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これを魔女の九九というようです
1
:
名も無きAAのようです
:2015/04/28(火) 09:59:57 ID:SOhsxYKs0
汝、会得せよ。
.
71
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:04:11 ID:v1Qmnnm20
(´・_ゝ・`)「いいや別に」
('、`*川「うそつき。主人に歯向かうのね」
(´・_ゝ・`)「それよりご飯はいくつ炊けばいいのかな」
('、`*川「二合」
(´・_ゝ・`)「わかった」
('、`*川「あっ」
待ちなさいこらー!などという言葉を背に浴びながら、僕はキッチンへと逃げ込んだ。
違う話を振るとすぐそれに乗せられてしまうから、彼女のあしらい方はかなり雑であった。
楽でいいのだが。
('、`*川「ちょっと!」
(´・_ゝ・`)「あれ?」
楽じゃなかったようである。
('、`*川「最近わたしの扱い雑じゃない?」
(´・_ゝ・`)「気の所為だよ」
('、`*川「気の所為じゃない」
真っ直ぐな視線が僕を射抜く。
ああ、このままでは負ける。
なぜかとっさにそう思い、僕も見つめ返した。
72
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:04:57 ID:v1Qmnnm20
('、`*川「やっぱり年下にこき使われるのが嫌なの?」
(´・_ゝ・`)「その言葉を使われるほど忙しかったためしはないね」
仕事をしていた時の方がよっぽど忙しかった、と僕は振り返る。
最初こそ慣れない家事に翻弄され、ペニサスに怒られたこともある。
しかし効率よくこなすコツさえ見つけてしまえば、のんびりする時間はいくらでも出来た。
つまり、暇を持て余していた。
('、`*川「むー……」
我に返ると、なにやらペニサスは唸っていた。
どうやらずっと考え事をしていたらしかった。
そしてくるりと背を向け、キッチンを出て行ってしまった。
いまいち何を考えているのか掴めない子である。
とりあえず米を研いでしまおうと、僕が炊飯釜を取り出した時だった。
とたとたと走る音とともに彼女は戻ってきたのだ。
('、`*川「決めた!」
(´・_ゝ・`)「何をだい?」
('、`*川「明日サバトに行く!」
(´・_ゝ・`)「鯖都?」
思わず新鮮な鯖が歩き回る街を思い浮かべる僕に、ペニサスは呆れたような顔をした。
('、`*川「サバトよサバト!魔女の集まり!夜会!」
(´・_ゝ・`)「井戸端会議みたいなものかね」
('、`*川「もっと高尚なものよ!」
73
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:05:49 ID:v1Qmnnm20
ふん、と鼻を鳴らし、それからこう付け加えた。
('、`*川「たぶん」
(´・_ゝ・`)「行ったことないのか」
('、`*川「師匠がダメっていうから……」
(´・_ゝ・`)「怒られるんじゃないのかそれ」
しばしペニサスは考え、真面目な顔をしてこう言った。
('、`*川「バレなきゃ平気よ」
(´・_ゝ・`)「不良だ」
('、`*川「好きに言ってなさい」
ふん、とペニサスは拗ねたように鼻を鳴らした。
(´・_ゝ・`)「君のお師匠さんはさ」
('、`*川「ん?」
(´・_ゝ・`)「どうして君が魔女になることに反対しているんだろうね」
ずっと疑問に思っていたことを僕は口に出した。
ペニサスは一瞬狼狽えたような顔をして、それからこう答えた。
('、`*川「知らないわ」
(´・_ゝ・`)「教えてくれないのか」
('、`*川「うん」
74
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:07:45 ID:v1Qmnnm20
でもね、と言葉は続く。
('、`*川「わたしはあの人の助けになりたいの」
(´・_ゝ・`)「助けか」
('、`*川「……って言ったって、師匠からは絶対魔法のことなんか教えてくれないし。教えてくれる友達もいるけど、その人もたまにしか帰ってこないし」
はあ、とため息が一つ漏れる。
それでも彼女の瞳は力強く光を宿していた。
('、`*川「でもわたしはあきらめない」
(´・_ゝ・`)「…………」
魔女のなにが彼女をそこまで魅了するのだろう。
そこまでの影響を与えた師匠はどんな人物なのだろう。
僕の興味はますます掻き立てられていった。
('、`*川「あー、そうだ」
ふと思い出したようにペニサスは言う。
('、`*川「あとで薬作らなきゃ」
(´・_ゝ・`)「薬?何の?」
('、`*川「いつも持ち歩いてる飴あるでしょ」
ああ、あの不味い飴ね、という言葉は飲み込む。
その代わりに頷いてみせた。
('、`*川「あれ眠気覚ましの薬なの」
(´・_ゝ・`)「へえ」
75
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:08:44 ID:v1Qmnnm20
あれを食べてもなお眠そうに目をこするペニサスの姿を僕は思い出す。
オーバードーズしそうな勢いで貪っても結局うたた寝してしまうのだから、効いているとは到底思えなかった。
('、`*川「あれがないと夜更かしできないのよ。そうしたら、サバトに行けなくなっちゃうでしょう?」
(´・_ゝ・`)「……ペニサスくん」
('、`*川「なあに?」
(´・_ゝ・`)「君はつくづく魔女に向いていないよね」
('、`*川「お黙りっ」
つかつかと詰め寄り、背伸びした彼女は僕の鼻を思いっきりつまんだ。
案外痛くて、僕は思わず声を漏らしてしまった。
(´・_ゝ・`)「悪かったよ」
('、`*川「デミタスなんか嫌い。嫌いったら嫌いよ」
ぶつぶつと呟きながら、彼女は出て行った。
(´・_ゝ・`)「まったく……」
すると再び足音が聞こえてきた。
('、`*川「これ、材料だからあとで棚から出して測っといて」
今度こそ、ペニサスはキッチンから去っていった。
走り書きのメモには、乾燥した馬酔木の花やヒヨスの根など植物の部位が記されていた。
そして僕は気付く。
(´・_ゝ・`)「ごめんペニサスくん、お米いくつ炊くんだっけ」
76
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:09:34 ID:v1Qmnnm20
ペニサスにどやされながら頼まれた用事を終えた僕は、薬作りを見学させてもらうこととなった。
真っ黒な服に身を包んだ彼女の表情は、真剣そのものであった。
('、`*川「わたしがいいって言うまで喋らないで」
分かったという代わりに、僕は頷いた。
手始めにペニサスはちりちりと小さなベルを鳴らした。
それを鳴らし終えると、次は乳鉢にいくつかの種を入れた。
ごりごりと種がすり潰される音がキッチンに響く。
手際よく作業は進み、次に小さな釜の中に潰した種や葉っぱや黒い塊などを入れ始めた。
なにやら小さなボトルをポケットから取り出し、それも加えてしまった。
ボトルの中に入っていたのはとろりとした液体であったが、正体はまったく分からなかった。
ボトルと入れ替わりに、今度は鞘に収まったナイフが出てきた。
凝った装飾が施されたそれで空を切りながら、ペニサスは言葉を紡ぎ出した。
なにを詠っているのか僕にはやはりわからない。
でも鼓膜を心地よく揺らすそれは、非常に穏やかで嫌いではなかった。
ペニサスはナイフをしまい、小さな釜を持ち上げた。
釜が向かった先はコンロだった。
歌は緩やかに、蛇行する川のように遅くなる。
と同時に火がつけられた。
('、`*川「 、 、 ……。 …………」
ちりん、ちりん。
ぐつり、ぐつり。
呪文は止み、ベルの音と釜が煮えかける音がキッチンを支配する。
僕は夢から醒めたような、不思議な気分になった。
('、`*川「もう喋ってもいいわ」
(´・_ゝ・`)「お疲れ様」
77
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:10:18 ID:v1Qmnnm20
労いの言葉に、ペニサスは一瞬驚いたような顔をした。
そして照れ臭そうに、短く礼を言った。
(´・_ゝ・`)「ところでさ」
('、`*川「うん?」
(´・_ゝ・`)「どうして魔女の言葉というのは、聞き取りにくいのかね」
僕の質問にペニサスは、しばし考え込んだ。
どうやって説明しようかを悩んでいるようだった。
('、`*川「呪文って実は祈りの言葉なの」
(´・_ゝ・`)「祈りか。誰に向けて願うんだい?」
('、`*川「力を貸してもらえそうなありとあらゆるものによ」
祈りというのは髪の毛よりも細い糸のようなものだと彼女は言う。
人一人が紡ぐそれは非常に脆い。
しかしあらゆる万物や現象に語りかけることで、その祈りの数を増やしていくのだという。
('、`*川「あらゆる境界線を知れば、その分わたしたちが認識できる他物は増えていく。知らなければそれに語りかけることはできないの」
(´・_ゝ・`)「知らなければいないのと一緒というわけか」
('、`*川「そういうこと」
(´・_ゝ・`)「じゃあ僕の時はなんて祈ってたんだい?」
するとペニサスは苦笑した。
78
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:11:04 ID:v1Qmnnm20
('、`*川「教えられないわ」
(´・_ゝ・`)「どうして?」
('、`*川「相手に知られてしまうとどんなに強い魔女でもその魔法を解くことは出来なくなるの」
(´・_ゝ・`)「まるで呪いだな」
('、`*川「まじないものろいも本質は同じよ」
多数の祈りが少数を飲み込むのなんてわけのない事だという。
その間に魔女が入ることで祈りを淘汰し、効きすぎないようにセーブするのだそうだ。
(´・_ゝ・`)「なるほど」
('、`*川「わかった?」
(´・_ゝ・`)「大体はね」
それよりも僕は気になることがあった。
(´・_ゝ・`)「ところでペニサスくん」
('、`*川「なに?」
(´・_ゝ・`)「これ本当に大丈夫なのかい」
79
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:11:44 ID:v1Qmnnm20
思わず釜を指差してしまった。
ありえない色合いの泡を噴き出しながら煮えるそれは、まさしく毒物であった。
('、`*川「大丈夫よ」
なんだそんなことかと言わんばかりのペニサスに、
(´・_ゝ・`)「あ、そう」
としか返せなかった。
一度はこの液体が凝り固まった物体を食べてしまったんだよな、と僕は暗い気持ちになった。
('、`*川「どうしたの?」
(´・_ゝ・`)「どうもしないよ」
もう二度とペニサスの勧めるものは食べるまいと僕は心に決めたのだった。
80
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:13:01 ID:v1Qmnnm20
薬が完成した後、慌ただしく食事と入浴を済ませてペニサスは床に就いた。
明日のサバトに備えてなるべく多く寝ようという魂胆であった。
一方僕はまったく眠れず、こまめに寝返りをうっていた。
生きていた頃は睡眠時間が全くとれず、四時間寝れば十分といった暮らしぶりだった。
しかし今は日付が変わる前に寝る体制が整ってしまう。
くわえてそれほど忙しくもないので、全く疲れなかった。
眠くなるわけがなかった。
(´・_ゝ・`)「はあ」
時刻は九時半過ぎ。
いつもならペニサスと一緒に風呂上がりのアイスをつつく頃合いだ。
特に会話もしないが、誰かがそばに居るだけでなんとなく安心感があった。
こういう時に限って、どうしてか人恋しく思っていた。
今まで一人で暮らしていたというのに、なぜ。
ごろんと再び寝返りを打つ。
衣擦れの音がやけに響く。
カチカチと時計の針が進む。
時間を無為にしているような気がした。
体が空虚に感じられる。
急き立てられるような気配によって胸の奥が焦土と化す。
僕はまた寝返りを打った。
私物が入った段ボール箱が目に入る。
住んでいた部屋から持ってきたものだ。
しかしこれといって、持っていきたいと思うものは少なかった。
まさか一箱で済んでしまうとは僕も思っていなかったのだが。
(´・_ゝ・`)「ああ」
81
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:13:56 ID:v1Qmnnm20
思わず声が漏れる。
カーテンを引いているのに、蔓に覆われているのに、窓から月光が射してくる。
白く、柔らかく、全てを暴くような月光。
こんなにも月は明るいものだっただろうか。
昔からそうだったのだろうか。
僕は全く、知らなかった。
ちなみに僕の寝床は居間である。
ペニサスが簡易ベッドを空いているスペースに設置してくれたのだ。
白家具で統一された部屋に、黒い鉄パイプベッド。
せっかく綺麗に誂えてあったのに、台無しであった。
かといってまさかペニサスの部屋に泊まりに行くわけにも行かないのだが。
(´・_ゝ・`)「…………」
軽く目を瞑る。
全てを遮断しようと試みた。
真っ暗だ。
何も見えない。
かつかつと靴音が聞こえる。
反射し、響いて、何人も歩いているような錯覚。
でも錯覚なのだ。
僕はこの音をよく知っている。
あのトンネルの中を歩いているとこんな風な音がするのだ。
僕は一人だ。
一人で歩いている。
エンジン音が遠くからやってくる。
加速してやってくる。
僕を殺しに、やってくる。
82
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:14:44 ID:v1Qmnnm20
あっという間にその時は訪れた。
僕の体は宙に舞い、壁へと激突した。
骨が折れる。
血が垂れる。
息を吐き切ったきり、吸うことができない。
息苦しい。
僕はまた死んだのか?
