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好きな小説を語るんだよ(*`Д´)ノ

1V3:2015/05/12(火) 09:33:12 ID:GO60ug8o
2014/10/09(木) 20:34:42 ID:a1f1bb1b9
タイトル通り、好きな小説をじゃんじゃんバリバリ語りましょう!

4062うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:27:21 ID:LNssCYN6
ノワルチエは遺言状をつくる、という
公証人は誰を相続人とするのか尋ねる
皆の予想を裏切って、ヴァランチーヌではない、という
ヴィルフォール夫人は「ではエドワールでしょうか」と尋ねるが、激しく拒否される
ヴァランチーヌ(彼女は遺産にはもちろん未練はない)は
「お祖父さまは、わたしがフランツさんと結婚することにお怒りで、それで私に遺産を残さないとおっしゃるのね!」と言う

『そうだ』
公証人の、では財産をどうするのか?という問いに『貧しい人々のために使う』とノワルチエ

公証人が利害関係者たるヴィルフォール氏の考えをたずねると、ヴィルフォールは
「父の考えを私が否定することはありません
父の希望どおりにすればよい
私は自分の良心にしたがって自分の決めた通りに娘の結婚話を進めるだけです」

ノワルチエの望み通りの遺言書がつくられた
ヴァランチーヌがデピネ男爵との結婚を止めないかぎり、遺産は与えない、と

(^^)/ ヴィルフォールは、フランツの父、ケネル将軍殺人事件の犯人をノワルチエだと考えています 物語のはじめのほうでそのような会話をノワルチエとしています
そのとき、ノワルチエは多くを語りませんでした

ノワルチエの部屋を出たヴィルフォール夫妻はモンテ・クリスト伯爵の来訪を告げられる
ヴィルフォールの動揺ぶりをモンテ・クリストは見抜き、何があったのかと尋ねる
老人の気まぐれに振り回され、期待していた遺産を受け取ることもできず、娘が不幸になりそうなのだと答えるヴィルフォール

ノワルチエ氏ですか?
口もお聞きになれぬ状態だと確か伺いましたが?

父は、その目で、なんでも語ることができるのですよ
あの目は人を殺すこともできます

モンテ・クリストの前で夫妻の会話はつづく
モンテ・クリストは一言も聞き漏らすまいとしている

「老人の世迷言や子どもの気まぐれが、私が決定した計画をひるがえすことなどあってはならない デピネ男爵は私の友人だった その子息との縁組は最も望ましいものなのだ」
「ヴァランチーヌはこの結婚に反対でした 
お義父さまとふたりで計画したことだとしても意外には思いませんわ」
「この結婚は必ず実現させる」

モンテ・クリストは、フランツ・デピネのことは知っており好青年なのにノワルチエ氏はなぜそこまで彼を嫌うのか?と尋ねる
夫人は、孫娘を手放したくないだけでしょう、と言う
モンテ・クリストは、政治的な理由があるのでは?と指摘してヴィルフォールをぎょっとさせる
お父上はボナパルト派でしたよね、とモンテ・クリスト
常の慎重さを忘れて、ヴィルフォールは苦々しく自分の父が最も過激な共和主義者であったことを口走る

それならそのことでしょうね、とモンテ・クリスト
フランツ君のお父上ケネル将軍とノワルチエさんは政治的な場で会ったのでしょう
将軍はナポレオンの下で働きはしましたが、腹の下では王党派の心情を持っていたのでは?
将軍を同志にできると考えた連中に招かれて、ボナパルト派の集会へ出たあとに殺されたんでしょう?

ヴィルフォールは恐怖にも似た気持ちを抱いてモンテ・クリストを見つめた
(^^)/ まったくその通りだったのです

4063うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:27:59 ID:LNssCYN6
ノワルチエ・ド・ヴィルフォールのお嬢さんがフランツ・デピネ夫人と名乗るのはすばらしいことですね、
と言うモンテ・クリストの腹の底を読み取ろうとするヴィルフォール
しかし、モンテ・クリストは愛想の良い笑みを浮かべているだけ・・・

しかし、失礼ながら、とモンテ・クリストは言う
「自分が嫌悪する男の息子と結婚するからといってノワルチエ氏がお嬢さんの相続権を奪うのはまあわかるとしても、あの可愛いエドワールはべつに責められるべき落ち度もないように思いますがね」

で、こざいましょう?不自然ほど甲高い声で答える夫人(,,;・∀・)
デピネさんにこの話を伝えて、むしろ先方からお断りいただけるよう・・・

そんなことは許されない!
娘の評判に傷がつくし、私が消そうと思っている昔の噂にまた・・・
伯爵の前で、これ以上家の中のことをお見せするのはよさないか

夫人をみつめながらモンテ・クリストは言う
ご主人の言うとおりですよ
フランツ君はちかく帰国するようですが、私がもし忠告できるほど親しければ
このお話がこわれないようにさっさと決めておしまいなさいと言うのですがね

あきらかにうれしそうなヴィルフォール

フランツ君にしても、お宅のように、約束を守り義務を履行するためにそれほどまでの犠牲も厭わないような家族の一員となることに感激するでしょう、とモンテ・クリスト

モンテ・クリストは週末の夕食会への出席をお忘れなく、と言っていとまを告げようとする
ヴィルフォールの「シャンゼリゼのお宅で?」という質問に
「いえ、オートゥイユの別荘です」と答える

動揺するヴィルフォール
オートゥイユ・・・
ああ、そうでした 妻と息子を馬車の事故から助けていただきました
えっ・・・フォンテーヌ通り?28番地ですと?
そ、それではサン・メランの別荘を買ったのはあなた!

サン・メラン侯爵の持ち物だったのですか
それは知らなかったな、とモンテ・クリスト
オートゥイユの別荘は私は好かなくて・・・とヴィルフォール
だからといって夕食会に欠席なさることはないでしょう?とモンテ・クリスト
いや、もちろん、なるべく参ります、とヴィルフォール

実はこれから“信号機”を見学に行くのですよ、と言いながら
モンテ・クリストはヴィルフォール邸をあとにした

4064うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:28:38 ID:LNssCYN6
(^^)/ 読者は思い出そう、モンテ・クリストの執事ベルトゥチオの告白を
兄の復讐をヴィルフォールに対して行ったベルトゥチオは、
その現場でヴィルフォールが赤ん坊を埋めたのを目撃し、その子を救った
ベネデットと名付けたが、性悪に育ち、行方知れず
そして赤ん坊の母親は一体誰?
(^^)/ そして信号機とは(^^)/
この時代、電信信号はもちろん発達しておらず、一定の距離をおいて建てた信号機を常駐番人が操作し、速報をリレー式におくっていた
https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/51CZxs4UPuL._SX349_BO1,204,203,200_.jpg
この本はキース・ロバーツ『パヴァーヌ』ですが
表紙のイラストに信号機が描かれています
エリザベス1世が暗殺され、スペインによるカトリック支配が行われ、産業革命の無い英国
という史実と違う世界を描いた小説
まあまあ面白かったです(^^)/


“モンレリの塔”と呼ばれる信号機を見に行くモンテ・クリスト
もちろん金持ちの奇妙な趣味で見学に行ったのではない

信号手は庭いじりの好きな平凡な男であった
モンテ・クリストは愛想よく話しかけ、塔内を見学させて欲しいという
ほほう、なるほどこんな仕組みになっているのですな
え?そこをどいてくれないと信号が見えない?望遠鏡で覗かないと?
ねえ、あなた、もっと大きな庭と年金が欲しくありませんか?
私ならそれをあなたに用意してあげられる
え?どいてくれないと罰金を払わなくてはいけない?
その必要はありませんよ
この金をもってあなたはすぐにでも“理想の庭”つきの家へ引っ越せばいいのですよ
そのまえに、ここに書いてある通りの信号を送ってからね

こうしてモンテ・クリストは偽の情報を流すことに成功した

4065うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:29:21 ID:LNssCYN6
信号通信が内務省に届いてすぐ、ドブレはダングラール夫人のもとへ駆けつけた
「ご主人はスペイン公債をおもちですか」
「ええ、600万ほど」
「なりゆきで売ってしまうのです」
「どうしてですの」
「ドン・カルロスがブリュージュを脱出してスペインへ戻ったのです」
夫人は夫のもとへ駆けつけ、ダングラールは仲買人のところへ駆けつけ、
値段に構わず売れと命じた
ダングラールが売りに出たのが知れると、スペイン債はたちまち値を下げた
ダングラールは莫大な損をしたが、債券を全部処分した
夕方ある新聞に記事が載った
「信号通信によると、国王ドン・カルロスはブリュージュの監視の目を逃れ、カタロニア経由でスペインへ帰国 バルセロナは王を支持して蜂起した」
しかし翌日、別紙には
「昨日のドン・カルロスの信号通信は誤報 ドン・カルロスはブリュージュにおり、
スペインは平和そのもの 霧による信号通信の誤読」
債権相場は落ち込み分の倍上昇し、ダングラールの損害はさらに膨らんだことになる

さて、オートゥイユの別荘の夕食会である
ベルトゥチオはモンテ・クリスト伯爵の指示を完璧にこなす
伯爵の言ったとおり、赤い緞子の部屋はさわらずに・・・
(^^)/ ベルトゥチオはヴィルフォールが実は生きていることを知りません

4066うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:29:58 ID:LNssCYN6
招待された人々がつぎつぎとやってくる
マクシミリヤン・モレル
シャトー・ルノー
リュシャン・ドブレ
ダングラール夫人(ドブレに小さな手紙を渡す)
ダングラール(顔色は青い・・・)

召使が告げる
バルトロメオ・カヴァルカンティ少佐殿
アンドレア・カヴァルカンティ男爵様
お着きでございます

ダングラールはモンテ・クリストにたずねる
どういう方たちなのですか?

イタリアの大貴族ですよ
財産を食いつぶすことしか考えていないようですね
あなた宛ての信用状を持っているらしいので、あなたのためになるかと思って招きました
ご紹介しますよ
息子さんのほうはお嫁さん候補をパリで見つけたがっているようですよ

モンテ・クリストはダングラール夫人にたずねる
ご主人の顔色が悪いようですが、なにかありましたかな?

株でもやって失敗したんじゃございません?
誰のせいにしていいのかわからないでしょう

召使
ヴィルフォール様ご夫妻お着きでございます

ヴィルフォールは懸命に動揺を押し隠している
まったく、女だけが心を押し隠す術を心得ている、と笑うモンテ・クリスト

ベルトゥチオがモンテ・クリストに客の人数の確認をしにやってくる
自分の目で数えるがよかろう、と答えるモンテ・クリスト

指示されたとおりに客間を見回すベルトゥチオは驚愕する!
あ、あの女がいる!
あの女とは誰だ?
あの、庭にいた女です、妊娠していた・・・待っていた女です
ベルトゥチオは口をぽかんと開けたまま、ダングラール夫人を見つめていた
誰を待っていたんだね?
ああ、あの人です、あの人は死ななかったので?
ああ、ヴィルフォール検事は生きているぞ
死になどしなかった
さあ、落ち着いて数えるんだ
ヴィルフォール夫妻で2人、ダングラール夫妻で4人、
シャトー・ルノー君、ドブレ君、モレル君で7人、
バルトロメオ・カヴァルカンティ少佐、8人

8人です

待て、よく見ろ
アンドレア・カヴァルカンティ君だ ほら今、振り返った

・・・ベネデット!

ベルトゥチオはよろよろしながらも食事の準備が整ったことを告げる

4067うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:30:34 ID:LNssCYN6
モンテ・クリストはヴィルフォール夫人に腕を与えた
「ヴィルフォールさん、ダングラール夫人のお相手をお願いします」

このオートゥイユの別荘を訪問することに少なからぬ抵抗を覚えた客人たちもいたわけだが、不安よりも、モンテ・クリスト伯爵の豪奢な生活を見てみたいという好奇心のほうが勝ってしまったのだった
晩餐は豪勢なものであった
あらゆる地域からの珍味が信じられない鮮度で供されていた
伯爵に不可能の文字は無い(^.^)

晩餐後に豪華に飾り付けた邸内を客に案内してまわるモンテ・クリスト

執事に言い含めてそのままにしてある“赤い緞子の部屋”
この部屋には本能的に悲劇を感じるので手を入れずそのままにしてある、と説明

ヴィルフォールは黙り込み、ダングラール夫人は長椅子に座り込む

この部屋には庭へと通じる隠し階段があって・・・とモンテ・クリストが説明するに及んで、
とうとうダングラール夫人は半ば気を失った
ヴィルフォール夫人が気付薬を飲ませた
モンテ・クリストは、うまく薬を作れたのですね、と夫人に言う

この騒ぎにダングラールはカヴァルカンティの父親と鉄道敷設計画談義中であった
カネの臭いをかぎつけて( ゚Д゚)

気を取り直したダングラール夫人の手をとって庭を案内しながら、信じないかもしれませんが、私はこの邸で犯罪が行われたと確信している、とモンテ・クリスト
検事さんもおられることだし、説明いたしましょう

検事を庭のとある場所へひっぱっていく
私はここに腐葉土を入れさせようと、掘らせたのですよ
そうしたら
箱、いやむしろ箱の金具ですな
出てきたのです
新生児の骸骨がありました

騒然となる周囲を前に、ヴィルフォールは「犯罪だとは決めつけられないだろう」という
生き埋めにされたと決めつけるわけにはいかないから、と

既に死んでいたというなら庭に埋めるのはおかしい、とモンテ・クリスト
この国では嬰児殺しはどうなりますか?と無邪気にカヴァルカンティ父
そりゃ、ばっさり首を切るだけですよ、とダングラール
そう、私もそう思います、そうですよね?ヴィルフォールさん?とモンテ・クリスト
その通りです、と検事

どうやらコーヒーのことを忘れていたな、私は・・・
みなさんあちらへどうぞ

4068うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:31:08 ID:LNssCYN6
ダングラール夫人にすきをみてささやくヴィルフォール
「話しておかねばならないことがある
あす、検察庁の私の部屋で」
「わかったわ」

4069うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:31:40 ID:LNssCYN6
夜も更けて客人たちは帰り始める
ダングラールはモンテ・クリストがカヴァルカンティ親子を丁重に扱うのを目にして
彼らを、パリの社交界で息子の教育の総仕上げをする大金持ちだと思い込んだ
詐欺親子のほうは、ダングラール銀行から気前よく金が支払われると聞かされているので
愛想良くすることこのうえない
ダングラールは自分の馬車にカヴァルカンティ父を乗せて帰ることにした

息子のほうのアンドレア・カヴァルカンティがひとりで馬車に乗り込もうとしたとき、
みずぼらしい男が近づいてくる
よう!ベネデット、けっこうなご身分だな・・・男はカドルッスだった

4070うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:32:14 ID:LNssCYN6
ダングラール夫妻は帰宅後、派手に夫婦喧嘩をした
そもそもこの夫婦間に愛情はなく、カネだけが二人の間をつないでいた
夫人が浮気をしようが、夫を陰でバカにしようが、ダングラールには何ほどの事でもなかった
彼にとって唯一我慢のならないことそれは、自分のカネが減ること、だった
モンテ・クリストの信号機操作のおかげで、莫大な損をしたダングラールは、夫人の愛人である大臣秘書のドブレが現政府の指導のもとダングララールを陥れたのではないかとすら疑っていた

お前のことに口出ししたことはない
お前もそうしろ
お前は自分の金庫だけでやってくれ
私は他の亭主どもとはちがうぞ
ちゃんと見た、いつだって見てきた
ただのひとつの過ちも私の目から隠すことはできないのだぞ
ヴィルフォールさんからドブレさんまでな
お前が私をおぞましい男とするのはいい
が、笑いものにするのは許さん
私を破産させること、これは特に許さん!!

ヴィルフォールさんですって?それはどういう意味なの?

最初の夫のナルゴンヌ氏は、9か月間家を留守にして帰ってきたらお前は妊娠6か月だった 
相手が検事ではどうしよもなく、苦悩と怒りで死んじまった
なぜ検事を殺さず、自分だけが死んだのか
それはナルゴンヌ氏には守るべき金庫が無かったからだよ
ドブレさんは情報源として役に立たないなら価値はない

ダングラール夫人は夫の前で失神してみることを試みるが、できなかった(´・ω・`)
なによりもまず、気がついたら夫はもう目の前にいなかった・・・

4071うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:32:50 ID:LNssCYN6
この夫婦喧嘩の翌日、ダングラールはシャンゼリゼのモンテ・クリスト伯爵邸を訪ねる
イタリア貴族カヴァルカンティ親子の情報を得るためであった

スペイン債で損をしたと聞きましたが、と尋ねるモンテ・クリストに
ここのところちょっと不運が続いていると愚痴るダングラール
もう4回ほどスペイン債の損害のようなことがあればお終いですね、とモンテ・クリストにからかわれる
カヴァルカンティ親子の財産のことを教えて欲しいと言うダングラールに、モンテ・クリストはあの人のことはよくは知らない、友人のブゾニ司祭からそれとなく聞いた話だけしか知らないと言う

大した財産は持っていないという人もあれば、何百万も持っているという人もありますな

あなたご自身の意見は?とダングラール

私の意見では・・・ああいう古い貴族というのは長子にだけ代々伝えられる財産みたいなのがよくありますからな
でも会ったのは3回ほどなんですよ
ブゾニ司祭のほのめかしでは数百万の財産を資本にしたがってるとか聞きましたが・・・
まあ、当てになさらないでくださいよ
私は責任を負いませんからね

そんなこと問題ではありませんよ
よいお得意さんを紹介していただきました
ところでああいった人たちはご子息を結婚させるのに持参金を持たせるのですかな?

それは場合によりけりでしょう
ははあ、あなたはアンドレアに嫁を世話したいのですな
まさかご自分のお嬢さんではありませんよね
アルベール君がフィアンセでしょう?

4072うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:33:34 ID:LNssCYN6
まあ、たしかに、彼のことは考えてはいますけどもね・・・
つまり、モルセール氏との間では何回か話したことはありますが
モルセール夫人とアルベールは・・・
ところでなぜ、夕食にモルセール家の人々を招待なさらなかったのですか?

ああ、先方から断られたのですよ
モルセール夫人が海の空気を吸うように医者から言われたとかで

海の空気ね・・・そうそう、たしかにあの人の身体にはいいでしょうよ

どうしてです?

あの人は若いころ、海の空気を吸っていたからです

(ダングラールの皮肉にはモンテ・クリストは気が付かないふりをする)
ま、とにかく、お嬢さんほど金持ちではないにしても、アルベールには立派な家名があるではありませんか

たしかに
ですが、私の家名だって私には可愛いですからね

それはそうでしょうが
あなたも頭の良い方だからおわかりになるでしょう
5世紀末から続いている古い貴族のほうが評価されることは・・・

(せせら笑いながらダングラールは言う)
だからこそ、アルベール・ド・モルセール氏よりもアンドレア・カヴァルカンティ氏のほうを選ぶのですよ

モルセール家はカヴァルカンティ家にひけはとらぬと思いますが

ところが彼の名はモルセールではない
私の場合は私を男爵にした人がいる
ところが彼は、勝手に伯爵になってしまったのですよ

まさか!

いいですか、伯爵
モルセールは30年来の知己です
私がただの店員だったころ、モルセールはただの漁師でした

その頃の名前は?

フェルナン・モンデゴですよ

確かですか?

当たり前ですよ
しょっちゅう彼から魚を買ったんだ

それならなぜ、あの家にお嬢さんをやろうとしたんです?

それは、モルセールもダングラールも成り上がりだからですよ
2人とも貴族になり、2人とも金持ちになった
つり合いが取れている
ただひとつ、彼については人が噂し、私については噂しないことがある

いったい何なのです?

いや、なんでもありません

ああ、わかりましたよ
フェルナン・モンデゴという名で思い出したことがあります
その男のことをギリシャで聞きました

アリ・パシャの件で?

その通り

あれが臭いんですよ
わたしも真相を知ろうといろいろやってみたんですがね

どうしてもお知りになりたいのなら簡単ですよ
ギリシャに取引先をお持ちだと思いますが

もちろん

ヤニナにも?

ええ

それではヤニナの取引先に手紙を書くんですな
アリ=テペレンの悲惨な末路にフェルナンというフランス人がとう関わったのか
問い合わせてごらんなさい

なるほど!
今日さっそく書きますよ

で、もし醜悪な内容の返事を受け取られたら・・・

お伝えしますよ

ダングラールは飛ぶように帰って行った

4073うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:34:17 ID:LNssCYN6
裁判所にヴィルフォール検事を訪ねるエルミーヌ・ダングラール夫人
ふたりきりで話すのはずいぶんとひさしぶりである
ヴィルフォールは亡き妻ルネ・ド・サン・メラン侯爵令嬢との婚約発表の場で
ナルゴンヌ氏の妻であったエルミーヌと出会った模様である

昨日のモンテ・クリスト伯爵の夕食会ではずいぶんと罰せられましたわ

ヴィルフォールは夫人の手を握りながら言う
気の毒に・・・
でもそれ以上に打ちのめされることがあるのです・・・
モンテ・クリスト氏は、あの木の下を掘ったところで、
子供の骨も、箱の金具もみつけたはずはない
なぜなら、あの木の下には、そのどちらもありはしなかったはずだから

なんですって?でも、あの子をあそこへ埋めたのではなかったの?
わたくしを騙したの?

この20年間私が背負ってきた重荷を、いま話そう
私たちは赤ん坊が死んでいると思った
私は箱にその子を入れ、庭に穴を掘り、埋めた
私が土をかけ終えたそのとき、あのコルシカ人の男に襲われた
決闘の傷だと偽って、私は三ケ月間、死と戦った
どうにか命をとりとめ、さらに半年間マルセイユで療養した
その間に、ナルゴンヌ氏の未亡人であるあなたはダングラール氏と結婚したね
私はパリへ戻るが早いか、あのオートゥイユの家に残された私たちの痕跡を一切隠さなくてはと思った
あのコルシカ人は、私が庭に埋めるところを見たかもしれないと思った
だから庭を掘り返してみたんだよ
でも、いくら掘り返しても見つからなかったのだ・・・

なんですって・・・?

一瞬、気が狂ってしまえばいいと思った・・・
私はなぜあの男が死骸を持ち帰ったのだろうと考えた
もしも我々を脅すためならば、当局へ持ち込むだろう

・・・どういうことなの?

もっと致命的な、さらに恐れねばならぬなにかがある
たぶん、あの子は生きているのだ
あの人殺しが、あの子を救ったのだ

ダングラール夫人が凄まじい叫び声をあげた

誰かが私たちの秘密を知っているのだ
モンテ・クリストは私たちの前で、あの子がもはや埋まってはいなかった場所からあの子を掘り出したと言ったのだから、この秘密を知っているのは、それはあの男だ

正義の神様の復讐だわ・・・
夫人はつぶやいた
あの子は?あの子の行方は?

あの夜、育児院にひとりの赤ん坊が預けられたらしい
男爵冠半分とHの文字のついた布にくるまれて

まちがいないわ、私の名、エルミーヌ(Hは発音しない)・ナルゴンヌの頭文字よ!
ああ、坊やは生きていたのね!

だが、私が育児院へ行った半年ほど前に、ひとりの女が布の半分を持って、子供を引き取りに来たらしい
その後の行方はわからない
だが、私はもう一度捜査を再開するつもりだ
私を駆り立てるものはもはや良心ではない、恐怖だ

でもモンテ・クリスト伯爵はなにもご存知ないのでは?
知っているならあんなふうに私たちに交際を求めるかしら

いや、人間の悪意というものはきわめて底の深いものだ
われわれに話をするときのあの男の目に気づいたか?

たしかに不思議な目だけれど
れよりも私がおかしいと思ったのは、あの素晴らしいご馳走に、あの人がまったく手をつけなかったことよ

あの男には何かたくらみがある
一週間以内にモンテ・クリスト氏の正体をつきとめてみせる
彼がどこから来たか、これからどこへ行くのか、なぜ我々の前で庭から赤ん坊が掘り出されたなどと言ったのか

4074うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:34:52 ID:LNssCYN6
ヴィルフォールとダングラール夫人が話し合っていたその同じ日、
モルセール夫人(メルセデス)と息子のアルベールは保養先の海辺から帰って来た

アルベールはさっそくモンテ・クリスト邸を訪問し、自分と母親抜きで行われた夕食会の模様をモンテ・クリストにたずねる
ウジェニー・ダングラール嬢との結婚話が不発終わるような手助けをしてくれたか、と無邪気にたずねるアルベールにモンテ・クリストは素っ気ない

思いがけない展開はあったかもしれない
ダングラールさんがアンドレア・カヴァルカンティ君と食事を共にして・・・

ああ、あのイタリアの貴公子ですか
(貴公子とは大げさですな・・・と言葉を濁すモンテ・クリスト)
(^^)/ モンテ・クリストはダングラールに対しても
「カヴァルカンティを自分は積極的に推すわけではない」という態度をことあるごとににじませています(^^)/

アルベールは自分の母親が理想の女性であることを熱心に語る
ウジェニー嬢にはまったく魅力を感じないと・・・

あ、そうそう、フランツがもうすぐ帰国しますよ
ヴィルフォールさんに呼ばれてね
ダングラールさんがウジェニー嬢を僕に嫁がせるのと同じくらい熱心ですよ
ヴィルフォールさんはヴァランチーヌ嬢をフランツに嫁がせようとしています
彼はまじめですからね
ヴィルフォール家に対して敬意を抱いていますから

モンテ・クリストはダングラール嬢との結婚を嫌がるアルベールに言う
君はほんとうにうぬぼれ屋さんですね
ほっといても、ダングラール嬢との結婚の約束を引っ込めるのは、たぶんあなたのほうじゃありませんよ

えっ!
アルベールは目をむく

4075うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:35:26 ID:LNssCYN6
ダングラール氏はね、別の男に惚れこんじまったのですよ

いったい誰に?

