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矢吹健太朗のBLACK CAT★ 黒猫No.236

475例の899@:2005/05/01(日) 00:44:11
 エリスが向かったという総合病院に着いた時、トレインが驚きの声をあげた。
「おいおい、アレ見てみろよ」
トレインが指し示した駐車スペースに、警察車両が二台停まっていた。
「通報しちまったのか?」
「いや、スーザンは同意してくれたよ。彼女じゃない。もしかしたら、目撃者がいたのか
もしれねェな」
「だとしたら、俺達がここで誘拐のことを嗅ぎまわったりすれば、厄介なことになりゃし
ねェか?」
「警察にこの誘拐がベノンズの仕業だって知られることを心配しているんだったら、それ
は大丈夫だ。なんせ俺達は掃除屋なんだからな。事件が起こりゃ嗅ぎまわるのが当然だ。
それに、被害者の知り合いとくりゃあな。後は、つまらんことさえ喋らなければいい」
「それはつまり、俺は喋るなってことか?」
「物分りがよくて助かるよ」
車から降り、辺りを見回す。
「違うな」
俺は一人ごちた。
「なにがだい?」
「警察の車は、さっきの二台しかない。どこも封鎖していないし、聞き込みに走り回って
いる様子もない。こりゃあ、誘拐とは違うぞ」
「じゃあ、別の事件かな」
トレインは腰に左手を当てて小首を傾げる。
「ああ、もっと小さな事件だろう。引ったくりか置き引きか、その辺りの」
「入り口ん所に制服がいやがるゼ。一応、訊いておくか?」
「必要ない。エリスが来たかどうか確かめるのが先だ」
 一人で立ちん坊をしている制服警官を無視し、自動ドアを潜る。
病院の中は、まだ少しだけ暑さを感じる程度の冷房しか効いていなかった。
午後もかなり過ぎ、診療客はほとんどおらず、職員以外は見舞い客とパジャマ姿の入院患
者が数人歩いているだけだった。皆、一様にうつむき、床を見て歩いている。なにかしら
重い雰囲気が辺りに漂っていた。
受付カウンターの、横幅のわりには疲れた顔をしている中年女性に掃除屋許可証を提示し、
マルチナ=ベイブが入院している病棟を尋ねた。
彼女はそれを胡散臭そうに眺め回したかと思うと、これほど忙しい人間にくだらない手間
をかけさすのはロクデナシであるという気持ちを隠すことなく、小児科病棟の場所を教え
てくれた。
ついでに警察が来ていることについて訊こうと思っていたのだが、彼女のそんな態度を見
て俺は考えを改めた。
エレベーターホールへ向かうと、そこにも制服警官が一人立っていた。
「あ、リックの坊やだ」
トレインが気の抜けた声で呟く。
俺が舌打ちして回れ右するより先に、向こうもこちらに気づいたらしい。
「スヴェンさん。どうしてこちらへ?」
走り寄り、俺達に軽く一礼してリックは尋ねた。
「見舞いだ。そっちこそどうした」
「この病院の職員に不幸がありまして、その事情聴取に同行させていただいています。掃
除屋が必要な事件じゃありませんよ」
「心配するな、首を突っ込みに来たんじゃない」
俺が苦笑すると、リックは慌てて手を振った。
「皮肉で言ったんじゃありません。すいませんでした。それより、お見舞いってマルチナ
ですか?でしたら、エリスに会いませんでしたか?今日来るハズだったのに来ないって、
マルチナが言っていたもので」
「おやまぁ、大変だな」
余計な相づちをうったトレインを、俺はジロリと睨みつける。
「あのう、どうかしましたか?」
俺達の様子をいぶかしむようにリックが尋ねた。
「なんでもない。エリスには今日は会っていないよ。見かけたら病院へ行くよう伝えてお
こう」
「そうですか。お願いします」
 リックと別れ、いったん病棟の中へ入った俺達は、壁掛けの院内地図で入ってきた時と
反対側の方角にもう一つ出入り口があることを確認し、そちらへ向かった。
「つまらんことは喋るなって言ったろうが、ったく」


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