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とある英雄譚のようです
1
:
名無しさん
:2018/04/22(日) 20:46:23 ID:G.gIoQVo0
荒野なのか、それとも峡谷なのか。吹き抜ける風に舞う砂塵に覆われた世界。
隆起と沈降の地形を適当に割り振ったかのような褐色の大地。
見渡す限り生命の痕跡が存在しないその地の、中心部。
まるで何者かによって線を引かれたかのように存在している半球の領域。
そこは周囲の澱みをものともせずに、緑豊かな環境が存在していた。
荒んだ太陽が照らすのは、小高い丘の上に伸びる、大きさも形も違う五つの影。
四種類の塊と、それらに囲まれている一つの屍。
骨だけになった腕が掴んでいるのは、身の丈ほどもある杖。
主を失ってなお溢れ続ける魔力は、丘を清浄な空間で包むために漂う。
命を司る蒼の魔力は屍から離れるごとに薄くなっていき、荒野の空気へと溶けていく。
魔力球の中に存在する最も大きな影は、腐り落ちた大樹の幹。
その両隣に突き刺さっているのは、錆びた剣と、その数倍はあろうかという巨大な牙。
向かいにはくすんだ色の十字架があり、それらは綺麗に四方向に配置されている。
人為的な痕跡を残すその場にはしかし、生命の存在は何一つ感じ得ない。
風の呼吸すら止まっているかのような、静かで荒れ果てた大地。
ジオラマのような世界で、突如として錆びた剣が音を立てて傾いた。
その音に引き寄せられるかのように、漂う魔力に流れが生まれ、
魔力によって遮られた空間を濃い霧で覆い隠す。
353
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:46:52 ID:f6Jc0GS60
立ち上がった人形は腕を振る。
何処からともなく聞こえてきた音楽に合わせて。
朱い眼をした人形が一つ、また一つ幕下から現れる。
手には玩具の包丁を持ち、ケタケタと歪んだ嗤い声をあげながら。
川 ゚ -゚) 「そんなもの……!」
飛来した天剣が頭部を砕く。
動かなくなったガラクタを超え、さらに多くの人形が押し寄せる。
「ほらほら、どんどん増えるよ! あはははは!」
川 ゚ -゚) 「鬱陶しい! エスキューラ!」
天剣の刀身が細かい破片へと分離し、人形の軍隊に降り注ぐ。
威力を犠牲に手数を増やす魔術であるが、
魔力耐久の無い生物であれば一欠片で容赦なく死に至らしめることができるはずであった。
だが、殺戮の豪雨をものともせずに、軍隊は進む。
川;゚ -゚) 「なっ!?」
「ははっ! 君は純魔術師じゃないだろう。
どうやって手に入れたかは知らないけど、剣に組み込まれた魔術に魔力を注ぎ込んでいるだけだ。
その程度だったら、一回見れば十分に対応できるんだよ」
354
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:47:13 ID:f6Jc0GS60
人形たちの包囲網はじわじわと狭まっていく。
川 ゚ -゚) 「だったら、一撃で……ッ!」
o川*゚ー゚)o 「ママ! 待って!」
キュートは魔力そのものを同心円状に放出する。
その余波を受けた人形軍の瞳からは光が失われ、動かなくなった。
「うーん、すっごい! すごいねぇ! 人形の稼働魔力を妨害するなんて!
よく気が付いたね。確かに魔術を使えなくても、魔力を打ち出すだけなら誰でも出来るから」
o川*゚ー゚)o 「私だって、戦える!」
「でも駄目だよ。君はぼくの宝物になるんだ。
傷つけたくないから、おとなしくしていてくれないかな?」
o川*゚ー゚)o 「きゃっ……」
川 ゚ -゚) 「キュートっ!」
天剣すら反応できない速度で、キュートの両腕に取りついた小鳥のぬいぐるみ。
その大きさからは想像もできない力で、少女の身体を持ち上げる。
355
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:47:50 ID:f6Jc0GS60
o川*゚ー゚)o 「はな……してっ!」
キュートが放った魔力は、小鳥に何ら影響を及ぼせない。
天井からぶら下がっている檻の中にキュートは投げ込まれる。
「残念! 今度の玩具は魔力耐性を付与してあるから、そんなただの魔力は効かないよ」
川 ゚ -゚) 「キュートを離せ! ローテイシオン!」
全てを切り裂く光の環。回転する天剣は少女を捉えた檻を砕いた。
着地したキュートのすぐ傍へ駆け寄ったクール。
護衛用の天剣をさらに二本を加えて四本とした
「二つ目だねぇ」
椅子に掛けたまま人形は手を翳す。
起き上がった巨大な人形に注がれていく魔力は、大魔術クラス数発分。
「いけっ! あの生意気な女を叩き潰せ!」
川 ゚ -゚) 「っち……! デカブツが!」
「さぁ!さぁどうするお姫様! 残りの魔術は後いくつ?
諦めてその娘を差し出せば、命は助けてあげる。
綺麗にバラして、保存したその娘の隣に飾ってあげるよ?」
356
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:48:24 ID:f6Jc0GS60
川 ゚ -゚) 「黙ってろ!」
音を立てて崩れ落ちた人形の巨体。
両手両足が切断され、頭部を真っ二つにされて動かなくなった。
「すごいねぇ」
劇場に乾いた音が響く。
ぎこちない動作で両手を打ち鳴らす。
「はい、次は十体だよ」
起き上がった巨体の動きは緩慢で、一体一体はさして強くない。
天剣の破壊力をもってすれば行動不能まで追い込むのは難しくなかった。
川;゚ -゚) 「はぁっ……くっそ……」
五つの剣を自在に操り、巨体の足元を走り回りながら切り崩していく。
魔力で全身を強化してはいても、元は人間の身体。
体力にも限界はあった。
「どうしたの? もう元気がなくなっちゃった? 」
九つある天剣のうち四つはキュートの守護に。
四つを振り回して最後の人形を破壊したクールは、
額から汗を滴らせながら肩を揺らして息をしていた。
357
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:49:06 ID:f6Jc0GS60
「ん……。一本、どこにやった?」
川 ゚ -゚) 「いい加減その口を閉じろ」
椅子にふんぞり返っていた人形の頭部を貫通し、舞台に縫い付けた。
川 ゚ -゚) 「油断するなと学ばなかったようだな」
「ああ、あああ……ああ! あはは、はは! はははは!」
壊れたかのように乾いた嗤い声をあげ続ける人形。
即座にその全身をバラバラにした。
川 ゚ -゚) 「っふー……。さて、後はここからどうやって出るか」
o川*゚ー゚)o 「自信はないけど、私とママの魔力を天剣の魔術に注げば十分に……」
「ぼくも話にまぜてよ」
o川;゚ー゚)o 「なっ!?」
358
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:49:53 ID:f6Jc0GS60
人形の破片の一つ、腕の部分からその声は聞こえた。
天剣による裂け目が、笑みを浮かべているようにも見える。
ケラケラと笑う不気味な腕を、何処からともなく現れた小型の人形がその身に取り込んだ。
身体の大きさを超える腕を一飲みにした人形を、さらに大きな人形が捕まえて口の中に放り込む。
そうやって何度も捕食を繰り返し、人形は元の大きさの二倍ほどにまで成長した。
「あはは!無駄無駄! 人形魔術師の僕を殺そうなんて!」
川 ゚ -゚) 「まったく、厄介だな。本体を狙うのがセオリーだが、そう簡単には見つからないだろう。
おまけに一度見せた魔術はすぐに対策をされて使えなくなる、と。
性格の悪い術者だという事だけはわかった」
o川*゚ー゚)o 「ママ、一番大事なこと忘れてるよ。あいつは最低の変態」
川 ゚ -゚) 「ははは、そうだったな。変態下種野郎の魔術師。いかにもって感じだ」
「言わせておけば……!」
小型の人形が数十体、二人を囲うように現れる。
その手に持つのは身体に不釣り合いな大型の銃。
次々と火を噴き、無数の銃弾が二人を蜂の穴にすべく襲い掛かった。
絶え間ない銃撃音が劇場を埋め尽くす。
359
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:50:18 ID:f6Jc0GS60
川 ゚ -゚) 「怒りやすいってのも追加だな」
天剣に埋め込まれた反射の魔術、リバーサル
全て天剣を軸に九つの魔術を同時に発動させれば、
保有者の周囲数十メートルを保護することができる鉄壁の防御。
幾つかの衝撃を受けては崩壊し、再生することを繰り返す。
川 ゚ -゚) 「それに、これなら取れる対策はそう多くは無いだろ」
攻撃の魔術と異なり、防御魔術は一度見た程度でその性能を全て理解するのは難しい。
加えて、防御魔術を破る方法など本質的には一つしかないのだ。
「ふっざけるなあああ!!」
人形たちが一カ所に集まり、重なって巨大な人形と化す。
手に持っていた銃は、人間よりも大きな口径の大砲に。
集中していく魔力は、クールの全魔力よりもさらに膨大な量。
周囲をすべて消滅させてしまいかねないような一撃は、何の警告もなく発射された。
o川*゚ー゚)o 「ママっ!」
川 ゚ -゚) 「リバーサル!」
九つの盾を重ねて強化した防御魔術。
クールの身体を通して、キュートの魔力分だけその硬度は強化される。
360
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:50:41 ID:f6Jc0GS60
光で埋め尽くされた劇場。
魔力の残滓が呼吸すらも阻む濃度で満ち溢れていた。
「な……に……?」
光が収まった時、劇場に立っていたのは二人。
相当量の魔力を引き出していたせいで疲弊していながらも、無傷の姿であった。
川 ゚ -゚) 「キュート、もうひと踏ん張りだ!」
o川*゚ー゚)o 「うん!」
その本来の力を発揮したリバーサルによって反射された魔力砲。
強大な魔力の奔流が引き起こしたのは、劇場の崩壊。
天変地異にも匹敵する威力の攻撃は、
別の世界へ繋がっている歪んだ筋状の空間をいくつも生み出していた。
川 ゚ -゚) 「全て壊れろ! ……おおおおっホライズン!」
「やめろおおおおおお!!」
二人分の魔力が込められた不可視の一撃。
地平の彼方まで全てを薙ぐ天剣最長射程の魔力斬撃。
既に崩壊しかけた空間を破壊するには充分であった。
361
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:51:11 ID:f6Jc0GS60
「な──んてね」
.
362
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:51:33 ID:f6Jc0GS60
斬撃は分解され、歪みに届く前に露と消えた。
歪みの奥から新たな人形が一体、クールたちの前に歩いてくる。
川 ゚ -゚) 「なっ!?」
「期待しちゃった? 期待しちゃった? ごめんねぇ。
でも、仕方ないんだよ。君たち二人が全然諦めてくれないんだもの。
僕はさっきから言ってるでしょ。出来るだけ傷つけたくないって」
川 ゚ -゚) 「っあ! やめろっ……!」
大波のようにあふれてきた小型の人形は、クールの手足に絡みつき、そのまま動かなくなった。
天剣に破壊されるよりも早く、新たな人形が彼女の全身を縛り付ける。
まるで十字架のように。
o川*゚ー゚)o 「ママっ!」
「おっと、君も邪魔しないでね」
指の動きに合わせて射出され、地面に突き刺さる人形の腕。
キュートを囲うように数秒で檻を為す。
川;゚ -゚) 「ぐっ……あああああっ!」
363
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:52:05 ID:f6Jc0GS60
「このまま握りつぶしてもいいけど、少し痛い目を見てもらわないとね。
まさか防御魔術にあんな性質があるなんてね。おかげで大事な空間に少し傷がついた」
川;゚ -゚) 「はっ……偉そうに魔術師であるとかいう癖に、大したことないな。
私の知っている魔術師はお前よりもずっと魔力が少なくても、すぐに気づいたぞ。
っぅうあああ!!」
「やれやれ、強がりな口はきかない方が自分の為だってわからないかな」
o川;゚ー゚)o 「ママっ! お願い! 私は言う事を聞くから、ママを離して!」
「うるさいなぁ。僕は喧しいのが嫌いなんだ。君から人形にしてやろうか」
川 -゚) 「や……めろ……」
「だってさ、君のお母さんはは優しいねぇ。……でも、いくらなんでも若すぎないか。
肉体年齢を魔術で止めてるわけでもなさそうだし……」
人形はその大きなめをぎょろつかせて囚われのクールを見定める。
「ん……これはどういうこと……?」
364
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:52:57 ID:f6Jc0GS60
魔術師ゆえに、クールの身体に刻まれた魔力痕にはすぐ気がついた。
幾重にも重ねられた複雑な隠蔽魔術のせいで、即座にその元を暴くことは出来なかったが。
それでも、その意味をすぐさま理解し、人形に宿った瞳の光は暗く輝く。
「お前、子供がいたのか」
川;゚ -゚) 「っ……!」
「はははっ! 面白い! お前馬鹿か? 子供を孕んだまま終末に立ち向かうなんて!
