=オースティンは、そう言って俺達に挨拶した。

386例の899:2003/06/12(木) 03:16
 突然の訪問に、俺は少々面食らっていた。ろくな挨拶もせず、ドアの鍵を開ける。
「すいません。突然、押し掛けたりして」
部屋の中に入ると、リックはまず、謝罪の言葉を述べた。
「いや……」
俺は、帽子を壁に掛け、自分のベッドに座った。トレインは奥まで進み、窓枠に腰掛ける。
「それと、この間はすいませんでした。生意気な事を言って」
初めて会った時の態度の事を言っているのだろう。ドアを背に立ったままリックは言った。
薄いブルーのスラックスに黄色がかったシャツを着て、黒の革張り鞄を両手で持っている。
「気にしちゃいないが……好きなところに座ってくれ。狭い部屋で申し訳無いが、客用の
椅子も無いんだ」
警官が私服姿で、つまり、仕事を離れて掃除屋を訪ねるのは、あまり無い事である。そん
なに親しい間柄でもなく、ましてやリックは掃除屋を毛嫌いしている。よほどの事情があ
るのだろう。ストレートに用件を尋ねるよりも、座るか座らないかで、すぐに済むか長い
話になるかを試したわけだが、リックはうつむいて答えなかった。
(まだ、話をするかどうか迷っているのか)
こういう場合は、話し易い当たり障りのない事柄から触れるのが常道である。
「今日は非番だったのか?」
俺の問いに、リックは顔を上げた。
「いえ、さっき仕事を終えたところです」
「そうか。それにしても、一度しか言ってないのによく覚えていたな。部屋番号まで」
リックはかぶりを振り、
「ここの宿主に教えてもらったんです。今、泊まっているのはこの部屋の一組だけだって。
彼は、僕が警官なのを知っていますから」
と言って、一度視線を床に落とし、やがて意を決したように俺の顔を見た。
「ボルフィードさんは、ダラタリ・ファミリーの麻薬の運び屋を追っているんですか?」
「うん?……まぁそうだが―――」
「なにか耳寄りな情報でも教えてくれるのか?」
トレインが口を挟んできた。
「これを見てください」
そう言って、リックは鞄の中から一束の書類を取り出して、俺の方に差し出した。
俺は、すぐには手に取らず、なん度かリックと書類を交互に見てから受け取った。
A4サイズの用紙が五枚、几帳面に角を揃えて、左上をホッチキスで留められてある。
作成者は、犯罪課科学捜査班。表題には、
<ニコラス=ステファノ殺害に使用された弾丸に関する鑑定報告書>
と書かれていた。

387例の899:2003/06/16(月) 02:33
「おい。これって……」
俺は、眉をしかめてリックを仰ぎ見た。
「話しだけじゃなく、実際に読んでもらった方がいいと判断しました」
リックは、思いつめたような表情で答えた。
警察の内部報告書を無断で持ち出し、しかも部外者に見せるという行為は、たとえどんな
事情があったとしても許されるものではない。さきほどまでの態度も納得できる。恐らく、
ここに来るまでにも随分悩んだ事だろう。
俺は決心して、鑑定報告書に目を通していった。
IBIで刑事をしていた時、なん度も見てきた類の書類だ。理解するのにさして苦労はな
かった。
読み進めていくうちに、ある一文が目に留まった。俺は、その内容に体が震えるような衝
撃を受けた。
急いで次のページにめくり、一字一句見落とさないように目で追っていく。
「どうした?」
いつの間にか近寄り、書類の文面を覗き込もうとしているトレインが言った。
知らず知らずのうちに、奥歯が痛くなるほど口をキツク噛み締めていた。体中が緊張で強
張っている。俺は、体の力を抜き、深い溜息を吐いた。
「スヴェン?」
「ホテル・サンダルマンで殺された運び屋の死体から検出された弾丸が、ジョーの時に使
われた弾丸と一致したそうだ」
「へぇ」
トレインは気のない返事をしたが、言葉の中に少しだけ動揺の色がみえる。
俺は、書類をリックに返し、
「俺達の持っている、運び屋の情報が欲しいのか?」
と訊いた。
「いえ、そうじゃなく……」
書類を両手で受け取ったリックは、答えを濁して再び黙ってしまった。
ここまで来たら、リックにはもう戻るという選択肢が無い事を、俺は知っている。だから、
待った。
ほどなくして、リックは口を開いた。
「部長に言われたんです。もし、困った事が起こったらアナタを頼れって」
「ジョーが?」
「あの日、ボルフィードさん達と分かれた後、部長からアナタの事をたくさん聞かされま
した。一年間という短い付き合いだったけど、その短い期間に全てを吸収していった。あ
んなに覚えの早いヤツは知らない……と。
その時に、まるで冗談めかした口調で言ったんです。もし、この先、俺がいなくなっても、
困った時にはアイツを頼ればいい。今は掃除屋らしいが、アイツは刑事の生き方しかでき
ないヤツだから、必ず力になってくれる。
そう言っていたんです」
「…………」
「今になって思うと、部長は、ああなる事を予想していたのかもしれません」
「それは無い」
俺の言葉に、リックは顔を上げた。彼の目は、俺にその理由を要求していた。
「殺されるかもしれないと考えていたのなら、ジョーはそんな相手を前にして不用意に背
中なんか見せない。それに、その気になりゃ、防弾チョッキなり着込んでおく事だってで
きたハズだ」
「それじゃ、僕の思い過ごしだと?」
「いや、そうじゃない。ジョーは予想していたんだろう。しかし、トラブルになる可能性
は予想していたが、殺されるとまでは考えていなかった」
答えながら、俺の頭の中には、犯人像がぼんやりと浮かんできていた。ジョーに、そんな
風に思わせる人物に心当たりがある。

388例の899:2003/06/17(火) 02:37
「俺が怪しいと思わなかいか?」
「え?」
唐突な質問に、リックは面食らったようだ。意図が理解できないでいるらしい。
「ジョーに、トラブルになっても殺されないだろうと思わせ、ジョーを殺したのと同じ銃
で運び屋を殺し、部屋からヤクだけ持ち去るヤツ」
「まんま、アンタだな」
トレインが言った。俺はそれに肯いて、
「そう。俺には動機があるし、ジョーに背中を向けさせる事もできる」
と言った。
「そんな。それじゃ、あの時、部長がアナタを頼れって言ったのと矛盾します」
リックは声を荒げて反駁した。
「ジョーがそう言っていたから、お前は俺を対象から外したのか?」
「どういう事です?」
「いや、なに。ジョーが殺されたのを知ってから、ずっと不思議に思っていたんだ。なぜ、
俺のところへ事情聴取に来ないんだろうって。お前が俺の事を上司に報告しているモンだ
と思っていたが、その様子だとどうやら……」
「はい、伝えていません」
あっさりと首肯した。
「それも、自分で判断しての事か?」
「そうです。ボルフィードさんは、部長の件には関係していないと判断しました」
リックの答えに、俺は少し脱力した。
警察組織の中にあって、警官というものは駒である。考える頭は上の方にあり、駒は頭が
考えた通りに動く。これは別に、警察に限ったものではない。どこの組織でも、大きけれ
ば大きいほど、その傾向が顕著になる。その方が、歯車も回り易いし、無用な混乱も少な
くすむのだ。
言うまでも無い事だが、これには少し誇張がある。実際には、現場の警官もしっかりと頭
を働かせている。ただ、扱う事件のおおまかな展望や証拠品の取捨は、上の人間、または、
多くの人間が寄り集まって決める事だ。一人の者の判断に任せるような代物ではない。
リックは、俺という人間の存在を、上司に報告するべきだったのだ。その際、ジョーとの
会話で感じたものを、自分の意見として添えるなりすればいい。その上で、今後の方針や
指示を仰ぐのが、警官として当然の行動といえる。
(一体、どういう教育をされたんだか)
俺は呆れて、後頭部の辺りをボリボリと掻いた。
同時に、俺自身、組織の一員でありながら、どこか組織とはかけ離れた刑事であった事を
思い出し、妙な懐かしさを覚えていた。
「それで、さ」
トレインが言った。
「アンタはどう協力して欲しいんだ?このボルフィードさんに」
「実は、ボルフィードさんに―――」
「スヴェンでいい」
遮って、俺は言った。
「は、はい、スヴェン……さん」
リックは、しどろもどろになりながらも、話しを続けた。
「実は、もう一つお知らせする事があるんです。これは昨日の事なんですが、部長の奥さ
んの銀行口座へ無記名で200万イェン振り込まれているのが分かりました。振り込みの
日付は事件の数日前だったんですが、当日、それも死亡推定時刻の三時間前に、200万
イェン全額が引き出されていたんです。それも、部長本人の手で」

389例の899:2003/06/22(日) 02:26
「バカな!」そう言いそうになるのを、俺は必死で飲み込んだ。到底、信じられなかった。
「奥さんは、その入金の事は初耳で、部長からそれに関係する話も聞かされていなかった
そうです」
俺は、ジッと一点を見つめたまま、右手で煙草の箱を探した。とにかく、煙草が吸いたい。
「警察は、その金がトラブルの元だとしていたんですが、今日、この鑑定結果が出た事に
より、部長が麻薬事件に絡んで金銭を得ていたと考えています」
俺は、煙草を大きく吸い込んだ。
警察の考えは間違ってはいない。いや、そう考えるのが当然だとも言える。だからこそ、
俺にはショックが大き過ぎるのだ。
「内部では、麻薬の事件とニコラス殺しの方に力を入れ、同じホシだからという理由で部
長の件をうやむやに処理しようとしています。身内の不祥事を隠そうと。噂では、上の方
から所長直々に指示があったとも言われています。それで、部長の件にあたっていた刑事
も、ほとんどが麻薬の方に回されました」
通常、警官殺しは警察への挑戦ととられ、威信をかけて全力を挙げて捜査される。そのた
め、同時に起こった事件は、自然とあてられる人員が少なくなるのだ。今、それは逆転し
ているらしい。
(ディーンズのヤツらのところにまで警官が配置されていたのはそれでか)
俺は、心の中で合点した。
「ちょっとイイか?」
リックの説明を、トレインが手を挙げて遮った。
「あのさ、アンタ警ら課だったよな。なんでそんなに捜査の内実に詳しいんだ?」
「それは、僕が部長とコンビだったので、応援という形で現場に近いところに置いてもら
っていたからです。ほとんどの資料にも目を通させてもらっています」
リックの答えを受けて、トレインは俺の方をチラリと見やった。
俺は、それに肯いて返した。リックの話に、おかしなところは無い。
「口挟んで悪かったな。続けてくれ」
トレインは言った。
リックは俺の方に向き直り、一層厳しい顔つきになった。
「今のままでは、部長の名誉は傷付けられたままになってしまいます。ニコラス殺しのホ
シを挙げても、部長の件は深く追求せずに立件するでしょう。でも、部長は犯罪に荷担す
るような人ではありません、絶対に。全てを明らかにできれば、必ず部長の汚名は払拭さ
れるハズです。お願いです、スヴェンさん。僕に力を貸して下さい!」
リックの顔には、悲壮めいたものがあった。眉根に細い皺を作り、口を真一文字に結んで
いる。目には、今にも俺に飛び掛ってきそうなほどの凄みがあった。
それは、ジョーの不当な扱いに対する憤りと、自分の不甲斐無さに対する苛立ちだろう。
彼は、警察の内部文書を持ち出したり、捜査の進展を部外者に漏らしてしまうほどに追い
詰められているのだ。そして、それほどまでにジョーの事を尊敬しているのだ。
リックの視線を、俺は厳しい目つきで睨み返していた。その心の中で、リックの事を眩し
く思っていた。
(昔の俺はこんな目をしていただろうか)
そんな事を考えていた。

390例の899:2003/06/24(火) 23:56
俺は、しばらく紫煙をくゆらせながら、リックを見つめていた。
その間、リックは辛抱強く待っていた。
トレインは、これに関する選択権を全て俺に預けるつもりなのだろう、意識しなければそ
こにいる事さえ忘れてしまいそうになるほど、気配をひそめて立っていた。
部屋に張り詰めた空気が、外から入る音をひどく五月蝿いものに感じさせた。目の前を漂
う煙も、ゆっくりと流れている。
「蒸すな、この部屋は……」
俺はリックから目を外し、左手で首の裏筋を撫でた。
「スヴェンさん?」
「帰りな」
リックは答えなかった。ただ一度、短く息を呑んだ。
俺は、先端の火がジリジリと煙草を短くしていくのを眺めていた。
リックが今どういう態度をとっているのか確かめてみたいという欲求があった。怒りの目
を俺に向けているのだろうか。それとも、失望に肩を落としているのだろうか。
だが、俺は意識してその欲求を退け、リックを見ないようにしていた。今、見てしまえば、
俺の決意が揺らいでしまいそうだったからだ。
「なぜです?」
喉の奥から搾り出したような声でリックは言った。
「情報をくれた事には感謝する。確かにジョーは俺の恩人だが、今の俺は掃除屋だ。掃除
屋のやり方で掃除屋の仕事をする。それだけだ」
「興味があるのは首に掛かった懸賞金だけで、部長の名誉はお構いなしという事ですか」
リックの声は、怒りで震えていた。当然だろう。
俺は、冷静な声に聞こえるよう、努めて話さなければならなかった。
「賞金首は、俺が掃除屋として捕らえる。捕らえるには、事件の全容を解明する必要があ
るだろう。俺はそのために動き、全てを明らかにする。だが、お前に協力する事はできん。
ポリが近くにいたんじゃ、俺達の協力者が逃げ出しちまう。裏のヤツらが多いんでな」
「僕は、アナタ達やアナタ達の協力者を捕まえようとはしません。例え、犯罪行為に近い
事をしていたとしても」
「どうやってそれをヤツらに納得させるんだ?念書でも書くか?裏の住人に、そんな物は
通用しない」
しばらくリックは押し黙り、俺は煙草を吸い続けた。
やがて、リックが呟くように言った。
「アナタ達の邪魔はしません。来るなと言われれば離れて待っています。僕はただ、部長
の―――」
「じゃあ今すぐ帰れ。真相はいずれ分かる。知りたいだけなら、俺達と一緒にいる必要は
無いハズだ。付いて来たがるのは、お前がジョーの名誉の事だけ考えているんじゃないか
らだ。サツの捜査が、自分が思うのとは違う方向に進むのが気に入らないからだ。だから、
自分一人では難しい捜査に、俺達の協力を得ようとした。なんの事は無い。自分の思う通
りの捜査がしてみたいだけだ。邪魔はしません?ふざけるな。ヒヨッコにうろつかれるだ
けで邪魔なんだよ」
俺は、煙草の火を見つめたまま言い切った。キツク言い過ぎたかもしれないが、諦めさせ
るにはこれくらいが必要だと思った。
俺の言葉が効いたのか、少しの間、リックは棒立ちになっていた。やがて、
「失礼します」
と力無い声を出し、踵を返した。
「待てよ」
トレインが止めた。
「情報だけ貰って追い返したんじゃ目覚めが悪い。情報には情報を、がこの世界のルール
だからな、こっちが掴んでいる情報を一つだけ教えてやるゼ」
俺はトレインを睨んだ。
しかし、トレインは全く意に介さなかった。
「ダラタリはこの街に大量のヤクをばら蒔こうとしている。この街にあるチームの力を削
いで、自分のモノにしようとしているんだ。だから今、ヤクを集めているのさ」
「それは、どういう……?」
リックはもう一度振り返り、訊いた。
「さあな。サツなんだから、それくらい自分で調べろよ。ただ、ダラタリがこの街にヤク
をばら蒔く際、その橋頭堡になるのがディーンズの連中だ。ヤツらにはそういう役目があ
るから、それまでは大人しくしているよう指示されているハズだ」
「ディーンズを張っても無駄という事ですか?」
「今のうちにヤツらを押さえ込めば、ダラタリの目論見も潰せるかもしれんがな。俺は情
報に情報で返しただけ。ソイツをお前さんがどう使おうと知らねェよ」
「…………」
つかの間、リックは無言で考え込んでいた。そして、
「分かりました」
と言って部屋を出ようとし、扉の前で立ち止まった。
「スヴェンさん。一つ、お聞きしてもいいですか?」
「なんだ?」
リックの目を見ずに返事した。短くなった煙草を、携帯用灰皿に押し込む。
「先ほど、アナタは一番怪しいのは自分だと仰いましたが、あれは、ホシは掃除屋だとい
う意味ですか?」
俺は首を横に振った。
「ホシの目星はついている?」
「かもな」
「そうですか……」
リックは、残念そうな声をこぼした。

391例の899:2003/06/29(日) 01:07
 リックが部屋を去った後、体に重たい疲労感が残った。俺は、こめかみを指で揉みなが
ら溜息を一つ吐いた。
「黙って帰しゃいいのに」
そう言ってトレインを責めた。
「あの程度なら大丈夫さ。アレを上に報告したって、ウラを取ってからでなきゃサツは動
けねェよ」
「そうれはそうだが……」
俺は、余計な情報を与えて警察に先を越されることが心配だったわけじゃない。リックが
独走しやしないかを心配しているのだ。そのために、アイツを傷付ける言い方をして諦め
させようとしたのだ。
「あれくらいのお返しをやっとかないと、アイツ、署に戻ったらアンタのことを容疑者と
して報告するかもしれないゼ」
俺は驚いてトレインを見た。その可能性は考えていなかった。
トレインは、俺と目が合うとニヤッと笑った。
俺はもう一度溜息を吐き、新しい煙草に火を点けた。
しばらく、沈黙が流れた。リックがいた時とは違う、落ち着いた沈黙だった。
俺は、感傷的な気分に浸った。あれでよかったのだろうかと、自問自答を繰り返す。
「辛そうだな」
トレインが口を開いた。
「そう見えるか?」
「ああ。後悔しているように見える」
俺は、心の中を封じているタガが外れるのを感じた。自然と言葉が溢れ出す。
「デカとしての俺を育てたのはジョーだ。掃除屋としても、俺の大部分はジョーに貰った
ものだ。彼がいなかったら、今の俺は無い。感謝しているし、尊敬もしている。今でもだ。
そのジョーが、リックに俺を頼れと言った。ジョーは、リックを一人前に育てたかったん
だろう。俺に付かせて、デカというものを学ばせたかったんだ。俺はそうするべきだった。
いや、俺自身、そうしてやりたいと思った。俺がジョーから学んだモノを、ジョーが俺に
伝えたモノを、俺がリックに伝える。そいつは、キザな言い方をすれば、デカの血を受け
継ぐってことかもしれん。俺の中にある、ジョーから受け継いだデカの血を今度はリック
に受け渡す。そうすりゃ、ジョーは死んでも、リックの中にジョーというデカの血が生き
ていることになる」
「だが、追い返した」
「どんな世界であれ、人を育てるということには、責任ってモンが付いてくる。中途半端
で終わってはいけない。最後までキチッと見守る覚悟がいる。掃除屋を続ける俺には、そ
の覚悟も責任も持てない。この件が片付くまでの間、先輩の真似事をするくらいなら、い
っそのこと突き放しちまった方がいい。それに―――」
俺は、一度言葉を切って煙草の大きく吸い込んだ。そして、煙を勢いよく吐き出してから
続けた。
「リックは仲間を疑えない」
「……『市長の牙』は現職のデカ」
トレインの言葉に、俺は肯いた。

392例の899:2003/06/29(日) 01:07
「恐らく、そうだろう。ジョーの件を調べていた時、俺はその可能性をすぐに否定した。
デカが仲間を撃ち殺すなんて想像できなかった。ジョーも俺と同じように考えたんだろう。
だから、簡単に背中を見せた。
ステファノ殺しと同一犯なら、ジョーの死体を隠さなかったことも説明がつく。普通、死
体を隠せば、サツは行方不明者として捜査するだろう。だが、死体が見つかると、捜査は
殺人事件として行われる。ステファノをホテルに匿っている身としては、行方不明で捜査
されちゃマズイと考えた。殺人事件なら対象は人だが、行方不明の対象は場所だからな。
しかも、現職警官の行方不明なら、捜査は失踪と殺しの両方の線で行われる。人と場所、
それこそ街中にサツの目が行き渡ることになる。内情に詳しいヤツの犯行だ」
「それと、振り込まれた200万イェンもな。そのジョーっていうデカに渡してんだから、
他のデカにも渡していたっておかしくない」
「ジョーが同僚の不正に気付き、金はその口止め料として振り込まれたもので、それを返
しにケニス港へ行ったのだろうか」
俺の頭の中に、ジョーの『聞いてみてもらいたい』という言葉が甦った。あの時ジョーは、
俺に同僚の不正についての意見を求めようとしていたのかもしれない。
「ありえない話じゃないと思うゼ。だが、それでオッサンの名誉が回復するとしても、ア
イツは仲間を挙げる捜査に協力はできないだろう」
「もう一つ、リックは署内でホシと顔を合わせる機会が多い。俺達の考えをアイツに教え
ると、向こうにそれを知られる危険もある」
「ああ」
「そう頭で理解していても、心のどこかで捜査にリックを連れて行きたいと思っている。
ジョーが俺にしてくれたように、リックを鍛えてやりたいと思っている。ジョーが果たせ
なかったことだから」
「…………」
「くだらない感傷だと思うか、過去に縛られた」
俺は、中空を見つめて言った。
「正直に言うと、時々、羨ましく思うことがあるよ。俺は過去を捨てようとしているから」
そう言うと、トレインは短く鼻で笑った。自嘲の笑みだった。
「どうした?」
俺が尋ねると、トレインは肩をすくめて首を振った。
「いや、昔のことを思い出したんだ。話したことあったっけな、まだガキだった俺に殺し
の技術を叩き込んだヤツのこと。アンタとジョーってオッサンの関係と同じように、ソイ
ツは殺し屋としての俺の大部分を占めているんだ。ソイツは途中でおっ死んじまったけど、
もし中途半端で終わらずに最後まで俺を育て切っていたら、俺は今でも殺し屋をやってい
るかもしれないと思ってな」
俺は煙草を吸い、溜息とともに吐き出した。さっきまで心を押し潰していたモノが、少し
だけ軽くなったような気がしていた。
「過去を捨てるのは難しい」
トレインが呟いた。
「まったくだ」
俺は、煙草の煙を目で追いながら答えた。

393例の899:2003/07/01(火) 00:58
俺が不憫だと…

394名無しさん:2003/07/01(火) 01:10
>>393


395名無しさん:2003/07/06(日) 20:37
いや、楽しませてもらっとりますよ。

396例の899:2003/07/08(火) 01:47
 俺は、再び『コンポス』を訪れた。リックが帰って、しばらく経ってから出かけたのだ。
今回はトレインも一緒である。
目的は別にあったが、酒も呑むつもりだったので徒歩で向かった。
時間は十時半を少し過ぎたところで、店の中は席が七分ほど埋まっていた。これから人が
増え出す時間帯なのだろう。
汗とアルコールと煙草の混じった甘酸っぱい匂いが充満している。
「やっぱ、いつ嗅いでもこの匂いは気に入らねェ」
トレインがぼやいた。確かに、酒も煙草もやらない者にとってこの匂いは不快感しか与え
ない。俺は、その空気を鼻から大きく吸い込んで、辺りを見回した。
店内は、流れているBGMの曲名が分からないほど騒がしく、酒が充分に入っているのだ
ろう濁声で言い争いをしているのがどこからか聞こえる。前回来た時はいなかったウェイ
ターがテーブル席の間を忙しくかけ回っていた。
俺達はそういった中を掻き分け、カウンターを目指した。
バーテンダーは、見かけからは想像もつかないような手際の良さで、客の注文をこなして
いっていた。だが、その仕事に手一杯なためか、カウンターに近づく新たな客である俺達
に気づく素振りはなかった。
カウンターの右側に二つ空いているストゥールに向かおうとした時、反対側から声を掛け
られた。
「おーい、こっちだこっちだ!」
回りの騒がしさに消されないよう声を張り上げたのだろう。俺には、その声の主が誰だか
すぐに分かった。
カイト=フームだった。
目が合うと、カイトは手を振ってこちらに来るよう促した。
俺とトレインはカイトの右隣に腰を下ろした。カイトの顔は、橙灯の下でも分かるほど赤
く染まっていた。かなりの時間、呑み続けているのだろう。カウンターテーブルには、溶
けて小さくなった氷の浮かぶバーボンが置かれている。
俺は灰皿を手元に引き寄せてから、煙草に火を点けた。
「愛想のいい人間は嫌われるゼ」
「まぁそう言うなよ。今日はいつもの連中が集まらなくて暇してたんだ。一人で呑むのに
この店は合わねェからな」
そう言って俺の方に顔を近づけ、
「それに、ほとんどの掃除屋が帰っちまって、せっかくの稼ぎ時を逃がしちまったしな」
と小声で付け足した。息から酒の匂いがぷんと漂ってくる。
「儲かったのかい?」
俺が尋ねると、カイトは肩をすくめて首を横に振った。
ようやくこちらに気づいたバーテンダーに、俺はビールを注文した。続いてトレインが注
文を告げると、バーテンダーは険しい顔をして戻っていった。
「そっちのお兄さんは酒がダメないのかい?そういや、前に会った時もミルクだったな」
「まだ未成年なんだ」
トレインの返答に、カイトは短く吹き出した。
やがて、カウンターテーブルにコップと栓の抜かれたハイネケン、横に牛の絵が描かれた
牛乳瓶が置かれた。
「まさか、ただ呑みに来たってわけじゃないだろう?」
期待のこもった声でカイトが訊いてきた。
「ああ」
「よし」
カイトはストゥールから滑り降り、グラスを掴んで歩いていった。
俺は咥え煙草で両手にそれぞれコップと瓶を持ち、トレインとともに続いた。