私は知らない
よく見、よく考え、なにか暗示が目についたら、すかさずとらえて活用することですね

わかりました
ところで、母が、じゃなくて父がこの土曜日に舞踏会を開くつもりでいます
それから、カヴァルカンティ父子への招待を引き受けてくださいますか

カヴァルカンティの父親のほうはもうパリを発っているでしょう

ご子息は残っておられるでしょう?
ご子息を連れてくるのを引き受けてくださいませんか

いいですか、私は彼のことをよく知らないんですよ

あなたがご存知ない?

3,4日前に初めて会っただけです
彼のことは保証できませんよ

でもあなたはあの人をお招きになったじゃありませんか

私の場合は違います
ある立派な僧侶が私に紹介してきたのです
彼のめがね違いかもしれません
直接ご招待しなさい
彼がダングラール嬢と結婚するようなことになると、あなたは私のやり口を咎めるでしょうからね
そして、私と決闘なんてことになるかもしれません
それに私自身、行けるかどうかわかりません

なぜ来てくださらないんですか?

まだお招きを受けていないからですよ

ぼくはわざわざ自分でお招きにきたんですよ

ああ、それはどうも御親切に
しかし、さしつかえがあるかもしれません

母がお願いしているんです

モルセール夫人がですか(ぎくっとする)

土曜日には来てくださいますね
母とぜひお話しなさってください
母がこんなふうに興味を示したのはあなたが初めてです

夫人がお望みならば、わかりました
ダングラールさんは?

お招きしました
ヴィルフォールさんもお招きしたいのですが、どうもこれは絶望的です

怒ってらっしゃいませんか?
私はダングラールさんのことなど話すべきではなかったですね

とんでもない、いくらでも聞かせてください

ところでフランツ君はいつ着くのですか?

5,6日後くらいです
サン・メラン侯爵夫妻が着き次第、結婚式でしょう

デピネ君がパリに着いたら、ぜひ連れてきてください

モンテ・クリスト伯爵はアルベールを見送る
後ろにはベルトゥチオが控えていた

どうだった?

夫人は裁判所にいらっしゃいました
1時間半ほどいてから家に帰りました

それではベルトゥチオ、ノルマンディーへささやかな土地を探しに行ってもらおうか

4076うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:35:59 ID:LNssCYN6
ヴィルフォールはモンテ・クリスト伯爵がどのようにしてオートゥイユの事件を知ったのか調査を始めた
もと刑務監査官でいまや治安当局上部に昇進したボヴィルという男の報告によると
「モンテ・クリスト伯爵と呼ばれている人物はウィルモア卿ととくに親しく、
ウィルモア卿は裕福な外国人であり、時折パリに現れ、現在パリ滞在中である
モンテ・クリスト伯爵はまた同時に、
シチリアの僧ブゾニともとくに親交がある
ブゾニ氏は中近東方面で数多くの善行をほどこし、かの地では高名な僧である」

ヴィルフォールはブゾニ司祭とウィルモア卿のパリでの居所を調べさせ、直接訪問する

4077うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:36:37 ID:LNssCYN6
ブゾニ司祭 vs ヴィルフォール

あなたはモンテ・クリスト伯爵をご存知でしょうか

ザッコーネ氏のことを話しておられるのかな?

ザッコーネ!ではモンテ・クリストという名ではないのですか

モンテ・クリストというのは土地の名、岩礁の名で、苗字ではない

ではザッコーネ氏についてお伺いしますが、その方をよくご存知で?

存じている

どのような人物ですか?

マルタの大きな船造りの倅でな

その噂は知っておりますが、当局としては噂だけで満足するわけにはいきません

しかし、その噂が真実ならばそれに満足するしかなかろう

お言葉に確信がおありで?

私はザッコーネの父親を存じている

は、はあ

幼い頃、その息子とよく遊んだものだ

しかし、伯爵のあの称号は?

そんなものは金で買うことができる

あの人物に友達はいますか?

あの男は知り合いになった者はすべて友達と思っている

しかし、敵もいるでしょう?

一人だけいる

その人の名は?

ウィルモア卿だ

その方からもお話しはうかがえるでしょうね?

あの人はザッコーネと時をおなじくしてインドにおったから、重要なことをな

あなたはそのウィルモア卿と仲がよくないのですか?

私はザッコーネが好きだし、あの男が嫌うので、そのため疎遠になっている

モンテ・クリスト伯爵は今回パリへ来た以前にも、フランスへ来たとことがありますか?

いや、一度も来たことはないな 
半年前私のところへ色々教えて欲しいといってきたほどだから
でも私はいつまたパリへ戻れるかわからないので、バルトロメオ・カヴァルカンティ氏を差し向けた

よくわかりました
では最後に、名誉と人類愛と信仰の名において率直にお答えください
モンテ・クリスト伯爵はどういう目的でオートゥイユの家を買ったのですか

よく知っている
あの男は私に話したからな
ビザン男爵がパレルモに創設したような精神病院にするためだよ
評判は聞いておられるかな?
すばらしい施設だ

ヴィルフォールは自宅へ戻り、1時間後ウィルモア卿のもとへ向かう
ヴィルフォールはあらかじめ手紙で面会を求めていた
それに対しウィルモア卿は10時に会う約束を与えていた
ヴィルフォールが10時10分前にウィルモア卿の家に着いたとき、卿はまだ帰宅していなかったが、時計が10時を打てば必ず帰るという
時計が10時を打った

4078うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:37:09 ID:LNssCYN6
ウィルモア卿 vs ヴィルフォール

ウィルモア卿は赤茶けた顎鬚に白髪のまじった金髪
イギリス風の服装
(モンテ・クリスト伯爵は黒髪でした(^.^) )

ウィルモア卿の話
モンテ・クリストは若い頃、当時英国と戦っていたインド土候の軍隊に身を投じた
ウィルモアが彼に出会ったのはかの地で、ふたりは戦った
ザッコーネは捕虜となりイギリスへ送られ、牢獄として使用された廃船に乗せられたが、泳いで脱出した
ギリシャの反乱が起こり、彼はギリシャ人側についた
その際に銀鉱を発見した
これが彼の財の源である
フランスに来た理由は鉄道で一儲けするためである
彼は有能な化学者であると同時に物理学者でもあるので、新しい信号装置を開発し、その実用化をはかっている

一年にどのくらいの金を使う男でしょうか?

せいぜい5,60万フランでしょう けちな男ですよ

彼のオートゥイユの家について何かご存知でしょうか?

ええ、もちろん
あの男は夢みたいなことをいろいろやってみては破産するタイプの投資家です
ドイツにあるような温泉宿にするつもりなんですよ
湯脈を掘り当てようと庭中掘りまくってます
そのうち周囲の家も買いまくるのでしょうよ
わたしはあの男を憎んでますから、あいつの破産がみたくて後を付け回してます

なぜあの男を憎んでおいでなのですか?

あの男が私の友人の細君を誘惑したからです
あの男とは3回も決闘しましたな
今も私は射撃の練習を欠かしておりません

ヴィルフォールが帰ったあと、ウィルモア卿は寝室へ入った
出てきた姿は、黒髪と艶のない肌のモンテ・クリスト伯爵であった

ヴィルフォール検事はこのふたつの訪問でやや安心した
安心材料があったわけでもないが、さりとて不安になる材料もなかったのである

4079うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:37:51 ID:LNssCYN6
土曜日がやってきた
モルセール伯爵邸の舞踏会の日である
ダングラール夫人はひどく不安に感じていたので、欠席しようかと思い始めていたが、途中ヴィルフォール検事の馬車とすれ違い、検事から出席するように言われる

舞踏会はメルセデスの趣味の良さが発揮されて素晴らしく趣向がこらされている
ダングラール氏
ダングラール夫人
ウジェニー・ダングラール嬢
ヴィルフォール夫人
ヴァランチーヌ・ヴィルフォール嬢
マクシミリヤン・モレル
アンドレア・カヴァルカンティ

アルベールはモンテ・クリスト伯爵を迎える
ダングラール氏がモンテ・クリストに挨拶に来る
モンテ・クリストはドイツのとある富豪の信用不安について教える
ダングラール氏は青くなりながらもアンドレア・カヴァルカンティに媚を売りに向かう

メルセデスはモンテ・クリストの様子を観察している
アルベール、伯爵様は何も召し上がらないことに気づいた?
伯爵は小食なんですよ
好き嫌いがおありなのかしら?
さあ、でもローマでお会いしたときはなんでも食べてましたよ
アルベール、あの方に何かおすすめしてみてちょうだい

アルベールは伯爵にアイスクリームをすすめた
伯爵は頑固に辞退した

4080うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:38:55 ID:LNssCYN6
庭での夜食の用意ができて、招待客は誘導される
メルセデスはモンテ・クリストに言う
伯爵さま、腕をお貸しくださいませんこと?
ふたりはそのまま腕を組んで庭の奥の方へ散歩に出る
メルセデスは温室へと案内し、マスカットをひと房摘んで伯爵へ差し出す
奥さん、申し訳ないのですが、私はマスカットは食べません
ため息をつきながら、メルセデスは次に桃を差し出す
伯爵は断る
アラビアには同じ屋根の下でパンと塩を分ちあう者は永遠の友となる、と言いますわね
ここはアラビアではありませんし、フランスにはパンと塩を分かち合うことも、永遠の友もありません
私たちはお友達ですわね、とメルセデスは詰め寄る
もちろん、どうしてそうでないわけがありましょう、と答える伯爵
しかしその口調はメルセデスが期待していたものとはまるでちがう

伯爵様はほうぼうを旅して、苦労もなさったと伺いましたけど
ひどい苦労をいたしました、たしかに
今はお幸せですのね?
私の今の幸せは過去の苦しみと同等のものです
伯爵様、ご家族は?
誰一人おりません
この世につなぎとめるものがなくて、どうして生きていけますの?

奥さん、私のせいではありません
マルタに愛する女性がおりましたが、戦争がつむじ風のようにそのひとを奪ってしまいました
私はその娘がわたしを待っていてくれると思っていましたが、私が帰ってみると、娘は結婚していました
よくある話でしょうが、私はおそらく他の男よりも心が弱いのでしょう
ひどく苦しみました
それだけの話です

わかりました
今でもその女性への愛情が残っておりますのね
その方にはお会いになりましたの?

いいえ、一度も
その人のいる国にはその後一度も戻りませんでした

その方があなたを苦しめたのをお許しになりましたの?

その人のことは許しています

あなたをその方から引き離した人たちのことは今でも憎んでおいでなのですね

夫人はモンテ・クリストの正面に立つ
その手にはまだマスカットの残り房がある

召し上がってください

奥さん、わたしは決してマスカットは口にしません

メルセデスは絶望的な身振りでその房を茂みへ投げ捨てた

そのときアルベールが駆け足でやってきた

4081うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:39:32 ID:LNssCYN6
たいへんです
いまヴィルフォールさんが夫人とお嬢さんを迎えに来られました
サン・メラン侯爵夫人がたった今パリへお着きになったのですが、
侯爵がマルセイユを発って最初の宿で亡くなったというのです

屋敷へと歩き出したメルセデスは立ち止まり戻って来た
アルベールの手とモンテ・クリストの手を重ね合わせて言った
私たちはお友達ですわね

モンテ・クリストは答えた
あなたのお友達だなどと、そんな大それたことは私は求めません
ですが、どんな場合にも、私はあなたの従順な僕(しもべ)です
__
ヴィルフォールはモルセール邸での舞踏会へも行かず、書斎にこもっていた
過去の記録を念入りに調べなおしたが、オートゥイユの事件を利用して復讐を図る者にはたどりつかない

サン・メラン侯爵夫人が倒れ込むようにやってきて、夫侯爵の死を告げる
まったく突然のことで、医者が言うには脳溢血らしいと

ヴィルフォール家の悲劇は続きます( ゚Д゚)

4082うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:40:04 ID:LNssCYN6
ヴァランチーヌは祖母である侯爵夫人に付き添っていたが、ノワルチエのもとへ呼ばれる
侯爵夫人は疲れたためか眠りにおちていた
ノワルチエは『お前には私がついているから大丈夫だ』と目で訴える

ヴァランチーヌが侯爵夫人のもとへ戻ると、夫人は父ヴィルフォールを呼べという
ヴィルフォールがやってきた

ヴァランチーヌのお婿さんはフランツ・デビネさんというのですね
私たちの味方だったデピネ将軍のご子息ですね
簒奪者(ナポレオン)がエルバ島から帰った数日前に殺されなさった・・・

そのとおりです

ノワルチエさんの孫娘との結婚がその方の気に障ることはないのですね

もう昔の敵意など消えてしまいましたよ、幸いなことに
私の知る限り、もっとも優秀な男の一人です

それでは、結婚を急がねばなりません
私はもうそんなに長くは生きていられないから

おばあさま!

この子には母がいないのですから、結婚には祖母が祝ってやらねばなりません
わが娘ルネの代わりにわたくしが!

おばあさま、おじいさまがお亡くなりになったばかりなのにお式をすることをお望みなんですの?

そんな月並みなことはどうでもいいの
私は死ぬまでに婿の顔を見ておきたいの
私の孫を幸せにするように命じておきたいの
昨夜の私の眠りはひどいものでした
いまヴィルフォールさんが立っているその場所に、あなたの奥さんの化粧室に通じるあのドアから白いものがはいってくるのを私は見たのよ!
そこにあるコップが動く音を聞いたの
あれは主人の魂です
私を呼びに来たのよ
デピネさんがお着きになったらすぐ知らせなさい
そして公証人を呼んでちょうだい
私たちの財産が確かにこの子へいくようにしなくては
喉がかわいたわ
そのコップのオレンジエードを飲ませておくれ

ヴァランチーヌは、夫人が動く音を聞いたというそのコップを気味が悪そうに渡した
夫人は一気に飲み干した

ヴァランチーヌは夫人にマクシミリヤン・モレルとのことを打ち明けようと思ったが、この誇り高い貴族の女性に許されるとはとても思えない

4083うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:40:33 ID:LNssCYN6
公証人がやってきて夫人の部屋へ入った

そしてダブリニー医師がやってきた
ヴァランチーヌはサン・メラン侯爵が亡くなり、侯爵夫人は寝込んでいるので診て欲しいと説明する
ダブリニー医師はサン・メラン侯爵夫人が幻覚を見ていると聞き、不審に思う
そのような気の弱い女性ではないのに・・・

ヴァランチーヌは、庭へ出て、例の場所へと向かう
マクシミリヤン・モレルがすでにいた
ヴァランチーヌは、祖母がフランツとの結婚に賛成し、挙式を急がせていると話す
マクシミリヤンはヴァランチーヌに駆け落ちを迫る
(^^)/ 愁嘆場がつづきますが、はっきりいってどうでもいいので省略(^^)/

ヴァランチーヌは、夜、闇に紛れてマクシミリヤンと落ち合うことを承諾する
ふたりが駆け落ちを決めたその翌々日、マクシミリヤンはヴァランチーヌから手紙を受け取る
今夜9時に結婚の契約が交わされるという
祖母の容態が悪くなってきたとも

駆け落ちは今夜と決まった

マクシミリヤン・モレルはモンテ・クリスト伯爵邸へ行く
フランツ・デビネが結婚の報告をモンテ・クリスト伯爵に告げにきたという
マクシミリヤンは伯爵にすべてを打ち明けたくなったが、我慢していた

4084うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:41:08 ID:LNssCYN6
夜になり、マクシミリヤンは馬車を用意してヴァランチーヌを待つ
しかし、9時を過ぎても彼女は現れない
ついに彼は屋敷内へと忍び込み、屋敷の異様な静けさに不安になる
正面階段に男がふたり現れ、マクシミリヤンは会話を立ち聞きする

男はヴィルフォール氏とダブリニー医師だった

なんと、なんと恐ろしい死に方だ!

ヴィルフォール君、君を慰めるためにここへ呼んだのではない 
その逆だ
侯爵夫人は確かに高齢ではあったが、健康状態はすこぶる良かった

悲しみのあまりに死んだんだよ
40年も侯爵と一緒だったのだから

夫人のあの症状は、植物性の毒物だよ
おそらく多量のブルシンかストリキニーネ・・・

そんなばかな!

夫人が死んで利益を得る者は?

ヴァランチーヌだけが遺産相続人だが・・・そんなことをちらりとでも考えたら
私は自分の心臓に短刀を突き刺すよ

例えば老僕のバロワは?
ノワルチエの水薬を夫人に与えたとか・・・
ブルシンをノワルチエの治療に私は三か月前から用いている

バロワは夫人の部屋に入ったことなどない
君の言葉はいつだって信頼しているけれども、けれども・・・

もうひとり信頼できる医者を呼んで、解剖させてくれないか?

ああ、なんということを言うのだ、ダブリニー
君以外の者に知られれば、捜査の対象となってしまう
この私の家に捜査が入るなどと!
そんなことはあってはならない!
君は私に何も言わなかった
そうしてくれ、お願いだ・・・

ダブリニーはしかたなく、ヴィルフォールの頼みを受け入れる

ふたりを見送ったマクシミリヤン
ある部屋のバルコニーに愛しいひとの姿を見つけ、邸内へ忍び込む
ヴァランチーヌから聞いていた邸内の様子を思い浮かべ、彼女がいる部屋へ

侯爵夫人の亡骸の横たわる部屋で、ヴァランチーヌは驚きもせず彼を迎えた
フランツ・デビネが来る前に夫人は息を引き取ったので、結婚契約はまだ交わされていなかった
ヴァランチーヌは彼女の唯一の味方ノワルチエのもとへマクシミリヤンを連れて行く

4085うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:41:42 ID:LNssCYN6
おばあ様が亡くなったいま、ノワルチエお祖父さまだけが私の味方だと言って、マクシミリヤンを紹介する

わたしはこの方を愛しています
この方以外のものにはなりません
もしどうしても他の人のもとへ嫁ぐよういわれたら自殺してしまいます

辞書とペンと紙を使って、マクシミリヤンはノワルチエと会話する
ヴァランチーヌをさらっていって結婚するつもりであること
いずれヴィルフォール氏が許してくれるのではないかと

ノワルチエの返事は『それはならぬ』だった

では、フランツ・デビネ君のもとへ行きます
そして彼と決闘する

ノワルチエの返事は『それもならぬ』だった

ではどうすればよいのですか!

ノワルチエの返事は『わたしが』だった
ノワルチエは成功することに確信があり、責任を持つ、というのだった

僕たちは待つしかないのですか?
『そうだ』
結婚の契約書はどうなるのですか?
微笑み・・・
署名は行われないとおっしゃるのですか?
『行われない』

マクシミリヤンは老僕バロワに案内されてヴィルフォール邸をあとにした

4086うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:42:19 ID:LNssCYN6
サン・メラン侯爵夫妻の葬式が行われる
参列者のアルベール、ボーシャン(新聞記者)、シャトー・ルノーは口々に夫人までが亡くなったことを不思議がる
フランツ・デビネはヴィルフォール家の一員と同じように扱われて、参列していた
参列者の中にマクシミリヤン・モレルがいた
アルベールはフランツを紹介する
マクシミリヤンは心のうちをなにひとつ悟られないよう努力し、挨拶を交わした

葬式を終え、ヴィルフォールはフランツと話し合う
侯爵夫人のいまわの際の言葉はヴァランチーヌの結婚を滞りなく行うことであり、夫人の遺産はすべてヴァランチーヌが相続することになっている、ついては今日にでも結婚契約を交わしたい、と

フランツは喪中であることでヴァランチーヌの心中を思いやっていたが、父親のヴィルフォールが万事支障ないというので、それではそのように、と回答する
ただし、署名時の証人としてアルベールとシャトー・ルノーに同席してもらいたいと言い、ヴィルフォールは了承する
その2人が来るのを待って、署名することと決定された

ヴィルフォールは家人たちに30分後に署名すると告げる
ヴィルフォール夫人はエドワールを抱いて青ざめた様子である
ヴァランチーヌはノワルチエの老僕バロワに絶望的な眼差しをおくった

4087うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:42:53 ID:LNssCYN6
フランツ、アルベール、シャトー・ルノー、および公証人がやってきた

公証人はフランツに説明する
ノワルチエの遺言状では、ヴァランチーヌがフランツと結婚すると財産を相続できないとされている

ヴィルフォールは
父の遺言に異議をとなえるものはこの家にはいない
他の誰との結婚でもノワルチエは気に入らない
ヴァランチーヌを手放したくないのだから、という

フランツは
ヴァランチーヌの財産について調べたことはない
自分が望んでいるのはただ幸せだけである、と述べる

そのとき、老僕のバロワがやってきてノワルチエがフランツに会いたがっていると告げる

ヴィルフォールはぎくっとした
ヴィルフォール夫人は膝からエドワールを滑り落とした
ヴァランチーヌは真っ青だった
公証人はヴィルフォールのほうを見た

そんなわけにはいかぬ、とヴィルフォール
いますぐ、とのことでございます、とバロワ

4088うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:43:31 ID:LNssCYN6
フランツはいった
ノワルチエさんがお呼びになったのはこの僕なのですから、誰よりも僕がお望みのとおりにしなくてはならないと思います
この機会に敬意を表することができれば幸せに思います

いや、それにはおよびませんよ、と慌てるヴィルフォール

フランツは毅然としていう
ノワルチエさんが僕に対して抱いておられる嫌悪が、どれほど誤ったものであるかということを証明できる機会を逃したくありません
__
ヴィルフォール、ヴァランチーヌ、フランツの3人はノワルチエの部屋を訪れる
ノワルチエは老僕バロワに指示して、手紙のようなものをフランツに渡し、読むように伝える

「1815年2月5日開催 サン=ジャック通りのボナパルト派クラブにおける議事要録」

フランツは読むのをやめた
1815年2月5日!父が殺された日だ!
このクラブを出てから父は行方不明になったんだ!

要録にかかれたいきさつ

エルバ島のナポレオンより、ケネル将軍(フランツの父)はナポレオン政権に対する献身的忠誠を抱いていると思われることからボナパルト派クラブに迎え入れよとの指示があった
ケネル将軍のもとへクラブから出席要請状が送られた
会合の場所は知らされず、道中目隠しをされること、永久に会合場所を知ろうとしないことを名誉にかけて誓うように要請された
ケネル将軍は要請を受諾した
決して強要されたものでなはなく、将軍の意志であったことを明確に記しておく
クラブの会長は将軍に、ナポレオン派を支持するのか確認する
エルバ島の思惑と違い、将軍はあくまで王党派であった
国王陛下を裏切ることなど絶対にできない、と将軍は述べる
会長は言う
では、我々のクラブについて絶対に他言しないことを名誉に誓っていただこうか
謀反の企みを見過ごせというのか!それを紳士の行動だと言うのか!
できないならば生きては帰さぬ、と言わんばかりの雰囲気に、将軍は我が子のことを考え、しぶしぶ誓う
帰り道、目隠しされながら馬車の中で将軍は、同乗していた会長を思わずののしってしまう
会長は侮辱された、と受け止めた
馬車にいたのは4人
4人は川のそばで馬車から降りた
会長と将軍は決闘することとなった
会長が勝った

立ち合い人の署名とともに、ケネル将軍は正当な決闘で斃れたのであり、伝えられるように、罠にかけて暗殺されたのではない、と証明されていた

4089うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:44:11 ID:LNssCYN6
フランツは息子にとってはあまりに恐ろしいこの朗読を終え、涙をぬぐっていた
ヴィルフォールはこれ以上騒ぎを起こさないでくれ、とノワルチエに懇願しようとしたとき、
フランツはノワルチエにたずねた

あなたはこの痛ましい事件を詳細にご存知なのだし、立派な署名でそのことを明らかにされています
どうか教えてください
このクラブの会長の名前を!
父を殺した者の名前を!