いいぞ、いいぞ。俄然面白くなってきた。かなり複雑な魔術だが、僕に解けない魔術なんてない」
その腹に人形の手が触れる。
幾つもの魔法陣が生み出されては消えていく。
川;゚ -゚) 「やめろっ!」
「あはははは!! 面白くなってきた! 生きたままお前から引きずり出してやろうか?
それとも胎内で成長させてお前という殻を破って産ませてやろうか!
母親としては本望だろうなぁ! あっはっはははは!!!」
川 - ) 「頼む……やめてくれ……」
「だーめだめだめ! 絶対に許さない! ……くっそ、なんだこの魔術。
硬いにも程がある。どんな馬鹿だ、こんなことを考えたのは」
365
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:53:18 ID:f6Jc0GS60
川; -゚) 「っうああ!!!」
保護魔術に干渉されるたびに、激痛がクールを襲う。
膨大な魔力による力任せの解錠は、クールの精神を蝕んでいく。
額から大粒の汗を垂れ流しながら、息を荒げてひたすらに耐える。
「くそっ……! くそっ……!
もういい! 君を生かしたままえぐり出した方が面白いのに、残念だよ」
川 ゚ -゚) 「ははっ……なんだ、魔力に物を言わせただけで、大した魔術師じゃないんだな……お前」
「……こんな状況でまだ僕を挑発するなんて馬鹿な女だ」
川 ゚ -゚) 「お前がもうちょっと魔術師らしければ、私も遠慮しただろうな」
「っ!」
o川*゚ー゚)o 「よくもママを……絶対に、許さない!」
閉じ込められたままのキュートは両腕を高く掲げ、
そこに魔力をひたすらに集中させていた。
空間に流れる魔力の動きに気付いていた人形魔術師が、
敢えて放置していた拙い魔術。
その全容を黄色く光る虚ろな瞳で確認し、喉が裂けんばかりの笑い声を吐き出した。
366
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:53:49 ID:f6Jc0GS60
「なんだ……それは……あははは!! なんだそのまがい物の魔術は!!!
あーっはっはっはっは!! あはひひひい! 腹が……捩れる……っ!」
o川*゚ー゚)o 「っ! 何がおかしいの! これだって、ちゃんと立派な魔術なんだから!」
「それは一度魔術として利用した魔力の残滓、魔灰を集めただけのただの魔力の塊に過ぎない。
それ自体は確かに難しい魔術だ。この僕でも簡単じゃあないくらいにはね。
だけどいくら量を圧縮しようと、ただの魔力塊であれば簡単に防ぐことができるんだよ!!
疑うなら試してみるか!? ほら、撃ってみろ!」
川 ゚ -゚) 「やれ……キュート」
o川*゚ー゚)o 「……うん! リジェネレート!」
母の危機を前にして自身の恐怖に打ち勝った少女が放つ魔術。
父親から受け継いだ天性の才能を遺憾なく発揮したそれは、
膨大な魔力を与えられて一直線に人形を目指した。
「コントロールもろくにできていないじゃないか。
ほら、これでお前の大好きなママは消し炭さ」
367
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:54:50 ID:f6Jc0GS60
人形は身体を傾け、射線から外れる。
直線状にあるのは、囚われたままのクール。
その身体に直撃した時、魔力の暴風が全てを包み込んだ。
「あっはっはははははははははははははははははははははははは!!!!」
五感すらも奪われる大嵐の中で、風の音にも負けない程の笑い声が永遠と響いていた。
劇場の名残は無く、破壊された人形の欠片すらもどこかへと吹き飛ばされて消えた。
暗闇に申し訳程度の焔が幾つか灯った空間で、無事な人形はひたすら笑い続けている。
「あははひひひひっひーっひっひはは!
どんな気分だ? 自分の母親を消し飛ばした時はなぁ!?」
o川*゚ー゚)o 「……あなたは本当に残念な人」
「……なんだお前、その目は」
o川*゚ー゚)o 「魔力量と魔術適性が高いだけで魔術師になったあなたは、魔術師としては下の下。
それを認めたくないから、そうやって人形の身体で人の前に姿を現す。
認めたくない事実から目を逸らし続けてきたあなたでは、
たとえどれだけ魔力を有していても、私たちには勝てない!」
368
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:55:30 ID:f6Jc0GS60
「なんだっ!? ……あ」
人形の身体は縦半分に分割された。
引き裂いたのは巨大な光の剣。
川 ゚ -゚) 「最強の魔術師だと? 笑わせるな。
魔術に無知なお前が……自らは決して戦わないお前が。
ただ一つ、恵まれた魔力で相手を疲弊させて戦ってきたお前が最強なわけがない」
「なんで……生きて……」
o川*゚ー゚)o 「リジェネレートは再転換の魔術。魔灰を、魔力として活用するための魔術。
私は最初っから、ママを狙っていたんだから!」
川 ゚ -゚) 「天剣、ナインツ・ヘイブンの魔力解放術式、ギガンテア。
普段の私なら一本を振り回すことがようやくなのだが、お前が無駄に浪費した魔力と、
私とキュートの魔力、そしてこの空間を構成している魔力の大部分を喰らった私であれば、
九つを操ることすら容易い」
その刀身が数十倍にもなった天剣を魔力で自在に操る。
切っ先の速度は音速すらも越え、魔力を乗せて放たれる斬撃は劇場跡を切り刻む。
「やめろおおおお!!!!」
一薙ぎで百の人形を蹴散らし、刹那でガラクタの山を築きあげる九つの大刀。
その殺戮の中でただ一人無傷だったキュートが叫ぶ。
369
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:56:44 ID:f6Jc0GS60
o川*゚ー゚)o 「ママ! 見つけたよ!」
クールが大暴れしている間に探索魔術を幾重にも放ち、
人形の本体がいる空間を探し当てていた。
少女が指し示す劇場の天井。
崩れかけたシャンデリアのその奥深くに巨大な剣が突き刺さった。
崩壊した天井から瓦礫に混じって落ちてきた、人型の塊。
身体中の至る所が黒ずんでいる。
川 ゚ -゚) 「……それがお前の姿か」
(#゚;;-゚) 「あっはは……笑うなら……笑え……」
黒ずんだ腕をクールに向け、魔力を込める。
即座に反応した天剣がその肘から先を切断した。
(#゚;;-゚) 「っ……!」
川 ゚ -゚) 「美しいものを執拗に執着するのは、それが原因か。醜い魔術師」
(#゚;;-゚) 「ぁぁあああ!!」
370
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:57:07 ID:f6Jc0GS60
川 ゚ -゚) 「断て」
叫び声を根元で断ち切ったナインツ・ヘイブン。
その余波は空間そのものを破壊していく。
崩壊していく劇場の奥に拡がっていたのは、一面の砂漠。
o川*゚ー゚)o 「どういう……こと……」
川 ゚ -゚) 「わからない、が……。どうやら落ち着く暇はないらしいな」
足元までもが砂漠に侵されたところで、砂嵐の中から歩み寄る影が一つ。
全身を黒の甲冑で覆った騎士。
身の丈を超える長槍を構え一歩ずつ。
むき出しの殺意に、クールは背にキュートを庇い天剣を構える。
ギガンテアの魔術を破棄し、通常の大きさに戻った九つの天剣。
その全ての切っ先が警戒を表すかのように黒の騎士に向いていた。
川 ゚ -゚) 「構えろキュート……来るぞ」
o川*゚ー゚)o 「うんっ!」
劇場が跡形も無く消え去り、一面の砂漠となった世界。
そこに吹き荒れていた砂嵐が収まると、騎士は槍を構えて二人に襲い掛かった。
371
:
名無しさん
:2018/05/03(木) 23:57:30 ID:f6Jc0GS60
>
('A`) 「ここは……」
何の変哲もない円形の広場。
魔力も、精霊も、呪術も、全く感じない空間。
( ФωФ) 「油断したな。別空間に飛ばされたんだろう」
('A`) 「闘技場……か?」
広場は石でできた建造物で囲われており、二人を見下ろす客席が何列も並んでいた。
誰一人として観客はいなかったが。
( ФωФ) 「まずいな……精霊がほとんど反応を示さない」
掌の上で風の精霊に命ずるも、涼しむ程度の流れが起きるのみ。
普段なら応えるはずの幾千幾万の声は、小さな囁きとなっていた。
('A`) 「精霊が薄い……いや、違うな。奴の支配のせいだろう」
372
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:00:04 ID:GoNX5bS20
高く昇った太陽から降り注ぐ光に混じり、巨大な影が闘技場内に落下した。
大地を激しく揺すり、砂埃を巻き上げた大男はゆっくりと立ち上がり、右腕を掲げた。
それに応える様に、無人だったはずの客席から大歓声が沸き上がる。
鬣のような金色の頭髪を後ろに流し、肉体を惜しげもなく晒していた大男は、
正面に構えるドクオとロマネスクの姿を見て露骨に肩を落とした。
彡 l v lミ 「なんだオルフェウスめ。誰がもやしと年寄りをよこせと言った。
興に乗らないことをしやがって。オレは龍属をよこせと言ったはずだ」
その無防備な顔を、炎の魔術が直撃した。
間髪おかずに異なる属性を持つ魔術が次々と爆発した
('A`) 「余裕ぶっているところ悪いが、こちらには時間がな……」
彡 l v lミ 「がっはっはっは。その意気やよし!」
('A`) 「無傷かよ……」
( ФωФ) 「こやつは何者だ……」
彡 l v lミ 「おぉ、聞いてくれるのか!
