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あと3話で完結ロワスレ
1
:
FLASHの人
:2012/12/09(日) 21:32:05
ルール等詳細は
>>2
を参照
お前が、このロワを、完結させるんだ……!
402
:
剣士ロワ第300話「光」
:2013/03/14(木) 00:05:13
「ああ。もう、迷いはしない。俺は、俺の心を、信念を、正義を信じて戦い続ける。立ち塞がるものは、たとえ神であろうと……斬り伏せるのみ、だ」
決意の言葉を唱えると同時、ゼロのアーマーが通常の物から霞の鎧へと変わり、両手には炎の剣と力の盾が現れる。
ゼロのその言葉を、正義の心が蘇るのを信じて待ち続けていたとばかりに。
「ゼロ。逞鍛を……俺の兄弟を、頼む」
衛有吾は顔を俯けながら、申し訳なさそうに、改めてゼロにそう言った。息を引き取った時と全く同じ言葉だ。
あの時ゼロは、戦友を自分の手で殺めてしまったことへの後悔と恐怖、そして2人を失ったことへの悲しみで、ただ慟哭するしかなく、答えることができなかった。
しかし今は、逞鍛の人となりを知った上で、力強く答えられる。
「ああ、任せろ。まだ馬鹿なことを言うようなら、思いっ切りぶん殴ってやる」
ゼロの冗談混じりの言葉に、衛有吾は苦笑をしながらも頷いた。
すると、3人の身体が淡く輝き出し、元の姿を失い始めた。あの姿を保つ限界が来たのだと、ゼロは冷静に事態を受け止める。
すると、ゼロの通信装置に文書データが送られて来た。差出人は、エックスだ。
時間が無いのだということを承知し、ゼロはそれを読むのではなく記憶領域に直接インストールし、文字通り一瞬でその内容を理解する。
目の前にいるエックスは、ゼロの知るエックスとは違う、異なる時間軸の未来の存在で、今はサイバーエルフと呼ばれるものだということ。
ゼロが一度敵として、そして一度だけ肩を並べて戦ったハルピュイアはエックスの仲間で、死して尚、サイバーエルフとなって常闇の皇に取り込まれてもエックスを守り続けていたこと。
そして――常闇の皇を打倒する為の、切り札。
体を失っても尚、不屈の闘志と平和を祈り続ける、正義の心は微塵も褪せていない。
変わらぬ友の在り方に、そして今まで共に戦ってくれていたのだという事実に、ゼロは今まで以上の心強さを感じていた。
「僕達には、もう祈ることしかできない……。だから、君達の勝利を祈っているよ」
「任せておけ」
最高の親友の言葉に短く返して、ゼロは3人の魂が自分の前から消えて行くのを見送った。
見送って、すぐにゼロは走り出した。自分の往くべき戦場へと、3人の友から受け取った祈りと共に。
▽
403
:
剣士ロワ第300話「光」
:2013/03/14(木) 00:07:52
常闇の皇の放った赤き結晶の牢獄から、ゼロは、ゼロガンダムは、オキクルミは、3人が同時にその呪縛を破り、最後の戦場へと帰還した。
「まさか、こんなことが……!? デス・クリスタルの悪夢から、抜け出して来たというのか……!」
3人の帰還を、誰よりも逞鍛が驚愕した。彼自身もまた、常闇の皇のデス・クリスタルに堕ち、それ故に真に闇の世界を求めるようになり、回天の盟約を結ぶに至ったからだ。
逞鍛の驚愕に、ゼロのみが視線を向けて応じる。だが、すぐにその視線は外れた。
「スプラウト!」
オキクルミは碧眼の獣神の姿のまま、スプラウトの名を呼び彼に駆け寄った。
スプラウトは、全身の鎧が砕け散り、左腕と両足を失い、腹に大穴を開けて倒れていたのだ。
残された肉体も闇の力を取りこみ過ぎた為か、最早人間としての名残が見られないほどに変質し、辛うじて顔に人としての面影を見出せる程度だった。
スプラウトの凄惨な姿を見て、誰もが悟った。
自分達が闇に囚われている間、彼は命を懸けて自分達を守り抜いてくれたのだと。
オキクルミが駆け寄ると、スプラウトは残された右手で握りしめていたイルランザーを放し、戻って来た3人の顔を見て、微かに笑みを浮かべた。
「ふ、ふふ…………最後の、最後に……やっと、守れた……」
今までスプラウトは、戦いの中に身を置き、最強の剣士と謳われながら戦いの中で大切なものを守れなかった。
最愛の孫娘、ブリアン。そしてお節介焼きの愛すべきバカの聖騎士、カイ。
自分の目の届かぬ所で、自分の目の前で、彼らを失った。自分には、彼らを守れるだけの力があるはずなのに。
だが、今は。今度こそは。守るべき仲間達を、守り抜くことができた。
これで、2人に少しは顔向けができる。
復讐と憎悪の闇に呑まれた20年を超えて、再び光を取り戻した輝ける聖剣は、安堵しながらその生涯を終えた。
「スプラウト!!」
ゼロも駆け寄った時には、既にスプラウトの息は止まっていた。やがて、スプラウトの肉体は、塵となって消えた。
そして、3人を守っていたもう1人の剣士に、ゼロガンダムは背後から詰め寄った。
404
:
剣士ロワ第300話「光」
:2013/03/14(木) 00:09:23
「タクティモン……!? 貴様が、何故!」
半ばから折れた蛇鉄封神丸を大地に突き刺した状態で、タクティモンはゼロを庇うように立っていたのだ。
不可解なことだった。その本質を闇に属するこの男が、アルフォースブイドラモンの盟友である自分を助けるはずが無い、自分達の助勢をするはずが無いと、ゼロガンダムは確信していたからだ。
しかし、守られたことは事実。礼を述べ、この戦いを終えた後の決着を約束して、今は捨て置くか。
そう考えを巡らせたところで、タクティモンが振り返った。
兜が破壊され、中身の怨霊体が露出し噴出している状態で、凡そ表情と呼べるものは見出せない。
なのに、この時だけは分かった。
もう、声を出す余力すら無いのか、タクティモンは声を出さずに、しかし確かに呵々と笑ったのだ。
自らの命が今尽き果てるというのに、タクティモンの心は晴れやかだった。
死者の怨念の集積体である自分が変われたということは、全てのデジモンに変わることができる可能性が未だ秘められている確たる証拠なのだ。
神を殺し世界を分断し、敵を倒すために生み出されたタクティモンが、強敵との戦いではなく、何者かを守って死ぬ。
これが人の心に秘められた可能性の顕現でなくして、何だというのだ。
陛下、どうかご安心を。あの赤の少年と青の少年と絆を結んだデジモン達が、貴方にも必ずや見せてくれます。
人とデジモンの持つ、無限大な夢を。
声には出せずとも呵々と笑いながら、無念と怨念から解き放たれたタクティモンは、タクティモンを成していた武人デジモン達の魂は、桜花の如く散華し、蛇鉄封神丸を遺して消滅した。
「何故だ、タクティモン……! なぜだぁああ!!」
目の前で何も言わず、何も語らず、しかしほんの僅かなことだけは伝えて消え去った仇敵の名を、ゼロガンダムは叫んだ。
アルフォースブイドラモンの仇を討てないことが悔しいのではない、ましてタクティモンの死を悲しんでいることなど断じてない。
ただ、それでも、ゼロガンダムは叫ばずにはいられなかったのだ。
【スプラウト@ファントム・ブレイブ 死亡】
【タクティモン@漫画版デジモンクロスウォーズ 死亡】
405
:
剣士ロワ第300話「光」
:2013/03/14(木) 00:11:40
「……あいつらは、お前達の帰還を信じていた。ジェネラルジオングを破壊し、その後も際限無く生まれ出でて来る闇の軍勢と戦い続けたのだ。見ての通り、全ての力を振り絞って……」
スプラウトとタクティモンの戦いを、1人だけ後ろから眺め続けていた逞鍛は、3人にありのままの事実を伝えた。
ジェネラルジオングを撃破した直後、常闇の皇は天空へと浮上し、闇の軍勢を生み出し始めたのだ。
有象無象の低級妖怪だけではない、その中には生前死後問わず常闇の皇に恭順した闇の魂さえもいた。
幻魔皇帝アサルトバスターと司馬懿サザビーを筆頭に、妖魔王キュウビ、地獄門の申し子・刹那など、錚々たる闇の軍勢が生前の力そのままに復活を遂げたのだ。
魁斬頑駄無や頑駄無流星王など、勢いに乗じて同時に復活した天の刃とも呼ぶべき者達の助勢もあったとはいえ、それらを相手に戦い抜き、命と引き換えに全てを退けたという事実は称賛に値しよう。
本来なら、こんなことは敵である彼らに伝えるべき事ではないはずだ。なのに、気が付けば言葉が口を衝いて出ていたのだ。
やはて、逞鍛は無言のまま視線を上空へと向け、3人を促す。
天空には、太陽は輝いていない。代わりに存在するのは、赤黒い紋様の刻まれた漆黒の球体だ。
それから放たれているのは闇の瘴気、可視化どころか実体化すらしているほどの暗黒の呪い。
一目でそれが如何なる存在かを、ゼロガンダム達は見抜いた。
「あれが、常闇の皇か……!」
「厳密には、あれの中に常闇の皇の本体――ムーンミレニアモンが収められているようだな」
ゼロはゼロガンダムの言葉を肯定しつつ、エックスから受け取ったデータを参照して補足した。
巨大兵器の中から球体が現れ、更にその中に本体がいるとは、随分と勿体付けたことだ。
そしてゼロの補足説明を逞鍛は首肯し、更に付け加える。
「そうだ。純粋な妖力や魔力そのものともいえる存在であり、百鬼夜行を生み出し、世界の全てを呑み込む闇を齎す、暗黒の太陽にして古今絶無の闇の君主。それこそが、常闇の皇」
逞鍛が常闇の皇の名を唱えた瞬間、まるでそれを合図にしたかのように、常闇の皇が宙に“闇”の一文字を記し、そこから湧出した闇が、瞬く間に世界を呑み込んだ。
「なんだ……――!? 今のも、筆業だというのか……?」
「何も見えない……!? くそ、センサーも全部正常に作動しない!」
「無限に広がる闇。常闇の皇とは、この闇そのものだというのか……!」
オキクルミ、ゼロ、ゼロガンダムはそれぞれ、突如として訪れた闇の世界に困惑している。
当然だろう。本当にたった一瞬で、先程までは微かに存在していた光が完全に消え去り、自分の姿すら確かめられない真の闇が顕現したのだから。
406
:
剣士ロワ第300話「光」
:2013/03/14(木) 00:14:21
だが、逞鍛には分かる。常闇の皇の膝下に跪き、回天の盟約を結び直属の配下となった逞鍛には、光に頼らずとも、周囲の状況がはっきりと認識できていた。
上下左右の認識すらも曖昧になった闇の中で、天空から地獄の業雷が大地に落ち、地獄の業火が燃え盛り、氷結地獄が周囲を取り囲み、地獄の瘴気を乗せた旋風が吹き荒れる。
それらの攻撃に反応することすらできず、3人は打ちのめされていく。
闇の中でも頼れる聴覚や触覚を頼りに辛うじて直撃は免れていたが、防戦にすらなっておらず、一方的に甚振られているだけだった。
今、常闇の皇が悠然と天空から大地へと降り立ち、そのまま世界を砕こうとしていることすらも気付けていない。
目の前から光が奪われただけで、こんなにも無様な醜態を晒す。
それが、光の戦士達の、彼らが掲げた“正義の力”の限界なのだと……認めてなるものか!
「うおおおおおお!!」
雄叫びを上げて、逞鍛は高速戦闘形態で常闇の皇へと突貫する。
闇の炎と氷を飛び越え、闇の颶風を振り払って飛ぶ。そして、両手に握った天刃と空刃を――兄の形見の双剣を振るい、常闇の皇へと渾身の縦一閃を放つ。
だが、常闇の皇はその攻撃を、自身の神体である球状のカラクリを幾つも縦に分割することで回避した。
そのままカラクリを逞鍛の体へとぶつけ、大地へと叩き落とす。
「ぐあぁぁ!」
鎧が砕け散るほどの衝撃を受け、逞鍛は血反吐を吐きながら、しかし、天刃と空刃を手にすぐに立ち上がった。
こんな程度で諦めてはならない、こんなことで負けてはいられないと。
「逞鍛! なにを……!」
氷の棘に苦戦しているゼロが、逞鍛へと声を掛けて来た。
思えば、本来なら逞鍛とゼロの間には何の因縁も無かった。
それが、衛有吾の意志を解して通じ合い、そして同じ戦場にいる。
衛有吾の意志、それを汲み取ったゼロの心。それらの情が結び付き、逞鍛へと届いた。
そして、殺戮の儀式という極限の状況下でそれぞれに人の情に触れたことで、闇に堕ちながら、闇に生まれながら、変わることのできた2人の戦士の生き様が、逞鍛の心を突き動かした。
「……フッ。やっと、正気に戻った……!」
兄が命を賭して守ろうとしていたものは、この闇の中にあるのか?
自分が求めていた理想と正義は、この闇の中にあり得るのか?