ヴィルフォールはうろたえたようにドアのノブを探った
ヴァランチーヌは誰よりも早く、老人がなんと答えるかがわかり、一歩あとずさった

ノワルチエさん、お願いです!
『よし』とノワルチエが答え、辞書をみつめた
フランツは辞書を取り上げ、震える声でアルファベットを読み上げMまで唱えた
『それだ』
青年の指が単語の上を走る
だがどの単語にも老人は否定の答えをする
ヴァランチーヌは両手に顔をうずめていた
ついにフランツはMOI(私)という単語に到達した
『それだ』と老人は答えた
フランツが叫んだ
あなたが!あなたなんですか!私の父を殺したのは!
『そうだ』ノワルチエは威厳をこめた眼差しで答えた
ヴィルフォールはドアを開けて逃げ出した

4090うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:44:49 ID:LNssCYN6
アンドレア・カヴァルカンティはパリの社交界にうまく食い込みつつあった
ダングラール家に完全に入り込んでいた

モンテ・クリストがダングラール家を訪れた
ダングラール夫人はオートゥイユの別荘でのこと以来、モンテ・クリスト伯爵の名を聞くだけで背筋が凍るような気もするのだが、かといって伯爵が姿を見せないと不安になるし、実際に訪問を受けたらその魅力的な笑顔にたちまち虜となってしまう有様であった
ウジェニー嬢は相変わらず素気なく、アンドレア・カヴァルカンティは彼女の気を引こうと苦労している様子である
ウジェニーは女友達の音楽家とピアノ室にこもりっきりである
そんななか、ダングラールが帰宅した
ダングラールはピアノ室のドアを自ら開けて、アンドレア・カヴァルカンティを招き入れた
ダングラール夫人はモンテ・クリストに、その朝またミラノの取引先の破産で3,40万損をしたのに平気でいる夫の太っ腹な態度を誉めるのであった
モンテ・クリストは思った
『よし、もう損を隠すようになったな。一か月前は損を吹聴したのに』

いや、奥さん、損などダングラールさんは株で取り返してしまいますよ

主人は投機はいっさいいたしませんのよ

ああ、そうでした
ドブレさんが言ってました
投機のデモンに身をささげているのはあなただと

今はもう興味を失くしてますの

それはよくありませんよ
わたしが銀行家の妻ならば、いや事業なんて幸運か不運だけですし、夫の幸運だけにすがらずに自分の財産を確保しようとしますね

夫人は話題を変える
ヴィルフォールさんはほんとうにお気の毒だったわ

なにがあったのですか

ご存知でしょうに
サン・メラン侯爵夫妻はお亡くなりになるし、お嬢さんのご結婚だって・・・

え、フランツ・デピネ君がお相手でしょう?

昨日の朝、フランツさんが、無かったことにしてくれ、とおっしゃったそうです

それはまたどうして?

ダングラール氏が戻って来た
いや、なかなかの好青年ですな、伯爵
カヴァルカンティ公爵は・・・ほんとうに公爵なんですよね

わたしは保証しかねます
父親のほうを公爵だと言って紹介はされましたが

あなた、もしモルセールさんがいらして、ウジェニーの部屋にアンドレアさんがいるのを見られたらどうなさるの?

あの男はめったに顔を出さんじゃないか
アルベール君は娘をそんなに好きじゃないんだよ

でも私たちの立場では・・・

アルベール・ド・モルセール子爵さまがお見えでございます

4091うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:45:17 ID:LNssCYN6
夫人はウジェニーへ知らせようと立ち上がったが、夫は
「ほっておけ」
夫人は驚いて夫の顔をみつめた

ダングラールの冷たい態度は直接アルベールにも向けられ、アルベールも皮肉にやり返す

ダングラールはモンテ・クリストに、アルベールのフィアンセとしての冷たい態度を訴える

たしかに、冷たいですな
でももう約束なさったんでしょう?

たしかに約束しましたよ
でも娘を愛してもいない男にくれてやるとは言ってません
あの男、親爺そっくりの傲慢さだ

私のあの青年への友情が私を盲にしているのかもしれないが、彼は好もしい男ですよ
きっとお嬢さんを幸せにしますよ
なんといってもお父さんの地位が高いですから

ですかね?

どうしてそんな、怪しそうな顔をなさるんです?

昔のことがありますからな
あのうさん臭い

父親の過去など息子に関係ありませんでしょう

おおありですよ!

一か月前は、あなたもこの結婚は申し分ないと思っておられたじゃありませんか
いや、私は困惑してるのですよ
あのカヴァルカンティ君にあなたが会ったのは私の家ですからね
私は彼のことはよく知らないのですよ
重ねて申し上げておきますが

私はよく知ってます、それで十分です
ひと目でわかりますよ
あなたはあの青年について公平な見方はなさらんのですなあ

4092うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:46:04 ID:LNssCYN6
モルセール家との約束を知りながら、わきから割り込んで財産にものを言わせるというのはどうも見苦しい

世間では日常茶飯事ですよ

とはいえ、このまま破談にするわけにはいきませんよ、ダングラールさん
モルセール家のほうは、すっかりその気になってますからね

その気になってますかね?

はっきりしてます

それなら、そう言えばいいんだ
伯爵、ちょっとその旨、あの家の父親にお伝え願えませんか

お望みなら、よろこんで

明確に、最終的な申し入れをしてほしいんですよ
娘をほしい、日取りはいつ、金銭的な条件をはっきり
合意するならする、駄目なら駄目とね

いいでしょう、お伝えしましょう

召使がダングラールを呼びにくる
お茶をどうぞ、と夫人が言う
ダングラールが興奮した面持ちで戻ってくる
モンテ・クリストの問いかけに答える

いま、ギリシャから郵便がとどきましてね

横目でアルベールを見るダングラール

アルベールとモンテ・クリストは共に帰宅する

伯爵、ギリシャからの知らせってどういう意味なんですか?

どうして私にわかるというのです?

だってあなたはあの国に詳しいから

アルベールはウジェニーに挨拶をしに行った
入れ替わりにダングラールがモンテ・クリストのもとへ

いやあ、いいご忠告をくださいましたよ
フェルナンとギリシャのヤニナ、この2つには恐るべき話があるのです

ほう!

いつかお話ししますよ
あの青年を連れ帰ってください
私はもうあの男と一緒にいるのはかないません

4093うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:46:42 ID:LNssCYN6
帰りの馬車の中で、アルベールは言う

僕の競争相手がダングラール家に入り込んだな
あなたが庇護なさってるアンドレア君ですよ

良くない冗談ですよ
私はアンドレア君を庇護などしておりません、少なくともダングラール氏に対しては・・・
ダングラール氏は君のことがお気に入りですよ

あの人が?とんでもない!

それは君の思い違いですよ
私はダングラールさんに対して最終的な申し込みをするようモルセール伯爵に伝えるように頼まれたのです

ああ、伯爵、そんなことはなさらないでしょう?

私はちゃんと伝えますよ
約束したんだから

モンテ・クリストはアルベールに屋敷に上がるよう誘う

エデの奏でるグズラ(楽器の名)の音が聞こえてきて、自然と彼女の話題となる
モンテ・クリストはアルベールに
エデは私の奴隷だが、あの国で最も地位の高い王女であると告げる

そんな方がなぜ奴隷に?

戦争の落とし子ですよ、運命のいたずらです

お名前は秘密なのですか

君は私の友人だし、口外するなと言えば、黙っていてくれるでしょう

名誉にかけて

君はヤニナのアリ・パシャの話を知っていいますか

アリ=テペレンのことですか?
もちろんですよ
父はその方に仕えて財を成したのですから

ああ、そうでした、忘れてました
エデはその娘です
なんですって?
アリ=パシャとあの美しいヴァジリキ妃との間の娘?それでいてあなたの奴隷?

そう、可哀想に
ある日、コンスタンティノープルの市場を通りかかったときに買ったのです

伯爵、こんなことを言うのはいかにも不作法なのですが、
僕に王女様を紹介してくださいませんか

喜んで
ただし2つ条件がある
誰にも私があの子を君に紹介したことを言わないこと
君の父君があの子に仕えていたことを言わないこと
そして
直接ものを尋ねてはいけませんよ
訊きたいことがあればまず私に言うこと

わかりました

4094うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:47:19 ID:LNssCYN6
エデの部屋にモンテ・クリスト以外の男性が足を踏み入れるのは初めてだった
エデはギリシャ語でモンテ・クリストにたずねた
どなたをお連れに?ご兄弟、お友達、ただの知り合い、それとも敵?
モンテ・クリストはギリシャ語で答えた
お友達だよ
何語でお話ししましょうか?
イタリア語にしなさい

アルベールはエデの美しさに圧倒されながら、何の話をしたらよいかとモンテ・クリストに訊ねた
なんでもお好きなことでかまいませんよ
この子の国のことや、幼い頃の思い出とか・・・

エデは5歳のときにギリシャを離れた
アルベールはモンテ・クリストに彼女の身の上話を聞きたいと言う
あなたは僕に父のことを話してはならぬとおっしゃいましたが、
この方はきっと話してくださると思うんです
こんな美しい口から父の名が出たら、どんなに僕は嬉しいか!

モンテ・クリストはエデのほうを向いて、特に注意して聞くようにと眉で合図しながら、
ギリシャ語でこう言った
「オ父上ノ身ノ上ヲオ話シ タダシ、裏切リ者ノ名ト裏切リニツイテハ話シテハナラヌ」

なんとおっしゃったのですか、とアルベール

「君は私の友達だから、君に対しては何も隠さなくていいと言ったのですよ」

エデは4歳のある晩、闇にまぎれて父アリ・パシャ、母、警護の者たちと宮殿を脱出し隠れ家である湖上のあずまやへたどりついたときのことを話し始める
ヤニナの宮殿の守備隊が、父アリ・パシャを捕らえるためにスルタン(トルコ皇帝)が派遣した軍司令官と手を結んだからであった
そこで父は、全幅の信頼をおいていたフランス人のある将校をスルタンのもとへ派遣してから隠れ家へと引退する決心をした

その将校を、その名を覚えておられますか?とアルベール
モンテ・クリストとエデは素早く視線を交わす

いいえ、思い出せません
もう少ししたら思い出すかもしれませんから、そのときにはお答えします
アルベールが自分の父の名を言いそうになったが、モンテ・クリストは制止した

4095うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:48:04 ID:LNssCYN6
隠れ家は湖のあずまやであった
地下室には金貨や火薬が大量に備蓄されており、パシャの命令で妃とエデは地下室にこもった
ある朝、父パシャから呼び出しがあった
「もう少しの辛抱だ
今日ですべては終わる
スルタンからの勅命が今日とどく
わしの運命が決まる
完全な赦しがえられれば、堂々とヤニナに帰ることができる
悪い知らせであれば、今夜逃げるとしよう」

湖を複数の船が渡って来た
「いよいよ我々の運命が定まるときがきた
30分後には皇帝の返事がわかる
エデをつれて地下へ戻れ」

地下室へ戻るとき、母はコンスタンティノープルへ派遣され、父が全幅の信頼をおいていたあのフランス人の姿を認めていました
護衛の者が言うには、短剣をよこされた場合にはスルタンが赦免を拒否したことを意味し、指輪がよこされた場合は赦免されたことを意味すると言いました
そして短剣を渡された場合は即座に火をつけると

地下室に男がやってきました
その男は
「スルタン万歳、アリ・パシャは完全に赦された」と言いました
その男は父が派遣したフランス人でした
護衛の者はあくまで指輪の提示を求めました
フランス人は指輪を見せ、それを確認した護衛は槍の火を消しました
消すやいなや護衛は兵士5人に刺殺されました
母は私を抱いて、私たちしか知らない隠し階段へ逃げました
羽目板の隙間から父の様子が見えました
金文字で書かれた書面を手にした男が父に向って言いました
「皇帝陛下の上意を伝えに来た。陛下は汝の首を所望だ」
父は突然高笑いし、義勇兵たちと共にピストルと新月刀を持って戦いました
最後は20人の男が父に襲いかかりました
母は気を失い、私は床に転がされました
母が意識を取り戻したとき、私たちはスルタンが派遣した軍司令の前にいました
母は言いました
「私を殺してください。ただ、アリの妻としての名誉だけはお守りください」
「わしに言っても駄目だね」
「誰に言えばいいのです」
「そこにおる、お前の新しいご主人様にだ」
そう言って、父の死に対して最も功績のあった者のうちの一人を指さしました

アルベール
では、あなた方はその男のものとなったのですか

いいえ、さすがにそれはできず、その男は私たちをコンスタンティノープルへ行く奴隷商人に売ったのです
私たちはギリシャを渡り、スルタンの城門までたどりつきました
そこには父アリの首がさらされておりました
母は衝撃のあまり倒れ、死んでしまいました
私は市場に連れて行かれ、アメリカ人に買われました
いろいろ教育してくれて、私が13歳になるとスルタンに売ったのです

モンテ・クリストは言った
そして私が前にも言ったように、スルタンから買ったのですよ
ハッシッシの丸薬の入れ物と同じエメラルドでね

アルベールは今聞いた話に呆然となっていた

4096うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:48:42 ID:LNssCYN6
ヴィルフォールはフランツから次のような手紙を受け取った
「今朝あのような事情をお明かし下さった以上、
ノワルチエ・ド・ヴィルフォール氏は同家とフランツ・デピネ家の縁組がよもや可能とは思われますまい
フランツ・デピネは、
今朝語られた事件につきご存知であったとお見受けするヴィルフォール氏が、
事前にこのことについてお知らせくださらなかったことをきわめて遺憾に存じます」

ヴァランチーヌはマクシミリヤン・モレルに破談を報告した

そしてヴィルフォール夫人はとある行動をとった
ノワルチエのもとへ行き、
デピネ家とは破談になったのだからヴァランチーヌに財産を返してやって欲しいと言ったのである

ノワルチエはヴィルフォール夫人の心を探ろうとしたのだが、
見極めることはできなかったのである

ノワルチエは公証人を呼び、遺書を作成しなおした
ヴァランチーヌが自分から引き離されることはないという条件のもとに、
全財産を孫娘に遺贈したのである
サン・メラン侯爵夫妻の財産を相続し、
いままた祖父からの遺贈を受けたヴァランチーヌは
将来莫大な年収を得ることとなった

4097うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:49:27 ID:LNssCYN6
モンテ・クリストはダングラールからの依頼事を実行するべく、
モルセール伯爵家を訪問した
その結果、モルセールはダングラールのもとへ正装して赴いたのである

「ダングラール男爵、やってきましたよ
どうも長いあいだ、昔の約束事をうろうろしていたが」

ダングラールはそっけない
「どういう約束だったかな、伯爵」

あなたは形式を重んずるんだな、といってモルセールは深々と頭を下げて言う
「私は、息子アルベール・ド・モルセール子爵の妻としてウジェニー・ダングラール嬢を
いただきに参上したことを光栄とするものであります」

ダングラールは眉をひそめた
「返事をする前に少々考えたいんだがね」
「考える?この話をしてから8年になるのに、考える時間が無かったのかね」
「もう一度考え直す必要のある事は毎日のようにあるさ」
「いったいどういうことなんだ?わけがわからんぞ!」
「ここ2週間ばかりの間に新しい事態が・・・」
「はっきりさせようじゃないか。モンテ・クリスト氏に会っただろう?」
「しょっちゅうお会いする。友人だからな」
「あの人に、私がこの縁談について態度がはっきりしない、と言っただろう?」
「その通り」
「だから、私は来たのだよ。あなたの約束の履行を促しにね」
ダングラールは無言だった
「そんなに急に気持ちが変わったのか?私を馬鹿にしているのか?」
「なによりも私が苦しんでいるのだ。やむにやまれぬ事情があってな」
「なにが言いたいんだ。いずれにせよ、私の家との縁組を拒むんだな?」
「拒んでいるんじゃない、心を決めかねているんだよ」
「まさか、あなたの寵愛が戻るのをおとなしく待っている私だとは思わんだろうね」
「それじゃ、あなたが待てないというんなら、この話はなかったことにしようじゃないか」
モルセールは怒りで爆発しそうになっていた
「ダングラール、我々も古い付き合いだ。お互い思いやりを持つべきだろう
あなたが倅に好意的でなくなったのにどんな事件があったのか教えてもいいだろう」
「子爵個人のことではないんだ。これ以上言わないのをありがたく思うんだな」
「私には聞く権利がある
家内に文句があるのか?
私の財産が十分ではないというのか?
政治的意見が違うからか?」
「そんなことではない
そんなことは承知のうえで約束したんだから、あれこれ理由を探すのはやめたまえ
延期、という言葉を使おう
時がすべてを解決してくれる
一日のうちにひどい中傷がはたと止むこともある」
「この私を中傷する者がおるのだな?!」
「せんさくは止そうといっておるのだ。この私のほうがつらいんだよ」
モルセールは怒り狂って帰って行った
ダングラールはモルセールが一言も「自分のせいではないか」と言わなかったことに気づいた

翌朝、ダングラールは新聞『アンパルシアル』を手にした
ボーシャンが編集主幹をしている新聞である
『ヤニナからの通信によれば』という記事を確認し、にやりとする

4098うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:50:08 ID:LNssCYN6
これと同じ頃、
アルベールは興奮の面持ちで、シャンゼリゼ通りのモンテ・クリスト伯爵邸を訪ねた
モンテ・クリストは射撃の練習に出かけたという
アルベールは練習場へ向かい、伯爵をつかまえる

アルベールは友人のボーシャンに決闘を申し込むので、
モンテ・クリストに介添え人になって欲しいと言う

いったいどうしたんです?理由は?
名誉を傷つけられたからですよ
これを読んでください

『ヤニナからの通信によれば
今まで知られていなかった、少なくとも公表されていなかった事実が明らかにされた
ヤニナの町を守っていた各城砦は、アリ=テペレン太守が全幅の信頼を寄せていた、
フェルナンというフランス人将校により、トルコ軍に引き渡されたものである』

この記事のどこが君を傷つけるんですか?

どこがって・・・僕の父、モルセール伯爵はフェルナンという名前なんです

それで、アリ・パシャに仕えておられた?

つまり、ギリシャ独立のために戦っていたんです
中傷もはなはだしい!

論理的に話をすすめましょうか
今のフランスで、士官フェルナンがモルセール伯爵と同一人物であることなど、
知っている者がありますか
1822年だか23年だかのヤニナのことなど今さら関心を持つ者が?

だから陰険なんですよ
僕は父の名を受け継ぐ者として、この名にかすかな疑惑の影さえ漂うことを許しません
ボーシャンに取り消させます

ボーシャン君は取り消さないでしょうね

4099うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:50:41 ID:LNssCYN6
それじゃあ、決闘です

よく考えてみなければいけませんよ
私が思うには・・・私の言うことに腹を立ててはいけませんよ
私はね、報道された事実は真実だと思う

父の名誉にかかわるそんな推測は息子としては容認できません

ボーシャン君のもとに介添え人を送る前に、情報を集めることです

誰から?

たとえばエデからでも
この件の真相をあきらかにして、もしも万一、君のお父上が不幸にして・・・

伯爵、ぼくはそんな推測は容認いたしません
拒否します

どうしても?
では最後にもうひとつ
介添え人を送るのではなく、ボーシャン君に君自身で会いに行きなさい

どうして僕が自分で行かねばならないのですか

そうすれば、問題は君とボーシャン君の間だけのことになる
もし、ボーシャン君が取り消す気になっている場合は、
彼に善意からするのだという余地を残しておいてやらねばなりません
もし逆に取り消しを拒めば、その時こそ、他人を介入させるときです
相手の自尊心にかかわることをさせようとするなら、
ほんのわずかでも相手の自尊心を傷つけてはいけない

わかりました
僕一人で参ります

ほんとは全然行かないにこしたことはないんですがね

そんなことはできません
もし、万策尽きて決闘ということになったら、介添え人になってくださいますよね

モンテ・クリストはそれまで見せなかったほどの真剣な表情で言った
「子爵、時と場合によっては、私が君に対して身をなげうつ覚悟でいることは、
君もご覧になったはずです
しかし、君が今私に求めていることは、私が君にしてあげられる範囲を逸脱しているのです」

なぜなんですか

いつかわかります
でもそれまでは秘密にしておくことを許してもらいたい

わかりました

4100うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:51:14 ID:LNssCYN6
アルベールは新聞社のボーシャンのもとへ向かう

やあ、アルベール、なんでまたこんなところへ?

記事の取り消しをして欲しいんだ

君が記事の取り消しを?いったいどの記事だ?

ぼくの家族の一員の名誉を傷つける記事の取り消しだ

なんだって?そんな馬鹿な

ヤニナからの通信だよ

ヤニナ?誓って知らんぞ
(アルベール、新聞を見せる)

この士官が君の親類だというのか?で、ぼくにどうしろと?

君の新聞が僕の家族を侮辱したんだよ
取り消しを要求する

君はどうも話の仕方をしらんな
とにかく、フェルナンというのは誰なんだ

僕の父だ
20もの戦場を駆け巡ったフェルナン・モンデゴ・モルセール伯爵
その名誉にけがらわしい泥を塗った!

君の父上?それなら君の憤激もわかるな
もう一度読み直してみよう
で、どこにフェルナンが君の父上だと書いてあるんだ?

書いてなくとも他人はそう思うだろう
だから取り消しを要求する

うん

よかった!

だが、ぼくがこの記事が誤報であると確認してからだ

なんだと!

私は敵の脅迫など我慢なりませんし、友人からならなおのこと
誓って申し上げて私がまったくあずかり知らなかったこの記事を取り消せと言われるんですな?
さもなければ決闘ですか

そうだ!(アルベールは興奮のあまりなにがなにやらわからなく・・・)

私はあなたが脅迫しに来られたことにより、この記事の内容に興味を持ちました
この記事は権威ある筋より否認されるなり確認されないかぎり取り消されません

では、介添え人を差し向けます
今夜あるいは遅くとも明日には・・・

とんでもない
どうしても必要となったときに僕は決闘場へ行く
三週間待ってもらおう
三週間後には「そうだあの記事は誤報だった」「あの記事は事実だった」
どちらかの答えを用意してあいまみえましょう

三週間!その間、名誉は汚されたままだ

以前のように君が友人だったら「我慢しろよ、アルベール」と言うところだが、
今はこう言わせてもらう
「そんなこと知ったこっちゃありませんよ、こちらは」

決闘日は9月21日となった

4101うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:51:50 ID:LNssCYN6
マクシミリヤン・モレルはノワルチエから呼び出しを受けた
ヴァランチーヌが代弁した
ノワルチエはこの家を出るつもりであり、老僕バロワが今、適当な部屋をさがしていること
ヴァランチーヌはノワルチエのそばを離れるつもりはないので一緒に住むこと
父ヴィルフォールが同意すれば、すぐにこの家を出ること
同意しなければ、成年に達するまで1年半、待つこと
そしてマクシミリヤンとの結婚の約束を守ること

老僕のバロワはマクシミリヤンを迎えに急いで走ったため、汗びっしょりだった
ノワルチエは自分が飲んだ残りの水差しのレモネードに目をやった
ヴァランチーヌがグラスに注いでバロワに勧めた

それを飲んだバロワはひどい神経障害にみまわれて倒れた
屋敷内は大騒ぎになった

おりよくダブリニー医師が来ていた
ヴァランチーヌとヴィルフォールは医師を探しに行った
ヴィルフォール夫人がやってきた
彼女がまず見たのはノワルチエだった
夫人は顔色を変え、その老僕からその主人へといわば跳ね返った
ノワルチエは奥の奥まで見通すような視線を夫人に浴びせていた
ヴァランチーヌはマクシミリヤンに騒ぎに紛れて帰るように言う

ダブリニー医師にはなすすべがなかった
患者がレモネードを飲んだと聞き、その現物を押さえるべく調理場へ突進し、あやうくヴィルフォール夫人を突き飛ばすところだった

バロワは死んだ

ダブリニー医師はヴィルフォールに告げた
サン・メラン侯爵夫妻も急死した
君の家では皆急死してしまうね、ヴィルフォール

ダブリニーの分析により、レモネードからは植物毒が検出された

4102うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:52:29 ID:LNssCYN6
ヴィルフォールが叫ぶ
私の家には死神がいる

ダブリニーは言う
犯人がいる、と言いたまえ
犯人の狙いはノワルチエだったのだろう
ノワルチエには治療薬として毒物が処方されているので身体が慣れているのだ
サン・メラン侯爵夫妻も本当は殺されたのではないか?
ノワルチエの遺産相続のことを考えても、ヴァランチーヌ嬢に疑いがかけられるだろう
私は告発する
君の義務を果たしたまえ

ダブリニーに泣きつくヴィルフォール
ならば、二度と私をこの屋敷へ呼ばないでくれ
たとえ君が毒を盛られたと思ったときもね
こう言い残してダブリニーは帰った

4103うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:53:04 ID:LNssCYN6
アンドレア・カヴァルカンティはダングラール邸を訪問して、ダングラール氏に
ウジェニー嬢に対する恋心をほのめかす

はやる心を押さえながらダングラールは言う
しかし、結婚は早すぎやしませんかね
あなたのお父さんはもう帰国してしまわれたし・・・

このパリで僕が花嫁を見つけたら逃がすことのないように
身分証明やら必要な書類は全部用意しておいてくれてるんですよ

二人は持参金の話やら、アンドレアの母の遺産やら
もっぱらビジネスの話で盛り上がる

ダングラールはたずねる
それはそうと、あなたの社交界における後ろ盾であるモンテ・クリスト伯爵は、
この私どもへの申し込みにどうして一緒にいらっしゃらないのです?

