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【添削】小説練習スレッド【キボンヌ】

1名無しさん:2004/11/25(木) 19:54
「自分も小説を書いてみたいけど、文章力や世界観を壊したらどうしよう・・・。」
「自分では面白いつもりだけど、うpにイマイチ自信がないから、
読み手さんや他の書き手さんに指摘や添削してもらいたいな。」
「新設定を考えたけど矛盾があったらどうしよう・・・」

など、うpに自身のない方、文章や設定を批評して頂きたい方が
練習する為のスレッドです。

・コテンパンに批評されても泣かない
・なるべく作者さんの世界観を大事に批評しましょう。
 過度の批判(例えば文章を書くこと自体など)は避けましょう。
・設定等の相談は「能力を考えようスレ」「進行会議」で。

157名無しさん:2005/10/04(火) 00:41:36
129さん
乙です!一気に読んでしまいました・・・
誰か又吉を助けてやれないものでしょうか・・・
続き、楽しみにしてます。

158 ◆8zwe.JH0k.:2005/10/24(月) 21:02:55
>>151から

「あべさん…!」
「挨拶もなしに急に居なくなるもんだからさぁ、あははっいやー探しに来てよかったよーホントねぇ」
ひらひらと手を振る阿部は格好付けたように眉を顰め、何とも綺麗な早口でまくし立てる。
「ほら、逃げっから降りといで」
佐久間はその言葉にたちまち笑顔になった。はいっ!と元気よく返事をし、屋根からダイブする。固い地面に頭から落ちていくような体勢に、二人組はわっ、と短い悲鳴を上げて届かない制止の手を伸ばす。
地面に激突する寸前、佐久間は手を前に突き出す。柔らかな光に照らされ、ふかふかのクッション状になった土は落ちてくる身体の衝撃を優しく吸収する。
屋根の上から二人が見下ろしているのが見えた。え〜、とかすっげえ〜、とか若者らしい率直で素直な感想を述べている。
「うわ、さっくんすげー鼻血…!」
え?と手の甲で鼻の周りを触ってみると生暖かい真っ赤な液体がまとわりついた。阿部が言うには、顔半分がその血で染まってまるでスプラッター映画のようらしい。
近くで風船を割られたような、そんな衝撃が強く、痛みというものはあまり感じなかった。だから大したことはないと思っていたが、阿部の引きぎみな表情を伺う限り今の自分は、よっぽど見るに堪えない酷い顔なんだろうなぁ。と佐久間は思った。
「大丈夫ですよー。ね?ほら、骨は折れてないみたいですし」
「ほ、骨…」
目眩を起こしそうになっている阿部を尻目に、ポケットからウェットティッシュを取り出して顔をごしごしと擦る。
血を拭き取りすっきりした顔を見せてやると、阿部もほっとした表情を浮かべた。

159 ◆8zwe.JH0k.:2005/10/24(月) 21:03:33
そして気を取り直すようにパンッ、と一度手を叩く。
「よし、じゃ逃げるか。ダッシュね、ダッシュ!かけっこには自信あるよ、俺」
格好付けたように変なところで語尾を上げるのは彼のちょっとした癖だ。そういうときは大抵彼の心は自信に満ちている事が多い。佐久間は妙な安心感を覚え小さく笑い「そっすね」と返事をすると、つっかけを履き直し阿部の後ろを付いて走っていった。
ぺたん、ぺたんというつっかけ独特の平たい靴音を鳴らしながら、後ろを振り向いた。
思った通り背後からは屋根から下りた男たちが追いかけてくる。
一応昔テニスはやっていたし、体力にも足の速さにも自信はある。運動馬鹿な訳ではないが、久しぶりの本気の走りに、自然と佐久間は口元を緩ませた。
「ついてこれるもんならぁ、ついてこぉーい!」
走りながらくるりと一回転。
「何テンション上がってんの、ほらこっち!」
息を切らした阿部が佐久間の襟首をやや手荒に掴み、狭い路地裏に逃げ込む。ゴミバケツや空き瓶が散乱している所為でスピードが出せないのを佐久間は不満に思った。何しろ汚い所は大嫌いだった。全力で走るには先程の綺麗な広い道路の方が良かったのだが、何にせよその道路は長く続く一本道だ。万が一こちらが先に疲れるような事があれば捕まってしまう。

160 ◆8zwe.JH0k.:2005/10/24(月) 21:03:55
そう思えばこういう入り組んだ細い路地は相手を捲くにも有効なのだ。
思った通り向こうも追いかけてくるのに苦戦しているようだ。更に引き離すように足でバケツを倒し、積み重なった木箱…その一番下の段を思いっきりダルマ落としの要領で蹴り飛ばす。バランスを失った木箱の山はガラガラと崩れ落ちた。中身が入ったままだったビール瓶が幾つもその中から転がり出て、雨あられと降り注ぎ敵の進行を防ぐ。
「危ない危ない危ない〜っ」
勢い余って自分たちの方にまで振ってくるガラスの欠片に、手を引かればたばたと前に突き進む。
ガシャン、バリン、と近くに雷が落ちたときにも似た感覚が鼓膜を襲う。佐久間と阿部が通った跡は汚い埃がそこら中に充満した。
煙の向こうから追ってくる声は、もう聞こえない。
「………、やりいっ!」
後ろを振り返りながら尚も走り続け、二人でハイタッチを決めた。

161 ◆8zwe.JH0k.:2005/10/24(月) 21:05:25
本スレ過疎気味なんで投下しても大丈夫ですか?

162名無しさん:2005/10/24(月) 22:54:40
文章的にも全然大丈夫だと思いますよと一書き手の意見。
過疎なのは投稿が少ないからか…お笑いブームの衰退か…

163名無しさん:2005/10/26(水) 16:05:22
芸人をキープしたまま話の途中で戻ってこない書き手がたくさんいるのも原因だとオモ

164名無しさん:2005/10/28(金) 14:38:05
>163
こういうことにならないように一芸人=一書き手ルールがないとはいえ、
話の根幹に関わる事件がストップしてたりするからなあ
せめて続きが書けなくなったら放棄宣言がほしいわな

165クルス ◆pSAKH3pHwc:2005/10/28(金) 17:27:32
>>129
本スレでハロバイ編書いてた者です。
ピース編、読みました。凄く良いと思います。
ハロバイ編終わりましたし、本スレ投下しても良いんじゃないかと。

166名無しさん:2005/10/29(土) 17:51:18
乙です!
あべさく、というかさっくんがいるとほのぼのでいいですねv
ただ血は怖いな・・・顔見れないとはいえよく平気ですね。そして冷静(笑)

167129:2005/11/02(水) 23:56:14
遅レスすいません。

>>157
ありがとうございます。うれしいです。
また思いついたら書きたいと思います。

>>クルスさん
本スレ投下しても大丈夫でしょうか・・・。
クルスさんの話に支障が出てしまったのではないかと心配しています。

168クルス ◆pSAKH3pHwc:2005/11/03(木) 17:09:30
>>129
大丈夫ですよ。
私は元々3話で終わらせる予定でしたし、問題は無いです。

169129:2005/11/04(金) 09:48:03
では本スレに投下したいと思います。
本当にありがとうございます。

170 ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 03:47:44
どうも、以前さまぁ〜ずの番外編書いた者です。
気になることもあったので進行会議スレなどで質問してたんですが、
話がもうできてしまったのでとりあえず投下します。
ご意見等よろしくお願いいたします。

本編扱いで次長課長中心です。やたら長いですが、完結してます。

171[タイトル未定−1] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 03:49:24
…ことの始まりは「石」だ。

井上にとってそれは、朝、玄関で履いた新しい靴の中に転がっていたせいで自分の足の裏に軽く刺さった、
金色の小さなものだった。
井上はその小さな塊を手にとって眺める。
ちょっとぼこぼこしていて、混じりけのない金色がとても綺麗だし、これがこのおろしたての靴の中から
出てきたことも不思議だ。買ったばかりの靴の先にこんなものが入っているなんてこと、あるんだろうか。
ちょっと面白いから河本に見せてやろう、と考えてジーンズのポケットにつっこんで家を出る。

河本にとってそれは、朝、仕度を終えて袖を通したマエ濯屋返りのジャンパーのポケットの中で指先に触れた、
淡い色の小さなものだった。
河本はその小さな石を手にとって眺める。
つるつるしていて、薄い橙色と白がつくる縞模様がとても綺麗だし、これがこのジャンパーのポケットから
出てきたことも不思議だ。洗濯屋でこんなものがまぎれこむなんてこと、あるんだろうか。
ちょっと面白いから井上に見せてやろう、と考えてもういちどジャンパーのポケットに戻して家を出る。

そして2人は楽屋で顔を合わせて、お互いが手にした不思議な石のことを知ることになる。
同じ朝に自分たちのところにやってきたその小さなものが、どんな運命をもたらすかはまだ、知らぬままに。

172[タイトル未定−1] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 03:50:20
自分が石を手にした瞬間は特に何も思わなかったのだが、楽屋で井上が金色の塊を見せてきたとき、
そしてその石が自分のものと同じように、奇妙な経緯で井上のもとにやってきたと知ったとき、
河本はふとあることに思い当たった。最近芸人の間で石を持つことが流行っている、というのを
どこかで耳にした覚えがある。その石には何か力があるとか、それで何か一部でもめてるとか、そんな話も。
超常現象の類はあまり信じない質だったので、その話を聞いたときは石の力なんて随分うさんくさい、
と思った程度で特別気にしていなかったのだが、あれはひょっとして、この石と関係があるんだろうか。


「聡、変な石の話って知っとる?芸人の間で流行っとるとかいう…」
「あ、何か変な力がどうとかの…」
「そうや」
「詳しいことはよう知らんけど、聞いたことある」
「なあ、この石ってひょっとしてそれと関係あるんちゃう?」
「これが?」
「おかしいやろ、いきなりこんな偶然、俺らんとこ来るなんて」
「んー…そやね」


井上は何か考え込むように、指先で小さな金色の塊をもてあそんでいる。
河本から見てその欠片の色は、メッキされた金属の放つ金色や、何かが着色されて光る金色ではなく、
金という鉱物がもつ本来の色であるように感じられた。

173[タイトル未定−1] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 03:51:35
もしこの推測が当たっているなら、あの小さな塊は、それなりに高価なもののはずだ。
あまり物欲がなく、金銭への執着も薄い井上のもとにそれがやってきたのはやはり運命と言うべきか。
もし自分だったらどこぞに売りにいったかもしれないが、井上はそれを綺麗な玩具程度にしか思っていない。
だからこそ、売ったりして手放そうなどとはきっと思わないだろう。

楽屋のテーブルの上、金色の塊をちょん、とおはじきのようにつつきながら井上が口を開いた。


「…これも、何か力あるんかな」
「どうやろ、俺のも何かあったりしてな」


河本は言いながら、テーブルに転がした自分の石をじっと見つめる。
綺麗な縞模様は何も伝えることなく静止したままで、答えなど出そうになかった。
見ているだけではどうにもならないので、とりあえずしまっておこうと手を伸ばす。
石を軽く手の中に握り込んだとたん、河本の拳の隙間から淡い光が漏れだした。

174[タイトル未定−1] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 03:52:22
「な、何?」


驚いて手を開き、乱暴にテーブルの上に石を放り出す。それは橙色の光を放ちながらころころと転がった。
転がった先にあった井上の金色の塊は、河本の石にぶつかったと同時に、内側からふわりと光を放つ。


「うわ、光った!」


2人はしばし呆然と石の放つ光に見とれたが、輝いていた石はほんの30秒もするとその光を失い、
もとの姿に戻ったのだった。お互い無言のまま、石と相方の顔を交互に見やること数回、そして同時に言う。


「「…これ、何かヤバいで!」」


もはやここにある2つの石が、何か特別なものであることは疑いの余地がない。
だがしかし、これがどう特別なものなのかわからない2人はそのまま出番までの時間を悶々と過ごし、
本番中もそれを肌身離さず持ったまま、収録を終えて楽屋へと戻ったのだった。

