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('A`)は異世界で戦うようです

1名も無きAAのようです:2014/05/25(日) 20:21:36 ID:gOpuSR2Q0
鬱田ドクオとは、一言で言えば弱い人間だ。

過去を振り替えれば後悔しなかった出来事はないし、ましてや努力なんて言葉とは無縁の存在である。

テストは赤点ギリギリ、運動能力は一般人より少し劣る程度、体つきは貧相なもので米俵一俵持つのが精一杯。かといってそれらを補うための努力をしたいなぁとは思っても、けして実行することはなかった。

そんなわけだからドクオは自分という存在が嫌いだった。変わりたいと願っても、変えようとすること自体がめんどくさくなってしまう。

大学を卒業し、なんとか内定をもらった会社も周囲の環境に溶け飲むことが出来ず、やめてしまったことも自己嫌悪の一つの原因である。

よって、ドクオにとっての自分とは、あってもなくても変わらない路傍の石のような存在で、そんな自分が世界に与える影響など皆無だと信じ込んでいた。

*鼹類燭辰榛*、この瞬間までは。

320:2014/06/21(土) 16:40:17 ID:YKMrFccY0
きっと、渡辺は人が良すぎるのだ。誰かのために、人のためにと考えるその姿は立派だが結果を求めすぎている。何がベストかなんて、終わってからしか分からないのに、その時点で先々まで考えてしまうのだろう。

それが悪いとは言わないが、もう少し肩の力を抜いてもいいと思う。

('A`)「嫉妬なんてみんなするもんだ。けど、それが悪いことかって言われればそうじゃない。俺だってもっと強ければツンは傷つかなかったかもしれないって考えたらモララーやショボンさんに嫉妬する」

('A`)「けど、俺はそんなに強くないからさ、今出来ることしか出来ないんだよ。そこは折り合いをつけるしかないんじゃないか?」

ドクオにとって人生とは妥協の連続だった。努力をしていないからこそすぐに諦めることが出来たが、もし努力をしていれば何かができたかもしれないと今でも後悔している。

だが渡辺はそうじゃない。やるべきこと、すべきことをきちんとした上でも出来ることと出来ないことがあっただけの話。いわば適材適所なのだ。

('A`)「諦めろとは言わないけど、そこまで気に病むことじゃないだろ。一人が出来ることはそう多くはない」

こういう考え方は渡辺の過去、<忌み子>として生きてきた背景もあるのだろうが、それにしたって思い詰めすぎだ。

从'ー'从「……人のためって難しいね」

('A`)「難しいよ。誰かにとってほしい答えはそれぞれなんだから」

从'ー'从「私は、ツンちゃんがしてほしいことしてあげられたのかなぁ」

('A`)「それは間違いなく出来たじゃないか」

从'ー'从「……うん」

渡辺はそう返事したまま遠くを見つめる。彼女の心は、瞳はきっとまだまだ先を捉えているのだろう。

ドクオはそんな彼女に何をしてあげられるのか、未だに分からない。分からないが、やるべきことは決まっている。

('A`)(俺は渡辺を守る。そして、恩を返し続けるだけだ)

それだけが、今のドクオに出来ること。

321:2014/06/21(土) 16:41:02 ID:YKMrFccY0



店を出ても渡辺の胸の取っ掛かりは取れず、もう一つの話をドクオにすべきか迷っていた。

从'ー'从(私が、どっくんをどう思っているか)

しぃと仲良く話すドクオを見て、嫉妬していたのは間違いない。だが、その嫉妬はどういう類いの想いなのか、渡辺は判断できずにいる。

ドクオに話を聞いてもらって、答えを聞いて、全てを納得したわけてはないが、話をしてよかったな、とは感じていた。

正直に言えば、ドクオは頼りになる男だと思う。渡辺が困っているときに助けてくれるし、こちらのことを気にかけてくれている。もしかしたら兄という存在が渡辺にもいればこんな人間だったのかもしれない。

もっとドクオのことを知りたいと思うし、自分のことを知ってほしいとも思う。だが、そういった感情は人より経験が少ないからこそ生じてしまう勘違いのようなものではないかとも思うのだ。

他人から見ればそれは恋だと言うのかもしれないが、そう断言するには渡辺の心はぐちゃぐちゃで纏まりがつかない。

ならばいっそ、本人に尋ねてみようか。ドクオならば自分の望む答えを出してくれるかもしれない。

从'ー'从「ねえどっくん」

隣を歩いていたドクオがんあ? と間の抜けた返事をする。

从'ー'从「どっくんは恋とかしたことある?」

(゚A゚)「ぶふぉっ!!」

ドクオが飲んでいたコーヒーを盛大に吹き出した。変なところに入ったようでげほげほま蒸せ返っている。

('A`;)「い、いきなり何を言い出すんだよ」

322:2014/06/21(土) 16:41:47 ID:YKMrFccY0
从'ー'从「私、そういうのよく分からないからどっくんなら知ってるかなって」

('A`;)「いや、まぁ俺も恋ぐらいは……」

言いかけて、ドクオははたと立ち止まる。渡辺も気付かなかったが、そう言えば彼はまだ記憶喪失という設定のままだった。

从'ー'从「あ、あのね、どっくんが違う世界から来たっていうのはツンちゃんに教えてもらったんだ。だからもう記憶喪失だって言わなくても大丈夫だよぉ」

渡辺がそう言うと、ドクオはばつが悪そうな顔をして、こめかみの辺りをぽりぽりと掻いていた。

('A`)「あー、そっか。ツンは元々黒の魔術団だっけ。騎士団の連中にもばれてるみたいだし、もう隠す必要ないか」

从'ー'从「どっくんが違う世界の人でも、どっくんはどっくんだからあまり気にならないよぉ」

('A`)「そっか。あー、んで、恋をしたことがあるかって話だが、ないことはないよ。成就したことはないし、その人とはまともに話したこともないけど」

从'ー'从「どんな感じなのかなぁ、恋って」

('A`)「んー、その人のことがずっと頭から離れなくて、どうすれば仲良くなれるかとかよく考えてたなぁ。結局挨拶を数回交わしただけで進展しなかったし」

从'ー'从「ふむふむ」

それには当てはまる気がする。気がつけばドクオは何をしているのかと考えることは割りと多い。

('A`)「あとは、そうだなぁ、その人が違う異性と仲良くしてるとやっぱり嫉妬してたかな。俺もそんなに経験ないからこれくらいしか言えないや」

从'ー'从「……」

从'ー'从(やっぱり、私はどっくんに恋してるのかなぁ?)

今のところドクオが言ったことは全て当てはまっている。ということは、そういうことなのだろうか?

ツンにもそう言われたし、これは確定、でいいのかもしれない。

('A`)「けど、これはまぁ受け売りなんだけどさ、恋とか愛だのっていつの間にか気付くものなんじゃないか?」

从'ー'从「いつの間にか?」

('A`)「そうそう。あいつ気になるなぁとか思ってても、実際は違う感情だったりするんじゃないか? 例えばペットを飼っているとする。当然愛情もって育てるよな」

从'ー'从「うんうん」

323:2014/06/21(土) 16:44:01 ID:YKMrFccY0
('A`)「けど、人間相手の好きとは違うわけだ。同じ好きでも条件が違えばまた別のものだと俺は思う。やっぱそういうのは少しずつ育っていって、いきなり気付くものなんだよ」

从'ー'从「いきなり、かぁ」

('A`)「最初は気になるなぁ、それからそいつのことしか考えられなくなって、ある日突然やっぱりこの人のこと好きなんだってなる。人の心なんて計算や理論で紐解けるようなもんじゃないよ」

