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ガルパン みほルートGOODエンド

1名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/25(火) 21:51:24 ID:g.8oTIO2
「おかーさん!おとーさん!はやくはやくー!」


「慌てると危ないよー」


 日曜日。
 休日と澄み渡る晴天が重なった絶好の外出日和ということもあって、家族三人で訪れた遊園地はまだ早い時間にも関わらず大勢の人で賑わっていた。
 そんな中、ひとり目当ての乗り物に向かって駆け出す娘に隣のみほが声をかける。といっても、普段からあの子は活発なタイプだ。みほも口で言うほど心配はしていない様子だ。むしろ元気にはしゃぐ姿を嬉しそうに見ている。
 
 「……それにしても、私もあなたももあまり活発な方じゃないのに、いったい誰に似たんだろう?」

 ふとそんなことを呟いた彼女に、小さい頃のみほにそっくりじゃないか、と答えた。

 「小さい頃?……あぁ、確かに戦車道を本格的に始める前は結構やんちゃなタイプだったかも……あれ?でもそんな昔のこと、あなたに話したことあったっけ?」

 納得したような表情を浮かべたかと思ったら、すぐに怪訝そうにこちらを見てきた彼女の視線を受け、思わずしまった、とつぶやいてしまう。

 「誰かに聞いたの?お姉ちゃん?もしかしてこの間実家に帰ったとき?」

 彼女には珍しいじとっ、という擬音がつきそうな視線と矢継早な質問に早々に白旗を上げ、その推理が正しいことを認める。本人がいると恥ずかしがって止めに入るだろうから、という理由で、まほさんがわざわざみほが席を外している時に教えてくれたのだ。

 「自分の知らないところで話される方がもっと恥ずかしいよ」

 ごもっとも。しかしせっかくの家族水入らずの外出だ。夫としてすっかりむくれてしまった妻をこのままにしておくわけにはいかないだろう。

 「小さい頃のみほも、あの子に負けず劣らず可愛かったよ」

 そう言いながら、軽く彼女の頭を撫でる。サラサラとして心地よいその髪の感触を味わいながら、我ながらキザすぎるな、と呆れる。知人がいたらとてもじゃないができなかっただろう。
 もしもみほにまで同じ感想を抱かれていたら、と不安になり彼女の顔を覗き込むと、少し頬を赤らめながらも、クスクスと手で口元を隠しながら笑っている。

 「もう、格好つけすぎだよ?今恥ずかしいでしょ」

 ばっちりとこちらの予想が的中したらしい。自分の顔まで熱くなるのを感じるが、どうやらみほの機嫌が直ったらしいことに安堵する。

 「ふたりともー!イチャイチャしてないではやくー!」

 「い、イチャイチャなんてしてません!……さ、私たちも行こう?」

 そういって差し出された彼女の手を握り、娘のもとへふたりで歩き出す。もうひとりのお姫様にまでへそを曲げられたらたまらない。

 「今日は頑張ってね?あの子への家族サービスと、私へのお詫びのために♪」

 ……どうやらこちらの姫にもまだ奉仕が必要なようだ。世界で一番贅沢なため息をつきつつ、このあとのプランを脳内で練り始める。まったく、夫と父という役割は、幸せすぎて楽じゃない―――。

20名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/26(水) 22:15:12 ID:FwICPjhk
あああああああもうやだああああああ

すいませんやっぱりPCから書き込み直します

21名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/26(水) 22:30:23 ID:58n9vJW2
ヤンデレみぽりんを見ると、やっぱり(う)の可能性を秘めてるんだなって思います

22名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/26(水) 22:33:16 ID:33cNcAZo
家に帰ったら背後から襲われたみたい

23名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/26(水) 22:34:27 ID:RXvvN.UM
お前昨日ガルパン総合スレにチラチラ誤爆してただろ

24名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/26(水) 23:02:58 ID:FwICPjhk

 【沙織GOODエンド】

 なるべく音を立てないよう、ゆっくりとドアを開ける。腕時計の針はすでに10時を回っている。娘はもう夢の中だろう。

 「おかえり〜」

 玄関に入り鍵をかけたところで、リビングの方から抑え気味の足音とともに声がかかる。一日の楽しみのひとつが、この瞬間だ。

 「お疲れ様。先にお風呂にするでしょ?」

 カバンと上着を受け取りつつ問いかけてくる彼女―――妻の沙織に肯定の意を返して、浴室に向かう。いつものように、すでにタオルと下着、寝巻きにしているスェットが用意されていた。
 入浴を済ませ、少しだけ寝室の戸を開けて我が愛娘の寝顔を眺めてからリビングに向かうと、すっかり食事の支度が済んでいた。いつもながら見事な手際である。出会ってまだ間もない、友人関係だった頃にはじめて食事をごちそうになった時に言った、これならいい嫁さんになれる、という自分の言葉が間違っていなかったことを改めて感じた。―――そのときは顔を真っ赤にした彼女にポカポカ叩かれたのだが。

 「もー、あいかわらずカラスの行水なんだから。あの子にいつもしっかり体洗って湯船にもゆっくりつかって温まりなさい、って言ってる私の立場がないじゃない」

 そう言いつつもしっかり食事のできるタイミングを合わせてくれるあたり、頭が上がらない。
 彼女はそのままテーブルの向かい側、グラスがひとつ置かれた席に腰掛けると、先ほど冷蔵庫から出したばかりの冷えたビール瓶の栓を開ける。すぐにこちらも自分の手元のグラスをそちらへと向け、注がれる黄金色の液体を受け止める。そしてそのまま瓶を受け取ると、沙織のグラスに同じくらいの量を注ぐ。ふたりそろってそこまで酒に強くないので、グラスの半分ほどでちょうどいいくらいだ。

 「はい、じゃあ今日もお互いお疲れ様〜」

 カチン、とグラスを合わせ、ビールを喉に流し込む。仕事の付き合いで飲むそれとは、何から何まで別物の幸福感に包まれる。

 「あの子も頑張って起きてたんだけどねー。さすがに9時半ごろにはダウンしちゃったよ」

 苦笑しながら沙織が言う。反抗期はまだ先のようで一安心だが、なかなか家族サービスができない現状ではそれが早まりかねない。

 「そうだよー?構ってくれないと私もあの子も拗ねちゃうんだから」

 冗談めかして彼女は言うが、父であり夫である自分にとってもはや生きる理由とも言うべき彼女たちから嫌われるのはまさに死活問題である。となればまずは―――。

 「だからもっと家族サービスを―――っんむっ」

 一瞬の隙を突き、その唇を奪う。ただ触れ合わせるだけのものだが、そこから伝わってくる熱は体と心を満たすには十分だった。

 「っぷはっ。もー!急にするのやめてってば!びっくりするでしょー!」

 顔を赤くしながらまったく迫力のない怒りを表す沙織。まあ実際は怒ってないことくらいは、夫である自分にはすぐにわかる。

 「まったくもぅ……」

 口の中でまだモゴモゴと文句を言う妻に、これでしばらくは拗ねられすにすむか、と聞くと、
 
 「……効果は一日限定だから」

 と、そっぽを向きながらの返答をいただいた。ならば明日もしっかり励まねば。

 「あ、でもあのこの前ではやめてよね!この前だって―――」

 そう言ってこれまでの家族サービス―――否、嫁サービスへの文句を並べ始めた。どうやら娘はそれらを目撃したことを近所の友達に話したようで、沙織はママ友の皆様から温かいからかいの言葉をいただいたらしい。思わず吹き出すと、

 「もー!本当に恥ずかしかったんだからね!」

 うっかりその可愛らしい怒りへの燃料投下になってしまったらしい。しょうがない、この目の前の手料理とグラスに残ったビールを飲み干すまでは聞き役に徹しよう。それまでにその矛を収めてくれることを願いつつ、妻からの愛に溢れた愚痴を賜るのだった―――。

25名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/26(水) 23:11:23 ID:58n9vJW2
すばらしいGOODエンド
その分BADが怖いです…

26名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/26(水) 23:17:01 ID:J0uKkXis
おおーええやん、気に入ったわ

27名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/27(木) 00:53:47 ID:ayxgt20w

 【沙織 BADエンド】

 「―――え?」
 
 テーブルの対面に座る恋人―――武部沙織は、今まさに置こうとした紅茶のカップを落とし、笑顔のまま硬直した。幸い低い位置からの落下だったので、カップは割れずにすんだものの、中に僅かに残った紅茶がテーブルクロスに染み込んでいき―――まるで血のように広がった。

 「ごっ、ごめん。も、もう一回言って?私、なんか今、えっと」

 そのことに気付いているのかいないのか、硬直の解けた彼女は今度は震えるような声で何度も突っかえながら、必死に言葉を紡いだ。ああ、予想はしていたが、またあの言葉を彼女にぶつけなくてはならないのか―――。

 「別れてくれ、沙織」

 はっきりと、今度は聞き返されぬように告げる。沙織の顔からは今度こそ表情が消え失せ、心臓が止まった言われれば信じられるほどにどんどん血の気を失っていった。

 「―――なんで!?ねぇなんで!?」

 一転して大声を上げながらテーブルを乗り越え、こちらの両肩を掴み、激しく揺すってくる。やはり場所を彼女の自宅にしたのは正解だった。カフェなどの人前でこんなにも取り乱されたら、一歩間違えば警察を呼ばれかねない。

 「私の何がいけないの!?ねぇ!!教えてよ!!言ってくれたら全部直すから!!髪型だって、服だって!全部あなたの好みに合わせたよ!?もしも他の男の子―――ううん、他の人と話すなって言うなら、もうあなた以外とは話さない!!戦車道だって―――」

 ―――それだ。彼女にこんなにも残酷な仕打ちをするに至った理由は。

 「……え?」

 沙織との交際について改めて考えれば、そのはじまりはこちらの一目惚れにも近いものだった。誰に対しても明るく、優しく、面倒見のいい彼女。その容姿を含め、すべてが魅力的だった。なんとか少しずつ距離を縮めていき、友人たちの手助けもあって無事恋人となった。それからしばらくは間違いなく夢のような日々だった。
 そこに不安を覚えたのは、交際を始めて2ヶ月ほど経った頃だろうか。ふたりでテレビを観ていたとき、ふとそこに映ったショートヘアのアイドルに、この娘可愛いな、と呟いた。本当に何気ない言葉だったはずだが、翌日沙織のふわふわとしたロングヘアーは、首元のあたりでバッサリと切られていた。驚いてどうしたのかと聞けば、

 『だって、ショートの方が好みなんでしょ?』

 きょとんとした表情でさも当然のように答える彼女に、何か背筋に走るものを感じた。
 その後も、眼鏡が似合うといえば、それ以来眼鏡を外した姿を見なくなった。制服姿が可愛いと褒めれば、休日だろうと関係なく制服を着てくるようになった。その他の例も挙げればキリがない。そんな彼女の姿に、恐怖にも近い感情を抱くのに大した時間は必要なかった。
 彼女は、自分が言った言葉をすべて実践する。なんの躊躇いもなく、それが当然の義務のように。ならば、最後に残る武部沙織は、本当に自分が惚れた武部沙織なのか―――と。
 もしも、友人たちとの関係をすべて絶ってほしい、と言ったら?もし、戦車道を辞めてくれ、と言ったら?それ以外にも、彼女を構成する要素を変えて欲しいと言ったら―――。
 図らずとも、この不安の一端は先ほど証明されてしまった。彼女は、迷わず捨てる、変える。どれほどそれまで大切にしていたものであろうと。

 「っ、それの何が悪いの!?好きな人のために全部を捧げるなんて当たり前でしょ!?」

 その気持ちは嬉しい。これは確かだ。だがそれ以上に、そんな彼女の愛情を受け止め続ける自信がなかった。自分の言葉でひとりの人間を変えていってしまうことが怖かった。人よりなにか突出したものがあるわけでもない凡人の自分には、彼女と一緒にいることがどんどん苦痛になっていったのだ。

 「……なにそれ。意味わかんない。全然わかんない」

 顔を伏せ、つぶやくように沙織は言った。その通りだ。すべては自分の弱さと身勝手から出た結論だ。この場で何十発殴られようと、共通の友人たちから軽蔑され、絶縁されても文句など言えるはずもない。すべてを受け入れる義務が自分にはあるのだ。

28名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/27(木) 00:54:09 ID:ayxgt20w

 「……ッ!!」

 いきなり動き出した彼女は、先ほどケーキを切り分ける際に使い、置いたままになった包丁を掴んだ。
 背筋が凍った。その刃が自分の額か、あるいは心臓めがけて突き出されるのを恐れ、思わず後ろの壁に背中が付くまで後ずさってしまった。
 しかし沙織は、こちらの予想とは大きく違った行動に出た。

 「……」

 テーブルを乗り越え、こちらの目の前まで歩みを進めると、そのまま腰を下ろし、こちらに目線を合わせてくる。その手には依然として凶器が握られたままだ。

 「わかった。うん、わかったよ」

 沙織はそう言いながらにっこりと―――まさに花が咲いたような、という例えがふさわしい満面の笑みを浮かべた。

 「つまり、今の私じゃ何をしたってあなたに愛してもらえないんだよね?」

 そして、その刃が握られた右手をゆっくりと上げ、

 「だったら、いらない。あなたに愛してもらえない私なんて―――いらないよ」

 包丁の先端を自身の喉元へと向けた―――。

29名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/27(木) 01:01:09 ID:ayxgt20w
沙織ルート工事完了です…(満身創痍)

なんか相手がクズになってしまったけどそういうのが似合う武部殿が悪い(暴論)
胸糞な話で申し訳ナイス!

