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ゴストゥルーパー・ドールズ臨時レス置き場

1あべさん ◆uMJFatUpYM:2014/03/28(金) 23:56:16
スレタイの通り

2阿部 真里亜 ◆uMJFatUpYM:2014/03/29(土) 06:49:19
>「は…はぁ…、あ、では、お車はこちらです。」

迎えの青年は背景で繰り広げられるどつき漫才?に圧倒されながらも、車に案内してくれる。
どのような役職に就いている人だろうか。
ただの事務員にしては妙に体形ががっちりしている。
発進する車。両親が玄関から飛び出てきて、相変わらず騒いでいる。
手を振って笑いかける。

「大丈夫、死んだりするものか」

――妖怪どもを一匹残らず駆逐するまではなあ!

そう、そのために私は歌姫になったのだ。
人間はあまりにも衝撃的な記憶は思い出せなくなるという。
襲撃のその瞬間の事は、よく覚えていない。
あの日、昏睡状態から目覚めた私に告げられたのは、結婚相手が死亡したという事実。
そして悲嘆に暮れながら検査を受けている最中、もう一つの事実が告げられたのだ。
福音の歌い手としての適性が発現している、と。
それを聞いた私は哀しみの涙から一転、箍が外れたように哄笑をあげ、医者が大慌てしたものだ。
この時私は正気と狂気の紙一重を突き破り、正常ではない側に行ってしまったのだろう。
それでも構わない、この巡り合わせを神の思し召しと言わずに何と言おうか。
特に神を信じているわけではないが、奇しくも妖怪に対抗できる唯一の力は”福音”と呼ばれている。
その力を齎すものがたとえ邪神だとしても構わない、喜んで受けて立ってやる。

>「…嬉しそうですね?阿部さん」

迎えの青年に声をかけられ、暫しの回想から現在に引き戻される。
やる気十分を通り越してノリノリと言っていい状態の私が奇異に映っているのかもしれない。
これから命懸けの戦いに赴くのだ、普通は不安がるものなのだろう。
ここで「フゥーハハハ! 妖怪どもめ、駆逐してやるゥ!」なんて言ったらドン引きである。
入隊早々危険人物認定必至である。
私は仮にプッツンいっているにしても味方には友好的なタイプだ。自分で言うのも何だが。
愛想よく笑って返す。

「ちょっとはしゃぎすぎちゃったかな? 期待の新設部隊に抜擢されたからね、一緒に頑張ろうね。
ところであなたは何の役職? 見た感じ事務系……ではないよね。肉体労働系?」

会話のネタ程度に、何の気なしに聞いてみる。

3【ゴストゥルーパー・ドールズ】長篠 鉄 ◆fr8igvtEPg:2014/03/31(月) 15:26:51
>「ちょっとはしゃぎすぎちゃったかな? 期待の新設部隊に抜擢されたからね、一緒に頑張ろうね。
ところであなたは何の役職? 見た感じ事務系……ではないよね。肉体労働系?」

(!?観察眼のある人だな。)

一目で単なる運転手でない事を見破って見せた阿部の観察眼に、鉄は素直に驚いた。
更に自分の身の安全を不安がるよりも、新設の部隊に配置されてより活躍できるとはりきるその姿勢は、
不安を押し隠すために強がっているという事も考えられるが、彼女の態度は平然としていて、何か覚悟や決意のような物を感じられる。

実戦経験者の上に、能力があるから入れさせられたのではなくて、何らかの自分なりの明確な目標をもって戦ってきた人間なのであれば、目標に向かって努力もするし、考えもするだろう。
変な漫才もどきには面食らったが、この女性はきちんと戦力になりそうだなと、鉄は思った。

「あぁ、自分らは万一の時にあなた方をお守りしなければなりませんので、日々鍛錬はかかしておりませんよ」

とりあえずまだ自分の真の役職については隠しておこうと思うので、嘘の無いように、阿部の質問に答えておく。
これだけ聞く運転手兼とボディーガードの類のように聞こえるだろうが、あなた方が全人類を指していて、万一の時とやらが割かし短期間に続々とあって、巨大ロボットで応戦するわけなのだが、嘘ではない。
もう少し会話をしてみようと、鉄は口を開いた。

「もう知ってるかも存じませんが、第5小隊は新設されたばかりであなたを含めて、前線に立って戦う人間は3人しかいません。
歌姫とパイロットが一人づつなのですが…」

何となく第5小隊の話を話し始めて、彼女についてふと、気になることができる。

「そういえば阿部さんはどんな歌を歌われるんでしょうか?えっと第5小隊の今の歌姫の笹倉さんは「未来」って曲を歌われてるんですよ、えーと、昔Kalafinaって方が歌ってた」

歌姫は、大体みんなコンピューターに声帯や声の調子などから過去のあらゆる曲を検索してもっとも福音を発生させやすくかつ歌いやすい曲を選抜させて、その曲を歌っている。
中には自ら作詞作曲して歌っている物もいるが、大体はコンピューターによる選抜方法を使うのだが、なぜか20世紀後半から21世紀序盤の曲が妙に多い。
だから笹倉桜自身も「未来」という曲はコンピューターに選ばれるまで知らなかったし、何に使われていた曲かもわからなかった。
しかしコンピューターの適性判断は正しく、桜はすぐに未来を歌いこなせるようになっている。

4【ゴストゥルーパー・ドールズ】 ◆UPKxgWFDVs:2014/04/03(木) 01:51:53
>「あぁ、自分らは万一の時にあなた方をお守りしなければなりませんので、日々鍛錬はかかしておりませんよ」

なるほど、歌姫の護衛役か。そう思って納得する。
一応妖怪に対抗できるのは歌姫の福音だけなので、護衛も付くのかもしれない。

>「もう知ってるかも存じませんが、第5小隊は新設されたばかりであなたを含めて、前線に立って戦う人間は3人しかいません。
歌姫とパイロットが一人づつなのですが…」

「そう、まだ少ないとは聞いていたけどそこまでなのね。少数精鋭……なんちゃって」

もちろんそういう意図があるわけではなく、結果的にまだ人が集まっていないだけの話である。
既存の部隊は各国から派遣された軍人が多いが、新設の第五小隊に人材を出す余裕は残っておらず打ち止めの模様。
必然、民間から新たに志願した者中心になるだろうか。

>「そういえば阿部さんはどんな歌を歌われるんでしょうか?えっと第5小隊の今の歌姫の笹倉さんは「未来」って曲を歌われてるんですよ、えーと、昔Kalafinaって方が歌ってた」

「ああ、それ曲を選定する時に聞いたよ。いい曲よね」

それはまさしく全き光のような曲だ――
未来への希望を高らかに歌い上げる、愛とか勇気とか、前向きなものだけをたくさん詰め込んだ歌。
きっと笹倉さんという歌姫は、私とは違って、純粋に世界の平和を願って戦う真っ直ぐな人なのだろう。

「私は「紅蓮の弓矢」。昔紅白歌合戦で歌われたこともあるそうよ。
元々男声ボーカルの曲なんだけどね、そんなに声高い方でもないし丁度良かったのかも」

その曲を聞いた時、現在の世界情勢や自分の心境とのあまりのシンクロ率に戦慄したものだ。
歌われているのは、人類を脅かす強大な敵に立ち向かう不退転の意思。
と言えば聞こえがいいが、それから感じられるのは勇気や希望といった小奇麗なものではない。
ドロドロした敵意や、やけっぱちの危うさすらも内包した上での勝利への決意。

「でも前に一瞬いた部隊ではあんまり評判よくなかったのよね〜。
玉砕覚悟で突っ込めって追い立てられてるような気分になるんだって。
でも攻撃は最大の防御って言うじゃない。
ここのパイロットさんは気に入ってくれるといいんだけど」

この時の私は、今話している相手がパイロットだということをまだ知らない。

5【ゴストゥルーパー・ドールズ】長篠 鉄 ◆fr8igvtEPg:2014/04/07(月) 13:35:23
「あぁ、あの…。 何かのCMに使われてたの覚えてます、捕らわれた〜屈辱は〜っていう、あれですよね?
勢いのある曲ですよね」

阿部の言った曲名を、鉄は幼少期に聞いたCMで知っていた。
確か何かの車のCMだった記憶がある。(2014年現在、現実の世界ではこのCMは存在しておりません)
疾走感のある格好いい曲だったので、ネットで何度か聞くうちに名前が頭の中に残っていたのだ。

>「でも前に一瞬いた部隊ではあんまり評判よくなかったのよね〜。
玉砕覚悟で突っ込めって追い立てられてるような気分になるんだって。
でも攻撃は最大の防御って言うじゃない。
ここのパイロットさんは気に入ってくれるといいんだけど」

「確かに、終末感のある曲ですものねぇ。
うん…、でもピンチの時に流れたら逆にやってやろう!って気持ちになってきそうですがね」

阿部の心配に、鉄は素直な感想を述べた。
恐らく阿部の元いた隊の連中は、阿部と長く接するうちに彼女の持つ独特の妖怪への恨みや憎しみを感じる機会が多くあり。
戦闘中にそういった思いの詰まったそういった歌詞の曲を聞かされたので彼女の気持ちに押されて追い込まれた気持ちになったのだろうが、
阿部と出会って間もなく、まだ彼女の性格を把握し切れていない鉄には、その考えは浮かばなかった。

「あ、見えてきました、第5小隊の使用する飛行空母ですよ」

そんな話をしている間に、車は基地に近づき、その滑走路に鎮座するジャンボ機の数倍はある超巨大な鉄の塊が見えてきた。
全体は黒で塗装された巨大なクジラのようなフォルムで、側面には大きなGDⅤの文字が書かれている。

「ニュースとかでⅠからⅣ小隊のを見てると思うのでもう知ってると思いますが、あれが、我々第5小隊の運用する飛行空母です。
長期間の運用に伴う乗組員の快適な生活と、目的地までの高速移動能力、そして60m級巨大ロボットを6機まで運用でき、輸送ヘリや装甲車も搭載する人類が誇る空中要塞です。
これからはあれに乗って世界中を飛び回る事になります。」

基地の建造物よりも巨大なそれを前に、自分の事のように嬉々としながら鉄は空中空母について語った。

6【ゴストゥルーパー・ドールズ】長篠 鉄 ◆fr8igvtEPg:2014/04/07(月) 13:36:11
程なく二人を乗せた車は基地の敷地内に入り、鉄は車をそのまま滑走路に入れて、飛行空母へと向かっていった。
すると、空母の前面にある巨大な横開きのシャッターが大きな音を立てて開き、そこから通路が伸びてきて、鉄たちの乗る車を中へと導いていく。
空母の中、巨大なシャッターの向こうは広大な整備スペースになっていて、大勢の整備士が忙しく動き回り、正面左右には巨大な人型兵器の拘束具と整備用の足場が6っつあって、そのうちの一つ、正面左の拘束具には整備中の50m級人型兵器が鎮座している。

