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好きな小説を語るんだよ(*`Д´)ノ

4161うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/24(日) 15:09:24 ID:LNssCYN6
ペッピーノはそれを拾い上げ
「ちょっとお待ちを
これでは少し足りませんな
あと足りないのは4,999ルイでございます」
「このやせた雛が10万フランだというのか!?
わかった、わかった、さあ、もう1ルイやろう」
「あと4,998ルイでございます」
「ばかばかしい!そいつは絶対に駄目だぞ!」
ペッピーノはさっとひな鳥を取り上げてしまった
ダングラールはふたたび閉じ込められた
ペッピーノはベーコン入りのエジプト豆を食べ始めた

30分、それでもダングラールは我慢した
「ええい!わしは食べたい!
ひからびたパン一切れでよい!」
「パンでございますね、かしこまりました」
小さなパンが運ばれた
「4,998ルイでございます」
「おい!なぜひな鳥とパンが同じ値段なのだ!」
「一品料理はやっておりません
少し召し上がろうが、たくさん召し上がろうが、料金は同じです」
「はっきりいえ!わしを餓死させるつもりだと言ったらどうだ!」
「とんでもない、閣下が勝手に自殺なさろうとしているのです
お金を払って食事なさってください
閣下はポケットに505万フランお持ちです」
「その10万を払えば、安心して飯を食えるんだな
だがどうやって払えばいいのだ」
「閣下はトムソン・アンド・フレンチ商会に口座をお持ちです
私に4,998ルイの手形を書いてくださればいいのです」
ダングラールは言われたとおりにした

4162うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/24(日) 15:10:44 ID:LNssCYN6
翌日、ダングラールはまた腹がへった
彼は、今日は絶対に金を使うまいと思った
しかし、喉が渇いた
「飲み物がほしい」
「閣下、このあたりでは葡萄酒は高いです」
「では、水だ」
「水はもっと高いです」
「やれやれ、では葡萄酒を一杯くれ」
「手前どもでは分け売りはいたしません
一本25,000フランです」
「おい、わしを丸裸にするつもりか!」
「どうやら主人はそうなのかも」
「その主人てのを連れてこい」
ヴァンパがやってきた
「お呼びですか」
「わしの身代金としていくら欲しいのだ!」
「ざっくばらんに言いまして、閣下が身に着けておられる500万です」
「これはわしの全財産だ
巨万の富の残りがこれなのだ
こいつを奪うくらいなら殺してくれ!」
「閣下の血を流すことは禁じられておるのです」
「君も誰かに服従しているのか?」
「はい」
「その首領も誰かの手下なのか?」
「はい」
「誰の?」
「神の」
「どうもよくわからんな」
「でしょうね」
「どういうつもりなのだ」
「わかりません」
「わしの財布は空になってしまう」
「たぶんね」
「君、百万欲しくないか?いや200万、300万・・・400万!
逃がしてくれたら400万やる!」
「どうして500万払うところを400万で済むとお思いになるんで?」
「みんなもってけ!そしてわしをころせ!」
「あんまりわめきなさると、また食欲がでますよ
倹約して使わないとね」
「だが、払う金がなくなったらどうするんだ!」
「腹が減るだろうね」
ダングラールは顔色を変えた「腹がへる?」
ヴァンパは冷ややかに答えた「たぶんね」
「だが、あんたはわしを殺すつもりはないと言ったではないか!」
「ない」
「それなのにあんたは、わしが餓死してもかまわんというのか!」
「それとこれとは話が別」
「ええい、畜生め!わしは絶対に署名はせん!」
「ご随意に、閣下」

4163うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/24(日) 15:12:21 ID:LNssCYN6
いったいこの連中は何者だ
誰でも身代金を払えば自由になれるはずなのに、なぜ自分はできないのか
おお、そうだ
いきなり急死でもすれば、奴らの裏をかくことができる
人生ではじめて、ダングラールは死を考えた
死への欲求と恐怖を抱きながら