他のルートはぶっちゃけネタ切れなんで思いついたらまた書こうと思います

30名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/27(木) 01:03:34 ID:dNgRc5rA
悲しいなぁ

31名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/27(木) 06:17:47 ID:dufE0ZFs
しなないで

32名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/27(木) 06:19:36 ID:SLV8svRI
確かに似合う
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read_archive.cgi/internet/20196/1464536785/-100

33名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/27(木) 23:12:38 ID:ayxgt20w
 【麻子ルート GOODエンド】

 「……おはよう」

 寝室から出てキッチンへ向かいそこにあった人影に声をかけると、ただでさえ普段からハスキー気味な声をさらに二音階ほど低くしたような、ともすればうめき声のようなあいさつが返ってきた。こちらを振り返った妻―――麻子は、街の不良のごときすさまじい目つきの悪さだった。見ようによってはB級ホラーのゾンビのようなそれは、彼女をよく知らない人間が見ればまず間違いなくギョッとするだろう。しかし、家族である自分からすればそれは朝のいつも通りの光景であり、むしろ安心感すら覚えるほどだ。

 「おはよー」

 「ああ、おはよう。ふたりとも、もう少しでできるから座って待っててくれ」

 ほどなくして起きてきた娘も自分と同じくその姿に驚きもせず、さっさとテーブルの自分の定位置につく。あいかわらずの目つきの悪さで電子レンジとトースターを威嚇するかのような視線を送る妻を見守りつつ、我が子に習い椅子に腰を下ろす。
 麻子が朝に弱いということは交際が始まる前からいやというほど味わっている。当然、結婚して同棲することになった際も朝の家事は自分がやる、と言ったのだが、彼女は頑として譲らずに現在に至る。

 『仮にも専業主婦が家事をやらないのはおかしいだろう』

 というのが彼女の言い分だった。妙なところで義理堅い麻子らしい。最初のうちはその睡魔との激闘ぶりに見ていてハラハラしたものだが、慣れとは恐ろしいもので、彼女のそんな姿をある種楽しみにさえしている現在がある。

 「さあ、できたぞ」

 どうやら多少は眠気も晴れてきたようで、先程までは麻子の体感でおそらく3トンはあったであろう瞼が今では幾分か上に持ち上がっている。それでも午後以降の彼女に比べれば3分の1程度の速度でしか動けていないのは仕方ないだろう。せっせと運んでくる皿には、人数分のトーストとベーコンにスクランブルエッグ、それにサラダが盛り付けられていた。大半は昨日の夜に用意していたものだ。さすがに早朝の彼女に包丁を持たせるだけの勇気は自分にはない。ちなみに手伝わないのは亭主関白を気取っているからではもちろんなく、麻子がすべて自分でやると言って聞かなかったからだ。このあたりも彼女にとって譲れないラインらしい。

 「「「いただきます」」」

 三人で声と手をあわせる。なるべく我が家では家族揃っての食事をするよう心がけているが、これは麻子の希望も大きい。人一倍家族というものに思い入れのある彼女らしい方針である。

 「今日は遅くなるのか?」

 トーストを齧りながら麻子が聞いてきた。どこか不安そうなその表情に、間髪入れずに早く帰る、と答えた。毎朝同じやりとりをしているが、この顔に勝てた試しがない。

 「……そうか」

 幾分か柔らかくなった彼女の顔を見て、先ほどの宣言を絶対に守ることを内心誓う。これも毎朝のことだ。

 「わたしもがっこうおわったらすぐにかえるね!」

 最近になって一人称が自分の名前から「わたし」に変わったばかりの娘も力強く宣言する。こういうところは父親である自分に似たらしい、と思わず苦笑する。

 「わかった」

 言葉こそそっけないものだが、ますます頬を緩めた麻子は、満足げに残りの朝食を早々に平らげた。
 それに続いて自分と娘も食事を終えると、それぞれ出勤と登校前の支度に入る。
 スーツに着替えている最中に、娘の支度の手伝いを終えた麻子がやってきた。

 「だいぶくたびれてきたな。そろそろ新しいスーツを買ってもいいんじゃないか」

 ジャケットをこちらに手渡しながら麻子が言う。しかしそれは少々受け入れ難い提案だ。なぜならこのスーツは、現在の職場への就職が決まった際にほかならぬ麻子がプレゼントしてくれたものだからだ。高級ブランドのものではないが、自分にとっては代え難い価値のある一着なのだ。

 「……なにも捨てろとは言っていないだろう。他にも何着か持っていた方が便利だって話だ」

 わずかに頬を染めつつ彼女は言った。それはわかっているのだが、やはりこのスーツを着ないとどうにもスイッチが入らないようになってしまっている自分が居るのだからいかんともしがたい。

 「やれやれ。それならしばらくお前へのプレゼント類は全部スーツだな」

 表情を苦笑に変えた麻子の言葉にそれはいい考えだ、と返した。彼女からの贈り物は自分にとって例外なくラッキーアイテムだ。勝負服が増えるのは悪いことではあるまい。

 「皮肉で言ったんだ、馬鹿」

 呆れたようにしながらも笑顔のままの彼女にこちらも笑顔で答えつつ、その首元に光る結婚前に贈ったネックレスを、いまだに常に身につけているあたりお互い様だ、と思うのだった。

 「

34名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/27(木) 23:13:17 ID:ayxgt20w
 【麻子ルート GOODエンド】

 「……おはよう」

 寝室から出てキッチンへ向かいそこにあった人影に声をかけると、ただでさえ普段からハスキー気味な声をさらに二音階ほど低くしたような、ともすればうめき声のようなあいさつが返ってきた。こちらを振り返った妻―――麻子は、街の不良のごときすさまじい目つきの悪さだった。見ようによってはB級ホラーのゾンビのようなそれは、彼女をよく知らない人間が見ればまず間違いなくギョッとするだろう。しかし、家族である自分からすればそれは朝のいつも通りの光景であり、むしろ安心感すら覚えるほどだ。

 「おはよー」

 「ああ、おはよう。ふたりとも、もう少しでできるから座って待っててくれ」

 ほどなくして起きてきた娘も自分と同じくその姿に驚きもせず、さっさとテーブルの自分の定位置につく。あいかわらずの目つきの悪さで電子レンジとトースターを威嚇するかのような視線を送る妻を見守りつつ、我が子に習い椅子に腰を下ろす。
 麻子が朝に弱いということは交際が始まる前からいやというほど味わっている。当然、結婚して同棲することになった際も朝の家事は自分がやる、と言ったのだが、彼女は頑として譲らずに現在に至る。

 『仮にも専業主婦が家事をやらないのはおかしいだろう』

 というのが彼女の言い分だった。妙なところで義理堅い麻子らしい。最初のうちはその睡魔との激闘ぶりに見ていてハラハラしたものだが、慣れとは恐ろしいもので、彼女のそんな姿をある種楽しみにさえしている現在がある。

 「さあ、できたぞ」

 どうやら多少は眠気も晴れてきたようで、先程までは麻子の体感でおそらく3トンはあったであろう瞼が今では幾分か上に持ち上がっている。それでも午後以降の彼女に比べれば3分の1程度の速度でしか動けていないのは仕方ないだろう。せっせと運んでくる皿には、人数分のトーストとベーコンにスクランブルエッグ、それにサラダが盛り付けられていた。大半は昨日の夜に用意していたものだ。さすがに早朝の彼女に包丁を持たせるだけの勇気は自分にはない。ちなみに手伝わないのは亭主関白を気取っているからではもちろんなく、麻子がすべて自分でやると言って聞かなかったからだ。このあたりも彼女にとって譲れないラインらしい。

 「「「いただきます」」」

 三人で声と手をあわせる。なるべく我が家では家族揃っての食事をするよう心がけているが、これは麻子の希望も大きい。人一倍家族というものに思い入れのある彼女らしい方針である。

 「今日は遅くなるのか?」

 トーストを齧りながら麻子が聞いてきた。どこか不安そうなその表情に、間髪入れずに早く帰る、と答えた。毎朝同じやりとりをしているが、この顔に勝てた試しがない。

 「……そうか」

 幾分か柔らかくなった彼女の顔を見て、先ほどの宣言を絶対に守ることを内心誓う。これも毎朝のことだ。

 「わたしもがっこうおわったらすぐにかえるね!」

 最近になって一人称が自分の名前から「わたし」に変わったばかりの娘も力強く宣言する。こういうところは父親である自分に似たらしい、と思わず苦笑する。

 「わかった」

 言葉こそそっけないものだが、ますます頬を緩めた麻子は、満足げに残りの朝食を早々に平らげた。
 それに続いて自分と娘も食事を終えると、それぞれ出勤と登校前の支度に入る。
 スーツに着替えている最中に、娘の支度の手伝いを終えた麻子がやってきた。

 「だいぶくたびれてきたな。そろそろ新しいスーツを買ってもいいんじゃないか」

 ジャケットをこちらに手渡しながら麻子が言う。しかしそれは少々受け入れ難い提案だ。なぜならこのスーツは、現在の職場への就職が決まった際にほかならぬ麻子がプレゼントしてくれたものだからだ。高級ブランドのものではないが、自分にとっては代え難い価値のある一着なのだ。

 「……なにも捨てろとは言っていないだろう。他にも何着か持っていた方が便利だって話だ」

 わずかに頬を染めつつ彼女は言った。それはわかっているのだが、やはりこのスーツを着ないとどうにもスイッチが入らないようになってしまっている自分が居るのだからいかんともしがたい。

 「やれやれ。それならしばらくお前へのプレゼント類は全部スーツだな」

 表情を苦笑に変えた麻子の言葉にそれはいい考えだ、と返した。彼女からの贈り物は自分にとって例外なくラッキーアイテムだ。勝負服が増えるのは悪いことではあるまい。

 「皮肉で言ったんだ、馬鹿」

 呆れたようにしながらも笑顔のままの彼女にこちらも笑顔で答えつつ、その首元に光る結婚前に贈ったネックレスを、いまだに常に身につけているあたりお互い様だ、と思うのだった。

 「

35名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/27(木) 23:14:32 ID:ayxgt20w
 「ふたりとも、忘れ物はないな?」

 そうこうしているうちに家を出なければいけな時刻となってしまった。玄関で娘と一緒に靴を履いているところに麻子から声がかかる。それに揃って大丈夫、と答えるのも毎朝のお約束だ。

 「事故には気を付けるんだぞ。なにかあったらすぐに連絡しろ」

 ―――気付いたのは一緒に暮らしはじめ、こうして朝の見送りをしてもらうようになってひと月ほど経った頃だった。どうして朝に弱い彼女がこうまでその生来の体質に抗い、早起きをして家事をするのか。もちろん、先の通りに専業主婦としての意地や義理もあるのだろう。だが、一番の理由は麻子の過去にある。幼少期に両親を事故で失ったこと。その日偶然にも母親と喧嘩をしてしまったこと。それらは彼女の心にいまだに―――そしてこれからも消えることのないであろう傷を残した。ゆえに、毎朝彼女は奮闘するのだ。二度と同じ後悔をしないように。
 
 「よし。じゃあ―――いってらっしゃい」

 その言葉に、我が子と揃ってしっかりと返事をする。

 「「いってきます!」」

 麻子の両親は帰ってこない。それは当然だ。だが、現在の彼女にとって、自分と娘がもっとも大切な存在であるという確信がある。ならば、これもやはり当然、彼女の想いと願いに答える義務があるだろう。
 ドアを出て、こちらの姿が見えなくなるまで見守ってくれている妻を見て、今日も無事に一日を過ごし、彼女のもとに少しでも早く帰るという決意を新たにして職場(せんじょう)へと歩みを進めた。

36名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/27(木) 23:18:31 ID:vndkm5MU
やっぱり麻子のGOODエンドを…最高やな!

37名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/27(木) 23:52:32 ID:03hIsPBg
乙ゥ〜! 麻子いいゾーこれ
BADエンドやだ怖い…(ふとまら君)

38名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/27(木) 23:53:52 ID:dufE0ZFs
やりますねぇ!