「あれが現在第5小隊に配備されている人型兵器、零九式対妖怪人型兵器、ゼロキューです。」

車を空母の隅のジープやトラックが数台止まっている駐車スペースに停めて、車から降りた鉄は、阿部に視界いっぱいに広がる巨大ロボットを指さしながら言った。
自分の乗るロボットのため、その声は多少、弾んでいる。

「ゼロキュー自体はもう自衛隊が配備してて、何匹か妖怪を葬ってますが、こいつは4番目に作られた新品で、まだ実戦は経験してません。
最も、調整は済んでますし、パイロットも一世代前の機体で実戦を経験してますから特に問題はありませんけどね。
ではこちらです、この後機密事項に関する守秘義務を守るための契約書や、各種の書類に目を通して、いただきます。
それが終わりましたら、自室へご案内いたしますので、その後は艦内で自由に行動していてください」

嬉々としてゼロキューに関する説明を終えると、鉄は彼女を作戦室へ案内した。
重々しい扉と、衛兵に守られたそのテニスコートより広い部屋の中では、ホログラム投影機能のある巨大な机と、それを背にして囲み、通信装置やモニター、レーダーなどに向かっている大勢のオペレーター達が座っている。

「ここは作戦室です。
有事の際は、まずここに集合する事になります。
書類はあそこのテーブルの上にまとめておきました、書き終わりましたらその書類を事務局に提出しますので、お声をおかけください」

鉄の言葉に彼の指さす先を見れば、ホログラム投影機能のある巨大な机の一角に、艦内マップや、契約書類など、阿部がこれから書かねばならない書類と、筆記用具がまとめられていた。


−−−−−−−−−−


一方その頃、阿部の自宅がある街にほど近い山中。
突如として白い燐光のようなものが山に降り注ぎ、それが一か所に集まって、巨大な塊になり。
そうして出来上がった白い塊は、激しく何度か光ったかと思うと、次の瞬間、赤黒い巨大なエビの怪物へと姿を変えた。
巨大なエビの妖怪は、木々を押し倒しながら、街へと進撃していく。
しかし、自衛隊も、われらがゴストゥルーパー・ドールズも、その異常事態を察知することはできない。
妖怪はあらゆるレーダー波、電磁波を素通りさせるため、光学観測以外に発見の手段が無いからだ。

7【ゴストゥルーパー・ドールズ】阿部 真里亜 ◆uMJFatUpYM:2014/04/09(水) 23:41:42
>「確かに、終末感のある曲ですものねぇ。
うん…、でもピンチの時に流れたら逆にやってやろう!って気持ちになってきそうですがね」

「ありがとう、あなたパイロットに向いてるんじゃない?」

なかなか嬉しい事を言ってくれる青年である。
そんな事を話しているうちに基地が近づいてきたようで、まず見えてきたのは巨大な鉄の塊だ。

>「あ、見えてきました、第5小隊の使用する飛行空母ですよ」
>「ニュースとかでⅠからⅣ小隊のを見てると思うのでもう知ってると思いますが、あれが、我々第5小隊の運用する飛行空母です。
長期間の運用に伴う乗組員の快適な生活と、目的地までの高速移動能力、そして60m級巨大ロボットを6機まで運用でき、輸送ヘリや装甲車も搭載する人類が誇る空中要塞です。
これからはあれに乗って世界中を飛び回る事になります。」

青年は、飛行空母について嬉々として語り始めた。見ていてこちらまで楽しくなってしまう。
防衛省にはヲタクが多い、という噂はよく聞くが、この青年もこのような物が少なくとも嫌いではないのだろう。
先程言われた言葉をそのまま返す。

「ふふっ、嬉しそうね。あなたも」

前いた隊の連中ときたら鉄仮面みたいな糞真面目な顔をして軍隊みたいなんだもの。
まあ軍隊出身者が多かったから当然っちゃ当然なんだけど……。
この青年一人だけで判断するのは早計だが、やはり第5小隊というのは異色の部隊なのかもしれない。

8【ゴストゥルーパー・ドールズ】阿部 真里亜 ◆uMJFatUpYM:2014/04/09(水) 23:42:22
>「あれが現在第5小隊に配備されている人型兵器、零九式対妖怪人型兵器、ゼロキューです。」

「あら、最新型? 格好いいね!」

このロボットが私の歌で暴れてくれるのか。そう思ったらワクワクする。
ゴストゥルーパー・ドールズの戦いにおいて、ロボットのビジュアルも重要な要素である。
冗談みたいだが、ダサいロボットだと歌姫の気分が萎えて出力が下がるという事も実際に起こり得るのだ。
ゼロキューの説明が終わると、作戦室へ案内される。

>「ここは作戦室です。
有事の際は、まずここに集合する事になります。
書類はあそこのテーブルの上にまとめておきました、書き終わりましたらその書類を事務局に提出しますので、お声をおかけください」

「分かった、色々ありがとうね」

なるほど、書類はまた一式書くのね。
つーか異動というより一度除隊されて他の隊に入隊した扱いに近いのかな?
ま、いっか。細かい事を考えてもしゃーない、というわけで書類を書きはじめる。
私より前に一人ずついるというパイロットと歌姫はどんな人なんだろう。
最新型のロボットが真っ先に配備されているぐらいなのだ、きっと物凄い逸材に違いない!
書類を書き終わり、青年に声をかける。

「はい、これ書類。ところで先輩の歌姫さんとパイロットさんはどこにいるの?
お土産持ってきたのよ」

取り出したるは、“面白い変人”と書かれた箱。
色々改変されすぎて何が元ネタだかもはや分からない。

「うちの町内だけの超ローカル発売なの。あ、みんなに配る用のもあるから後であなたにもあげるね」

その時、つるっと手がすべって箱が床に落ちた。

「はっ、不吉な予感……!」

9【ゴストゥルーパー・ドールズ】長篠 鉄 ◆fr8igvtEPg:2014/04/11(金) 22:28:02
>「はい、これ書類。ところで先輩の歌姫さんとパイロットさんはどこにいるの?
お土産持ってきたのよ」

彼女が即時に書きあげた書類をご苦労様ですと受けとり、確認しながらあべの話を聞く鉄。
そろそろ顔合わせだから正体を明かしてもいいかなぁなどと思っていると、彼女がまんじゅうを取り出した。

>「うちの町内だけの超ローカル発売なの。あ、みんなに配る用のもあるから後であなたにもあげるね」
「ありがとうございます、あ。」

そう言って彼女は饅頭を取り出したが、誤って手から落としてしまう。

>「はっ、不吉な予感……!」

言いながらまんじゅうを拾う彼女に続いて、自分もまんじゅうを拾って、もらった一つキープして、残りを彼女に渡す。
饅頭をすべて拾ったところで、鉄は先ほどの彼女の問いに答えることにした。

「えっと、先ほどの件ですが、笹倉さんは今自室にいます、それから、GDには明確な指揮系統は無いのですが、滞在国の軍隊から戦術アドバイザーという形で軍人の方が来られ、作戦立案を行うんですが、自衛隊の代表のヒガキ一等陸佐は今基地の方にいて会えません。
顔合わせ準備が整ったら、放送で呼び出しがあると思います。あとパイロットは…」

そこまで言って、もう正体を明かそうかと考えた、その時だった。

「市街地上空のパトロールヘリが妖怪確認!本艦より20km北北東の位置、歩通山森林地帯を市街地へ向け進行中!非常警報、鳴らします!」
「緊急事態発生!緊急事態発生!妖怪出現!繰り返す、妖怪出現!総員戦闘態勢、繰り返す、総員戦闘態勢!」

作戦室の壁の計器に取り付いていた通信隊員達がはっきりした声で妖怪の出現を告げ、続いて緊急警報を鳴らし、館内放送に向かって非常事態を呼びかける。
サイレンの響く中、あちこちでバタバタと人の走りかう音が聞こえだし、モニターに地図が表示され、そこに妖怪の現在地と進行方向、速度を示すマーカー、そして市街地までの予想到達時間が表示される。
それは、時速20キロ程で森林地帯を阿部の住む街へと進行していて、到達まであと20分と表示されていた。

「出やがったか…。すぐ必要なメンバーが揃いますので!」

周りの喧騒にかき消されないように、大きな声で鉄が阿部にいう。
妖怪が出現しても、即時迎撃する事はできない。
まずは日本政府からの出撃要請が必要だし、妖怪に対する作戦を立案する事も必要だ。
鉄としても即座に迎撃にあたりたいのだが、何の策もなくぶち当たって倒せるほど、妖怪は甘くないことを鉄はよく知っている。

「自衛隊、無人誘導機出撃しました、5分で接敵し、妖怪の足止めおよび、進路変更作戦を行います」

オペレーターの報告が、机の前で待機する二人の間に響く。

10【ゴストゥルーパー・ドールズ】阿部 真里亜 ◆uMJFatUpYM:2014/04/14(月) 20:22:37
>「えっと、先ほどの件ですが、笹倉さんは今自室にいます、それから、GDには明確な指揮系統は無いのですが、滞在国の軍隊から戦術アドバイザーという形で軍人の方が来られ、作戦立案を行うんですが、自衛隊の代表のヒガキ一等陸佐は今基地の方にいて会えません。
顔合わせ準備が整ったら、放送で呼び出しがあると思います。あとパイロットは…」

パイロットについて語られるのはこれが初めてなのもあり、身を乗り出す。
その時だった。

>「市街地上空のパトロールヘリが妖怪確認!本艦より20km北北東の位置、歩通山森林地帯を市街地へ向け進行中!非常警報、鳴らします!」
「緊急事態発生!緊急事態発生!妖怪出現!繰り返す、妖怪出現!総員戦闘態勢、繰り返す、総員戦闘態勢!」

告げられたのは妖怪の出現。今や日常と化してしまった非常事態。
しかし、モニターに表示された地図を見てみると、妖怪が今しがた出発した街に向かって侵攻している事が示されていた。
しかも、このままいけば後20分ほどで市街地に到達するという。

「なっ……!?」

>「出やがったか…。すぐ必要なメンバーが揃いますので!」

>「自衛隊、無人誘導機出撃しました、5分で接敵し、妖怪の足止めおよび、進路変更作戦を行います」

先駆けて自衛隊が出撃したようだ。
しかし妖怪は福音以外のあらゆる攻撃手段が無効――果たして通常兵器で足止め進路変更など出来るのだろうか。
おそらく気休め程度にしかならないだろう。
――これ以上、奪われてたまるものか。
作戦室の誰にともなく叫ぶ。

「20分……悠長に作戦立ててる時間は無い! もう一人の歌姫とパイロットを早く!」

11鳥居 呪音 ◆h3gKOJ1Y72:2014/04/16(水) 00:00:05
「ほう、これは…、シソのおにぎりの味がする」
あべの背後。饅頭を頬張る長身の男がいた。
年齢は二十代中盤くらいか。
金髪ロングヘアでサングラス。
白い肌をしていたが体格は鉄にひけをとらずそれでいて長く美しい見事な小顔の八頭身。