僕はきょう、伯爵の家から来たのですが、あの人はいい人ですが変わってましてね
結婚の申し込みなんてことにいままで責任をとったことはないし、これからもないからというのです
まあ、公的にはなにもしたくないが、あなたが話をなされば、そのときには答えるとのことです

アンドレアは、来月はいろいろと入用なのでといって、モンテ・クリストの署名のある手形をダングラールに渡す

こんな手形ならいくらでも引き受けますよ、とダングラール

ダングラール邸をあとにしたアンドレアはカドルッスと落ち合う

カドルッスがダングラールやモルセールと知り合いだときいて驚くアンドレア
しきりに金をねだるカドルッスは、アンドレアの”金の生る木“を教えろという
アンドレアは、パリにおける庇護者のモンテ・クリスト伯爵が実は自分の父親であり、
遺言状に相続人として自分の名前を書いてくれたと言う

その伯爵はそんなに金持ちなのか?
自分の財産の総額もわからないくらい金持ちだよ
屋敷の間取りを教えろとせがむカドルッス
うすら笑いを浮かべながら、アンドレアは間取り図を書いてやる
週に2,3回オートゥイユの別荘に伯爵は行くんだけど、使用人がいなくなったら物騒で泥棒に入られますよって俺は言ってるんだけどな
『泥棒に入られたとしても、私にはなにほどのことでもない』らしいよ

アンドレアは去っていった

ベネデットの奴め、遺産を相続して悪い気はしまいて
その日を早めてやった奴は悪い友達にはなるまいよ

4104うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:54:07 ID:LNssCYN6
カドルッスとアンドレア(=ベネデット)の密談の翌日

執事のベルトゥチオがノルマンディーから戻って来た
モンテ・クリスト伯爵の指示どおり、ノルマンディーのル・トレポールに家を準備し、
伯爵所有のコルヴェット艦の入港手続きも終え、いつでも命令在り次第出航できるように整えてきたのだった

ベルトゥチオ、よくやった
フランス滞在もあと一か月以上にはならないはずだ
すみやかに出発の準備をととのえておくように
それから
パリからル・トレポールへは一夜のうちに行かねばならない
街道8カ所に代え馬を用意しておくように

すでに万事手配ずみでございます

モンテ・クリストはオートゥイユへと向かった
そこへ手紙が届く
差出人不明で、その内容は
シャンゼリゼ通りの伯爵邸に男が侵入する
その目的は化粧室の机にあると思い込んでいる書類である
警察を介入させずに解決するのがよいだろう
というものであった

モンテ・クリストはこの手紙は自分の命を狙う罠であると察知する
そしてシャンゼリゼの屋敷に残る召使たちを全員オートゥイユへ集め、邸内を無人の状態にしたうえで、モンテ・クリスト自身と唖の忠実なる召使アリはこっそりと戻った

その夜
男がひとり寝室に侵入してくる
屋敷の外には様子をうかがう男がもうひとりいる
隠し部屋から観察するモンテ・クリストは侵入者がカドルッスであると知り、おどろく

「カドルッス君、こんな夜更けに何のようだね」
とびあがるカドルッス
「ブゾニ司祭さま!」
「どうやら、いつまでたっても性根は直らぬとみえる。人殺しめ!」
「ちがいます!あの宝石商をやったのは女房でして。あっしは懲役をくらっただけで」
「では刑期を終えたのか」
「ある人に助けられたんで」
「脱獄したのか!悪質な累犯だな」
「いや、つい出来心で、食うに困って・・・お願いします、もう一度お助けを」
「本当のことを言えば、見逃してやってもよい。誰に監獄から出してもらった?」
「ウィルモア卿というお方で。いや、そのお方はベネデットというコルシカ人を助けたんですが、あっしも一緒に・・・」
「そのコルシカ人はどうなった?」
「知りません。いや、ほんとうに」
そう言いながらじりじりとカドルッスは司祭に近づいた
「嘘をつけ!今でもその男と仲間なのであろう」
「いや、あの、そのベネデットはこの屋敷のモンテ・クリスト伯爵の倅になっちまって」
「ベネデットが伯爵の息子だと?」
今度は司祭が驚く番だった(ははん、読めてきたぞ)
「で、今はその男はなんと名乗っておるのだ」
「アンドレア・カヴァルカンティ」
「ああ、あのダングラール嬢と結婚の予定だという男か!
その男に前科があるのを知ってだまってるつもりか」
「仲間の出世を邪魔する必要はありませんや」
「そうだな、知らせるのはお前ではなくこの私の役目だ」
「やめてくださいまし。わしら、おまんま食い上げになっちまう」
「ダングラール氏になにもかも説明しよう」
「くそっ」
カドルッスは短刀を伯爵の胸に突き刺した
ところが短刀は刃こぼれしてはね返ってしまった
伯爵はカドルッスの腕をひねりあげ、床へねじふせた
「どうかお慈悲を!」
司祭はカドルッスを立ち上がらせ、慈悲を与える代わりに、これから言う通りの告白書を書けという
『あなたがお邸に出入りさせ、お嬢様を嫁がせようとなさっている男は、
私とともに、ツーロンの監獄を脱獄した前科者でございます。
あの男の囚人番号は59号、私は58号でございました
奴の名はベネデット
両親には一度も会っていないため、本名は奴自身知りません』
ダングラール男爵様、銀行家、ショセ・ダンタン通り
カドルッスはしぶしぶ署名した

4105うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:54:46 ID:LNssCYN6
司祭は入って来た窓から帰れ!と言う
カドルッスが窓から降り始めると、司祭はろうそくをかざした
屋敷の外で待ち受ける男に見えるように

カドルッスは外塀にたどりつき乗り越えた
その刹那、彼の背中に向けて振り下ろされた腕
第二の攻撃は脇腹
そして三回目は胸に・・・
「助けてくれ!」
その絶叫を聞いて、アリとその主人が駆けつけた

司祭さま、た、たすけてくだせえ
モンテ・クリストはアリに指示して、ヴィルフォール検事と医者を呼びにやる
カドルッスよ、お前はもう助からぬ、刺した奴を知っているか?
ええ、知ってますとも・・・ベネデットだ
モンテ・クリストは例の秘薬を2,3滴カドルッスに飲ませる
お前の供述書を書いてやる
お前は署名するだけでよい

『私は、ツーロンの監獄での仲間、囚人番号59号、コルシカ人ベネデットにより殺害され、
死んでいくものであります』
モンテ・クリストはカドルッスにペンを持たせ、彼は最後の力をふり絞って署名し、気を失った
薬瓶をかがせると、ふたたび目を開けた

4106うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:55:25 ID:LNssCYN6
あの男は伯爵にお前を殺させようとしたのだよ
伯爵に密告したのだ
伯爵が不在だったので私が代わりにお前を待ち受けていたのだ
あいつはお前のあとをつけてきた
あっしがここを出るとき、あっしが殺されるのをあんた知ってたんだ!

私はベネデットの手に神の裁きを見たからだ

神のお裁きだと?そんな話聞きたくねえや!

神はお前に健康と力と十分な仕事、そして友達さえも与えた
だがお前は、ただ怠けて酒に溺れ、最良の友を裏切った
友を裏切ってからお前は貧困に陥った
これは神の警告だ
神が私の手を通して奇蹟をお前に与えたとき←(^^)/ ダイヤのこと
お前はそれを手にしたとたん、もう不足だった
人殺しによって財産を倍にしようとした
だから神はお前を人間の裁きの場へ引き出し、財産を取り上げた

あれは・・・女房がやったことだ!
それに、終身刑だなんて・・・

お前は死刑ではなく、終身刑となったとき、神のお慈悲に喜んだはずだ
そしてひとりの英国人により再度お前に奇蹟が行われたのだ
お前は人並みの暮らしができたはずなのだ
なのにお前は第三の罪を犯した
神も疲れた
お前を罰し給う

ベネデットは・・・奴は逃げちまう!

ベネデットも罰される

あんただって罰されるぞ!坊さんならあっしを見捨てていいわけがない!
俺は神さまなんて信じねえ!

私を刺し殺そうとしたくせによくもそんなことが言えるものだな
神は存在する
こうして私がお前のまえに立っていることがその証拠

あんたいったい何者なんだ・・・

わたしの顔をよく見るがよい

ブゾニ・・・司祭
(モンテ・クリストは司祭のかつらを取る)
おっ、あのイギリス人の・・・あんたはウィルモア卿だ!

私はブゾニでもウィルモアでもない
おまえの若い頃を思い出せ
よく見るのだ

昔あんたを知ってたような気がする・・・だが、誰だ
俺を知ってるんならなんで見殺しにする・・・

それはお前の傷が致命傷だからだよ
もしも助けられる傷ならば、そこに神の慈悲を見出しただろう
父の墓にかけてお前の命をもう一度だけ助けただろう

息も絶え絶えのカドルッスは言った
父の墓にかけて・・・だと?いったいあんたは・・・

伯爵は今まさに死のうとする男を悲しげに見つめながらその耳元でささやいた
「私は・・・私は・・・」

カドルッスは最後の力を振り絞ってその手を上にあげた
神よ、主よ、あっしをお許しくださいまし
あっしをみもとにお召くださいまし・・・
最後の吐息とともに彼はこときれた

ヴィルフォール検事と医師がやってきたとき、そこには祈りをささげるブゾニ司祭の姿があった

4107うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:56:01 ID:LNssCYN6
その後の2週間、パリではモンテ・クリスト伯爵邸に盗みに入った男の噂でもちきりだった
カドルッスの持ち物は発見されなかったチョッキ以外はすべて裁判所に押収された
モンテ・クリストはこの件について尋ねられると、事件は自分がオートゥイユ滞在中に起こったことであり、友人のブゾニ司祭から聞いた話以外はわからない、と答えた
ブゾニ司祭は伯爵の蔵書の中にある貴重本を探しに来ていたのだと

ベルトゥチオはベネデットの名前が出るたびにびくびくしていたが、もとより彼に注目する者などいない

ヴィルフォール検事は職務に忠実に捜査をしていたが、3週間たっても成果はなかった

パリ社交界はこの事件にあきはじめ、話題はダングラール嬢とアンドレア・カヴァルカンティとの結婚話に移り始めた
ウジェニー・ダングラール嬢はもとより結婚というものに興味はなく、アルベールを遠ざけるためにアンドレアを近づけただけであったので、明らかにこの結婚話には反撥し始めていた

4108うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:56:32 ID:LNssCYN6
ボーシャンとアルベールの決闘の期限が迫っていた
モンテ・クリスト伯爵がアルベールに言ったように、記事の人物を父親と結びつける者はいなかったが、アルベールの誇りが著しく傷ついたことには変わりない

ある朝、アルベールのところへボーシャンがやってきた
アルベールは挑戦的な態度で彼を迎えたが、ボーシャンは穏やかだった
ボーシャンは自分の足で確かめてきたのであった
ギリシャのヤニナへ赴き、現地で聞き込みをして、記事中の“フェルナン”はまちがいなくアルベールの父親であると確信してきたのであった
証拠となる書類とともに・・・

アルベールは打ちのめされた
ボーシャンはこの話は二人だけの秘密にすることを提案する
アルベールは証拠の書類を燃やした

心の中でなにかが崩れてしまったと嘆くアルベールに、勇気を出せとボーシャンは言う
この裏には秘められた悪意があるぞ
君はやはりダングラール嬢と結婚するのか?
なぜならこの縁談の成否と今回の問題にかかわりがあると僕は考えている

なんだって?君はダングラール氏が・・・?
いや、勘ぐるなよ、僕はただ、縁談はどうなったのか聞いただけだ

縁談はこわれたよ

そうか・・・
アルベール、気晴らしに出かけよう
そうだ!モンテ・クリスト伯爵に会いに行こう
あの人みたいに、人にうるさく質問しない人というのが慰め方の一番上手い人なんだよ

4109うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:57:07 ID:LNssCYN6
二人の青年が仲良く現れたのを見て、モンテ・クリストはうれしそうな様子だった
どうやらすべて終わったようですな
私のほうはといえば、厭な午前中を過ごしていましてな

なにをしておられるんですか?書類の整理?

カヴァルカンティ氏の書類ですよ

カヴァルカンティ?

ボーシャン、君は知らないのか?伯爵が世に出してやろうとしている青年さ
僕の代わりにダングラール嬢と結婚する男だよ

いや、誤解してもらっては困る
私は誰も世に出してなんかやらない
ましてやカヴァルカンティ氏なんて・・・

なんだって?ダングラール嬢と?
伯爵、あなたが縁談をまとめたのですか?

とんでもない
逆に私は反対しましたよ

ああ、アルベールのためにですね

ちがうよ、僕はこの縁談を壊してくれと伯爵に頼んだくらいだ

いいですか、私がこの縁談をすすめたのではない
私はあの青年のことは何も知らないんですよ
人は金持ちで名門だというけれど、噂にすぎないんでね
ダングラール氏に口がすっぱくなるほどそれは言ったのですがね
もうひとつ重大と思えることがあって・・・
あのアンドレア君の父君が10年間息子を知らなかったということですよ
幼い頃に誘拐されたのかなんなのか知りませんがね
10年間の息子の行状も不明です
でもダングラールさんは気にしないようですな
ところでアルベール君は浮かない顔をしていますね

頭痛がするんです

そんなときによく効く方法がありますよ
土地を変えるんです
私もいらいらしているところだ
一緒に行きませんか

伯爵、あなたがいらいらなさってる?

ボーシャン君、あなたも自分の家を捜索されてみればわかりますよ

ああ、そうでしたね
あのカドルッスという男は何者なんですか?

さあ、プロヴァンスのほうの出身みたいですが、ヴィルフォール検事もダングラール氏も見知っているようですよ

伯爵はアルベールをノルマンディーへの旅に誘った
ボーシャンはアルベールの事件が広がりをみせないか見張る必要があるということで
旅への参加を断った

アルベール君、君のお母さんが反対なさらなければ、だがね

伯爵、うちの母はあなたを好いていますよ
まだおわかりにならないのですか
母は自分の気持ちを大切にしてめったに人を好きになりません
でもいったん好きになったら、もう永久に変わらないんです

ああ、なるほどね
モンテ・クリストはため息をもらした

4110うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:57:39 ID:LNssCYN6
ノルマンディー地方のル・トレポールまでの旅は馬車でわずかに8時間
執事ベルトゥチオの準備は完璧である
モンテ・クリストとアルベールは海辺で釣りをし、狩をした
そんな生活も3日目のこと・・・

庭石を蹴散らす馬のひづめの音
昼寝から目覚めたアルベールは、自分の召使フロランタンの姿をみた

ボーシャン様からのお手紙をお持ちいたしました
手紙と新聞を差し出す召使
読んで目の前が真っ暗になり、倒れそうになるアルベール

モンテ・クリストはつぶやいた
かわいそうな青年だ
父の罪は孫子の代までも及ぶさだめなのか

伯爵、おもてなしありがとうございました
しかしパリへ帰らなければならなくなりました

いったい何が起こったのだね

馬を貸していただけますか
そして僕が出発したあとでこの新聞をお読みください
恥ずかしさに染まるぼくの顔を見られるのは嫌ですから

アルベールは出発した

『アンパルシアル紙上に報ぜられた、ヤニナ太守アリに仕え、ヤニナの城を敵に渡したばかりではなく、その恩義ある主をもトルコ軍に売り渡したフランス人士官は、同紙の報じた通り、当時実際にフェルナンという名前であった。しかし、その後、この士官はその洗礼名に貴族の称号ならびに領地の名を冠した。
彼は今日、モルセール伯爵を名乗り、貴族院の一員である』

ボーシャンが闇に葬った秘密はまたしても亡霊のように姿を現したのであった

4111うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:58:14 ID:LNssCYN6
アルベールはボーシャン宅へ飛び込んだ

その記事をのせた新聞は政府与党のものであるだけに事態は一層深刻だった
ボーシャンはすぐにその新聞社の支配人をたずねた

支配人は言う
モルセールの記事、あれは面白いとおもわんか?

おもしろすぎて名誉棄損になるかもしれんぞ

なるもんか
証拠は全部そろってるんだ
モルセール氏はおとなしくしているしかあるまいよ

誰がそんな詳しい情報を提供したんだ?
口火を切ったのはわが社だがその後は黙らざるをえなかったのに

向こうから飛び込んできたのさ
昨日ヤニナから来た男が、膨大な資料を持ち込んだんだ

ボーシャンはしかたなくその新聞社を出た
そして、記者として委員会を傍聴し、アルベールに報告する

その日の貴族院ではこの記事の話題でもちきりだった
ところが悲しいことに、モルセール伯爵自身はこの記事をまったく知らず、いつものように傲慢な様子で議会へ登場したのだった
一人の議員が演壇にたち、ヤニナ、フェルナン大佐という言葉を発した
モルセール伯爵は思いもかけぬ打撃に打ちのめされた
議長は調査の可否を求め、採決の結果、調査が行われることになった
モルセールは「必要な書類いっさいを提出する」と宣言した
調査委員会が開かれた
モルセールは書類を持参していた

このとき守衛が委員長に一通の手紙を渡した
委員長は開封しながら、モルセールに発言を許可した

モルセールは、アリ・パシャがトルコ帝国との交渉をする役目をモルセールに与えたという書類を持参し、アリ・パシャがモルセールに全幅の信頼を寄せていた証拠であると主張する
そして指揮権の象徴である指輪も見せた
パシャが封印に使用していた指輪であり、モルセールが後宮へ入れるように与えたものだった
モルセールによると、不幸にして交渉は失敗し、恩人の身を守るために戻ったときはすでにオアシャは死んでいたという
パシャは最愛の寵姫とその娘を自分に託すほど、自分は厚い信頼を寄せられていたのだと

委員長はモルセールの発言の間にその手紙を何度も読み返していた

モルセール伯爵、あなたはパシャが妃と娘をあなたに託したと言いましたね

はい、しかし私が戻ったときにはすでに、妃のヴァジリキと娘エデは姿を消していたのです

伯爵、そのことについて証人を出すことはできますか

残念ながらおりません

委員諸君ならびに伯爵、いま私が手にしているこの手紙には、妃とその娘のその後について証言できるという証人がいるという情報が載せられています
その証人はパシャの死に際にその場に居たとのことです
この証人をこの場へ呼ぶべきでしょうか

4112うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:58:47 ID:LNssCYN6
モルセールは顔色を変えた
委員たちは賛成!をとなえた

召使を連れた、全身をヴェールで覆った夫人が現れた
委員長の頼みに応じ、ヴェールを取ったその姿はギリシャ風の衣装をつけた美女であった

ああ、あの人だ、エデだ・・・とアルベール

モルセール氏はね、その人を恐怖のまなざしでながめていたよ

エデは自らの出生証明書と自分と母とが売られたときの証拠書類を提出した

「皇帝との恥ずべき取引に際して、戦勝の分け前として、恩人の妻と娘を譲り受け、40万フランで売ったのです」

モルセール伯爵の顔は蒼白だった

エデが提出した書類は、モンテ・クリストがトルコ皇帝御用商人からエデをエメラルドで買ったときのものであり、そこにはエデが奴隷となったいきさつが明確に記されていた
「エデはコンスタンティノープルへ到着の際死亡したその母とともに、7年前、フェルナン・モンディゴなる太守アリ・テベレンに仕えていたフランス士官により私に売却されたものである」
トルコ皇帝の玉璽まで押されている書類であった

委員長はいった
モンテ・クリスト伯爵を喚問することはできませんか

私の第二の父である伯爵はノルマンディーに滞在しております
フランスへ足を踏み入れて以来、私はいつでも父の敵をうつことを考えておりました
モンテ・クリスト伯爵は私に父親のように配慮してくださり、世間で起こる出来事はすべて知ることが出来るようにしてくださいました
ですから私は自分であの手紙を書いたのです

するとモンテ・クリスト伯爵は今回のあなたの行動にはいっさいかかわりがないと?

あの方はなにもご存知ありません

モルセール君、あなたはこのご婦人をアリ・テベレンの娘であると認めますか

いいえ!罠だ!これは私の敵によって仕組まれた罠であります!

おまえは私に見覚えがないのか!
おまえはフェルナン・モンデゴ、お父様の軍の教育に当たっていた士官だ!
ヤニナの城を敵に渡したのはお前!
母と私を奴隷商人に売ったのもお前!
人殺し!お前の額にはまだお前の主人の血の跡が残っている!

モルセールは思わず額に手をやった

お母さまはおっしゃいました
あの男をよくごらん、お前は王妃にもなれる身の上だったのに
おまえを奴隷にしたのはあの男
お父様の首を槍にさして高く掲げたのはあの男
あの男の右手をみてごらん、大きな傷があるでしょう
もしあの男の顔を忘れても、奴隷商人から金貨を一枚一枚受け取ったあの手をみれば思い出すでしょう
さあ今こそ、私に見覚えがないかどうか、言ってみるがよい!

モルセールは右手を隠した
実際に傷がついていたのであった

モルセール伯爵、さらなる調査をのぞみますか?ヤニナへ派遣しますか?

別になにも、モルセールは言った

このご婦人の弾劾を事実として認めるのですね?

モルセールは無言で議場をあとにした

諸君、モルセール伯爵を、反逆、裏切り、卑劣の行為あるものと認めますか

異議なし!異議なし!

エデはふたたび顔をヴェールで覆うと委員たちに挨拶し威厳のある足取りで出て行った

4113うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:59:20 ID:LNssCYN6
アルベールは涙にぬれた顔をあげた
ボーシャン、僕の人生はもう終わりだ
どんな奴が僕に憎悪を抱き続けているのかつきとめる
そして僕がそいつを倒すか、そいつが僕を倒すかだ

アルベール、ぼくがヤニナで調査をしていたときのことだ
ある銀行家をたずねたときに例の件をしゃべりかけたら、みなまで言わないうちに向こうが言うんだよ
ああ、どんなご用でおいでになったのかわかりました、と
どうしてですか、とたずねたら
二週間ほど前に同じことを聞かれたから、というんだよ
誰に聞かれたのかとたずねたら・・・ダングラールさんだった

あの男が!

アルベールとボーシャンはダングラール邸へ向かう
アルベールはダングラールに決闘の申し込みをする勢いである

「あなたのお父さんの名誉が汚されたからといって、それが私のせいですかね」
「恥知らず、きさまのせいだ!」
「私のせい?気が狂ったんじゃないのか?
この私がなんでギリシャのことなんか知るものか
私があんたの父親をそそのかして城を敵に売らせたり、裏切らせたりしたというのかね」
「かげで口火を切ったのはお前だ!」
「私が!」
「そうだ、あなただ、どこから秘密がもれた!」
「どこがって、ヤニナでしょうよ」
「父のことを誰がヤニナに問い合わせたんだ!あなただろう!」
「たしかに書きましたよ
娘を嫁にやるときに父親がする当然の行為でしょうよ
でもね、誓っていいますがね、私はヤニナへ手紙を書こうなどてんでおもいつかなかった
アリ・パシャの悲惨な最期など私が知るわけないでしょうが」
「誰かに言われたのか?」
「あなたのお父さんがどうやって財を成したか、今もってわからぬと言ったら、その人がどこで財を成したのかと聞くから、ギリシャだと答えた
そしたらその人が、じゃあヤニナへ手紙を書けばいいと言ったんですよ」
「それは誰なんです?」
「モンテ・クリスト伯爵ですよ」

アルベールとボーシャンは顔を見合わせた
ダングラールによると、ヤニナからの返事をモンテ・クリスト伯爵にも見せたと言う
伯爵はモルセール父がフェルナン・モンデゴという名であることも知っていると言う

ヤニナからの返事が届いた翌日、モルセールさんがモンテ・クリストさんにすすめられて、正式に娘をくれといって来たが、当然お断りした
モルセール氏の名誉・不名誉など私になんのかかわりがある?
そんなもので私の収入が増えるわけじゃない

アルベールはモンテ・クリスト伯爵邸でエデの話を聞いたときのことを思い出していた
モンテ・クリストはすべてを知っていたのだ

4114うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 17:59:51 ID:LNssCYN6
モンテ・クリスト邸へ向かうアルベールとボーシャン
だが、モンテ・クリストは不在だった

帰宅後、アルベールは母メルセデスに言った
お母さんはモンテ・クリスト伯爵が我が家で何も口にしないと言ってましたね
東洋の連中は心おきなく復讐ができるように敵の家では何も食べず、何も飲まないのですよ

モンテ・クリスト様がわたしたちの敵だというの?
あの方とは仲良くしてほしいの、アルベール

アルベールは皮肉な微笑みを浮かべた
__
その夜のオペラ座
アルベール、ボーシャン、シャトー・ルノー
3人はモンテ・クリストの桟敷席へと向かう
彼らが扉を開けたとき、モンテ・クリストの心構えはすでにととのっていた
同席していたマクシミリヤン・モレルは嫌な予感がした

わが騎士がついにゴールインということですね
ようこそ、モルセール君

我々は偽善的な社交辞令や、心にもない友情の言葉などを交わしにきたのではありません
伯爵、我々はあなたに弁明を求めにきたのです

まさかオペラ座で弁明を求められるとは思ってもみなかったな

しかし居留守を使って会いもしない相手と会おうとするなら、会えるところに行くしかないからな

私に会うのはそんなにむずかしくはありませんよ
現にあなたは昨日まで私のところにおられたはずだが?

