したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

矢吹健太朗のBLACK CAT★ 黒猫No.236

442例の899:2003/12/17(水) 03:02
俺は手動でドアウィンドウを閉め、シートを起こした。身を低くして、ルームミラーの中
を注視する。
ブルーサンズ正面の通りに、二つ並んだ光が進入してきた。その光は、ゆっくりとした速
度でこちらへ向かってくる。そして、ブルーサンズより20mほど手前にさしかかった辺
りで、光が消えた。
それでも、ルームミラーの中でぼんやりと写る車は、まだこちらに近付いてきていた。
俺は耳を澄ましてみた。車のエンジン音は聞こえない。
つまり、走行中にギアをニュートラルに入れ、ライトを消してエンジンを切ったのだ。
間違いない。俺は確信して、助手席に置いてあった携帯電話を手に取った。
コール音二回で相手は出た。
「お客さんが来た。後は手筈通りだ」
「ああ。横向きの銃の位置さえ分かれば、一発で仕留めてみせるゼ」
電話の向こうで、トレインは声を少しだけ高揚させていた。ヤツも待ち焦がれていたのだ。
通話の切れた携帯電話を助手席のシートの上へ放り投げ、慎重に辺りの様子を覗き見る。
エンジンの切れた車は、惰性だけを頼りに進行を続けていた。ブルーサンズを通り過ぎ、
少し離れた場所で路肩に寄せ、ブレーキランプを点灯させた。こちらと同じように、街灯
の死角になる位置だ。
しばらく、車には動きが無かった。一分ほど経ってから、運転席のドアが開いて人が降り
立った。暗がりの中で、男なのか女なのか、相手の背格好もおぼろげにしか分からない。
ソイツは辺りをうかがう素振りも見せず、堂々とした足取りでブルーサンズの方角へ向か
っていた。それでも、恐らく意識的に街灯の灯りを避けて通っているので、顔の確認はで
きずじまいだったが、俺の乗った車の後方を通り過ぎた時に、スーツ姿の男であることが
見て取れた。
男は、ブルーサンズの横手の狭い通路に入った。そこには、正面玄関と同じタイプのチャ
チな鍵が一つだけ付いている裏口がある。鍵は、細いナイフか針金でも一本あれば、腕に
覚えの無い素人でも五分とかからずに解くことができると思われる。玄人ならば、一分以
内で仕事を終えられるだろう。
俺は車内でゴム底の靴に履き替えた。そして、男が横道へ消えてから三十秒程ほど待ち、
車を降りて男とは逆側の横道へと向かった。
俺には、大きな期待と少しの恐怖があった。
 グレイグとの二度目の会見を終えた直後に、俺はアネットへ連絡を取っていた。彼女に
状況を説明し、協力を求めるためであった。
情報屋であるアネットの仕事は、情報を収集し、分析し、それを必要とする人物に売りつ
けることである。だが、その立場を利用し、新たな情報を作り出すこともできるのだ。
俺は、アネットに『今、メイスペリー市にいる掃除屋が、市長の裏帳簿のコピーを握って
いる』という情報を、ダラタリに繋がっている情報屋筋に流してくれるよう頼んだ。
アネットの情報を扱う腕には全幅の信頼がおける。決して、情報の発信源を特定されるよ
うなヘマは犯さない。
果たして、あぶり出しは成功した。
ダラタリにとって、死者を二人も出している事件と市長が直接的な関わり持っているとい
う疑惑の種は、たとえ噂程度だとしても無視することはできないのだ。
そのために送られたのが、今の男である。俺達が待っていたものもそれだ。
男は夜明けの近い今の時刻にやってきた。
午前五時前後に人間の脳の活動は最も低下する。襲撃をかけるにはベストの時間帯だ。
道理を知らない素人は、午前二時頃に作戦も内部地図も持たないまま敵地へ突入したりす
るが、裏の世界の人間にとってそれは常識であった。
つまり、この時間に現れた男は、裏の住人かこの世界のことを知っている人間だというこ
とだ。そういう男を寄越したダラタリ、もしくは市長の意図は明らかである。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板