「おい」
と声がする。
無様に転がる体が持ち上げられる。
(,,゚Д゚)「てめぇなんか死んじまえばよかったんだ」
ギコくん、と呼びかけようとした。
しかし喋ることはできない。
僕は死んでいるからだ。
(,,゚Д゚)「くたばれ」
くたばっているよ。
(,,゚Д゚)「死に損ないが」
そうだね。
(,,゚Д゚)「二度と俺を苦しませるな」
そんなつもりはなかったんだ。
83
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:15:37 ID:v1Qmnnm20
(,,゚Д゚)「死ね」
うん。
(,,゚Д゚)「偽善者が」
本当に、すまなかったよ。
(,,゚Д゚)「みんなてめぇを見下してんだよ、クソ野郎が」
そうかもしれないね。
僕は、どうしようもない人間だったんだ。
体にナイフが埋もれていく。
何本も何本も。
それが誰の手によるものなのかはわからない。
わからなくてもよかった。
ただ奇妙なことに、責められると楽だった。
善人であろうとするには相当な労力がいるのに、こうしているととても心地よく感じられた。
もうクズでもバカでもいいのかもしれない。
僕はもう––––。
……?
「…………、デミタス!」
と、その時声がした。
84
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:16:21 ID:v1Qmnnm20
(´・_ゝ・`)「……うん?」
浅い眠りから覚めると、ペニサスがそばにいた。
('、`*川「寝てた、よね……?」
(´・_ゝ・`)「いや、うとうとしてた」
あまり眠れなくて、と欠伸しながら答えるとペニサスは少しホッとしたような顔をした。
('、`*川「わたしも眠れないの」
(´・_ゝ・`)「夜更かしが苦手な君が?」
茶化すように言うと、
('、`*川「そうね」
と素っ気なく返事が返ってきた。
どうやら真面目に悩んでいるようだった。
(´・_ゝ・`)「それで、何をしに来たんだい」
('、`*川「眠くなるまで話をしていたいの」
(´・_ゝ・`)「ああそう」
僕は体を隅に寄せた。
あまり広くないベッドだが、まぁなんとか寝れなくはないだろう。
などと考えていたのだが、ペニサスはキョトンとした顔でそれを眺めていた。
85
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:18:23 ID:v1Qmnnm20
('、`*川「え、一緒に寝るの?」
(´・_ゝ・`)「今はまだ暖かいけど段々これから冷えるから風邪ひくよ」
('、`*川「いいわよ、そんな……」
(´・_ゝ・`)「風邪引いたらサバトに行けなくなるかもしれないよ」
実際今日の彼女は薄手のTシャツであった。
ここ最近陽気が良かったので、あの着ぐるみは仕舞ってしまったのだろう。
ペニサスはしばし考え、体を動かした。
('、`*川「狭くない?」
(´・_ゝ・`)「僕は平気だけど、嫌なら床で寝るよ」
('、`*川「寝なくていい」
風邪引くといけないから。
背を向けて、小さく言葉が返ってきた。
僕もそれに習って背を向けることにした。
あまり他人の背中をじろじろ見るのも失礼だろう。
('、`*川「デミタス」
(´・_ゝ・`)「なんだい」
('、`*川「デミタスにも怖いものはあるの?」
86
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:19:13 ID:v1Qmnnm20
(´・_ゝ・`)「あるよ」
('、`*川「あるの?」
(´・_ゝ・`)「僕だって人間だよ。もう死んでるけどさ」
('、`*川「ふうん」
一瞬の沈黙。
ペニサスの呼吸だけが聞こえる。
浅く息を吸って吐く音だけが。
('、`*川「実は」
(´・_ゝ・`)「実は?」
('、`*川「……サバトに行くのが怖いの」
師匠と友達以外の魔女に会ったことがないのだとペニサスは言う。
彼女の知識は書庫にある本と師匠から聞いた一握の話だけ。
どんな魔女がいるのか、果たして師匠に認められなかった自分を彼らは受け入れてくれるのか。
('、`*川「今までは師匠に追いつこうとするのに必死で、そんなの考えたこともなかった」
ゆっくりと、息が吐き出される。
憂いを含んだそれは部屋に淀み、僕らを取り囲む。
僕はなんとなく片手を振り回した。
散り散りになって消えてしまえばいいと思った。
('、`*川「デミタス?」
(´・_ゝ・`)「いや、少し暑くなったような気がして」
87
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:21:56 ID:v1Qmnnm20
適当なことを言って誤魔化す。
納得したかどうかはわからない。
彼女はなにも言わないからだ。
('、`*川「…………デミタスが怖いと思うものって、なに?」
(´・_ゝ・`)「今度は僕か」
('、`*川「いつも飄々としてるし、なに考えてるかわからないもの」
(´・_ゝ・`)「…………」
そんな風に思われていたのか。
少しショックだったが、思い返すとそうだったかもしれない。
彼女の前で笑ったことも怒ったこともない。
ただペニサスに言いつけられた通りに仕事をして、決まった時間に食事を摂っていただけだった。
そこに会話はない。
僕もまたペニサスがなにを考えているのかわからなくて、なにもしなかった。
……いや違う。
怖かったのだ。
ちょっとした立ち振る舞いが、他人にどう受け止められるのかが。
優しくしたつもりが、相手にとって不服だったら?
または傷付けてしまったら?
他人が僕の挙動をどう見ているのか、考えているのか。
その恐怖はだんだんと僕の手足を拘束し、脳に染み込んでいった。
('、`*川「デミタス?」
魔女の声が聞こえる。
88
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:24:05 ID:v1Qmnnm20
(´・_ゝ・`)「僕は他人が怖いよ」
('、`*川「怖いの?」
(´・_ゝ・`)「僕の行動の一つ一つが他人にどう思われているのか、すごく怖いよ」
告白と共に、毒を吐瀉したような気分になった。
自覚すればするほどその毒は溢れ、僕の体はますます重くなった。
('、`*川「そんなこと考えてたの?」
そんなこと、と一蹴されてしまった。
君にとっては些細なのかもしれないけど、僕にとっては深手なんだよ。
と口から出掛けて飲み込んだ。
怒るかもしれないと思ったからだ。
('、`*川「あ、今なんか言いかけてやめたでしょ」
バレている。
(´・_ゝ・`)「何故、そう思ったんだい」
('、`*川「そういう時って臆病になるから」
がさごそともがく音。
寝返りを打ったのかもしれない。
僕は振り向けずにいた。
('、`*川「わたしが魔女になりたいと師匠に言った日、」
(´・_ゝ・`)「…………」
('、`*川「すごく怒られたわ」
89
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:25:30 ID:v1Qmnnm20
『どうしてそんなことを言うんだい。君は、ただ生きているだけでいいのに』
そう言われた瞬間、ペニサスは憧憬や願望を持つことが悪い事なのかと悩んだ。
どうして魔女になってはいけないかを問うても、師匠は口を噤むばかり。
けれどもどうしても助けたかった。
師匠は世界中の不幸を摘み取ろうとしているのだそうだ。
無数に散らばる全ての不幸を。
('、`*川「みんなに幸せでいてほしいって、師匠は言うけど。でも、帰ってくるとすごく疲れた顔をしてる時があるの」
(´・_ゝ・`)「つまり君はお師匠さんの幸せを願っているんだね」
('、`*川「うん」
(´・_ゝ・`)「いい子だね、ペニサスくんは」
('、`*川「でも魔女になることで師匠を不幸にするのかなとも思うの」
(´・_ゝ・`)「だけど君は師匠のためになにかしたいんだろう?」
('、`*川「そうね」
(´・_ゝ・`)「生きているだけでいいなんて、ずっとそのままそこで留まるのは無理だよ。ペニサスくんは若いんだし先があるんだから、やりたい事なんて幾らでも思いつくだろう」
そういえば、と僕は聞きそびれていたことを思い出した。
(´・_ゝ・`)「ペニサスくんは一体いくつなんだい?」
('、`*川「…………」
ペニサスは黙してしまった。
もしかして聞いてはいけないことだったんだろうか。
背中をつぅっと冷や汗が流れた。
90
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:26:20 ID:v1Qmnnm20
('、`*川「実は、わからないの」
(´・_ゝ・`)「え?」
予想外の返答に僕は戸惑う。
('、`*川「記憶喪失なの。師匠に拾われる前のことはさっぱり覚えてなくて」
(´・_ゝ・`)「ああ……。てっきり長生きしすぎて年がわからないとかそういうのかと」
('、`*川「勝手におばさんにしないでよ」
(´・_ゝ・`)「ぐぇっ」
背中を勢いよく蹴飛ばされ、思わず噎せる。
('、`*川「というか、他人が怖いって言う割には遠慮がないよね!」
(´・_ゝ・`)「いだだだ、痛いよペニサスくん」
先ほどよりは軽い蹴りが僕を襲う。
掛け布団がもみくちゃになり、ずれて、床へ吸い込まれていった。
かわりに凛と冷えた空気が落ちてきた。
(´・_ゝ・`)「ああもう、埃だらけになっちゃうよ」
('、`*川「じゃあ明日掃除してよ」
(´・_ゝ・`)「君が散らかしたのに」
('、`*川「でもあなたが使い魔なのよ?」
(´・_ゝ・`)「職権乱用だ」
91
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:27:09 ID:v1Qmnnm20
ふざけた会話をしていくうちに、僕は一つ気付いたことがあった。
ペニサスはとても素直だ。
建前もなにもなく、いつだって本音で僕にぶつかってくる。