オレの名はアルカイオス。オルフェウスに敗れた英雄の一人だ。
噂に名高き獅子王とはオレのことだが、お前らはオレを知っているか!」
373
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:00:57 ID:GoNX5bS20
ドクオの不意打ちを気にした風もなく、自らの名前を叫ぶ大男。
存在しないはずの観客もまた、大地が揺れるほどの大声援で応えた。
「「「「「「アルカイオス! アルカイオス!」」」」」」
彡 l v lミ 「さて、弱き者どもよ。
あらゆる卑劣、卑怯を行い、その持てる全てを尽くして挑んでくるがよい。
すべてを正面から叩き潰してやろう」
( ФωФ) 「時間がないと言ったはずだ」
彡 l v lミ 「老いた男よ。この場では得意の精霊術は使えん。何を見せてくれるのだ」
( ФωФ) 「精霊術が使えないなどと誰が言った」
ロマネスクの全身から淡い光が浮かび上がる。
その一つ一つは各属性の大精霊であり、呼びかけに応えてその力を彼に貸す。
( ФωФ) 「彼の者を打ち払え」
374
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:01:25 ID:GoNX5bS20
命令を受けた精霊たちは一直線にアルカイオスの懐へ飛び込んだ。
それを防御することも無く正面から受けた大男は、
土埃の中から無傷の姿を現し、豪快に笑う。
彡 l v lミ 「がはは、今のは少し痛かったぞ」
( ФωФ) 「ドクオ……」
('A`) 「なんだよ……」
( ФωФ) 「奴に有効な攻撃はあるのか」
('A`) 「ちょうど今自信が無くなったところだ」
彡 l v lミ 「来ないのならこちらから行くぞ」
巨体が瞬発した。
ドクオが咄嗟に展開した防御魔術を全身で突き破り、振り抜いた拳が地面に埋まった。
('A`) 「くそっ……化け物か」
辛うじて躱して距離をとった二人は、追撃を警戒して即座に構えた。
アルカイオスは僅かに生まれた隙などに興味がないかのように、ゆっくりと拳を引き抜いた。
375
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:04:24 ID:GoNX5bS20
すいません、作者です。
ブラウザがぶっ壊れたので、少し時間が空きます。
申し訳ありません。
376
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:07:44 ID:GoNX5bS20
彡 l v lミ 「軽い! 軽いぞ!」
( ФωФ) 「貴様が重たいのだ!」
彡 l v lミ 「成程、真理だ!」
('A`) 「舐めやがって!」
長杖に魔力を送り込み、身体強化の魔術を唱えた。
闘技場の端まで距離を取り、威力の高い魔術に集中しようと杖を構えた瞬間、
死の気配を指先にまで感じ、硬化の魔術を反射的に発動した。
(;'A`) 「っあ!」
すんでのところで間に合ったはずの魔術は打ち砕かれ、
左半身を消し飛ばしたかと思えるほどの衝撃で反対側の壁にまで弾き飛ばされた。
( ФωФ) 「ドクオ……!」
彡 l v lミ 「軟弱だ! 拳一つでこのざまか!」
( ФωФ) 「精れ……ッ」
377
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:08:09 ID:GoNX5bS20
精霊術を発動する間もなく、地面に叩き付けられた。
全身の骨が限界を超えて軋む音が頭の中に響く。
(; ФωФ) 「があああ……」
彡 l v lミ 「弱い……弱すぎる……」
広い闘技場にただ一人立つ無傷の男。
足元でもがく精霊術師と、遠くで壁に埋まる魔術師を順に見比べる。
彡 l v lミ 「全く楽しめなかったな。本当にこいつら終焉を超えたのか」
( ФωФ) 「ぐ……全く、死ぬかと思った」
彡 l v lミ 「ほう、年寄りの割には根性があるな。あっちの魔術師はもう気絶してるというのに」
( ФωФ) 「魔力で強化しているとはいえ、所詮人間の身体……。
貴様の強力な攻撃にはそう耐えられまいよ」
彡 l v lミ 「それで、お前は何を見せてくれるのだ」
( +ω+) 「ふぅ……ふぅ……この姿に戻るのは丁度五百年ぶりだ……!」
378
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:08:32 ID:GoNX5bS20
両目を閉じて体内に存在する精霊に呼び掛け、
人化して隠されていた精霊樹としての姿を解放する。
老人のように細い身体は膨れ上がり、身長は人間の時の倍にもなった。
目の前に立つアルカイオスよりも太く逞しい腕を持つ人間を模した大樹。
彡 l v lミ 「ほう、なかなかに面白い変身だ」
( ФωФ) 「勘違いしているようだから言っておく。こちらが本来の姿だ」
彡 l v lミ 「力比べといこうか」
ロマネスクとアルカイオスは両腕を組む。
( ФωФ) 「おおおっ!」
彡 l v lミ 「ふん!」
渾身の力を込めた二人の動きは完全につり合い、停止した。
どちらも一歩も譲らない。
彡 l v lミ 「確かに力は同格のようだな! だが!」
(; ФωФ) 「がっはっ……」
379
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:08:53 ID:GoNX5bS20
永遠に続くかと思われた力比べの途中で、アルカイオス突然力を緩める。
前のめりになったロマネスクの脇腹を、強烈な蹴りが抉った。
痛みで動きが止まった老樹の腕を掴み、地面に向けて投げ飛ばす。
受け身をとることすら許されず、叩き付けられた。
足裏での強烈な踏み付けを受け、ロマネスクの身体が軋む。
(; ФωФ) 「ぐぅぅ……」
彡 l v lミ 「人間の身体とはかくも素晴らしいものだ。
精霊樹であるお前はいくら力があろうと、根本的に近接戦には向いていないのだ」
( ФωФ) 「ふん、そんなことを俺が分かっていないと思ったか」
彡 l v lミ 「なに……?」
('A`) 「ゼロ・グラインド!」
自身が生み出した百を超える魔術の中で、最も発生速度のある破砕の魔術。
触れたものを砕く灰色の魔力がドクオの手元から射出された。
彡 l v lミ 「そんなもの……ッ!」
380
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:09:14 ID:GoNX5bS20
魔術と拳が真っ向から衝突した。
空気が弾け、衝撃の余りアルカイオスは一歩下がる。
それでも、その拳は健在であった。
彡 l v lミ 「がははっ! 少し焦ったが、大したことは無かったな!」
('A`) 「ああ。一発ならな」
彡 l v lミ 「何……」
('A`) 「お前みたいな馬鹿堅いのを相手にするために生み出した魔術だ。
たんと味わえ……!」
間をおかずに衝撃が闘技場に響く。
ドクオが魔力を注ぎ続ける限り、次々と生み出されては放たれる灰色の魔術。
「ぐぬううううううおおおおおお!!!!」
舞い上がる砂埃でアルカイオスの姿が完全に見えなくなってもなお、
ドクオは一切手を緩めない。
( ФωФ) 「念には念を、ともいうからな。押し潰せ!」
381
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:09:44 ID:GoNX5bS20
自身の内部に存在している精霊に命じる。
やまない爆発の中心部に、真上から鉄よりも堅く圧縮された空気の槌が落とされた。
(;'A`) 「はっ……はっ……無事か、ロマネスク……」
( ФωФ) 「自分の心配をしていろ。精霊樹の化身たるこの俺がそう簡単に折れるものか」
('A`) 「人間の姿がすっかり板についていた奴がよく言う」
( ФωФ) 「たしかに、久しぶりのこの姿には違和感がある。
それで、もはや肉片すら残っていないか」
闘技場の地面は大きく沈み、アルカイオスの姿は見えない。
立ち昇る魔力の残滓が煙となって空に流れていく。
('A`) 「嘘だろおい……」
彡 l v lミ 「がはっ……ははは……流石に効いたぞ」
穴倉からゆっくりと這い出してきた大男。
裸の上半身から幾筋の血を流してはいても、五体満足の姿であった。
( ФωФ) 「潰せ!」
382
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:10:11 ID:GoNX5bS20
彡 l v lミ 「ぐおっ……」
間髪入れずにロマネスクの精霊術が叩き込まれた。
大きな音を立てて穴に転がり落ちていく大男。
その数分後、何事もなかったかのようにアルカイオスは戻って来た。
静まり返っていた闘技場の観客席から歓声が鳴り響き、男の名前を叫ぶ声が木霊する。
声援に大きく腕をあげて応え、掲げた腕をゆっくりと降ろしてドクオとロマネスクに向けた。
彡 l v lミ 「このオレの肉体を傷つけるとは、見事!
おや、開いた口が塞がらないのか?」
('A`) 「理解できねぇ」
彡 l v lミ 「そうだろうか? ふぅむ、やはり筋肉が足りないと意思疎通が難しいか」
('A`) 「お前は一体何なんだ!」
彡 l v lミ 「原初の英雄が一人にして、オルフェウスと戦った最初の英雄だ。
魔力で鍛えた肉体と、精霊を宿した拳をもって、悪を薙ぎ倒す天下無双の戦士。
老いも若きも男も女も、誰もが崇めた獅子王アルカイオスとはオレの事だ!」
( ФωФ) 「……馬鹿なのかこやつは」
383
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:10:51 ID:GoNX5bS20
('A`) 「どうやらそうらしい」
彡 l v lミ 「がはは! 弱者の問いに答えるのは強者の務めだ」
('A`) 「なら教えてくれ。お前は何故オルフェウスに協力している」
彡 l v lミ 「勝者に敗者が従うのは当然だろう?」
( ФωФ) 「原初の英雄と言っておったが、
つまり貴様も世界を救うために戦ったと、そういうことか」
彡 l v lミ 「ああそうだ。オレ一人で終焉の獣の首をへし折ってやった」
('A`) 「あれを一人で……つまりお前は、滅びる前の世界で戦った英雄だってことか」
彡 l v lミ 「オレたちはみんなそうだ。
世界の秘密に気づいて戦いを挑み、そしてオルフェウスに敗れたのだ」
( ФωФ) 「たち、ということは他にも貴様ほどの実力者がいるわけか」
彡 l v lミ 「残念だが、オレ並ぶ強者はいない。
終焉をたった一人で乗り越えたのは後にも先にも俺だけだ」
384
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:11:47 ID:GoNX5bS20
( ФωФ) 「そんな貴様ですら負けたというのか」
彡 l v lミ 「奴の最初の一撃をオレは避けずに受けたのだ。
そして気づいたら身動きが取れず、オレはオルフェウスに取り込まれた」
('A`) 「本物の馬鹿か」
彡 l v lミ 「オレはこの場所に閉じ込められ、敗北を悟った。
故に、ここに送り込まれてくる英雄達を屠ることでオレに与えられた役割を果たしている」
( ФωФ) 「貴様ほどの力があれば、この空間を破ることもできたのではないか」
彡 l v lミ 「いや、無理だ。この空間はオレの命そのもの。オレ自身にはどうすることもできない。
外からならばなんとかなるかもしれんがな」
('A`) 「成程……」
彡 l v lミ 「聞きたいことは充分聞いただろう。そろそろ続きといこうじゃないか」
構えなおすアルカイオス。
その肉体には多くの打撲と裂傷で無事なところを探す方が難しい。
それでも疲労の色は見えず、体力の底は想像できない。
385
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:12:10 ID:GoNX5bS20
( ФωФ) 「ドクオ、少し時間を稼げ。俺が何とかしてみせる」
('A`) 「無茶言ってくれる」
ロマネスクは、再度眼を閉じて体内の精霊に呼び掛ける。
隙だらけの状態になった精霊術師を背に庇い、魔術師は最も苦手とする敵の前に立つ。
最高威力の攻撃魔術は殆ど通じず、防御魔術は一撃すら耐えられない。
相性でいえば最悪。彼我の実力差は歴然としていた。
それでも心折れることなく、過去最悪の敵に対して己の胸を張る。
('A`) 「シャドウリフレクト」
彡 l v lミ 「弱き者よ、その全力でもって抗え!」
水平薙ぎは魔術を行使した瞬間のドクオの側頭部を打ち抜いた。
真っ赤な血液を散らし、ぶつかった衝撃で闘技場の壁を崩壊させる。
彡 l v lミ 「他愛もない。次はお前……」
('A`) 「待てよ」
上着は派手に避け、もはやボロ布と変わらないような状態でありながら、
その身体は全くの無傷であった。
386
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:12:37 ID:GoNX5bS20
彡 l v lミ 「驚いたな。確かに頭を吹き飛ばしはずだ」
('A`) 「あらゆる物理攻撃の影響を受けない魔術だ。
お前の拳がどれだけ重たかろうと関係ない」
彡 l v lミ 「ならば試してみるか?」
凶悪な笑みを浮かべたアルカイオス。
その表情に全身を震わせるほどの恐怖を感じ、額から零れる汗を拭ったドクオ。
コンマ以下の僅かな時間で、視界から大男が消えた。
直後、爆発と振動が闘技場内で反響する。
肉片すら残らないの程激しい一撃は、しかし何ら影響を与えることは無かった。
魔術で衣服すらも再生し、現れた時と同様の姿に戻ったドクオは告げる。
('A`) 「無駄だ」
彡 l v lミ 「がははは! 面白い! 面白いぞ! ここまで壊れなかったのはお前が初めてだ!」
彡 l v lミ 「ようやく本気が出せる」
.