397例の899:2003/07/08(火) 01:50
 中二階の五組置かれたテーブル席は、その三つに先客がいた。中央の空席は避けて、右
手前のテーブルに座った。
俺は自分のコップにハイネケンを注ぎ、一気に飲み干した。喉が乾いていたのだ。
二杯目を注ぎ出したところで、カイトが訊いてきた。
「知りたい情報はなんだい?」
「市警察のことだ」
「市警察?」
カイトは眉をしかめてオウム返しした。
「またジョーのことか?」
「ジョーも含めて、市警察全体だ」
「…………」
しばらく怪訝な表情で俺を見ていたカイトは、やがて首を振って言った。
「ブン屋の癖が出ちまった。今は情報屋に転職中なんだから、客のことを詮索しようとし
ちゃいけねェんだった。で、市警のなにが知りたいんだ?」
「まずはジョーだ。彼は金に困っていたか?」
すぐには答えが返ってこなかった。うつむき、グラスの中身に視線を落としている。
「……なんでそんなこと訊くんだい」
下の階の喧騒にかき消されそうなほど小さな声だった。それは、肯定したのと同じだ。
鼓動が高まり、拳を固く握り締める。
俺は、ゆっくりと深呼吸をしてから言った。
「客の詮索をしないのが情報屋なんだろ。知っているんだな?」
「ああ」
カイトは、グラスをチビリと舐めて答えた。
「下の娘か」
言って、自分の声が震えているのが分かった。
カイトは、驚いたような顔を俺に向けた。
「ジョーから喘息だと聞いていたが、違ったのか」
「ああ。事件があってすぐ、俺はジョーの身辺を洗ったよ。気に入ってたポリコだったか
ら気が引けたけど、仕事だからな。きな臭い話がありゃ記事にできるし、些細なことでも
情報屋として売りつけられる。
俺は彼の友人や親戚をあたったんだ。ここから少し離れたところに、ジョーのカミさんの
妹夫婦が住んでいてな。本人は話したがらなかったが、近所の住人が時々ジョーを見たと
言っていた。『きっと返す』とか『なん度もすまない』とか、しきりに礼を言っているの
を聞いたそうだ。
調べてみると、マルチナっていう下の娘が入退院を繰り返していた。その子を診ている病
院の職員に知り合いがいたから、ソイツに握らせて探ってもらって分かった。先天性の肺
病なんだそうだ。ソイツは医者じゃなくてただの職員なんで専門的なことは説明できなか
ったが、かなり重いらしい。
ジョーは、治療費の金策に苦労していたみたいだ」
話し終えると、カイトはグラスの残りを一気にあおった。
俺は、全身の力が抜けるような思いだった。予想していたとはいえ、事実として目の前で
明らかにされると、やはり心に堪える。
ジョーは金に困っていた。当然、警察もそれを掴んでいるだろう。だから、ジョーに多額
の振り込みがあったことを受けて、彼が事件の被害者ではなく共犯者である可能性を恐れ
て、彼の事件への関与に蓋をしようとしているのだ。もし、ジョーがこれほど金に困って
いなければ、もっと好意的に解釈されたハズである。俺がそうしたように。
俺は、大きく吸い込んだ紫煙をゆっくりと吐き出した。

398例の899:2003/07/20(日) 01:53
沈んだ気分になっている俺を尻目に、トレインが口を開いた。
「他にそれを知っていそうなヤツはいるかい?」
「うん?」
「例えば、職場の仲間に借金を申し込んだりはしていないか?」
トレインは、心持ち身を乗り出して訊いた。
「どうだろうな。ただ、そういうことが以前からあれば、噂くらいは俺の耳にも入ってい
たハズだ。多分、無かったと思うゼ」
「そ、か」
トレインはそう言うと、背もたれに身を戻した。
俺にはその質問の意図が掴めていた。
ジョーが金に困っていることを知っていた者が、金を使って彼を仲間に引き入れようとし、
トレインはその可能性のある人物を聞き出したかったのだ。
だが、本当にジョーは市長の、そしてダラタリの仲間になったのだろうか。俺は思い違い
をしてはいないだろうか。
ジョーの金銭的な苦境は、篭絡しようとする者にとっては付け入る隙だったかもしれない。
それでも、彼は口座に振り込まれた金を殺される直前に持ち出している。恐らく、密会の
相手に返そうとしたのだ。ユーク時代の彼は、刑事の不正を良しとしなかった。そのため、
同僚との間に摩擦が起こっていたが、彼はその姿勢を貫いていた。今回の場合も、彼は犯
罪への加担を拒否したのではないだろうか。
しかし、不審な点もある。入金された口座が、ジョーの妻であるスーザンのものだったこ
とだ。その口座に振り込んだのは、市長かその協力者である警察の人間だろう。ジョーの
口座番号であれば、署の人事記録に載っているものを見れば知ることができるが、夫人の
ものとなるとジョー本人から聞かされない限り知りようがない。それはつまり、ジョー自
身が金銭を受け取る意思があったということになる。
結局のところ、事実がどうであるのかは関係者に直接訊いてみなければ分からないようだ。
(なら、ジョーを殺したヤツを引きずり出すまでだ)
俺は灰皿に煙草を押しつけ、カイトに尋ねた。
「アンタ前に、カジノ建設の時に、警察の中で署長派と市長派に別れたって言ってたよな。
市長派の中で、特に市長との結びつきが強いヤツに心当たりはないか?」
「そういうヤツなら、そうだな。交通課のクラメンス課長。コイツの嫁さんは市長夫人と
仲が良い。夜会にもつるんで出かけている。他には……モーリスがいるな。殺人課のジェ
シー=モーリス。市長の腰巾着と呼ばれている市議の娘婿だ。すぐに思いつくのはこれく
らいだな」
「殺人課か」
トレインが呟いた。
「市長派の連中をリストアップできるかい?」
俺の頼みに、カイトは顔をしかめて、言った。
「主だった連中くらいならできるだろうが、全員は難しいな。なにせ、同じ組織内で二派
に別れて対立していたんだ。連中にしてみれば、触れられたくない部分だから、口も固く
なるってモンさ」
「そうか。仕方がない、別の方法を探してみるとしよう。あともう一つ、ジョーの住所を
教えてくれ」
「……会いに行くのか?」
「ああ。今はどんな些細なことでも知りたいんだ」
「そうか」
カイトは懐から例の古ぼけた手帳を取り出し、薄暗い照明の下でペンを走らせた。書き終
わると、そのページを破り取り、俺の方に差し出した。
俺はそれを受け取った。

399例の899:2003/07/21(月) 02:21
 『コンポス』を出ると、トレインが俺に話し掛けてきた。
「スヴェン」
「ん?」
「話、聞いてて思ったんだけどよ……」
俺とトレインは、並んで歩き出した。
「ジョーってオッサンを金で転ばせようとしたのが、沈黙させるためじゃなくて協力させ
るためだったとしたら、その目的はなんだったと思う?」
「目的?」
「ヤツらがやりたいのは、ヤクの運搬なんだ。で、トラブルが起こってこの街にヤクが持
ち込まれた。デカイ道は検問されてるし、他の道も掃除屋が張っている。その包囲網から
抜け出すためだったんじゃねェかな」
「どうやって?それとジョーを転ばすのとどう関係する?」
『転ぶ』『転ばす』というのは、『寝返る』や『裏切らせる』という意味だ。
「だからさ、警察車両さ。それも覆面とかじゃなく―――指を上に挙げてクルクル回し―
――上にパトランプがついている、さ」
「…………」
「それなら簡単に突破できると思うんだ。まさか、パトカーがヤクの運搬してるなんて誰
も思わねェだろうからな」
「ああ、確かに」
「で、だ。ヤツらは、元々、警察の中に仲間を持っている。だが、ソイツは一目見て警察
車両だと分かるようなのを使える立場じゃなかったのさ。だから、警ら課の警官を一人、
抱き込みに掛かった」
「お前、それでさっき―――」
「ああ。俺は殺人課のヤツに、ちょっと引っ掛かる。それはそうと……」
「どうした?」
「後ろ振り向くなよ。ツケられてるゼ」
「ホントか?」
俺は慌てて、しかし極力首を回さずに辺りをうかがった。
すでに十一時半に近く、人通りはまばらだった。数人が、俺達と反対方向へ進んでいる。
トレインは、俺の耳では拾えない一定間隔で着いてくる足音を捉えているのだろう。
「行きにもそれっぽいのはいたんだけど、それと同じヤツらみたいだ」
「行きにもいたのか」
「あん時は人が多かったからな、考え過ぎかと思ってた」
「仕方がない。次で曲がるぞ」
「ああ」
フォルト通りを歩いていた俺達は、メイ通りの一つ手前の狭い路地で折れた。
そこはビルの裏手側が並ぶ通りで、他の通行人は全くいなかった。
5mほど入ったところで俺とトレインは足を止めて、本通りの方を監視して待つことにし
た。ビルの通用門の上に備え付けられた青色の防蛾用蛍光灯が、時折、ジッジッと音を出
していた。
そのまま二分経っても、それらしいヤツは現れなかった。
更に一分待ったところで、トレインが痺れを切らしたように呟いた。
「来ねェな」
「俺達が勘付いたことを悟って引き上げたようだな。まだそれほどこっちを重要視してい
ないのか、それとも泳がせておこうとしているのか。そのどちらかだ」
「でもよォ、かなり巧い尾行だったゼ。ちゃんとした訓練を受けているヤツみたいな」
「ってことは、マフィアじゃねェな。警察の方か」
「多分、な」
俺は、壁にもたれ掛かって腕組みをした。
リックの言っていたことが本当だとすると、警察は未だ俺とジョーの関係を知らないハズ
だ。だからといって、俺達が運び屋の引き継ぎ役と疑われないわけでもない。
また、市長の協力者の線もある。俺達が色々と嗅ぎ回っていることを知り、動きを見張ら
せているのかもしれない。
「なかなか疲れる展開だな」
俺は、溜息混じりに言った。

400例の899:2003/07/21(月) 02:28
やばいです。
初期の頃に考えてたラストではしょぼ過ぎるので、
もう少し盛り上がる展開をあれこれ考えてたら
色々付け足しちゃってかなり長くなってしまいました。
てなわけで、後少しだったのがもうちょっと続きます。
亀仙人がコマの隅でそう言ってます。m(_ _)m

401名無しさん:2003/07/22(火) 22:56
のんびりいこう。

402例の899:2003/07/23(水) 02:54
 翌日、午前中のうちに、俺は車でジョーの家族が住む家に向かった。別行動のトレイン
は、なにをするわけでもなく街中をぶらついている。
昨夜のこともあったので、道中、時折ルームミラーで後ろを確認しながら車を走らせた。
繁華街から住宅地へと入るにつれ、交通量はぐんと減っていく。
地図で確認した目印のコンビニエンスストアがある角を右折すると、遅れてシルバーグレ
イのクラッスラー300Lが曲がってきた。40mほど後方だ。
もし、あれが尾行者なら、他の車を間に挟むことができないため、こちらに見つけられて
いることを向こうも承知しているハズだ。
速度を上げて相手がそれに遅れずに付いてくるか確かめるためにアクセルを踏み込んでみ
たが、エンジンは不機嫌な音をたてて、これ以上回転数が上がらないことを伝えてきた。
俺は舌打ちを一つして、車を路肩に停車させた。
300Lは停まることなく、猛スピードで横を追い越して行った。
ドアミラーは全面スモークで覆われており、運転者の顔を確認することはできなかった。
俺はサイドブレーキを引き、シートにもたれ掛かった。
昨夜と同じで、俺達に対して尾行、監視以上のアクションを起こす気配がない。妙な話だ。
もし、今の車が警察のものだとすれば、昨夜の時点で俺達が監視されていることを察知し
ている以上、もはや尻尾を掴ませるような行動をとらないと考えるハズである。つまり、
俺達がダラタリに雇われた次の運び屋兼殺し屋だとして、それを泳がせても裏で操ってい
る人間を炙り出すことはできなくなっているのだ。ならば、先ほどのように通り過ぎたり
せずに、停車して俺の身柄を抑えに掛かるだろう。車の中から、ヤクや拳銃などの証拠が
出てくれば、それで事件は解決である。ダラタリへと繋がる糸口も見つかるかもしれない。
今の車は、警察ではなく市長の協力者なのだろうか。しかし―――。
俺は、あることを確認するために、携帯でトレインに連絡を入れた。
「もしもし」
「俺だ。どうだ、ツケてくるヤツはいるか?」
「ああ、いるゼ、二人組。そっちは?」
「こっちもだ。だが、停まったら向こうは通り過ぎやがった」
「アンタの方は車だよな。それとは別にこっちへも二人ってことは、泊まっているホテル
からマークされていたのか。随分、組織的だな。市長の協力者ってそんな大勢なんかね?」
俺と同じ疑問を、トレインも持ったようだ。
「ジョーを仲間に引き入れようとした理由がお前の考えた通りなら、そんなに人数はいな
いと思うんだがな」
「だよな。やっぱ警察か。だとしたらアレじゃねェの?俺達を見張るのじゃなくて、見張
られていることを分からせるための尾行」
「俺達の動きを縛り付けるためのか?確かに、ヤツらの動きからはそんな感じがするけど、
それでなんの得がある。そんなモンに人手を割くくらいなら、さっさと噛んじまった方が
早いだろう」
「じゃあ、俺が直接訊いてみようか?」
「止めとけ。アチラさんはまだ事を構えたくないと思っているんだから、わざわざこっち
から手を出すこともない。そのうち向こうからやって来るさ。お前は簡単に拉致されるよ
うなタマじゃないから、それでも遅くはないだろう」
「ヘッ!お互いにな」
通話を終えた俺は、煙草を取り出して火を点けた。しばらく停車させたまま待って、他に
監視する者が現れないのを確認してから、サイドブレーキを下ろしてウィンカーを出した。

403例の899:2003/07/23(水) 02:56
なんか説明ばっかで読み難くて訳分からん文章だな
巧く纏まんない

404一応:2003/07/28(月) 16:09
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405例の899:2003/08/01(金) 02:15
 ベイブ家は、市内でも海岸線からかなり離れた一角にあった。
住宅街の道はかなり広く造られ、多くの緑が植えられている。通行者は人も車もほとんど
なく、静かなたたずまいをみせていた。
俺は、ベイブ家から少し離れたところに車を停めた。降り立って目的の方角に向かうと、
その敷地の奥で犬が吠え、番犬の役目を果たそうとしていた。キャンキャンという、小型
犬のものだ。
白壁で二階建てのその家は、前面の庭に芝を張り、背の低い植え込みで囲まれた中にテラ
スを持っていた。
一階も二階も、全ての窓にカーテンが引かれている。事前に電話で在宅を確認しておくべ
きだったかと思ったが、呼び鈴を押して犬の鳴き声を一層けたたましくさせると、ドアの
奥の方から、
「はいはい、人が来たのね。分かったわよ、マリー」
という力の無い声が聞こえてきた。
胸の締め付けられるような声だった。懐かしい声でもあったが、俺の覚えているスーザン
の声は、いつも溌剌とした声を出していた。
唐突に、ロイドの殉職を家族に伝えた時の記憶が甦り、俺は慌てて頭を振った。
ドアが開かれると、スーザンは突然の来訪者の顔を見て、目を丸くさせた。
「あ……」
「お久し振りです」
「スヴェン……」
その時、スーザンの足の下から小さな黒いモノが潜り抜けてきた。その黒いトイプードル
は、俺の足に前足を掛け、尻尾を忙しなく振りながら人懐こい声で鳴いた。
「ああ、マリー」
スーザンは俺の足許からマリーをヒョイと抱え上げると、俺の顔を優しい表情で眺めた。
「ホント、よく来てくれたわね。有難う」
そう言って、片手を俺の首に回し、軽い抱擁の挨拶をした。
「この度は、本当に―――」
スーザンは首を振って俺の言葉を遮り、
「入って」
と招き入れた。
 リビングを抜けて客間に案内すると、スーザンは俺にソファを勧めてカーテンを引き開
けた。
「家の中を暗くしていると、気分まで暗くなってしまうのに。ダメね、こんなことじゃ」
「留守かと思いました」
「ごめんなさいね。色々と尋ねてくる人も多くて、少し疲れていたの」
実際、スーザンの化粧気のない顔には疲労の色が濃い。後ろで纏めた髪の毛にも艶がなく、
ジョーの死が家族へ与えた衝撃の重さを推し量るには充分だった。
「警官の妻になった時に、こういうことになるかもしれないと覚悟していたハズなのに、
やっぱり辛いわ。やりきれない……」
「誰だってそうです。家族の死を、仕方がないと割り切ることなんてできやしません」
「そうね。でも、それだけじゃないの。警察が、あの人の死をうやむやにしようとしてい
るって話もあるの」
スーザンは、床を見つめたまま吐き出すように言った。
「その話はどこで?」
俺が尋ねると、彼女は顔を上げて言った。
「あの人と組んでいた部下の人が来て教えてくれたわ」
リックのことだろう。昔、俺がジョーの家族と時間を共にしたように、リックもこの家に
時々訪れていたと思われる。
「二十年近く警察のために身を粉にして頑張ってきたのに……ごめんなさい。まるでアナ
タにあたっているみたいね、私。少し待ってて」
そう言うと、スーザンは俺を残して部屋を出ていった。

406例の899:2003/08/09(土) 02:44
 一人残った俺は、客間の窓から外を眺めた。
閑静な住宅街に夏の日差しが降りかかる、平和そのものの眺めだった。だが、この家の中
の雰囲気は、それら外の様子とは全くかけ離れていた。殺人という非日常的な事件に飲み
込まれ、重く沈んだ空気が充満している。
俺の記憶では、スーザンの歳はジョーと同じだったハズで、先ほどの彼女は、体型こそあ
まり変化は無かったが、それ以外の点では四十という年齢よりも老けて見えていた。
夫を失い、難病の娘を抱えた彼女の行く末を思うと、自然と溜息が出てしまう。
刑事をしていた時も掃除屋になってからも、犯罪被害者というものを数多く見てきたつも
りだ。親しい人間が被害者になったこともある。だが、いくら経験しても、それに慣れる
ことはない。俺はそれほど器用な人間ではないのだ。
 カップを二つ乗せたトレイを持って戻ってきたスーザンは、
「確か、ミルク入りの砂糖抜きで良かったわね」
と片方を俺の前に置き、対面のソファに腰を下ろした。
「それにしてもアナタ、その右目はどうしたの?」
俺は右目に軽く触れて答えた。
「こいつは、俺の甘さが招いた代償のようなものというか……」
「そう。どうしてそんなに危険な仕事をするのかしら。仕事なら他にも一杯あるのに」
スーザンは、顔を横に向けて呟いた。その言葉は、俺ではない誰かに語り掛けているよう
に聞こえた。
「確かに、こういう仕事には危険が付き物です。誰だって危険な目にあいたくはないし、
他に、もっと自分に合った、楽な仕事があるのかもしれない。でも、危険が多い分、他の
仕事では味わえないほどのやり甲斐を得られるんです。恐怖を感じれば感じるほど、そこ
から解放された時、言葉にならない気分になる。正義を守った、市民を助けたという誇り。
それを味わってしまうと、自分にはこの仕事しか無いと思ってしまうんです。これが天職
だと思い込んでしまう。そんな思いが、危険の中に飛び込むことになんの疑問も感じなく
させてしまうんです。正義感の強い人ほど、その思いはより強いかもしれません。男って
のはみんな、子供の頃、正義の味方に憧れるモンですから」
ジッと俺の説を聞いていたスーザンは、微かに笑みをこぼして言った。
「アナタが刑事をするのも、同じ理由から?」
「俺の場合は、ホンの少し違いました。それに俺は、もう刑事じゃないんです。IBIは
辞めました」
覚悟していたとはいえ、驚くスーザンの顔を見せられると、心が小さく痛んだ。あの時の、
落胆したジョーの顔が甦る。
「辞めた?」
「もう五年くらい前になります。当時のIBIは、設立当初の目的から離れた組織になっ
ていました。多発する国境を超えた犯罪、麻薬や武器の密輸入に対抗するための超国家的
組織のハズが、思うような成果が得られず、掃除屋に頼るようになっていたんです。その
うち、組織としての価値を失い、いつの間にかただの警察の上部組織になってしまってい
たんです」
俺は、一息吐いてコーヒーを口に含んだ。妙な気分だった。あの時、ジョーに話せなかっ
たことが、今は自然と口に出せてしまう。
スーザンが俺の後ろにジョーを見て語り掛けていたように、俺もスーザンの後ろにジョー
を見ているのかもしれない。

407例の899:2003/08/11(月) 00:46
「それが理由で?」
「いや……」
俺は少しためらった。刑事である夫を亡くしたばかりであるスーザンに、仲間の、それも
妻子を持つ刑事の死が直接の原因であることを伝えるのは、酷なことではないだろうか。
だが、そんな心の迷いとは裏腹に、口が勝手に言葉を続けた。
「理由はもう一つあります。きっかけとしては、こっちの方が強い。俺のミスで相棒を死
なせてしまったんです。ソイツ―――ロイドとは二年近くコンビを組んでいました。ある
時、俺達は麻薬組織のボスを塀の中に送り込んだんですが、ドジッた俺はその手下共に捕
まり、監禁されてしまったんです。俺を助けるためにロイドは一人で乗り込んできて……。
この右目は、その時に失いました。今は、死んだ相棒の目が移植されています」
スーザンは、明らかに困惑していた。掛けるべき言葉が見つからないといった様子だ。
俺の口は更に続けた。
「ロイドは本当に良い刑事でした。でも、上層部はその事件を特に重く扱わず、掃除屋偏
重の方針を固めるのに利用しただけでした。俺は、そんな組織に命を預ける気にはなれな
かった。アイツの家族にも、なんて伝えたらいいのか……」
スーザンは、憐れみのこもった目で俺を見つめていた。
俺は再びコーヒーカップを持ち上げた。
「そう。それで刑事を辞めたのね」
「ええ」
コーヒーを一口舐める。
「それで、今はどうしているの?」
「……掃除屋をやっています。ロイドから右目を貰いながら、全てを捨て去ることはでき
ませんでした。なんらかの形で、犯罪の取り締まりに関わりたかったんです」
「右目を失うほど危ない目に遭って、仲間を殺されても、まだ、危険な仕事から離れられ
ないのね、アナタは」
その言葉は俺の心を突き刺した。スーザンの憐れみの表情は変わらない。
「自分でも、もっと上手く生きられないかと思う時があります。ただ、今の俺があるのは、
色々な人に影響を受け、育てられ、関わってきたからです。確かに、その人達は、俺がこ
の世界から手を引いて安全な暮らしを選んだとしても、『裏切られた』とは思わないでし
ょう。でも、そんな生き方は、俺自身が許せない。俺は、俺自身を裏切りたくないんです」
スーザンは手を口に当てて短く笑った。
「ごめんなさい、少し思い出したの。『紳士たれ』っていうのがアナタの口癖だったもの
ね、昔から。紳士は、地位や格好じゃない。生き方だって……変わってないわね」
照れもあって、俺は苦笑を返した。
スーザンは、膝の上に両手を組んで、優しい笑みを浮かべた。
「それで、今日、来たのは昔の友人として?それとも、掃除屋として?」
いよいよ、本題に入る。俺は姿勢を正して答えた。
「両方です」
「そう、やっぱり」
「あの日、俺はジョーに会っているんです」
スーザンの顔から笑みが消えた。

408例の899:2003/08/16(土) 02:16
「俺は、ある事件を追ってこの街に来ました。一週間くらい前のことです。そして、事件
の起こった丁度その日に、彼と会いました。昼頃で、ジョーの部下のリックにもその時に
会っています。事件のことは、二日後の新聞で知りました。本当は、もっと早くにこちら
にうかがうべきだったのに……すいません」
スーザンは手を振って答えた。
「それはイイの。あれ以来、ずっと刑事さんやら記者さんやらがやって来るし、知人も多
く慰めに来たりして休まる暇が無かったんですもの。少し落ちついてから来てくれた方が
嬉しいわ」
「そう言っていただけると……」
「それで、会った時、ジョーはなんて?」
「再会を喜んでくれました。ただ、その時に、『お前に聞いてもらいたいことがある』と
言っていました。彼は、仕事のことでなにか悩んでいたりはしませんでしたか?」
俺の問いに、スーザンは視線を床に落とした。
「仕事のことでの悩みは知らないわ。家庭では、仕事の話は滅多にしない人だったから」
「同僚の名前とかも出てこなかった?」
「ええ。リックがこの家に遊びに来た時くらいかしら、仕事の話をするのは。でも、他の
人の名前は出てこなかったわ。ただ……」
「…………」
「あの人は、家族の問題で悩みを抱えていたの」
スーザンは、ゆっくりと首を振りながら言った。
「ジョーから聞きました。下のお嬢さんが病気だそうで。彼は喘息だと言っていましたが、
本当はもう少し重い病気であることも知っています」
「調べたのね」
俺は頷いた。再び、心が痛みを発した。
「掃除屋としてうかがった理由を全て話します。俺が追っていた事件というのは、麻薬の
運び屋でした。その運び屋は殺され、今は別の人間がその役を引き継いでいます。恐らく、
運び屋を殺した犯人がそれだと思われます。問題なのは、その殺された運び屋の体から、
ジョーの事件で使われたのと同じ銃で発射されたと思われる弾が見つかったことです。こ
の話は、リックから聞きました。それと、アナタの口座に無記名で200万イェンが振り
込まれていたことも」
俺が話し終わると、スーザンは目を閉じて言った。
「そう……アナタの言いたいこと、聞きたいことは分かったわ。そうね、そう思うのが当
然だわ」
「それを疑っているから、警察はジョーの事件をうやむやに処理しようとしているんです」
「リックはそれが許せなかったのね。だから、殺された運び屋とジョーの事件の関係を私
に教えてくれて、アナタにも話した。リックから聞いたということは、彼はアナタに協力
を求めたんでしょう?」
「ええ。でも、断りました。彼は警官で、俺は掃除屋です。目的は同じでも、やり方が全
く違う。それに、もし俺達と一緒に行動して事件を解決したら、彼は警察を辞めなければ
ならなくなるかもしれない。職を失わずに済んだとしても、一生、出世はできなくなるで
しょう。上の指示に逆らうことになるんですから」
「リックはアナタに似ているわ。真面目で、優しくて、勇敢で、そして頑固なところがあ
るの。多分、彼は諦めてないハズよ。今も、一人で捜査を続けようとしているのかもしれ
ない。もし、この先、彼が捜査で危険な目にあうようなことがあれば、お願いだから助け
てあげてね」
スーザンは俺の目を見据えて言った。
「……はい」
俺が答えると、スーザンは安心したように目を閉じて頷いた。彼女は彼女なりに、ジョー
の部下だったリックの身を案じているのだろう。
「それで、アナタは、ジョーが事件にどう関わっていると考えているの?」
スーザンは、俺に視線を戻して言った。