だからどうしても、からかいたくなってしまうのかもしれない。
それがとても楽しくて仕方がなかったのだ。
(´・_ゝ・`)「やれやれ」
僕は落ちた布団を拾いに起き上がった。
気付けば月光はさらに青白さを増していた。
(´・_ゝ・`)「今日の満月はずいぶん大きいね」
思わず口に出すと、ペニサスが答える。
('、`*川「満月は明日よ。今日は小望月」
(´・_ゝ・`)「そうなの?」
('、`*川「サバトは満月の夜に開かれるんだって」
ベッドから降りて、ペニサスは窓へと近付いた。
鍵が外され、カラカラと窓が開かれる。
甘ったるい花の匂いが部屋に雪崩れ込んだ。
ペニサスはほんの少し蔦をどけて、手招いた。
('、`*川「ほら、見て。ほんの少しだけ欠けてるでしょ」
(´・_ゝ・`)「……わかんないな」
92
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:28:19 ID:v1Qmnnm20
('、`*川「えー、わかんないの?」
(´・_ゝ・`)「うん」
('、`*川「老眼?」
(´・_ゝ・`)「老眼は近くが見えなくなるんだよ」
('、`*川「そうなの?」
(´・_ゝ・`)「きっと僕のは仕事でパソコンとにらめっこしてたから、目が悪くなったんだよ」
('、`*川「ふーん」
そのまま僕たちは、ずっと話をしていた。
真っ黒な空が瑠璃色に変わっても、月が薄ぼけても、ペニサスに眠気は訪れなかった。
結局、彼女が眠くなり始めたのはすっかり夜が明けてしまった頃だった。
('、`*川「夜の九時までには起こしてね……」
そう言い残して、ふらついた足取りでペニサスは部屋へと戻っていった。
僕もまた眠気に襲われ、ベッドに突っ伏した。
そして起きた頃には、夜の十時を少し過ぎていた。
93
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:30:17 ID:v1Qmnnm20
('、`*川「デミタスのバカ」
(´・_ゝ・`)「すまなかった」
('、`*川「アホ」
(´・_ゝ・`)「まさか寝過ごすとは思わなくて」
('、`*川「オタンコナス」
(´・_ゝ・`)「だからごめんって」
('、`*川「ドテカボチャ」
(´・_ゝ・`)「ずいぶん懐かしい罵り言葉だねそれ」
('、`*川「うどんで首吊って死んじゃえ」
(´・_ゝ・`)「うどんが勿体無いよ」
ふざけているように見えるが、必死であった。
僕はきいきいと音を立てながら自転車を漕いでいるし、ペニサスは振り落とされまいと必死にしがみついていた。
そろそろ太ももが限界であった。
しかし漕ぐのを止めるわけにはいけなかった。
昨日の話を聞いてしまったら、彼女の決断をふいにするわけにもいかなかった。
('、`*川「次の角を右!」
吹き荒れる春風に、彼女の声が巻き上げられる。
僕はそれに従ったが、もはやどこをどう走っているのかわからなかった。
今まで何回も細かく角を曲がり続けていたからだ。
ただ何故か、人にも車にも出会うことはなかった。
路地にも大きな通りにも、だ。
一人くらい見かけても不思議ではないはずなのだが。
94
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:31:31 ID:v1Qmnnm20
('、`*川「そのままずっとずっと真っ直ぐ走って!」
(´・_ゝ・`)「はいはい」
それなら楽である。
二人乗りしている自転車を倒さずスピードを落とさずに曲がるのは難しいのだ。
暗闇を煮詰めたような色のアスファルトは街灯に照らされていた。
ずっとずっとそれは続いていて、こんなに長い道があるんだろうか、と思い始めていた。
そういえば分岐も十字路もなにもない。
ふと顔を上げて、周りの家を見まわそうとした。
しかしそこには、灰色の塀が立ちはだかっていた。
天まで届きそうな高さのそれによって、空が切り取られている。
見たこともない大きさの月が、僕たちを見下ろしていた。
薄ら寒さを感じ、僕は真正面を見据えることにした。
(´・_ゝ・`)「うわ、」
強烈な風が駆け抜け、自転車が揺れる。
なんとか体勢を整える。
再び風が吹く。
今度は無数の紙を孕んだ紙だ。
極彩色の服に身を包んだマネキンのチラシ。
小さな硝子に根を生やす植物の絵。
こちらに笑いかける少女と「探しています」の文字。
箱に納められた箱の中から更に箱が納められている箱の写真。
様々な情報が僕の網膜を焼いていく。
(´・_ゝ・`)「っ!」
('、`*川「ひゃっ!」
ガタンと自転車が揺れる。
95
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:33:58 ID:v1Qmnnm20
いつの間にかアスファルトは消え去り、砂利道と化していた。
思わずパンクの心配をしてしまうほどの悪路は思ったより短く終わった。
でもまだその方がマシだったかもしれないと僕は思った。
いかにも滑りそうな、赤茶けた地面の下り坂が待ち受けていたのだ。
(´・_ゝ・`)「待て待て待て」
僕は、ジェットコースターが大っ嫌いである。
幼少期に親父に乗せられて以来、もう二度と乗るものかと誓ったのだ。
それがどうして、自転車で再現されなければいけないのか!
(´・_ゝ・`)「……………………」
僕は悲鳴の一つも出せないまま、坂を下った。
なされるがままである。
後ろでペニサスがなにか叫んでいるような気がしたが、聞き取る余裕などなかった。
がっ、ごんっ!!!
勢いよく自転車が着地する。
君も大変だね、こんな目に遭うと思わなかっただろう。
なんてことを考えながら、無意識に自転車を漕ぐ。
気付けば道は消え失せていた。
その代わりに両側から現れた躑躅の木にはさまれていた。
鮮やかな桃色の花は、僕たちを押し潰さんばかりの勢いで咲き誇り、ギリギリまで迫る。
「……ヒータ パッサチーマ フィーラ フィーラ !」
「ヤッアヒータ パッサチーマ フィーラ フィーラ!!」
(´・_ゝ・`)「フィーラ、フィーラ?」
96
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:35:32 ID:v1Qmnnm20
終わりは唐突にやってきた。
躑躅の花が竜巻のように集まり、僕たちの前に立ちはだかった。
从 ∀从「上出来!上出来!!」
それはあっという間に人の形を成した。
緑がかった闇色の別珍で出来たドレスを纏ったその女は、にっこりと微笑んで見せた。
从 ゚∀从「ようこそ、サバトへ!」
躑躅と同じ色の瞳が僕を貫く。
目が合ったのはほんの一瞬だ。
しかしその僅かな時間で、人定めをしているのがわかった。
从 ゚∀从「随分デカい猫だね」
('、`*川「猫じゃないわ、死体なの」
自転車から降りたペニサスに、躑躅の魔女は桃色の髪を揺らした。
从 ゚∀从「ハッハー! ちょっとした言葉遊びだよお嬢ちゃん!」
彼女はペニサスの手を取ると、さっさと歩き始めた。
从 ゚∀从「よくここまで来たね。あんなの無鉄砲か馬鹿しか乗らないぜ」
97
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:36:16 ID:v1Qmnnm20
(´・_ゝ・`)「彼女は箒に乗れないんだよ」
从 ゚∀从「だろうな。アタシも乗れねえもん」
('、`*川「乗れないの?」
从 ゚∀从「向き不向きがあるんさね。アタシは盥が一番安定して遠くまで飛べるよ」
体育座りで盥の中に収まる様を想像して、僕は笑いそうになった。
まさか初対面の相手にそんな失礼なことをするわけにはいかないので、頰を噛んで凌いだが。
从 ゚∀从「ま、チャリはおよしよ。せっかく魔女になるんだったら人間の移動道具なんか使っちゃいけないよ」
('、`*川「知らなかったのよ、箒以外にも空を飛べる道具があるなんて」
从 ゚∀从「誰か教えてくれる奴はいないのか?」
('、`*川「いるけど、でも……」
さあ着いた、と躑躅の魔女はペニサスの手を離す。
そこはどうやら、教会のようだった。
すっかり朽ち果てているが、屋根の天辺についた十字架で僕はそう判断した。
潰れた教会が魔女の集まりになっているとは、なんとも皮肉であった。
〈::゚-゚〉「それが例の魔女かい?」
角ばった顔の魔女が、くぐもった声でしゃべった。
よく見ると顔は石で出来ていた。
いや、顔ばかりではなく体も石であった。
真っ黒なローブから見えた手はキラキラと輝きを放っていた。
どうも水晶かなにかで出来ているようだった。
从 ゚∀从「そうそ、さぁ自己紹介をどうぞ。お嬢さん」
98
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:38:21 ID:v1Qmnnm20
恭しく、滑稽な言い回しで躑躅の魔女は頭を下げた。
ペニサスは戸惑ったように一歩前へと出た。
('、`*川「ペニサス、です。彼はわたしの使い魔のデミタス」
軽く会釈をすると、石の魔女はじっと僕は見つめた。
〈::゚-゚〉「死体か」
(´・_ゝ・`)「轢き逃げされたところをペニサスくんに見つけてもらいましてね」
〈::゚-゚〉「そりゃおもしれえ」
石の魔女は目を細めてそう言った。
('、`*川「えっと、ほとんど独学で勉強してるのであんまり魔法は使えないです」
〈::゚-゚〉「師匠抜きで勉強してサバトに来れるなんて大した奴だね」
('、`*川「そんな、わたしなんて……」
从 ゚∀从「こいつなんて途中の道でビビって帰っちまったんだぜ」
〈::゚-゚〉「それを言うならお前だって行き方を間違えて三ヶ月は出そびれたじゃねえか」
('、`*川「あ、あの……」
从 ゚∀从「要するに一発で来れたペニサスはスゲーってことだよ」
躑躅の魔女の褒め言葉に、ペニサスは複雑そうな顔をした。
('、`*川「わたしはすごくないです。運転したのはデミタスだし……」
(´・_ゝ・`)「でも地図は君が持ってたじゃないか」
〈::゚-゚〉「地図?」
从 ゚∀从「んー? 独学だったんじゃねえの?