387
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:14:22 ID:GoNX5bS20
背筋が凍るほど冷たい視線。仁王立ちする大男に先程までの陽気さは欠片もない。
闘技場内の気温が一気に氷点下にまで下がったのでは錯覚するほどの恐怖。
ドクオは杖を握り直そうと腕に力をいれ、自身が震えていることに気付いた。
彡 l v lミ 「簡単に壊れてくれるなよ?」
アルカイオスは右腕を引き、腰を落とす。
それが殴るための動作であることは、
近接戦闘を行わないドクオですら即座に理解するほどに単純な事前動作。
次にどうするかは考えるまでも無かった。
('A`) 「ディメンション・フォールト」
目の前に空間を歪める防御魔術を何重にも展開し、
さらに魔力を練り込み、物理的な威力を減衰させることのできる盾を呼び起こす。
衝撃を分解し、対消滅させるその大盾の名はアナイアレイション。
空に描かれた魔法陣の数は十二。
('A`) 「これが……俺の全力だッ!」
388
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:14:51 ID:GoNX5bS20
あらゆる防衛魔術と防御魔術を展開し、正面で構えるアルカイオスを待ち受ける。
大男はドクオの魔術を妨害しようともせずに、十秒以上かけた深い呼吸を繰り返していた。
一度吸って吐けば拳は破砕の加護を得た。
二呼吸目に拳は貫通の加護を得た。
三つと四つで増速と浸透の加護を得た。
五度目で反魔術の加護を得た。
六度目の呼吸で閉じた目を開き、拳に信念を乗せた。
目の前に立つ過去最高の敵に対して、内心で称賛を送る。
そうしてアルカイオスはようやく歩を進めた。初めはゆっくりと、数秒間もかけて一歩目を踏み出す。
二歩目はそれよりも少し早く、三歩目はさらに早く。
進むごとに加速し、僅か五歩で音の壁を越え、溜め込んだ全ての力をドクオに向けて叩き付けた。
弾けた魔力片が雪のように闘技場に降り注ぐ。
立ち昇る煙は収まる気配を見せず、爆心地では舞い上がった瓦礫と砂埃が渦巻いていた。
彡 l v lミ 「っふー……」
アルカイオスの右手は消し炭のように黒く焦げ付いていた。
痛むそぶりも見せずに、大きく息を吐く。
389
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:15:35 ID:GoNX5bS20
彼の後ろには大きく抉れた地面がだけ残り、
突き出した拳の先にあったはずの観客席は、崩壊して跡形も無い。
大男は待つ。自身の引き起こした結果を知るために。何も言わずに。
土煙は風に流されて次第に薄まってゆく。
全てが消滅したかに思えた直線状にその男はいた。
穴の開いたままふさがらない腹部から大量の血をばら撒きながら。
( A ) 「はっ……げほっ……ぁ……」
彡 l v lミ 「見事!」
崩れていく右腕を気にもせず、アルカイオスは腕を組み称賛を告げる。
膝をついた息をすることに必死でドクオはそれに応えることすらできない。
彡 l v lミ 「よくぞ耐えた。弱き魔術師!」
('A`) 「くそっ……なんで……」
彡 l v lミ 「因果を打ち砕く拳は、物理を超えた物理。存在しないものですら殴って壊すことができる。
魔術の防壁など大した障害ではない。と思っていたが、存外やるではないか。
がはっ! はははっ! これで右腕は完全に使い物にならない。次は何をしてくれる?」
390
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:16:09 ID:GoNX5bS20
('A`) 「ははっ……もう……ネタ切れだ……」
彡 l v lミ 「そうか、残念だ。その怪我だ、さぞ痛かろう。今楽にしてやる」
('A`) 「……遅ぇよ」
彡;l v lミ 「なっ……ぐぅっ……」
蹲るドクオの正面に立つアルカイオスは、突然弾き飛ばされて観客席に突っ込んだ。
完全に崩れてなくなった右腕を気にもせず、瓦礫から這い出てきた。
自らの巨体を吹き飛ばすほどの力を持つ敵に、その目は狂気の喜びで染まる。
彡 l v lミ 「っがはははは! 精霊樹よ! 貴様! その姿はどういう事だ!」
( ФωФ) 「ドクオ、再生に集中しろ。まだ助かるだろう。
クールとキュートを置いて逝くわけにもいかまい」
('A`) 「余計なお世話だ。約束は果たした。今度はお前の番だ、ロマネスク」
( ФωФ) 「言われるまでも無い」
千年を超えて生きてきた老人ではなく、口調に似合わない幼子の姿がそこにはあった。
両手は手甲のような樹木で覆われ、背中には翼と見紛う黒き枝。
額には人外であることを主張する角が一つ。
391
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:16:32 ID:GoNX5bS20
彡 l v lミ 「オレを吹き飛ばしたことは評価しよう。だが、所詮その程度だ。
貴様ではオレの身体に傷をつけることは出来ない!」
( ФωФ) 「本当にめでたい奴だ。この姿の意味が理解できておらんのか」
彡 l v lミ 「ごはっ……」
アルカイオスすら反応できな速度で、その鍛え抜かれた腹に深々と拳が突き刺さっていた。
掌から飛び出した光が弾け、巨体を浮かせる。
合わせて飛び上がったロマネスクの後ろ蹴りで、アルカイオスはよろめく。
( ФωФ) 「気づいていないわけがないだろう?」
彡 l v lミ 「精霊が……!?」
ロマネスクの呼びかけに応える淡い光が闘技場の中に集まってくる。
精霊たちは彼の全身に纏い、その意思に従う。
( ФωФ) 「ドクオが稼いだ時間でこの空間の支配は終わった。
この場所にいる全ての精霊は俺の命令に従う」
彡 l v lミ 「不可能だ。この闘技場はオレの命そのもの。この世界の支配権はオレにある!」
( ФωФ) 「そうだな。相当手間取った。見ろこの姿。半精霊化までしてようやくだ」
392
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:16:58 ID:GoNX5bS20
彡 l v lミ 「精霊化だと……?」
( ФωФ) 「貴様の生きていた時代には存在していなかったのかもしれないな。
精霊術を使いすぎた術師の末路だ。
数千倍の精霊を従わせることができるが、
時間とともに意識は薄れ一精霊と化す」
彡 l v lミ 「面白い! その力、試させてもらう!」
残った左腕を振り抜いたアルカイオス。
客席を迸った衝撃波をロマネスクは腕の一振りで四散させる。
( ФωФ) 「吹き飛べッ!」
彼の言葉に呼応し、精霊たちが持てる力を注ぐ。
そうして出来上がった強力な風の渦は、アルカイオスの全身に容赦なく叩き付ける。
彡 l v lミ 「ぐぬぅ……」
( ФωФ) 「うおおおおおおっ!!」
風に乗って加速したロマネスクの一撃。
それに対して、小細工を弄することなく正面から受ける。
絶対的な自信。それこそがアルカイオスの強さの源泉。
393
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:17:22 ID:GoNX5bS20
彡 l v lミ 「がははっ!」
( ФωФ) 「ぐぅううぬ……」
満身創痍に見えるアルカイオスの全身を覆う、溢れんばかりの荒々しい闘気。
精霊術の力を借りているとはいえ、小柄な姿になったロマネスクは押され始めた。
彡 l v lミ 「いいぞ……いいぞ弱き者! もっと……もっと抗え!」
( ФωФ) 「戦闘狂が……だが、力比べをしたいわけじゃない」
アルカイオスの拳をいなし、隙だらけの右脇腹を蹴り飛ばす。
バランスを崩した巨体の頭部を挟み込むように両腕を叩き付けた。
彡 l v lミ 「ふはっ……」
( ФωФ) 「震えろ!」
精霊化したロマネスクにとって、もはや精霊を扱うことは息をすることよりも容易い。
言葉すらも必要なく、彼が求める以上の精霊たちが集結し、その力を存分に発揮する。
高密度の大気はアルカイオスの脳を揺らせるように幾度も弾けた。
394
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:17:54 ID:GoNX5bS20
膝をついた大男にも手を緩めない。
その力を目の前で見せつけられた精霊樹に一切の油断は無かった。
彡 l v lミ 「ぐうううぅうう!」
片腕では防ぎきれない圧倒的な物量の攻撃。
( ФωФ) 「いい加減に倒れろ!」
掲げた右腕はその大きさを何倍にも増す。
握り拳は大地を砕く威力の鉄槌を下した。
僅かにその姿を保っていた観客席は、その一撃が引き起こした振動で完全に崩壊した。
いつの間にか声は聞こえなくなっており、自身の荒い息だけが耳に届く。
(; ФωФ) 「はっ……はぁっ……これで……どうだ」
動くものの姿は無く、目の前には仰向けに倒れた大男。
戦闘の最中に背中を地面につけられたことは、未だかつて経験したことが無かった。
それ故にアルカイオスは笑う。
ただ純粋な喜びでもって、声をあげて笑った。
彡 l v lミ 「訂正しよう」
395
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:18:21 ID:GoNX5bS20
寝転がったままのアルカイオスは、目の前に立つ精霊の化身に話しかける。
( ФωФ) 「何をだ」
彡 l v lミ 「貴様らを弱者だと決めつけたことだ。戦いに際し一度も膝をつくことすらなかったオレを、
仰向けに打ち倒すとはな。弱者ではなし得ない。
一つ、オレからも聞いていいか」
( ФωФ) 「答えよう」
彡 l v lミ 「お前達にも仲間がいただろう。龍と不死、魔術師と剣士の女。
あいつらも強いのか」
( ФωФ) 「俺たちと同じくらいには、強い。
だからこそ終焉のシステムそのものを終わらせられると信じてきた」
彡 l v lミ 「成程。その傲慢、面白い。行け、この滅びを定められた世界を止めてみせろ。
この場所に閉じ込められてどれだけの時間が経ったか。
お前達のおかげで少しだけ、オレというものを思い出した。
獅子王アルカイオスは、こんなつまらない場所で朽ち果てる男ではないということを」
( ФωФ) 「なっ……!?」
ゆっくりと起き上がった巨体。
静かな怒りを発しながら、残った左手を強く握り込む。
構えたロマネスクを気にも留めず、闘技場の中心に堂々と立つ。
396
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:19:00 ID:GoNX5bS20
彡 l v lミ 「奪われたことすら気づかないとは、なんと愚かなことか。
錆びた刃に価値などないというのに……。
今を生きる英雄達よ。せめてもの詫びに、道を開こう」
( ФωФ) 「何をするつもりだ……」
彡 l v lミ 「この世界を壊し、お前たちをオルフェウスの元へと戻してやる」
('A`) 「待てよ」
彡 l v lミ 「魔術師……。傷はもういいのか」
('A`) 「風穴開けられたときは死んだかと思ったがな。
この世界を壊せばお前は死ぬんじゃないのか」
彡 l v lミ 「怠惰という泥に塗れた命で、オルフェウスに一矢報いることができるのなら本望だ」
('A`) 「獅子王アルカイオス。お前は俺が戦った中でも最も誇り高く、最も強かった。
そんな男が自殺で幕を閉じるなんてつまらないことをするつもりか」
彡 l v lミ 「それしか今のオレには出来ない」
('A`) 「ロマネスクが戦っている間、俺はこの空間を完全に把握した。
世界最高の魔術師、ドクオ・ルグがお前に戦いという死に場所を与えてやる」
397
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:19:29 ID:GoNX5bS20
彡 l v lミ 「なに……?」
('A`) 「オルフェウスに取り込まれたすべての英雄世界をこの世界に引き込む。
この世界に風穴を開け、俺たちは奴の元へと向かう。
だが、ここに残らざるを得ないお前には数多の英雄が押し寄せて来るだろう。
あらゆる時代のあらゆる力を備えた英雄たちが。
おまえの意を察し味方になる者もいるかもしれないが、
多くはオルフェウスの意思に従うだろう。つまり、敵としておまえを屠るために来るはずだ」
彡 l v lミ 「ほう……オレを防波堤とするか! いいだろう! その提案にのらせてもらう」
('A`) 「カオスオーダー」
ドクオの杖から世界を歪める魔術が噴き出した。
それらは黒き奔流となり、闘技場の空に大穴を開けていく。
強制的に接続された無数の世界はゆっくりと崩壊を始めた。
その中で最大の綻びに向け、ドクオはさらにいくつかの魔術を放つ。
('A`) 「ロマネスク、奴の元まで道筋をつけた。
すぐに異常に気付いたオルフェウスによって、この世界には英雄が現れる。時間がないぞ」
( ФωФ) 「……わかっている。アルカイオス!
死ぬなよ」
398
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:20:01 ID:GoNX5bS20
裂け目から飛び降りてきた槍を持つ騎士。それを追ってか二人の女性が闘技場に姿を現した。
('A`) 「なっ!? クール! キュート!」
o川*゚ー゚)o 「パパっ!」
駆け寄ろうとした少女を狙った騎士の槍。
無言で飛びかかった騎士と少女の間に割って入り、頭を一撃で叩き潰した闘技場の主。
腕を振って血の汚れを払いながら屈託のない笑顔を見せた。
o川*゚ー゚)o 「あ、ありがとうございます」
彡 l v lミ 「なに、大したことではない」
川 ゚ -゚) 「あの騎士を一撃だと……」
('A`) 「本物の化け物だ。オルフェウスにも劣らないほどのな。
それよりお前、どうしてそんなに魔力が増えてるんだ?」
川 ゚ -゚) 「さっきまで戦っていたやつの魔力を頂戴した。
そんなことより、どんどん敵が出て来るぞ」
崩壊しかかった闘技場の世界の末端部分には、あらゆる空間が連続して存在していた。
その一つ一つから、英雄クラスの実力を持つ敵が次々と現れる
彡 l v lミ 「はやく行ってこい、英雄たち。間違った世界を終わらせろ!」
('A`) 「言われなくても、そうしてやるさ」
魔術師と精霊は、歪みに飛び込んだ。
その後を少女と天剣使いが追いかける。
温かい言葉に背を押され、傷ついた身体に強い意思をもって。
世界を終わらせるために。
399
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:21:15 ID:GoNX5bS20
>
( <●><●>) 「よもや英雄の檻が破られようとは……それも、全員に」
(;'A`) 「っ! くそがっ!」
虚ろの空間に一人立っていたオルフェウス。
その足元には、二つの塊が転がっていた。
( <●><●>) 「だが残念だったな。遅すぎた」
( ФωФ) 「退け」
ロマネスクの言葉から放たれる精霊術を避け、倒れた二人の傍を離れた。
余裕すら見せながら、地べたに座り込む。
川 ゚ -゚) 「モララー! オサム!」
( ・∀・) 「ぐっ……」
o川*゚ー゚)o 「よかった、まだ生きてる」
川 ゚ -゚) 「リフドロップ!」
400
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:21:42 ID:GoNX5bS20
光の滴が倒れて呻く龍王と呪術師の身体に染み込んでいく。
魔力による再生が行われ、表面的な傷は一瞬で消えた。
( ・∀・) 「なんで……僕を庇ったり……したんだ」
龍王の傍に横たわる呪術師は動かない。
鼓動は感じられず、肉体は冷え切っていた。
('A`) 「てめぇ……」
( <●><●>) 「いくら英雄の檻を破ったところで、所詮あれらは私に及ばなかった連中だ。
その程度で私に勝てるなどという幻想は捨てることだ」
( ФωФ) 「その認識を改めさせてやろう」
拳を握り締めて飛びかかったロマネスク。
その右腕を包み込むように精霊が集う。
( <●><●>) 「よく見ればその姿……」
( ФωФ) 「穿て!」
401
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:22:16 ID:GoNX5bS20
地面を叩き精霊術を流し込むことで、大地の精霊をたき付ける。
ロマネスクに呼びかけに応え、地面そのものがうねりをあげてオルフェウスに襲い掛かった。
その身体を貫こうと生える棘を紙一重で躱しながら、
純術師はロマネスクと同様に精霊術を地面に放つ。
( <●><●>) 「これで、相殺だ」
たったそれだけの行為で大地は嘘のような静寂を取り戻す。
( ФωФ) 「厄介な」
('A`) 「状況は悪いな。過去の英雄達がいつまた出て来るかもわからない」
川 ゚ -゚) 「なるべく早くこの化け物を打ち倒さないといけないわけか」
( <●><●>) 「諦めの悪い。抗ったところで結果は同じだというのに」
オルフェウスの周囲に強力な反応が三つ現れた。
402
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:22:54 ID:GoNX5bS20
一つは魔術。
注ぎ込まれる魔力量は圧倒的で、その術式も精緻なもの。
威力は想像に難くない。
一つは呪術。
背筋が凍るほどの悪意を詰め込んだ回避不可能な範囲攻撃。
黒泥からは怨嗟の声が届く。
一つは精霊術。
大精霊を従える上位存在である精霊神の一撃。
そのあまりの眩しさに、心が折れそうになる。
( ФωФ) 「精霊術は俺が防ごう」
川 ゚ -゚) 「ロマネスク……その姿は」
身体の一部が淡い光で覆われている古老は、笑いながらこたえた。
精霊化しつつある事実と、残された時間を。
o川*゚ー゚)o 「そんな……」
( ФωФ) 「なに、俺が精霊になれば奴に使役されるだけだ。
その前にこの命、散らせるとしよう」
403
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:23:32 ID:GoNX5bS20
( ・∀・) 「邪魔にならない様に死ぬだと?