409例の899:2003/08/27(水) 02:59
「俺は……正直に言って、よく分かりません。200万イェンは、ジョーが犯罪に荷担し
て得たものかもしれないし、なにかの秘密を握られた者がその口止めとして払ったものか
もしれない。その場合、ジョーに無断で振り込まれたのかもしれない。可能性はいろいろ
と想像できますが、問題なのは、ジョーは金銭的に困っていることと、俺が彼の昔を知っ
ているということです。俺の知る彼は、不正とは無縁の人物でした。買収も取り引きも応
じない。むしろ、それを憎んでいました。確かに、八年は人が変わるには充分な年月です。
しかし、リックがあれほど熱心にジョーの無実を訴えているのをみると、俺の知るジョー
とリックの知るジョーは、そんなに変わりがないように思える」
「残念だけど、私はその答えを持っていないわ。200万イェンのことを知らなかったの
もホントよ。ジョーは、そのことについてなにも話してくれなかった。あの日も、少し遅
くなるって電話があっただけで……」
スーザンは表情を曇らせ、窓の方に顔を向けた。
「おかしなものね。私とジョーは、学生の頃からの付き合いだったわ。お腹に子供がいた
から、彼が警察官になったのと同時に結婚して、人生の半分近くを共に過ごしてきた。そ
う思っていたわ。彼の全てを知っていると。でも、そうじゃなかったわね」
「ジョーは、家族を巻き込みたくなかったんです。だから、父親としてではなく、警官と
して事態を処理しようとしたんだと思います」
「私もそう思うわ。彼は、警察という仕事を愛していた。警官であることを誇りにしてい
た。ただ、それ以上に、家族のことを愛していたわ。私に言えるのはそれだけよ」
最後の言葉が、俺の心に深く残った。それが、俺の疑問に対する彼女なりの答えなのだ。
もう、これ以上の情報は得られないだろう。また、それを求めるのは彼女にとっても酷な
ことだと、俺は判断した。
 礼と再会の約束を済まし、戸口をくぐろうとしたところで、俺はスーザンに呼び止めら
れた。
「ちょっと待って、スヴェン。一つ、言っておきたいことがあるの」
「なんです?」
「アナタはジョーのためを思ってこの事件を解決しようと考えているのだろうけど、あん
まり自分を追い詰めたりはしないで欲しいの。私は、アナタに全てを押し付けるつもりは
無いわ。それだけは、覚えておいて」
「……はい」
俺が答えると、スーザンの顔に優しい微笑みが戻った。そして、戸口の外になにかを見つ
けて、
「あら、ちょうどイイわ」
と喜んだ。
スーザンの視線を追って振り返った俺の視界に、一人の少女が立っているのが映っていた。

410例の899:2003/09/04(木) 03:07
眩しい日差しの中に浮かび上がったその姿に、俺の目はしばらくくぎ付けになった。
少女は美しかった。
きめ細かい褐色の肌は太陽に照らされて輝き、艶のある黒髪をアップで纏め、黒のタンク
トップに少し色褪せたジーンズを履きこなしている。両手で少し大きめのボストンバック
を持っていた。控えめに膨らむ二つの丘に、程よく引き締まった腰のくびれは、男の目を
嫌でも惹き付けるだろう。肩から腰にかけてのラインが女性と呼ぶにはまだ未成熟だが、
蕾が花開く直前の僅かな瞬間しか存在し得ない儚げな美しさがそこにはあった。全身から、
若さというエネルギーが満ち溢れていた。
少女は目を見開き、驚きの表情で俺を見つめていた。その目許はスーザンによく似ている。
二、三度、目をしばたたき、外見によく似合ったハスキーな声で言った。
「スヴェン、来てたんだ」
見惚れていた俺は、呟くように言った。
「こりゃあ驚いた……そうだよな、八年も経ってるんだよな。あの小さかったエリスが、
もう立派なレディだ」
俺の台詞が大げさだと感じたのか、エリスは照れたようにうつむいた。所在無さげに肩を
小さく揺らし、バックを左右に振っている。その仕草もチャーミングだった。
「アナタの言い方、歳とったオジさんみたいよ」
背後でスーザンが短く笑いながら言った。
「本心だよ。ホントに綺麗になった」
俺は、正直な気持ちを感嘆の溜息混じりに述べた。
俺は普段、紳士として女性を敬うようにはしているが、浮ついた台詞を彼女達に投げかけ
ることは少ない。見惚れていたとはいえ、エリスの容姿を素直に褒め称えるのは、未だ心
のどこかで彼女を子供扱いしているからだろうか。
そんな俺の思いなど気付かないエリスは、
「ありがとう」
と、はにかんだ微笑みを返した。
「この夏から美大生になってね。ホントならもう向こうの下宿先で落ち着いてなきゃなら
ない時期なんだけど、こんなことになったでしょ?それでこっちに留まって、家のことを
手伝ってくれてるの。今も、マルチナのお見舞いと差し入れに行ってもらっていたところ。
ちょうどイイ時に帰ってきたわ」
スーザンは、エリスの持っていたボストンバックを受け取りながら、俺にそう教えてくれ
た。多分、バックの中には入院中しているマルチナの洗濯物が入っているのだろう。
バックを渡した後も、エリスはなにかを話すこともなく、その場でうつむいたまま立って
いた。
子供の頃に親しかった大人と成長してから再会した際、その態度はだいたい決まっている。
大人としての社交性を発揮するより恥ずかしさが先に立ち、どうしていいか分からずにた
だその場で黙りこくってしまうのだ。彼女くらいの年頃の女性なら特に。
俺がしつこく留まるとエリスを困らせるだろうと考え、早々に退散することに決めた。
「そう。いろいろなことが重なって大変だろうけど、スーザンや妹を助けてあげなきゃな。
俺はなんの役にも立てないだろうけど、応援しているよ。もちろん、ジョーも天国で見守
ってくれているハズだから。今日はエリスに会えてホントに嬉しかったよ。スーザンも。
それじゃあ……」
別れの挨拶を済ませ、前庭の通路を中程まで進むと、今度はエリスに呼び止められた。
「あ、ちょっと……」
「ん?」
俺が振り向くと、エリスは躊躇うような仕草を見せた。なにかを言おうと口を開き、それ
を閉じる。
「いえ……イイの。ゴメンナサイ」
「そうか」
俺は、後ろ髪を引かれる思いでベイブ家を後にすることになった。
 歩道に出て、車を停めておいた場所を見た俺は、思わず煙草を取り出す手を止めた。俺
の車の直前に、来た時には無かった車が停まっていたからだ。
先ほどの尾行車だろうかと思ったが、少しだけ近付くとそうでないことが分かった。停ま
っている車はキャドリックのゼヴィル。尾行するには相応しくない高級車である。
(さっきのヤツらとはまた別の敵か?)
俺は車から5mほど離れたところで立ち止まった。左側には、体を充分隠せる太さのブナ
の木が植えられている。
まさか、昼間の住宅街でいきなり発砲してくるということは無いだろうが、自分の拳銃を
車の中に置いてきたことを、俺は後悔した。
その時、ゼヴィルの左後部ドアが開かれた。俺は右足を半歩、後ろにずらす。
車からスーツ姿の男が降り立ち、ゆっくりと俺の方を向いた。
現れたのは、一目見て力仕事より頭を使う方が得意だと分かる男だった。だが、どこか引
っ掛かるところがある。
俺は思い出した。
スーツ姿の男は、IBI時代の同僚だった。

411例の899:2003/09/10(水) 02:28
 俺とその男―――パット=スミスは、IBIに同じ時期に入局した。ハルバート大学か
らIBIというお決まりのエリートコースを進み、同期の中でも特に官僚的な考え方をす
るヤツだった。スミスは、ミスをしないことを第一とし、そのため、強引な捜査をするヤ
ツら―――その中には俺も含まれる―――とは対立することが多かった。IBIは、表面
上は実力主義を謳っているが、実際は失点の少ない者が上へ行く。仕事上のミスは、経歴
の傷として一生背負わなければならないのだ。スミスは、誰にも増して出世願望の強い人
間だった。しかし、彼は決して無能な捜査官ではなかった。刑事という仕事に誇りを持ち、
IBIが国境を超えて巨大化する犯罪組織に対抗し得る存在になると信じていた。だから
こそ、彼は現在の掃除屋に依存するIBIの体質に不満を持ち、上に立って組織を改革し
ようとやっきになっていたのだ。
そんなスミスにとって、IBIを抜けて掃除屋に転身した俺は、裏切り者でしかなかった。
 スミスは、挑むような視線で俺を見据えていた。
俺は、腹の中から湧き上がる様々な感情を押し殺し、平静を装ってゆっくりと自分の車へ
と向かった。それに呼応するように、スミスも俺の車の横へ移動する。
俺達は、車を挟んで対峙した。
ボンネットが邪魔で腰から下が隠れているが、俺はスミスを足許から顔へと値踏みするよ
うに見ていった。
濃紺色したシルクのスーツは、一目見てオーダーメイドと分かるほど仕立てが良く、頭髪
も綺麗にオールバックに撫で付けられている。この炎天下にあって、スミスの広い額には
汗の一滴も浮かんでいなかった。
俺は、視線をスミスの目に戻し、口を開いた。
「昨夜から俺達を尾行けていたのはお前らか」
「そうだ。正確には、昨日の昼過ぎからだが」
「へぇ、随分と俺達を重要視しているんだな。それで、尾行にも気付かれたんで、とうと
う指揮官自らお出ましってワケか」
「昨日の時点では、対象者の身元が俺のところにまで伝わっていなかったのだ。お前だと
知っていたら、無駄なことなどさせずに最初から俺が出向いていたよ」
「それは有り難いことで。だが、こっちはお前と話すことは無いがな」
俺はポケットから車の鍵を取り出した。
「市長の件から手を引け」
スミスの低く抑えられた声には、有無を言わさぬ命令のような凄味があった。
「それこそお前と話すようなことじゃない。これは俺の仕事だからな。文句なら、掃除屋
協会を通して言ってくれ」
そう言い放ち、俺は鍵を差し込んだ。ロックを解いて運転席に着くと、助手席にスミスが
滑り込んできた。
「おい」
「駐車したままだと人目に付く。出せ」
「取り引きはしないゼ」
「俺が勝手に喋るだけだ。イイから出せ」
スミスはフロントガラスに顔を向けたまま言った。俺はその横顔をしばらく見つめていた
が、諦めてエンジンをスタートさせた。

412例の899:2003/09/10(水) 02:30
もうホントに誰もいないんじゃ…(;゚Д゚)

413名無しさん:2003/09/10(水) 08:15
見てるには見てるけどなんか途中で横槍入れるのもなんなので。

414例の899:2003/09/15(月) 02:19
 車を路肩から車線に復帰させると、ルームミラーでキャドリックが後からついてきてい
るのが確認できた。しかし、ヤツらが俺達を監視していたということは、俺達がどこの宿
に泊まっているのかも知っているハズだ。だから、俺はなにも言わずに来た道を戻るコー
スを辿った。
炎天下に晒されていた車内の温度を快適なモノにするため、エアコンは派手な音を立てて
忠実に仕事をこなしていた。しかし、その音がこれからの会話の邪魔になると判断したの
だろうスミスが、俺に断り無しにエアコンの温度設定を弄りだした。右目が眼帯で遮られ
ているため、助手席の様子をうかがうには首を九十度曲げなくてはならない。俺はホンの
一瞬だけスミスを見ると、すぐに顔を進行方向に戻し、ベイブ家を出てから吸いたくて我
慢できなくなっていた煙草を取り出した。
住宅街の道路を抜けて本通りに合流する交差点で信号に捕まった。その隙に、口に咥えた
煙草に火を点けようとした俺の目の前に、スミスが一枚の紙片を差し出した。
「これが今の俺だ」
俺はスミスから名刺を受け取った。
名刺には、<IBI・US 第二捜査部四課 課長補佐>とあった。
「順調に出世してるようだな。もしかして出世頭か?」
俺の問いに、スミスは答えなかった。
俺は名刺をサインバイザーの隙間に挟み込み、煙草に火を点けた。
信号が青に変わり、車を発進させる。
スミスが口を開いた。
「状況を手短に教えてやる。二週間前、密告を受けて三課がポートグローブ空港を張って
いた。しかし、三課が押さえたのは囮の方だった。本命はさっさとゲートをくぐり抜け、
こっちのヤツらにブツを引き渡した。三課は州警察に協力を要請し、一斉検問でレゴン州
の交通網を完封した。その直後、州警察の方に新たな密告があったらしい。『運び屋はフ
ォルニア州ではなくクリントン州の方に向かう』と。それを知った三課は、俺達に情報の
提供を求めた」
IBI・USは、南北アメリア大陸全土をフォローする。しかし、一つの組織で全てをま
かなうには、その地域は広大過ぎた。そのため、IBI・USは大陸を四つに分け、それ
に伴って捜査部も四つに分けているのだ。そして、犯罪の発生した地域の捜査部が、その
事件を担当するという形を採っている。第一捜査部が北米東側、第二捜査部が北米西側、
第三捜査部が中米と南米北側、第四捜査部が南米南側だ。
更に、各捜査部はその対象や扱う事案によって、内部にいくつかの課を設けていた。三課
は麻薬犯罪を扱うことから、麻薬取締部(麻取)とも呼ばれている。俺がかつて所属して
いた第二捜査部四課は、組織犯罪を対象にしていた。マフィアの動向を探り、勢力図を把
握し、壊滅もしくはコントロールする。
各捜査部には縄張りというものが無い。IBIが相手にするのは国際刑事法に違反した犯
罪者であり、そういった犯罪者の中には、犯行後に州境や国境を跨ぐヤツが多い。第一捜
査部の担当地域で犯罪を犯したヤツが第三捜査部の担当地域に逃げ込んでも、その事件を
担当する第一捜査部の人員は、そのまま第三捜査部の担当地域で捜査を継続することがで
きる。その場合、第三捜査部の方でも軽重の協力を行い、それはIBI・USとIBI・
EUの間でも変わらない。人員、情報といったものは、IBIという組織の中ではフレキ
シブルに扱われている。
しかし、それはあくまでも建前であり、実際のところ、捜査官は別部署の担当地域に出向
するのを嫌っている。なぜなら、その出向は、自らの担当地域から犯罪者を逃がしてしま
ったことの証明になるからだ。そして、担当地域へ犯罪者に入り込まれてしまった方の捜
査官は、出向してきた担当刑事達のことを、陰で『無能』と罵る。こうなってしまうと、
相互に有用な協力関係は望めなくなる。これもまた、IBIの検挙率を悪くさせ、上層部
の掃除屋偏重を後押ししている。
こうした体質の改善を望んでいるスミスならば、三課からの要請に全力でもって応えてい
るだろうことは想像に難くない。

415例の899:2003/09/15(月) 02:20
>>413
よかった
ホントによかったよ、一人でもいてくれて(;´Д⊂)

416名無しさん:2003/09/16(火) 16:56
>>415
俺も読ませてもらってます。超頑張ってください。

417例の899:2003/09/20(土) 01:17
風呂上りに少し

>>416
あんまり頑張る気しません
本編とあんまり矛盾しないようにと気をつけてるんだけどね
あれはないよな
敵地への潜入で一塊になって行動するなっての
一連射で全滅じゃないか、馬鹿
大沢在昌曰く、「お喋り好きの女子高生じゃないんだ、一箇所に固まるな」

あと、本スレの>>69は大正解

418名無しさん:2003/09/21(日) 02:47
知欠に戦略とかそんなもん求めても無駄。
あっちの世界では頭脳派と言われるセフィリアでさえパーなんだから

419名無しさん:2003/09/23(火) 01:07
しかしここってナリの掲示板のはずなのにナリちっとも来ないよな。

420例の899:2003/09/24(水) 02:04
>>419
実は以前からそれが気になっていたりする
>>413と同じ理由でそっとしておいてくれているのか、
全く見向きされてないのか…
どうも後者のような気がしてならない

まぁ構われたら構われたでお約束の言葉で返しちゃいそうなんだけど

421例の899:2003/09/24(水) 02:05
「クリントン州に本拠を構え、現在、ヤクの取り引きを派手に行い、情報の収集に長けた
デカイ組織と対立しているということで、ダラタリ・ファミリーの仕事だと俺達は判断し
た。三課に協力して、俺達はダラタリの監視と運び屋役の身元割り出しを急いだが、なに
しろデカイ組織だ。末端構成員に至るまで、その動きを掴むまで随分と時間がかかった。
手間取っているうちに二人目の運び屋が発見されて、状況はガラリと変わってしまった。
スヴェン、お前がこのヤマを追い出したのはいつ頃だ?」
「……確か、一人目が見つかった翌日からだったか。その次の日に、この街に来た」
「ほぅ。そんなに早くから、ここに目をつけていたのか」
「潜伏する場所を決めてかかるしか手が無かっただけだ」
俺の答えを、スミスは鼻であしらった。
「四課では、メイスペリー市のヤンデン市長がダラタリと繋がっていることを随分と前か
ら掴んでいた。それらしき動きを見せたら、すぐに噛んでやろうと目を光らせていたのだ。
それもあって、二人目がこの街の近くで発見された時点で、このヤマは三課と四課の合同
で受け持つことになった。市長とダラタリの繋がりは、お前も知っているだろう?相棒に
市庁舎を張らせていたくらいだ」
「そうか。昨日の昼からってのはそういうことか」
昨日の昼間、トレインは市庁舎を監視していた。市長とダラタリの繋がりを知っていた四
課も、同様のことをしていたのだ。二人組の貧乏掃除屋と違い、IBIなら市庁舎がよく
見える近くのビルの一室を借りることもできる。他の監視者の存在に気付けるのはどちら
かなど、比べるまでも無い。
「掃除屋連中の存在も無視するわけにはいかないんでな。この街にやってきている掃除屋
は、全員リストアップしていた。三人目の運び屋が、名前と顔写真の発表前というあから
さまな消され方をして、ほとんどの掃除屋が街から去っていったハズなのに、市庁舎に張
りついているヤツ、しかもリストにある掃除屋と分かって、現場の方では慌てたらしい。
その掃除屋は訪問客の一人を追い出したので、即座にチームを組んで尾行にあたらせた。
今日になって、その報告が俺のところに届けられたというわけだ。
それともう一つ、お前がどうやって市長とダラタリの繋がりを掴んだのかは知らんが、つ
いでに教えてやる。二十七年前、ヤンデン市長の父であるジェシー=ヤンデンが、ダラタ
リの経営する会社との癒着が噂されたことがあった。その時、捜査の指揮を取ったのが、
シーン第二捜査部部長だ」
その名前は、俺にある種の衝撃を与えた。ゼブ=シーンは、俺がIBIに在籍していた頃
の第二捜査部四課課長であり、課の皆から『親父さん』と慕われていた人物である。

422例の899:2003/09/24(水) 02:18
「そうか、親父さんが……。そんな因縁があったんじゃ、今回の捜査の指揮にも力が入っ
ているだろうな」
「分かったのなら、お前はこの件から手を引くんだ」
再び、有無を言わさぬ命令口調だ。まるで、上官が下っ端の一般兵に下すような。俺は少
しだけカチンときたが、努めて冷静を装って答えた。
「悪いが、それはできない」
「金か、そんなに金が欲しいのか!」
スミスは、怒りと侮蔑を込めて言い放った。
「掃除屋だからな、賞金には全く興味が無いと言えば嘘になる。だが、賞金首なら他にも
いるし、親父さんには世話になった。課長が―――今は部長か、部長が長年追い続けてい
たヤマなら、俺もそれを邪魔したくはない」
「そう思うのならば―――」
「ただ、俺にも金の他にこのヤマから手を引けない理由がある。一週間ほど前に殺された
市警察の巡査部長、彼は俺の恩人だ。IBI入局前の一年研修でネオ・ユーク市警に出向
した時、俺の面倒を見てくれたのが彼だ」
「……ジョー=ベイブ巡査部長か。しかし、彼の死は今度の件とは―――」
「隠さなくてもいい。ジョーに使われたのと三人目の運び屋に使われたのが同じ銃だった
という鑑定結果も、彼が不審な入金を受けていたことも、俺は知っている」
「なぜそれを!?」
「親切にも教えてくれるヤツがいてな。頭ごなしに圧力をかけて押さえ込んだつもりでも、
下の方には不満を持っているヤツが多くいることを忘れるな」
「なにを!」
「親切なヤツが教えてくれたよ。市警察が、運び屋の方を扱うだけでジョーの件をうやむ
やに処理することに決めたってな。おかしいと思わんか?不祥事絡みとはいえ、警官を一
人殺されてるんだ。本来なら、そういう事件は全力で解決しようとするし、身内の恥だか
ら隠そうと考えても、そう簡単に隠せるモンじゃない。本部から監査だって来るハズだ。
それに、聞いた話じゃここの署長はそういった職務に不誠実な対応をすることを嫌うよう
な人物に思える―――」
そこでいったん言葉を止め、スミスの顔をチラリとうかがった。口を真一文字に結ぶその
表情に、大した変化は見つからない。
俺は、視線を前に戻して続けた。
「―――つまり、手を引いたんじゃなくて、引かされたんだ。お前らが圧力をかけてな。
大方、監査を黙らせることを条件に、市警を押さえつけたんだろう。自分達が市長を手に
入れるまでは、邪魔をして欲しくないってことか」
「……捜査協力の要請は、正規の手続きにのっとって行われている」
「警察としての職分を全うしないことが捜査協力か。傲慢な言い方だな。反吐が出るゼ!」
「貴様にそんなことを言える資格など無い!」
スミスの言葉は、今にも俺に掴みかかりそうな怒気を孕んでいた。

423</b><font color=#FF0000>(Nari/uzA)</font><b>:2003/09/26(金) 04:37
本スレで随分嫌われてるみたいだから書き込みしづらかったナリよ(´・ω・`)

424名無しさん:2003/09/26(金) 07:57
>>423
そうか、でも本スレでは氏ね。

425例の899:2003/10/03(金) 02:26
「資格だと?」
「IBIを裏切った貴様が、今更どの口で俺達を非難するというのだ!」
「…………」
俺は、なにも言えなくなってしまった。
「貴様も覚えているハズだ。IBIを変える、変えなきゃならない。あの頃の俺達は、二
言目にはそう唱えてホシを追っていた。共通の目標があった。俺も、貴様も、ロイドもだ。
なのに貴様は、ロイドの遺志を踏みにじった!俺達があれほど嫌っていた掃除屋に、恥知
らずにも寝返った!その貴様が、また邪魔をするというのか!」
そうだ。俺は裏切り者であり、ロイドの死という痛みから逃げ出した卑怯者だ。
ジョーの失望、スーザンの困惑、そしてスミスの怒り。それらは全て、俺が受け止めなく
てはならない罰だった。
沈黙する俺に向かってスミスは続けた。
「今度の事件、ヤンデン市長が目的ではない。それは通過点だ。最終的な目標は、ダラタ
リとジェシー=ヤンデン上院議員の関係、その全貌を突き止めることにある。過去の事件
から現在進行しているだろう事件、その全てを暴き出し、世間と上層部の石頭どもに対し
て、IBIの有用性を証明してみせねばならんのだ!それを……!」
怒りに任せてまくしたてたスミスは、そこで言葉を一旦切り、荒くなった呼吸を整えた。
そして、幾分の冷静さを取り戻して言った。
「IBIを裏切った貴様だからこそ、この件から手を引かなければならない。まだ少しで
もあの頃の思いが残っているのなら、分かるハズだ」
スミスの言いたいことは痛いほど分かる。IBIを正すには、まず現場の有用性を実証し、
上層部の掃除屋偏重の姿勢を崩さなければならない。上層部への不信感は、現場の士気を
低下させる。それだけはなんとしても避けなければならない。
俺は答えに窮していた。手を引くべきだという思いがあった。
相手はダラタリという巨大な犯罪組織と、上院議員を父に持つ現役市長という権力者だ。
たった二人の掃除屋では限界がある。建前や、ちっぽけな自尊心など通用しない。末端の
犯罪者だけでなく、そんなヤツらまで引っ張るにはIBIのような組織が適任なのだ。
それに、親父さんに対する恩義もある。スミスは直接的にその思いを利用しようとはしな
かったが、それでも俺の心は激しく乱れていた。
だが、それ以上に、手を引きたくないという思いが強かった。
俺は一体、この事件のなににこだわっているのだろう。
金のためだろうか。ジョーの仇を討ちたいからだろうか。掃除屋としてのちっぽけな自尊
心を満たすためだろうか。それとも、ロイドの死を利用したIBIへの恨みからだろうか。
俺はIBIを恨んでいる。だがそれは、今のIBIの体質をだ。ロイドの死を、IBIは
自らの方針の材料として利用した。現場に流れた血をIBIの痛みとは考えていないのだ。
捜査員一人一人は、ただの兵隊である。それに異存は無い。組織とはそういうものだから。
しかし、兵隊でも傷を負えば血を流す人間なのだ。ロイドの件で、IBIは兵隊を人間と
して扱わなかった。それが、俺には許せない。

426例の899:2003/10/03(金) 02:27
IBIを恨むことと、IBI局員を恨むことは違う。あの頃の仲間達は、今でも先の見え
ない戦いを続けている。スミスもその一人だ。
俺は、かつて自分も持った理想を今でも追い続ける仲間達の思いを、IBIという組織に
対するあてつけだけで踏みにじろうとしているのだろうか。俺はそこまで卑屈な人間なの
だろうか。
俺の心の中に、この事件から離れたくないという思いが、決して落とせぬ染みようにこび
り付いている。
「スヴェン」
焦れたスミスは、俺に返答を促した。
俺は車を路肩に寄せ、ハザードランプを点けて停めた。慌てたように、キャドリックが前
のスペースに停車する。
「これで全員から裏切り者と罵られるだろうな」
俺は浅い笑みを浮かべて言った。
「どうしても聞き入れんというのか!」
スミスは再び激昂した。
「お前は捜査官として、俺は掃除屋として、お互いの職務を全うする。それだけだ」
俺は意識して冷たい言葉を選んだ。
スミスは息をのんで、絶句した。怒りで上がった体温が横にいる俺の肌にも伝わってきそ
うなほど、威圧感を発していた。
俺がロックを解除すると、スミスはドアを開けて降り立った。ドアを閉めずに俺の方へ体
を向け、言い放った。
「貴様を逮捕することもできるのだぞ!」
「そんなことしてみろ。掃除屋協会とマスコミに叩かれるのはお前だ。IBIの立場をま
すます悪くするだけだ」
俺が答えると、スミスは喉の奥で唸った。
もし、スミスが冷静だったら、そんな恫喝が俺には通用しないことくらい承知していたハ
ズだ。警察機構と掃除屋は商売敵であるため、掃除屋の逮捕は嫌でもマスコミの注目を惹
く。明かな証拠でもない限り、協会も非難の声明を出して会員を守ろうとするだろう。
スミスは、自らの理想のため、この事件に多数の捜査員を動かし、メイスペリー市警に圧
力を掛けることまでしている。我を忘れてしまうほど、必死なのだ。
スミスは力任せにドアを車体に叩き付け、キャドリックの後部席に乗り移った。
俺はヘッドレストに頭を預け、キャドリックが去り行くのをぼんやりと眺めていた。
見えなくなって数分が経過しても、俺はそこから車を動かさなかった。

