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【添削】小説練習スレッド【キボンヌ】
1
:
名無しさん
:2004/11/25(木) 19:54
「自分も小説を書いてみたいけど、文章力や世界観を壊したらどうしよう・・・。」
「自分では面白いつもりだけど、うpにイマイチ自信がないから、
読み手さんや他の書き手さんに指摘や添削してもらいたいな。」
「新設定を考えたけど矛盾があったらどうしよう・・・」
など、うpに自身のない方、文章や設定を批評して頂きたい方が
練習する為のスレッドです。
・コテンパンに批評されても泣かない
・なるべく作者さんの世界観を大事に批評しましょう。
過度の批判(例えば文章を書くこと自体など)は避けましょう。
・設定等の相談は「能力を考えようスレ」「進行会議」で。
382
:
◆yPCidWtUuM
:2006/03/01(水) 14:00:16
[バカルディ・ホワイトラム<1>(side:三村)]
「すいませ〜ん!」
どさ回りの営業の帰り道、声をかけてきたのは女二人組。
大きな胸に大きな目。そろって小柄な童顔の女が目の前で笑っている。
見てくれはちょっと可愛い。通りで「普通に」声をかけられたら悪くないかもしれない。
…まあ、俺にはカミさんがいるし、どう考えても「普通」の状況じゃねぇわけだ、今は。
三村は頭の中で状況を整理している…のだが。
正直、それより何よりものすごく気になってしまう部分があったりする。
…こいつらもやっぱり芸人ってくくりだったのか。
三村マサカズ30歳。職業、お笑い芸人。
もうすぐ芸歴も10年という長さになるのに仕事のお寒い我が身のせちがらさよ。
目の前にはグラビアから芸人の領域に身体一つ、いや乳四つで殴り込みに来た女が二人。
寄せた胸だけで一気にスターダムへと駆け上がるパイレーツを遠い目で見る今日この頃。
そんな女たちの明るい笑顔とうらはらに、胸元の鮮やかな赤い石には黒い影がさしている。
それを見ただけでむこうの用事も想像がつくというものだ。
「石、渡してもらいに来ましたぁ」
「…逆ナンってわけじゃねぇんだ、やっぱり」
甘ったるい声が耳に響く、全く最悪だ、女にも襲われるんだからやってられない。
383
:
◆yPCidWtUuM
:2006/03/01(水) 14:01:12
「あー…女と闘うとか、俺、ねぇわ…」
「俺もねぇな、100ねぇ」
ぼそりと嫌そうに呟いた大竹に、三村も同調する。
今をときめくパイレーツの胸の谷間にはそんなに興味ねぇから、おとなしく帰って欲しい。
何でこんな目にあわなきゃなんねーんだ、いい加減にしてくれ。
「「…せーの!」」
そんな我が身の不幸を嘆いている間に、女たちが攻勢に転じてしまった。
赤黒い石は次第に光り始め、二人揃ってあのポーズをとる…ああ、猛烈に嫌な予感。
「「だっちゅーの光線!」」
声があたりに響くとともに、強烈な赤色の光線が放たれる。
だが凄まじい勢いで襲ってきたその光は、透明な壁に当たって霧散した。
よく見ればブラックスターが大竹のジャケットの左ポケットで光っている。
どうやら状況を見て素早く石を使っていたらしい。
勢いに乗った女たちは光線をさらにもう1発、連発してきた。
それはどちらも大竹の「世界」の前に散ったが、大竹と三村の頭には一抹の不安がよぎる。
「…大竹、どんくらいもちそうだ?」
「そんなに長くねぇぞ、俺いま疲れてるし」
「だよな、俺もだ」
「どうすっかな」
「どうすっかってお前…どうしょうもねぇよ」
384
:
◆yPCidWtUuM
:2006/03/01(水) 14:02:10
男二人の会話からは解決策の生まれる気配もない。
しかしこちらからも攻撃をしないことにはどうにもならないと気づき、互いに呼吸を合わせる。
大竹が三村の顔をちらりと見て言うのはおなじみのあの台詞。
「お前ってよく見るとブタみてぇな顔してんな」
「ブタかよ!」
これまたおなじみのツッコミとともに、ピンク色の生きたブタがビュッと飛んでいく。
非常に間抜けな光景ではあるが、当たったら本当に痛いし怪我も免れない技だ。ブタは重い。
パイレーツ二人は慌てて「だっちゅーの光線」で応戦し、ブタと光線が正面衝突して相殺される。
「ブヒィーーー!」と断末魔の叫びが悲しく響き、どこから呼び出されたのか謎なブタは姿を消した。
三村は次のボケを促すように大竹を見たが、大竹は視線を返すだけで言葉をつむがない。
相方が「世界」の維持にかなり疲れているのを見てとった三村は、何かツッこめる物をと探しだす。
しかし、あいにくアスファルトの上には小石一つ見当たらず、徒労に終わった。
その間に、パイレーツも新しい動きを見せる。
好未が肩に下げたカバンの中をさぐり、透明な中に虹色の光のまたたく石をとりだした。
襲撃にむかうにあたって、黒の上層部がこの石を「補助に」と二人に与えたのだ。
『この石を使えば少しなら体力や怪我の回復ができるし、小さな願い事ならかなう』
…そんな風に彼女たちに石を渡した男は話していた。
「…はるか、これ使うよ!」
声とともに、七色の光が石を握ったその手からあふれ出すように広がって、はるかの身体を包んだ。
光線発射に体力を使ったのか肩で息をしていたはるかは、活力を取り戻したように背筋を伸ばす。
それを見た好未ははるかに石を渡し、今度は逆に自らの回復をしてくれるよう頼んだ。
「すごい、効くねこれ」
呟きながらはるかは透明な石を握りこみ、精神を集中させる。
好未のときよりは弱かったが、はるかの手の上の石から放たれた光は、好未の身体を包んだ。
元気を取り戻した女二人は、またも攻勢に回る。
「えーいもう一回…「「だっちゅーの光線!」」
明らかにマズい状況だ。この調子で連発されては確実にブラックスターの限界が遠からずやってくる。
三村の隣で、大竹は光線が発射される度に必死に精神を集中させて「世界」を保っているけれど。
…これは長期戦になりそうだ、最高に分が悪い。
そう思った瞬間、はるかが今度は別の台詞を叫んだ。
「だっちゅーの超音波!」
385
:
◆yPCidWtUuM
:2006/03/01(水) 14:02:51
…何だそれ、もしかして新ネタか?
言葉とともにショッキングピンクの衝撃波らしきものが飛んでくる。
聞き覚えのないネタに集中力を削られたのか、それとも石の効力が薄れてきたのか。
「世界」を守る透明な壁は完全には機能せず、衝撃が部分的に伝わって耳がキィンと痛んだ。
「くっそ、痛ぇ…」
「…すまん三村、無理、もうぜってぇ無理…ボケとかする暇ねぇ」
「マジかよ!」
だっちゅーの光線…いや超音波恐るべし。この威力をなめてはいけなかった。ここまでとは予想外。
…しっかしホントどうかと思う戦闘風景だな、間抜けなのに追い込まれてるなんて…。
三村は鬱々としてくる気持ちをどうにかおさえようと身体に力を入れる。
とはいえこのままでは何一つ解決しない、何か打開策を考えなければ…。
そんな気持ちで大竹の方を見やれば、額には大粒の汗が浮いている。
少しでも防御するために最大限集中しているんだろう、確かにこの状況でボケを望むのは酷だ。
しかもこういうときに限って道ばたに物は落ちてねぇし。
さすがに電信柱なんて飛ばせねぇぞ、何か小さいもんないのか。
「あーくそ、何か落ちてねぇかな…」
「…おい、アレ」
「あっ!」
大竹の指差した先、道の端のくぼみには、見覚えのある缶が。
386
:
◆yPCidWtUuM
:2006/03/01(水) 14:03:49
[バカルディ・ホワイトラム<2>(side:大竹)]
アスファルトのくぼみに隠れるように転がっていた空き缶。
三村がビシッ! と指差して全力で叫べば、立派な飛び道具になる。
「むらさきっ!」
飛んでいったおなじみのファンタグレープの缶は、好未の額にガッコーンと当たった。
もはや容赦する気もないらしい三村の高速ツッコミは結構な衝撃だったらしく、好未はぐらりと身体を傾がせる。
それを見ていたはるかが、「負けない!」と石を握り込んだ。
「だっちゅーの光線!」
はるかが三村を見据えて叫ぶ。胸元では黒い影の走る赤い石がきらめいた。
サァッ、とその石の真っ赤な光が三村に襲いかかってくる。
咄嗟に大竹は自分の石で「世界」を作り出し、相方を守ろうとした。
しかしもはや戦闘の中で力を使いすぎたためにその光は三村まで届かない。
もろに石の力を受けた三村は、「うああっ!」と叫びをあげた。
両手で眼を覆ってその場に倒れ込む三村に、さらに追い討ちをかけるようにはるかが叫ぶ。
それはもう限界をこえている身体からむりやりに絞り出すような声だった。
387
:
◆yPCidWtUuM
:2006/03/01(水) 14:04:33
「だっちゅーの…超音波っ!」
その声を聞いても、もう大竹の石は微弱にしか反応しない。
耳にさすような痛みを感じたが、何の防御もできていなかった三村はもっとひどい状態なのだろう。
耳をおさえて転げ回る相方の姿。唇をゆがめて笑う豊かな胸の持ち主に対して強い怒りを覚えた。
けれども、怒りのせいで逆に冷静になってしまえば、あの胸から出てくる光線やら超音波で
苦しむ自分たちの滑稽さに気づいてしまって少し悲しくなる。
…くっそ、なんつー嫌な感じの戦闘風景だ。
だが、三村にはバッチリ効いてしまったし、これじゃあ攻撃もできない。
さらに好未が息を吹き返し、自らの石を手にはるかの体力を回復しようとする。
ブラックスターはもはやうんともすんとも言わない、根性ねぇ石だチクショウ。
…絶体絶命。
もう切り札のあの石を使うしかない。
ここのところ明らかに使いすぎだとわかってはいたが、目の前の危険を回避するにはこれしかなかった。
「…めんどくせっ!」
疲れた声で吐き捨てながら、とりだしたのは虫入り琥珀。
ありったけの集中力を動員して、蜂蜜色の石に力を注ぎ込む。
放たれた強力な衝撃波は、襲撃者パイレーツを完全に打ち倒していた。
388
:
◆yPCidWtUuM
:2006/03/01(水) 14:05:22
三村から視覚と聴覚を奪ったはるかは、すっかり意識を手放している。
好未が、みぞおちあたりを押さえながらひとりこちらを暗い目で見上げてくるのでにらみ返した。
土をなめた女の憎しみの籠った目にも、もう動じることもない。
「あっ、大竹! お前虫入り琥珀使っただろ!」
はるかが気絶したせいか、わずかずつ感覚が戻ってきたらしい三村が薄目で状況を見て叫ぶ。
が、大竹の方はまだ耳が聞こえにくくなっており、三村が何と言ったのかいまいちわかっていない。
おそらく虫入り琥珀を使ったことを責めているのだろうが、今回はああするしかなかった。
…今回はああするしか、って何回言ったかもう覚えてねぇけどな。
そんなふうに心の中でつけ加えて、石の代償の重さに頭を抱える日々。
毎日毎日毎日…じゃねえこともあるか。
けど、とにかくもういい加減にしろ、と言いたくなる。
あまりの黒からの襲撃の多さに、そろそろ頭がプツッといきそうだ。
何でか知らないが、最近黒の奴らに俺らの石は大人気。
特に俺のブラックスターは妙に人気があるらしく、やたらに狙ってくる奴が多い。
確かにこいつは防御には相当有効だけど、そんなに人のもんばっかり欲しがることもねぇだろうよ。
389
:
◆yPCidWtUuM
:2006/03/01(水) 14:06:04
うんざりしながら、その場を後にしようとして三村を見やる。
目蓋やら耳やらを引っぱっている相方に、多分それ意味ねぇと思うぞ、と心の中でツッコミを入れた。
石の影響は一生モンじゃないんだし、ほっとけば数時間で元に戻るだろう。
それよりむしろ今は、自分の石の反動のものすっごい倦怠感が問題だ。
もう即帰宅。ガンガンに引きこもっていく。けど腹減った。けど寝たい。どれをとれっつーんだ。
「三村ぁ、とにかく帰ろうぜ!」
多分まだあまり聞こえていないだろう三村の耳もとで怒鳴る。
三村がこちらを向いて頷き、向きを変える。
そのつま先がこつん、と何かを蹴り、俺の足下までそれは飛んできた。
「何だ…石じゃねえか」
疲れた身体にむち打って拾い上げればそれは、好未が使っていたあの石で。
体力を回復させられるなんて便利だし一応もらっとくか、とポケットにしまいこむ。
それを三村は一瞬見とがめたようだったが、耳と眼が不自由な状態で会話するのも面倒だからか、さらりと流した。
「アレだっ、飯でも食ってくかぁ?!」
結局空腹をとることにした俺の怒鳴り声にもう一度三村が頷いて、二人で夕暮れの道を歩いていく。
オレンジの光の中、ひきずる二つの影が長くアスファルトに伸びた。
390
:
◆yPCidWtUuM
:2006/03/01(水) 14:09:54
以上です。まだ白のバカルディを書いてみました。
設定は97年末、まだバカルディも冬の時代ということで。
続く「バカルディ・151プルーフ」でこの襲撃の後の話を書いてます。
バカルディ時代の彼らのことはDVDや当時のTVなどで少し知っている程度で、
あまり詳しくないので矛盾点が出ていたら教えて下さい。
391
:
◆yPCidWtUuM
:2006/03/01(水) 14:14:34
すいません、パイレーツの能力書くの忘れてました。
パイレーツ(西本はるか/朝田好未)
石:クロコイト(紅鉛鉱)二人で一つの石をわけあい、ペンダントヘッドにしている。
性的な苦手意識を癒す。創造性や生殖に関連した生命力そのものを示すチャクラを活性化させる。
性的なトラウマを持つ人、創造性が欠乏した人に有効。
能力:
二人で胸を寄せる決めポーズとともに「だっちゅーの光線!」と叫ぶと胸元から赤い光線が出る。
また、「だっちゅーの超音波!」と叫ぶと胸元から赤い環状の目に見える音波が出る。
ちなみに、光線を浴びると目に激しい痛みを感じて一時的に盲目の状態になり、
超音波を浴びると耳に激しい痛みを感じて一時的に耳が聞こえなくなる。
条件:
二人で使用した場合、一度に打てる回数は三発が限度。
はるか一人でもこの技は可能だが、回数は同じでも威力が弱くなる。
代償:
一発打つごとにネタを後ろから忘れていく。また、体力が削られるため疲労感を覚える。
あと、レインボークォーツは以前「東京花火」で出したのと同じものです。
392
:
◆yPCidWtUuM
:2006/03/01(水) 14:16:13
あと、
>>385
の
>言葉とともにショッキングピンクの衝撃波らしきものが飛んでくる。
は
>言葉とともに赤い環状の音波らしきものが飛んでくる。
に変更し忘れてます。すいません。
393
:
名無しさん
:2006/03/01(水) 17:52:44
乙!面白かったです。
バカルディ時代の二人にはあまり詳しくないのですが、とても自然な感じですよ。
さまぁ〜ず好きなんで、続き楽しみにしてます!
394
:
◆yPCidWtUuM
:2006/03/03(金) 23:00:33
>>393
ありがとうございます。とりあえずここまで本スレに落としてきます。
そのあとで続きの話をこちらに落としに来ます。
395
:
◆yPCidWtUuM
:2006/03/03(金) 23:32:56
三部作の二番目、「151プルーフ」落とします。
アホかってくらい長いのでまず半分。
こちらも設定は97年末、「ホワイトラム」の数日後です。
396
:
◆yPCidWtUuM
:2006/03/03(金) 23:34:21
[バカルディ・151プルーフ<1>(side:三村)]
あの襲撃から数日後。
久々に入った早朝ロケのあと、自宅に帰って愕然とした。
おいてあった靴が踏みつけられ、不自然に散らばった玄関。
明らかに土足で荒らされた跡のある床。
こんな金のねぇ家に泥棒か?