ふざけるな。命を懸けるんだったら、それなりの結果を求めろよ」
( ФωФ) 「ふん、若輩者に説教をされるとは、やきが回ったか」
o川*゚ー゚)o 「呪術は任せて」
( ・∀・) 「僕も協力しよう」
川 ゚ -゚) 「魔術は私が止める。だからドクオ、決めてこい」
ドクオを護る様に、四人が前に出る。
その後ろで、オルフェウスを殺すための魔術を組む。
('A`) 「娘の前で、かっこ悪い姿は見せられねぇよな」
対決戦用の最終魔術。世界の根幹から揺るがしかねない至高の術式。
発生までに必要な時間は、頼れる仲間たちが稼いでくれる。
だからドクオは、目の前に迫った脅威から完全に意識を外した。
( <●><●>) 「今更、何をしようと無駄だ。矮小なる生き物たちよ。
星の破壊すら容易い一撃のもとに消え去るがいい! 」
404
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:23:58 ID:GoNX5bS20
一際大きな力を発し、三つの力が爆ぜた。
( <●><●>) 「終焉の純術、羽虫を蹂躙しろ」
人智を超えた世界規模の破壊を引き起こす三術は、抗う者達に放たれた。
もはや猶予などなく、英雄達は自身の持つ最大の力をぶつける。
( ФωФ) 「集え、数多の精霊たちよ。我が意に応えて力を示せ。
我が名に従う全ての精霊よ。
その加護によって、悪しきを阻め」
自らの身体のほとんどが精霊と化したロマネスク。
枯れた節々を持つ大樹の枝の様な指先に、無数の精霊たちが従う。
精霊神の光にも勝るとも劣らない光撃が、両者の中間地点でぶつかった。
o川*゚ー゚)o 「止めます」
オルフェウスの足元に倒れたまま動かない死術師。
その力の一端を、少女は引き継いでいる。
未来において得た力を。
o川*゚ー゚)o 「オサムさん……力をお借りします!」
呪術とは本来不可避なものである。
誰にも知られることなく、命を奪う術。
強力ゆえに多くの制約があり、決して簡単に扱うことは出来ない。
405
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:24:31 ID:GoNX5bS20
だが目の前の敵オルフェウスは、その制約をすべて無視した呪術を用いた。
防御の為に必要なのは、呪術に実態を与えること。
o川*゚ー゚)o 「呪掴!」
降り注ぐ黒い靄に対して、キュートの唱えた呪術が確かな存在を与える。
( ・∀・) 「龍神の咆哮」
実体を与えられた呪術攻撃に真っ向から立ち向かったのは龍王の砲撃。
オルフェウスの英雄の檻を砕いた一撃は、しかし呪術と拮抗する。
川 ゚ -゚) 「規格外の魔術だな」
魔術の威力は、その術式によって決まると言っても過言ではない。
では、完成された術式に、大量の魔力を注ぎ込めばどうなるか。
結果は迫ってくる一撃が示している。
川 ゚ -゚) 「魔力で届かないのなら、死力を尽くそう」
天剣の持つ特性を頭の中に思い浮かべる。
彼我に差がありすぎるために、攻撃魔術で相殺することは不可能。
ならば、単なる防御魔術で対抗できるかと言われればその答えは否。
406
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:25:06 ID:GoNX5bS20
クールは、天剣九つを正面に向ける。
剣先は等間隔で大きく開いて、正面からは花弁のように見えた。
川 ゚ -゚) 「リバーサル」
剣先から編み出された術式は蜘蛛の糸のように張り巡らされ、
やがて一つの大きな反射術式を作り出した。
防ぐには、高すぎる破壊力が、
撃ち合うには、大きすぎる魔力が
弾くには、強すぎる支配力が邪魔をする。
ならばとクールがとった手段は、魔力の拡散。
魔力砲の中心を正確に察知し、置き石代わりの反射魔術を置くことで砲撃を歪め、後方へと逃がす。
たったそれだけの単純なことであった。
川;゚ -゚) 「ドクオ……! 長くは……もたないぞ!」
返答はない。
ドクオは深く、深く、ともすれば自らを見失いかねない程、意識を集中させていた。
魔術師として、彼が世界を背負うに足ると判断した最高難易度の魔術。
ロマネスクが敵の攻撃の一切を漏らすまいと歯を食いしばる。
両腕から肩に、精霊痕が拡がっていく。
407
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:25:34 ID:GoNX5bS20
モララーとキュートが一欠片の呪いも零すまいと踏ん張る。
じわりじわりと、黒き呪いは英雄達の場所に覆いかぶさるように近づいていく。
クールが限界以上に魔力を行使し、両目から血を流しながら吼えた。
光の柱は、自身を分けている魔術を食い破ろうと暴れる。
('A`) 「……墜神魔術」
ドクオの頭上には、無数の魔術式が浮かび上がっては消えていく。
組み上げられていく魔術は、触れれば壊れてしまいそうなほど脆く見えた。
掲げた両腕で、一欠片も乱れがないように魔力をコントロールする。
コインを縦に積み上げるよりもなお精密な作業を要求されるそれは、
少ない魔力でどうやって火力を稼ぐか、という問いに対してドクオが見つけた一つの答え。
長年の研究を経てなんとか完成にこぎつけた魔術。
それは、一つの魔術を構成するために、他の魔術を用いてする多重化の技術。
ドクオであっても、発動までに数十秒もの隙が生まれる諸刃の剣。
だが、その威力は桁違いである。
('A`) 「墜ちろ! オルフェウス!」
408
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:26:17 ID:GoNX5bS20
魔術式が収束し、一つの形を成した。
細身の紡錘形である魔術は、吸い込まれるかのような暗闇の色。
空間を削り取ってしまったかのようにそこにあった。
ドクオが振り下ろしたと同時に、その場から一切の音なく消えた。
とびそうになっていたクールの意識は、大気の乱れによって叩き戻された。
モララーは、仲間がいるはずの背後からくる圧力に全身を震わせた。
必死にこらえていたロマネスクが、背後で強大な力が現れて消えたのを知覚した。
目の前に迫り来る破壊の一撃よりも恐ろしいものに、キュートの背筋が凍る。
('A`) 「エクス・スピンドル」
英雄達が最初に見たものは、飛び散る黒い光。
虚ろの空間そのものを揺るがしながら、一つ一つが大魔術クラスの片鱗が流星群のように降り注ぐ。
409
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:27:13 ID:GoNX5bS20
ついで、耳を塞がなければ耐えられないほどの轟音。
堅い壁にぶつかったかのような衝撃で、キュートはしりもちをついていた。
巨大な龍の身体を持つモララーが庇っていなければ、はるか後方に飛ばされていたであろう。。
クールは魔術で、ロマネスクは精霊術で身体と意識をなんとか引き留める。
( <●><●>) 「ア……が……が……」
大部分の質量を失ったオルフェウスは、再生するでもなくその場に立ち尽くす。
その背後、広大な空間である虚ろの空に、巨大な穴が開いていた。
そこから零れて来る泥は、ゆっくりと世界を灰色に染めていく。
('A`) 「はぁっ……はぁっ……」
o川*゚ー゚)o 「今のは……私知らない……パパ、何をしたの?」
('A`) 「魔術の多重構造化だ。魔力と誤認させた魔術を用いて、更なる魔術を発動させる。
隙は大きいが威力は倍増する」
( ФωФ) 「これで終わってくれればよいのだが……そうはいかんだろうな」
溶けだし崩壊したオルフェウスの肉体。
その煙の影から、人間が現れた。
神々しい金の刺繍が為された白色のローブを被り、光り輝く装飾で全身を飾っている男。
瞳は暗く、顔や手などのむき出しにされた皮膚には、無数の文様が見えた。
410
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:27:51 ID:GoNX5bS20
数多の精霊が傅き、彼の傍に控えている。
溢れ出る魔力は虚ろの中を満たして、息苦しくなるほど。
( <●><●>) 「流石に……驚かされたぞ」
( ・∀・) 「集え七星、デュプリケイト」
自身と同等の戦力を持つ龍王の影が七つ。
即座に反応して飛びかかった。
( <●><●>) 「はやるな、小龍」
(; ・∀・) 「なっ……」
ただの一撃で、七体が霧散した。
魔術によるものであることしか、モララーには認識できなかった。
(;'A`) 「嘘……だろ……」
魔術師であるドクオは、龍王の影を撃破した攻撃の詳細を理解していた。
堕神魔術として自身が組み上げたと思っていた魔術の多重構造化。
それをより効率的に用い、ほとんどタイムラグを必要としない一撃だったということに。
411
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:29:06 ID:GoNX5bS20
( <●><●>) 「おまえたちは実によく戦った。
空想体である私の姿を打ち破ったのは、未だ誰も無しえなかった快挙だ。
故に、最大限の賛辞を贈ろう」
川 ゚ -゚) 「その余裕、気にくわないな」
( <●><●>) 「気に障ったのならすまないな。
この姿で他者と接するのはこの座に来てから初めてこのことだからな。
何か褒美でもやりたいところだが……」
('A`) 「終焉のシステムそのものをなくしてくれるとありがたいんだがな」
( <●><●>) 「それはできない。
おまえたちがどう抵抗したところで、この世界の根本的な仕組みは覆せない。
この座の主である私以外には」
('A`) 「だったら、お前を倒してその座を奪い取ればいいという事か」
( <●><●>) 「夢を持つのは自由だが、現実をもう少し見据えるがいい。
お前たち全員でようやく私の空想体を倒した程度の実力で、
どうやって私に抗うつもりだ」
川 ゚ -゚) 「やってみなければ……わからんだろう」
412
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:29:51 ID:GoNX5bS20
( <●><●>) 「やれやれ……お前たちが望むのなら、英雄の檻に迎え入れてやろうとも思ったが」
( ・∀・) 「あんな飼い犬のような状態、こちらからお断りだ」
( ФωФ) 「俺たちの世界が消えてしまったその後に、自分たちだけ生き残ったところでなんとなる」
( <●><●>) 「では、世界諸共消滅してもらうしかあるまいな」
('A`) 「行くぞ……! ミリオンサンズ」
太陽を模した赤く輝く小さな光の魔術。
オルフェウスの周囲を完全に包囲した。
o川*゚ー゚)o 「ブローティング!」
ドクオの魔術に重ね掛けをすることで、疑似的な多重構造化を引き起こすキュート。
熱球は肥大化し、更なる熱量を放出する。
( <●><●>) 「フーリズ」
ただ一言で、周囲の魔術を凍結させたオルフェウス。
その首元を狙った斬撃はしかし、直前で砕かれた。
413
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:30:21 ID:GoNX5bS20
川 ゚ -゚) 「っちぃ!ホライゾン!」
八つの斬撃が同時にオルフェウスを襲う。
空間そのものを断絶するかのような鋭い刃を、次々と砕いていく。
( ФωФ) 「この身、精霊になろうとも」
既に半身が精霊と化したロマネスクが、その全力をもって突っ込む。
散らばった刃の破片の吹雪を真っ直ぐに抜け、精霊術を纏う。
( ФωФ) 「叩き伏せろ!」
巨大化させた右腕を振り下ろした。
質量、速度共に最大の一撃は、右腕一本で阻まれた。
( <●><●>) 「ロマネスク、精霊となって私にしたがえ」
( ФωФ) 「ぐうっ……」
オルフェウスの言葉の力で、じわりじわりと精霊化が促進していく。
完全精霊化の危機を救ったのは、龍王の一撃。
ロマネスクの腕の影から、音速の突進。
魔力を纏っていなかった一撃は、オルフェウスには感知できないはずであった。
414
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:30:46 ID:GoNX5bS20
( ∀・) 「がはっ……」
迎撃は、呪術による呪いの棘。
地面から突如現れたそれらは、モララーの全身を貫いた。
攻撃を受けた瞬間に、龍化をやめ拘束を解く。
棘の合間を縫ってさらに距離を詰め、至近で再度龍化。
( ・∀・) 「くらえ……っ!」
ほぼゼロ距離から龍技を叩き込んだ。
一瞬の隙に距離をとったロマネスク。
モララーもまた、それを確認して一度距離をとる
( <●><●>) 「連携も優秀だ。消すのがもったいないと思うほどにはな」
('A`) 「言ってろ……!」
o川*゚ー゚)o 「行くよ! パパ!」
('A`) 「ソウルチェイン」
o川*゚ー゚)o 「グランドロック」
二つの捕縛魔術が、同時に発現した。
一本の鎖がオルフェウスの身体に巻き付き、その両手脚を隆起した大地が抑え込んだ。
415
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:32:12 ID:GoNX5bS20
( <●><●>) 「エンプティネス……。鳴れ、黒呪雷・千条」
二人がかりの魔術を身動き一つせずに消滅させ、
同心円状に雷の呪術を放つ。
黒き雷は、全てを穿ちながら虚ろを奔った。
川 ゚ -゚) 「っ……」
( ФωФ) 「すまぬが、ここまでだ」
( ・∀・) 「ロマネスク!」
英雄達を襲った呪術をその身で防いだロマネスクは、身体の半分以上が吹き飛ばされていた。
精霊化しているがゆえに即死を免れたにすぎず、
もはやその命に幾許の猶予もなかった。
