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矢吹健太朗のBLACK CAT★ 黒猫No.236

476例の899@Wiz外伝PoBやってる:2005/05/01(日) 00:45:51
駐車場に出た瞬間、我慢が切れて俺はこぼした。
「ただ今日来てないってだけで誘拐のことはなにも知らないヤツに、なにが大変だな、だ」
「わりぃ。つい、な」
「つい、じゃねェよ全く。まぁ、少しは変に思われただろうが、ヤバイことに巻き込まれ
ているとまでは感づかれちゃいないだろう。だが、頼むゼ?これには、エリスの身の安全
がかかってるんだからな」
「分かったよ。それで、次はどうすんだい?ここへ来る途中にさらわれたようだが、もう
一度来た道を引き返すか?」
トレインはそう言って助手席へ乗り込む。
「無駄だろうな。それに、時間も少な過ぎる」
遅れて運転席に身体を滑り込ませ、俺は答えた。
「じゃあどうすんだよ」
「ベノンズのヤツらに関係がある場所を一つだけ知っているだろう、俺達は」
車内時計に目をやる。
「まだ開店前だが、誰か一人くらいいるだろう。臨時休業してさえいなけりゃ、な」
エンジンをスタートさせ、連中がアジトにしているクラブへと向かった。
 店の前に着いた頃には、時計の針は午後三時半を指していた。
前回訪れた時に、店員から開店は午後五時からだと聞いていたので、店を開けるのならそ
の準備が中では行われているハズである。
「ここで待っていてくれ」
車を停め、共に降り立つと、俺はトレインに言った。
「裏口を張っていた方がよくねェか?」
「ヤツらはそんな間抜けじゃないさ」
トレインの異議を即座に否定する。逃げ出す必要のあるヤツなど、この店にはいないのだ
から。
グレイグの方も、俺達がこの店を訪れることは予測しているだろう。もし、店を臨時休業
にでもして誰も置いていないのならばそれまでだが、たとえいたとしても、その人物は誘
拐のことなどなに一つ知らない可能性の方が高い。その場合は、ベノンズのメンバーの居
場所かそれを知っていると思われる者の名前を、その人物から聞き出す必要がある。
トレインは眉間に皺を寄せ、しばらく俺の顔を見つめ続けた。
そして、仕方がないといった感じの溜め息を一つ吐き、
「任せるよ」
と軽く両手を挙げた。
「そんなには待たせないさ」
前回と同様、“close”の札が下げられた扉を開け、一人で店内へ入った。
中の様子もまた、前回と同じであった。
はめ殺しの電灯が鈍い光を辺りに投げかけるだけの店内に、ボーイがたった一人で床掃除
をしている。違うのは、前回のボーイは開店前の来客者に即座に反応したのに対し、今い
るボーイはこちらをチラリと見ただけで、すぐにまた床のモップがけに戻ったことだ。
俺は無言でボーイに近づいた。
彼は近くに立った俺の足元を一瞥し、掃除をした直後の床を踏み汚されたのが癪に障った
のか、こちらにかろうじて聞き取れる程度の舌打ちをし、
「なんすか?」
と、顔を上げて不機嫌な応対をした。
どこか身体を壊しているのではないかと思うほど、薄気味の悪い男だった。肉を削ぎ落と
したかのような頬に、彫りの深さとはまた違う目の窪みようである。猥雑に縮れた金髪を
肩まで伸ばしている。若いのかある程度歳を取っているのか、それともまだ十代なのか、
一目では間単に判断できそうにない。
「オーナーはいるかい?」
俺が尋ねると、ボーイはあからさまに胡散臭そうな目つきで俺の全身をねめつけた。
取り締まりの警察の人間と疑い、しかし自分の記憶にあるこの街の刑事の顔とは一致しな
いことを、さらに不審がっているかのようだ。
「どうなんだ?」
俺が促すと、
「いねェよ」
とぶっきらぼうに答え、モップを床にこすりつける作業に戻った。どうやら、考えるのが
面倒くさくなったらしい。
頭を使うのが苦手なタイプの男だと、俺は判断した。
グレイグにとって、最も使いやすい男だといえる。自分ではなにも考えようとはせず、た
だ命じられた通りのことしかしない。こういう男は、裏の世界では最も重宝がられ、そし
て使い捨てにされるのだ。恐らく、まだ正式な構成員にはなっておらず、ボーイとして働
かせているのだろう。


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