背筋を冷たいものが駆け上がる。
まず浮かんだのは妻と娘の顔。
…そうだ、落ち着け。
今日彼女は、幼い娘をつれて自分の実家に行っていたはず。
母の得意料理を習ってくると笑っていた。
大丈夫、二人は大丈夫。
少しだけ安心して、人の気配がないことを確認し、家の中へ踏み込んだ。
侵入者の靴跡は居間に続く扉の前で止まっている。
はやる気持ちを抑えつつ、半開きで放置されていた扉を開けはなつ。
やはり居間には誰もおらず、ただフローリングの床にところどころ土がついている。
まわりを見回して、テーブルの上に置いてある紙切れに気付く。それを乱暴に引っ掴んだ。
「…『大竹さんへ ブラックスターとレインボークォーツを渡してください』…?!」
思わず声をあげて読んでしまった文面は石に関するもので、俺はやっと事態を理解した。
397
:
◆yPCidWtUuM
:2006/03/03(金) 23:34:57
[バカルディ・151プルーフ<2>(side:三村)]
これは明らかに黒の連中の仕業だ。
けど、ブラックスターはいいとして、もう一つのレインボークォーツって何だ。
もしかしてあれか、大竹がこないだ拾った石の名前か?
それにしても何で俺のところに奴らは来たんだ?
『大竹さんへ』って何だそりゃ。俺は三村だ。
しかもブラックスターがあいつのだってことは知ってるはずなのに。
…っていうか俺のフローライトに用はねえってか。それはそれで腹立つな何か。
いやそれどころじゃない、大竹だ。
俺のとこに何もないってわかったら大竹が危ないじゃねえか!
自分のものでない石のことで家に押し入られた理不尽さに一瞬苛立った。
が、石がこれに絡んでいるのだとすればそれよりも何よりも相方の身が心配だ。
こうしている間に、あいつが黒の奴らに襲われていたりしたら…!
駅で別れた大竹は早朝ロケにかなり疲れた様子だった。
まだ昼過ぎなのに帰って寝るなどと言っていたから、無事なら自宅にいるはず。
ひどく震える指を電話器のボタンに伸ばす。
そらで言えるほどかけ慣れた番号なのに、焦りと不安でなかなかうまく押せなかった。
よく考えてみれば石を持っている相方はなおさら危ない立場だ。
石をめぐって戦闘にでもなっていたら大変なことになる。
ブラックスターは防御用だし、レインボークォーツはあの戦闘後、大竹が回復に使おうと試して失敗している。
持ち出した虫入り琥珀は攻撃用だが、仕事が減った今使うにはリスクが大きすぎる。
どうか無事でいてくれと祈りながら、通話口に親友で相方の男が立つのを待つ。
ほどなくして受話器からは緊張感のない大竹の声が聞こえた。
「もしも〜し」
「…タケ!」
「あ?何だ、お前か。どうしたよ?」
「タケちゃん、いやアレだ、大竹お前、お前無事だな?」
「…無事だけどよ、おい三村、何があった?」
「あの、アレだ、その、黒だよ!」
「落ち着けバカ、アレとか黒とか意味わかんねぇだろ、ツッコミじゃねんだからよ」
「家に紙があって、お前の石がアレだ、いやお前のだけじゃね〜けどあの、アレ…」
…くそ、何も言葉出てこねぇ…。
398
:
◆yPCidWtUuM
:2006/03/03(金) 23:35:24
[バカルディ・151プルーフ<3>(side:大竹)]
「…あーもうわかった、今からお前んち行くから大人しく待っとけ、な」
要領を得ない三村の言葉から辛うじて「三村の家」「自分の石」「黒いユニット」というキーワードをつかみ、
鞄にしまいこんでいた三つの石を持って家を出る。
あの三村という男は昔から、興奮すると混乱して話ができなくなるのだ。
いい加減付き合いも長いが、そういう所はまるで変わらない。
全く困ったもんだ、と溜息をつきつつ、三村家へと道を急ぐ。
電車代も馬鹿にならないし、黒の連中に交通費でも支給してもらいたいもんだ。
小さく一人ごちて、最寄りの駅の券売機のボタンを押す。
電車を降りて数分後、マンションにつくと、わざわざ下まで降りて入口で待つ三村の姿があった。
「三村」
「あー大竹、こっちこっち!」
声をかけると相方は早くついて来いと目でうながしてくる。
それに誘われるように小走りであとを追って、辿りついた三村家の玄関と床はひどい有様だった。
「…なんだこりゃ」
呟いた後絶句した俺に三村は言う。
「帰ってきたらこうなってて…居間にこれが」
手渡された走り書きの置き手紙に目を見開く。
『大竹さんへ ブラックスターとレインボークォーツを渡して下さい』
…おいおいおいおい。探偵の真似事でもしろってか、コンチクショウ。
399
:
◆yPCidWtUuM
:2006/03/03(金) 23:36:00
[バカルディ・151プルーフ<4>(side:大竹)]
…とにかくだ、どう考えてもおかしい。
何よりまず、三村の家に置かれたこの手紙が『大竹さんへ』で始まってることがおかしい。
もしこれが『三村さんへ』の書き間違いだとしたら、今度は石の選択がおかしい。
黒の奴らはブラックスターが俺の石だと確実に知っている。
レインボークォーツがこの間拾った好未の石のことだとすれば、あれを俺が持っていることも知っている。
意識があった好未は、俺があれを拾ったのをしっかり見ていたはずだ。
だが、この状況には明らかにもっと根本的なおかしさがある。
大体、家を襲う事自体がおかしいんだ。
だってそうだろう。普通みんな、石は肌身離さず持ってる。
それなのに何で三村の家にあがり込まなきゃならないんだ。直接本人を襲えばいいのに。
…本人を、襲えばいいのに?
「おい、三村…」
「うん?」
「確か今日は嫁さんと子供、お前の実家に行ってるってロケん時話してたよな」
「ああ、そうだけど…」
…なんてこった。
最悪の事態に気づいてしまって頭を抱える。
どうしたらいいんだ、この状況。
「なあ、どーしたんだよ、大竹…?」
眉をハの字にした戸惑い顔の相方がこちらをのぞき込んできた。
…相変わらずよく見るとブタみてぇなツラしてんな。
この間の戦闘の時も使ったフレーズが頭に浮かぶ。
口に出したらまた、すぐさま三村お得意のツッコミが入りそうだ。
「あー…、まあアレだ、とりあえず床の土、拭いとくか?」
わりぃ、今はまだ、俺が完全に整理するための時間が必要だ。
400
:
◆yPCidWtUuM
:2006/03/03(金) 23:36:29
[バカルディ・151プルーフ<5>(side:三村)]
…床の土拭いとくかって。
まあそりゃ拭いとくけどよ。
嫁さん帰ってくる前に綺麗にしとかないと、警察とか呼ばれたら困るし。
でも大竹お前、そういうんじゃないだろ? 何でそんな辛そうなツラすんだよ。
雑巾をとりだして水に浸しながら、もう一度相方に問いかけてみる。
「なあ、アレか、お前何かわかったとか?」
「…」
「おい、大竹…」
「とにかくコレ拭き終わるまで待っとけよ」
「…」
「めんどくせぇけど、頭ん中まとめってから、今」
少し苦い笑顔で大竹は雑巾を受けとり、床を拭きだす。
こいつがそう言うなら、俺は待つだけだ。
黙ってフローリングに散った土を拭きとっていく。
自分が被害者なのに、犯人の残した証拠を消しているように感じて、少し気が滅入った。
それでも自分の家族の平穏のためには、侵入者の形跡を残しておくわけにはいかないのだ。
守るべき大切なものを持って闘いに身を投じるのは結構辛い。
それでもこの世界からトンズラする気がないなら、やるしかない。
キュッと唇をひき結んで作った真剣な顔は多分、大竹には見えていないだろう。
汚れた床をこする手に、知らず知らず力が入る。
おろしてからそう日も経っていない雑巾はまだ白かったが、土がそれを黒く染めていった。
玄関まで全て綺麗にして、洗った雑巾を干す。
すえた匂いの移ってしまった手をゆすぎながら、大竹が話すのを待った。
「なあ三村」
俺に何かを伝えるための言葉が、大竹の口からやっと出る。
無言で続きを促すと、予想外の言葉が耳に飛び込んできて、唖然とした。
「…黒、入ったほうがいいかもしんねぇぞ」
401
:
◆yPCidWtUuM
:2006/03/03(金) 23:36:59
[バカルディ・151プルーフ<6>(side:大竹)]
掃除ってのは実のところ、単純作業だ。
安いフローリングの木目を眼で追って、土を拭きとる。
その作業を無心にくり返しながら頭の中を片付けていく。
…三村にきちんと説明できるように、整理していかねぇと。
俺の言葉を、黙って三村は待っている。
だから、めんどうだと思っても考えることを放棄したりはしない。
絡まった糸をほどくように、ひとつひとつ状況を確認して答えを出そうとする。
まず、何よりも誰よりも、自分自身を落ち着かせる必要がある。
冷静に、冷静に。三村にできないことは、イコールで俺がやるしかねえことだ。
誰もいない三村家に、土足で上がり込んで置き手紙を残した連中。
『大竹さんへ ブラックスターとレインボークォーツを渡して下さい』
この一見不自然に見える文面は、一言で言うなら「脅し」だ。
それも、見事に俺たちの弱点を突いた、これ以上ない方法の。
三村自身はまだ気づいていない。というよりこれでは気づけないだろう。
それでいいんだ。三村に気づかせることが目的じゃない。奴らの本当の目的は俺に気づかせること。
そう、俺は気づいてしまった。今、本当に危ないのは三村じゃない。俺でもない。
…三村の家族、だ。
ロケのとき、三村は皆の前で家族の話をした。
今日彼女たちが家をあけていると知っている人物は、あのロケに参加したほぼ全員だ。
その中に一人や二人、黒の奴がまぎれてたっておかしくはない。
誰もいないことを知っていて、わざと三村家に入り込んだのは、デモンストレーション。
「お前の家に入り込むのなんて雑作もない」、そう伝えるための。
最初から家族のいるときに押し入ったらそれこそ警察沙汰だ。
「でもいざとなったら自分たちにはそれができる」、そうはっきり脅しにかかってきている。
『三村さんへ 石を渡して下さい、こちらには貴方の家族を襲うだけの力があります』
こう書けばわかりやすかったのにそうしなかったのは、目的の石が三村のものでなかったから。
『三村さんへ 大竹さんの石を渡して下さい、こちらには貴方の家族を襲うだけの力があります』
こうしなかったってことは、こいつの性格をよくわかってる奴が黒にいるってことだ。
三村の性格からいって、どう考えても自分の家族のために俺の石を黒に渡せなんて言いだせるはずがない。
かといってそのままにもできないから、俺に石を自分が預かろうとか言うだけ言ってみるんだろう。
多分三村のことだから適当な理由なんて思いつかなくて、俺は応じない。
そのうちこいつがなんでそんなことを言いだしたのかわかれば、俺は今の状況と同じ選択を迫られる。
でもそれじゃ余計な時間がかかってしまう。てっとり早いやり方が他にあるのにそんなことする必要はない。
こうやって三村の家に押し入っておいて、俺宛に手紙を書けば話はもっと簡単だ。
『大竹さんへ 石を渡して下さい』
これはそのまま、
『大竹さんへ 石を渡して下さい、こちらには貴方の相方の家族を襲うだけの力があります』
っていう意味だとしか思えない。
「なあ三村」
…最悪だ。何もかもこれを書いたやつの思惑通り。
「…黒、入ったほうがいいかもしんねぇぞ」
気づいてしまった以上、俺はこの脅しを決して無視できないんだから。
402
:
◆yPCidWtUuM
:2006/03/03(金) 23:38:56
[バカルディ・151プルーフ<7>(side:三村)]
「な…に言ってんだよ、お前…」
『黒に入った方がいいかもしれない』 ?
何でお前がそんなこと言うんだよ。わけわかんねぇよ。
っていうかホント意味わかんねえ、何で? 何でだよ!
俺はすっかりパニックを起こし、言葉も何も出てこなくなった。
そんな姿を動じることなく眺めながら、静かに大竹は言う。
「白にいるより、安全かもしれねぇ、多分」
「ふざけんなよ! 俺は絶対嫌だぞ、こんなことする奴ら!」
「じゃあコレやった奴探して復讐でもすっか?」
「いや、そこまですんのは…ああでも目の前に現れたらやるけど、でも…!」
大竹の言葉に一瞬激さずにはいられなかった。
しかし、「復讐」などという言葉は自分の性にあうものではなくて。
かといってすんなり大竹の言う通り、黒に鞍替えするというのも腹に据えかねる。
自分の気持ちを伝える言葉を見つけることができずに、ただ悲痛な思いで大竹を見た。
そんな俺を知ってか知らずか、大竹は諭すように言葉を続ける。
「あのな三村、例えば犯人が目の前に現れて、倒したとすんだろ」
「…おう」
「それで終わりじゃねーんだぞ、コレ」
「え?」
「この先ずっとこーいうの、いや、もっとひでぇこと続くかもわかんねえぞ、白にいる限り」
「…」
「嫁さんとか、ちっちぇーのとか、嫌な目にあうかもしんねえ」
「それは…!」
「お前がそれ、嫌だったら、黒入るしかねぇだろ」
大竹の滅多に見られない真摯な表情に、何も言えなくなる。
こいつが黒に入ることを勧めた理由は俺の家族にあったなんて。
…愛しい妻と娘。この先彼女たちを危険にさらすような真似は、とても自分にはできない。
だが、本当にそれでいいのだろうか。
この男を、自分の家族のために黒に屈させていいのか。
自分の都合だけで、大竹の進む道を勝手に曲げてしまっていいのか。
何か、大竹に言うべき正しい言葉を探そうと俺は必死になる。
その努力は実を結ぶことなく、何一つ言えないままうつむくしかなかった。
視界に入る足先を見つめていると、大竹はぽつりとこぼす。
「俺は嫌だぞ、お前がそーいうめんどくせぇことになんの」
…バッカ、大竹。そんなくっせぇ台詞、お前アレだろ、言う奴じゃねぇだろ。
心の中でそんなツッコミを入れながら、相方の方をちろりと見てみれば。
言っておいて恥ずかしかったのか、大竹はこちらを見ずにあらぬ方向を向いている。
そんな大竹の姿に少し笑いながらも、呟いた言葉には苦みが走った。
「俺がめんどくせぇ真似、お前にさせちまうじゃねーかよ…」
「…うるっせ! うるっせお前! 『させちまう』 っとか、言ってんじゃ、ねぇ! 言ってんじゃ、ねぇ!」
重くなりそうな俺の言葉を無理矢理切り落とすように、大竹はふざけて言う。
「…二度言うのかよ! しつっこい!」
それにいつものツッコミを入れながら、三村は相方のひねくれ気味の優しさに心から感謝した。
403
:
◆yPCidWtUuM
:2006/03/03(金) 23:40:15
とりあえず本日ここまでです。また後日続き落としに来ます。
404
:
名無しさん
:2006/03/04(土) 12:00:50
乙です!さまぁ〜ずらしさがすごい出てます。
大竹さんカコイイ!
405
:
◆9BU3P9Yzo.