427例の899:2003/10/03(金) 02:28
特に理由も無く、ルームミラーを自分の方へ向けた。そして、気付いた。
俺がこの件から手を引きたくない理由は、リックだった。今、鏡に写っている男が失った
目を、リックが持っていたからだ。
スーザンは、俺とリックが似ていると言った。だが、一つだけ決定的に違うところがある。
リックの目には、敵を追い詰める獰猛なまでの意思と、正義を行使するという誇りと輝き
があった。
鏡の中でぼんやりと俺を見つめている男の目には、誇りも輝きも無い。右目とロイドを失
い、刑事を辞めた時に失ってしまった。
昨日、その失った目をリックが持っているのに気付き、俺は嫉妬したのだろうか。ジョー
の刑事としての魂をリックに受け渡したいと思いながら、意識の底でリックを遠ざけよう
としたのか。だから、いろいろな理由をつけて、リックの同行を拒んだのかもしれない。
ルームミラーから目を逸らし、フロントガラス越しに街並みを眺めた。
心の中が締め付けられる思いだった。
粘り付くような陰鬱とした空気を、内ポケットの振動が破った。非通知で着信があった。
通話ボタンを押し、耳にあてた。
「もしもし?」
「俺だ。分かるか?」
一瞬、俺は眉をひそめた。だが、すぐに記憶から、その声の持ち主が浮かんできた。
「グレイグか」
「連絡するって約束してただろう」
電話の向こう側の声は明るかった。それが、今の俺には癪に障る。
「ご機嫌そうだな」
「おかげさんでな。そっちは不景気そうだが、まぁいいさ。面白い物が手に入った。俺は
今、アンタらが乗り込んできた店にいるんだが、これから来られるか?」
グレイグは前回、『魔法使いを知っている』と言った。『市長まで挙げることができるか
もしれん』とも。そして、それらしき動きをトレインが察知した。
グレイグの招待は、そのことについてであろう。少しだけ心拍数が上がった。
「面白い物とはなんだ?」
「それは着いてのお楽しみだ。俺もたった今、届けられたのを見たばかりだしな。すぐに
来られるんなら、俺はここにいるとしよう。今が駄目なら、今日の夜まで待ってもらわな
くちゃならん。あと二時間もすりゃ、開店準備で店の中は忙しくなるからな」
「分かった。三十分で行こう」
今すぐトレインに連絡をとり、ヤツを乗せて店に向かう時間を計算して俺は答えた。
「そうしてくれ。あぁ、そうだ。ミルクを用意しておいた方がいいか?」
「頼む」
俺は苦笑して答えた。

428例の899:2003/10/04(土) 02:24
792 名前:名無しさんの次レスにご期待下さい[sage] 投稿日:03/10/04 01:50 ID:XA9Z0Xf5
    _
   / /|) 乱入だし機種依存文字使ってるし、俺ってヤシは…!
   | ̄|
 / /

793 名前: ◆Nari/0aqvw [sage] 投稿日:03/10/04 01:53 ID:9llZlByN
>>792
許さんナリよヽ(´∀`)ノ




>>792=俺だったりする
かなりショックだ
そんなこんなで今日は一行どころか一文字も書いてない

429419:2003/10/04(土) 08:41
俺がここで名前を出したせいで向こうに来たような気がして正直責任感じるんだが。

430</b><font color=#FF0000>(Nari/uzA)</font><b>:2003/10/04(土) 20:58
>>428
ごめんなさいナリよ(;´σ`)
悪気はなかったんナリよー(;´д⊂

431名無しさん:2003/10/05(日) 17:50
>>430
悪気がないならついでだから本スレには2度と来ないでくれると助かる。

432例の899:2003/11/04(火) 03:05
モニターが死にやがった
ようやく直った

433例の899:2003/11/04(火) 03:05
 電話を受けてから四十分弱が経過した。午後二時を少しまわっていた。
車内で、尾行者の正体がIBIだったことと、これからはプレッシャーを与えるために見
つかることを前提とした尾行は行われない―――実際、運転中に尾行者の存在は感知でき
なかった―――だろうということをトレインに説明した。
「ま、ソッチはいざとなったら全部アンタに任せるよ」
トレインの感想はそれだけだった。
グレイグの店は電飾が全て落とされ、扉の前に“close”の札が掲げられていた。
店の周りに見た顔は無いのを確認し、俺はドアノブを回した。トレインも後に続く。
天井に嵌め込まれているライトだけが灯された薄暗い店内で、制服を身に着けたボーイが
一人、テーブルの間で動いていた。床をモップで磨いているようだ。
俺達に気付いたボーイは手を止めた。モップをテーブルに立て掛け、礼儀正しく一礼して
から言った。
「申し訳ありません。開店は五時からとなっております」
「グレイグ氏に会いに来たんだ。アポも取ってある」
「失礼しました。オーナーは奥の支配人室にいらっしゃいます。どうぞ」
言い終わるとボーイはカウンター奥へ移動し、うずくまった。ブーンという電気が通る音
がして、中央のシャンデリアと白色蛍光灯が辺りを照らす。
俺とトレインは明るくなった店内を横切り、奥へと繋がる扉をくぐった。
事務所の扉は開かれたままになっていた。室内には誰もいなかった。前回、訪れて乱闘に
なった際、マーチンと呼ばれていた黒人デブが現れた左側の扉を見た。その扉の奥が、グ
レイグと話し合いを行った部屋だ。扉には“PLESIDENT ROOM”のプレート
が貼り付けられてある。
俺は短く息を吐いてから、扉をノックした。
「おう、イイぞ」
反対側から俺達を招き入れる尊大ぶった声がした。
部屋の中には二人の男がいた。樫製のデスクの上に並べられた書類に目を通しているグレ
イグと、その横でまるでボディーガードのように腰の後ろで手を組んでいる黒人デブ――
―マーチンが、こちらを睨み付けながら立っていた。
「少し遅刻だな」
書類から顔を上げてグレイグが言った。
俺はそれに答えず、前に座ったのと同じソファに腰を下ろした。トレインも同様の位置に
つく。
「早速だが、面白い物とやらを見せてもらおうか」
座るなり俺は言ったが、グレイグは手を挙げてそれを制した。
手を挙げてから五秒もしないうちに扉がノックされ、先ほどまで店内を掃除していたボー
イが片手にトレイを持って入ってきた。
「失礼します」
ボーイはそう言うと、ソファに囲まれているガラステーブルにコーヒーを二つ、ミルクを
二つ静かに並べ、扉の前で一礼してから出ていった。
「さて」
グレイグは、手にしていた書類でデスクを叩いて紙の端を揃え直し、それを持ったまま俺
達の対面のソファに座った。
俺はその書類に強く興味を惹かれていたが、それを回りに悟られないように煙草に火を点
けた。
「アンタもミルク派かい?」
トレインが訊いた。
「いや、これはマーチンのだ」
グレイグはコーヒーカップを手にした。
「ヘェ、アンタか。気が合いそうだな」
トレインはマーチンに話し掛けたが、マーチンは直立の姿勢を変えず黙したままだった。
「なんだよ、愛想ワリィな。この間やったこと、怒ってンのか?」
口調とは裏腹にミルクが飲めて嬉しそうなトレインに、微笑を浮かべたグレイグが答えた。
「元々そういうヤツなんだよ、コイツは。余計なことは喋らない、というより、喋るのが
苦手なんだ。俺と同じ傭兵出身なんだが、俺と違って傭兵の腕が一流過ぎて人付き合いに
慣れていないのさ」
「ヘェ、そういうモンかい」
トレインは気の抜けた返事をして、ミルクに口をつけた。
「ああ、そうさ。格闘戦じゃあコイツは傭兵の中でも少しは名が売れていたし、米海兵隊
の格闘技教官ともいい勝負したほどなんだゼ。数年前に、賭け事のイザコザである国軍の
部隊長を殺しちまい、指名手配を受けて傭兵を続けられなくなったところをこっちに呼び
寄せたんだが、それさえなきゃ今頃一流の名声とそれなりの地位に着いていてもおかしく
ないようなヤツだったのさ。こんな性格だから、自分は人の上に立てる人間じゃない、誰
かの下に仕えてこそ生きる人間だなんて言いやがるから、拾われた俺に恩義を感じ、ボデ
ィーガードという今の地位に満足してるらしいがな。コイツはボディーガードとしても一
流さ。だから、この前アンタ達が二人掛かりとはいえ、素手でマーチンを倒したのを見て、
ホント驚かされたよ。ま、俺にしてみりゃ、腕のいい掃除屋を探していたところだったか
ら、驚いた後に嬉しくなったモンだがね」
グレイグはそう言ってもう一度笑い、トレインは軽く肩をすくめた。

434名無しさん:2003/11/04(火) 20:17
一ヶ月音沙汰無かったのでひょっとして力尽きたのでは…と思った俺をお許しください。

435名無しさん:2003/11/05(水) 22:48
実は力尽きたと思ってた

436例の899:2003/11/11(火) 01:54
>>434-435
まぁそれでも平気で一週間くらいブッチするんだけどね
チョト反省

437例の899:2003/11/11(火) 01:54
関係の無い話題が長々と続いているが、俺の心は乱れることはなく、逆に鋭く研ぎ澄まさ
れていた。
グレイグは、饒舌過ぎる。
そこに焦りなどは感じられないが、俺には『腹の中まで見せているぞ』『俺はお前達の味
方だぞ』というジェスチャーのように見えた。
掃除屋になってまだ日が浅いトレインは、会話による駆け引きを心得ていない。部屋に漂
っている張り詰めた空気を嫌い、雑談でガスを抜いて緩めようとしただけなのだろう。
この思わぬ収穫に、とてもじゃないが食えそうもないグレイグがこれから見せようとする
“面白い物”というのがどれだけ信用できる物なのか、厳しい目で判断しなければならな
いと改めて心構えた。
「それじゃあ、そろそろ見てもらおうか。きっと気に入って貰えると思うゼ」
そう言ってグレイグは、書類を俺の方に押しやった。
書類は六枚ほどの束である。チラッと見ただけでは、なにやら表の中に数字が書いてある
ことしか分からなかった。
俺はゆっくりとした動作で手元に引き寄せ、書類の内容に目を通していった。

――― 3/25  500,0000           6588,4550  D
――― 4/ 6            20,0000  6568,4550  T

五列に分割された表には、一列目に日付らしきものが記され、二列目と三列目、四列目に
数万から数千万桁の数字が、最後にアルファベットの一文字が入っていた。
見終わった一枚目をトレインに渡し、二枚目に移るとそこにも同じような表があった。日
付だけが少しずつ進んでいる。三枚目をめくってみたが、やはり同じだった。
「出納帳……か」
俺は呟いた。
「市長の?」
「しかも裏帳簿だ」
トレインの疑問に、グレイグが答えた。
俺は顔を上げてグレイグを見た。
本物ならば確かに面白い代物である。しかし、そんな物を手に入れられるハズもなく、ま
たそれらしく見えるような物など誰にでも簡単に作成できるのだ。
俺の眉根は自然と皺を作っていた。
そんな俺の視線を受けて、グレイグは『本物だ』といわんばかりに大きく頷いてみせた。
「どうやって手に入れたか、説明くらいはしてくれるんだろうな」
俺の頭の中には、トレインが見たという二人組のことが浮かんでいた。一人は女で、もう
一人はこの店の従業員だったと、あの時トレインは言っていた。
グレイグは懐から煙草を取り出し、火を点けた。
「泥棒請負人って……知ってるか?」

438例の899:2003/11/11(火) 01:58
数字の4桁コンマとか、結構芸が細かいと自分で自分を誉めてみる
人名が○○・○○じゃなくて○○=○○だとか、
小文字のぇは必ずカタカナのェと表記するとか…

原作(←なんて言いたかねぇよ( ゚д゚)、ペッ)に忠実でしょ

439例の899:2003/11/22(土) 01:59
「泥棒請負、あの産業スパイか」
泥棒請負人とは、金銭をもって依頼人の望む品を“泥棒”して引き渡すことを生業として
いる連中である。その多くは、ライバル企業の開発した試作段階の製品や、巨額を産み出
す可能性のある企画書などを盗み出す、一昔前の産業スパイと同様の者達であるが、ごく
稀に、コレクターが秘蔵する美術品などを“泥棒”する呼び名通りの働きをする者もいる。
昨年、某国の依頼を受けた泥棒請負人が、この国の研究機関から軍事機密を盗み出した事
件を、俺は思い出していた。結局、ソイツは国境を超えることなく射殺されたが、機密に
対する好奇心とセンセーショナルな報道によって、泥棒請負人の名は世間の耳目を大いに
集めることになってしまった。
「いや、俺が言っているのは、本当の意味での泥棒請負人だ。この道でも数少ない、本物
のヤツさ」
グレイグは頭を振って答えた。
「ソイツに盗ませたって言うのか?」
俺はもう一度、市長の裏帳簿だといわれる書類に目を落とした。
「ああ。前にアンタ達がこの店に来た時、ちょうど客を待たせていてね、その客がそうさ。
だから、アンタ達の話しを聞いた時に、すぐにソイツのことが頭に浮かんだ。俺はソイツ
に盗みの技術を教えたヤツと古くからの知り合いでな、一つだけ貸しがあったんだよ」
グレイグがそこまで言った時、俺は横からの視線に気づいた。顔を向けると、トレインが
目線で俺に確認を求めていた。
俺は軽く肩をすくめて、小さく頭を振った。トレインが見た二人組のことを、今、持ち出
すべきではないと、俺は判断したのだ。
グレイグはかまわずに続ける。
「まぁ、本来なら手掛ける前に警備の配置や逃走経路なんかの調査で一・二週間はかかる
のをたった二日で、しかもあるかどうかさえ分からない市長の不正の証拠を手に入れてく
れなんていう無茶な依頼を、よくもこなしてくれたよ。あの若さでよくやるモンだ」
耳の端にグレイグの言葉を引っ掛けながら、俺は書類のページを繰っていった。そして、
最後の六枚目にさしかかった時、俺の目はある一点に釘付けになった。
一列目の日付はちょうど八日前、二列目に五千万イェン、五列目にTの文字が記入されて
いた。思うに、二列目が収入、三列目が支出、四列目が繰り越し金、五列目が収入に記入
があれば振り込んだ者、支出に記入があれば支払った者のイニシャルだろう。つまり、ヤ
クの運び屋が州境の検問を突破した次の日、市長はTという者から五千万イェン受け取っ
たということだ。Tが何者かは今更言うまでもない。タラダリ・ファミリーだ。
その記述自体、別に目を釘付けにする力など無い。グレイグが偽の裏帳簿を用意したとし
ても、事情を知っているのだからそのくらいの捏造はできる。
俺の目を惹き付けたのは、下の二行だ。
その次の日―――運び屋の一人目が射殺された日だ―――に、市長はMという人物に五百
万イェン支払っている。さらにその次の日、Bという人物に二百万イェン。
「これ、見てみろ」
俺はトレインに六枚目のページを渡した。グレイグの言葉は既に耳に届いていない。
受け取ったトレインは上から順に目を落としていった。その目を俺と同じように一点で止
めて、呟く。
「二百万、B……」
日付と金額からみて、Bというのはジョー=ベイブの名を示していると考えて間違いない
だろう。
グレイグは、ジョーが市長に絡めとられていることを知らないハズだ。もし知っていたと
しても、今度はその事実を俺が掴んでいることを知らない。
グレイグには、そんな記述を入れる意味など無い。この裏帳簿が偽物だった場合、ジョー
への金の流れを俺が知っていなければ、その記述は書類を本物だと思わせる役には立たな
いからだ。
偶然、という可能性を考え、俺の口元から自然と苦笑が漏れる。
「こりゃあ、間違いないかもな」
六枚目を俺に返しながらトレインは言った。同意見らしい。
「ああ。だが、そうすると、一つ前のミスターかミスMが鍵になるかもしれん」
「ミセスMかもしんねェゼ?」
俺は鼻で笑って前に向き直った。
「気に入ってもらえたようだな」
グレイグは、まるで挑戦するような目つきで俺を見据え、言った。

440例の899:2003/12/01(月) 03:10
「内容には、な」
俺は書類をテーブルの中央に置いた。
「内容だけか」
「そうだ」
違法行為によって得られた物は、裁判において証拠とは認められない。それを“証拠能力
が無い”という。まさしく、この裏帳簿に“証拠能力”は無い。
そんな物を突き付けて市長に逮捕を迫っても、逆にこちらが不法侵入及び窃盗罪で捕まっ
てしまうのがオチだ。
「だが、行動を決定付けることはできる。そうだろ?」
口調は親しげだが、グレイグは相変わらず挑むような視線である。
しかし、その言葉には同感だった。この書類によって俺は市長とジョーの繋がりを確信し
たし、使い方さえ間違わなければ書類の存在を巧く活かせることができるかもしれない。
「確かにな。他にも使い方は、あるかもしれん」
俺が答えると、グレイグは静かに立ち上がり、奥のデスクへ向かった。
再びソファに戻ってきた時、その手には一枚のフロッピーディスクがあった。
「裏帳簿は執務室のPCに保存されていたらしい。書類はこっちでプリントアウトした物
で、コイツがそのコピーデータだ。中には他にも銀行名と口座名義、口座番号が記録され
ている。さすがに暗証番号までは書かれちゃいないが、アンタ達が使ってくれ」
そう言って、グレイグはフロッピーディスクを無造作に書類の上へ放り投げた。
俺は、フロッピーディスクを見やりながら、尋ねた。
「盗みに入られたことを市長側は気付いていると思うか?」
「本人が言うには、足跡は残しちゃいないがPCを弄った形跡は見つけられるかもしれな
いそうだ。元々が無茶な依頼だったんで完璧というわけにはいかないが、上出来も上出来、
こっちとしちゃ大満足だ。女だてらに、よくやってくれたモンだよ」
グレイグは、その泥棒請負人が女だと言った。やはり、トレインの見た二人組の女の方が
それだったのだ。しかし、今の俺には、そんなものはどうでもいいことだった。
「バレるかも知れないからといって、勘違いしてくれるなよ。アンタ達を嵌めようなんざ
気は持っちゃいねェ。そんなことしたって、こっちは一イェンの得にもなりゃしないんだ
からな。俺の望みは、アンタ達が本来の仕事をキチンとこなしてくれて、ダラタリがこの
街に手を出すのを阻止することだ」
グレイグはそう言うと、口の端に笑みを浮かべた。
「ああ、覚えておくよ」
と答えて、俺はそのフロッピーディスクを手に取った。それを合図のように、トレインが
立ち上がる。俺もそれに続いた。
「一つ、訊いていいか?」
トレインがドアノブに手をかけた時、グレイグが声を掛けてきた。
「そのディスク、どう使うつもりだい?」
俺は少しだけ振り返り、また前に戻してから答えた。
「そうだな、あぶり出しでもしてみようか」
「あぶり出しねェ。うん、そりゃあイイかもしれねェな」
大仰に驚いくグレイグの言葉を背に、俺達は部屋を出た。
 店の前で、俺は煙草を取り出した。最後の一本だった。
「スマン。ちょっと煙草を買ってくる。お前は先に車へ戻っていてくれ」
トレインに車の鍵を投げ渡し、俺は煙草の自販機へ向かった。
自販機でいつもの銘柄を選択し、落ちてきた煙草を取り出そうと屈んだ時、後ろから俺を
呼ぶ声がした。
「スヴェンさん?」
そのままの姿勢で声の方向を見ると、そこには制服姿のリックが立っていた。
「こんな所でなにを?」
横に寄って来たリックが尋ねる。
「煙草を切らしちまってな」
答えた俺は、煙草を取り出して立ち上がった。
リックは不満そうに小さく唸った。
俺は小さく溜息を吐いた。
「そっちはここでなにをやってるんだ?」
「それは―――」
リックは言いよどんだ後、息を飲んだ。俺の言いたいことに思い当たったらしい。
掃除屋と警察は商売敵だ。同じヤマを追っているのならなおさらである。協力の申し出を
断っている以上、捜査の内情を話すわけにはいかない。お互いに。
「そうですよね。言えるわけ、ありませんよね」
苦笑まじりに、リックは言った。その目には、俺をいらつかせる強い光が宿っている。
ふと、これから俺が行う“あぶり出し”に、リックも協力させようかという考えが沸き起
こった。それと同時に、スーザンの言葉を思い出した。
『もし、この先、彼が捜査で危険な目にあうようなことがあれば、お願いだから助けてあ
げてね』
しかし、俺は心の奥底から聞こえてくるその声に耳を閉ざしてしまった。
「人を待たせているんだ。じゃあな」
そう言い残し、リックに背を向けた。
後日、俺はそのことを後悔することになる。

441例の899:2003/12/17(水) 03:02
 街中で最も寂れていると思われる裏通りに面しているブルーサンズ周辺では、夜中にな
ると人の姿が早々に途絶えてしまう。
そんな変化に乏しい夜の街並みを、俺は車の中から眺めていた。
 市長の裏帳簿をグレイグより譲り受けてから、二日が経過している。手に入れたその日
のうちにいくつかの行動を起こし、夜はこうして車中で過ごすことにしたのだ。
車は、ブルーサンズの反対側、三軒離れたビルの駐車スペースへ、頭から突っ込む形で停
めてある。そこは、一定の間隔で立ち並ぶ街灯が落とす灯りと灯りのちょうど死角になる
位置で、隣りにはもう一台、誰のだか知らない別の車が停められていた。
俺のすることといえば、シートを倒して仰向けに寝転がり、エンジン音がこちらに向かっ
てくるのを聞きつけると、その車の様子をルームミラーを眺めるだけだ。ルームミラーの
角度は、ブルーサンズの玄関付近が見えるように調整してある。
俺は待っていた。昨日の夜も、こうして待っていた。今日来なければ、明日も待つ。
 首を傾げてチラと覗いた車のデジタル時計は、午前三時十五分を数えていた。
ここ二時間以上、車も人も全く通らなかった。夜もここまで更けてしまうと、他に音をた
てる存在が無いせいか、半分だけ開けてあるドアウィンドウから、波の音が奇妙なほどに
近く聞こえる。
俺は苦痛を感じ始めていた。
昼間のうちに数時間の仮眠をとっておいたとはいえ、退屈もここまでくると流石に生あく
びが絶えない。そんな鈍ろうとする瞼と頭の中を覚醒させておくため、俺は努めて意識を
保たなくてはならなかった。そのため、煙草の消費数が増えるのだが、体は喫煙によって
反応しても、使わない頭の中は無意識に余計な思考を開始しようとする。その中身は、決
まってジョーのことだった。
市長の裏帳簿により、俺の中で、ジョーが買収に応じたという疑いが強まってしまった。
そんなジョーの姿など、以前の俺には想像もつかなかった。
だが、一度点いた疑惑の火は勢いを増し、今の俺は、この事件を追ったことを、この街へ
来たことを後悔するばかりであった。
頭の中がそういった思考を始めると、俺は、まるで腹の奥底を見えない万力で締め上げら
れるような激痛にも似た不快感を味わう。そして、頭を振ってその思考を追い払うのだ。
この一連の出来事を、俺は昨晩の同じような時間帯でも経験していた。もし、明日も待た
なければならないのだとしたら、役割をトレインと交替しようかなどと考えつつ、半開き
のドアウィンドウへ紫煙を吐き出した。
苦痛は過ぎ去り、再び退屈がやってきた。
 車のエンジン音が聞こえてきた。音の動きからみて、本道からこちらの裏通りへと曲が
ってきたようだ。
車内のデジタル表示が、今を午前四時四十分過ぎと教えている。最も可能性のある時間帯
だ。

442例の899:2003/12/17(水) 03:02
俺は手動でドアウィンドウを閉め、シートを起こした。身を低くして、ルームミラーの中
を注視する。
ブルーサンズ正面の通りに、二つ並んだ光が進入してきた。その光は、ゆっくりとした速
度でこちらへ向かってくる。そして、ブルーサンズより20mほど手前にさしかかった辺
りで、光が消えた。
それでも、ルームミラーの中でぼんやりと写る車は、まだこちらに近付いてきていた。
俺は耳を澄ましてみた。車のエンジン音は聞こえない。
つまり、走行中にギアをニュートラルに入れ、ライトを消してエンジンを切ったのだ。
間違いない。俺は確信して、助手席に置いてあった携帯電話を手に取った。
コール音二回で相手は出た。
「お客さんが来た。後は手筈通りだ」
「ああ。横向きの銃の位置さえ分かれば、一発で仕留めてみせるゼ」
電話の向こうで、トレインは声を少しだけ高揚させていた。ヤツも待ち焦がれていたのだ。
通話の切れた携帯電話を助手席のシートの上へ放り投げ、慎重に辺りの様子を覗き見る。
エンジンの切れた車は、惰性だけを頼りに進行を続けていた。ブルーサンズを通り過ぎ、
少し離れた場所で路肩に寄せ、ブレーキランプを点灯させた。こちらと同じように、街灯
の死角になる位置だ。
しばらく、車には動きが無かった。一分ほど経ってから、運転席のドアが開いて人が降り
立った。暗がりの中で、男なのか女なのか、相手の背格好もおぼろげにしか分からない。
ソイツは辺りをうかがう素振りも見せず、堂々とした足取りでブルーサンズの方角へ向か
っていた。それでも、恐らく意識的に街灯の灯りを避けて通っているので、顔の確認はで
きずじまいだったが、俺の乗った車の後方を通り過ぎた時に、スーツ姿の男であることが
見て取れた。
男は、ブルーサンズの横手の狭い通路に入った。そこには、正面玄関と同じタイプのチャ
チな鍵が一つだけ付いている裏口がある。鍵は、細いナイフか針金でも一本あれば、腕に
覚えの無い素人でも五分とかからずに解くことができると思われる。玄人ならば、一分以
内で仕事を終えられるだろう。
俺は車内でゴム底の靴に履き替えた。そして、男が横道へ消えてから三十秒程ほど待ち、
車を降りて男とは逆側の横道へと向かった。
俺には、大きな期待と少しの恐怖があった。
 グレイグとの二度目の会見を終えた直後に、俺はアネットへ連絡を取っていた。彼女に
状況を説明し、協力を求めるためであった。
情報屋であるアネットの仕事は、情報を収集し、分析し、それを必要とする人物に売りつ
けることである。だが、その立場を利用し、新たな情報を作り出すこともできるのだ。
俺は、アネットに『今、メイスペリー市にいる掃除屋が、市長の裏帳簿のコピーを握って
いる』という情報を、ダラタリに繋がっている情報屋筋に流してくれるよう頼んだ。
アネットの情報を扱う腕には全幅の信頼がおける。決して、情報の発信源を特定されるよ
うなヘマは犯さない。
果たして、あぶり出しは成功した。
ダラタリにとって、死者を二人も出している事件と市長が直接的な関わり持っているとい
う疑惑の種は、たとえ噂程度だとしても無視することはできないのだ。
そのために送られたのが、今の男である。俺達が待っていたものもそれだ。
男は夜明けの近い今の時刻にやってきた。
午前五時前後に人間の脳の活動は最も低下する。襲撃をかけるにはベストの時間帯だ。
道理を知らない素人は、午前二時頃に作戦も内部地図も持たないまま敵地へ突入したりす
るが、裏の世界の人間にとってそれは常識であった。
つまり、この時間に現れた男は、裏の住人かこの世界のことを知っている人間だというこ
とだ。そういう男を寄越したダラタリ、もしくは市長の意図は明らかである。

443例の899:2003/12/17(水) 03:05
>午前五時前後に人間の脳の活動は最も低下する。襲撃をかけるにはベストの時間帯だ。
>道理を知らない素人は、午前二時頃に作戦も内部地図も持たないまま敵地へ突入したりす
>るが、裏の世界の人間にとってそれは常識であった。

このネタを書きたいがために、本編で島へ突入した回の時に
本スレで突っ込まずにおいといた
ようやく本懐を遂げたw
あの時は、まさかここまで時間がかかるとは思ってもみなかった
おかげで完全にネタが風化している _| ̄|○

444名無しさん:2004/01/03(土) 22:59
899生きてる?