( ФωФ) 「聞け! わが身に宿りし精霊よ! 今こそ……この魂を委ねよう。
二千を越えた歳月の全てを捧げる。 神を殺す刃となれ!」
叫び、抑えていた精霊化の力を解放させた、
精霊と一体になったロマネスクの傷は、完全に癒えていた。
身体に似合わない程大きな左拳をオルフェウスに向けて飛び込んだ。
416
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:33:21 ID:GoNX5bS20
( <●><●>) 「跪け」
( ФωФ) 「その程度……!!!」
精霊使いの言葉は、精霊たちにとっては神にも等しい。
逆らうことは容易ではない。言葉に従おうとする身体と、異なる意志。
相反する二つの力を受けて、ロマネスクの背中が捩れていく。
( <●><●>) 「我が言葉に従え」
(#ФωФ) 「ぬっぅうううおおおお!」
( <●><●>) 「膝を屈して拳を降ろせ」
(#ФωФ) 「ぐぅうう……!」
オルフェウスの一言一言が、ロマネスクの肉体を締め付ける。
抗おうとすればするほど、精霊化した肉体の一部が千切れるように消え去っていく。
( <●><●>) 「命ずる……っ!」
( ・∀・) 「道をつけるぞ! 響け! 龍鐘!」
猛々しい鳴き声が与えるのは、身体能力向上の加護。
限界を超えて戦うための龍技は、傷を癒し、痛覚を奪い、疲労を軽減する。
龍王の祝福がロマネスクの全身を包み込む。
417
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:33:42 ID:GoNX5bS20
( <●><●>) 「ちぃっ! 黒呪壁・無頼。マキシフォールト」
もはや精霊術では止められないと知ったオルフェウスは、
異なる二つの壁を即座に創り出した。
呪術と魔術による二重防護障壁。
川 ゚ -゚) 「ペネトライト」
ナインツヘイブンの保有する魔術の中で最速の一撃。
光の刺突は、クールから供給される魔力でもって一直線に空間を貫く。
('A`) 「ブラストレイ」
o川*゚ー゚)o 「スパイラルレイ」
大魔術師である二人が唱えたのは光魔術。
丁寧かつ大胆に放たれた魔術は、天剣の魔術と合わさり一つになった。
一段と大きな光の槍となったペネトライト。
多重構造化した魔術光は、真正面からオルフェウスの魔術にぶつかった。
( <●><●>) 「なっ……に……!」
世界すらも分断してしまうほどの大盾は、英雄達を阻むには足りなかった。
ぶつかり合った力は一瞬だけ拮抗し、両者ともに真っ二つに裂けた。
膨張し、今にも爆発臨界点にあった魔術の塊に突っ込んだ影が一つ。
418
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:34:15 ID:GoNX5bS20
( <●><●>) 「恐ろしい執念だな……」
荒れ狂う魔力の奔流を抜け、精霊と化したロマネスクはオルフェウスの前に飛び出た。
(#ФωФ) 「ぐっ……っらあああ!」
( <●><●>) 「っ!!」
巨大な拳の一撃は、ただの殴打ではない。
ありったけの精霊に命じた術は、周囲の大気を焦がすほどの超高熱。
真っ赤に燃えた拳が、オルフェウスを捉えた。
( <●><●>) 「っは……はっ……」
膝から崩れ落ちた老樹ロマネスク。
その身体はゆっくりと光になって虚ろに溶けだしていく。
( ・∀・) 「ロマネスク!?」
( ФωФ) 「言っただろう。この力が精霊となったせいで、俺らの道を閉ざすわけにはいかない。
どうやらここまでだが……」
419
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:34:36 ID:GoNX5bS20
('A`) 「後は任せろ」
強大な一撃で吹き飛ばされていながら、何事もなかったのように起き上がるオルフェウス。
暗闇の中から歩いて現れたその細身の身体には、傷一つない。
川 ゚ -゚) 「無傷……か……」
( <●><●>) 「直撃の瞬間に精霊術で相殺したに過ぎない。
さて、これで残り四人だ。未だ抵抗するかな?」
o川;゚ー゚)o 「っ……勝てない……こんなの……」
残っているのは、魔力を糧に戦ってきた英雄達。
戦闘を経て消費された魔力は膨大で、限界も近い。
一方で、目の前に立つ純術師の魔力は一向に減る気配見えない。
魔力そのものが見えているキュートにとって、これほど絶望的なことは無かった。
('A`) 「諦めるな。ここで全てを投げ出したら、俺たちはすべてを失う。
存在したという事実さえ、すべて奪われる」
( ・∀・) 「まだだ……まだ戦える!」
上空へ飛びあがったモララー。
その姿を追うかのように、魔術がいくつも空を奔る。
420
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:35:07 ID:GoNX5bS20
('A`) 「くそっ……」
自身に向けられる攻撃を必死に避けるドクオ。
もはや相殺することすら叶わず、角度をつけた魔術をぶつけて強引に角度を変える。
そうして致命傷だけを避けるのが手一杯であった。
川 ゚ -゚) 「リバーサル……! ホライゾン! エスノストゥム!」
九つの魔術しか使えないクールは、より危機的な状況にあった。
同時に発動できるとはいえ、一つ二つ重ねた程度ではオルフェウスの魔術一つ弾くことは出来ない。
持ち前の身体能力とセンスで、辛うじて攻撃を躱す。
反撃に出る余裕など全くと言っていいほどなかった。
母親譲りの大魔力と父親の才能を受け継いでいたキュートは、
その経験不足の為に手を打てないでいた。
父親の多重構造化の魔術を一見しただけで理解した彼女は、
自分なりのアレンジを加えて防御魔術を張っていく。
破壊されるたびに、さらに丈夫なものへと、魔術を少しずついじりながら。
( ・∀・) 「ぐぅぅ……!」
モララーは全速力で飛行しても、一つも置き去りにできない誘導式魔術に苦しめられていた。
当たれば自身の身が砕けてしまいそうなほどの威力がありながら、
速度も性能も、龍王の飛翔と同等である魔術。
それらを背後に抱えながら、モララーは虚ろの空を飛ぶ。
421
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:35:28 ID:GoNX5bS20
( <●><●>) 「そろそろ連携もとれなくなってきたな。もう一押しと言ったところか」
攻撃が、さらに厚みを増した。
('A`) 「ぐっ……」
最初に膝をついたのはドクオ。
自身の持つ魔力を既に限界を超えて引き出していたせいだ。
('A`) 「こうなったら……」
o川*゚ー゚)o 「パパ! 駄目えええ!!」
奥の手である魔術を解放しようとした瞬間に、魔術に弾き飛ばされた。
オルフェウスの一撃と勘違いし、死を覚悟したドクオ。
そのせいで想像よりもずっと軽い魔術を受けた、ということを理解するのに少し時間がかかった、
o川*゚ー゚)o 「絶対だめだよ、パパ」
防御魔術を配りながらドクオの隣まで来たキュート。
川 ゚ -゚) 「我が娘ながら流石。ドクオ、それだけは認めない」
オルフェウスの攻撃に正面から全力をぶつけた反動を利用して、
クールもまたドクオの傍に寄りそう。
422
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:35:50 ID:GoNX5bS20
('A`) 「だが、ここままじゃ」
o川*゚ー゚)o 「力押しで勝てないんだったら、勝てるように戦って。
パパならできるでしょ」
川 ゚ -゚) 「不可能を可能にできるのは、ドクオお前だけだ。
信じてるぞ……」
ドクオを庇うように、二人は立つ。
娘として、偉大な父親を背に庇うことに喜びを感じながら、防御魔術を発動させる。
妻として、愛した男性のために命を懸けることを当然のようにして、天剣を振るう。
('A`) 「無茶を言う……だけど……」
母娘の息は寸分の狂いもなく同調した。
クールが選択した天剣による対処をキュートが強化する。
お互いの不足を補いながら、二人は密度を増した攻撃を的確にさばいていく。
( ・∀・) 「ぐ……」
二人の前に落下してきたのは傷だらけの巨躯。
上空から降り注ぐ無数の槍が、その肉体を貫いた。
(;'A`) 「モララー!」
423
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:36:17 ID:GoNX5bS20
( ・∀・) 「いいから! 黙って考えてろ!」
龍化を解き、再度叫ぶ。寿命を削る魂の姿を発現するために。
(#・∀・) 「リベレーション!!」
龍王は新たな肉体を手に入れて、降りかかってきた呪術を吹き飛ばした。
その勢いのままに、力押しで精霊術を噛み砕く。
命を懸けて作ってもらったわずかな時間で、ドクオは完全に脱力した。
肩の力を抜き、目の前にまで迫った命の危機を思考の外に追いやる。
残されたわずかな魔力で発動させたのは思考加速の魔術。
あらゆる現実が、不可能を継げていた。
圧倒的な魔力量の差。
術者としての優劣。
一騎当千、万夫不当の英雄達が集まってすら、与えたダメージはほとんどゼロ。
ロマネスク渾身の一撃をコンマの時間で防ぐだけの防御力を持ちながら、
一撃が死につながる威力の攻撃術が嵐のように吹き荒れる。
魔術、精霊術、呪術を組み合わせた隙の無い布陣を一切の澱みなく操り、
数多の英雄を見てきた経験と知識。
およそ勝つための要素は何一つとしてない。
424
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:36:37 ID:GoNX5bS20
('A`) (違う……そうじゃない……)
自身が出しかけた結論をすんでのところで飲み込む。
諦めて終わりならば、どれほどだ楽だろうか。
手の届くところにあるに安直な答えには手を伸ばさず、彼は得難きを得るために思考する。
('A`) (足りない。……何が)
魔力が足りない。
知識が足りない。
技術が足りない。
異能が足りない。
人数が足りない。
装備が足りない。
時間が足りない。
戦士が足りない。
術師が足りない。
────────戦力が足りない。
425
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:37:58 ID:GoNX5bS20
足りないものだらけの自分達に、頂に至れる道が通れるとは思えない。
だったら、埋め合わせるしかない。
足りないものを手に入れて、前に進むための力とする。
('A`) 「そうだ……」
ドクオの目の前で火花が散った。
クールとキュートによる防衛魔術が、紙一重で間に合った結果だ。
( <●><●>) 「さて、答えは出たのでしょうか。絶望という唯一無二の解答が」
('A`) 「案外、そうでもないさ」
( <●><●>) 「強がりですか」
('A`) 「キュート! 魔力を借りるぞ!」
即興で組み上げる魔術式はひどく単純なもの
それ故に、この術式は大魔力を必要としない。
ただ、道を作り出す。世界を繋ぐ架け橋を。
( <●><●>) 「……まさかっ!」
強烈な魔術がクールとキュートの防御魔術を粉々に砕いた。
426
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:38:25 ID:GoNX5bS20
川 ゚ -゚) 「っ!」
( ・∀・) 「させるかぁっ!」
無防備な魔術師達を庇うようにオルフェウスの視界を塞いだ白い巨体は、
その右手が触れただけで螺旋状に抉られた。
塵のように簡単に吹き飛ばされるモララー。
驚いている二人の魔術師の間を抜け、ドクオの頭部目指して振り下ろされる刃。
人間の命を奪うには十分すぎる鋭い一撃は、
一切の躊躇いなく振り下ろされた。
「ようやく油断しましたね」
( <●><●>) 「ごふっ……まさか……」
オルフェウスの胸から生えた漆黒の棘。
呪いはその身体の動きを奪い、銀色の刃はドクオの目前で止まっていた。
【+ 】ゞ゚) 「黒茨棘。どうですか、腸から食い破られた気分は」
427
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:38:50 ID:GoNX5bS20
膨張を始めた黒い棘は、そのままオルフェウスの両手両足を飲み込んでいく。
全身が余すところなく見えなくなったところで、突如として呪術は消滅した。
( <●><●>) 「この程度で殺せるとは、甘く見ていないか」
【+ 】ゞ゚) 「ごほっ……」
オサムの腹から、先程と同様の棘が現れた。
( <●><●>) 「呪詛返しなど、容易い。死ね」
振り向きざまに振るわれた一閃。
ドクオの首を狙ったその攻撃は、素手で受け止められていた。
( <●><●>) 「めんどうなことを……」
('A`) 「過去の英雄達の存在を保存していたのが仇になったな……利用させてもらったぞ」
彡 l v lミ 「まさか、本当にここまで健闘するとはな」
上半身裸で筋骨隆々とした肉体を見せびらかしながら男は腕を組む。
つい先ほどの戦いなどなかったかのように、五体満足の姿で。
428
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:39:11 ID:GoNX5bS20
('A`) 「アルカイオス……」
彡 l v lミ 「精霊樹はどうした」
('A`) 「ロマネスクは……」
言い淀んだドクオの言葉で全てを察した男は、
黙ったまま睨みつける。
( <●><●>) 「今更、敗者が出しゃばってきてもらっても邪魔だ。
檻の中へ戻ってもらおうか」
彡 l v lミ 「負けた? このオレが? はっはっはっははは!