:2006/03/09(木) 16:43:38
オジオズ編、本編です・
言い逃れるつもりもない。ただ、それがそこにある真実。
Corpse Hero /ver.01
ざわついた楽屋で、きらりと光る石に目をやる。
黄緑が映える、黒の装飾。気になって石の事を調べた俺は、あまりにも自分に似合いすぎる石に優越感を隠すことはできなかった。
力をつかったことはないが、きっと正義のヒーローのように強くなれるんだろう。この中の誰よりも。いや、石を持つ誰よりも。
笑い出したい気持ちを抑えながら台本に目をやり、自身の出番を確認する。
「篠宮くん」
視線をあげれば丸い顔に眼鏡、美人ではないが愛嬌のある顔─ハリセンボンの近藤春奈─が微笑んでいた。
「あっちにね、差し入れのお菓子あるから、みんなで食べないかって」
指差す先のテーブルに、言われたようにたくさんのお菓子が並んでいる。外見に似合わずよく気を配る彼女は、一人でいる人を見ていられないのだろうか。
そんなことを思いながらもひとつ頷き、軽く片手をあげ相手を制した。
「今はええわ。後でな」
短く答えると、近藤はそう、とだけ呟いてまたいつもの輪に入っていく。
にぎやかしく楽屋で輪をなす「吉本」という繋がりに思わず視線を向ける。
10カラット内での吉本のメンバーは、オリエンタルラジオ、バッドボーイズ、ハリセンボン、コンマニセンチ、アームストロング、プラスマイナス…過半数を占めている。
他所属だから馴染めない、というのは少し子供じみてるだろう。現に自分の相方の高松はすんなりとあの輪に入れるし。
何か欠けているのは俺だけかもしれない。
じわり、と石が熱を持つのに気づく。負の感情を吸い取り、喜んでいるようだ。
あの日「黒い意志」に飲み込まれた俺は、話に聞いていたように「のっとられる」でも「暴走する」でもなく、ただ単純に、ひどく素直に「順応」していた。
頭が割れるような頭痛も、のどを焼くような吐き気もなく、むしろ目覚めてからは怖いくらいに体調も気分もよくて、不思議に思っていた。
ただ確実な変化もある。
───地の底から湧き上がるような悪意。
ああ、きっとこれに負けたやつが暴走したりのっとられたりするんだ、なんて納得しながら、自分の石を見る。
フィロモープライトは心の強さを表すらしい。
正義のヒーローにはうってつけの石。この石が自分を選んだ理由もよくわかる。
自身の意思だけは何者にも折られることはないし、自分の選んだ選択は、間違っているとは思わない。
そう、俺の正義は間違っていない。
蹴落として、血反吐を吐こうが、昇りつめたものが持つものこそが栄光なんだから。
406
:
◆9BU3P9Yzo.
:2006/03/09(木) 16:44:24
「篠宮、新幹線何時やったっけ」
「あー…よう覚えとらんわ」
「お前…」
苦笑する高松をよそに、同じように大阪に向かう新幹線のホームでさきほどまで見た顔を発見する。プラスマイナスの二人が、やはり同じように地元行きの新幹線を待っている。とくに声もかけずにいたのだが、それはあっさりと破られた。
「おー、めずらしいやんか」
岩橋がこちらに気づき手招きしながら近づいてきた。それにつられるように兼光。
「あーお疲れ」
相方が軽く笑いながら手を招く。
近づく二人から、鈍い共鳴を感じ、相方越しに二人を見る。
楽屋のように楽しげに会話を弾ませる三人をよそに、火傷するんじゃないかと思うくらいに、フィロモーブライトが熱を持ち始めた。
奪え。
黒い声が、脳に響くのを振り切り高松の腕を取る。
「新幹線、来とるで」
「お?おお、じゃ、またな!」
プラスマイナスの二人に手を振り、その場を離れる。奪うのは簡単だ、奪うのは。
でも。
「ちょ、どないしてん?一言もしゃべらんと…」
「なんもない」
相方に見られたら終わりだろう。
相方にだけは見抜かれてはいけない。
一番に信じさせて、何もわからないまま事の終わりに立ち合わせて、それで。
俺は正しかったと、証明してもらわなければ。
「あ、そういやあの二人の石、どんなんやろ」
何気ないその言葉に背中から引き裂かれたように息が詰まる。
そう、こんな何気ない言葉でさえ今の俺には毒だ。
「石」
「うん、今日なちょっと見せてもらってん。仲間やったら、協力せなあかんやん?」
「…仲間?」
顔を上げずにただ淡々とオウムのように繰り返しながら、ぐらぐらと脳が煮え、脳内に直接あたる洞窟のような反響音が、吐き気を覚えさせる。
───奪え
──全て
─壊せ!!!
目を見開き息を吸う。
瞬間ベルのなる新幹線に高松を押し込み、発車したのを見送りホームに膝をついた
警鐘を打ち鳴らし、それに呼応するように石は黄緑の光を増し、胸の詰まるような苦しさに肩で息をしながら、ゆっくりと顔を上げる。一度、二度。瞬きと深呼吸を繰り返すと、ゆっくり立ち上がり、先ほど二人がいたであろう場所を見つめる。
息を潜め、目を閉じ、微かに、でもはっきりと感じる石の共鳴に、無意識に口角はあがる。
黒も白もない。
正しいのは俺だ。
それ以外の石など何も、いらない。
407
:
◆9BU3P9Yzo.
:2006/03/09(木) 16:45:21
とりあえず戦闘の前までですが。
宜しくお願いします。
408
:
名無しさん
:2006/03/09(木) 20:20:04
◆9BU3P9Yzo.
凄く面白い。本スレに落としても問題ないと思います。
409
:
名無しさん
:2006/03/09(木) 23:07:14
>>405
面白いです。ちょっと気になった点↓
春奈→春菜
あと春菜は篠宮のことは「さん」付けだと。
410
:
◆9BU3P9Yzo.
:2006/03/09(木) 23:14:42
>>408
,409
ありがとうございます!
やはり一度ここに投下すると自分の抜けっぷりが見えていいですね。
御指摘ありがとうございます!
411
:
◆yPCidWtUuM
:2006/03/11(土) 15:16:13
>>404
レスが遅くなりましたが、ありがとうございます。
時間ができたので続き落とします。
412
:
◆yPCidWtUuM
:2006/03/11(土) 15:18:28
[バカルディ・151プルーフ<8>(side:大竹)]
十字の光が入った黒い石。透明で虹色の光がちらつく石。
ポケットからとりだしてテーブルの上ではじく。
「『ブラックスターとレインボークォーツを渡せ』、ね」
居間で相方と顔を突き合わせつつ石を眺めてみる。
確かにこの2つがあれば、使い方と相性次第でそれなりに誰でも身を守れるんだろう。
まあ、俺にはレインボークォーツは使えないんだが。
…渡せ、と言われておとなしく渡すつもりはなかったんだけどよ。
ちょっと心の中で呟いてみる。でも三村にそんなことは言わない。
結構真に受けるところのある相方に、よけいな心配をさせる必要もないだろう。
要は優先順位の問題だ。今は俺のプライドより三村の家族の方が重い。
「でもあれだろ、俺らが黒に入るんならお前の石、わざわざ渡すことねぇだろ」
「まあな、ブラックスターは現状維持だろうけどよ」
「レインボークォーツは黒の上の奴に渡すとかか?」
「かもな、コレ使えたら結構強力だし、持っていきてぇだろ」
「けど使うと記憶消えるんだよなあ」
「あ、そうか、お前こないだコレ試したもんな」
「おう、お前はダメだったけどな」
「ああ、ダメだったなー…つうかアレだな、琥珀はいらねぇんだなアイツら」
「リスキーすぎんだろ、アレは…もう事務所に返してこいよマジで」
そんなふうにぽつりぽつりと会話を続けていると、玄関のチャイムが鳴る。
嫁さんか? と三村に視線で尋ねると、軽く首を傾げて出ていった。
「はい、どちらさんっすか?」
『どうも、三村さん』
「…誰だ、お前」
玄関から聞こえてきたやりとりに嫌な予感がして顔を出す。
三村が剣呑な表情で扉の向こうと会話していた。
『黒のモンです、開けて下さればわかりますよ』
その台詞を聞いて扉を開けようとした三村を見て、とっさに石を握り込む。
ぐっと手に力をこめると、無色透明の「世界」が広がって、三村ごと周囲を包んだ。
次の瞬間に玄関扉が開き、立っていた人物の姿がはっきりと目にうつる。
「どうもこんばんは、お久しぶりです」
扉の向こう、悪びれない様子で話しかけてきたのは見知った顔。
「…土田」
U-turnの土田晃之が、そこには立っていた。
413
:
◆yPCidWtUuM
:2006/03/11(土) 15:19:18
[バカルディ・151プルーフ<9>(side:三村)]
大竹と話している最中に、玄関のチャイムが鳴った。
妻と娘が帰宅したのかと一瞬思ったが、もう少し遅くなると言っていた気がする。
いったい誰だ? といぶかしみながら応対に向かう。
「はい、どちらさんっすか?」
『どうも、三村さん』
聞いた覚えのある声。でも、確証が持てない。
ただ、どう考えてもコイツは今、招かざる客だ。
「…誰だ、お前」
少し低くした声で問うと、扉の向こうで少し迷うような気配があった。
しかし結局名乗る気はないらしく、返答は微妙なものだった。
『黒のモンです、開けて下さればわかりますよ』
その言葉に覚悟を決めて扉を開こうと手を伸ばす。
後ろで大竹の石の気配がして、ああ、使ったな、とぼんやり思った。
「どうもこんばんは、お久しぶりです」
…そうか、お前も黒だったんだな。
「…土田」
同じく家庭持ちの男がそこにいて、なぜか少し悲しくなった。
414
:
◆yPCidWtUuM
:2006/03/11(土) 15:20:04
[バカルディ・151プルーフ<10>(side:大竹)]
「すいませんね、いきなりお邪魔して」
意外と礼儀正しい大柄な男は、軽く会釈をする。
襲ってくるような気づかいもないので、石を使うのもやめにした。
「お前、黒なんだな?」
三村が割に落ち着いた態度で尋ねる。
「そうです」
「俺んちに押し入ったの、お前か」
「…半分ハイで半分イイエ、ですね」
「どういう意味だよ」
「お二人の現場のスタッフに黒の奴がいましてね…」
…ああ、やっぱりな。
予想通りの展開だ、と胸の内で呟く。
ロケの時の三村の言葉、聞いてやがったんだ、畜生。
「そいつから連絡受けて俺が家の中に入れるようにお膳立てしました、実際入ったのはもっと若手の奴らです」
「…何でそんなマネしやがった?」
「俺にも家族がいるんです、って言ったら猾いですか」
「…」
「本意じゃなかったんですよ、信じてもらえるかわかりませんけど」
相変わらず、どこかしらけた態度で話す土田の言葉からはそれでも、嘘は感じられなかった。
三村は静かに土田の言葉を聞いている。俺はその背中が小さく震えるのをじっと見ていた。
「土田」
三村の背中越しに、客人に声をかける。
土田は視線を少しだけ上げてこちらを見た。
「あの文面考えたの、お前か?」
「…すいません」
「ありゃ完璧だな、今二人で黒入る相談してたとこだ」
「…」
「入ったら石は渡さなくても構わねぇか?」
「『黒に入る』って聞いた場合はレインボークォーツだけ回収するように言われましたけどね」
「そーか、んじゃやるよ」
ポイッと投げて渡すと、慌てたように土田はそれをキャッチする。
「ちょっ…何、いきなり投げないで下さいよ」
「持ってけよ、さっさと」
「えっ?」
「さっさと行け、三村が…」
「切れる前に」、と続ける前に、三村の怒りが爆発した。
415
:
◆yPCidWtUuM
:2006/03/11(土) 15:20:49
[バカルディ・151プルーフ<11>(side:大竹)]
…これは間に合わない。御愁傷様。
早くも諦めが入り、その場で土田にむかって手をあわせる。
三村のポケットに中にあったらしい石が強烈な光を放ち始めていた。
その光の眩しさに思わず目をつむると、三村の怒号が響く。
「土田お前…お前、この、『駄馬がっ!』」
そう三村が叫んだとたんに土田は、凄まじいスピードで三村家の玄関から吹っ飛ばされた。
「 『駄馬が!』 ?!」
…『駄馬が!』って三村、それ土田へのツッコミなのか?!
フローライト、お前の解釈ではツッコミだったんだな? お前三村かよ!
駄馬がピューッと空を飛んでいくならまだしも、土田が空を飛ぶということはそうとしか思えない。
一般的には絶対ツッコミに分類されないだろう言葉に一瞬状況を忘れて逆にツッこんでしまった。
…本当にうちの相方は、ツッこみどころの多いツッコミだ。
その間に、土田はマンションの外に面した廊下の柵を越えてすっ飛び、空中に投げ出された。
大柄な土田の身体は、重力に逆らわず急速に落下をはじめる。
…そう上階から落ちているわけではないが、このままでは骨折程度は免れない。
慌てて駆け出して、土田を追って階段を降りようと手すりに手をかける。
「土田っ…!」
叫び声が響くマンションの前、地面すれすれで土田の身体は突如現れた赤いゲートに呑み込まれ。
そして緑のゲートでもう一度現れると、玄関前の廊下に背中から落ちてきた。
「いっ…てぇ…」
腰をしこたま打ちつけたらしい土田はコンクリの上でうずくまる。
これがあの場所から普通に落下していたら、と思うとぞっとした。
三村の力は一見間が抜けているが、使いようによってはかなり強力で、恐ろしいものだ。
普段は意識していないが、こうした爆発的な力を見ると嫌が応にも気づかされてしまう。
「おい三村、気ぃすんだか」
「…」
自分よりもだいぶ大柄な男を吹っ飛ばした相方のほうを見やれば、放心状態だ。
凄まじい勢いでツッこんだせいでかなり体力を消耗したらしく、その場に座り込んで呆然としていた。
「三村」
「あ…」
二度目にかけた声でやっと正気に戻ったらしい三村の目に光が戻る。
きょろきょろとあたりを見回し、うずくまる土田に気づくと近よって言った。
「土田、怪我ねぇか?」
…それお前が聞くのってちょっとアレじゃねぇ?