从'ー'从「……」

('A`)「だからこそみんな立ち止まって、振り返って、何度も挫折しながら歩いていくんだ。そんな簡単に何でも分かったら誰も苦労しないだろうし」

何となく、ドクオが言いたいことが分かった気がする。

人を想う気持ちはそう簡単に理解できるものではない。故に考える。考えて考えて、その先に人は気付くのだろう。

もしかしたら考えるのをやめて、少しだけそのことを忘れた頃に答えはやってくるのかもしれない。

だとしたら、今は分からないままでいいのだ。

从'ー'从「そっかぁ、やっぱりどっくんは頼りになるねぇ」

('A`)「褒めてもなんも出ないぞ」

从'ー'从「素直な気持ちだよぉ〜」

渡辺はにっこりと笑ってドクオの前に出る。

从^ー^从「どっくん」

('A`)「あん?」

324:2014/06/21(土) 16:44:47 ID:YKMrFccY0
从^ー^从「大好き」

('A`;)そ「ファッ!?」

渡辺はそのまま前を向いて走り出す。今はこれでいい。その内あちらの方からやってくるだろう。そうしたら、きちんとドクオに伝えよう。

呆然と立ち尽くすドクオに、渡辺はもう一度声をかける。

从'ー'从「置いてっちゃうよぉ〜」

('A`;)「いや、今のどういう意味だよ!? え、何新手のジョーク? それともいじめ?」

慌てて追いかけてくるドクオに捕まらないよう渡辺は走り出す。

きっとこれからも渡辺はドクオのことが大好きだ。どんな感情かは分からないけれど、それだけはずっとずっと変わらない。

从^ー^从「えへへ」

('A`;)「待てって! おい渡辺さん?」

二人は王都をどこまでもどこまでも駆けて行く。渡辺が疲れはてて、彼に捕まるのはそう遅くはなかったけれど。

325:2014/06/21(土) 16:45:33 ID:YKMrFccY0

◇◇◇◇

王都とは遠く離れた小さな集落で、一人の男が目の前に作られた光を見て満足そうに頷いた。

「これは素晴らしい。やはり貞子が残したあの術式、無駄ではなかったな」

魔力を集め、人のマナですら集めたあの術式は大いに利用価値がある。貞子はあくまで予備電源のような使い方をしていたが、あれでは宝の持ち腐れだ。

マナとは人が生きるために最も効率化された魔力である。そして人はその身にマナを生成する機構までも備えているのだ。

ならば、マナを操ればその機構を作ることも可能であるということ。

人の存在とはかくも神秘的で、不可思議なものだが、彼女はその可能性を見出だしてくれた。

「楽しい、これは楽しいな。もっともっとシステムを効率的に回せば魔剣に頼らずとも大陸くらいなら簡単に治められる」

男はさらに術式を稼働させる。すると近くにいた人間は消滅し、きらびやかな光へと変換された。

「ふむ。まだまだ改良の余地があるな。人が持つマナはこんなものではないはず」

幾人もの人がマナに変わり、その場所に男一人だけになった頃、男は口元を歪ませながら集めたマナを術式に入れる。

「もう少し足りない。あと少しだけだ」

先日作り上げた実験体は失敗だった。出力をあげすぎたせいか言うことを利かず、挙げ句の果てには自壊してしまったのだ。

「まぁ材料はいくらでもある。もう少し見直してみよう」

男は術式を消して、誰もいなくなった集落をあとにする。

【+  】ゞ゚)「これからが楽しいゲームの始まりだ、魔剣の主よ」

彼は棺桶死オサム。人の死を操る者である。

326:2014/06/21(土) 16:46:19 ID:YKMrFccY0
第七話 終

327:2014/06/21(土) 16:50:28 ID:YKMrFccY0
今回は短いですが終わりとなります
元々一話分の話を二つに分けたので大分短くなりました
今回は軽い話でバトルバトルしてた本編を少しでも和らげたかったのですが、見事に失敗です
けど渡辺の可愛らしさが前面に押し出されたと思うのでそこそこ満足です
次回からまたバトルバトルな話になりますので、お付き合いいただければと思います
では今回も読んでいただきありがとうございました
次回投下は恐らく水曜日か木曜日になりますのでよろしくお願い致します

328名も無きAAのようです:2014/06/21(土) 18:01:46 ID:SL0DJFQ20
乙乙

329名も無きAAのようです:2014/06/21(土) 19:40:47 ID:xggAIUxs0
乙でした

330名も無きAAのようです:2014/06/22(日) 01:10:56 ID:4Sa1iQMY0
乙 良かった

331名も無きAAのようです:2014/06/22(日) 09:38:30 ID:GgNBW1HE0

早漏すなあ

332名も無きAAのようです:2014/06/22(日) 18:37:56 ID:OCDgRO9M0
この渡辺はドクオに押し倒されても文句言えない

333名も無きAAのようです:2014/06/22(日) 23:20:39 ID:BzfvGRiU0

ところでしぃってロリ枠でいいの?

334:2014/06/25(水) 03:24:40 ID:ha7Lbg220
夜分遅くにこんばんは、1です
本日夕方以降暇を見て投下していきたいと思います
いつもたくさんの乙をありがとうございます
おかげで執筆意欲がもりもり湧いております

>>331
自分でもそう思います
皆さんをあまりお待たせするのもあれなんでできる限り間隔を短くしてお送りしております

>>332
渡辺さんは今までぼっちでしたんで、男がどういう生き物か分かってないだけなんです
許してやってください

>>333
14歳ですよ?リアルだとjcですよ?
BBAとは言わせません!!

それではまた投下の際にお会いしましょう

335:2014/06/26(木) 04:21:56 ID:vhAPCg.Q0
てすと

336:2014/06/26(木) 16:10:17 ID:AXRm0dFE0



第8話「ゲームの始まり」



.

337:2014/06/26(木) 16:11:41 ID:AXRm0dFE0

◇◇◇◇

('A`)「なぁ、一体どこに連れてくつもりなんだ?」

ドクオは先程購入した魔法紙を手で弄びながら、前を歩くモララーに声をかける。早朝だというのに街はすでに活気に溢れ、朝の特売か何かなのかヴィップラ地区の方から威勢のいい声が飛び交っていた。

( ・∀・)「どこって、そんなの決まってるだろ。仕事だ仕事」

('A`)「仕事って、俺騎士団じゃないよな?」

名目では一応騎士になるのだろうが、ドクオは正式に任命を受けたわけではない。そもそも騎士寮に厄介になっているのもそちらの方が王都や騎士団にとっても都合がいいからである。言ってしまえばドクオはなんちゃって騎士だ。

戦う力はあるものの、それだけの男に仕事とはどういう了見だろうか。確かに部屋の中で暇を持て余すよりは随分と建設的な気もするが、何も分からず魔法が飛び交う戦場に立たされるのは正直いい気持ちではない。

( ・∀・)「んなこと言ったって、陛下からの勅命なんだ。俺に言われてもどうしようもない。反逆罪で打ち首になりたくなきゃ大人しく言うこと聞くしかない」

('A`;)「反逆罪って……」

なんと無茶苦茶な。ヴィップを治める王の話を何度か聞いたことはあったが、皆口々に素晴らしい統治者だと言っていた。民の声を親身になって聞いてくれるとのことだったが、異世界人であるドクオの声には耳を傾けてくれないようだ。

('A`)「で、こんなのまで買わされたってことはもしかして王都を出るのか?」

( ・∀・)「ご名答。今回は遠征とまではいかないが、ちょっと遠い。詳しい話は道中でしてやるよ」

モララーはそう言って移動用魔法陣の前で立っていた二人の騎士に向かって小さく手を振った。

('A`)「今回もこのメンバーか」

その二人の騎士、しぃとショボンを見てドクオは溜め息を吐く。

(´・ω・`)「我々だけでは不満かね?」

その様子を見てショボンがここぞとばかりに発言する。ドクオは慌てて、

('A`;)「いえ、そういう訳じゃなくて、なんていうか……」

このメンバーだとろくなことにならない。と口にしそうになるが、すんでのところでドクオはそれを飲み込む。

ショボンもモララーもしぃも実力は折り紙付きだということは分かるのだが、彼らほどの実力者が出向くということは、それほど危険が伴う仕事だということ。ドクオとしてはもう少し穏便な仕事をさせてほしいと切に願っているのだが、世の中世知辛いものである。

代わりにドクオは気になっていたことを聞いてみることにした。

('A`)「というか、ショボンさんは副団長でしょう。王都を離れていいんですか?」

前回の件でも王都を離れたが、あのときはそんなに距離がなかった。今回の話だと、なんだか相当遠くまで行かされそうな雰囲気である。

338:2014/06/26(木) 16:12:49 ID:AXRm0dFE0

(´・ω・`)「これも陛下の勅命でね。今回は私が同行しないとならないくらい大きな問題なのさ」

('A`)「……マジすか」

(´・ω・`)「マジ? どういう意味かね?」

('A`)「いえ、何でもありません」

副団長直々に出なければならないほどの問題。それはつまり貞子と同等、もしくはそれ以上の危険が伴うということ。

ドクオはこの時点で全てを投げ出して逃げたい衝動に刈られた。あんな女がそう何人もいるとは思えないが、ドクオは黒の魔術団とやらに狙われている以上、奴等に襲撃されるとも限らないのだ。

もちろん、それらを考慮しての布陣なのだろうが、どうにも不安を掻き立てるメンバーであることに違いはない。

(*゚ー゚)「毎度思うのですが、ドクオさんは顔のわりに小心者ですね」

ドクオの顔を観察していたのか、しぃは小さくそんなことをのたまった。顔のわりにとはどういうことだ。どこからどう見ても幸薄そうな一般人だろう。豪胆な顔をしているとは思えないのだが。

( ・∀・)「ま、話してても先に進まない。さっさと目的地に行きましょうか」

(´・ω・`)「そうだな。全員魔法紙は持ったか?」

('A`)「そう言えば、前回は歩いて目的地まで行きましたけど、今回はどうやって行くんですか? さすがにこれに乗ったら到着ってわけじゃないでしょう?」

ドクオは王都でも移動魔法陣を利用したことがない。というのも、ドクオの移動範囲が極端に狭いことに起因している。

ドクオが住んでいる騎士寮は商業区であるヴィップラからさほど離れていない場所にあるため、徒歩で十分に行き来できるためだ。この世界での娯楽は何度か耳にしたことがあるものの、基本的にめんどくさがりなドクオは一度王都をくまなく歩いたくらいで、一日のほとんどを部屋で過ごし、あとは訓練所に顔を出すだけだった。