175[タイトル未定−2] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 03:53:20
…収録後の楽屋を、訪れる影2つ。


「よお」
「ちょっと邪魔するよ」


軽い挨拶とともに楽屋に入ってきたのは、2人が先ほどまで出演していた番組のMCであるくりぃむしちゅーの
有田と上田だった。最近共演する機会が増えてはきたものの、彼らがコンビで自分たちの楽屋を訪れるのは珍しい。


「どうもおつかれさんです」
「おつかれさんですー」


ふたりは少しばかりいぶかしく思いつつも、多くの番組を持つこの先輩コンビに礼儀正しく頭を下げた。
有田と上田はそれに「おう」などと簡単に応じる。その後、すばやく話を切り出したのは有田だった。


「あのさ、単刀直入に聞くんだけど」
「はい?」
「ひょっとして、石持ってねえか?」

176[タイトル未定−2] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 03:54:19
見事と言うべき素早い切り込みに、返事をした河本は一瞬あっけにとられた。あまりといえばあまりに直接的な
質問だったので、返答に困ったのだ。石に何か特殊な力があるなら、簡単に持っていると答えてしまうのも
まずいんじゃなかろうか、と思った河本が迷っている間に、井上が代わりに答えてしまった。


「持ってますー」


のんびりした口調だが、これは重大な告白だ。河本は『ちょっと待たんかい!』と思いつつ相方を見やるが、
井上は何ら悪びれたところなく、いつも通りのきょとんとした表情で椅子に腰かけている。
返答を聞いた有田の方も、そう簡単に肯定の言葉がかえってくるとは思っていなかったらしく、ちょっと驚いた顔だ。
上田に至っては頭を抱えている。おそらく有田のバカ正直な質問で慌てたところに、さらにバカ正直な井上の返事が来て
打ちのめされたのだろう。河本はエ?、、に上田に共感した。


「上田、ほらやっぱ持ってるってよ!さっき共鳴したもんなー」
「…おう」
「何?何暗くなってんだよ?」


無自覚な有田とそれに疲れる上田に苦笑しつつ、河本は有田の言葉尻をとらえる。
『共鳴』とはいったい何のことだ?自分たちが石を持っていることが有田たちには伝わっていた理由は?

177[タイトル未定−2] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 03:55:35
「あの、有田さん、『共鳴』って?何で俺らが石持っとるってわからはったんですか?」
「それはあれだ、俺らも石持ってるから。光ったんだよ」
「?は?」
「ああもう、有田代われ!…悪いな、ちゃんと説明するから」
「はあ…」


ため息まじりに有田を制した上田は、自分の石をとりだし、有田にも2人に石を見せるよう促して、
まず自分たちの石について簡単に語り始めた。河本の基本的な質問から、2人が石を手に入れたばかりで
何も詳しいことを知らないと察したらしい彼に、河本と井上は自分たちのもとに石がやってきた経緯を話す。
上田はそれにじっと耳を傾けてから、はじめは石の共鳴と力について話し、それから白のユニット、
黒のユニットについての説明をして、最後に自分たちが白のユニットに属していることを告白した。


「もしお前らの石の力が使えるものだったら、黒の奴らは自分たちの側にお前らをとりこもうとするだろうし、
 それができなきゃ倒して石を奪おうとするだろう。俺らはお前らに『今すぐ白に入れ』とか強制する気はないけど、
 できればお前らと戦うようなことは避けたいと思ってる。だからこうして話をしにきたんだ」

178[タイトル未定−2] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 03:56:29
その言葉に河本は大きく頷いた。上田の話を聞いたところで、今すぐ白につこうとまでは思わないし、
逆に黒につこうとも思わない。わけもわからず戦闘に巻き込まれるのはまっぴらごめんだし、この2人の敵になる気も
さらさらない自分にとって、上田の言葉は至極受け入れやすいものだ。隣で井上も小さく縦に首を振っている。
そんな2人の様子を見て上田の話が終わったと判断したのか、今まで黙って話を聞いていた有田が、『待ってました!』
…とばかりに口を開いた。


「なあなあ、そんじゃさ、まだ2人は自分の石の力がどんなんだかわかってねえの?」
「はい、さっぱりですわ」
「なー、何なんやろな?」


河本は肩をすくめ、井上は河本と顔を見あわせて首を傾げる。石を巡る芸人たちの状況は理解したが、
自分たちの力がわからないことには何をどうすればいいのかさっぱりだ。そんな2人に有田は言う。


「まあでも、黒の奴ら来たら嫌でもわかるよ…ってお前らの力が戦闘に使えなかったらマズいな」
「もしどっちもそうだったら、攻撃系の奴に襲われたらひとたまりもないぞ」
「そっか、そーだよなあ…何か能力わかる方法とかねーのかよー上田」
「んなもん俺が知るか!…うーん、今までの奴らって大体みんなその場で石が発動してたしなあ」

179[タイトル未定−2] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 03:58:06
有田と上田の2人は後輩の身の上を案じ、戦闘に巻き込まれる前に石の力を特定する方法はないかと考えを巡らせる。
そのとき、有田が突然「あっ!」と小さく叫んだ。


「お前の能力でこいつらの石の記憶読めばいいじゃねーか!」
「おいおい、俺の石じゃ記憶は読めても能力は…いや、前に持ってた奴が使った記憶があるかもしれねーか」
「そうだよ、石が覚えてるかもしれねーだろ」
「けど俺いくらなんでも見ただけで石の名前なんてわかんねーぞ?しかも蘊蓄まで言わないとなんねーし…」


ぶつぶつ言いながら上田は河本と井上にむきなおる。


「ちょっと見せてもらってもいいか?」
「あ、はい」
「どーぞ」

180[タイトル未定−2] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 03:58:57
差し出しされた2つの石をしげしげと見つつ、上田は「あれ?」と小さく声を上げた。


「この井上のって、ひょっとして金じゃねーか?」
「あ、上田さんもそう思わはります?」
「…え、俺のって金なん?石やないんや」
「ああ、多分。まあこれも鉱物っちゃあ鉱物だしな…よし、こっちだけなら何とかなる」


そう言って上田は井上の金の粒に触れ、蘊蓄を脳裏から引っぱりだす。


「えー、金といえばみなさん、指輪やネックレスなどの装飾品としてお馴染みの貴金属ですが、
これはおそらく人類が装飾に使った初めての金属だろうと言われています。古代エジプトの
ヒエログリフでも金についての記述があるくらいでして…」

181[タイトル未定−2] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 03:59:26
よどみなくつらつらと言葉を並べながら、小さな欠片に残った記憶を読みとっていく作業に入った。
その欠片の記憶は今朝の井上家の玄関、おろしたての靴の中から転がり出て井上とご対面したところまで戻ると、
それ以前は急に真っ暗になる。ただ、真っ暗な中で一瞬、誰かの右手が石にむかって伸ばされ迫る場面が、
映画のワンシーンのように閃いた。男の左手には何か、茶色い大きなものが握られている。
そしてその男の顔がノイズのようにさし込み、消えた。

…その顔は自分の記憶の中にある顔のひとつに重なる。とたん、男が左手に握っていたものの見当がつき、
上田はふっと笑った。石から手を離し、能力の代償である激痛が背中を走り抜けていくのに耐えてから、言う。


「ほとんど真っ暗だったけど、一瞬だけこの石に手を伸ばした奴の顔が…多分アイツ、何か知ってる」
「…アイツ?それ誰だよ上田」
「…ギター持ってた。波田陽区だ」

182[タイトル未定−2] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:01:07
すいません、>>176
>打ちのめされたのだろう。河本はエ?、、に上田に共感した。

>打ちのめされたのだろう。河本はおおいに上田に共感した。
です。文字化けしました。

183[タイトル未定−3] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:01:52
…さて時は数日前にさかのぼる。


その夜ギターケースを小脇に抱えた小柄な男は自宅前で、もはや幾度めかわからない黒の襲撃を受けた。
もっともその日の刺客の連中は、かなり強力な石を持っていたにもかかわらず、本人たちの実力が
石に見合っていなかったため、途中で石の力が本人たちにはねかえって自爆したので戦闘は早々に終了している。
さらに襲撃の場所が場所だったこともあって、波田は最後の力を振りしぼり、どうにか我が家の扉のむこうに
滑り込んでから力つきて気絶したのだった。

…そしてまさに今、玄関で自分の靴にまみれて目覚めたところだ。

玄関で倒れたせいであちこち打った体が痛かったが、まずはとにかく先ほど刺客から回収して握りしめたままだった石を
しまっておかないと、と手を開く。その手のひらには小さな石が1つのっていた。

…1つ?

おかしい。自分はさっき、3人に襲われたのだ。そしてそいつらは1つずつ石を持っていた。
ならば回収した石の数は3つであるべきなのに、1つしかない。まさかうっかり回収し忘れたのだろうか?
いや、そんなはずはない、確かに自分は連中から石を回収したはず…と、そこまで記憶をさかのぼったところで、
波田は自分の記憶の異常に気づいた。

184[タイトル未定−3] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:02:21
そうだ、自分はこの手の中にある石をまず拾って、それから次の石に手をのばしたはずだ。
そのあと…そのあと、どうなったのだろう?おかしなことにその先の記憶がすっぽり抜け落ちている。
どうやって自分はこの玄関までたどり着いたのか、それもなんだか曖昧だ。

手の中に残ったのは、変わった光を放つ透明な石のみ。ひょっとしてこれが何か力を発したのだろうか?
かるく握ってみると、何となく自分と波長が合うのを感じる。これを拾ったとき、まだ自分の石、ヘミモルファイトの力が
切れていない状態だったから、波長の似ていたこの石の力を自分が引きだしてしまったのかもしれない。
光にすかしてみると、透明な石の中でちらちらと虹色の光が踊る。戦闘の際に刺客がこの石を使っていた様を
思い出してみようとするのだが、この記憶にもまた靄がかかっている。

波田はあきらめのため息をつき、あまり成果を見ることのなさそうな思索に終止符を打った。
この石を持ち歩くのは気が進まない。かといって自宅においておくには敵の多い身だし、まさか捨てるわけにもいかない。
気休めにしかならないが、今まで回収してきた他の石とは分けて布に包み、持ち歩くことに決めた。

185[タイトル未定−4] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:03:15
井上と河本は珍しく、2人並んで帰途についていた。


それなりに仲はよくとも、普段はプライベートを異にしている2人がこうして一緒に帰ることにしたのは、やはり今日楽屋で
聞かされた話が気にかかったからだ。結局2人の石の力は不明なままだったが、だからこそなおさら襲撃を受けたときの
不安が大きい。上田と有田が波田陽区に連絡をとってみると言っていたので、近日中に少しは事態が進展するだろうが、
今現在心細いのに変わりはない。2人いれば運良くどちらかが戦える能力を持っているかもしれないし、少しは
マシだろうということで今に至る。

夕暮れの陽がさし込む局の廊下をとぼとぼと歩きながら、河本がぽつりとこぼした。


「…どーなるんやろな、これから」


井上はそれに答える言葉を持たなかったので、2人は無言のまましばらく廊下を進み、エレベーターに乗り込んだ。
他に誰も乗っていない小さな動く密室の中、井上はやっと口を開く。

186[タイトル未定−4] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:03:42
「なあ」
「ん?」
「この先な、どーなるかわからんけど」
「…おう」
「何かな、俺ら頑張ったらええと思う」
「…」
「それでええと思う」


河本は少し黙って、それから、


「…そうやな」


と小さく笑って呟いた。

187[タイトル未定−5] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:04:22
ここは都内のとある居酒屋の個室、顔をつきあわせているのは2コンビ1ピン、計5人の芸人だ。