答えは、否。断じて否。
天翔狩人摩亜屈が願っていたのは、逞鍛が望んでいたのは、こんな世界ではない。
光あるが故に己とそれ以外との境界が生まれ、それ故に人は他者と他者とに分かれ、大小問わず争いや諍いの絶えず起こる世界であろうと、人は変わることができる、分かり合うことができる。
光射す世界だからこそ、夢も、希望も、未来も、平和も意味があるのだ。
闇だけの世界では、全てが混然一体となり、それ故に争いも諍いも一切生じない静かな世界となるだろう。
しかしそれは、己とそれ以外のものどころか、有と無の境界すらも曖昧になってしまった、永遠の孤独の世界。
暗黒の世界では、現実にも、絶望にも、過去にも、何もかもに意味が無い。
そんな世界を認めるわけにはいかない。
一度闇に屈したことを言い訳に、己が正義を棄てるわけにはいかないのだ。
逞鍛が己の内に熱く脈打つ魂を自覚した、その時、彼方から移動する熱源が飛来した。
その熱源は己の高熱によって光を放っており、その姿はまるで小さな太陽だった。
逞鍛の目前に迫っていた、常闇の皇の放った無数の雷球と火球を全て受け止めて防ぎ切り、それは逞鍛の前に降り立った。
それの名を、逞鍛は知っていた。
407
:
剣士ロワ第300話「光」
:2013/03/14(木) 00:17:36
爆心の鎧。清き心の持ち主にしか纏えぬ、灼熱の炎を宿した武具。しかし、昨日に烈火武者頑駄無と共に爆発四散したはずの物だ。
何故この鎧が、今この時に自分の目の前に現れたのか。逞鍛には分からなかった。
すると、爆心の鎧が現れた途端に常闇の皇の攻撃が激しさを増した。しかし逞鍛は、その様に苛烈さではなく焦りや動揺を感じていた。
それを同様に感じ取ったのか、ゼロ達は爆心の鎧の発する灯りを頼りに、逞鍛と爆心の鎧を守るように戦い始めた。
つい先程まで敵だった自分の為に、何の躊躇いも無く身を呈す。今は亡き、烈火の如く熱き魂の武者を思い出し、逞鍛はつい笑みを漏らした。
「信じていたぞ、摩亜屈……いや、逞鍛。お前の正義が蘇る、この時を」
爆心の鎧から声が響き、そして燃え盛る炎が姿を変える。
炎に現れたのは、烈火武者頑駄無。
「お前……頑駄無!?」
逞鍛はつい今し方思い出していた相手が、唐突に鎧の中から現れたことに驚き、素っ頓狂な声を出してしまった。
だが、頑駄無はそんなことは一切気に掛けず、話を先に進める。
「俺の魂は爆心の鎧に烈火の炎と共に宿り、眠り続けていたのだ。爆心の鎧もまた、闇との決戦の為に造られた武具の一つであるが故に……黄金神の啓示を受け、その時が来るのを待っていた」
爆界天衝により、この仮初の世界を覆う結界が一時的に綻びた。その瞬間にスダ・ドアカ・ワールドの黄金神がこの儀式に干渉してきたことは、逞鍛も知っていた。
しかし、それはゼロガンダムのシャッフル騎士団への叙任だけであり、まさか爆心の鎧と頑駄無にまで干渉していたとは、全く気付かなかった。
恐らくは、常闇の皇に吸収されるはずだった頑駄無の魂を爆心の鎧に定着させ、爆心の鎧を各部分割して隠しておいたのだろう。
逞鍛が自分なりに推理して納得をすると、頑駄無は拳を握り、炎を更に激しく煌々と燃やした。
「今がその時だ! 今こそ燃やすんだ、逞鍛! お前の武者魂を!!」
躊躇いながら、爆心の鎧に手を触れる。
まったく熱くない。寧ろ感じるのは、太陽の光のような温かさだ。
闇に沈み、取り返しようの無い罪を犯した自分にも、この鎧を纏う資格があるというのか。
体が震える。これこそ正しく、武者震い。
「……死んでも治らんものもあるようだな。礼を言うぞ、頑駄無」
素っ気ない言葉に頑駄無は笑顔で応えると、爆心の鎧の炎と再び一体となった。
逞鍛は爆心の鎧を身に纏い、立ち上がる。
温かな炎が逞鍛の傷を癒し、熱く燃える武者魂が爆心の鎧の炎を更に激しく燃え盛らす。
そして、上空の常闇の皇目掛けて、逞鍛は一直線に跳んだ。
無防備な跳躍に、容赦無く闇の雷が落とされる。激痛が全身を襲ったが、どんな痛みだろうと痛くないと思えば痛くない。無茶な理屈だが、それが武者なのだ。
攻撃を凌ぎ切り、常闇の皇の目前へと迫る。すると、常闇の皇はグルリとカラクリを回転させて巨大な腕を展開させた。
球体から生える、片方だけの巨大な腕。不気味なその姿は、闇の王に相応しい威圧感も備えている。
それもそのはず、この形態は常闇の皇の最強攻撃形態であると同時に、掌の部分に常闇の皇の本体――幻影の千年魔獣が位置しているのだ。
408
:
剣士ロワ第300話「光」
:2013/03/14(木) 00:21:12
常闇の皇から放たれるプレッシャーが、本体が姿を現したことによって殊更に強まる。
そして、逞鍛は何ら抵抗することすらできず、常闇の皇に捕まってしまった。
巨大な手で獲物を掴んだ状態で膨大な闇の力を放出し、相手を握り潰しながら最後は闇の力を爆発させる、単純明快な必殺技。
絶体絶命の状況に至って、しかし逞鍛は不敵に笑った。
全ては計算通りだと。
常闇の皇から闇の力が放出されるのと同時に、逞鍛と頑駄無は同時に己の武者魂を熱く燃やし、爆心の鎧の力を、極限を超えて凄まじい速度で高めて行く。
纏う炎が放つ熱は光へと変わり、常闇の皇が放つ闇と拮抗する。
だがその代償に、逞鍛の肉体は炎に焼かれ、手足は融解を始めていた。
「待て! 何をする気だ、逞鍛!」
逞鍛の異変を察知したゼロが、常闇の皇が放ち続けている攻撃を耐え凌ぎながら大声で呼びかけて来る。
それを聞いた逞鍛は、ゼロと視線を合わせた。
「全く、この期に及んでも俺の心配などと……お前はバカか、ゼロ。衛有吾の頼みなどを真に受けて、赤の他人の俺を構って……」
この俺も……情に救われるか。
声には出さず、心の中で囁くように呟いた。
情によって心を殺されたと思っていた自分が、他者の情によって心を救われる。これを皮肉というのだろう。
いいや、違う。因果応報、この世にあって然るべき当然の摂理だ。頑駄無に心の中で諭され、素直に頷く。
代わる言葉を、ゼロに、そしてゼロガンダムとオキクルミへと贈る。
「光の戦士たちよ、戦え! 今こそ、お前達の“正義の力”を示すのだ! そして……あの、懐かしい未来を、もう1度……!」
未熟な頃、幼き日に、誰もが一度は夢見たはずの、希望に溢れた輝かしい未来。
しかし、現実を生き続ける中でどうしても忘れてしまった、棄ててしまった、懐かしい未来。
それを、もう1度見せてくれ。お前たちなら、正義の力を信じているお前たちなら、きっとできる。
感極まり、最後までは言葉が出なかった。それでも、きっと伝わっただろう。少なくともゼロならば、これぐらいは察してくれるはずだ。
気持ちを切り替え、目前の大敵を睨みつける。覚悟は、疾うに出来ている。
兄者、今、私も逝きます。不出来の弟を、どうかお叱り下さい。
そして、衛有吾。お前とは、話したいことが沢山ある。
「頑駄無、共に往くぞ!!」
「応!!」
逞鍛と頑駄無、2人の武者魂の火が交わり、1つの魂の炎となる。
心と心が繋がることで生み出される力、交魂(キャッチボール)が爆心の鎧が纏う炎と帯びる熱を、太陽と見紛う程にまで進化させる。
「爆界天衝、発火!!」
暗黒の太陽の闇に呑まれた世界に、太陽が昇る。
しかし、それは一瞬の輝き。
それでも、闇を払う確かな光だ。
その光と一つとなり、2人の武者の魂は消えて逝った。
【逞鍛@武者烈伝武化舞可編 死亡】
409
:
剣士ロワ第300話「光」
:2013/03/14(木) 00:24:02
常闇の世界に一瞬だけ昇った、小さき太陽。その輝きは闇を払い、暗黒の太陽を翳らせた。
相応と分かっていても、矢張りあまりにも重い犠牲を払って。
ゼロは敢えて何も言わず、名前すらも呼ばず、1人の武者の死に様を見届けた。
常闇の皇は本体をカラクリの中に収容したが、手を破壊され、暗黒の太陽と呼ぶべき威容も所々が融け、歪んでしまっている。
勝機が訪れたことを悟ったゼロは、決して気を逸らせず、エックスから受け取った常闇の皇についてのデータを確認する。
常闇の皇、ムーンミレニアモンには物理的な攻撃は通用しない。邪神の精神体が目に見える形になっているだけ、という特異な存在であるためだ。
だが、どんな攻撃だろうと通用しないわけではない。ムーンミレニアモンと同格かそれ以上の神性を帯びた攻撃ならば、その刃は邪神の魂に届く。
今、この場にそれを可能とするものは――3人、それぞれの手の中にある。
すると、再び虚空に闇の一文字が現れ、世界は再び闇に呑まれた。
そして、3人の脳裏に、言葉が直接現れる。
――お前は破壊者として造られた。破壊者として望まれた。破壊者として願われた。お前の存在意義は、破壊以外にあり得ない――
――力への執着から生じた嫉妬心で友を殺したようなお前のような凡人には、何も救えない、何も守れない。お前は英雄などになれはしない、一生を凡人として終えるのだ――
――お前の戦いは無意味だ。帰るべき世界には、守るべき民も、語り合う友も、倒すべき敵も、愛する人も、既にいない。待ち受けているのは、永遠の孤独だけ――
つい先程まで囚われていた、絶望の世界がフラッシュバックする。周囲だけでなく、己の内にまで闇が浸食して来る。
しかし3人の心には最早、一片の畏れも迷いも無かった。
「俺の力は、破壊する為のものなんかじゃない! 友を! 友が信じるものを! 守る為の力だぁぁ!!」
ゼロの決意の言葉に応えるように三種の神器は輝きを放つ。
炎の剣を振るい、自らの恐怖が形を成した老科学者の幻影を切り裂く。
「一つの道を究めようとすれば、必ず成功と失敗を問われる。しかし……その道を歩むことにこそ掛け替えのない価値があるのだと、仲間達が教えてくれた。だから……俺は自分の心を信じて、ただ只管、己の道を歩んでいく!」
オキクルミの心に宿る本当の強さ、真の勇気に応えてクトネシリカと虎錠刀、そして虎燐魄は眩い光を放ち、闇の氷壁を砕き進むべき道を切り拓く。
「たとえ俺の帰りを待ってくれている人がいなくても、俺は、俺を信じてくれた仲間達の願いを叶える為に戦う! そして、闇に奪われた全てを……光ある世界とそこに生きる命を取り戻してみせる!」
魂だけの存在となりながら自分を奮い立たせてくれたスダ・ドアカの仲間達の祈りを聞いたゼロガンダムに、もう孤独への恐怖は無い。
闇を乗り越えた先の光、絶望の先の希望、来るべき未来を信じて、雷龍剣と雷の神剣を手に進み続ける。
410
:
剣士ロワ第300話「光」
:2013/03/14(木) 00:26:27
3人の心の光が己の闇に打ち克つと、それに呼応してゼロガンダムに託されていた黄金神の祈り――スペリオルドラゴンの力の欠片が発現し、その胸にシャッフル騎士団の一員たる証“クラブ・オン・エース”の紋章が輝く。
それだけに留まらず、ゼロガンダムの身に黄金神の想定すらも超えた変化が起きた。
ゼロガンダムの鎧は黒を基調とした物から青を基調とした物へと変化し、マントは龍の翼を思わせる形状へと変化した。
その姿は、愛機ドラグーンと、戦友アルフォースブイドラモンによく似ていた。
未来を信じる心が生み出す奇跡の力、アルフォースを宿した新たなる騎士――青龍騎士アルフォース・ゼロガンダムが誕生したのだ。
3人が放つ光は一つとなって更なる輝きとなり、常闇の皇の闇を打ち払う。
常闇の皇は闇に紛れた僅かの内に己の神体を復元させていた。
だが今更その程度のことで動揺などせず、3人は一斉に動き出した。
411
:
剣士ロワ第300話「光」
:2013/03/14(木) 00:30:08
先鋒を務めたのはゼロガンダム。堅牢さと軽量を併せ持つブルーデジゾイドの鎧に身を包み、新たに得た龍翼による神速のスピードと縦横無尽の空戦能力を初戦でありながら自在に発揮していた。
僅か3日、それでも3日もの間、ずっと共に戦った戦友の能力。戸惑うことなどあるはずが無い。
常闇の皇が攻撃を放とうとしてもその出鼻を悉く挫き、封殺する。漆黒の巨大な腕も決して愚鈍ではないが、神速の青龍騎士を捉えるには程遠い。
その空中戦を、オキクルミとゼロは少し離れた地上で見守り、機会を覗っていた。
オキクルミは碧眼の獣神の姿で背負った2本の剣を弓のように展開し、ゼロも背に乗り弓矢の矢の部分を担っていた。
狙うは一瞬、ゼロガンダムによって常闇の皇の防御が完全に崩されるその時だ。
間も無く、ゼロガンダムは常闇の皇よりも遥か高い天空へと昇り、そのまま超高速で垂直に常闇の皇の頂点部へと迫り、重ね雷龍衝を放つ。
だが、常闇の皇は超高速の剣にすら対応し、神体を分割するカラクリで完全に回避する。
攻撃を外したゼロガンダムは一瞬で地上すれすれの所まで移動し減速を余儀なくされる。
一方、ゼロガンダムが態勢を立て直すよりも速く、常闇の皇の神体が再び球形に合体する――その瞬間、オキクルミは光の矢を放った。
雄叫びを上げて、ゼロは炎の剣を常闇の皇の神体へと突き立てる。しかし貫くことはできず、常闇の皇の体にゼロがぶら下がる形となってしまう。
常闇の皇は体の表面に電撃を流し、ゼロを機能不全に追い込もうとする。だが、ゼロは怯まない。
ゼロは右腕に、死んでしまったゼットバスターの機能部分にアースクラッシュの要領で全エネルギーを集中、そのエネルギーを炎の剣を介して常闇の皇の内部へと叩きこむ。
本来なら、ゼロのエネルギー量では常闇の皇に与えられるダメージはごく僅かなものでしかない。
だがこの時、ゼロの心の光に、そして間近で2度も続けて発現した黄金神の力に触発され、三種の神器は鍵となる石板と呪文を介さず、真の力を発揮した。
三種の神器から溢れ出る膨大なエネルギーは、ゼロの許容限界を遥かに超えるものだった。だがゼロはそのエネルギーを制御し、全てを炎の剣へと注ぎこむ。
「教えてやるよ、暗黒の太陽! 現代のイカロスはな、太陽を叩き落とすんだよ!!」
ゼロが啖呵を切ると同時に、ゼロの右腕が爆発し、常闇の皇の神体の内部で大爆発が起きた。
落下したゼロはゼロガンダムによって拾われ、暗黒の太陽は地へと墜ちる。
そこへ、大地を駆ける碧眼の獣神――オキクルミが迫る。
放つのは、虎燐魄と虎錠刀を通して体と心に伝わって来る、孫家の侠に代々伝わる必殺剣。
それを己の剣技と合わせて、新たなる技へと昇華させた一撃。
「狼虎獣烈覇!」
オイナ族の誇りと孫家の魂を宿した、クトネシリカと虎錠刀から放つ狼と虎の姿を持った斬撃は、常闇の皇の神体は完全に噛み砕く。
412
:
剣士ロワ第300話「光」
:2013/03/14(木) 00:36:45
そして、全ての神体を失った常闇の皇の本体――幻影の千年魔獣、ムーンミレニアモンの姿が遂に露わとなった。
神体の巨体とは打って変わり、常闇の皇の本体は人間とさして変わらない。
クリスタルの中に収まる双頭の邪神の魂は、忌々しげにオキクルミを睨む。
しかし、ムーンミレニアモンに物理攻撃が通用しないのと同じ理屈で、ムーンミレニアモンは物体に対して干渉を行えない。
それ故に、ムーンミレニアモンは常闇の皇としての機械の器を欲し、月の民の、そして逞鍛の精神を狂わせて操ったのだ。
最早この戦いでの勝機は無いと察したか、ムーンミレニアモンは捨て台詞すら口にせず別時空への逃走を試みた。
だが、それは未然に防がれた。眩い光の八方陣が現れ、闇の力を封じたのだ。
大暗黒砲が光の力を封じたように、この八方陣は闇の力を封じる。
その陣形を成す8つの光の根源となっているのは、8つの剣。
聖剣イルランザー、蛇鉄封神丸、天刃、空刃、炎の剣、クトネシリカ、虎錠刀、そしてゼロガンダムの携える天叢雲剣。
「破邪剣聖――八紘の陣!」
ゼロガンダムはゼロを地上へ下ろす際に、ゼロがエックスから託されたこの秘策を伝えられていた。
その神速で以ってゼロガンダムは洛陽宮殿跡に遺されていたイルランザーと蛇鉄封神丸、天刃と空刃を回収。
炎の剣を起点として、クトネシリカと虎錠刀をオキクルミから受け取り8つの剣を所定の場所へと配置し、八紘の陣を敷く為の布石としたのだ。
天叢雲剣を大地へと突き刺し、八紘の陣を固定する。異界の大神の筆しらべの力が宿る神剣は、八紘の陣をより強固なものとする。
そしてゼロガンダムは雷龍剣を手に、動きを封じたムーンミレニアモンへと歩み寄る。
今共に戦う仲間、対峙することのできなかった仇敵、死に別れた戦友、この手で倒した敵対者、出会うことすらできなかった数多の剣士達。
彼らへの万感の想いを込めて、ゼロガンダムは雷龍剣を構える。
今更技や奥義など必要無い。全身全霊、全ての祈りを剣へと込めるのみ。
身動き一つできず、ムーンミレニアモンはただただ驚愕に目を瞠り、迫り来る剣士を見るのみ。
ゼロガンダムの剣が、ムーンミレニアモンを間合いに捉えた瞬間、雷光が走る。
ムーンミレニアモンは体を真っ二つに斬り裂かれた。精神体ではありえないはずの肉体的な激痛を味わい、ムーンミレニアモンは別たれた双頭で断末魔の叫びを上げる。
その双頭を、雷龍剣が切り裂く。その後も次々に神速の剣戟が放たれ――
「悪しき闇よ、零に還れ!」
――遂にムーンミレニアモンは、世界に欠片一つ残さず完全に消滅した。
【常闇の皇・ムーミレニアモン@大神&デジモンシリーズ 消滅】
413
:
剣士ロワ第300話「光」
:2013/03/14(木) 00:40:44
常闇の皇・ムーンミレニアモンの消滅と同じくして、常闇の皇によって造られた仮初の世界は瞬く間に崩壊を始めた。
唯一の脱出手段である龍機を召喚しようにも、ゼロガンダムは戦いで消耗しており、雷龍剣の最終奥義である雷龍大系を行うには時間が足らない。
否、それ以前に精根尽き果てた3人は、勝利を見届けると同時に気絶していた。今まで蓄積していた疲労とダメージが、ほんの一瞬だけ精神が弛緩した瞬間に、一気に押し寄せてしまったのだ。
3人は戦いの中で斃れた数多の剣士達の亡骸と、彼らが振るった幾多の剣と共に、無という闇へと呑まれていく――その間際に、1つの光に導かれた2柱の光が、彼らを救いだした。
常闇の皇の消滅により解放されたサイバーエルフ・エックスと、世界の外なる領域で常闇の皇の再誕を祝福せんと集っていた闇の神々と戦い、これを退けた光の神々の中心を担っていた2柱の神――黄金神スペリオルドラゴンと、大神アマテラスだ。
アマテラスは消滅する世界に井桁の文字を記して簡易的な幽門を造り、魂たちを還るべき世界へと還り、再び輪廻転生の輪に加われるように施した。無論、そこに光と闇、善と悪の区別は無い。
そして画竜の筆しらべで以って3人の傷を癒し、桜花の筆しらべを駆使して3人の体に生命力を注ぎ込む。唯一純粋な生命体ではないゼロの体は、機械の体にも精通している黄金神が癒しを与えた。
「光の戦士達……いや、ゼロ、ゼロガンダム、オキクルミ、ありがとう」
黄金神は多くを語らず、数多の苦難を乗り越え幾多の祈りを背負って戦い抜き、大いなる闇を打ち倒した3人へ、心からの感謝の言葉を贈った。
アマテラスもそれに続くように一つ鳴くと、眠っている3人の頬を舐めた。
「お疲れ様。3人とも、今はゆっくりと休んで。目覚めた時には、きっと……素晴らしい世界が待っているから」
エックスは穏やかな笑顔で3人に告げて、自身もまた、永遠の眠りへと就いた。
肉体を失ってなお魂だけで戦い続けた、異世界の心優しい戦士の魂に、2柱の神は安寧を願って祈りを捧げた。
そして、彼の願いを叶えるべく、そして3人へのせめてものお礼として、黄金神と大神は、3人を丁重に元の世界へといざなった。
414
:
剣士ロワ第300話「光」
:2013/03/14(木) 00:44:10
そして3人は、帰るべき世界へと帰って来た。
3人は気付けばそれぞれ元の世界で仲間達に囲まれていて、目を覚ました途端にもみくちゃにされた。
ある者は喜びのあまり涙を流し、ある者は叱りながらも喜んでくれていた。3人は、そのことが無性に嬉しかった。
別れの言葉を言う暇も無く他の2人と別れてしまったことに気付くのには、そんなに時間はかからなかった。
寂しくないと言えば嘘になる。だが、何時までも引き摺るつもりは無い。自分にはまだ、この世界でやるべきことがまだ残っているのだから。
だからこの言葉で、4日間の殺戮の舞台を自分で終えよう。
「ありがとう。お前達のことは、絶対に忘れない」
願わくは、それぞれの世界の未来が、平和で希望に溢れた――懐かしい未来へと続いて行くように。
殺戮の舞台はこれで終わり。
だが、彼らの戦いはまだ終わっていない。
オキクルミにはエゾフジに巣食う双魔神モシレチク・コタネチク、そして彼の世界の常闇の皇が。
ゼロにはもう何度目かも分からないが復活の兆候を見せるシグマが。
ゼロガンダムには黄金神の死と、それに合わせて復活する古代の闇の神々が。
それぞれの世界には、それぞれの強敵が待ち受けている。
それでも彼らはきっと、どんな闇にも絶望にも負けず、勝利を掴み取るだろう。
彼らの心に、光がある限り。
415
:
剣士ロワ第300話「光」
◆9DPBcJuJ5Q
:2013/03/14(木) 00:47:36
剣士ロワ、これにて完結です。
まさか、最後の最後にトリを付け忘れるうっかりをやらかしてしまうとは……。
読んで頂き、そしてこの作品を書かせて頂ける場を作って頂き、本当にありがとうございました。
作品を書いててこんなに楽しかったのは本当に久しぶりで、自分でもびっくりです。
416
:
名無しロワイアル
:2013/03/14(木) 07:13:24
執筆と投下、お疲れ様でした。
ああ……熱かったぁああ! バトルの内容や、とくにタクティモンの身の振り方もですが、
光射す世界への肯定を真っ直ぐに書いた部分にも心が震えました。
教条的にならず、息苦しくもない――本文で言われたとおりの「熱く脈打つ魂」が
伝わってくるのが素敵だなぁ、魂を燃やせる逞鍛たちがカッコいいなと思うことしきり。
氏のSSはロボロワの頃のものも好きだったんですが、てらいなく開かれた印象を
有するテキストには今回も魅せられました。原作の把握率は非常に悪いんですが、
それでも氏の文章で魂を燃やしたことは忘れないでしょう。
というわけで、最後になりますが完結おめでとうございます!
