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矢吹健太朗のBLACK CAT★ 黒猫No.236

451例の899:2004/03/13(土) 02:10
俺は男を壁に押し付けたまま、左右の踵を蹴って足幅を大きくとらせた。上着の内ポケッ
トから身分証を取り出し、男の眼前に突き付ける。
「掃除屋権限により、お前を殺人未遂で現行犯逮捕する。お前には黙秘する権利がある。
しかし、警察への引渡しが完了するまで、お前に弁護士を呼ぶ権利は無い」
警告を終えたところへ、トレインがやって来た。得意満面の笑みを浮かべ、装飾銃を回し
てみせた。
「どうだい?一発で仕留めたろ」
早速、自慢だ。
「はいはい。凄腕ガンマンさんは、そこらに転がってる銃を確保しておいてくれ」
トレインは肩をすくめて床に屈み、俺は男の身体検査を開始した。
男は無言だった。
ダークグレイの地味なスーツを着て、濃い色の金髪が襟元にまで届くほど伸びていた。身
長は俺より少し高い。見たところ、俺と同じか一、二歳上といったところだろう。その横
顔は屈辱に歪み、薄いブラウンの目は憎悪で濁っていた。驚いたことに、真夏の早朝だと
いうのにシャツのボタンを首の付け根までキッチリと留め、モスグリーンのネクタイを締
めていた。
男の体をまさぐっていた俺の手が、懐の盛り上がりに触れた。ショルダーホルスターに吊
られたオートマチックだった。
よりキツク銃口を押し付け、慎重にその銃を抜き取ってトレインへ渡す。
背広の胸ポケットから手帳を、ヒップポケットから財布を見つけ、財布だけトレインに放
り投げた。
片手で手帳を開くと、そこには男の顔写真と名前、所属や住所などが記されていた。
「メイスペリー市警、殺人課、ジェイク・レイノルズ巡査長……ね」
俺は声を出して読み、男の顔に目を移した。
レイノルズの表情は未だ険しく、口をしっかりと引き結んでいた。
先ほどは、銃を弾き落とされたショックと手首の痛みで動揺し、思わず無駄な弁解を試み
てしまったが、今では、余計な口を開いて墓穴を掘るまいとしているようだ。その様子に、
俺は記憶がかすかに刺激されるのを感じていた。
 この男が市長の裏帳簿に記されていたM氏ではなかったことは、少なからず俺を落胆さ
せた。ジョーに二百万イェンが振り込まれる前日に五百万イェンを受け取っているM氏が
怪しいと睨んだ俺の考えが間違っていたのか、それとも、そのM氏がレイノルズ巡査長を
使って俺達を襲わせようとしたのか。
レイノルズの年齢からいって、後者の可能性が高い。恐らく、市長とレイノルズの間には、
もう一人の人間が連絡役として存在しているのだろう。その人物こそがM氏だと思われる。
だとすると、レイノルズがどの辺りまで事情を把握しているかが問題となる。通常、暗殺
や襲撃といった直接的な行動を選択した場合、余程深い共犯関係でもない限り、実行犯に
は背景を詳しく伝えないものである。万が一失敗した時、その口から情報が漏れて類の及
ぶ範囲を最小限に食い止めるためだ。彼はどこまで知っているのだろう?
レイノルズの目的は、俺達と裏帳簿を消し去ることだ。それには、税金の掛からない収入
や表のリストには載せられないダラタリ・ファミリーなどの献金者が名を連ねるという裏
帳簿の性格を知っている必要がある。だからこそ、市長と強い結びつきのある人物、M氏
が俺の前に現れるだろうと考えていた。しかし、実際に現れたレイノルズの身分を見て、
俺は別の可能性に気付いた。


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