しかしご当地名物を他の食べ物の味で表現するなどなんと不謹慎なのだろう。
それも舌バカのようだ。
男は饅頭を少しむしって子猿に与えていた。
その整った長い指は優雅で誰もがみとれるほどだ。

>「自衛隊、無人誘導機出撃しました、5分で接敵し、妖怪の足止めおよび、進路変更作戦を行います」

>「20分……悠長に作戦立ててる時間は無い! もう一人の歌姫とパイロットを早く!」

「落ち着くのだアベマリア。20分もあれば充分だ」
どこか優雅で威圧感のある口調。
彼の名はオスカー・ファン・ハルベルト。
涼しげな双ぼうの男は落ち着きを払っている。

12オスカー ◆z4KXiuQxT6:2014/04/16(水) 00:01:50
まちがっちゃったっ

13【ゴストゥルーパー・ドールズ】長篠 鉄 ◆fr8igvtEPg:2014/04/17(木) 15:34:23
>「20分……悠長に作戦立ててる時間は無い! もう一人の歌姫とパイロットを早く!」

突然の妖怪出現の報に、阿部が動揺して出撃を急かすが、そういうわけにはいかない。
まず第一に、自衛隊との連携について確認を取り、次に、無人機による誘導と挑発で、妖怪の攻撃手段を少しでも理解しておかねばならないからだ。
そうしなければ、わずか10分弱の時間の間に自衛隊と役割分担ができていなかったせいでもめ、さらには妖怪の攻撃に対抗手段を見いだせないまま時間切れまで何もできないかもしれない。
妖怪との戦闘中に考える暇がない以上、始める前に十分に備える他ないのだ。

>「落ち着くのだアベマリア。20分もあれば充分だ」

鉄がその旨を伝えるより早く、いつの間にか鉄の後ろにいた金髪の、肩にサルを乗せた男が阿部を落ち着かせる。
鉄にはその男に見覚えがあった。

「オスカー、 オスカー・ファン・ハルベルト、何故ここに?」

彼の名は、 オスカー・ファン・ハルベルト。
優秀なロボット乗りで、自衛隊在籍時に鉄も一緒に戦ったことがある。
だが、彼は、ほかの隊のパイロットだったはずだ。

オスカーの登場に驚く鉄の前で、オスカーの後ろの分厚い自動ドアが開き、髪の長い女性が入ってきた。
第5小隊のもう一人の歌姫、笹倉桜だ。

「新しい歌姫の子は?」

入ってくるなり、桜が鉄に尋ねる。
挨拶はしている場合ではないため省くが、少なくとも顔は知っておかねばならないという事だろう。
しかし聞いた瞬間、彼の横に花嫁衣装に似たコスチュームを着てすでにスタンバっている女性を見つけ、彼女なのだと納得し、うなづいた。

「私がこの小隊の歌姫です、よろしく」

彼女の方を向いた桜は、短く、それだけ述べた。
次いで、オスカーにいぶかしげな視線を送る。
あなたはだあれ?と。

14【ゴストゥルーパー・ドールズ】長篠 鉄 ◆fr8igvtEPg:2014/04/17(木) 15:41:24
山中を闊歩するエビ型の妖怪に、彼方から数機の小型無人戦闘ヘリが飛来してきた。
ヘリ群は妖怪に必要以上に接近し、至近距離からスモーク弾を撃ち込んでいく。
妖怪は白いスモークに呑まれて視界を奪われ、周囲をきょろきょろと見回し始めた。
と、煙の中で何かが赤い光を放っているのを見つけ、妖怪はそちらに進路を変える。
もちろん、赤い光は自衛隊の無人戦闘ヘリである。

妖怪は確かに、通常兵器も物理防壁も受け付けない。
しかし、外部の状況を判断するために、視覚を用いているらしい個体が多い事がこれまでの研究で明らかになっており、煙で視界をゼロにすれば、攻撃目標を見失う妖怪も存在するのである。
他にも聴覚や超音波などで外界の情報を得るタイプの妖怪も存在し、そういうものに対しては人類の通常兵器も、目くらまし程度には役立つのである。
もちろん、中には第六感としか思えない超感覚を持つ輩も存在するのだが…。

15オスカー ◆z4KXiuQxT6:2014/04/18(金) 02:14:04
>「オスカー、 オスカー・ファン・ハルベルト、 何故ここに?」

「欠員の補充とでも言うべきか。本来なら私の兄が、この第五小隊に配属される予定だったのだがね……」
そこまで言い、オスカーは次の言葉を飲み込んだ。
――オスカーの兄は、新設された部隊の「教育係」として転属される予定だった。
だが自分は彼等と同等な兵隊として…。
そんなことなど口が裂けても言えなかった。
死んだ兄のかわりなどとは。

そこへ入ってくるのは笹倉桜。

>「私がこの小隊の歌姫です、よろしく」

「オスカーだ。パイロットをしている。よろしく頼む」

笹倉桜。資料を読んで知っている。
幽霊のような見た目と違い優しい歌をうたう。
そしてアベマリア。彼女は勇ましい歌をうたうらしい。
前の部隊ではその歌の特性からか疎まれていたらしいが
オスカーは能力さえ高ければ問題なしと思っていた。
べつに妖怪とお友達になるために歌をうたってもらってるわけでもないのだ。

しかし長篠鉄。
彼とここで一緒になるとは奇縁としか考えられない。
一世代前の旧式で何度か敵と交戦した間柄。
自分と同じ、言い方は悪いが普通の腕前のパイロット。
ゆえに堅実。そして生き残った。
生き残って同じ小隊に配属されていた。
彼は天才ではないがゆえに経験を積み重ね、妖怪との戦いかたを知っている。

(だからか……)
狙撃の天才。格闘戦闘の天才。
数多くの才能の溢れる軍隊なかで、
オスカーは長篠鉄の存在を忘れることができなかったのである。
無論死ぬのは怖くないが、長篠鉄の存在に安心感を覚えるオスカーの姿がそこにあった。

16阿部 真里亜 ◆uMJFatUpYM:2014/04/18(金) 18:53:29
>「ほう、これは…、シソのおにぎりの味がする」

「シソのおにぎりの味ィ!?」

非常事態なのも一瞬忘れて素っ頓狂な声をあげながら振り向く。
そこには、見事な美形の外国人がいた。
子猿に饅頭を与える姿さえも何故か優雅である。

>「落ち着くのだアベマリア。20分もあれば充分だ」

滲み出る堂々たる威厳。歴戦の強者なのかもしれない。
もしや私に平常心を取り戻させるためにわざとシソのおにぎりの味というボケを繰り出したのだろうか。

「え……ええ。そうね。あなたがこの隊のパイロット?」

>「オスカー、 オスカー・ファン・ハルベルト、何故ここに?」

>「欠員の補充とでも言うべきか。本来なら私の兄が、この第五小隊に配属される予定だったのだがね……」

どうやらこの人は私と同じくたった今配属されてきたようだ。
続いて現れる髪の長い女性。

>「私がこの小隊の歌姫です、よろしく」

「阿部真里亜です。よろしくお願いします」

>「オスカーだ。パイロットをしている。よろしく頼む」

その猿はペット?とか色々聞いてみたい事はあるが、今は悠長に自己紹介している場合ではない。
そうしている間に自衛隊の進路変更作戦が功を奏し、妖怪が進路を変えつつあるのがモニターに示される。
ひとまず妖怪が街に直行するのだけは回避できたようだ。

「どんな妖怪なのかしら。自衛隊からの情報はまだなの?」

17【ゴストゥルーパー・ドールズ】長篠 鉄 ◆fr8igvtEPg:2014/04/21(月) 10:29:14
大きなテーブルを囲み、慌ただしく通信隊員たちが行きかう作戦室で待機する鉄、オスカー、桜、真里亜。
と、そこでようやく、軍服に身を包んだ初老の男が、室内に入ってきた。

「私が自衛隊のヒガキだ、作戦立案と、情報の取りまとめを行う」

テーブルの一角に向かって早足で歩みながら、初対面のオスカーと真里亜に手身近にそう名乗ると、ヒガキはパネルを操作した。
ヒガキの操作で、テーブルの上に自衛隊機が捉えたエビ型の妖怪の全身像が映し出され、今まで鉄達が見ていたモニターの半分には上空から撮られた妖怪の映像がLIVE映像で映し出される。
エビ型の妖怪は鋏を振り回して木々をなぎ倒し、急接近を繰り返すうるさい無人ヘリを撃墜しようとしているが、空ぶってばかりで上手くいっていない。

「これが今回の妖怪だ、コードネームは、バケエビ、攻撃手段は今現在判明しているのは両手の鋏のみ、射程はロボットの蹴りと同程度。
現在、自衛隊が市街地から離れた森林地帯に誘導中だ」

そういって、ヒガキはLIVE映像でなく、妖怪の進行情報が映されている方のモニターを操作し、自衛隊の誘導による進路予想図を映し出す。
進路上には、自衛隊の巨大ロボットと歌姫が待機する予定と表示された。

「敵の誘導は、自衛隊が担当する、我々は敵が市街地へ進路を変える事を前提に、市街地の前で待機し、目標が市街地へ進行再開した場合、これを迎え撃つ」

ヒガキはモニターを操作し、地図に鉄のゼロキューと、オスカーのブラックプリンスを表示し、2機を示す光点を基地から市街地を通らせて、妖怪と市街地の間に配置した。

「自衛隊が誘導に成功した場合、我々は誘導地点へ急行し、これを殲滅する、これが、今回の大まかな作戦だ。
次に、交戦する場合の、歌姫の歌う順番だが」

そう言って、桜を見るヒガキ。
それに対し、桜は真剣な表情で頷く。

「最初は笹倉桜、次に、阿部真里亜の順で行く。両者は福音展開用ヘリに2機に各々乗り込み、上空からロボットに追随、福音展開開始は、現場のパイロットの判断に従ってくれ
福音展開開始の合図は、長篠鉄」
「了解しました」

鉄を見るヒガキに、敬礼する鉄。

「現場での判断、指揮は鉄、君が執ってくれ、オスカーはまだこちらの土地に慣れていない。
以上だ、何か質問は?」

18オスカー ◆z4KXiuQxT6:2014/04/21(月) 23:56:14
バケエビ……。

その敵の重々しい姿にオスカーは、知能も最大戦速も低いと推測する。
甲殻の底部の腹肢を狙えば、さらに動きは抑えられるはずだが
下手に痛めつけるのは避けたいと思考する。やるなら確実にだ。
なぜなら暴れるものの反撃、それはそれで怖いものだ。

(……しかしあの分厚い甲殻。破れるものか?)
オスカーの心配はそれだけだった。
今のところ、敵の飛び道具は確認されていない。
もしあるのなら自衛隊の小五月蝿いヘリに使用しているはず。
これなら歌姫たちをヘリで空輸も承認できる。
オスカーは、はなから仕留める確率の高い格闘戦闘を望んでいた。