くりぃむしちゅーと次長課長とギター侍。つまりは有田、上田、井上、河本、そして波田。
有田と上田が波田に渡りをつけて実現した顔あわせである。



運良く井上と河本が黒のユニットに襲われることはいまだなく、石の能力も不明のまま2日がすぎていた。
波田の手元に残った例の石もその後特に発動することはなく、抜け落ちた記憶も戻っていない。
井上たちにはこの会合に顔を出す以外、選択の余地がなかったし、波田も上田たちの話を聞いて自分の拾った石と
何か関係がありそうだと思い、気になってここに足を運んだのだった。3人それぞれがぼんやりとした不安を抱えたまま、
有田の言葉で会合が始まる。


「んじゃ始めよーぜ…まず波田、聞きてーことがあんだけど」
「はい」
「井上が持ってる石の記憶を上田が力使って探ったら、お前がそん中に出てきたんだと」
「ええ、聞きました」
「お前はとりあえずアレだ、井上の石について何か知ってんの?」

188[タイトル未定−5] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:05:00
あいかわらず単刀直入な有田の質問に、横の上田は苦笑している。
波田は自分のほうをうかがっている河本と井上の様子をそっと確かめながら、さりげなく井上の石の確認を要求した。


「あの、井上さんの石ってのは…」
「井上、見せてみ」
「あ、はい」


井上は手の上に金の粒をのせる。それをのぞき込み、もとより心当たりがなくもなかった波田は、その石に自分の姿が
記憶されていたわけをはっきりと理解した。


「…これ、俺が何日か前に拾おうとしたやつですね」


そう、井上の石は波田があの夜、2番目に拾おうとしたものだったのだ。
だが、その石がなぜ井上のもとに行ったのかまではわからない。

189[タイトル未定−5] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:05:41
波田は諸々の状況から、この場での自分の立ち位置に関して判断を下すことにする。
白にも黒にもくみせずひとり動いてきた彼は自然に、過ぎるほどの用心深さを身に付けていた。
今日も収録もないというのに、不測の事態に備えて自らの武器となるギターを抱えてこの場に表れたほどだ。

 上田さんや有田さんは白ユニットに属している。彼らは井上さんの石のことで自分に声をかけるとき、
 自分たちの能力を隠そうとしなかった。こちらが黒ではないかと疑う様子のなかったところから考えて、
 おそらく自分が石を回収し、ふさわしい人間に配って回っていることは誰かから聞き知っているはずだ。
 話の出所はきっと川島さんあたりだろう。かといって白に勧誘しようという気もなさそうだし、河本さんと
 井上さんが自分の石の能力も知らないような状態である以上…

“この場で詳しいことを話したとして、自分が不利になったり、危害が加えられたりする可能性は低い”という結論を
出した波田は、あの夜に拾った透明な石をとりだして見せ、自分が黒いユニットに襲われたときの一部始終を
話して聞かせる。その話を聞いて少し考え込む様子を見せていた上田は、波田の持ってきた石を手にとって言った。

190[タイトル未定−5] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:06:36
「話を聞く限りじゃやっぱり、この石が何か力を発揮したとしか思えないな。もしかして波田、お前が拾えなかった
 もう1個の石って河本のじゃないか?」


その言葉で河本がポケットからとりだした石に、波田は確かに見覚えがあった。上田の言う通り、これは波田を襲った
3人組の1人が持っていたものだ。


「間違いないですね、これは俺を襲ったもうひとりが持ってた石だ」
「…となると、お前が拾った石ってのは他の石を飛ばす力があるんかな?」
「他の芸人のところに、ですか?」
「多分、わざわざ井上と河本のとこに来たのはこいつらと波長が合ってるんだろ」
「言われてみればそうですね。俺、自分の石のせいか何となくその人にふさわしい石ってわかるんです。この2つの石は
 お2人とぴったり波長が合ってる…」


波田はそこまで言ってふと思った。この石は自分の望みを叶えたとも言えるかもしれない、と。
自分の望みは悪意を持って石を使う人間からそれをとりあげ、ふさわしい人間に渡すことだ。
井上と河本が持っている石は、もしあのとき自分が普通に拾っていたとしても、いつかどこかでこの2人に渡すことに
なっていただろう。それは自分の胸元のヘミモルファイトの意志でもある。

191[タイトル未定−5] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:07:17
「けどさ波田、お前、戦闘のときの記憶もまるまる抜けてんのか?だったらこいつらの石がどんな力持ってるかは
 結局わかんねーままだな」


有田はちょっと残念そうにそう言ったが、波田はそれを否定した。


「いえ、記憶全部抜けてるわけじゃないんですよ。覚えてる部分もあります。少なくともこっち、井上さんの石は
 攻撃用じゃないです。戦闘中に後ろに下がってたから…ただ、そいつ確かこの石を発動しようとして失敗してたはず
 なんです。何だっけな、何かおかしなこと言ってたんだけど…」
「おかしなこと?」
「ええ、発動が失敗したときに…えーと、『凍る』とか何とか…」
「『凍る』…?何だそりゃ、何か冷やす系の能力なんかな?」
「さあ、そこまでは…。河本さんの石の方はちょっとよく覚えてないんです、すみません」

192[タイトル未定−5] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:07:48
記憶が混乱している波田の話は要領を得なかったが、覚えていないものは仕方ない。
有田と波田のやりとりを聞いていた上田が、少し真剣な顔をして言った。


「波田、お前を襲った奴らが力足らずでこの石の発動に失敗して自爆したっていうなら、これは多分それなりの力が
 ある石だ。だとしたら黒の奴らはきっと回収のためにまた襲ってくると思うぜ。まさか石がこいつらのとこに来てることまでは
 わからないだろうから、お前がまた襲われる可能性は高いと思う。気をつけろよ」


上田の、自分の身を案じる言葉をありがたく思い、波田はうなずく。
こうしてそれほどの進展も見せることなく会合は終わり、5人は酒と肴に手をつけたのだった。

193[タイトル未定−6] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:08:38
珍しい酒席をそれなりに楽しんで、5人は店を後にし、ほろ酔い加減でタクシーを拾おうと歩き出した。

有田はすっかりご機嫌で、首を軽く右腕でキメたような状態で上田を引きずり、長州の『パワーホール』を
大音量の鼻歌で歌いながら前を歩く。上田は今にも倒れそうになりながらよたよたと相方に連れて行かれた。


「…離せ!首キマッてる!相方不慮の事故で殺す気か!」
「ふんふんふふ〜ん♪ ふふふふふふふふ♪ ふんふんふふ〜ん…」


…先の角を曲がったらしく姿は見えないが、ここまで響いてくるほど2人の声は大きい。

残りの3人はなんとなく固まって歩いていたが、スニーカーの紐が解けた井上は、皆から少し遅れる。
今日の集まりに使った居酒屋は奥まったところにあるので、街道に出るまでが暗いせいか、前を行く相方と波田の背が
わずかに闇に溶けてぼやけていた。吹きすぎた冷たい風に、冬が近いなと思いながら上着の襟をかきあわせる。

そういえば自分の石を使っていた奴が、『凍る』とか言ってた、と波田は話していた。
こんな季節にそない寒々しい力ってのも何やなあ、と小さくごちて、ポケットの中の金の粒に触れてみる。
その瞬間、何となく指先から石の波動のようなものが伝わってきた気がして、慌てて井上はそれをとりだした。

194[タイトル未定−6] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:09:21
…光っている。

これは例の『共鳴』という奴だろうか、それにしてはこないだと違う、何か嫌な感じがする。


「…準一!」


とっさに井上は前にいる自分の相方の名前を呼んだ。そのただならぬ声の調子にふり返った河本が今度は叫ぶ。
井上の後ろに凄まじいスピードで何かの影が迫って来ていたのだ。


「聡、伏せろ!」

195[タイトル未定−6] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:09:49
それに反応して井上はバッと身を伏せた。凄まじいスピードでその上を人影が飛び越える。
人影はしなやかな低い姿勢でアスファルトの上にズザッ、と急ブレーキをかけて着地し、地面を見つめたまま言った。


「…ちぇっ、ラチるの失敗しちゃったよ二郎ちゃ〜ん」


ちょっと拗ねたようにこぼした言葉は、その声の調子と裏腹にまるで穏やかでない。
しかしその声と彼が呼びかけた名前に井上は耳を疑い、河本も目を見開いて硬直した。


「駄目だろ松田、もっと静かに近づけよ」


呼びかけに答えてのっそりと表れたのは、金髪の横に大きな男。
暗闇にまぎれて近づいたのは、東京ダイナマイトの松田と高野だった。

196[タイトル未定−7] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:10:43
松田は黒く闇に溶ける道の上、片膝をついて腰を沈めた体勢のまま、くしゃりと笑って言う。


「井上くん久しぶり。元気にしてた?」
「…」


その口調は親しげなものだったが、井上はとても松田のその問いに軽く答える気にはなれない。
目の前の人物は自分を背後から襲い、拉致しようとしていたのだ。いくらそれがよく知る相手であったとしても、
恐怖と不信感は消えなかった。

一人離れたこの状況はまずい。そう判断した井上は、松田の様子をうかがいつつ河本の傍まで走った。
河本の横につくと、その後ろでは波田がいつの間にかギターをとりだして襲撃者の方を睨んでいる。
その様子を松田はつまらなそうな顔で一瞥し、ぐい、と体に力を入れて立ち上がり、服の埃を払った。


「おい、二郎…!こりゃ一体何のマネや!」


井上が自分の方に走ってくるのを見てハッと我にかえった河本は、前々からの友人である高野にむかって
悲痛な叫びをあげる。しかし高野は闇の中、いつもの笑みを崩さない。人好きのするそれが今に限っては
ひどく酷薄なものに感じられた。

197[タイトル未定−7] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:11:32
「…井上くんの持ってる石に用がある。この間そっちのギターの彼を襲いに行った下っ端に誰かが
 持たせちまったらしくてさ。使えねえ奴がいい石持ってもしょうがねえってのに…。
 そいつらが失敗したとき回収されたもんだとばっか思ってたけど、今見たら井上くんが持ってんのな。
 もしお前がレインボークォーツとかサードオニキス持ってんならそれも渡してもらうわ」


高野が普段通りの口調でそう言うのを聞いて、河本は理解したくないことをやっと理解した。
この2人は黒のユニットに属していて、自分たちの持つ石を回収しにきたのだ。
高野が『サードオニキス』と口にしたとき、自分の持つ石の名前がそれであることを河本はなぜか悟ってしまった。
レインボークォーツというのはおそらく、波田の拾った石の名前だろう。

198[タイトル未定−7] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:12:02
高野たちと戦闘など、間違ってもしたくはない。だが、先ほどの松田の行為はあまりにも乱暴すぎる。
たとえ友人とはいえ、自分の相方を襲おうとした2人を許すわけにはいかない。素直に石を渡すなどもってのほかだ。
河本はスッと自分のサードオニキスを掲げてみせ、言った。


「これは渡されへんで。聡ラチろうとするような奴に簡単に渡してたまるかい!」
「まあそう言わないでさ…ほら、何なら黒に来たらいいじゃん、河本も」
「…こんな物騒な奴の仲間になる気なんざあらへんわ」
「そう、じゃあしょーがねえな」


ニコニコと笑ったまま、高野はオレンジ色をした自分の石を指先でもてあそんでいる。
そんな様子に焦れたのか、先ほどからずっと黙って立ったままでいた松田が口を開いた。


「二郎ちゃん、やっちゃっていい?」
「…まず井上くんのを盗ってこい、使われるとメンドクセーから」
「…あーい」

199[タイトル未定−7] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:13:20
問われた高野は動じることなく答え、松田はまたも恐るべき速さで井上に飛びかかる。
井上は避けようとしたが松田のスピードの前にそれはかなわず、すぐさまマウントをとられて体の自由を奪われてしまった。
だが井上が手の中に握り込んでいた石を奪いとるのに手間どったせいでわずかに遅くなった松田の動きが
どうにか河本の目にうつった瞬間、河本は松田を指さし、頭の中に浮かんだ言葉を思いっきり叫んだ。