そんなドクオだったから、この移動術式は以前説明を受けたくらいで利用したことがなかったのである。

( ・∀・)「ああ、とりあえずそれ貸してくれ」

モララーに促されて魔法紙を渡すと、彼はその紙に何事かを記すとこちらに返してくる。

ドクオにはこちらの文字は分からないため、この言葉がどんな意味をなすかは神のみぞ知るというやつだ。モララーのことだから悪いようにはならないと思うが、少々不安ではある。

(´・ω・`)「さて、準備は整ったかな? 時間も差し迫っているから行くぞ」

ショボンの号令で一人、また一人と魔法陣に乗っては消えていく。残ったのはドクオとショボンだけだ。

339:2014/06/26(木) 16:13:42 ID:AXRm0dFE0

('A`)(うわー、なんか怖いなぁこれ。乗りたくない訳じゃないけど、モララーに貰ったあれも大概だったしなぁ)

黒の魔術団のアジトから王都に戻ったときのことを思い返し、ドクオは思わず胃液が込み上げてくるのを感じた。移動系の魔法は渡辺の魔法と魔法アイテムくらいしか経験したことはないが、あれは酷いものだった。

一瞬にして視界が歪み、三半規管を掻き回すような感覚を得る。それに耐えて視界が正常に戻ると王都に到着していたのだが、ドクオはすぐに嘔吐した。

(lii'A`) (憂鬱だ)

思い出し下呂をしそうになって、ドクオは魔法陣に乗るのを躊躇っていると、いつの間にか後ろに回っていたショボンが背中をさすってくれた。

(;´・ω・`)「大丈夫か? 少し休んでからでも構わないぞ」

(lii'A`)「いえ、大丈夫です」

(´・ω・`)「まぁ、転送系の魔法はなかなか慣れないものだからな。私も始めは何度も吐いたよ」

(lii'A`)「やっぱりですか」

(´・ω・`)「転送魔法陣も開発されたのはここ二十年ほどのことだからね。開発当初はもっと酷かった。本当に死ぬかと思ったほどだ」

これでましになった方だということは、乗り心地(?)はこれが限界ということなのだろう。今後この世界で生活していくのなら避けて通れぬ道だが、仕事と称して連れていかれる度に転送魔法陣を使うとしたら前途多難である。

(lii'A`)「覚悟決めるしかないか……」

ドクオが気合いを入れて魔法陣に乗ろうと構えたときである。

(´・ω・`)「ドクオ」

と、ショボンが呼び止めた。

340:2014/06/26(木) 16:16:14 ID:AXRm0dFE0

('A`)「はい?」

せっかく意思を固めたところでいきなり呼ばれたため、ドクオは興ざめしたがショボンの顔は何か大事なことでも言おうとしているのか、こちらを真っ直ぐ見つめている。

(´・ω・`)「すまないな。本当ならば、君をこんなことに巻き込みたくはないんだ。ただでさえ異世界から偶然呼び出されて大変だろうに」

ショボンはそう言って頭を下げる。前回も、そして今回も組織で権力を持つ彼に謝罪をされると、何だか申し訳ない気分になる。

('A`)「……頭をあげてください。ショボンさんは何も悪くないでしょう」

(´・ω・`)「いや、騎士団の副団長なんて肩書きがあっても、一般人が戦いに行かざるを得ない状況を変えることさえ出来ないほど無力な自分を、私は許せないんだ」

('A`)「……確かに、なんで俺が戦わなきゃならないんだって思いますよ。けど、戦わなきゃ守れないものもある。黒の魔術団もどんなことをしでかすか分かったもんじゃないし。それに、今の俺に出来ることはこんなもんしかないから」

ドクオは自分に出来ることを知っている。戦いについては素人かもしれないが、それでもドクオは渡辺を、他の人を守る力がある。それを知りながら指をくわえて見ているだけなど、こちらに来る前と何も変わらない。

それじゃいけないのだ。ドクオだって死にたがりの馬鹿じゃない。けれど立ち向かわなきゃならない現実が目の前にあるというなら、動かなければ後悔するのは目に見えているから。

ドクオがそう言うと、ショボンはようやく頭をあげた。

(´・ω・`)「恩に着る。ただ、君は絶対に死んではいけない。何かあればすぐに逃げるんだ。いいな?」

('A`)「分かりました」

そう約束をして、ドクオはようやく魔法陣へと踏み出した。

前回のように渡辺が狙われることも今後あるのかもしれない。ツンだって黒の魔術団を抜けた身だ。いつ追っ手が来るかも分からない。

その時、貞子よりも強大な敵が立ちはだかるのだろう。ドクオはそんなやつらとも戦わなければならない。

きっと騎士団が用意してくれる実戦はドクオの血肉になる。何事も経験だ。

そこまで考えたところで、ドクオの目の前が歪み始めた。

341:2014/06/26(木) 16:16:56 ID:AXRm0dFE0



渡辺は現実に嫌気が差して、逃避と言わんばかりに机に突っ伏す。このまま机と一体化して沢山の人の役に立てるなら本望だ。もうこんな俗物にまみれた世界なんて必要ない。

ξ゚⊿゚)ξ「なに現実逃避してんのよ。そんなんじゃいつまでたっても進級出来ないわよ」

向かいの席に座ったツンがため息混じりにそう告げる。長い入院生活も終わり、ツンが魔法学校に編入という形で入学したのはつい先日のことだ。体調はまだ本調子ではないようだが、日常生活に支障はないということでようやく渡辺と肩を並べて学生生活を謳歌できるようになった。

从'ー'从「だってぇ……今回の課題は難しすぎるよぉ」

渡辺達はつい先程まで学校で講義を受けていたのだが、講義を修了した証として課題の提出を求められたのである。

この学校は一つの講義を修了する度に課題を出されるのだが、その難度はまちまちで魔法術式の構築だったり実技試験だったりと内容もバラエティーに富んでいた。そして、今回の講義は錬金術という魔法使いにとってはもはや珍しくもない使えて当たり前のものだが、出された課題に使う媒体が問題だった。

从'ー'从「魔導鉱石の原石なんて簡単にてに入らないよぉ……」

魔導鉱石とは錬金術においてよく使う基本的な媒体の一つで、その用途は様々である。加工を施して燃料にしたり、数が多ければ形にして商品にしたりとかなり応用が利く便利なものだ。

これだけ世に浸透しているものなのだから手に入れるのはそんなに難しくはない。ヴィップラの出店でも覗けば簡単に手に入る代物なのだが、原石となると話は違う。

342:2014/06/26(木) 16:19:42 ID:AXRm0dFE0

元々魔導鉱石は特定の鉱山でしか採掘されず、扱いも国家資格が必要なほどに危険なものなのだ。採掘時には小さな塊で見付かることが少なく、鉱石自体が魔力を多分に含んでいるためちょっとした刺激で簡単に暴発してしまう。

そのため市場に出回っているのは塊を小さく砕き、きちんと魔力が漏れないよう特殊な加工をしてようやく出荷となるため、課題で原石を持ってこいなどとは前代未聞だった。

从'ー'从「でも課題をこなさなきゃ単位取れないよぉ……」

ξ゚⊿゚)ξ「大きさは砕いたものでいいんでしょ? お店では売ってないと思うけど、出荷元に行けば譲ってくれるんじゃない?」

从'ー'从「そんな簡単に貰えるかなぁ……」

魔導鉱石の値は一介の学生でも買えるほどお手頃な価格だ。ならば現地に行けば元値で売ってくれる可能性もないことはない。

だが、その場所に行くまでが大変なのだ。

从'ー'从「箒で行ったらどれくらいかかるかなぁ」

ξ;゚⊿゚)ξ「いや、そこは飛行馬車を使いなさいよ」

飛行馬車とはこの世界において最もポピュラーな移動手段だ。移動術式が開発される前まで街中を移動する際は飛行馬車が利用されていた。しかし、短距離での使用はコストパフォーマンスが悪いために現在では街と街を移動する際に使われているのと、大量の物資を運ぶ際に使われているくらいだった。