>「現場での判断、指揮は鉄、君が執ってくれ、
オスカーはまだこちらの土地に慣れていない。
以上だ、何か質問は?」

「……一般的にエビは腹肢を使い、砂にもぐる習性があると聞くが、
もしもあのバケエビもその様な戦略を使ってきたらどうするつもりだ?
……その前に仕留めるか。出てくるまで待つか。あくまでも仮定の話なのだがね」
サングラスの奥。彼の表情は読み取れない。
すると子猿が跳躍し阿部の肩にとびうつる。
そして阿部の頭髪の毛繕いを始めたのだった。

19阿部 真里亜 ◆uMJFatUpYM:2014/04/26(土) 08:36:55
慌ただしく通信隊員たちが行き交う中、ようやく司令官が現れる。

>「私が自衛隊のヒガキだ、作戦立案と、情報の取りまとめを行う」

モニターに今回の妖怪が映し出される。
両手に鋏を持つ、巨大なエビのような姿の妖怪だ。

>「敵の誘導は、自衛隊が担当する、我々は敵が市街地へ進路を変える事を前提に、市街地の前で待機し、目標が市街地へ進行再開した場合、これを迎え撃つ」

“敵が市街地へ進路を変える事を前提に”――そう、妖怪は何故か人間の住む場所に行きたがる性質があるのだ。
空気が汚れている場所に引き寄せられるのではないか、とか文明を壊そうとしているのではないか、という様々な俗説が飛び交っているが、理由は不明。
というより妖怪の目的も正体も何もかもが不明なのだ。
ただ一つ確かなのは、戦わなければ殺されるという事。

>「最初は笹倉桜、次に、阿部真里亜の順で行く。両者は福音展開用ヘリに2機に各々乗り込み、上空からロボットに追随、福音展開開始は、現場のパイロットの判断に従ってくれ
福音展開開始の合図は、長篠鉄」
>「了解しました」

「……そう。あなたが……」

ここに来て、歌姫の護衛か何かだと思っていた青年がパイロットだという事をようやく認識する。

>「現場での判断、指揮は鉄、君が執ってくれ、オスカーはまだこちらの土地に慣れていない。
以上だ、何か質問は?」

>「……一般的にエビは腹肢を使い、砂にもぐる習性があると聞くが、
もしもあのバケエビもその様な戦略を使ってきたらどうするつもりだ?
……その前に仕留めるか。出てくるまで待つか。あくまでも仮定の話なのだがね」

と、子猿が肩に乗り、毛づくろいをするように髪をすきはじめる。
まるでこちらの緊張を解そうとしているよう。かなり人に懐いているようだ。
よしよし、と頭をなでて両腕で抱く。

「――そうなる前に仕留めましょう。私の歌ならあの装甲を突破できるはず
ただ……それを察知した妖怪が必死の抵抗を試みる事があるの。だから必ず仕留めて」

私の福音出力は標準より少し低いが、妖怪の装甲を脆弱化させ、防御力を大幅に下げるという特殊効果がある。
ただし妖怪によってはその事を悟って死に物狂いで暴れ出す事がある――それが敬遠されていた所以だ。

20【ゴストゥルーパー・ドールズ】長篠 鉄 ◆fr8igvtEPg:2014/04/29(火) 22:01:41
>「……一般的にエビは腹肢を使い、砂にもぐる習性があると聞くが、
>「――そうなる前に仕留めましょう。私の歌ならあの装甲を突破できるはず

オスカーと阿部の言葉に、ヒガキはうむ、と少し考えた姿勢を見せたが、すぐに口を開いた。

「目標が地底へ逃走するようならば、上空へ退避しろ。
そのような新戦術を使われたら、既存のロボットでは歯が立たない。
地底の敵を攻撃する手段もないし、地底で福音が切れるまで待たれたらなすすべがないからな。
…しかし、その心配をする必要は少ない。
なぜなら、奴らはもともとあらゆる物質を透過する能力がある。
足など使わなくても、本来なら地底へ潜れるはずだ。
それをしないのは、何らかの妖怪の構造的な共通の欠点があるからに違いない。
だから、現行のロボットでも戦えている。

よって、作戦は当初の通り、笹倉が先発、阿部がバックアップだ。
阿部はまだこちらのヘリのパイロットや、福音展開設備に慣れていない。」

ヒガキの言葉が終わると同時に、モニターに別ウインドウが開いて、整備士が映し出された。

「ロボットの搭乗準備が整いました。」

整備士の言葉に、ヒガキは頷くと、鉄等を振り返る。

「パイロットはパイロットスーツを着用、歌姫はヘリに急げ。
続きは機内でまとめる。」

ヒガキの言葉に、鉄はいち早くパイロットスーツの保管されている機体の搭乗口へ走っていく。

「さ、こっちよ」
次いで、笹倉が阿部を促して、福音展開ヘリの搭乗口へと急かした。
歌姫の方は福音出力の低下を招くので、厚い防護服は装着できない。
故に、ヘリの中では各々の衣装だけである。

駆け足で指令室を出た笹倉は阿部を伴って空母の上部、福音展開ヘリの格納庫へとやってきた。

「あなたは向こうの機体に」

そう言って、笹倉は阿部をヘリポートに着陸しているヘリの一機へと促し、自らは衣装に着替えるべくロッカーへと走りこんだ。
ヘリの各部にフリスビーをくっつけたような独特の形状の、福音展開ヘリのコクピットでは、操縦士と、副操縦士が阿部に敬礼する。

歌姫は基本的にヘリの移動に関しては彼らプロのパイロットに一任するしかない。
勿論、福音の効果範囲をパイロットが見誤っている場合等は近づいてほしいと促す事や、逆に妖怪に歌姫が恐れを抱いた時に離れてほしいというような簡単なパイロットへの意思表示はできる。
近年では巨大ロボットの技術を応用して、歌姫が歌いながら自力でヘリを運用する事も可能になっているらしいが。
まだまだ普及はしておらず、プロのパイロットに歌姫の舞台は任されている。

21オスカー ◆z4KXiuQxT6:2014/04/30(水) 22:18:08
>「――そうなる前に仕留めましょう。私の歌ならあの装甲を突破できるはず
ただ……それを察知した妖怪が必死の抵抗を試みる事があるの。だから必ず仕留めて」

「ああ…任せてくれ」一言、頷くオスカー。
率直な感じ、阿部の言葉はまるで壁のようだった。
故にそれ意外の反論の言葉、まして賛同の言葉さえも必要としない完璧さをもっていた。
その通り、今は戦って勝利すると思う他ないのだ。
それが正義は勝つと信じて疑わない子どもの盲目さを兼ね備えていたとしても。

(任せてくれ……か)
自分は兄のような天才を演じている。
不安を圧し殺している。

そこへヒガキが口を開く。
彼の話では妖怪は物体を貫通できるとのこと。
それもそうだ。通常兵器が通用しないということは
妖怪はこの世界のものではない。
その怪異に対抗するために福音があるのだろう。

>「パイロットはパイロットスーツを着用、歌姫はヘリに急げ。 続きは機内でまとめる。」

「了解」
そう言ってオスカーは駆け出した。
その瞬間、子猿がオスカーの肩へと飛び乗ってくる。

「ん……あの子の肩のほうがよかったんじゃないのか?」

「ききぃ」

――搭乗口を移動しベオウルフの内部へ。
パイロットスーツはすでに着用済み。
それは手首のボタンを押すと体にベストフィットした。
座席に座ると無数の隔壁が閉じ一瞬の暗闇。
続けて虹彩認証によりベオウルフの全機関に火が灯る。
ベースは超電導。戦闘時は福音とのハイブリッド、ゴスペルドライブが発動する。

「つらいものだな」
妖怪を殲滅し続け、生き続ける。
それがオスカーの願い。
それだけが戦死した兄を越える唯一の方法。

22阿部 真里亜 ◆uMJFatUpYM:2014/05/05(月) 09:47:19
>「ああ…任せてくれ」

オスカーと名乗った男性が、力強く請け負う。
しかしそこから感じたものは、完璧な自信とは少し違う物だった。
出来る出来ないに拘らず生き残るには何としてでも勝つしかない、それを悟った者の覚悟……。
一方、ヒガキは、妖怪が地中に潜る可能性は低いと語った。
成程、この世の物質が障害物にはならないのなら今までに地中に潜る妖怪が続出していてもおかしくないはずだ。

>「よって、作戦は当初の通り、笹倉が先発、阿部がバックアップだ。
阿部はまだこちらのヘリのパイロットや、福音展開設備に慣れていない。」

いつもの調子なら私が先に行きますと騒ぎ出すところだが、我ながら今日は大人しい。
この感情は、恐怖……?
今更何を。私はあの時とうに壊れているはずだ。死ぬのは怖くない。
なのに……何故?

>「パイロットはパイロットスーツを着用、歌姫はヘリに急げ。
続きは機内でまとめる。」

長篠君が素早く出撃の準備に取り掛かる。
肩に乗っていた子猿がオスカーさんの方に戻る。
出撃する時も一緒なのだろうか。

>「さ、こっちよ」

笹倉さんは緊張で固まり気味の私を促すように、ヘリへと先導する。

>「あなたは向こうの機体に」

言われた通りにヘリに乗り込むと、操縦士と副操縦士はすでにスタンバイしていた。
これから、操縦を一任する事となる彼らに命を預けるといっても過言ではない。
福音の効果が及びかつ妖怪の攻撃を受けない位置を保ち続ける――言うのは簡単だが行うのは至難の業だ。

「本日から配属になった阿部真里亜です。よろしくね。妖怪が襲おうとしている街……必ず守りましょう」

私の家がある、と言いかけたのだがやめた。
余計なプレッシャーを与えてヘリの操縦に影響が出てはよくない。
そのまま間もなくに迫った出撃の時を待つ。

23【ゴストゥルーパー・ドールズ】長篠 鉄 ◆fr8igvtEPg:2014/05/07(水) 18:46:44
「発進ゲート開け。各ロボットは飛行し、市街地を飛び越えて目的地へ移動願います。
福音展開ヘリは、続いて発艦、追随せよ。」
「了解、ゼロキュー!発進する!」

中世の騎士の鎧のような重々しいパイロットスーツに身を包み、コックピットに多数存在する操縦レバーを動かしながら、鉄が力強くオペレーターに述べる。
それにこたえるように空母の前面ゲートが開き、地響きを立ててベオウルフとゼロキューが現れた。
空母から降り、滑走路へと歩いて行くと、ゼロキューはバーニアを噴射し、空へと浮き上がる。

「つづけ、オスカー!」

鉄はそう言うと、はるか空高くに飛びあがった機体を加速させ、目的地へと飛ばす。
オスカー機も飛び上がると、それに続いて笹倉、阿部を乗せたヘリも発艦し、2機に遅れて追随した。