署名はせぬという彼の決意は2日間続いた
その後、彼は食べ物を乞い、すばらしい食事に100万とられた
この囚人は絶え間なくうわごとを繰り返すようになった
そしていかなる要求にも応じた
12日ほど過ぎて、囚人の所持金はついに5万フランになった
このとき不思議なことに、彼はこの5万を死守することを決意した
5万フランという金は、一人の人間が餓死せずに済む金額である
彼は神に、この5万を守らせたまえと祈った
そして祈りつつ涙を流した

こうして3日が過ぎた
ときおり彼は錯乱に陥った
そんなとき窓越しに、粗末なベッドの上で今はの際の苦しみにあえぐ老人の姿が見えるような気がした

4日目
彼はもはや人間ではなかった
地面のむしろまで貪り食い始めていた
彼は、一口のパンに1,000フラン払うと言った
その要求は無視された
5日目
彼は扉まで身体をひきずって行った
「君だってキリスト教徒だろう
神のみ前では兄弟である男を殺すのか?
首領!首領!」
ヴァンパが現れた
「まだなにか欲しいのか」
「わしの金をとってくれ
そして生かしておいてくれ
もう逃がしてくれとはいわん
わしはただ生きていたいだけだ・・・」
「だいぶお苦しみとみえますが、あなたよりもっと苦しんだ人が多勢いますよ」
「とてもそうは思えん」
「いるとも、餓死した人たちだ」
ダングラールは窓ごしに幻影をみたあの老人の姿を思い出した
彼は呻きつつ、地面に額を打ちつけた

「後悔はしているんだな」
その声に、ダングラールの髪は逆立った
ヴァンパの後ろにマントに身を包んだ男の姿があった
「なにを後悔せねばならぬのでしょう」ダングラールはつぶやいた
「あなたが犯した罪をだ」
「おお、後悔しますとも・・・」
「それならば私はあなたを許そう」
男はマントを脱ぎ捨て、一歩前に出た
「モンテ・クリスト伯爵!」
「いや違う、私は
あなたが売り、身柄を引き渡し、名誉を台無しにした男
あなたにフィアンセが身売りを余儀なくされた男
あなたが財産を気付築くため踏みつけにした男
父をあなたに餓死させられた男
あなたを餓死の刑に処した男
だが、
わたし自身が許されるために、あなたを許す男
エドモン・ダンテスだ」
ダングラールは悲鳴をあげ、地にひれ伏した
「あなたの命は救われた
だが、他の二人にはそのような幸運は訪れなかった
一人は死に、もうひとりは狂った
その5万フランは持っているがいい
私からの贈り物だ
養育院からあなたが奪った500万フランは匿名ですでに返済されている
ヴァンパ、この人が飢えをしのいだら逃がしてやれ」

ダングラールは最高の食事を与えられ、馬車に乗せられると、街道沿いの木の下に放置された
夜が明けて、彼は小川のほとりにいることを知った
水を飲もうと川へ身体をひきずっていき、水面にかがんだとき、彼の髪が真っ白になっていることに気づいた

4164うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/24(日) 15:14:48 ID:LNssCYN6
優美なヨットがモンテ・クリスト島に向かって疾走していた
舳先に立つ男はマクシミリヤン・モレル

モンテ・クリストが出迎える
「マクシミリヤン、君の悲しみはまだ癒されていないのか」
「僕の悲しみが癒されることもあると、本気で考えていらしたのですか」
「私は人間の心を知り尽くした者として聞いている
君は今でも、墓に入らねば癒されることのない渇きを覚えているのか」
「僕は友のそばに抱かれて死ぬためにあなたのそばに参りました
たどり着くべき場所にたどり着いたと言う気がしています
あなたは『待て、そして希望せよ』と言った
人間なんてみじめなものです、僕は希望を持ちました
何の?僕にもわかりません、何かの奇蹟かも・・・
きょうはあなたが僕に求めた猶予期間の期限の日です
10月5日です」
「わかった、ついてきたまえ」
二人は洞窟へと入って行った