「そうは酢ブタの天津どーーーーん!」


とたんに松田の体はピタリと動かなくなり、井上の手から石を奪いとったまま、固まってしまった。
その上に空から酢ブタと天津丼が思いっきり降ってきて、松田の頭にドンブリと皿が直撃し、ガツーンといい音をたてる。
幸い割れなかったドンブリと皿から溢れ出した中身がびしゃびしゃとかかって、松田はあまりの熱さにパニックを起こした。


「痛っつーーーーだあぁうあっっちいぃいいい!!!!!!」
松田に馬乗りされた状態の井上まで酢ブタと天津丼のとばっちりを受け、松田の体を突き飛ばす。
「あっつーーーー!!!何すんの準一ぃい!!!」
「あ…すまん聡…」

200[タイトル未定−7] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:14:10
天津丼のアンまみれで地面をごろごろ転がる男前の相方に小さく謝って河本は駆け寄る。
その様子にあっけにとられた高野を後目に、今度は波田が動いた。いつものギターの音が鳴り出す。


「拙者、ギター侍じゃ…」
「松田、ソイツのギターを奪え!」


そのフレーズに高野はハッとした叫び、まだヘルニアの後遺症がある体をひきずって井上たちに近づいた。
高野の声にどうにか立ち上がった松田が飛びかかろうとするそのとき、波田は次の台詞を叫ぶ。


「…残念!! 松田大輔ッ… 「真剣白刃どりーーーーっ!!!」 …ぃり…っ!」


ギターが日本刀に姿を変え、松田に向かってふり下ろされようとしたが、松田の両手がギリギリで刀を
白刃どりしたことに気を取られ、波田が台詞を言い切れなかっため、松田の動きを封じるには至らない。
そのまま石の力同士がぶつかりあった波田と松田は互いにはねとばされ、地面に叩き付けられた。
完全に力を発動できなかった分波田の方が分が悪かったか、松田は何とか受け身をとったが波田は
そのまま気絶したらしく、動かない。

201[タイトル未定−7] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:14:59
その激しいぶつかり合いのさなか、地面に転がったまま戦いに気をとられていた井上と、その横にしゃがんでいた
河本のすぐ近くまで高野が迫っていた。


「…つかまえた」


静かに高野の声が河本の耳元に響く。肉厚の手のひらが河本の肩をがっちりと掴んでいた。


「河本、お前のサードオニキスちょうだい。あとレインボークォーツを多分波田が持ってるから、奪って俺に返して」


その言葉とともに高野の石が光を発する。河本はビクリ、と反応して握っていた石を高野に差し出し、立ち上がった。
その様子に慌てて井上も立ち上がり声をかけるが、河本は振り返りもせずにまっすぐ波田のもとへと走っていく。


「無駄だよ、今の河本には聞こえない」


高野は笑みを含んだ声で井上に言った。井上はバッと高野の方を向いてその笑い顔を睨む。

202[タイトル未定−7] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:15:38
「俺の言うこと聞くってさ、河本は…しっかしアイツの石にはびっくりしたよ、サードオニキスは持ち主の個性で
 能力が変わるって聞いてたけど、酢ブタと天津丼はねえよなぁ」


くっくっ、と愉快そうに笑い声を漏らした高野の襟首を、井上がグイ、と引っぱって言う。


「…二郎ちゃん、準一に何したん」


静かに、だが激しく怒る井上の吊り上がった目にも高野はちらりとも動揺を見せない。それどころか、自分の首元を
しめあげている井上の手首を、生まれついての握力をフルに使ってぎりぎりと握りつぶそうとした。
あまりの痛みに井上が顔を歪めて高野の首から手を離すと、高野も井上の手首を離す。


「…ちょっと言うこと聞かせただけだよ。ほら、もうすぐ終わる」


言いながら高野は顎で、波田の荷物をさぐっている河本を示した。井上は相方のその姿に愕然とし、駆け寄って
河本の背中に手をかけ、揺すぶる。

203[タイトル未定−7] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:16:21
「準一、何してんねん、波田くんの石あいつらに渡したらあかんて!」


河本はうるさそうに井上の手を突っぱね、波田の持つレインボークォーツを探しつづけた。
それでも止めようと井上が河本をはがい締めにしようとすると、河本は井上を力一杯突き飛ばした。
体勢を崩して尻餅をついた井上は、呆然と自分の言葉の通じない河本の背中を見やる。
ひどく悲しい気持ちで井上はのろのろと立ち上がり、ふと、すぐそばの地面に光るものを見つけた。

…金だ。

おそらく松田が波田の刀を防いだとき、手から転がり落ちたのだろう。松田はまだ背中をおさえたまま倒れている。
高野はきっと、松田がこれを落としたことに気づいていない。だから河本に「金を返せ」とは言わなかったのだ。
井上は祈るような気持ちで金に手を伸ばした。この石の使い方は知らない、だがもしこれが自分のものだというなら、
きっとこの状況をなんとかしてくれる。そう思って井上は必死で小さな金の塊を握りしめた。

とたんに光り出す石に導かれたように、井上は伸ばした両手を頭上で固くあわせ、その中に石を包んだまま、
思いっきり地面にダイブする。井上の体は高野の目の前まで勢いよく滑っていき、その足下で止まった。

204[タイトル未定−7] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:17:00
「しまったっ…!」


高野の声が響き、その手の中にあった石が光を失い、凍りつく。その瞬間、河本が正気を取り戻した。
その手にはちょうど波田のギターケースから見つけたところだったレインボークォーツが握られている。

一体自分が何をしていたのかわからず、河本は周囲を見回す。そこにはやっとのことで立ち上がろうとしている松田と、
目一杯体を伸ばしたままで高野の前に倒れている井上、そしてただ立ち尽くす高野の姿があった。


「聡っ?!」


動かない相方の姿に思わず河本は叫び声をあげる。見たところ怪我のないのに安心したものの、状況が
わからないのはそのままで、とっさに河本は自分の石のことを思った。ふと手の中を見ると、そこにあるのは
自分の石のサードオニキスではなく、波田の拾ったレインボークォーツだ。サードオニキスがどこにもないことに気づき、
やっと河本の記憶がよみがえってきた。そうだ、自分は高野にあの石を渡してしまった…!

205[タイトル未定−7] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:17:40
「…それちょうだい」


河本がその小さな声に振り返ると、目の前には鬼の形相の松田が立っていた。まだふらふらしている体で
松田が河本に襲いかかる。もはや松田は石の力を使えてはいなかったが、死にものぐるいで河本の手から石を
奪おうとしていた。その執念とも言うべき力に河本は必死であらがう。体勢を崩して倒れ込んだ2人の後ろから、
それまで忘れ去っていた人物の声が聞こえた。


「河本、大丈夫か!」


先に行ってしまったものだとばかり思っていた有田だった。少し遅れて上田も走ってくる。その状況を見た高野は、
すぐに松田に声をかけた。


「松田、石はいい、逃げろ!」


その声に松田は河本からはなれ、高野のもとへと走ろうとしたが、もはや石の力の反動で体がまともに動かない。
地面を這うようにして自分のもとに向かってくる松田の手をとろうと高野は必死で走り寄るが、腰に爆弾を抱えた体では
限界があった。それでも何とか松田を助け起こし、その場を去ろうとする。

206[タイトル未定−7] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:18:17
しかしそのとき河本が立ち上がり、レインボークォーツを握りしめたまま叫んだ。


「ふざけんなや、俺の石返していかんかい!!!」


…その叫びが闇に響き渡るとともに、河本の手の中で石が虹色の光を発する。その眩しさに全員が目をひそめた。

207[タイトル未定−8] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:19:22
それからどのくらいの時間が経ったのかはわからない。


気づくと河本のもう一方の手の中には、サードオニキスが再び握られていた。
だが、河本にはなぜその石が再び自分のもとへやってきたのかさっぱりだ。


「うう…」


小さなうめき声に振り向くと、波田が起き上がろうとしていた。その横でなぜか正座した状態になっていた有田と
いつのまにか尻餅をついたままだった上田も気がついたのか、頭を振って目をぱちぱちさせている。
その様子を見ていて井上のことをすぐ思い出した河本が、彼の倒れていたはずの場所を見やると、そこには
体育座りで縮こまって震えている相方の姿があった。

208[タイトル未定−8] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:21:14
「聡!大丈夫か!」


河本は井上に駆けより、異常な状態の相方に声をかける。すると井上は、紫色の唇でぽつりと呟いた。


「寒い…」


その手には金の粒が握られており、河本はこの井上の状態がおそらく石の力の反動であろうと察する。
確か波田を襲った刺客が『凍る』とか言ったと聞いた、これのことだろう。しっかりしろ、と井上の背中をさすり、立たせてやる。


「井上、コレ着とけ」


その様子を見ていたらしい上田が寄ってきて、侠気にあふれる発言とともに自分の上着を差し出した。


「…いやー上田さんオットコマエですねえ、ナーンにもしなかったくせに」
「…お前もだろ!大体お前が俺の首キメたまま歩ッてったからこいつらが襲われたの気づかなかったんじゃねーか!」
「いやいや上田さん、気づいてても貴方は戦闘の役には立たねえし同じですから〜!…残念!」
「有田さん、それ俺のネタです…」
「有田お前、大概にしとけよ…?」

209[タイトル未定−8] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:22:25
有田の襟首をつかもうとして逃げられた上田はおちゃらけまくった相方を怒り心頭で追いかけ回す。
波田は松田との戦いでネックの折れてしまったらしいギターを拾いつつ、その様子をおろおろと見ている。
結局上田の上着を羽織ることにした井上と、その横に立つ河本は、何て緊張感のない人たちだろうと
この先輩たちに軽く尊敬すら覚えて覚えていた。


「…そういや、襲ってきた奴ら、どうしたんだ?」


有田を追いかけ回して疲れたらしい上田が、今度は逆に自分が相方の首をキメながら戻ってきて聞く。
有田は「ギブ!ギブ!」と叫んで上田の腕を叩いているが、解いてやる気はさらさらないらしい。


「あれ、そういやどしたんやろ…」


河本はぽつりと呟いて周りを見てみるが、松田と高野の姿はない。そして河本の脳裏からは、レインボークォーツが
光った後の記憶が全て消えていた。

210[タイトル未定−8] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:23:30
「俺も松田さんとぶつかった後の記憶がないんです」
「ああ、気絶しとったからやろ」
「俺もこの石、拾った後の記憶がないわ…マグロになったのは確かやねん」
「は?マグロ?」
「うん、何かな、マグロやらなあかん気がして、滑ってったんよ、そしたら二郎ちゃんとこ着いて…そうや、二郎ちゃんの
 石の力、多分俺の石ん中に凍ってる」
「二郎の力?」
「この石、きっとそういう力があんねん」
「…」


しんみりと井上の手の上の金の粒を皆が見つめる中、有田の弱々しい声が聞こえてくる。


「う…えだ…、し、し…ぬ…」
「…っ、すまん有田!」


…石に気を取られて力の調節を忘れていたらしい上田の腕に首をキメられまくっていた有田は、軽く絶命寸前だった。

211[タイトル未定−9] ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:24:05
「二郎ちゃん、腰大丈夫?」
「おー、何とか…お前足とかもう平気か?」
「んー、しばらく無理っぽい」


有田が相方の手で死にかけていた頃、東京ダイナマイトは少し離れた公園でぐったりしていた。
実はレインボークォーツが光り、高野の手からサードオニキスが失われた瞬間、彼らの前に赤いゲートが現れていたのだ。
そう、彼らを助けたのは黒の重鎮、土田だった。ゲートの中から土田が手を伸ばし、力一杯引っぱり込んで
この公園までつれてきたのだ。土田は一言「…疲れさせんなよ」と言い残し緑のゲートで去っていった。


「…今回は俺らの負けか」
「だねえ…悔しいけどさ」


松田と高野は顔を見合わせる。そしてつい吹き出した2人の笑い声が夜中の公園に響く。
どこぞのマンションの窓から「うるせえぞ!」と怒られ、また笑い、ひとしきり笑ってから公園を後にした。