('、`*川「独学といっても、師匠の書庫から本を読んでて……」
99
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:39:49 ID:v1Qmnnm20
〈::゚-゚〉「その人に教えて貰えばいいのに」
('、`*川「師匠からは魔女にならなくていいって言われてて……」
从 ゚∀从「へえ、じゃあアタシから一発ガツンと言ってやるよ!」
その言葉にペニサスは慌てたように首を振った。
('、`*川「そんな、いいです!」
从 ゚∀从「よくねーよ」
〈::゚-゚〉「もしかしたらその才能に嫉妬してるのかもね」
('、`*川「で、でも」
〈::゚-゚〉「いいかいお嬢ちゃん」
石の魔女は優しく語りかける。
〈::゚-゚〉「実は今日、ここでのサバトはないんだ」
('、`*川「え」
从 ゚∀从「今日は何日?」
('、`*川「四月の、三十日」
〈::゚-゚〉「その日から明日にかけて、ドイツで大規模な祭があるのさ」
从 ゚∀从「ヴァルプルギスの夜ってやつだね」
('、`*川「ヴァルプルギスの夜……!」
100
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:41:24 ID:v1Qmnnm20
しまった、というような表情でペニサスは言った。
(´・_ゝ・`)「悪いんだけどもそのナントカの夜ってなんだい?」
('、`*川「春の訪れを祝うお祭よ……」
気の抜けたような声で、ペニサスは答える。
('、`*川「魔女にとっては大事なお祭だから、日本にいる魔女もみんなそこへ行くんだわ……」
从 ゚∀从「そーゆーコト」
(´・_ゝ・`)「でもなんで貴女がたはここに?」
〈::゚-゚〉「体そのものはドイツにいるんだけどもね、魔法でこちらに魂を投影させているのさ」
从 ゚∀从「こいつが占いで『偉大なる才能現る』って出したからな。抜け駆けしてこっちにきたってわけよ」
つまり大事な祭よりもペニサスのほうがよっぽど物珍しいということだ。
(´・_ゝ・`)「ペニサスくん、僕にはさっぱりわからないけど凄かったんだね君は」
('、`*川「そうなのかなぁ」
自信なさげにペニサスは返す。
いつもより元気がない。
師匠のことを考えているのだろうか。
从 ゚∀从「卑下すんなよ。普通一人じゃ猫一匹だって使い魔にできる魔女なんざいねえんだぜ?」
〈::゚-゚〉「だから教えておくれ。頑固な師匠を説得したくなるほどの力が君には秘められているんだよ」
('、`*川「…………」
101
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:42:19 ID:v1Qmnnm20
しばし考え、ペニサスは口を開いた。
('、`*川「ショボンさん」
从 ゚∀从「…………」
〈::゚-゚〉「…………」
サァッ、と風が吹いた。
先ほどまでの涼やかな風ではない。
生暖かく、ゆっくりとすべるような風だ。
〈::゚-゚〉「…………あいつか」
石の魔女がようやくそう呟いた。
その声はとても暗く、どこか敵意が込められていた。
从 ゚∀从「……なぁ、ペニサス。アタシんとこに来ないか? アタシだったら意地悪しないでいくらでも教えてやるよ!」
('、`*川「でも、」
从 ゚∀从「はっきり言うけど、あいつはお前が思ってるような奴じゃねえよ」
('、`*川「!!」
その瞬間、ペニサスは躑躅の魔女へと詰め寄った。
('、`*川「あの人のこと、そんな風に言わないで!!」
从 ゚∀从「で、でも」
102
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:43:25 ID:v1Qmnnm20
(´・_ゝ・`)「ペニサスくん!」
僕は振り上げた手を掴み、躑躅の魔女からペニサスを引き剥がした。
ひんやりとした熱が僕の手に伝わる。
('、`*川「離して!」
(´・_ゝ・`)「駄目だ」
('、`*川「でも!」
(´・_ゝ・`)「少し落ち着きなさい。君はお師匠さんのことをどれだけ知っているのかな?」
('、`*川「会ったこともないくせにデミタスも師匠のことを悪く言うの?」
(´・_ゝ・`)「そういうわけじゃないさ」
('、`*川「だったら……」
(´・_ゝ・`)「魔女になるなという理由も知らずに、君はお師匠さんの擁護をするのかい?」
('、`*川「っ…………」
反論できず、ペニサスは僕から視線を逸らした。
硬く握り締められていた拳が緩められ、僕は手放した。
从 ゚∀从「悪かったよ……」
('、`*川「…………」
うつむいたままのペニサスは返事をしなかった。
完全にふてくされていた。
103
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:44:18 ID:v1Qmnnm20
〈::゚-゚〉「誤解しないでくれ、僕たちは君のためを思って……」
「そう思ってるならほっといてくれない?」
その声は、聞いたことのないものだった。
ペニサスは顔を上げた。
二人の魔女はハッとした表情で、口を噤んだ。
見る見る間に人型が崩れていく。
がらがらと、はらはらと。
躑躅の花と石の山を残し、二人は消え去ってしまった。
(´・_ゝ・`)「今のは……」
誰の声、と言う前にその声は再び聞こえた。
「久しぶり、ペニサスちゃん」
石と躑躅を踏みつけ、その女性は現れた。
ζ(゚ー゚*ζ「いい子にしてた?」
三日月のように細められる目と釣り上がる口。
二つに分けられた長い黒髪が風に揺れている。
赤、白、黄色のシフォンが幾重にも重ねられたスカートもそれにつられ、ふんわりと空気を含んだ。
('、`*川「デレさん……」
そう言うペニサスの口調は、どこか陶酔めいていて。
僕はこの子をしっかり見ていなければ、という気持ちになった。
104
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:45:24 ID:v1Qmnnm20
三をただちに作れ、しからば汝は富まん 了
.
105
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:48:13 ID:v1Qmnnm20
登場人物紹介
(´・_ゝ・`) 盛岡 デミタス
絶叫マシンなんかクソ食らえ。好きな乗り物はデパートの屋上にある謎のパンダ
('、`*川 ペニサス
遊園地に行った記憶がない。憧れの乗り物は観覧車
从 ゚∀从 躑躅の魔女
遊園地よりも植物園に行きたい。石の魔女との付き合いは長い
〈::゚-゚〉 石の魔女
遊園地よりも家にいたい引きこもり。こう見えても男である
ζ(゚ー゚*ζ デレ
好きな人と一緒ならどこでも楽しい。たとえそこが地獄だとしても
106
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 17:49:01 ID:v1Qmnnm20
>>64
素敵な支援絵ありがとうございます!
ペニサスがめちゃくちゃかわいいです
本当にありがとうございます
107
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 18:23:34 ID:l2SBRgNw0
乙
面白い
108
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 19:50:54 ID:4s6L21DM0
乙
どんどん面白くなるな
109
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 20:17:27 ID:f3fz0nrk0
いいなあ 乙
110
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 20:21:16 ID:WKqBLBzs0
いいねいいね!
デレの自己紹介がサラリと怖い
次も楽しみにしとる!
111
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 22:22:56 ID:TbZwQz/YO
乙!今回も面白かったよ。
師匠ってショボンだったのか…
続きが気になるな
112
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 22:37:31 ID:UHZACrIM0
ぃしみたいな男性の魔女がいるってことはこの作品では魔女の定義に性別は含まれないのか
113
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 22:51:44 ID:LdM7iu/I0
いや女だろ
114
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 22:52:36 ID:LdM7iu/I0
男だった訴訟
115
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 23:03:04 ID:ZAUSBv0Q0
乙乙、今回も面白い
こんな時間にメンチカツが食べたくなった
116
:
名も無きAAのようです
:2015/05/08(金) 23:53:32 ID:aYhS1wFQ0
乙
良い雰囲気だ
117
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 04:08:12 ID:dxVzL4bA0
初めて読んだけど面白い!
乙です
118
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 12:29:53 ID:iiVptxPU0
四は捨てよ
.
