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矢吹健太朗のBLACK CAT★ 黒猫No.236

478例の899@でもまだ潜って宝探し:2005/05/01(日) 00:48:15
だが、こちらも引き下がるわけにはいかない。
「なら、知っているヤツに聞いてみようか」
俺は彼女の腕を取った。
「なにをするの!?」
抵抗する彼女を引っ張り、カウンター席に向かった。
電話を確認し、受話器を取って差し出す。
「グレイグに電話してもらおう」
彼女は無言で俺を睨んでいた。
「電話して聞いてみなよ。俺が一緒にここにいると伝えりゃ、ヤツも察しがつくだろうさ。
人質交換ってワケだ。ああ、そうだ。かけ先は警察でも構わんゼ。アンタに任せるよ」
そう言って、俺は彼女の手の中に受話器を押し込んだ。
彼女はしばらく受話器のプッシュホンの辺りを見つめていた。ややあって、なにかを決心
したように顔をキッと上げ、こちらに受話器を放り投げた。
「どちらもお断りだわ」
そう言うと、彼女はそっぽを向いた。その口元は、決意の固さを示すように硬く引き結ば
れている。
俺は奥歯を固く噛み締めた。胸で受け止めた受話器をギュッと握る。
「ヤツがさらったのは、まだ十八の女の子だ。その娘は最近父親を亡くした。撃ち殺され
たんだ。俺は彼女を助けたい。一刻も早く助け出してやりたい!もし……もし彼女が、さ
らわれた以上の酷い目に遭わされたりしたら、もしヤツらに―――」
この先が言えなかった。言いたくなかった。想像もしたくなかった。
「―――もしそんなことになったら、俺はグレイグを殺す」
自分でもゾッとするほど冷たい声が出た。
「…………」
「頼む!今の俺は、あの娘を助けたいだけなんだ。グレイグをどうこうする気はないんだ!
だから、お願いだ!協力してくれ!」
再び受話器を彼女へ差し出し、哀願した。駆け引きもなにもない、純粋な気持ちだった。
しかし、彼女は顎を僅かに引いただけで、こちらを向くことも声を出すこともなかった。
俺は受話器を持った手を振り上げた。そのまま力任せに床へ叩きつけようとし、すんでの
ところでその感情を押し留めた。
受話器をカウンターテーブルの上に置き、倒れたままのボーイをチラリと一瞥してから、
ドレスの女性へ背を向けた。
「邪魔をした」
扉に近づいた時、後ろから声をかけられた。
「一つ、聞いていいかしら」
立ち止まり、首だけ振り向かせる。
「なぜ私を連れ去らないの?私をここから連れ出せば、こちらから連絡しなくても、この
子の意識が戻った時にグレイグに伝わるわ。アナタがそれに気づいていないとは思えない。
人質交換しようと思えばできるハズよ。なのに、なぜかしら?」
確かに、その方法は俺も考えていた。しかし、俺はそれを捨てた。
「グレイグは若い女を人質に取る卑怯者だ。俺は……」
前に向き直り、ドアノブに手をかける。
「俺は、ただの臆病者だ」
言い残し、店を出た。


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