昨日は・・・あなたがそんなに腹黒い人だとは知らなかったからですよ

それでもあなたは社交界の人士ですか
とても良識ある態度とはいえませんね
大声でわめきすぎる
ここは私の桟敷席だ
私だけが他人よりも大きな声を出す権利を持っている
帰りたまえ

ぼくはあなたをこの桟敷席から出してみせる!
アルベールは震える手で手袋をにぎりしめながら言った
伯爵はそれを見逃さなかった
(^^)/ 手袋を相手に投げつけるのは決闘の合図(^^)/

なるほど
挑戦する際にやたらと騒ぎ立てるのは君の悪い癖だ

アルベールは手袋を伯爵の顔に投げつけようとしたが、モレルがその手を押さえ、
ボーシャンとシャトー・ルノーは後ろから引き留めた
だがモンテ・クリストは座ったまま、ただ片手を伸ばし、アルベールの握りしめた指の間の
くしゃくしゃになった手袋を掴んだ

私はあなたの手袋が投げつけられたものとみなします
私はそれに弾丸をくるんでお返ししよう
さあ、ここから出て行ってください
さもないと放り出させますよ

ぞっとするような声音であった

4115うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 18:00:27 ID:LNssCYN6
マクシミリヤン・モレルは伯爵にたずねた
いったい彼に何をしたのです?

私がかね?少なくとも個人的には何もしていない
あの青年はモルセール伯爵の件で頭に血がのぼっているんだよ

あなたはあの件とかかわりが?

議会で証人に立ったのはエデなのだ
あの娘がアリ・パシャの娘であることは事実なのだ

アルベールをどうなさるのです?

彼をどうするか、だって?
私は明日10時までに彼を倒す
それが私のすること

ああ、伯爵、彼のお父さんは彼のことをあれほど可愛がっているのです!

そんなことを私に言うな!
あいつを苦しめてやるのだ!

マクシミリヤンはあっけにとられた
そのとき扉がまた叩かれた
ボーシャンだった

こんばんは、ボーシャン君、まあお座りなさい

さきほどのアルベールの態度は良くなかった
ですから僕は自分の判断でお詫びにきたのです
でも、紳士であるあなたはヤニナの件で説明なさることを拒否なさらないと思うのですが

私は君たち新聞記者が書きたてるように、変り者なんですよ
説明?
とんでもない、ご冗談でしょう

しかし、ときには誠実さというものが・・・

ボーシャン君、
モンテ・クリスト伯爵に命令できる者はモンテ・クリスト伯爵なのだ
だから、そのようなことは一切口にしないでもらいたい
私はしたいことをする
そして私はつねに、ものの見事にやってのける

それではあとは決闘の取り決めをするだけです

あなたが介添え役を務めるあの青年に侮辱されたのは私のほうだが、
どうせ変り者の私のこと、武器の選択は任せますよ
剣だろうがピストルだろうが、なんだったら、くじによる決闘でもかまいませんよ
どのように決まろうと、これだけは変わらない
私は必ず勝つ

必ず勝つ?

そうです、私はモルセール君を倒す
そうしなければならないのです
必ずそうなります

武器はピストル、場所はヴァンセンヌの森です

結構です
あとは静かに音楽を聴かせてください
君の友人アルベール君にお伝えなさい
今夜また来るような馬鹿な真似はするなと
あんな馬鹿で粗野な真似は彼のためにならないと
帰って寝ろ、とね

ボーシャンは出て行った

4116うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 18:00:59 ID:LNssCYN6
伯爵はモレルに言う
君とエマニュエルに介添えを頼めるかな

もちろんですよ
でも僕が本当の原因を知ることが必要だと思うのですけれど

本当の原因かね?
あの青年自身、盲のまま歩いているのだ
真の原因など知らずに
真の理由、をれを知っているのは私と神だけだ
だが、誓って言うが、それをご存知の神は私たちの味方になってくださるだろう

4117うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 18:01:31 ID:LNssCYN6
その夜
モンテ・クリストは室内で射撃のできる特製の銃で射撃の練習をしていた
召使が来客を告げた
訪問者はメルセデスだった

「エドモン、私の子どもを殺さないで」
「なんという名を口にされたのです、モルセール夫人?」
「エドモン、メルセデスです」
「奥さん、メルセデスは死に、いまではそんな名前の人を私は知りません」
「メルセデスだけはあなたにお会いしたときすぐにあなただとわかりました
いえ、エドモン、お声の調子だけであなただとわかりました
私には、モルセールに加えられた攻撃が誰によるものかなどと考えてみる必要はありませんでした」
憎悪のこもった声でモンテ・クリストは言った
「フェルナン、とおっしゃいなさい
我々はいま、すべての名前を思い出そうとしているのですから」
「お願い、私の子どもの命を奪わないでください」
「フェルナンの倅が公衆の面前で私に手袋を投げつけるところだったのを見たでしょう」
「父親を襲った不幸をもたらしたのがあなただということをあの子も見抜いたのです」
「私がモルセールを叩きのめしたのではなく、神が彼を罰したのです」
「なぜあなたが神の代理をするの、エドモン、あなたになんのかかわりがあるのです
アリ・テベレンを裏切ったからといってフェルナン・モンディゴがあなたに何をしたというの」
「おっしゃるとおり、その件はフランス士官とヴァジリキの娘との間のことで、私には何のかかわりもない
私が復讐を誓ったのは、漁師フェルナン、カタロニアの娘メルセデスの夫に対してだ」
「ああ、もしあなたが誰かに復讐しないといけないのなら、その相手は私です
あなたがいなくなって、ひとりぼっちに耐えられなくなった私に対してなのです」
モンテ・クリストは叫んだ
「だが、なぜ私はいなくなったのだ?あなたがひとりぼっちになったのはなぜだ?」
「あなたが逮捕されたからですわ、エドモン、牢に入れられたからです」
「では、私はなぜ、逮捕された?牢に入れられた?」
「それは、私は存じません」

そう、あなたはご存知ない
少なくともそうあって欲しいと私は思う

モンテ・クリストはボヴィル氏の書類ばさみから手に入れた手紙をメルセデスに見せる
ダングラールが書き、フェルナンが検事へ密告したあの手紙である

この手紙がもたらした結果は?

私は逮捕された
だが、あなたが知らないのはその期間だ
14年間、あなたから1キロしか離れていないシャトー・ディフの地下牢で
毎日毎日復讐の気持ちを新たにしながら
しかし、私は知らなかった
あなたはフェルナンの妻となり、父は餓死していたとは
私は、私は復讐してみせる

あなたは、あのフェルナンがたしかにそれをしたとお思いなの?

私の魂にかけて、そうです
フランスに帰化しながら英軍に走り、スペインの生まれでありながらスペイン軍と戦い、
アリに雇われながらアリを裏切り、殺したことにくらべれば
あなたが今読んだ手紙など恋の手管のだまし討ちにすぎない
その男と結婚した妻はこれを許すべきだろう
だがしかし
その女性と結婚するはずだった恋人には赦すことはできぬ
フランス軍は謀反人に復讐しなかった
スペイン軍は反逆者を銃殺にしなかった
死んだアリは逆臣を罰せない
だが私は神の恩寵により、墓穴から出てきた
私は復讐をしてその恩に報いねばならない

エドモン、あなたを今でも愛しているこの私のために許してください
メルセデスは跪いた
モンテ・クリストは彼女を椅子に座らせる
女の哀願の前に揺れ動くモンテ・クリストは自分の憎悪をかき立てようとする

私は復讐せねばならない
14年間苦しみ、14年間涙を流し、呪い続けたのだから
メルセデス、私は復讐せねばならない

復讐なさい!
でも、あの人とこの私に復讐してください!
あの子には復讐なさらないで!
エドモン、私の心の鏡にたえず映っているあなたの高貴で清らかな面影を曇らせないで!
祈ることと涙を流す以外に、この私に何が出来たでしょう
あなたが死体とすりかわり、海に投げ込まれたとき、あなたが発したという叫び声
私は10年の間夢に見続けたのです
岩礁のうえで妙な形の何かを揺り動かしている男たちの夢・・・
ああ、信じてください
たしかに私は罪深いけれど、私だってほんとうに苦しんだのです

あなたは自分のいない間に父親に死なれたことがあるか?
自分の愛していた女性が、自分が奈落の底で喘いでいるのに、
仇に手をさしのべるのを見たことがあるか?

メルセデスは絶望的な声音で叫んだ
ありません!
でも私は、私が愛していた人が、私の子どもの殺人者になろうとしている姿を見ました・・・!

嗚咽の声が伯爵の喉を引き裂いた
獅子は手なづけられ、復讐者は敗れた

4118うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 18:02:02 ID:LNssCYN6
よろしい、ご子息は生きながらえるでしょう

ありがとう、エドモン、やはりあなたは私が愛し続けていたとおりのあなたでした

死者は墓穴に戻りましょう
亡霊はまた闇の中へ帰るのです

何をおっしゃるの?

あなたがそれを命ずるのだから、死なねばならぬと言っているのです

どういう意味ですの?

わたしは公衆の面前でひとりの青年に挑戦された
メルセデス、あなたの次に私が最も愛したもの、それは私自身だ
つまり、私の誇りだ
決闘は行われる
ただ、大地が吸うはずだったあなたのご子息の血が流れる代わりに、この私の血が流れることになるだけだ

あの子は死なずにすむとおっしゃいましたのね
あなたは本当に立派な方、本当に偉大なことをしてくださった
私は苦しみのために年をとりました
昔あれほどあなたが見つめていてくださったメルセデスをもうあなたに思い出させることはできない
私は色あせ、目の輝きは失せ、美しさは消え、顔かたちは昔のメルセデスではありませんけれど、
心は昔のままの心だということが、やがておわかりになるでしょう
エドモン、もう私には神様にお願いすることなどありません
昔どおりのあなたに会えたのですもの
さようなら、エドモン、そして、ありがとう

4119うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 18:02:34 ID:LNssCYN6
何ということだ
あれほど時間をかけて用意し、あれほど苦労して建てた建造物が
ただ一吹きで崩れ去ってしまうとは・・・

馬鹿な!
あの青年のピストルの前に標的として立つという慈善行為をするとは・・・
モンテ・クリストはかねて用意の遺書に事の成り行きを明記しておいた
書斎の扉を開けると、エデが椅子に座ったまま眠り込んでいた

あのひとは、自分の息子のことを思い出した
それなのに私はこの娘のことを忘れていた
この娘を誰かに託さないと私は死ぬわけにはいかぬ
モンテ・クリストは遺書にさらに追記し、マクシミリヤン・モレル、その妹夫妻、エデに全財産を与えるとしたためた
そしてもしもマクシミリヤン・モレルが承諾してくれるならエデの夫となって欲しいと

決闘の朝
マクシミリヤンとその義弟エマニュエルがやってきた

マクシミリヤンはアルベールの命を守るため、伯爵に、彼の腕をねらってほしいと言う
モンテ・クリストは言う
あらかじめ言っておくが、モルセール君が私を倒すのだよ

混乱するマクシミリヤン
だが、モンテ・クリストは例によって多くを語らない
3人は決闘場へ向かう
その途中、モンテ・クリストはマクシミリヤンに、心に決めた女性はいるのか?とたずねる
いる、という返事にため息をつくのであった

決闘場へ着くと、ボーシャン、シャトー・ルノー、ドブレの姿
しかしなぜか、アルベールが居ない
10分ほど遅刻して、アルベールが馬を飛ばしてやってきた
居並んだ青年たちに集まってくれたことを感謝し、モレルにモンテ・クリストへの取り次ぎを頼む
「モレルさん、ぼくは皆の前で、モンテ・クリスト伯爵に申し上げたいことがあるのです」
伯爵はマクシミリヤンとエマニュエルに付き添われてアルベールから三歩の距離のところへ立った

諸君、もっと近くへ集まってくれないか
これからぼくが伯爵に申し上げることがどんなに奇妙に思えても、尋ねる人があればだれにでもそのまま伝えてほしい

ぼくはモルセール氏のヤニナにおける行動をあなたが暴露したことを非難し続けてきました
モルセール伯爵がたとえいかなる罪を犯そうとも、あなたにそれを罰する権利はないと思っていたからです
でも今は、あなたにその権利があることを知っています
ぼくを急ぎあなたにお詫びする気にさせたのは、フェルナン・モンデゴのアリ・パシャに対する裏切り行為ではなく、漁師フェルナンのあなたに対する裏切り行為です
ぼくは宣言します
あなたがぼくの父に復讐なさったのは当然であった
そして子としてのぼくは、あなたがそれ以上のことをなさらなかったことを感謝します

モンテ・クリスト伯爵は感謝の気持ちをこめて天を仰いだ
メルセデスの力を見たのであった
アルベールの求めに応じ、モンテ・クリストは手を差し出した

4120うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 18:03:06 ID:LNssCYN6
モンテ・クリスト伯爵が去ったあと、アルベールは友人たちに別れを告げた
彼はパリを去るつもりであった
屋敷へ戻り、自分の住まいである離れの中を片付け始める
母の肖像画をはずし、梱包した
気まぐれで集めた美術品や宝石類の目録を作り、机の上においた
誰も入室するなと命じておいたのに、召使が入って来た

何の用だ

申し訳ありません、モルセール伯爵様に呼ばれましたので、
子爵様のお言いつけを聞いてから伺おうと思いました
伯爵様は、私が決闘場へお供したことをご存知と思われます
なんとお答えいたしましょうか

ありのままを言え

では決闘は行われなかったと申し上げてよろしゅうございますね

ぼくがモンテ・クリスト伯爵にお詫びしたと言って来い

アルベールはまた目録の作成にとりかかった
ふと窓の外をみると、モルセール伯爵が馬車で出かけていくところだった
アルベールは母の部屋へ行った
メルセデスもアルベールとまったく同じことをしていたのであった

お母さん、ぼくは一文無しからの出発です
過去とは縁を切り、何も受け継ぎません
名前さえも

お前の良心の思う通りになさい
お前にはお友達がいるけれども、一時ご縁を絶つのです
でも望みを失わないでちょうだい

アルベールは辻馬車を呼びに行く
門前に馬車が止まり、アルベールが降りると、モンテ・クリスト伯爵の執事ベルトゥチオが
立っており、伯爵からの手紙をあずかっていた

アルベール
君がこれから何を実行しようとしているか、すべてわかっている
だが、母君には君の初めての努力に必ず伴うはずの貧困生活をさせてはならない
今日母君を襲った不幸は、母君が受けるいわれのないものであるから
24年前、私には婚約者がいた
この乙女に私は苦労して貯めた3,000フランを贈るつもりだった
父が住んでいたマルセイユのメラン小路の家の庭にこの宝物を埋めた
パリへ来る前にマルセイユに立ち寄り、今もなお宝はそこに埋まっていることを確かめた
私が生まれた日に父が植えたいちじくの木の下に・・・
いままた不思議なめぐりあわせで、この宝に同じ用途を見出したのだ

アルベールは手紙を読む母の表情をうかがっていた
「私はお受けします
あの方は、わたしの修道院入りの持参金を払ってくださる権利をお持ちなんですもの」

モンテ・クリスト伯爵は、エデとの再会に大きな喜びを味わっていた
数日前からモンテ・クリストは、この世にメルセデスは二人いるということ、自分もまだ幸せになれるのだということに気づき始めていた

ふたりの幸福は召使の声に邪魔されてしまった
「モルセール様がおいででございます」
「どっちだ?子爵か?伯爵か?」
「伯爵さまです」

4121うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 18:03:54 ID:LNssCYN6
「やはりモルセールさんでしたね
聞き違えたのかと思いましたよ」
「ええ、私ですとも
今朝あなたは倅と決闘をなさいましたな
倅にはあなたを倒す立派な理由がある」
「ええ、ありましたよ
ですがご子息は私と決闘しようとさえなさらなかった」
「しかし倅は、あなたが我が家を崩壊させようとしている原因とみなしておる」
「そうですな
ただし、それは二次的な原因であり、主たるものではない」
「あなたは倅に詫びをいれたか、言い訳をしたんだろう」
「詫びたのはご子息のほうですよ
この件には私よりも罪深い者がいると確信なさったのでしょう」
「それは誰かな」
「あの人の父親です」
「・・・わかった
だがその罪深い者が自分の非を認めようとは思っておらぬことをご存知でしょうな」
「存じております
だからこういうふうになることを私は予想していた」
「倅が卑怯者になることを予想していたというのか!」
「アルベール君は卑怯者ではありません」
「いやしくも剣を持つ者が不倶戴天の敵の前で戦わぬなど、卑怯というほかはない
ここにあれがおれば、そういってやるのだが」
「そんなことはご子息におっしゃるんですな」
「わしはあんたがどうも好かん
貴様を以前からずっと知っておって憎み続けてきたような気がする
われわれが決闘するほかはない、と言いにきたのだ!」
「いいでしょう」
「では、でかけましょう
介添え人などわしらにはいらんからな」
「たしかに、無用ですな
よくよく知り合った仲ですから」
「いやいや、まったく知らない間柄だからだ」
「ほう?
ワーテルローの戦いの前夜脱走したフェルナン
スペインでフランス軍の案内役とスパイ役を務めたフェルナン中尉
恩人のアリ・パシャを裏切り、暗殺したフェルナン大佐
ではないのですか
そういうフェルナンが一緒になって陸軍中将、貴族院議員モルセール伯爵が作り上げられたのでしょう」
「このわしを咎めだてしおって!
わしのほうは貴様など知らぬわ!
金銀宝石をじゃらつかせるペテン師め!
パリではモンテ・クリスト伯爵、イタリアでは船乗りシンドバッド、マルタでは・・・
だが、わしが訊きたいのは本名だ
貴様の心臓に剣をぶちこむときにその名を言ってやれるようにな!」

モンテ・クリストはいきなり隣室へ飛び込むと、船乗りの着る上着、水夫帽に着替えて、ふたたびモルセールの前に姿を現し、詰め寄った
「フェルナン!
お前は思い出せるはずだ
俺のフィアンセのメルセデスと結婚して以来、夜ごとに夢に見たはずのこの顔を!」
将軍は頭をのけぞらせ、口もきけずにたちすくんでいた
「エドモン・ダンテス!」
モルセールは後ずさりしながら壁にぶつかるとそのまま壁伝いにずるとずると扉へとたどりつき、ふらふらと歩きながら馬車へとたどりついた
「邸へ、邸へ・・・」

4122うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 18:04:28 ID:LNssCYN6
邸の少し手前で、モルセールは馬車をとめさせた
中庭には辻馬車が一台とまっていた
彼は自分の部屋へ急いだ
人が二人階段を降りてくる
メルセデスとアルベール
モルセールはカーテンのかげに隠れた
「元気を出すんです、お母さん
ここはもうぼくたちの家ではないんです」
足音は遠ざかる
モルセールは嗚咽をこらえていた
彼はこの世で愛したものの姿を見ようと窓辺へ走った
しかし、馬車の窓から、ふたりが最後のまなざしを送ることはなかった
轍の音が敷石にこだまする
一発の銃声が響き、爆風で破れた寝室の窓ガラスから一条の黒い煙が流れ出た

4123うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 21:34:37 ID:LNssCYN6
モンテ・クリストと別れたマクシミリヤン・モレルはヴィルフォール邸へ向かった
外階段からノワルチエの部屋へ
ノワルチエとヴァランチーヌはモレルに週2回の訪問を許していた
「ヴァランチーヌ、どうも近頃、君は顔色が悪いようだよ」
「身体がだるくて食欲がないの
お祖父さまの水薬を毎朝一さじ飲んでいるのだけれど
一さじから始めていまでは4さじ
お祖父さまにいわせると何にでも効く薬なんですって
すごく苦い薬なの
さっきも砂糖水を飲んだんだけど、半分残してしまったの 
すごく苦く感じたの」
ノワルチエはヴァランチーヌに急いで話したいという合図をした
ところが、ダングラール母娘が訪問してきたために、ヴァランチーヌは出迎えねばならなくなった
彼女はなんとなくめまいを感じていた
ダングラール夫人とウジェニー嬢はアンドレア・カヴァルカンティとの結婚を報告に来たのであった
具合の悪そうなヴァランチーヌに、ヴィルフォール夫人は、下がって休みなさい、という
「ほんとに可哀想な娘で
私、あの娘になにか大変なことが起こりはしないか心配していますの」
夫人はダングラール母娘にそう言った

階段でヴァランチーヌは足を踏み外し、マクシミリヤンはあわてて彼女を抱き上げてノワルチエの部屋へと運んだ
彼女は痙攣をおこし、頭をのけぞらせると動かなくなった
ノワルチエのまなざしを見て、マクシミリヤンは呼び鈴を鳴らし、わきの小部屋に隠れた
駆けつけた召使は大声で助けを呼んだ
書斎からヴィルフォール検事の叫び声が聞こえた
駆けつけたヴィルフォールはヴァランチーヌを腕に抱いた
そしてダブリニー医師を呼ぶべく部屋を出て行った
マクシミリヤンは小部屋から出てくると、老僕バロワが亡くなったときと同じだと感じた
そしてモンテ・クリストの言葉を思い出していた
「何か困ったことがあったら、マクシミリヤン、私のところへ来るのだ」

4124うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 21:35:57 ID:LNssCYN6
ヴィルフォールはダブリニーの家へ飛び込んだ
「私の家は呪われている!」
「なんだって!また病人が出たのか!」
「ヴァランチーヌだ!こんどはヴァランチーヌだ!」
「あの娘がか」
「ああ、これであの子への君の疑いは晴れただろう!」

同じころマクシミリヤン・モレルはモンテ・クリスト邸の門をたたいていた
モンテ・クリストはベルトゥチオからの手紙を読んでいるところだった
「どうした、マクシミリヤン、顔は青いし、額から汗がながれている」
「死神が入り込んだ家から駆けつけてきたんです」
「ではモルセールの屋敷から来たのかね」
「いいえ、誰かなくなられたんですか」
「将軍がいま自分の頭を撃ちぬいたよ」
「ああ、それはひどい不幸だ」
「君の話に戻ろう、どうしたんだね」

マクシミリヤンは、サン・メラン侯爵夫人が死んだ夜、ヴィルフォール邸の庭で、その死因は毒殺であるというヴィルフォール検事と医師ダブリニーの密談を立ち聞きしてしまった話をする
医師ダブリニーは捜査をすべきと主張したが、検事は拒否した、と

モンテ・クリストは当事者が見たがらぬものはほっておけ、と冷たく言い放ち、マクシミリヤンは驚く
「でも伯爵、また起こっているんですよ!」
「勝手にやらせておけ、あの家は神が罰し給うのだよ
彼らはみなこの世から消えるのだ
サン・メラン侯爵、侯爵夫人、つい先日はバロワ、そして今日はノワルチエ老人かヴァランチーヌだ」
「あなたはそれを知っていながら何もおっしゃらなかった!」
「私になんのかかわりがある?
あの事件の犯人と被害者と、そのいずれかを大事に思う心など私にはないからね」
「でも、僕は、僕は、あのひとを愛しているんです!」
「君が愛している?誰を?」
「僕は今殺されようとしているヴァランチーヌ・ド・ヴィルフォールを愛しているんです
だから僕は神に、あなたに、どうすればあのひとを救えるかお尋ねしているんです!」
「馬鹿者!君はあの呪われた一族の娘を愛していたのか!」
モンテ・クリストは目を閉じ、しばし沈思黙考していた
「いいかね、モレル、私の言うことを良く聞きなさい
もし現在ヴァランチーヌが死んでいなければ、彼女は必ず助かる
君はこのまま家へ帰りたまえ
一歩も外へ出るな
私からの便りを待ちなさい」

4125うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 21:36:43 ID:LNssCYN6
ヴァランチーヌは気を失ってはいたが、生きていた
ダブリニーは彼女が生きていたことに驚く
「娘は助かるのか?」
「助かるよ、生きているからね
ヴァランチーヌの小間使いを呼んできてくれ」
ヴィルフォールが部屋をでていった
ダブリニーとノワルチエの視線がぶつかった
「なにかおっしゃりたいことがおありですか?」
『そうだ』
「わたしだけにおっしゃりたいですか?」
『そうだ』
ヴィルフォールが小間使いを連れて戻って来る
そのあとにヴィルフォール夫人が続いた
ダブリニーはノワルチエを観察していた
ノワルチエの目が丸く見開かれ、ダブリニーが追ったその視線の先にはヴィルフォール夫人がいた

ダブリニーは必要な処置を済ませると、ノワルチエとふたりきりになった
「あなたはお孫さんの病気についてなにかご存知なのですね」
『そうだ』
「あなたは今日の事件を予想なさっていた?」
『そうだ』
「あなたは、バロワは毒殺されたとお考えですか?」
『そうだ』
「はじめからバロワを狙ったとお思いですか?」
『思わぬ』
「別の人間を殺そうとしてバロワを殺してしまった人間が今回ヴァランチーヌを殺そうとしたとお考えですか?」
『そうだ』
「ではあの娘も死ぬでしょうか?」
ダブリニーは探るようにノワルチエを見つめた
『いや』
ダブリニーは驚いて言った
「犯人があきらめると思うのですか?」
『いや』
「では、毒物がヴァランチーヌは効かぬだろうと思うのですか?」
『そうだ』
ダブリニーは不意に思いついた
「あなたは、あの娘を毒に慣れさせていたのですね!」
『そうだ、そうだ』
ノワルチエはその目的で、ダブリニーに処方された水薬をヴァランチーヌに飲ませていたのだった
ヴィルフォールが薬を手に戻ってきた
「この薬は君の目の前で調合されたね?その後君の手から離れていないね?」
「もちろんだ」
「よし、ヴァランチーヌの部屋へ行こう」

