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矢吹健太朗のBLACK CAT★ 黒猫No.236

472例の899:2005/04/04(月) 01:10:35
 ベイブ家を辞し、車に戻るとトレインが外に出て待っていた。
「どうだった?」
「病院へ見舞いに行ったっきり、行方が分からないらしい」
答えて、俺は煙草に火を点けた。
「そうか。じゃあ先ずは病院だな」
「ああ」
二人で車に乗り込んだ。
 助手席のトレインに、スーザンから聞いた病院の住所を地図で確認させ、道順を指示し
てもらう。
病院まではいくつかのルートがあるが、エリスはいつも決まった道を行くらしい。
彼女はその道程を徒歩で行くか、途中でバスに乗るかのどちらかだと教えられていた。
恐らく、今日は徒歩で行っていたのだろう。別の場所へ寄っていなければ、その道筋のど
こかで白昼堂々と襲われたと思われる。
俺達は、どの辺りが人通りが少ないか、どこかで騒ぎになってはいないかを注意深く確か
めながら進んでいた。
その途中、俺の携帯が着信を告げた。
車を路肩に寄せる。非通知だった。
通話ボタンを押し、なにも言わずに耳に当てる。
「よう、確認はとれたか?」
「彼女は無事なんだろうな」
「この電話に出すことはできないがね。アンタ達がこちらの言う通りに動いてくれさえす
りゃ、傷一つつけずに帰すよ」
「分かった。だが、今言ったことを忘れるなよ」
「うん?」
「どんな小さな傷だろうと彼女についていたら、その時はテメェら皆殺しだ。言っておく
が、俺は少々頭に血が昇りやすい性質でな。上手くコントロールしたいなら、せいぜい気
をつけることだ」
電話の向こうでグレイグが笑った。
「OKOK。見張りにはしっかりと言い聞かせてあるから安心しな。こっちはパーティー
に出席してくれりゃ文句はない」
ハンドルに拳を叩きつけそうになった。
通話口に手を突っ込んで、首を絞め殺してやりたい。
トレインが煙草のケースを俺に差し出した。鼻で深呼吸をし、一本抜く。
グレイグは俺を怒らせようとしているのだ。それに乗せられて冷静さを失ってはいけない。
「それで、俺になにをさせようってんだ?」
俺は紫煙を吐き出しながら尋ねる。
「なに、俺と一緒にいてくれるだけでいい。ああ、裏帳簿のコピーが入ったディスクを忘
れずにな」
「そんなものを持っていったところで、向こうは納得しないだろう」
「裏帳簿のことを知っているという確認さ。納得なんてさせる必要はない。こっちは脅迫
している立場なんだからな。後は、ヤツらに一言『全て忘れる』と言ってやれば、アンタ
達も配当にありつけるってワケさ」
コイツ、俺達を売るつもりじゃないのか?
紫煙を肺に吸い込み、少し冷えた頭にそんな考えが浮かんだ。
「ヤツらが素直に応じない場合はどうする」
「こっちとしては、穏便にすませるのが望みなんだがね。それが叶わないとして、手を出
すとすりゃ向こうからだ。その場合、無論こっちも応戦する。アンタ達に来てもらいたい
のは、どちらかと言えばその時のためさ」
「では、丸腰になる必要はないってことか」
「ああ、そうさ」
グレイグはこともなげに言った。どこか楽しんでいるような口調でもあった。
売るつもりなら、俺達に銃を持たせるハズがない。人質をとられているのだから、丸腰で
出て来いと言われても俺達はそれに従わざるを得ないのだから。
それとも、あまりにも手詰まりの状況に追い込み過ぎると、警察に駆け込まれるとでも考
えているのだろうか。
まぁいい。せっかく持ってきてもよいという申し出だ。存分に役立たせてもらおう。
俺はそう心を決め、煙草を揉み消した。
「時間と場所は?」
「時間は今夜の二十三時。場所はまだ決まっていない。約束の一時間前までに、向こうか
ら指示が来ることになっている。まぁ、悪党同士のパーティーに市長が同席するんだ。い
ろいろと小細工をしたくなるだろうさ。アンタ達も、せいぜい用心してくれよ」
通話が切れると、俺は大声で、
「糞野郎が!」
と叫んだ。
「落ち着け、スヴェン。落ち着いて話してくれよ」
俺は二、三度肩で大きく息をし、会話のあらましをトレインに伝えた。
「分がいいのか悪いのか、よく分かんねェな」
聞き終えたトレインが頭をボリボリとかいた。
「銃が使えるんだ。分がいいと思おう」
俺はサイドブレーキを下ろした。


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