オルフェウス! 戦わずにオレを閉じ込めたのは、恐れたからではないか。
原初の英雄である、このオレの力を」
( <●><●>) 「……再度教えてやらなければならないようだな」
彡 l v lミ 「おっと、それはお前の考えているほど簡単なことじゃないぞ」
( <●><●>) 「なにを……まさか!!」
初めて、オルフェウスの表情に苛立ちという変化が見えた。
それに気づいたドクオは、出来る限り強がって笑う。
429
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:39:42 ID:GoNX5bS20
('A`) 「英雄の檻、解析させてもらったぞ」
虚ろのあちこちに綻びが生じ、それぞれが異なる世界の主たちを呼び寄せる。
かつて戦って、破れた英雄達を。
大剣を担いだ鎧武者は、分厚い面の奥から赤い瞳がのぞく。
背筋が凍るような殺気を纏い、巨大な獲物をかつての敵に向ける。
──────鎧鬼、オーガ
骨の怪物に乗って現れた華奢な少女。
その魔力によって、骸骨達が生き物のように動き出す。
──────滅び姫、ルールー
羽ペンを持ち、スーツで身を固めた長身痩躯の男。
その両の耳は髪の隙間から飛び出すほどに大きく、細い眼で憎むべき相手を見据える。
──────筆折、シバ
430
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:40:03 ID:GoNX5bS20
ふわふわと浮かぶのは、人間の半分ほどの大きさ。
渦巻く角を持ち全身を白い毛で覆われた四足歩行の姿は、天使の庇護下から逃げ出した反逆の獣。
──────天獣、エンゼルシープー
燃え盛る炎の精霊。人型を得て、自我を持った、精霊術師に従わない異端の存在。
爆ぜる火花が真っ赤で大きいのは、激しい怒りの現れ。
──────火精、フレムス
全身が影と見紛うほどに真っ黒な小人。
無数の呪いを小さなその身に受け、なおも生きる不可思議な生物。
──────呪われ、ヒトガタ
川 ゚ -゚) 「あの変態は来ないよな……」
o川*゚ー゚)o 「来てほしくないけど……」
431
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:40:32 ID:GoNX5bS20
('A`) 「心配するな。彼らは檻から解放することで俺たちと戦ってくれる」
( ・∀・) 「向こうで殺した英霊は?」
('A`) 「壊れてしまった世界の英雄は、再生は出来ない。
だが……これで足りないを補えたぞ! オルフェウス!」
( <●><●>) 「雑魚どもが……!! 調子に乗りやがって!!」
オルフェウスの周囲の魔力が、一つの魔術に注がれていく。
('A`) 「止めるぞ」
( <●><●>) 「遅い!」
発生は神速にして、威力は凶悪な魔術。
ドクオが魔術防壁を築く前に、それは目標に向けて放たれていた。
川 ゚ -゚) 「っ!」
通り過ぎた後を削り飛ばすほどの魔術を、
アルカイオスは正面から殴り飛ばした。
( <●><●>) 「馬鹿め」
432
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:41:05 ID:GoNX5bS20
彡 l v lミ 「気づいていたが、敢えて受けた」
消し済みとなった右手首の断面から、黒い影が幾条も伸びる。
それは、魔術の中に隠されていた呪い。
常人ならば数秒で気が狂うほどの憎悪をその身に受けてなお、アルカイオスは立ち続ける。
( <●><●>) 「っち!」
英雄の中の英雄。
歴史の頂点に位置する強者たちは、まるで図ったかのようにオルフェウスの懐に飛び込んでいた。
川 ゚ -゚) 「キュート! ぼさっとしない」
o川*゚ー゚)o 「う、うん!」
錚々たる顔ぶれに一歩も引くことなく、クールは天剣に魔力を集中させる。
凛とした声で現実に引き戻されたキュートも、魔術を編み始めた。
o川*゚ー゚)o 「パパは休んでて。少しでも魔力を回復さないと」
('A`) 「すまん」
瓜゚∀゚) 「魔力切れなんの?」
('A`) 「お……あなたは……」
433
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:43:19 ID:GoNX5bS20
瓜゚∀゚) 「きみにぼくの魔力を分け与えるの。じっとしてるの」
エンゼルシープーはその身から光の珠を取り出した。
それをゆっくりとドクオの胸の中に沈めていく。
('A`) 「まさか……他者に魔力を贈与するなんてことが……」
瓜゚∀゚) 「ぼくにとっては簡単なことなの。
未だ戦いは終わって無いの、気を抜いたらだめ」
甲高い金属音。次いで響いた鈍い音。
二つの音は、一人の英雄の死。
( <●><●>) 「邪魔だ! 邪魔だ邪魔だジャマダアアア!!」
オーガの肉体を貫いていた腕を引き戻すのと、
真後ろに迫った火精を封じ込める結界が発動したのは同時だった。
そのまま結界は収縮し、ついに目に見えなくなった。
( <●><●>) 「遠距離しか脳の無い雑魚が!」
後方で魔術を組んでいたシバを、背後に顕現した精霊術の刃が細切れにした。
li イ ゚ -゚ノl| 「ぜんぐん、こうしん」
少し離れた所で大量の骸骨軍を召喚していたルールー。
虚ろを埋め尽くさんばかりの大軍は、なおも生まれ続けている。
434
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:43:47 ID:GoNX5bS20
( <●><●>) 「鬱陶しい!」
言葉が紡ぐのは精霊術。
一言で百の戦士を大地へと還した。
li イ ゚ -゚ノl| 「がいこつちょう、こうか」
上空からオルフェウス目掛けて降り注ぐのは、やむことの無い骨の雨。
その影すら見えなくなるほどの密度で、骨の鳥は地面に叩き込まれていく。
( <●><●>) 「死者は死へと」
煙の中から届くのは、嗄れ声。
ルールーの首元に突如として現れた黒い小刀が、頭部を分断した。
( <〇><●>) 「アルカイオスゥウゥゥゥウ!!!」
叫び、飛び出してきたオルフェウス。
骸骨軍は主を討ち取られたことで消滅し、一人残されたアルカイオスが正面から迎え撃つ。
('A`) 「っ!!」
435
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:44:13 ID:GoNX5bS20
大男に向かって一歩を踏み出した瞬間に、背後の死角から斬り込んだクール。
天剣で発動させたギガンテアを振り下ろした。
高密度な魔力の大剣を容易く砕き、その身体を熱線が穿った。
('A`) 「クールっ!!」
o川*゚ー゚)o 「ママ! もう一度!」
穴だらけになった影は、人間の大きさほどもあるただの塊に変わった。
無傷のクールは、オルフェウスのはるか後方で九つの刀を全て振るう。
川 ゚ -゚) 「ホライゾン」
( <●><●>) 「っち」
遠距離斬撃の刃を対処しようとした瞬間に、アルカイオスが一歩で懐にまで踏み込んだ。
岩よりも強固な拳が、細身の体に突き刺さった。
( <●><●>) 「がはっ……」
跳ね飛ばされたオルフェウスが体勢を立て直す隙を与えずに、
組んだ両の拳がその頭部に打ち込まれた。
436
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:44:42 ID:GoNX5bS20
跳ね飛ばされたオルフェウスが体勢を立て直す隙を与えずに、
組んだ両の拳がその頭部に打ち込まれた。
彡 l v lミ 「いいか、現代の英雄。息をつかせるな。オルフェウスとて元はただの人間。
術さえ奪ってしまえば、殺すことができる」
('A`) 「あ、あぁ」
【+ 】ゞ゚) 「私も出し惜しみせずに全力で行きます」
( ・∀・) 「死んでなかった理由は後で聞く。今は畳み掛ける時だ」
( <〇><●>) 「糞が!!クソクソクソクソクソクソクソ!!!」
見境なく放たれた数十の魔術。
一つ一つが世界を破壊しかねないほど強力なものでありながら、
狙いは定かではなく、あちらこちらで爆発を引き起こした。
川 ゚ -゚) 「ぐぅ……」
爆風に巻き込まれたクールを癒すために、キュートは回復の魔術を即座に唱える。
ドクオは大きく後退し、堕神魔術へとありったけの魔力を注ぎ込む。
すぐ隣で、天獣が魔力タンクとしての役割を果たす。
( <●><●>) 「小賢しいィ!」
437
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:45:13 ID:GoNX5bS20
正確な狙いの遠距離砲撃は、回避不可能な速度でドクオを貫かんと迫った。
それは直前で暗闇に捉えられ、質量を喪失する。
「黒呪界・冥」
ヒトガタの呪術がドクオとその周囲を覆い、不可視の結界を作り出した。
存在すら感知できなくなった魔術師の行方を捜しはせずに、
オルフェウスは目標を他の英雄に定めた。
至近距離を維持し、隙あらば殴打が飛んでくるアルカイオスから、
全力の飛翔で距離をとる。
遥か上空から、大地に向けて大気の圧力を叩きつけようとした時、
ひとりの姿が足りないことに気付いた。
( <●><●>) 「っ!」
さらに上空より、的確にオルフェウスを狙って降り注ぐ光の奔流。
( ・∀・) 「落ちろ!」
( <●><●>) 「ぐっ」
一撃で撃ち落とそうとするよりも、手数で視界を塞ぐ攻撃。
上空に意識を奪われたオルフェウスを背後から斬撃が襲った。
438
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:45:41 ID:GoNX5bS20
( <●><●>) 「がっ……」
それでも上空に留まる純術師を狙い、
五感を奪う呪いが届く。
( <●><●>) 「次から次へと……! 対して効きもしないのに……!」
オサムの呪術を力技で振り払った瞬間に、筋肉の塊を見た。
( <●><●>) 「なっ……」
遥か下方で跳躍の魔術を確認し、現状を理解したオルフェウスは即座に三重の防御を張った。
魔術障壁、呪術壁、精霊の加護。
速度においては一級品。不屈の防御能力を有したはずが、目の前の男は不敵に笑った。
彡 l v lミ 「まだオレの全力の拳を受けたことは無かったな?」
オルフェウスは、拳が巨大化したのかと錯覚した。
魔術も呪術も、精霊術も纏っていないはずのただの拳。
その一撃を、確かにオルフェウスは脅威と感じていた。
彡 l v lミ 「ぬうおおおおお!」
音が爆ぜた。
虚ろの大気が震え、直後に大地が砕ける轟音と振動が響く。
視界を完全に塞ぐほどの煙が吹き荒れる中、アルカイオスは悠々と着地した。
439
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:46:05 ID:GoNX5bS20
( <●><●>) 「ここまでか」
( ・∀・) 「そうだな、お前の負けだ」
( <●><●>) 「いや違う、お前たちが、だ」
地面に描かれる魔術式の周囲で呪術が立ち昇る。
二つの術は中心に発現した精霊術と混じり合い、球形に収束した。
蒼雷が零れ、掠っただけで地面を捲り上がらせる。
彡 l v lミ 「まずいぞ! 下がれ……!」
( <●><●>) 「逃げ場などない。虚ろを崩壊させかねないほどの力だ。
使うのを躊躇うほどにはな……」
英雄達は一カ所に集まり、防御を構成する。
単独では防ぎきれないと、誰もが察していた。
( <●><●>) 「ゼロの術。───万界帰無」
光が虚ろに満ち溢れた。
空間全てが揺らぎ、虚ろの存在そのものが不確かになる。
あらゆる戦いの残骸は灰燼となって消滅し、
大地は数百メートル単位で削り取られた。
440
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:47:14 ID:GoNX5bS20
長く響いた魔術砲が終わり、静寂が訪れる。
虚ろの空には罅が入り、今にも崩れ落ちそうなほど。
( <●><●>) 「ほう……生きているとは思わなかったぞ」
邪悪な笑みを浮かべた途端に、顔に入った亀裂から破片が毀れ落ちる。
視線の先には、蹲っている英雄達がいた。
川;゚ -゚) 「ぐっ……」
o川;゚ー゚)o 「うぅ……」
( <●><●>) 「一、二……三人か。上出来ではないか。
咄嗟に魔術をぶつけたのは、良い判断だった。
それが無ければ、今頃全員仲良く消し済みだ。
そろそろご退去願おう。虚ろも限界が近い」
オルフェウスの指先に魔力が集められていく。