ちょうどその頃、ヴィルフォール邸に隣接するぼろぼろの家をひとりの僧が借りようとしていた
どのような取引でそこに住んでいた住人が2時間後に引っ越していったのかはわからなかった
新たな借り手の名はジャコモ・ブゾニ
直ちに職人が呼ばれ、その家の土台から修理を始めた

4126うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 21:37:50 ID:LNssCYN6
さて少し時間は巻き戻って
ダングラール家では父と娘の話し合いが行われようとしていた

「あの気違い娘のやつがなんだってこのわしに話などしたいのだ?」
ウジェニーに待たされているダングラール
(^^)/ 父と娘の関係が手に取るようにわかる発言です(^^)/

お父様、お待たせしました、とやってくるウジェニー
「わたくしはアンドレア・カヴァルカンティ伯爵とは結婚いたしたくございません」
椅子の上で跳び上がるダングラール
「断る理由は何だ?ウジェニー、理由は?」
「私はどんな男の方も愛せないんです
どうして自分の一生を生涯の伴侶に縛られなくてはいけないのでしょうか
余計な荷物はすべて海の中へ捨ててしまいたいの
自分の意志だけを友として、完全に一人で生きていきたいんです
つまり完全に自由に」
「不幸な女だ、とんでもない奴だ・・・」
「その反対よ、私は幸せだわ
私に不足しているものってあるかしら
世間の人は私をきれいだと言ってくれるし・・・
あsdkfは;jlk;;以下略(^^)/ 」
「お前の性格を知っているから、率直に言おう
孫の中に自分の再生を見たいとか世間ではよく言うが、わしにはそんな弱さはない
家庭的な喜びなどにわしは関心がない」
「すばらしいわ、率直に話す、私そういうのが好き」
「わしはお前に一人の婿をすすめた
お前の為なんかではない、わしが確立しようとしている取引のためだ
あの婿をできるだけ早くおまえが迎え入れてくれることが必要だからだ
カヴァルカンティさんは、結婚すればお前に300万の持参金をくれる
この金を少なくとも1000万を生み出すために使う
鉄道投資だ」
「でも一昨日、お父様のお部屋へ行ったとき、金庫へ入れる550万の債権をお父様は私に見せてくださったじゃないの」
「あの550万はわしの金ではない
養育院の金なのだ
普段の時ならこの金を躊躇なく使うところだが、世間はわしが大損をしたことを知っておる
以前のような信用はなくなりかけておる
あの預金がすぐにでも要求されてしまえば、わしは支払い停止だ
お前がカヴァルカンティさんと結婚し、わしがあの人の持参金を手にするか、近く手にすると世間が思えば、わしの信用はまた高まり、二か月前からそうにも不可解な不運に見舞われ地に落ちた財政状況も元通りにというわけだ」
「私を300万の担保にしようというわけね」
「金額が多いほどおまえの自尊心も満足だろう」
「いいわ」
「なにがいいのだ、どういう意味だ」
「私が結婚契約に署名して、それで私の身は完全に自由にしてくださるんでしょうね」
「完全に」
「それなら、いいわ
いつでもカヴァルカンティさんと結婚します」
「おまえ、何を考えている」
「あら、それは秘密よ」
(^^)/ この後、ウジェニーはダングラール夫人とともにヴィルフォール家へ向かったわけです

4127うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 21:38:57 ID:LNssCYN6
ウジェニーとアンドレア・カヴァルカンティの結婚契約の日
アンドレアがモンテ・クリストの屋敷へやってくる
「こんにちは、モンテ・クリストさん」
「おお、アンドレアさん、お元気ですか」
「今夜9時に結婚契約が行われるのです、ご存知でしょうけど」
「ほう、そうですか」
「えっ、ご存知ない?ダングラールさんから通知が来ませんでしたか」
「通知は来ましたけど、時間は書いてなかったなあ
カヴァルカンティさん、うれしいでしょう?
ダングラール嬢は美人だし、それに大へんなお金持ちだし」
「そう思われますか?」
「聞くところでは、ダングラールさんは財産の半分は隠してるという話ですし、
鉄道にも乗り出すと聞いてます
すくなくとも1000万は儲けるでしょうな
アンドレアさん、あなた、いささかうまく立ちまわりましたな」
「まあ、そうですね
でもこの件では、あなたから、僕が不思議な助力を得ています」
「私から?冗談じゃない
ブゾニ神父とウィルモア卿から引き合わされただけですよ
私は個人的にはあなたのことは何も知りません」
「実はお願いがありまして」
「私に?ほほう、どんなことでしょう」
「今日の契約式で父の代わりになっていただきたいんです」
「あなた、まだ私という男がわかっておられませんね
この世のことに、とくに精神的にかかわりあうことはモンテ・クリスト伯爵という男は常に慎重なのですよ」
「ではお断りになるのですか」
「はっきりお断りします」
アンドレアは仕方なくあきらめた

4128うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 21:40:39 ID:LNssCYN6
その夜、ダングラール邸にはきらびやかに着飾った人々が多数集まった
アンドレアとウジェニーの結婚契約式である
ドブレ、ボーシャン、シャトー・ルノー
ヴィルフォール夫人
そしてモンテ・クリスト伯爵

夫人がダングラールに言う
「あなた、残念ですわ
モンテ・クリスト伯爵様があやうく殺されかけたあの事件で思いがけないことが起きて、
ヴィルフォールさんは来られないのですって」
「そいつは残念だな」

モンテ・クリストは言った
「ヴィルフォールさんが来られないのは私のせいじゃないかと心配です」
「まあ、伯爵様が?」
アンドレアは耳をそばだてていた
「私の屋敷に入った泥棒が死んだのは屋敷を出たところをどうやら仲間に殺されたらしくて」
「ええ、覚えてますよ」
「その男を介抱するために服を脱がせたのですが、その服を隅に放っておいたのを当局が証拠品として持って行ったのですが、ズボンと上着だけで、チョッキを忘れていったのですな」
アンドレアは青ざめながらドアへとにじり寄った
「そのチョッキが今日みつかりまして、心臓のところに穴の空いた血まみれのが・・・
私はたぶんこれは殺された男のものではないかと思ったわけです
で召使に調べさせると、ポケットから紙きれが出てきたのですよ
手紙でした
誰宛てだったと思います?
ダングラールさん、あなた宛てですよ」
「なんだって?」
「わたしはそのチョッキと手紙を検事さんのところへ届けました
これはあなたに対する何かの悪だくみかもしれませんよ」
アンドレアは隣のサロンへ姿を消した
「かもしれませんな、その殺された男はたしか前科者でしたな」
「そう、カドルッスという名前です
しかし、とにかく、契約の署名をなさってください
私のおしゃべりがみなさんを騒がせてしまいました
奥さん、お嬢さん、申し訳ありません」
ダングラール夫人が署名を終えた
「カヴァルカンティ侯爵様」公証人が呼んだ
「カヴァルカンティ公爵様、どこにおいでですか」

4129うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 21:43:15 ID:LNssCYN6
突然、人の波がなだれこんできた
憲兵士官と警察署長がダングラールのもとへやって来たのである
「いったいどうしたというのですか」モンテ・クリストは言った
署長は答えず言った
「みなさんのなかで、アンドレア・カヴァルカンティというのはどなたです」
「いったい、どうしたのです」ダングラールはうろたえた
「ツーロンの監獄を脱走した前科者を捕らえにきました
そして奴は囚人仲間のカドルッスという男をモンテ・クリスト伯爵邸から出たところを殺害した罪で告発されています」
アンドレアの姿は消えていた

(^^)/ どさくさにまぎれて、ウジェニーは音楽仲間のルイーズと“駆け落ち”します
(^^)/ アンドレアは逃げまくりますがついに捕まり、投獄されます
このくだりはどうでもよいし、つまらんので割愛します

4130うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 21:44:31 ID:LNssCYN6
ダングラール氏は額に汗し、破産という亡霊の前に莫大な赤字の欄とにらめっこ中
ではダングラール夫人は?

ダングラール夫人はこの悲喜劇に打ちのめされ、いつもの助言者であるリュシャン・ドブレに会いに行った
じつのところ、彼女はこの結婚で、母親としての務めを放棄できるとあてにしていた
ウジェニーの結婚が駄目になったのが心の底から残念だった
この結婚が自分に自由を返してくれるはずだったから・・・
しかしドブレは留守であり、夫人は帰宅した

あの事件が世間に広まれば、私たちの面目はまるつぶれだわ

夫人はヴィルフォールのことを考える
昔のことを持ち出してみよう
事件をもみけしてくれるだろう
あるいは少なくともカヴァルカンティをこのまま見逃してくれるかもしれない

翌朝、ダングラール夫人はヴィルフォール邸を訪れた
召使はなかなか取り次がない
毒殺事件のために人の出入りを厳重にしているためであった
ヴィルフォールは悲痛な笑みを浮かべて夫人を迎えた

「あなたからあのペテン師の事件がどうなっているのかお聞きしようと思って伺ったのです」
「ペテン師?アンドレア、いやベネデットは正真正銘殺人犯ですよ」
「そうです、そうですけれど!
あなたがあの男に敵意を燃やせば燃やすほど、私どもの家庭をうちのめすことになるのです
あの男のことはしばらくお忘れになってください」
「もう命令は出されたのです」
「あの男は捕まるでしょうか」
「そう願っています」
「もし捕まえたら、あの男を牢屋に入れっぱなしにしておいて!」
「できない
裁判には定められた手続きというものがある」
( ゚Д゚)お、おまえが言うか( ゚Д゚)
「私のためにでも?」
「誰のためでも、私自身のためであろうと他人のためであろうと」
「・・・」
「あなたは今こう思ったのではないか?
ではなぜおまえの身の回りで起こっている犯罪を罰せずにおくのか、と」
「ええ、そのとおりですわ」
「それは・・・
犯人がわからないからだよ・・・
真犯人の首ではなく、無実の者の首を切り落としてしまうことを恐れるからだ
犯人がわかったときには、それが誰であろうと、必ず死刑に処す
さあ、これでもあなたはあのならず者を見逃せと私に言うのですか」
「でも、あの男が言われているほどの悪人だと確信があるのですか」
「ここに書類がある
ベネデット
16歳で偽造の罪で5年服役、そして脱走、殺人
コルシカの浮浪児だ
両親もわからん」
(^^)/ あなた方の子どもです〜(^^)/
「ヴィルフォール、あの男の汚辱が私たちの家に降りかかるんです!」
「私の家には死神がいる」
「ああ、あなたは、本当に冷酷な方だわ!
私はあなたに対して同情などいたしません!」
「よろしい!
私は仕事をして何もかも忘れたいのだ!」

召使が知らせを持ってやってきた

「つかまえたぞ!」

ダングラール夫人は冷ややかに言った「さようなら」
検事はむしろ楽しそうに言った「さようなら、さあ、この公判は見ものだぞ」

4131うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 21:46:56 ID:LNssCYN6
ヴァランチーヌはまだ回復していなかった
昼間はノワルチエが付き添い、夕方からはヴィルフォール、ダブリニー、看護婦と見張りはひきつがれていた
ヴァランチーヌが眠ると看護婦は部屋の鍵を閉め、ヴィルフォールにその鍵を渡す
それ以後、病人の部屋にはヴィルフォール夫人の部屋とエドワールの部屋を通らなければ入れなくなる

その夜、ヴァランチーヌは意識朦朧としたまま寝付けずにいた
突然、彼女は暖炉の脇の窪みに置かれた書棚の扉がゆっくりと開くのを見たように思った
また亡霊をみているのかしら、わたし・・・
書棚から出てきた男は水薬のコップを手にして明かりのほうへ近づき、仔細に調べて、スプーンで一杯ほどの量を自分で飲んだ
「大丈夫だ、お飲みなさい」
「モンテ・クリスト伯爵さま!」
「こわがらなくてもよい
私はマクシミリヤンのために、4日前から目を離さずあなたを守ってきた」
「ではマクシミリヤンはあなたに何もかも打ち明けたのですね」
「あなたの命は僕の命だ、と言っていたよ
だから私はあなたを助けてみせると約束したのだ
あの書棚のうしろは私が借りた隣家に接しているのだ
私はあの扉の影から、どんな人間があなたのもとへやってくるか、
どんな飲み物をもってくるか、見張っていた
そして先ほどのように調べて危険な飲み物だと判断したときは
あなたに仕組まれた死の危険を避けるために身体に良い飲み物とすりかえてきたのだよ」
「死!いったいどういうことなのでしょうか」
「あなたに死をもたらす飲み物を運んできた者が誰なのか、私は知っている」
「ああ、私は熱に浮かされて幻を視ていると思っていました」
「もうすぐ12時だ
人殺しが出てくる時間だよ
今夜のあなたははっきりと目覚めている
眠ったふりをするのだ
ぴくりとも動いてはいけないよ」
伯爵は扉の向こうに姿を消した

4132うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 21:48:10 ID:LNssCYN6
ヴァランチーヌはエドワールの部屋の床がきしむ音が聞こえたように思い、息を殺した
ドアが開く
ヴァランチーヌにはとっさに目を腕で覆い隠すほどの余裕しかなかった
ヴァランチーヌ・・・ヴァランチーヌ・・・
呼びかける低い声
コップになにかを注ぐ音
ヴァランチーヌは思い切って腕のしたで薄目を開けてみた
白い部屋着を着た女
ヴィルフォール夫人だった

書棚の扉を開けてモンテ・クリストが姿を現した
えt
「見たかね」
「ええ、でもとても信じられません」
「ヴァランチーヌ、あなたを狙う手はどこまでもあなたを追いつめるだろう」
「でも私の身体は毒に慣れているのでしょう?」
「毒を代えtくるかもしれない
ほら、もうやっているよ
これはブルシンではない、麻酔剤だ
これを飲んでいたら、あなたは死んでいた」
「あの人はどうしてこんなことを?」
「それがわからないとは、あなたは優しい人だね
全財産をエドワールに相続させるためだよ」
「では私はどうしても殺されてしまうのですね」
「ヴァランチーヌ、あなたは愛し、愛されるために生きなければならぬ
だがそのためには私を心の底から信頼しなければならぬ
私が与えるものを、目をつぶって飲むことだ」
「父は共犯ではありませんでしょう?そうですわよね?」
「違う、だが・・・
本来、ここで私の代わりにあなたを見張っているべきなのはお父上なのだよ」
「伯爵様、お祖父さまとマクシミリヤンのために私は生きます」
「私はその二人にも、あなたと同じように、目を離さないと約束する」
「では私をどうにでもなさってください」
「ヴァランチーヌ、苦しくなっても、視覚、聴覚、触覚が無くなっても、
何も怖がらなくていい
たとえ、目覚めてみたらそこが棺の中であったとしても、私が見守っていることを信じなさい」

モンテ・クリストはヴァランチーヌに豆粒ほどの錠剤を飲ませた

4133うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 21:52:51 ID:LNssCYN6
エドワールの部屋の扉がまた開いた
ヴィルフォール夫人が毒薬の効果を確かめにやってきたのである
夫人はコップの中味を灰の中へ捨て、ハンカチで丹念にふいた
毛布をはねのけて娘の心臓の上に手を置いた
心臓は音をたてず、冷え切っていた

朝が来た
看護婦がヴァランチーヌの部屋へやってきた
すさまじい悲鳴

ヴィルフォールとダブリニー医師が駆けつける
「ヴァランチーヌは死んだよ」
医師の言葉にヴィルフォールは崩れるように倒れ込んだ
ヴィルフォール夫人がやってきて空涙を浮かべようとしたそのとき、夫人の目は彼女が空にしたはずのコップにくぎ付けになった
なぜならコップのなかに液体が3分の1残っていたから・・・
ダブリニー医師の目はごまかせない
「これはブルシンではない」
ヴィルフォール夫人はよろよろと自分の部屋へ戻り、ドアの向こうで倒れたようである
ダブリニー医師はそんな夫人を扉を通して見つめながら、看護婦に夫人の手当をするよう指示した
死んだ、死んでしまった・・・ヴィルフォールは呻いた
「ヴァランチーヌが死んだなんて、誰が言ったんだ!」
第三の声が響いた
マクシミリヤン・モレルだった

4134うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 21:57:14 ID:LNssCYN6
その日もマクシミリヤンは、勝手知ったる階段を通って、ノワルチエの部屋を訪ねた
ノワルチエの様子がおかしく、心配事がある様子だった
呼び鈴を鳴らしましょうか、と彼が言うと
老人は激しくまばたきをした
しかし召使はやってこない
老人は目を飛び出させんばかりにうろたえている

いったい、どうなさったんです?
しかしなぜ誰も来ないのだろう・・・ヴァランチーヌは?

老人がはげしくまばたきをした
マクシミリヤンは部屋を飛び出した
ヴァランチーヌの部屋からヴィルフォールのうめき声が聞こえた

4135うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 21:58:39 ID:LNssCYN6
ヴィルフォールは立ち上がり、マクシミリヤンに言った
「どなたですか
死者のいる家にそのような訪れ方をするとは」

マクシミリヤンはヴァランチーヌの姿を見て、ふらふらと部屋を出て行った
ヴィルフォールとダブリニーは怪訝に顔を見合わせた
マクシミリヤンはは超人的な力でノワルチエを椅子ごと運んできて、変わり果てたヴァランチーヌの姿を見せる
ノワルチエの声なき叫びは全身から発散された
マクシミリヤンは叫び、ヴァランチーヌのそばに跪いてその冷たくなった手を握った
僕は、僕は、このひとひとのフィアンセです!
このひと亡骸は僕のものだ!
お祖父さまはすべてご存知だ!
どうか皆に説明してください!

ヴィルフォールは言う
「ヴァランチーヌに君のような人がいたとは、私は知らなかったよ
でも娘はもう、人間の愛を必要としていない
この娘に必要なのは司祭だ
最後の別れをいいたまえ」

モレルは立ち上がって言う
「それはちがう!
ヴァランチーヌは殺されたのです
ヴァランチーヌには仇を討つ者が必要なのです
ヴィルフォールさんは司祭を呼んでください
僕は仇を討つ!」

「それはどういうことなのだ」

「あなたには父親の役目と検事としての役目、ふたつの人格がおありだ
僕は自分で何を言っているのかよくわかっています
ヴァランチーヌは殺されたんです
僕はここに犯罪があると告発する
検事さん、犯人を捜してください」

ヴィルフォールはノワルチエに、ダブリニーに救いを求める目を向けた
しかし断固として肯定する目にぶつかっただけであった

「私の家で犯罪など起きてはいない!」
「僕は断言する
この4か月の間で4人目の被害者です
ヴァランチーヌ、君のお父さんが君を見捨てても、僕は必ず犯人を探し出す」

ダブリニーが言った
「私もモレルさんとともに犯罪を法的に究明することを求める」

ノワルチエが何か言いたい様子をみせた
モレルが言う
「犯人をご存知なんですか」
『そうだ』
「聞きましょう、ダブリニー先生、伺いましょう」
ノワルチエはモレルを射すくめ、ドアのほうを見た
「私に出ていけとおっしゃるのですか」
『そうだ』
「ああ、僕を憐れと思ってください」
以前、ノワルチエはドアのほうを見ている
「「せめてあとでまた来てもいいですか」
『いい』
「僕だけ出ていくのですか」
『いや』
ノワルチエはダブリニーを見た
「ヴィルフォールさんとふたりきちりになりたいのですね」
『そうだ』

4136うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 22:06:14 ID:LNssCYN6
15分後、ヴィルフォールはモレルとダブリニーを部屋へ迎え入れた

「おふたりに誓っていただきたい
この恐ろしい秘密は我々だけのものにしてもらいたいのだ
わかっている
犯人は必ず罰される
モレル君、父は犯人の名を明らかにしてくれた
その父もあなた方に秘密を守ってもらいたいと願っているからだ
そうですね?」
『そうだ』
「モレル君、父がこんなことを君に頼むのは、
犯人が凄まじい復讐

を受けると知っているからだ
そうですね?」
『そうだ』
「私に3日間の猶予をいただきたい
3日後には私は我が子を殺された恨みを晴らす
私の家の名誉を憐れみ、この復讐を私に任せると誓ってください」
ダブリニーは顔をそむけながら承諾した
マクシミリヤンはヴァランチーヌに最後の口づけをすると、部屋を飛び出していった

ダブリニーは司祭の手配をどうするかヴィルフォールに尋ねる
ヴィルフォールはなるべく近くの司祭が良いと答えたため、隣家に越してきた司祭を呼ぶことになった
ダブリニーは隣家へ向かう
玄関先にひとりの司祭が立っていた

司祭はヴァランチーヌのために祈りをささげ、老人に対してはその世話をしようと約束した
そしてヴァランチーヌの部屋とエドワールの部屋の間の扉に鍵をかけた

ブゾニ神父は夜明けまで祈りをささげ、帰っていった
ノワルチエは安心しきったように眠りについていた
かすかな微笑みさえ浮かべて・・・
ヴィルフォールはベネデット(=アンドレア・カヴァルカンティ)事件に一心不乱に徹夜で取り組んでいた
ヴァランチーヌの葬式の手配は従兄弟に任せ、仕事に打ち込んで悲しみをまぎらせるつもりだった

4137うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 22:09:43 ID:LNssCYN6
モンテ・クリストはダングラール邸を訪問した
ダングラールは暗いが愛想良く迎えた
「伯爵、モルセールは名誉を失い死んでしまうし、ヴィルフォールは家族が妙な死に方をするし、この私はあのベネデットにしてやられて世間の笑い者になるし、それに・・・」
「それに、どうしたんです?」
「娘のウジェニーは出ていっちまった」
「え、まさか」
「あの娘の性格じゃ、帰ってこいと言ったって金輪際聞きやしません」
「仕方ないじゃありませんか
でも子供だけが財産であるような文無しと違って、あなたは地位も財産もお持ちだ
耐えられなくはないでしょう?」
一瞬、からかわれているのかと思ったダングラールだったが、モンテ・クリストの人の良い微笑みに釣り込まれるように笑った
「そうですな、私には金がある
ところで申し訳ないが今、5枚の手形に署名をしなくてはなりませんでな
続きをさせてもらえますかな?」
「どうぞ、どうぞ 何の手形ですか?スペインの?」
「持参人払いの手形です フランス銀行のね」

モンテ・クリストはダングラールが得意満面で差し出した手形をしげしげと眺めた

『フランス銀行理事殿におかれましては、小生の請求により、小生の預金より、
現金にて百万フランお支払いくださいますよう 男爵 ダングラール』

「5枚で合計500万フラン!いやはやすごいやり口ですな!」
「私の仕事のやり方はこんなものですよ」
「いや、これがすぐ現金になるとすれば・・・」
「もちろん、なりますよ」
「5枚で500万フランですよ?自分の目で見ないことには信じられませんな」
「では家の店員を銀行へお連れください
目の前で見せてさしあげますよ」

4138うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/23(土) 22:19:17 ID:LNssCYN6
「いやいやそれにはおよびません
私が自分でやってみたいと思います
実は今日、どうしても金が必要でしてね
私がおたくに設定した信用は600万、すでに90万は受け取りましたから
残りは510万です
この5枚の手形をいただきましょう
受取もあらかじめ用意してきています」
と言いながらモンテ・クリストは5枚の手形をポケットに入れ、受取をダングラールに差し出した

たとえ足元に雷が落ちても、これ以上の恐怖をダングラールに与えはしなかっただろう

「な、なんですって!ああ、ご勘弁願います
それは養育院に返さねばならぬ金なのです
今日の午前中に返す約束をしたのです」
「ああ、それなら話は別です
私はこの手形に固執しているわけではありません
別の形でお支払い願いましょう
ダングラール銀行は5分と待たせずに現金で500万払ってくれたと世間に言ってやろうかと
思いまして
ではこれはお返しして、別のをいただきましょうか」
モンテ・クリストは手形をダングラールに差し出した
ダングラールはハゲタカのように手を伸ばそうとして急に思い直し、
やがて微笑みさえ浮かべて、顔つきもなごんできた
「実際のところ、あなたの領収書ならば現金も同然ですな」
「そうですとも、ローマのトムソン・アンド・フレンチ商会はあなたほど難色を示さずに支払いますよ」
「いや申し訳ありませんでした」
「ではこの手形はいただいてよろしいので?」
額の汗をぬぐいながらダングラール
「どうぞ、どうぞ」
「では、いただきます」
モンテ・クリストは手形をポケットにしまった
「が、しかしまだ10万残ってますな」とダングラール
「おお、そんなはした金、手数料としてとっといてください」
「伯爵、本気でおっしゃってるんですか」
「私は銀行家相手に冗談など言いませんよ」

4139うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/24(日) 10:11:39 ID:LNssCYN6
召使が告げた
「養育院の収入役、ボヴィル様がお見えでございます」

「ほう、どうやら私はまにあったようですな
あなたの手形の取り合いですね、これは」

モンテ・クリストは養育院の収入役と丁寧なあいさつを交わした
あのときと同じ書類ばさみを抱えたボヴィル氏とすれ違った彼の顔に微笑みが浮かんだ

「ダングラールさん、養育院の代理として参上いたしました
500万フランをいただきに伺いました」
「あ〜、ボヴィルさん、できれば24時間待っていただけませんか
先ほどあなたもお会いになったと思われるモンテ・クリストさんに500万払ったばかりでしてね
あの方はうちに無制限貸出の権利をお持ちなんです
一日でフランス銀行から1000万も引き出すのはちょっと異常に思われやしないかと・・・」
ボヴィル氏は疑惑の表情を浮かべながら言った
「おどろきましたな
あの、知己のごとく私に挨拶なさったあの方に500万お渡しになったとは」
「たぶん、あなたはご存知なくてもあちらではご存知なんでしょう
顔の広いお人ですからな」
「500万!」
「これがあの方の領収書ですよ」

