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矢吹健太朗のBLACK CAT★ 黒猫No.236

459例の899:2004/06/23(水) 01:30
「レイノルズにそう供述しろと助言したヤツがいるのか?」
俺の問いに、彼はなにも答えてはくれなかった。ただ、じっとこちらの反応を窺っている
だけだった。俺も同様に、彼を観察していた。
また、沈黙が続く。知らない間に、指に挟んだ煙草がフィルターだけを残して長い灰を作
っていた。疲労で現実感を失いそうになる心をこの場に留める引っ掛かりとして、俺はそ
れを捨てずに挟み続けていた。
廊下を走り回る大勢の人間の靴の音が鳴り響いている。建物の外からは、車の発進する音、
入ってくる音がひっきりなしに聞こえていた。
やがて、注意していなければそれらの音に紛れてしまいそうなほど小さな声で、キーリン
は言った。
「アイツは完全に黙秘しているよ」
俺の肩に力が入り、煙草の灰が音もたてずに床へ落ちた。
キーリンは腕を組んで椅子の背もたれを鳴らした。それがどうした、とでも言いたげな態
度だった。
簡単に受け入れられるようなことじゃない。仲間が拳銃を放ち、それについての供述を拒
否しているのだ。罪を認めているも同然である。
しかし、彼はそんな感情を面に出さず、平然と構えていた。本物の刑事だった。
俺はフィルターだけになってしまった吸殻を灰皿に落とし、
「それで、レイノルズは黙秘している。俺も供述を変えない。だとしたら、一体俺はいつ
までここにいればいいんだ?」
と、訊いた。
キーリンは首を左右に曲げて骨を鳴らし、大きく伸びをした。
「さて、と」
呟くように言うと、彼は立ち上がってドアを目指した。
「おい」
俺の呼びかけに、彼はドアノブを掴んだところで動きを止めた。ゆっくりと、機械仕掛け
の人形のようにこちらを向く。
また、しばらくの間、お互いの目を見据えたまま時間が過ぎていった。
俺の目には、彼は困ったような、迷っているような表情に見えた。
キーリンはためらうように小さく息を吸い込み、俺が全く予想もしていなかった台詞を吐
いた。
「鑑識の結果、レイノルズの使ったオートマチックに前科は無かった」
彼は部屋を出ていった。
一人残された俺は、子供の迷子のようだった。


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