39名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/28(金) 00:01:42 ID:2Orb81bY
いいゾ〜これ

40名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/28(金) 00:48:38 ID:ucU4a1SU
麻子BADはすげえ怖そう

41名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/28(金) 01:00:10 ID:G/4hQAcY
 【麻子ルート BADエンド】

 ―――話し声が聞こえる。

 「でも麻子さん、本当に大丈夫?」

 「ああ、ありがとう西住さん。でも本当に大丈夫だ」

 「ホントひどいよね!急にいなくなるなんて!麻子はもちろんだけど私たちだって友達として仲良くしてたのに!」

 「落ち着いてください沙織さん。あの人のことですから、私たちに何も言わなかったのにもきっとなにか理由があったんですよ」

 「そうですよ武部殿!おそらくはご家庭の事情とか、そういった止むにやまれぬ事情があったのかと」

 「……私も秋山さんと同じ意見だ。自分ではどうにもできない事態だったんだと思う。それを責めるつもりはない」

 「麻子……。こうなったらさ、早く新しい彼氏見つけようよ!そうすれば―――「沙織」」

 「気持ちはありがたいが、私はあいつ以外を好きになることはない。どんなことがあっても」

 「―――ッ。ご、ごめん……」

 ―――そんなやり取りの後、少ししたら彼女たちは帰っていったようだ。遠ざかっていく足音と声に追いすがりたい、という気持ちを必死で押さえつける。隙を突く、なんて芸当が不可能であることはこの状況に陥ってからすぐに思い知らされたからだ。

 「すまない。待たせたな」

 謝るくらいだったら、さっさと解放してくれ。そんな言葉をなんとか飲み込みつつ、唯一の出入り口から入ってくる小柄な少女を見据える。彼女―――麻子の手には、コンビニの袋が握られていた。おそらく中身は弁当とペットボトルの水、それにお菓子類だろう。

 「なかなかみんな帰らなくてな。よほどお前と私が心配らしい」

 そう言いながら彼女は部屋の中心に置かれたちゃぶ台に袋の中身を並べていく。こちらの予想通りのラインナップだ。

 「ほら、食べさせてやるからこっちに来い」

 素直にその言葉に従い、体を動かす。自分で食える、と言ったところで受け入れられないことはとっくに証明されている。


 「美味いだろう?お前の好物の焼肉弁当だからな」

 満足そうに微笑む彼女の笑顔を見ても、以前のように心が安らぐことはない。むしろその裏側に潜む狂気を感じるばかりだ。

 「お前はずっとここにいればいいんだ。私がお前をこの世のすべてから守る」

42名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/28(金) 01:00:28 ID:G/4hQAcY
―――すべてのきっかけとなったのは、一週間ほど前の事故だ。信号無視の車にはねられる姿を麻子に見られたことからはじまった。
 事故自体は大したものではない。相手は軽自動車だったし、比較的細い道だったこともあってスピードもそれほど出ていなかった。こちらの怪我は捻挫と打撲くらいで済んだのがその証拠だ。保険などのことは親に任せてしまったし、一日だけの検査入院が終わればまた恋人である麻子、それに他の友人たちと過ごす日常に戻れる―――はずだった。
 退院の日、学校をわざわざ休んで迎えに来た麻子に、彼女の家に寄るよう言われた。恋人からの誘いを断る理由はなく、言われるがままにすでに何度も訪れた彼女の家に入り、出されたお茶を飲み―――気づけばこの状況だった。
 ここまでの経緯からして、ここはまず間違いなく麻子の家の中のどこかではあるはずだ。一軒家であるこの家屋の中に、こちらが知らない部屋があり、そこに閉じ込められている……と考えるのが妥当だろう。決して大きい家ではないが、その構造すべてを把握していたわけではない。

 『お前は今日からここで暮らすんだ。一生、私といっしょに』
 目覚めた直後にそう告げた麻子の顔に、冗談や嘘の類はひとかけらも感じられなかった。こちらの意思の介在を許さない、一方的な宣言。当然納得などいかずに最初は説得を試み、それが無理だとわかれば力尽くで脱出しようとした。同年代の少女に比べても小柄な彼女に腕力で負ける道理はない。しかし、その手段も麻子の小さな手に握られたひとつの携帯電話によって潰されることとなった。

 「よく撮れてるだろう?」

 そこに映し出されたのは、紛れもなく自分と彼女―――それも、行為の真っ最中の動画だった。

 『押入れの中に仕掛けておいた。せかくだから記念に、程度に思っていたが、まかさこんな風に役立つとは』

 あっさりと言い放つ麻子。しかし間違いなく、それはこちらの抵抗をすべて封じるには十分すぎるほどのジョーカーだった。

 『これが”うっかり”流出でもしたら大変だな。顔もしっかり映ってるからすぐに特定されるだろう。そうなればふたりとも破滅、だな?』

 彼女は人質を取った。他ならぬ冷泉麻子を。こちらが絶対的に犠牲にすることができない存在を―――。


 『わかったか?わかったな?お前はなにも心配しなくていい。お前が私を見捨てなければすべてうまくいく』
 ―――そして現在。あれから三日経った。麻子は先ほどのように時折現れる訪問者の対応と買い物、そしてどこかへの連絡以外はずっとこの部屋にいる。どのみち、あの動画の存在を知ってしまった以上、こちらはどうすることもできない。たとえあの携帯を壊してもおそらくデータはとっくにコピー済みだろうからだ。
 考えてみれば、この異常な状態が維持できているのはおかしい。いくら彼女が天才的な頭脳を持つとは言え、人ひとりを世間から隠して監禁するなど、単独でできるものだろうか。もしかしたら協力者がいるのかもしれない。麻子の周囲には財力や社会的影響力を持つ家柄の人間が何人かいることを考慮に入れればありえない話ではない。

 「さあ、これで最後だ」

 気づけば、すでに弁当をあと一口というところまで食べきっていた。考え事をしていたとはいえ、もはや彼女に食事を食べさせてもらうことを自然に受け入れてしまっていた。いや、食事だけでなく―――。

 「さて、食事も終わったことだし、食後の運動といくぞ」

 そう言いながら麻子はその衣服を脱ぎ始める。それを止めない。

 「さあ、お前も」
 そう言いながら麻子はこちらの衣服を脱がせ始める。それを止められない。

 「ふふ……」
 微笑みながら抱きついてくる彼女のぬくもりを感じながら、すでに自分も彼女と同じくらいに堕ちていることを自覚する。ああ、でも、もうどうでもいい。麻子さえいるならもう、それで―――。

43名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/28(金) 01:02:34 ID:4L4PV3T6
麻子(う)かな?

44名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/28(金) 01:02:35 ID:G/4hQAcY
BADエンドのネタが尽きてきたんだよなぁボキャ貧のせいでよぉ
もう途中から自分がなに書いてるのかわかんなくなったゾ…(池沼)

45名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/28(金) 01:03:41 ID:KEFJ1NUk
えへへ、みんなハッピー

46名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/28(金) 01:07:11 ID:G/4hQAcY
れまこ好きな方はセンセンシャル!
半端かつ安易なエロ要素はよくないってはっきりわかんだね

とりあえずここまできたらあんこうはコンプしたいけどな〜俺もな〜

47名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/28(金) 01:10:35 ID:KEFJ1NUk
大洗コンプして欲しいけどなー俺もなー

48名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/28(金) 01:34:34 ID:rtBvgg1I
「おーい!彼氏さんこっちこっち!」
「沙織、大声を出すな」
信号の向こうには友達の沙織さんと麻子がいた

沙織さんに事前に聞いていた。麻子は甘いものに目がないってな
これは普段のそっけないけど俺を大好きでいてくれている麻子へのとびきりのサプライズだ。きっと喜んでくれる
さて、信号も青になったから早速麻子たちのいる方に行かなきゃ

キキーッ! ドンッ! グシャッ!

あれ
体が動かない
人が集まってきた
なんで泣いてるんだ麻子
沙織さんが倒れた
辺りが騒然としている
そんな顔しないでくれよ俺の彼女だろ?
ほら、お前の大好きなけー…………

そうして俺の目の前が真っ暗になった



みたいなオチかと思ったゾれまこBAD

49名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/28(金) 01:39:56 ID:LZ9PoFY2
>>48
DB「やべぇよやべぇよ…」

TDN「おい、逃げるぞ…」

50名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/28(金) 01:54:05 ID:2Orb81bY
れまこいいゾ〜これ

51名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/28(金) 02:06:22 ID:xvFfsp/k
>>48
犯人の方がひどいバッドエンドを迎えそう

52名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/28(金) 02:25:39 ID:XuyRMOcc
>>48
これかと

53名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/29(土) 01:12:04 ID:q7Vj.Cqo
 【華ルート GOODエンド】

 「―――」

 部屋の中には張り詰めた、しかしそれでいて不快ではない空気に満ちていた。目の前では自分が世界でもっとも愛するふたりの女性が、その間に置かれた花器に生けられた花を見つめている。いや、正確にはそのうちのひとりである我が愛娘が生けたその花を、妻である華が見定めている、というのが正しい。娘のほうは緊張した面持ちで、母の次の言葉を待っている。

 「―――はい。では、今日はここまでにしておきましょうか」

 しかし、華が告げた言葉はその作品自体の評価ではなく、今日の稽古の終了の宣言であった。
 
 「……はい。ほんじつもありがとうございました」

 「はい、こちらこそありがとうございました。それじゃあ、お洋服に着替えましょうか」

 「……はい」

 一気に表情の暗くなった娘とは逆に、華はその凛とした表情を崩し柔らかな笑顔になると、娘の手をとり彼女の部屋へと歩いていった。
 部屋に残された生け花を見てみる。まだ小学校に上がって間もない年齢だと考えれば、それは十分すぎるものだったが、ほぼ毎日この稽古を見ている自分には、そこにあるほんのわずかなバランスの崩れを感じ取ることができた。なるほど、これが先ほどの評価の原因らしい。

54名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/29(土) 01:12:25 ID:q7Vj.Cqo
 「お気づきになりましたか」

 と、後ろから声がかかった。振り返ると華がひとりで戻ってきていた。

 「あの子は部屋でそのまま休んでいますよ。本当ならいつもどおりお片づけまでやれせないといけないのですけど……今日は特別に」

 そう言いながら彼女はテキパキと稽古の片付けを進める。こと花道の稽古に関しては厳しい彼女らしからぬ行動だ。裏を返せば、今の娘はそれだけ平時と異なる状態だということになる。

 「心の乱れは花道において隠せるものではありませんから。あの子くらい幼ければなおさら」

 すっかり片付けを終えた華は、そのまま流れるような動きでふたり分のお茶を淹れると、それを運びながらこちらの横に座って話を続ける。緑茶の香りと、様々な花の香りが混ざりあった華の香りが漂った。

 「どうやらあの子、学校で好きな相手ができたみたいなんです」

 思わずお茶を吹き出しそうになるのをなんとかこらえるが、動揺はとても収まらない。まだあんなに小さい娘に好きな相手?いつもおとうさんだいすき、と言ってくれるあの子に?いやまさかそんな―――。

 「もう、あなたがそんなに心を乱してどうするんですか」

 クスリと微笑みながら、彼女が背中を優しくさすってくれたおかげでだいぶ平静を取り戻せた。

 「もちろん子供の言うことですから、恋人とかそんな話とは程遠いものですよ。だからそんなに心配することはありません」

 華は自身の湯呑のお茶で喉を潤しながらなんでもないことのように言う。確かに考えてみればその通りだ。まだラブとライクの区別がつくような年齢ではない。

 「とりあえずあの子には、しっかりと考えなさい、それまで稽古は禁止します、と伝えておきました。今のままでは良い花を生けることなんて出来ませんから」

 こういう時、彼女は柔軟だ。ただ厳しく稽古をつけるだけではない。それは、伝統を軽んじることなく、それでいてその伝統にとらわれないとい気質からきているのだろう。かつて戦車道の中で自身の花道に対するひとつの答えを見つけ、新たな境地に至ったというのと同じように。

 「ふふ、大げさですよ。でも、そうですね。確かに私はそういう部分があるのかもしれません」

 そういうと、彼女はこちらの手を取りながらその身を寄せ、体重を預けてきた。心地よいぬくもりと香りを感じる。

 「もし、ただただ伝統を、五十鈴流を守ることしか考えていなかったら、あなたと結ばれることはなかったでしょうから」

 痛いところを突いてくる。確かにおよそ花道に関して門外漢であり、家柄もごくごく一般的な自分が、歴史ある花道の名家である五十鈴流の後継者と婚姻にまで至るなんてことは、普通ならありえないことだ。このあたりは、婿入りの際にも揉めに揉めたところだ。その時も、そして現在も華の助けがなかったらとっくに追い出されているだろう。

 「私はただ、あなたのことを経歴だけで判断しようとする人たちに教えて差し上げているだけですよ。私の愛する人が、いかに素晴らしい人か、どれだけ五十鈴流の一員になるのにふさわしいか」