またも微妙にツッコミを入れてしまいつつ、とりあえず土田を家に上げてやるよう三村に促した。
416
:
◆yPCidWtUuM
:2006/03/11(土) 15:21:28
[バカルディ・151プルーフ<12>(side:三村)]
腰を打ったらしい土田を家に上げてやる。
あの手紙が置かれていた居間のテーブルに、三人でこしかけた。
さっきはつい怒りのあまり石の力で土田を吹っ飛ばしてしまったらしい。
頭が真っ白になっていたので細かい記憶がない。
犯人と言うべき相手を目の前にしてみたら、やっぱりビックリするほど腹が立った。
ただ、一度ガーッと怒りが発散されたからか、今はもう正直、少し落ち着いてしまったところだ。
多分、土田にも黒を選ぶ理由がそれなりにあるのだろう。自分たちがこうなったのと同じように。
何となくそう感じてしまったので、これ以上責める気にもなれなかった。
「なあ、黒入ったからって今日からいきなり何かすっげえ変わるとかじゃねぇんだろ?」
大竹が問うと、土田は首を縦に振る。
「ええ、まあたまに指令が来たりして面倒ですけど…毎日のように戦闘とか、そういうのは逆にないですから」
「俺らを襲ってきてたのも、もっと若手の奴らが多かったもんな…ある意味、今までより楽ってことか」
「そうなりますね…自分の意志で黒を選ぶなら、そう嫌なことばっかりでもないと思いますよ、俺はね」
する前までは禁忌だと思っていた変わり身が、やってみれば意外に大したことでないのだと知る。
むしろ面倒が減るのだと思えば、それはそれで悪くはないのかもしれなかった。
ただ、胸に残るわだかまりと妙な後ろめたさだけが、白から黒へと鞍替えした自分をちくりと責める。
「これでとにかく、お前を通じてか何かわかんねぇけど、黒の連中に俺らが主旨替えしたことは伝わるんだな?」
「はい、俺が伝えときますんで…明日からは襲われるようなこと、なくなりますよ」
「…そうか」
少し安堵したように大竹が小さく息を吐いた。
そうだな、少し疲れていたかもしれない。毎日のように襲撃を受ける生活には。
大竹の石の力や俺の石の力、それに虫入り琥珀の力でどうにかここまで怪我もなくすごしてきたけれど。
…正直に言えば、結構限界が近かったのかもしれない。
フローライトを指先でもてあそびながら、そんな風に思った。
「そういえばお前の力って何なの? 何か赤と緑の出ただろ、さっき」
「ああ、俺のは空間移動なんですよ、あれは空間のゲートで…赤ゲートから緑ゲートに移動できるんです」
「じゃあ空中でゲート出して移動したってことか?」
「まあそうなります、ただ咄嗟のことだったんで体勢をとりなおせなくて背中から落ちましたけど」
…なるほど、それで俺の家入れたんだな。
今の大竹と土田の話から、やっと自分の家への侵入経路を理解できた。
そういう力の石もあるってことか、あんまり見たことなかったな、襲ってきた奴はみんな攻撃系ばっかりだったから。
直接襲撃するなら別にそういう力の奴にやらせる必要ねえもんな。まあ全くその通りの話だ。
石の力の代償でぐったりと疲れた身体を椅子に沈めて黙ったまま、そんな風に二人の客人の会話を聞いていると。
突然電話が大きな音で鳴って、急いで受話器をとった。
「はい、三村です」
電話の相手は最愛の妻で、ほっと溜息をつく。
もうすぐ帰るから、という言葉になぜかとても胸が温かくなって、笑顔で受話器を置いた。
417
:
◆yPCidWtUuM
:2006/03/11(土) 15:22:10
[バカルディ・151プルーフ<13>(side:三村)]
電話を機に、大竹と土田を送り出す。
どうせなら妻と娘を迎えに行ってやろうと俺も一緒に家を出た。
ずいぶんと時間が経っていたようで、西の空がすっかり赤に染まっている。
夕暮れの街の景色はあの襲撃の日と何も変わらなかった。
土田は方向が違うので、大竹と俺が使うのとは別の駅へと向かい、別れる。
相方と二人、駅への道すがら話すのはこれからのこと。
「大竹」
「あん?」
「変わんねぇんだよな、結局、この先も」
「同じだろ、ちょっと立場が違うだけでよ」
「…そうだよな」
…そうだ、何も変わらない。
大竹と二人、この世界でやっていくのだから。
立場が変わっても、大事なところだけは曲げないでいればいい。
「まあ、襲撃がなくなんのはありがてぇな」
「それはホント、助かるな」
「アレだな、もういいな、虫入り琥珀」
「そうだよ、いらねぇだろ、早く事務所返してこいよ」
「そーするわ」
ポケットから出した蜂蜜色の石を、大竹が夕陽に透かす。
隣からのぞき込んだそれは、小さな羽虫を呑み込んでとろりと固まっている。
この柔らかな光をたたえた石は、長い長い時の流れの中で、一体どれだけのものを見てきたのだろう。
この石がなければ切り抜けられなかった闘いもたくさんあったけれど。
もう俺たちには必要ないし、この先に続く道では邪魔になるだけだ。
白でも黒でも、どのみち闘っていくしかないけれど。
こっちが襲撃者になるなら、これを使うような背水の陣じみた闘い方はしなくてすむ。
たとえそれで良心が痛んでも、もう立ち止まるつもりもない。
ここからは俺の石と、大竹の石があれば、それで進んで行けるはず。
「そんでアレだ、大竹」
「何だよ」
「もう一回売れて、俺ら、…とれるよな?」
…何を、とは口にしなかった。
でも多分、伝わったんじゃねぇかと思う。
「…バーカ」
大竹は笑いながら答えて、虫入り琥珀をもう一度しまう。
ふざけたように言った「バーカ」の後ろに、きっと隠されている言葉。
『とれるに決まってんだろ、”天下”』
自分だけに聞こえる声を聞いた気がして、白っぽい駅舎を染めるオレンジ色の光の中、小さく笑った。
418
:
◆yPCidWtUuM
:2006/03/11(土) 15:29:58
これで「151プルーフ」終わりです。
土田の能力、バカルディ(さまぁ〜ず)の能力は以前から出ているものと同じ。
天下とるとかって話は当時のインタビューでの彼らの言葉からいただいてます。
土田とバカルディの関連がよくわからず、この時期に絡ませていいものか
正直悩んだんですが、土田は当時ボキャブラ出てたし、一応知られている若手に
なるのかなと思って顔見知りの設定にしました。
ただ、ひょっとして土田が結婚をまだ公表してない時期だったような気もして
不安なので、その辺り詳しい方いらっしゃれば教えていただけると嬉しいです。
419
:
名無しさん
:2006/03/11(土) 17:42:10
乙!笑えるとこも切ないとこもあって、読むのが楽しかったです。
…石は持ち主に似るのかw
420
:
名無しさん
:2006/03/12(日) 02:26:48
乙でした。すごく本人達の雰囲気が出ていてよかったです。
ところで土田の結婚のことですが
ボキャブラ当時はネプチューンや海砂利水魚などの
ごく親しい人にしか話していなかったという話を聞いたことがあります。
でもホリケンと有田は口が軽いので彼らには内緒にしていたとか。
結婚を公表した時期については自分にはわかりませんでした。すみません。
421
:
◆yPCidWtUuM
:2006/03/13(月) 12:33:48
>>419
感想ありがとうございます。
ペットとかみたいに石が持ち主似だったら面白いかなとw
>>420
感想と土田の結婚についての情報ありがとうございます。
その部分ぼかして書き直して、本スレに投下してまいります。
422
:
oct
◆ksdkDoE4AQ
:2006/03/14(火) 22:17:47
以前、トータルテンボス篇書いていた者です。
どのくらい需要があるものか読めませんが、
ホリプロコム若手のビームとオキシジェンが出る話を途中まで投下させてください。
(とりあえず前篇のような扱いです)
おかしい表現や、ほかの作品との齟齬などあったら教えていただけると嬉しいです。
423
:
oct
◆ksdkDoE4AQ
:2006/03/14(火) 22:18:50
「情けねぇよ俺は」
ビル群特有の風に、白いシャツの裾が大きくはためく。それを気にも留めず、今仁は屋上の
手すりから身を半ば乗り出して、自分が居るビルと隣のビルとの谷間を見下ろしている。だか
ら彼の声は風に千切れていて、少し離れた吉野の耳には切れ切れにしか届かない。
「え?何?」
単なる問い返しに過ぎない吉野の言葉がやる気のないそれに聞こえたのだろう、今仁は軽く
眉をひそめて振り返り、「情けねぇ!」と声を荒げた。しかし吉野は、今仁の尖った声に動じ
る様子もなく、「ふーん」と相槌にもならない声を漏らしただけで、星も月も見えない暗い夜
空を見上げたまま。
「…どうした?とか、何が?とかねぇのかよ!リアクションほとんどナシか!」
今仁はあっという間に焦れる。そういう今仁の分かりやすい所が、美点でもあり欠点でもあ
ると吉野は思う。
「…どうかした?」
自分で振らせておいて話し始めるのって楽しいのかな、とちらりと思ったが、今仁には云わ
ない。吉野が言葉を飲み込んだことなど、今仁は知るよしもない。
「おまえの石、戦うのに全然使えねぇのな。俺の石も戦闘力ねぇし。俺ら二人ともすげぇ情け
ねぇなと思ってさ!」
磯山さんのとかすげぇぜ?と続けて、肉体強化に石を使った磯山がいかに強いかを語る今仁
の表情を見ながら、吉野は無表情に頷く。
聞き流してはいない。きちんと聞いてはいる。けれど彼の思いは今、別のところにある。
(こんなに、いつも通りの表情に見えんのにな)
吉野の心の声を打ち払うように、今仁は磯山の様子をジェスチャー付きで解説する。
「磯山さんがこうやって殴ったらさ、敵が3mくらいブッ飛ぶの!マンガか!って俺叫びそう
になったわ」
拳を架空の敵に向けて振り切る。その今仁の右手首には、白いリストバンド。手首側、ワン
ポイントのように黄色いガラスのようなものが付いていて、ふいにキラリと吉野の目を射た。
(サルファー、だっけ)
それが、今仁の石の名だ。より耳なじみのある言葉に云い代えれば、“硫黄”。鮮やかな黄
色をしていて、最初にそれを見た瞬間、今仁が「何か美味そうな石だな」と云ったのが、元々
食の細い吉野には理解不能で驚いた。
424
:
oct
◆ksdkDoE4AQ
:2006/03/14(火) 22:19:39
「おい、聞いてんのかよ?」
「うん…聞いてる聞いてる」
曖昧に頷いて、吉野は屋上の端に立つ今仁へと近付いていく。
「それより、そろそろ時間」
「…あー」
彼らがここでこうして、ビル風になぶられながら話しているのにも理由がある。
「俺らの石はあんま今仁好みじゃないかもしれないけど、でもまぁこうやって設楽さんからの
命令も受けてんだしさ、捨てたもんじゃないと思うよ」
「…まぁな」
吉野が今仁の隣に並んで立ったところで、タイミングよくこの屋上への扉がキィ…と軋んで
開いた。
「来た」
今仁が明らかに目にキラキラしたものを宿して呟く。
ドアの影からひょこりと顔を出したのは、眼鏡をかけた小柄な男と、茶色い髪をした中肉中
背の男。きょろきょろと屋上を見渡し、並んで立っているビームを見つけると、両方が軽く首
をかしげてから顔を見合わせた。
「…今仁さんと吉野さん」
「だな」
見るからに不審がっている彼ら二人に声を掛けたのは今仁。
「オキシジェンのお二人ー、いらっしゃーい」
陽気なその声に、眼鏡の男…オキシジェン三好と、茶髪の男…オキシジェン田中は、見合わ
せていた顔を再び事務所の先輩へと向ける。
「え?俺ら呼び出したのって…ビームさんなんですか?」
「うん」
人影のないビルの屋上。しかも時間は夜。こんな所にこんな時間に呼び出されて不審がらな
いわけもなく。
特に、昨今は石を巡る戦いとやらで事務所内のみならず芸人の世界全体に緊張が満ちている
ことを、若手といえどオキシジェンの二人も知っている。
425
:
oct
◆ksdkDoE4AQ
:2006/03/14(火) 22:20:31
「…何の、御用でしょう」
三好は、警戒心を隠しもせずに尋ねる。
「うん、まぁ小手調べっていうかさ」
「は?」
あくまでも明日の天気でもするかのような気楽さで吉野が応じる。身にまとったジャージの
影、手首の辺りでキラリと何かが光ったことに三好も田中も気付いてはいない。
「オキシジェンって、石持ってるんでしょ?」
「…誰に聞いたんですか?」
「誰だっていいじゃん」
「や、よくないですし」
ドアの影から一歩も動こうとしないオキシジェンの二人に、今仁と吉野は一歩ずつ近寄って
いく。二組の間にピシリと緊張が走る。
先手を打ったのはオキシジェンだった。
彼らは若い。特に、舞台上では三好がプロレス技を繰り出しては田中を振り回す、アクロバ
ティックなコントを見せている。つまり身体能力には自信があるのだ。…それは裏を返せば力
に頼り過ぎているということにもなる。
お互い石の能力が分からないこの状態ならば、できるだけ自分の能力を隠しておくことが肝
要だと吉野は思っていたし、今仁にもそれは伝えてある。
猛然と吉野の方へと走り寄ってきた三好が、目前でタァン!と屋上の床を蹴って飛び上がっ
た。
つられて吉野の視線も上がるが、数瞬後には飛び上がった三好の足が自分の身体に絡んでく
るのだろうとほとんど本能的に察知した。そういうプロレス技があることは、オキシジェンの
コントを見ていて知っている。確か…三好が田中の首を両足で挟むようにしてそこを軸にぐる
りと回り、遠心力で田中を床に引き倒すのだ。
三好の足の動きを見ながら、吉野はその痩身をかわす。
…はずだった。
次の瞬間、何が起こったのか咄嗟に吉野には分からなかった。「視界」が変わった。まるで
スタジオのカメラを、スイッチして切り替えたように。
三好を正面から捉えていたはずが、一瞬後には飛び上がる三好を後ろから見ており、そのま
た次の瞬間には元の視点…いや、そこから三好の足技によって地面に引き倒された視界となっ
たのだ。
「吉野!」
今仁の声が聞こえる。夜空を見上げたまま、「何があったんだろう?」と吉野は考える。背
中が痛い。三好はヒットアンドアウェイとばかりにすぐにまた離れていったらしい。
「吉野、おい、大丈夫か」
「…まぁなんとか」
「くっそー、俺ならかわしてやんのによう」
プロレス好きの今仁が少しわくわくしているらしいので、冷めた目線を投げかけるに留めて
おいて。
吉野は上半身を起こしながら考え込む。
426
:
oct
◆ksdkDoE4AQ
:2006/03/14(火) 22:21:05
(さっきの角度…)
切り替わった角度の時、三好の後ろ姿が見えた。それだけではない。その先に見えたのは…。
(…俺?)
そうだ。飛び上がった三好の向こうにいたのは、吉野自身。
更に、見間違いでなければ吉野の顔は、吉野の視点と目を合わせてニヤリと笑った。ややこ
しいことだが、「吉野の目」がどこかに移り、「吉野の顔をした何か」と目が合った…と云う
べきだろうか。
立ち上がって辺りを見渡し、位置関係を確かめる。間違いない。
吉野。吉野の隣に今仁。少し離れてこちらを睨む三好。更に向こうにいる…田中。
三好の背中を見られるのは、田中だけだ。
(田中と俺が入れ替わった?)
そこまで考えた時に、吉野と目が合った田中がニヤリと笑った。それはまさしく、「吉野の
顔をした何か」と同じ表情。
「大体、おまえ、三好の足技ぐらい避けろよ。ぼーっと立ち尽くしちゃって」
今仁の台詞も、吉野の考えたことを証明している。間違いない。
「今仁。俺、分かった」
「あ?」
「田中の石の能力が分かった」
じりじりとオキシジェンから後退りながらも、吉野はにやにやとした笑いを失わない。怪訝
そうに眉を寄せる今仁のシャツの背中をひっぱり、吉野が口早に耳打ちする。
「俺と田中の体の中味が入れ替わった。一瞬だけ、田中と視界が入れ替わったんだよ。体の感
覚も、田中のもんだった。そういう能力」
吉野の考えた通り、田中の石の能力は、誰かと体の中味を入れ替える、というものだ。ネタ
の中で何度も三好の技に対する受け身を練習している田中ならば、三好の技を効果的に受ける
術も分かっているということ。避けようとする人物の体を田中が一瞬乗っ取ることで、確実に
三好が技を仕掛けられる…そういうコンビネーション。
吉野の説明で理解できたらしい今仁は、少し考えて「あぁ」と声を漏らす。
「吉野。それなら、お前の石使えば一発じゃん」
427
:
oct
◆ksdkDoE4AQ
:2006/03/14(火) 22:24:19
とりあえず、前篇ここまでです。。
これはホリプロコム内の白黒構図が確定する少し前の話ということで
ご料簡いただければと思います。
428
:
名無しさん
:2006/03/15(水) 17:05:55
乙!面白かったです。
田中さんの能力はこういう風に活かされるのか、と感心しました。
全然問題ないと思いますよ。
429
:
◆9BU3P9Yzo.
:2006/03/30(木) 18:13:23
篠宮編続きを投下します。
「ちょっと早すぎたんちゃう?」
「あー…あと二本後か」
だらだらと駅内を歩きながら、チケットと携帯を何度も見比べた。一瞬、わずかな瞬きに兼光は携帯につけた石を見つめた。
「どないしたん?」
同じように岩橋が覗き込むとその視線の先に先ほど見送ったはずの姿が見え顔をあげる。
「なん…今のちゃうん?」
もう誰もいないはずのホームに佇む姿に思わず車掌の身振りで相手を指差し笑った。そのジェスチャーに乗せるように声をかけると、反応のない相手に目を凝らす。
430
:
◆9BU3P9Yzo.