445例の899:2004/01/06(火) 01:19
生きてるよ

446例の899:2004/01/17(土) 02:38
 狭い路地を歩き、一階のある部屋の窓に手をかけた。二日前から、この部屋のドアも窓
も鍵を外してあるのだ。
部屋の中へ移動した俺は、息を殺して扉の覗き窓に目をやった。
夏の五時ごろといえば、すでに東の空から漏れた日の光が辺りを照らし出しているころだ
が、隙間無く両側に建物があり、採光窓などの洒落たものなど設置されていないこのホテ
ルの中は、まだまだ暗い。男の姿を認めることは不可能だった。
諦めて、俺は目の替わりに耳を押し付けた。上へ昇る足音がかすかに聞き取れた。
(下手糞な歩き方だ)
俺は鼻で笑い、扉から耳を離した。
 男の行動に迷いは無い。ホテルの位置も部屋の番号も全て調べ上げて頭の中に入ってい
るのだろう。
男が現れるまで、俺達には相手がどんな手を使ってくるのか分からなかった。ヤツらの目
的は、俺達の抹殺の他に、裏帳簿のコピーを見つけ出し、それを消去することである。だ
から、遠距離からの狙撃やすれ違いざまの襲撃は無いと俺達は考えていた。裏帳簿の消去
が困難になるし、外出時に殺されたヤツの部屋が荒らされていれば、警察に“奪いたかっ
た物”の存在を匂わせることになるからだ。また、ホテルへの放火も成否が不透明である
ことから除外できる。
俺達が最も懸念していたのは、相手が部屋の階下に爆弾を仕掛け、裏帳簿ごと灰にする方
法を取った場合だった。辺りに人が少なく侵入し易いこのホテルで、それを防ぐのは簡単
なことではない。本来なら、部品を入手する時間とある程度の技術を必要とするが、相手
が警察関係の人間だとすれば、可能性は低いがあり得ないことではないと思われる。爆破
を選んだ場合、仕掛けられるのは俺達が泊まっている206号室の真下である106号室
ということになる。俺の今いる部屋がそうだ。
しかし、男は二階へとあがっていった。この襲撃に爆破は使われないということだ。
 俺は、予め部屋の中に用意しておいたマグライトをベルトの内側に差し込んだ。俺が普
段から使っているマグライトは、より強い光源を出すために電球を付け替えてある。電池
の消耗は激しいが、市販のままと比べると二倍近い光を射出することができる。
慎重に扉を開き、階段を覗いた。男は既にそこにはいなかった。
扉を摺り抜け、階段の真下へと移動する。息を殺して耳を澄ますと、キリキリと金属の回
る音が微かに聞こえた。サイレンサーを装着する音だとあたりを付け、俺はそっと腰の銃
に手をやった。
そのままの姿勢でしばらく待った。男が、鍵を開けずに扉を蹴破って一気に部屋へ突入し
た場合に備え、すぐに階段を駆け上がって対応できるようにだ。
だが、扉の破れる音はせず、かわりに金属同士が触れ合う小さな音が断続的に聞こえてき
た。目を覚ました様子はないか、部屋の中の物音を確かめながら作業しているのだろう。
同タイプの鍵を破るのは二度目なためか、内部で道具のやり場に迷うような、不必要に引
っ掻き回す音は少ない。
三十秒ほど経つと、物音は一切聞こえなくなった。
大詰めが近い。
俺は、辺りの空気が肩や足腰に纏わり付き、重く圧し掛かってくるような錯覚に陥った。
手に持つマグライトまでが、急にその重量を増したような気がする。
だが、俺はその感覚を無理に振り払おうとはせず、階段を一段一段ゆっくりと昇った。
三階建てのブルーサンズには、一階につき全く同じ部屋が七つ用意されており、建物の中
央に中腹の踊り場で正反対に折れ曲がる階段が備え付けられてある。一階の階段を昇って
いくと、目の前に204号室の扉が現れ、左手が203号室、右手が205号室へと続い
ていく。
踊り場から一歩踏み出した時、右側から床を踏み鳴らす音が聞こえてきた。男が部屋の中
へ侵入したのだ。
そのままの態勢でいると、続いて空気が抜けるような短い音が四回鳴った。

447例の899:2004/01/22(木) 02:32
階段の残りを一気にかけ上がり、右に折れた。206号室の扉が開いている。
マグライトを逆手に持って左肩で担ぐように構え、右手でヒップホルスターからコンバッ
トマグナムを引き抜いた。
鼓動は最高潮に達し、心臓が耳元で脈打っているかのようだ。
男は既に俺の足音に気付き、銃口を戸口へ向けていることだろう。敵の攻撃が届く範囲に
生身を晒すのは、恐怖以外の何物でもない。
ホンの数メートルしかないはずの廊下が、なぜか長く感じる。
萎えそうになる足を前へ押し出し、戸口の前に出る瞬間、屈み込んだ。同時にマグライト
を点灯させ、銃を構える。
「動くな!」
暗闇に慣れた目に突然強烈な光を浴びせられた男は、左手で目の前を覆いつつ顔を背けた。
マグライトの光に向かって、男の銃口が下げられる。
それでも俺は引き金をしぼることなく、身を反転させて扉から離れた。
廊下の壁に火花が舞った。
(今だ!)
そう思った瞬間、轟音が鼓膜を震わせた。思わず身を竦めさせてしまいそうな、腹の底に
まで響く音だった。
部屋の中へ飛び込み、銃を構えたままマグライトで確認すると、右手首を押さえて床にう
ずくまる男の姿が照らし出された。
俺は短く息を吐き出し、扉の横にあるスイッチを手探りでオンにした。少しのタイムラグ
があり、鈍い光が部屋の中に満ちる。
俺は床に落ちているオートマチックを、男から離れるように蹴りやった。男の襟首を掴み、
引き立たせて壁際に貼り付けた。
「ま、待ってくれ。俺は警察―――」
従いながらも、男は切羽詰った声で弁解しようとした。俺の答えは、延髄に銃口を押し付
けることだった。
若い男だった。見た目では、俺と同じか少し下くらいの年齢だろう。その顔には少しだけ
見覚えがあった。手首が赤く腫れている。骨に異常はないだろうが、酷い捻挫を起こして
いるようだった。
男を立たせている壁板には、こぶし大の割れ穴が開いていた。先ほどの轟音により作られ
た穴だった。
俺達は、なにも賞金首を無傷で捕らえようなどと思ってはいない。相手も武装している以
上、余計な手心はこちらの寿命を縮めることになる。
しかし、今回に限っては、相手をなるべく無傷で捕らえたいと思っていた。聞きたいこと
があるからだ。抵抗されて、相手に大怪我でも負わせたら、とても会話を交わすことなど
できはしない。
また、相手を押さえるタイミングも重要だった。ホテル内へ入っただけでは捕まえられな
い。不法侵入にあたるのだが、相手が警察官であった場合、いくらでも言い逃れることが
できるのだ。そのため、相手に一度発砲させておく必要があった。それも、決して言い逃
れのできない発砲である。ベッドの上に丸めたシーツを人が寝ているような形に置いて、
それを撃たせるというような。
その前提で迎え撃つ作戦を考え、隣の207号室にトレインを待たせておき、壁越しに相
手の銃を弾き飛ばすことにしたのだ。
銃だけを撃ち落して無傷で済ませるためには、トレインから見て相手が横向きで銃を構え
る状況が必要だった。そのため、囮として俺が戸口に身を晒し、男に撃たせた。その時、
男の体は隣の壁と平行になり、発射音が姿を見ることの出来ないトレインに銃の位置を教
えてくれたというわけだ。
言葉にすればそれだけのことである。ただ、普段は抜けたところの多いトレインが見せる、
一瞬の集中力が産み出す神業とでもいうべき射撃技術には、素直に驚嘆せざるを得ない。

448例の899:2004/01/22(木) 02:33
ご都合主義全開だな、まったく
書いていて辛い

449例の899:2004/02/01(日) 23:30
またぞろリアルで大変忙しくなってきました
次回がいつになるのやら、全く分からない状況です
一応、完結まではなんとかやり遂げたいと思っていますので、
可哀想だから最後まで付き合ってやるという奇特な方、
「ああ、そういえばそんなヤシいたな」
と記憶の片隅にでも放り込んでおいて頂けたら幸いです。

450名無しさん:2004/02/03(火) 16:55
うむ

451例の899:2004/03/13(土) 02:10
俺は男を壁に押し付けたまま、左右の踵を蹴って足幅を大きくとらせた。上着の内ポケッ
トから身分証を取り出し、男の眼前に突き付ける。
「掃除屋権限により、お前を殺人未遂で現行犯逮捕する。お前には黙秘する権利がある。
しかし、警察への引渡しが完了するまで、お前に弁護士を呼ぶ権利は無い」
警告を終えたところへ、トレインがやって来た。得意満面の笑みを浮かべ、装飾銃を回し
てみせた。
「どうだい?一発で仕留めたろ」
早速、自慢だ。
「はいはい。凄腕ガンマンさんは、そこらに転がってる銃を確保しておいてくれ」
トレインは肩をすくめて床に屈み、俺は男の身体検査を開始した。
男は無言だった。
ダークグレイの地味なスーツを着て、濃い色の金髪が襟元にまで届くほど伸びていた。身
長は俺より少し高い。見たところ、俺と同じか一、二歳上といったところだろう。その横
顔は屈辱に歪み、薄いブラウンの目は憎悪で濁っていた。驚いたことに、真夏の早朝だと
いうのにシャツのボタンを首の付け根までキッチリと留め、モスグリーンのネクタイを締
めていた。
男の体をまさぐっていた俺の手が、懐の盛り上がりに触れた。ショルダーホルスターに吊
られたオートマチックだった。
よりキツク銃口を押し付け、慎重にその銃を抜き取ってトレインへ渡す。
背広の胸ポケットから手帳を、ヒップポケットから財布を見つけ、財布だけトレインに放
り投げた。
片手で手帳を開くと、そこには男の顔写真と名前、所属や住所などが記されていた。
「メイスペリー市警、殺人課、ジェイク・レイノルズ巡査長……ね」
俺は声を出して読み、男の顔に目を移した。
レイノルズの表情は未だ険しく、口をしっかりと引き結んでいた。
先ほどは、銃を弾き落とされたショックと手首の痛みで動揺し、思わず無駄な弁解を試み
てしまったが、今では、余計な口を開いて墓穴を掘るまいとしているようだ。その様子に、
俺は記憶がかすかに刺激されるのを感じていた。
 この男が市長の裏帳簿に記されていたM氏ではなかったことは、少なからず俺を落胆さ
せた。ジョーに二百万イェンが振り込まれる前日に五百万イェンを受け取っているM氏が
怪しいと睨んだ俺の考えが間違っていたのか、それとも、そのM氏がレイノルズ巡査長を
使って俺達を襲わせようとしたのか。
レイノルズの年齢からいって、後者の可能性が高い。恐らく、市長とレイノルズの間には、
もう一人の人間が連絡役として存在しているのだろう。その人物こそがM氏だと思われる。
だとすると、レイノルズがどの辺りまで事情を把握しているかが問題となる。通常、暗殺
や襲撃といった直接的な行動を選択した場合、余程深い共犯関係でもない限り、実行犯に
は背景を詳しく伝えないものである。万が一失敗した時、その口から情報が漏れて類の及
ぶ範囲を最小限に食い止めるためだ。彼はどこまで知っているのだろう?
レイノルズの目的は、俺達と裏帳簿を消し去ることだ。それには、税金の掛からない収入
や表のリストには載せられないダラタリ・ファミリーなどの献金者が名を連ねるという裏
帳簿の性格を知っている必要がある。だからこそ、市長と強い結びつきのある人物、M氏
が俺の前に現れるだろうと考えていた。しかし、実際に現れたレイノルズの身分を見て、
俺は別の可能性に気付いた。

452例の899:2004/03/13(土) 02:11
制服警官ではない殺人課の私服刑事であるレイノルズを寄越せるのは、彼より上の階級に
属する人物である。同じ課の人間かもしれない。首尾良く仕事を済ませたレイノルズが、
俺達の死体の第一発見者として通報し、彼にこの襲撃を命令(依頼?)した人物が事件を
担当するようになれば、被害者の所持品の一部を隠蔽することも容易く行える。つまり、
その人物は、レイノルズに深い部分まで教える必要が無いのだ。
俺は裏帳簿の使い方を間違ったのだろうか。だとしても、今更、過去に戻ることはできな
い。俺が今やらなければならないことは、レイノルズから出来るだけ多くの、そして有用
な情報を聞き出すことなのだ。
 俺は、掃除屋が現行犯逮捕した被疑者は直ぐに警察へ引渡しされなければならないとい
う手続的規則を無視し、レイノルズを壁に押し付けた態勢のまま質問を開始した。
「まさか、勤務時間外に副業でベッドメイクをしているわけじゃないだろう?」
「…………」
「俺はアンタに恨まれる覚えはないゼ」
「…………」
「誰に頼まれたんだい?」
「…………」
「もう察しはついているだろうが、コイツは俺達が仕組んだ罠だ。餌をちらつかせ、獲物
が掛かるのを待っていたんだ。だから、本当のことを言えば、俺達は襲われた理由を知っ
ているし、そこまでして俺達を消したがっているヤツのことも、もちろん知っている」
「…………」
レイノルズの視線は、一度として俺達に向けられなかった。
「スヴェン、コイツってあの時―――」
後ろからトレインが口を出したが、俺は左手を軽く挙げてそれを止めた。どうやら、トレ
インも思い出したらしいが、まだそれを使うには早いと考えたからだ。
トレインの台詞は、レイノルズの動揺をホンの少しだけ呼び起こすことに成功した。結果
的には良い援護射撃になったようだ。
揺さ振るには今だと思い、俺は短く息を吐いた。
「ジョー=ベイブを殺したのもお前か?」
濁った目が俺をとらえた。
「お前が持ってきたオートマチックは、ジョーとヤクの運び屋を殺ったのと同じじゃねェ
のか?」
と、俺はさらに畳みかけた。
レイノルズは口を開きかけ、直ぐにそれを閉じて顔を壁に向けた。

453名無しさん:2004/03/18(木) 21:34


454例の899:2004/04/18(日) 22:06
「少しくらいヘマをやらかしても、お前にその銃を渡したお仲間がうまく口裏を合わせて
くれる手はずになってたんだろう。このホテルに入るところを誰かに見られていても、そ
れが当然の行為だったと証言してくれたり、銃声が二発しか聞こえなかったことに目をつ
ぶってくれる上の人間がな。だが、お前は最悪の失敗をしてしまった。逆に捕まってしま
うという致命的な失敗だ。しかし、お前のお仲間はそれも見越してお前にその銃を渡した
んだ。そうすりゃ、警官殺しも、ヤクの売人殺しも全部お前が背負ってくれるからな。こ
うなっちまったからには、お前がどれだけ喚こうとも、どれだけ自分が嵌められたと訴え
ようとも、誰も信用しちゃくれないさ。殺人未遂を犯したばかりの下っ端刑事の言葉と、
役職にある刑事の言葉とどちらに説得力があるかなんて考えるまでもない」
レイノルズは右肩越しに聞こえる俺の言葉から逃れようとしたのか、左へ顔を背けた。無
意味な行為だ。壁についた両手が拳を作っている。それが微かに震えているのを、俺は見
逃さなかった。
レイノルズの仲間が役職にあるような上の人間だという推察は、まるで根拠の無い思いつ
きのようなものであったが、彼の態度がその考えを強力に肯定してくれた。
毎日のように様々な犯罪者と顔を突き合わせ、欺瞞に溢れた日常を過ごしている現役のタ
フな刑事であっても、肉体的にも精神的にも予期せぬ衝撃を与えられたら冷静ではいられ
なくなるということだ。
「お前は生贄にされたんだよ」
それが止めの言葉だった。
「違う!」
彼は様々な感情が混ざり合った悲鳴のような声をあげた。
「なにも違わないさ。お前は、その銃が使われた事件がどう処理されたのか知っているハ
ズだ。その現場で、俺はお前を一度見かけている。ホテル・サンダルマンで、運び屋の死
体が発見された時にな」
ホテルの階段を下りてきた三人の刑事のうち、うつむきながら後ろを歩いていた男の一人
がレイノルズだった。俺達に捕まり口を閉ざそうとしていた表情と、あの時、記者達の質
問から逃れようとしていた表情が重なり、俺にそのことを思い出させたのだ。
俺は努めて冷静な口調で続けた。
「あの事件はIBIが取り扱うことになり、お前達市警は捜査の規模を縮小させられた。
内通者のいないヤツらがでしゃばってきたおかげで、自分達で事件を処理することも、人
目につくとヤバイ証拠を消すことも、捜査の混乱を図ることも難しくなってしまった。今
度の場合も一緒だ。IBIはトコトン追い詰めるぜ。お前がゲロって自分達のケツにまで
火が点く前に、全てをお前におっ被せるってのは、そう悪い手じゃねェ」
俺はレイノルズの体を銃口だけで押さえ付け、空いた左手をトレインの方へ出した。その
掌にオートマチックの銃身が置かれる。それを握り締め、レイノルズの眼前へ突き付けた。
彼は、まるで初めてその銃の存在を知ったかのような驚きの表情でオートマチックを見つ
めた。
「分かるか?お前がこの銃を持っている以上、誰もお前を助けちゃくれない。IBIは喜
んでお前を絞り上げるだろうし、お仲間は笑って突き落とそうとする。このままじゃお前
は終わりだ」
「う、嘘だ!違う!」
レイノルズの眼球は忙しなく動き回っている。混乱状態にある人間が見せる典型的な反応
だ。追い詰めるのはもう充分に思えた。後はきっかけさえ与えれば、決壊した防波堤のよ
うに喋りだすだろう。
俺は、半ば狂乱しかけているレイノルズの意識をこちらに向けさせるために、銃杷で彼の
脇腹を強く打った。そして、混乱した頭でも理解できるように、一語一語をゆっくりと発
音しながら語りかけた。
「いいか、よく聞け。仲間に陥れられ、IBIに全ての事件の主犯として逮捕されるお前
が助かる道は一つだ。全てを明らかにすることだ。今、ここで!」
血走った目が俺を捉えた。口は酸欠寸前の魚のように、開いたり閉じたりしている。

455例の899:2004/04/18(日) 22:18
妄想妄言的独り言

チョト時期が過ぎちゃったけど、自分なりのファーストコンタクトネタを考えてたりしていた。
なんか、こうもだらだらと長い間続けてるためか、それなりにスヴェンに愛着を持ってたりするもんで。
それは本編のスヴェンに対するものじゃなく、思い上がった素人の馬鹿丸出し発言で言うところの
自分版スヴェン(wに対する愛着なのですが。
まぁそれでも一応、マロの次に好きなキャラと言えなくもないわけで、
だからこそあの出会い編は堪えた…

456例の899:2004/04/25(日) 02:34
「そんなことをしたって、どうにもならん……」
レイノルズは、喉の奥から無理に搾り出したような声で言った。
「俺達は、お前がホンボシじゃないことを知っている。他に黒幕がいることを知っている。
お前が嵌められたってことを証明できるのは、もう俺達しかいないんだ」
その時、遠くの方から弱々しいサイレンが聞こえてきた。音はゆっくりと力を増していく。
レイノルズは息を呑んで窓へ顔を向けた。彼にとっては、毎日のように耳元で聞き慣れて
いるハズの音だった。
先ほどトレインの放った銃声を聞いた誰かが通報したのだろう。
俺は、レイノルズの耳元で囁くように言う。
「タイム・アップが近いゼ。これからここに来るのはお前の仲間でもなんでもねェ。お前
はもう、ヤツらと同じデカとして扱っちゃもらえねェんだ。マフィアに抱き込まれ、運び
屋一人と仲間の警官を一人撃ち殺し、よりにもよって掃除屋にとっ捕まった糞野郎として
小突き回されるのさ。それをムショまで背負っていくか、反撃するか。二つに一つだ。決
断しろ、今すぐ!」
サイレンは、すぐそこまで近付いていた。

 到着した警官達と過ごす間、俺達は酷く嫌な気分を味わい続けていた。応援の巡回車や
夜勤の刑事達がやって来てからも、それは変わらなかった。犯罪の現場に掃除屋が先にい
ていい顔をする警官はいないが、今回の現場はそれ以上に彼らにとって気に入らないもの
だったからだ。
警官達は、夜明け前に掃除屋の泊まっているホテルの部屋で壁に押し付けられているレイ
ノルズを見て顔色を変えた。その内の一人が、俺達の掃除屋許可証に特殊ライトを当てて、
本物であることを確認すると、
「今日は最悪の一日だ」
と呟いた。
遅れてやって来た刑事達は、うなだれている同僚に矢継ぎ早に質問を浴びせかけた。
指紋の付いた拳銃、ホテル近くに停めてある車、錠前破りに使った道具など、状況証拠が
山のように揃っているのを理解しているのためか、レイノルズは刑事達にただ一言、
「弁護士に連絡してくれ」
と言ったきり、後は沈黙を守っていた。
そのために、刑事達の矛先は、自然と俺の方へ向くことになった。
彼らの質問に、俺は裏帳簿の存在だけを隠し、残りを全て正直に答えた。
やがて、この時間にしてはやけに目をパッチリ開いた鑑識係りが三人ばかりやって来て、
詳しい現場検証を始めた。
俺はまた同じような質問を浴び、身振りを交えて同じように答えた。
その間中ずっと、彼らは俺に対して、愛情も感謝も生まれてこのかた表現したことのない
人間のような態度で接し続けていた。
ようやく一段落着き、俺はぐったりしてホテルから出た。空はすでに明るくなりかけてお
り、ビルの隙間から陽光が差し込んでいる。埃がキラキラと反射して目に痛い。
入り口に立ち番の警官が二人いたが、野次馬は数人しかいなかった。好奇も寝起きのとこ
ろにはあまり役に立たないらしく、皆どんよりとした視線を俺に送っている。寄って来る
者もいない。リゾート地では、新聞記者もよく眠らせてもらえるらしい。
俺はゆっくりと歩いて彼らから離れ、自分の車を停めてある場所へ向かった。そこでは、
どうやったのかは知らないが、現場検証の最中にこっそりと抜け出したトレインがミルク
を美味そうに飲んでいた。ボンネットの上に、コンビニのレジ袋が置いてある。
トレインは俺がやって来るのを見て取ると、袋の中から缶ビールを一本取り出し、
「ほらよ」
と俺の方へ投げて寄こした。
俺は受け取った缶ビールを開けることもせず、ジッとそれを見つめていた。
「まぁ、一件落着とまではいかなかったけどさ、それでも一仕事終えたんだ。殺人未遂犯
を逮捕。これくらいの贅沢は許されるんじゃねェの?」
とぼけた調子でトレインが言った。
俺は、
「そうだな」
と答え、プルトップを引き開けてビールに一口つけた。
俺達にはこれで充分だった。
レイルノズがなにも決断しなかったことを除けば。