…彼らの戦いもまた、終わらない。

212 ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:28:08
次長課長
井上聡
石:金(確実な助言と力)
能力:
その場にいる石を持っている人間の中で、もっとも自分にとって危険な存在を特定し、その能力を封じられる。
「築地のマグロ」になった井上が滑ってたどり着く先が最も危険な存在と特定され、その能力が井上の中に冷凍される。
例)1つの部屋の中に井上以外にAB2人の石の能力者がいたとする。
A:井上とその仲間への害意がある、石の力は弱い 
B:井上とその仲間への害意がない、石の力が強い
この場合は、あくまで「自分にとって」危ない存在を特定するので、Bの力が冷凍される。
また、肉体的な害、精神的な害どちらにも反応する。
条件:
危険な人物に特攻していく形になってしまうというリスクがある。しかも井上自身は完全に冷凍マグロと化すので、
いっさいの攻撃/守備ができなくなり、その場にマグロの姿のまま放り出される。一回の戦闘につき一回の、捨て身の技。
能力を解除した後、冷凍の後遺症でしばらくの間寒くてたまらなくなる。また、その場の戦闘がすべて終わると
自然に井上は元に戻るが、井上の中に冷凍された能力は、次に井上が他の人間に能力を使うまで使えなくなる。

213 ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:32:00
河本準一
石:サードオニキス/別名:赤縞瑪瑙(人間愛、夫婦愛。個性を引きだす。内臓への活力。)
能力(1):例の顔マネと「お前に食わせるタンメンはねえ!」の台詞とともに中華料理屋の扉が出現、攻撃をはね返す。
能力(2):「そうは酢ブタの天津丼!」の台詞とともに指さした敵の行動を10秒止め、頭上に酢ブタと天津丼をおみまいする。
条件:
扉のサイズ以上の範囲はカバーできない。出現するのは横にひいて開ける2枚扉でのれん付き。街の中華料理屋や
ラーメン屋に多い磨りガラス製の扉。強度は銃弾を通さない強化ガラス程度。反射できるのは物理攻撃のみ。
また、台詞をかんだり顔マネが中途半端だったりすると扉の強度が下がる。1日に3〜4回くらいが限度。
酢ブタと天津丼は火傷するほど熱い。また、止められる行動は人間の運動行為のみで1人の敵につき1回が限度。
つまり「走り出そうとしている人」「人を殴ろうとしている人」「何か投げようとしている人」などを止めることはできるが、
「その場で動かずに何かおこなおうとする人」「頭の中で何か考えている人」「人が投げた物体」を止めたりはできない。
全能力を使いはたすと、河本は朝から晩まで休みなく厨房で働いたくらいの疲労感におそわれ、まともに動けなくなる。


*ちなみにサードオニキスは「個性を引き出す」とのことですので、持つ人によって違う力を持つという設定をつけてみました。

214 ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:32:52
波田が拾った石
石:レインボークォーツ(七つの光が願いを叶える)
能力:
持ち主の、他人に関する害意のない望みを叶える。ただしもとの状態以上に他人の能力を引き上げたり、
存在しないものを作り出して他人に与えるような力はなく、使用者自身に関する望みも叶わない。
つまり、「仲間の怪我を治したい」「遠くにいる仲間に自分の持っている傘を武器として与えたい」は叶うが、
「自分の怪我を治したい」「仲間の力を限界より強くしたい」「仲間にバズーカ砲を作り出して与えたい」は叶わない。
条件/代償:
他人に害を与えることを望む場合には、同等の害が使用者自身にももたらされるため注意を要する。
「敵に動けなくなるほどの怪我を負わせたい」という願いは叶うが、同時に自分も動けなくなるほどの怪我を負う。
叶えられる望みの大きさは「使う人間の実力」「石とどの程度波長が合うか」に左右される。
また、石を使用した際、その石に関することを中心に、使用者とその場にいたものの記憶が曖昧になる。
望みの害意のあるなしに関わらず、石が叶えた望みが大きければ大きいほど、記憶の損傷は激しい。

215 ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:39:46
おしまいです。河本の能力(1)を設定しておいて使えなかったのが心残りです。
あとレインボークォーツの行方をもうちょっとくらましとけば良かったと思いました。
この先も河本が持ちっぱなしってことはないと思います。
土田ももっと出したかったのですが、東京ダイナマイトとの接点が見つからず中途半端に…。

ちなみにこの話、ごく最近のことです。
次課長とくりぃむの共演番組は『くりぃむナントカ』あたりのつもりで書いてました。

やたら長い話になってしまいましたが、ご意見いただけると嬉しいです。
直すべきところや誤字脱字、設定の問題点などあったら教えてください。

216 ◆yPCidWtUuM:2005/11/18(金) 04:43:03
あと、江戸の者なので関西弁/岡山弁はおかしいところ多々あると思います。
その点も教えていただけたら嬉しいです。

217名無しさん:2005/11/18(金) 13:22:55
大作乙、超乙!
能力も単体だと何かとみんな面白いのに、戦闘の緊迫感が凄かったです。
そして戦闘とおちゃらけの使い分けがすげー!
自分はそんな風に書けないからめっちゃくちゃ尊敬します。
自分はこれをまんま投下でも大丈夫だと思いますよ。

218名無しさん:2005/11/19(土) 10:22:47
スピワとピースって何か共演したことありますかね?
ちょっとその二組で思いついたんで・・・

219名無しさん:2005/11/19(土) 14:16:26
心の底から乙!大作堪能しました。リアルに映像が浮かんできました。
しかしくりぃむしちゅーはどの方の作品でも緊張感ないなw

ところで、>200の5行目は
>そのフレーズに高野はハッとした叫び、
は、「ハッとして叫び」ですかね?細かくてすみません。
自分もこのまま投下で大丈夫かと思います。

220 ◆yPCidWtUuM:2005/11/19(土) 16:26:56
>>217
感想ありがとうございます。河本の能力はおちゃらけすぎかと不安だったので
そう言っていただいてホッとしました。ちょっと手直しして投下してきます。
>>219
感想&指摘ありがとうございます。ご指摘の部分、その通りです。
やはり夜中に書くと凡ミス出ますね。自分でも何カ所かおかしいところを
見つけたので、ちょこちょこミスを直したり細かい書き足ししたりして
投下することにします。多分今晩か明日あたり。

徹頭徹尾緊張感のあるくりぃむをそのうち書いてみたいw
おちゃらけゼロだけどそれらしいあの2人ってかなり難しそうですなw

>>218
たぶんしてないと思うけど、自分で調べてみたほうがいいかも。

221名無しさん:2005/11/20(日) 11:52:41
>>220有難う御座います。調べてみます。
ところで名前欄の英語はどうやってだすんですかね…?
宜しければ教えてください。

222 ◆bZF5eVqJ9w:2005/11/20(日) 12:31:07
>>221
名前欄に半角#と
その後ろに好きな文字を八文字入れるだけですよ。
ちなみにトリップと呼ばれています。

223 ◆/KySNfOGYA:2005/11/20(日) 19:16:33
>>222
成程。トリップと言うんですね。ご親切に教えていただいて有難う御座います。

224ジーク ◆Zw4Un748XA:2005/12/14(水) 23:34:20
ちょっとばかし入院してました。
久しぶりに投下する前に、こちらに落とします。

225ジーク ◆Zw4Un748XA:2005/12/14(水) 23:46:29
中川の電話から約20分程前の事


「…で、アイツ理不尽な理由でキレるんすよ〜!」
「大変そうやな…」

雑談しながら歩くうちに、人通りの少ない路地に入る二人。

「人通りが少ないとこに来てもうたけど、飲み屋とかあるんか?」
幾分心配になってきた中川が後輩に尋ねる。

「……多分、道間違えたかも知れないっすね。」
「おいおい…頼むからしっかりしてくれや〜?」
自信なさげに答える藤原に、情けない声を出す中川。

引き返そうと後ろに振り返ると、今まで自分達以外は誰も居なかった筈なのに、いつの間にか二人の男が背後に立っていた。


「中川…奇遇やんなぁ。」
黒のシャツに黒のレザーパンツを履いた細身の男が、中川に話し掛ける。

「お前ら……いつの間に……」
全く気配を感じられなかった中川は、二人の姿を目にし驚愕の声を上げる。

「あれ?……浜本さんに白川さんやないですか!お久しぶりです!!」
藤原の前には、かつて大阪に居たとき世話になった、先輩の10$の浜本と白川がそこに居た。


「久しぶりやんなぁ〜藤原。元気しとったか?」
人の良さそうな笑顔で藤原達の方に歩き出す浜本。

「………来んといてや。」
今まで見せた事の無い険しい表情で、浜本に言い放つ中川。
「中川さん?」
明らかに先程とは違う中川の雰囲気に、子を困惑する藤原。
「……穏やかやないなぁ…中川。」
中川の態度にニヤリと笑う浜本。
その目にはどこか狂気の光が宿っている。

『な…何なん?何がどうなってんねんな?!』
今の状況に思考がついて行けず、混乱し始める藤原。

その時、混乱した藤原の思考を醒ます様に、藤原の持つ石『ユナカイト』が熱を帯びながら輝き始める。



「熱っ!!」


主の危機を知らせる石はますます強く光り輝く。

「藤原、何なんその光は?」

服越しでも分かるほど石は輝き、その光のあまりの強さに中川は驚きながら藤原に問い掛ける。

226ジーク ◆Zw4Un748XA:2005/12/14(水) 23:47:47

「……ましょう。」
「は?」
「逃げましょう!中川さん!!」

中川の手を引きつつ、浜本と白川に背を向け全速力で走り出す藤原。

「逃げれへんぞ藤原。俺らからはな………白川!」
「………」

虚ろな目で白川は手にはめたリングをかざして念じる。

すると、何かはっきりとは見えない力場が辺りを包み始め、藤原と中川の前にも見えない何かが立ちはだかる。

「なっ!!」
「しまった!閉じ込められたか!!」

先へ進もうとする藤原が、例えるなら見えない壁に邪魔されている。
そんな感じだった。
「逃げれへんぞ〜2人共〜」
クスクス愉しげに笑いながら2人の背後に迫る浜本。

「……闘り合う気ぃですか?」
恐る恐る尋ねる藤原。
その手にはユナカイトが握り締められ、臨戦態勢だ。

「別に、石を置いてこの場から居らんくなってくれるんなら、こっちも手ぇは出さへんで?」

笑みを貼り付けたまま返答する浜本。

227ジーク ◆Zw4Un748XA:2005/12/14(水) 23:53:39

「なら答えは……」藤原の意志に同調するかの様に光を放ち出し
「ドンマイ!俺!!」
力強く藤原が叫ぶとよりいっそう強く光を放ち、石の力が発動する。

「気をつけろ!藤原っっ!!」
中川もキーホルダーに付けた自分のエリスライトを握り締め戦闘態勢を取る。


「……やっぱりそう来なきゃな…?」

狂気の光を目に宿し浜本は胸元で黒く輝くブラックスターを握り締めた。

228ジーク ◆Zw4Un748XA:2005/12/16(金) 21:42:42
ここまでと書くの忘れてました。

とりあえずここまでを投下しようかと思います。

229名無しさん:2005/12/17(土) 11:56:55
ブラックスターはさまぁ〜ずの大竹さんとかぶってますよ。

230ブレス ◆bZF5eVqJ9w:2005/12/17(土) 12:05:25
はねる編七話ができましたが、久しぶりなので先にこちらに投下させてください。

<<Jamping?>>--07/願い人はかく語りき


「何してんの」
いきなり背中に声をかけられ、その女はびくりとした。
彼女はあわてて、声をかけてきた相手に振り返る。
「い、いやいや!別に!」
焦った声が聞こえてくる。
本当に?と念を入れて聞き返すと、「ほんとに!」と返ってきた。
あまりに一生懸命に言い訳しているが、まあいいかと聞いた主―――虻川は思った。
彼女に限って、そんな疑わしい動きをするわけがない。そう分かっていたからだ。
分かっていたのではなく、信じていただけなのかもしれないが。
まだ首をかしげている相方を見て、もう一人の女・伊藤はどきどきしていた。
―――今知られたら、まずい事になる・・・。
伊藤は苦そうな顔をして、それから虻川から顔を逸らした。
そして、手元の自分の携帯電話に集中した。画面に映るのはメール。
「・・・」
伊藤は唇の端をおもむろに噛んでいた。少しだけ、じんわりと赤く染まっていた。