:2006/03/30(木) 18:14:06
「篠宮?」
兼光が携帯を持ったまま近寄り、軽く相手の前で手を振った次の瞬間。
「兼光!」
相方の声に振り向くとそのまま後方に倒れこんだ。
「…っ!?」
あまりの速さに物事を理解できずにいたが、頬を切る風と殴られた痛みに自分が『攻撃された』事実をぼんやりと飲み込む。そして違和感。
「あれ…」
「だいじょ…おま、携帯!」
携帯につけていたはずの緑色の石─パイモルファイト─がなくなっている。駆け寄った岩橋に指摘されようやく視線を移し、殴られた反動でぐらぐらとする頭をゆっくりと篠宮に向ける。
その視線に気づくと篠宮はにっこりと微笑んだ。
「これっすか、兼光さんの石」
ふーん、とさして興味なさそうに石を眺めるとそのまま握りこみポケットにしまう。一歩ずつ、歩みながら、ひどくゆっくりとした動きで右手をかざした。
「俺の石の方が、キレイや」
喉元で笑うと一瞬石が光り、二人が瞬きをした瞬間姿は消えた。
「あ…あれ…?」
「どこ行ったんや…」
ざわざわと嫌な風に吹かれながら、岩橋は自身の携帯から石を外し、用心のため握りこむ。幾層にも重なる褐色が鈍く光りながら熱を持つ。
石同士が共鳴しているという事は、近くにいるのだろうか。
「ったく、アホちゃうか?なんでわざわざ石見せとんねん」
「なんでや、故意に見せたわけやなし」
「言うても取られとるやん、力使えへんやん、能無しやん」
「怪我しとる相方にそこまでいうか」
今にも喧嘩に発展しそうな会話をしながら、無意識に背中合わせに立ち上がる。まるでそこだけを切り取られたかのように、しんと静まり返るホームで、どこから攻撃がくるかわからない状態で、二人はただ息を潜めるしかなかった。
「でも…」
431
:
◆9BU3P9Yzo.
:2006/03/30(木) 18:14:33
ふいに浮かんだ疑問が、兼光の口からこぼれる。
「高松は、白や言うてたやん」
高松─その言葉が響いた空間がゆらりと揺れた。
「!」
岩橋が石の力で作りこんだ球を、とっさにその歪み目掛けて投げつける。何も無いはずの空間に弾かれ、衝撃波が砕け、轟音とともに閃光を放つ。
「やった!」
「クリーンヒットや!」
相手に当たったと核心し思わずその方向に視線を向けた、たった一瞬の気の緩み。ふいに岩橋の視界が外れ、地面に叩きつけられた。
背中に圧し掛かり、片腕を逆に折り固めた篠宮が、にこりと兼光を見つめる。
「あんなんが『ヒーロー』に効くわけないやろ?」
「何が…っ、ヒーローじゃ…!」
苦しげに呻きながら岩橋が毒づく。
相方を抑えられ、石も持たない兼光は篠宮の楽しそうな笑顔に圧倒されながら動けないでいた。
「お前…白、ちゃうんか」
ようやく出てきた言葉に、篠宮は一瞬あっけに取られたような顔をすると、声をあげて笑い出した。心底おかしそうなその姿に、何故だか言いようの無い気味悪さを覚え、二人は戸惑うように視線を合わせる。
ぴたりと、笑い声がやむ。
急にしんと空気が凍るような気がして背筋を振るわせた。
「黒も白も関係ないわ。俺が頂点になる」
低く、貫くような声に、息を飲む。
「そのために、邪魔な石は全部壊す。手始めに──」
432
:
◆9BU3P9Yzo.
:2006/03/30(木) 18:15:24
一応ここまでで一話区切りです。
差し支えなければ前回のと同時に本スレに投下します。
433
:
名無しさん
:2006/03/31(金) 13:13:02
乙!面白かったです。
篠宮コワス…。
434
:
名無しさん
:2006/04/01(土) 03:24:01
プラマイはオジオズにタメ口使ってたっけ?
一応オジオズの方が先輩だから岩橋が高松に敬語使ってるのは見たことあるけど
435
:
名無しさん
:2006/04/01(土) 15:28:54
>>434
年齢は篠宮より岩橋、兼光が5つも年上だけどな。
プラマイは10カラットメンバーのほとんどに敬語を使ってた
気がする。タメ口で話してるのは上木とオリラジぐらいじゃないか?
詳しくは分からないが。
436
:
名無しさん
:2006/04/02(日) 19:34:00
岩橋はオジオズ2人に対して兄さん扱いで敬語使ってる。
兼光も後輩だから敬語使ってるんじゃないか?
437
:
◆9BU3P9Yzo.
:2006/04/03(月) 00:46:24
敬語…そうですね、見落としてました。
ご指摘下さりありがとうございます!
438
:
◆yPCidWtUuM
:2006/04/06(木) 03:22:07
おひさしぶりです。バカルディ→さまぁ〜ずの三部作の最後落としにきました。
今回大竹の石にある設定をつけています。白が黒側につけいる隙になりうるかなと。
でももしマズいようなら指摘お願いします。
439
:
[バカルディ・ブラックラム(side:大竹)]
◆yPCidWtUuM
:2006/04/06(木) 03:23:22
「冬なのにっ「「さまぁ〜ず!」」
間抜けな感じの決めポーズ。名前も変わって気持ちも新たに仕事仕事。
やっと来はじめた波は小さくても逃すな。全て丁寧に乗っていけ。
これを乗り切って画面に定着しなけりゃなんねぇ。同じ轍は二度踏まないと決めている。
あれからやっと3年だ。
三村と話した「アレ」をとる日はまだまだ遠い。
それでもあの頃から比べれば、少しは近くまで来たんだろう。
今一つ目の収録を終えて、次に向かう最中だ。
正月特番の撮りだめは気力と体力がいる。
斜め前の席からは三村のいびき、アイツの方がピンも多いし、相当疲れてる。
…そういえばさっき、後輩からもらった飴があったな。元気が出るとかいう。
思い出して口に放り込んでみる。効いたらあとで三村にもやるか。
ロケバスに揺られながら目をつぶる。
だが俺は眠りに入れず、むしろ精神がきゅうっと集中していった。
まぶたの裏、暗い世界でちらりと光る十字の星。
じわり、と響く声に耳を傾けた。
…よう、お疲れさん
『お疲れさん、じゃねえよ』
笑い含みの声に頭の中でだけ、答えを返す。
我ながらこれは人には知られたくない習慣だ。
脳内の会話の相手は、俺のポケットの中の無機物。
少し前からたまにこうして話しかけてくるようになったのだ。
ブラックスターに意志があるなんて、思いもよらなかった。
440
:
[バカルディ・ブラックラム(side:大竹)]
◆yPCidWtUuM
:2006/04/06(木) 03:24:19
思いもよらない、ねえ…お前の相方の石も多分こんなんだと思うぞ
『…ぜってぇフローライト、三村似だろ』
さあな、けど何だかんだで持ち主と似てるとこあんだよ、俺らは
『…めんどくせぇ』
ああ俺もめんどくせぇ、気ぃ合うじゃねえか
『そうだな、こうやって話しかけてくるくせにお前、特にアレだろ、俺に希望とかねぇしな』
んなもんねぇよ、めんどくせぇだろ
『そうだな、めんどくせぇわ、大体のことは』
でも全部めんどくさいわけじゃねぇよな、俺と違って
『…』
…そうだな、全部じゃねぇよ、俺は。
お前は全部めんどくせぇのか、んじゃ何で俺に話しかけてんだ?
わざわざ話しかけるとか、かなりめんどくせぇだろ。
お前は全部じゃねぇから、余計めんどくせぇ…でもちっと手ぇかしてやるかっつー気になった
『へぇ、そうかよ』
んで、今話しかけたのは、だ…お前、後輩からもらったその飴あんだろ
『ああ、何か疲れとれるとかいう黒いヤツな、うまくねぇなこれ』
俺はそれ、生まれつき効かねぇけど…あんまいいもんじゃねぇからやめとけ
『どういうことだ?』
相方にやったりすんのもやめろよ、そいつは「黒い欠片」だ、わかるだろ
『…これが?』
441
:
[バカルディ・ブラックラム(side:大竹)]
◆yPCidWtUuM
:2006/04/06(木) 03:25:03
舌の上で転がしていた塊に意識をやる。
飴、のはずのそれは、早くも形態をほとんど失っており、どろりと液状に変形していた。
「黒い欠片」の存在は知っているが、あまり関わらずにきたのでよく知らないのだ。
黒に入って回ってきた仕事で、この欠片を自分たちが扱う機会は一切なかった。
…そう、まるで故意にそれから遠ざけられているかのように。
途端に気味が悪くなってペッ、とちり紙に吐き出す。
それは薄い紙の上でさらさらとした小さな結晶のあつまりに姿を変えた。
お前を操りてぇって奴がいるのさ、昔もこんなことあっただろ
『そういや、黒い粉薬みてぇのもらったこともあんな…気味悪ぃから捨てたけど』
これが効かねぇからお前、昔襲われまくったってのに…まだ渡す奴がいるんだな
『なんだそりゃ、そうだったのか?』
そうだよ、欠片が効かねぇ石はあんまりねぇからな…俺の意志とお前が使う力のせいだ
『…攻撃は効かねぇし、許可がなきゃ中には入れねぇ、ってことか』
そういうこと、俺は欠片の侵入なんざ許可しねぇ、だから連中は一旦諦めて、お前を仲間に引き込んだ
…それはまた、すっっげぇ、めんどくせぇ話だな。
あんだけ毎日のように襲われてた理由が今になってわかるっつーのも皮肉なもんだ。
俺たちは黒にとっちゃ、厄介なんだ…敵でも味方でも、どっちにしろ支配できねぇ
『何だ、俺らがめんどくせぇヤツってことか』
その通り、自分の立場ってヤツをよく覚えとけ、そんで使え…お前がめんどくさくねぇモンのために
『…りょーかい』
ブラックスターの声が、遠くなり薄れていく。
この石と俺はうまくやっている。これからも多分そうだろう。
ポケットから飴に模した黒い欠片をひっぱりだして、全部捨てた。
白でも黒でも、めんどくせぇことはそれなりにある。
みんな、めんどくさくねぇモンのために、めんどくせぇ日常を送るのだ。
うっすらと開いた目の端っこで、三村は相変わらずだらしねぇツラで爆睡している。
…まあ、そういう、めんどくせぇ日常。
442
:
[バカルディ・ブラックラム(side:三村)]
◆yPCidWtUuM
:2006/04/06(木) 03:26:01
「あー、背中痛ぇ…」
寝ぼけ眼をこすりながら伸びをして起き上がる。
ロケバスのシートは身体をゆったり沈めるにはあまりにも小さい。
ばりばり言う身体をほぐすついでに少し後ろを振り向けば、大竹がうつむいて舟をこいでいた。
ああ、大竹も疲れてる。俺も疲れてるけど。
次の収録は何だったっけ、聞こうかと思ったが何となくやめる。
少し離れて座るマネージャーにスケジュールを問うには、結構な大声を出さねばならない。
眠っている相方を起こすのはどうにも忍びなかった。
窓の外の、流れる風景に目をやる。見覚えのある看板がひとつふたつあった。
ここから収録をおこなうスタジオまであと恐らく15分というところだろう。
何だか退屈してしまって、横の座席に置いてあったペットボトルに手をのばす。
雑誌も待ち時間にほとんど目を通してしまったし、やることがない。
何とはなしにポケットの中で石に触れて、握りこんでみる。
手のひらから何か、流れこんでくるような感覚。
最近よく感じるけれど、うまく核心を捉えることができないままでいる。
何かが伝わってきそうになるのだけれど、それをどうとり込めばいいのかがまだわからない。
いい加減この石とのつきあいも長いけれど、全てはまだ理解していないんだろう。
そっと手の中に包み込んだ石をのぞきこんでみた。
緑、紫、白。色の流れが混じりあい、透明な部分と半透明な部分がまだらになって光る。
いわゆる宝石のような輝きはないけれど、やわらかく落ち着く淡い光。
この石の光は何一つ変わらない、あの頃からずっと。
443
:
[バカルディ・ブラックラム(side:三村)]
◆yPCidWtUuM
:2006/04/06(木) 03:26:44
正月特番に呼んでもらえて、しかも撮りだめするだけの仕事があって。
少し前まではそんなことありえなかった。徐々に状況は好転し始めている。
あれからたったの3年で、俺と大竹をとりまくものは随分と変化した。
「冬なのにっ、「「さまぁ〜ず!」」
このつかみの台詞とポーズ、一体この冬、何度使っただろう。
とっくに三十代に突入して、芸歴も若手とは言いきれなくなってきたってのに、この調子だ。
まあでも、それはそれで悪くない。そう思えるようになってきた。
長年親しんできたコンビ名が変わってしまって、それを定着させるのに今は必死だ。
ピンでの仕事も多いけれど、少しずつ俺の後ろに控えている大竹が見えるようになればいい。
わずかずつでも、上へ昇るための細い糸をたぐり寄せられるなら、それでいいから。
あのとき、黒を選んで、虫入り琥珀を手放した。
それは決して間違った選択ではなかったと今なら思える。
ここまで来る間に、同業者を襲撃するようなめんどくさいことも何度かやったけれど。
それでもきっと、自分たちの本来の力を純粋に評価される場所に立ち得たことは幸せなことなのだ。
大竹がいて、フローライトがあって、それでこの世界に生きている。
それに不満はひとつもない。ただ、まだ上があると思う。
「アレ」をとる日はまだ遠い。一生来ないかもしれない。それでもひとつひとつ昇っていく。
そんなのも悪くない…、と誰にも聞こえぬように呟いて、もう一度目をつむった。
視界が暗くなり、ぼんやりとした意識がどこかへ連れていかれる。
…おい、聞こえるか?
おいお前、コラッ!
あ、寝やがったチクショウ…
…遠くから何か声が聞こえるような気がしたけれど、捉える前に意識を失った。
444
:
◆yPCidWtUuM
:2006/04/06(木) 03:28:42
以上です。3年の間にあった話もいつか書いてみたいです。
445
:
名無しさん
:2006/04/06(木) 14:52:34
乙!ブラックスターの設定、面白かったです。
大竹さんらしくていいと思いますよ。
…なんかこの二人だと石の声が持ち主の声で再生されるなあw
446
:
◆szc.4YA2w2
:2006/04/08(土) 13:53:53
始めまして。
次課長の話を書いてみたんですが、添削お願いします。
447
:
ひろいもの
◆szc.4YA2w2
:2006/04/08(土) 13:57:10
「おーい準一!なんか綺麗なもん拾った」
「こっちはネタの練習してるんだから話しかけるなや!」
明々後日はルミネ公演の日。なのに何もしない相方に河本は腹を立てた。
だが練習しろ言っても聞かないのでほっといた。
「なんや!つれないなあ」
と言って井上は帰ってしまった。
(まったくもう・・・)
相方の勝手な態度に河本はさらに腹を立てた。
翌日。
河本は信じられないような変な話を聞いた。
昨日、井上が怒ったように自分の影を殴り続けていたという話だ。
もしかして昨日の事を怒っているのだろうか?
そう思った河本は帰り道に井上に聞いてみた。
「なあ・・・昨日自分の影を怒りながら殴ってたって本当か?昨日の事怒ってるならあやまるからそんな事すんなよ。」
「いや、最近シャドーボクシングにはまってるんや。」
「・・・そっか。」
河本は井上が気を使っている事が分かった。
(別に気を使う必要なんて無いのに・・・シャドーボクシングの意味も違うし)
と言うのはやめて、河本は家に帰った。
448
:
ひろいもの
◆szc.4YA2w2
:2006/04/08(土) 13:58:47
その日の夜。
河本の家にマネージャーが訪ねてきた。
「なんや?明日の打ち合わせか?」
「いえ、違うんですよ。今日、打ち合わせをしようと井上さんの家を訪ねたら、プラスチックの欠片が散らばってまして」
「プラスチックの欠片?」
「で、奥に行くと井上さんがフィギュアをぶっ壊してんですよ。怖くなって逃げ出してきました。」
「え!?」
いつも温厚な井上が物、しかも大事なフィギュアを壊す。
本当はそんなに怒っていたのか?それとも何か別のこと?