417
:
FLASHの人
:2013/03/15(金) 08:44:11
投下&完結お疲れ様です!
スパロボ始めたところで三国伝の技もイメージできるようになった俺に隙はなかった
重厚極まりないバトル描写と、熱い熱すぎる展開に震えっぱなしでした。
この熱さで300話まで続き、ついに完結したのかと思うと感涙を禁じえません。
重ね重ねお疲れ様&完結おめでとう!!
そして業務連絡。
この3話ロワのまとめサイトの作成を始めました。
1ロワに1つ、まとめサイトの形を作ろうと思っています。
とりあえず第一弾として、「第297話までは『なかったこと』になりました」のサイトを
作成しました。
何故これを選んだかって?
打ち消し線と螺子乱舞でサイトの色が出しやすいからだよ!
ということでこんな感じです
ttp://akerowa.web.fc2.com/rwbox/medakatop.html
手癖で作っており簡素ではありますが、作者さん及びこれからまとめられてしまう皆様も
「俺のロワのまとめはこうしてくれ!」という要望があれば
私の技術の追いつく範囲で応えさせていただきます。
それでは引き続き、完結していく物語をお楽しみ下さい。
418
:
名無しロワイアル
:2013/03/15(金) 23:05:02
>>417
企画主さん、乙です。
まとめサイト、見せて頂きました。
各ロワごとにサイトのデザインにも個性をつけて頂けるとは思わなかったので
正直、驚いています。(KONAMI感)
ところで@wiki形式ではないということは
修正は各作者が勝手にできる訳ではない、という事でしょうか?
419
:
FLASHの人
:2013/03/17(日) 11:23:24
どうもでございます。
今日は「まったくやる気がございませんロワイヤル」のサイトができたので貼って置きます
やる気ですか?ええ、ございません
ttp://akerowa.web.fc2.com/yarukinothin/yarukitop.html
>>418
拙い作成能力で恐縮です
一応ロワがちゃんと続いていた体でサイトが出来上がっていればいいなと思っております
なお、修正についてはこのスレでご連絡いただければ直します
1企画でwiki乱立させるのもなんだなあと思ってサイト形式にしておりますので
お手数ですがご連絡いただければと思います
420
:
◆9DPBcJuJ5Q
:2013/03/18(月) 23:49:39
>>419
まとめサイト作成お疲れ様です!
Wikiで一纏め形式だとばかり思い込んでいたので、態々一つずつを作って頂けるということで、頭が下がるばかりです。
拙作のまとめに関する要望は……
ブシドー風に言えば、
作成中のまとめサイト、あなた色に染め上げて欲しい。
サコミズ王風に言えば、
貴君にはSDガンダムを司る新しいロワまとめをやってくれ!
普通に言えば、思うままにお作り下さい。
421
:
名無しロワイアル
:2013/03/18(月) 23:56:50
>>419
話の中身はシリアスなのに、何と脱力系なデザインかw
422
:
名無しロワイアル
:2013/03/23(土) 02:40:48
作品を把握し直そうとして始めたゲームが面白くてやめられない…
執筆できねぇw
423
:
名無しロワイアル
:2013/03/23(土) 10:31:21
分かり過ぎる
しかもワールド3歯応え有り過ぎて進まない
424
:
422
:2013/03/23(土) 11:34:56
把握しようとしたキャラのシーンはとっくに過ぎているのに…w
425
:
名無しロワイアル
:2013/03/23(土) 21:22:54
>>422
あるあるw
自分もちょっと見直すつもりで単行本を手に取って、気付いたら全巻読んでたり、ベストバウト読みふけってたりw
そしてトゥバンの活躍を見直していて思ったのが、こんなバケモノが第1話で主人公の仲間入りってどういうことなの……。
しかも長期連載特有のインフレが始まってもおっさん強過ぎる上に日々の鍛錬で着実に強くなってるから誰も追いつけない。
最強キャラが文字通り最初から最後まで最強なんて稀有だよなぁ。
426
:
名無しロワイアル
:2013/03/23(土) 22:29:56
>>422
あるある過ぎて困るw
俺も書いてて改めて原作読みふけったり、またゲームをやり直したくなったりしたんだよなー
427
:
名無しロワイアル
:2013/03/25(月) 14:50:06
めだかでまさかの百人戦(バトルロイヤル方式じゃないけど)が始まって噴いた
428
:
名無しロワイアル
:2013/03/27(水) 17:23:45
今更だけど剣士ロワ最終回読み終わったああ!
投下乙!
やばい、まじこれやばい。
デジモンやSDガンダム、ロックマンX愛に溢れまくってる!
キャッチボールとか武者○伝ネタとかゼロマルで100%パロとか懐かしい未来やイカロスな岩本版ネタとかロックマンゼロも拾ってたし、漫画版クロウォ最終回とかもうね、やべえ
大神とかファントム・ブレイブだっけかも知ってたらもっとにやにやできたんだろなー、くっそうw
クロスオーバーしまくりの常闇を始めとした、まさしくクロスウォーズな光と闇の戦い感服しました!
SDガンダムにデジモンにロックマンXと大好きな要素がありまくりで本当にクリティカルなロワでした!
面白かったです!
また何処で氏の作品が読めれば幸いです! では!
429
:
名無しロワイアル
:2013/03/27(水) 17:24:44
あ、そういえば氏も触れてたUXで呂布仲間になる時に天の刃とか大地とか合体攻撃でのセリフなど、戦神決闘編のネタ満載らしいよ!
430
:
◆9DPBcJuJ5Q
:2013/03/27(水) 22:12:34
>>429
なんだって! それは本当かい!?
妄想ロボロワ最終決戦そのままの最終話での登場に昂っていたのに、
更にその上があると! なんとしてでも仲間にしたいなぁ!
あ、呂布にグランドリーム持たせたのは自分です。
>>428
大神はPS3のHDリマスターが、ファントムブレイブはPSP版がオススメ。
時間と財布に余裕があったら、是非プレイして頂きたい。
431
:
名無しロワイアル
:2013/03/31(日) 19:02:36
ラジオと俺の最終話と、どっちが先になるか・・・
432
:
428
:2013/04/03(水) 23:59:02
>>430
おお、なんと!
呂布をホンダ武装させたのが自分ですw
433
:
名無しロワイアル
:2013/04/04(木) 22:02:51
>>431
最終話が先にアサギの主人公の座を賭ける。
そういやラジオって何時頃だっけ? 現状未定だったかな。
434
:
FLASHの人
:2013/04/06(土) 10:07:21
未定だけど5月の連休に出来たらいいなと思っておりますでラジオ(語尾
435
:
名無しロワイアル
:2013/04/07(日) 23:57:35
>>434
それまでに頑張って完成させるでムシ(語尾
436
:
名無しロワイアル
:2013/04/08(月) 00:02:43
>>434
私にやる気が全くございません ぼく禿げてまう
437
:
◆YOtBuxuP4U
:2013/04/10(水) 22:42:08
>>417
さささ、サイトSUGEEEE!
個別でまとめサイトがつくられるとは思ってなかったので感謝感激です!
自分でもリスト化してない登場人物欄まで整備されてておどろく……
手間かけさせてしまいましてすいません
そして、2月中に投下できたら〜とか言ってたらもう4月ですが、
「第297話までは『なかったこと』になりました」の300話(最終回)を投下しますー。
せっかくだしエイプリルフール投下しようと思ってたけどそれすら間に合わなかった!
438
:
300:ウソツキハッピーエンド
◆YOtBuxuP4U
:2013/04/10(水) 22:45:36
かちり、と、時計塔の針が進んだ。
そして朝の8時を指した。
誰も受けやしないのに、教える教師も居ないのに、
空々しく、白々しく、むごたらしく始業チャイムが鳴らされる。
きーんこーんかーんこーん
きーんこーんかーんこーん。
そして。それが最後の役目だったと言わんばかりに、時計塔エリアは禁止エリアになった。
……少年少女たちの箱庭が怨匣(ロワイアルボックス)となってから38時間。
100人居たはずの参加者は、ずいぶん少なくなってしまった。
2人居たはずの主催者も、もうどこかへと消えてしまった。
空っぽに
限りなく
近い匣。
そこには物語すら2話程度しか残っていない。
他は全部『なかったこと』になってしまった。
主催者も、マーダーも、対主催も、
その他色々な登場人物が、すべて胸元に咲かせた花を散らして、
しかしどうやって散って逝ったのかはもう分からなくなっている。
未だ咲き続けているのは5輪だけ。
何も知らず、知らされず、突然この状況に直面させられた5人の少女たちだけ。
鰐塚処理。喜々津嬉々。与次郎次葉。希望が丘水晶。財部依真。
すべてが0になった箱庭で、たった5人の少女たちがたった今何をしているかというと……。
「し、新鮮さはさすがになくなってたけどっ」
「まだ、食べれるのが、あって、良かったぁ……!」
「疲れたであります……5人でなければ、無理でありました」
「&strike(){もう足が動かないんですけど}で、ノゾミちゃん? どこに運べばいい?」
「機械的な算出の結果、最後に禁止エリアに選ばれる確率が高いのはあそこです」
「あー」
「確かに」
「それはそうでありますね」
「&strike(){遠いしだる……いや、}じゃあせっかくだし。あそこで、やろっか」
「ウィ。では始めましょう。箱庭学園、生徒会室で――」
ぜーはーと息を切らして。腕一杯にたくさんの食べ物を抱えて。
「「「「「鍋パーティーを!」」」」」
仲良く鍋を囲もうとしていた。
◆◇◆◇
第300話「ウソツキハッピーエンド」
◆◇◆◇
439
:
300:ウソツキハッピーエンド
◆YOtBuxuP4U
:2013/04/10(水) 22:46:46
ぐつぐつと煮える土鍋が四角形の机の中央に置かれている。
そして、一体どこから調達してきたのか四つの座布団が机を囲むように置かれ、
ロボ娘・水晶を除く四人の少女たちがそれらに座り、箸を持って鍋を覗き込んでいる。
「……」「……」「……」「……」 「……」
少し離れて希望が丘水晶が同じ色の座布団に正座して、
空の湯飲みを膝の上に置いて和み、食事の雰囲気を共有している。
土鍋の中は鰹節とか昆布とかで出汁をとったアッサリめで何にでも合うスープに、
中学生の好奇心と悪ノリで様々なものを放り込んだ――所謂「闇鍋」だ。
箱庭学園の最大の要、本校舎の一室。
黒神めだかが、そしてこうならなかった未来では人吉善吉が、
生徒会長として日々活動を行っていた場所……生徒会室にて。
36時間もの間何も口にしていなかった少女たちは、まず腹ごしらえをすることにした。
時計塔の一室にある食育委員の調理室。
その部屋には沢山の食材が常に保存されているのを、彼女たちはオリエンテーションで知っていた。
時計塔の屋上から下に降りるついでにそこへ行き、
痛んでいない食材を出来る限り抱えて駆け下りるのに一時間を要したのは少し計算外だったが。
「機械的にお知らせします。あと5秒で煮込みが完了します。『5』」
「ふふ……中央のリンゴは渡さないぜワニちゃん。意外と美味いかもしれないし!『4』」
「ほう、この鰐塚処理の暗器(お箸)のスピードを甘く見ておりますなツッキー?『3』」
「むむむ、二人はリンゴ狙いかぁ……じゃああたしはやや左のロシアンから揚げを。『2』」
「&strike(){おまえら最初から攻めすぎだろ!?}あたしは……ちくわで……。『1』」
少女たちは楽しく料理して。
まず手を合わせて、大きな声で感謝のひとことを叫んで。
「「「「「いただきます!『0』」」」」」
カウントが0になると同時に、鍋上の殺し合いを始めるのだった。
「いくでありますよー! 必殺鰐塚式、《口止め料理(ブロッククック)》!!」
まずは見敵必殺!
勢いよく飛び出した鰐塚の箸が暴力的に閃いてこんにゃくを跳ね上げる。
そして中央のリンゴを無事に掴み口に運ぼうとしていた喜々津の、
無防備に空いたその口めがけてこんにゃくをシュート!
こんにゃくがゴールイン! 「もがッ!?」 これではリンゴを口に運ぶことができない!
しかもこのこんにゃくはカミカミメニューだ!
「にゃんほいうほとふぁ(何ということだ)……! 噛み切るのに時間がかかって」
「リンゴは食べられないでありますねぇ! さあツッキー、リンゴを渡すであります!」
「ちょっと待ったぁー! まだわたしの「銃」があるよん!」
「なにっ!?」
それは一瞬の油断であった!
突如として横からかけられた声に気を削がれついそちらを見た処理が見たのは、
すでにロシアンから揚げを一つ無事に食べ終えたらしく、
しかしさらにもう一つ、箸にロシアンから揚げを「装填」した与次郎次葉の姿!
「――Bang!」
「もがっ……。……。〜〜〜〜!!!!」
440
:
300:ウソツキハッピーエンド
◆YOtBuxuP4U
:2013/04/10(水) 22:47:58
「てこ」の要領で跳ね上げられたから揚げは処理の口へと着弾! 思わず噛む!
広がる味は――これは――ハバネロ団子から揚げだ!
