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【失敗】廃棄小説投下スレッド【放棄】
241
:
名無しさん
:2005/06/30(木) 23:14:13
乙です!
あやめちゃん怖っ!っていうか久保さんよ・・・
お二人に違和感はなかったですよ〜性格口調に関してのみ(笑)
続きすごく気になります。出来れば書いていただきたいです〜
242
:
名無しさん
:2005/07/17(日) 23:54:49
そう遠くはない未来、ついに『白』と『黒』の全面戦争が始まった!!
設楽「『白』を潰せ。」
渡部「戦う時期が来たってことだろ?」
戦いの火蓋が切られてすぐに、隠された『黒』の力が明かされる!!
柴田「残念だったなぁ!!」
柳原「今まで封印してきた石が…復活してるっちゅうんか?」
悲痛な叫びも空しく、戦いは加速していく。
繰り返される戦いに、傷付き倒れていく仲間達…
田村「ふざけんなっ…!!こんな戦い…何になるっちゅうねん!!」
徳井「二匹の蛇がお互いの尻尾を飲み込んでるようなもんや。どちらかが滅びるまで、戦いは終わらん。」
裏切り、犠牲、憎しみの後に最後に生き残るのは誰だ!?
そして、残された彼らが見るものとは…?
小沢「俺の石の…宝石言葉を知っているか?」
そして、最強の石「ブラックダイアモンド」とは!?
劇場版「もしも芸人に不思議な力があったら」
coming soon!
暇だからやった。今は反省している。
…本当にごめんなさいorz
243
:
名無しさん
:2005/07/19(火) 09:38:31
笑いで言うところの「ムチャ振り」ってヤツだなwww
漏れは嫌いじゃないwwwwww(`∀´)
244
:
◆8Y4t9xw7Nw
:2005/07/20(水) 22:47:46
〜ひとかけらのきぼうをしんじて〜
その夜の夢見は最悪だった。
よく覚えてはいないけれど、身体の芯から凍り付きそうな寒さだけがやけにはっきりと記憶に残っている。
――まるで、吹雪の中に放り込まれたような。
「――しずちゃん?」
一瞬の間のあと呼ばれた事に気付き、慌てて顔を上げる。
本日最初の仕事の、楽屋。悪夢しか見なかった眠りは疲れを癒してはくれず、どうやらいつの間にかぼんやりしていたらしい。
「……え、あ、何?」
顔を上げてからその言葉を発するまでの一瞬の間があったのは、自分を呼ぶその声が昨日までと違う響きを持っているような気がしたからた。
「もうそろそろお呼びが掛かると思うんだけど……何ボーっとしてんの?」
掠れ気味で少し高いその声は、すっかり聞き慣れたものなのだけれど――。
(――違う)
考えるより先に、そう思った。
呼ぶ声は一緒なのに、違う。声も、やけに凝った言葉の選び方も、人差し指で眼鏡を押し上げる些細な仕草さえ、変わらない――けれど、違うのだ。
昨夜の出来事があったせいでそう感じるのか、それとも、全てを知られた今となっては意味がないと山里の方が普段通り装う事を止めたのか。
恐らくは両方なのだろうが――山崎の知る相方がお世辞にも芝居が上手いとは言えない事を考えれば、認めたくはないが前者の割合の方が高い――、
度を越した違和感に鈍い頭痛さえ感じてくる。
「ごめん……ちょっと考え事してたわ」
ぎこちなく笑みを浮かべ、酷く冷たい相方の目を、真正面から見返す。
目を逸らしてはいけない。
今目を背けてしまったら、その事が自分達の間にあるものを本当に全て、壊してしまうと――ギターの弦が
ぶつんと切れるように呆気なく、何もかもを断ち切ってしまうのだと、それだけはなぜかはっきりと分かった。
無意識に、拳を握り締める。暖房が効いているはずの楽屋は、なぜか寒かった。
245
:
◆8Y4t9xw7Nw
:2005/07/20(水) 22:48:56
――重苦しい灰色の雲が漂う空に、細く欠けた月が微かに輝いている。
人通りのない寂れた道を歩いていた山崎は、ふと立ち止まり夜空を見上げた。
今日の仕事はもう全て終わっており、普段ならあとは帰るだけだ――普段なら。
視線を星の見えない夜空から右手に持っていたメモに移し、再び歩き出す。
それからしばらく歩いたあと、十五階はありそうなテナントビルの前で立ち止まった山崎は、手元のメモと目の前のビル――正確には、玄関横に
取り付けられたビル名が刻まれたプレート――とを見比べ、ポツリと呟いた。
「……ここ、か……」
今日最後の仕事が終わったあと山里に渡された四つ折りのメモに書かれていたのは、ビルの名前と住所、そして時刻と『屋上で待ってる』の一言だけだった。
やはり綺麗とは言い難い、見慣れた字。命令されているようで気分が悪かったのだが、まさか逃げ出すわけにもいかないだろう。
(それにしても……方向音痴やったら間違いなく迷うな、この寂れ方やと)
テレビ局から比較的近く地名も聞き覚えはあるが、山崎はこの辺りまでやってくるのは初めてなのだ。誰かに聞かれるのを警戒したのかもしれないが、
例えば道に迷うとか、そういう事は考えなかったのだろうか。
「……ま、どうでもええか」
もし迷いでもして時間を過ぎても来なければ、携帯電話に連絡を入れて誘導するつもりだったのかもしれない――それはそれで
間抜けな光景だと思うが――と結論付けた山崎は、右手ごとメモをパーカーのポケットに突っ込んだ。
この時間、勿論玄関が開いているはずはないので、ビルの横に回り込む。
昨日の夜にでも下調べでもしておいたのだろうか。確かにこの様子なら派手に暴れても人に見つかる心配はないだろうが――。
(覚悟はしてたけど……屋上までこれで行け、と?)
どこか古めかしい外付けの非常階段を見て思わず溜息をつき、山崎は長い階段をゆっくりと上り始めた。
246
:
◆8Y4t9xw7Nw
:2005/07/20(水) 22:50:52
街の雑多な音も遠くにしか聞こえない、静かな非常階段に、ただ足音だけが響いている。
両手をパーカーのポケットに突っ込んだまま黙々と階段を上り続けていた山崎は、十二階の踊り場までやってきたところで立ち止まった。
先程地上から見たときの目測が正しければあと少しで屋上に着くはずだが、長く続く階段をひたすら上っていると気が滅入ってくる。
石の力で飛んでしまえば楽なのだが、こんなところで無駄遣いするわけにもいかないのが辛い。
絞首台の十三階段を上るのもこんな気持ちなのだろうか、と一瞬考えて、とりあえず鉄扉に寄り掛かった山崎は思わず唇の端に苦笑を浮かべた。
――大人しく殺されてやるつもりなど、欠片程もない癖に。
少なくとも自分は、他人の為に死んでもいいと真顔で言えるような自己犠牲の塊ではない。
ただし、だからと言って絶対に死なないかと問われれば答える事は出来ないのだが――いや。本当のところ、状況は絶望的だった。
自由に飛び回れる屋外は昼間なら有利な場所なのだが、山崎の能力は発動中極端に夜目が利かなくなる為、夜は少々分が悪くなる。
しかも今日の空は雲が多く、月も半分以上欠け、黒い布に出来た裂け目のように細く頼りない。少しでも視界を良くしてくれるのは、遠くに見える街明かりのみだ。
それでも、自分はたった一人でこの場所に来た。正々堂々などという言葉は無視して浄化の力を持った誰かを呼んでしまえば楽に勝てると、呼ばなければ負ける――もっと
具体的に言えば殺される――かもしれないと、そう知りながら。
誰かを呼んでしまえば彼の意思を裏切る事になると、裏切りたくないと、そう思ったのだ。
弱々しく闇を照らす古びた蛍光灯に視線を向けながら、唇の端に浮かんだ苦笑を深める。
自分を殺そうとする相手に対して『裏切りたくない』などど思った事が酷く愚かで、滑稽で――それでいて、何より大切な事だとも思えた。
寄り掛かっていた鉄の扉から離れ、首元に手をやって服の上からペンダントを握り締める。仕事の合間の時間ひたすら回復――つまりは精神集中――に努めていたおかげで、
万全とは言い難いが昨日よりはかなりマシな状態になっていた。合わせて十分程度なら全力を出せるだろう。
気ぃ失う程度にシバいて浄化の力持った奴のところまで連れていく、という大雑把かつ穏やかでない努力目標を再確認し、山崎は再び階段を上り始めた。
(やっと着いたか……)
十五階の踊り場までやってきたところで、視界が開けた。
階段の先、左手には屋上のフェンスと扉が見えている。
足を止め、目を細めてその扉を数秒見つめると、山崎は一段一段踏み締めるようにゆっくりと再び階段を上り始めた。
あと、十段。
まだ石の力は解放していないが、鋭く研ぎ澄ませた神経はすぐ傍の冷たい気配を感じ取っている。
あと、五段。
それでも歩みは止めない。逃げ出す事も目を背ける事もしてはいけないと、痛い程分かっていた。
昨日の夜、痛々しい程の諦念を含んだ目に一瞬でも視線を逸らしてしまった事が、今は酷く腹立たしい。
あと、一段。
真っ直ぐ前を向いたまま最後の一段を上り切り、ゆっくりと左を向く。
屋上と非常階段を隔てている、金網の扉の向こう――街明かりと微かな月光に照らされ、見慣れたシルエットが見えた。
247
:
◆8Y4t9xw7Nw
:2005/07/20(水) 22:52:59
なんか石が全然出てこなくて申し訳ないんですが、今日はここまでです。
次回はちゃんとバトルに入れると思いますので……
本スレが余りに過疎化してるので、もしよければ投下したいのですが……意見をもらえたら嬉しいです。
248
:
名無しさん
:2005/07/20(水) 23:41:16
乙です!
うわ〜すごくいいです!続き気になります!
本スレ投下希望です。
249
:
名無しさん
:2005/07/21(木) 05:39:08
乙です!