『阿部さん、心配しなくていいわ……、私と…長篠君だけで勝てる相手。あなたは気を楽にしていて』

移動中、ヘリの中から笹倉が、阿部に通信を送った。
濡れ羽色の黒い長髪と、この世に恨みを持つ悪霊のような垂れ目をした幽霊のような顔から、初対面の人間に暗い印象を与える笹倉だが。
気配りができ、下心なく優しい言葉をかけてくれる彼女は、一般職員たちの評判もよい。
そのため、よく「あれで顔がもう少し景気が良ければ」だとか「衣装だけでなく表情やしぐさも明るいものにしてほしい」などと言った言葉が絶えないが…。
ちなみに彼女の衣装は、パステルイエローのエプロンを中心に、白の長袖セーターとクリーム色のスラックスで構成されており、彼女のもともとの職業である保育士を連想させる物だ。

ともあれ発進した2機のロボットとヘリは、妖怪目指して一直線に空を進んでいく。

===========================

自衛隊の無人ヘリに誘導され、スモーク立ち込める森林地帯を鋏を振り回しながら前進していたバケエビは、突如、ぴたり、とその場に静止した。
ヘリが何度か目の前を通り過ぎて見せるが、一切バケエビは反応せず、電池が切れたようにその場に立ちすさんでいる。
自衛隊のロボット部隊が展開される場所にはまだ距離があり、この位置ならGDチームの方が近い。

==========================

『目標が静止しました』
「何?どう思う、オスカー」

目的地へと飛ぶゼロキューの中、オペレーターからバケエビの現在の状況を聞いた鉄は、後方のオスカーに尋ねた。

24オスカー ◆z4KXiuQxT6:2014/05/08(木) 00:29:30
>「つづけ、オスカー!」

「了解っ。ベオウルフ、発進!」
背中のノズルがけたたましく咆哮する。
煌々としたエネルギーの光芒が大空に尾をひき鋼鉄の巨人が飛翔する。
そんななか、耳朶を打つのはオペレーターの報告。続けて鉄の質問。

>『目標が静止しました』 >「何?どう思う、オスカー」

「わからん。ただ、的が止まっているぶん、こちらとしては戦いやすいな」
未知の妖怪という存在。
奴等はいったいなにが目的なのだろう。
全個体に共通の目的があるのか、それすらも不明だ。

(……いったい何を考えている?)
モニターごし。拡大遠視で観測するバケエビの姿。
人には巨大過ぎるフォルム。
無機質な瞳。
沈黙の不気味さにオスカーは固唾を飲んだ。

(ええいっ、怯むな。今の私は戦う駒だ。
みなここにいるものは役割を全うするという覚悟に満ちているはず)

「きぃ!」
子猿が小さく鳴けば、警告音。
オスカーが気がつけば、ベオウルフの速度が上がっている。
前方を飛ぶゼロキューに数秒で激突するほどの速度だ。

(力みすぎだ)
オスカーは深呼吸。
操縦レバーから力を抜いて子猿の小さな頭を撫で沈黙。
だが子猿は密かに心配していた。
動物の本能で、オスカーはまだこの群れには馴染んでいない。
生き残るためには群れの一員として確かな繋がりを得るべきだと。

25阿部 真里亜 ◆uMJFatUpYM:2014/05/11(日) 23:44:19
>『阿部さん、心配しなくていいわ……、私と…長篠君だけで勝てる相手。あなたは気を楽にしていて』

笹倉さんの力強い言葉。
優しさはもちろんだがそれだけではない、ベテランの風格といったものが感じられる。
彼女の衣装は、一見歌姫というイメージとは違うパステルイエローのエプロンが特徴的。
もしかしたら私と同じように、歌姫になる事を決意した経緯を象徴するものなのかもしれない。

「……ええ、ありがとう」

ヘリはロボットに追随するように一直線に飛ぶ。
木々を薙ぎ倒しながら進撃する妖怪が見えてきた。
と、バケエビが突然動きを止める。

「不気味ね……」

笹倉さんのヘリが攻撃を受けない程度の距離で前を通り過ぎてみせるが、反応する様子はない。

「ここで一気に攻めるべきか、いったん引いて様子を見るべきかという事ね……。
考えられるのは何かの攻撃の準備か、こちらの攻撃に備えて身を固める防御態勢のどちらか……」

長篠君がオスカーさんに意見を求める。

>「何?どう思う、オスカー」
>「わからん。ただ、的が止まっているぶん、こちらとしては戦いやすいな」

自衛隊の先行部隊に対しては、このような反応は無かった。
私達が妖怪に対抗する力を持っている事を何らかの形で感じ取っている……!?
歌姫が歌唱できる時間はほぼ一曲分のみ、極力無駄にはできない。
ただし今回歌姫は二人。笹倉さんが時間切れになってもまだ私がいる。
もしもこれが防御の類なら攻撃に特化した私が交代すればいいだろう。

「そうね、何のつもりかは分からないけどこれってチャンス…よね」

オスカーさんの意見に同意を示す。

26【ゴストゥルーパー・ドールズ】長篠 鉄 ◆fr8igvtEPg:2014/05/14(水) 19:27:43
「よし!攻撃だ、オスカーは後方より援護射撃、福音展開開始!」

オスカーと阿部の意見を聞いた鉄は、即時、攻撃を決意する。
慣れぬ最新鋭機に乗り、緊張していたことと、妖怪の謎の行動に注意が行っていた鉄は、オスカーの異常には気付けなかった。
それは、彼の能力と判断を鉄が信頼しきっているためなのだが、仲間の行動に気を向けられないあたり、鉄もまだ未熟である。

「行くぞ!」

動きを止め、森林地帯で停止するバケエビ。
その巨体めがけ、鉄は機体を降下させる。
同時に、笹倉桜の喉から淡い黄色の燐光が沸き上がり、ヘリから流れる「未来」の音楽と共に、周囲に上空から降り注いでいく。

🎶夢を叶えて 一人で探してた星の♪

雪のように空から降り注ぐ燐光と共に、穏やかな、しかし哀愁を含んだ笹倉桜の声の中が響き渡る。
それを聞く鉄やヘリのパイロットたちは、母の手の中に抱かれた赤ん坊のような、安息感に包まれた。
彼女の歌を聴く者は、巨大ロボットのパイロットだけで無く、民間人や、他の歌姫等全ての人が、妖怪の精神攻撃から守られる効果があるのである。
その歌と燐光の中を飛ぶ巨大ロボットの周囲に揺れる燐光が、ゼロキューの体に吸い込まれていき、表面を薄い膜のようなもので包み込んだ。
同じようにベオウルフの周囲の燐光も機体に吸い込まれ、周囲を膜で包む。
機体に搭載されている福音装甲展開装置が周囲の福音を吸収し、福音装甲を作り出したのである。
同時に機体の福音兵装が起動し、巨大ロボットは妖怪を攻撃可能となった。

🎶同じ光を 君が見つめているだけで🎶

「福音拳!!」

上空より急降下した鉄のゼロキューの腕に黄色い光を発生させながら、バケエビに鉄拳を叩き込んだ。
勢いよく放たれた拳はいかなる物体もすり抜けるバケエビの体に、しかし命中し、その体を強固に見えたその装甲を簡単にひび割れさせながら、後ろに大きく吹き飛ばした。

🎶いつもの夜が闇に染まる頃🎶

「脆い!オスカー!追撃だ!」

最新鋭機の力強さに興奮しつつ、福音機銃を展開し、バケエビめがけて発射しながら、鉄は叫んだ。

27オスカー ◆z4KXiuQxT6:2014/05/16(金) 18:40:54
>「そうね、何のつもりかは分からないけどこれってチャンス…よね」

オスカーには自身の希望的観測を、阿部の同意によって確信にまで高めたい気持ちがあった。
だが相手は巨大な妖怪。不安は拭えない。

そんななか、戦闘は始まる。
戦場に響き渡る笹倉の歌声。

>「行くぞ!」
バケエビに炸裂するゼロキューの福音拳。

>「脆い!オスカー!追撃だ!」

「了解!」
ベオウルフがその巨体に似合ないほどの優雅な着陸をみせれば、
長篠の攻撃に続き、バケエビの破損箇所に狙いを定めライフルを構える。
福音の展開でその漆黒の体には無数の光のラインが鮮やかに彩られていた。

(……不思議だ。あの歌声。戦場で安らぎを感じるとは)

照準レクティルにターゲットを合わせトリガーをひく。
ズオォン!
刹那、ライフルの尖端から放たれるは激しい光の閃光。
この閃光は、オスカーの経験では小型の妖怪なら一瞬で散華するほどの破壊力を有しているようだった。
そんな規格外の力をこの新型は持っていた。
だがそれもなんのことはない。
人類は、いや、生物は天敵が現れてもそれに対抗する術を獲得し今まで生き延びてきたのである。
それに物事を効率よく機能させるのが人の作った組織というもの。
子猿の心配は見当違いだったのかもしれない。

(私の兄ならこのまま格闘戦闘に突入し、試運転を兼ねて戦いを楽しんでいたはずだ。
それも余裕の台詞を口走りながらね)
そんなふうに思いながら、アサルトライフルのチャージを終えると再び射撃するオスカー。
強固と予想した甲殻が脆弱なものと確認できれば、
最大戦力を使用する必要もない。

「どうだ?やったか!?」
オスカーの狙ったのは先程命中させた同じ被弾箇所。
バケエビの内部がどうなっているのかは不明だが相手は動かない敵。
それは見事に命中しているはず。

――そして慈愛の光の雨のなか、いまだ森に横たわり続ける妖怪の巨体。
それは皆の見つめるなか、不気味に沈黙を続けていたのだった。

28阿部 真里亜 ◆uMJFatUpYM:2014/05/20(火) 21:39:25
>「よし!攻撃だ、オスカーは後方より援護射撃、福音展開開始!」
>「行くぞ!」

長篠君の判断は素早かった。
その決定を受けて、笹倉さんが福音を展開する。

>🎶夢を叶えて 一人で探してた星の♪

「すごい……」

思わず呟いていた。まるで心が洗われるような感覚。
戦場の真っただ中で歌われる戦歌だというのに、それが齎すものは安らぎ。
こんな歌の下で戦えるパイロットは本当に幸運だと素直に思う。

>🎶同じ光を 君が見つめているだけで🎶

いつの間にか自分が涙を流している事に気付く。
そうか、私――怖かったんだ。これ以上大事な人を奪われるのが。
死ぬのは怖くないなんて大嘘だった。まだいるじゃないか。私が死んだら悲しむ人が。

「二人とも頑張って! 私の街を……父さんと母さんを守って!」

控えとはいえ作戦メンバーの一員だというのに、まるで端から見ている一般人のような能天気な声援をおくっていた。
そう、あの運命の日を迎える以前の、未だ世界の残酷さを知らない小娘のように。