辛い!
激辛い!
処理は乙女にあるまじき顔になる! 目がぐるぐるになって、顔が赤くなる!
少し経って今度は青くなる! ちょっとして口から火を噴いて叫ぶ。
「けほっ、む、むりぃっ! キャラを保つのが無理なくらい辛いよぉっ! あ、阿久根どの〜〜!」
「……機械的に言わせていただくと、
ワニちゃんの感じる辛さは阿久根氏でもどうにもできないと思われます」
「そこ突っ込むんだノゾミちゃん!? って驚いてる場合じゃない!
いざっ! 魔法少女ワンダーツギハ、神聖なる煮込みリンゴを食して天星の――」
からん。
ワンダーツギハの箸は空を切った。
「ってあれ? 無い?」
「&strike(){お前ら正直コントしすぎなんだよなぁ}えへ、ごちそうさまでした」
「「「タカちゃん!!??」」」
「&strike(){ざまぁwwwww}ふふふ、食べたのは私でしたー。でも、そこまで美味しくはなかったかな」
いつの間にやら、あざとい笑顔でぺろりと口の端を舐めたのは財部依真であった。
静かにかつ狡猾に、気取られないように箸を伸ばした綺麗な漁夫の利。
財部依真はステルス・箸使いだったのだ。
リンゴをめぐる鍋上の殺し合いはこうして決着を迎えた。
ぱちくり、他三人は顔を見合わせて……そして大笑いを始める。
してやられたー。おいしいとこ取ってくなータカちゃんは。ちょっとくらい分けてよもー。
四人が笑いあう光景を、水晶は遠巻きに慈しむように眺めている。
その次は謎の桃色こんにゃくを巡って4人は殺しあった。
その次は最後の一個のロシアンから揚げを巡って4人は殺し合った。
その次は見ていた水晶も妨害役に加わって、5人で白玉団子フルーツを巡って殺し合った。
大きな鍋に闇鍋した、たくさんのおかずを巡って。
数えきれないほど少女たちは殺し合って。
胃袋の空白を埋めるように殺し合って。殺し合って、殺し合って、鍋が空になるまで戦い続けて。
お腹がいっぱいになったら、苦しくなったし他に見てる人もいないので、
女子らしさなんてかなぐりすてて、その場にぐでんと寝転んでやった。
「あはは。もう無理、入らないや。体力ゲージ全回復ってかんじ」
大きくなったお腹をさすりながら喜々津嬉々が言った。
「こんなに食べたのはいつ以来でありましょう……昔は兄と大食い競争をしたりもしましたが」
今は亡き兄のことを少し思い出しながら鰐塚処理がぽつり口ずさんだ。
「こういう形で食事に参加したのは初めてでしたが、楽しいですね、食べるのは」
「でしょ?ノゾミちゃん」
「ええツギハ。私も最後に……お腹がいっぱいになった気分が、します」
希望が丘水晶と与次郎次葉は近くに寄り添いあって、ふふ、と笑いあった。
「……それで。これから、どうしよっか?
ルール通り最後の一人を決める? ――ホントに殺し合っちゃう?」
「ははッ、まさか」「ありえないであります」
「それはないよ、タカちゃん」「ええ。その提案には賛成しかねます」
「&strike(){だよなあ}……あたしも、そう思ってた」
441
:
300:ウソツキハッピーエンド
◆YOtBuxuP4U
:2013/04/10(水) 22:49:19
そして財部依真が軽いノリで提案し、当たり前という風に四人が否定する。
本当に当たり前みたいだった。
というか。実際に、当たり前の話なのだ。
だって。
「「「「「私たちは。大切な友達を殺してまで生きようとは、思わない」」」」」
少女たち五人は、とってもとっても仲がいいのだから。
彼女たちだけが残ってしまった時点で、彼女たちの中ではもう、
バトルロワイアルなんて設定は。――『なかったこと』になっているのだ。
殺し合って終わるような結末は無い。絶対に、ない。
だから残り58時間、
少女たちはこの箱庭で最後の時を共に過ごし、
そして……仲良く皆で首輪の爆発を待って……この箱庭と共に心中することを決めた。
誰もが誰も殺そうとしなければ、殺し合いなど、成立しない。
◇◆◇◆
食事のあとはただ、分かりきった作業を進めた。
脱出の可能性の模索。担当は主に、オーパーツじみたアンドロイドである水晶だ。
まずどうにかして外に出られないかやってみる。
外へ続く柵を人力で、あるいは飛行能力で、または爆薬などで乗り越えようと壊そうとする。
しかし、謎バリアにより失敗。まあ当たり前の話だ。
この囲いのスキルを定義したのはあの安心院なじみなのだ、
安心院なじみの端末にすぎない5人がどうにかできるわけがない(というか、誰だって無理だ)。
次に298話にて死体を巡礼したときに目についた、
獅子目言彦の首からなぜか外れていた首輪――これを回収して分析をした。
言彦の首を跳ねて首輪を外した後、球磨川禊が首の切断を『なかったこと』にしたのだろうか?
今となっては真相は闇の中だが、
ともかくこれによって、少女たちが誰の首も切断することなく首輪を回収できたことは僥倖だったのだろう。
なぜなら、首輪を外すことが出来るなんて展開はすぐ否定されることになるからだ。
「やはり、不可能ですね……強力なスキルとマイナスによる呪い。
私たち普通(ノーマル)の力ではどうにもなりません。もしかしたら、安心院さんでさえどうにもできないのでは」
「うん、やっぱり無理かぁ。ノゾミちゃんで無理なら、どうしようもないね」
「ねぇねぇ! じゃあワニちゃんの隠された右目に首輪を解除できるスーパー能力が備わってたりしないかな?」
「いやジロちゃんそれは無茶振りであります……この右目はもう何のスキルも宿してません」
「&strike(){ま、だよなあ}そして、外への連絡手段も全滅、っと」
試行錯誤の果てに。
生徒会室へと引き返してきた少女たちは、一縷の望みを外部からの救援に託した。
電話、メール、あるいは無線など。
全体から見ればとても今さらながら、本人たちも無駄だとは思っていたが、
ひととおり外部への連絡手段を試してみたのだ。……そしてやはり無駄だった。
「こっちからの連絡が無理ってことは……外に居る誰かが気づいてくれるのを待つしかない、のかぁ」
「でもそれは――万が一、億が一にも満たない――ほとんど0の可能性であります」
「&strike(){というか、ありえねーだろ}あの安心院さんがそんなご都合主義を起こせるような余地を残すとは思えないよね」
「100人が閉じ込められて1日半以上経って、外部から何のアクションもない(なかったっぽい)時点でねー……」
「……C-7が禁止エリアになりました。あと。54時間」
つまり彼女たちの寿命は、九割九分九厘、あと54時間しかないということなのだった。
いや、ことここに至ってしまえばむしろ――54時間は、多くすら感じられる。
442
:
300:ウソツキハッピーエンド
◆YOtBuxuP4U
:2013/04/10(水) 22:51:00
「54時間かあ。二日と四半日」
「&strike(){案外長いなおい}やることはやったし、なにしよっか?」
「ゲームならいっぱいあるよー。前来た時あそこの棚に隠しといたからね私」
「さすがツッキー。でも、スマブラやマリオパーティで最期のひとときというのはどうなんでありましょう……」
それもそれでいいけどね、と付け加えたあと、五人は机を囲んでうんうん唸る。
ひとしきり粗潰し、しらみ潰しを終えたら。
普通(ノーマル)の少女である五人にはもう何も出来ることがない。
それでも、たとえば残り3時間しかないなら悩むことはない、仲良く駄弁って終わればいい。
ただ54時間もあるとさすがにずっと喋っていてもネタが尽きるし、
――多分、なんだか時間を無駄にした気になる。
何が出来る? 何をすればいい?
後悔せずにみんなで終わるために――あとなにか足りないピースはあるだろうか。
「足りない……足りない、か。
足りないって言えばさ、もしかしてここなら、あれがあるんじゃないかな」
「?」
「ちょっと待ってて。えっと……こっちかな……?」
何かを思いついたらしい喜々津嬉々が、生徒会室の試料棚を漁り始める。
がさごそ、がさごそ。ぼうっとそれを見つめながら、次葉が不意に呟いた。
「なんか、実感わかないなあ。これから私たち、死ぬんだ。
死ぬ。死ぬ……死んだら、どうなるんだろうなあ。
なんにもなくなって、私なんてなかったことになるのかなあ」
「そうではないでありましょう。ジロちゃんが生きていた証は、きっとどこかに残るでありますよ」
「あたしはそうとは思えねーかな。&strike(){うん、きっとそうだよ}」
「タカちゃん、本音と建前が逆になってるけど…?」
「&strike(){今さら本音も建前もねーだろ}……よいしょっと。えい」
(ぽい。っとセリフに手を突っ込んで打ち消し線を取り除く)
「よし。あーあー。……今さら本音も建前もねーだろ?」
「物理的に全部本音にしたー!?」
「今日は珍しくツッコミ冴えわたってんなジロちゃん。
でだ、話の続き。あたしたちが生きてた証が残るかどうかだけど……残るかなあ。ホントに」
「……?」
「黒神めだかとか、安心院さんとか。それこそ球磨川先輩とか。
ああいう、歴史に名を刻んじゃうタイプの特別な人間は、きっといつまでも証を残せるだろうけど。
あたし達って言ってみれば、安心院さんの駒1号〜5号とか、
そういうくくりでまとめられちゃう存在だろ? そんなあたし達の生きた証が、いつまでも残るか?
戦国時代に死んだ雑兵の名前が一人一人明確に残ってるわけじゃないのと同じ。
少しはどうにか残っても。いつかは、忘れられるだろ」
メガネと帽子を外して、胸に手を当てながら財部依真は淡々と言葉を連ねた。
死んだ人間は、周りの人の心の中で生き続ける。
なんて詭弁を人は言う。
本当にそうだとして、ではどうだろう、死んだそのAさんを覚えている人が全員死んだら、
Aさんは今度こそ本当に死んでしまうことになるじゃないか。――こう財部依真は言いたいのだ。
「そ、それはそうかもしれないでありますが。
少しでも残るのであれば、それで十分ではないでしょうか? 少なくとも私は……」
「そこで満足するって手もあるよ、確かに。現にあたしは、
死ぬ間際までワニちゃんやツッキー、ノゾミちゃんにジロちゃんと一緒にいられるってだけで、
けっこう満たされてるなーなんて思ってる側面もあるんだ。でもさ」
443
:
300:ウソツキハッピーエンド
◆YOtBuxuP4U
:2013/04/10(水) 22:52:33
立ち上がり、窓の近くまで行って少女は外を見る。
広がる箱庭学園の風景――彼女たちが生きてきた場所を見て、思う。
「贅沢な考えだとは思うけど。どうせ死ぬならこう、あたしはここにいたぞ! って気持ちを、
どこかに、ずっとずっと、少しでも長く残しておきたいって思うのは、間違いじゃないと思うんだ。
特にあたし達は、この学園で――安心院さんの気まぐれ次第じゃ、
自分自身の気持ちなんて持てずに、駒みたいな生き方しかできなかったかもしれなかった。
でも今は、ルールなんてぶっちぎって、安心院さんに抗えてる。
そういうことが出来るようになった。せっかく出来るくらい、自分が出来て、育ったのにさ。
あたし達を誰にも伝えられずに死ぬなんて――嫌なんだよ。やなんだ。みんなだって、そうでしょ?」
最期のほうは少し熱っぽくなりながら。依真は他のメンバーに問いかけた。
打ち消し線を外して、メガネも帽子も外して、もはや彼女を彼女と定義づける記号は一つもない。
だけど瞳に遺志を帯びた顔をしている彼女は、誰がどう見ても財部依真以外のなにものでもなかった。
安心院なじみ。
自分以外を悪平等に大したことはない存在だと定義する全能少女。
フラスコ計画を潰した黒神めだかから主人公をはく奪するために、彼女が送り込んだ5人の「普通」。
「普通」であるがゆえに警戒されず、
「普通」であるがゆえに作戦の要を担った5人の候補生たちは、最初はただの記号の集まりでしかなかった。
でもいつのまにか、記号なんて無くても個人を個人だと判別できるくらいに、育った。
ただの記号に人間としての色がついて、自分として独立することができた。
それなのに。誰にもそれを伝えられないまま、彼女たちはもう死を選ぶしかない。
彼女たちが成長したことを知っている人々もみんな死んでしまっているから、
この状況でみんなで死ぬことを選んだという彼女たちの想いすら、このままだと知る人はいないまま。
「……機械的に言わせていただくと」
依真の言葉に最初に返したのは、希望が丘水晶だった。
「私はアンドロイドですから、死んでもこの体の中にメモリーは残ります。
ですから、もし後日に私の死体からこのメモリが解析されれば、
この場で私たちが選んだ決断、それ自体は知られることになるでしょう。ですが」
反語を呟くと、水晶は関節部を動かして自らの背中に手を回す。
そしてカチリと脊髄のあたりにあるバックカバーを開けて、中から小さなメモリを取り出す。
四角いチップ型のそれは希望が丘水晶の誕生からこれまでの記録を収めているメモリだ。
無表情のまま――希望が丘水晶は、それを自らの手で、
折った。
「え?」
「ノゾミちゃん!?」
「な……」
ぽきり。
とメモリが折られたことで、希望が丘水晶の外部保存領域は消滅した。
残る記憶領域は、せいぜい人間と同じ程度の重要事項しか残さず、
電源が落ちれば0になるローカル領域だけ……つまり、他の4人と同じくらいの記憶だけ。
「メモリはあくまで記録であって、その場での感情を記した思い出ではありません。
だからタカちゃんの想いを受け取るならば。思い出を残すためならば。
この記録はむしろ、ノイズであると判断しました。――間違いだったでしょうか?」
自らアンドロイドとしての利点を捨て、希望が丘水晶はそれでも笑顔を作った。
もうこれでいよいよ本当に、5人が死んでも何も残せなくなったのに。
36時間眠っていて話に関われなかったことさえ残せなく――――残「ら」なく、なったのに。
444
:
300:ウソツキハッピーエンド
◆YOtBuxuP4U
:2013/04/10(水) 22:54:53
そう、これで。
彼女たちのこれまでの動きを証言する記録(メモリー)は消えたので。
「いや間違いもなにも、それじゃ、
ほかにどんな記録を残してもその正しさが証明できなくなるじゃねー……か?」
「あれ、ってことはそれって――」
水晶の行動に対して、財部依真と与次郎次葉が驚きながらも、何かを察し。
「あはは!
なるほどね。間違ってないよ、ノゾミちゃん。っていうか……同じこと考えてた?」
「おわ! ツッキー? な、何を持ってるでありますか!?」
話がひと段落したところを狙ったかのように、喜々津嬉々が戻ってきた。
手にはタウンページ大はありそうな大きく分厚い冊子を持っている。
彼女は軽快な言葉と共に、その冊子をうんしょと持ち上げて。
ばばん!
と大きな音を立ててその冊子を机の上に置いた。
「ツッキー。探し物は見つかりましたか?」
「ん。見つけたよ。――足りない穴を埋めるパズルのピース」
「ウィ。さすがです。やはり、ここにありましたね……」
その冊子とは、
箱庭学園全生徒および関係人物、および、黒神めだかが知り合った人物……。
有体に言えばこのバトルロワイアルの参加者全員を含む様々な人間のプロフィールをまとめた、
いかにも黒神めだかが持ってそうな「全生徒手帳」である。
試しに水晶が数枚、ぱらぱらとめくれば。
載っている、載っている。
阿蘇短冊から贄波錯誤まで。
きっとこれさえあれば全く知らない人物だってそれなりに語れてしまうだろうほどの情報が。
そう、どんな登場人物であろうと、それっぽく「書けて」しまうほどの資料が――!