343:2014/06/26(木) 16:20:42 ID:AXRm0dFE0

从'ー'从「う〜、ツンちゃんも一緒に行こうよ〜。一人じゃ心細いよ……」

ξ゚⊿゚)ξ「とは言ってもねぇ、実際どれくらいかかるか分からないじゃない。私だって課題やらなきゃならないし……」

从'ー'从「お願いします〜。あんな遠いところまで一人旅なんて嫌だよぉ〜」

渡辺が半分泣きながら切実にそう言うと、ツンは黙ってあれこれと考え始めたようだった。

ξ;-⊿-)ξ=3「はぁ、仕方ないわね。分かったわよ、ついてってあげる」

ついに折れたのかツンはため息を吐いて了承した。

从'ー'从「ほんと〜? やったぁ〜、それじゃあ早速準備しなきゃだね」

ξ゚⊿゚)ξ「甘いなぁ、私。甘やかしたりするのはドクオの仕事なのに……」

ツンの言葉に渡辺は、

从'ー'从「酷いよぉツンちゃん。どっくんはそんなに甘やかしたりしないよぉ」

ξ゚⊿゚)ξ「うっさい。ったく、それじゃあ買い出しでもしましょうか。長い旅になりそうだしね」

从^ー^从「えへへぇ〜、ツンちゃんと旅行だなんて、なんだか夢みたいだねぇ」

ξ//⊿//)ξ「な、ば、馬鹿じゃないの!? 私達は課題のために行くんであって、遊びに行く訳じゃないのよ!?」

从'ー'从「えー、折角外に出るんだもん、ちょっとくらい遊ぼうよぉ」

ξ//⊿//)ξ「そ、そこまで言うなら少しくらいなら、つ、付き合ってもいいけどね!」

从'ー'从「よぉーし、それじゃあお買い物にしゅっぱぁーつ!」

腕をあげて渡辺が歩き出し、その後ろを何かをぶつぶつと呟きながらツンがついてくる。遊びじゃないのは分かっているが、それでも胸の高鳴りを抑えることができない。

それはツンが隣にいるから、あの時叶わなかったことを、今度は出来るから。

渡辺は笑って、これからのことを考える。

いい旅になりますように。

344:2014/06/26(木) 16:23:30 ID:AXRm0dFE0

◇◇◇◇

移動術式をくぐったドクオは早速だが吐き気に襲われ、近くの茂みでげろげろと胃のなかを吐き出していた。やはりあの感覚は慣れるものではない。

しぃが魔法で多少吐き気を抑えてくれているものの、根本的にそういう意図の魔法ではないためすぐに回復というわけにもいかないようだ。

(lii'A`)ゲロゲロー

(;*゚ー゚)「す、すごい勢いですね」

(lii'A`)ゲロゲロー

しばらくしてようやく吐き気が治まったのを見て、しぃが魔法を止める。胃が空っぽになったせいか幾分すっきりした気分だ。

少し離れてドクオを待っていたモララーとショボンは若干呆れ気味に声をかけてくる。

( ;・∀・)「お前ほんと大丈夫かよ」

(lii'A`)「まぁなんとか。もっかい移動術式を使うならもう少し待ってほしい」

こんな状態でもう一回など正気の沙汰ではない。そんなことをすれば二度と目覚めぬ奈落の底へと堕ちていくに決まっている。

ドクオはよろよろと近くに設置されたベンチに腰掛け、しぃが買ってきてくれた飲み物に口をつけた。爽やかな飲み心地の液体が、弱った胃にすーっと溶けていく。生きているって素晴らしい。

345:2014/06/26(木) 16:24:14 ID:AXRm0dFE0

(´・ω・`)「もう移動術式を使うことはないから安心してくれ。ここからはあれを使う」

ショボンが指差した先にあったのは馬車のような乗り物だった。ようなというのは馬がなく、代わりに後方から車などについているマフラーがあり、下部にはゴテゴテとした機械が取り付けられている。本来馬が引くはずの部分にはハンドルらしきものがついていた。

('A`)「なんか、馬車のなり損ないっていうか……」

(*゚ー゚)「見てくれはあんなですけれど、乗り心地は割りといいですよ」

( ・∀・)「そうそう。静かだしな」

口々に馬車の乗り心地を褒める二人にドクオはそこはかとない危険を感じる。あの二人が結託して自分を騙しているのではないか、と不安になった。

(´・ω・`)「そう身構えるな。あの二人が言うように、移動術式を使うよりはいいぞ」

('A`)「……まぁ、そこまで言うなら信じますが」

( ・∀・)「俺達の言うことは信じられないってのかよ」

(*゚ー゚)「私はそんなに信用ないですか?」

('A`)「そういう訳じゃないが……あ、モララーは別な」

( ・∀・)「え、何それ酷くない? 俺達親友だろう」

('A`)「いつから親友になったんだよ。初耳だ」

( ・∀・)「この野郎一晩中飲み明かした仲なのに」

おどけるモララーを一瞥して、ドクオはショボンが指を差した場所へと歩き出した。モララーは何事か文句を言っていたようだが、そんなものを相手にしていたら日が暮れてしまう。

346:2014/06/26(木) 16:24:57 ID:AXRm0dFE0

ショボンが店の人と短い会話をしたのち、一つの馬車を差してからそれに乗り込んだ。やはり馬車は人が運転するらしい。

ショボンが一つの馬車に乗り込むのを見てから対面にドクオが座り、その隣にしぃ、モララーがその向かい側。最後に乗り込んだモララーは扉を閉めて座った。

(´・ω・`)「いいぞ。出してくれ」

ショボンが言うと奇妙な浮遊感と共に馬車が浮かんでいく。

('A`)「おお」

扉の窓から外を見ると、徐々に地面が離れていくのが見えた。こんな簡素なものが空に浮かぶという事実にドクオは少なからず感嘆する。魔法というのは本当に底が知れない。

発信してからしばらくの間は米粒のようになった地表を眺めて楽しんでいたが、そのほとんどが青々とした森林ばかりで長時間見ているというのはやはり飽きてきた。その頃合いを見計らってショボンが口を開く。

(´・ω・`)「さて、今回の任務を説明しよう」

ショボンの言葉にしぃとモララーが神妙な顔付きで頷いた。釣られてドクオも顔を引き締める。

(´・ω・`)「今回の任務は鉱山都市モ・トコ周辺に出没した悪魔の殲滅だ」

('A`)そ「悪魔!?」

347:2014/06/26(木) 16:25:43 ID:AXRm0dFE0

予想外の言葉にドクオは大声をあげた。悪魔と言えば、確か以前しぃが説明してくれた伝承にしか描かれていない破壊と絶望の象徴。十五年前の戦争でも現れたというが、そちらの信憑性は定かではない。

そんな伝説上の存在が、何故今頃になって現れたというのか。しかもそれを殲滅ということは、ドクオ達が戦わなければならないということだ。

あまりの出来事にドクオは開いた口が塞がらない。しかしそれとは対照的に他の二人は落ち着いている。

(´・ω・`)「ドクオも話くらいは聞いていたか。とは言ってもそんなに大袈裟な話じゃない。モ・トコ周辺で悪魔と思しき生命体を見かけたため、その真偽を確認し、もし本当に悪魔だったなら討滅といった具合だ」

('A`;)「なんだ、脅かさないでくださいよ。そんなのと戦わなきゃならないなんてさすがに荷が重すぎる」

( ・∀・)「とは言っても、周辺住民の話によればほぼ間違いないらしいけどな」

モララーがあっけらかんと言う。それならなんでこんなに落ち着いているのだろうか。勝てるかどうか、どころか生きて帰れるかどうかすら怪しい存在と一戦交えなければならないのに。

(*゚ー゚)「モ・トコの周辺の集落ではすでに何人かの住民が襲われているようで、被害はかなり拡がっていますね。自警団や派遣されている騎士も交戦したそうですが歯が立たず、生存者はゼロ。状況は絶望的です」

('A`)「そんなのと戦うの?」

(´・ω・`)「戦闘中に送られてきたとされる音声があるんだが、こちらの攻撃は全て無効化されているようだった。魔法が効かないのか術式を破壊しているのかは分からないが、かなり厳しいな」

聞かされる言葉にドクオは思わず頭を抱える。王都でショボンが頭を下げたのはこれが原因だったのか。

348:2014/06/26(木) 16:26:40 ID:AXRm0dFE0

('A`)「そんな相手にどうするんですか? いくらショボンさん達が行ったところで攻撃が効かないんじゃやられるだけじゃ……」

( ・∀・)「ばぁか、何のためにお前を連れてきたとおもってんだよ」

('A`)「……魔剣か」

(´・ω・`)「そうだ。既存の攻撃手段では歯が立たないが、ドクオの持つ魔剣はどうやら魔力やマナを消滅させるようだからな。ましてや伝承にさえ書かれている代物だ。もしかしたら対抗手段になり得る可能性がある」

と、言うことはだ、その化け物を相手にするのは必然的に━━

('A`)「俺がやるのか」

(´・ω・`)「うむ。私達も出来うる限りのサポートはさせてもらうが、最終的に君に頑張ってもらう必要がある」

( ・∀・)「責任重大だな」

(*゚ー゚)「私達の命はドクオさんにかかっていますから」

('A`;)「ちょっとプレッシャーかけないでくれます? もう逃げ出したいくらいなんだけど」

(´・ω・`)「とは言ってもモ・トコに直接行くわけではない。周辺の街の被害状況や出没地域も確認しなければならん。モ・トコには明日の夕方に到着予定だ。今日は近くの街に宿を取ってあるからそこで一泊、のちに二つ三つほど他の街で情報を集め現地入りという形だな」