231ブレス ◆bZF5eVqJ9w:2005/12/17(土) 12:05:45
「あの、さ」
その日の収録終わりに、急に伊藤は帰ろうとしていた西野に声をかけた。
「ん?どしたの伊藤ちゃん」
西野がやんわりした声とともに振り返る。人気のない廊下は、冷たい空気を吐いていた。
「この間の、話」
言い辛そうに伊藤がその言葉を口にした。西野が微かに反応する。
この間の話とは、2人で連絡を取り合った時の話だった。
『はなわは黒だった』と言う一連の話と、山本の異変。
特に山本に関して伊藤はかなり心配しているようだったが、インパルスの言葉からも何も分からない。
それで西野が調べたのだが、『白』とコンタクトが殆ど取れないキングコングの情報は少なかった。
そして今もまだ、十分に情報が無い。
インパルス経由で情報を集めるのが早いのだろうが、西野は何となくそれを躊躇っていた。
「・・・あぁ、何やったっけ?」
西野はその一連の流れを知らない振りをして、話をはぐらかした。
「そういう風にしないで、真剣なの」
「・・・ごめん」
伊藤はいつも以上の剣幕で、西野を責めた。それから、目を逸らす様にして下を向いた。
―――やるしかない。やらないといけない。私が。そう、誰でもなく私が。
西野に聞こえないように、伊藤が短く呟いた。
フラッシュバックするのはさっきまで見ていたメール。
見知った相手からの、メール。
伊藤は決意を固めた。ゆっくりと足元の石に力を注いでいく。
戻れないとしても、戻して見せよう。またみんなで笑おう。だから・・・。
「西野君・・・」
伊藤が小さく西野を呼んだ次の瞬間だった。
西野は、何やねんと返事する間も無く伊藤の石の光を受けていた。
その時の西野の表情を、伊藤ははっきりと見た。
何故仲間であるはずの自分に能力を行使したかが理解できないと言った顔。
ごめん、と謝った言葉は西野には届かなかった。

232ブレス ◆bZF5eVqJ9w:2005/12/17(土) 12:06:03
それからの記憶は、はっきり言って西野の中では曖昧だった。
何だか沢山の事を喋っていた様な感覚はあるが、内容を覚えていない。
ただ何となく、今知っている『白』の情報を引き出されていたような気がした。
伊藤も知るとおり、西野が知りうる事はごくわずかに過ぎなかったのに。
「・・・んん・・・?」
西野がきちんとした記憶を取り戻したのは、伊藤と話していた廊下だった。
気がついた時には、その場に棒になったように立ち尽くしていた。冷たい風が床をなめて行く。
それから、今までのことを思い出そうと西野は努力しながら頭を振った。
しかしどうしても、桃色の光を見たところまでしか思い出せない。
それから先が、何だか靄がかかったように曖昧になっている。
伊藤の石には、そんな力があったのだろうか?と西野はその場で首を捻った。
「西野!どこほっつき回ってんねん!」
そんな中廊下の向こう側から、愛すべき相方の、梶原の怒鳴り声が聞こえてきた。
その後ろに、ロバートやドランクドラゴンもいるようだ。
「ほっつき回るって言うても・・・」
西野は困惑した表情を浮かべて、走ってきた仲間達に向けた。
ずっとここにいた、と言う言葉は勢いで飲み込んでしまった。
「アホ!お前がそう悠長なことしてるから、また・・・!」
「・・・また?」
今度は梶原が苦しそうな表情を見せる番だった。
かなり険しい顔で、アンクレットを光らせ続けている。
「またインパルスが『黒』の下っ端に絡まれとんねん、今や今」
その言葉を聞いた西野の顔つきは、険しくなっていく。

233ブレス ◆bZF5eVqJ9w:2005/12/17(土) 12:06:25
ちょうど板倉と山本が対峙した公園で、インパルスの2人が『黒』の下っ端と争っていた。
帰り際の板倉を狙い仕掛けてきた連中と、追いかけっこでここまできたのだ。
それを見つけた堤下が板倉を助けにやってきていた。しかし形勢は一向に悪い。
「ちっ・・・」
板倉が舌打ちをする。見れば相手は大勢、こちらは2人。
暗くなり始めている公園の中に、街灯の蛍光灯はちかちかと点滅していた。
そして、点滅の光がまだいるであろうか、その他大勢の顔を照らしている。
「どいつもこいつも・・・、覇気がないんじゃないの?」
『黒』の人間に追われるのが面倒臭くなり始めた板倉が、苛立って呟いた。
そのすぐ隣で困り果てたような表情をしている堤下が、板倉の言葉に
「いや、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!相手が多すぎるよ・・・」
と弱気に突っ込んでいた。
そんな覇気の無い顔が、2人の周りを包囲している。小さな息と迫る足音が砂を掻いた。ざっ、と靴底が擦る音がする。
街灯はいまだちかちかと弱々しい点滅を繰り返していたが、不意にそれが消えた。
一瞬その空間すべてが、黒く塗りつぶされたように感じた、その刹那。
―――ばちっ。何かが爆ぜた。
「俺ね、あんまり手荒なことしたくないんだ」
いつもと変わらない、冷静な声色が聞こえる。
堤下は、それが隣の板倉だと分かっていたが、何やら嫌な予感がしてそちらを向けなかった。
辺りが謎の音と共に瞬間的に明るくなる。その光の元は多分板倉の頭上だろう、と堤下は気づいていた。
電流が街灯から奪われて、それは生き物のように板倉の周りに集合していたのだった。
「でも、来るんならこっちもやるよ」
相変わらず、板倉から放たれる言葉には変化は無い。
周りの群れが、凝視するかのように板倉と彼のアンクレットを見た。
風が冷たく公園を貫いた。
「簡単に石はやらねーぞ」
最後に板倉が、吐き捨てるように言ったのを堤下は聞き逃さなかった。
その言葉が合図だったかのように、ついに男達が爆発して迫ってきた。
拳を振りかざし、唸るように、鋭い眼差しで板倉を目掛けて猛烈に突撃してくる。
しかし、彼らの拳が板倉を捉えるよりも前に、板倉と男達の間に巨大な電撃の束が落ちた。
―――ずどん!

234ブレス ◆bZF5eVqJ9w:2005/12/17(土) 12:06:51
おおそろしない音が空気を震わせ、衝撃的な電光が目を眩ませる。
驚いて後ずさりして行く下っ端を、板倉が負けず劣らずの冷たい瞳で睨み付けた。
その時一緒に少し唇の端が歪んでいた。
「俺怒ったら怖いよ?」
「・・・そうそう、板倉さんあんまり怒らせないほうがいいって」
黙っていた堤下がちょこっとだけ、しかもなぜか小声で喋った。
しかし、それに対する返答は
「知るかよ」
「さっさと石をよこしてくれませんか?」
「電気を扱うなんて、かなり強いみたいだからな」
と言う、一切話を聞いていない言葉ばかりだった。
「・・・・・・」
板倉は、それを聞いて一瞬だけ黙ったが、それは本当に一瞬で。
「じゃー、こいつで焼け死んでも知らない」
さらりと言ってのけ、次の瞬間にはまたしても電撃が公園中を駆けていた。
そこら中に光の柱が地面に目掛けて突き刺さっている。
電光が空を走り、体を捻り、時に二股に分かれ、男達の降り注いでいた。
「い・・・、板倉さん!あんまりやると周りに迷惑が・・・」
「関係ねーよ、今は」
「電気なんか当ててほんとに死んだりなんかしたら・・・」
「そんなわけ無いだろ、俺だって手抜くよその位は」
「それより!こいつ等俺達を襲う気あるのかな?」
「だっていきなり俺を襲ってきたんだよ、その気はあるだろ」
「そうだけど・・・おかしくない?」
「何が!」
電撃操作に精神を集中している板倉が、自分に話しかけてきた堤下に苛立ちを覚えた。
しかし堤下は、そのまま言葉を紡いだ。
「だってこいつ等、よく見たら減ってるよ?」
「逃げてんだろ?『黒』に洗脳された石の力を使えない下っ端だから、反撃できなく・・・」
言いかけて、板倉はようやく気がついた。
いつの間にか自分の周りにいた下っ端集団が公園の外へ走っていく。
しかしどうもおかしい。逃げるのとは違う、何か急いでいるように見える。
「板さん!」
その時2人は聞き覚えのある声が公園の外からしたのを聞いた。
目を向けると、公園の入り口に向け走るキングコング・ドランクドラゴン、そして秋山と馬場がいた。
板倉に、何となく嫌な予感がしたのはこの時だ。なぜかは分からない。
ただ、次の瞬間には先ほどまでの『黒』の下っ端が、標的を西野に変えていた。

235ブレス ◆bZF5eVqJ9w:2005/12/17(土) 12:09:40
とりあえずここまでです。

今回はキンコンの2人が『白』と特に接点がないと言うのが前提です。
(あるとすればインパルス経由か関西方面の『白』)
それから、伊藤ちゃんの謎の行動については次回以降に繋げようと思います。

236 ◆1En86u0G2k:2005/12/19(月) 00:53:18
エレキ今立さん周辺のちょっとした話を思い付きました。
重要な展開ではないので全体の流れを邪魔することは多分ないと思いますが、
保守がてら投下しようかと思ってるので、
何か問題がありましたらご指摘くだされば幸いです。

237 ◆1En86u0G2k:2005/12/19(月) 00:55:11
トゥインクルスター ★



その日、エレキコミック・今立進は朝から上機嫌だった。
左足の靴紐が何回となくほどけても、目の前で電車が行ってしまっても、レジ待ちで強引に自分の前に割り込まれても、その買い物の結果財布の中に1円玉がやたら増えようとも、怪訝な顔の相方に顔に締まりがないと指摘されても、とにかく、彼のテンションは高いままだった。

なんたって翌日には恒例の「ゲーム大会」が控えている。
それは、今立を筆頭としたゲーム好きの芸人同士が集まって、舞台上でひたすら古今のゲームに興じるというオールナイトのイベントのことだ。
はたしてそんなものに入場料を取っても大丈夫かと最初は思ったけれど、やってみた限りでは観客もなかなか楽しんでくれたようで、以来時間と余裕とメンバーの予定が合った時には開催されるそのイベントの日が訪れるのを、彼はずいぶん前から待ち望んでいたのだった。

238 ◆1En86u0G2k:2005/12/19(月) 00:56:41
それぞれの仕事を済ませた後参加メンバーが集合し、軽い打ち合わせと最終確認、ついでに飲み会。
あまりの嬉しさにやや飲み過ぎてしまった今立はメンバーの一人、東京03・豊本明長と談笑しながら夜道を歩いていた。

「もう帰ったらすぐ寝ようと思ってさ!明日のモチベーションを高めとかないと、」
「ダチくんもう十分だと思うけどなあ」
「こんなもんじゃないよ俺は!」

酒のせいでさらに上がったテンションを抱え、駅へ続く道を曲がる。そこからだと少し近道になるのだ。細い路地で街灯の数も少ないようだが大の男二人、特に怖がる理由もないだろうと。
だが彼は大事なことを忘れていた。彼らの日常が今はすっかり様相を変えていて、なんの落ち度がなくとも不意に襲われる可能性を十分に秘めていることを。