119
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 12:30:52 ID:iiVptxPU0
ζ(゚ー゚*ζ「こんな所で何してたの?」
緩やかに微笑みながら、デレと呼ばれた魔女はペニサスに問うた。
深海のような淀んだ青い瞳が僕らを射抜く。
ペニサスは一歩後退り、少し俯いた。
('、`*川「え、えっと……」
ζ(゚ー゚*ζ「サバトは楽しかった?」
言い淀むペニサスに、デレは言葉を突き刺す。
石と躑躅の山から飛び降り、彼女は近付いてくる。
ワンピースの裾がゆわゆわと揺蕩う。
赤、白、黄色。
目眩がするほどの派手な服。
まるで歩くチューリップ畑のようだと僕は思った。
ζ(゚ー゚*ζ「悪い子ね、魔女になってはいけないとあんなにも言われているのに。もしかしたらショボンは怒っちゃうかもね」
('、`*川「…………」
ζ(゚ー゚*ζ「いいなぁ、ショボンに怒られるなんて。わたし怒られたことないのよ」
饒舌な魔女は、唐突に首の向きを変えた。
細い針のような視線は一転して、拡大鏡のように変わった。
ζ(゚ー゚*ζ「この人はだぁれ?」
('、`*川「……デミタス、さん」
遠慮がちに名前を呼ばれ、僕はデレに向かって会釈をした。
120
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 12:32:06 ID:iiVptxPU0
(´・_ゝ・`)「はじめましてデレさん」
ζ(゚ー゚*ζ「呼び捨てでもいいわよ、見た目ではあなたの方が年上だもの」
なにやら意味深なことを呟き、うふふとデレは笑みを漏らした。
ζ(゚ー゚*ζ「出来立てほやほやの使い魔さんなのね。ドクオと一緒だわ」
('、`*川「ドクオ?」
ζ(゚ー゚*ζ「新しく使い魔を作ったの。半年前にね」
おいでと呼ばれ、それはデレの背後から顔を出した。
浅黒い肌に闇色の大きな目。
この世の不幸を煮詰めたようなひどい顔つき。
子供ほどしかない背丈。
折れ曲がった腰の男は、ゆっくりと口を開いた。
('A`)「ア、ぁ」
絞り出すような、しゃがれた声。
僕は思わず眉間にシワが寄った。
デレはそれに気付かず、ドクオに語りかける。
ζ(゚ー゚*ζ「見て、ドクオ。こっちがペニサスちゃんで、あっちはデミタス」
('A`)「ぁ、ギィ、ぺにさス、デミたす?」
ζ(゚ー゚*ζ「そうよ」
121
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 12:33:35 ID:iiVptxPU0
ドクオがじろじろと僕を見る。
それこそ頭の天辺から、爪の先まで。
そして飛び出てきた言葉は、
('A`)「ウまソウ」
であった。
(´・_ゝ・`)「えっ」
('、`*川「た、食べちゃダメよ!」
すると今度は慌てて言うペニサスに視線が移った。
('A`)「…………」
('、`*川「な、なによ」
('A`)「オマえも、う、ゥマ、うまそ」
それを聞いてデレはケタケタと笑い声を上げた。
ζ(゚ー゚*ζ「この子、もとはオオグソクムシなの」
('、`*川「おおぐそくむし?」
(´・_ゝ・`)「日本の深海に棲むダンゴムシやフナムシの仲間だよ。極めて雑食で海の掃除屋と言われているとか」
('、`*川「フナムシ……」
ペニサスは苦虫を噛み潰したような顔をした。
彼女に見つめられたドクオは、引きつったような笑顔を浮かべた。
あまり好意的に受け止められる表情ではなかった。
122
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 12:35:02 ID:iiVptxPU0
ζ(゚ー゚*ζ「頭がいいのね、ちゃんとあなたのこと死体だって認識してるもの」
('A`)「うァ」
デレに頭を撫でられ、ドクオは呻いた。
嬉しいのか不愉快なのか判断のつかない、人を不安にさせる声だった。
('、`*川「わたしは死体じゃないですー」
困ったようなペニサスの声に、デレは答える。
ζ(゚ー゚*ζ「そうだったわね、きっと柔らかそうなお肉だからじゃないかしら?」
デレの笑いはなかなか止まらない。
ペニサスのふくれっ面がかなり酷くなったところで、それはようやく収まった。
(´・_ゝ・`)「オオグソクムシかぁ……」
二人のやりとりを横目で見つつ、僕はドクオを眺めていた。
たしかに言われてみれば似ている。
ζ(゚ー゚*ζ「カフカみたいでしょ?」
(´・_ゝ・`)「グレゴール・ザムザか」
ζ(゚ー゚*ζ「どくむしから人に変わったから逆だけどね」
(´・_ゝ・`)「あなたの魔法でこの姿に?」
ζ(゚ー゚*ζ「ええ、でもここでお話するには長くなるわ。一度お家に帰りましょう?」
123
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 12:35:50 ID:iiVptxPU0
その言葉を聞き、ドクオはのそりと動き出した。
片足を引きずり、彼は歩く。
('、`*川「…………」
('A`)「ジャま」
じっとその作業を見ていたペニサスに、ドクオは短く言った。
('、`*川「ご、ごめんなさい」
('A`)「…………」
ざりざり、ざりざり。
誰も口をきかないので、土が退けられる音だけが響いた。
どうやらデレを中心に円を描いているらしい、と僕は気付いた。
ζ(゚ー゚*ζ「お家に帰ったらすぐ寝るのよ?」
('、`*川「大丈夫です、眠くないです。久々に帰ってきたんですから、デレさんのお話が聞きたいです」
ζ(゚ー゚*ζ「夜更かしたらショボンに言いつけちゃうわよ? もう少ししたらこっちに帰ってくるんだし」
('、`*川「!」
ζ(゚ー゚*ζ「あら、知らなかったの?」
無邪気なデレの言葉に、ペニサスは首を横に振った。
デレの表情がどことなく嬉しそうなのは、気のせいだろうか。
124
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 12:37:54 ID:iiVptxPU0
('A`)「できタ」
ζ(゚ー゚*ζ「ご苦労様」
デレは僕らを円の中に入るよう指示した。
四人で入ると案外その円は狭く、僕はペニサスの手をつかんだ。
('、`*川「な、なによ」
(´・_ゝ・`)「君がうっかり倒れたりして円から出たら困るからね」
('、`*川「わざわざありがとうございます、気がきくわねっ」
緩やかな熱が、僕の手のひらに爪を立てた。
(´・_ゝ・`)「いてて」
わざと聞こえるように言っても、ペニサスはそっぽを向いたままだった。
ζ(゚ー゚*ζ「みんな、動いちゃダメよ」
デレはそう言って、優雅にワンピースの裾を持ち上げた。
真っ白で枝のように細い足。
その爪先に納められていたのは、青銅色の靴であった。
カン、カン、カン。
三度踵同士が打ち付けられ、鉄の音が響いた。
すると円から外にある雑草が軒並泡へと変化していった。
ぱちりぱちりと泡が弾けるたびに、空の月が遠のいていった。
僕たちは水中へ沈むように、暗闇の中に吸い込まれていった。
いつの間にか足元の草花たちも消え去り、どこを見渡しても無限の暗闇が広がっていた。
デレは目を閉じたまま、細々と呪文を唱えていた。
125
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 12:38:41 ID:iiVptxPU0
やがて暗闇は滲み、白んでいった。
その白に、無数の色が襲いかかる。
ぶちまけられた極彩色の絵の具。
混ざり、食んで、犯し、溶けていく。
その光景に僕は思わず酔いそうになった。
やがて無造作に散らばっていた色はひとつの色に収束した。
モノクロ。
灰色がかった一昔前の映画色。
白い家具。
黒い鉄パイプのベッド。
気付けばそこは居間であった。
('、`*川「もう着いちゃったの……?」
呆気にとられるペニサスに、デレは自慢気に微笑んだ。
ζ(゚ー゚*ζ「初心者なら大仰な儀式を形作るだろうけど、わたしくらいになれば必要なものを必要なだけ揃えればあれくらい簡単に出来るわよ」
('、`*川「わたしもデレさんみたいな魔女になりたいです……」
カチリ、と部屋の灯りがついた。
ドクオが気を回して、スイッチを探したのだろう。
ζ(゚ー゚*ζ「……あなたはわたしじゃなくて、ショボンになりたいんでしょ?」
すぅっと目を細め、デレはそう言った。
('、`*川「師匠みたいになりたいけど、でも師匠は魔法教えてくれないですし……」
ζ(゚ー゚*ζ「だってショボンはあなたに魔女になって欲しくないんだもの」
126
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 12:39:36 ID:iiVptxPU0
('、`*川「どうしてなんです?」
ζ(゚ー゚*ζ「さあ?」
('、`*川「デレさんも知らないんですか?」
ζ(゚ー゚*ζ「知ってるわ。でも喋っちゃいけないって口止めされているから喋らないの」
('、`*川「……でも、デレさんは、わたしに魔法を」
ζ(゚ー゚*ζ「あれはほんの断片よ。それで満足するかと思って教えたけど、あなたは全然諦めてくれなかった」
それどころかますます傾倒するなんて、困った子。
その一言に、ペニサスは一瞬傷付いたような顔をした。
('、`*川「デレさんも、わたしが魔女になるのは反対なんですか?」
ζ(゚ー゚*ζ「それがショボンの望みだからね」
('、`*川「…………」
ζ(゚ー゚*ζ「わたしから魔法を教わりたいならいくらでも教えてあげるけど、その前にショボンを説得してね。あの人のこと、裏切りたくないから」
終始やわやわと笑うデレは、なにかが欠けていた。
何が起きたとしてもその笑みが崩れないような気がして、僕は薄ら寒さを感じた。
127
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 12:40:44 ID:iiVptxPU0
('、`*川「説得、すればいいんですよね」
俯いていた顔をあげ、ペニサスはゆっくり呟いた。
決意するように、自分の原点を振り返るように。
ζ(゚ー゚*ζ「……諦めの悪い子」
(´・_ゝ・`)「根性があるって言ってあげてください」
驚いたような顔で、二人は僕を見る。
デレは不愉快そうに、ペニサスは意外そうに。
僕はそのまま黙ってデレを見つめ返した。
そのしじまを破るように、
リン、ゴォン、
と重い鐘の音が響いた。
('、`*川「!」
ζ(゚ー゚*ζ「噂をすれば来たみたいね」
ペニサスは早足で玄関へと向かった。
一瞬考えて、それから彼女の後を追った。
脈打つことのない心臓が、再び鼓動しているような気分になった。
きっと血が巡っていたら、僕の顔は緊張で赤らんでいたに違いない。
いよいよペニサスの師匠と対面する機会が来てしまったのだから。
128
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 12:41:48 ID:iiVptxPU0
ペニサスは靴も履かずに玄関の鍵を開けていた。
('、`*川「師匠!」
ガチャリと開いた瞬間、ペニサスは嬉しそうに叫んだ。
どれほどこの瞬間を待ち遠しく思っていたのだろう。
複雑な気持ちでそれを眺め、僕は深呼吸をした。
('、`*川「お帰りなさい!師匠!」
(´・ω・`)「ただいま、ペニサス」
僕と同じくらいの背丈の男は、ペニサスの頭を撫でてそう言った。
('、`*川「師匠、鍵はどうしたんですか?」
(´・ω・`)「それがまた失くしちゃってね」
('、`*川「またですか」
(´・ω・`)「あちこち飛び回っていると次第に何がなんだかわからなくなってしまうんだよ。それでもこうして君が留守でいるから帰ってこれるんだけどね」
冗談まじりにそう言って、男はペニサスから僕へと視線を移した
(´・ω・`)「ところで彼はあれかな、デレの使い魔かい? 噂だとせむし男だって聞いていたんだけども」
129
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 12:42:46 ID:iiVptxPU0
ペニサスは一瞬僕を見て、意を決して告白した。
('、`*川「わたしの、使い魔です」
(´・ω・`)「…………」
(´・_ゝ・`)「…………」
男と視線がかち合う。
見た目上の年は、デレと同じくらいだろうか。
若そうに見えるが、どこか老いた雰囲気があった。
人の良さそうな顔だ。
垂れ気味の目は人を安心させる雰囲気がある。
でも服のセンスは最悪だった。
墨と緑を混ぜたようなスーツから覗くシャツには恐ろしい量のフリルがついていた。
真っ赤な紐細工のループタイがその中に埋もれていて、僕は残念な気持ちになった。
きっと宝塚の衣装からセンスを抜いたらこんな格好になるだろうな、などと考えていた。
(´・ω・`)「ペニサス」
('、`*川「は、はい」
(´・ω・`)「僕の若い時の服なんて出して来ちゃダメだよ」
('、`*川「すみま……え?」
予想外の指摘に、ペニサスは固まった。
彼は気に留めず、靴を脱いで僕に歩み寄る。
130