ショボンが他にも細々とした注意事項などを説明してくれたが、ドクオの耳には入ってこなかった。

とんでもない仕事に連れてこられたものだとドクオは心中で呟く。自分の成否がそのまま他の仲間の命を左右するなど、ドクオの人生で初めてのことだった。

('A`)(いや、そうでもないか。初めてこっちに来たときも俺があの魔物とやりあってなかったら色んな人が死んでた)

349:2014/06/26(木) 16:27:24 ID:AXRm0dFE0

ニダーと戦ったときもそうだ。あの時もドクオが最後まで戦わなかったらしぃも、渡辺も怪我じゃすまなかったかもしれない。貞子の時は渡辺も、ツンも下手を打てば死んでいた。そう考えれば状況は変わらないように思う。

いつだってぶっつけ本番で立ち向かったのだ。いつも通り、そういつも通りでいい。ドクオには戦況を正しく判断できる戦術眼などないし、便利な魔法もない。あるのはいつの間にか手に入れた古代の伝承。そして、一月かそこらで身に付けた体力と力。

('A`)(俺だって少しは成長したんだ。やれないことはないはず)

窓の外を見つめながら、ドクオは言い聞かせる。たとえ悪魔がどれほどの力を持っていようが、同等の力がドクオの手にはあるのだ。

ドクオは何も言わずにぎゅっと拳を握り締め、来るべき戦いに想いを馳せる。

350:2014/06/26(木) 16:28:08 ID:AXRm0dFE0


从'ー'从「荷物多くなっちゃったねぇ」

ξ#゚⊿゚)ξ「あんたがあれこれ必要のないものを買うからでしょうが。ちょっと貸しなさい、私が選別する」

从;'ー'从「あ、ダメだよぉ、それは私のおやつだってばぁ〜」

ξ#゚⊿゚)ξ「うっさい!! 遊びに行く訳じゃないんだから、こんなにいらないでしょ!?」

从'ー'从「あー、それもダメぇ〜」

大きく膨れ上がり必要なものも入らなくなった渡辺の荷物を逆さにしてツンはあれこれと物色すると、大量のお菓子類をひたすらに仕分けていく。よくもまぁこんなにお菓子ばかり入れたものだと呆れを通り越して感心するばかりだが、今回の旅に関しては少しきつく言わねばなふまい。

何しろニューソク大陸の北端まで行くのだ。いくら飛行馬車で一日かからず行けるとはいえ、お遊び感覚では痛い目を見ることは火を見るより明らかだ。

王都周辺は騎士団が守りを固めているおかげか魔物もあまり活発ではないが、王都から離れていくのに比例して魔物は強力になっていく。自分達の天敵である人間の絶対数が少ないため、数を増やすと共に魔物同士の縄張り争いなどかわ頻発し、進化を遂げていったのだ。

飛行馬車は空を走る場所であるため、当然だが陸の魔物と出くわすことはないと断言できるが、北の方は空を飛ぶ魔物の数が比較的多い。黒の魔術団にいた頃、飛行馬車が魔物に襲われていたのを何度か目撃しているツンとしては出来る限り危険を減らしいたいのだ。

351:2014/06/26(木) 16:28:58 ID:AXRm0dFE0

ξ゚⊿゚)ξ(まったく、お菓子よりも身を守るものを持ちなさいっての)

鞄から出されるお菓子達を抱き締めながら渡辺は血の涙を流していたが、これも渡辺のためだ。もちろんツンの鞄も多少の空きは確保しているので、お菓子全てを持っていけないわけではないが、今はこれくらいして渡辺にも危機感を持ってもらわなければならない。

あらかた整理の終わった鞄に、課題で使うものを片っ端から入れていく。ツンがどうして渡辺の課題に必要な道具類を知っているのかと言えば、友情の力がなせる技、とでも言っておこうか。ただ単に渡辺が心配だったため、ツンが下調べなどを行っただけなのだが。

ξ゚⊿゚)ξ「ま、こんなもんでしょ。って、あんたはいつまで泣いてるのよ」

从TーT从「だってこんなにも沢山のお菓子が……」

ξ゚⊿゚)ξ「帰ったらいくらでも食べられるわよ。んなことより明日に備えてさっさと寝る!! 何のために私が泊まってると思ってるの!?」

从'ー'从「はぁ〜い」

渡辺が寝床に入り寝息を立てるのを見届けてからツンも布団を被る。とりあえずの準備はこれでいいだろう。あとは明日の朝早くに王都を発てば夕方には現地入りだ。

ξ゚⊿゚)ξ(そういえば、モ・トコ周辺で事件が起こってるって話だったけど、大丈夫なのかしら)

もし何らかの重大な事件が発生してい場合、学生や一般人に検問をしている可能性もある。だとすれば行ったところで街に入れなかったり、飛行馬車の運行自体されていないかもしれない。

ξ゚⊿゚)ξ(その時は、その件が落ち着くまで二人でのんびり旅行ってのも悪くないか)

いつも慎重に動くはずの自分が、渡辺といるだけでこんなにも変わるものなのか、とツンは驚いた。自分も少しずつ変わっているのかもしれない。

だがこの変化は決して悪いものではない。凍り付いた心がゆっくりと溶けていくような、人の温もりや優しさがツンを包んでいる。

それに身を任せてみるのはけして悪いことじゃない。

そんなことを考えている内に、いつの間にかツンの意識は微睡みに落ちていくのだった。

352:2014/06/26(木) 16:29:42 ID:AXRm0dFE0

◇◇◇◇

夜、モ・トコより二つほど離れた街にドクオ達は滞在していた。途中小さな集落に立ち寄ったが、悪魔に関する情報は得ることができなかった。

というのも、その集落にはそもそも人がいなかったのである。人が住んでいた形跡は確かにあるのに、まるで唐突に消えてしまったかのように集落だけが残っていた。つい先程まで日常生活を営んでいたはずなのに、人だけがいないという異常な様相はドクオの胸に不安だけを募らせていく。

('A`)(それに、村の中心に魔法陣を描いたような痕跡があった。まさか、悪魔を召喚でもしたんだろうか)

あんな目立つところに魔法陣を描けば、否が応でも他の人々が気付くはずだか、村のどこにも戦闘が行われた形跡はなかった。

つまり、その集落は突然、なんらかの形で村人全員が死亡、もしくは消失したということだ。しかもその異常を誰にも気付かせず、ごく自然に。

それ以上のことはどれだけ調べても分からなかったが、この街に到着して話を聞いたところによれば同様のことが他の集落でも起こっているようだった。

('A`)(なんか嫌な予感がするな)

353:2014/06/26(木) 16:30:30 ID:AXRm0dFE0

街の中央広場にある噴水の縁に腰掛け、空を見上げながらこれからのことを考える。

悪魔と集団失踪。この二つが繋がっているのは間違いないが、人為的なものなのか、それとも自然に発生してしまったのかがいまいち掴めない。誰かの手によって引き起こされたものならばそいつを倒せば済む話だが、自然的なものならドクオにはどうしようもない。

もちろん魔法陣の痕跡がある以上、誰かがこの件に噛んでいるのは間違いない。

ドクオは煙草を取り出して火を点ける。こちらに来てからすっかり馴染んだ味を堪能し、吐き出す。

('A`)y━・~~(やっぱ煙草は落ち着くな。健康には悪いんだろうけど、今さらやめられんし)

わざとどうでもいいことを考えて、少しでも気持ちを落ち着けようとするが、煙草を持つ手は僅かに震えていて緊張を隠せない。

以前までとは状況が違うのだ。ニダーや貞子のように強敵とはいえやつらは人だった。人であるから感情があり、限界がある。伝説上の存在ではない。

354:2014/06/26(木) 16:31:13 ID:AXRm0dFE0

('A`)y━・~~(まぁ、ここまで来た以上、生き残るためには戦うしかないんだろうけど)