「君は何も思い残すことはないのかね」
「ありません」
「私のこともかね」
モレルははっとした
大粒の涙がこぼれ落ちた
「お願いです、もうこれ以上僕の苦しみを長引かせないでください」
モンテ・クリストは思った

俺はいま、この男に幸福を返してやろうとしている
その幸福は、天秤の片方に載せた、俺がなした悪に釣り合わせるための重り
だが、もしもこの男がその幸福に価するほど不幸ではないのだとしたら・・・
善を思い返すことによってしか悪を忘れられないこの俺はどうなるのか

モンテ・クリストはモレルを試す

「いいか、君は神を信じている
魂の救済までも失う気にはなれないのではないか」
「僕の魂はもう僕のものではありません」
「モレル、君は莫大な財産がもたらすこの世の快楽を知らないから、人生に別れを告げたいなどと思うのではないか?
私の財産を君にやろう
それがあれば、なんでも君の思う通りになる
とにかく、生きるのだ」
「伯爵、あなたは僕に約束なさったのですよ・・・」モレルは冷ややかに言った
「モレル、君はこの私の家で、本当にそんなことを考えているのかい」
「ではここから立ち去らせてください
さもないと、あなたが僕を愛してくださるのは、僕のためではなくご自分のためだと思うようになってしまいます」
「わかった、君の意志は固い、君は本当に不幸なのだ
君を癒せるものは奇蹟のみ
では座りたまえ、モレル」
モンテ・クリストは銀の小箱を取り出し、その中味をひとさじすくって、モレルの前に差し出した
「これが、君が求めたものだよ」

4165うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/24(日) 15:17:29 ID:LNssCYN6
激しい苦痛が青年をとらえた
「伯爵、僕には死んでいくのが感じられます・・・ありがとうございました」
視力の薄れた彼の目に、伯爵が微笑したようにみえた
と、同時に伯爵の姿が2倍にふくらんだようにも見えた
モレルはソファの上に身を投げた
麻痺が血管のすみずみに行き渡っていった
伯爵に手をさしのべようとしたが動かない
瞼はとじようとしている
伯爵が扉を開けたように見えた
美しい女性が入ってきたように見えた
ああ、あの天使は僕が失ったひとに似ている
ヴァランチーヌ!
声にならない叫び声をあげて、モレルは目を閉じた

ヴァランチーヌは駆け寄った

「ヴァランチーヌ、君たちはこの地上で別れることはない
彼は君に会うために墓にとびこんだのだから」
ヴァランチーヌはモンテ・クリストの手をとり、くちづけをした
「ああ、うんと感謝してほしい
君を幸せにしたという確信が、私にとってどれほど必要か・・・」
「私の感謝の気持ちがどれほどのものであるか、
どうぞ、エデお姉さまにお聞きになってくださいませ
私たちがフランスを発った日から、あなたのことを話してくれて、辛抱づよく私を待たせてくれたエデお姉さまに」
「君はエデが好きかい?ヴァランチーヌ」
「ええ、もう心の底から」
「それではね、頼みがある
エデを君の本当の姉にしてはくれまいか
モレルと君とで、あれを守ってくれないか
これから先、あれはこの世でひとりになってしまうのだ・・・」