 どこか誇らしげでさえあるその言葉に顔が熱くなるのを感じた。時折、我が妻はこんな風にかなり直球な愛情表現をしてくるのだからとても敵わない。

 「……さて、と。そろそろあの子の様子を少し見てきますね」

 そう言いながら美しい所作で立ち上がる華。そこに自分のような動揺は全くと言っていいほどになかった。

 「今のうちからしっかりと考えさせないと。将来世界で二番目に素敵なひとを見つけられなくなってはかわいそうですから」

 二番目?と思わず聞くと、先ほど以上に自信満々な―――世間一般でいうドヤ顔にも近い表情で堂々と宣言した。

 「だって、世界で一番素敵な人は、私の―――私だけの旦那様ですから」

55名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/29(土) 01:17:59 ID:8JDt6BLo
やっぱり華道の家元を継ぐんですねぇ〜

56名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/29(土) 01:20:35 ID:q7Vj.Cqo
とりあえずなんとかひねり出した華さんGOODエンドだけ置いておきます
チクショウ花道のことがさっぱりわからねェ

明日書ければ華さんBADと秋山殿を

麻子BADは悩んだんですが、ヤンデレの魅力でもある「傍から見たらささいなことで愛情が暴走する」って面を押し出したくてああなりました
でも>>48みたいなかんじでもよかったかもしれない(優柔不断)

57名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/29(土) 07:07:25 ID:BrAQXU3I
お〜ええやん

58名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/29(土) 11:34:00 ID:hicbVBoU
いいゾ〜これ(≧∇≦)b

59名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/29(土) 23:19:07 ID:q7Vj.Cqo
【華ルート BADエンド】

 「ダメです」

 ―――やっぱりか、と、想定通りの反応に嘆息する。最初は大学に入ってすぐのことだ。サークルの新人歓迎会に試しに行ってみようかな、と何気なく口にしたとき、彼女―――華は、いつもの柔らかい表情を一瞬で消しさると、能面のごとき無表情でキッパリと
 『ダメです。許しません』
 
 と、告げた。常に物腰柔らかな彼女らしからぬ反応に戸惑っているとこちらをよそに、華は言葉を続ける。

 『お酒、タバコ、それに―――他の女の匂い。そんなものであなたの体を穢すような行為は絶対に許しません』

 確かに自分の通う大学は共学なので、サークル内には女性もいるだろうし、喫煙者もいておかしくはない。酒はいわずもがなだ。嗅覚が人より優れている彼女がそういったものに敏感なのはわからなくはないが、ここまでの反応をするとは思わなかった。
 ちなみに、華やその友人たちと自分は別の大学―――女子大に通っている。本格的な戦車道の授業を行っている大学がそこしかなかったからだ。華は相当に悩んでいたが、自分としても彼女が仲間たちと戦車道にいかに真剣に打ち込んでいるかを知っていたので、こちらを気にせずそちらに行くよう薦めた。幸い大学同士の距離はさほど離れていなかったので、会う分には特に苦労はかった。しかし考えてみれば、彼女からすれば恋人が異性と触れ合う機会があることを快く思わないのは当然のことなのかもしれない。そう考え、この時は華の言葉に従ったのだが……。
 
 『同窓会?ダメです』

 『ゼミの飲み会?ダメです』

 『私がいないところで、私の知らない匂いを付けることは許しません』

 それ以降もこの調子だった。実質的に自分のプライベートはほぼすべて彼女と一緒にいることとなった。華以外の異性とはせいぜい共通の友人である西住みほや武部沙織らくらいとしか関われない状態となった。そしてそのうち、大学にいる間も、付き合いの悪い自分の周りからはどんどん人がいなくなっていった。
 だが、今回ばかりは彼女の言葉をあっさりと受け入れる訳にはいかない。なぜなら、自分が行こうとしているのは中学時代からの親友の結婚式だからだ。これまでの飲み会とは重要さが違うのだ。

 「そのご友人は、私より―――恋人より大切なものなのですか

 相変わらずの無表情で華が言う。どちらが、という話ではない。そもそもこれまでがおかしかったのだ。いくらなんでも束縛が過ぎる。いい加減にしてほしい。
 反論は思わず現在に至るまでの不満が口をついて出てしまう。

 「……。わかりました」

 しかし彼女からは予想外の反応が返ってきた。

 「その式に行っても構いません。それ以外の交流についてももう禁止するのはやめましょう」

 なんだ、言えばわかってくれるのか。そんな風に安堵したが、その言葉にはさらに続きがあった。

 「ただし、今度の日曜日に私の実家に一緒にいらしてください。それだけが条件です」

 果たしてそれはどういう意味か。しかし、下手な事を言ってまた許可を取り消されてはたまらないので、そのまま彼女の提案を受け入れた。

60名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/29(土) 23:22:34 ID:8JDt6BLo
>華以外の異性とはせいぜい共通の友人である西住みほや武部沙織らくらいとしか関われない状態となった。

十分じゃないですか

61名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/29(土) 23:33:17 ID:BrAQXU3I
嗅いでバレるのはキツいっすね...

62名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/30(日) 00:09:51 ID:fBawBZKY
続きあくしろよ

63名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/30(日) 00:16:50 ID:XMKoee0Q
ゆっくりでいいのて続き楽しみにしてるゾ

64名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/30(日) 00:47:52 ID:OsjqZxVQ
 そしてほどなくして華の指定した日がやってきた。ふたりで彼女の実家である五十鈴家の本家邸宅を訪れると、母である百合さんと、奉公人の新三郎さんが迎えてくれた。

 「華さん、お帰りなさい。それにあなたも、お久しぶりね。遠いところをご苦労様」

 そう言いながら百合さんは笑顔で歓迎してくれる。この家を訪れるのは交際を始めた直後にあいさつに来て以来だった。

 「さあ、早く奥にお入りなさい。新三郎、ふたりの荷物を」

 「はい、お任せください」

 百合さんの言葉にすばやく動く新三郎さん。自分より年上の彼に荷物を運んでもらうのには多少抵抗があったが、ここで断るのもかえって悪いだろうと恐縮しつつバッグを手渡した。
 その時、一瞬目がった彼の視線に、何かを訴えかけるようなものを感じたが―――。

 「ほら、早く行きましょう」

 華からかかった声にそれは遮られた。何事もなかったように新三郎さんがふたり分の荷物を運んでいくのに慌ててついていった。

 「ごめんなさいね。今夜はどうしても外せない用事があるの。あなたたちは気にせずくつろいでいってね」

 夜になり、料亭のような豪勢な料理を振舞われたあとに、百合さんが言ったその用事はここから少し離れたところに行かなければならないらしく、新三郎さんもそれに同行するそうだ。……正直に言えば、何かと住む世界の違いを娘以上に感じさせるその立ち居振る舞いには常に緊張させられるので、若干の安心を感じてしまった。

 「では、私は外出の支度をします。華さん、少し手伝ってくれるかしら。新三郎は車の用意を」

 「はい、お母様」
 
 「はい、奥様」

 そんなやりとりの後、百合さんは華を伴い自室へと向かい、新三郎さんは玄関へと歩いて行った。なんだがひとりで何もしないのが申し訳ないような気がして、だからといって女性の支度を手伝うわけにはいかず、自然と新三郎さんのあとに付いていくことになった。

 彼のあとを追い屋敷の外に出ると、すでにある程度用意してあったのか、車―――正確には人力車―――が玄関のすぐ横に置かれ、その隣で新三郎さんが待機していた。

 「あぁ、もしかしてお手伝いに?申し訳ありません、お客人に気を遣わせてしまって」

 そういって深々と頭を下げる彼に慌てて勝手についてきただけですから、と答える。むしろ悪いのは客の身でありながら動き回った自分だ。

 「……ひとつ、お伝えしたいことが」

 不意に表情を険しいものに変えた新三郎さんが、こちらをまっすぐ見ながら言った。まるでなにか葛藤に葛藤を重ねたかのような顔と声だった。

 「―――どうか、心を強く持ってください。あなたには選べるはずの未来がある。だから」

 「新三郎」

 まだ言葉を続けようとしていた新三郎さんだったが、いつのまにか玄関までやってきていた百合さん―――後ろには華の姿もある―――の声がそれを遮った。

 「何を話しているのかしら?」

 咎めるような視線を彼に向けながら問いかける百合さんに、新三郎さんは表情を普段通りのものに戻すと、

 「……いえ、ちょっとした世間話です。奥様が気にされるようなものではありません」

 「そう。ならいいわ」
 
 その答えに納得したのか、視線の鋭さを消して微笑んだ百合さんは、そのまま人力車の座席へと優雅な所作で腰掛けた。新三郎さんもすぐに全部の取手をもち、出発の準備が万端に整った。

 「では。―――華さん、しっかりとね」

 「はい、お任せ下さいお母様」

 百合さんがこちらに軽く挨拶をしたあと、華に言葉をかけた。それを合図としたのか、直後に人力車は夜道へと走り去っていった。

 「さて、中に戻りましょうか。お風呂の準備も出来ていますよ」

 華に促され、屋敷の中に入る。頭の中では、新三郎さんの言葉がぐるぐると回っていた。
 華道の名門だからなのか、屋敷の中は何かの花の香りが常に漂っており、それは風呂場でも同じだった。ある種のアロマテラピーを受けているかのような気分で入浴を終えると、すでに先ほど頭を支配していた不安のようなものはすっかり取り払われていた。

 「今日はこちらでお休みになってください」

65名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/30(日) 00:47:55 ID:OsjqZxVQ
 そしてほどなくして華の指定した日がやってきた。ふたりで彼女の実家である五十鈴家の本家邸宅を訪れると、母である百合さんと、奉公人の新三郎さんが迎えてくれた。

 「華さん、お帰りなさい。それにあなたも、お久しぶりね。遠いところをご苦労様」

 そう言いながら百合さんは笑顔で歓迎してくれる。この家を訪れるのは交際を始めた直後にあいさつに来て以来だった。

 「さあ、早く奥にお入りなさい。新三郎、ふたりの荷物を」

 「はい、お任せください」

 百合さんの言葉にすばやく動く新三郎さん。自分より年上の彼に荷物を運んでもらうのには多少抵抗があったが、ここで断るのもかえって悪いだろうと恐縮しつつバッグを手渡した。
 その時、一瞬目がった彼の視線に、何かを訴えかけるようなものを感じたが―――。

 「ほら、早く行きましょう」

 華からかかった声にそれは遮られた。何事もなかったように新三郎さんがふたり分の荷物を運んでいくのに慌ててついていった。

 「ごめんなさいね。今夜はどうしても外せない用事があるの。あなたたちは気にせずくつろいでいってね」

 夜になり、料亭のような豪勢な料理を振舞われたあとに、百合さんが言ったその用事はここから少し離れたところに行かなければならないらしく、新三郎さんもそれに同行するそうだ。……正直に言えば、何かと住む世界の違いを娘以上に感じさせるその立ち居振る舞いには常に緊張させられるので、若干の安心を感じてしまった。

 「では、私は外出の支度をします。華さん、少し手伝ってくれるかしら。新三郎は車の用意を」

 「はい、お母様」
 
 「はい、奥様」

 そんなやりとりの後、百合さんは華を伴い自室へと向かい、新三郎さんは玄関へと歩いて行った。なんだがひとりで何もしないのが申し訳ないような気がして、だからといって女性の支度を手伝うわけにはいかず、自然と新三郎さんのあとに付いていくことになった。

 彼のあとを追い屋敷の外に出ると、すでにある程度用意してあったのか、車―――正確には人力車―――が玄関のすぐ横に置かれ、その隣で新三郎さんが待機していた。

 「あぁ、もしかしてお手伝いに?申し訳ありません、お客人に気を遣わせてしまって」

 そういって深々と頭を下げる彼に慌てて勝手についてきただけですから、と答える。むしろ悪いのは客の身でありながら動き回った自分だ。

 「……ひとつ、お伝えしたいことが」

 不意に表情を険しいものに変えた新三郎さんが、こちらをまっすぐ見ながら言った。まるでなにか葛藤に葛藤を重ねたかのような顔と声だった。

 「―――どうか、心を強く持ってください。あなたには選べるはずの未来がある。だから」

 「新三郎」

 まだ言葉を続けようとしていた新三郎さんだったが、いつのまにか玄関までやってきていた百合さん―――後ろには華の姿もある―――の声がそれを遮った。

 「何を話しているのかしら?」

 咎めるような視線を彼に向けながら問いかける百合さんに、新三郎さんは表情を普段通りのものに戻すと、

 「……いえ、ちょっとした世間話です。奥様が気にされるようなものではありません」

 「そう。ならいいわ」
 
 その答えに納得したのか、視線の鋭さを消して微笑んだ百合さんは、そのまま人力車の座席へと優雅な所作で腰掛けた。新三郎さんもすぐに全部の取手をもち、出発の準備が万端に整った。