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 12:43:53 ID:iiVptxPU0
(´・ω・`)「これ、書斎に置いてあったやつだろう? よく虫食いにあわなかったな」
(´・_ゝ・`)「あ、あの」
勝手に袖口やらベストやらを触られ、僕は戸惑っていた。
なんだこの人は、馴れ馴れしい。
(´・ω・`)「いやー若い時の服って見ちゃうといたたまれないなぁ。センス悪くて無理だ」
いや、今のあなたの方がかなり酷いですよ。
と喉元まで出掛かって僕は理性で止めた。
(´・ω・`)「というか使い魔ってなに、また勝手に魔法勉強してたの?」
('、`*川「一人だと何もすることがないですから……」
(´・ω・`)「もー、ダメだよ。君は魔法なんて使わなくていいんだよ。孤閨を守ってくれるだけで十分なのに」
特に怒鳴るわけでもなく緩く注意をして、彼は僕の手を取った。
じんわりとした熱が伝わり、僕は握り返した。
(´・ω・`)「初めまして、ペニサスの使い魔くん。ショボンだ」
(´・_ゝ・`)「初めまして。お話は伺っていましたが、まさか男性だとは思わず……」
(´・ω・`)「和訳の弊害だね。witchであれば性別関係なく魔法を使う者を指すのに、魔女と訳してしまったから女性しかなれないものだと勘違いされてしまったのだよ」
131
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 12:45:39 ID:iiVptxPU0
ショボンはしっかりと結ばれている手を持ち上げた。
(´・ω・`)「それにしても君の手は冷たいな、死んでいるのかね」
(´・_ゝ・`)「ええ、はい」
(´・ω・`)「なるほど」
ぱっと手を離された。
なにがなるほどだったのか僕はわからなかったが、とりあえず頷くことにした。
(´・ω・`)「ところでペニサス」
ショボンは懐から金色の懐中時計を出して、こう言った。
(´・ω・`)「もうすぐ十二時だよ。日付が変わる前に寝なくちゃ」
('、`*川「寝なきゃダメですか?」
(´・ω・`)「ダメだよ、ほら早くお風呂に入って寝る支度して」
('、`*川「お話したかったのに」
(´・ω・`)「今回はしばらくここにいるから、明日でも話はできるよ」
('、`*川「……わかりました」
宥められ、ペニサスはしぶしぶ風呂場へと向かった。
132
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 12:47:09 ID:iiVptxPU0
それを見送ったショボンは、再び僕と向き合った。
(´・ω・`)「さて、ええっと君は……」
(´・_ゝ・`)「デミタスです、名乗り遅れて申し訳ないです」
(´・ω・`)「堅苦しくしなくていいよ、デミタス。そういうのは苦手なんだ」
夜更かしは得意なほうかね?とショボンの問いに僕は頷く。
(´・ω・`)「ならよかった。あとで君と話がしたくてね」
ペニサスが眠ったらまたあとで、と言い残して彼は廊下を歩いて行った。
向かった先は、階段の下にある物置部屋だった。
ショボンはループタイを取り、その赤い飾りでサッと鍵穴を撫ぜた。
すると固く結ばれていた紐細工は、開花するように形を変えた。
まるで彼岸花のようだと僕はそれに見惚れていた。
(´・ω・`)「あー、僕の部屋はここだから用事があったらノックしてくれ。黙って開けても僕の部屋には通じないからね」
じゃあ後で、と彼は中へ入って行った。
その僅かな隙間から見えたのは、柔らかな日差しに照らされた庭園であった。
噴水の水しぶきが、美しい虹を描いていた。
(´・_ゝ・`)「…………」
恐ろしいものを見てしまった気分になり、僕は胃が冷えた。
試しにノックをせずに開けるとそこはやはり、ただの物置であった。
133
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 12:48:18 ID:iiVptxPU0
居間に戻るとデレとドクオがソファーに座ってくつろいでいた。
僕がやってきたことに気付くと、彼女は可愛らしいマグカップを差し出してきた。
ζ(゚ー゚*ζ「あなたも飲む?」
中身はどうやらカプチーノらしかった。
しかしふんわりとメロンの香りがするのは、何故なんだろうか。
ζ(゚ー゚*ζ「おいしいわよ」
(´・_ゝ・`)「じゃあ、いただきます」
ζ(゚ー゚*ζ「ドクオ、デミタスにコーヒーを」
デレの声とともに、ずずっと液体を啜る音が止んだ。
('A`)「あィ」
テーブルにマグカップを置き、ドクオはよたよたとキッチンへ向かった。
ζ(゚ー゚*ζ「隣に座らない?」
(´・_ゝ・`)「お気遣いなく」
と、僕は断ってベッドに腰掛けた。
詰めれば座れるとはいえ、出会ったばかりの人と並ぶのは気が休まらなかったのだ。
ζ(゚ー゚*ζ「ショボンには会えた?」
(´・_ゝ・`)「ええ、階下の部屋にいますよ」
134
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 12:50:03 ID:iiVptxPU0
ζ(゚ー゚*ζ「あの人、考え事したい時にはいつも彼処に篭ってしまうの。あの部屋は彼の好きなものがたくさん詰まっているのよ」
僕はあの綺麗な庭を思い浮かべていた。
この世のものではない美しさ。
白昼夢のような曖昧さとそこにあるという現実感。
まるで彼岸のようでもあった。
なるほど、あそこは彼の理想卿であったのか。
ζ(゚ー゚*ζ「きっとペニサスちゃんのことで悩んでいるんでしょうね」
色のない声で、デレは呟いた。
(´・_ゝ・`)「デレさんは会いに行かないんですか?」
ζ(゚ー゚*ζ「わたしはここで待つわ。ショボンが会いたくなるまでね」
ことりとマグカップがテーブルに置かれる。
かわりに彼女の右手は、自身の黒髪を弄り始めていた。
ζ(゚ー゚*ζ「本音を言えば今すぐにでも会いに行きたいわ。でも彼がそれを望まないなら、わたしも望まないの。彼には幸せでいて欲しいから」
とろりと溶け出しそうなその笑みと声は、毒薬のように感ぜられた。
行き場のない手がそわそわと動き出そうとする。
だから僕はきゅっとしっかり握りしめることにした。
(´・_ゝ・`)「よく、慕っていらっしゃるんですね」
ζ(゚ー゚*ζ「わたしのすべてを受け止めて救ってくれた人だから。俗っぽい恋とは違うのよ、わたしは報われなくてもいいの」
135
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 12:51:42 ID:iiVptxPU0
でもね、と彼女は区切る。
陶酔から覚醒するための間を彼女は準備していた。
ζ(゚ー゚*ζ「あの人はお人好しだから、きっとずっと満たされないのでしょうね」
一瞬、毒薬が揺らいだような錯覚。
笑み自体は崩れていないのに、どうしてか僕はそう思った。
と、そこへようやくドクオが戻ってきた。
('A`)「こ、こーヒぃー」
震える手でマグカップが差し出される。
中身が今にも飛び出そうで、僕は慌てて受け取った。
(´・_ゝ・`)「ありがとう、ドクオくん」
('A`)「いヒっ、ヒッ」
奇形じみた笑いとともに、彼は席へともどっていった。
ζ(゚ー゚*ζ「デミタスは赤と白と黄色と緑、どれがいい?」
(´・_ゝ・`)「え? うーん、赤かな」
ζ(゚ー゚*ζ「赤ね」
そう言ってデレはガサゴソと袋を取り出した。
それはマシュマロの袋だった。
苺やメロン、バナナの絵が印刷されたそれは、子供の頃おやつとして食べていた記憶がある。
136
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 12:53:09 ID:iiVptxPU0
袋を縛っていた輪ゴムを外し、デレは薄ピンク色のマシュマロをいくつか取り出した。
そして、それを容赦なく僕のコーヒーへと投入した。
(´・_ゝ・`)「えっ、あっ!?」
ζ(゚ー゚*ζ「意外とおいしいのよ、マシュマロ入りのコーヒーって」
コーヒーがどんどんコーヒーでなくなっていく光景を、僕はただただ見つめるより他なかった。
結局マシュマロは十個ほど投入され、僕は何が何だかわからない飲み物を飲むこととなった。
味は普通に美味しかったし、意外とコーヒーと苺の組み合わせはありだとわかった。
が、僕は普通にコーヒーを飲みたかっただけに釈然としない気持ちでとろとろのマシュマロを飲み込んだ。
('、`*川「あ、いいなー」
気付けば、ペニサスが僕の背後から覗き込んでいた。
黒と赤の混じった髪が首筋をそっと撫でるもんだから、僕はくすぐったくなった。
(´・_ゝ・`)「ペニサスくん、髪の毛退けてくれないかな」
('、`*川「あ、ごめん」
それでもなお、ペニサスの視線は、コーヒーへと注がれていた。
甘党な彼女にはきっとたまらなく魅力的に映っているのだろう。
ζ(゚ー゚*ζ「ダメよ、ペニサスちゃん。もう歯磨きしたんでしょ?」
デレの言葉に、ペニサスは不満そうな顔をした。
137
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 12:54:51 ID:iiVptxPU0
('、`*川「ずるいですデレさん! わたしも夜更かししたいですー」
ζ(゚ー゚*ζ「ダメったらダーメ。ショボンに嫌われたくないもの」
('、`*川「そんな事言わずに……」
と、ペニサスは大きな欠伸をひとつ生み出した。
よく見ると、目がとろんとしている。
やはり眠いのだろう。
(´・_ゝ・`)「ペニサスくん、ちゃんと眠ったほうがいいよ」
('、`*川「でも……」
(´・_ゝ・`)「今日は色んなことがあったから、きっと疲れているんだよ。たくさん休んだほうがいい」
('、`*川「…………」
ペニサスは返事をしなかった。
その代わりにデレがドクオにこう告げた。
ζ(゚ー゚*ζ「ドクオ、ペニサスちゃんが眠るまで話し相手になってあげて」
('、`*川「えっ」
('A`)「ハ、はいィ」
やおらペニサスの腕を掴むと、ドクオはぐいぐいと歩き出した。
('、`*川「そ、そんなことしなくてもちゃんと寝ますー!」
ζ(゚ー゚*ζ「そう言って前回も夜更かししてたの知ってるんだからねー」
138
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 12:56:33 ID:iiVptxPU0
まったくもう、という言葉は果たしてペニサスに届いたかどうかは定かではなかった。
そして彼らと入れ替わりになるように、ショボンがやって来た。
(´・ω・`)「やっと寝た?」
ζ(゚ー゚*ζ「寝かしつけるようにドクオに言ったところよ」
(´・ω・`)「いい手配だねそれは」
デレは顔を綻ばせた。
ショボンはデレの頭をひとしきり撫で、彼女の隣に座った。
ζ(゚ー゚*ζ「コーヒー、飲む?」
(´・ω・`)「じゃあお願いするよ」
デレは頷き、キッチンへと旅立っていった。
その足取りは軽く、よほど褒められたのが嬉しいのだろうと想像するに容易かった。
(´・ω・`)「デミタスもマシュマロを入れられたのか」
僕のマグカップを覗き、ショボンは苦笑した。
(´・_ゝ・`)「断る間も無く入れられましてね」
(´・ω・`)「僕はどうにも好きになれないんだよなぁ、マシュマロ」
ふう、とショボンの溜息で会話は締めくくられた。
139
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 12:57:52 ID:iiVptxPU0
ζ(゚ー゚*ζ「お待たせ。ショボンは白いマシュマロがいいんだよね」
嬉々としてデレはマシュマロの袋を取り出した。
ショボンは頷き、ちらりとまだ何も入っていないコーヒーを眺めた。
(´・ω・`)「ありがとうね」
ζ(゚ー゚*ζ「どういたしまして」
(´・_ゝ・`)「…………」
先ほどの会話を思い起こし、もやもやとした気分になった。
どうして彼は、嫌いなものを嫌いと言わないのだろうか。
どうにかマシュマロを溶かそうと、ぐるぐるかき混ぜるショボンを見てそう思っていた。
(´・ω・`)「さてと」
ショボンはコーヒーに口をつけ、テーブルにマグカップを置いた。
やはりマシュマロ入りのそれは、口に合わなかったのだろうか。
(´・ω・`)「君はいつどこで、ペニサスと知り合ったのかな?」
じぃっとショボンは僕を見つめる。
視線は鎖となって僕にしっかりと纏わり付いた。
僕はここ一週間での出来事を洗いざらい話した。
ショボンは時折頷くだけで、一言も喋らなかった。
傍に寄り添うデレもまた同様であった。
(´・ω・`)「使い魔になってなにか困ってることとかはないのかね?」
140
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 12:59:07 ID:iiVptxPU0
開口一番に、彼はそう問うた。
(´・_ゝ・`)「ないです」
(´・ω・`)「本当に?」
(´・_ゝ・`)「ええ」
(´・ω・`)「こんな暮らしうんざりだとか生前の環境に戻りたいとか」
