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矢吹健太朗のBLACK CAT★ 黒猫No.236

469例の899:2005/04/04(月) 01:07:06
つまり、その二件の殺しにある矛盾を生み出したなにかが、この場所で起こったのだ。
そのなにかを俺は推測し、探り出そうとしている。ならば、たとえ手掛かりがなくとも、
この場所から捜査を始めるというのは、俺にとっては意味のあることだった。
結局、午後を少し回る時間まで、俺達は倉庫の周囲を歩き回って過ごした。
 テーブルの上には、実に数週間ぶりのまともなランチが並んでいる。冷房の効いた店内
には、客はまばらにしか入っていなかった。昼食というには少し遅い時間だった。
次の予定は、カイトに会うことだった。俺達が求めている情報はかなり特殊なもので、彼
がそれを知っているかどうかは怪しい。なにしろ、特定の刑事のプライベートである。
もし、カイトもその情報を持っていないのなら、彼にも協力してその方面に探りを入れて
もらうつもりだ。そして、俺達はその刑事を尾行するのだ。全くもって無茶な計画である。
「なぁ、スヴェン」
トレインが話しかけてきた。その前には、カルボナーラに、別に注文したミルクを足した
コイツ特製のパスタがある。俺のはマトンのアイリッシュシチューだ。この後も車の運転
があるので、アルコールはここにはない。
「うん?」
「やっぱさ、リックにも協力してもらった方がイイんじゃねェか?」
俺は答えなかった。答えるまでもないことだからだ。
協力を頼める者達の中で、俺達が求めているモノの一番近くにいるのがリックであること
は、どんな馬鹿にでも分かる理屈である。なのに、俺はアイツをこの事件から遠ざけよう
としていた。いや、事件からではない。俺から、だ。
トレインは、特製カルボナーラをフォークでかき混ぜながら溜め息を吐いた。
「なーんか変なんだよなぁ。普段のアンタならさ、どんなに嫌な野郎でも利用できる相手
ならトコトン利用するハズなのに、リックのことになると途端にナーバスになる。そりゃ
あ、アイツがアンタの恩人の元相棒だからってのも分かるんだけどさ」
「別に嫌っているワケじゃないさ」
そう、嫌ってはいない。俺はただ、彼に嫉妬しているだけなのだ。
 携帯電話の振動がテーブルを鳴らした。非通知だった。
食事の手を止め、携帯を持って外へ出る。
「スヴェンだ」
「グレイグだ。なかなか派手にやったそうじゃないか」
「なんの用だ」
「なに、成果のほどを訊こうと思ってな。殺人課の刑事一人を釣り上げたんだって?」
「ヤツは捨て駒だよ」
「ほぅ。じゃあ、このままだとソイツ一人が容疑を全部引っ被ってお終いってワケだ」
「かもな」
「なら、約束を果たしてもらおうか」
「約束?」
「前に言ったろ?失敗したら、俺達がディーンズとことを構える時に手伝ってもらう、と。
今夜、ヤツらと取り引きをする。アンタ達も来てくれよ」
「その話は確かに聞いたがな、約束にOKした覚えはないね。チクったりしないから好き
にやりな」
「その場に市長も来るんだゼ?」
「市長が―――!?」
思わず声が大きくなってしまい、通りすがりの女性が驚いてこちらを見た。俺は彼女に背
を向け、声のトーンを落として尋ねた。
「どういうことだ」
「なに、このままだとこの街はダラタリのものになっちまうんでな。それなら、いっその
こと俺達もダラタリ・ファミリーの一員になろうかと思ってね。とはいえ、こっちにはヤ
ツらとのコネが全くないから、市長に口添えの協力を願ったというワケさ」
「裏帳簿を使ったのか」
「ああ、アンタ達があの刑事を逆に捕まえちまったもんだから、市長の方も随分と困って
いたようだ。快くOKしてくれたよ。もちろん、アンタ達も帳簿の存在を忘れるっていう
条件付きだがね」
「随分とムシのイイ話だな。流石はチンピラだ。道理を知らねェ」
「断るのかい?」
「当たり前だろう」
「じゃあ、その道理を知らないチンピラが、アンタの知り合いのお嬢さんを一人預かって
いると言ったら、どうだ?」
息が詰まった。直ぐに言葉が出てこない。周りの喧騒が、遥か彼方から聞こえてくるよう
な錯覚に陥った。


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