>「福音拳!!」

ゼロキューの鉄拳をくらったバケエビは、装甲がひび割れながらド派手に吹き飛ぶ。
装甲が強固なのではないかという懸念は杞憂だったのか、新型機の性能が余程いいのか。

>「脆い!オスカー!追撃だ!」
>「了解!」

吹き飛ばされたバケエビにオスカーが砲撃を浴びせる。
一撃一撃がザコ妖怪なら一瞬で吹っ飛びそうなほどの火力だ。

>「どうだ?やったか!?」

「格好良かったよ! 笹倉さんの歌の中で戦うあなた達……まるで神話の英雄みたいだった!」

私の出番が無しで済むならそれに越した事はない。
多分大丈夫9割、不安1割が入り混じった気分で、沈黙を守るバケエビの様子を固唾を飲んで見守る。

29【ゴストゥルーパー・ドールズ】長篠 鉄 ◆fr8igvtEPg:2014/05/23(金) 12:22:44
>「どうだ?やったか!?」
>「格好良かったよ! 笹倉さんの歌の中で戦うあなた達……まるで神話の英雄みたいだった!」

オスカーの追撃を受けて、硝煙の中で体中のヒビから体液を流しながら沈黙するバケエビ。
それを見た阿部の明るい声が機内に響き、オスカーの声もほんの少し緊張が解けている感じがする。
しかし、妖怪の生命力は侮れない、それに、ここまで一方的にやられたのも不気味だ。

🎶一人じゃない 心たちのように🎶

笹倉桜の歌はまだ3分の1ほどしか終わっていない。
残りの時間、攻撃を続けるべきだ、と、鉄は判断した。

「跡形も残さず片づける、妖撃弾を使う!」

鉄は宣言すると、ゼロキューの胸のカバーを開放し、胸の中に搭載された福音ミサイルを展開する。
ゼロキューの武器の中では最強の攻撃力を誇る必殺の一撃、妖撃弾、計算上は、今まで現れた妖怪すべてに、致命的なダメージを与えることができる代物だ。

🎶明け行く空は 誰かが信じた明日を🎶

「発s…!!」

妖撃弾が放たれようとした刹那、ヒビだらけのバケエビの体が砕け散り、中からもう一匹のバケエビが姿を現した!

「だ…脱皮!?くっ!」

🎶裏切り続けて それでも小さな祈りを🎶

殻を砕いてあらわれた脱皮後のバケエビめがけ、それでも鉄は動揺しつつも、発射態勢にあった妖撃弾を発射させようとした。
だが、それより早く、バケエビの口から、何か液体のようなものが勢いよく噴射され、ゼロキューの胸、露出したミサイルに浴びせられる。
液体は妖怪と同じ物質らしく福音装甲が反応して、黄色い火花がゼロキューの胸で激しく光り、しかし受け止めきれずに貫通されてしまう。
すると液体を受けたミサイルと、ミサイルを固定していたゼロキューのパーツは変形し、じゅうじゅうと溶け始めたではないか!

「機体が…溶ける!?あああああ!」

🎶諦めないよ 届かないと泣き濡れた 君をただ🎶

妖撃弾の噴射剤に引火したのだろう、ゼロキューの胸の中で妖撃弾が爆発。
ゼロキューの上半身が激しい炎に包まれ、中の鉄が慌てているのだろう、福音機銃を乱射しながら上半身を激しく上下左右に乱舞させる。
その間にもバケエビの口から溶解液の噴射は続いていて、ゼロキューの体は付着した溶解液と福音装甲の化学反応で起こる黄色い火花と、炎、煙で染められた。

30オスカー ◆z4KXiuQxT6:2014/05/23(金) 23:55:00
集中砲火を浴び沈黙するバケエビ。かたやこちらは、戦力に余力を残している。
敵の沈黙は不気味ではあるが、この流れなら勝利は確実。
きっと、阿部の両親の住む街も守りきれる。

>「格好良かったよ!笹倉さんの歌の中で戦うあなた達……まるで神話の英雄みたいだった!」

阿部の言葉に、素直に喜色を浮かべるオスカー。
戦闘に私情は挟むべきではないが、同僚の安堵した様相は心地良いものだ。

>「跡形も残さず片づける、妖撃弾を使う!」

続けて鉄の完全なる勝利への布石。
ゆえにオスカーは勝利を確信する。
だがそこに、油断が生じた。
なんと妖撃弾が放たれようとした刹那、
ヒビだらけのバケエビの体が砕け散り、
中からもう一匹のバケエビが姿を現したのだ。

>「だ…脱皮!?くっ!」

新たに出現したバケエビの粘液が妖撃弾の射出を封じ、その胸内で爆裂させる。
鉄は慌てふためき機銃を連射。
ゼロキューの上半身は炎と煙りに包まれ見るも無惨な姿だ。

「あ、うぅ…」
オスカーは冷や汗をかきながら唇を震わせている。
その脳裏に浮かんでいるのは兄の戦死する過去の瞬間。
燃え盛る鉄の機体がそれを思い出させていた。
オスカーは両腕を格闘戦闘用の操縦機器に差し込むとおもいっきり前へと突き出す。
すると次の瞬間、ベオウルフは飛翔し、その脚部は硬質な音とともにバケエビの横腹にめり込んでいた。
横に大きく歪んだバケエビは吹き飛ばされ地響きをあげて山の向こう側に落下している。

「脱出できるか鉄!?誰か、誰かゼロキューに消火剤を…。
そして私にはフルンティングを投下して欲しい!」
と、オスカーは飛行空母に要請。
バケエビが攻撃を再開するのも時間の問題で、これは時間のないなかの時間稼ぎ。
ゼロキューの脱出装置が溶解液で破壊されていないか心配だが
ベオウルフはバケエビの相手をしなければならず
阿部に鉄の救出を頼むのも死ねと言っているようなもの。
それに桜の歌ももうじき終わってしまう。
ここで阿部を欠くのは得策ではない。
――それは勝利するための苦渋の決断だった。

「……阿部マリア、わかっているな?」
圧し殺すかのようなオスカーの声。
彼は阿部に念をおしながらも、斜面から顔を出したバケエビにライフルをお見舞いする。
だがそれはバケエビの溶解液に相殺され火花となって辺りに拡散するのみだった。

31阿部 真里亜 ◆uMJFatUpYM:2014/05/26(月) 22:19:53
>「跡形も残さず片づける、妖撃弾を使う!」

長篠君は最後まで攻撃を続けるべきと判断。
皮肉にも、この妖撃弾を使うという判断が仇になろうとは誰が予測し得ただろうか。
バケエビの殻が砕け散り、中から新しいバケエビが現れる。

>「だ…脱皮!?くっ!」

確かにエビに姿は似ているが脱皮までするとは……盲点だった。
バケエビは溶解液を射出し、発射直前の妖撃弾に引火、爆発。最悪の事態となった。
何という不運なタイミング……いや、もしかして敵はこの瞬間を狙っていたのかもしれない。

>「脱出できるか鉄!?誰か、誰かゼロキューに消火剤を…。
そして私にはフルンティングを投下して欲しい!」

笹倉さんの歌は半分ぐらいが終わったところ。
その特殊効果は、精神攻撃に対する防御。
残念ながら溶解液等の物理的な攻撃にはその特殊効果は発揮されない。

>「……阿部マリア、わかっているな?」

「ええ、そのまま奴の気を引きつけて!
運転手さん、歌うから福音展開用スピーカーを! それとゼロキューに消火剤散布をお願い!」

凄惨な状況を目の当たりにしても取り乱さずにとりあえず行動がとれているのは、笹倉さんの歌のお蔭かもしれない。
歌唱時間を優先して笹倉さんの歌が終わってから歌いだすという選択肢もあったが敢えてすぐに歌い始めて重ねる事を選んだ。
一刻も早く長篠君を救出しなければいけないこの状況。奴がエビの生態と同じならば、脱皮直後はまだ脆いはず。
それに、歌姫の歌は重ねる事で相乗効果を発揮する場合があるという。
意を決して歌い始める。

♪Sie sind das Essen und Wie sind die Jäger.――!♪

――お前たちは獲物か?いや、俺たちは狩人だ!

そう、私達は妖怪の餌になどならない、妖怪を狩る狩人なのだから!

32【ゴストゥルーパー・ドールズ】笹倉桜 ◆fr8igvtEPg:2014/05/29(木) 11:03:13
マイクを片手に歌い続けていた笹倉桜の前で、鉄のゼロキューが炎に包まれる。
思わず、「あっ!」と言いそうになるのを、桜はぐっとこらえ、何とか歌詞の続きを口にすることができた。
燃え盛る炎は激しく、ゼロキューから鉄が脱出する様子はない。
無線から、オスカーや真里亜の焦った声が聞こえたが、彼らも内心ではわかっているのだろう。
もう、鉄は助からない事を…。

(動じるな、動じてはだめだ、全ての物事を、画面の向こうの事のように感じながら…。
歌に…、歌にだけ、歌詞にだけ、音にだけ集中するの)

動じるな、動じるなとおのれに言い聞かせながら、桜は歌い続ける。
と、言っても、現在は間奏部分。
音楽に合わせて、ハミングをしているだけで、何か喋っているわけではない。
こうする事で、間奏の間も福音を展開しつつ、喉を軽く休める事ができるのだ。

『駄目だ!福音展開ヘリが消火弾を撃ち込もうと近づけば、溶解液の餌食になる!我々は近づけない!
現在レスキュー隊を要請しているが、到着まで時間がかかる!』

無心にハミングを続ける桜の耳に、さらに絶望的な言葉が、ヘリのパイロットからもたらされた。
そうだ、鉄を救うために、さらなる犠牲を出すわけにはいかない。
せめて、早く妖怪を倒す事ができれば…。

そこまで考え、慌てて桜は我に返り、今歌のどの部分か、改めて確認する。
危うく、歌いだしを間違えてしまうところだった。
動揺するな、鉄の事は私が考える事ではない。
彼には色々と世話になったし、仲良くもなったが、これはやむおえない、今考える事ではない。
そう考え、2番の歌いだしに呼吸を整えた、その時。

♪Sie sind das Essen und Wie sind die Jäger.――!♪

心を揺さぶるような声が…福音が、周囲に響き渡った。
同時に、阿部のヘリから、福音の粒子が周囲に撒かれ始める。

(阿部さん…。そうか!早く勝負をつけるために!)

更に、空のかなたより、空母からカタパルトで射出された巨大な剣が飛来して、オスカーの後方に突き刺さった。

(皆、動じていない、今できる事をしている…。私も!)