「さーみんな。ここに。残り時間が『54時間』ある」
喜々津嬉々は時計を指差して。
「そしてここに、足りない情報を埋める、『把握のための資料』がある」
次に冊子を指差して。
「さらに球磨川先輩のおかげで、
『どんな展開になってもラスト3話でなかったことになる』のなら。」
悪戯っぽい笑みをうかべて、紙とペンを取り出しながら。
「……『そこまでの297話で、どんな嘘をついてもいい』ってことでしょ?」
白紙のそれを、真っ白なキャンバスを見せつけるようにして、
喜々津嬉々は4人にひとつの提案をする。
「ねぇ。遺書を書こうよ。未来にいつまでも残るような、
馬鹿らしくて阿呆らしい、何でもありのとびっきりフリーダムなやつをさ。
みんなでリレーのバトンを渡すようにして、一から十まで嘘で固めて、
でも誰もそれが嘘なんだって証明できないような、カンペキな悪ふざけ――」
445
:
300:ウソツキハッピーエンド
◆YOtBuxuP4U
:2013/04/10(水) 22:56:21
それは、0になった物語に存在しないはずの虚数を加える行為。
ウソツキハッピーエンドへ向かうリレー遺書。
死んでも何も残らないと思うなら、自分から何かを残してしまえばいい。
しかもただ遺すだけじゃない。全力で自分たちをアピールできるものを遺せるのならそれをやるべきだ。
そう考えた喜々津嬉々の提案は――この箱庭でつづられた物語の、そのシナリオを。
「わたしたちで。このバトルロワイアルを、捏造しちゃおうぜ?」
二次創作、してしまうこと。
ぞわりと空気が震えて、得体の知れない雰囲気が部屋を満たした。
本気だった――喜々津嬉々のゴーグルの下の目が、本気だった。
まったくネタでなく、本当に彼女は世界に嘘をつくつもりなのだ。
もう誰も知らない36時間の空白を、言ったもん勝ちのシナリオで埋めるつもりなのだ。
異常でも過負荷でもない「普通」の少女たちである自分たちが、主役になり。
誰をも倒し、誰をも説き伏せ、誰もを思い通りにする――カミサマにでもなったみたいな。
そんなシナリオ。
ありえないことだ。
ありえないことすぎて可笑しくなる。
でも、54時間で出来ること。たった5人で出来ること。
そしてなにより、空っぽになってしまった箱庭で、少女たちが抱えていた。
提案された他の4人は――ごくりと唾を呑みこんで。
「ひ」
硬直した顔で、一文字喉から絞り出せば……あとは雪崩のようだった。
「――ひとつだけ、ルールを。――(中略)――でいいでありますね?」
「確認するまでもないよ、ワニちゃん。それは前提でやらなきゃ意味ないじゃん。
だって、これってわたしたちのエゴでもあるし……『それだけじゃない』んだからさ」
「ウィ。では私は、細かい矛盾点が発生しないよう各所の管理と、繋ぎを。
ワニちゃんはバトル、ジロちゃんは中二、タカちゃんは心理戦、ツッキーは頭脳戦でしょうか」
「おおさすがノゾミちゃん、いい役割分担。
でも最後の方とかは合作するのもいいかもな。闇鍋みたいに取り合いじゃなくてみんなで」
「いいね! なんたってこれは――みんなで背負う、罪だからね」
ある者は楽しそうに笑みを浮かべ、ある者は真剣に流れを考え始め。
全員が喜々津嬉々の発案に、いたずらにしては大きすぎる罪に、ノータイムで同意した。
そしてすぐ。
闇鍋にどんな具を入れるか話し合ったときのように、思い思いにリレー遺書の案を出し。
2時間かからずおおまかなあらすじを確定し。
2時間ちょっとかけて参加者のデータを把握して。
50時間を残したところで、少女たちは執筆の用意を完了させる。
それぞれ目の前に白紙を用意、おのおのが書きやすいペンを手にし、
中央には希望が丘水晶が管理する、
現在位置表や参加者の各種データを集めたPC画面を表示。
途中で休憩を挟むときのお供にどこからかスナックやジュースも持ってきた。
添い遂げる準備は――万全だ。
「じゃあ……オープニングを、始めるよ」
言い出しっぺの法則。喜々津嬉々がまず書き初めに着手した。
続いて平行作業で他4人がそれぞれの登場話に移る。
細かく分けられたプロットは合計にしておよそ300話。
一話が短い手記形式とはいえ、創作に携わることなどなかった少女たちには難しい量だ。
446
:
300:ウソツキハッピーエンド
◆YOtBuxuP4U
:2013/04/10(水) 22:58:17
それでも、やり遂げると決めた。
自分たちの想いを遺すため――いいや、それだけじゃ、ない。
297話近く積み上げられた物語が、全て台無しにされたそのあと。
少し優しい顔で眠りにつかされた死体からは、なにもかもが奪われてしまっていた。
ある少年は良かれと思ってそうしたという。
人の死には付属する物語なんて、悲劇なんて喜劇なんて、英雄譚すら、邪魔なだけだと思ったという。
確かにそうなのかもしれない。
死はけして美談ではないのだから。
けれど――そうしてしまったら。物語を消してしまったら。
そこにあるのはただの「死」だ。
誰が死んでいても一様に同じ、代替の利く現象でしかない。
そんな死に、個性はない。
「だからあたしたちは、この物語を書く。死んだのが誰なのかを分からせるために」
「かけがえのない、たった一人の、わたしが、みんなが、一人一人が! 死んだんだって知らしめるために!」
「そのための、本当の物語が失われてしまったのなら――たとえ嘘であっても構いません」
「伝えたいのです。残したいのです」
「ただひたすらに――『みんなはちゃんとここにいた』って、伝えたいだけなんだ!」
もちろん少女たちは分かっている。それはそうあってほしいと言う願いでしかないということを。
嘘で作られた100人の登場人物の生き様は本当のものではけしてなく、
他人では100パーセント本人を再現することなんて、不可能だということを知っている。
だけれどそれがなんだというのだ?
不可能だからと言って筆を置くのか?
違う。
違うのだ。
例え願いでしかなくても――そう願おうとする気持ちは。
本物であってほしいと言う気持ちは、嘘をもうひとつの本物に、変えるのだ。
少女たちは書いて。
書いて。
書いて。
くだらない嘘を紡ぎ続けた。
20話が描かれて。
40話が描かれて。
第一放送が描かれて。
80話が描かれて、
100話が、200話が、
第三放送が、第五放送が……。
そして――50時間が経過して。
最後の禁止エリアが、指定される。
「「「「「……はは」」」」」
ぴぴぴぴと鳴り始めた首輪の警告音は、少しうるさいファンファーレだ。
「「「「「みんな、お疲れ様、そして・……」」」」」」
財部依真は。与次郎次葉は。鰐塚処理は。喜々津嬉々は。希望が丘水晶は。
クマだらけの目で力なく、それでもやりきったような笑みを浮かべ。
腱鞘炎になりかけの手でグーを作って、乾杯をするようにそれをぶつけ合って。
人生最後のガッツポーズを、した。
447
:
300:ウソツキハッピーエンド
◆YOtBuxuP4U
:2013/04/10(水) 22:59:40
「「「「「――完結、おめでとう。」」」」」
少し離れて机の上。
たくさんあった白紙の紙が0枚になっていて。
急いで書かれた走り書きの手記が、散らばる紙にはびっしりと書かれていて。
空想は描かれた。0は虚数で埋め尽くされた。そこには確かに物語があった。
彼女たちの首が、跳んだ。
【財部依真 死亡】
【与次郎次葉 死亡】
【鰐塚処理 死亡】
【喜々津嬉々 死亡】
【希望が丘水晶 死亡】
【ロワイアルボックス――停止。生存者:なし】
◆◇◆◇
――後日談。
◇◆◇◆
201X年△月○日。
文化祭の日程と祝日の関係で、
この日までその学園は4連休となっていた。
その4連休が明けたばかりのこの日、久しぶりに学園に足を踏み入れたのは、
陸上部の朝練にいち早く来ようとしていた当学園の一年生の少女(仮名:A子)だった。
不可解なのは、連休前の夕方に用務員が学園を出てから4日半後のその瞬間まで、
学園には誰も出入りしなかった……定期掃除の業者さえ入ることを忘れていたことだが、
とにかく広い校門をくぐったその瞬間に、A子は糸が切れたような音を聞いた。
「? ――――!?」
その次の瞬間、A子の目の前に広がっていたのは――惨劇の、跡だった。
「箱庭学園集団拉致監禁殺人事件」という名が付けられたこの大事件は、
発覚するや否や様々なニュース、TV、新聞などに取り上げられて世界をにぎわせた。
確認できるだけで死者99名。そして行方不明者3名。
その人数規模だけでも腰を抜かすしかないのに、
死者の中にはかの黒神財閥の関係者など、日本の中枢に関わる人物の名前もあった。
「どうして4日も行方が分からなくなっていたことを放置していたのか?」と非難の声が出るほどだ。
448
:
300:ウソツキハッピーエンド
◆YOtBuxuP4U
:2013/04/10(水) 23:01:24
さらに世間をにぎわせたのは、その事件の異常(アブノーマル)な中身だった。
100名に届くかという数の死者たちはその全員が、
なんらかの爆薬を仕込んだ首輪によって首を爆破された死体となっていた。
凄惨な首なし死体。
この、映画バトル・ロワイアルを彷彿とさせる殺害方法――これも異常なのだが、
それ以上に、
不可解かつ異常な点が一つ。
死者たちは全員、首輪の爆発による外傷以外には『傷ひとつない』という点が、おかしかった。
つまり――急性心停止とかでない限り。
「首輪の爆発以外に、彼らを殺す手立てがない、ということだったんだよね」
201X年◇月◎日。東京都庁資料室。
別件で招かれたとある青年探偵が、暇潰しに一年前の大事件の資料を覗いていた。
背丈普通、印象普通、されど頭と性格は少し普通ではない。
かといってそう大それたことができるわけでもない――彼は普通の探偵だった。
隣には女子高生じみた助手がいて、こちらは少し間の抜けたことを言う。
「じゃあ首輪の爆発で死んだんじゃないの?」
「普通に考えればそうなる。
でも、映画バトル・ロワイアルをリスペクトして人質に首輪をつけた犯人が、
映画のように殺し合いを開催しなかったわけがない。だからおかしいんだ。
まるで、殺し合いを始めますと言った瞬間に、全員の首輪が誤作動で爆発してしまったようなものだ」
「ほへぇ。それはひどくこめでぃだ」
「そうコメディだ。現実的に考えてありえない。
なにか整合性のとれる仮説が存在しうるはずだ――たとえば、
世の中には、異常(アブノーマル)な事象を起こせるスキルを持つ人間もいる。
さらに箱庭学園は、その手のスキルにずいぶんと研究熱心だという情報があった。
常識にとらわれずに色々な可能性を検討すれば、情報次第では真実に迫れるかもしれない。
……事件の最初の一報を聞いたぼくたち探偵はそう思って、思索に耽ろうとした。
その暇さえ与えられないとは思わなかったけどね。この事件が異常なのはさらにこの後。手記が見つかったことさ」
「手記?」
「そう、手記。それも同じ場所から、五編の手記が見つかった。
執筆者は中学生の“参加者”五名。その内容は、ぼくたちにはクリティカルなものだった」
探偵はぱらぱらと事件の資料をめくり、手記が発見された当時の新聞記事のページを開く。
少し目の悪い助手はそれに近寄って目を凝らし、大きな字で書いてある見出しを読む。
「へぇ、中学生が……って、
見出し……《大事件の死者が描いた不可解な手記》……どゆこと?」
「きみの目には細かい内容までは見えないだろうから、
ぼくから説明しよう。端的に言うとこの五編の手記には、こう書かれていたんだ。
“全知全能の神のような主催、安心院なじみは、
殺し合いを確かに開催した。しかし――殺し合いは『行われなかった』”」
「行われ……なかった?」
「そうなんだ。開始からたった4日で全員が死ぬシステムだったにも関わらず。
最期の一人にさえなれば生き残れるシステムだったにも関わらず。誰一人として、人を殺さなかった」
手記には5人の少女たち、それぞれの視点からゲームの様子が描かれていた。
バラバラの場所からスタートした5人は、
違うルートを通って箱庭学園内を巡回して、物語を紡いだ。
ある時は恐怖に怯えていた少女を助け。
ある時は殺し合いに乗りそうになっていた少年と戦い、説得し。
ある時は賭けを行い、交渉して。
個性的な箱庭学園の面々と、彼女たちなりに――語り合った。
そして、最終的に。
見せしめとして殺された理事長を除いた全員を、校庭に集めることに成功したのだという。
449
:
300:ウソツキハッピーエンド
◆YOtBuxuP4U
:2013/04/10(水) 23:03:27
「ここで登場するのが、球磨川禊と赤青黄という登場人物だ。
球磨川禊はどんな事象でも『なかったこと』にする、マイナスのスキルを。
赤青黄はどんな病気でも治せるスキルを持っていた、と記録されている」
この二人が協力して――協力(二人の因縁を知る人からすればありえないことだが!)して。
それまでの手記で意思のぶつかり合いや事故、
あるいはetc.によって創られた参加者の傷を、『なかったこと』にしたと手記には書かれていた。
「『なかったこと』にするとか、便利だねぇ。
そんなスキルあったらさいっきょーじゃん。その中学生のでまかせじゃないの?」
「のちの調べで、球磨川禊がこの能力を持っていたことについてはウラが取れてるよ。
彼は箱庭に来る前、いくつもの学校でそのスキルで猛威を振るっていたし……。
まあ、とにかくだ。かくして全員が無傷の状態で校庭に集められた、最初の状態に戻ったわけだ」
「ふりだしに」
「そう振り出し。そこからは凡そ予定調和さ。
殺し合いする気が無くなった参加者、全員、バーサス主催者ふたり。どちらが勝つかは明白だよね。
ただ、安心院なじみはそれこそ本当に何でもできるほどに埒外の力を持っていたから、
参加者全員で、さらに球磨川禊が自分ごと『なかったこと』にすることでしか決着をつけられなかったらしい。
ともかく安心院なじみたち主催者側は敗北し、
消滅することとなった――ただし首輪と殺し合いのシステムだけ残して」
主催は消滅した……が。
「開始から4日経った時点で優勝者が決まっていない場合、全員の首輪が爆発する」というルールは。
すべて『なかったこと』になった殺し合いで、そのルールだけはどうしても無くならなかった。
まるで安心院なじみの呪いのようなそれを前に、参加者たちは頭を捻ったが……力及ばず。
「そして99人の首輪がいっせいに爆発し、全員が一気に死んじゃった、と……そいうわけ?」
「手記に従うならばそうなる。従うならばだけどね」
探偵は苦笑いをしながら頭を掻いた。
「でもね、魔法少女ワンダーツギハがどうとか、無駄にお涙ちょうだいだとか、
基本情報は押さえてるけど若干キャラが違う人がいるとか、色々都合がよすぎるとか、
手記に描かれたストーリー自体は正直言ってどの推測よりずっと荒唐無稽でありえない話なんだ。
なにより、100人も居て、
その中には好戦的な人物や死ねない信念を持った人物もいるのに、
誰一人として殺し合いを遂行することをしなかった(あるいはする前に止められた)なんてさ、
いくらなんでも信じれるはずがない。――嘘としか思えない異常なシナリオだ。きみなら、信じる?」
「うーん。……信じないねー。殺し合いが起きなかったってのは、いくらなんでもふしぜんじゃん。
でも手記ごとケーサツ側が捏造したにしちゃお粗末な筋書きだし、
手記自体、「本物」だって証明はできない代わりに、「嘘」だって証明もできないんでしょ〜……?」
「珍しく鋭いね。そう。
この手記はどうみても嘘としか思えないことが書かれているけれど、矛盾点はないんだ。
5つの手記の内容を比べても矛盾する描写はひとつもないし……。
見つかった死体の状態と、ウラが取れている参加者のスキルを照らし合わせれば、
そういうことがあったとしてもおかしくはないという結論になってしまう。
手記さえ見つからなければ、いろいろな可能性を想像(創造)することができたのに。
実際に参加していたキャラクター側からの『公式見解』がある以上、論より証拠になってしまう」
シニカルに呟く探偵の頭の中には、彼なりに考えた事件の真相が存在する。
殺し合いをなかったことにしようとした球磨川禊が、
手記の筆者を除くすべての参加者から傷を消した後、主催と相討ちになり消滅、
残された5名が4日ルール(あるいはこんなルールはなかったかもしれないが、
とにかく4日で全員死ぬようなルールだ)で死ぬまでの間に、でたらめな手記を捏造したというものだ。
「誰も誰を殺さないような話」という、彼女たちの間で決めたひとつのルールにのっとって。
450
:
300:ウソツキハッピーエンド
◆YOtBuxuP4U
:2013/04/10(水) 23:06:10
だが探偵が考えたそのシナリオも一欠片の無茶がないシナリオとは言い難い。
候補生たちのスペックから考えれば、
5人の候補生と球磨川禊だけが都合よく生き残らなければならないし、
さらに球磨川が主催と相討ちになって消滅したあと、都合よく少女たちがメモを捏造しないといけない。
では他の探偵の考えた推測はどうかというとやはりどこかに綻びは存在し、他の推測も同様、その他も……。
――現実はえてして数奇なものであって、こんなことありえないということがやすやすと起こり得る。
結果として残っている「外傷がない99体の首なし爆殺死体」という無茶苦茶な謎を前に、
だから誰一人として完璧に無茶のない推測を立てることはできないし、
だから誰一人として、参加者が描いた手記という絶対的な証拠を超える信憑性を出せない。
「……結局きみも知ってのとおり、この事件は先日、大規模な捜査を打ち切られることになった。
他に証拠がない以上、この手記にのっとるしか、なかった。
そして手記通りに『バトルロワイアルなんてなかった』という『答え』が採用されて、
しかも主催が消滅した以上、死亡者の誰にも罪はなくなった。後は細かい事務処理だけさ」
「ああ、だから事件の名前もバトルロワイアルとかじゃなく、拉致監禁殺人になったわけですか?