(´・_ゝ・`)「特にないですね」
(´・ω・`)「…………」
ショボンは少し思案して、口を開く。
(´・ω・`)「今まで君はこんな世界があるとは知らずに生きてきたわけだろう」
(´・_ゝ・`)「はい」
(´・ω・`)「それがいきなり殺されて死んで魔女だの魔法だの、小説か漫画の中でしか聞かないような世界に連れてこられてしまった」
(´・_ゝ・`)「…………」
(´・ω・`)「ここでは今まで経験と常識は通じず、戸惑うことも多いだろう。僕やデレのように若いうちから知っていれば、順応するのも容易いのだけどね」
(´・_ゝ・`)「つまり使い魔をやめろと?」
歯切れの悪い話に、僕はイライラしていた。
とにかく回りくどかったのだ。
141
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 13:00:47 ID:iiVptxPU0
(´・ω・`)「ここにいるよりも君は部長として働いていた方が幸せなんじゃないかって僕は思うんだよ」
(´・_ゝ・`)「なにが幸せかなんて僕の勝手じゃないですかね」
(´・ω・`)「君と、君に関わった人達の記憶を操作したら元の生活に戻れる。なんなら鼓動も血液も付け加えて、死んでいることも忘れさせることだって出来るよ」
(´・_ゝ・`)「そこまでして戻りたいと思う生活でもなかったですよ」
実際そうであった。
たとえ魔法を使ったとしても僕が死んでいることに変わりはない。
それに僕は、ペニサスと緩やかに生活することに慣れてしまった。
洗濯や掃除をして、庭に水を撒き、何が食べたいのかを話し合って買い物をする。
そして時折ペニサスの魔法を見れたのなら、もうそれだけで十分楽しいと僕は思えたのだ。
(´・ω・`)「……畑違いの場所に来たって馴染めやしないよ」
(´・_ゝ・`)「ご心配しなくとも、ペニサスくんは僕に肥料を与えてくれていますよ」
(´・ω・`)「彼女の知識じゃ、君は枯れる」
(´・_ゝ・`)「あなたが魔法を教えれば済むのでは?」
(´・ω・`)「…………」
すう、と息を吸う音が響く。
短く吸ったそれを、ショボンはゆっくりと吐き出した。
まるで頭に上った血の温度を冷ますかのように。
142
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 13:01:41 ID:iiVptxPU0
(´・ω・`)「あの子は、だめだ」
(´・_ゝ・`)「なぜ?」
(´・ω・`)「あの子は幼いからね。未熟すぎる」
(´・_ゝ・`)「今はそうかもしれませんが、いずれ変わっていきますよ」
(´・ω・`)「そんなことない」
(´・_ゝ・`)「慕う人がいるなら尚更努力しようとするもんじゃないですか。実際彼女はよく頑張っています」
(´・ω・`)「……あの子は僕を買い被りすぎなんだよ」
ζ(゚ー゚*ζ「ううん、あなたは素晴らしい人よ」
突如として割り込んできたデレに、ショボンは力無く笑った。
(´・ω・`)「そんな、素晴らしいなんて大層な言葉……」
ζ(゚ー゚*ζ「実際わたしは救われたもの。絶望して生きる気力を失ったわたしを、あなたは見つけてくれた」
(´・ω・`)「放っておけなかったからさ」
ζ(゚ー゚*ζ「ほら、優しいじゃない」
(´・ω・`)「君に優しくしようと思ったからね。でも僕は自分のしたいように振る舞っただけだよ。君はそれにあてられて、勝手に救われていったんだ」
ζ(゚ー゚*ζ「でも、」
(´・ω・`)「君だけじゃない。救われたい人は何でもいいからそれに縋って、勝手に救われていくもんなんだよ。僕は何もしていない……」
143
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 13:03:17 ID:iiVptxPU0
苦しげに吐き出されたそれに、デレは少し驚いたようだった。
しかしそれでも彼女は言葉を紡ぐ。
ζ(゚ー゚*ζ「……でも、感謝してるわ。あなたがいなかったら、わたしは変われなかった」
(´・ω・`)「…………」
一瞬困ったような顔をして、ショボンは押し黙った。
僕はその姿を見て、なにか矛盾めいたものを感じていた。
ペニサスは彼を、この世の不幸を根絶やしにしようと駆け回る人だと称した。
他人の幸せを誰よりも願っている人だとも。
けれども本当にそうなのだろうか?
彼の考える幸せとは、一体何なのだろうか。
僕はちらりと壁に掛けられた時計を見た。
もうすぐ深夜の二時になろうとしている。
時間を確認した途端、僕の口から欠伸が逃げ出していった。
(´・ω・`)「……今日はお開きにしようか」
(´・_ゝ・`)「そうしてもらえると助かります」
なんせ風呂もまだなのだ。
これから寝る支度をしなければならないと思うと、少し気が滅入った。
ζ(゚ー゚*ζ「ドクオ、まだ二階にいるのかしら」
ふと思い出したように、デレは呟く。
144
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 13:05:02 ID:iiVptxPU0
そういえばペニサスが寝付くまでドクオがそばにいるはずなのだ。
彼が帰ってこないということは、つまりペニサスが起きているということになる。
もしかすると、僕たちの会話が気になってこっそり盗み聞きしていたのかもしれない。
そう思うと僕は落ち着かない気分になった。
(´・_ゝ・`)「少し様子を見に行ってきましょうか?」
(´・ω・`)「そうしてもらえるとありがたいね。きっと僕やデレが行けばますます寝なくなるだろうから」
ショボンの言葉に後押しされ、僕は階段へと向かった。
階下から様子を伺うと、二階の廊下の電気は消されていた。
部屋に入ったのは確かなのだろう。
真っ暗闇の中では、この急な階段を使うのは無理だからだ。
どこかほっとした気持ちで、僕は二階の電気をつける。
そしてゆっくりと、足音を立てないように上っていった。
二階は、しぃんと静まり返っていた。
僕は静かに、ゆっくりとペニサスの部屋へ向かう。
扉の前で佇み、僕は耳をすました。
話し声は、聞こえない。
しかしなにやら奇妙な音が聞こえた。
かり、かり。
ぷちん。
…………。
かり、かり。
ぷちん。
…………。
145
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 13:06:15 ID:iiVptxPU0
謎の音と静寂は延々と繰り返され、僕は恐ろしくなった。
中で何が行われているのか、想像できなかった。
(´・_ゝ・`)「ペニサスくん?」
恐る恐る僕は呼びかけてみる。
かり、かり。
ぷちん。
…………。
かり、かり。
ぷちん。
…………。
単純な反復は、止まらない。
(´・_ゝ・`)「入るからね」
返事を期待せず、僕は扉に手をかける。
冷えたドアノブの感触は、ペニサスの手を思い起こさせた。
ゆっくりと、ドアノブを回す。
いつもは軽いはずの扉が、開かない。
重いわけではないのだが、粘つくような違和感であった。
きっと僕の勘違いであろう。
僕の手はひどく震えていて、力を入れているんだか入れてないんだか定かではなかったのだ。
146
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 13:07:29 ID:iiVptxPU0
(´・_ゝ・`)「っ!」
開けた瞬間、部屋は温かくも冷たい匂いが充満していた。
僕はその匂いを知っていた。
血だ。
車に撥ね飛ばされた時に、嫌という程嗅いだ、死の匂い。
部屋は暗く、唯一の光源は青白い月だけであった。
だから僕はこの景色が現実ではないと思ってしまった。
認めることができなかった。
組み敷かれたペニサスが絶命している様を。
馬乗りになったドクオが、彼女を食べている光景を。
かり、かり、
歯が、骨についた肉をこそげ取る。
ぷちん、
肉が引っ張られ、千切れていった。
ねちゃ、むちゃ、
半開きの口が、肉を咀嚼している。
ごくん、
ペニサスが、飲み込まれていく。
147
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 13:08:11 ID:iiVptxPU0
(´・_ゝ・`)「お、まえは……!!」
言葉が漏れ、僕はドクオに飛びかかった。
ドクオは僕に気付かなかったようで、素っ頓狂な声をあげた。
('A`)「ゥ、がェッ……!?」
壁に押さえつけ、首を絞めると彼は口から肉を吐き出した。
激情の任せる儘、僕は手の力を加える。
(´・_ゝ・`)「出せ! 吐き出せ!! お前っ、なんてことを……っ!」
('A`)「ぐルぃィ、グるィい!!」
何が何だかわからないまま、僕は彼を殴った。
殴っても殴っても、僕の胸はどんどん苦しくなっていった。
思考はめちゃくちゃになり、こんがらがった糸玉のようななにかが感情を支配した。
(´ _ゝ `)「出せ! 早く、早く……!!」
('A`)「ヴぁ、あ、がぁ……」
ドクオはろくに口も利けなくなった。
顔がぱんぱんに腫れているからだ。
口から流れている体液は、一体誰のものなのだろうか。
しかしそんなことは、今の僕にとって些末なことであった。
148
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 13:08:55 ID:ewSUN.Gk0
えぇ…
149
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 13:09:06 ID:iiVptxPU0
どうにもならないという絶望感が僕を沈めにかかる。
死んだ。
死んでしまった。
ペニサスが、死んだ。
現実がじんわりと僕の脳髄を焼いていく。
全てが急激に色褪せていく。
僕はドクオをチェストに叩きつけ、座り込んだ。
ペニサスの名前だけが、頭の中にぐるぐると廻る。
何度も何度も呼び起こすようなその思考は、僕の理性をしつこく痛めつけた。
もう彼女は話しかけてくれない。
からかってもなんの反応を見せてくれない。
憧れと理想に追いつこうとする素晴らしい気力も、それを諦めない強さも、なにもかもが失われた。
僕は、耐え難い孤独と虚無感に襲われていた。
(´ _ゝ `)「ペニサス」
吐き出すように、名前を呼んだ時だった。
150
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 13:09:54 ID:iiVptxPU0
ひた、ひた、
水に濡れた布が震えるような音がした。
ずずり、
と肉の引き摺られる音。
めきっ、ぱきっ、
梢が芽吹くような音の軽さ。
ぱちり、
僕は何の音か分からず、振り向いた。
無惨に切り裂かれた腹に、ゆわゆわとうねる影。
あり得ない方向に捻じ曲げられていた肩が、バネ入りのおもちゃのように撓り飛んだ。
(´・_ゝ・`)「ペニサスくん……?」
全身から聞いたことのない音を響かせ、彼女は元に戻ろうとしていた。
いや、戻りつつあった。
弓なりに背骨を反らせ、ペニサスは自分の体を完成させた。
151
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 13:11:51 ID:iiVptxPU0
(´・_ゝ・`)「ペニサス、くん」
恐る恐る僕は近付く。
音を立て、彼女はベッドに倒れた。
何事もなかったような顔で眠っている。
ボロボロの寝間着に身を包み、血塗れのベッドで、すやすやと。
(´・_ゝ・`)「君は……」
一体、なんなんだ、と言えなかった。
言ってしまうと、彼女が人間ではなくなる気がした。
「まったく、ひどい有様だな」
背後から、男の声がした。
ζ( ー *ζ「あぁ、ドクオ……!」
振り返るとデレがドクオに寄り添っていた。ショボンは僕とデレを交互に眺めていた。
(´・ω・`)「まさかこんな事になるとはね」
いかにも面倒くさそうに、ショボンは呟いた。
(´・_ゝ・`)「どういうことですか、これは」
僕の声は震えていた。
怒りからか、動揺からか。
それとも両方なのかもしれない。
152
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 13:14:31 ID:iiVptxPU0
(´・ω・`)「君と同じなんだよ」
ショボンが手を挙げる。
その途端に部屋に飛び散った血は、するんと布の隙間に吸い込まれて消えてしまったた。
寝間着の布も互いに繊維を出し合い、結びつき、新品同様に直ってしまった。
(´・ω・`)「ペニサスも、君と同じなんだ」
念押しするように、ショボンは告げた。
その言葉の意味を推し量るのに時間は掛からなかった。
だがその事実を受け入れられず、僕は呆然としていた。
ねえ、ペニサスくん。
呑気な顔で寝てる場合じゃないよ。
君も僕と同じように、死体だったんだってさ。
153
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 13:15:16 ID:iiVptxPU0
四は捨てよ 了
.