カンニング編といい、8Yさんの作品は、登場人物の行動・考え方や細かい仕草等が
すごく本人たちのイメージを大切にしている感じがあって大好きです。
今回だと「人差し指で眼鏡を押し上げる仕草」の記述に"やるやる"と感心でしたw
本スレ投下もぜひお願いします。
250
:
◆EI0jXP4Qlc
:2005/07/27(水) 22:28:35
ども。
>>238-239
に三拍子の「ある冬虫夏草の話」という文を投下した物です。
完成したので、一応ここに置いときます。
死ネタというほどの死ネタでもないのですが、それが絡んでくるので、ご注意ください。
読んで頂ければ、幸いです。そこそこ、長いですよ。
251
:
◆EI0jXP4Qlc
:2005/07/27(水) 22:33:25
title 「ある冬虫夏草の話【Will you merry me?】」
>>238-239
の続き
****************
ストップ。
リヴァースアンドプレビュー。
不法投棄。久保はたまたまその現場を目撃することとなる。そんな13日前の午後。
曇天、それなのに明るい。不吉なことが起こりそうな、打って付けの天気。
久保は、誰もいなくなったのを確認した後、そっとゴミの山に近づいた。
普段、こんなシーンに遭遇することも無かったし、ゴミ自体に興味を持っているわけでもなかった。
それでも、近づいた。もしかすると久保は、
運命を信じたのかもしれない。ああ、それと、
諦めを。
まぁ、それはいい。
久保は、予定通りにゴミの中に運命の人を見つけた。それが、あやめちゃん。
あやめちゃんというのは、誰が決めたのかは分からない。
あやめちゃん自身がそう言ったのか、久保が勝手につけたのか、そんなことは知る由もない。
私は思う。きっとあやめちゃんという字は
「殺」か「危」と書くのだと。とりあえず嫌な感じ。それが、私が最初にあやめちゃんに抱いた印象。
プレイバック。
「……見えたか」
高倉はそう呟き、石の意思の意志でも変わったのかと、ややこしく解釈した。
そして再び久保とあやめちゃんを睨みつける。迫力満点。しかし久保がひるむ様子はなかった。あやめちゃんは論外。
久保にそっくりなテディベアが、あやめちゃんに食べられてしまった。
次は久保孝真が食われるのかしら、と、高倉はそこはかとなく思った。それに追加するように、
「それは不味い」
と、ぼやく。しかし、過去が見える力を持っただけの高倉に、あやめちゃん自体をどうにかする力は皆無だ。
――あの人なら何とかなるのか? だが、久保が聞く耳を持っているのか? それ以前に、あやめちゃんの耳は聞こえるのか。
あふれ出るように不毛な思考が働く。久保と高倉がお互いに睨み合ったまま、ただただ時間が過ぎる。高倉には、久保があやめちゃんを守らんとしていること以外には、何も分からなかった。
とりあえず、自分に何が出来るのか、高倉はそれを考えることに専念しようとする。
……ところが。
252
:
◆EI0jXP4Qlc
:2005/07/27(水) 22:34:36
「失礼します」
ノックの後に開かれる背後の扉。返事はせず、久保と高倉は開かれた扉を見る。
二人が知らない男が1人。比較的整った容姿だったが、誰なのかさっぱり見当がつかなかった。久保はとっさにあやめちゃんを隠すように抱く。
「どちら様で……」
スタッフではないことは明白だった。また、知り合いの芸人でないことから、高倉はそう尋ねた。
「名前ですか。そんなものはありませんよ」
知らない男はそう答えた。
「はぁ、『そんなものはありませんよ』さん、ですか。どこまでが苗字でどこからが名前なのでしょうか」
高倉はまじめにそう言った。いつもなら久保が突っ込むのだが、久保は何も言わず、知らない男を睨んでいた。
知らない男は言う。
「ぼく自身のことは放って置いてください。そんなことより、そちらの小太りの方。貴方が持っているものに、大変重要な用事があります」
知らない男の口調は非常に事務的だった。しかし、不穏な空気が漂っていることは、確かなのだ。
だから、久保も高倉も、警戒した。
「貴方の用件は分かりましたが、俺の相方が持っているソレ、非常に厄介な物なんですよね……。それに大変重要な用事があるということは……、貴方自体、厄介な物なんでしょうね」
知らない男は高倉を見据える。
「ぼく自身のことは放って置いてくださいといったでしょう」
「そう言う訳にも行きません。せめて身分を明かしてください」
「それはできませんね」
253
:
◆EI0jXP4Qlc
:2005/07/27(水) 22:35:48
即答だった。あまりにも断言的だったので、一瞬面食らったが、高倉は気を取り直す。
「それでは尋ねます。貴方は久保の石に何の用事があるんですか」
高倉は、もしかするとあやめちゃんのことを石といえば久保か知らない男が何かしら反論すると踏んだ。しかし、久保が何か言うことはなかった。今は知らない男に視線を合わせているので、久保のほうを見ることができない。久保も様子を伺っているのだろうか。
知らない男は、勤めて事務的口調で答えた。
「それは、ぼくのものです。ずっと探していました。そしてやっと今日、見つけることができたのです。お願いですから、『彼女』を、返してください」
後半は久保に行っていたような感じだった。しかし、一つ聞き捨てなら無いことがあった。
「……『彼女』?」
久保と高倉は、ほぼ同時に尋ね返す。
「そうです。『彼女』は私の恋人です」
高倉は再び苛立ちを感じた。久保と同じ事を、この知らない男まで言うのだ。高倉は言葉を選ぼうとした。しかし、
「あやめちゃんが何でお前の彼女なんだ?」
先に久保が口火を切った。
「あやめちゃん……? 『彼女』のことですか」
「そうだ」
「あやめちゃんではありません。『彼女』は」
ストップ。
一瞬だけ、見えた。
先ほどの不法投棄現場。そこにあやめちゃんを捨てていった男。
この、知らない男が、その男。
254
:
◆EI0jXP4Qlc
:2005/07/27(水) 22:36:51
しかし、久保の視点からでは男の顔が見えなかった。
それなのに今ははっきりと見える。……どういうことだ。
リヴァース。
『その視線は知らない男としっかりと合っている。目が合っているのだ』。
まさか……。そんなはずが……。
プレイバック。
「……」
高倉が我に返ったとき、話はもう先に進んでいて、久保が怒声をあげていた。
「勝手なこと言うなよ! お前っ、あやめちゃんをあんなところに一人にして、あんなところに捨てるなんて酷い目にあわせて! それでなにを今更っ!」
知らない男は反論する。
「やっぱり、ぼくは『彼女』がいないとダメなんです! お願いですから、返してください!!」
いつの間にか知らない男の口調が感情的になっていた。加熱する二人の問答に、高倉は一人、冷めている。
高倉は、あやめちゃんを見た。こころなしか、あやめちゃんからテディベアが剥がれていってるような気がする。
――もう、テディベアでは不十分なのか。あやめちゃん。
高倉は心の中でそう尋ねる。すると、……。
高倉の冷えていた石が、更に冷えていき、凍え、それが手から腕へ、そして全身へと広がっていく。
……。
比較的、早送りの映像だった。
音声は無い。ただ、流れて、なにがあったのかを教えてくれるだけといった感じだ。
知らない男が、楽しそうに笑っていた。そんな映像が、しばらく続いた。
しかしそのうち、知らない男の顔が怒りや嫉妬で醜くゆがんでいく。次第にそれだけになる。
理由は知らないが、それは私にも分かるほどの恐怖と悲しさを感じさせた。
そしてとうとう、『私』は、殺された。納得のいかないようで、納得の結果だった。
しかし、『私』は再び目を開ける。身体は、動かない。喋ることもできないが、知覚はできた。
知らない男が『私』を愛おしそうに、満足そうに愛でていた。そのとき 『私』はまだ、この男が好きなのだと思った。
『私』は知らない男の期待に答えようと、『成長』することにした。近くに植物があればそれに寄生し、それがダメになれば、近くのゴキブリに寄生する。
別に何でも良いと思い、リモコン、CD、食器、枕、色々な所に寄生した。
結果、全部ダメにしてしまった。『私』はまた怒られると思い、そしてまた殺されるのだろうと思った。
しかし、今度は違った。……捨てられたのだ。
これは、納得行くようで納得できない結果だった。
そして、今ここにいる。『私』を見つけてくれた、久保。でもやっぱり『私』には、知らない男しかいない。
知らない男もそう言ったように、『私』も彼じゃないと、ダメなのだ。
255
:
◆EI0jXP4Qlc
:2005/07/27(水) 22:38:56
……。
高倉は、久保に言う。
「久保、お前も分かっているんだろう。あやめちゃんが、誰を望んでいるのか」
「だめだ! あやめちゃんは、俺が、俺が守るんだ……。もう、辛い思いをさせたくないんだ」
はっきり言って高倉には、今の久保があやめちゃんの所為でこんなことを口走っているのか、それとも、本人が心から強くそう思っているからなのかは、分からない。
しかし、とにもかくにも、これ以上久保にあやめちゃんを持たせるわけにはいかない。
growing,growing/i am growing now/
高倉は、言った。
「久保、聞こえているんだろ? あやめちゃんの声が。俺なんかより、よっぽど」
久保は、震えている。
「だけど、だけど……」
「……久保、あの人にあやめちゃんを『帰そう』? お前が一番分かっているはずだ。 あやめちゃんが、なにを望んでいるのか」
久保の腕の中でほのかに光る、黄色い女。
着ていたテディベアでは足りないのか、それとももう飽きてしまったのか、大胆にも
彼女は久保の腕の中でそのきぐるみを、ゆっくりと脱ぎ始めている。
まるで、羽化するかのように。だけど、
所詮は冬虫夏草。高倉は知っている。
彼女にとって最高で最良の、本当の棲家が見つかったことを。
久保は知っている。彼女にとって最高で最良の、本当の住処が自分ではないことを。
久保は、本当に本当に名残惜しそうに、俯きながら知らない男に、あやめちゃんを、渡す。
知らない男は強奪するように、久保からあやめちゃんを受け取った。
決着は、一瞬でついた。
久保と高倉は、瞬きをせず、その一部始終を目に焼き付けた。
知らない男があやめちゃんを強く抱きしめた瞬間、あやめちゃんは急激に成長。驚いた知らない男が手を離す間もなく、あやめちゃんは知らない男の体の穴という穴から侵入。
聞くのに絶えない音が、部屋中に広がり、知らない男の断末魔も、それに混ざる。
そして、絶望的な時間が怒涛のように流れきった後、何事もなかったかのように、全てが元通りになる。
知らない男が、目の前に横たえてそれ以上動かなくなったこと以外には……。
それからしばらく経って。
芸人仲間が久保に声を掛ける。
「お前、そのドーゾーかなり気に入ってるみたいだな?」
久保は笑いながら答える。
「銅像じゃないよ」
「お前ヤラしーな? 女の裸のドーゾー毎日手入れしやがって」
「別にそんなんじゃないよ。それに、ドーゾーじゃないからね」
「なんだ? じゃあ、石像か?」
「近いね。ただの石像じゃないよ」
「ん?」
「生きてるんだ。彼女」
立派に成長した彼女は、久保の芸人仲間に、満足げに素敵過ぎる笑みを浮かべて見せた。
I just wanna do ya? yes,I am growing now...
でも、この話はもう終わり。
256
:
名無しさん
:2005/07/27(水) 22:47:39
乙。もの凄く乙。
石の戦いと言う設定を取り入れつつ、
さらにその先へ進んだSFホラー物だと思いました。
クオリティハンパねぇ!お疲れ様でした。
257
:
◆EI0jXP4Qlc
:2005/07/27(水) 22:48:18
本編終了
◆あやめちゃんの正体および石の能力説明
ライフジェム→黄みがかった人工ダイヤモンド。人の遺灰や遺骨から採取した炭素を基に作る。
能力→できる由来も相まってか、石そのものが意思を持つ
思い人に寄生し、生命を吸い取り成長する。菌類でいうなら冬虫夏草のような感じ。
以上です。いかがでしたでしょうか。
自分では、荒ーい感じがします。
もし読んで頂いたのなら、本当に何でもいいので、一言いただければ幸いです。
では、失礼いたします。
258
:
◆EI0jXP4Qlc
:2005/07/27(水) 22:51:51
>>256
早速感想ありがとうございます。楽しんでいただけましたか?