 「では。―――華さん、しっかりとね」

 「はい、お任せ下さいお母様」

 百合さんがこちらに軽く挨拶をしたあと、華に言葉をかけた。それを合図としたのか、直後に人力車は夜道へと走り去っていった。

 「さて、中に戻りましょうか。お風呂の準備も出来ていますよ」

 華に促され、屋敷の中に入る。頭の中では、新三郎さんの言葉がぐるぐると回っていた。
 華道の名門だからなのか、屋敷の中は何かの花の香りが常に漂っており、それは風呂場でも同じだった。ある種のアロマテラピーを受けているかのような気分で入浴を終えると、すでに先ほど頭を支配していた不安のようなものはすっかり取り払われていた。

 「今日はこちらでお休みになってください」

66名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/30(日) 00:48:24 ID:OsjqZxVQ
 風呂から出ると、華が寝室へと案内してくれた。来客用の部屋らしきそこにはすでに布団が一組敷いてあった。食事の豪華さといい風呂といい、まるで旅館かのようないたれりつくせりっぷりだ。……正直布団が一人分だけなのには安堵と落胆を感じたのは内緒だ。華と交際して数年になるが、いまだに清い関係を保っている身なのだから仕方ない―――はずだ。
 華は案内を終えると「少し用があるので」と言ってどこかへ行ってしまった。その言い回しから考えるにまたこの部屋に戻ってくるつもりのようだが、逆に言えばそれまでは寝るわけにもいかない。手持ち無沙汰になり、とりあえず携帯電話を手に取ると、

 「……圏外?」

 おかしい。屋敷に入る前にはアンテナはすべて立っていたはずだ。珍しく実家の母から来ていたメールに返信をしたからよく覚えている。いくら屋内だからといって完全な木造建築であろうこの建物が電波を完全に遮断するとは考えにくい。とりあえず確認を―――あれ、どうすればいいんだったか―――。

 「どうかされましたか」

 かけられた声の方向に振り向くと、寝巻きなのか白い薄手の着物を身にまとった華の姿があった。背後からは月の光が強く差し込んでおり、その下の彼女の肢体のシルエットをくっきりと映し出していた。美しい。純粋にそう感じた。

 「こんな無粋なもの、今夜は必要ありませんよ」

 足音も立てずにこちらに近づくと、彼女は自然な動作で携帯を取り上げ、遠くへ放り投げた。しかし、その突然の行為や携帯の無事に意識は向かなかった。鼻腔をくすぐるのは入浴の、いや屋敷にやってきた直後から感じていた何かの花の香り。これは一体何の花なのあろうか。頭が回らない。一体今自分はなにをやって―――。

 「いいんですよ、何も考えなくて」

 こちらの両頬に優しく手を添えて、その美しい顔を近づけながら、華が言う。香りがより強くなるのを感じた。

 「あなたはただ、私のことだけを考えて、私に身を委ねているだけでいいんです。そうすれば―――」

 視界に映るのはもはや、今まで見たことのない妖艶な笑みを浮かべる華だけだった。

 「私たちは素晴らしい夫婦になれますよ。お母様とお父様のように」

 「はぁ!?来られないってどういうことだよ!?お前ついこの前絶対に行くって言って」

 ああ、うるさい。まだ何かを言いたいようだったが、耐えかねて早々に電話を切ってやった。行くわけがないだろう、結婚式なんて。なぜなら―――。

 「あら、断ってしまうんですね。あんなに行きたがっていたのに」

 美しい微笑みを浮かべながら声をかけてくる恋人にこちらも笑顔で返す。

 「まあ、私はその方が嬉しいのでいいんですが。……さ、今日はどこでデートをしましょうか」
 
 ―――なぜなら、自分には華がいるからだ。華だけがいればいいからだ―――。

67名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/30(日) 00:51:29 ID:OsjqZxVQ
ひいいいいいまた二重投稿しちまったあああああ

遅くなってすみません。華さんBADはこれで終わりです。

今日秋山殿エンドを書くといったな、あれは嘘だ。

……いやマジですみません。明日はちゃんと書くので許してください!エリカあたりがなんでもしますから!

68転生MUGEN者ロア:2016/10/30(日) 01:02:44 ID:???
エリカが責任とってgoodとbadやるってマジ?

69名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/30(日) 01:06:46 ID:nhQq.W0k
ある意味goodエンドかもしれない

70名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/30(日) 04:07:03 ID:K0j59ru.
いいゾ〜これ(≧∇≦)b

71名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/30(日) 07:22:12 ID:ZmD8VBMk
これが五十鈴流……

72名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/30(日) 08:33:35 ID:mAQpvGQE
家柄とかでずっと納得してもらえなくて
ついに華さんの精神が折れて自殺エンドとかじゃなくてよかったゾ

73磯辺事典子:2016/10/30(日) 13:03:00 ID:???
キャプテン来るまで首長くして待ちますよ〜待つ待つ

74名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/30(日) 20:40:20 ID:qYGIabMQ
もうそろそろ書いてくれないかなぁ〜

75名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/30(日) 22:30:29 ID:OsjqZxVQ
 【優花里ルート GOODエンド】

 「おかあさん、あのせんしゃはなんていうの?」

 「あれは九五式。日本の古い戦車ね」

 「じゃあ、あっちは?」

 「あっちはパーシング。アメリカのだよ」

 「じゃあじゃあ、あれは―――」

 店の定休日を利用して訪れた戦車博物館は、平日にも関わらず結構な人で賑わっていた。少し前までは歴史はあれどマイナーな文化として扱われていた戦車道の再興。ここ―――西住家と島田家の共同出資という形で数年前にオープンした大洗戦車博物館の存在とこの賑わいこそが、その証明となっている。そして、そんな戦車道復活、とりわけ、ここ大洗での人気の立役者である大洗女子学園の戦車道における黄金世代と呼ばれたメンバーのひとりにして我が妻である彼女―――秋山優花里は、物珍しそうに戦車を見て回る娘の質問に、ニコニコしながら答えている。かつての戦車が関わるとテンションが急上昇する癖―――彼女の友人たちの言うところのパンツァー・ハイ―――は最近ではすっかり鳴りを潜めているが、やはり自分のもっとも愛好するジャンルについての質問、まして愛娘からのそれには、いつもより高揚せずにはいられないのだろう。声も心なしか弾んでおり、見ているこちらも微笑ましい気持ちになってくる。

 「あっ!あっちにおっきいのがあるよ!あれはあれは!?」

 「あれはT28重戦車だね。あれもアメリカの戦車で―――」

 さらにテンションが上がった娘に引っ張られつつも、自身も目を輝かせながら歩いていく優花里のあとに続きながら、今日はいい日になりそうだ、なんてことを思った。

 「ふぅ……」

 一通り館内の展示物を見終わると、中庭にあるカフェ兼子供向けの遊具スペースへとたどり着いた。娘は早速その中心にあった大きな戦車型の滑り台―――確かⅢ号突撃砲、だったか―――へと駆けていった。優花里はそれを見送ると、先に席を取っておいたこちらへと歩いてきた。さすがに少し疲れたように息をつく彼女に、やはり先に買っておいたアイスコーヒーを差し出す。

 「あ、ありがとうございます。やっぱり血は争えませんね。あの子、小さい頃の私にそっくりです」

 喉を潤しながら、苦笑交じりに言う優花里。確かにあの活き活きとした表情は、以前見せてもらったアルバムにあった、幼少期の戦車とともに写った写真の中の彼女そっくりだった。

 「でも―――だからこそ少し不安になってしまいます。友達がなかなかできなかったところまで私に似てしまうじゃないかって」

 優花里はその戦車マニアっぷりで、同年代の友達が高校で戦車道を始めるまでできなかった。もっとも、その原因は幼少期の髪型にあるのでは、というのが自分及び優花里の友人たちとの共通見解だったが。

 「私は自分の趣味を恥ずかしいと思ったことはないし、後悔もしていません。でも、苦労があったのも事実です。親として、同じ思いをしようとするのを止めなくていいんでしょうか」

 少し翳のある表情をしながら優花里は続ける。

 「私自身、時々不安になります。自分の趣味や事情をあなたに押し付けて、嫌な思いをさせてるんじゃないかって。元々戦車とも床屋とも関わりのなかったあなたに今のような―――ひゃっ!?」

 おっと、そこまでだ。彼女の頬を両手で挟んで、遊具で遊ぶ娘の方を見ていた顔を強制的にこちらへ向けさせる。そして―――。

 「な、なんですか―――ひゃあああっ」

 そしてそのまま、彼女の髪をセットが崩れない程度に優しくわしゃわしゃとかき混ぜる。癖っ毛がコンプレックスだと本人は言うが、こちらにとってはチャームポイント以外の何物でもない。特にこうやっていじくりまわしたときの感触と彼女の表情は最高である。

76名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/30(日) 22:31:06 ID:OsjqZxVQ

 「うぅ、人が真面目に話してるのに……」

 一通り堪能すると、髪を整えつつ恨みがましい眼で優花里がこちらを見てくる。ちなみに、我々夫婦はお互いがお互いの散髪を行っている。手櫛であっさりと元に戻るあたり、我ながら腕を上げたな、などと思う。
 
 「どういうつもりなんですかぁ」

 どういうつもりもなにも、先ほどの彼女の話は真面目に聞いてやるようなものではなかった、というだけの話である。押し付け?嫌な思い?自分が?まったく、見当はずれも甚だしい。

 「……」

 確かに、彼女と出会った時には戦車のことなんて何も知らなかったし、理髪師になるなど考えもしなかった。だが、それから彼女と会い、話し、知っていくにつれ、自然と惹かれた。嬉しそうに戦車について語り、誇らしそうに友人や両親のことを話す彼女が、たまらなく可愛く思えた。
 だから、この道を選んだ。理髪師の資格を取ったことも、戦車について学んだことも、自分の姓を捨て秋山家に婿入りし店を継いだたことも―――ただの一度さえ後悔したことはない。むしろ誇りでさえある。それらすべてが、秋山優花里の夫に、あの子の父になるための―――今のこの幸せへと至るための道のりだったのだから。

 「……ありがとう、ございます。本当に」

 瞳を潤ませながら、優花里は微笑む。

 「こんな私ですが、あの子の母として、そしてあなたの妻として、一生ついて行きます。どうか、改めて―――よろしくお願いします」

 深々と頭を下げる優花里にもちろん、こちらこそ、と答え、顔を上げた彼女と見つめっていると―――。

 「おかあさんもおとうさんも、なにしてるの?」

 「へ!?」

 いつの間にかこちらに来ていた娘が、首をかしげながら問いかけてくる。

 「あ、わ、あわわわわ」

 隣では優花里が頭から湯気でも出そうな真っ赤な顔になっていた。周囲を見回すと、周りの客からもなにやら生温かい視線を感じた。先ほどのやり取りで気づかぬうちに目立ってしまっていたようだ。娘もそれをなんとなく感じ取って戻ってきたのだろう。

 「っ、ふ、ふ、ふ、……」

 ふ?

 「不肖ッ、秋山優花里!お手洗いに行ってまいりますッ!!」

 そう叫びながら立ち上がると、そのまま館内のトイレの方向へ突撃していく優花里。どうやら、完全に羞恥の許容量をオーバーしたらしい。結婚以来、少しずつおしとやかになろうと努力している彼女であったが、今ばかりはそれも吹き飛んでしまっていた。

 「おかあさん、どうしたの?」

 尋ねてくる娘の頭をなんでもないよ、と撫でてやりながら、妻のクールダウンと帰還を待つ事にする。穏やかな午後の日差しを浴びながら、秋山理髪店改め、ミリタリーバーバーアキヤマの定休日は過ぎていく。

77名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/30(日) 22:47:17 ID:ZmD8VBMk
秋山理髪店に就職たいけどな〜俺もな〜

78名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/30(日) 22:52:53 ID:ZkJtbn8A
秋山殿ォォン!