457例の899:2004/06/23(水) 01:28
 俺達はホテルから警察署へと移動し、面倒な調書取りに付き合わされた。
担当の刑事達は、相応の悪意を込めた質問を繰り返し、俺はうんざりしながらもそれに従
った。
質問役の刑事は一通り訊き終わると別の刑事と交代して休憩を取っていたが、俺に休憩が
与えられることはなかった。顔が変わるだけで、また同じ質問を最初から始めるのだ。
彼らは皿の底に残った溶け残りのオニオンをすくうような執念で、俺の返答の細かい点を
突いてくる。そうやって、供述に綻びが出てくるのを待っているのだ。
まるで、こちらが被疑者であるような扱われ方だったが、それは掃除屋なら誰でも経験し
ていることだ。特に、今回は事情が事情なだけに、彼らがなんとか俺達の化けの皮を剥が
そうと躍起になる気持ちも分からなくもない。
俺は、答えるべき質問には正直に答え、後は使われたオートマチックの前科を調べろとだ
け付け加えていた。
 何時間経ったのか、今のおおよその時刻も分からないくらい頭をぼんやりとさせて、こ
れも何度目なのか分からない交代時の僅かな合間に、俺は十何本目かの煙草を吸っていた。
こうしている間に大統領が二人くらい変わってしまったと教えられても、そう驚きはしな
いだろう。
顔中に脂がのっていて、髪の生え際と髭の辺りが酷く痒い。それでも、冷房はささやかに
仕事をしてくれていたので、俺は人権の尊さを説いた人物に感謝していた。
 ドアが開かれ、また『始めまして』と挨拶しなければならない刑事が現れた。
190近い長身で、肩幅もそれに負けないくらい広い。腕にも首にも、実用的な筋肉がし
っかりと盛り上がっている。肌の色は赤みを帯びた白で、少々薄い銀髪を丁寧に後ろへ撫
で付け、太く毛先の長い眉毛も同じ銀色だった。大きな耳と垂れ下がった目尻が柔和そう
な印象を与え、疲れが溜まっているためか目の下に隈ができている。それでも、瞳の奥の
輝きが、俺をくつろいだ気分にさせてはくれなかった。
見た感じ、40代後半から50代といったところだろうか。途中で曲がった鼻が、厳しい
現場で長い間過ごしてきたことをうかがわせる。
頑丈そうな角張った顎には無精髭が生えていた。夜勤明けでそのままこの事件の担当にな
ったのかもしれない。その証拠に、白のワイシャツはついさっき着替えたばかりのように
皺一つ無かった。
男は俺の反対側に音を立てて腰を下ろし、俺の目の前に置いてあった灰皿を机の真ん中へ
移動させた。胸ポケットから取り出した煙草に火を点け、大きく吸い込んでから上へ向か
って吐き出した。そのまま、無言で頭上を漂う紫煙に顔を向けていた。
無意味な時間が過ぎていった。男は煙草を揉み消してからも、なにも喋らなかった。俺も
口を開かなかった。
俺の中で無言の圧力が薄らいだように感じ、新たな煙草に火を点けようとライターへ手を
伸ばした時、彼が初めてその声を聞かせてくれた。
「俺はスタン=キーリン警部補だ。どうだね、疲れたか?」
低いがよく通る声だった。そこには、微かな南部訛りが感じられた。
「一週間くらいはベッドから動きたくないね」
俺は正直に答えた。煙草に火を点ける。
「同感だ。俺もさっき三時間ばかり仮眠を取ったばかりだが、それまではずっと働き詰め
でね。こんな生活がここ二週間ばかり続いているよ。普段は静かなこの街も、毎年この時
期だけは忙しいモンなんだが、今年は特に酷い。酔っ払った観光客同士の喧嘩や、港の倉
庫荒らし、若造どもの乱暴な運転の取り締まり。まぁこれだけ人間が寄ってくりゃ、どう
したって歪みは出てくるモンだがな」
キーリンの目がゆっくりと俺の方へ降りてきた。俺は、土産屋の置物のような無表情で見
返した。
「それでも、今度のはイケねェ。警官殺しにヤクの運び屋殺しが続き、しかも仲間が殺ら
れたってのに上からの圧力で事件を取り上げられちまった。俺らの中でも、まだ諦めずに
極秘で捜査を続けている輩もいないでもないんだが、そんなやり方じゃホシを挙げること
なんて到底できやしないだろう。俺らの面子は丸潰れだよ。そして、止めが刑事の掃除屋
襲撃だ。これには参った。このままだと、俺達は看板を下ろさなきゃならなくなる。バッ
ジを振り回そうにも、周りがそれを認めちゃくれないだろう」
彼はそう言うと、力の無い溜め息を吐いた。心身ともに、限界まで疲れきった人間がする
溜め息だった。
俺はなにも言わなかった。かけるべき言葉が見つからなかったからだ。
お互い黙ったままで一分ほど過ごした。壁のスピーカーが、フルメール通りでホールドア
ップが発生したという緊急連絡をがなりだした。二十代から三十代とみられる黒人の男が
32口径を所持したまま逃走中であることを教えてくれた。いつもの癖で、四日分の食費
だと頭が勝手に判断した。

458例の899:2004/06/23(水) 01:29
部屋の中が一旦静かになると、キーリンは呟くように言った。
「そろそろ本当のことを話してはくれんか?」
「話せることは、ちゃんと全部話しているよ」
と、俺は答え、少しだけ身を持ち上げて座る位置を直した。長時間、座り続けているので、
尻が痛くなっているのだ。
彼は、首を横に振り、
「いいや。お前さんは一番大事なところを話しちゃいない」
と、責めるような口調で言った。
「偶然、その時間に外にいるとホテルに侵入しようとしているヤツを見つけた。偶然、一
階の窓が開いていたのでそこから入った。偶然、もう一人は泊まっている部屋の隣にいた。
侵入直後からその動きを捉えていたにも関わらず、取り押さえることも警告することもせ
ずにいると、侵入者は自分達の部屋へ入った。サイレンサーの音を聞いて飛び出すと二発
撃ってきたので、こちらも銃を使って応戦し、取り押さえた。そして、部屋には銃撃の痕
以外に争ったような形跡は無く、なのに通報は銃声を聞いた二軒隣の商店経営者の妻がし
ている。これだけ揃って、お前さん達がこの襲撃を前もって予想していたと考えないよう
なヤツは、あいにく全員出払っていて署内には残っていないんだよ」
言い終わると、彼は肩を軽くすくめてみせた。
「そんなに利口者が揃っているのなら、事件はすぐに解決するさ」
俺の皮肉に、彼は片眉を軽く吊り上げただけで、それ以上の反応は見せなかった。
「襲撃を予想していたのなら、その襲撃は今お前さん達が追っている事件に関係している
ことだろう。ここ暫くの間、この街にいる掃除屋が追っている事件といえば、ダラタリ・
ファミリーの運び屋の件だ。その運び屋は殺され、しかもこの街の警官殺しと同じ銃が使
われている。お前さんは今度の事件に使われた銃の鑑定を急げと言う。また、警官殺しの
事件で俺達市警に圧力をかけてきたのはIBIだ。そしてお前さんは―――」
「俺とIBIは、もうなんの関係も無い」
俺はキーリンの言葉を遮って言った。
彼は喉の奥で低く唸り、やがて静かに口を開いた。
「だが、その殺された警官とは昔からの知り合いだった」
俺はなにも言わなかった。一人、二人の掃除屋の経歴を洗うには充分な時間が経っていた。
ふと、トレインの経歴についてどのような解答が得られたのだろうという興味が、心の片
隅に湧いた。
キーリンは続けた。
「今度の一連の事件は一つの輪になっているようだ。警官殺し、ヤクの運び屋殺し、刑事
の掃除屋襲撃。その全てにお前さんが関わっている。俺達の中には、お前さんがダラタリ・
ファミリーに飼われている殺し屋じゃないかと疑っているヤツも多い。昔の知り合いを金
で抱き込もうとして断られ、顔の割れた運び屋を始末し、襲ってきた刑事を逆にハメる。
確かに、筋は通っている」
彼は一人で納得したような溜め息を吐いた。

459例の899:2004/06/23(水) 01:30
「レイノルズにそう供述しろと助言したヤツがいるのか?」
俺の問いに、彼はなにも答えてはくれなかった。ただ、じっとこちらの反応を窺っている
だけだった。俺も同様に、彼を観察していた。
また、沈黙が続く。知らない間に、指に挟んだ煙草がフィルターだけを残して長い灰を作
っていた。疲労で現実感を失いそうになる心をこの場に留める引っ掛かりとして、俺はそ
れを捨てずに挟み続けていた。
廊下を走り回る大勢の人間の靴の音が鳴り響いている。建物の外からは、車の発進する音、
入ってくる音がひっきりなしに聞こえていた。
やがて、注意していなければそれらの音に紛れてしまいそうなほど小さな声で、キーリン
は言った。
「アイツは完全に黙秘しているよ」
俺の肩に力が入り、煙草の灰が音もたてずに床へ落ちた。
キーリンは腕を組んで椅子の背もたれを鳴らした。それがどうした、とでも言いたげな態
度だった。
簡単に受け入れられるようなことじゃない。仲間が拳銃を放ち、それについての供述を拒
否しているのだ。罪を認めているも同然である。
しかし、彼はそんな感情を面に出さず、平然と構えていた。本物の刑事だった。
俺はフィルターだけになってしまった吸殻を灰皿に落とし、
「それで、レイノルズは黙秘している。俺も供述を変えない。だとしたら、一体俺はいつ
までここにいればいいんだ?」
と、訊いた。
キーリンは首を左右に曲げて骨を鳴らし、大きく伸びをした。
「さて、と」
呟くように言うと、彼は立ち上がってドアを目指した。
「おい」
俺の呼びかけに、彼はドアノブを掴んだところで動きを止めた。ゆっくりと、機械仕掛け
の人形のようにこちらを向く。
また、しばらくの間、お互いの目を見据えたまま時間が過ぎていった。
俺の目には、彼は困ったような、迷っているような表情に見えた。
キーリンはためらうように小さく息を吸い込み、俺が全く予想もしていなかった台詞を吐
いた。
「鑑識の結果、レイノルズの使ったオートマチックに前科は無かった」
彼は部屋を出ていった。
一人残された俺は、子供の迷子のようだった。

460例の899:2004/06/27(日) 02:17
 最後に入ってきた刑事部長を名乗る男は、今日中に現行犯による殺人未遂犯逮捕の認定
を州裁判所が出し明日にも報奨金の申請が行われる旨を告げ、四枚の書類を差し出した。
俺はそれらにサインをし、銃器類を返却してもらってから、ようやく自由の身になった。
だが、俺は開放感を満喫することなく、頭の中でキーリンが最後に言った台詞について考
えを巡らせていた。
どうにも納得のいかない、形の合わないパズルのピースを無理やりはめ込もうとしている
ような気分だった。
署内のエレベーターを降り、玄関フロアへ向かってゆっくりと歩いている俺を多くの人間
が忙しそうに追い抜いていった。
パズルのピースをいじくり回すのに飽きて顔を上げた俺の目線が、艶やかな黒髪を肩で切
り揃えた制服警官の女性の目線と合った。
彼女は軽く頭を下げて会釈したので、俺も帽子を持ち上げて応えた。俺が同僚の刑事を捕
まえた憎き掃除屋であることを、彼女は知らないのだろう。そのままなにごとも無くすれ
違った。
フロアの柱に背をあずけたトレインが手を挙げて俺を迎えた。タフなのか鈍感なのか、頭
にくるほど疲れのない表情をしている。普段通りの抜けた顔だ。不思議なことに、無精髭
さえ生えていない。
「よお、ずいぶん歳食ったみてェだな」
これもまた普段通りの軽口だ。
普段の俺ならここで軽口を返すところだが、今はそんな時ではない。
「ちゃんとできただろうな?」
「心配性だな、アンタは。だーいじょうぶだって。だいたい俺がゲロってたら、連中、ア
ンタにそれをぶつけてるハズだろ?」
「んなことデカイ声で言うな、馬鹿……あ……うぅ」
自然と俺の声もデカくなっていた。
トレインは俺の肩をポンポンと二度叩いて、
「大丈夫。余計なことは言ってないし、それと悟られるような真似もしていない。神とお
袋と銃に誓う」
と、小声で言った。
「なら、いいけどよ」
「でも、もうチョイ信用してもらいてェモンだなぁ。俺だって、掃除屋になってからかな
り取調べを経験してるんだゼ?」
「掃除屋になってから、か」
言ってすぐ『しまった』と思った。疲れが思考を鈍くさせてしまっている。俺の言い方は、
凄腕の殺し屋時代に一度も取調べを受けなかったということをほのめかしていた。ヤツの
過去に、無遠慮に触れてしまった。
しかし、トレインは顔一杯に渋面を作って肩をすくめ、その後すぐに笑顔を見せた。
気にしてないから気にするな、というサインだった。

461例の899 大番長終わりません:2004/08/01(日) 02:20
 玄関の回転式扉をくぐったところで横から名を呼ばれた。リック=オースティンだった。
「少し、よろしいですか?」
俺はうんざりしていた。今すぐにでもベッドへ飛び込みたいのだ。
「んじゃ、俺は先に行ってるゼ」
それを察したわけでもないのだろうが、トレインはそう言って背を向けて歩き出した。
俺は小さな溜め息を吐き、
「トレイン!」
と、呼び止めた。振り向いたところへ、車の鍵を投げて渡した。
「中を冷やしておいてくれ……ああ、そうだ。バッテリーが弱ってきてるからな、強にす
るんじゃねェぞ」
「ヘイヘイ」
トレインは、指で鍵をクルクルと回しながら駐車スペースへと向かった。
「スヴェンさん―――」
「場所を変えよう。ここじゃ周りの迷惑になる」
俺は先に立って敷地の隅、建物から伸びる日陰のところへ歩いていった。後ろをリックが
続く。
「さて、他の刑事達の目に付くような場所で声をかけてきたのは、一体どういうワケだ?」
少しひんやりとした壁にもたれ、煙草を取り出しながら俺は尋ねた。
「すいません、ご迷惑になることも考えずに」
彼は素直に謝り、続けた。
「でも、どうしてもすぐにお話を聞きたかったんです」
俺は大きく一服して、リックと反対の方向へ勢いよく吐き出した。
「ふむ。それで、聞きたい話とは?」
「はい。あの、本当にレイノルズ巡査長が?」
「アンタが聞いた通りさ。俺もトレインも、嘘は吐いていないゼ」
二口目の紫煙を長い息遣いで吐き出し、俺は言った。
リックは慌てて頭を振った。
「いえ、そういう意味ではないんです。レイノルズ巡査長が……その……」
「ジョーを殺したのか、か?」
「は、はい」
彼は肯いた。
俺は三口目を口に運んだ。彼はその様子をジッと見守っていた。
「ジョーと運び屋を殺した銃と、レイノルズが持っていた銃とは一致しなかったんだゼ?」
「聞きました。でも、未登録の銃を新たに用意すれば……」
リックは語尾を濁した。同僚に、もう一つ罪を負わせようとしていることに対する罪悪感
からだろう。
俺は指で灰を落としながら言った。
「かもしれんな。だが、レイノルズの自宅を漁っても、問題の銃はおろか運び屋の部屋か
ら持ち出した10kgのヤクも見つからないと思うゼ」
「…………」
彼は眉間に皺を寄せて黙ってしまった。
俺は煙草をゆっくり味わった。その長さが半分ほどになった時、彼はようやく口を開いた。
「レイノルズ巡査長がアナタ達を襲ったのは、彼がダラタリ・ファミリーに抱きこまれて
いるからですか?」
俺は首をゆっくりと回し、骨の乾いた音を響かせた。
「なぜ、そんなことを俺に訊く?ヤツの供述調書を見るなり、担当のデカに訊くのが筋だ
ろう」
「僕は……」
そう言って、リックは下唇をきつく噛んだ。
「同僚が信じられなくなったのか」
俺の台詞に、彼の体が雷に打たれたように震えた。
今のリックの心情が、俺には痛いほどよく分かる。
研修で配属されたネオユークで、俺は警察という組織の裏側を見た。酒場や週刊誌などで
まことしやかに囁かれている警官の汚職。そういったものは、大統領から路地裏のヤク中
まで知れ渡っている。だが、それは全てではなかった。組織はもっと深いところから病ん
でいた。そして、その病はIBIとて同様だった。打算や保身、度の過ぎた野望、傲慢な
ほどの特権意識がそこにはあった。
個々の細胞が病んでいるから組織全体も病んだのか、全体が病んでいるから細胞も病んだ
のかは分からない。ただ、その時、俺が感じていたものは、組織全体に対する不信だった。
そして、リックも今、警察全体に対して不信を抱いている。
「警察は正義だと思っていました」
彼はやっとのことで声を絞り出した。
「汚い警官はいないなんて子供みたいなことを言うつもりはありません。聞くだけじゃな
くて、いろいろと見てきたつもりです。でも、今度のは……まるで殺し屋じゃないですか」
俺は特に感想を漏らさなかった。ただ、昔のことを思い出していた。

462例の899 でも面白いな大番長:2004/08/01(日) 02:21
 ネオユークでの研修が終わりに差しかかった頃、俺は一人の犯罪者を担当することにな
った。彼女は、殺人者だった。
彼女には小さな子供がいた。父親はその子が産まれてすぐに消えた。今どこにいるのかも、
消えた理由も分からない。ただ、彼女は小さな食品加工会社の経理事務と福祉を頼りにそ
の子を育てていた。生活は苦しいという段階をとおの昔に過ぎていた。しかし、頼れる親
類縁者もおらず、その子の面倒を彼女一人でみなければならないため、それ以上の時間を
仕事にまわすゆとりも無かった。
そんな彼女に、一人の男が近づいた。会社の上司である男は、彼女に横領を持ちかけた。
なに、ちょっと数字を間違ってくれるだけでいい。仕事上のミスだが、誰にも気づかれな
いだけ。その男の役職と、彼女が毎日顔を突きつけている書類があれば、それは簡単なこ
とだった。誰にも気づかれなければ。
なによりも彼女の気を引いたのは、分け前として得られる金額だった。それだけあれば、
ベビーシッターを一年間は雇えるのだから。
彼女は罪を犯した。ゴミに埋もれた街の典型的なプアーホワイトの家庭に育った彼女にと
って、それが生まれて始めて犯した罪だったかどうかは分からない。ただ、彼女はやり遂
げた。
男は約束の金を彼女に渡さなかった。金は全て独り占め。横領を働いたのは彼女一人。自
分は提出された書類に目を通したが、不正を見抜けなかった。彼女を信頼していたからだ。
それがミスなのだとしたら、自分は確かにミスをした。ホテルの一室で、男は彼女にそう
語った。
彼女は激昂し、男に詰め寄った。男は逆に、彼女を脅迫した。そして、彼女は男を殺した。
一時は取り乱しもしたがやがて我を取り戻し、彼女はその場で警察へ電話をした。自殺も
考えたが、止めにした。生命保険に入っていなかったからだと、彼女は俺に語った。
やり取りを後ろで黙って聞いていたジョーと一緒に取調室を出た俺は、こみ上げる吐き気
を抑えながら彼に尋ねた。
『警察は正義なんですか?』
我ながら馬鹿げた質問だと思った。だが、心の底からわき上がってきた疑問だった。
デスクの上の法律書には、彼女は第二級故殺犯であり、横領の共同正犯だと書いてある。
しかし、俺の心はそれだけでは到底納得がいかなかった。あの時、俺を支配していたもの
は、なにかをしなければならないのになにもできないという、強烈な無力感だった。
ジョーは、落第寸前の生徒を導くような優しい口調で俺に語った。
『この商売をやってるとな、時々自分がなに者なのかを見失ってしまうことがある。人に
対しての高圧的な態度も、職務のためと分かってはいても俺は最初からこんな人間だった
んじゃないかって気になってくる。狂った犯罪者どもの相手をしている内に、だんだんと
ヤツらの考えていることが分かるようになってくるのも、それはヤツらと渡り合うために
は必要なことなんだが、その内それも、俺という人間が最初から持っていた素質なんじゃ
ないかと思えてくる。俺も狂ってるんじゃないか、とな。でも、それは全部間違いなんだ。
俺達は、ただ単に刑事であるだけなんだ。だから、飢えた子供のために盗みを働いた女も、
その日のヤクを買うために八十の婆さんを殺したガキも、俺達は同じように扱わなければ
ならない。それが、ただの人間でしかない刑事にできる、たった一つのことだ』
 俺は壁から背を離し、携帯灰皿で煙草を揉み消した。
「そいつは多分、間違いだ」
リックは顔を上げた。俺は携帯灰皿を見つめたまま、喋り続けた。
「警察は正義だ。上の人間が汚い取り引きをしていようが、下の人間が職権を利用して悪
さをしていようが、それでも警察が正義なんだよ」
リックをそこに残し、俺は歩き出した。その背中に、彼は声をかけた。
「アナタは刑事を辞めて正解でした」
俺は振り向くこともせず、ただ右手を軽く挙げてそれに答えた。
あの時、語り終えたジョーに俺はなんと言ったんだろう?そんなことを考えていた。
頭の中のパズルが、綺麗に並んでいた。

463名無しさん:2004/11/09(火) 00:53
半年振りに見たがちゃんと書いてたんだな・・・ちょっと感動したよ

464名無しさん:2005/03/18(金) 21:18:50
すんごい良い所で切れてるな。
気になるけどもう作者いないんだろうなぁ…

465例の899:2005/03/31(木) 02:18:41
いるよ
書いてるよ、ジリジリと
全部書き終わったら一気に放出して逃げようと思ってたけど、
ちょっと書いては一週間くらい平気で放置したりしてまだまだ終わりそうにないし
もう少し書いたら一段落、つっても大した量じゃないけど、するのでそこで一度出そうと思います
全部書いたら一応本スレで報告でもしとくか
ハァ?って言われそうだが

466例の899:2005/04/04(月) 01:04:00
 ホテルに戻るまで、誰からも道をふさがれることはなかった。
報奨金の発生まで当該する掃除屋の情報を伏せる保護規定を申請していたので、警察は逮
捕した者であり被害者でもある俺達のことを、掃除屋であるとしか発表していない。その
おかげで、俺達は写真を撮られたりしつこくつきまとう記者連中の質問攻めにあったりし
てこれからの行動を邪魔される心配をしなくてすむのだ。
報奨金の申請は明日出され、その日の夕方か遅くても次の日の午前中には口座へ金が振り
込まれるだろう。俺達が身軽に動けるタイム・リミットはそれまでだ。
しかし、俺はホテルへ戻った途端、ベッドに倒れ込んだ。二夜連続の張り込みに長時間の
取調べを経た身体を動かせるほど、俺の心と身体は丈夫には出来ていなかった。
寝るにあたって、再び襲撃者がやってくるかもという心配はなかった。向こう側に、まだ
荒事を任せられるような乱暴かつ口の堅い協力者がいるかもしれない。しかし、しばらく
は市警やIBIがホテル周りを張っているはずである。市長の協力者の中に警察関係者が
いることが確実となった今、ヤツらがホテルを襲撃することはあり得ない。
果たして、帰宅時と同様、誰からも睡眠の邪魔をされることはなかった。
 目が覚めた時には外はもう暗くなっていた。時間を確認しようと、ベッド横の張り出し
の上に置いてある腕時計を取ろうと手を伸ばしたが、それは空を切った。
バランスを崩して倒れそうになるのを抑えながら、ここが二〇六号室ではなく隣の二〇七
号室であったことを思い出した。最初に泊まっていた二〇六号室が、今では鑑識の手によ
りまるで爆撃を受けたあとのような状態にあり、使用した化学薬品の匂いが部屋中に充満
していたため、荷物も移さずに隣の部屋で寝てしまったのだった。
汗まみれの身体を起こし、眉間の辺りを強く揉んだ。顔がむくんでいるような気がする。
脱がずにそのまま寝たので、シャツはこれ以上ないというくらい皺だらけになっていた。
部屋には俺一人しかいない。書き置きの類もなかったが、気にしないことにした。
今はなによりもまず、汗を洗い流したかった。
先日来の付き合いである打撲は黒ずみはじめ、再び鈍い痛みを訴えていた。
冷水のシャワーを浴び終え、着ていた衣類を汚れ物入れのビニール袋の中へ押し込み、一
応は人前に出られる格好に着替えてから隣の部屋から荷物を移し変えた。
一段落ついたところで携帯電話を確認すると、着信履歴が五件あった。全てアネットから
だった。
午後三時前に戻り、今が九時半過ぎだから、寝ていたのは六時間くらいだ。着信はきっち
り一時間おきである。緊急の連絡かもしれない。
右肩と耳で携帯を挟んで呼び出し音を聞きながら、電源を入れた小型TVを窓枠に置いた。
「こちらカフェ・ケットシー」
「俺だ。なにかあったのか?」
上手く受像できるようにアンテナの方向を弄りながら訊いた。
「なにかじゃないよ!あったのはアンタ達の方じゃないさ!」
アンテナの方向を間違えたのか、それとも聴覚への衝撃が視覚にも伝わったのか、小型T
Vの画像が激しく歪んだ。
俺は携帯を反対側の耳へまわした。TVのチャンネルをニュースに合わせる。
「ああ、そのことか」
「じゃ、やっぱりアンタ達の仕事なんだね?」
「そりゃあそうだけど、そんなことを確かめるためになん度も電話寄こしたのか?明日か
明後日にはBIG・SHOTで発表されるじゃねェか」
「とぼけんじゃないよ。アンタ、もう一度、自分達がどれだけツケを貯めてるか、事細か
にアタシに説明させたいのかい?」
「ああ、それか。あー……そのことなんだがな……」
自分でも情けなくなるくらい声が上ずった。咳払いをする。
「どうした?言いたいことがあるんなら、じっくり聞いてやろうじゃないのさ」
アネットの挑戦的な言い方に、俺はますます弱ってしまった。肉体的にも、精神的にも。
「あのな、俺達が捕まえたのは殺人未遂犯であって、最初に予定していた薬物所持犯じゃ
ないんだよ。それに数日前からカードも止められているし、今回の捜査にもいろいろと物
入りがあってだな、その……そういった諸々の事情によりだな、そちらへのツケに回せる
だけの金が……だ、その……」
この頃になってようやく、寝起きで鈍った俺の頭でも、なぜ今トレインがいないか分かっ
た。ヤツへの呪いの言葉なら溢れ出すほど湧いてくるのに、アネットへの弁明の言葉がな
かなか出てこない。
「そのってなんだい?ツケは払えないってのかい?」
言い出せなかった言葉を、彼女の方からさらっと切り出してくれた。
「うん、まぁ、そういうこと、かな」
俺の方は相変わらず歯切れが悪い。