自分が書いた意図が伝わったみたいで、本当にとても嬉しいです。
259
:
名無しさん
:2005/07/30(土) 21:21:35
ぜひ本スレ投下キボン
260
:
◆EI0jXP4Qlc
:2005/07/30(土) 23:05:18
>>259
本スレ過疎気味ですね。
落下するとして、これはネタ的に大丈夫でしょうか
261
:
名無しさん
:2005/08/03(水) 17:52:32
三拍子編希望したものです。
すごくおもしろかったです!!!
ありがとうございました!!!
262
:
◆EI0jXP4Qlc
:2005/08/03(水) 18:18:50
>>261
喜んでいただけたようで、何よりです。
私自身すごく嬉しいですよ。よかったー。
263
:
名無しさん
:2005/08/08(月) 19:38:06
しずちゃんのもう一つの能力があまり表に出てないし、
山ちゃん視点は新鮮かもと
南海の番外みたいなのを書いてみたんですが、
・このままでは南海話が続きすぎる
・石がちょっとしか出てこない
・結局視点がしずちゃん中心
・なのに無駄に長い
という本スレにはとても書けない仕上がりにorz
でもせっかくなのでここに投下させて下さい。
264
:
263
:2005/08/08(月) 19:39:36
「あの、ホント、すいません・・・」
「・・・・・・。」
おなじみの舞台衣装に身をつつんで立ちつくす僕らって、すごくマヌケだと思う。
とあるローカル番組のロケでこの公園に来たまではよかった。
が、何かトラブルが起きたらしく、撮影は一時中断。
「あと、どのくらい・・・?」
「最低、一時間くらいは・・・」
しかも。
「時間潰しに、漫画喫茶とか」
相方に提案してみる。
「無いな」
そっけない。
「せめてコンビニ」
もう一度いってみるが、
「無いな」
やっぱりそうか。・・・いい感じに街から離れたこの場所に、そういった類のものは無いのだった。
はぁぁぁっ、とため息をつく。本当に、これから一時間以上どうやって過ごせばいいんだろう。
「あっちのベンチで待ってようか」
「ん」
少し沈んだ気分で、広い公園の中央に立つ樹の下に見つけたそれへ向かい、歩きだした。
265
:
263
:2005/08/08(月) 19:40:46
「そんなんどこから見つけて来たん」
ベンチに私が座っても相方はそうせずにどこかへ歩いていってしまい、
そしてしばらくしてボールを抱えて戻ってきたのだった。
よく見ると、彼の歩いて行った方向には、ひっそりと設置されたバスケットゴールがあった。
「砂場のとこでね、忘れ物かな。拾った」
そう簡単に答えると、彼はいい暇つぶしができたといわんばかりにボールをついてみせた。
ポンポンと音をたてて、それは軽く弾む。
バスケには適してなさそうなおもちゃのボールの黄色が、まっすぐゴールに吸い込まれていった。
266
:
263
:2005/08/08(月) 19:41:50
(よし)
心の中でガッツポーズ。きちんとゴールに入った。思い通り。
この胸がスカッとするような感覚が、学生時代から好きだった。
しかしそんな気分とは裏腹に、間抜けな音でボールはこの手に戻ってくる。
「・・・・・・。」
まぁ、無いよりマシだし、と気を取り直し、ふと相方のほうを見る。
彼女がスカーフ(正しくは、その下に隠れているペンダントの石)に触れると、赤い光が彼女を包む。
そして聞き慣れた口笛が高く長く響く。そのあとは、決まって鳥の羽音が聞こえてくるのだった。
――鳥を操る。空を飛ぶ以外に彼女が使うことができるもう一つの力。
(しずちゃんにピッタリだよなぁ)
ハトやスズメや、それから何かよく分からない鳥が、彼女の肩へ、頭へ、足元へ降り立つ。
そんな光景を耳で感じつつ、もう一度ボールをついて走り出した。
今度はゴールのふちに跳ね返り、外してしまう。残念。でも実をいうと、この感覚も嫌いではない。
「僕が近づいたら、逃げるかなぁ?」
ふいにそんな言葉が口をついて出た。
彼女が座っているベンチの向こうではスタッフが慌ただしく走り回っている。
もちろん今、彼女(と鳥たち)に近づいて見ようだなんて思いもしてないのだから、こんな質問に意味など無い。
なのに口に出したのは、向こうの騒がしさとこちらの静けさの落差が、嬉しくて堪らないからだろうか。
267
:
263
:2005/08/08(月) 19:43:34
「僕が近づいたら、逃げるかなぁ?」
つい何となく呼んでしまった鳥たちが羽ばたくたびに頬に風を感じながら、
(上着くらい脱いだらええのに)
妙なお節介を頭の中で焼いていた矢先の彼の言葉だった。
胸の前でボールを抱えた彼に何て言おうかと口を開きかけたそのとき、
わぁっ・・・と声にならない声をあげながら五、六人の子どもたちが楽しそうに公園へ入ってきた。
「あっ、俺のボール!」
子どもの一人がそう言うと、彼らはそれが合図だったかのように相方のまわりに集まっていく。
「あーごめんねー、ちょっと借りてた」
彼がにこやかにそう言うと、
「返せ」
子どもたちは嬉しそうに彼へ突進する。
「えーなんで、一緒に遊ぼうよ」
「やだ」
「えー?」
そのままじゃれ合いが始まった。それにしても、赤ん坊はさておき、彼は子ども受けが良い。
もしかすると、あの子らくらいの小学生が夢中になるモンスターなどと同じ匂いでもするのかもしれない。
それに、私が言うのも何だが、彼はなかなか長身である。
そのため今もボールの奪い合いの途中で一人を抱え上げ、擬似ダンクシュートをキメていた。
(あーあ、これ全員にやらなアカンで)
案の定その通りになって、彼は律儀に一人一人に同じ事を繰り返し、すっかり汗だくになっていた。
(上着・・・)
立ち上がろうとする前に、後ろの人の気配に気がついた。撮影が長引くと言っていたスタッフだった。
「準備出来たんですが・・・楽しそうですね」
「ああ、・・けっこう、早かったですね」
腕時計にちらりと目をやりながら振り向くと別のスタッフがカメラをまわしていて、思わず苦笑した。
「しずちゃん」
相方の呼ぶ声がして、ボールがこちらへ転がってきた。それを拾い上げて、足で軽く飛ばす。
彼はそれを受け止めて、手招きをした。走り出すと、いつのまにかまた集まってきていた鳥たちが再び、
飛び立った。
268
:
263
:2005/08/08(月) 19:54:30
終わりです。思ったより長くなかったですねorz
季節ははっきり決まってないですが、何となく時期とか時間とかは
最近?だと思います。生まれて初めて書いたんで、何がなんだか・・・orz
269
:
名無しさん
:2005/08/09(火) 00:18:59
乙です
ほんわかした雰囲気でいいですねv
270
:
名無しさん
:2005/08/09(火) 03:26:20
乙です!初めて書いたとは思えない素敵さです。
子供受けがいい山ちゃんに対するしずちゃんの評価にワロスw
271
:
名無しさん
:2005/08/09(火) 17:32:02
南海ほのぼのしてて素敵ですね。
山ちゃんモンスター系かw
272
:
263
:2005/08/11(木) 19:26:11
>>269
できるだけマターリ、を目指してたんでそう言ってもらえて嬉しいですv
>>270-271
そこに気付いてくれて㌧クスですw
実は南海話の書き手さんの連載が終わったらその後の話として
書きなおして本スレに投下したいと考えてたんですが、自分で
読み返してみると恥ずかしすぎて無理なことに気がつきorz
いつか上達したら実際に参加してみたいです。
感想ありがとうございました。
273
:
けふえーる
◆J5DaNPfmbA
:2005/08/11(木) 23:43:18
はじめまして。
けふえーると申します。
山里氏ほんわかな小説の後で申し訳ないのですが、わたくしめも駄文ながら投稿したい次第でありまして。
しかし添削スレッドに投稿する勇気が無いのと、ジャンルも外れていると思いますので、ここに投下致します。
しかしビビッてまだ胃がきりきり痛みます。コワイヨー
274
:
黒と白 -芳香-
◆J5DaNPfmbA
:2005/08/11(木) 23:46:19
まあやは言いました。
『 いいにおいがする』と。
そうするとかみをくくった女の人が、いいました。
『わたし、こう水つけてないよ』
『そうじゃないのです。』
まあやはそう言ったきり、なにも言いませんでした。
女の人が、まあやにききました。
『ねえ、この石はなあに』
そう女の人がきいたので、まあやはにんまりとして、とくい気にこういいました。
『つかいかたは すぐに、わかります』、と。
―――たどたどしい文字と、その文字に想像される年齢の割に大人びた文章。
そして端にちびた色鉛筆を力いっぱい握り締めて線を書かれた、
緑の地に黒い線が入った丸。
「…かわいいな。…小説、なのかな。」
この原稿用紙を飛んできた方向の家に、きれいな4つ折りにして、そっとポストに押した。
ブラックアンドホワイト フレグランス
「…あなたのお名前は、まあやっていうの?」
ずっと沈んでいたはずの文字が、突然脳裏に浮かんで、無意識のうちに口をついて出て、即座にはたと唇を両の掌で押さえたが、すでに言葉は出きった後だった。
「…ごめん。ちが…」
「そうですよ」
いとうが言葉を続けようとした時、子供がにんまりと唇の端々を吊り上げて笑って、妙に大人びた物言いで言った。
「よく分かりましたね」
吊り上げた唇から小さな笑い声が洩れて、ふふと嘲笑じみた声が聞こえた。
―――まあやが突然吊り上げた唇を下ろして黙り込んだ。
「…いいにおいがする。」
先ほどとは明らかに違う様子で、子供がごねるように言って、いとうのほうを見上げた。
「私、香水付けてないよ」
「…そうじゃないのです。」
きっとそういうことではないのです、と、言いたかったのであろうまあやは、言い終わった後に頬をぷくとふくらませた。
「…この石はなあに」
いとうがそういった瞬間、まあやは膨らませた頬の空気を抜いて、ふふんとまた得意気に笑った。
「使い方は、すぐに、わかります。」
―――――――――――――――――――
一旦ここで区切りを入れさせて頂きます。
どうもはじめまして。
とても緊張シテイマス。
たまにコピペシテ抜かしているところもあるので、抜けているところがあればご指摘よろしくお願いします。
あと、お分かりでしょうがいとうさんはいとうあさこさんの方です。
275
:
けふえーる
◆J5DaNPfmbA
:2005/08/11(木) 23:49:30
ああ申し訳ございません
誤字がふたつも(汁)
とても緊張シテイマス→とても緊張しています
コピペシテ→コピペして
です。
本当に申し訳ございません。
276
:
名無しさん
:2005/08/12(金) 00:20:25
>けふ氏
内容はいい。凄いいい。
・・・でも、主役のコンビがワカンネ
277
:
名無しさん
:2005/08/12(金) 09:27:47
>けふえーるさん
おお、何だか今までになかった感じ。謎の子供が気になる。
いとうさんで来たのも何か好き。がんがってください。
278
:
けふえーる
◆J5DaNPfmbA
:2005/08/12(金) 11:08:50
ご、ご感想をさっそくありがとうございます。
>>276
さま
いとうあさこさんで、コンビではなくピン芸人の方です。
>>277
さま
それは私が変わり者ということでしょうか?
