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矢吹健太朗のBLACK CAT★ 黒猫No.236

461例の899 大番長終わりません:2004/08/01(日) 02:20
 玄関の回転式扉をくぐったところで横から名を呼ばれた。リック=オースティンだった。
「少し、よろしいですか?」
俺はうんざりしていた。今すぐにでもベッドへ飛び込みたいのだ。
「んじゃ、俺は先に行ってるゼ」
それを察したわけでもないのだろうが、トレインはそう言って背を向けて歩き出した。
俺は小さな溜め息を吐き、
「トレイン!」
と、呼び止めた。振り向いたところへ、車の鍵を投げて渡した。
「中を冷やしておいてくれ……ああ、そうだ。バッテリーが弱ってきてるからな、強にす
るんじゃねェぞ」
「ヘイヘイ」
トレインは、指で鍵をクルクルと回しながら駐車スペースへと向かった。
「スヴェンさん―――」
「場所を変えよう。ここじゃ周りの迷惑になる」
俺は先に立って敷地の隅、建物から伸びる日陰のところへ歩いていった。後ろをリックが
続く。
「さて、他の刑事達の目に付くような場所で声をかけてきたのは、一体どういうワケだ?」
少しひんやりとした壁にもたれ、煙草を取り出しながら俺は尋ねた。
「すいません、ご迷惑になることも考えずに」
彼は素直に謝り、続けた。
「でも、どうしてもすぐにお話を聞きたかったんです」
俺は大きく一服して、リックと反対の方向へ勢いよく吐き出した。
「ふむ。それで、聞きたい話とは?」
「はい。あの、本当にレイノルズ巡査長が?」
「アンタが聞いた通りさ。俺もトレインも、嘘は吐いていないゼ」
二口目の紫煙を長い息遣いで吐き出し、俺は言った。
リックは慌てて頭を振った。
「いえ、そういう意味ではないんです。レイノルズ巡査長が……その……」
「ジョーを殺したのか、か?」
「は、はい」
彼は肯いた。
俺は三口目を口に運んだ。彼はその様子をジッと見守っていた。
「ジョーと運び屋を殺した銃と、レイノルズが持っていた銃とは一致しなかったんだゼ?」
「聞きました。でも、未登録の銃を新たに用意すれば……」
リックは語尾を濁した。同僚に、もう一つ罪を負わせようとしていることに対する罪悪感
からだろう。
俺は指で灰を落としながら言った。
「かもしれんな。だが、レイノルズの自宅を漁っても、問題の銃はおろか運び屋の部屋か
ら持ち出した10kgのヤクも見つからないと思うゼ」
「…………」
彼は眉間に皺を寄せて黙ってしまった。
俺は煙草をゆっくり味わった。その長さが半分ほどになった時、彼はようやく口を開いた。
「レイノルズ巡査長がアナタ達を襲ったのは、彼がダラタリ・ファミリーに抱きこまれて
いるからですか?」
俺は首をゆっくりと回し、骨の乾いた音を響かせた。
「なぜ、そんなことを俺に訊く?ヤツの供述調書を見るなり、担当のデカに訊くのが筋だ
ろう」
「僕は……」
そう言って、リックは下唇をきつく噛んだ。
「同僚が信じられなくなったのか」
俺の台詞に、彼の体が雷に打たれたように震えた。
今のリックの心情が、俺には痛いほどよく分かる。
研修で配属されたネオユークで、俺は警察という組織の裏側を見た。酒場や週刊誌などで
まことしやかに囁かれている警官の汚職。そういったものは、大統領から路地裏のヤク中
まで知れ渡っている。だが、それは全てではなかった。組織はもっと深いところから病ん
でいた。そして、その病はIBIとて同様だった。打算や保身、度の過ぎた野望、傲慢な
ほどの特権意識がそこにはあった。
個々の細胞が病んでいるから組織全体も病んだのか、全体が病んでいるから細胞も病んだ
のかは分からない。ただ、その時、俺が感じていたものは、組織全体に対する不信だった。
そして、リックも今、警察全体に対して不信を抱いている。
「警察は正義だと思っていました」
彼はやっとのことで声を絞り出した。
「汚い警官はいないなんて子供みたいなことを言うつもりはありません。聞くだけじゃな
くて、いろいろと見てきたつもりです。でも、今度のは……まるで殺し屋じゃないですか」
俺は特に感想を漏らさなかった。ただ、昔のことを思い出していた。


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