腹は当に決めたはずなのに、何故こんなにも胸がざわつくのだろう。落ちていく灰を見つめながらその理由を探すが、うまく説明できそうにない。

煙草を二本ほど吸いきったところで、ドクオはようやく重い腰をあげた。明日から忙しくなる、休めるときに休んでおかなければ身が持たない。

ドクオが宿へと足を向けた時、向かい側から誰かの足音が聞こえてきた。

腰にある剣に手をかけ、身構える。足音は一つ、相手は一人のようだ。

(*゚ー゚)「あ」

ドクオは暗闇から現れた少女の姿に拍子抜けした。まさかしぃがやって来るとは思わなかった。

355:2014/06/26(木) 16:31:58 ID:AXRm0dFE0

('A`)「……しぃちゃんか。どうしたんだ、こんな夜更けに」

(*゚ー゚)「なんだか眠れなくて。ドクオさんもですか?」

('A`)「ああ。今日のこともあるし、気が高ぶっちゃって」

剣にかけた手を戻して、もう一度煙草を取り出す。火を点けるとしぃがくすくすと笑った。

(*゚ー゚)「ドクオさんでも緊張するんですね」

('A`)y━・~~「そりゃな、元々こんな生活とは無縁だったわけだし」

(*゚ー゚)「……ドクオさんは一般人ですもんね」

しぃが言った一般人、という言葉が少しだけ強調されて聞こえた。どこか羨望のような感情が混じっているよな、そんな気がする。

隣に並んだしぃの顔はいつもと変わらない無表情。頭一つ分背の低い彼女は空を見上げている。ドクオもそれを追って顔を上げた。

356:2014/06/26(木) 16:32:47 ID:AXRm0dFE0

二人の間に静寂が訪れる。街は眠りについており、頬を撫でる風の音さえも聞こえてくる。昼間は賑やかだった広場も今は二人だけしかいない。

しぃが哀愁のような雰囲気を纏っているように見えるのはドクオに女性の感情を分かる術がないからだろうか。

('A`)y━・~~「……答えたくないならいいけど、しぃちゃんはなんで騎士団に入ろうと思ったんだ?」

何かを話さなきゃ、と口をついたのはどうでもいい世間話とは離れたものだった。モララーは騎士団に入ろうとする者は何かを抱えている人間が多いと言っていた。例えば、渡辺やツンのように。

ショボンは騎士団というのは秩序であり、剣であり盾だと言った。それは誰かのために命をかけるだけの理由や事情があるということだろう。圧政に強いたげられたのかもしれないし、魔物や盗賊に家族や友人、果ては恋人を奪われたのかもしれない。

個人ではどうしようもないことを騎士団ならば変えられるという希望を持つからこそ、自分にルールを課して戦うのだろう。ドクオはそう理解している。

だから、こんなことはきっと聞いてはいけない。人それぞれ思うところがあって騎士団にいるのだ。ドクオのような人間が容易く踏みいっていい領分ではない。

言ったあと、しぃの沈黙にドクオは慌てて次の話題を探したが、裏腹に彼女はなんでもないかのようにそれを話し始めた。

(*゚ー゚)「私は孤児なんですよ、魔物に両親を目の前で殺されまして、そのあとにとある教会で育てられました」

それから、とつとつとしぃは語る。

魔物に両親を殺された彼女は心を閉ざし、少しのことで脅えるようになってしまった。周りの子供とも馴染めず、一日誰とも話さないことも多かった。

だが、それを見た神父はしぃを気にかけ、辛抱強く何度も何度も話を聞いてしぃの心の傷を少しずつ癒してくれた。しぃが他の子供達と遜色なく笑顔を見せるようになったのは両親の死から一年後である。

周りの子供達も辛い経験をしているはずなのに、いつだってしぃに優しくしてくれた。そんな環境もしぃを立ち直らせてくれるのには好都合だったのかもしれない。

そして月日が流れ、しぃが十二歳になった頃、その教会の取り壊しが決定した。

357:2014/06/26(木) 16:33:29 ID:AXRm0dFE0

(*゚ー゚)「元々教会なんていうのは信仰がなければ機能しません。どちらかと言えば孤児院として残っていたんでしょう。ですが増えすぎた子供達を養うには寄付金だけでは足りません。取り壊しもやむ無しでした」

行き場を失った子供達は騎士団が引き取り、未だに訓練生として学校に行ったりしているそうだ。衣食住を保証された生活を与えられた子供達は選択肢のない日々をなんとかこなしている。しかし、唯一教会の神父だけが行方が分からないまま。

(*゚ー゚)「私達には選べるほどの道はありませんでした。気がつけば騎士団にいたという感じですね。もちろん騎士になれたことは誇りに思いますし、今の生活にも満足しています」

けれど、しぃの顔はけして晴れない。その理由はドクオにだって分かる。

('A`)y━・~~「神父さんが、今も心配か?」

(*゚ー゚)「そうですね。宗教が廃れたこの時代ですし、何をしているのかは分かりませんが、出来ればもう一度会ってお礼を言いたいとは思います」

しぃはそれきり口を閉ざした。大切な思い出を慈しむかのように目を閉じる。

('A`)y━・~~「……なら、この件が終わったらちょっと長めに休暇でも取って探しに行こうぜ」

そんなしぃを見て、ドクオは思い付いたことを口にした。我ながらいい案のように感じる。

だが、しぃは馬鹿にしたような、それでいて驚いたような表情をドクオに向けていた。

(*゚ー゚)「……はい?」

('A`)y━・~~「なんだよその顔。会いたいんだろ、神父さんに。だったら探しに行こう。王都にいたって神父さんが訪ねてくるとは限らないしさ。こっちから出向いたほうが喜ぶかもしれないぞ」

(*゚ー゚)「……手がかりも何もないんですよ?」

358:2014/06/26(木) 16:34:13 ID:AXRm0dFE0

('A`)y━・~~「そんなもんは道中探していけばいいんだよ。何もしないよりはましじゃないか。きっと大人になったときに、あの時探しに行けばよかったって後悔したんじゃ遅いんだぜ?」

自分がそうだったんだ、とは口が裂けても言えないが。

('A`)y━・~~「一回じゃ見つからないかもしれないが、何回も何回も探しにいけばいつかは見つかるさ。一人じゃきついかも知れないが、俺もついていくよ。暇だからな」

(*゚ー゚)「……そう、ですね」

('A`)y━・~~「俺だけじゃ不安なら渡辺やツンも誘おう。モララーも、ついてきてくれるかな。なんだかんだあいつもしぃちゃんのこと気にかけてくれてるしさ」

(*゚ー゚)「話が大きくなってませんか?」

('A`)y━・~~「いいんだよ、これくらいで。その方が寂しくない」

しぃもドクオも一人ではない。頼れる仲間や友人がいるのだ。周りを頼らず、一人で何でもできるのは凄いことかもしれないが、それには限界がある。

(*゚ー゚)「ドクオさんは、時々凄いことを言いますね」

('A`)y━・~~「何も凄くはないさ。当たり前のことを当たり前に言ってるだけだ」

その当たり前が一番難しいことをドクオは知っている。元の世界では出来なかったこと、こちらに来て経験したことが今のドクオに段々と根付いているからこそドクオは胸を張っていられるのだ。

359:2014/06/26(木) 16:34:57 ID:AXRm0dFE0

(*゚ー゚)「ドクオさんは馬鹿ですよ。見つかるかも分からないのに」

残り少なかった煙草が最後の一本となり、くわえてからドクオはようやく彼女に言葉を返した。

('A`)y━・~~「んなもんやってからじゃなきゃ分からないって。見つかりゃ万々歳、見つからなきゃ仕方ない。さっきも言ったが、やらずに後悔するよりやったほうがいいんだって」

しぃは瞳を閉じて、何かを考えているのだろう。彼女の心にある思い出の欠片は、きっと簡単には見付からない。けれど行動を起こすことに意味があるのだ。おそらく、しぃもそれを分かっている。だからすぐに答えられない。

最後の煙草が灰に変わる頃、ようやくしぃは一言だけポツリと呟いた。

(*゚ー゚)「……約束ですよ」

('∀`)「おう」

にこやかな笑顔でドクオは静かに答えた。つられてしぃも笑っている。年相応の可愛い笑顔に、ドクオは思わず頭に手をやりわしわしと撫でてしまった。

(;*゚ー゚)「ちょ、やめてください」

('A`)「はは、悪い悪い」

嫌そうにそう言うものの、しぃは逃げたり止めたりはしない。ドクオの手にされるがままだ。

どれくらいそうしていたか、ドクオは唐突にその手を止めた。

('A`)「……おい」

360:2014/06/26(木) 16:35:46 ID:AXRm0dFE0

ドクオの声にしぃも顔を険しくする。

(*゚ー゚)「ええ。何か、おかしいですね」

辺りは相変わらず静寂を守っている。それはおかしいことではない。しかし、あまりにも静かすぎる。いつの間にか虫や鳥の声、果ては星空の光さえない真っ暗闇の中にドクオたちは迷い混んでいた。

武器を持っていないしぃを庇うようにドクオは前に出て武器を構える。誰かが襲ってくる様子はないが、周囲に何かがいるのは確かだ。小さな息遣いとジリジリと距離を詰める足音が微かに聞こえている。

('A`;)(数が多いな。俺だけでなんとかなるか?)

汗が頬を伝い、ポタリと地面に落ちた瞬間━━

('A`)(来たっ!)

