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矢吹健太朗のBLACK CAT★ 黒猫No.236

447例の899:2004/01/22(木) 02:32
階段の残りを一気にかけ上がり、右に折れた。206号室の扉が開いている。
マグライトを逆手に持って左肩で担ぐように構え、右手でヒップホルスターからコンバッ
トマグナムを引き抜いた。
鼓動は最高潮に達し、心臓が耳元で脈打っているかのようだ。
男は既に俺の足音に気付き、銃口を戸口へ向けていることだろう。敵の攻撃が届く範囲に
生身を晒すのは、恐怖以外の何物でもない。
ホンの数メートルしかないはずの廊下が、なぜか長く感じる。
萎えそうになる足を前へ押し出し、戸口の前に出る瞬間、屈み込んだ。同時にマグライト
を点灯させ、銃を構える。
「動くな!」
暗闇に慣れた目に突然強烈な光を浴びせられた男は、左手で目の前を覆いつつ顔を背けた。
マグライトの光に向かって、男の銃口が下げられる。
それでも俺は引き金をしぼることなく、身を反転させて扉から離れた。
廊下の壁に火花が舞った。
(今だ!)
そう思った瞬間、轟音が鼓膜を震わせた。思わず身を竦めさせてしまいそうな、腹の底に
まで響く音だった。
部屋の中へ飛び込み、銃を構えたままマグライトで確認すると、右手首を押さえて床にう
ずくまる男の姿が照らし出された。
俺は短く息を吐き出し、扉の横にあるスイッチを手探りでオンにした。少しのタイムラグ
があり、鈍い光が部屋の中に満ちる。
俺は床に落ちているオートマチックを、男から離れるように蹴りやった。男の襟首を掴み、
引き立たせて壁際に貼り付けた。
「ま、待ってくれ。俺は警察―――」
従いながらも、男は切羽詰った声で弁解しようとした。俺の答えは、延髄に銃口を押し付
けることだった。
若い男だった。見た目では、俺と同じか少し下くらいの年齢だろう。その顔には少しだけ
見覚えがあった。手首が赤く腫れている。骨に異常はないだろうが、酷い捻挫を起こして
いるようだった。
男を立たせている壁板には、こぶし大の割れ穴が開いていた。先ほどの轟音により作られ
た穴だった。
俺達は、なにも賞金首を無傷で捕らえようなどと思ってはいない。相手も武装している以
上、余計な手心はこちらの寿命を縮めることになる。
しかし、今回に限っては、相手をなるべく無傷で捕らえたいと思っていた。聞きたいこと
があるからだ。抵抗されて、相手に大怪我でも負わせたら、とても会話を交わすことなど
できはしない。
また、相手を押さえるタイミングも重要だった。ホテル内へ入っただけでは捕まえられな
い。不法侵入にあたるのだが、相手が警察官であった場合、いくらでも言い逃れることが
できるのだ。そのため、相手に一度発砲させておく必要があった。それも、決して言い逃
れのできない発砲である。ベッドの上に丸めたシーツを人が寝ているような形に置いて、
それを撃たせるというような。
その前提で迎え撃つ作戦を考え、隣の207号室にトレインを待たせておき、壁越しに相
手の銃を弾き飛ばすことにしたのだ。
銃だけを撃ち落して無傷で済ませるためには、トレインから見て相手が横向きで銃を構え
る状況が必要だった。そのため、囮として俺が戸口に身を晒し、男に撃たせた。その時、
男の体は隣の壁と平行になり、発射音が姿を見ることの出来ないトレインに銃の位置を教
えてくれたというわけだ。
言葉にすればそれだけのことである。ただ、普段は抜けたところの多いトレインが見せる、
一瞬の集中力が産み出す神業とでもいうべき射撃技術には、素直に驚嘆せざるを得ない。


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