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矢吹健太朗のBLACK CAT★ 黒猫No.236

460例の899:2004/06/27(日) 02:17
 最後に入ってきた刑事部長を名乗る男は、今日中に現行犯による殺人未遂犯逮捕の認定
を州裁判所が出し明日にも報奨金の申請が行われる旨を告げ、四枚の書類を差し出した。
俺はそれらにサインをし、銃器類を返却してもらってから、ようやく自由の身になった。
だが、俺は開放感を満喫することなく、頭の中でキーリンが最後に言った台詞について考
えを巡らせていた。
どうにも納得のいかない、形の合わないパズルのピースを無理やりはめ込もうとしている
ような気分だった。
署内のエレベーターを降り、玄関フロアへ向かってゆっくりと歩いている俺を多くの人間
が忙しそうに追い抜いていった。
パズルのピースをいじくり回すのに飽きて顔を上げた俺の目線が、艶やかな黒髪を肩で切
り揃えた制服警官の女性の目線と合った。
彼女は軽く頭を下げて会釈したので、俺も帽子を持ち上げて応えた。俺が同僚の刑事を捕
まえた憎き掃除屋であることを、彼女は知らないのだろう。そのままなにごとも無くすれ
違った。
フロアの柱に背をあずけたトレインが手を挙げて俺を迎えた。タフなのか鈍感なのか、頭
にくるほど疲れのない表情をしている。普段通りの抜けた顔だ。不思議なことに、無精髭
さえ生えていない。
「よお、ずいぶん歳食ったみてェだな」
これもまた普段通りの軽口だ。
普段の俺ならここで軽口を返すところだが、今はそんな時ではない。
「ちゃんとできただろうな?」
「心配性だな、アンタは。だーいじょうぶだって。だいたい俺がゲロってたら、連中、ア
ンタにそれをぶつけてるハズだろ?」
「んなことデカイ声で言うな、馬鹿……あ……うぅ」
自然と俺の声もデカくなっていた。
トレインは俺の肩をポンポンと二度叩いて、
「大丈夫。余計なことは言ってないし、それと悟られるような真似もしていない。神とお
袋と銃に誓う」
と、小声で言った。
「なら、いいけどよ」
「でも、もうチョイ信用してもらいてェモンだなぁ。俺だって、掃除屋になってからかな
り取調べを経験してるんだゼ?」
「掃除屋になってから、か」
言ってすぐ『しまった』と思った。疲れが思考を鈍くさせてしまっている。俺の言い方は、
凄腕の殺し屋時代に一度も取調べを受けなかったということをほのめかしていた。ヤツの
過去に、無遠慮に触れてしまった。
しかし、トレインは顔一杯に渋面を作って肩をすくめ、その後すぐに笑顔を見せた。
気にしてないから気にするな、というサインだった。


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