それはともかくがんがります。
えー続き投下致します。
稚拙なところはなにとぞご勘弁を。
279
:
黒と白 -芳香-
◆J5DaNPfmbA
:2005/08/12(金) 11:13:33
ブラックアンドホワイト フレグランス 2
「…?…この石に使い方なんてあるの?」
いとうがそう聞いて、握っていた手を開いて緑色の石を見せると、まあやはこくりと頷いて、また話すためにいとうの目を見た。
「この石は、力があるんです。正しい方法で使えば、いざとなったとき護ってくれます。」
「…どういうこと?」
力と護ってくれるがひっかかったらしく、
「私はそれだけしか分からないです。」
「…わかんないなあ」
「要は自分で考えてくださいってことです。」
「…うん。」
いとうの言葉を完全に遮って、なかば強制的に石の話を終わらせると、まあやはそのまま黙り込んだ。
――――――――――――――
ど、どうも小説投下です。
とりあえずここで…。
ただいま続きを考え中です。
すすいませんすいません
280
:
名無しさん
:2005/08/12(金) 11:54:36
早!次回も楽しみにしてます。
いいストーリーなので、そんなにあやまんなくていいです。
本スレ投下時に「文はいいけどコメントウザス」とか書かれないように気をつけて
がんがってください!
281
:
黒と白 -芳香-
◆J5DaNPfmbA
:2005/08/12(金) 12:22:50
>>280
さま
どうもありがとうございます。
根が小心なので多々謝ってしまうと思いますが…
これからはほどほどにしていこうと思います。
とりあえず段落終わりのすいませんコメントはとめます。
282
:
280
:2005/08/12(金) 15:03:22
こんなに面白い文章を書いておられるのに、
厨扱いになりでもしたらもったいないので、ぜひほどほどで。
今後の展開も楽しみにしております!
283
:
黒と白 -芳香-
◆J5DaNPfmbA
:2005/08/13(土) 15:02:02
ブラックアンドホワイト フレグランス 3
しばしの沈黙のあと、まあやが再び口を開いた。
「この石を、どんなときも離さないでください。もし危険にさらされたら。この石に祈ってください。きっと護ってくれますから。」
そう言ってまあやはぺこりとお辞儀をするとそのまま何処かに行って、その背中を見送ったいとうはそこに残されてぼやと突っ立っていた。
「…あ。いけない。行かないと。早く。」
いとうがそう口に出して、突っ立てていた身体を動かした。
*
『次長課長 井上様 河本様』と乱雑な文字で書かれた紙が貼られて、汚い字、などと思いながらいとうはその紙に視線を寄せた。
「どしたんですか。」
うしろで特徴のある声が聴こえて振り返ると、そこに小さな男がひとり立っていた。
「うわぁっ」
「あ、いとうさん…ですか。」
驚いて小さく悲鳴を上げたいとうに向けて河本が細い声で言い、その後にいとうが向いていた視線の方向を見た。
「また何でこんなの見てたんですか?」
「…いや、汚い字だなぁって思って。すいません。」
不思議そうに河本がいとうを見ると、いとうが先ほどの河本よりもか細く小さな声で、言葉を押し出すように言った。
「…わたし、ちっちゃい女の子から綺麗な石もらったんですよ。」
少しの間黙っていたいとうが唐突に切り出して、ジーンズのポケットから石を取り出し、掌の窪みに石を置いた。
「へえ。綺麗ですね。石の名前はわかります?」
「生憎わからなくって。」
「…そうなんですか。それ―――」
「…あ、すいません、!もう行かないと!」
河本がもうひとつ言葉を続けようとしたとき、遠くでいとうを呼ぶスタッフの大きな声が聞こえて、いとうは河本の言葉を聞かぬまま、小走りで河本の元を去った。
「…トラピッチェエメラルドですよ、って言おうとしたんだけどなぁ。」
河本が続けようとした言葉を呟いたとき、もう去っていったいとうにその声は届いておらず、スニーカーを履いて急ぎ足で歩く、自らの足音だけが聞こえていた。
――――――――――――――――――――――
ブラホワフレグランス・石とまあやと河本と・出会い編はいちおうここで終了であります。
ずいぶん長々してしまって申し訳ございません。
正体解明編と戦闘編はもう少し後になるかと思われます。
それと口調がわからなかったのでどっちも敬語に致しました。
間違いがあればご指摘ください。
284
:
名無しさん
:2005/08/13(土) 16:58:15
おお、次長課長と絡めるんですね。
いとうさんの能力も気になるし、続きが楽しみです。
285
:
◆BKxUaVfiSA
:2005/08/13(土) 18:33:24
ビビる大木の話を書いてみました。まだ途中までですけど…
まずは投下します。
286
:
◆BKxUaVfiSA
:2005/08/13(土) 18:43:01
〜コール〜
「おーい、ちょっと。俺の話ちゃんと聞いてる?」
「はいはい。もちろん聞いてますよー…」
とある喫茶店の中。二人の男が、素麺をすすりながら会話をしている。
麺が伸びてしまうのも気にしないと言った風に、箸を振りながら一方的にペラペラと喋っ
ている茶髪の男が、向かいの席に座っているやや小太りの男の顔をズイッ、と覗き込んだ。
「でさー……そんでさぁ……なっ、馬っ鹿だろー?」
「へぇ、そうなんですかー」
―――それは前にも聞きましたよ。何回も。
とは、いくら仲が良くても相手が先輩なので絶対言えない。それ以前に、こんなに楽しそうに話してくる彼を無責任な言葉で傷つけたくないこともあったが。
苦笑を浮かべ軽く溜息を吐く。そして再びオチの分かり切っている話に耳を傾けた。
「大木ぃー、お前のメロンソーダ旨そうじゃん。ちょっと頂戴」
茶髪の男が身を乗り出して、綺麗なグラスにアイスが盛りつけられているメロンソーダに手を伸ばした。
大木は慌ててその手を払いのける。
「だ、駄目!駄目ですよ!これ俺のなんですから!」
「じゃあアイスの部分だけでいいからさぁ〜」
「それ一番駄目なトコじゃないすか!」
テーブルをガタガタと揺らし、大声を上げながらジュースの取り合いをする。
だがさすがに周りの客の突き刺さるような視線に気付いたのか、戦いは自然と一時中断され、二人は軽く愛想笑いをすると、縮こまって再び椅子にゆっくりと腰を下ろした。
「あ〜あ、何かつまんねーの!面白い事ねぇかなー…」
キシキシと音がするくらいに体重を掛けて行儀悪く椅子の背にもたれかかり、茶髪が呟く。
大木はそれを見ながら、転倒しないだろうか、などと行き場の無い手を宙に彷徨わせてハラハラしている。
287
:
◆BKxUaVfiSA
:2005/08/13(土) 18:43:48
「あ…そういえば最近、番組で共演してるくりぃむの二人や川島君たちの様子が、何つーかちょっとおかしいんですよ」
「ふうん?」
「何か“石”がどうのこうの言ってて…」
「石…」
石。その単語を聞いた途端、茶髪男の目の色が変わった。体制を正し、テーブルの上に肘を乗せる。
「へ…?何か知ってんですか?」
「ふふーん、まあね!そっかー、お前にもついにコレを渡すときが来たな!」
どっかのゲームに出てくる師匠のような台詞に少し吹き出した。
「えー何です?何かくれるんですか?」
冗談半分で手の平を差しだしてみると、
「ほいっ!」
綺麗な石を手の中に落とされた。わずか3センチほどの、小さな赤みがかった石。
先端が曲がっていて、中学の社会の教科書で見たことがある形だ。
「勾玉じゃないすか。すげ、本物の宝石ですか?」
手の平でころころと転がしてみたり、天井のライトの光に当てて反射させてみたりと、大木は石の観察に忙しない。
その横で、茶髪の男がメモ帳を取り出して何かをサラサラと書いている。
それを小さく折りたたんで大木に握らせた。
「何ですか、コレは」
紙を開こうとすると、男に制止された。
「あー駄目駄目!いい?コレはその石とセットだから。ピンチになったら、その紙を開いて、書いてある事を読めよー」
「は…ピンチって…え?」
「はいはい、この話は終わりー!あ、それよりさぁ。さっきの話の続きなんだけど…」
男は大木の問いかけを遮りにっこりと笑ってはぐらかすと、またいつものように雑談を始めた。また以前に何度も聞かされた話だ。
大木は男の態度に疑問を持ちつつも、深く考えず、いつものように相づちを打った。
288
:
けふえーる
◆J5DaNPfmbA
:2005/08/13(土) 18:43:54
◆BKxUaVfiSAさま
ビビる大木ですか…私には考え付かない人選です。
ぜひ投下してください。楽しみにしております。
289
:
◆BKxUaVfiSA
:2005/08/13(土) 18:44:36
「じゃーな。ボンス、また遊ぼうな!」
妙なあだ名で大木を呼ぶ男は、大きく手を振って喫茶店から出て行った。
一人残った大木は手を振り返しながらコーヒーを飲んでいる。
テーブルの端に置いてあった紙を開こうとするが男の言ったことを思い出し、踏みとどまった。
そして、あの勾玉と一緒に鞄の中にしまい込んだ。
「どういう事なんだろ…」
大木が呟くと同時に、
「あー、そうそう!」
ドアが勢いよく開き、茶髪の男が突然戻ってきた。
その真剣な瞳にぎくっ、と身体が強ばる。
「な、何ですか…」
「お前さー、俺が話してる事何回言っても覚えねーよな?」
………………
「はぁあ!!?」
身体の力が一気に抜けた。
290
:
◆BKxUaVfiSA
:2005/08/13(土) 18:48:23
ここまでです。どうですかねコレ…。
あーやっぱ妙な人選だったんだ。
ちょっぴり大木さんの実話を元に書いてます。
291
:
けふえーる
◆J5DaNPfmbA
:2005/08/13(土) 18:55:01
◆BKxUaVfiSA
いや他意はないれす。純粋に個性的でいいなと思っております。
それはともかく面白いです。凄く。続き投下待っております。ボンステラワロス
292
:
けふえーる
◆J5DaNPfmbA
:2005/08/13(土) 18:56:56
うわあ様つけ忘れ
ご無礼を働きましてどうもすいません。
293
:
名無しさん
:2005/08/14(日) 09:52:13
>◆BKxUaさん
おお、大木さんで来るか!…いえ単純に感心です。
面白かったです、続きお待ちしてます。師匠ワロスw
294
:
名無しさん
:2005/08/14(日) 11:42:19
乙!
次に繋がりそうなシナリオだなあ…あと相手はやっぱりドリームボンバーかな?
あとけふえーる氏、作品投下以外はコテ名乗らない方がいいよ
295
:
そして僕らは完全となる。 DLEARTMI
:2005/08/18(木) 01:36:50
トータルテンボスのストーリーを書いているものです。
今から投稿する文章は、まとめサイトさんにまとめてもらってあるものの続きです。
死ネタではありません。
また、流血シーンがあるので、注意してください。
296
:
そして僕らは完全となる。 DLEARTMI
:2005/08/18(木) 01:41:21
「藤…田…」
みるみる廊下に広がる、真っ赤な血。
まるで嘘のように
彼は動かない。
血がポタポタと垂れ、震える体を物ともせず、俺は藤田にすがりよった。
虚ろに開いた瞳。その瞳に、俺は映っていない。
「……藤田………」
まるで心が暗黒に包まれたような絶望感が、心臓を貫く。
“俺はこいつ置いて逃げるなんてできねーよ“
どうして?
