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【失敗】廃棄小説投下スレッド【放棄】

244 ◆8Y4t9xw7Nw:2005/07/20(水) 22:47:46
〜ひとかけらのきぼうをしんじて〜



その夜の夢見は最悪だった。
よく覚えてはいないけれど、身体の芯から凍り付きそうな寒さだけがやけにはっきりと記憶に残っている。

――まるで、吹雪の中に放り込まれたような。

「――しずちゃん?」
一瞬の間のあと呼ばれた事に気付き、慌てて顔を上げる。
本日最初の仕事の、楽屋。悪夢しか見なかった眠りは疲れを癒してはくれず、どうやらいつの間にかぼんやりしていたらしい。
「……え、あ、何?」
顔を上げてからその言葉を発するまでの一瞬の間があったのは、自分を呼ぶその声が昨日までと違う響きを持っているような気がしたからた。
「もうそろそろお呼びが掛かると思うんだけど……何ボーっとしてんの?」
掠れ気味で少し高いその声は、すっかり聞き慣れたものなのだけれど――。
(――違う)
考えるより先に、そう思った。
呼ぶ声は一緒なのに、違う。声も、やけに凝った言葉の選び方も、人差し指で眼鏡を押し上げる些細な仕草さえ、変わらない――けれど、違うのだ。
昨夜の出来事があったせいでそう感じるのか、それとも、全てを知られた今となっては意味がないと山里の方が普段通り装う事を止めたのか。
恐らくは両方なのだろうが――山崎の知る相方がお世辞にも芝居が上手いとは言えない事を考えれば、認めたくはないが前者の割合の方が高い――、
度を越した違和感に鈍い頭痛さえ感じてくる。
「ごめん……ちょっと考え事してたわ」
ぎこちなく笑みを浮かべ、酷く冷たい相方の目を、真正面から見返す。
目を逸らしてはいけない。
今目を背けてしまったら、その事が自分達の間にあるものを本当に全て、壊してしまうと――ギターの弦が
ぶつんと切れるように呆気なく、何もかもを断ち切ってしまうのだと、それだけはなぜかはっきりと分かった。
無意識に、拳を握り締める。暖房が効いているはずの楽屋は、なぜか寒かった。


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