どちらにしろおかしい事には変わりない。
そう思った河本は井上の家へと向かった。
「!?」
河本が井上の家に着いたころには部屋全体がめちゃくちゃになっていた。
井上は部屋の真ん中で倒れていた。
「!??」
死んではいないようだが、井上の体はとても冷たかった。
こちらにも寒さが回ってきそうな気持ち悪い冷たさ。
とりあえず河本は井上に毛布をかぶせて家に帰った。
449
:
ひろいもの
◆szc.4YA2w2
:2006/04/08(土) 13:59:21
翌日。何事も無かったかのようにテレビ局にやってきた井上を見て河本は安心した。
だが、今日の井上はいつもと少し違っていた。
人の目を見て話さない。話しかけても答えてくれない。
河本は休憩時間に井上に聞いてみた。
「なあ、今日の井上、何か変や。なにあったん?」
「・・・うっさい!なんでもないわ!」
そういうと井上は楽屋を出て行ってしまった。
その日の収録はなんだか集中できなかった。
収録が全部終わり、楽屋に帰ると井上の姿は無かった。
荷物も無いので、先に帰ったのだろう。
ふと、テーブルを見ると、井上の持ち石、というか持ち鉱物である金が置いてあった。
(置き忘れ?そそっかしいなあ)
届けてやろうと、帰り道に井上の家に寄った。
450
:
◆szc.4YA2w2
:2006/04/08(土) 14:02:01
途中ですが今回はココで終わりです。
続きは今書いてます。
451
:
◆yPCidWtUuM
:2006/04/09(日) 23:26:37
>>445
ありがとうございます。本スレ行ってきます。
452
:
一
◆i.38Tmcw2g
:2006/04/14(金) 08:14:21
能力だけでまだ石はまだ決まってないんですが
サカイスト、ハイウォー、カナリア話を投下します。ハイウォーだけは石も能力も決まっているようなのでそれを使わせて頂きました。
芸人が多いのと文章力が皆無なので長くなりそうですが、その辺は暖かい目で見てもらえたら幸いです。
453
:
一
◆i.38Tmcw2g
:2006/04/14(金) 08:17:34
もう戻れないのは分かっていた。
でもあと少しだけあの頃を思い出しても良いだろ?
―Border Line―
不思議な力を持つ石。黒と白。それに伴う哀れな抗争。
毎日が可笑しくなったのはいつからだっけ。つい最近の事なのに遠い昔のようにも思える。
弟でもある相方から「黒にだけは入らん」と宣言され、言われるがままに白に入り、時折襲ってくる同業者を何とか倒してきた。
しかし、攻撃にも守備にも向いていないうえに、能力に気付くのが遅かったせいで使い勝手もよく分からない石を持つ自分が戦闘に役立ったことはまだ1度も無い。悲しくも常に弟に守ってもらっている日々。この戦いがいつ終わるとも知れないのに、これ以上弟に頼り続けるのは如何なものか…。
そんな思考を巡らせながら、ホストを思わせるスーツ姿に身を纏わせたサカイスト・酒井 伝兵は石を手の中で弄んでいた。
静けさを知らないルミネの楽屋は考え事をするには不向きだ。出番までまだ時間があるのを確認して漫画喫茶に移動しようと席を立つ。
その瞬間、石が今までにない熱を帯びた。
「熱っ…!?」
驚いた彼の手からカランと乾いた音を立て石が床に落下。慌てて拾おうと石に手を伸ばすと、それはある人物によって妨げられた。
「ダメじゃないですか、こんな大事なモン落としたら」
そう言い放った人物が自分の足元に転がってきた石を拾い上げる。見知った顔に伝兵が苦笑いを浮かべ「ワリィ」と手を差し出すと、彼は拾い上げた石を伝兵の手に戻そうとして動きを止めた。
「…健太郎?」
呼ばれたその人物、カナリア・安達 健太郎は無表情に石を握り締める。
「どうした?」
いつもと違う後輩の様子に戸惑いを隠せず、嫌な仮説が頭を駆け巡る。
「けんたろ」「この石…僕にくれませんか?」
遮られた言葉に耳を疑いたくなった。安達の目は真剣そのもので、当たってほしくなかった仮説が実説となって脳裏をチラつく。
安達ガ黒?戦ウノカ?今?ドウヤッテ?
…ドウスレバ良い?
張り詰めた空気が辺りを覆う。背中に冷や汗が伝った気がした。
どうしたら…。
「嘘です」
「…えっ?」
瞬時にいつもの不適な笑顔になった安達が差し出された伝兵の手に石を投げ渡す。
「ほんまに誰かに取られたら、どないするんですか?大事にしとかなダメですよ」
「あっ、あぁ…うん」
間抜けな程に放心状態な先輩に助言を残し何事も無かったかの様に去っていく安達。
未だ放心状態から抜け切れず確かに熱を持った石をぼんやり見つめる伝兵。
初めて石の力に気付いた時に感じた…いや、それ以上の熱を放った。黒と思わざるをえない安達の言動がフラッシュバックする。
安達が近くに来たときに熱を帯びたなら、石が警告してくれたのか?
自分と相性最悪な気がしてならないこの石が?
それにしても…安達が黒かもしれないこの事実をどう伝えるようか。自分よりも安達の面倒を見ている弟に、不安と絶望の入り交じった思いを馳せながら楽屋を後にした。
454
:
一
◆i.38Tmcw2g
:2006/04/14(金) 10:05:09
舞台へと続く廊下はネタ合わせをする芸人の格好の練習場所だ。だが一歩、階段の踊り場へと足を運べば静けさに包まれる。
安達は先程見た伝兵の驚愕した表情につい苦笑しながら煙草をポケットから取り出した。
もう…自分は戻れない場所まで来てる。
煙草に火を点けようとライターに手を伸ばす。
「何してるんすか?」
その静けさには相容れない明るい声に安達は刹那、振り向くのを躊躇った。
「折角、デンペーさんの石を奪う良いチャンスだったのに」
いつも芝居がかった様な話し方に胡散臭さを思わせるピース・綾部の姿が視界に入る。
ライターも煙草もぶっきら棒にポケットへ押し戻した。
「何であんな絶好のチャンス手放しちゃったんです?」
相方のボンより大きいにしても、やはり自分より15センチは小さい綾部を見下ろす。
「どけ、邪魔や」
屈託のない笑顔に退くよう言ってはみるが、一筋縄で行かないのがこの男の特徴らしい。
「その言い草はないでしょう…“黒”の自覚、足りないんじゃないんですか?」
「どけ言うてるやろ」
聞く耳を持たない安達の対応に綾部の眉間にも皺が寄る。呼応するかのように互いの持つ石が淡い光を放ちだした。
いくら黒同士と言えど白とは違う。話して分からないのなら力ずくでも。それが黒のやり方だ。安達もそれは十分理解している。
だが、自分には自分のやり方がある。指図を受ける気は毛頭ない。
「やっぱり、この件は溝黒さんに任せた方が良いんですかね?」
「どけ」
綾部の脅しとも取れる挑発。相方の名に反応しつつも無視を決め込んだ安達。
「黒は確実に役に立つ人材を求めてるし、貴方の様に中途半端な黒は不安材料でしかないんです…よ…っ!?」
言い切る前に綾部が胸元を強く押さえる。
石の力と気付いた時には遅く、地面に引き寄せられるように崩れ落ちた。
455
:
一
◆i.38Tmcw2g
:2006/04/14(金) 10:07:19
「どけ、言うたやろ?」
「安…達さんっ!?」
こんなにも躊躇なく石を使われると思っていなかった。
油断していたとはいえ安達の力で呼吸もままならない綾部が見上げた彼の表情は完全な“無”だった。怒りを通り越した冷静さから生まれる“無”。まだ罵声をあげられた方が対処の使用があるのに。
石の力を発動させようと体を動かそうとはするが強い痺れがそれを許さない。
…殺される?
言い様のない恐怖と侵蝕し続ける体全体の麻痺を感じながら、ただどうする事も出来ず安達を睨み付ける。
しかし、安達はその表情を変えようとしない。
「何してんだよ」
何処からか現れた突然の来訪者を苦しいながら懸命に確認する。
そこには面倒臭そうに2人を見るハイキングウォーキング・松田の姿があった。
「松田さん」
「安達、もう止めとけ」
名を呼ばれ罰の悪そうな表情をしたかと思うと安達の石が光った。
それと同時に綾部の体から少しずつ麻痺が薄れていく。
「こんな事して…良いと思ってるんですか…?」
消えていく麻痺に安堵の表情を浮かべた綾部が喋りだした。
「貴方が黒…に…入ったのは…何のためで…す?」
麻痺が治り切らない口でそれでもなお、安達を挑発する。
「ボンに何かしたら…次は知らんからな」
「さぁ、どうで…しょうかね」
悪戯に含み笑いをする綾部を見やる。
なんとか体を起こしているが、すぐには反撃出来ないだろう。
「お疲れさん」
吐き捨てるように安達が労いの言葉をかけると松田と共にその場を離れていった。
綾部は2人を見送りいなくなったのを確認すると、階段の上の方を見上げる。
「マタキチー」
声を掛けると、いつもと変わらぬ様子でピース・又吉が顔を出した。
「佑ちゃん、大丈夫なん?」
「お前、もうちょい心配するとか駆け寄るとかしろよ」
自分のもとにのんびり歩いてくる又吉に呆れながらゆっくり体を動かす。
やっぱり…
「やって、安達さん手加減しとったやん」
又吉の言葉を聞き流しながら安達の顔が頭をよぎった。
…此処で完全に「黒」にしなければ、あの人は優しすぎる。
「マタキチ…行くぞ」
何かを決意したような綾部は又吉を連れルミネを後にした。
456
:
一
◆i.38Tmcw2g
:2006/04/14(金) 10:11:28
安達 健太郎(カナリア)
石は、まだ未定。(良いのあったら教えてください)
能力:自分の周り、半径3メートル以内の空気中の水分を様々な毒(麻痺や睡眠薬、精神に何らかの影響をもたらす催眠剤等)に変える事が出来る。一度に何種類もの毒を撒き散らすことも可能。また、その毒の解毒剤に変えることも出来る。
毒に変わった水分は空気中に浮遊しているため見ただけで毒かどうかは判断不可。敵が安達の半径3メートル以内にいれば毒によるダメージを与えることが出来る。
ただし、毒に持続性は無く常に力を発動させていなくてはならない。
それから特定の人物にのみダメージを与えることがもきないので3メートル以内に味方がいた場合、味方にもダメージを与えてしまう。
湿気が多い場所であればある程、安達自身の負担も軽く毒の力も強くなる。
もちろん乾燥した場所では人工的に水を撒くなどしなければ使えない。
石を使った後は倦怠感や頭痛、長時間使用すれば体力を消耗したりする。その度合いは使う毒(睡眠薬<致死量の毒)によって違う。
457
:
一
◆i.38Tmcw2g
:2006/04/14(金) 10:12:59
一応、ここまでです。
指摘とか合ったら言ってください。
続きは現在、作成中です。
458
:
名無しさん
:2006/04/15(土) 12:44:24
サカイストキタ!好きなんで続きが楽しみです。
安達の石はフレッシュウォーターパール(淡水真珠)はどうですか。
459
:
名無しさん
:2006/07/06(木) 15:51:14
THE GEESE短編いってみます。
戦いの描写もないし、酷く短いですが。
石を放棄してはいけない。
(僕らは戦うべきなのだ)
石に呑まれてはいけない。
(僕らは強く在るべきなのだ)
"意思"を持たなくてはいけない。
(僕らは強き心を持つべきなのだ)
攻撃されたから自己防衛をしたまでのこと。
肩で息をする茶髪の端正な顔立ちの青年――THE GEESEの高佐一慈は石を"解放"したばかりだった。
足元には輝きを失った石を持つ黒の男達が転がっていた。
高佐を黒に引き込もうとした彼らは高佐の力によって返り討ちにされたばかりであった。
「(…何なんだ…)」
「(何なんだ、この、力は…)」
ピリピリと軽く手が痺れている。美しく穏やかな光。優しく、強大な力。
高佐は確かに、その石に魅せられていた。
高佐が力に目覚めた頃、尾関は石のことについて調べていた。
不思議な力を持っているであろう、この石。
高佐が石を見つけた時と同時期に尾関も石を拾っていた。
蜘蛛の巣を被ったような柄の石。蜘蛛の巣ターコイズというらしい。
尾関はその石をネックレスに加工して、ポケットにいれて常備するようにしていた。
手で石を握るとビリビリと空気が揺れているように感じた。
まるで、相方の危機を教えているように、強く、揺れて。
「高佐は…大丈夫、なのか?」
尾関は急に不安な気持ちに駆られ、石をポケットに入れ、携帯電話を持って家を飛び出した。
(たかさ)
(どうか、どうか、無事でいてくれよ。)
「ふふ…お見事、だねェ。」
パチパチ、と軽い拍手。高佐は背後からした声に過敏に反応して、後ろを振り向く。
穏やかで、優しい重圧のかかる声。そこにいたのは、
「設楽、さん…。」
ニッコリと微笑んで設楽は高佐に近づいていく。
ポン、と肩を叩いてそっと耳元で呟いた。
「黒に、入らない?」
――尾関が到着するまで、あと少し。
460
:
名無しさん
:2006/07/06(木) 21:28:26
どうですかね…?
プロローグのプロローグ的な感じで。
461
:
名無しさん
:2006/07/07(金) 20:35:08
>>460
いいんじゃない?