♪そんな寂しい心じゃ 大事なものを失くしてしまうよ 少し優しい未来を信じていいんだと♪

桜と、阿部の歌の中で、オスカーの乗る巨人は巨大な剣を引き抜き、構えをとる。
バケエビはそれを見て前足を上げ、背をのけぞらせて腕を引いた後、一気に体を倒して、勢いよくオスカー機に突っ込んでいく。

🎶かなしみを暖めて あげたい🎶

(歌う、私は歌う)

炎に包まれ、地響きと土嚢を上げて倒れ伏したゼロキューを視界の端に捉えながら、桜は必死に歌いつづける。

33オスカー ◆z4KXiuQxT6:2014/06/01(日) 13:19:45
>♪Sie sind das Essen und Wie sind die Jäger.――!♪

福音が…、魂を揺さぶるような歌声が、
粒子となって、阿部のヘリから降り注ぐ。
その一方で、炎に包まれ、地響きを上げて倒れ伏すゼロキュー。
だがオスカーにはどうすることもできない。
今はただ、ベオウルフに飛びかかってくるバケエビを倒さなくてはならないのだから。

鉄塊を持ち上げ、構えるベオウルフ。
二人の歌姫の相乗効果が、
ベオウルフのゴスペルドライブを臨界まで上昇させる。

「オオオオオオオオオッ!!」
咆哮が、無音の鼓動が、空気を激震させる。
同時に発光した必殺の大剣、フォルンティングが空間を疾駆。
バケエビの不可視の防御壁と衝突する。

「……くっ!」
オスカーの体を襲う斥力。負けられない覚悟。
勝って生き残るしか、兄を越える方法はないのだ。

(劣等感。それを僧侶のように受け流すことなど私にはできん。
ゆえに、勝って勝って勝ちまくる!
その向こう側に己の魂の安寧をつかみとる!)

猛り、勇み、守らんとする決意の刃が、阿部たちの歌声を宿し加速。
そしてみなぎる思いが剣とともにバケエビの甲殻を切り裂いた!

――静寂。
蒼天には雲の欠片もなく、
静まり返った森林がこの戦いのすべてを見届けていた。
勝敗はすでに決している。
バケエビの切り裂かれた亀裂から光が溢れだし、すべてを覆ってゆく。
光は柱となり天空へ。
音もなく衝撃もなく、ただの光は空へと消えていった。

「……やったぞ。鉄」
オスカーの視線の先、轟沈したゼロキューに散布される消火剤。
さらに救護班の乗ったヘリから隊員たちが降下してゆく。
今はただ、長篠鉄の無事を祈るしかないオスカーだった。

【スレ主さん、お忙しいみたいですね…】

34【ゴストゥルーパー・ドールズ】笹倉桜 ◆fr8igvtEPg:2014/06/02(月) 15:03:19
>オスカーさん
間違ってデビチルの方にこの名前のまま言ってしまいましたね(汗
仕事の方は忙しいですが、今のペースなら何とか続けていけそうです、デビチルもここも。
危なくなったら、事前に言いますね。
ありがとうございます。

で、その…文章がいいだけに誠に申しあげにくいんですが…2chの方にルールがあるのでわかりづらくて申し訳ありませんが、ゴストゥルは決定リール禁止です。
なので、今回はいいですが、次からは、攻撃を行ったところで止めておいてください。
攻撃が有効か、否か、どういう風にやられるかは、妖怪を操作してるプレーヤーが行います。

35オスカー ◆z4KXiuQxT6:2014/06/03(火) 22:38:42
スレ主さんが切羽詰まってそうに見えてしまって
続きを書いてしまったほうが
手助けになるかも…
なんて思ってしまいました。
すいません。

36阿部 真里亜 ◆uMJFatUpYM:2014/06/05(木) 00:36:30
♪踏まれた花の名前も知らずに 地に堕(お)ちた鳥は風を待ちわびる♪
♪祈ったところで何も変わらない 今を変えるのは 戦う覚悟さ♪

>『駄目だ!福音展開ヘリが消火弾を撃ち込もうと近づけば、溶解液の餌食になる!我々は近づけない!
現在レスキュー隊を要請しているが、到着まで時間がかかる!』

そんな……あんまりだ。
とはいえ、すでに歌は始まっている。一度歌い始めたら反論も泣き言も許されない。
何故なら歌うのをやめたらその時点で一巻の終わりだからだ。
今の私に出来るのは最後まで歌い切る事だけなのだ。
自分の身が危険にさらされようと、仲間が倒れようと、歌う。それが、歌姫――

♪屍(しかばね) 踏み越えて 進む 意思を  笑う 豚よ♪
♪家畜(かちく)の安寧(あんねい) 虚偽(きょぎ)の繁栄(はんえい) 死せる餓狼(がろう)の自由を♪

空母から巨大な剣が投下される。ベオウルフの切り札――フォルンティング。
ベオウルフはそれを掴み、風の様に疾駆する。いや、獲物に狙いを定めた狩人のように!

>「オオオオオオオオオッ!!」

♪囚われた屈辱(くつじょく)は 反撃の嚆矢(こうし)だ♪
♪城壁のその彼方(かなた) 獲物を屠(ほふ)る♪

剣が振るわれる瞬間、歌に乗せて叫んだ。

♪Jäger(イェーガー)!!♪

あなたは狩人、必ず獲物をしとめる……私が仕留めさせてみせる。

♪迸(ほとばし)る衝動に その身を灼(や)きながら
黄昏(たそがれ)に緋(ひ)を穿(うが)つ 紅蓮(ぐれん)の弓矢♪

そして――光輝く刃の一閃が、忌まわしき妖怪に炸裂する――

37【ゴストゥルーパー・ドールズ】笹倉桜 ◆fr8igvtEPg:2014/06/05(木) 02:31:20
>>35
俺を泣かせないでくださいよ。
細菌涙もろくて困ってます。
めちゃくちゃ助かりました、ありがとうございます。

38【ゴストゥルーパー・ドールズ】長篠鉄 ◆fr8igvtEPg:2014/06/11(水) 00:16:15
今日もまた、一体の妖怪が倒れた。
世界各地で日常的に行われている妖怪と人間の死闘。
巨大ロボットと福音、二つの力を手に入れた人類は、その戦いに勝利し続けている。
しかし、それは、失う物が無くなったわけではない。
家が物が、命が…その戦いで常に、消えていくのだ。
そして妖怪に対する勝利から、人類が得る物は無い。
いつも、「負けるよりはマシ」な程度に、被害を抑えられるだけだ。

そしてその日も、人類はまた、得る物何もなく、ただ、奪われた。

=================

バケエビが倒され、炎上するゼロキューの周囲には複数の化学消防車、はしご車などが到着し、本格的な消火を行っていた。
ゼロキューの体を包む燃え盛る炎は強く、未だ消える気配はない。

最新鋭を誇った強固な金属の巨人は、今、炎の中に散ったのだ…。
はたしてこの巨人は奇策に負けたのか、それとも、パイロットの実力が足りなかったのか…。
恐らく両方、敵の行動を読めず、そして、溶解液を避けれなかった、指揮官の先を読む力と、パイロットの技量不足。

「あぁ…」

長篠鉄は、救護班の展開したテントの中、ビニールシートの上であおむけになりながら、そんな事を考えていた。
阿部が、オスカーが、新しい部隊に配属されて初めての出撃。
自分はそれに泥を塗る真似をしてしまったのだ。
自責の念で、鉄は強く頭を抱えている。

オスカー、阿部の下した判断は的確だった。
迅速に妖怪を殲滅した事で、コックピットを守るセーフティーフレームと呼ばれる外殻が溶けてしまう前に救護班が到着。
鉄は間一髪、助けられたのである。

「長篠君…」

不意に後ろから聞こえた声に、鉄はびくっとして、こわごわと後ろを振り返った。
そこには、笹倉桜がが幽鬼のように立っている。

「怪g…」
「すみません…」

強く責任を感じているのだろう、鉄は、桜の気遣いの言葉より先に、彼女に謝り、目をそらした。
自分の失策が、ゼロキューを大破させ、他の仲間と、そして後ろの市街地を危険にさらしたのだ。
鉄は顔を両手で覆って隠し、すみませんっとぼそぼそと呟きはじめた。

39オスカー ◆z4KXiuQxT6:2014/06/12(木) 00:45:39
「阿部マリア。いい歌だったぞ」
と、直通無線でオスカーが言う。
これは不謹慎かもだが、彼は心の何処かで戦闘を求めている。
オスカーは妖怪を殲滅する瞬間に梵我一如に似たような錯覚に陥るのだ。
妖怪殲滅は人類の総意。
つまり任務完了の瞬間にオスカーは大義との同化を果す。
彼はその瞬間だけちっぽけな自我を忘れることが出来るのだ。



オスカーは長篠のもとへと駆けつける。

>「怪g…」
>「すみません…」

長篠の口から紡ぎ出される懺悔の言葉。
(一見、笹倉に泣かされているようにも見えたがオスカーにはわかっていた)
そんな長篠の気持ちをくんで、オスカーはいたたまれない気持ちになりこんな言葉を投げ掛ける。

「謝る必要はない。長篠鉄。無事でなによりだ」

「あのときは私のライフルのチャージ時間と君の妖撃弾の発射時間が重なり
敵に攻撃の隙を与えてしまったのだ。
ほんの二、三秒の隙だったかも知れんがな…。
だから次からはお互いにバックアップすることを心掛けよう。
最後まで油断せずにだ」

オスカーは長篠の気持ちを案じている。
それも長篠のすみませんと言う台詞を、次へ繋がる気持ちととらえていたからだ。
こんな弱気なリーダーをオスカーは見たことがない。
それが新鮮でもあり、彼はこの隊が好きになれそうな気もしていた。
幽鬼のような笹倉に、勇ましい阿部。
戦い続けるさだめなら、せめて戦い続ける場所は自分で選びたい。

オスカーは子猿の頭を撫で微笑する。
子猿もオスカーを強く抱き締め返す。
いつかは死んでしまう自分たちのその心に
思い出を刻み込むかのように。

40阿部 真里亜 ◆uMJFatUpYM:2014/06/16(月) 01:35:57
>「阿部マリア。いい歌だったぞ」

「……ありがとう」

妖怪を倒したので、その妖怪が出した溶解液も消えたはずだ。
出来る事はやった、だから後はただ祈るのみ……。

「死んだら駄目だ長篠鉄! 私の歌を聞いてみたいって言っただろう!」

自ら迎えに来て役職も明かさないままいきなり出動して
私の歌を聞く事もないままあっさり妖怪にやられるなんて酷すぎる。

♪   ♪   ♪   ♪   ♪   ♪   ♪

ヘリから降りて待機している私達に、悲痛な面持ちでスタッフが告げる。

「また、尊い犠牲が出てしまいました……大破して再起不能です」

「そんな……。……え? 大破?」

「はい、ゼロキューが」

「そっちかい!」

半ばズッコケながら長篠君の元へ急行する。
彼はすでに目を覚ましていたが、九死に一生を得た割には元気がない。
申し訳なく思っているのと、最新型ゼロキューを見て目を輝かせていただけに、それが大破したショックもあるのだろう。
オスカーさんと桜さんがそれぞれ気遣う言葉をかけている。