不安定で揺らいだ魔術には、先程までの威力からは程遠い。
児戯にも等しいそれは、真っ直ぐに放たれた。
彡 l v lミ 「っ……はぁ!」
全身のほとんどが黒く焼け焦げた状態のアルカイオスは、魔術を左腕で弾き飛ばした。
結果崩れ落ちた腕を気にも留めず、目の前の敵を睨む
441
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:47:36 ID:GoNX5bS20
( <●><●>) 「未だ抵抗するか」
彡 l v lミ 「立て……奴も限界が近い」
o川* ー )o 「パパ……」
( <●><●>) 「もう無理ですよ。その二人も、いずれ死にます。
とどめを刺してやることがせめてもの情けでしょう。
すぐに父親と同じところに送ってあげますよ」
彡 l v lミ 「うぅおおお!!」
拳の無い右腕一本で、オルフェウスへと殴り掛かる。
力を振るうたびに狙った場所に魔術式が描かれ、何度も何度も砕かれた。
( <●><●>) 「流石のおまえも、もはや限界といった風だな。
私の庇護下にあれば無限の生があったものを」
彡 l v lミ 「家畜の生など願い下げだ。オレは獅子王アルカイオス。
ギリア王国で万の民を従がえし王なり」
( <●><●>) 「亡国の王が……!」
彡 l v lミ 「立て! 世界を護りし者よ。
己が魂にかけ、失われた者達の遺志を継ぎ、全てを救うのだ」
442
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:48:06 ID:GoNX5bS20
渾身の一撃は、オルフェウスの身体を穿った。
( <●><●>) 「黒泥呪・反転」
傷口から流れ出す黒い泥がアルカイオスをゆっくりと飲み込んでいく。
全てを出し尽した男には、抵抗する力も残されていなかった。
原初の英雄は自我が奪われていくのを感じながら、闇に沈んでいく。
彡 l v lミ 「戦え……」
最期の一言は、静かな虚ろに染み込んで消えた。
確たる信念を燃やしていた優しい瞳は、閉じられていく。
たった一人の心に火をつけたことを確信して。
全てを、後のものに託して。
アルカイオスはその意識を手放した。
( <●><●>) 「……寝ていれば楽に終われたものを」
今にも死にそうなほどの重傷を受けたキュートが、その細い足で立ち上がっていた。
焼けただれた腕も、焦げ千切れた髪も、傷だらけの顔も。
立っているだけで激痛なはずの少女は、それでも歯を強く食いしばり。
o川*゚ー゚)o 「…………から」
( <●><●>) 「なに……?」
443
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:48:39 ID:GoNX5bS20
o川*゚ー゚)o 「パパが教えてくれたから」
( <●><●>) 「おまえの父親は死んだ。塵一つ遺さずに完全消滅したのだ。
蘇生も再生も、不可能だ」
川 ゚ -゚) 「っく……ははっ……」
クールは腹の傷を抑えながら立ち上がる。
滝のように流れる血は、彼女の命が残り僅かだと教えていた。
o川*゚ー゚)o 「何が可笑しい」
川 ゚ -゚) 「はぁっ……はぁっ……見せてやれ、キュート!」
o川*゚ー゚)o 「エクス」
キュートは、両手を掲げ魔力を集中させる。
持てる全ての魔力を。
戦いの残滓となって虚ろに溢れている魔灰を。
444
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:49:03 ID:GoNX5bS20
( <●><●>) 「馬鹿な……そんな魔力が残っているはずは……いや、それにその魔術は!」
複雑な魔術式が幾重にも展開されては圧縮されて、さらに巨大な魔術式の一部となる。
ゆっくりと、着実に魔力が注ぎ込まれていく。
o川*゚ー゚)o 「クィンタ」
( <●><●>) 「おおぉおっ!!!」
オルフェウスが放つ魔術も呪術も、精霊術も顕現時の威力と比べれば見る影もない。
それでも、複雑な魔術に前意識を裂いているキュートには致命の攻撃。
それを、八つの光剣が切り裂いた。
川 ゚ -゚) 「やれ、キュート」
o川*゚ー゚)o 「……エッセンチア!!!」
( <●><●>) 「ぬうぅうぁあああああ!!!」
オルフェウスの影を飲み込み、光の柱は虚ろそのものを真っ直ぐ貫いた。
ゆうに数十秒の輝きを放った後、粉雪の様な光が虚ろに降り注ぐ。
445
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:49:25 ID:GoNX5bS20
o川*゚ー゚)o 「はぁっ……はあっ……パパ……」
膝から倒れ込んだキュート。
指一本も動かせない程疲労していた彼女は、そのまま意識を手放そうとした。
川;゚ -゚) 「……なんだこの揺れは」
o川*゚ー゚)o 「え……」
「虚ろ自体が崩壊しようとしてる」
o川*゚ー゚)o 「パパ!?」
キュートが振り返った先に浮かんでいたのは、天剣の一振り。
魔力で形作られた光の刃であった。
「キュート、クール、速く脱出しろ」
o川*゚ー゚)o 「ヒール」
残った魔力でクールの傷を塞ぐ。
失血でふらつく頭を抑えながら、クールは懐から透明な珠を取り出す。
戦闘前にドクオが全員に渡した虚ろ脱出のカギ。
ミスティルティンが封印された魔珠。
446
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:49:56 ID:GoNX5bS20
川 ゚ -゚) 「しかし、自分でやっておきながら変なことになったもんだな」
「いいじゃないか。これで俺とお前は一生離れられない」
川 ゚ -゚) 「ああ、確かに。お前を私だけのものにできたな」
大きな音を立てて虚ろの空が崩れ落ちてきた。
全てを無に帰す崩壊が始まった。
o川*゚ー゚)o 「パパ! ママ!」
川 ゚ -゚) 「ああ、急いだほうがよさそうだ。
そういえば、この神の座、いや虚ろが無くなったらどうなるんだ?」
「……正直解らない。虚ろが世界を操る空間であることは間違いがない。
オルフェウスもそう言っていた。神のいない世界が始まるのか、それとも本当の終焉か」
o川*゚ー゚)o 「えっ……」
川 ゚ -゚) 「今から心配しても仕方がない。帰ってから考えるとしよう。
もし世界が終わるのなら、それを私たちで止めればいいだけだ」
447
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:50:30 ID:GoNX5bS20
o川*゚ー゚)o 「……」
「クール、早くしろ」
川 ゚ -゚) 「開け、虚ろの扉。ミスティルティン」
魔珠を握りつぶしたクール。
その数歩先に、人間一人がようやく通れるほどの穴が開いた。
その向こうに見えるのは、懐かしいとすら思える緑の大地。
川 ゚ -゚) 「キュート、帰ろう」
o川*゚ー゚)o 「……そうだね」
クールが一歩、一歩進む。
暖かい風が走り抜ける草原に向けて。
その肩を支えて、キュートは歩く。
扉の際で、キュートは立ち止った。
怪訝そうな顔で娘の顔を覗き込むクール。
優しくて大好きな母親に向けて、最大限の笑顔を向けた。
「さようなら、ママ、パパ。大好きだよ」
ミスティルティンによって生まれた空間の裂け目に、その背をそっと押し込む。
咄嗟のことで踏ん張れなかったクールは、陽だまりの世界に落ちていく。
川;゚ -゚) 「なっ!?」
o川*゚ー゚)o 「大丈夫だから。私たちの世界は、私がこれから護るから」
驚愕の表情でこちらを振り向く母親と、何かを叫んでいる父親に手を振る。
「さようなら」
音もなく、世界は断絶された。
448
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:52:11 ID:GoNX5bS20
epilogue
449
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:55:11 ID:GoNX5bS20
川 ゚ -゚) 「地獄の焔、黄泉の風、冥府の海、深淵の泥……」
荒れ狂う獄炎、亡者の息吹、静かなる水滴、形を持たない土は、
お互いの存在を蝕んで弾け飛んだ。
「駄目だ駄目だ。それぞれの魔術がコントロールできてない。
焔が強すぎて、海が弱い。そんなんじゃミスティルティンは完成させられないぞ」
川 ゚ -゚) 「分かってる……! 少し黙ってろ! 気が散る!」
再び魔術を展開し、そして同様の結末になった。
魔術の天才であるドクオの術を、口伝で真似ることの難易度はクールもよく理解していた。
天剣の使用者として高められた魔術適性と、師として優秀なドクオの存在があったにせよ、
四大元素の根源を操る魔術を発動できるようになったのは、彼女自身の努力の賜物だ。
ドクオは驚きを通り越して呆れすら抱いていた。
天才である自分をも越え得るかもしれない可能性の塊に。
そこまで認められている彼女であっても、ミスティルティンは生半可な魔術ではなく、
ただの一度も、第二行程までたどり着けてはいない。
それでも諦められないのは、理由があったから。
450
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:56:09 ID:GoNX5bS20
五年前の戦いは、彼女たちに多くの者を失わせた。
それでいながら、世界は戦いに赴く前と全く変わり映えしない。
奪う者と奪われる者がいて、与える者と与えられる者がいて、
優しさと憎しみとが、喜びと悲しみとが、何もかもが複雑に入り混じった世界。
常に移り変わる風景はまだら模様のように。同じ日は一日たりとてこない。
そんな日常を、彼女たちは喪失感と共に受け入れていた。
「……俺が余計なことを言ったせいだろうな」
偽っていればというのがドクオの後悔。
娘が自分を犠牲にする覚悟を決めたのは、自身の言葉のせいだったのだと。
胸にぽかりと空いた喪失感を、年月が埋めてくれることは無かった。
川 ゚ -゚) 「私だって手を掴んでいればと思うさ。
だが、残ることを選んだあの子を連れてくることは出来なかっただろうな」
「キュートが残った意味は解ってる。
彼女がこの時代に存在していれば、
俺たちの娘が生まれた瞬間に、因果の収束に飲み込まれて消えてしまうからだ」
川 ゚ -゚) 「私たちは子供を産まないことを選択していたかもしれないし、
何かしらの魔術でこの世界の法則を歪めていたかもしれない。
あの子は、それを防ごうとした」
451
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:56:46 ID:GoNX5bS20
「馬鹿だよなぁ。あの子も、俺たちの娘だってのに。
頼ってくれて、よかったのに。助けてと、望んでほしかったのに」
川 ゚ -゚) 「ああ、だから迎えに行く。もう充分に一人の寂しさを知ったんだ。
一緒にいる温もりを受ける権利が、彼女にはある」
「だから、頼むぞ」
川 ゚ -゚) 「……ドクオが無事だったらなぁ。すぐにでも迎えに行けたのに」
「仕方ないだろ。あの時はこうするしか方法がなかったんだ」
川 ゚ -゚) 「……旦那をこの手で殺めさせるなんて、酷い奴だ」
「死んでないさ。魂はな」
オルフェウスとの戦いの時。
最後の一撃が放たれた瞬間に、ドクオはヒトガタの隠匿呪術から飛び出していた。
エンゼルシープーから譲り受けた魔力を利用して組み上げた多重構造魔術を、
英雄達の最前で放ってオルフェウスの攻撃と相殺させていた。
結果、彼の肉体はほとんど同時に消滅しようとしていた。
452
:
名無しさん
:2018/05/04(金) 00:57:24 ID:GoNX5bS20
クールは一瞬でそれを理解し、ナインツ・ヘイブンに最後に残された魔術を即座に発動した。
殺した相手の魂を刀身に封じ込める術式。
───エスイール
それによってドクオは肉体を失っても自我を残すことができ、
キュートの一撃へとつなぐことができたのだった。
川 ゚ -゚) 「もう触れることができないのは……残念だ」
「そう思ってくれているだけで有難いな」
川 ゚ -゚) 「ん……?」
空間を覆っていた魔術障壁の一部に、巨大な穴が開いた。
咄嗟に天剣を顕現させたクールは、煙の中から走ってくる姿を確認して矛先を収めた。
ノパ⊿゚) 「ママー!」
川 ゚ -゚) 「全く、駄目じゃないか。結界の中には入ってこないって約束しただろう?」
ノパ⊿゚) 「だって……」
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