でもこれだけ投下するのも物足りなすぎる希ガス。
462
:
名無しさん
:2006/07/08(土) 18:55:46
㌧です。
ではもう少し色々考えてまた投下させていただきます。
463
:
◆yPCidWtUuM
:2006/07/10(月) 02:45:44
どうもお久しぶりです。
98年夏前頃のバカルディと猿岩石の話を落としにきました。
性懲りもなく古いもんばっかり書いててすみません。
もうこれでネタがいったん出尽くしたので古い話は終わりにします。
またもクソ長いですが、少々おつきあいいただけると嬉しいです。
464
:
[バカルディ・ゴールド(1)] 三村
:2006/07/10(月) 02:48:10
…新年あけましておめでとうございます、1998年がやってまいりました。
とはいえ新しい年だから明るい話題、とそうそう上手いこといくもんでもない。
虫入り琥珀は手放したものの、すぐさまもう一度階段を上れるわけでもなく。
年初はあまり仕事もなかったが、時がすぎるとともに少しずつ状況はいい方へ。
大竹の出た連ドラが放送されてみたり、俺が感謝祭で優勝してみたり。
それでもテレビでの露出はまだまだ多くない、本日はちょいと営業へ。
少しずつ上がってゆく気温とともに、ゆっくりゆっくりと雪解けの季節を迎えている気分。
そんな風にひとつひとつ、積み重ねる途中で入ったのが黒の仕事だった。
大竹と別れて家路についた俺の前に、緑のゲートが開いてのそりと現れた目つきの悪い男。
俺たちが黒に寝返ってから、最初の指令は土田を通じて伝えられた。
「どうも、面倒なこと頼みにきてすいませんね」
「おう、すーっげぇめんどくせぇぞ」
思いっきりめんどくささを前面に押し出す俺に、土田は眉をひそめる。
「…そういわれても俺の責任じゃないんですけどね」
まあそうだ、土田が襲撃を決めたわけじゃないんだろう。
とはいえ前のこともある、こいつが面倒事を運んでくる使者のように見えてくるのも仕方ない。
少々うんざりしつつ、土田から話を聞いていく。
「まず、ターゲットは猿岩石」
「ああ、あの電波少年の」
「それです、ま、あいつらうちの後輩なんですけども…」
「じゃあお前が行けよ」
「ダメなんですよ、顔も人となりも知れてるもんで」
「なんだそりゃ?知られてるとなんかあんのか?」
「有吉は他人の石の能力を知ることができるんです、特に知ってる相手は暴かれやすい」
「…石の力知られるってマズいか?」
知られたからといって何も変わらない気がする、俺の場合。
大竹だって知られても結局、力が使えなくなるわけじゃないし。
そう思っていると土田がうっとおしそうに言った。
「有吉の力で能力の判明した石を森脇が一時的に封印できるんです」
「…それ、すげえめんどくせぇじゃねえか」
「めんどくさいですよねえ」
「俺らがやんなきゃなんねえのか?」
「やんなきゃならないんですよねえ」
…めんどくせぇ。
なんでそうよく知ってもいない、恨みもない相手をわざわざ襲わなきゃなんねーんだろう。
まあ前みてーに毎日襲われるよりはマシなのかもしれねえけど。
やっぱりめんどくせぇよな、黒でも白でも結局…でもやんなきゃなんねーなら、しょうがねえか。
「じゃあそいつらの石を貰ってくりゃいいのか? それとも黒に勧誘すんの?」
「どっちでも、お好きなように」
「まあいいや、とりあえずどうにかするわ」
「ええ、大竹さんにも話して下さい、それじゃあ失礼します」
「…おう」
そう言ってきびすを返したはいいものの、少しばかり困ってしまう。
今、大竹はライブのためにネタを書いている真っ最中なのだ。
今日だって営業のあと、寄り道もせずにさっさと家に帰っていったのはそのためだった。
おそらく後日、それを見ながら二人で練っていく手はずになる。
もちろん自分だって一緒にネタを練るわけだが、ベースを書く大竹の方が負担は多い。
特に今回は少し趣向を変えたから、いつも以上に面倒な作業が続くはず。
こんな時に後輩を襲撃するなんていう面倒はごめんこうむりたいだろう。
まあ確かにこっちだってそれなりに忙しいし、ピンでの仕事は自分の方が多かったりもする。
それでも「バカルディ」の屋台骨、ライブのために頭をフル回転させる大竹を邪魔したくはなかった。
余計なことで煩わせたくない、という俺の考えは多分本人に言えば否定されるんだろう。
それでも何となく、大竹に言い出さないままに時が過ぎたのには多少の理由がなくもない。
半年ほど前、「バカルディ」は俺の都合で、白から黒へと鞍替えした。
大竹はそのことを決して責めなかったし、むしろ俺よりも先に俺の家族のことを思いやってくれた。
照れくさいからそれについて礼を言うつもりはないし、この先触れるつもりもない。
それでもまだ、小さな罪悪感が自分の中にあるのは確かだった。
自分勝手な都合だとわかってはいても、けじめをつけておきたい思いがあるのは否めない。
数日後に俺が出した答えは、一人でできることは一人でやっちまおう、というものだった。
465
:
[バカルディ・ゴールド(2)] 有吉
:2006/07/10(月) 02:49:26
「いきなり悪ぃな、邪魔しちまって」
「いえ、そんな…」
広島での仕事から新幹線で帰ってきた俺らの前に現れたのは、バカルディの三村さんだった。
事務所も違うし、ほとんど話したこともない人ではあるが、俺らにとってはかなり上の先輩だ。
芸人になる以前にテレビで見たことだってあるような相手を前に、ちょっと緊張してしまう。
…まあ、緊張したのはそれだけが理由じゃない。
プライベートで、単なる帰り道でこんな風に、先輩とはいえよく知らない人に声をかけられる。
それが何を意味するかなんて、石を持っている人間ならある程度予想のつくことだ。
しかもちょっと便利なこの石は、結構魅力的らしくて敵を呼びがちなのだった。
「それで、お話っていうのは?」
「あー…すげえめんどくせえんだけどさ、」
そう言ってぽりぽりと頭をかいた三村さんは、まるで何でもないことのようにこう続けた。
「…お前らの石をとってくるか、黒に勧誘するかしろって言われてんだよ、どっちがいい?」
傍らの森脇の、ごくりと唾をのみこむ音が聞こえた気がする。
背筋に流れる冷たい汗を感じて、俺も急激に気が引き締まった。
…そんなの、どっちもよくないに決まってる。
466
:
[バカルディ・ゴールド(3)] 三村
:2006/07/10(月) 02:50:09
…どっちがいい、なんて聞いたって、どっちもよくないって答えることくらいわかってる。
猿岩石は白でも黒でもないらしいが、どっちかと言えば白寄りなのだと聞いた。
それだからこそ黒が襲撃をかけないといけないんだろうが、こちらとしては一応戦闘を避けたいのだ。
基本的にめんどくせぇから闘いたくないし、闘う理由なんて本当はなかった。
「…やっぱ、どっちも嫌だよな」
「「嫌に決まってるじゃないっすか!」」
呟くと猿岩石の二人がユニゾンで答え、ぎっ、とこっちをにらんできた。
ああ、こういう目をむけられるような人間になっちまったんだなあとちょっと寂しくなる。
でももう後戻りなんてできないから、悪役も演じきらなけりゃならない。
「んじゃ、悪いけど貰うわ、お前らの石」
台詞とともにとりだした石は、静かな顔で手におさまっている。瞬間、有吉が叫んだ。
「くそ、三村さんは攻撃系ってのしか100円じゃわかんねえ、森脇500円ねえか?」
「ねえよ、漱石1枚と100円と10円しかねえ」
「札どっかで替えてもらってきてくれ」
「何でだよ、お前の使え!」
「アホ、俺は札なんか持ってねえよ!」
「…威張んなよ…しゃあない、行ってくる!」
そう言って森脇はダッとその場から走り出す。
500円、ね。そういえば土田に聞いたら言ってたな、小銭で能力がわかるんだっけか。
金額が大きくねえと細かいことはわからねえんだっけ?はは、めんどくせえな。
「いいのか?相方行かせて」
「…アイツが帰ってくるまでくらい、どうにかするっすよ」
「そっか、ならいいや」
…心おきなく、石使えるじゃねーか。
467
:
[バカルディ・ゴールド(4)] 有吉
:2006/07/10(月) 02:51:05
三村さんのことはほとんど知らない、おかげで100円使ってもこのざまだ。
この程度の情報じゃ森脇に力を使ってもらうこともできない。
アイツが500円を持って帰ってくるまで、せめてこの場を逃げ切らなければ。
そう思って空を見る、ありがたいことに夜空には雲がぽかりと浮かんでいた。
「とう!」
勢いをつけてその場で飛び上がる、足の下には雲が滑り込んできた。
キント雲に乗った孫悟空気分。如意棒もあれば楽なのに。
そのまま雲を走らせ、三村さんにぶつかっていく。
「うおっ!あっぶねえ…」
「くそっ!」
三村さんは器用に地面に座り込み、俺の雲の突撃を避けた。
どうするかと一瞬迷っているうちに、三村さんの握っていた石からふわりと光が漏れる。
「フレーッシュ!」
その言葉とともにざわざわと木々が揺れた。
冬の、葉を落とした枯れ木にすさまじい勢いで緑の葉がついていく。
呆然とそれを見ていると、三村さんが叫んだ。
「おし行けっ!」
椿のような厚い大きな葉が巻き上がり、一本の帯のようになって襲いかかってくる。
慌てて雲でその場を離れようとするが、葉の帯に足をとられ、ぐらりと身体が揺れた。
「うわっ!」
落ちる、そう思った瞬間、あたりに響いた森脇の声。
『落ちんな、耐えろ!』
その声で俺の身体はバランス感覚を取り戻し、真っ直ぐに雲の上に立ち直る。
力を込めて雲を森脇のもとへと走らせれば、緑の葉の帯はざざっと下へと落ちて、枯れ葉の山になった。
「おら、500円!」
森脇はひょいっと硬貨を投げ、すぐに俺の後ろに飛び乗る。
その左手には煙草の箱が握られており、どうやら煙草の自販機で札を崩したらしいと予測がついた。
「おし!」
500円をポケットに入れ、三村さんを見つめる。
その手に握られた石の情報が頭に流れ込んでくると、すぐに俺は声を上げた。
「…木の葉の化石!枯れ木に葉をつけてそれを動かして防御と攻撃をする、使えるのは3回程度!」
「おっしゃあ、『木の葉の化石』、封印!」
森脇が鈍く光るの鉱物をとりだし叫ぶと、三村さんの石から光が消える。
とたんに地面に落ちていた枯れ葉の山も姿を消し、その石の気配は跡形もなくなった。
「諦めて下さい、もうその石しばらく使えないっすから」
そう森脇が言うと、三村さんは自分の手の中の石を見やってコン、と指先ではじいた。
そんなことをしても意味はないのだが、石の様子を確かめているようだ。
「へえ、ホントに使えなくなるんだな」
これで攻め手がなくなったはずの三村さんは、なぜかちょっと笑ったように見えた。
468
:
[バカルディ・ゴールド(5)] 三村
:2006/07/10(月) 02:52:10
砂の固まったような地に、茶色い木の葉の姿が浮き上がる化石。
黒の余り物の石だけど、それなりに役には立った。
攻撃力も高くないし、あまり使えるもんでもないので、下っ端に持たせていたと土田からは聞いている。
スケープゴートにはもってこいの、地味な石を借りてきたのには理由があったのだ。
-- 猿岩石の能力、知ってること全部教えてくれ
-- 大竹さんは?
-- いいんだよ、今回は俺一人で行くから
-- …まあ、いいですけどね
襲撃の前、土田に連絡を取って細かいことを聞いた。
そのとき、森脇が封印できる石は一度につきひとつだと知って、この作戦を考えついたのだ。
封印できるのがひとつなら、まず別の石を封印させてしまえばいい。
これで森脇が封印を解けるようになるまでの10分は自由に攻撃できる。
見事にハマった作戦に、いたずらが成功した時のような喜びを感じつつ、フローライトをとりだした。
「ホントの石は、こっちなんだけど」
…多分、結構悪役っぽく笑えてたんじゃねーかと思う。
有吉と森脇の顔色がみるみる変わっていくのを見ながら、自分の石を強く握りしめた。
『キント雲かよっ!』
ビシリと指差した有吉の足の下の雲は、ピューッとどこかへ飛んでいく。
有吉はズデン、と漫画のような音を立てて地面に落ちた。
それを見て真っ青になる森脇と、おかしな格好で地面に落っこちた有吉を見ていたら何か笑えてきた。
はたから見ればちょっとコントみてぇな状況だろうな、コレ。
ぐるりと周りを見回す、目についたのは塀の上の黒猫。
指差すと猫はびくりと肩をいからせる。悪いけどちょっと飛んでくれ。
『黒い!』
ブニャーッ!!!と猫は叫びながら転がっている有吉にむかって一直線。
「ぎゃーーー!」
『ニャーーー!』
「うわーーー!」
有吉の顔面に猫の凄まじい引っ掻きが入り、縦縞がその顔を飾る。
その猫を有吉から離そうとして今度は森脇が引っ掻かれ、ちょっとした惨事になった。
なかなかマンガチックな状態だが、実はわりと可哀相だ。
「い、痛い…」
赤のペンシルストライプが描かれた顔で、有吉はふらふらと立ち上がる。
小さくジャンプしたその足の下にはまたも雲が滑り込んできて、キント雲になった。
森脇もどうにか猫を引きはがし、立ち上がるとその雲をちぎって思いっきり振りかぶって投げてくる。
『っ、雲かよっ!』
さすがに疲れてきたが、ここでやられるわけにはいかない。
投げられた雲の玉にツッコミを入れると、ちょっと噛んだせいかポーンと上に飛んでいく。
そこにさらにもう一つ雲の玉が飛んできて、避けようと体勢を変えたところに有吉がキント雲で突撃してきた。
思いっきり当たられて、後ろにふっ飛ばされる。結構痛いじゃねえかちくしょう。
倒れた俺の隙を見て、有吉が森脇を連れて雲で逃げようとする。
…残念、逃がしてやるわけにはいかねえんだよな。
『たてじまっ!』
有吉に少し力を込めたツッコミを入れると、その身体がボールのように飛んでいく。
後方の塀に有吉がたたきつけられ、それと同時に森脇が雲から転げ落ちた。
有吉は背中をおさえてうなっているが、ぐったりと動かない。森脇もぶつけたところをおさえている。
とはいえそろそろ俺も限界が近いし、時間もいっぱいだ。ここで決めなければ。
『…灰色っ』
有吉の手の中に見えた石に軽ーくツッこむ、その小さな石はひゅっと飛んでいった。
それを走って追いかけて、拾う。これで有吉の石はいただき。
もう俺の方も身体が言うことを聞かない。体中がぐったりと重くなる。
「…森脇、お前は有吉の石がなきゃ闘えねぇだろ、ソレ渡せよ」
そう声をかけると、森脇は悔しそうに唇を噛んだ。
469
:
[バカルディ・ゴールド(6)] 有吉
:2006/07/10(月) 02:54:40
たたきつけられた背中と引っ掻かれた顔が痛い。
手から自分の石がすり抜けていったのは気づいてた。
でももう、雲に乗りすぎたのもあって足が動かない。
「森脇、お前は有吉の石がなきゃ闘えねぇだろ、ソレ渡せよ」
そう三村さんが言うのも聞こえてた。
それでももう、これ以上何もする気にはなれない。俺は力つきた。すまん、森脇。
「すんません、渡せません」
…っておい、森脇お前まだ抵抗するのかよ、俺、もう石持ってねえのに。
しかもまだあの化石を封印したままで、三村さんの石のことも不明だから、お前の真鍮も使えないのに。
何でだ、抵抗したってもう何にもかわんねーじゃねえか。
「森脇、もう無理だ」
「おう無理だ…おし、もう10分経ったな」
そう言った森脇は自分の石をとりだして、呟いた。
「…『イーグルアイ』、封印!」
「な…森脇お前!」
三村さんの手の中で、俺のイーグルアイが、静かに光をなくす。
俺の石を封印した森脇は、少し笑って三村さんに自分の持つ鉱物、真鍮を見せた。
「この封印、俺の意志がないとずっと解けませんから」
「…」
「俺が望まない限り、これもイーグルアイも、もう使えません」
言い切った森脇の目には何か、強い決意の光があふれていて。
前に相方のそんな姿を見たのは一体いつだったろうなんてつまらないことを考えた。
ぼんやりとその横顔を見つめていると、また森脇は口を開く。
「…三村さん、俺はもう嫌なんですよ」
「何がだよ?」
「この石をめぐる闘いが」
「気ぃあうな、俺も嫌だぞ」
「でも三村さんはその石で闘えるでしょう、俺はダメだ」
「…」
「自分じゃ何も変えられない、それなら俺はこんな石なんていらない」
そう吐き捨てた相方が、ギリ、と歯を食いしばるのを俺はただ見ていた。
数々の襲撃を退けてきた裏で、森脇はそんなふうに考えていたのか。
なあ森脇、確かに真鍮はそれだけじゃ闘えない代物だ。
でもいつもお前の助けがあったからどうにか乗り越えてきたんじゃねえか。
そんなことも伝わらないほど、俺たちは遠かっただろうか。
すまん森脇。お前がもう闘いたくないって知っても、俺は。
「俺は、石を手放すなんてしたくねえ…!」
絞り出すような俺の声に、森脇がふりむく。
右頬の下のアスファルトは、まだ夏を迎える気配も見せずに冷たかった。
悲しそうに俺を見る相方、それでも俺は執着を捨てられない。
この闘いへの、この石への、そしてこの世界への。
這いつくばったままの俺に視線を向けて、森脇が静かに口を開く。
「なら有吉、お前、黒に行け…俺の真鍮が手土産なら、邪険にはされねえだろ」
「そりゃ、俺一人で行けってことか」
「…10分たったらイーグルアイの封印を解く」
「おい森脇、」
「そしたら黒に行けよ、このままでいるよりマシだ」
「っ、だから!お前はどーすんだよ!」
「…もう俺はこの闘いに意味なんか見つけられねえ」
「それは…俺一人で闘えってことか」
「お前は、闘える」
「…」
「闘えるじゃねーか」
…ああ、きっと俺の言葉はもう、森脇には届かない。
森脇を殴ってやりたい気持ちにかられて、立ち上がろうとした足はやっぱり言うことをきかなかった。
そのまま地面にぐしゃりと崩れる自分の身体に、いらだちばかりが募る。
それでも地面に突っ伏したままでいるうちに、頭が少しずつ冷えてきた。
そうだな、きっと俺は一人でも闘える。森脇がいなくても。
負けるときもあるかもしれない、それでも、俺が無抵抗でやられることはないだろう。
相手の力がわかるならどうにか反撃はできるだろうし、雲に乗って逃げることだってできる。
そうだな、多分、闘えてしまう。お前にはできないことができてしまう。
…だけど、お前のいない闘いなんて考えたこともなかった。
470
:
[バカルディ・ゴールド(6続)] 有吉
:2006/07/10(月) 02:55:34
「有吉」
「…はい」
俺たちの会話を静かに聞いていた三村さんに名前を呼ばれる。
声の方へ向きなおって返事をしようにも身体が動かずに、首だけ回して答えた。
どうやらもう三村さんも疲れているらしく、地べたに座り込んだままの格好で俺を見ている。
「お前、どーすんの?」
「…どーしたらいいんすかね」
「真鍮とイーグルアイ持ってお前が黒に来るんなら、こっちは文句ねーよ」
「俺、何かもう、わけわかんないんすよ」
「…俺も疲れてわっけわかんねえ感じになってきてるけどな」
「『わっけわかんねえ』ままいったん退いてもらうとか無理っすかね」
「あー、それはできねーわ、俺も色々あんの」
「色々ですか」
「おう、色々な」
強引に事を進めようとはしないが、退く気もなさそうな三村さんに溜息をつく。
どうしても俺はここで身の振り方を考えなければならないらしい。
森脇をちらりと見れば、奴は奴で疲れ切った顔でアスファルトにだらしなく胡座をかいていた。
そうだな、もう答えなんか出てるんだろう。俺は一人で闘うんだ、これから。
「…俺、やっぱ石手放したくないっすわ」
「来るか、黒」
「よろしくお願いします」
「…何だ、一件落着しちまってんじゃねーか」
突如として今までその場になかった声が耳に響く。
驚いて声の方に首をむけると、そこにはバカルディの大竹さんがいた。
そしてその後ろにのそりと立つ大きな影。
よくよく見ればそれは、事務所の先輩である土田さんだった。
471
:
[バカルディ・ゴールド(7)] 三村
:2006/07/10(月) 02:56:41
「お、大竹っ?!」
突然現れた相方の姿に混乱する、なんでこんなところにこいつが?!