確か最初のころは、現代に実際に開かれてしまった殺し合いゲームが〜とかニュースで言ってたけど、
最後のほうは死者の生前の功績とかしかぴっくあっぷされてなかったような」
「そういうこと。事実上は違うけど……真実に対しては、この事件は迷宮入りってわけさ」
結局は、そういうことだ。
沢山の好奇心によって0から作り出されるはずだった真実を探る手は、
大きな嘘で形作られた偽物の壁を突き破れない。
つまり皮肉なことに――いや、運命だったのか――結果的には、
とある少年がとある少女のために行おうとしたバトルロワイアルを『なかったことに』するという願いは、
ふたりが消えたあとに5人の少女たちによって、『完成』されたのだった。
「なんというか、アレですね。黒い真実を明かさせないための、学園規模の白い嘘、みたいな。
本人たちにそのつもりがあったのかは分かんないけど――きっとその子たち、優しかったんですねぇ」
「そうだね――うん、大分きみもいい意見を出せるようになったね。
普通の探偵たるぼくの助手にふさわしくなってきた。帰りにジュースをおごってあげよう」
「まじです? でも、褒めるくらいならいいかげん、
あなたの名字を教えてほしいんですが……あ。来ましたよ雪(そそぎ)さん。警部だ」
「おや、もうそんな時間かい。……珍しく感傷にひたりすぎてしまったかな?」
「悪いな雪! 遅れた! さて、では始めようか。で……今回の事件はなんだっけっか!?」
「わすれてるんかいー!?」
「おやおや、しっかりしてくださいよ警部。――ぼくはこの事件、『なかったこと』には、させませんよ……?」
資料室の扉が開いて、探偵に協力してくれる警部がいかめし面をして入ってきて。
探偵と助手の、無意味で無価値な雑談は終局を迎えた。
資料は棚へ戻される――。
しかし大事件の記憶は人々の記憶に長く長く残り続けるし、
その証人である少女たちの手記も、そこにつづられた箱庭学園への愛(i)も、
彼女たちの名前と共に末永く語り継がれて、向こう千年は消えることがないだろう。
だから彼らは、そこに居た。
例えすべてが『なかったこと』になっても――確かにそこに、在ったのだ。
第297話までは『なかったこと』になりました ‐完‐
451
:
300:ウソツキハッピーエンド
◆YOtBuxuP4U
:2013/04/10(水) 23:07:41
&strike(){第297話までは『なかったこと』になりました ‐完‐}
452
:
300:ウソツキハッピーエンド
◆YOtBuxuP4U
:2013/04/10(水) 23:08:28
このバトルロワイアルは『なかったこと』になりました ‐完‐
.
453
:
◆YOtBuxuP4U
:2013/04/10(水) 23:12:16
以上で投下終了です。
読んでくれた方いらっしゃいましたらありがとうございます!
最終的に当初の着地点を2回りほどぶっとばして亜空間に着地しましたが、
うまいことこの企画じゃないと出来ない話になったように思います。
企画を開いてくれた
>>1
さんにも改めて感謝を!
454
:
FLASHの人
:2013/04/10(水) 23:44:03
>>453
完結おめでとうございます!すばらしい&西尾らしいデビルかっこいい結末でした
非リレーだとしてもこのエンディングに到達するのは非常に困難だと思います。
ここで書いてくれて本当によかった……感謝ッ!!
ところでまとめサイトで登場人物まとめてて気づいたんですが、死体列記の中に
杠かけがえだけ「これ絶対わざとだろ」って数出てきてたんですが、何があったんで……
あ、いや、「なかったことになった」ことを聞くのは無粋ですね
そこを妄想で補ってこその三話ロワでした。やめておきましょう。
なにはともあれ、完結おめでとうございます。そしてお疲れ様でした!
455
:
名無しロワイアル
:2013/04/11(木) 18:38:10
おお、おお、おお、おおおおお!
投下お疲れ様でしたあああ!
なかったことになった。文字通り、なかったことになった。バトルロワイアルまでなかったことになった
いや、なったじゃない。彼女たちが、なかったことにしたんだ
この五人だからこその結末。ずっと残り続ける物語。彼女たちの二次創作でリレー創作
この話はまさにこの企画じゃないと無理だよなあ。非リレーでもダメだ
ちゃんと書かれちゃったらそれまでの297話が俺らの中には残っちゃうもの
でも、後3話ロワにはそれがない。或いは本当はあったのかもしれないけれど、なかったことに文字通りなった
だから、やっぱり、俺たちも。彼女らが完結させたパロロワですらない手記をそのままそうだったんだろうと覚えておこう
456
:
FLASHの人
:2013/04/14(日) 02:22:26
剣士ロワのまとめ、できました
ttp://akerowa.web.fc2.com/kenshi/kenshitop.html
とにかく渋く、シンプルにあの熱い文章を読んでもらいたく、
こんな感じになりました。
地味に面倒なことしました。
457
:
名無しロワイアル
:2013/04/14(日) 02:30:04
剣をバックに…渋いなぁ
wiki形式だとこういうデザイン中々できないからな
458
:
◆9DPBcJuJ5Q
:2013/04/14(日) 23:10:26
>>456
ありがとうございます! こうして拙作を纏めて頂けるとは、感無量です。
そして過去のページ、自分も提案しようか迷っていた「闇に呑まれて消えた」演出をやって頂けるとは!
貴重な時間を割いて手間暇かけて頂いて、本当にありがとうございます。
……『常闇の皇』に「とこやみのすめらぎ」と読み仮名を振ることを今の今までうっかり忘れていたことを、ここに懺悔します。
大神を知らない人へのフォローを怠ってしまいました、申し訳ございません。
459
:
FLASHの人
:2013/04/15(月) 07:51:15
>>458
あ、ああ、そうか未プレイの人は読めないのか……
(当たり前に世界中の人が読めると思ってたマン
460
:
◆9DPBcJuJ5Q
:2013/04/15(月) 19:03:57
>>459
多分「すめらぎ」を「おう」と読む人が大半ですわ……
皇の鍵然り、応龍皇しかり。
大神は素晴らしい楽曲も多いのでマジお勧め。
絵本の中を走り回るような独特な爽快感は、他では味わえない。
虎燐魄登場辺りは「勇者オキクルミ」を聞きながら読むのもいいと思うよ!
というか聞きながら書いてたよ!
461
:
FLASHの人
:2013/04/15(月) 19:39:32
>>460
(完全に同意なのでそっと広告を変更する、結婚式にケーキ入刀で「大神降ろし」を流した管理人)
462
:
◆9DPBcJuJ5Q
:2013/04/15(月) 20:00:52
>>461
あなたが――信仰伝道師、天道太子だったのですね。
463
:
FLASHの人
:2013/04/18(木) 00:59:11
拙作で恐縮ですが、第297話まではなかったことになりました
の支援絵らしきサムシングを置いておきます
できれば完結した作品にはサイト以外になにかしらこういうこともしたいです
まあ、多分全部は無理なんだけど
ttp://akerowa.web.fc2.com/rwbox/medakarowa.png
464
:
◆9DPBcJuJ5Q
:2013/04/18(木) 19:02:38
>>463
ナイスなイラストじゃないか! 消し線と命は投げ捨てる者by世紀末病人
原作でもありそうなワンシーンですね。
ところで、誤字の訂正とかはここで申請すればよいでしょうか?
まとめサイトになって漸く誤変換に気付きまして……。
465
:
FLASHの人
:2013/04/18(木) 22:29:35
うす、誤字修正やらスペース調整やらなんでも受け付けます。
とりあえずこちらに書いていただくのが一番早いです
466
:
◆rjzjCkbSOc
:2013/04/18(木) 23:49:21
謎ロワ・300話を投下します
467
:
◆rjzjCkbSOc
:2013/04/18(木) 23:49:43
――――11:37:27
――――――――鉄塔:最上層
「……はっ、私は……!」
「うわぁっ!」
突然目を覚まし、唐突に起き上がるKさん。
……暫し呆然としていたが、はっと我にかえって時計を見る。
「ど、どうしたモナ?」
「ああ、ごめんなさい。……私は、どれくらい眠っていましたか」
「大体、30分は寝てたモナ」
「そうですか……少しですが、疲れが取れましたよ」
十分とは言えないが、ある程度回復しただけでも儲け物だ。
……そんなKさんに、話しかけてくる人がいた。
それは、先程まで階下で戦っていたはずの"いい男"!
「――――よう、Kさん。目は覚めたかい?」
「あ、阿部さん! 良かった、合流できたんですね」
「まあな。ちょっと手間取ったが……タバコを一本くれないか? 確かあっただろう」
――――阿部高和であった!
しかし、明るそうな声とは裏腹に、表情からは疲労の色が見て取れる。
それもそうだ、先程まで階下で死闘を繰り広げていたのだから……。
その上、ここまで歩いてきたおかげで、その分余計に体力を消費しているのである。
その疲れに勝つことは、さしもの阿部さんでも難しかったようだ。
ドカッとその場に座り込み、一服。
……ゆらゆらとゆらめく紫煙と、煙草の香り。
468
:
◆rjzjCkbSOc
:2013/04/18(木) 23:50:15
「やっと一息つけるぜ……まだ、時間は残ってるか?」
「ええ、まだ大丈夫です」
「そうか……」
……もう少しすれば、"最終決戦"が始まる。
なるべく、疲労は解消しておきたいと思うのが筋である。
◆
――――--:--:--
――――――――不明
それから数十分後。
5人は、最終決戦の場に、赴いていた。
469
:
◆rjzjCkbSOc
:2013/04/18(木) 23:50:39
「……ここか……」
世界が揺らめく。
空間が揺らめく。
全てが、この場にある全てが、揺らめく。
「……やはり、私たちが一番最初にいた場所……」
刹那。
揺らぎは止まり、空間に均衡が戻った。
それと同時に、溢れるように"邪気"が辺りに満ちる。
……全員の顔が、一気に険しくなる。
『――――ここまで来るとはな』
「私たちを軽く見たのが悪いんですよ」
『ほう。わざわざ、我が領分に招き入れてやったと言うに……』
この状況でも、全く動揺せずにほくそ笑む伊右衛門。
それは、果たして虚勢なのか、それとも何らかの策があるのか。
それを、5人は知るよしもない。
「……お喋りをしにきた訳じゃあないからな。とっととお前をあの世に送ってやるぜ」
そう言い終わったと同時に、下までツナギのチャックを下ろす阿部さん。
するとどうだろうか。
股の間に、見る見る内に力が溜まっていくではないか!
それを合図に、Kさんがこめかみに手を当てる。
『ほう……その貧弱な力で、我を消そうと? ……やはり家兎は家兎。浅ましき考えよ』
「確かに、俺だけじゃあお前は消せない。隕石すら、砕けないだろうな……。
だが……今は違う。皆がいる。皆の力で、お前を斃す!」
『……やってみよ!! 身の程知らずの愚か物めがッ!!!』
「言われなくても、やってやるさッ!! Kさん、位置は!?」
「――――分かりました! あそこですッ!!」
Kさんが、伊右衛門の一部を指差す。
それと同時に、3人……ジョニー、スペランカー先生、そしてモナーが、伊右衛門に襲い掛かる。
まず、スペランカー先生が、ありったけの銃弾を、伊右衛門にぶち込む!
霊体である以上、大した打撃にはならない。だが、狙いはそこではなかった。
470
:
◆rjzjCkbSOc
:2013/04/18(木) 23:50:53
『このような攻撃、痛くも痒くも――――うぐッ!?』
真に狙った標的は……霊体内に潜む、即身仏と化した伊右衛門本体。
こちらは霊体ではなく実体。既に朽ちた肉体が、銃弾を躱せるはずも無い。
なす術もなく、銃弾の雨に晒され、ボロボロと崩壊して行く。
『ぬうっ……!?』
銃弾の雨を逃れ、首のみとなった伊右衛門の肉体。
――――現世に残してはならぬ、禍々しき存在。
この場所、いやこの世界と共に、葬らねばならぬ。
「「イヤーッ!」」
落ちて来た首を、ジョニーとモナーの持つ剣がバラバラに引き裂く!
切り刻まれた首は、ぶしゅうと小さく音を立てて、塵と化した。
『ほう……わざわざ肉体を先に滅するとは……』
「将を射んとすればまず……ですよ。邪気の発生源である即身仏を先に滅するのは当然です。
……邪気が強く、場所を特定するのは至難の技でしたがね。もう少し遅れていれば失敗してましたよ」
『だが、まだワシは残っておるぞ? それで勝ったつもりとは……』
「だからこそ――――俺とKさんの出番なんだぜ?」
……阿部さんの股間からは、眩い程の光が溢れだしている!
それと同様に、Kさんの胸元にも光が……!
お互いにすさまじい力を放っており、2人を中心に半径2メートルほどの邪気が浄化されている。
もはや、直視することもできぬほどの、聖なる光。
『まさかそれは……』
「――――俺の"テクニック"、Kさんの、そしてTさんの"スゴい力"、トコトン味あわせてやるからな」
『させぬッ!!』
「もう遅いッ! 食らえ、俺と……」「私の……」
471
:
◆rjzjCkbSOc
:2013/04/18(木) 23:51:09
「破アッ――――――――――――!!!!」
「ア―――――――――メンッッ!!!」
迸る力。
辺りに満ちる、光。
全てが、白に、染まって行く……。
『ぐっ……ぬおおぉぉぉぉぉッ!!!』
その光の中で、何かが溶けて、消えた――――。
472
:
◆rjzjCkbSOc
:2013/04/18(木) 23:51:24
【岸猿伊右衛門@かまいたちの夜2 塵も残さず――――消滅】
サイレンが、鳴り響く。それと同時に、遠方から迫る赤い波。
473
:
◆rjzjCkbSOc
:2013/04/18(木) 23:51:41
次元を、世界を超え、襲い掛かる波。
これほどの波に飲まれれば、普通は死は免れられないだろう。
だが……この波では、そうはならない。
全てが終わった時――――5人が勝とうが負けようが、ここには、津波が来る。
生き残った者を、あるべき世界へ押し流す津波が……。
「これで、お前らともお別れか……寂しくなるな」
「……元の世界に帰っても、絶対、忘れないモナ」
「それは皆同じですよ。……それでは皆さん、お元気で」
――――5人を、赤い津波が覆った。
【謎ロワ――――完】
474
:
◆rjzjCkbSOc
:2013/04/18(木) 23:51:58
〜〜〜
475
:
◆rjzjCkbSOc
:2013/04/18(木) 23:52:13
【謎ロワ――――完?】
【謎ロワ――――】
砂嵐のみが映るモニター100個。
そして、その近くに横たわる、100人の人影。
476
:
◆rjzjCkbSOc
:2013/04/18(木) 23:52:33
『全ての招かれし者よ、目覚めよ』
その声に誘われるように、目を覚ます100人。
『"運命"を見終わった感想はどうかな? それらは全て、貴様らが辿るかもしれない道だ』
何も終わってない。
何も始まってない。
全ては、スタートラインで行われていただけの事。
『だがこれは、あくまで1つの可能性。必ずこうなる訳ではない』
無数ある可能性の1つ。
それが、この"5人が生き残り、伊右衛門を打ち倒し生還する道"。
『自身の恐ろしい結末や、無残な最期を見た感想はどうかね』
それに反応し、何人かが反応を示す。
――――彼、または彼女らは、ゲームに乗り、参加者を殺害した者達。
自身の凶暴性に怯える者や、血の気が引く者、逆に、顔色一つ変えぬ者もいた。
それとは別に、何人かが別の反応を示す。
――――彼、もしくは彼女らは、何も出来ずに無残に殺された者達。
自身の死の可能性に怯える者もあれば、紙の様に白い顔でガタガタ震える者もいた。
『"運命"には、並大抵の力では抗えぬぞ。犠牲を払い、運命を変える覚悟があるか?』
自身が死ぬ運命に抗い、生き残ろうと足掻くか。
殺戮者となる運命に従い、他人を殺すか。
運命を捻じ曲げ、生きるか。それとも、運命に従い、死ぬか。
"運命"を先に見た事によって……選ぶ権利が、100人全員に等しく与えられた。
『さあ、始めようぞ。全ては――――これからだ』
もう一度……いいや、これから全てが始まる。
――――本当の悪夢からは、まだまだ目覚められそうに無い。
【謎ロワ――――開始】
477
:
◆rjzjCkbSOc
:2013/04/18(木) 23:52:48
これにて、投下終了でございます
478
:
◆rjzjCkbSOc
:2013/04/19(金) 01:54:35
申し訳ありません、タイトルを忘れていました。
タイトルは「300:OVER/START」です。
479
:
FLASHの人
:2013/04/20(土) 00:01:24
>>478
完結おめでとうございます&お疲れ様です!!