「………え、」

気が付けば前後の道をいかにも怪しげな男達に塞がれていた。

239 ◆1En86u0G2k:2005/12/19(月) 00:59:00
前に3人、後ろに5人。

その中に見知った顔はなかったし、一様にぼんやりと曇った目をしていたからおそらくは、黒側の末端を構成する超若手の面々が上の思惑で動かされているのだろう。よくある話だ。
自分の石に目立った変化は感じられないので相手方が石を使った攻撃をしてくることはなさそうだが、恵まれた体格と腕力のありそうな男が多いのが気にかかる。
高まってゆく緊迫感とは対照的に、道に沿って続く植え込みでは張り巡らされた大小のイルミネーションがチカチカと陽気に点滅を続けていた。家主の趣味なのだろうか、白に青に水色に色を変えて輝く様は光が行く先を先導してくれているようで、こんな状況でなければなかなかロマンチックな雰囲気だったのかもしれない。

(さて、どうしたもんかなあ)

豊本は眼鏡を中指でくい、と押し上げて小さくため息を吐いた。
この陣形と場所では少々のすったもんだは免れそうにない。しかも自分の石は少数へのかく乱が精々で、こういう状況では基本的に無力だ。となると今立に頼ることになるのだが、彼が能力を使ったあとの代償を考えるにそれはちょっと言い出しにくい希望である。

(みんなでまとまって帰るべきだったかー…闘えそうな人もいたし…)

不注意を悔いたものの後の祭りだった。他に選択肢が増える気配はない。
仕方なく隣の様子を伺うと、人工的な光に頬を照らされた今立が酔いの回り切った目で前方を睨み付けたまま(だから残念なことに威圧感には欠けていた)淡々と言葉を並べはじめた。

「…あのねぇ豊本くん、俺ものすごく楽しみにしてんだ、明日の」
「うん、知ってる」
「なんだったら最近のアンラッキーを全部笑って流せるぐらい」
「ああ…さっき居酒屋でダチくんの頼んだのだけ3連続で来なかったけど全然笑ってたもんね」
「…メイン主催者がゲームにひとっつも触れないってどう思う?」
「超不憫」
「………」

その時豊本は確かに今立の目が据わるのを、見た。

240 ◆1En86u0G2k:2005/12/19(月) 01:00:42
石が震える。
やはり自身の石とそれぞれの身体能力で突破するべきか、そう考えはじめた豊本の思考が思わず途切れた。

(…え、ダチくん?)

この共振の元は間違いなく今立だ。しかもかなり、攻撃的な。
冷静に考えたなら明日の為に少しでも使用は控えるべきなのだが、酔っているせいか本人曰くの『最近のアンラッキー』が相当溜まっていたのか、こんな不条理な形で自分の楽しみが妨害されることに対し彼は相当腹を立ててしまったらしい。
気の毒だとは思いつつ、この怒りが下手に拡散するとやっかいなので今立に全てを任せることに決めた。
−でも確か、彼の能力には制約があったはず…

「…イオナズン打ちてえ…」
「いや危ないから」
「じゃあメテオ…やっぱメラゾ−マ…いや団体だからべギラゴンの方が…」
「殺す気だねえ。全部却下。てか無理でしょ?そういうの」

そう、彼は怒りを発散する攻撃の能力は使えないのだった。どうするの?という豊本の視線を感じ取ったのかどうか、今立は不意に「上手く避けてね」と言い放つと、傍らできらめく星の形をしたイルミネーションを引きちぎり、真上に投げた。
電力を断たれたそれは当然瞬時に輝きを失い、ただの透明なプラスチックに戻る。
しかし、その星が重力に引かれはじめる前に、今立のシャツのポケットから眩く白い光が溢れた。

「………!!」

途端に前後の集団がざわめき、距離を詰めようと駆け寄ってくる。
何か効果的な能力を発揮される前に数で押し切り、石を奪ってしまおうという考えだったのだろう。
しかし彼らの手が今立に伸びる寸前、ウレクサイトの白光はひときわ強く瞬いたかと思うと、シュン、と真上に移動した。
打ち上げられた先には落下してくる星型のプラスチック。

−光が吸い込まれる。造りものの星が再び、輝きを取り戻す。
キラキラと光の粒をまき散らしながらゆっくり落ちてくるその星にはなぜか懐かしいような既視感があった。
そう、確か、それを取ればどんなピンチも切り抜けられる…

「…無敵のスターだ、」

豊本が呟くのと星の光を身に纏った今立が前方の集団に向かって体当たりを仕掛けたのは、ほぼ同時。

241 ◆1En86u0G2k:2005/12/19(月) 01:02:11
「……っ、はあ…多分この辺やと思うねんけど…」

今立の石が光ってまもなく、その場に駆け付けた男がいた。アメリカザリガニ・平井善之だ。
同じくゲーム大会の参加メンバーであり飲み会のあとコンビニに立ち寄っていた彼は、黒い欠片と憶えのある石の気配がどこか近くで弾けるのを感じ、何やらよからぬことが起きたのではないかとその気配を追いかけてきたのだ。
戦うことも考えて咄嗟に買った小さなミネラルウォーターのボトルを片手に弾んだ息を落ち着かせ、路地に踏み込む。
しかし平井は、「うわ、」と思わず声を漏らして足を止めてしまった。

視線の先で若い男が、勢いよく宙へ吹っ飛んでいく瞬間だったから。

「 へ ?」

事情を把握できずその場に立ち尽くす間に、その男は派手な音と共に道路に落下する。
気付けば似たような雰囲気の男達がすでに幾人も、その場に折り重なって倒れていた。
ただ一人立っているのはこちらに背を向け肩を上下させる人物−なぜか漫画の特殊効果のように身体の周囲にキラキラと星を散らせていた−で、その背格好からしてそれはつい数十分前まで一緒だった今立に違いなかった。

「−今立、くん?」
「…やっちゃったぁ………」

呼び掛けに振り返った今立はとろんとした目でどこか悲しげに呟くと、ゆっくりその場に崩れ落ちる。
−静寂。

「…何やったんやろ…」
「…………あ、終わった?」

後には展開に追い付けないままの平井と傍らの電柱の陰でなんとか嵐をやり過ごした豊本だけが残された。

242 ◆1En86u0G2k:2005/12/19(月) 01:03:39
「…うん、だからスターでもうちぎっては投げちぎっては投げ」
「うわぁ…無茶したなあ。止めた方よかったんと違う?やって明日、」
「だってダチくんキレてたし無敵だしさあ、吹っ飛ばされるのがオチじゃん」
「そらそうやけど。えーと…8人?これ全部やっつけたん?」
「うん。見事1up」
「1upて…」

全員仲良くノックアウトされていた男達を車に轢かれないように道路の端っこに並べる作業を終え、平井が「こいつ重いわー」とうんざりした顔で一番体格のいい男を小突いた。ついでにポケットに入っていた黒い欠片を浄化して消し、一応俺来た意味あったかなあ、とため息を吐いて苦笑する。

「平井くんこれからさらに役立つよ。俺一人じゃダチくん運べないし、」

最近この人丸っこいからね。豊本はそう言って座らせておいた今立を覗き込む。

「…どう?」
「大丈夫じゃないかな、エネルギー使い果たしただけだよきっと」

そらよかった、と平井は言いかけたが、この出来事のせいで明日彼がどれだけ不幸な目に合うのかを想像して、言葉にするのをやめた。
そう、明日はなんたって−日付が変わってすでに今日だが−“今立進杯争奪”ゲーム大会、なのだ。

豊本と平井に両肩を支えられ立ち上がった今立はむにゃむにゃと何か言っているようだった。そのうわ言はどうもレトロゲ−ムのタイトルのような気がしたが、あえて聞かなかったことにして2人は駅へと歩きはじめる。

「不憫な子やなあ」
「ほんとにねえ」


…今立がそのイベントでゲームを楽しめたかどうかは、彼の心情を考慮して割愛する。

243 ◆1En86u0G2k:2005/12/19(月) 01:09:20
以上になります。
「ゲーム大会」は他にバカリズム升野さんや火災報知器小林さん、18KIN大滝さんあたりをメインメンバーに、度々行われているイベントです(内容は本文通り)
以前、自分の名が冠に付いていたのに、ほぼ他の人のゲームを見ているだけで終わった回があったという話を耳にしたので、その辺を参考にしました。
「相手を攻撃する能力」は使えないのですが、スター効果で触れた人が勝手にやられていくのならいいかなあ、と思い。

それでは失礼致しました!

244名無しさん:2005/12/20(火) 01:14:28
マリオキタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━ !!
以前から、エレキの能力かなり面白いのに、作品投下が無くて残念だったところなので、
最高に楽しめました!乙です!!

245名無しさん:2005/12/20(火) 15:59:47
今立さんがあまりに不憫すぎで申し訳ないけどテラワロタ。
乙です!

246 ◆1En86u0G2k:2005/12/21(水) 01:22:09
>>244-245
ありがとうございます!
投下してこようと思ったら本スレにめっちゃかっこいい話が…!
ちょっと尻込みしつつ行ってきまーす

247ジーク ◆Zw4Un748XA:2005/12/21(水) 07:21:37
>>229
本当ですか?!
ちょっと手直ししてから出直します…

248 ◆8zwe.JH0k.:2006/01/09(月) 18:08:38
長井秀和さんの話を書きました。
本スレに投下出来るか分からないので、見てやってください。

249 ◆8zwe.JH0k.:2006/01/09(月) 18:12:31

「いたいた。おい長井、」
今となっては聞き慣れた、鼻にかかったようなその声にピン芸人・長井秀和は口に入れようとした牛丼を寸前で止め、面倒くさそうに振り返った。
「今回も『ビジネス』持ってきたぞ」
「謹んでお断りさせて戴きます」
男が言い終わらないうちに、長井は態とらしいとも取れる態度で深々と頭を下げた。
「オイ待てよ。報酬払ってやってんだろうがよ、いっつも」
牛丼の器を持ち上げ楽屋から出ようとする長井を男は慌てて袖を掴んで制止した。
ドアの前へ回り込んで肩に手を置く。
「やりません。面倒くさいんで」


男が『仕事』を運んでくるのはこれで三回目だ。数日前、うっかり目の前で能力を使ってしまった所為だ。
長井の能力は男にとって利用しない手はないものだった。
いい加減にしてください、と長井は男の手を払い、すたすたと楽屋を出て行く。
男は一瞬困ったような顔つきになるが、廊下へ一歩飛び出し長井の背中に向かって叫んだ。

「じゃあ二倍ならどうだ!?」

長井の足が、接着剤を踏んだかのようにぴたりと止まった。
そして次の瞬間には既に男の目の前まで戻って来ていた。

「…好きだねえ、お金」
「ええ。そりゃあもう」
皮肉混じりの男の言葉を知ってか知らずか、長井は俯いたままあっさりと受け止めた。
金の入った封筒を受け取り、慣れた手つきで中身を確認する。
「…で、今回は?」
「最近黒い破片をあちこちにばらまいてる野郎がいんだよ。うっとーしいからそいつ懲らしめて欲しいんだけど」
「それこそお二人がやれば…、太田さん達だって石持ってるでしょう」
「何で俺が!トロい白の代わりに戦うなんてまっぴら御免だ。お前が石を全部スってくれれば早い話だろうがよ。あとはうちの相方が何とかするから」
理不尽な言葉を投げかけてくる男…爆笑問題の太田光に、長井は今回の仕事がどれだけ面倒くさいかを悟った。

「やっぱりやりません。お金は返しますから…」
「不可。返金は認められねえよ!」
してやったりな表情を浮かべそう言うと太田は廊下の角を曲がりあっという間に走り去ってしまった。

直ぐにでも追いかけようとしたが、長井は片手に持った冷め気味の牛丼にちらりと目をやり、しまった、と呟いた。

250 ◆8zwe.JH0k.:2006/01/09(月) 18:14:21

長井はとある建物の駐車場の屋上に立っていた。
太田の話によれば、この真下の場所によく現れるらしいのだが。
(ったく、俺もお人好しだな)
いっそ金だけ持って逃げてしまおうか、とも考えたが、さすがにそんな真似が出来る訳もなく。
長井は鼻水をずずっ、とすすり赤くなった鼻の頭を擦った。寒風が厳しく吹き付ける中、じっとターゲットが現れるのを待つのは、張り込み中の刑事を思わせる。