154
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 13:15:58 ID:iiVptxPU0
登場人物紹介
(´・_ゝ・`) 盛岡 デミタス
優しさとはその人の為を思うこと
('、`*川 ペニサス
優しさとはその人の助けになること
ζ(゚ー゚*ζ デレ
優しさとはその人の望みに沿うこと
('A`) ドクオ
優しさとは抑圧された望みを叶えること
(´・ω・`) ショボン
優しさとは×××××××××××
マシュマロ入りコーヒー
コーヒー特有の苦味と酸味が薄れ、飲みやすくなる
デレの好きな飲み物で、ショボンの嫌いな飲み物
155
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 13:19:46 ID:ewSUN.Gk0
乙!ペニは自覚なかったのかな
死体でも魔女になれるのか…?
156
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 13:30:55 ID:pdUYOLzk0
おつ
157
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 14:16:29 ID:uEw5d7jg0
なんとなく話の内容が九九の文に沿ってる気がする
158
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 17:19:02 ID:H96D3Djs0
乙!
ドクオが美味しそうといったの伏線かなと思ったら今回で綺麗に回収されてた
続き気になる……!
159
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 17:21:42 ID:uWZyXjyA0
乙乙
マシュマロコーヒー……味が気になるが試す勇気は出ない
160
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 17:38:47 ID:Aewz7L/g0
おつんつん
161
:
名も無きAAのようです
:2015/05/15(金) 18:35:23 ID:nXBv4B720
乙
死体は成長できないのだろうか
162
:
名も無きAAのようです
:2015/06/04(木) 19:58:51 ID:Gi1vABZ.0
なるほどなるほど
乙
163
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 16:28:57 ID:HOaUlsmE0
五と六より、七と八を生め
.
164
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 16:29:50 ID:HOaUlsmE0
翌朝、ペニサスは何事もなかったかのように僕に挨拶をした。
生返事をし、僕は彼女の体を眺めた。
生きている。
昨日の出来事が、まるで嘘のようだった。
('、`*川「どうしたの?」
(´・_ゝ・`)「……え?」
('、`*川「険しい、っていうか怖い顔してるから」
(´・_ゝ・`)「いや、なんでもないよ」
('、`*川「師匠に何か言われた?」
(´・_ゝ・`)「…………」
こういう時、咄嗟に嘘がつけないというのは困ったものだった。
その代わり、僕は一部分だけを伏せて話した。
(´・_ゝ・`)「君が魔女になるのには反対だって言ってただけだよ、彼はね」
ペニサスはそれで納得したらしく、その後は何も追求してこなかった。
キッチンにいたデレに呼ばれて、朝食を取りに行ったのもあるのだろう。
僕はハチミツの塗られたトーストを齧る。
ハチミツなんて久々に食べた気がした。
砂糖とも果物とも違う独特な甘みは、気分を穏やかにしてくれた。
甘ったるい口の中に、コーヒーを流し込む。
ああ、甘い。
欲を言えば、朝のコーヒーだけにはマシュマロを入れて欲しくなった。
165
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 16:31:08 ID:HOaUlsmE0
しかしデレの善意を断れず、僕はマシュマロが徐々に溶けていく様を眺めることしかできなかった。
もう一口すすってみた。
甘みがさらに上書きされ、舌が痺れるような感じがする。
やはり普通のコーヒーがよかったな。
甘みよりも塩気が欲しくなり、卵の黄身が絡まったハムを口の中に放り込む。
うん、うまい。
ハムエッグなんて定番の料理だが、僕は半熟の目玉焼きが作れない。
あとでデレに作り方を聞いてみようか。
ついでにドクオの件についても。
('、`*川「デレさんったらケチなのよ」
キッチンから居間に帰ってきたペニサスは、僕の隣に座るなりそう言った。
('、`*川「もっとコーヒーにマシュマロ入れたいって言ったら、怒られたの」
(´・_ゝ・`)「……まぁ、そうだろうね」
マグカップから溢れ出そうになっているマシュマロを見て、僕はそう返した。
(´・_ゝ・`)「これいくつ入れたんだい、ペニサスくん」
('、`*川「十五個」
(´・_ゝ・`)「どう考えてもそれは入れすぎだよ」
('、`*川「甘ーいほうがおいしいに決まってるじゃない」
(´・_ゝ・`)「僕のは五個入れてもらったけど、十分甘いよ」
('、`*川「そうかしら」
166
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 16:32:27 ID:sPLbBWxE0
一気に八まで進んだ……だと……?
167
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 16:32:30 ID:HOaUlsmE0
ペニサスはおもむろに僕のマグカップに手を伸ばし、口に含んだ。
その途端彼女の眉間に皺が寄り、僕の方を見た。
嘘つき、と視線が物語っている。
抗議されても勝手に飲んだほうが悪いのだと僕は思うのだが。
('、`*川「わたしやっぱりこっちのほうがいい」
毒でも飲み干したような顔をして、ペニサスは自分のマグカップを手にした。
その代わり僕のマグカップは、乱雑に突き返された。
('、`*川「甘くておいしー」
(´・_ゝ・`)「ペニサスくんねえ……」
甘いものばかり食べてたら病気になるよ、と言いかけて僕は止めた。
('、`*川「なに?」
(´・_ゝ・`)「なんでもないよ」
僕はペニサスの皿に乗っていたプチトマトを口に入れた。
彼女は大げさに叫んで、僕の脇腹を小突いた。
ペニサスが単純でよかった。
僕は心底そう思いながら、昨日の出来事を思い出した。
168
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 16:33:38 ID:HOaUlsmE0
(´・ω・`)「デレ、見損なったよ」
ζ(゚ー゚;*ζ「違うの」
(´・ω・`)「何が違うんだい? 言い訳なら聞いてあげるよ」
何を考えているのかわからない眼差しで、ショボンはデレを見つめる。
デレは腕に爪を立て、ガリガリと引っかいていた。
無意識なのかもしれない。
赤い線が重なっていく様を見て、そう思った。
ζ(゚ー゚;*ζ「ほんとに、ちがうの、ドクオが、かってに、やったの……」
幼く、掠れた声だった。
かわいそうなほどに言葉は震え、彼女は今にも泣きそうだった。
(´・ω・`)「ふむ」
ショボンはデレから視線を外し、床へと向けた。
('A`)「…………」
ドクオはどこか遠くを見つめていたが、やがてそれに気付いた。
('A`)「な、ナ、なンデフくぁ」
ますます舌ったらずな喋り方になってしまったのは、僕のせいであった。
おそらく投げ飛ばした際に口の中を切ってしまったのだろう。
それでも悪いことをしたという気持ちは全く起きなかったのだが。
169
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 16:34:18 ID:HOaUlsmE0
(´・ω・`)「君が勝手にペニサスを殺したのかい? それともデレに頼まれていたのかな?」
('A`)「……ぁっ、ぁ、しデなぃ」
(´・ω・`)「何をしてないんだって?」
無色不透明な声はドクオを貫く。
べぇ、とドクオは血を吐き出し、こう答えた。
('A`)「デレ、はかん、けぃなイ」
(´・ω・`)「君の独断か」
ため息と共に、ショボンの声はいつもの調子を取り戻した。
(´・ω・`)「変だとは思っていたんだよね」
(´・_ゝ・`)「変?」
(´・ω・`)「ペニサスはこれ以上老いもしないし病気もしない。危害を加えられても彼女が生きることを望む限り、死ぬことはない」
寝息を立てているペニサスをショボンは見遣る。
月光に照らされた彼女の顔は蒼白く、血が通っていないように見えた。
(´・ω・`)「デレもそれを知っているから、殺すならこんな中途半端な真似をしないと思ってね」
視線が移ろい、デレに向けられた。
まるで釘を刺すように、あるいは信頼するように。
ζ(゚ー゚*ζ「……わたしがそんなことするはずないって、知ってるくせに」
170
:
名も無きAAのようです
:2015/06/05(金) 16:35:37 ID:HOaUlsmE0
デレは、笑った。
安堵と諦観を混ぜたような笑みだ。
笑っているはずなのに、泣いているようにも見えた。
それがとても寂しいものに見えて、僕は息苦しくなった。
添えられたサラダを口にして、僕は回想を打ち止めた。
変わる事のない肉体。
死んでいるのに生き続けているという矛盾。
彼女は気付かないのだろうか。
それとも、気付いたらなにか処置をされてきたのか。
ζ(゚ー゚*ζ「お味はどうかしら」
家事を終えたらしいデレが、部屋に入ってきた。
今日も彼女の格好は派手である。
薄黄色のブラウスに、真っ赤なスカート。
裾や袖には白いフリルやレースがふんだんに使われていた。
よくそんな格好で料理ができるなと僕はある種の尊敬を抱いていた。
('、`*川「すっごくおいしいです」
ペニサスの言葉に、僕も頷いた。
ζ(゚ー゚*ζ「ならよかったわ」
柔らかな弧を描く目は、とても優しい眼差しをしていた。
今まで見た中で一番自然な笑みだ。
少しの毒っ気も含んでいない。
しかしそれも長くは続かなかった。
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