『ダングラール男爵より、510万フラン受領しました
上記金額は、ローマのトムソン・アンド・フレンチ商会より随時返済されます』

「これは本当ですな」ボヴィル氏は言った
「トムソン・アンド・フレンチ商会をご存知で?」
「ええ、20万ばかし取引したことがありますが、その後あの商会の話は聞いたことがありませんな」
「ヨーロッパでも一流の商会ですよ」
「モンテ・クリスト伯爵という方は大金持ちなんですな」
「私のところと、ロスチャイルド、ラフィット、三つの無制限貸出の権利をお持ちなんです」
「一度、寄附のお願に上がらねばなりませんな
モルセール夫人と息子さんのお申し出を引き合いにだして・・・」
「ほう?」
「全財産を養育院に寄付なさいました
卑劣な手段で手に入れた金など欲しくないというわけですな」
「それはまたご立派ですな」
「ところで私どもの金の話に戻りましょうか」

4140うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/24(日) 10:13:47 ID:LNssCYN6
いとも自然にダングラールは言った
「結構ですな、その金はお急ぎになるので?」
「明日の二時に会計検査があるのです」
「それを早くおっしゃってくださいよ
では正午にとりによこしてください」
ボヴィルは書類ばさみをゆすりながら多くを答えなかった
「あ、いいことがあります
モンテ・クリストさんの受領書なら現金も同じですよ
これをロスチャイルドかラフィットに持ち込めば・・・」
「ローマ支払いでも?」
「もちろんです、ただ、5,6000割り引かれますが」
「とんでもない、明日まで待つほうがましです」
「いや、ひょっとして、あなたが欠損の穴埋めでもしなきゃならないんじゃないか、
とかふとそんな気がしてもので」
「何をおっしゃる!」
「まあまあ、こんなことは外に出ちまうもんですよ
多少の損はしなけりゃ・・・」
「ありがたいことに、そんなことはありませんね」

明日正午の約束をして二人は別れた

ボヴィルが部屋の外へ出るやいなや、ダングラールは叫んだ
「馬鹿め!
正午に来てみろ!わしはもう遠くへ行っておるわ」

4141うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/24(日) 10:15:06 ID:LNssCYN6
ダングラールはドアに鍵をし、金庫の中味をぶちまけ、書類を焼き捨て、
手紙を書き始めた
『ダングラール男爵夫人宛』
そして引き出しからパスポートを取り出した

4142うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/24(日) 10:16:14 ID:LNssCYN6
ヴァランチーヌの葬列が墓地へ到着し、葬儀は終了した
ひとりになったマクシミリヤン・モレルはヴァランチーヌの霊廟の前に跪く
モンテ・クリストがやってきた
マクシミリヤンは、一人にして欲しいと言い、モンテ・クリストはその場を離れるが、彼から目を離さない
マクシミリヤンは妹夫婦が待つ家へと帰った
モンテ・クリストは彼の妹ジュリーの許しを得て、マクシミリヤンの住む階へと向かう
「さて、どうしたものか
呼び鈴を鳴らすと、彼の決心を早めるおそれもある」
モンテ・クリストは窓ガラスを割り、カーテンをまくり上げた
ペンを手に机に向かっていたマクシミリヤンは驚いて立ち上がった
「いや、すまない、足元が滑って肘でガラスを割ってしまった
割れたついでに鍵を開けさせてもらうよ」
モンテ・クリストは手を入れてドアを開けた
マクシミリヤンは冷たく言った
「お怪我はありませんか」
「さあどうかな、ところで君は何をしていた?ピストルがあるね」
「旅に出ようと思って」
「モレル君、私は誤魔化されないよ、君は自殺しようとしている
これは遺書だな」
モンテ・クリストは机から書きかけの紙を取り上げた
「そうだったとして、誰が僕を止められますか!
僕の希望はすべてついえた
この世は灰になってしまった
死なせてくれなければ僕は狂ってしまう!
それでもそれは間違っていると、あなたにそう言う勇気がありますか!」
「ある」
「僕をだまし、馬鹿馬鹿しい希望を持たせたあなたが!
何か思い切ったことをすれば、僕はあのひとを救えたんだ!
あなたが僕を引き留めたから・・・
あなたは限りない英知と物質的な力あるようなふりをしているだけなんだ
自ら神の意志の役割を演じているふりをしているだけなんだ」
「モレル・・・」
「モンテ・クリスト伯爵よ、あなたは、友が死ぬのをその目で見るのだ」
マクシミリヤンはピストルに素早く手を伸ばした
モンテ・クリストはピストルに手を置き、言った
「私は繰り返すぞ、君は死なせぬ
この世のうちでただひとり、私は君にこう言える者なのだ
『モレル、私は君のお父上の息子が今日死ぬことを望まぬ』
とね」
「なぜ、父のことを・・・」
「それは、私が、今日君が自ら命を絶とうとしているようにお父上が自殺を決意なさった日に、お父上の命を救った男だからだ
君の妹に財布を送り、モレル氏にファラオン号をお贈りした男だからだ
君が子供の頃、君をこの膝の上で遊ばせた、エドモン・ダンテスだからだ」
マクシミリヤンは全身の力が抜け、モンテ・クリストの足元にひれ伏した
だが、すぐに起き上がり、階下へ向かって叫んだ
ジュリー、ジュリー、エマニュエル!

4143うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/24(日) 10:18:43 ID:LNssCYN6
エマニュエルは言った
「伯爵、なぜ教えてくださらなかったのですか
あれほど僕たちがしょっちゅうあの恩人のことを話すのを聞いておられたのに」
「私はこの秘密を死ぬまで埋もれさせておきたかったのだよ
だが、君のお義兄さんが乱暴なふるまいに及んだのでばれてしまった」
モンテ・クリストはこう言いながら、エマニュエルに義兄から目を離すな、とさささやいた
エマニュエルは机の上のピストルに気づいた

ジュリーは絹の財布を手に涙を浮かべていた
「その財布は返してくれないか
思い出の種は私に対して抱いてくれる愛情だけにしてほしい」
「とんでもない、だめです
伯爵様は、いつかは私たちから離れて行ってしまう
ちがいますか?」
「お見通しだな 一週間後には私はこの国を離れている
私の父は、飢えと悲しみのために息絶えたというのに、神罰を受けてしかるべき者がのうのうと生きているこの国をね」
モンテ・クリストは、ジュリーとエマニュエルに、マクシミリヤンと二人にしてほしいと告げる

マクシミリヤン、私が君に生きていてくれと願うのは、君が私に感謝する日が来るという
確信があるからなのだ
なんということをおっしゃるのですか
きっとあなたは恋などなさったことがないのでしょう
ヴァランチーヌがいなければ、僕にとってはこの世には絶望と悲嘆しかないのです

私は希望を捨てるな、と言ったのだよ

あなたは僕を説き伏せようとしておられる
僕にヴァランチーヌに会えると思い込ませようとしている
あなたの僕への影響力が怖いのです
あなたは僕に超自然的なことを信じさせてしまう!

希望をもつのだ
これからは、マクシミリヤン、君は私のそばで私と一緒に暮らすのだ
もう君は私からは離れないのだ
一週間後に君と私はフランスを後にする

で、相変わらず希望を持てとおっしゃるのですか

私は君を立ち直らせる良薬を知っているからだよ

あなたは僕が受けた苦しみを通りいっぺんのものとしか考えておられない
だから旅などで僕を立ち直らせるなどとおっしゃるのだ

私は約束を守る男だ
試しにやらせてみてくれないかね
モンテ・クリスト伯爵という男が、どういう能力の持ち主が、君はしっているのか
この世の多くの権力に対して、命令する力のあることを知っているのか
マクシミリヤン、よく聞いてほしい
一か月後の同じ日、同じ時刻にもしも君の悲しみが癒されていなければ、
私は君に弾丸をこめたピストルと、イタリアの毒の中で最も確実なものを君に与えよう

約束してくださいますか

私は誓うよ
今日は9月5日
死のうとなさっていたお父上を救ったのは10年前の今日なのだ
モレルは伯爵の手を取り、唇にあてた
伯爵は、あたかもこの崇敬の念が当然であることを知るかのように、なすがままにさせていた

4144うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/24(日) 10:23:48 ID:LNssCYN6
アルベールとその母メルセデスはサン・ジェルマン・デュプレのささやかな住まいに暮らしていたが、その2階の借り手は素性のわからぬ人物であった

その人物とは、実はリュシャン・ドブレなのであった
ダングラール夫人との密会場所である
「リュシャン、ダングラールが昨夜出て行ってしまったの」
「いったいどこへ!」
「知らないわ
あの人、書置きを残していったの」

貞淑なる妻へ
おまえにはもう夫はいない
娘がいなくなったように、夫もいなくなる
お前には訳を話しておく義務があると考える
今朝急に500万の返済を迫られ、そのすぐあとで同額の返済を迫られた
我慢出来ぬほど不快な日になるはずの明日を避け、わしは今日家を出る
わしの財産の半分がどこへ消えてしまったのやら、わしにはてんでわからぬが、
お前ならば説明できるのだろう
今わしはお前に快く自由を返す
わしは、金持ちだが身持ちの悪いお前を妻とした
わしの財産は15年以上増え続けてきた
なのにいまだに不明な謎の破局が襲いかかりわしを踏み潰した
これは断じてわしのせいではない
お前は自分の財産をふやすことだけにつとめた
そしてお前はそれに成功した
わしはだいたいそう確信している
だからわしは、お前を妻としたときそのままに、
金持ちだが身持ちの悪い女のまま残していく
心からなる夫 ダングラール男爵

「その手紙を読んで、どうお思いになる?」
「ダングラールさんは僕たちのことに感づいたまま出ていかれたと思いますね」
「おっしゃることはそれだけ?」
「仰る意味がわかりませんが」
「行ってしまったのよ!もう帰ってきやしないわ!
あの人は自分の利害から割り出した決心は絶対に変えません
私はもう永久に自由の身なんですわ!」
ドブレは返事をしない
「そう言われても・・・どうなさるおつもりなんですか」
「あなたから仰っていただきたいの」胸をときめかせながら夫人は答えた
冷ややかにドブレは答えた
「そうですね、旅にでも出たらいかがですか」

ご主人がおっしゃるように、あなたはお金もあるし、まったく自由な身の上です
僕の考えではウジェニー嬢の婚約騒ぎで2つも事件が重なったこともあるし、
しばらくパリを留守になさるべきでしょうね
世間にはあなたが夫に捨てられて貧乏であると思わせたほうが良いでしょうね
破産した男の妻が金持ちだというのでは世間が承知しませんから
2週間ばかりパリにいて、夫に捨てられたと会う人毎におっしゃれば、あとは他人が吹聴してくれますよ
そのあとでお屋敷を出るのです 宝石類も資産も放棄なさってね
なにしろあなたの資産状況を知っているのは僕だけですからね
今ここで誠実な共同事業者として会計報告をいたしましょう

ドブレは過去半年の投機事業の収支決算を夫人の目の前で行った
「僕はあなたのお金を用心のために動産にしておいたんです
まるであなたに今にも金を返せと言われるのを見越していたみたいにね
半分は紙幣、半分は持参人払いの手形ですよ
ああ、僕の銀行はダングラールさんのところではないからご安心を」

「ふん、好きにするがいいさ」ドブレは夫人が行ってしまうとそう言った

4145うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/24(日) 10:32:47 ID:LNssCYN6
その階上の部屋では、アルベールとメルセデスが今後の暮らし向きについて話し合っていた
メルセデスからはその魅力的な微笑みも消えていた
アルベールのほうも、贅沢な暮らしから貧乏生活への変化に居心地の悪い思いをしていた
ふたりはマルセイユへ行くことを決めた
「お母さんはマルセイユに住み、僕はアフリカへ行くと決めました
今までの名を捨て、アフリカで新しい名を名乗ります
実は、アルジェリア騎兵に身を投じたのです
僕は身売りをしました
2000フランでね」
「この子の血を売ったお金・・・」
「お母さん、安心してください
僕は死にはしません
僕は今ほど、生きたいと思っているときはないです
お母さんはゆっくり2年は所持金で暮らしてゆけます
僕が将校になったらお母さんの将来も安定します
もし僕が死んだら・・・お母さんも死んでください
そのときは、僕たちの不幸は、その頂点で終わるんです
僕はぜいたくも言わず、無茶なこともしない男になりました
お母さんは聡明な方だし、耐え忍ぶ力も強い
マルセイユのダンテスさんの家に入れば静かに暮らせます
ふたりで、やってみましょう」
「そうね、やってみましょう」

モンテ・クリストはそんなふたりを見ていた
「どうやってあの罪のない二人に、この俺が奪った幸せを返してやったものか
神が力をお貸しくださるだろう」

4146うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/24(日) 10:36:20 ID:LNssCYN6
ベネデット(=アンドレア・カヴァルカンティ)は最も凶悪な囚人を収容する監獄に入れられていた
ある日、彼は面会室へと呼ばれた
そこにいたのはベルトゥチオだった
「あ、あんたは・・・」
「お前は相変わらず悪の道を突っ走ってるな」
「あんた、誰の使いで来たんだ
どうして俺が牢に居ることを知った」
「シャンゼリゼで馬を優雅に走らせてる高慢ちきな奴がお前だということはとっくに知っていた」
「シャンゼリゼねえ 
なあ、俺の父さんのことを話そうや
シャンゼリゼといえばさる大金持ちのお方が住んでるよな」
「お前が盗みに入り、人を殺したお屋敷か
モンテ・クリスト伯爵様は神の御寵愛深く、とてもお前のような悪党の父親になどなれぬお方だ」
「おおげさだな!
俺は親爺が誰だか知りたいんだ
必要とあれば死んだっていい
つきとめてやる!」
「そいつを教えに来たんだよ」

4147うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/24(日) 13:36:22 ID:LNssCYN6
ヴィルフォールは書斎にこもり、熱に浮かされたようにカドルッス殺害事件に取り組んでいた
休息を取るため庭へ出た検事はふと見上げた窓の中にノワルチエの姿を見た
老人は鋭い視線を庭のある一点に注いでいた
視線の先にはエドワールと遊ぶヴィルフォール夫人がいた
ヴィルフォールの顔は青ざめた
ノワルチエはその視線を急にヴィルフォールへと向けた
「わかっております、父上
もう一日だけ辛抱なさってください
お約束は必ず実行いたします」

夜は静かにふけてゆく
ヴィルフォールは朝の5時まで仕事をした
いよいよ今日だ
今日こそは正義の刃を持つ者が、いずこにひそむ罪人をも切り捨てるべき日!

召使がココアをもってきた
そんなものは頼んでおらんぞ
奥様が、きょう旦那様は例の殺人事件で弁舌をおふるいになる日だから、
力をつける必要があるとおっしゃいまして・・・
ヴィルフォールはココアの入った茶碗を見つめ、えいとばかりに飲み干した
毒は入っていなかった
召使がやってきて、夫人が傍聴したいのでお供をしたいと言っている、という
ヴィルフォールは、部屋で待つように、とだけ伝えた

身支度を終え、ヴィルフォールは夫人の部屋へ向かった
「エドワール、お母さんと話しがあるからサロンで遊びなさい」
ヴィルフォールは、子供が出て行くと扉に鍵をかけた

「まあ、どうなさったんですの」
「いつもお前が使っている毒薬はどこにしまってあるのだ」
夫人の声はかすれた
「あなた、私には・・・なんのことかわかりませんわ」
「おまえが義父サン・メラン侯爵と、義母と、バロワと、私の娘ヴァランチーヌを殺した毒薬をどこにかくしたかと聞いておるのだ」
「あ、あなた、何をおっしゃいますの」
「尋問するのはお前ではない お前は答えればいい」
「夫に対して?それとも裁判官に対してですの?」
「裁判官に対してだ!」
「ああ、あなた、あなた・・・」
「答えないつもりか!
お前は否認することはできないはずだ
お前は巧妙に犯罪を重ねた
私は愛情ゆえに盲目となってしまっていた
バロワが死んだとき、あの天使のような者に嫌疑をかけたのだ
でもそのヴァランチーヌが死んだあとではもう疑う余地はない
お前の罪は万人の知るところとなる」
若い妻は両手で顔を覆った
「お前の罪が露見したときのことをまさか考えていなかったわけではあるまい
当然科せられるべき刑を逃れるために、お前が使ったものよりもずっと楽に確実に死ねる毒物をお前は自分用にとっているはずだ
少なくとも私はそう思いたい」
夫人は跪いた
「自白しようというのか
だがもはや否認できぬとなってからの自白は刑を少しも減ずるものではないのだ」
「あなた、刑ですって?二度もおっしゃったわ!」
「お前は、お前に求刑する者の妻であるから許されるとでも思っているのか
毒殺犯には断頭台が待っている
さっきも言ったようにその犯人がより確実な毒物を自分用に取っておかなかった場合はな
いや断頭台を恐れずともよい
お前の名誉を傷つけるつもりはない
それは私の名誉を傷つけることだからな
私の言葉をよく聞いたのならわかるであろう」
「あなた、わかりませんわ・・・」
「最高司法官の妻はその夫と子供を汚辱の巻き添えにしてはならぬ」
「ええ、そうです、そうですとも」
「それでいい
お前は立派な行動をしてくれる
それに対して礼を言う」
「お礼?ああ、神様、わたし、頭がどうかしてしまいそう
まさか、あなたはそんなことをお望みにならないわ!」
夫人はふるえながらわめいた
「私が望まないのはお前が断頭台で息絶えることだよ」
「あなた・・・お願いです・・・」
「私が望むのは正しい裁きが行われることだ
私がこの地上にいるのは罪人を罰するためなのだ
お前には寛大な処置をとる
私はこう言う
楽に、速やかに死ねる毒薬を数滴は残しているだろうね」
「あなた、許して・・・
私があなたの妻であることをお考えになって!
私たちの子どものために!どうか私を生きながらえさせてください!」
「ならぬ!
お前を生かしておけば、お前はいつか、あの子まで殺してしまう女だ」
「わたしがあの子を殺す?
わたしが?あ、は、は、は、は」
夫人は狂ったように笑い、叫び、倒れた
「私が帰宅したときにまだ裁きが遂行されていなければ、私は私自身の手でお前を逮捕し、告発する」
夫人は目を開けたまま、倒れていた
ヴィルフォールはかがみこんでゆっくりと言った
「さようなら」

4148うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/24(日) 13:39:41 ID:LNssCYN6
ベネデットの裁判の日
傍聴席は奪い合いの大人気である
ボーシャン、シャトー・ルノー、ドブレも姿を見せていた
「この1週間、ヴィルフォール検事には会えなかった
無理もないな
家庭内に不幸が続いて娘にまで妙な死に方されて」
「ボーシャン、妙な死に方ってなんだよ」
「え、つまり、あれ?あそこにいるのはダングラール夫人じゃないか?」
ドブレがびくっとなりながら言った
「なんだ、ヴェールをかぶった知らない女の人じゃないか
話を戻せよ、妙な死に方って?」
「それにしてもどうしてヴィルフォール夫人は来ていないのかな」
「あの人、気付け薬をつくって病院に贈ったり、化粧水を作ったりするのに忙しいらしいや」
「話を戻せよ、妙な死に方って?」
「君たち、なぜヴィルフォール家で人がしげしげと死ぬのか知りたくないか
なぜ、しげしげと人が死ぬか?
それはあの家の中に殺人犯がいるからだよ」
「で、その犯人は誰なんだ」
「エドワールさ」
3人は吹き出した
(^^)/ エラリー・クィーン『Yの悲劇』か

「ところでモンテ・クリスト伯爵の姿も見えないな」
「こんなことには飽き飽きなんじゃないか」
「マクシミリヤンも見かけないんだよ
妹さんはまったく心配してなさそうなんだけどな」

廷吏の声が響き渡った
みなさん、開廷です

4149うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/24(日) 13:48:31 ID:LNssCYN6
ヴィルフォールは落ち着き払った目であたりを見回していた
父親としての悲しみがいささかも平静さを失わせていないこの男の姿に、
聴衆は驚嘆し、恐怖すら覚えた

やがて被告が入廷してきた
ベネデットは居並ぶ判事たちを眺めまわし、裁判長と、特に検事をじっと眺めた
裁判長が起訴状の朗読を求める
ヴィルフォールの手になる起訴状である
その明晰かつ雄弁な文章は犯罪を色鮮やかに描き出した
これを聞けば、ベネデットは世論から見放されたといえよう
アンドレア(=ベネデット)はまったく関心を示さない様子である
ヴィルフォールの鋭い凝視はただの一度も彼の目を伏せさせることはなかった

裁判長が言った
「被告、姓名を」
アンドレアは立ち上がり、澄み切った声で言った
「裁判長は私がお答えしかねる順序で質問なさっています
私がふつうの被告とは違うと後ほど証明いたします
ですからどうぞ、違う順序でご質問を」
裁判長は驚いて陪審、検事を見た
アンドレアにたじろぐ様子はなかった
「年齢は」
「もうすぐ21歳です
1817年9月27日から28日にかけての夜に生まれましたから」
ヴィルフォールは顔をあげた
「どこで生まれたのか」
「パリ近郊のオートゥイユです」
ヴィルフォールは再び顔をあげ、ベネデットを見つめ、血の気を失った
「職業は」
「はじめは文書偽造、ついで泥棒に、最近人殺しとなりました」
ヴィルフォールは片手で額をおさえ、いきなり立ち上がったかと思うとまた椅子に倒れ込んだ
「被告、今度は名前を言うことに同意するか?
その方の意図はその名前を際立たせることにあるのであろう」
「裁判長、そのとおりです」
「では尋ねる、名前は」
「私には、名前を申し上げることができません
自分の名前を知らないからです
父の名前は申し上げることができます」
ヴィルフォールは目の前が真っ暗になった
「では父の名を言いなさい」
「はい、私の父は検事です
父の名は、ヴィルフォールです!」
「被告、そなたは裁判を愚弄する気か!」
ざわめく傍聴人の中で、どうも女が一人気を失ったらしい
「とんでもありません
私が自分の名を申し上げられなかったのは、両親が私を棄てたからです
でも父の名はヴィルフォールです
今すぐにでも証明できます」
検事はじっと座って動かなかった
「しかし、予審の際にはその方はベネデットと名乗り、孤児であると言い、コルシカが故郷だと言ったぞ」
「私は予審の際には予審にふさわしいことを言いました
私の言葉に厳粛な意味を持たせたかったからです
繰り返し申します
私は1817年9月27日から28日にかけての夜に生まれた、
検事ヴィルフォールの子どもです
ラ・フォンテーヌ通り28番地の2階、赤い緞子を張った部屋で生まれました
父は、私は死んだと母に言って、私をH・Nの頭文字をしるした布にくるんで庭へ運び、
生き埋めにしました」
傍聴人のあいだに戦慄がはしった
「だがどうして、そのように詳しく知っておるのか」
「一人のコルシカ人の男が父を付け狙い、その現場を目撃していたのです
この男は穴を掘り返し、一度は私を孤児院に預けたものの、結局は引き取ってコルシカで育ててくれました」
廷内は静まり返っていた
「続けたまえ」
「この優しい人達の間で私は幸福に育つことができたはずなのですが、
持って生まれた邪悪な性格が、養母が私に注ぎこもうとしたあらゆる美徳に勝ってしまった
養父は私に言いました
『神を呪うな
罪はお前のせいではない
お前をみじめな境遇に追いやった父親のせいだ』
その日から、私は父を呪うと決めたのです」
「その方の母親はどうしたのだ」
「母は私を死んだものと思っていました
母に罪はありません
私は母の名を知ろうとも思いませんし、
今も存じません」

4150うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/24(日) 13:49:39 ID:LNssCYN6
この瞬間、鋭い悲鳴が聞こえ、むせび泣きに変わった
その婦人は倒れて法廷から運び出されていった
運ばれる途中でヴェールが落ちた
ダングラール夫人であった
ヴィルフォールの頭は気も狂わんばかりであったが、夫人であるとわかると、思わず立ち上がっていた
裁判長は言った
「証拠は?証拠はあるか?」
「証拠を見せろと?
では、ヴィルフォール氏をご覧ください
そのあとで証拠をお求めになってください」
検事はよろめくように判事席に進み出た
「お父さん、私は証拠を見せろと言われているんです
お見せしましょうか?」
「いや、いらん、その必要はない」
裁判長は叫んだ
「必要がない?!
それはどういう意味ですか?」
ヴィルフォールは叫んだ
「私にはわかっておるのです
私は復讐の神の手中にある
証拠などは必要ありません
今この青年が申したことは、すべて真実であります」
「なんですと?ヴィルフォールさん、気は確かですか?」
「気は確かです
今から直ちに謹慎いたします
私の後継者である検事の指示に従います」

ヴィルフォールはよろめきながら法廷を出て行った

4151うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/24(日) 13:52:15 ID:LNssCYN6
ヴィルフォールは今や重荷となり果てた法官服を脱ぎ、自分の馬車へ乗り込んだ
神よ、ああ、神よ
この運命の崩壊のかげに、彼は神の姿しか見ていなかった
彼の背に何か固い物があった
取り出してみるとそれは、彼の妻の扇であった

あの女が罪を犯すに至ったのは、この私に触れたからなのだ
それなのに私はあれを罰した
『恥を知れ、死ね』と言ってのけた
この私が・・・!
あれを死なせてはならない
何もかも打ち明けよう
私も、私も罪を犯したのだと
まさに虎と蛇の組み合わせ、私のような夫にふさわしい妻
死なせてはならぬ
私の汚らわしい罪で、あれの罪を軽くしてやらねば
あれがしたことはすべてあの子のため
子を愛する母親を絶望させてはならぬ
あの子を育てさせてやらねば
そうすれば、私も善行を施したことになる
私の心も休まるというものだ

馬車は屋敷に着いた
ヴィルフォールは馬車を降り、屋敷内に駆け込んだ
ノワルチエの部屋を通り過ぎたとき、父親ともう一人の人影をみたが、気にも留めなかった
妻の姿は見当たらない
最後に寝室へと向かった
「エロイーズ、エロイーズ」
弱々しい声が聞こえた
「どなた?」
「私だ、開けろ」
ドアは開かれない
ヴィルフォールはドアを蹴破った
夫人は引きつった顔で立っていた
若い妻は夫のほうへ手を差し伸べた
「済みましたわ
これ以上何をしろとおっしゃいますの?」
こう言うと夫人は床に倒れた
ヴィルフォール夫人は死んだ
遺体の向こうのソファの上に、エドワールが寝ていた
ヴィルフォールは駆け寄り、抱き寄せ、ゆすぶった
子供は死んでいた
エドワールの胸から畳んだ紙が落ちた
『私が良き母親だったかどうか、あなたがご存知です
良き母親は子供を残して一人旅立つようなまねはいたしません』

ふたつの犠牲
またしても神だ!