お前にはわかるまい!この俺の股間を通して出る力が!!
いやあ、面子にそぐわぬ(といっていいのか)熱い展開と、それをすべて無に帰す
無慈悲極まりないエンディング、そしてオープニング……
これまであった297話だけでなく、ここから始まる300話すら想起させるなんて
恐ろしいお話でした……間違いなく、ここから始まるロワにゃこの5人は残らないね……
まさか597話分を想像させる三話だなんて……これもまた新しい!
素晴らしいロワでした!
あらためて完結おめでとう!そしてお疲れ様!!
480
:
名無しロワイアル
:2013/04/20(土) 23:02:48
すげぇ。
最後の最後、全てをひっくり返す正しく衝撃のラストであり、劇的なスタート。
凄惨な運命を見せられた者達の反応から、開幕後の選択を想像したら……堪んねぇな。
ある意味、参加者全員がリピーターになるラストとプロローグとか発想が凄過ぎる。俺も想像力が足りなかったのか……!
完結お疲れ様でした。
481
:
◆9DPBcJuJ5Q
:2013/04/21(日) 23:02:32
それでは、拙作剣士ロワの誤字脱字の報告をさせて頂きます。
うっかりでは済まない全編通した根本的な勘違い。
スプラウトの50年やら半世紀やら→正しくは30年。
設定資料集を確認せずにうろ覚えで書いた結果がこれだよ!
挙句最終話では20年ともなってたり。ファンなのにどうしようもねぇ。
第298話
×殺し合いを強制され続けたこの3日。たった3日とは思えないほどに
○殺し合いを強制され続けたこの4日。たった4日とは思えないほどに
×殺戮の舞台の主宰者達が待つ宮殿の中心部へと迫った。
○殺戮の舞台の主催者達が待つ宮殿の中心部へと迫った。
×未だ死んでいないはずのタクティモンが知らぬ内に会場から抜け出していた
○タクティモンが知らぬ内に会場から抜け出していた
×司馬懿「〜この予言を実現させることこそ、我らの使命」
○司馬懿「〜この預言を実現させることこそ、我らの使命」
×血塗られた赤き魔剣に浸けこまれてしまった。
○血塗られた赤き魔剣に付け入られてしまった。
×幻魔大帝の力は、既に一介の剣士の領域を遥かに超えている。
○幻魔皇帝の力は、既に一介の剣士の領域を遥かに超えている。
×司馬懿は肩越しに背後に
○司馬懿は肩越しに背後へ
第299話
死亡表記を【死亡確認】から【死亡】へ
×ゼロは同様から一気に切り崩されていたことだろう。
○ゼロは動揺から一気に切り崩されていたことだろう。
×ゼロ「〜あいつはいつも、長く続かない平和を、何度終わらせても繰り返し引き起こされる戦いを、いつも悩んでいる。〜」
○ゼロ「〜あいつはいつも、長く続かない平和を、何度終わらせても繰り返し引き起こされる戦いを、どうにかしようと悩んでいる。〜」
×爆界天衝
○爆界天昇(300話も同様)
×勢いを留めず司馬懿にまで迫る。
○勢いを止めず司馬懿にまで迫る。
×――友よ〜君と共に在り続ける。
○――友よ〜君と共に在り続ける――
ゼロ達の状態票の下の▽を2つから1つに
×2人は視線を交え、ほんの一瞬だけ穏やかな笑みを浮かべて、すぐに鬼神の表情へと戻り、剣を構える。
○2人は視線を交えると、鬼神と見紛う表情のまま笑みを深めた。
×崩れ落ちそうになった膝を踏ん張り、一瞬俯けた顔を即座に上げる。
○背後へたたらを踏み、そのまま崩れ落ちそうになった膝を踏ん張り、前のめりになって一瞬俯けた顔を即座に上げる。
第300話
×『代わり得る自分自身』
○『変わり得る自分自身』
×姿は見えないが、ゼロにはそれこそが、自分の倒すべき敵なのだと直感し、一心不乱にセイバーを振るった。
○姿は見えないが、ゼロは直感的にそれこそが自分の倒すべき敵なのだと思い、一心不乱にセイバーを振るった。
×しかしその声調はタクティモンらしくなく、戸惑っているような調子が混ざっていた。
この一文は削除してください。
×今向けられている10の砲門――いや、2つの大砲は、
○今向けられている10の砲門は、
×両腕の極大暗黒砲を発射した。
○極大暗黒砲を発射した。
星割の後の▽を2つから1つに
×手を温かい何かが触れた。
○手に温かい何かが触れた。
×壊す以外に脳の無いモノなど、一体、誰にも止められるというのだ。
○壊す以外に能の無いモノなど、一体、誰に求められるというのだ。
×3人の帰還を、誰よりも逞鍛が驚愕した。
○3人の帰還に、誰よりも逞鍛が驚愕した。
×回天の盟約
○廻天の盟約(複数ありました)
×狼と虎の姿を持った斬撃は、常闇の皇の神体は完全に噛み砕く。
○狼と虎の姿を持った斬撃が、常闇の皇の神体を完全に噛み砕く。
×常闇の皇の本体は人間とさして変わらない。
○ムーンミレニアモンの大きさは人間とさして変わらない。
×魂たちを還るべき世界へと還り
○魂たちを還るべき世界へと還し
×そして、彼の願いを叶えるべく、そして3人へのせめてものお礼として、
○彼の願いを叶えるべく、そして3人へのせめてものお礼として、
×そして3人は、帰るべき世界へと帰って来た。
○そうして3人は、帰るべき世界へと帰って来た。
482
:
◆9DPBcJuJ5Q
:2013/04/21(日) 23:05:20
以上です。以上のはずです。以上であってくれ。
妄想妖怪ロワの名簿作成時の悪夢はもう嫌だ。
ご覧のあり様ですが、何卒よろしくお願い申し上げます。
483
:
FLASHの人
:2013/04/22(月) 01:34:32
>>481
修正完了しました
ご確認ください
484
:
名無しロワイアル
:2013/04/22(月) 22:18:45
>>483
確認しました。
私の不手際で御手間を取らせてしまい、申し訳ございませんでした。
迅速な対応、ありがとうございます。
485
:
◆9DPBcJuJ5Q
:2013/04/22(月) 22:19:18
>>484
は私です。
486
:
FLASHの人
:2013/04/29(月) 16:11:45
ラジオ何日くらいがいいかしら……
GWの真ん中ってむしろ人はいないかなぁ
487
:
名無しロワイアル
:2013/04/29(月) 21:36:52
水曜日でも俺は一向に構わん!
488
:
FLASHの人
:2013/05/01(水) 00:47:46
んではとりあえず3話ロワにかけて3日の金曜夜にしましょうかね
時間は9時くらいから2時間程度で
489
:
◆9DPBcJuJ5Q
:2013/05/01(水) 01:58:30
>>488
了解です
490
:
◆XksB4AwhxU
:2013/05/01(水) 03:31:18
桶。
491
:
◆c92qFeyVpE
:2013/05/01(水) 22:53:11
りょーかいっ
492
:
FLASHの人
:2013/05/02(木) 02:02:17
3話ロワ全体のまとめサイトができました
ここからこれまでまとめたロワには飛べます
それとFC2の上んとこに出てくるうざったいQRコードを出なくしたので
少しは見やすくなってるかなと思います
ttp://akerowa.web.fc2.com/3warowa/index.html
493
:
名無しロワイアル
:2013/05/02(木) 19:53:58
>>492
乙です!
次はどのロワが完結するかな。
494
:
◆MobiusZmZg
:2013/05/03(金) 17:00:38
まとめサイトの作成やリンクの整備、ラジオ企画などお疲れ様です。
完結はきっちりみてますが、リテイクやリアルの事情などで遅れてしまって申し訳ない……!
では、『Splendid Battle B.R.』の投下いきます。
今回は第二話・第二章。今回予告の漫画は下記のURLからどうぞ。
ttp://www.eonet.ne.jp/~ice9/3rowa/etc_comic03.html
495
:
◆MobiusZmZg
:2013/05/03(金) 17:01:28
289-b 素晴らしき小さな戦争(Ⅱ)われら死地に踏み入る者たち
Scene 06 ◆ 黒の鳥・世界の歯車が軋み始める
なんとも、安直な発想だね。
世界を静かに眠らせることを使命とする鳥は、穏やかな声でそう言った。
なにものにも染まらず、染まらぬものをも逃がさない、響きはほがらかに心を侵す。
だが、軽薄そうに謳う鳥――齢三十を超えたかどうかという見目をした男の、双眸はひどく冷酷に光っていた。
宵闇の輪郭をぼかす月の瞳には諧謔と超然が混淆して、見たものの裡にある空虚を暴き立てる。
彼がため息をついて腕を組めば、襟巻から墨色をした羽根がこぼれ、白手袋に包まれた指先を包み込んだ。
道化のごとく剽げた佇まいは世界を憎んでいるのか愛しているのか、あるいは許しているのかさえ余人に掴ませない。
この箱庭にある鳥よ。
貴方も『そう』だったのかな。
ただひとつ、囀る言葉の自嘲だけが周囲の闇を揺らしていく。
◆◆
足りないものがあるから足す。
安直だという感想を撤回はしないが、使い方によっては、それほど悪い考えではないとも思うんだ。
なにせ私は、時で滅ばぬ黒の鳥。箱庭の滅びを司る存在なんだ。自殺行為を破滅的だというだけで否定はしないさ。
白梟ともども、他の者の主観から復元された存在<タイム&アゲイン>だからこそ素直な言葉もほうりやすいよ。
それに、ここでこうしていると、失敗作を壊して行かれるあの方の気持ちを察することが出来る気もしてねぇ。
ま、私も『たったひとつ』のために世界すべてを裏切っていける者だ。
滅びを恐れ、喪失を嘆いて手を伸ばすこと自体にどうこう言うつもりはないよ。
ただ、伸ばした手を離すべき時に至ってなおもぐずぐずしていると、結局世界はこうなるというわけだ。ほんとうに、
愛とは害意に他ならないな。なぁムラクモ。箱庭の楔たる鳥、ヴァルキュリアを手にかけた現人神よ。
なんていうか、お前が掲げた天命と主の浮かべる理想は、わずかに色味が似ているんだ。悪い意味でというよりは、私が
好まない方向で合致している。だから、届かないと分かっていても意地悪を言いたくなってしまったんだなぁ。
――ひとがひとを殺し過ぎない世界を。
……まだ負ってもいない傷をさえ嘆いて、征く途を綺麗にしてみたところで、世界にはなにも実るまい。
それは花に満ちる庭とて同じだ。すべてが白い花の色に塗り潰された楽園は、なにも香らせ得ずに滅びるさ。
だって、綺麗だと思ったものだけを集めたというのなら、美しきを峻別するはずの五感は役に立たなくなるじゃないか。
世界に息づいているものの、一体なにが綺麗であるのか、なにがそれを綺麗に見せたのかも見えなくなった世界で生きろと
いうのなら、人は情愛を注ぐべきを選べなくなる。なにを見てもいとおしいと思えなくなるだろうね。
比喩表現が気に入らないなら、花を闘争にでも入れ替えたまえ。
なにを当てはめるにせよ、そんな世界ではだれもが神のように生きてしまう。だから世界も壊れるというわけだ。
それは推測でも、予測でもない。経験に基づいた確信で、私にとっての絶望ともいうべきものさ。
でも正直、顰め面如く行う講釈なんてどうでもいいんだ。
私はこの世界も気に入らないけれど、それ以上に、この世界に従うお前が嫌いだなぁと思うから。
泣き言と感傷しかない、おもちゃ箱をひっくり返して戻さない戦争。
あのちびっこのように、道を歩みきったはずの者が折れるまで紡がれる繰り言。
胸が悪くなるほどに密で甘い感傷すら――胸が悪くなること自体に飽きてしまったから、感傷に浸らせていたものを
死なせてなかったことにする。そんな世界の様相を前にすると、すべてが嫌になってこないか。
こんなふうに雪であるとか花だとか、美しいものたちをかき回しても、生み得るものなどありはしないよ。
指を伸ばす前に発想したことを正答としているものにとって、世界は我を肥やすエサにしかならないから。
496
:
◆MobiusZmZg
:2013/05/03(金) 17:03:07
ムラクモ。結局、お前もおのが力を自分自身にさえ使ってやれないんだ。おのが現状、そのありようの正しさを示すお前は、
相手方から「話にならない」と見放されることさえも「受容」とみなして、人の身で神に至らんとする自身を守り続けている。
そうして自身が餓えないために他者と闘って意味を喰らうけれど、自らの意味は喰らわせない。
魂が死んでいるなんて濡れ女は言ったようだが、何にも満たされ得ない自分に、お前はうんざりしていないのか。
もちろん、あの玄冬を息子として育て、世界を内側から見ることで変化したのは私個人の問題で感じ方だよ。
だけどそんなにもお前だけが正しくて、お前だけは変わらないのなら、ずっと自分だけを見ていれば十分じゃないか。
なのにお前はこの期に及んで終わりきれずに、他のものを殺そうとするんだな。
ゆっくりと息を吐き、ならばと黒の鳥は続ける。
言葉が空に散じてほどけ、そのたび無為に心を凍らせてなおも口を開く。
そうであるなら、そんなお前に『足りないもの』というのはいったいなんだ。
過去を殺して未来を潰して、切り捨てるものばかりしかない現在にあって満たされもしない現人神。真理に到達しても
腐るばかりの死体を満たし得るなにものかは、死よりほかに与えるものの無い手を伸ばした先にあるというのか。
いま、完全者が世界を無理矢理に抱き締めているけれど、それを儀式忍法に活かしてしまったのはお前だ。
その先でも傷つかず繋がり得ず、すべてを投げ出して死んでいけるなら、……そうだな。赦さないよ。
箱庭を滅ぼすものとされても世界や人々を憎まず、未来をも望み得たあの子<玄冬>。
自身の罪を知り、玄冬と救世主とで創られた世界のシステムに抗おうとしたちびっこ<花白>。
世界の平和をまえに萎れたちびっこを見つめて、籠の鳥と定義する己の心を揺らがせたあの人<白梟>。
ああ、それとまぁ……代わりは創らないと仰った主の言葉を無視して、『代わり』にされた私<黒鷹>もだろうな。
個人で完結など出来ない者どもの魂を、お前の裡の矮小なものを慰撫するために歪めたのなら、私はお前を赦さない。
◆◆
言いたい放題言ってみたけれど、ここまで言えば、貴方にも伝わったかな。
気分? よくはないね。私自身に心当たりがあることを札にしたんだから、すっきりなんてするわけがない。
それでも口を開かなければ、『思考され得たものは棄却されない』この場のルールを利用出来ないじゃないか。
……あの儀式忍法の力で死に終われるかもしれないのに、自身の主観で世界を弄ぶ気分はどうかな。
去ると決めたはずの世界に手を伸ばし、貴方を排斥したものにさえ手を伸ばすのは、どうしてなのかな。
手を伸ばして、結局は消えていくだけなのが解っているのだと、私は勝手に思っていたんだが。
ああ――だって、そうだろう。
救いを綴って優しい物語を受け取ろうにも、他の誰かのためにあるようで腰が引けるのが貴方だ。
息をひそめた背中は気持ちの悪い言葉に刺され続けているし、グリム・グリモワールの『魔法』だけに沿おうとしたって
迫る無意味が恐ろしいし、だけど足を止めることは一時しのぎにもならないと理解しているのも貴方だ。
それでもまだ朝は、変化は自身の胸中にすら訪れていないのだと目を閉じれば、そこに何もありはしないことへの
焦燥にさいなまれると知っているから、膝の上に世界があるように振る舞うことさえかなわない――。
逸脱しようにも、常軌を逸することさえ出来ないのが貴方や、あの男たちなんじゃないか。
だから暴力を蹂躙を殺戮を短絡を欲望する自分から目を背けても胸中の自身<他者>にさえ呆れられる有様で、
それでもまだ、かたりたいものがあるんだろう。
かたりたいものを語るか、それとも騙るのか。私はどちらでも構わない。
いずれにせよ、それは何かを信じるということか、こうあって欲しいと祈り願う思いなんだから。
貴方の目に対面の打ち手さえ見えなくても、そもそも打ち手がいないとしても、ゲームはまだ続いている。
たまらず汚した世界、詰みかかっている自分の手筋に殺されようとも、それでも好きだと貴方だけは言えるはずさ。
◆◆
.