79名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/30(日) 23:34:45 ID:lhNxwvq.
>手櫛であっさりと元に戻るあたり、我ながら腕を上げたな、などと思う。
ここすき

80名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/31(月) 00:09:02 ID:riRTc5KI
ミリタリーバーバーアキヤマ超行きたいんですけど
ゆかりんが顔剃ったり頭洗ったりしてくれるとか風俗いらないやん

81名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/31(月) 00:13:59 ID:PCSWdPHs
いいゾ〜これ
これはまとめられて欲しい

82名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/31(月) 00:21:33 ID:ZUO3Oe2U
【優花里ルート BADエンド】

 注:今回は一段とキャラ崩壊がひどいです。純粋な秋山殿好きの方は見ないほうがいいかもしれません。



 家を出て、周囲を何度か見回してから扉に施錠し、バイト先へと向かう。ま
ずありえないと分かっていても、一度付いた―――否、付けざるを得なかった習慣は抜けないものである。わざわざ地元でもある都会を捨て、こんな山あいの田舎町にやってきても、だ。いつ、あの女―――秋山優花里が現れるかと、脳ではなく体が警戒しているのだろう。
 出会った頃―――高校生の頃は、まだただの友人としての付き合いの範疇であり、何の問題もなかった。だが、大学に進学した際、彼女にとって最も仲のよかった友人たちが皆バラバラの進路となってしまった。特に、尊敬すらしていた西住みほが故郷の熊本に帰ってしまったことが大きかったのだろう。彼女は、その依存心をこちらへ向けてきた。
 一人暮らしを始めると、すぐ近くに向こうも部屋を借り、毎日迎えに来るようになった。授業はすべて同じものを選択し、休み時間もこちらを付いて回る。なんとか撒いても、帰れば部屋の前で待っている。果ては話していないバイト先さえも特定し、いつの間にか同僚として同じ時間に勤務している。いくら相手が可愛らしい容姿の同級生だからといって、恋人でもない相手にここまで付きまとわれるのは正直きついものがあった。だが、それを言い出すことができない理由があった。
 先に話したような大学生活が始まって半年が経とうとしていた頃だった。大学に向かう途中で、一匹の野良猫に足を引っかかれた。夏ということもあり短パンを履いていたためだ。どうやら気づかず尻尾を踏んでしまったせいらしい。

 『大丈夫ですか!?ああ、血が……今、絆創膏を貼りますね!』

 彼女の行動には辟易していたが、この瞬間だけは素直にその素早い動きに感謝した。―――この瞬間だけは。

 『っと、その前に』

 そう言って立ち上がると、彼女は流れるような無駄のない動作で件の猫を捕まえると、カバンから十徳ナイフらしきものを取り出し―――その喉笛を掻き切った。

 『ふぅ、任務完了です。さて、では改めて治療を』

 何事もなかったようにナイフをしまい、猫の骸を偶然すぐ近くにあったゴミ捨て場の生ゴミの袋にねじ込み、袖についた返り血をハンカチで拭うと、再びこちらに近づき、足の傷に目線を合わせる。そしてそのまま絆創膏を取り出して貼り付けると、こちらを見て満足げに微笑んだ。

 『これでもう大丈夫です。さ、早く学校に行きましょう!』

 あまりの事態に、何も言葉を発することができなかった。この女は何をしている?何を言っている?なぜこんなにも平然としている?

 『どうかしましたか?』

 心底不思議そうにこちらの顔を覗き込んでくる彼女から咄嗟に距離をとりつつ、なんとか声を絞り出した。どうしてあんな真似をしたのか、と。

 『はい?……ああ、あの猫の死骸のことですか?大丈夫ですよ、すぐに回収車が来ますから』

 違う。聞きたいのは、どうして殺したのか、ということだ。しかし彼女は、なんてことないことのように言葉を返してきた。

 『?だって、あなたにけがを負わせたんですよ?いわば敵兵です。野放しにしておく訳にはいきませんよ』

 悪びれもせず、むしろその戦果を誇るかのように言う彼女に、ただひたすら恐怖した。命はすべて平等、なんて綺麗事を言うつもりはない。少なくとも自分にとっては、虫や動物よりも人間の命の方が重い。しかし、おそらく彼女は、相手が人間であっても、先ほどと同じようにその喉を切り裂くだろう。そう直感した。

 『ほら、そんなことより急がないと遅刻してしまいますよ!』

 もはやそれ以上は、何も言えなかった。その刃が、人―――自分に向けられたら、という恐怖には勝てなかったのだ。
 その後、彼女には適当な理由をつけてから実家へと逃げ込み、両親に事情を話した。我ながら情けないが、とにかく自分の命が惜しかったのだ。そして話し合いの結果、大学は休学した上で、遠方の親戚の家に身を隠すこととなった。そしてその間に警察に相談し、ストーカー案件として対処してもらう―――ということになったのだった。

83名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/31(月) 00:21:51 ID:ZUO3Oe2U
 そして現在。親戚は普段家を空けていることが多く、実質的に一人暮らしも同然だった。ゆえにこうして、毎日ひとりで家とバイト先、それ以外ではせいぜいスーパーへの買い出しくらいしか出かけない生活を送っているのだった。
 バイトを終え、スーパーで買出しをしてから家に向かう。タイムセールで上々の戦果を上げたこともあって、いつもより少しだけ軽い足取りの帰路となった。そして問題なく家に着き、いつものように鍵を―――開いてる?
 背筋に冷たいものが走り、あわてて扉を開ける。とにかく脳裏に浮かんだ不安と恐怖を払拭したくて、ただの鍵の閉め忘れだと証明したくて。その扉を開けてしまった。

 「おかえりなさい」

 玄関に、彼女はいた。最後に見た時と同じ姿の、彼女がいた。服の所々に紅い染みをつけて、笑顔を浮かべる彼女―――秋山優花里が、そこにいた。

 「もう、ダメじゃないですか。何も言わずに休学、引越しなんて。ホウ・レン・ソウは大切なんですよ?戦争ではそれが戦局、ひいては勝敗を決める大きな要因にもなるんです」

 なぜ、ここにいる。必死にそう言葉を紡ぐが、彼女はこちらの様子など気にせず返答する。

 「あなたのご両親に聞いたんですよ。最初は部屋に上げてもくれませんでしたが、そのうち素直に全部話してくれましたよ。で、急いで車を走らせてここまで来た、というわけです。あ、この家の鍵ですけど、交換をおすすめします。こんな単純なサムターン式ひとつじゃ、誰でも入りたい放題ですから」

 限界だった。悲鳴にも近い声を上げながら、手に持っていた荷物を放り投げ、必死で走る。行き先なんて考えられなかった。とにかく家から遠くへ。車に乗ってきたと言っていたから、なるべく細い道へ。気づくと、石段を駆け上がって街で唯一の神社まで来ていた。ここなら―――。

 「もう、酷いですよ。逃げるなんて」

 声がかかる。油が切れロボットのようにゆっくりと振り返ると、汗一つかいていない秋山優花里の姿があった。一体、どうなって―――。

 「あなたの家に行く前に一通り調べておいたんですよ、地形や道を。こういった情報収集は得意なもので」

 あきらかにこの状況に不釣合いな、はにかむような笑顔を浮かべながら、神社の奥から一歩、また一歩と近づいてくる彼女から逃れようと体が無意識のうちに後ずさって―――。

 「あっ!あぶ―――」

 聞こえたのはそこまでだった。体を不気味な浮遊感が覆い、それはすぐに強い衝撃と痛みに変わる。脳がシェイクされるような激しい振動。そしてーーー。
 
 「大丈夫ですか!?」

 紅い。熱い。なんだろうこれは。身体はまったく動かず、夏の炎天下に晒されているかのように熱い。視界は紅一色に染まり、それもどんどん霞んでいく。

 「ああ―――これはもうダメそうですね。この高さでは当たり前ですが」

 なにかがきこえる。でもなにかわからない。
 
 「まあ、でもものは考えようです。ご両親も向こうに行ったばかりですし、寂しい思いをさせる前に会いにいくのも親孝行言えるかもしれません。私も結局ちゃんとご挨拶できませんでしたし」

 あかい。あつい。あかい。あつい。なにもかんがえられない―――。

 「それでは不肖・秋山優花里!黄泉路のお供をさせていただきます!」

 ―――ザシュッ

84名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/31(月) 00:31:29 ID:oHoZruLM
優花里(う)はミリタリー知識があるだけにチーム内でも随一のヤバさですね…

85名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/31(月) 00:33:35 ID:ZUO3Oe2U
あんこうチーム工事完了です……(小声)
秋山殿好きの方には今回のBADは本当に申し訳ないと思ってます
キャラsageの意図はまったくないんですが、やっぱりそこはBADエンドなので、ということで……

ちなみに五十鈴家はエンドによってその実態が変わる仕様です
つまりGOODエンドの名門五十鈴家とBADの野獣邸と化したクッソ汚い五十鈴家は別物ということで

あ、あと明日は仕事の都合で書けないです、すみません

明後日以降はエリカのGOOD&BADをとりあえず書くつもりです

ただいよいよもう(BADのネタが)出ないよぉ……なのでもうそれ以降は思いついたGOODエンドだけを書きます(開き直り)

今のところまほさん、ダー様、ミカさん、宇津木ちゃん、キャプテンは内定です

それでは、本日もお付き合いいただきありがとうございました

86名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/31(月) 00:35:58 ID:H6wQsi0k
お疲れナス!

87名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/31(月) 00:44:03 ID:vZFP2gY2
内定済みなんてやっぱりミカはすげぇよ…

88名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/31(月) 06:37:22 ID:ivf9t7CI
いいゾ〜これ〜

89名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/31(月) 21:05:00 ID:7CeaZwz6
やべぇゾ〜これ(合体語録)

90名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/31(月) 21:08:28 ID:ueeI3UiQ
お疲れナス!

91名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/11/01(火) 22:25:42 ID:5JTBaTF6

 【エリカルート GOODエンド】

 「……あなた、何時に来たの?」

 待ち合わせ場所である駅前のオブジェの横で佇んでいると、その相手である妻―――エリカがやってきて、開口一番に呆れたような口調で言った。一緒に暮らしているので、当然彼女の持っている服は一通り知っているが、今日着ているそれは一番のおしゃれ着のはずだ。確か、最後に見たのは娘の入学式だった。
 彼女の質問に、大体30分くらい前、と答えると、さらに呆れの色が強くなった。現在時刻は17時。ちなみに待ち合わせの時間は18時半だ。今日は平日だが、仕事は午後休を取り、午前の勤務を終えると同時に会社を出た。それから今日の予定を入念に確認した上で、この場所で待ち構えていたのだ。

 「これじゃ、待ち合わせの時間決めておいた意味ないじゃない」

 ため息を一つついた上で、苦笑しながらエリカが言う。正論だが、そこにはこちらほどではないにしても待ち合わせ時間よりかなり早くやってきた自分への皮肉も含まれているのだろう。

 「ここにいつまでもいても仕方ないし、行きましょう」

 そう言いながら自然と腕を絡ませてくる。日が落ちて冷えた空気にさらされて冷えた身体は、その温もりをより確かに感じさせる。

 「あの子に感謝しないとね」

 歩き始めて少しして、ポツリとエリカが言う。そう、今日のこの―――結婚記念日のデートが実現したのは、ひとえに我が娘の気遣いのおかげだ。

92名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/11/01(火) 22:26:11 ID:5JTBaTF6
 『再来週の水曜日は逸見の方のおばあちゃんの家に泊まるから』

 2週間ほど前のある日、夕食後のリビングで雑誌を読んでいた娘が言った。確かに彼女は母方の祖母と特に仲がよいが、なぜいきなりそんな予定が入っているのか一瞬理解できなかった。

 『……その日結婚記念日でしょ。私はお邪魔でしょうから』

 口調こそ拗ねたようなものだが、その顔は明らかに笑いをこらえるようなもので、娘なりの冗談だとすぐにわかったが、そうだとしても彼女を邪魔などと思ったことは一度たりともない、と言っておいた。父として、そこはゆずれない。

 『はいはい。……ま、そういうことだから。思う存分イチャイチャしてきなよ。普段以上にね』

 いつの間にかそんな気を遣えるようになっていた娘の成長に感動すると同時に、その言葉に引っかかりを感じた。確かにエリカと夫婦としてのスキンシップはそれなりに行っているが、娘にはなるべく見られないよう自重しているのだが。

 『……バレてないと思ってたの?マジで?』

 驚愕と呆れを半々に含んだ表情で娘がこちらを見るが、驚きの度合いはこちらの方が大きい自信がある。なにせ、これまで完璧に隠しおおせていたつもりのだから。

 『……ハァ。だからって、別にやめなくてもいいからね。絶対にママ機嫌が最悪になるし』

 表情を呆れ100パーセントにすると、視線を再び雑誌に向ける娘。もはや伝えるべきことはすべて伝えたから話は終わり、ぶっちゃけこれ以上はメンドイ、といった様子だった。しかし、娘のせっかくの厚意を無駄にするわけにはいくまい。さっそく脳内で、結婚記念日当日のプランの組立と、毎朝のいってらっしゃいのキスのタイミングの見直しを始めた。

 「あの子もどんどん成長してるのね。ずっと一緒にいるのに―――いや、一緒にいるから余計に気づけないのかも」

 苦笑しながらエリカが言った。子供の成長は親にとって喜ばしいが、同時に寂しさを感じさせる。その気持ちはよくわかるが―――今日はせっかくのお祝いだ。暗い表情をいつまでもさせるわけにはいかない。そう思い、彼女に今日のこのあとの予定を伝えた。

 「カフェで少し時間を潰してから食事、ね。いいと思うわ。ちなみにどこのレストラン?」

 その問いに待ってましたと言わんばかりに答える。今日予約してあるのは都内でも有数の高級レストランだ。普段あまり散財をしない分、今日は出し惜しみをしないことにしたのだ。そして、そのレストランで最も人気のメニューが―――。

 「ハンバーグ!?いいわにっ!……いいわねっ!」

 わに。

 「……いいわねっ!」
 
 わに。

 「……ッ!」

 腕を組んでいる方の指で、思い切り二の腕のあたりをつねられてしまった。このプラス方向でテンションが上がると高確率で噛んでしまう癖も、夫である自分からすれば魅力の一つなのだが―――彼女的には不本意らしい。

 「ふん。なによ、まったく……」

 そう言いながらも、組んだ腕を離さないのが、彼女が本気で怒っているわけではないことの証明だ。

 「……これで美味しくなかったら、今度はほっぺをつねるわよ」

 ジトッとした視線で言われてしまった。キチンと同僚やネットから情報を集めた上で最良のプランを立てたつもりだが、思いがけずハードルが上がってしまった。

 「もちろん、あなたのエスコートも採点基準に含まれるから。せいぜい気張りなさい?」

 表情を笑顔に変え、エリカが言う。その言葉にもちろん、と答えつつ、腕を組んでいた方の手をポケットから出し、彼女の手を握る。いわゆる恋人つなぎだ。

 「……まあ、いいんじゃない?」

 顔を赤くし、そっぽを向きながらの高評価をいただいた。さて、この調1子で00―ーいや、120点を目指すとしよう。

93名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/11/01(火) 22:31:07 ID:rRdi79Fs
ついに来たわに!