「助かったんだから素直に喜んでいいの。
私の歌が聞けなくてそんなに残念だった? そんなのいくらでも聞かせてあげる。
これから同じチームなんだからさ!」

とはいえ、福音の歌を歌うという事は、つまり妖怪が現れたということ。
何時の日か、妖怪に人類が勝利を収める時が来たらその時は……
余計な事を考えずに思いっきり色んな歌を歌おう。

「ゼロキューの事は残念だったけどまた最新型が配備されるわよ。
ほら、ああいうのってすぐ古くなるし。次は夏モデルかな?」

ケータイやPCじゃないんだから……。というツッコミが聞こえてきそうである。
何はともあれ手を差し出し、満面の笑みを浮かべる。

「改めて……よろしくね! パイロット長篠鉄!」

♪   ♪   ♪   ♪   ♪   ♪   ♪   ♪

歌姫、阿部真里亜――最初に配属された隊を放り出された逸材。
今回は実家の危機で大人しくしていたが、これから先が思いやられそうだ。
しかし、このチームでならなんとかやっていけるのではないだろうか。
そんな予感がするのである。

41【ゴストゥルーパー・ドールズ】長篠鉄 ◆fr8igvtEPg:2014/06/17(火) 12:46:38
皆の寛容な態度に、鉄は素直に泣いた。
涙を流し、ありがとう、ありがとうと繰り返す鉄を、桜が優しく抱きしめる。

=======================

「状況終了、状況終了、妖怪は完全に殲滅、大破1、死傷者皆無、倒壊家屋無!」

飛行空母の方でも、オペレーターが戦闘終了をヒガキに報告していた。
ヒガキはそれに頷くと、小さくため息をつく。

「また巨大ロボットと引き換えに、優秀なパイロットがより優秀なパイロットになった、そう思いたいものだな」

そう呟いて、ヒガキは今後の第5小隊の行く末を考える。
ゼロキューの代替機は、現在建造中のゼロキューがすべて配備される先が決まっているので、新規に建造されることになるだろう。
それまでは半年かかるので、その間は別の機体…倉庫で解体を待っている旧型機が配置されるのだ。
そんな旧式の機体で、はたして日々進化している妖怪に勝てるのか…。
どのみち、長篠鉄の未来は暗いだろう。

「だが、そこで踏ん張れ、踏ん張れば踏ん張っただけ、人類は有利になるのだから…」

誰にともなく、ヒガキは言った。

===================

「あら、雨、止んだわね」

各々の帰りの機体、鉄は救助隊のヘリ、オスカー、阿部は各々の乗ってきた機体に戻る最中に、阿部が空を見上げて言った。
見れば、鉄が阿部を迎えに行っていた時から降っていた小雨はやみ、曇り空の間には青空が見えていた。

「…虹が見えたらよかったのにな」
「そうですね、あんな小雨じゃ、虹は見れませんもんね」

そんな事をぼそっと呟きあって、鉄と阿部は各々の機体へと別れた。
人類が妖怪を相手に、勝利の虹を見る日は、果たしていつになるのかはわからない。
だが、勝利の日を信じ、ゴストゥルーパードールズは歌い、戦う。
いつの日か高らかに勝利の凱歌を上げる時まで…。


              THE END

42【ゴストゥルーパー・ドールズ】長篠鉄 ◆fr8igvtEPg:2014/06/17(火) 12:48:41
さて、終わったわけですが、今後どうするか、皆さんの意見を聞きたいと思います。
例の宇宙人が文明復興に搬送する奴を始めてもいいんですが、正直ゴストゥルーパー・ドールズをもう少し続けたいです。
ただ今のままだと色々不具合もあるので、ここを直した方がいいとか、ここがよくなかったとか、ご意見ご感想をいただけないでしょうか。

43【ゴストゥルーパー・ドールズ】新テンプレ ◆fr8igvtEPg:2014/06/26(木) 14:57:28
ジャンル:オカルト・戦略・巨大ロボットアクション
【世界観説明】

○妖怪
突然出現したあらゆる化学兵器を全く寄せつめない未知の存在。
都市部だろうと海上だろうと関係なく、まるで風が吹くように唐突に出現し、破壊の限りを尽くす。
あらゆる物質の影響を受けないため、壁を通過したりもできる。
意思の疎通は不可能。
○福音
妖怪に対抗できる雄一無二の手段。
特定の女性の喉から発せられる音で、この音の中で妖怪を攻撃することで、妖怪にダメージを与えられる。
歌にする事によって力は増幅し、音は人の形に近いものの方がその恩恵を受けやすい。
○巨大ロボット
福音の恩恵を強く受ける人の形をした巨大な機械。
福音を凝縮して防御や攻撃に使用したり、光の剣のような武器としても使用できる。

【ローカルルール】

1:超越、版権禁止、ただし、この物語の世界はわれわれの世界の未来の世界なので、劇中のキャラ達が台詞などで出すのはOK。
2:1週間経過して次の経過して次の順番の人間が書き込まなかった場合、飛ばして書くこと。飛ばされたキャラはプレイヤーが戻るまで以後NPCとするが、基本的に必要最低限以外動かしてはいけない。
3:決定リールなし
4:一人一キャラ、それ以外はNPCとして登場させること。しかし、他の人の出したNPCを動かす時は、なるべく事前に申し出たほうがよい。いきなり殺すのはご法度。
5:敵役参加有、ただし、ストーリーに関わる物を出すのはある程度物語が進んでから!事前にストーリーに関わるのを出したいと相談してから出しましょう。
6:全体のまとめは俺がやります。が、ストーリーの展開は皆で考えていきましょう。

【テンプレート】
人物
名前:
性別:
年齢:
国籍:
身長:
体重:
容姿:
役職:(基本パイロットか、福音の歌い手)
福音出力:(歌い手のみ、平均的な歌い手の出力を1とした場合の出力。ロボットの攻撃力、福音防御力の補正値)
持ち歌:(歌い手のみ、効果の違う歌を3つまで登録可能。ただし、一回の戦闘で歌える歌は1つだけ!)
各歌の特殊効果:(歌い手のみ、各歌一づつ。効果が大きいと、福音出力が下がる)
おいたち:
備考:



新しいテンプレが完成しました。
ルールは改変ありません。
阿部さんの新テンプレができたら、新しい導入部を投下したいと思います。

44阿部 真里亜 ◆uMJFatUpYM:2014/06/28(土) 23:52:03
名前:阿部 真里亜
性別:女
年齢: 29
国籍:日本
身長:160
体重: 50
容姿:裾が引き裂かれたようなデザインの漆黒のドレス、引き裂かれたヴェールが付いたヘッドドレス
役職:歌い手
福音出力: 0.9
持ち歌・各歌の特殊効果

・紅蓮の弓矢 ttps://www.youtube.com/watch?v=dv4nVRpNgZ0
ロボットの攻撃力を上げる。
パイロットの精神にも微妙に作用し、勇敢に戦えるようになる。
と言えば良さそうだが裏を返せば慎重さは減退するのかもしれない。

・自由の翼 ttps://www.youtube.com/watch?v=jmBhAe9OE3E
ロボットの機動力を上げる。
足が速くなったり一定時間に攻撃できる回数が多くなったりする。
ただしそれをどこまで活かせるかはパイロットの腕次第。

・デッドラインサーカス ttps://www.youtube.com/watch?v=R_toGhXWk1g
妖怪を混乱させ、知性的な行動をとれなくさせる。
強力だが、妖怪が予測不能の暴れ方をする危険性もある諸刃の刃。

おいたち:
特筆するまでもない絵に書いたような平凡且つ幸せな人生を歩んできた
が、結婚式当日に妖怪の襲撃にあい、結婚相手が死亡、自身も重傷を負う。
奇蹟的に回復し、皮肉にもその時の怪我がきっかけで福音の歌い手としての力に目覚めた。
以来建前では世界平和のため、本音では妖怪への復讐心を胸に歌姫として活動している。
奇抜な衣装は婚礼衣装を染めてあつらえ直したもので、亡き結婚相手への復讐の誓いの証。
引き裂かれたようなデザインは、妖怪の襲撃を受けた時に引き裂かれた部分をそのまま使用したものである。
備考:
心の中に妖怪に対する激しい憎しみという暗黒面と純粋な少女のような一面を同居させている。
が、普段はどちらもあまり見せる事はなく、むしろフレンドリーなぐらいのただの変人に見える。
色んな意味で軍隊的なお堅いノリには馴染まないらしい。

45阿部 真里亜 ◆uMJFatUpYM:2014/06/29(日) 00:02:21
お待たせしました
3曲目を何にするかで少し迷ったけどぶっ壊れた感じが合ってると思ったのでこれで

「戦闘曲」「歌付き」で検索してたらこんなのが出て来た
ttps://www.youtube.com/watch?v=uuHfJib1gek
本編で使われない隠し歌としてテンプレにだけ設定しとくのもアリかと思ったけど流石にやめたw

パイロットとの兼ね合いで歌の効力が最高に引き出された時には
武器が魔的な炎をまとうような演出(紅蓮の弓矢)とか
ロボットの背に光の翼が現れるという演出(自由の翼)も考えたりしています
それでどうこうというわけではなくただのビジュアル的な演出としてですが

46阿部 真里亜 ◆uMJFatUpYM:2014/07/01(火) 22:52:39
実質独立したスレのような状態になっているので一応トリ変えておきます

47阿部 真里亜 ◆PxcqTTd2Bc:2014/07/01(火) 22:53:11
新トリップはこれで

48【ゴストゥルーパー・ドールズ】新テンプレ ◆fr8igvtEPg:2014/07/02(水) 20:20:55
>>45
福音がこう、光る燐光として撒かれてる描写があるので、それが集まって翼や炎になるっていうのはありだと思います。

それの応用で、武器を出せるってのもいいかもしれませんね。

少ししたら笹倉のも作ろうと思います。
再開まで今しばらくお待ちください。

49【ゴストゥルーパー・ドールズ】長篠 鉄 ◆fr8igvtEPg:2014/07/06(日) 19:55:12
仕事先の先輩がぶっ倒れやがりました!
自分の子供のかかった病気をうつされたとかなんとか…。

まともな指導も無しに俺が代わりを務める事になっており、現在苦戦中。
再開はまだまだかかります、すいません。

50阿部さん ◆PxcqTTd2Bc:2014/07/06(日) 23:51:39
>>49
それは大変……!お早い回復をお祈り申し上げます。
再開はいつでもいいので慌てないでね。

51【ゴストゥルーパー・ドールズ】長篠 鉄 ◆fr8igvtEPg:2014/07/12(土) 21:58:21
すいません、今月中は無理げです。
仕事が忙しいっつーより、俺の行動に致命的な問題が見つかって…。
根暗で…根暗で接客業向いてなくて…。
うっ…うっ…
営業スマイル何ておらできねえだ…。
休みの日を叩き潰されて仕事に出てるのにもっと働けとかほざく糞上司に愛想よくなんかできねえだ。
もう上司に決闘とか申し込んで相打ちで死にたい。


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