497
:
◆MobiusZmZg
:2013/05/03(金) 17:05:13
Scene 07 ◆ 咲乱の間・透明な傘の内側より
白梅の鮮華こぼれるなか、藤林修羅ノ介は深く瞑目していた。
こころ澄ませばいくさ場に流れし雪の香を、自身の肌をなす忍術秘伝が吸い取ってゆく。
「は? ……ええー、なんだ、なんだよそれ。第三の選択肢にもほどがあんだろッ」
淡く、果敢ない匂いから盤面に刻まれた【情報】――『合咲の間』が二重に分割されたことと、花白の自殺という
結末を手にした少年は、雪白へ荒々しく語尾をぶつけた。
流された血の優しさに、抗うように目蓋を開けば、そこにはしかり、まなこがある。
「雪の香から情報を読み取る、忍法……やっぱ『匂追(におい)』だよなぁ。
天華ちゃんの術そのものじゃなくて、俺なりの変奏だけどさ。名前だけもらっとくよ」
化野天華(あだしの・てんか)という名前は、まだ、思い出すことがかなった。
私立御斎学園で迎えた何度目かの六道祭、萬川集海の断章を奪い合う魔戦が始まる日に転校してきた狐の少女。
血盟『化野生徒会』のリーダーとしてあった仲間の名を呼べば、失せて久しい胸も痛んだ。
鋼玉の赤をした瞳に沈んだ悲しみは、されどいくばくもせぬうちにほどける。
仮睡の余韻か、あるいは桜の香にも似て情の薄まる原因は、少年の精神でなく肉体にあった。
「しっかし、よろしくねぇなあ、なにもかも」
口を開いた傍から、肉の薄い頬がくずれる。
白く、きめの粗い肌が『紙のようだ』という形容は、露出した文字列と竹で出来た巻物の芯が超越した。
「もう四六時中くだらないことでも喋ってなきゃ、俺はコイツに全部持ってかれちまう。
萬川集海の力を使わなきゃまだマシだろうが、それじゃなんにも出来ないうちにタイムアップだ」
水は好きじゃないんだけどな。うそぶいた彼の唇に、ゆるんだ雪が染み込んでいく。
それほどまでに、伊賀の末裔は自身を萬川集海そのものであると信じている。
「面白いな。藤林の、修羅ノ介」胡座をかいて刀を見分するムラクモの声に、喜色はかけらもなかった。
「自我を保つために抗うべきものとの同調を敢えて深め、死に体となってなおも闘志を収めぬとは」
石床をすべった囁きの底にあるものは、いつしか主と従が逆転している。
憂いと紙一重の疲労。特段面白くもないものを面白いと断ずる苦しさが、少年を見下ろす赤に映っていた。
くるめきを覚えるほどに濡れた鋼の、赤い眼光が、雪とも花とも見えぬもので遮られたそのとき、修羅ノ介は風の流れに
触れて返す言葉の刃を喪う。いまも滅びにむけて時が進んでいるというのに、滅びゆく世界の今日という日が暮れたとて、
やって来る明日は雪に埋もれた昨日と見分けのつかぬ無明であったのに、それでも時の流れが嬉しい。
自他の間にあるものの、なにひとつとして変わることなく「脳裡」で泡の弾けるような幸福が。自他の間に、なにひとつも
生むこともなく、認識の空白に痛む「背骨」の熔ける安堵が、――とうに原型がない「四肢」から「五指」に沁みる。
死よりほかに思うこともない少年の、「爪」に覆われた「肉」がしびれていわれない多幸感がうたを運んだ。
◆◆
――――創って壊す〜、それが真理〜、しんらばんしょー。
◆◆
壊すことの痛みも創ることへの躊躇も知らないヒトビトの声を、「耳」にしたのはなにゆえか。
いま、まさに音楽的なまどろみに浸りかけていた修羅ノ介は、その声を聴きたかったからだと断じた。
「創って壊すー、壊して創るー。……イッゴー、イッゴー、リッサ―――イクル――」
かすれた「のど」で歌の続きを引き取れば、夢のなかでは美しくあった誤解が崩れ去る。
冴えた雪に韻律を載せれば、卑小で行き詰まるしかない思いも綺麗に。たとえば空から降る白い花の、風に舞い遊ぶが
ごとくに響くと思えたのに、自分の「耳」にさえ感傷と泣き言しか届かないとなれば笑ってやるほかなくなった。
たがの外れた笑いで「胸」を開けば、壊れた誤解の招いた感傷が感慨に変じる。
「ああ――なあ、……ムラクモさんよ」
忘我のもたらす深い息。そこに沈んだ名を、修羅ノ介は、ただ滑らかな音のつらなりとして捉えていた。
雪を見通した先にある天井の、石の継ぎ目を見つめるしかない「後頭部」がしびれ、「目」の焦点が現世のどこにもない
紫明に合わされて盤面からずれ落ちるばかりの存在が自身の「肉体」であったものを構成する
498
:
◆MobiusZmZg
:2013/05/03(金) 17:07:12
紙に、神に近づいていく。
孤独に対しておぼえる安らぎ。永遠に対する感覚の鈍麻。これらが招くであろう死をいっとき忘れさせ、今、このとき
だけでも主を生きながらえさせる「胸」の昂ぶりさえ修羅ノ介を大地に縫い止めて離さない。
忘却と停滞の肯定。それこそが生にしがみつくヒトガタ、「いのち」の性質さえ無為なものとしてしまう。
なんだこれと、洒落にならねえとこぼした声は、はたしてかたちをなしたろうか。
子供のむずがるようにもがいて、――紙のかたまりはぴくりともせぬまま、梅花のひとひらに口をふさがれた。
なんだこれ、ではない。これを自分は知っている。萬川集海の断章を取り込んだとき、力に酔いしれて『神モード』などと
うそぶいたものだが、違う。あの、スイッチを操作するようにおのれの任意で変えられる状態と、これとは違う。
銀色にひかって痛む、「眼」の前を青白く燃えて流れる星が塗りつぶした。
黒焔の、華散るがごとくに翻る幻想は、九尾の妖狐が中天へ舞った夜に見たものだ。
――俺にはいくらでも時間がある。俺が俺を見失わないうちはな!
六道ノ書と六識ノ書。萬川集海のうちの二巻をみずから散逸させたときに紡いだ言葉が「耳」に蘇る。
秘伝書に自身を侵蝕させたことは、しかし計算のうちにあったことだ。
この魔戦が盤面の、ひいては世界を形作る【情報】のひとつもなければ、自分は自分の定点を見失う。世界に関わらず、
そのありようを拒絶するという選択さえ、世界に抱かれていなければ選べないように。
“喰らうべき意味が裡になければ”外側から取り込むしかないのだと考えて、探った相手は花白だった。
この世界はどうすれば君に償えるんだろう。箱庭における唯一の被害者としてある玄冬の「顔」を見た救世主は世界と
折り合いをつけることすら出来ぬがゆえに正しく少年で、それだから死ぬことでしか存在しえないものだったのかと思えた、
その思いも逃散する。
逃げゆくいま<ヒト>との間にある距離を嘆いて伸ばした「手」が刻む文字で時をつかもうとあがく発想の
健全に自分はまだヒトだまだ大丈夫なのだと安堵して「心臓」をさすろうと溢れるものを止められない。
ならば自分こそが他者の定点、他者の情動を励起する、モノになる。
過去のように死のように、他者から意識を向けられねば現れ得ぬ機能と成り果てる。
もはや喪失への危惧もなく、そのくせ「膝」の裏の「腱」がひきつる痛みが恐れの役をはたしている。
茫洋とたゆとう、思考がそのとき煤竹色に。大外套の役を果たす上着の、腕に通していない片袖で引き裂かれ、
.
499
:
◆MobiusZmZg
:2013/05/03(金) 17:07:49
他者<自分自身>を認めた一秒で、藤林修羅ノ介は神の、死体からヒトへと戻っていた。
.
500
:
◆MobiusZmZg
:2013/05/03(金) 17:10:04
「うわあ」。
のどをすり抜けた響きは彼が纏っていたはずの果敢無さを裏切って太く、間が抜けている。
声からのぞけた生理的な――ああ、ああ。そうだ。もう自分にはこのヒトガタが自身の身体であるどころか、まるで、
これがヒトの、半端な温度に縛られた肉であるように感じられる――嫌悪感。いっそ「ひるんだ」と言ったほうが楽になる
思いの向かった先は『藤林修羅ノ介』が死して神となる過程かどこまでいこうと逸脱出来ない自分自身にか――。
それこそとりとめもなく浮かぶ思考の、一切を現実が黙らせた。
黒手袋に包まれていた男の爪が、修羅ノ介の視線に晒されている。節くれだった指と、肉の厚い手のひらが有する輪郭は
弛緩とかけ離れて、彼が自身の肉体を我が物にしていることがひと目で判別出来るものだった。
すんなりと修羅ノ介に向かって伸ばされた指は、彼の吐息が飛ばした花びらの、赤い萼を軽々と摘む。
自身の肉体を扱うことに慣れた男の所作は生理的な震えがくるほどに優しい。
そうして震えは修羅ノ介の意識に背中を、腋下を二の腕を脇腹を腿を膝をくるぶしを土踏まずを思い起こさせ、
書物が、肉体としての意識を模る。
それを意識したときには、くぐもって固まり、不恰好に軋んでさえいる鼓動の、――幻想を取り戻したことによる緊張が
すすり泣きのような呼気にまで及んでいた。不随意のうごきで息を吸い込めば、もはや不要となった空気になめし革の
蒸れた匂いが鼻孔をつく。『ああこんなヤツでも汗をかくのか』と思い遊ばせたそのときに傘の、透明な内側からすべてを
睥睨するしかなかった修羅ノ介の花よりおぼろな認識を突き抜け
半端な熱に触れた瞬間夢の淡いから世界が異物感を誇示して立ちのぼり、透き通ってあろうとするものの
底に沈む鈍い、濁りを鋭角なものとして少年がたましいに流れる、赤いものにと突き込んでくる。
だから、もう、藤林修羅ノ介は神に戻らなかった。
紙たる自身が神に変ずるという逃避、透き通って口当たりがいいだけのひとりよがりに醒めていた。
『神モード』とうそぶいてまで現実にしなかったものの影を見た目尻に伝うものがある。肌が水を弾くさまを感じる。
涙かと、あるはずがないものに鼻孔の奥を衝かれて――泣きたくなるほど、意識が自らの肉体を捉えている。
根拠ひとつない自分の、体温で雪を解かすほど確かな在り方へなぜなど問わず、修羅ノ介は視線を上げた。
淡く、果敢ない。恥ずかしげもなく白にまみれた世界にあって、鋼玉の瞳はそれ以外の色と、音と光をつかんで輝く。
色は、泥砂にくすんだ都市迷彩の青で、音は、歯列を抜けた嘲笑の原型で、光は、つやめく無彩の黒髪だった。
「ああ――ちくしょう。こういうのアンタに言うとか絶対変だし、死ぬほど不本意なんだけどなぁ」
眉間が深く落とした翳を、みずから払って強く光る武官の瞳を見た、少年の目は気安い口調と裏腹に緊張している。
平然と手袋をはめ直したこの男。父よりは少しく若いだろうムラクモよりほかに、修羅ノ介が視える世界にはいない。
そう思えるほどに閉塞し客観というべきものから遠ざかった状況で、ゆえにこそ客観を連れて来る他者が。どれほど抽象に
溺れようと世界に残る不純物が、自分に常軌を逸させはしなかったのだと今にして気づく。
動かない武官の表情に二の腕がひりつく感覚は、それこそ父を盗み見る時間でおぼえたものに近い。
「でもいまは、もういい。俺はお前で……じゃねぇな。お前がいいよ」
ムラクモ。
精神の血肉を取り戻した身体の紡ぐ名が空気をふるわせ、銀花をもたつかせた。
どうにもならないものを前にふてくされながら引き下がる、子供の言いようが口へと残る。
言葉を費やしたとて記号に出来ず、視線で射抜けども磔にされず、思惟の果てにさえ汲み尽くせぬ不可侵の、
「……お前は、私とあの女に勝つつもりではなかったのか?」
他者は、しかし鼻にかかった笑みで修羅ノ介に『応じた』。
深い響きを有する、現実認識をあざけって怒りを引き出す言葉には拍子抜けするほど傷つかない。
永遠の少年は、雪と花を割り裂く男から、自分が体感していたものと同質の空虚を視ているがゆえに。
ムラクモ。神に至ろうとするものに意識を向ければ――そこで、暴力と軽侮に対する怒りにとらわれさえしなければ、
赤く沈んだ光をのぞかせる瞳が想い出のように死体のように相対する者の胸を衝く。
呼気を詰める切なさこそは、過去を忘れ現在を手放し、未来を迷妄に押し込めた先刻から消えない思いであった。
501
:
◆MobiusZmZg
:2013/05/03(金) 17:12:11
「莫迦を言うなよ。お前は俺とか完全者サンに向かって行って勝つとか、そんなんないでしょ?」
仰向けになっているしかない修羅ノ介は、ゆえに愛惜ともいうべき情をもって武官に応える。
彼を直視し立ち向かおうとしなければ、彼は世界から消えていく。命の器による【封鎖結界】の罠を仕掛け、『影弥勒』を
使って『天魔伏滅の法』を展開し、『綾鼓ノ儀』で理想に夢さえ抱かせぬ強敵であっても関係はない。
「だって……ほら。ここで俺らがみんな死んじまって、世界の全部が壊れちまったら。
絶対、誰も気付けない。俺もお前も、この天井突き抜けた宇宙のどこからも忘れられて、いなくなっちまう」
あンの八咫烏だって、俺ら『化野生徒会』が墜としちまったし。
天才的にエロい――えげつなくろくでもなく、いやらしいにもほどがある札さえ、事無草はまなうらに追憶する。
こうして追憶しなければ生まれ得ないからこそ、自分は現世にない過去にありもしない熱を燃やしているのだと、
萬川集海による侵蝕と闘う際に覚えた絶望とて、こうして、喰らえずともしがみ続けて慣れていったのだろうと、
なにものかを呑めぬまましがみ続ける代わりに男へ刻まれたのが、額から頬骨に落ちる翳であるのかと、思った。
「濡れ女みたいには、言ってやれねえけど……でも『斬らないならお前、また負けるよ』。
その得物の、美の一閃で、物語<Winter Tales>なんざすぐに終わらせちまえる冬の圧制者だってのに」
あぁ、でも、――斬っても負けたんだっけ。
ささめいて冬の気配たる雪を水にほどけば、修羅ノ介の双眸には九重ルツボの魂が宿る。
これまで命を落とした忍びたちの名をもって過去を刻む忍術秘伝が外典・『天下忍名録』にかたどられた他者に触れても、
彼女の置き土産であろう哀れみにちかい愛惜に口を開かされても、情報を溶かし落とした心水は揺らがない。
「その、ヒトガタをすら作れぬ身体で、私に勝つつもりか」
「なんでよ? 俺の負けがお前の勝ちとか、その逆になるような場所じゃないっしょ、ここはさ」
けれども哀れみの行く先は、この、短い間で移り変わりかけていた。
意識せねば現し世に浮かび上がることのない、昨日の体現。それがムラクモなのだというのなら、昨日を愛し、あるいは
傷つけてみたところで、振り向かせることはかなうまい。日向影斗という『いま』を武器として、彼に立ち向かおうとした
九重ルツボと、いまの自分はきっと同じだ。『過去の、想い出から人間を取り出そうとする』自分をこそ哀れんで、
――――所詮、夢は夢。過去を追っても、何も得られぬ。
「……うるっせえんだよ『花狂い』!」
哀れむことがかなったからこそ、修羅ノ介は冬の気配に怒声をもって応じられた。
怒り。紙の身体が何より恐れる焔のごとき感情こそは、ムラクモという他者に声を放ったつもりでいて、そのじつ自分に
声が返ってくる感触を前にすれば、どうしても抱ききれなかった思いである。
「何も得られない。夢を見続けたくて目を閉じたって、夢を見られる自分にさえ冷めちまってる。
そんなのはもう知ってるよ。でも、それを分かっててしがみつくのはいつだって九尾の――狐じゃねえか」
けれども今、殴り返されることのないのだろう場所から響いた声に、少年は酷薄な笑みをもって応じた。
ヒトは完全な受動にあって、はじめて己の本性を露にする。藤林修羅ノ介。のらりくらりと立ち回り、ときに『悪魔忍者の
再来』とさえ言われよう策を弄して勝ちを奪う「戦術」の得手。怒りで自身を燃やす《火術》の達人。
過去の喪失を取り戻さんとする彼の本性は、ならば変化を拒む盲信であり拘泥であり、憎悪であった。
「だけど、それで俺を黙らせようってなら、当てが外れてんだよなぁ……。
本当は何も喪ってないなら、本当は傷ついてないなら、あのときつらかった自分は何だったのかって、思うよ。
でもあのとき、止まれなくなってた俺を止めた狐<天華ちゃん>だって、ここばっかりは止まらずに走るだろうさ」
けれどこのとき、修羅ノ介は決めた。
都合よく日常を謳歌し夢を思い出し、ひとりよがりに咲き散らかす自分をこそ赦さないと決めてしまった。
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