4152うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/24(日) 13:53:05 ID:LNssCYN6
ヴィルフォールは髪を振り乱し、父親の部屋へと向かった
ノワルチエはブゾニ神父の言葉に熱心に耳を傾けているようであった

「あなたがここにおいでとは!
いつも死神のお伴をして姿を現すものとみえますな」

ブゾニは立ち上がった
重要裁判はその結末を迎えたものと思った
それ以外のことは知らなかった
「この前はお嬢さまのために祈りをささげるためにまいったのですよ」
「では、今日は何をしに来られたのです」
「あなたが十分に借りを返したことを告げに来たのです」
「おお、その声は、その声はブゾニ神父の声ではない!」
司祭は鬘を取った
「モンテ・クリスト伯爵の顔だ!」
「それも違う、検事さん、もっと遠い昔をよくよく思い出すことですな
あなたは23年前にマルセイユで、サン・メラン侯爵令嬢と結婚した日に、
この声を聞いたのですよ
思い出せ、思い出すんだ!」
「私がきさまに何をしたと言うのか!言え!」
「私に死の宣告をしたのだ
父を殺したのだ
私から自由と恋を奪い、幸せな運命を奪った!」
「誰だ!いったい誰なのだ!」
「私はあなたがシャトー・ディフの地下牢に埋めた不幸な男の亡霊だ
ついにその墓を脱け出たその亡霊に、モンテ・クリスト伯爵の仮面を与えたもうた」
「ああ、きさまは、わかったぞ!」
「エドモン・ダンテスだ」
「そうだ、エドモン・ダンテスだ
ならば、こっちへ来い!」
ヴィルフォールは妻と子供の死体を見せた
「エドモン・ダンテス、これでお前の復讐は遂げられたか?」

モンテ・クリストはその無残な光景に色を失った
彼は復讐が大きく逸脱したことを知った
彼は子供の遺骸にとびつき、脈を取り、瞳孔を調べた
そして抱きかかえ、ヴァランチーヌの部屋へ入り、鍵をかけた
「私の子どもを返せ!
ええい、畜生、きさまのような奴は死んでしまえ!」
ヴィルフォールは目を見開き、こめかみの血管は膨れ上がった
そして完全な精神の錯乱が訪れた
大声で叫んだかと思うと高笑いをし、階段を駆け下り、庭へ走った

モンテ・クリストはどうやっても救うことのできなかった子供を母親の横へ寝かせた

ヴィルフォールは庭中をスコップで掘り返していた
「ここでもない、ここでもないぞ」
モンテ・クリストが近づいた
「みつけてみせますよ!
あの子がここにいないと言っても無駄です
最後の審判の日まで探してやる!」

ああ、気が狂ったのだ
モンテ・クリストはぞっとして後ずさりした
彼は路上に飛び出した
自分に、己れのなしたことをやるだけの権利があったのか
今初めて彼は疑ったのであった
「もう十分だ・・・最後の男は見逃してやろう」

モンテ・クリストは自宅に戻り、マクシミリヤン・モレルに言った
「明日パリを発とう
あまりやり過ぎぬことを神が望んでおられる」

4153うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/24(日) 13:53:55 ID:LNssCYN6
マクシミリヤン、ジュリー、エマニュエルは、このところ立て続けに起こった
モルセール、ダングラール、ヴィルフォールの悲劇について語り合っていた
とはいえ、マクシミリヤンは、ただ無感動にそこにいるというだけの様子であった

モンテ・クリストがたずねてきた
「マクシミリヤン、君を迎えにきたよ」
「どこへいらっしゃいますの?伯爵さま」ジュリーが言った
「まずはマルセイユへ」
「まあ、兄を元気にして返してくださいませ」
「君たちはお兄さんが苦しんでいるのに気が付いていたのかね」
「ええ、私たちと暮らしていたんじゃつらいんじゃないかと」
「私がお兄さんの気がまぎれるようにしてあげるよ」
「用意はできています」マクシミリヤンは言った
「そんなに急に行ってしまうの?!」
「ぐずぐずしていると悲しみが増すばかりだ」
「お兄様のこのしゃべり方!
お兄様はなにか私たちに隠してらっしゃるわ!」
「とんでもない!
お兄さんのことは心配しなくていい
元気で笑って帰ってくるよ」
「お兄様に明るさを取り戻してください」
「まだ船乗りシンドバッドを信じているかね」
「もちろん」
「ならば、安心して待ちなさい」

階段の下に、召使のアリが待っていた
「あの手紙をあの方に見せたか」
アリはうなずいた
「なんと言って、いやどうなされた?」
アリはノワルチエの『そうだ』を真似た
「よし、老人は承諾してくださった
では行こう」
馬車は出発した
途中、台地の上で、モンテ・クリストは馬車を降りた
そこからはパリが黒々とした海のように見えた
偉大なる都よ!
私の使命は終わった
さらば、パリよ
馬車はふたたび走り出す
「モレル、ついてきたことを後悔しているかね」
「いいえ、でもパリにはヴァランチーヌが眠っているんです
パリを離れることは、もう一度彼女から離れることだ」
「モレル、失われた人々はわれわれの心の中にいるのだ
私にはね、そのようにしていつでも私とともにいる人が二人いる
一人は私に生命を与えてくれた人
もうひとりは私に知性を与えてくれた人だ
迷いが生じたときは、私はいつもこの二人に訊ねている
モレル、君のこころに訊ねてみるがいい
いつまでもそんな憂い顔を私に向けるべきなのかとね」
例のごとく、伯爵の旅は素晴らしい速さで進んだ

4154うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/24(日) 14:57:35 ID:LNssCYN6
活気にあふれる港町マルセイユ
モンテ・クリストにとってもマクシミリヤンにとっても懐かしい
「伯爵、ここですよ
あなたが父にファラオン号を贈ってくださったときに、父が立っていた場所です」
「わたしはそのとき、あの丘から見ていたんだよ」
モンテ・クリストはそう言って丘のほうへ目を向けると、そこにヴェールをかぶった一人の婦人の姿を見た
モレルが、あっと声を上げた
「あの船から手をふっている軍服の青年は・・・アルベール・ド・モルセールだ!」
「そう、わたしにはわかっていた」
ふたたびモンテ・クリストが丘のほうへ目を向けると、もうそこの婦人はいなかった
「君はここでなにかすることはないか」
「私は父の墓へ行こうと思います」
「それはいい
では向こうで待っててくれたまえ
私も涙を流しに行く場所があるのだ」

モンテ・クリストはメラン小路のあの懐かしい家へ向かう
かつて老ダンテスが住んでいた家である
いまでは、建物全体をメルセデスの自由なように使わせていた
メルセデスは庭でひとり泣いていた
モンテ・クリストの足元で砂がきしみ、メルセデスは顔をあげた
「奥さん、私にはもはやあなたを幸せにする力はありませんが、
友人としての慰めを受け取っていただけますか」
__
「わたしには息子だけしかおりませんでしたのに
あの子も行ってしまいました・・・」
「あなた方の未来を再建する仕事をご子息にさせておいたほうがいい
あえて予言しますが、あなた方の未来は頼もしい手に握られているのです」
「その幸運を、あの子が授かりますように
でも私がその幸運を授かることはありません
もうお墓のすぐそばにいるような心持がいたします
伯爵さま、ここへ住まわせてくださって感謝しております
人が死ぬべき場所はその人が幸せに暮らした土地ですもの」
「あなたの言葉が心に刺さります
あなたの不幸は私が引き起こしたものなのだから」
「エドモン、私の子どもの命を救ってくださったあなたを憎むわけがありません
モルセールの自慢の息子を殺すことがあなたの意図だったはずですもの
私が憎むのはこの自分なの!
ああ、私はなんて見下げ果てた女なのでしょう!
あなたは私を復讐の対象からはずしてくださった
でも、私が最も罪深いのです
ほかの人たちは憎しみや貪欲や利己心からああしたんです
なのに私は卑怯な心からああしたんです
エドモン、あなたはいまなにか優しい言葉を探している
でもそれは、ほかの女性のためにとっておいてください
私には受け取る資格がありません
この世には、最初の過ちがその将来をなにもかも駄目にしてしまうよう運命づけられている者がいるものですわ
私だけがあなたであることを見抜き、息子の命を救うできても、それが何になるというのでしょう
どのように罪深い男にせよ、私が夫として受け入れた男を、私は救うべきだったのではないでしょうか
それなのに、私は何もせずに彼を死なせてしまった
それどころか、私は卑劣な無関心さと軽蔑の念で、あの人の死に手を貸したのです
私にとっても最もつらい責苦はあなたと他の男の人たちを比較すること
あなたほどの方はこの世に一人といない
さようならとおっしゃってください、エドモン
お別れしましょう」

「別れる前になにかしてほしいことはないか、メルセデス」
「エドモン、私の願いはひとつだけ、あの子の幸せです」
「神にあの子を死から守り給えと祈りなさい
それ以外は私が引き受けよう」
「ありがとう、エドモン
私は二つのお墓の間で生きています
ずっと昔に死んだエドモン・ダンテスのお墓
この世のなにをくれると言われてもこの追憶だけは失いたくありません
もうひとつは、エドモン・ダンテスが殺した男のお墓
殺されて当然とは思います
でも死者のために祈らねばなりません」
「またお会いしましょう、とは言ってくれないのですか」
「いいえ、またお会いしましょう」
メルセデスはそう言って、天を指さした

4155うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/24(日) 14:59:05 ID:LNssCYN6
活気にあふれる港町マルセイユ
モンテ・クリストにとってもマクシミリヤンにとっても懐かしい
「伯爵、ここですよ
あなたが父にファラオン号を贈ってくださったときに、父が立っていた場所です」
「わたしはそのとき、あの丘から見ていたんだよ」
モンテ・クリストはそう言って丘のほうへ目を向けると、そこにヴェールをかぶった一人の婦人の姿を見た
モレルが、あっと声を上げた
「あの船から手をふっている軍服の青年は・・・アルベール・ド・モルセールだ!」
「そう、わたしにはわかっていた」
ふたたびモンテ・クリストが丘のほうへ目を向けると、もうそこの婦人はいなかった
「君はここでなにかすることはないか」
「私は父の墓へ行こうと思います」
「それはいい
では向こうで待っててくれたまえ
私も涙を流しに行く場所があるのだ」

モンテ・クリストはメラン小路のあの懐かしい家へ向かう
かつて老ダンテスが住んでいた家である
いまでは、建物全体をメルセデスの自由なように使わせていた
メルセデスは庭でひとり泣いていた
モンテ・クリストの足元で砂がきしみ、メルセデスは顔をあげた
「奥さん、私にはもはやあなたを幸せにする力はありませんが、
友人としての慰めを受け取っていただけますか」
__
「わたしには息子だけしかおりませんでしたのに
あの子も行ってしまいました・・・」
「あなた方の未来を再建する仕事をご子息にさせておいたほうがいい
あえて予言しますが、あなた方の未来は頼もしい手に握られているのです」
「その幸運を、あの子が授かりますように
でも私がその幸運を授かることはありません
もうお墓のすぐそばにいるような心持がいたします
伯爵さま、ここへ住まわせてくださって感謝しております
人が死ぬべき場所はその人が幸せに暮らした土地ですもの」
「あなたの言葉が心に刺さります
あなたの不幸は私が引き起こしたものなのだから」
「エドモン、私の子どもの命を救ってくださったあなたを憎むわけがありません
モルセールの自慢の息子を殺すことがあなたの意図だったはずですもの
私が憎むのはこの自分なの!
ああ、私はなんて見下げ果てた女なのでしょう!
あなたは私を復讐の対象からはずしてくださった
でも、私が最も罪深いのです
ほかの人たちは憎しみや貪欲や利己心からああしたんです
なのに私は卑怯な心からああしたんです
エドモン、あなたはいまなにか優しい言葉を探している
でもそれは、ほかの女性のためにとっておいてください
私には受け取る資格がありません
この世には、最初の過ちがその将来をなにもかも駄目にしてしまうよう運命づけられている者がいるものですわ
私だけがあなたであることを見抜き、息子の命を救うできても、それが何になるというのでしょう
どのように罪深い男にせよ、私が夫として受け入れた男を、私は救うべきだったのではないでしょうか
それなのに、私は何もせずに彼を死なせてしまった
それどころか、私は卑劣な無関心さと軽蔑の念で、あの人の死に手を貸したのです
私にとっても最もつらい責苦はあなたと他の男の人たちを比較すること
あなたほどの方はこの世に一人といない
さようならとおっしゃってください、エドモン
お別れしましょう」

「別れる前になにかしてほしいことはないか、メルセデス」
「エドモン、私の願いはひとつだけ、あの子の幸せです」
「神にあの子を死から守り給えと祈りなさい
それ以外は私が引き受けよう」
「ありがとう、エドモン
私は二つのお墓の間で生きています
ずっと昔に死んだエドモン・ダンテスのお墓
この世のなにをくれると言われてもこの追憶だけは失いたくありません
もうひとつは、エドモン・ダンテスが殺した男のお墓
殺されて当然とは思います
でも死者のために祈らねばなりません」
「またお会いしましょう、とは言ってくれないのですか」
「いいえ、またお会いしましょう」
メルセデスはそう言って、天を指さした

4156うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/24(日) 15:01:01 ID:LNssCYN6
>>4154
>>4155
だぶりました、すみません<m(__)m>

4157うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/24(日) 15:03:12 ID:LNssCYN6
メルセデスを残し、モンテ・クリストは胸ふさぐ思いでその家を後にした
エドワールの死以来、彼の心の中には大きな変化が生じていた
「このように自分を責める破目に陥ったのは、俺の計算に何か過ちがあったからだ
俺の目的がばかげていたというのか?
まちがいだったというのか?
そんな考えは到底受け入れることはできぬ」

モンテ・クリストは過去をもとめ、マルセイユをさ迷い歩く
24年間のあの日、夜の闇のなか、衛兵に連行されていった波止場
シャトー・ディフへの舟に乗せられた場所
遊覧船を雇い、再びかの場所へ
7月革命以来、シャトー・ディフには囚人はおらず観光名所となっていた
門番に案内を頼み、モンテ・クリストは地下牢へ行く
彼の額は青ざめ、流れる汗は心臓にまで達するかのようであった
彼は、王政復古当時の看守がまだいるか尋ねたが、さすがにもういないということだった

地下牢へ案内され、ファリャ神父が掘った穴を見た
「この地下牢のことで看守のアントワーヌに聞いた話があります」
モンテ・クリストはぞっとした
その看守こそ、彼の担当だったのだ
「ここにいた囚人はひどく危険で、おそろしく頭が切れる奴だったそうです
同じ頃、もうひとり囚人がいて、こいつは頭のおかしい坊さんだったとか
もし、釈放してくれたら何百万という金をやる、と言ったらしいですよ」
「その囚人たちは互いに会うことはできたのかね」
「とんでもない!厳重に禁じられていました
でも連中、地下道を掘ったんですよ
ほら、あそこに見えます」
「ああ、ほんとうだ」モンテ・クリストの声はかすれた
「老人のほうは死んじまって、若いほうは・・・どうしたと思います?
死人を自分とすりかえて、自分が死体袋に入ったんですよ」
モンテ・クリストは目を閉じた
「奴の計算違いは、ここでは死体は海に投げ込まれるってことだったんです
埋葬人どもが崖から死体袋を海へ投げ込んだときに、悲鳴を聞いたんです」

伯爵は息のつまる思いだった
俺が自分の目的に疑問を抱いたのは、過去を忘れかけていたからだ
だがふたたび、俺の胸はえぐられた
復讐の炎は今また燃え上がる
モンテ・クリストはかつて自分のいた独房を見回した
椅子がわりの石
壁に刻まれた数字
父とメルセデスの年齢を刻んだ数字
モンテ・クリストは、墓地に運ばれる父と婚礼の祭壇をすすむメルセデスの幻影を見た
そう、わたしは思い出した!
わたしはこの地下牢で記憶力を失うことを恐れていたのだった

「そのあわれな老人の独房を見せてもらえないか」
ファリャ神父の思い出に涙するモンテ・クリスト

「案内をありがとう、これは礼だ」伯爵は金貨を門番に渡した
「え、こんなにくださるので?」
「私も船乗りだったから、お前の話には心打たれたんだよ」
「こんなにしていただいたからには、私のほうからもなにか差し上げることにいたしますよ
あのあわれな坊さんが死んだ後に見つけたんでさ
今とってきますよ」
戻って来た門番は手に巻物のようなものを持っていた
それは、布に書かれたファリャ神父の大著、イタリア統一王国に関する論文だったのである
伯爵は奪い取るようにしてその論文を手にした
『汝竜の牙を抜き、獅子をその足元に踏みつけん、と主はのたまえり』
これが答えだ!
あの陰惨な牢に俺を閉じ込めた者どもに禍あれ
俺が閉じ込められていたことを忘れた者どもに禍あれ

マルセイユのカタロニア人村を通るとき、伯爵は目をそむけた
そして、恋に等しいほどの情愛をこめてひとりの女性の名を口にした
エデ、と

4158うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/24(日) 15:04:24 ID:LNssCYN6
モンテ・クリストはマクシミリヤンに会うため墓地へと向かった
「マクシミリヤン、君にはマルセイユに何日か滞在してもらう
私は君と別れねばならないが、君との約束は忘れないよ」
「僕のほうはきっと忘れてしまいますよ」
「いや、君はそんなことはしない
名誉を重んずる男だからね
モレル、私は君よりも不幸な男を知っている」

伯爵はエドモン・ダンテスの不幸を話す
もちろん、名前は伏せて

マクシミリヤン・モレルはその話に衝撃を受ける
「その人も、いつかは幸せになれるのでしょうか・・・」
「彼はそれを希望しているよ」
「僕はお約束します、でも忘れないください」
「10月5日、港に迎えの舟がくる
船長に私の名前を告げなさい
私はモンテ・クリスト島で君を待っている」
「わかりました、必ずその通りにします
でも忘れないでください、10月5日には、僕は」
「何度も言わせるものではない
その日になってもまだ、君が死にたいと言うのなら、私が手を貸してやる」
モンテ・クリストはマクシミリヤン・モレルを一人残し、船でイタリアへと向かった

4159うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/24(日) 15:05:51 ID:LNssCYN6
同じ頃、一人のフランス人の男がフィレンツェからローマへ馬車を走らせていた
男は紙入れから四つ折りにしたものをとりだして言った
「よし、わしにはまだこれがあるぞ!」

フランス人は馬車を降り、スペインホテルへ入った
(^^)/ 物語の初め、アルベールとフランツとモンテ・クリスト伯爵が出会ったホテル

フランス人はトムソン・アンド・フレンチ商会の場所を聞き、再び出かけて行った
その様子を観察する男がひとり、後をつけ始める

フランス人はトムソン・アンド・フレンチ商会へ到着
「どちらさまで?」
「ダングラール男爵だ」
あとを付けてきた男は帳簿係の前の椅子にすわった
帳簿係が顔をあげ、あたりを見回す
「おや、ペッピーノじゃないか
あのフランス人に金のにおいを嗅ぎつけたか」
「あいつは金を引き出しにきたのよ
俺が知りたいのは金額だ」
「ちょっと待ってろ」

「おい、大変な額だぞ!500万!」
「モンテ・クリスト伯爵閣下の受領書で、だな
よし、あいつだ」

ダングラールが手配した馬車は商会の前で待っていた
彼はそれに乗って、ホテルへ帰り、金を枕に眠りに落ちた
翌日、彼はふたたび馬車へと乗り込んだ
まずはベネチアへ、その後ウイーンへ向かう予定だった
馬車の手配がのろく、出発が遅くなってしまう
ゆれる馬車のなかでもダングラールはぐっすりと眠った
ふと目を覚まし、窓から外を見ると、マントの男がひとり、馬に乗って並走していた
あわてて反対の窓をみると、そこにも馬に乗った男が!
ダングラールがまず考えたのは、彼らは憲兵だということだった
「ええい!罪人を引き渡そうってんだな!」
ところが馬車は町へは入らない
彼の髪は逆立った
これは・・・盗賊どもだ!

馬車が止まった
降りろ!
ダングラールは生きた心地もしない
10分ほど歩かされ、岩穴の中へと連れ込まれた
彼は山賊ルイジ・ヴァンパの手に落ちたのであった

4160うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/24(日) 15:08:00 ID:LNssCYN6
ルイジ・ヴァンパはダングラールの顔をみて言った
「この男は疲れているな
寝かせておけ」
ダングラールはアルベールの身代金の金額を思い出していた
たしか4万8千くらいだったはず
それを差し引いてもわしにはまだ505万くらいはある
なんとか切り抜けられるだろう
そう考え、安らかに眠り込んだのだった

ダングラールは目を覚ました
そうだ、わしは山賊の虜になったのだった
いそいでポケットを探る
なぜか金はそのまま残っていた
金目の時計も盗られていなかった
おかしな山賊だ・・・

ダングラールは閉じ込められた部屋の隙間からのぞいてみた
見張りが目の前で食事をしていた
彼はふいに自分の胃袋が空っぽであることを思い出した
彼は扉をたたき、なにか食べ物をと要求したが、見張りは完全に彼を無視した
4時間がすぎ、見張りはペッピーノに交代した
ペッピーノは美食家だった
うまそうな匂い
ダングラールはは扉をたたいた
「わたしに食事をさせろとは言われてませんか」
ペッピーノは答えた
「おや、閣下はお腹がすいておられるので?
お安い御用ですよ
ただし、料金はいただきますがね」
「言うまでもない!」

ひな鳥のローストが運ばれてきた
カフェ・ド・パリにいるみたいだな、とダングラールはつぶやいた
ナイフとフォークを手にとりかかろうとしたそのとき、
ペッピーノが言った
「ここでは前金で支払うことになっておりまして」
「ほら」
ダングラールは彼に1ルイ(20フラン)を投げ与えた

4161うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/24(日) 15:09:24 ID:LNssCYN6
ペッピーノはそれを拾い上げ
「ちょっとお待ちを
これでは少し足りませんな
あと足りないのは4,999ルイでございます」
「このやせた雛が10万フランだというのか!?
わかった、わかった、さあ、もう1ルイやろう」
「あと4,998ルイでございます」
「ばかばかしい!そいつは絶対に駄目だぞ!」
ペッピーノはさっとひな鳥を取り上げてしまった
ダングラールはふたたび閉じ込められた
ペッピーノはベーコン入りのエジプト豆を食べ始めた

30分、それでもダングラールは我慢した
「ええい!わしは食べたい!
ひからびたパン一切れでよい!」
「パンでございますね、かしこまりました」
小さなパンが運ばれた
「4,998ルイでございます」
「おい!なぜひな鳥とパンが同じ値段なのだ!」
「一品料理はやっておりません
少し召し上がろうが、たくさん召し上がろうが、料金は同じです」
「はっきりいえ!わしを餓死させるつもりだと言ったらどうだ!」
「とんでもない、閣下が勝手に自殺なさろうとしているのです
お金を払って食事なさってください
閣下はポケットに505万フランお持ちです」
「その10万を払えば、安心して飯を食えるんだな
だがどうやって払えばいいのだ」
「閣下はトムソン・アンド・フレンチ商会に口座をお持ちです
私に4,998ルイの手形を書いてくださればいいのです」
ダングラールは言われたとおりにした


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