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矢吹健太朗のBLACK CAT★ 黒猫No.236

446例の899:2004/01/17(土) 02:38
 狭い路地を歩き、一階のある部屋の窓に手をかけた。二日前から、この部屋のドアも窓
も鍵を外してあるのだ。
部屋の中へ移動した俺は、息を殺して扉の覗き窓に目をやった。
夏の五時ごろといえば、すでに東の空から漏れた日の光が辺りを照らし出しているころだ
が、隙間無く両側に建物があり、採光窓などの洒落たものなど設置されていないこのホテ
ルの中は、まだまだ暗い。男の姿を認めることは不可能だった。
諦めて、俺は目の替わりに耳を押し付けた。上へ昇る足音がかすかに聞き取れた。
(下手糞な歩き方だ)
俺は鼻で笑い、扉から耳を離した。
 男の行動に迷いは無い。ホテルの位置も部屋の番号も全て調べ上げて頭の中に入ってい
るのだろう。
男が現れるまで、俺達には相手がどんな手を使ってくるのか分からなかった。ヤツらの目
的は、俺達の抹殺の他に、裏帳簿のコピーを見つけ出し、それを消去することである。だ
から、遠距離からの狙撃やすれ違いざまの襲撃は無いと俺達は考えていた。裏帳簿の消去
が困難になるし、外出時に殺されたヤツの部屋が荒らされていれば、警察に“奪いたかっ
た物”の存在を匂わせることになるからだ。また、ホテルへの放火も成否が不透明である
ことから除外できる。
俺達が最も懸念していたのは、相手が部屋の階下に爆弾を仕掛け、裏帳簿ごと灰にする方
法を取った場合だった。辺りに人が少なく侵入し易いこのホテルで、それを防ぐのは簡単
なことではない。本来なら、部品を入手する時間とある程度の技術を必要とするが、相手
が警察関係の人間だとすれば、可能性は低いがあり得ないことではないと思われる。爆破
を選んだ場合、仕掛けられるのは俺達が泊まっている206号室の真下である106号室
ということになる。俺の今いる部屋がそうだ。
しかし、男は二階へとあがっていった。この襲撃に爆破は使われないということだ。
 俺は、予め部屋の中に用意しておいたマグライトをベルトの内側に差し込んだ。俺が普
段から使っているマグライトは、より強い光源を出すために電球を付け替えてある。電池
の消耗は激しいが、市販のままと比べると二倍近い光を射出することができる。
慎重に扉を開き、階段を覗いた。男は既にそこにはいなかった。
扉を摺り抜け、階段の真下へと移動する。息を殺して耳を澄ますと、キリキリと金属の回
る音が微かに聞こえた。サイレンサーを装着する音だとあたりを付け、俺はそっと腰の銃
に手をやった。
そのままの姿勢でしばらく待った。男が、鍵を開けずに扉を蹴破って一気に部屋へ突入し
た場合に備え、すぐに階段を駆け上がって対応できるようにだ。
だが、扉の破れる音はせず、かわりに金属同士が触れ合う小さな音が断続的に聞こえてき
た。目を覚ました様子はないか、部屋の中の物音を確かめながら作業しているのだろう。
同タイプの鍵を破るのは二度目なためか、内部で道具のやり場に迷うような、不必要に引
っ掻き回す音は少ない。
三十秒ほど経つと、物音は一切聞こえなくなった。
大詰めが近い。
俺は、辺りの空気が肩や足腰に纏わり付き、重く圧し掛かってくるような錯覚に陥った。
手に持つマグライトまでが、急にその重量を増したような気がする。
だが、俺はその感覚を無理に振り払おうとはせず、階段を一段一段ゆっくりと昇った。
三階建てのブルーサンズには、一階につき全く同じ部屋が七つ用意されており、建物の中
央に中腹の踊り場で正反対に折れ曲がる階段が備え付けられてある。一階の階段を昇って
いくと、目の前に204号室の扉が現れ、左手が203号室、右手が205号室へと続い
ていく。
踊り場から一歩踏み出した時、右側から床を踏み鳴らす音が聞こえてきた。男が部屋の中
へ侵入したのだ。
そのままの態勢でいると、続いて空気が抜けるような短い音が四回鳴った。


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