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ガルパン みほルートGOODエンド

27名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/10/27(木) 00:53:47 ID:ayxgt20w

 【沙織 BADエンド】

 「―――え?」
 
 テーブルの対面に座る恋人―――武部沙織は、今まさに置こうとした紅茶のカップを落とし、笑顔のまま硬直した。幸い低い位置からの落下だったので、カップは割れずにすんだものの、中に僅かに残った紅茶がテーブルクロスに染み込んでいき―――まるで血のように広がった。

 「ごっ、ごめん。も、もう一回言って?私、なんか今、えっと」

 そのことに気付いているのかいないのか、硬直の解けた彼女は今度は震えるような声で何度も突っかえながら、必死に言葉を紡いだ。ああ、予想はしていたが、またあの言葉を彼女にぶつけなくてはならないのか―――。

 「別れてくれ、沙織」

 はっきりと、今度は聞き返されぬように告げる。沙織の顔からは今度こそ表情が消え失せ、心臓が止まった言われれば信じられるほどにどんどん血の気を失っていった。

 「―――なんで!?ねぇなんで!?」

 一転して大声を上げながらテーブルを乗り越え、こちらの両肩を掴み、激しく揺すってくる。やはり場所を彼女の自宅にしたのは正解だった。カフェなどの人前でこんなにも取り乱されたら、一歩間違えば警察を呼ばれかねない。

 「私の何がいけないの!?ねぇ!!教えてよ!!言ってくれたら全部直すから!!髪型だって、服だって!全部あなたの好みに合わせたよ!?もしも他の男の子―――ううん、他の人と話すなって言うなら、もうあなた以外とは話さない!!戦車道だって―――」

 ―――それだ。彼女にこんなにも残酷な仕打ちをするに至った理由は。

 「……え?」

 沙織との交際について改めて考えれば、そのはじまりはこちらの一目惚れにも近いものだった。誰に対しても明るく、優しく、面倒見のいい彼女。その容姿を含め、すべてが魅力的だった。なんとか少しずつ距離を縮めていき、友人たちの手助けもあって無事恋人となった。それからしばらくは間違いなく夢のような日々だった。
 そこに不安を覚えたのは、交際を始めて2ヶ月ほど経った頃だろうか。ふたりでテレビを観ていたとき、ふとそこに映ったショートヘアのアイドルに、この娘可愛いな、と呟いた。本当に何気ない言葉だったはずだが、翌日沙織のふわふわとしたロングヘアーは、首元のあたりでバッサリと切られていた。驚いてどうしたのかと聞けば、

 『だって、ショートの方が好みなんでしょ?』

 きょとんとした表情でさも当然のように答える彼女に、何か背筋に走るものを感じた。
 その後も、眼鏡が似合うといえば、それ以来眼鏡を外した姿を見なくなった。制服姿が可愛いと褒めれば、休日だろうと関係なく制服を着てくるようになった。その他の例も挙げればキリがない。そんな彼女の姿に、恐怖にも近い感情を抱くのに大した時間は必要なかった。
 彼女は、自分が言った言葉をすべて実践する。なんの躊躇いもなく、それが当然の義務のように。ならば、最後に残る武部沙織は、本当に自分が惚れた武部沙織なのか―――と。
 もしも、友人たちとの関係をすべて絶ってほしい、と言ったら?もし、戦車道を辞めてくれ、と言ったら?それ以外にも、彼女を構成する要素を変えて欲しいと言ったら―――。
 図らずとも、この不安の一端は先ほど証明されてしまった。彼女は、迷わず捨てる、変える。どれほどそれまで大切にしていたものであろうと。

 「っ、それの何が悪いの!?好きな人のために全部を捧げるなんて当たり前でしょ!?」

 その気持ちは嬉しい。これは確かだ。だがそれ以上に、そんな彼女の愛情を受け止め続ける自信がなかった。自分の言葉でひとりの人間を変えていってしまうことが怖かった。人よりなにか突出したものがあるわけでもない凡人の自分には、彼女と一緒にいることがどんどん苦痛になっていったのだ。

 「……なにそれ。意味わかんない。全然わかんない」

 顔を伏せ、つぶやくように沙織は言った。その通りだ。すべては自分の弱さと身勝手から出た結論だ。この場で何十発殴られようと、共通の友人たちから軽蔑され、絶縁されても文句など言えるはずもない。すべてを受け入れる義務が自分にはあるのだ。


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