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矢吹健太朗のBLACK CAT★ 黒猫No.236

441例の899:2003/12/17(水) 03:02
 街中で最も寂れていると思われる裏通りに面しているブルーサンズ周辺では、夜中にな
ると人の姿が早々に途絶えてしまう。
そんな変化に乏しい夜の街並みを、俺は車の中から眺めていた。
 市長の裏帳簿をグレイグより譲り受けてから、二日が経過している。手に入れたその日
のうちにいくつかの行動を起こし、夜はこうして車中で過ごすことにしたのだ。
車は、ブルーサンズの反対側、三軒離れたビルの駐車スペースへ、頭から突っ込む形で停
めてある。そこは、一定の間隔で立ち並ぶ街灯が落とす灯りと灯りのちょうど死角になる
位置で、隣りにはもう一台、誰のだか知らない別の車が停められていた。
俺のすることといえば、シートを倒して仰向けに寝転がり、エンジン音がこちらに向かっ
てくるのを聞きつけると、その車の様子をルームミラーを眺めるだけだ。ルームミラーの
角度は、ブルーサンズの玄関付近が見えるように調整してある。
俺は待っていた。昨日の夜も、こうして待っていた。今日来なければ、明日も待つ。
 首を傾げてチラと覗いた車のデジタル時計は、午前三時十五分を数えていた。
ここ二時間以上、車も人も全く通らなかった。夜もここまで更けてしまうと、他に音をた
てる存在が無いせいか、半分だけ開けてあるドアウィンドウから、波の音が奇妙なほどに
近く聞こえる。
俺は苦痛を感じ始めていた。
昼間のうちに数時間の仮眠をとっておいたとはいえ、退屈もここまでくると流石に生あく
びが絶えない。そんな鈍ろうとする瞼と頭の中を覚醒させておくため、俺は努めて意識を
保たなくてはならなかった。そのため、煙草の消費数が増えるのだが、体は喫煙によって
反応しても、使わない頭の中は無意識に余計な思考を開始しようとする。その中身は、決
まってジョーのことだった。
市長の裏帳簿により、俺の中で、ジョーが買収に応じたという疑いが強まってしまった。
そんなジョーの姿など、以前の俺には想像もつかなかった。
だが、一度点いた疑惑の火は勢いを増し、今の俺は、この事件を追ったことを、この街へ
来たことを後悔するばかりであった。
頭の中がそういった思考を始めると、俺は、まるで腹の奥底を見えない万力で締め上げら
れるような激痛にも似た不快感を味わう。そして、頭を振ってその思考を追い払うのだ。
この一連の出来事を、俺は昨晩の同じような時間帯でも経験していた。もし、明日も待た
なければならないのだとしたら、役割をトレインと交替しようかなどと考えつつ、半開き
のドアウィンドウへ紫煙を吐き出した。
苦痛は過ぎ去り、再び退屈がやってきた。
 車のエンジン音が聞こえてきた。音の動きからみて、本道からこちらの裏通りへと曲が
ってきたようだ。
車内のデジタル表示が、今を午前四時四十分過ぎと教えている。最も可能性のある時間帯
だ。


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