「よく言うよお前」
斜め下の方から少し高めの声がした。
小さな体をいつも以上に小さく丸めて、寒さでがたがたと体を震わせているのは、仕事を承諾するともれなく付いてくる、太田の相方でもある田中だった。
思っていることをうっかり声に出してしまったのだろうか。
長井はさっと口元を手で押さえ、ふふっと笑った。


「…おっ、ビンゴ!来ましたよ」
ふと、下を見ると。一人の若手芸人が複数に囲まれているのが見えた。
街中で見かけるような不良の喧嘩とはまるで違う、その場に居る者にしか分からないびしびしとした嫌な空気が伝わってきた。
「俺があいつらから黒い破片を盗って来るんで、田中さんはそれを破壊してくださいね」
「おう、がんばれよ」
「何言ってるんですか。一緒に降りるんですよ」
「は!?馬鹿お前、そんなもんギューンて行ってピューンて戻ってくりゃあ良いじゃねえかよ!」
ジェスチャー付きで叫ぶ田中。その腕を無理矢理掴み、丁度フェンスの途切れている所から片足を宙に出す。
「悪いですね、戻るには階段使うしかないんで」

田中は悲鳴を上げる間もなく、暗闇の中に投げ出された。勿論その手はしっかり長井が握ってくれているのだが。
命綱のないバンジージャンプに、思わず気絶しそうになるも、何とか意識を繋ぐ。対照的に長井は、全身に風を受け何とも気持ちよさそうな顔をしていた。
「今日は良い風吹いてますねえ!」
うるせえ馬鹿!と言いたかったが、風圧で口を開くことも出来なかった。

その間にも、もの凄い早さで地面が近づいてくる。
ぶつかる!
そう思った瞬間、長井の黒いコートが大きく広がった。それは瞬時にコウモリの様に、黒く尖った骨格に薄い皮が張り付いた大きな翼へと変化し、二人の体を浮き上げた。
浮き上げた、と言ってもそれほど高度は高くない。
ぶつかる直前に羽根を地面と水平に広げ、ブレーキを掛けることなく、直角に地面すれすれを猛スピードで飛んでいった。

251 ◆8zwe.JH0k.:2006/01/09(月) 18:16:25

男たちの中で、大きな黒い影が目にも留まらぬ早さで自分たちの目の前を通りすぎたのを確認出来た者は少なかった。

「あ、長井、通り過ぎた!止まれって!」
「やべっ、ブレーキ効かねえ…」
その直後、バキバキと木の枝が折れる音、バケツが吹っ飛ばされる派手な音が響いた。
二人が突っ込んだのは丁度木々が植えられ土の軟らかい場所であり、枯れ葉が衝撃で大量に舞い上がった。
つかの間の低空飛行体験は、少々の打撲と擦り傷と共に終わったのだった。


茂みの中から長井が、頭を押さえながら現れた。
上着やズボンの所々に枝が刺さり、至る所に鍵状のヌスビトハギの実…俗に言う「くっつき虫」がびっしりと張り付いている。
長井は慌ててコートを脱いでバサバサと力一杯はたくが、ウールにしっかりと絡まったさやはなかなか外れようとしない。
「くそっ、俺の一張羅が…」
自慢の服がすっかり雑草まみれになってしまい、長井はがっくりと項垂れた。
「着地はまた失敗か…いってえ…」
茂った草の中から田中がはい出してくる。
「つい調子に乗って…。でもほら、その代わりに」
長井が手をグーにした状態で、田中の目の前に突き出す。
ゆっくりと手を開くと、バラバラと黒ずんだ小さな石が、建物から漏れるライトの明かりを反射し、田中の手に落ちていった。
男たちは「まさか」と呟くと、慌ててポケットの中身を探る。

「あ、石が無い!?」
「俺もだ!」

全員の視線が長井に集まる。
長井は、うっひゃっひゃっ、と小馬鹿にしたように笑いながら、腕を組むと人差し指で頭をとんとんと突いた。
「何時の間にスッたんだ」
と、田中が手の中の石と長井を交互に見ながら尋ねた。
「さっき、こいつらの前を通り過ぎたときに盗ったんです」
翼による低空飛行とスリの能力を兼ね備えた長井の石は、黒琥珀。
黒玉とも呼ばれ、その場にあるどの石よりも深く、濃い黒色をしていた。
「にしても、きったねー石だな。いらね」
手の中に持って最後の濁った石は、空になった空き缶のように後ろに投げられた。慌てて田中がそれを追いかけてキャッチする。

252 ◆8zwe.JH0k.:2006/01/09(月) 18:17:47

パキン、と乾いた音が響くと、田中の手の石から炭が剥がれ落ちるように、黒い欠片が浮き上がった。
それは空気中にさらさらと流れ、ついには消えて無くなった。
それと同時に男たちは目が覚めたようにハッと顔を上げ、元の目の輝きをとり戻したのだ。
黒い欠片の呪縛から解かれ、石に関する記憶を失った男たちは自分が何をしていたのかも覚えていない。
丁度目に入った田中と長井にとりあえずお辞儀をすると、首を傾げながら街のイルミネーションの中へと消えていった。

「おーい、やったじゃねえの!儲け儲け!」
石を一気に大量に手に入れ、テンションの上がった田中は石を手の中でじゃらじゃら転がしながら長井に向き直った。
「…まだですよー」
くっつき虫を丁寧に一つ一つ外しながら、長井が言った。
田中を抱えて飛んだ為に、全員の石を盗む事が出来なかった。
残ったのは、二人。目を細めてその姿を凝視する。
「ん〜…誰、だ…?」
逆光と暗闇で顔が見えないが、明らかに動揺しているのが分かる。片方が隣の男(相方だろうか)にひそひそと耳打ちする。

「なあ、もう逃げようって、長井さんに勝てるわけないだろ」
(ん…?)
微かに聞こえたその声に長井はひどく聞き覚えがあった。
もしかして…。顔を確かめようと一歩踏み出す。
すると、二人の男はぎくっ、と肩をすくめ猛ダッシュで逃走し始めた。
「ちょ、待てこらぁー!」
田中が怒鳴るが、それで止まる人間が居るはずもない。むしろ逆にスピードを上げてしまう位だ。
長井のコートには未だくっつき虫が付いており、羽根を広げられる状態ではない。
「おいちょっと、逃げちゃうよ、逃げちゃう!」
「うーん、任務は失敗と言うことで…」
「そうは行くかっ!」
田中は長井からコートをもぎ取ると、ぷちぷちとくっつき虫を外し始めた。
乱暴に外すと上等な生地がほつれる、と長井が言ってきたが、そんなことは田中にとってどうでも良い事だった。むかついたのでわざと糸が飛び出すようにむしってやった。
あっというまにくっつき虫を全て取り除き、長井にコートを着せる。
「よっしゃ、行け長井―っ!」
「俺は的士じゃないんですよ…」
ブツブツと愚痴りながらも、長井は田中の両脇に腕を差し込み、背中から持ち上げる体勢になった。

253 ◆8zwe.JH0k.:2006/01/09(月) 18:19:25

真剣な顔つきになり、標準を合わせる為に意識を高める。無駄な動きは御免だ。真っ直ぐ、奴らの背中へ。
次の瞬間、二人の体がぶわっと浮いたと同時に、長井は羽根を大きく羽ばたかせ前進した。
地面との距離は、それほど離れていない約二メートル。
冷たい風を顔に受け、逃げる二人組めがけて一直線に向かっていく。

「今だ!」
「え?…ぎゃっ!」
長井は二人組にぶつかる直前に、頭の上を跨ぐようにぐん、と急上昇した。

「低空ミサイル!」
同時に田中を支えていた手をぱっと離す。
二人組は真上から降ってきた田中を避ける余裕もなく。
二人…いや、三人はもつれるように地面に叩きつけられた。

「…1…2…」
地面に降り立った長井が腕時計を見ながらカウントする。
「…3」
三まで数え終わると、ぱりんと黒い欠片がはじけ飛んだ音が小さく響き、田中の下敷きになったまま気絶した二人の手から、浄化された石が転がり落ちた。
石は長井の革靴に当たり、それ以上転がるのを止めた。
「あだだだっ…」
田中が頭を振りながら起きあがる。
「痛えよ…」
もう怒鳴り散らす元気も無いのだろうか。ぽつりと呟くと、ぶつけた頭をゆっくりと撫でた。
それを見て少し反省した長井はスミマセン、と浅く頭を下げたのだった。

「早くどいてあげた方が良いんじゃないすか?」
「え?ああ、そうそう。誰なんだよこいつら…」
哀れ、下敷きになって気絶した二人の顔を覗き込む。
田中は声を上げた。それは、良く見知った顔だった。


「…で、説明して貰おうか?猿橋、樋口」
額に絆創膏を貼り、花壇の縁に座っているのは田中や長井と同じ事務所「タイタン」に属するコンビ、5番6番の猿橋と樋口だった。
自分たちの利益の為だけに悪いことをするような人間では決してないことは、二人を可愛がっていた田中にも分かっていた。
「俺たち、石拾ったのはいいものの…直ぐに黒の奴らに捕まっちゃいまして…」
「操られたくなかったら、黒い欠片どんどん他の奴らに渡せって…」

254 ◆8zwe.JH0k.:2006/01/09(月) 18:20:45

「つーか、大体猿があそこでこけなかったら逃げ切れたんだぞ!」
「なんだとー!」
勝手に喧嘩を始める二人を諭し、やっと理由の分かった田中はふう、と息を吐いた。

「もう大丈夫だって。破片も破壊したし、今度何かあったら俺んとこ逃げてこい」
怒られると思っていたのか、今まで顔を強ばらせていた猿橋も、樋口も、その頼もしい言葉にほっと胸をなで下ろした。

「今度こそ、仕事お終いっと」
長井はコキコキと首を鳴らし、煙草を取り出そうとした。
その時。

〜♪
携帯の着信音が乾いた夜空にけたたましく鳴り響いた。
長井はうざったそうに携帯を開き、耳に当てる。
「はい、もしも…し…、…っ!」
目が開かれ、分かりやすいくらい顔が引きつって行くのが分かった。
長井のそのただごとでは無い様子に、田中たちの間に緊張が走る。

「どうした?」
「……女房です…」
「は?」
錆び付いたロボットのように固まったまま首だけ向け、長井が言った。
「連絡を入れるのをすっかり忘れてた…!」
「…ご愁傷様」

離れていても長井の妻の怒った声が聞こえる。
慌てながら必死に「ごめん」「違うって」「そうじゃない」と弁解する長井に相方の姿を重ねながら、爆笑したい気持ちを抑え、猿橋と樋口と共に祈るように手を合わせるのだった。

5番6番の二人からは石を取らず、浄化された石のみを小さな袋の中に入れる。
この石たちを誰に渡すかは実はまだ考えていない。
同じ事務所なら、そうだ。橋下弁護士にでもあげちまうか?
などと下らない冗談を考えながら、新しい主を求める色とりどりの石を見詰めた。


時刻は、既に午後10時。
長井が妻に怒られるのは、可哀想だがどうやら確実のようだ。

255 ◆8zwe.JH0k.:2006/01/09(月) 18:24:16
長井秀和
石…黒琥珀(黒玉)
能力…黒い服をコウモリのような翼に変え飛行する
   また、相手とすれ違う瞬間に持ち物を一つだけ盗む事ができる。
   飛行は、もの凄く速く飛べるがその分ブレーキや旋回が困難。
条件…黒い服を着ていないといけない。酷い汚れが付いていたりすると飛行できない。

256名無しさん:2006/01/10(火) 17:35:28
乙!おもしろかったです。
長井さんもバクモンもよくキャラが出てるなあと思いました。
本スレ投下OKだと思いますよ。


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