“死にたくは無い。でも俺はここを退かない”
どうして……?
コツ、コツ、コツ、………吉田が大村の前で立ち止まる。
ピクッ、と反応する体。
でも、顔を上げる事は出来ない。
その瞬間に、絶望は確実なものになるような気がして。
「大村さんが大切なあまり、未来を読み違えましたね。
だから藤田さんは直、死にます。
でも大村さんは悲しまないで下さい」
すっとしゃがみこみ、血で赤くなった手を軽く、大村の顔に翳した。
「だって あなたも死ぬんですから」
297
:
そして僕らは完全となる。 DLEARTMI#
:2005/08/18(木) 02:04:20
凍りついた神経。
視界がセピア色に染め上げられる。
とてもゆっくり
感覚の中ではとてもゆっくりと
吉田の攻撃が迫ってくる
シヌ?
―――――オレガ?
ヤダ
嫌だ
死なない
俺は
「嫌だ!!!!」
パキッ
ビッ
ピキピキ…
バン!!!!!
銃声を彷彿させるような音。
瞬間に悟る。俺は死んだんだ。
でも痛みはない。
一体どうして…?
298
:
そして僕らは完全となる。 DLEARTMI#
:2005/08/18(木) 02:30:11
「……これは………」
戸惑ったような吉田の声。
俺は強く閉じた瞳をゆっくりと開けた。
…?
俺と吉田との間に存在する空中に入った、真っ黒な空洞―――時空の歪み。
何もない。ただの黒。無空間、というのだろうか。
端々に亀裂が走っており、この時空間のものではない事がわかる。
初めて見る、こんな光景。
それなのに、その光景は何となくしっくり来て。
無意識に俺が空洞に手を翳した、その瞬間。
バキッ…バキバキバキバキバキバキ!!!!!
耳を劈くような音に比例して、暗黒の亀裂が塞がっていく。
最後に、ひどく低い音がして亀裂が埋まったかと思うと、カツン、と何かが廊下に落ちた。
血で汚れた廊下に一際目立つ、眩い光。
「……石……」
………俺の、だ。
今までは、自分の中で二の次、三の次だったはずの石が、今は言い様が無いほどいとおしく思われ、
感覚の無いはずの右手が、知らず知らずにそれを握り締める。
腕を覆い滴る紅に勝るほどの、手から溢れる光。
「………石………」
―――ほとんどの奴が石に魅了されちまうんだって
―――その中の半分が、黒に転身するらしいぜ
だらしねぇなぁ、と笑っていた自分が心の中で砕けた。
正論だった。
ちくせう。
299
:
そして僕らは完全となる。 DLEARTMI#
:2005/08/18(木) 02:33:07
黙ってその光景を眺めていた吉田は俯きながら、血濡れた手を下ろした。
顔こそ無表情であったが、頭の中では様々な考えが素早い回転を見せていた。
胸ポケットにしまわれていた吉田の石が、突如現れた大村の石に強い反応を示す。
激しい反応―――つまり、それは警告を意味する。
警告の意味を悟った吉田は静を保ったまま、スッと立ち上がった。
服についた血がポタポタと床に滴る。
大村は吉田を目で追わなかった。少なくとも、追うほどの余裕はなかった。
石の誘惑に負けたのだ、自分は。
吉田は無言で、石に依存した大村と、ぴくりとも動かない藤田を眺める。
それは、絶望を形容するにふさわしい光景だった。
彼らにあった希望はすべて絶望に変換され、未来さえも真っ黒な。
吉田はふぃと目を逸らした。これ以上、直視する意味はない。
騒がしくなってきた外界に目を細めた。そろそろ退散しなければいけない。
踵を返し、しかしぴたりと立ち止まる。
「大村さん、これだけは覚えておいてください」
血の中で、大村はゆっくりと顔を上げる。
吉田は背中に鋭い視線を感じ、微かに俯いた。
「殺せば、殺されますから」
静寂の中。
俺が何を言っているのか、意味はわからないだろう。
俺と何の関係があるんだ、と睨んでいるんだろう。
ゆっくりとした足取りが、外へ続く扉に向かう。
ガチャリ、と開いた扉に、吉田は独り言のように呟いた。
「いずれ分かります」
無表情の中に、ただの一つも正の感情はなかった。
300
:
そして僕らは完全となる。 DLEARTMI#
:2005/08/18(木) 02:35:58
吉田は血塗れた上着を階段に脱ぎ捨て、繁華街へ向かった。
鋭利になった殺意を抑えるには、それが一番良い。
包帯で隠した右手の傷口が、じんじん痛む。
「…………」
“嫌だ!!!!!”
彼がそう叫んだ瞬間、確実に彼の魂は石を呼び寄せ、体は淡く光った。
何も無かった空間に突如現れた亀裂――――時空の歪みは、俺の力をやすやすと吸収した。
その証拠に、大村を殺す為に放出した力は奴に届くことなく、しかし俺には確実な疲労感を与えた。
また、その時空の歪みは大村の力でありながら、奴は自分が発動した力の存在を知らなかった。
そして、俺にとっての最大の着目点は、
奴の呼び寄せた石の光に、明らかな『黒』の光を見出した事だった。
濁った、透明を阻む鈍いベール。
それがどういう事か。
繁華街を歩きながら、相方と待ち合わせたバス停で立ち止まる。
人通りの多い街にあるバス停は、たくさんの人が並び待っていた。
自分とは待つものが違うが、傍から見たら自分もバスを待っている事にされる。
列から一歩退き、レンガの花壇に腰掛ける。
人から離れたのは紛れも無く、血の匂いを悟られる事を危惧していたからだ。
足を組み、手を組んで目を閉じる。
人の雑踏が耳に馴染む。
自分の育っていく中で欠く事のなかった音だ。
「…………」
―――この雑踏に混じって、いっそ自分が流されてしまえばいいのに。
踏み込んでしまった弱さに眉を潜め、戻れない過去に強く目を瞑る。
自分は人を笑わせるはずなのに。 今はそれさえもできない。
殺しに手を掛けた人間の言葉を誰が笑うだろうか。
一体誰が。
301
:
そして僕らは完全となる。 DLEARTMI#
:2005/08/18(木) 02:45:13
救急車とパトカーと野次馬と。
ざわざわした雰囲気を感じながら、眠そうな感じで建物を歩く。
建物、といっても本社だ。
どこをどう歩いたら、事件現場に繋がるのかぐらいは知っている。
明らかに騒がしい下の階へ偶然を装い、降りていく。
踊り場を曲がった時見えた光景には、さすがの自分も眉を潜めた。
吉田が二人をおびき寄せるために、自分の血液を急激な気圧変化によって爆発させたであろう
この部屋には、もとは少量だったはずの血液が、満遍なく飛び散っていた。
そして驚くべきは…床に広がる、生々しい血液。
どんなに冷たくて気持ちよくても、俺は血の海じゃ泳ぎたくはない。
騒然とした雰囲気に飲まれそうな気持ちの中、聞き慣れた声が耳についた。
「藤田、おい藤田!!!!
目ぇ開けろよ、おい!!何でだよ!!!何で寝てんだよ!!!藤田!!!藤田!!!!!」
「大村さん、落ち着いてください!大丈夫ですから!!」
「藤田!!!藤田ぁ!!!!」
押さえ込まれた大村さんは、それでも尚、暴れている。
自分のものともつかない血で体を汚している大村さんは、倒れて動かない藤田さん目の前に錯乱している。
尋常じゃない、普通じゃない、ぱんぱねぇ。そうなのかなぁ?