467例の899:2005/04/04(月) 01:05:38
「ふぅん、そりゃあ仕方ないねェ」
「そう、仕方ないんだよ」
「馬鹿言ってんじゃないよ!!」
もう片方の耳もやられた。もう一度、携帯を右耳へ回す。
「こっちは今回の件でアンタ達に優先で情報を送ったり人を紹介してやったりしたんだよ。
それもこれも、アンタ達に稼いでもらってツケを払ってもらうためじゃないさ!そこまで
しといてもらって、こっちへの金の払いは後回しってどういうことだい!?」
「その言い分はもっともだと思うよ。思うんだが、ここは一つ勘弁してくれないか?」
「だいたいアンタ達はね……」
彼女はその後二十分近く、俺達がいかに無能で恥知らずで恩知らずで地獄へ落ちるべき人
間であるかということを、様々な表現を使って教えてくれた。
 ようやくのことでアネットから開放され、次の行動を起こす気力がなくなっていた俺は、
ベッドに寝そべりぼんやりとニュース番組を見ていた。
現職刑事の掃除屋襲撃という事件は、当然というべきか世間の耳目を集めているらしく、
夜のニュースでもヘッドライン扱いにされていた。その中で、同じ街で警官が一人撃ち殺
されているという事件にも触れられていたが、後はここ数ヶ月の間に起きている警察の不
祥事を羅列し、その体質に苦言を呈すという無難な作りになっていた。
 画面が今日のスポーツの結果を映し始めた頃、トレインが帰ってきた。
「お、やってるやってる」
トレインは、まるで最初からそれが目的だったかのように、自分のベッドに腰掛けてさも
興味深そうにTV画面を見つめた。もちろん、俺は騙されない。
「そういうヤツだよ、お前は」
「向き不向きさ。交渉事はアンタ。危ない仕事は俺」
悪びれもせず言ってのける。
俺は鼻を鳴らして軽い不満の意を表明した。危ない仕事をトレイン一人に任せたことなど
ないのだから。
「まぁそんなに怒らないでくれよ。やることはやってきたんだから」
そう言ってトレインは、いつものとぼけた人懐っこい笑みを見せた。それにも俺は騙され
ない。しかし、報告だけは聞くことにした。
「どうだった?」
「尾行はついてたよ。まぁ、当然だけどな。市庁舎の方まで行ってみたけど、手を出して
くることもなかったしバタバタする素振りもなかった。餌にするつもりだよ、俺らを」
「では、市長やダラタリ・ファミリーの方から仕掛けてこない限り、警察もIBIもただ
の見物人だな」
「俺らに対してはそうだろうけどよ、警察やIBIはこのヤマのことをどの程度まで掴ん
でいて、この先どう動くんだ?」
「市警はレイノルズ止まりさ。その先は見えちゃいないし、レイノルズが吐かなきゃ動き
ようがない。ただ、署長の首は確実に飛ぶだろうな。現署長は一度、カジノの建設計画で
市長と対立している。計画の中止には住民の意向もあったから、その時は市長自身のイメ
ージを大事にして首のすげ替えは出来なかったが、今度のことでその意趣返しができる」
「黒幕は自分の癖にか」
「そんな世界さ」
煙草を取り出して火を点ける。
「じゃあ、IBIは?」
「ヤツらのターゲットは市長であり、その先のジェシー=ヤンデン上院議員だ。その息子
のトマス=ヤンデン市長とダラタリの関係も掴んじゃいるが、確証がない。あったとして
も、議員が指を一本動かすだけで簡単に潰されちまうようなモンだろうな。それに、俺達
が刑事に襲われたことで、市長と市警の関係も疑っているかもしれないが、レイノルズの
身柄引き渡し要求を市警は呑まないはずだ。市警察にとって、ヤツは唯一の手札だからな。
つまり、こと市長に関しては、IBIも大した動きは出来ないってことだ。市長と俺達に
見張りをつけるくらいで、殆どの人員は上院議員の周囲とダラタリ・ファミリーの締め付
けに回っているだろう」
「じゃあ、俺達が引っかき回すのを望んでいるってことか」
トレインは、指をくるくる回してかき混ぜるジェスチャーをした。
「いや、逆だ。引っかき回されることは望んじゃいない。恐らく持久戦狙いだろうな」
言い終わると、俺は煙草を一口吸った。紫煙を中空に向かって吐き出すと、トレインは肘
を立てた腕枕を作って寝転んだ。
「ふーん。でさ、ヤツらはそれでいいとして、俺達はこれからどう動くんだ?」
「それだよ」
俺は煙草の先でトレインを指して言った。

468例の899:2005/04/04(月) 01:06:16
「いい手が思い浮かばないんだ。ただヤツらに打撃を与えるだけなら、IBIに裏帳簿の
データを渡すだけでいいんだが、それだと脱税の罪でしかぶち込めない。脱税ってのは、
刑自体は軽いものなんだが、懲罰税の方がとてつもなく重い。額が多けりゃ多いほどな。
それはそれで、ヤツらにとっちゃとんでもない痛手にはなるだろうが、言えばそれだけだ。
ダラタリとの繋がりは以前不明のままだし、今度の事件に市長が関わっていることを証明
したわけでもない。ジョーを殺したヤツも分からないままだ。それに、まだ一番大きな問
題が残っている」
俺がそこで言葉を切ると、後をトレインが引き継いだ。
「俺達は一イェンの儲けにもならない」
「そう、俺達の目的は、あくまでも輸送中の麻薬だ。それを引っ張り出さなきゃならん」
「で、その方法が見つからない、と」
事の重大性を全く理解していない、他人事のような話し振りだ。
俺が眉根を寄せて睨むと、トレインは愛想笑いを浮かべて弁解するようにつけ加えた。
「ヤクの方に手はなくても、もう一つの方だったら手はある」
「もう一つの方?」
「警官殺しの方さ。アンタ、警察署からここへ戻るまでの間、車ん中でずっと黙り込んで
たろ。俺が話しかけても、てんで上の空でさ。アンタは、なにか重大なことを気づいたか
見つけたかした時に、決まってそんな感じになる。ヤクの方に手がないってんなら、殺し
の方でなにか掴んだんじゃねェの?ホシに繋がるような、なにか」
俺は煙草を一口吸い、大きく吐き出した。
気づかれているとは思っていなかった。警察署前でリックとの会話を終えた頃、俺は一つ
の可能性に思い至った。しかしそれは、証拠もなにもないただの推測である。だから、俺
はまだトレインにその考えを打ち明けていなかったのだ。
「確かに、そっちの方から追っていくしか手はないか」
「やっぱりあるんだな」
したり顔のトレインが言った。
俺は軽く鼻を鳴らして、煙草を揉み消す。
「なにかの証拠を掴んだってわけじゃない。こいつは、ただの思いつきみたいなモンだ。
でもな、この考えでいくと、全てが説明できるんだよ。ジョーが背後から撃たれたことも、
同じ拳銃でヤクの運び屋が殺されたことも―――」
俺は話した。
 長い話ではなかった。重要な点は一つだけである。二本目の煙草に火を点け、その長さ
が半分になる頃には全てを話し終えていた。
「どうだ?」
途中で口を挟むことなく黙って聞いていたトレインに、感想を求めた。
「うーん」
ベッドに横たわったままのトレインが思案顔で唸る。ゆっくりと身を起こし、頭をボリボ
リとかいた。
「確かに、納得はいくよ。辻褄は合ってるし、納得もいく。でもな、動機が分かんねェよ。
ソイツが人のいない港の倉庫前まで行って、しかも警官を撃つってことが」
「まぁな。しかし、俺はこれが警官殺しのカラクリだと思う。動機についても、掘り下げ
て調べてみりゃ必ず見つかるだろう」
「だいたいの目星はついてんのか」
「ああ」
「んじゃ、明日っからそっちの線でいってみようゼ。具体的にどうするかは、全部アンタ
に任せるからさ」
トレインはそう言うと、大きく伸びをした。
 翌日、午前の早い時間から動き出した俺達は、ケニス港の三番倉庫付近を調べ直した。
もっとも、世界的に有名なヤク中の名探偵などではない俺達では、警察がさんざん調べ回
り訊き回った、しかも事件発生から一週間が経った場所から新しい証拠や証人を見つけら
れるわけがなかった。
もっとも、俺の推測を裏付けてくれるような物証が見つかるなどとは、最初から考えては
いなかった。ただ、俺の推測が正しければ、この場所は別の意味でも出発点なのだ。
今度の事件、それも麻薬の運搬の件に関しては、ダラタリ・ファミリーというプロの犯罪
者を多く抱えている組織が行っているものだ。この街の市長を抱き込み、警察内部の人間
も抱き込み、IBIの追求をかわそうとしている。そこになにか手違いが発生し、一人の
警官を撃ち殺した。背後から二発。当然、俺はプロの手並みだと判断した。しかし、身元
の割れた運び屋を殺した時に、同じ銃を使っている。
妙な話である。警官殺しに使った銃は、さっさと処分するのが普通だ。それをせず、しか
ももう一度使うなどといった行為は、およそプロらしくない。それと同時に、警官殺しと
運び屋殺しの犯人が別人であるというのも考えられないのだ。

469例の899:2005/04/04(月) 01:07:06
つまり、その二件の殺しにある矛盾を生み出したなにかが、この場所で起こったのだ。
そのなにかを俺は推測し、探り出そうとしている。ならば、たとえ手掛かりがなくとも、
この場所から捜査を始めるというのは、俺にとっては意味のあることだった。
結局、午後を少し回る時間まで、俺達は倉庫の周囲を歩き回って過ごした。
 テーブルの上には、実に数週間ぶりのまともなランチが並んでいる。冷房の効いた店内
には、客はまばらにしか入っていなかった。昼食というには少し遅い時間だった。
次の予定は、カイトに会うことだった。俺達が求めている情報はかなり特殊なもので、彼
がそれを知っているかどうかは怪しい。なにしろ、特定の刑事のプライベートである。
もし、カイトもその情報を持っていないのなら、彼にも協力してその方面に探りを入れて
もらうつもりだ。そして、俺達はその刑事を尾行するのだ。全くもって無茶な計画である。
「なぁ、スヴェン」
トレインが話しかけてきた。その前には、カルボナーラに、別に注文したミルクを足した
コイツ特製のパスタがある。俺のはマトンのアイリッシュシチューだ。この後も車の運転
があるので、アルコールはここにはない。
「うん?」
「やっぱさ、リックにも協力してもらった方がイイんじゃねェか?」
俺は答えなかった。答えるまでもないことだからだ。
協力を頼める者達の中で、俺達が求めているモノの一番近くにいるのがリックであること
は、どんな馬鹿にでも分かる理屈である。なのに、俺はアイツをこの事件から遠ざけよう
としていた。いや、事件からではない。俺から、だ。
トレインは、特製カルボナーラをフォークでかき混ぜながら溜め息を吐いた。
「なーんか変なんだよなぁ。普段のアンタならさ、どんなに嫌な野郎でも利用できる相手
ならトコトン利用するハズなのに、リックのことになると途端にナーバスになる。そりゃ
あ、アイツがアンタの恩人の元相棒だからってのも分かるんだけどさ」
「別に嫌っているワケじゃないさ」
そう、嫌ってはいない。俺はただ、彼に嫉妬しているだけなのだ。
 携帯電話の振動がテーブルを鳴らした。非通知だった。
食事の手を止め、携帯を持って外へ出る。
「スヴェンだ」
「グレイグだ。なかなか派手にやったそうじゃないか」
「なんの用だ」
「なに、成果のほどを訊こうと思ってな。殺人課の刑事一人を釣り上げたんだって?」
「ヤツは捨て駒だよ」
「ほぅ。じゃあ、このままだとソイツ一人が容疑を全部引っ被ってお終いってワケだ」
「かもな」
「なら、約束を果たしてもらおうか」
「約束?」
「前に言ったろ?失敗したら、俺達がディーンズとことを構える時に手伝ってもらう、と。
今夜、ヤツらと取り引きをする。アンタ達も来てくれよ」
「その話は確かに聞いたがな、約束にOKした覚えはないね。チクったりしないから好き
にやりな」
「その場に市長も来るんだゼ?」
「市長が―――!?」
思わず声が大きくなってしまい、通りすがりの女性が驚いてこちらを見た。俺は彼女に背
を向け、声のトーンを落として尋ねた。
「どういうことだ」
「なに、このままだとこの街はダラタリのものになっちまうんでな。それなら、いっその
こと俺達もダラタリ・ファミリーの一員になろうかと思ってね。とはいえ、こっちにはヤ
ツらとのコネが全くないから、市長に口添えの協力を願ったというワケさ」
「裏帳簿を使ったのか」
「ああ、アンタ達があの刑事を逆に捕まえちまったもんだから、市長の方も随分と困って
いたようだ。快くOKしてくれたよ。もちろん、アンタ達も帳簿の存在を忘れるっていう
条件付きだがね」
「随分とムシのイイ話だな。流石はチンピラだ。道理を知らねェ」
「断るのかい?」
「当たり前だろう」
「じゃあ、その道理を知らないチンピラが、アンタの知り合いのお嬢さんを一人預かって
いると言ったら、どうだ?」
息が詰まった。直ぐに言葉が出てこない。周りの喧騒が、遥か彼方から聞こえてくるよう
な錯覚に陥った。

470例の899:2005/04/04(月) 01:08:55
「誰だって?」
「ユーク時代の同僚の娘さんだよ」
どこか楽しんでいるような口調だった。エリスのことだ。
動悸が耳に痛い。膝も震える。
「馬鹿な真似をしたモンだ」
乾いた唇を無理に動かして、俺は言った。
「そうか?」
「ああ、後はここの警察がお前らを潰して、それで終わりさ」
「どうかな」
「終わりだよ、じゃあな」
俺は一方的に通話を切った。
急いで店内に戻り、伝票を掴み取った。
「どうした?」
「行くぞ」
多くを語らなくても、俺の表情からなにかが起こったことを悟ったようだ。
「あいよ」
すぐにトレインは席を立った。
車に戻り、発進させる。
「なにが起こったんだ?」
「グレイグの野郎が、エリスを誘拐したそうだ」
「エリス?」
「ジョーの娘だ」
「なんでまたそんなことを」
「ヤツは赤龍を切ってダラタリにつくつもりだ。その手打ちに、今夜ディーンズのヤツら
と取り引きをするらしい。市長も同席でな。俺達が裏帳簿の存在を忘れることも、手打ち
の条件の一つらしい。その場に、俺達も引っ張り出すつもりだ」
「それで人質かよ。んで、どうするんだい?」
「今の電話だけじゃ、本当にエリスがヤツらと一緒にいるのかどうか分からない。だから、
まずはウラとりだ」
「ハッタリじゃあないだろう」
「で、あってくれればいいんだが、違うだろうな。しかし、どこでさらわれたかだけでも
分かればいい。ヤツらは、俺達がレイノルズを捕まえたことを知ってから誘拐を計画した
ハズだ。捕まえたのが小物だったから、自分達で行動を起こす気になったんだ。下調べな
どの準備もロクにせずに、な。目撃者がいるかもしれないし、エリスの悲鳴かタイヤのス
キッド音くらいは聞いている人間がいると思う。手掛かりならなんでもいい。少しでもヤ
ツらに近づくことができるんなら」
 外観を見る限りでは、その家は数日前に訪れた時となんら変わりがなかった。
それが余計に、俺の不安をかきたてる。
チャイムを鳴らした。
家の中で、犬が吠えた。
パタパタと走り寄る音がした。ドアが開かれ、
「エリス?」
と、スーザンが尋ねた。その彼女は、俺の顔を見て驚いた。
「スヴェン……」
「スーザン、エリスはどこです!」
「エリス?朝、病院へ行ったきり、まだ帰ってこないのよ。連絡もしてこないし、携帯
も繋がらないの。事故にでもあったのかと心配で……。でも、どうしてアナタがエリス
を……まさかあの子!?」
彼女の顔が恐怖の色に染まった。警官の家族、とくに女房ともなると、この手の被害へ
の恐怖は、常に頭のどこかにある。
「ど、どうして!?ジョーは死んでしまったわ!なのに、なぜあの子が!?」
俺は、彼女の両肩を力強く掴んだ。
「落ち着いて、スーザン。お願いだから、俺の話を聞いてくれ」
一時的な恐慌状態にあった彼女の瞳が、ゆっくりと光を取り戻していく。
やがて、彼女は身体を小刻みに震わせながら、弱々しく口を開いた。
「アナタに関係しているの?」
胸に突き刺さる。しかし、答えないわけにはいかない。
「すまない」
「ああ、神様!」
彼女は両手で顔を覆った。

471例の899:2005/04/04(月) 01:09:33
「こんなことを言える義理じゃないんだが、エリスは俺が必ず助け出す。ヤツらの目的は
俺なんだ。彼女の身柄と引き換えに、俺を引っ張り出そうとしているんだ。ヤツらは金銭
目当てのチンピラじゃない、犯罪のプロだ。だから、大人しく要求をのめば、ヤツらは彼
女に絶対危害を加えない。それだけは……」
言葉が続かなかった。娘を拉致された母親に、犯人は危害を加えないから大丈夫だなどと、
どの口で言えよう。
スーザンは顔を覆ったまま身体を震わせている。
俺は舌で唇を湿らせた。
「俺を信じてくれないか」
「警察には届けるなっていうの?」
「ああ」
彼女は答えずに、くるりと振り返って中へ戻った。
俺はしばらく動くことができず、扉の外側で背中をじりじりと焼かれていた。
 彼女の言葉が重く心に圧し掛かる。警官の女房だった人に、警察に被害を報告するな、
と俺は頼んでいるのだ。これほど馬鹿げた話はない。
しかし、今、警察に動かれてグレイグ達を追い詰めるのは不味い手だ。裏帳簿の存在があ
るとはいえ、誘拐の罪で組織もろとも叩き潰されてしまえば、それも意味がなくなる。市
長とダラタリ・ファミリーのディーンズがグレイグ達ベノンズの申し出を受けたのは、取
り引きに使える材料を持っていないからだ。ところが、ヤツらが誘拐に手を染めているこ
とを知れば、市長は警察を使ってベノンズを取り囲み、裏帳簿との取り引きの材料に使う
ことができる。それどころか、警察内部の協力者にグレイグを消させるかもしれない。警
察に強硬手段に出られて追い詰められた者が人質をどう扱うかなど、誰にも予測できるも
のではない。グレイグはそれが分かっているからこそ、俺が警察に通報しないと考えてい
るのだ。
では、IBIはどうだ。裏帳簿のコピーを見せ、今夜の取り引きのことも伝えたら、スミ
スは協力してくれるかもしれない。しかし、ヤツらの目的は、あくまでも市長でありその
親父のジェシー=ヤンデン上院議員という大物二人だ。それも、シーン部長が長年追い続
けている案件である。官僚的なスミスは、いざとなれば、人質のことなど考えずに突入を
かけるだろう。絶対にそうなるとは言えないが、エリスの身の安全こそ絶対でなければな
らない。
やはり、ここはヤツらの要求通りに動きつつエリスの居所を探り出し、なんとしても隙を
見つけて救出する、という手しかないように思われる。当然、グレイグもそう考えて、手
の出しにくい場所にエリスを隠しているだろうが。
最悪の場合は、最後までヤツらにつき合って、彼女の解放を求めるしかない。
 俺は、彼女にかなり遅れて家の中へ入った。
スーザンはリビングのソファに身を沈ませ、まるで自分を抱き締めるように両手を胸の前
で組み合わせていた。彼女の脛に、黒のトイプードルが身を寄せている。
「スーザン」
呼びかけても彼女は反応も示さない。
それでも構わず言葉を繋げる。
「身勝手なのは承知している。警察を馬鹿にした言い草なのも分かっている。でも、俺の
責任だから俺に任せてくれと言ってるんじゃない。エリスの無事を一番に考えると、警察
に出てこられちゃマズいんだ」
「アナタの責任じゃないわ」
彼女は力なく呟いた。
「元々は、あの人にあるんですもの。妙なお金を受け取って、殺されて―――」
「それは違う!」
俺は声を荒げて否定した。
「今度の誘拐にジョーの件は関係ない。全くの無関係と言えば嘘になるが、それでもこの
件に関しては違う。全部俺の責任なんだ!」
スーザンはジッとしたまま動かない。大声に驚いたトイプードルが頭を低くしている。
静寂が耳に痛かった。
「すまない、大声を出して」
彼女は首を横に振る。そして、俺には目もくれずに、
「なにかアテがあるの?」
と訊いた。
俺は少し迷い、
「今はまだ、なにもない。確証も、手掛かりも」
と答えた。
スーザンは短く息を吐いた。
「不器用ね、アナタって。不器用で、正直者で、そして残酷だわ」
「すまない」
嘘を吐いてでも彼女を安心させてやるべきなのに、俺にはそれができなかった。
俺は確かに、不器用だ。

472例の899:2005/04/04(月) 01:10:35
 ベイブ家を辞し、車に戻るとトレインが外に出て待っていた。
「どうだった?」
「病院へ見舞いに行ったっきり、行方が分からないらしい」
答えて、俺は煙草に火を点けた。
「そうか。じゃあ先ずは病院だな」
「ああ」
二人で車に乗り込んだ。
 助手席のトレインに、スーザンから聞いた病院の住所を地図で確認させ、道順を指示し
てもらう。
病院まではいくつかのルートがあるが、エリスはいつも決まった道を行くらしい。
彼女はその道程を徒歩で行くか、途中でバスに乗るかのどちらかだと教えられていた。
恐らく、今日は徒歩で行っていたのだろう。別の場所へ寄っていなければ、その道筋のど
こかで白昼堂々と襲われたと思われる。
俺達は、どの辺りが人通りが少ないか、どこかで騒ぎになってはいないかを注意深く確か
めながら進んでいた。
その途中、俺の携帯が着信を告げた。
車を路肩に寄せる。非通知だった。
通話ボタンを押し、なにも言わずに耳に当てる。
「よう、確認はとれたか?」
「彼女は無事なんだろうな」
「この電話に出すことはできないがね。アンタ達がこちらの言う通りに動いてくれさえす
りゃ、傷一つつけずに帰すよ」
「分かった。だが、今言ったことを忘れるなよ」
「うん?」
「どんな小さな傷だろうと彼女についていたら、その時はテメェら皆殺しだ。言っておく
が、俺は少々頭に血が昇りやすい性質でな。上手くコントロールしたいなら、せいぜい気
をつけることだ」
電話の向こうでグレイグが笑った。
「OKOK。見張りにはしっかりと言い聞かせてあるから安心しな。こっちはパーティー
に出席してくれりゃ文句はない」
ハンドルに拳を叩きつけそうになった。
通話口に手を突っ込んで、首を絞め殺してやりたい。
トレインが煙草のケースを俺に差し出した。鼻で深呼吸をし、一本抜く。
グレイグは俺を怒らせようとしているのだ。それに乗せられて冷静さを失ってはいけない。
「それで、俺になにをさせようってんだ?」
俺は紫煙を吐き出しながら尋ねる。
「なに、俺と一緒にいてくれるだけでいい。ああ、裏帳簿のコピーが入ったディスクを忘
れずにな」
「そんなものを持っていったところで、向こうは納得しないだろう」
「裏帳簿のことを知っているという確認さ。納得なんてさせる必要はない。こっちは脅迫
している立場なんだからな。後は、ヤツらに一言『全て忘れる』と言ってやれば、アンタ
達も配当にありつけるってワケさ」
コイツ、俺達を売るつもりじゃないのか?
紫煙を肺に吸い込み、少し冷えた頭にそんな考えが浮かんだ。
「ヤツらが素直に応じない場合はどうする」
「こっちとしては、穏便にすませるのが望みなんだがね。それが叶わないとして、手を出
すとすりゃ向こうからだ。その場合、無論こっちも応戦する。アンタ達に来てもらいたい
のは、どちらかと言えばその時のためさ」
「では、丸腰になる必要はないってことか」
「ああ、そうさ」
グレイグはこともなげに言った。どこか楽しんでいるような口調でもあった。
売るつもりなら、俺達に銃を持たせるハズがない。人質をとられているのだから、丸腰で
出て来いと言われても俺達はそれに従わざるを得ないのだから。
それとも、あまりにも手詰まりの状況に追い込み過ぎると、警察に駆け込まれるとでも考
えているのだろうか。
まぁいい。せっかく持ってきてもよいという申し出だ。存分に役立たせてもらおう。
俺はそう心を決め、煙草を揉み消した。
「時間と場所は?」
「時間は今夜の二十三時。場所はまだ決まっていない。約束の一時間前までに、向こうか
ら指示が来ることになっている。まぁ、悪党同士のパーティーに市長が同席するんだ。い
ろいろと小細工をしたくなるだろうさ。アンタ達も、せいぜい用心してくれよ」
通話が切れると、俺は大声で、
「糞野郎が!」
と叫んだ。
「落ち着け、スヴェン。落ち着いて話してくれよ」
俺は二、三度肩で大きく息をし、会話のあらましをトレインに伝えた。
「分がいいのか悪いのか、よく分かんねェな」
聞き終えたトレインが頭をボリボリとかいた。
「銃が使えるんだ。分がいいと思おう」
俺はサイドブレーキを下ろした。

473例の899:2005/04/04(月) 01:17:46
八ヶ月かけて書く量じゃないよな

474名無しさん:2005/04/05(火) 19:45:11
頑張って完走してくだされ。
楽しみに待っております。

475例の899@:2005/05/01(日) 00:44:11
 エリスが向かったという総合病院に着いた時、トレインが驚きの声をあげた。
「おいおい、アレ見てみろよ」
トレインが指し示した駐車スペースに、警察車両が二台停まっていた。
「通報しちまったのか?」
「いや、スーザンは同意してくれたよ。彼女じゃない。もしかしたら、目撃者がいたのか
もしれねェな」
「だとしたら、俺達がここで誘拐のことを嗅ぎまわったりすれば、厄介なことになりゃし
ねェか?」
「警察にこの誘拐がベノンズの仕業だって知られることを心配しているんだったら、それ
は大丈夫だ。なんせ俺達は掃除屋なんだからな。事件が起こりゃ嗅ぎまわるのが当然だ。
それに、被害者の知り合いとくりゃあな。後は、つまらんことさえ喋らなければいい」
「それはつまり、俺は喋るなってことか?」
「物分りがよくて助かるよ」
車から降り、辺りを見回す。
「違うな」
俺は一人ごちた。
「なにがだい?」
「警察の車は、さっきの二台しかない。どこも封鎖していないし、聞き込みに走り回って
いる様子もない。こりゃあ、誘拐とは違うぞ」
「じゃあ、別の事件かな」
トレインは腰に左手を当てて小首を傾げる。
「ああ、もっと小さな事件だろう。引ったくりか置き引きか、その辺りの」
「入り口ん所に制服がいやがるゼ。一応、訊いておくか?」
「必要ない。エリスが来たかどうか確かめるのが先だ」
 一人で立ちん坊をしている制服警官を無視し、自動ドアを潜る。
病院の中は、まだ少しだけ暑さを感じる程度の冷房しか効いていなかった。
午後もかなり過ぎ、診療客はほとんどおらず、職員以外は見舞い客とパジャマ姿の入院患
者が数人歩いているだけだった。皆、一様にうつむき、床を見て歩いている。なにかしら
重い雰囲気が辺りに漂っていた。
受付カウンターの、横幅のわりには疲れた顔をしている中年女性に掃除屋許可証を提示し、
マルチナ=ベイブが入院している病棟を尋ねた。
彼女はそれを胡散臭そうに眺め回したかと思うと、これほど忙しい人間にくだらない手間
をかけさすのはロクデナシであるという気持ちを隠すことなく、小児科病棟の場所を教え
てくれた。
ついでに警察が来ていることについて訊こうと思っていたのだが、彼女のそんな態度を見
て俺は考えを改めた。
エレベーターホールへ向かうと、そこにも制服警官が一人立っていた。
「あ、リックの坊やだ」
トレインが気の抜けた声で呟く。
俺が舌打ちして回れ右するより先に、向こうもこちらに気づいたらしい。
「スヴェンさん。どうしてこちらへ?」
走り寄り、俺達に軽く一礼してリックは尋ねた。
「見舞いだ。そっちこそどうした」
「この病院の職員に不幸がありまして、その事情聴取に同行させていただいています。掃
除屋が必要な事件じゃありませんよ」
「心配するな、首を突っ込みに来たんじゃない」
俺が苦笑すると、リックは慌てて手を振った。
「皮肉で言ったんじゃありません。すいませんでした。それより、お見舞いってマルチナ
ですか?でしたら、エリスに会いませんでしたか?今日来るハズだったのに来ないって、
マルチナが言っていたもので」
「おやまぁ、大変だな」
余計な相づちをうったトレインを、俺はジロリと睨みつける。
「あのう、どうかしましたか?」
俺達の様子をいぶかしむようにリックが尋ねた。
「なんでもない。エリスには今日は会っていないよ。見かけたら病院へ行くよう伝えてお
こう」
「そうですか。お願いします」
 リックと別れ、いったん病棟の中へ入った俺達は、壁掛けの院内地図で入ってきた時と
反対側の方角にもう一つ出入り口があることを確認し、そちらへ向かった。
「つまらんことは喋るなって言ったろうが、ったく」