▼・ェ・▼「GYAAAAAAAAAAAAA!!」

犬のような姿をした魔物、その数三匹が一斉に襲いかかってくる。ドクオは前方の一匹を斬り伏せ、しぃの手を引き走る。

361:2014/06/26(木) 16:36:35 ID:AXRm0dFE0

('A`;)「なんだよありゃ! この街の結界はどうなってんだ!?」

(;*゚ー゚)「先程まで正常に動作していました。つまり、敵は中にいるということでしょう」

('A`;)「誰かが手引きしたってことか。とにかく今は」

距離を空けたところで振り返り、もう一太刀。短い悲鳴をあげて魔物は消え去った。

('A`)「ここを切り抜けるとするか!」

ドクオの声と同時に二人を囲むように魔法陣が浮かび上がる。そこから大量の魔物が現れ、次々と牙を向いてくる。

動きそのものは冷静に対処すればそれほど驚異ではない。しかし魔物達はうまく連携をとって前後左右を動き回り、ドクオの隙をついて攻撃を繰り出していた。

('A`)「きりがねえぞ!」

(;*゚ー゚)「ドクオさん、私のことは構わずに!」

('A`)「馬鹿、んなこと言うな!」

362:2014/06/26(木) 16:37:19 ID:AXRm0dFE0

一匹、また一匹と増え続ける魔物をドクオはひたすら斬り伏せていく。術者がどこかにいるはずだが、もしかしたらこの空間そのものが敵の魔法という可能性もある。だとすればここを脱出しなければ生き残る術がない。

('A`)(魔法ならこの剣で斬れるはず。なら、そいつを探すしかない)

と、ドクオが意識を魔物から外した時だった。魔物達の動きがぴたりと止まり、ぶるぶると震えだす。

('A`)「なんだ?」

予想もしない展開にドクオは剣を構えたまま呆然とする。が、次の瞬間魔物達の体が発光し、一つの塊となった。

(;*゚ー゚)「……これは、生体合成!?」

('A`)「は?」

塊は徐々に形を成していき、一匹の魔物となる。その姿は先程の可愛らしい外見とはうって変わって禍々しいものへと変化していた。

▼・ェ・▼▼・ェ・▼▼・ェ・▼
▼・ェ・▼▼・ェ・▼▼・ェ・▼
▼・ェ・▼▼・ェ・▼▼・ェ・▼
▼・ェ・▼▼・ェ・▼▼・ェ・▼

363:2014/06/26(木) 16:38:06 ID:AXRm0dFE0

('A`;)「うげっ、ケルベロスかよ」

九つの首を持ち、同じ数の尻尾。体は先程の三倍ほどもある。どの顔も光のない目をしており、口には肉を噛み千切ることに特化した鋭利な牙がびっしりと生え、止めどなく涎を垂らしている。

(;*゚ー゚)「来ます!」

合体した魔物が走り出した。動きも速い。寸でのところで横に飛び、攻撃をかわすが体勢を整える前に魔物の体がこちらを向き、九つの口から炎を吐いた。

('A`;)「くそっ」

剣で火炎を受け止めるも全てを消しきれない。徐々に押し負け、ドクオは上方向に体を崩され火炎をもろに浴びてしまう。

( A )「があっ」

(;*゚ー゚)「ドクオさん!!」

何かの加護でも働いたのか、剣により威力が弱まったのかは知らないが消し炭にならずに済んだが、火傷が酷く鈍い痛みが体を駆け巡る。

('A+;)「っのやろう!!」

しかし止まる訳にはいかない。痛む体に鞭を打ち、ドクオは正面から駆け出す。

('A+)「はっ!!」

364:2014/06/26(木) 16:39:34 ID:AXRm0dFE0

図体が大きくなった分こちらの攻撃は当たりやすくなった。横薙ぎに降った剣は致命傷にはならないが、一つの首を切り落とした。いつものように消滅とはいかないが、魔物からは悲痛な叫びがあがる。

さらに一歩踏み込み、もう一撃。まとめて二つの首を消滅。すぐに横に飛ぶと前足がドクオの頬をかすった。

('A+)(あまり時間はかけられねぇ)

ドクオは地を蹴り懐へと潜る。腹の中心に切っ先を向け、一気に突いて思いきり振り下ろした。

▼・ェ・▼「Wooooooooo!!」

叫びと共に魔物は崩れ落ち、光の球となって周囲に拡散した。すると暗闇が徐々に消えていき、街の景色が元に戻っていく。

(*゚ー゚)「どうやらあの魔物が魔法の元になっていたようですね」

('A+)「……」

しぃの声が安堵を取り戻すと同じくして、ドクオはついに膝を折った。

(;*゚ー゚)「ドクオさん!!」

薄れ行く意識の中、血相を変えたしぃの瞳に涙が浮かぶのを確認して、ドクオは再び闇の中へと落ちていった。

365:2014/06/26(木) 16:40:35 ID:AXRm0dFE0

◇◇◇◇

( ゚"_ゞ゚)「ふむ。あの程度ではやはり駄目か」

遠くからドクオの戦いぶりを見ていたオサムは手元にあるメモに走り書きをする。

( ゚"_ゞ゚)「所詮は魔物でしかないということか。しかしマナの密度をあげたことで魔剣ですら消しきれないようだな。これは実に興味深い」

魔剣とは全てを喰らい消滅させる破壊の象徴だと思っていたが、使用者の力不足なのかイマイチ驚異とは感じなかった。

対貞子戦では彼女の闇魔法ですら打ち消すことが出来なかったそうだし、少々がっかりである。

できるのならば魔剣の本当の力を知りたい。余すことなく、全てをさらけ出してほしい。伝承の通り、破壊と絶望を撒き散らして欲しいのだ。

( ゚"_ゞ゚)「もっと強いキメラを当ててみるか。だが、残りも少ない。これは参った」

366:2014/06/26(木) 16:41:38 ID:AXRm0dFE0

座っていた棺桶の中を物色しながらオサムは次の手を考える。今回のゲームをするにあたり様々な物を用意してきたが、小手調べに使う駒はそう多くない。可能であれば次でゲームを始めたいが、魔剣の力を引き出さねば面白くない。

これでは折角の舞台も盛り上がらないと言うものだ。

( ゚"_ゞ゚)「今さら王都に行って新たな駒を作るのもめんどうだ。どうせならここを実験場にしてしまおう」

幸いこの街は幾つも手をつけていない。モルモットも多く残っていることだし、騎士団が向かうモ・トコからもそう離れてはいない。

オサムが棺桶を空けると一つの黒い球が浮かび上がり、ゆっくりと降下していく。

( ゚"_ゞ゚)「今回は少し大きめにしておくか。あまり時間もない」

黒い球に手を突っ込み、情報を与えると球は複雑な模様と文字を描きながら地面に貼り付いた。一瞬にして魔法陣が出来上がり、オサムは無表情にそれを観察する。

( ゚"_ゞ゚)「こんなものか。さて、次の段階に進むとしよう」

魔法陣が光を失い見えなくなると、オサムは踵を返し街を出る。

魔剣の主と騎士団、楽しいゲームの時間だ。

367:2014/06/26(木) 16:42:24 ID:AXRm0dFE0
第八話 終

368:2014/06/26(木) 16:46:18 ID:AXRm0dFE0
昨日投下するといっていたにも関わらず一日遅れてしまいまして大変申し訳ありません
なんだかよくわからないんですが、BBHとかなんとかで書き込みができませんでした
とりあえずこんなところで第八話終了です
次回投下は恐らく月曜日か日曜日になると思います
今回も読んでいただきありがとうございます
それではまた次回

369名も無きAAのようです:2014/06/26(木) 17:57:48 ID:9NtxaA6c0
乙乙

370名も無きAAのようです:2014/06/26(木) 18:18:58 ID:AzP8GVQ60

ドクオのギャルゲ系イケメン具合に嫉妬

あとケルベロスの表現の仕方に何だか笑ってしまったw てか頭が12頭ないか?
かわいい

371名も無きAAのようです:2014/06/26(木) 23:31:49 ID:0neGwT/w0

今回も楽しく読ませてもらった
このドクオ絶対イケメンだろ

372名も無きAAのようです:2014/06/28(土) 21:02:58 ID:TlDpC.Ps0
お、来てたのか


373:2014/06/29(日) 00:31:04 ID:fXDvGWPk0
こんばんは、1です
どうやら日曜日の投下は無理そうなので月曜日の夜にでも投下しようかなと思います
ちょっとリアルで問題がありまして次の話がまだ半分ほどしか出来上がっておりません
ですのであと一日待っていただけたらと思います
では月曜日の夜にでも

>>369
ありがとうございます

>>370
oh...九つなのに三つ多い……
指摘ありがとうございます
ケルベロスはAA作るか悩んだんですがめんどいのでやめました
私もこれ見た瞬間ぶふぉってなりましたね、あまりの手抜きっぷりに
伝わればいいかなって感じなものでしたのでw

>>371
顔はキモいイメージですよ
中身が成長していく感じなんですが、なんかイケメンすぎですね

>>372
はい、更新頻度だけは優秀だと自負してます
文量が最近少ないかなと思ってますが

374:2014/06/30(月) 15:52:51 ID:MYtN.GAA0
すいません1です
まだ執筆が終わっていません
もう少しで終わるのですが、投下は延期させていただきます
多分今週中には投下しますのでしばしお待ちください
とは言っても、読んでいる方は片手で数えられるほどでしょうが
では

375名も無きAAのようです:2014/06/30(月) 18:43:23 ID:bfqCKllU0
作者の都合が一番
待ってますよ

376名も無きAAのようです:2014/06/30(月) 18:54:39 ID:OOCEsemIC
今日期待してたけど仕方ないな、まあ投下できる日まで待ってるよ

377名も無きAAのようです:2014/06/30(月) 19:58:38 ID:eVDUd.0YO
報告なく消えるよりずっといいんだぜ

378名も無きAAのようです:2014/07/01(火) 01:29:26 ID:OvHmMtf60
まじきたいしつる

379:2014/07/01(火) 02:04:42 ID:omB3Xylg0
なんだか最近筆がのらないことが多いもので本当にすいません
一応毎日筆を取っているのですが、スランプかもしれません
書いては消して書いては消してを繰り返し、とうとう一話分まるまるかきなおしているところです
遅くとも木曜日までには投下いたしますのでもうしばしお持ちください

380名も無きAAのようです:2014/07/01(火) 07:17:29 ID:9LaFxnNc0
焦らずマイペースでやってください
もう暖かいので全裸待機も余裕!