94名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/11/01(火) 22:34:48 ID:UGe6mL0k
お前の事を待ってたんだよ!

95名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/11/02(水) 00:17:24 ID:yTFYy33M
 【エリカルート BADエンド】

 「本当にごめんなさいね、いつも」

 家に上がって早々にかけられた言葉になんとか笑顔を作っていえ、と答えた。いつものことだ。そしてその後、目的の部屋の戸をノックするが、なんの反応もない。これもいつも通り。今度は声をかける。すると、来訪者の正体を把握した彼女は、扉をわずかに開け、そこから腕―――幽鬼のように細く、白い―――を出し、こちらの手を掴んで中へと引きずり込んだ。最初は心臓が止まるかと思ったが、それも毎度のこととなればなんの感情も湧かない。

 「……遅かったじゃない」

 これでも、大学の授業が終わると同時にここへ向かってきたのだ。道中でコンビニに寄りはしたが、それも必要な過程なのだし、文句を言われる筋合いはない。しかし、そんな本音を飲み込み形だけの謝罪をする。

 「今日もいつものやつ、買ってきたのよね?」


96名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/11/02(水) 00:19:49 ID:yTFYy33M

 何様のつもりだ―――そんな心の声をまたしても押し殺し、笑顔で手に持っていた袋を差し出した。奪い取るようにそれを受け取った彼女―――エリカは、そのままゴミや物が床中に散らかった部屋の中央のテーブルに腰を下ろし、袋の中身であるハンバーグ弁当を貪り始めた。かつて戦車道の名門、黒森峰女学園のエースだった逸見エリカの融資は―――どこにもなかった。
 彼女がこうなってしまったのは、1年前、エリカが3年生となり黒森峰の隊長に就任して臨んだ全国大会にあった。そのさらに2年前、9連覇を果たし、前人未到の10回目の優勝に手をかけたその年、黒森峰は決勝戦で敗北を喫し、まさかの準優勝で終わった。そしてその翌年も、決勝戦で、しかもまったくの無名校であった大洗女学園の前に敗れた。試合に参加した当人たちはその結果に満足こそしなくとも納得はしていた。だが、周囲―――他の黒森峰の生徒や理事会、OG、そしてメディアは、その結果を必要以上に重く見た。
 さらに、それまで隊長を務めていた戦車道の名家の娘である西住まほが卒業したことも重なり、学園の内外で黒森峯の戦車道に対する風当たりは強くなった。そんな中で隊長となったエリカにのしかかった重圧は、筆舌に尽くしがたいものだったろう。
 当時既に彼女との交際は始まっていたが、エリカの隊長就任を期に、少し距離を取ることとなった。否が応にも注目を浴びることになるその立場上、明確に禁止こそされていなかったものの、交際相手が居るというのはあまりよろしいことではなかったからだ。それでも別れなかったのは、お互いに強く想い合っていたからだ。しかし、この選択は今となっては間違いであったと思うようになった。もっと彼女のそばにいて支えるか―――あるいはきっぱりと別れてしまうべきだった、と。
 周りからもたらされたプレッシャーは、着実にエリカを追い込んでいった。最初こそかつて大洗との試合で学んだことを活かそうとしていたが、やがてその生来の真面目さも災いし、チームの構成員全員に完璧を求めるようになった。その必要以上いに厳しい態度と言葉に、徐々に全体の士気は下がっていった。
 そして、それは大会での結果―――初戦敗退へと繋がった。
 低い士気は細かなミスを次々に発生させ、それに苛立ったエリカの言葉に、さらに隊員の士気は落ちていく。そんな悪循環は、質実剛健、一切の乱れを許さぬ黒森峰本来の戦車道とはかけ離れた試合展開を生んだ。
 もし相手がプラウダやサンダース、聖グロリアーナや、あるいは因縁のある大洗ならば、まだよかっただろう。しかし、戦ったのはその年に初参加した無名校で、挙句の果てに2回戦で敗退している。一切の言い逃れが許されない失態だった。
 断っておくが、逸見エリカは戦車道において極めて優秀な選手だ。誰よりも熱意を持って戦車道に取り組み、隊長としての素養も十二分にあった彼女だったが、取り巻く状況がそのあり方を歪ませてしまった。プレッシャーに耐えることもその素養と言われてしまえばそれまでだが―――それでも、少しでも周りの彼女への接し方が違えば、と思ってしうまう。もちろん、自分自身を含めて。
 そして、エリカは壊れてしまった。厳しい視線に耐えられず、学校に通うどころか外出さえもままならずに自室へ引きこもるようになった。彼女は、家族さえも恐るようになってしまった。
 彼女の家族に乞われ、また自分もその様子を心配していたこともあり、エリカのもとへ久しぶりに訪れたとき、その変貌ぶりに驚かされた。髪は傷みきり、目の下は大きなクマで覆われ、身体はやせ細っていた。さらにそこには細かな生傷がいくつもあり、その姿はもし夜の墓場で遭遇すれば間違いなく幽霊と思っただろう。それまでこちらからの連絡に一切応じなかったエリカは、部屋に入った途端にこちらへ抱きついてきた。プライドが高く、甘えることが苦手な彼女らしからぬ行動だった。

 『……助けて。怖い……、助けてよ……』

97名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/11/02(水) 00:20:18 ID:yTFYy33M
 肩を震わせながら弱々しく呟いたその言葉は、自分の知る逸見エリカがそこにいないことを確信させた。
 それから、今に続く生活が始まった。なんとか学園側の計らいもあって卒業はできたエリカだったが、当然当初の予定だった大学への進学は断念せざるを得なかった。部屋への籠城を続ける彼女のもとへ、大学の授業が終わってから直行する。その道中で彼女の好物であるハンバーグ弁当を買っていく。エリカはこの弁当以外は一切口にしないらしく、それもその身体をやせ細らせる原因となった。何度か試しに別の弁当を買ってきたこともあったが、手を付けようともしなかった。エリカの家族から弁当代を渡されるようになったのは通いだしてから1ヶ月を過ぎた頃だった。正確には数回目の訪問の時点で差し出されていたのだが、断っていた。しかし、そんな日々が続いて、肉体的、精神的、そして経済的な負担が無視できなくなり、受け取ってしまった。一回そうなってしまえばどんどん躊躇はなくなっていき、やがて当然のことになってしまった。

 「……ねぇ、どうしたの……?」

 いつの間にか弁当を食い終わっていたエリカがこちらを見ながら言った。弱々しく、何かに怯えるような眼だった。

 「ねぇ、あなたまで私を見捨てるの?黒森峰みたいに!戦車道みたいに!」

 突然大きな声を出しながらこちらに迫って来るエリカ。だが、こうして不安定になるのも今に始まったことではない。

 「いや、いや……捨てないで、一緒にいて……でないと、私……」

 こちらにすがりつきながら、すすり泣くように彼女が言う。これも初めてのことではない。
 人は慣れる。どんな異常な状況でも、それが長く、何度も繰り返されれば慣れてしまう。最初に抱いた、恋人を救いたい、という想いも、一向に改善しない状況の連続に、どんどん摩耗していった。もはやこうしてエリカの下へ来るのは、義務感や責任感ではなく、ただの惰性になりつつあった。
 
 「お願い……捨てないで……」

 目の前で嗚咽する、かつて逸見エリカだったものを見下ろす自分の目は―――はたして、あのときの周囲の視線と、どちらが冷たいだろうか。

98名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/11/02(水) 00:27:33 ID:yTFYy33M
というわけでエリカルートでした

ミリタリーバーバーアキヤマはかわらず大洗の学園艦にあります。主な客層はご近所の常連さんに加え、かつての優花里の戦車道での活躍を聞きに大洗女学園の戦車道受講者がちょくちょく来るとか。
懇切丁寧かつわかりやすく話してくれますが、要所要所で夫や娘のノロケ話が混ざるのがたまにキズらしいです

さて、というわけで宣言通りBADエンドのネタが尽きたので、今後は先に挙げたキャラのGOODエンドのみを書こうと思います。
とりあえず明日はキャプテンになると思います

では、今日拙い文にお付き合いいただきありがとうございました

99名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/11/02(水) 00:28:54 ID:kknq8HQQ
悲しいなぁ…

100名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/11/02(水) 00:29:40 ID:fiY/uex2
乙シャス!
毎日いいゾ〜これ

101名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/11/02(水) 00:35:01 ID:jofYXHrE
ヤメロォ!(BAD)ナイスゥ!(GOOD)

102名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/11/02(水) 07:54:22 ID:uNxTju4k
何が悲しいってエリカなら本当にこう成りかねない って思えるのが辛い

103名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/11/02(水) 08:35:34 ID:AldZnBDE
良くも悪くもエリカって手を抜けないタイプだからね、しょうがないね
とにかく乙だゾ

104チーズケーキ鍋:2016/11/02(水) 10:38:37 ID:???
エリカのBADだけ男じゃなくてエリカの方がとことんBADなENDなのが辛いゾ…
実際はこうなりそうならまほが守ってくれる気はするけど

105名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/11/02(水) 11:14:50 ID:IpQPxnUU
エリカ√の攻略は、
エリカ本人にはバレないように
他の隊員に「男持ちかよ」って反感を抱かれないようにしつつ、エリカのフォローに当たり
かつ、エリカ本人もきつくなりすぎないように嗜める
という一個でも選択肢間違えるとbad直行の地雷原みたいなルートになりそう

106名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/11/02(水) 11:39:53 ID:vsgMuwN.
「うまいハンバーグ」を毎週与えてストレスを溜めさせなければいけそう(適当)

107名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/11/02(水) 18:09:26 ID:GA0.NFFg
>>106
モンスターファームか何か?

108名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/11/02(水) 18:12:06 ID:t60YEEMI
ガルパンキャラが冷凍保存されてるとか、ちょっと興奮しますね

109名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/11/03(木) 02:55:02 ID:gXtuJRo2
すみません。>>1ですがキャプテンルートを書いてたら本文が吹き飛んでしまいました

明日何人かまとめて書くんで許してつかあさい

110名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/11/03(木) 12:32:15 ID:ddyZI06E
がんばれ>>1ァ ふんばれェ

111名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/11/03(木) 12:51:51 ID:YUwYuwdQ
こんなところでテクノロジーの恩恵にあずかれないとはな

112名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/11/03(木) 15:19:18 ID:gXtuJRo2

 【典子ルート GOODエンド】

 正午。午前の勤務時間終了の合図と同時に、引き出しの中の二つの包みのうち明るい色の方を取り出し、社屋を駆け足で出発する。目的地は妻の勤務先だ。
 事の起こりは今朝だ。妻は起きてきた途端に朝の会議があるから早く出勤しなくてはならないのを忘れていた、と言い出した。今日の食事当番は自分だったのだが、彼女はせっかく作ってくれた朝食を食べられなくて申し訳ないと何度も謝りながらトーストだけを咥えて家を飛び出した。そしてその時、この包み、すなわち弁当を忘れていった、というわけだ。彼女の職場には食堂があるはずだが、今日の弁当は結構な自信作だ。どうせなら食べて欲しい、と思い、こうして届けに行こうとしているのだ。目指すは妻の勤め先―――大洗女子学園。

 10分もかからないで目的地に到着した。我々夫婦の職場は非常に近く、普段は一緒に出勤をしているくらいだ。さて、確かこの学校の午前最後の授業である4時間目は12時15分終了だったはず。と、すればおそらく妻はまだ仕事中という事になる。とりあえず正門前にいる警備の方に事情を話し、昼休みに入ったら彼女に取り次いでもらうのがベターか。そう考え、さっそく声を掛けようとしたのだが、

