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矢吹健太朗のBLACK CAT★ 黒猫No.236

479例の899:2005/05/03(火) 01:30:35
 外で待っていたトレインに首を横に振るだけで首尾を伝え、俺達は車に乗り込んだ。
「これから、どうするよ」
頭の後ろで腕を組み、座席に深くもたれたトレインが言った。
俺はハンドルに両手を乗せ、目を閉じて考えを巡らせた。
なにか手はあるだろうか。ベノンズのヤツらは、この街に根を下ろして商売をしている。
さらった人間を監禁しておける場所も多く持っているだろう。やみくもに動き回るだけで
は到底突き止められるハズもなく、知る限りの情報を元に、一つ一つの糸を辿っていくし
かない。そして、その糸はこの店で途切れてしまった。
「どうしようもないな」
俺は素直に事実を認めた。お手上げだった。
車中に、徒労感と無力感が重く漂う。
「しんどいな、掃除屋ってのは」
自分に言い聞かすような口調でトレインが言う。
「なんでもかんでも都合のいいようにことが運ぶワケじゃないさ。癪に障る話だがな」
そう答えると、俺はキーを回した。
エンジンが、二、三度咳き込むように震え、アクセルを軽く踏むと不機嫌そうな唸りを上
げた。
 車の中で、俺達は向こうから次の連絡があるまで大人しく待つことに決めた。
途中、手軽にとれる夕食を買い込み、ホテルへと戻る。
部屋の前に、リックが立っていた。
「スヴェンさん」
俺達の姿を認めると、彼は廊下をこちらへ駆け寄ってきた。
「どうしたんだ?」
「エリスは誘拐されたんですか!?」
「うん?」
「とぼけないでください!心配になって家まで行ったんです。そうしたら、スーザンがア
ナタに訊けって。どうなんです!?」
「……彼女はそれ以外になにか言っていたか?」
「いえ、なにも。あ、ただ、私からはなにも言えないけど、と」
「そうか」
リックをここに寄こしたのはスーザンだった。しかし、彼女を責めることはできない。
警察に連絡しないでくれと頼んだのは俺なのだから。
リックも警察の一員であるため、スーザンもどう話せばいいのか迷ったに違いない。
彼女が俺からリックに説明をさせようとしたのなら、『訊けばきっと教えてくれる』とで
も言っただろう。だが、彼女はただ『スヴェンに訊け』とだけしか言わなかったらしい。
それはつまり、リックへどのように伝えるかは俺の判断に任せる、という意味だろう。
そう考えながら、俺はあご髭の辺りをさすって間を持たせていた。
「やっぱり、なにかに事件に巻き込まれたんですか!?」
なかなか答えない俺に痺れを切らし、掴みかからんばかりの勢いでリックは言った。
「ああ、そうだ」
俺が白状すると、横でトレインが大きく息を吐いた。
「誘拐ですか!?なぜです!?誰にですか!?」
リックは俺の襟を掴んで叫んだ。
俺はその手を掴み返して諭す。
「落ちつけ!彼女を助けたいのなら、落ちついて俺の話を聞け!」
「落ちついてなんていられませんよ!なぜ彼女達ばかりがこんな……今日だって!」
「今日?」
そういえば、午後の早い時間にリックとは病院で出会っている。警官の彼が、他の警官達
と一緒に、下の娘のマルチナが入院している病院にいたのだ。その時、彼は今日来るハズ
のエリスがまだ来ていないことをマルチナから聞いたと言っていた。仕事で病院へ来てい
る警官が、知り合いとはいえ、どうして入院患者と会話できたのだ?
「まさか、妹の方にもなにかあったのか!?」
今度は俺が掴みかかる番だった。
「い、いえ、マルチナにはなにもありません。ただ、彼女の担当についていた看護婦が自
殺をしたんです」
「自殺……看護婦が。いつだ?」
「今朝、自室の浴槽で手首を切った姿で発見されたそうです。その件でマルチナは非常に
ショックを受けていて。それなのに、エリスまで……!なぜ、彼女達の周りでこんなこと
ばかりが連続して起こるんですか?」
会話をしている間に少しだけ冷静さを取り戻したようだ。先ほどまでの噛みつくような勢
いが少しだけ和らいでいた。
これなら、事情を教えても理解してくれるだろう。


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