普段ひょうひょうとしている大村さんからは想像出来ないほどの血相と瞳の色。
自分の傷の痛みもきっと忘れているんだろう。あんなにも怪我をしているのに。
それほど大切な人ってことなのかなぁ。
担架に乗せられた藤田さんに、俺は慌てて階段を下りる。
救急隊の人が大村さんを押さえつけ担架に乗せるも、
大村さんは錯乱のあまり、藤田さんの名前を繰り返すばかりだった。
頭がぼうっとしてきたのか、静かになっていった大村さんは最後に呟いた。
「藤田…ごめん………俺が…………悪い…………」
その瞳は宙を仰ぎ、誰も、何も映っていなかった。
302
:
そして僕らは完全となる。 DLEARTMI#
:2005/08/18(木) 02:46:07
―――すみませんでした、トータルさん。
そう小さく呟いて、手中の石に力を込める。
それは突然、かぁっ、と熱くなったかと思うと、全身を劈くような痛みで体が重力に耐えられない。
辛うじて壁に手をつき、ずるり、と膝をつく。
嫌な汗が額にうっすら浮かび、すぐにポタポタと床にたれた。
こんな時は、負けてしまう。
――――あんまり痛いなら、その黒い欠片にダメージを注ぎ込めばいい。
そんな事したら、黒の組織に迷惑掛かるんじゃないですか?――――
――――それを飲み込めばいいんだよ。それはお前にも、組織にも都合がいい。
黒い石の欠片なんて飲み込んだら、どうなるんだろう。
少なくとも、本当の意味での『すべて』が支配されちゃうんじゃないだろうか。
痛みが引けない。二人分の傷はさすがに重たかったかな。胸がいっそう苦しくなる。
「君、何してるの?どうしたんだい?」
声の先を見上げると、年配らしい警察の人がこちらを眺めている。
思惑外の出来事に、痛みをぐっと堪えながら言葉を返す。
「上から来たんですけど……血、見たら…気持ち悪くなっちゃって………」
あぁ、という顔で背中をポンポンと叩く。大丈夫?という事だろうか。
「吉本の人か。………あいつら知ってるのか?」
年配らしいこの人が、親指で大村さんの方を指す。
「はい…。先輩ですよ」
もっと何かしらコメントしてみたいが、体中が痛みのピークを記録している。
この人がいなければ、黒い欠片に依存してしまっている頃だ。
「人間怖いな。
こんな事で人ってああなっちまうんだ。
覚えておいた方が良い。人なんて殺すもんじゃない
どれだけの人が悲しむか、なんて。考えたら分かる事なのにな」
「…………」
吉田の顔が頭を過ぎる。
未だ、殺す事はしていないが、もうほとんど殺人に手は掛けている。
そしてそれを止める事は、今の自分にはできない。
寂しそうな背中をただ、一番近くで眺める事だけ。
ここで、やっと痛みが引いてきた。
そうとなればこちらのものだ。もうこれ以上痛む事は無い。
「ありがとうございました、もう大丈夫です。すみませんでした」
頭を下げて、血の匂いから離れた。
玄関を通り抜けると、先程よりも増えた野次馬。救急車。
何を期待して、こんな光景を見てるんだろう。
野次馬に紛れ、壁に背を預けて救急車が出て行くのを見送る。
目を瞑り、腕を組んだ。 野次馬がぞろぞろと消えていく。
「…それはどういう事なんだ」
さっきの年配の警察さんが、どこかで怒鳴っていた。
「これが事故だって?…何抜かしてんだ、これは事件なんだぞ」
真剣な声。神経を集中させて、その声を聞き取る。
「上層部の命令?…なぜなんだ……」
「……見て見ぬふり、か」
ひどいなぁ。
そこまで手が回ってたんだ。
もともとの期待こそ無かったけれど
警察も関与しないとなると…。
寂しそうな吉田の背中が目に浮かぶ。
―――本当に誰も 助けてはくれない
う〜ん、と口を結び、俯いた。
太陽はとっくに傾いていた。
303
:
そして僕らは完全となる。 DLEARTMI#
:2005/08/18(木) 02:47:42
「…ねぇ、待ったぁ?」
背後から聞えた声。
目を閉じたまま応える。
「…うん、まぁね」
立ち上がる。着いて来る足音。
「ちゃんとやっておいたから」
「……大丈夫だった?」
「ん?あ、全然大丈夫」
「……ごめんな」
吉田が俯く。阿部はゆるい笑顔で返す。
「まぁ気にすんなよ」
“明日、仕事が入ったんだけど”
吉田にそう言われて、わかった、と軽く返して昨日の今日。
力を使いすぎていても、弱音を吐く訳にはいかない。
一度しくじれば少なくとも、二人もろとも終わってしまうのだから。
「引き込むの?」
阿部がこちらの表情を伺う。
吉田はいつもの無表情よりも柔らかい無表情で返す。
「引き込む必要もない。
自分から入ってくる、きっと」
「…ふぅん」
阿部は、頭に両手を回して話を聞く。
吉田は続けた。
「大村さんは石の能力の中で最も開けちゃいけない扉を開けちゃったんだ。
申し訳ないけど、もう石の争いから逃げられない」
「あーあ。残念」
「残念だけじゃすまないかもしれない」
吉田が阿部に目もくれずに答える。
「大村さん、もともとは悪の力に富んだ石を授かったみたい。
それを黒として使おうと思ったら…」
そこまで言いかけて、口を閉ざした。
いい。いずれ分かる事だ。
阿部もそれ以上追求する事も無く、吉田の隣を無言で歩く。
「それよりさぁ吉田、俺が3時間前に買ったこのほかほかコロッケ食べる?」
「3時間前に買ったの?」
「うん」
「だったらもうほかほかじゃないよ」
「そっかぁ。そうだっけ?」
「なんで認めてから聞いてんの」
隣を歩きながら自分の意識がだんだんしっかりしてくるのがわかる。
口にこそ出さないが、阿部が俺に対して力を発動しているのだ。
何も言わない。
それが俺には怖い。
「阿部」
「んん?」
「…お前は本当にこっちでいいの?」
吉田が立ち止まる。
阿部はそれから2、3歩進んでから立ち止まり、振り返った。
「…どうして?今更」
「望んでないんだろ、こんな争い」
「うん」
「だったら黒にいるのは俺だけでいい、と思う」
苦しいのは俺だけで十分だ。
304
:
そして僕らは完全となる。 DLEARTMI#
:2005/08/18(木) 02:50:00
あの日。
考えてみれば、絶対に俺は阿部にとって嫌悪的な決断をしたんだと思う。
脅されて、それに怯えた俺の一方的な説得で無理やり納得させられて。
今日、あの二人を見ていて思った。
あの二人は頑なに、石を使おうとしなかった。
それがあの二人の中での決め事だったのか、それとも偶然だったのかはわからない。
でも、この石には人それぞれ使い方がある。
人を傷つけるため、仲間を助けるため、生活を楽しむため、不便を補うため。
俺はこの石を、人を傷つけるための道具として使うと決められた。
「お前はその石をどう使いたい?」
「吉田の為に使いたい」
「……………」
即答。
「この間も言ったけど、俺いなかったらお前死んじゃうじゃん。
俺ぁそんなの嫌だからさぁ」
「………本当にいい?」
「本当にいい」
「……そう」
そして、何事も無かったかのように歩いていく。
―――もう後戻りは出来ないんだよ
阿部の頭には、いつだか、吉田の呟いた言葉が頭にリフレインして、闇に沈んだ。
―――本当にごめん
先を歩く吉田に首を振った。
月明かりに照らされた石が黒い光を放ち、やがて消えた。
305
:
そして僕らは完全となる。 DLEARTMI#
:2005/08/18(木) 02:59:09
一旦ここで切ります。
大村さんの能力についてですが、『嫌』という言葉に反応して、
攻撃の回避率をアップさせた、と考えてください。
私が考えるに、大村さんの石の能力にはタブー(言ってはいけない言葉。ここでいう『嫌』)
があって、それを冒してしまうとあのような力が出てきてしまう。
あの力は危険な力として扱っています。
以上です。
306
:
名無しさん
:2005/08/18(木) 07:59:11
乙・・・と言っていいよな?
文全体から出る、物語に対する負のエネルギーが凄いw
なんか読んでて圧倒された。
ところで、鳥つけれてないよ。
307
:
◆EI0jXP4Qlc
:2005/08/20(土) 00:11:26
したらばにお越しの皆様おはようございます。廃棄物がでたので不法投棄しに来ました。
なんかの、序章です。とりあえず設楽が出てきます。
只今南海キャンディーズの物語を絶賛執筆中の
◆8Y4t9xw7Nwさんの『鬼唄』の影響をもろに受けてます。
しかし、自分のフィルターに通して、加工しすぎました。
308
:
title『ブラックラック』
◆EI0jXP4Qlc
:2005/08/20(土) 00:13:12
Number,零 セカンダリーズヴォイド
留まる事無く歩き続けろ。決して振り返るな。
「貴方は何故、ここにいて、そして何処に行きたいのですか?」
シナリオライターが、俺にそう尋ねる。
「……小林君は、俺を恨んでいないの?」
逆に、そう尋ね返すと、彼は黙りこんだ。
「……別にいいよー。だって恨まれて何ぼだもんね、俺」
俺はそう言ってにっこり笑う。
何処まで、行こう?
人間は、生まれながら魂の容が決まっている。
それをどう変えていくかはその人次第だけど、俺は知っている。
結局、生まれながらの容を歪めてまでがんばっても、辛い思いをしても、ダメな時はダメ。ただただ、憐れな末路に向って歩いていくだけ。
あぁ、可哀想に。
「でもね、俺、別に世界征服とか、そういうのじゃないんだよ?」
俺はシナリオライターにそう言う。
「分かってますよ」
彼は機嫌を損ねたのか、若干言い方が冷たい。
「だからこそ、貴方がここにいる理由が、分からないんですよ」
と、彼は付け足す。
「小林君はさぁ、黒い欠片を持ってなくても、こっち側にいるでしょ。それってさ、理由はどうあれ、まさしく自分に正直になってるってことだよね。俺は、それがすごくいいことだと思うんだ。何もできずに不幸になるより、自分に正直になって不幸になったほうが、いいよね」
「……それが、理由ですか」
「いや、これは、俺の勝手な意見」
俺は再び笑う。なるべく自然に。
相手が相手だから、下手に飾らないほうが得策なんだ。だけど、シナリオライターは、少しだけ辛そうに黙り込んだ。
「あ、でもね。俺は誰かを不幸にする気なんて更々ないんだ。むしろ、みんなの幸せを願っているよ」
俺がそういうと、シナリオライターは意外だと言う顔をする。予想通りの反応。
しかし、その直後、なんだか納得したような顔になる。意外と、表情豊かなんだ。
でもこれも、予想通り。
「……でも貴方は」
と言って、シナリオライターが口を閉ざす。非常に、言い辛そうだ。普段なら「言わなくてもいいよ」と言ってやるところだが、
「でも、何?」
俺は、聞くことを選んだ。
「貴方にとって、本当に大事な人には自分のようになって欲しくない、と、思っているでしょう」
「……」
俺が黙ると、彼まで黙ってしまった。
気まずい重い沈黙とは、このことなんだと思う。仕方がないので、俺が口火を切る。
「いつか、あの「地獄主義者」と出遭ったとき、俺、感じたんだ。あの人は「世界を全部ひっくり返そう」としている。あぁいうのって、ヤバイよな? ま、俺が言うと説得力ないんだけど……」
俺は笑って見せるものの、
「何時までも、隠しきれると思わないでください。いつか「その時」は、必ず来ます」
シナリオライターは暗い表情のまま、至って真摯に、俺に忠告した。だから、
俺も、宣言する。
「……「その時」にはきっと、全ての人間の魂が、黒い魂になるね。」
このシナリオライターは、今の俺をどう捉えているのだろうか。
「例え小林君が、……シナリオライターが黙ってても、物語は続く。一つの終わりに向って、進んでいく。始まったんだから、必ず、終わる。ごく当たり前のことでしょ……。俺は、みんなに辛い思いをさせたくない。だから、俺は皆を、こっち側に引き込む。誰だって、自分のことを解ってもらえる誰かが、必要なんだから」
何処まで?
「……もっとみんな、自分に正直に生きなきゃいけない」
俺はそう言って、一旦話を切った。なかなか話し出そうとしない両者。仕方が無いから、再び俺が口火を切る。
「あ、「それじゃあの「地獄主義者」と大して変わらないじゃないか」って思ったでしょ?」
「地獄主義者って誰ですか」
「知ってるくせに。ね? 思っただろ?」
「……」
俺は笑う。なるべく自然に。
「ね、小林君?」
「思ってませんよ」
「違うよ。何で、敬語で喋るの?」
「……」
Is there any continuation?
Well,the monster will be coming.