 「ほらーッ!へばるなーッ!あと少しでゴールだッ!根性ーーーッッ!!!」

 少し離れたところから聞こえた声に動きを止める。まさに腹の底から出ている、といった風の理想的な大声と、いつもの口癖。間違えるはずもない、彼女だ。
 声の方を見てみると、案の定妻―――典子は、ジャージ姿で体操服姿の少女たちの先頭を走っていた。どうやら体育教師である彼女の今日の授業はマラソンであるらしい。
 なんとなく悪戯心が働き、物陰に身を隠してみる。せっかくの機会だし、我が妻の仕事っぷりを見るのも悪くないだろう。

 「よーし、みんなよく頑張った!ナイス根性!」
 
 満足気な笑顔で言う典子がまったく息が上がっていないのに対し、生徒たちの方はすっかり音を上げていた。皆ゼェゼェと荒く息をついている様子に少し同情してしまう。典子の体力はまさに規格外だ。休日のたびに彼女の趣味であるスポーツ、特にバレーボールの練習に付き合うたびに似たような状態になっている身としては他人事とは思えなかったのだ。もっとも、おかげで腹が出始めたと嘆く同年代の同僚に比べ、体型や運動能力はずいぶんマシなものになっているが。

 「さあ、お待ちかねの昼休みだ!みんなしっかり食べて体力つけて、午後の授業も頑張るように!」

 彼女がそういった直後、ちょうどチャイムが鳴った。生徒たちはありがとうございました、と揃って礼をすると校舎の方へ歩いていく。

 「さてッ!私もお昼……に……」

 そこまで言うと、急に典子は硬直、そしてすぐに頭を抱えながらしゃがみこんでしまった。

 「……あぁぁぁぁぁ……!!」

 うめき声のようなものまで上げ始めた。……どうやら肝心の自分の昼食である弁当を忘れたことに気づいたらしい。
 さて、そろそろ頃合か。普段見られない妻の姿を堪能し終えたところで、当初の目的を果たすべく彼女に近づき、その肩を叩く。

 「うぅ……何か質問?悪いけど後にしてくれ……今は私は……うぅ……」

 顔を伏せたままでそう答える典子。どやら生徒と勘違いしているらしい。誤解を解くべく、あえてわざとらしい口調でなにかお困りですか、と声をかけてみる。

113名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/11/03(木) 15:20:26 ID:gXtuJRo2
 「……へ?」

 顔を上げると、呆けたような表情でこちらを見る。そして数秒静止したかと思うと、

 「……ッッッ!!!」

 満面の笑顔になって思い切り抱きついてきた。

 「んうぅ……!んうぅぅ……!!」

 そのままこちらの胸板に顔を埋めてくる。夫としては嬉しいことだが、問題がふたつ。
 ひとつは、彼女の腕力だ。バレーと戦車道で鍛え上げれたその剛腕は万力のごとくこちらの身体を締め上げる。思えば最初の告白やプロポーズの時もこんな感じだったな、と思いつつも、ミシミシと悲鳴を上げる肉体。
 そしてもうひとつの問題は―――。

 「先生!今何か変な声がしましたけど大丈夫……です……か……」

 教師想いの教え子たちが、さきほど典子があげた奇声に反応して引き返してきたのだった。そして、予想外であろう光景に揃って硬直した。

 「ん……?あっ!ああ……これは、その……えーと」

 ようやく置かれた状況に気づいた典子は、その怪力からこちらの身体を解放すると、生徒たちの方へ向き直り必死で釈明しようとするが、しどろもどろになり一向に意味のある言葉を紡げないでいた。

 「……先生。もしかして、その人って……」

 いち早くフリーズから立ち直った生徒が、こちらを見ながら問いかける。

 「あー……うん。私の……旦那様だ」

 赤い顔で彼女が答えた途端、

 「……きゃあぁぁぁーーーーッッ!!!」

 と、なぜか黄色い悲鳴が上がった。

 生徒たちは一気にこちらに近づいてくると、矢継ぎ早に質問をしてくる。

 「あの高校時代に出会ったっていう!?」

 「毎日好きだ、とか愛してる、とか言ってくれるっていう!?」

 「どんなに仕事で疲れて帰ってきても夫婦のスキンシップを忘れないっていう!?」

 「世界で一番根性があって素敵で根性があるっていう!?」

 なにやら小っ恥ずかしい情報が次々と出てくるのはどういうわけか。……まぁ、出元などひとつしかないわけだが。その出元である隣に立つ妻を見ると、顔を真っ赤にし、申し訳なさそうにただでさえ小柄なその身体を縮こまらせていた。

 「……ああー!もう!もういいだろッ!ほら、早く戻るんだッ!!」

 ついに羞恥が限界に達したらしく、大声で叫ぶ典子。生徒たちは「きゃあーこわーい」なんて言いながら校舎へと逃げて(?)行った。

114名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/11/03(木) 15:21:52 ID:gXtuJRo2

 「ハァ、ハァ……まったく……」

 マラソンでは一切乱れのなかった息を荒くしていた彼女は、それを整えると、

 「すみませんでしたッ!!」

 こちらへ向き、そう叫びながら勢いよく頭を下げた。

 「せっかく作ってもらった朝食を食べられなかったばかりか、お弁当を忘れてそれを届けてもらい、挙句の果てには生徒たちにあんな……本当にすみませんでしたッッ!!」

 体育会系である彼女は、自分が悪いと思ったときは今のように全力で心からの謝罪を行う。ちなみに敬語なのは彼女がひとつ年下だからである。こちらとしては夫婦で対等な関係なのだから必要ないと言ったのだが、年長者を敬うというポリシーは曲げられないとのことだ。
 なんにせよ、大したことはしていないのだからそんなに謝らなくてもいい、と告げる。典子の全身全霊の謝罪はむしろこちらが申し訳ない気持ちになってくるのだ。

 「ありがとうございますッッ!!」

 そういってもう一度頭を下げると、ようやく元の姿勢に戻った。しかし、確認しなければならないことがひとつあった。

 「?なんでしょうか?」

 先ほどの生徒たちの態度は気にしていないが、彼女らが口にしていた情報はいったいなんなのか。

 「あー……あれは……」

 一瞬歯切れが悪くなったかと思ったら、

 「すみませんでしたッッッッ!!!!!」

 先程よりも大きな声で再び頭を下げた。
 
 「生徒たちに聞かれて、つい我慢できずに自慢してしまいましたッ!たくさん言ってしまいましたッッ!!本当にすみませんッッッ!!!」

 ……この様子ではあれら以外に色々と話しているらしい。頭を抱えたくなったが、同時に妻の愛情を感じて嬉しくなってしまう。嘘のつけない彼女だ、それだけこちらを深く想ってくれている証拠といえるだろう。
 とは言え恥ずかしいのも事実なので、とりあえずもう少し自重するよう注意した。

 「はいッ!努力しますッッ!!」

 ……絶対に言わない、とは約束できないのもやはり正直な彼女らしい。その努力を信じ、これ以上は言わないことにした。

 「ああ……でも……」

 不意に肩と声を落とし、典子が言う。

 「絶対にあの子たち、さっきのこと噂してます。明日には絶対学園中に伝わって……あぁぁぁ、間違いなくイジられる……」

 憂鬱そうに嘆息する姿に同情を禁じえないが、こればかりはどうしようもないだろう。

 「……よしッ!」

 パァンッ、と自身の頬を両手で張り、背筋を伸ばす。その表情は、すっかりいつもの気合に溢れたものになっていた。

 「ウジウジ悩んでいても仕方ありません!こうなったら真正面から受けるのみです!」

 まるでバレーか戦車道の試合に臨むかのようなやる気に満ちた様子の彼女に、餞別代わりに包みを渡す。というか、これが目的で来たのだが。

 「ありがとうございますッ!大丈夫ッ!どんなことだって、根性と―――」

 なんとも頼もしい笑顔で、典子は宣言する。

 「旦那様の愛があればッ!乗り越えられないはずがありませんッ!!うおぉぉぉーーーッッッ!!!ラブ&根性ーーーーーーッッッッ!!!!」

 叫びながら校舎の方へと突貫していくその背中を見送りつつ、先ほどの約束はおそらく果たされないだろうな、と思う。
 さて、こちらもそろそろ戻らねば。思いもがけず騒がしい昼休みになってしまったが、それ以上に活力をもらえた。彼女に負けない愛と根性で、午後の仕事をかたづけてしまおうか。

115名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/11/03(木) 15:26:31 ID:WbRl0.pQ
ああ^〜

116名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/11/03(木) 15:31:47 ID:gXtuJRo2
というわけでキャプテンルートでした
昨日はすみません

エリカルートでBADエンドを回避するのに一番いいのは
「西住姉妹の好感度を上げると出現する『大洗女子との練習試合を提案する』の選択肢を選ぶ」ことです
全国大会前にみぽりんにボコにしてもらい、現在のやり方が間違っている、ということをエリカに自覚してもらうことで初戦敗退を回避できます
さらに西住姉妹のうち好感度の高い方がそれとなく(みぽりんはうっかり口を滑らせ)『主人公』が影でエリカのために努力していたということを彼女に伝えてくれて好感度も大アップ、ていう感じ(適当)

夜にはまほさんとミカさんを書きたいです(書けるとは言っていない)

117名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/11/04(金) 01:27:42 ID:PQ3qaN1M

 【まほルート GOODエンド】

 
 「ふぅ……」

 自身の書斎の椅子に腰掛け、妻―――まほさんは息をついた。すかさずお茶を出し、軽くその肩を揉んでやる。お疲れですか、と声をかけると、わずかに眉をひそめてこちらを見上げてきた。
 
 「今はプライベートだ。そんな改まった態度はやめてくれ」

 そういわれて、自分の失敗に気づく。現在自分は彼女の秘書のような仕事をしており、西住流次期家元として多忙な生活を送る妻を支えている。仕事を抜きにしても年下であり、さらに婿養子という立場もあって思わず敬語を使ってしまうが、結婚当初から彼女はこれをお気に召さないようで、私的な場では対等な態度を取るよういつも言われているのだ。
 やれやれ、と呆れたようにしつつ、まほさん―――もとい、まほは体重をこちらに預けてきた。こちらは立ったままなので、腹の辺りに彼女の頭がくる格好だ。この体勢は我々にとって「お約束」の開始の合図である。

 「んっ……」

 その艶やかな髪を撫でると、心地よさそうな声を漏らす。そのまま二度、三度と手を動かすと、さながら猫のマーキングのように頭をこちらの体にこすりつけてくる。
 

 「……やはりいいな。こういう時間は……」

 どこか微睡むような口調でまほが言う。これは彼女が最大限に気を抜いている証拠だ。よほど近しい人間でなければ見ることのできない、最も素に近い姿。

 「お前以外には見せないぞ?こんなところは……」

 こちらの考えを見透かされたのか、釘を刺すように言われてしまう。裏を返せば、世界で唯一、彼女のこうした甘えたいという欲求を叶えることが可能であり、それを果たす義務があるということになる。なんとも責任重大だが、望むところだ。

118名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/11/04(金) 01:29:12 ID:PQ3qaN1M

 「さて、と」

 そういいながらまほが姿勢を戻した。普段なら時間の許す限り続けるところだが、今日はもう満足したのだろうか。

 「交代にしよう。ほら、向こうのソファに移動するぞ」

 普段とは違う展開に戸惑っているこちらの様子もお構いなしに、彼女はソファの方へ移動すると、そこに座った。そしてそのままその隣の座面をポンポンと叩く。ここに座れ、という意味だろう。
 おとなしくその指示に従って腰掛けると、直後にガシリと頭を掴まれ、そのまま横倒しにされてしまった。必然的に頭は彼女の方へ向かい、その手で太腿のあたりへ誘導される。いわゆる膝枕である。

 「考えてみれば、仕事に忙殺されてこうした妻らしいことをあまりしてやれていなかったからな」

 こちらの頭をポンポンと優しく叩きながら、慈愛に満ちた表情で見下ろして彼女は言った。これはどちらかというと妻ではなく母のやることなのでは、などと思ったが、それを口にすればおそらくこの温かさと柔らかさを手放すことになるだろうから黙っておく。

 「お疲れ様。いつも……ありがとう」

 普段の怜悧さが鳴りを潜めた穏やかな声が心地よく耳朶を打つ。
 ここに至るまで少なくない困難があった。彼女が背負う西住の者としての宿命は重く、共に背負うために、平凡な自分には多大な努力が必要だった。
 他に楽な道はいくらでもあった。だが、それらはすべて西住まほへの想いを断ち切る、という何物にも代え難い苦痛を対価として支払う必要があった。
 一生続く努力と、一生続く後悔。天秤にかけるまでもなく前者を選んだ。実際に楽ではい日々が今も続いているが―――

 「これからもよろしく、旦那様」

 ―――こんな幸せを得られたのだから、それは疑いようもないほどに正解だったのだろう。

119名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/11/04(金) 01:30:50 ID:.oyZ4qrA
いいゾ〜これ


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