476例の899@Wiz外伝PoBやってる:2005/05/01(日) 00:45:51
駐車場に出た瞬間、我慢が切れて俺はこぼした。
「ただ今日来てないってだけで誘拐のことはなにも知らないヤツに、なにが大変だな、だ」
「わりぃ。つい、な」
「つい、じゃねェよ全く。まぁ、少しは変に思われただろうが、ヤバイことに巻き込まれ
ているとまでは感づかれちゃいないだろう。だが、頼むゼ?これには、エリスの身の安全
がかかってるんだからな」
「分かったよ。それで、次はどうすんだい?ここへ来る途中にさらわれたようだが、もう
一度来た道を引き返すか?」
トレインはそう言って助手席へ乗り込む。
「無駄だろうな。それに、時間も少な過ぎる」
遅れて運転席に身体を滑り込ませ、俺は答えた。
「じゃあどうすんだよ」
「ベノンズのヤツらに関係がある場所を一つだけ知っているだろう、俺達は」
車内時計に目をやる。
「まだ開店前だが、誰か一人くらいいるだろう。臨時休業してさえいなけりゃ、な」
エンジンをスタートさせ、連中がアジトにしているクラブへと向かった。
 店の前に着いた頃には、時計の針は午後三時半を指していた。
前回訪れた時に、店員から開店は午後五時からだと聞いていたので、店を開けるのならそ
の準備が中では行われているハズである。
「ここで待っていてくれ」
車を停め、共に降り立つと、俺はトレインに言った。
「裏口を張っていた方がよくねェか?」
「ヤツらはそんな間抜けじゃないさ」
トレインの異議を即座に否定する。逃げ出す必要のあるヤツなど、この店にはいないのだ
から。
グレイグの方も、俺達がこの店を訪れることは予測しているだろう。もし、店を臨時休業
にでもして誰も置いていないのならばそれまでだが、たとえいたとしても、その人物は誘
拐のことなどなに一つ知らない可能性の方が高い。その場合は、ベノンズのメンバーの居
場所かそれを知っていると思われる者の名前を、その人物から聞き出す必要がある。
トレインは眉間に皺を寄せ、しばらく俺の顔を見つめ続けた。
そして、仕方がないといった感じの溜め息を一つ吐き、
「任せるよ」
と軽く両手を挙げた。
「そんなには待たせないさ」
前回と同様、“close”の札が下げられた扉を開け、一人で店内へ入った。
中の様子もまた、前回と同じであった。
はめ殺しの電灯が鈍い光を辺りに投げかけるだけの店内に、ボーイがたった一人で床掃除
をしている。違うのは、前回のボーイは開店前の来客者に即座に反応したのに対し、今い
るボーイはこちらをチラリと見ただけで、すぐにまた床のモップがけに戻ったことだ。
俺は無言でボーイに近づいた。
彼は近くに立った俺の足元を一瞥し、掃除をした直後の床を踏み汚されたのが癪に障った
のか、こちらにかろうじて聞き取れる程度の舌打ちをし、
「なんすか?」
と、顔を上げて不機嫌な応対をした。
どこか身体を壊しているのではないかと思うほど、薄気味の悪い男だった。肉を削ぎ落と
したかのような頬に、彫りの深さとはまた違う目の窪みようである。猥雑に縮れた金髪を
肩まで伸ばしている。若いのかある程度歳を取っているのか、それともまだ十代なのか、
一目では間単に判断できそうにない。
「オーナーはいるかい?」
俺が尋ねると、ボーイはあからさまに胡散臭そうな目つきで俺の全身をねめつけた。
取り締まりの警察の人間と疑い、しかし自分の記憶にあるこの街の刑事の顔とは一致しな
いことを、さらに不審がっているかのようだ。
「どうなんだ?」
俺が促すと、
「いねェよ」
とぶっきらぼうに答え、モップを床にこすりつける作業に戻った。どうやら、考えるのが
面倒くさくなったらしい。
頭を使うのが苦手なタイプの男だと、俺は判断した。
グレイグにとって、最も使いやすい男だといえる。自分ではなにも考えようとはせず、た
だ命じられた通りのことしかしない。こういう男は、裏の世界では最も重宝がられ、そし
て使い捨てにされるのだ。恐らく、まだ正式な構成員にはなっておらず、ボーイとして働
かせているのだろう。

477例の899@もうクリアはしたけどね:2005/05/01(日) 00:47:27
この手の男に、言葉は必要ない。なまじ難しい話をすると怒り出すからだ。あれこれと会
話をして情報を引き出そうとしても無駄だろう。もっと原始的な方法が最適である。
俺はボーイのモップの柄を蹴飛ばした。
「あ!」
ボーイは短く叫ぶと、倒れたモップをしばらく見ていた。
そして、いきなり振り返り、俺に拳を叩きつけようとする。
言葉より先に手が出ることが分かっていたので、俺はその振り返りざまを逃さずにボーイ
の鼻へ軽い一撃を入れた。
悲鳴を上げ、右手で鼻を押さえてよろけるボーイの襟首を掴み、クロスをかけられたまま
のテーブルへ突っ伏させる。
「な、なにしやがんだよ!なんでこんな―――」
喚き、手足をバタつかせるボーイの頭をテーブルに打ちつけ、左手を捻りあげる。
「ベノンズの連中が立ち寄りそうな場所を知らないか?」
「なに言ってんのか分かんねェよ!なんでこんなことすんだよ!殺してやる!クソッ!」
捻りあげる角度をキツくすると、ボーイは汚い言葉のかわりに甲高い悲鳴を上げた。
「や、止めてくれよ!俺は関係ないんだよ!店で働いてるだけなんだよ!」
その言葉を無視し、さらに捻る。あと少し強くすると、肘が挫けるか肩が脱臼するという
ギリギリのところだ。
ボーイは涙と涎で顔中を汚し、もはやろくに喋ることもできないでいた。喉の奥から、蚊
の鳴くようなか細い喘ぎを途切れ途切れ漏らすのがやっとであった。
俺は顔を傾けて、ボーイの目を覗き込んだ。
「ベノンズのメンバーなら誰でもいい。居場所を教えろ」
気の毒なほど怯えた眼差しをしたボーイは、痙攣する唇を二度ほど力なく動かし、声が出
せないと知ると首をブルブルと横に振って答えた。
このまま腕を折ってしまおうか。そう思った時、
「やめなさい!」
という女性の声が店内に響いた。
声のした方へ振り向くと、そこにはラメの入ったグリーンのドレスを着た女性が、事務室
へと通じるドアのノブに手をかけて立っていた。あの時に見た、この店を任されていると
いうグレイグの女だ。
「彼を離しなさい。警察を呼びます」
切れ長の吊り目で俺に鋭い視線を投げかけ、彼女は言った。
俺はボーイを押さえつけたまま、その視線を正面から受け止める。
「呼べるのかい?今、警察に周りをうろつかれると、あんたの愛人が困るんじゃねェのか」
「なにを言っているのか分かりません。離しなさい!」
そう言いはするが、電話に近づく素振りも見せずにその場にジッとしている。
俺はしばらく無言で彼女と見つめ合い、ボーイを突き放した。
「あぁ、畜生!畜生!イテェ、畜生!」
ボーイは右手の肘を押さえて一通り呻くと、女性が現れたことで再び好戦的になり、
「殺してやる!」
と立ち上がるなり俺に殴りかかってきた。
俺は余裕を持ってそれを受け止めた。ボーイの右手はまだ使い物にならないので、左さえ
押さえてしまえばなにもできなくなる。
受け止めた左手を引きつけてボーイの体勢を崩し、今度は加減せずに顎を打ち抜く。
脳を揺らされたボーイは、悲鳴を上げることもなく床に倒れた。
念のため、こめかみの辺りを靴のつま先で蹴った。こうすることで、気絶から覚醒するま
での時間を延ばすことができる。
「さて、今度はアンタに尋ねるとしようか」
俺はドレスの女性に近づいた。それでも、彼女は身じろぎ一つせずに、先ほどから変わら
ない挑戦的な視線を投げかけている。
「グレイグが、今、なにをしているのかは知っているんだろう?」
「なんのことだか分からないわ」
「まぁいい。こっちはただ、ヤツがさらった人間を返してもらいたいだけだ。どこで監禁
しているのかさえ教えてくれりゃあ、後はこっちでやる。アンタに迷惑はかけない」
「知らないものは教えようがないわ。さっさと出ていってちょうだい!」
俺は溜め息を一つ吐いた。
「女には手をあげないのが俺の信条なんだが、あまり手間をかけさせるようだと、それも
捨てなくちゃならん。なにしろ、時間がないんでね」
「ケチな脅し文句ね。なにをされようとも答えは変わらないわ。知らないのだから」
いい度胸をしている。なるほど、グレイグが信用してこの店に残しておくわけだ。

478例の899@でもまだ潜って宝探し:2005/05/01(日) 00:48:15
だが、こちらも引き下がるわけにはいかない。
「なら、知っているヤツに聞いてみようか」
俺は彼女の腕を取った。
「なにをするの!?」
抵抗する彼女を引っ張り、カウンター席に向かった。
電話を確認し、受話器を取って差し出す。
「グレイグに電話してもらおう」
彼女は無言で俺を睨んでいた。
「電話して聞いてみなよ。俺が一緒にここにいると伝えりゃ、ヤツも察しがつくだろうさ。
人質交換ってワケだ。ああ、そうだ。かけ先は警察でも構わんゼ。アンタに任せるよ」
そう言って、俺は彼女の手の中に受話器を押し込んだ。
彼女はしばらく受話器のプッシュホンの辺りを見つめていた。ややあって、なにかを決心
したように顔をキッと上げ、こちらに受話器を放り投げた。
「どちらもお断りだわ」
そう言うと、彼女はそっぽを向いた。その口元は、決意の固さを示すように硬く引き結ば
れている。
俺は奥歯を固く噛み締めた。胸で受け止めた受話器をギュッと握る。
「ヤツがさらったのは、まだ十八の女の子だ。その娘は最近父親を亡くした。撃ち殺され
たんだ。俺は彼女を助けたい。一刻も早く助け出してやりたい!もし……もし彼女が、さ
らわれた以上の酷い目に遭わされたりしたら、もしヤツらに―――」
この先が言えなかった。言いたくなかった。想像もしたくなかった。
「―――もしそんなことになったら、俺はグレイグを殺す」
自分でもゾッとするほど冷たい声が出た。
「…………」
「頼む!今の俺は、あの娘を助けたいだけなんだ。グレイグをどうこうする気はないんだ!
だから、お願いだ!協力してくれ!」
再び受話器を彼女へ差し出し、哀願した。駆け引きもなにもない、純粋な気持ちだった。
しかし、彼女は顎を僅かに引いただけで、こちらを向くことも声を出すこともなかった。
俺は受話器を持った手を振り上げた。そのまま力任せに床へ叩きつけようとし、すんでの
ところでその感情を押し留めた。
受話器をカウンターテーブルの上に置き、倒れたままのボーイをチラリと一瞥してから、
ドレスの女性へ背を向けた。
「邪魔をした」
扉に近づいた時、後ろから声をかけられた。
「一つ、聞いていいかしら」
立ち止まり、首だけ振り向かせる。
「なぜ私を連れ去らないの?私をここから連れ出せば、こちらから連絡しなくても、この
子の意識が戻った時にグレイグに伝わるわ。アナタがそれに気づいていないとは思えない。
人質交換しようと思えばできるハズよ。なのに、なぜかしら?」
確かに、その方法は俺も考えていた。しかし、俺はそれを捨てた。
「グレイグは若い女を人質に取る卑怯者だ。俺は……」
前に向き直り、ドアノブに手をかける。
「俺は、ただの臆病者だ」
言い残し、店を出た。

479例の899:2005/05/03(火) 01:30:35
 外で待っていたトレインに首を横に振るだけで首尾を伝え、俺達は車に乗り込んだ。
「これから、どうするよ」
頭の後ろで腕を組み、座席に深くもたれたトレインが言った。
俺はハンドルに両手を乗せ、目を閉じて考えを巡らせた。
なにか手はあるだろうか。ベノンズのヤツらは、この街に根を下ろして商売をしている。
さらった人間を監禁しておける場所も多く持っているだろう。やみくもに動き回るだけで
は到底突き止められるハズもなく、知る限りの情報を元に、一つ一つの糸を辿っていくし
かない。そして、その糸はこの店で途切れてしまった。
「どうしようもないな」
俺は素直に事実を認めた。お手上げだった。
車中に、徒労感と無力感が重く漂う。
「しんどいな、掃除屋ってのは」
自分に言い聞かすような口調でトレインが言う。
「なんでもかんでも都合のいいようにことが運ぶワケじゃないさ。癪に障る話だがな」
そう答えると、俺はキーを回した。
エンジンが、二、三度咳き込むように震え、アクセルを軽く踏むと不機嫌そうな唸りを上
げた。
 車の中で、俺達は向こうから次の連絡があるまで大人しく待つことに決めた。
途中、手軽にとれる夕食を買い込み、ホテルへと戻る。
部屋の前に、リックが立っていた。
「スヴェンさん」
俺達の姿を認めると、彼は廊下をこちらへ駆け寄ってきた。
「どうしたんだ?」
「エリスは誘拐されたんですか!?」
「うん?」
「とぼけないでください!心配になって家まで行ったんです。そうしたら、スーザンがア
ナタに訊けって。どうなんです!?」
「……彼女はそれ以外になにか言っていたか?」
「いえ、なにも。あ、ただ、私からはなにも言えないけど、と」
「そうか」
リックをここに寄こしたのはスーザンだった。しかし、彼女を責めることはできない。
警察に連絡しないでくれと頼んだのは俺なのだから。
リックも警察の一員であるため、スーザンもどう話せばいいのか迷ったに違いない。
彼女が俺からリックに説明をさせようとしたのなら、『訊けばきっと教えてくれる』とで
も言っただろう。だが、彼女はただ『スヴェンに訊け』とだけしか言わなかったらしい。
それはつまり、リックへどのように伝えるかは俺の判断に任せる、という意味だろう。
そう考えながら、俺はあご髭の辺りをさすって間を持たせていた。
「やっぱり、なにかに事件に巻き込まれたんですか!?」
なかなか答えない俺に痺れを切らし、掴みかからんばかりの勢いでリックは言った。
「ああ、そうだ」
俺が白状すると、横でトレインが大きく息を吐いた。
「誘拐ですか!?なぜです!?誰にですか!?」
リックは俺の襟を掴んで叫んだ。
俺はその手を掴み返して諭す。
「落ちつけ!彼女を助けたいのなら、落ちついて俺の話を聞け!」
「落ちついてなんていられませんよ!なぜ彼女達ばかりがこんな……今日だって!」
「今日?」
そういえば、午後の早い時間にリックとは病院で出会っている。警官の彼が、他の警官達
と一緒に、下の娘のマルチナが入院している病院にいたのだ。その時、彼は今日来るハズ
のエリスがまだ来ていないことをマルチナから聞いたと言っていた。仕事で病院へ来てい
る警官が、知り合いとはいえ、どうして入院患者と会話できたのだ?
「まさか、妹の方にもなにかあったのか!?」
今度は俺が掴みかかる番だった。
「い、いえ、マルチナにはなにもありません。ただ、彼女の担当についていた看護婦が自
殺をしたんです」
「自殺……看護婦が。いつだ?」
「今朝、自室の浴槽で手首を切った姿で発見されたそうです。その件でマルチナは非常に
ショックを受けていて。それなのに、エリスまで……!なぜ、彼女達の周りでこんなこと
ばかりが連続して起こるんですか?」
会話をしている間に少しだけ冷静さを取り戻したようだ。先ほどまでの噛みつくような勢
いが少しだけ和らいでいた。
これなら、事情を教えても理解してくれるだろう。

480例の899:2005/05/03(火) 01:31:10
「自殺の方は知らんが、エリスが巻き込まれたのは俺のせいだ」
「スヴェンさんのせい?」
「彼女は確かに誘拐されたが、それは金銭目当てじゃない。こっちの行動を限定させるた
めの人質みたいなモンだ。俺達が素直にそれに従っている間は、彼女の身はまだ安全だ」
言っていてむなしくなる。
素直に従っている間は、彼女の身は安全。本当にそうだろうか?
俺はエリスの声を聞いていない。無事かどうかさえ確かめようがないのだ。
さらわれた時に抵抗し、ベノンズのヤツらに殴られたかもしれない。監禁され、酷い目に
遭っているかもしれない。考えないようにしていたが、もしかしたら、すでに最悪の事態
になっていて、あの時の電話に出せなかったのかもしれない。
全ては、グレイグの言葉を信じるしかないのである。誘拐犯の言葉を、だ。
そのジレンマが、身体中の血液を激しく上へと追いやり、正常な思考を奪おうとしてた。
肩が小刻みに震えているのに気づく。無意識のうちに、爪が食い込むほど拳を握り締めて
いた。
俺は一つ息を吐き、彼に対して一番重要な点を伝えた。
「だから、今、警察に出張られちゃマズいんだ。リック、お前もだ。分かるだろう」
「でも……!」
彼は食い下がったが、言葉を続けることができなかった。ただ、悲痛な眼差しをこちらへ
向けるだけである。
俺も無言で見つめ返した。
なにをどう言われようと、彼を一緒に連れて行くつもりはない。警官である彼を、これか
ら行われるベノンズとディーンズの会合に同席させるワケにはいかない。エリスだけでな
く、彼も身の破滅を招きかねない。
「エリスを誘拐したのは誰なんですか?」
力ない声で彼は尋ねた。
俺は首を横に振る。
彼はうつむき、夢遊病者のような足取りで俺の横を通り過ぎていった。
もう一度、余計な手を出さぬよう念を押すか、彼の気が少しでも安らぐような言葉をかけ
てやるべきだった。
しかし、俺の心の中に、彼を一刻も早く遠ざけたいという気持ちがあったのかもしれない。
なにも言わず、彼を帰してしまった。
「あれでよかったのかな」
二人きりになった廊下に、トレインの言葉が響く。
思えば、今までに幾度も機会はあった。彼に全てを話し、俺達に協力させることができた。
ジョーから教えられたものを伝えることができた。
今、俺はその最後の機会を逃した。
 日中、出かけ詰めだったため、部屋の窓は今の今まで閉め切ったままであった。
熱せられた空気と、日ごと溜まっていく汗をたっぷりと吸ったシャツ類から発散される不
快な匂いが混ざり合い、沈殿していた。
「こんな部屋じゃ落ちつけねェなあ」
リックを追い帰したことを俺が気に病んでいるとでも思っているのだろうか、トレインは
ことさら明るい調子で言った。
俺は窓を開け、その枠に腰掛けると煙草に火を点ける。
紫煙を肺に入れること数回、ニコチンが血液を通して身体中に染み渡るのを感じると、よ
うやく人心地つくことができた。
「フィー、うめェ」
見ると、トレインが夕食用に二本買っておいたミルクのうちの一本を飲んでいた。
「どんな場所でもコイツが飲めりゃ最高だゼ」
その能天気な笑顔につられ、俺も思わず吹き出してしまう。
二人して声を殺して笑い合う。それが止むと、俺は言った。
「そんなに気を使わなくてもいい。俺は大丈夫だ。待つ、と決めたんだから」
「気がかりはそれだけかい?」
姿勢を直して、トレインが尋ねる。
「他にあったか」
「ほら、それだ。このヒネクレもん」
「そりゃあ、お互い様だ」
「ヘいへい」
トレインは大げさに肩をすくめてみせ、ミルクの残りを飲み干した。
俺が煙草を揉み消すと、それを待っていたのだろう、トレインが装飾銃を取り出し、点検
を始めた。今夜に備えてのことだ。

481例の899:2005/05/03(火) 01:31:31
俺の方は、なにかをすることもなく、ただぼんやりと装飾銃を眺めていた。
銃を見ていることで、頭の中は自然と今夜のことへと移っていく。
しばらく考えていると、突然、閃きに似たものが天から降ってきた。
「トレイン」
「あん?」
「もしかしたら、ハメられたかもしれん」
「ハメられたってなんだよ。人質も取られて、とっくの昔にズブズブにハメられてるじゃ
ねェか」
「そういうことじゃない。今夜のは、ベノンズとディーンズの手打ちって話しだが、考え
てもみろよ。ベノンズ、いや、グレイグにとって、最高の結果ってなんだ?」
「最高の結果?そりゃあ、今夜の手打ちが円満に終わることじゃねェの?」
「逆さ。ヤツにとって最高の結果とは、市長が死ぬことだ」
「市長?」
銃口を覗いていたトレインは、作業の手を止めてこちらを見た。
「市長を排除できれば、この街におけるダラタリ・ファミリーの影響力をかなり低下させ
ることができる。マリファナのばら撒きにケチがつき、ジェシー=ヤンデン上院議員の件
でIBIに締めつけられているダラタリを、この街から撤退させることもできるだろう。
そうすりゃ、赤龍と手を切らずに済むし、ダラタリのバックアップを失ったディーンズを
飲み込むのも容易い」
俺が説明を終えると、トレインは首を捻って考えだした。
「えーと……それはつまり、グレイグの野郎は市長を―――」
「今夜、殺るつもりだろうな。そしてその犯人は―――自分を指差し、次いでにトレイン
を指す―――というわけだ」
「どうやって?」
「そうだな。たとえば、俺達を先に殺り、俺かお前の銃で市長を弾く、とかな。他には、
多分こっちが本命だと思うんだが、ディーンズとの取り引きを不調に終わらせ、その場で
抗争に持ち込む。俺達に銃を持ったままでいいと言っているしな。そうすりゃ、エリスを
取り返すまでは逃げ出せない俺達だって、巻き込まれりゃ応戦しないワケにはいかない。
何発かは撃つだろうさ。気がづくと、市長が殺られている。後は人質を盾にとって俺達を、
ってところか」
「警察はどうすんだよ?俺達が市長を殺って、動機は?」
「裏帳簿のコピーがある。俺達は、それを元に金を脅し取るつもりで市長を呼び出したが、
支払いを拒否されたので思わず撃った」
俺は手で銃の形を作り、撃つ真似をする。
「まさか、グレイグのヤツはそこまで読み切って裏帳簿を……」
「それはない。気づいたらお膳立てができていた、ってところだろう。考え過ぎさ」
「しっかし、なんかスゲェ不利っぽくねェか?」
トレインは渋面を作って言った。
「そうでもないだろう。向こうの手が分かったってことは、対策を立てることができる。
先手だって打てるかもしれん。それにな、グレイグは現場にエリスを連れてくるぞ」
「なぜ、そう思うのさ」
「人質を使うにしても、目の前にいるのといないのとじゃあ、追い込まれ方の度合いが違
うからな。確実に俺達を自分の意のままに動かそうとするのなら、ヤツは必ずエリスを近
くに置いておくハズさ」
「そっか。俺達に人質を奪われるリスクより、人質を捨てて敵に回られるリスクの方がヤ
バいってことか」
「ヤツは元傭兵だからな。より確実な方を選ぶハズだ。大事なものを捨てて自棄になった
敵より、助け出した人質を抱えて逃げ出す敵の方が仕留め易いと考えるだろう。仕留める
だけの腕も持っているし、な」
トレインは装飾銃を膝の上に置き、腕組みをした。
「ってことは、俺達は―――」
その後を、俺が続ける。
「エリスを助け出し、ヤツらの攻撃をかわして逃げ切る」
グレイグは知らない。ヤツが人質を連れて逃げる敵を仕留める腕を持っているように、俺
一人では無理だとしても、人質を連れて逃げ切られるだけの腕を持っている男がここにい
ることを。
「さーて、今夜に備えて、そろそろ晩飯にすっか」
その男は整備し終えた装飾銃を放り出し、二本目のミルクを取り出した。
 二十一時半を少し過ぎた頃、携帯にグレイグから連絡が入った。
時間は今夜の零時、場所はケニス港の三番倉庫とだけ伝え、通話は一方的に切られた。

482例の899:2005/05/03(火) 01:40:21
ようやくここまで来たという感じ
こっからラストの山場(のつもり)なわけでして
山場(のつもり)は山場(のつもり)なりに、小出しにするより
全部書き上がってから一度に出したいというこちらの勝手な要望がありまして、
今しばらくご猶予を戴きたいと思います
大筋は頭ん中でできてるけど細かい部分を全く考えてなかったり、
大筋の部分だけでもなんかメチャクチャ長くなりそうな予感があったりで
いつになるのかは分かりませんが、まぁ八ヶ月も空けるなんてことはもうないと…
いや、多分…そうであればいいな、というか…
一体何人の奇特な方にまだ見ていただけているのか分かりませんが、先に謝っておきます
ごめんなさい

483名無しさん:2005/05/05(木) 00:25:04
アニメ化記念で覗いてみたが、まだやってたんだね
まあマターリがんがりな

484名無しさん:2006/01/08(日) 02:08:19
8ヶ月空いとるがな


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