309
:
◆EI0jXP4Qlc
:2005/08/20(土) 00:19:00
……。orz 以上です。
全画面だと読みづらいです。ごめんなさい。
相変わらず、続きがあるかどうかは謎ですっていうか、
現時点で続きは無いです。できるかどうかが謎です。
はい。残暑が厳しいことと思われますが、みなさま、ご自愛ください。
310
:
名無しさん
:2005/08/20(土) 10:36:51
…自分白派なのに、うっかり黒につきたくなってしまったじゃないかw
乙です。うわあ地獄主義者が気になるー。
311
:
◆BKxUaVfiSA
:2005/08/20(土) 14:52:43
>>289
の続きです
「帰ろうか、それじゃ」
残りのコーヒーを一気に飲み干して立ち上がった。
その時、男の客が二人で、黙々とケーキを食べているのが目に入った。
(はあー…珍しいなぁ…)
最近は若い男性にもすっかり甘党が増えて、ファミレスなんかで堂々と、チョコレートパフェなどを注文する。
だが、今大木が目に留めたのは、ファミレスよりも居酒屋が似合いそうな風貌の男達だった。
セットされていない髪に、寝不足なのかとろんとした目…。
色んな人間がいるな、と大木は首を振ってレジに向かった。
外にはもう茶髪の男の姿は無く、大木は一人で歩き出した。
信号が赤だ。足を止めて、ここの信号長いんだよなあ、などと考えながら目の前を通り過ぎていく車をぼーっと眺める。
すると、後ろからぽん、と無言で肩を叩かれた。振り向くと、さっき喫茶店の中でパフェを食べていた二人組が立っていた。
そして、いきなり大木の腕を片方ずつがっしりと押さえつける。
「ちょ、何すんですか!」
と、大木は言ったが、男達の行動がいかに素早かったかは、その言葉を言い終えた瞬間には、いつの間にか目の前に停められてあった車の後部座席に座らせられていた、という点からも分かる。
「誰なんだよ、あんたら…」
「おい、車出せ」
大木の言葉を無視して、一人が言った。
車が走り出すと、やっと掴まれていた手が離される。
大木は怖いよりも何よりも、ただ呆然としていた。
312
:
◆BKxUaVfiSA
:2005/08/20(土) 14:53:43
「あのー…何の御用?」
恐る恐る尋ねる。
「いえ、ちょっと聞きたい事がありまして…」
聞きたいのはこっちだ、と大木は思ったが、それ以上は口を開かなかった。相手の顔がどう見ても、友好的とは言えない顔をしていたからだ。
晩飯、遅くなっちまうな…。などと暫く呑気なことを考えていたが、周りの景色が段々寂しくなっていくのに連れて、恐怖感も生まれてきた。
連れて来られたのは、人一人居ない、寂れた倉庫。今はもう使われていないのか、角材や錆びた鉄パイプなどが無造作に置かれている。
天井のトタンは所々破れ、そこから夕日が漏れている。
車から降ろされると、男達も続いて降りてきた。
「…聞きたいことって…何だよ」
振り向きざまに、大木は思い切って尋ねた。
片方の男が口を開く。
「石ですよ。大木さん、受け取ったでしょう。喫茶店で」
「石…?」
そういえば、確かに受け取った。綺麗な緑の石を、あの茶髪の先輩から。
「それを渡して欲しいんですけど」
「渡して戴ければ無事に帰してあげます」
大木は少し戸惑った。そりゃあ早く帰りたいが、こんな見ず知らずの怪しい奴らに先輩から貰った物を易々と渡す訳にもいかない。
ふいに、石を渡された時の事を思い出す。何時になく真剣な口調、詳しく聞こうとするとはぐらかされた事。
石を他の人に見えないように自分の手に握らせた事…。
313
:
◆BKxUaVfiSA
:2005/08/20(土) 14:54:52
「大木さん?」
「…駄目だ…」
男達は難しい表情で顔を見合わせ、大木に視線を戻す。
「これは大事な物なんだ。悪いけど…渡せない」
「じゃあ、力ずくでも…!」
男が繰り出したパンチを間一髪で避ける。石の入ったリュックを脇に抱え込んで、走り出した。
走りながら振り向くと、何故か男達が追いかけてくる様子は無い。もう諦めてくれたのだろうか、などと考えていると。
「え…!?」
片方の男が腕を前に突き出すと、赤色の光が真っ直ぐ大木に向かって放たれた。
あり得ない光景に言葉を失ったが、直ぐ我に返り、しゃがみ込んでその光を回避した。
「無駄です!」
男がくいっ、と手を引くと、赤の光がまるで蛇のようにぐにゃりと曲がってUターンし、もの凄い速さで大木に命中した。
「うああああっ!い…痛ってえ!!」
気を失いそうな程の痛みに、思わず身体を抱えて倒れ込む。その拍子に口の開いていたリュックからバラバラと中身が撒け落ちた。
目の前にヒラリ、と小さな紙切れが舞い落ちる。少し前にはあの緑色の石が転がっていた。
「よし、落としたぞ」
男達が石を拾おうと駆け寄ってくる。
やばい、石、取られちまう…。
その時、大木の頭に、あの言葉が蘇った。
―――『ピンチになったら、その紙を開いて、書いてあることを読め』
もうどうでもいい。助けてくれ…!
大木は痛む身体を起こして、縋るような気持ちで紙を開いた。
314
:
◆BKxUaVfiSA
:2005/08/20(土) 14:56:32
ここまでです。とりあえず評判が良ければ続き書きます。
315
:
◆BKxUaVfiSA
:2005/08/20(土) 15:02:46
一応これも載っけときます
男1(どっかの若手?)
能力:赤色の光線を放つ。追尾機能付き。
5分以上休まないと次の光線は放てない。
316
:
名無しさん
:2005/08/20(土) 17:24:25
乙です
この先のバトルシーンも見たい。続編ぜひ!
317
:
名無しさん
:2005/08/20(土) 18:20:11
乙。大木イイヨイイヨー
あ、でもさここ最近このスレに投下する人って添削スレにはいかないのかな?
ここはあくまで話が繋がらないとかの都合でできた「廃棄」スレだから。
続きがどんどん繋がるならできればあっちに投下して欲しい。
318
:
◆BKxUaVfiSA
:2005/08/20(土) 18:30:35
あーそう言えばそうですね。
じゃあ次からは添削スレに投下するんで。
319
:
けふえーる
◆J5DaNPfmbA
:2005/11/12(土) 02:18:14
ブラックアンドホワイト フレグランス
「…来ましたよ。」
「どーも。」
井上が少し古くなった椅子の背に寄りかかると、きーきーと音が鳴り、それが河本には耳障りで堪らなかった。
「なぜここへ呼んだのですか。」
「…知りたいことがあんの。」
「何ですか。」
河本がおざなりな言葉を返してみると、井上は笑って河本を見つめた。
「あのいとうさんと真綾とかいうの。」
急な様子で井上が言い、椅子ごとをこちらに向けて、河本のほうを見た。
「…知らんなぁ。」
何故知っているのか、などあえて訊ねることはない。
「なぁ、教えてよ。俺相方やないかぁ」
「…今は敵や。と思うんやけれど。」
突っぱねた河本に井上が幼子が甘えるように見つめてみても、河本は井上のことなど眼中に無いように振る舞い、
それだけ言葉を返すと、くるり、っと体を翻して横を向いた。
「こっち向いてよ」
「嫌やね」
この言葉の少し後に投げられたもの。
「これは何ですかー」
「見たら分かるやろ、差し入れの林檎です。まぁやちゃんの大嫌いな。」
「どっから持ってきたねん」
「さーねー」
井上の言葉が間延びして聞こえる度、少し苛々したりして、しかし翻弄される自分自身にも苛立ちを隠せないでいた。
「…笑うなや。」
何がおかしいのかは知らないが、横を向いて笑いをかみ殺す井上に、半ば厭きれながらそう言った。
―――――――――――――――――――――――――――
お久しぶりですみません、これだけアップしたら眠ります。
320
:
けふえーる
◆J5DaNPfmbA
:2005/11/12(土) 02:19:05
sage忘れごめんなさい…
321
:
名無しさん
:2005/11/13(日) 16:49:09
黒ユニット集会編があるので白ユニット集会編を書いてみたらこんなんなったので
ここに投下します。はっきり言って大した話し合いしてません。
内容も妙にふざけが入っているので…悪しからず。
322
:
名無しさん
:2005/11/13(日) 16:50:48
〜午前三時のハイテンション〜
午前三時。人通りの最も少ない時間帯に、彼らは集まることにした。
男が一人、白い息を吐きながらゆっくりといくつもの飲食店が並ぶ道路を歩いてくる。
普段から眠そうな目を余計にとろんとさせて、「眠い」「寒い」をブツブツと繰り返していた。
ある古風な和食店の前にたどり着くと、足を止めカバンから手の平サイズの地図を広げ、店の看板と地図に記された名前とを交互に見比べる。
「ここかあ…」
少し掠れた声。黒目がちで目で何となくお坊ちゃま的な顔立ちの男は寒さに耐えられず駆け足で店の中に入っていった。
店に入ると、ふんわりと柔らかな仲居の声がした。
「いらっしゃいませ。川島様ですね?皆様が奥のお座敷でお待ちかねです」
深夜にも関わらずニコリと笑みを見せる彼女に、男もペコリと頭を下げ「あ、はい」と笑みを返す。ほっと気持ちが安らいだ。
仲居に案内され冷たい廊下を渡る。仲居は頭を下げると何処かへ行ってしまった。
襖の向こうから何やら明るい声が聞こえる。中へ入ろうと襖に手を掛けようとした瞬間…
ガラリ、と襖が開いた。
「あ〜、川島さんじゃないですかあ〜!」
梁に頭をぶつけないようこんばんは、と挨拶をする長身の男…アンガールズ田中は笑いながら「早く入ってください」と、劇団ひとりこと川島省吾の腕を引っ張った。
323
:
名無しさん
:2005/11/13(日) 16:52:15
「遅っせーぞぉ、川島!」
ぎゃははは、と大口を開けて笑うのはくりぃむしちゅーの有田。
その隣では有田と馬鹿騒ぎしていたように思われる、アンタッチャブル山崎の姿があった。
もうすでに出来上がっているではないか。川島は少し引きつった笑みを浮かべ、周りを見渡した。
かなりの数の芸人達が集まっている。黒に比べて、白なんてずっと少ないものかと思っていたが、自分の想像していた以上に、白の規模も広いようだった。
(この人達が、白いユニットか…簡単に言えば、“安全な人たち”だな)
川島が何処に座ろうかキョロキョロ見渡していると、栗色のウェーブの掛かった髪をした男が手招きをした。
「おう、こっちこっち。隣に座りな」
ビール瓶を片手に持っていたが、有田や山崎ほど酔ってはいない。川島は膳をまたいでその男、上田の隣に腰を下ろした。
「…あの、俺は“白ユニットの集会を開く”って聞いたんですが」
不思議そうに尋ねる川島の目の前に、山崎の相方の柴田が駆け寄ってくる。
「いーやぁそのつもりだったんだけどなあ、此処の飯美味いのなんのって!だから、食べ終わってからってことで!」
隣の上田ですら、うんうんと頷き、味噌汁を静かにすすっている。
「だから省吾も食べろよ!」
川島は拍子抜けした。
…こ、これが白?……こんなもんで良いのかよー…ここら辺は黒を見習って欲しいよなぁ。
黒なんて凄えんだぞ?こう、ビシッとしてるっつーか…。
「まあ、幹部があれじゃなあ…」
山崎と何やら笑い合っている有田を眺めて諦めるように首を振った。
仕方ない。そう思いながらも川島は箸に手を伸ばしたのだった。
324
:
名無しさん
:2005/11/13(日) 16:53:20
「しっかしよー…最近凄えよなあ…」
太い黒縁眼鏡の男がぽつりと漏らす。
「…どうしたの」
隣に座っている短髪でこれまた眼鏡の男が尋ねる。
