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ガルパン みほルートGOODエンド
24
:
名前なんか必要ねぇんだよ!
:2016/10/26(水) 23:02:58 ID:FwICPjhk
【沙織GOODエンド】
なるべく音を立てないよう、ゆっくりとドアを開ける。腕時計の針はすでに10時を回っている。娘はもう夢の中だろう。
「おかえり〜」
玄関に入り鍵をかけたところで、リビングの方から抑え気味の足音とともに声がかかる。一日の楽しみのひとつが、この瞬間だ。
「お疲れ様。先にお風呂にするでしょ?」
カバンと上着を受け取りつつ問いかけてくる彼女―――妻の沙織に肯定の意を返して、浴室に向かう。いつものように、すでにタオルと下着、寝巻きにしているスェットが用意されていた。
入浴を済ませ、少しだけ寝室の戸を開けて我が愛娘の寝顔を眺めてからリビングに向かうと、すっかり食事の支度が済んでいた。いつもながら見事な手際である。出会ってまだ間もない、友人関係だった頃にはじめて食事をごちそうになった時に言った、これならいい嫁さんになれる、という自分の言葉が間違っていなかったことを改めて感じた。―――そのときは顔を真っ赤にした彼女にポカポカ叩かれたのだが。
「もー、あいかわらずカラスの行水なんだから。あの子にいつもしっかり体洗って湯船にもゆっくりつかって温まりなさい、って言ってる私の立場がないじゃない」
そう言いつつもしっかり食事のできるタイミングを合わせてくれるあたり、頭が上がらない。
彼女はそのままテーブルの向かい側、グラスがひとつ置かれた席に腰掛けると、先ほど冷蔵庫から出したばかりの冷えたビール瓶の栓を開ける。すぐにこちらも自分の手元のグラスをそちらへと向け、注がれる黄金色の液体を受け止める。そしてそのまま瓶を受け取ると、沙織のグラスに同じくらいの量を注ぐ。ふたりそろってそこまで酒に強くないので、グラスの半分ほどでちょうどいいくらいだ。
「はい、じゃあ今日もお互いお疲れ様〜」
カチン、とグラスを合わせ、ビールを喉に流し込む。仕事の付き合いで飲むそれとは、何から何まで別物の幸福感に包まれる。
「あの子も頑張って起きてたんだけどねー。さすがに9時半ごろにはダウンしちゃったよ」
苦笑しながら沙織が言う。反抗期はまだ先のようで一安心だが、なかなか家族サービスができない現状ではそれが早まりかねない。
「そうだよー?構ってくれないと私もあの子も拗ねちゃうんだから」
冗談めかして彼女は言うが、父であり夫である自分にとってもはや生きる理由とも言うべき彼女たちから嫌われるのはまさに死活問題である。となればまずは―――。
「だからもっと家族サービスを―――っんむっ」
一瞬の隙を突き、その唇を奪う。ただ触れ合わせるだけのものだが、そこから伝わってくる熱は体と心を満たすには十分だった。
「っぷはっ。もー!急にするのやめてってば!びっくりするでしょー!」
顔を赤くしながらまったく迫力のない怒りを表す沙織。まあ実際は怒ってないことくらいは、夫である自分にはすぐにわかる。
「まったくもぅ……」
口の中でまだモゴモゴと文句を言う妻に、これでしばらくは拗ねられすにすむか、と聞くと、
「……効果は一日限定だから」
と、そっぽを向きながらの返答をいただいた。ならば明日もしっかり励まねば。
「あ、でもあのこの前ではやめてよね!この前だって―――」
そう言ってこれまでの家族サービス―――否、嫁サービスへの文句を並べ始めた。どうやら娘はそれらを目撃したことを近所の友達に話したようで、沙織はママ友の皆様から温かいからかいの言葉をいただいたらしい。思わず吹き出すと、
「もー!本当に恥ずかしかったんだからね!」
うっかりその可愛らしい怒りへの燃料投下になってしまったらしい。しょうがない、この目の前の手料理とグラスに残ったビールを飲み干すまでは聞き役に徹しよう。それまでにその矛を収めてくれることを願いつつ、妻からの愛に溢れた愚痴を賜るのだった―――。
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