パニックを起こしていると、大竹は憮然とした表情で続けた。
「せっかく来てやったっつーのに無駄足じゃねーか」
「や、つーか、何でお前ここにいんの?」
「土田に聞いたんだよ、ここんとこお前様子おかしかったし」
「…」
「まー、なーんか挙動不審でよー、わっけわかんねえ」
「いや、その、だから…」
しどろもどろになる俺を不満げに見て、大竹はふっと溜息を一つつく。
しょうがねぇな、とでも言いたげな表情がこちらにむけられた。
「お前アレだろ、何か変な気ぃ使っただろ」
「…」
「バーカ!バーカ!カバみてぇな顔しやがって!」
「カバ!?」
「コラ、お前石…!」
「あ」
石を持っているのを忘れて思わずツッこんでしまったせいで、ポンッと空中にカバが現れて飛んでいく。
ただ、そのカバは疲れのせいか、本物ではなくとても小さなぬいぐるみのような姿をしていた。
スピードもほとんどなく、弓なりに飛んでいったそのカバは、大竹の手におさまって消える。
「…ちっちぇーの出たな」
「…ちっちぇーの出ちゃったな」
ミニサイズなカバを見たら、何かホントにバカみてぇだと思った。
こんなん出るまで頑張っちまったぞ、俺。
「ま、あれだ…次から俺も呼んどけ、じゃねえとちっちぇーの出ちゃうから」
「おう、ちっちぇーの出ちゃうからな…」
…そうだな、ちっちぇーの出ちゃうもんな。
大竹いるんだから、んで大竹は闘うつってんだから、いいんだよな。
別にいいんだ、二人で。それでいいんだ、俺らは。
何だか本当に下らないことにこだわっていた自分に気づいて、ちょっと笑った。
それを見ていた大竹も、何だか少し笑っているように見える。
472
:
[バカルディ・ゴールド(7続)] 三村
:2006/07/10(月) 02:57:30
そんなおりに、急にガサッとむこうから聞こえてきた音にびくっと肩が動く。
音がした方を見ると、ちょうど土田が有吉に手を貸して助け起こしているところだった。
「土田さん、黒だったんですか…」
「まあね」
少しだけ身体を起こした有吉が土田を見上げながらぼそりとこぼす。
問われた土田は、顔色一つ変えずに短く答を返した。
「…俺は、黒でいいんすかね」
「こっちは来てもらう方が都合いいけど」
「黒、楽しいっすか?」
「俺はそれなりに楽しんでるとこもあるよ、俺の石は黒の方がしっくり来るみたいだし」
「石が?」
「…まあ、それはおいおいな」
有吉は土田の肩を借りてどうにか立ち上がる。
土田は有吉を支えつつ、空いたもう一方の手を森脇に差し出した。
「おら、お前も疲れただろ」
森脇は土田を見上げて、少し泣きそうな顔で言う。
「…そうっすね、疲れました」
その言葉と、俺の手の中で光を取り戻した有吉の石が多分、この闘いの終わりの合図だった。
473
:
[バカルディ・ゴールド(8)] 有吉
:2006/07/10(月) 02:59:47
疲れた体を固い駅のベンチに沈めた。
横には黙ったままの相方がいる。
俺の手の中では、イーグルアイが灰色の光を放っていた。
真鍮はとりあえず土田さんに預けてある。
黒に誰か使える奴がいるのか、それとも誰もいないのかはわからない。
土田さんの石の力で、駅の近くまで送ってもらった。
お互いそう近くに住んでいるわけではないが、使う路線は同じだ。
終電に近い電車を待ちながら、森脇に声をかける。
「なあ」
森脇は無言で、俺の方を見た。
それを返答の代わりにして、俺は続ける。
「お前が石を捨てても、まだ俺らは猿岩石なんだよな」
その言葉に、森脇は少し笑って答える。
「おう、まだ猿岩石だよ」
その返事に満足して、軽くうなずいた俺を強烈な睡魔が襲ってきた。
ふぁ、と大きなあくびをしたところで、森脇に電車が来たら起こしてくれるよう頼んで眠りにつく。
…それから数十分後、森脇まで寝たせいで終電を逃すはめになったのはまた、別の話。
474
:
◆yPCidWtUuM
:2006/07/10(月) 03:02:50
すいません、トリップ消えましたが
>>464-473
は自分です。
以下は猿岩石と新しく出した石の能力です。
猿岩石(有吉弘行)
石:イーグルアイ
インターナショナル(世界を見る目)
能力:
空に雲の浮かんでいる状態でジャンプすると白い雲が足の下に現れ、これに乗って移動できる。
また、ポケットに小銭の入っている状態で石を使うと、自分の頭に浮かべた人物の持つ石が
どんな能力を持っているか、小銭の数だけ知ることができる。
条件:
空に雲のない日や、雨の日には雲に乗れない。雲の基本速度は有吉の全力疾走時のスピード程度。
自分の意志でこれ以上速くはできないが、遅くはできる。意外と固い。
この雲に乗ったりさわったりできるのは有吉と森脇のみ。
小銭1枚につき石ひとつの能力がわかるが、金額によってわかる度合いが違う。
500円玉ならば石の能力全てを知ることができるが、1円玉でわかるのは攻撃系か防御系か程度。
名前と顔が一致しなかったり、ほとんど人となりを知らない相手の力は500円以外ではほぼ不明。
逆によく知っている相手は少ない額でも能力を暴くことができる。
代償:
雲に乗る力を使いすぎると、足の筋肉が極度に疲労して歩けなくなる。
能力を知るために使った小銭はなくなる。また、ポケットに小銭が入っていない状態では使えない。
猿岩石(森脇和成)
石:真鍮
どの石とも調和し、石の効果を増す
能力:
完全に名前と能力が判明している石を一度にひとつだけ封印できる。
封印を解くタイミングは森脇の意志次第だが、ひとつ封印したら最低10分経たないと解けない。
ひとつの石の封印が解けるまで、次の石の封印はできない。
1日に封印できるのは石2個まで
また、有吉に応援や忠告の声をかけることで、有吉の行動を少しだけサポートできる。
条件/代償:
ほとんどが有吉がいないと使えない能力で、一人では攻撃も守備もできない。
また、石の名と能力を知らないと封印の力は使えず、一度封じた石は二度と封じられない。
他人の石を封印した時間だけ、その後自分の石がまったく使えなくなる。
さらに、石を限界まで使用すると、極度の疲労感に襲われる。
木の葉の化石
先祖の守り、説明のできない事柄から身を守る力
能力:
枯れ木に葉をつけてそれを動かし、防御・攻撃をする。
条件/代償:
使えるのは1日に3回程度。近くに枯れ木がない場合、石が使えない。
枯れ木に葉がつくところを想像し、葉を動かす際にも形を想像しなければならないため、
限界まで使うと想像力に支障をきたし、物事の状況や言葉の意味が想像できなくなる。
475
:
名無しさん
:2006/07/10(月) 17:31:00
乙です!
「ちっちぇーの出ちゃったな」が二人らしさ出てていいですね。
476
:
名無しさん
:2006/07/10(月) 21:24:24
いつも言葉遣いがリアルで面白いです。
ぜひ本スレに投下を!
477
:
◆yPCidWtUuM
:2006/07/10(月) 23:15:02
>>475
,476
ありがとうございます。本スレ行ってきます。
478
:
◆vGygSyUEuw
:2006/07/27(木) 18:19:02
アンガールズの短編書いてみましたので、落とします。
時間的には◆IpnDfUNcJoさんの「鍛冶くんじゃ…ない?」のちょっと後辺り。
山根の言葉遣いとかちょっと怪しい点がありますので、チェックしていただけると嬉しいです。
479
:
◆vGygSyUEuw
:2006/07/27(木) 18:20:04
「山根〜」
気の抜けるような上滑りした高い声で、田中が俺を呼んだ。
「なに」
「俺たちさあ、どうすんの」
「どうするって」
「白とか黒とかさあ」
「ああ、…田中はどうしたいんよ」
「どうしたい、って言われてもね〜」
「俺も一緒だって」
「…あっそ」
少し前に石を手に入れ、それに何やら弱いながらも不思議な力があると知って、
しかもそれを巡る同業者の戦いがあるそうだとかそういうガセのような話まで聞いて、
自分たちは身の振り方を決めかねていた。
どうやら、白と黒、というごくシンプルな対立があって、白はヒーロー、黒は悪の組織らしい。
大まかに言ってしまえばそういうことで、何も自分から悪の道へ進もうなどと考える人はごく少数だと思うのだけど、それだからか脅しや強制が黒の中では横行しているらしい。
伝え聞いた話をどこまで信用していいのかもよくわからないのだけど。
第一、そんなヒーローものの特撮みたいな話が本当に現実にあるんだろうか。
こんな疑問を抱く芸人は自分たち以外にも星の数ほどいて、だからこそそれは愚問なんだろうが。
「意味わかんないよね」
「…黒?白?」
「どっちも。もう白でいいんじゃないの」
「でも、戦うとかできないじゃん、俺ら」
「あー…」
能力は、二人とも似たりよったりで「沈静」だ。
争いごとがそこまで好きではない自分たちとしてはありがたい話だが、いざ面倒なことに巻き込まれた際に身を守れないのは辛い。
「いや、だからさ、白の人に助けてもらおうよ」
「え?」
「強い人の陰に隠れとけばだいじょぶでしょ」
「え、そんな単純なあ…」
「面倒なことに巻き込まれたくないし、白の方がまだ戦わんで済むと思うよ」
「…そうかな」
「そうそう」
田中を半ば強引に説き伏せて、そうと決まればくりぃむさんの所でも行こうか、と立ち上がりかけた俺たちに、言ってるそばから面倒なことが降りかかってきた。
がしゃーん。
鋭利な音が聞こえて思わず振り返った。
三階にある楽屋の窓から乱入してきた影は、さしずめ格好つけの怪人だろうか。
480
:
◆vGygSyUEuw
:2006/07/27(木) 18:20:50
「…どうすんの」
「どうするって」
とりあえず反射的にドアから逃げ出して、廊下をひた走る。
後ろから足音が聞こえるがもう振り返ってる暇もない。
弱っちい俺たちは既に二人して息も絶え絶えで、きっと着実にその距離は狭まってるだろう。
振り切ってしまえたら、近くの楽屋へ逃げ込めたなら、とは思うけれど。
「どうもできんよ」
「…そだね」
目下敵から逃げているにしては暢気な会話を打ち切って、半ば諦めてそれでも往生際悪く走る。
ああ、もっと若さと体力と運動能力があれば、なんて考えてる余裕もそろそろない。
廊下が果てしなく長く長く思えた。
運動会だったら倒れれば棄権させてくれるけど、今倒れたら確実に餌食だ。
隣でもう必死にめちゃくちゃ走ってる田中に、滑って転ぶなよ、と思う。
ああ、喉がひゅーひゅー言うし横腹も痛いし膝も痛いけど、
とにかくもうちょっと、走れ、俺!
「!」
健闘虚しく、角を曲がった所で遠く前方、廊下の端に二つの影を発見する。
…挟み撃ちか。ああ、終わりだな。
せめて殺されないことを祈ろうと心中で手を合わせかけた俺に、声がかかった。
「何やってんだあ、お前ら!」
察しろよ。
なんて言いたくなるようなことを言ったのは、インパルス板倉。
隣にいる男は、もちろん堤下だった。
と同時に後ろの気配もどんどん近づいてきてることが背中に伝わる殺気で分かって。
追われてる。
そう言おうとしてももう声にも出せなかったが、もう論より証拠だ。
こっちを追ってくるギラギラした目の男が、二人にも見えたことだろう。
どんどん近づく板倉の指から発された青い光が、ばちばちと自分たちの間をかすめていった。
481
:
◆vGygSyUEuw
:2006/07/27(木) 18:21:24
「…なんだ、ザコじゃん」
板倉が伸びてる男に蹴りを入れる。
心臓とかは大丈夫なのかと思ったが、その辺は上手く加減してやるんだろう。
田中は消耗しきって床に倒れ伏している。
こっちも似たような感じで、座り込んでぜーはー言っている。
「大方黒の下っ端だろ、こんぐらい自分たちで何とかしろよ。」
「…大丈夫?二人とも」
「うわ、ジジイがマラソン走りきったみてえな面してんな…」
何とでも言え。
もう死にそうだ。水が欲しかった。
「こんぐらいでへばってたら戦えねえぞ」
「俺たちは攻撃系じゃないんだよ…」
「じゃ、二人でぼけーっとしてんなよ」
カラカラの喉から絞り出した反論は一蹴される。
悔しいけどその通りで、でももうちょっと言い方ぐらいあるだろう。
「はい」
堤下が俺たちの前にスポーツ飲料の入ったペットボトルを置いた。
「あ、ありがと…」
「いえいえ」
ありがたくごくごくと飲む。生き返るようだった。
田中ものそのそと起き出して飲んでいる。
「…おい、助けてもらっといてこっちには礼もねえのかよ」
板倉が憮然とした顔で腕を組んでいる。
「…ありがとう。」
「棒読みかよ」
何かつくづく面倒くさい奴だな、と助けてもらって何だが思う。
「気持ちこめろよ」
「いいじゃんもう、疲れた…」
「はあ!?…むっかつく…」
「ま、まあまあ」
慌てて堤下が板倉をなだめる。
その背中の陰で、何かがのそりと動いた。
…ここに寝てた奴といえば、勿論。
「動いた!」
声を上げる。全員が一斉に注目した。
名前も知らない、多分芸人であろう男の目は、赤く濁ってさっき以上に鋭くなっている。
「…嘘だろ、こんなすぐ起きれる筈ねえぞ」
板倉が呆然としている。堤下が動いた。
「おら!」
かけ声と共に頬を一発殴る。
堤下は痛そうに顔を歪めたが、相手は平然としている。
「うら!」
更に一発。しかし効いてはいないようだ。
「堤下、引け!」
板倉が今度は携帯を掴んで、直に拳を当てる。
ばちぃと音がしたが、男は倒れない。
「…うっそだあ」
板倉がまた言った。
「埒があかねえ…逃げるぞ!早く」
「おお!」
インパルスの二人が駆け出す。
「大丈夫だって」
「…へ?」
板倉が走る態勢のまま、きょとんとした顔で振り返る。
俺はできるだけ刺激しないようにゆっくりと男へ歩み寄って、やわらかく声を掛けた。
「あ、先輩先輩」
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