「黒と白の闘い。嫌だなー俺そういうの。勝てねーもん」
「矢作は別に何もしなくていいって。俺強いから、何かあったら後ろに隠れてなよ」
「なーによ小木ぃ、お前それかっけぇなー」
川島の右隣で呑気な会話を繰り広げているおぎやはぎの二人。
「二人も白なの?」と尋ねると同時に首を振られた。
どっちでもない。と二人は言った。だが黒に味方する気は更々無いらしい。
かといって白に入るつもりもないようだ。変な争いを好まない二人らしい、と川島は思った。
「上田さん、黒については…何処まで知ってるんですか」
「ああ、黒はなぁ、何にせよ頭の良い連中が多いからなあ。秘密を隠すのも上手いんだよ」
「ちょっと、それじゃあ俺らが馬鹿みたいじゃないすか」
どこからかやって来た細身の男、インパルス板倉はやや不機嫌そうに言った。
「実際そうなんじゃないですか?」
と珍しく自分から会話に入ってきたアンガールズ山根。板倉はムッと眉をしかめて彼を見た。田中はそれを見て力なく笑う。
「何だよじゃあ、勝負するか?どっちが頭良いか」
「そういうことは、暇な人ほどやりたがるんですよねー」
そのつっけんどんな態度に、板倉は掌からバチバチと青白い電気を空気中に走らせ、山根めがけて雷を落とそうとした。
慌てて堤下が後ろから羽交い締めにして、振り上げた腕を押さえる。
「板倉さん、仲間割れはまずいよ」
田中もさりげなく板倉の肩をぽんぽんと叩き、石の力を発動させた。
325
:
名無しさん
:2005/11/13(日) 16:54:16
「ふん、……でもやっぱそうかもな。黒は何時も優勢な立場から襲ってくる。例えば一人になった時とか…」
板倉は落ち着きを取り戻し、呟いた。
「よっぽど作戦たてるのが出来る奴が居るんだろうなあ」
と、川島が言った。
「そいつが誰だか知ってるか?…渡部、お前なら分かるだろ」
「え?はい、まあ……」
気が進まないと言った風にもとれるその態度に、周りの芸人は業を煮やす。
「言いにくいんですけど…」
「今更言いにくいもクソもねーだろ、で誰なんだ?」
渡部は少しだけ戸惑いながら言った。
「設楽さんと小林さんみたいです」
えっ、と声を上げたのは矢作だった。困惑した表情を浮かべる。すかさず小木が大丈夫?と声を掛けた。
矢作には信じられなかった。
まさかあの二人が…。
「日村さんと、…えーと…モジャモジャの人は?」
「あの二人は違うみたい…でも何かあってら相方の方に付くんじゃないかな」
そんなもんなのか、と川島は思った。思えばずっとピンでやって来たもんだから、コンビの事情なんて分からない。
とにかく此処にいる芸人たちの様子を見る限り、今の所力の大きさは黒の方があるようだ。
それほど設楽と小林の存在は大きい物なのだ。
「矢作さん、大丈夫ですって!あーの…えっと、まあ大丈夫です!だいじょーぶ!」
一体何が大丈夫なのか意味が分からないが、柴田は必死に言葉を絞り出して矢作を励ました。首から提げたファイアオパールが淡く光り、矢作は「ははは…凄っげえうるさいよぉ、柴田君」と緩く笑って顔を上げた。
326
:
名無しさん
:2005/11/13(日) 16:56:14
「で〜っひゃっひゃっひゃ!柴田さん、おーざーっす!」
「おざーっす!童貞番長〜っ!!」
そんな良い感じの雰囲気をぶち壊すかの如く、酔っぱらった有田と山崎が割り込んでくる。
「俺たちも話に混ぜろよぉ〜!」
「お前なあ、“今後の白ユニットの方向を決めるために集まろう”っつったのお前だろが!」
「二人で勝手に飲み始めやがってよお!!」
切れて怒鳴りつける柴田と上田。
げらげらと笑い出す酔っぱらい二人にますます怒り出し、取っ組み合いの一歩手前まで発展した。
そのあまりの声量に、川島たちは耳を塞ぐ。
「い、今何時だと思って……!」
「はーいはいどいてどいて」
と、矢作が前に出た。有田と山崎に向かい、一呼吸置いて叫ぶ。
「睡魔に襲われて眠くなるんやー!」
すると、まるで催眠にかかったように、二人は畳の上に折り重なって倒れてしまった。
「…お見事!」と自然と拍手が起こる。
「……もうこんな時間か。そろそろ帰らねえと」
「え…結局、何も話し合えて無かったじゃないですか!幹部の名前しか分からなかったし!黒の規模についてとかは!?」
川島が嫌そうな顔をしてしゃがみ込む。
「言い出しっぺがこれじゃあ仕方ねえだろ!」
ビシッ、と上田がだらしなく寝ている有田の頭を叩く。
「僕らも仕事あるし…また今度。主催は上田さんでお願いしますね」
「小木、俺たちも帰るか」
「俺も、今日コント収録ありますから」
ぞろぞろと部屋から出て行く芸人たち。足音に仲居が気付く。一番後ろを歩く川島に声を掛けた。
「お帰りですか?」
「ええ、はい。……あ、そこの二人が起きたら、その人たちにお勘定請求してやって下さい」
こうしてただの思いつきで行われた第一回目の“白ユニット集会”は終わったのだった。
黒ユニットの集会が行われる、二日前の話。
石を巡る争いがとんでもなく酷くなっていく事を、まだ誰も知らなかった。
end
327
:
322〜326
:2005/11/13(日) 17:12:24
どうですかね、コレ。
午前三時にやってる和食店てあるのかな…。
そこら辺は石の力で何とかしたってことで。
328
:
名無しさん
:2005/11/13(日) 18:46:16
>>322-326
乙。久しぶりに腹抱えて笑ったよ、GJ!
本スレに投下してほしいくらいだね。
329
:
名無しさん
:2005/11/13(日) 23:24:12
>>327
小規模な居酒屋とかに置き換えればいけるんじゃないかな〜。
これ本スレに是非落として欲しい!面白い。
けど、その時期に黒幹部を白にばらされると都合が悪い人も居るかもしれない…
後一つ言うなら矢作は柴田を「柴っちょ」とか呼んでた気がする。違ってたらスルーしてください。
330
:
名無しさん
:2005/11/14(月) 00:15:35
乙です!
イメージぴったり。もっとシャキッとしろよ(笑)
331
:
名無しさん
:2005/11/14(月) 08:15:49
乙です。
キャラ凄く合っていていいですね。
332
:
名無しさん
:2005/11/14(月) 17:31:17
乙です。ぐだぐだな白トップも勿論面白かったですが、
板倉さんと山根さんのくだりがロンブー思い出して笑えました。
やっぱ仲悪いんだw
333
:
322〜326
:2005/11/14(月) 18:31:15
意見ありがとうございます。少し手直ししてから投下したいと思います。
>>329
アドバイスどうもです。
やっぱり都合悪い人居るでしょうね、多分…。番外編ってことなら何とか大丈夫かな。
334
:
名無しさん
:2005/11/14(月) 21:49:44
>>333
話し合いだけで結局ダレか分からない、と書き換えられるのなら普通に本編で成立すると思うよ。
無理なら番外とかの方が良いかもしれない。
335
:
名無しさん
:2005/11/15(火) 21:29:08
川島は劇団ひとりをやる前に6年間コンビ(スープレックス)を組んでいたから
>>325
の「思えばずっとピンでやって来たもんだから、コンビの事情なんて分からない。」
という部分も手直ししたほうがいいかも。
336
:
335
:2005/11/15(火) 21:39:00
うわ、もうその台詞抜きで本スレ投下済みだったんですね。
すみません。
337
:
322〜326
:2005/11/15(火) 22:05:51
はい。私も「やべっ」と思いまして、その部分カットしました。
338
:
名無しさん
:2005/11/19(土) 17:24:18
カラテカの話を即興で書いてみました。番外編みたいな話ですが気軽に読むといいと思います。
ちなみに矢部さんの力は能力スレの
>>7
を参考にしました。
339
:
名無しさん
:2005/11/19(土) 17:25:55
今日は晴れ。絶好の釣り日和だ。白も黒も、石のことは今日は忘れて、楽しもう。
と言うことで。
「矢部くーん、釣れたぁ?」
「うーん、まだ」
何人かの芸人仲間を誘って、釣り堀にやって来たカラテカ矢部と相方の入江。
二人以外にも石の能力者は何人かいるが、誰も「石」なんて単語を出してこない。
くだらない日常会話に笑いあいながら、幸せな時間を過ごす。
浮きはぷかぷかとゆったり上下しているだけで、魚は一向に掛からない。
餌が悪いんだ、きっと。などと思ってたが、周りの芸人たちは、次々と魚を釣り上げて大漁のようだ。
「えー、嘘でしょー…?」
情けなく眉をハの字に顰めて、もう一度竿を握り直した。坊主頭には紫外線が痛くて堪らない。
すこしでも暑さから逃れようと鞄から帽子を取り出し、きゅっと深く被る。
「えっ、矢部くん、今時麦わら帽子って…え〜…?」
入江が笑いを含んだ口調で矢部の隣にしゃがみ込む。矢部はむっとした表情で帽子のつばを上げた。太陽の光が目に入ったのか、何度も瞬きをしている。
「麦わらを馬鹿にしないでよ。凄いよコレ、涼しいんだから」
「まあ、もやしっ子にはそれくらい無いとなぁ」
その言葉に、矢部は黙り込む。当たっているから何も言い返せないのだ。
体重39キロの、アンガールズにも劣らない細い身体は、長い間外に放っておくと、あっという間に蒸発してしまいそうだ。
入江が、これも使えと日傘をクーラーボックスに立て掛けた。
「……掛かれよぉ」
いつの間にか真上に昇り、さんさんと照りつける太陽が眩しくて堪らない。
340
:
名無しさん
:2005/11/19(土) 17:27:06
「…お客さんのハートを釣ってるみたいだな…」
「はは、言えてら」
どこかで聞いたような台詞に入江が乾いた笑い声を上げる。そのまま、何も起こることはなく、穏やかな時間だけが過ぎていく。
暇つぶしにお菓子をつまんだり、ネタ合わせしてみたり、ツバメの巣作りを観察したり。
「矢部さん、そんなにツバメが珍しい?」
じっとツバメを見つめたままの矢部に一人の後輩が声を掛けると、矢部は首を縦に振り、笑って言った。
「うん、“子供が生まれるのが楽しみ”だって」
後輩は、ふーん?と首を傾げた。
そして一時間ほど経った、その時…
「あっ、矢部さん!引いてる、引いてる!」
誰かが慌ただしい声を上げ、手招きをすると、一本の釣り竿の前に何人もの人が集まってくる。
「よぉし…絶対釣るぞ〜…!」
矢部は麦わら帽子を脱ぎ、腕捲りをして釣り竿を掴んだ。力を込めるが、一向に魚の姿は見えない。隣から後輩たちや入江が手伝うように竿に手を添える。
一瞬だった。どんな大物かと思いきや、釣れたのは一匹の小魚。
「う…うっそでしょ〜矢部く〜ん…!」
あまりの非力さにすっかり脱力する入江。
ああ、そう言えばこいつは、ワカサギ釣りに行った時も、満足に氷に穴すら開けられなかったなあ。
「ご、ごめんごめん。でもさ、やっと釣れたから、バケツ持ってきて…よ…、…?」
突然矢部の表情が強ばる。その視線は今釣ったばかりの小魚へ…。
『助けて、助けてよ〜…殺さないでよぉ〜』
矢部にだけ聞こえる声で、小魚は言う。
「こっ…!殺すなって…言われても…」
「…ヤベタロー、どうした?」
周りの後輩たちが珍しいものでも見るかのような目で矢部を見つめた。
その時、入江が魚のたくさん入ったバケツを抱えてやってくる。それを矢部の目の前にどん、と置いた。矢部の顔が少し引きつった。魚の声が、耳に響く。
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