4166うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/24(日) 15:19:13 ID:LNssCYN6
「なぜですの?!」
うしろで声がした
モンテ・クリストは振り向いた
エデは凍り付いたような瞳をして立っていた
「それはね、エデ
お前は自由の身となるからだよ
お前にふわさしい社会的地位を、お前はふたたび得るのだよ
私の運命がお前の運命を暗いものにしてしまうことを、私は望まない」
エデの声は涙にかすれた
「では殿さまは私と別れようとおっしゃるのですね」
「お前は若く、美しい
私の名前など忘れ、幸せになりなさい」
エデは一歩しりぞいて言った
「わかりました
ご命令通りにいたします
名を忘れ、幸せになります」
ヴァランチーヌはモレルの頭を抱きながら叫んだ
「あんなに辛い思いをなさっているのがおわかりになりませんの!?」
「ヴァランチーヌ、この方に、私の心などわかるはずはありません
この方は私のご主人様、私は奴隷なんですもの
この方は、なにも御覧になる必要はないの」
伯爵はこの心を引き裂くような調子に慄然した
「エデ、お前は私と一緒にいても幸せだというのか」
「私はまだ若うございます
あなたのおかげでいつも楽しかったこの人生が好きです
死ぬのには未練がのこります」
「では、もし私がお前と別れたなら・・・」
「私は生きてはおりません」
「では、私を愛してくれるのか」
「ヴァランチーヌ、この方は私に、愛しているかとお聞きになるのよ!
ええ、愛しています!
お父様を愛するように
お兄様を愛するように
そして夫を愛するように
自分の命を、神様を愛するように
私はあなたを愛しています」
「今こそはっきりわかる
神は勝利の果てに悔恨を残すことを望んではいられないのだ
私は自分を罰しようとした
しかし神は私を許そうとなさっている
私はこの運命をお受けしよう
おいで、エデ」
エデはモンテ・クリストの胸にとびこんだ

4167うぉんさんの読み聞かせの会:2017/12/24(日) 15:21:01 ID:LNssCYN6
1時間ほどの時が流れた
ヴァランチーヌはついにモレルの心臓が鼓動を打ち始めるのを感じた
ついに彼は両目を見開いた
目の前にはヴァランチーヌがいた
翌日、ヴァランチーヌはモレルに、モンテ・クリスト彼女の部屋へ現れ、一切の秘密を解き明かし、彼女を死んだものと思わせることによって奇跡的に彼女を救った経緯を説明した
「あ、ヤコポだわ、ヨットの船長よ」
「伯爵様からお手紙をあずかっております」

親愛なるマクシミリヤン
ヤコポが君をリヴォルノへ連れて行く
ノワルチエ氏がそこでお待ちだ
この洞窟にあるもの、シャンゼリゼの屋敷、ル・トレポールの別荘は
エドモン・ダンテスから主人モレル氏のご子息への結婚祝いだ
ヴィルフォール嬢がその半分を受け取ってくれるよう期待する
というのは
狂人となった父上と、義理の母と共に亡くなった弟御から同嬢に与えられる資産は
すべてパリの貧民たちに与えてやって欲しいからだ
モレル、
君の天使に伝えてほしい
サタンのように一時は己れを神に等しい存在と思い込んだが、
今は謙虚に、万能の力と知恵は神の御手にのみあることを再び悟った男のことを、
ときに祈ってほしい、と
君にはこう言おう
私が君になぜあのような態度を取ったか
それはこの世には幸福も不幸もない、ある状態とある状態の比較だけがある
極端な不幸を味わった者のみが、至高の幸福を感じ得る
生きることがどれほど楽しいかを知るためには
マクシミリヤン、
一度は死のうと思ったことがなければならない
愛する子たちよ
人間の英知はすべて次の二語に集約されていることを忘れないように
『待て、そして希望せよ』

汝が友 エドモン・ダンテス モンテ・クリスト伯爵

ヴァランチーヌは家族の身の結末を知り、涙した
彼女の幸せの代償はあまりに大きなものであった

「伯爵はあまりに良くしてくださりすぎる・・・
ヴァランチーヌは僕のささやかな財産で満足してくれるだろうに
それにしても伯爵はどこにおいでだ?」

ヤコッポは遠い水平線を指さした
その先にはカモメの翼ほどの大きさの白い帆がみえた
「行ってしまった!」モレルは叫んだ
「そんな、行っておしまいになったの・・・
さようなら、伯爵様
さようなら、エデお姉さま」
「いつかまた、お会いできるのだろうか」モレルは涙をぬぐった
「伯爵さまはおっしゃったばかりですわ
人間の英知はこの二つの言葉に集約されていると・・・
『待て、そして希望せよ』

(^^)/終わり

4168名無しさん@ベンツ君:2017/12/28(木) 23:03:48 ID:alxz1x.M
乙です


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