381:2014/07/02(水) 19:36:15 ID:2LKcBS9g0
どうも1です
ようやく投下できる出来の文章が出来ましたのでそのご報告です
ただいまよりその手直しをいたしますので、明日の夕方から夜には投下できそうです
待っていてくださる方には大変ご迷惑をおかけしました
ではまた明日投下する際にお会いしましょう

382名も無きAAのようです:2014/07/02(水) 21:26:46 ID:HRidzFlE0
>>381
お待ちしてますーw

383名も無きAAのようです:2014/07/03(木) 00:11:38 ID:muVde1rI0
待ってますよ

384:2014/07/03(木) 14:22:17 ID:nhiZL3QQ0
本日18時から投下します

385:2014/07/03(木) 17:59:33 ID:2V.Din8.0




第九話「水面下の戦い」




.

386:2014/07/03(木) 18:00:24 ID:2V.Din8.0

◇◇◇◇

元々しぃという子供は主体性がなかったと記憶している。

何をするにも両親がいなければ泣いていたし、友達と遊ぶのも周りの意見に合わせ、けして自分の心の内を他人に明かすことはなかった。

恥ずかしかったのとは少し違うし、自分が何かを言えば周りは少なからずそれを尊重してくれたんだろうとは思う。

けれどしぃがそれをしなかったのは何か考えがあったわけではない。ただ何を言えばいいか、自分が何を考えているのかという根本的な部分を理解していなかったに過ぎなかった。

例えば亡くなった母が好きなものを作ってくれると言ったときも、しぃは何が好きなのかを答えることが出来なかった。だって母が作ってくれるものはどれも美味しくて嫌いなものなんて一つもなかったから。

例えば友達と遊ぶときも、何をしようかと迷った時しぃは何をしても構わないと思っていた。かくれんぼでも鬼ごっこでも、要はみんなで遊べるのであれば何であろうと構わなかったから。

数え上げればきりがないこんな昔話は自分の中ではごくありふれたもので、今日に至るまでしぃはそれでいいと信じてやまなかった。

両親が魔物に殺され、教会に預けられたのは自分の人生の大きな分岐点ではあった。

そこで彼女はがらりと変わってしまった生活に、両親が目の前で残虐に殺されるという場面に恐れを抱いたのはまぎれもない事実であるが、心を閉ざした理由はそれではなかったのである。

しぃの過去の中では自分が困っていた時に必ず、両親であったり友達であったり、果ては見ず知らずの他人であったりが手を差し伸べてくれたのだ。だから、両親が亡くなる間際もそれを信じてやまなかった。もしかしたらしぃが自らの意思で誰かに助けを求めることをすれば助かったかもしれない。

387:2014/07/03(木) 18:01:15 ID:2V.Din8.0

その後悔が彼女の中で大きくのしかかり、ついには彼女の感情を凍てつかせたのだ。

だからといってそれを省みて行動に移せるほど彼女の心は成長しきっていなかったし、ましてや自分の立場や境遇はすぐにでもどうにかなるものでもなかったから、結局のところ彼女は自分の殻に閉じ籠るしか方法はなかった。

一人になれば生きるために行動できるかもしれない。

孤独であれば立ち上がることができるかもしれない。

そんな浅薄な考えで、子供ならではの想像が、その時は通用するのだと本気で信じていた。

しかし、その考えはすぐに消し去らざるを得なくなる。

両親を失った彼女を憐れんだのか、それとも単に仕事を全うしようとしたのか、預けられた教会の神父はしぃを気にかけてくれた。

何度もくだらない話をしてくれた。ためになる話もしてくれた。しぃが口を開かなくても彼は毎日のように、暇を見つけてはしぃとコミュニケーションをとってくれたのだ。

388:2014/07/03(木) 18:01:56 ID:2V.Din8.0

何度も煩わしいと思ったが、次第に彼女の心は昔のような子供としては正しいであろう本来の形へと戻っていく。

友達ができた。好きな人だってできた。笑うことが増えたし、時に泣くこともあった。

そこに足りないものは、亡くなった両親だけだったが、神父はそんなことを忘れさせてくれるくらいに子供たちを愛してくれたし、しぃも彼を本当の親のように愛してしまったのだ。

故に彼女は大きくなるにつれ、あの日の後悔を忘れていく。自分に足りないものが何かに気づくこともなく、幸せな日々が、昨日と同じ今日、今日と同じ明日がずっと続いていくのだと信じてしまったから。

そんな保証はどこにもないのに。

389:2014/07/03(木) 18:02:40 ID:2V.Din8.0

◇◇◇◇

(うA-)「ん……」

ドクオが目を覚ますとベッドの上だった。体中に包帯が巻かれており、自分が何故こんな状態になったのかを思い返してみる。

('A`)(そういや昨日、魔物に襲われたんだっけ)

そして攻撃を受けきれず、怪我を負ったものの倒すことには成功した。あのあとすぐに意識をなくしたはずだから、しぃがここまで運んでくれたのだろうか。

そこまで考え、ふと足の辺りに何かが乗っているような感覚があることに気付いた。

(*-_-)zzz

そこにはしぃが寝ていた。手にステッキを持っているところを見るに、一晩中回復魔法をかけてくれたのだろう。完治こそしていないが、傷は大分塞がっている。

しぃの頭を軽く撫でてやると、心地よさそうな声が聞こえた。布団に丸まって寝ている子猫とはこのような感じなのかもしれない。

390:2014/07/03(木) 18:03:24 ID:2V.Din8.0

しばらくしぃを撫でていると、扉を開く音が聞こえた。顔を出したのはショボンだった。手には治療に使う道具なのか箱を抱えている。

(´・ω・`)「目が覚めたようだな」

('A`)「おかげさまで」

(´・ω・`)「あとでしぃにお礼を言うといい。一晩中治癒魔法をかけていた」

('A`)「はい」

ショボンはベッドの端にある簡易椅子に腰かけると、ドクオの包帯をてきぱきと変えていく。騎士ともなればこういったことも日常茶飯事なのだろうか。

(´・ω・`)「話はしぃから聞かせてもらったよ。災難だったな」

手を動かしながらショボンが話を続ける。

(´・ω・`)「一応周辺を調べてみたが痕跡すらなかった。どうにも厄介な敵だ」

('A`)「悪魔と何か関係があるんでしょうか」

(´・ω・`)「無関係ではないだろう。我々がこの街に滞在していたからこそ襲ってきたわけだしな。ましてや魔法を使っている」

391:2014/07/03(木) 18:04:17 ID:2V.Din8.0

魔法を使ったということは明確な敵意を持っていたということ。そしてドクオが狙われた以上、目的は明らかだろう。

(´・ω・`)「早めにモ・トコに向かった方がいいかもしれん。街に被害が飛び火する可能性もある」

('A`)「悪魔の情報もめぼしいものはありませんでしたしね」

(´・ω・`)「……問題はそこだ」

ショボンの動きが止まる。気付けばドクオの瞳をじっと見つめていた。

(´・ω・`)「目的地まで目と鼻の先まで迫っているにも関わらず、何故こうも情報が得られない。あるのは目撃情報のみで、相手の特徴すら浮かんでこないのは異常だろう」

('A`)「人がいなかったところもありますしね」

徹底して情報を隠蔽されている状況はこちらとしてはかなり不気味だ。何の意図があるかも分からない以上、下手に他の街に居続けるのはやはり得策とはいえない。

ドクオとしても出来れば他の人間に被害が出るような行動は避けたいし、誰かが傷つく場面を見たくはない。そう考えれば、やはりショボンの意見は妥当と言える。

(´・ω・`)「君の容態も思っていたほど深刻ではなさそうだし、昼にはこの街を出よう。街の住民に被害が及ばぬ前に」

('A`)「分かりました」

(´・ω・`)「世話をかける」

('A`)「気にしないでください」

392:2014/07/03(木) 18:05:02 ID:2V.Din8.0

包帯を変え終わったショボンは立ち上がり、申し訳なさそうな顔でそう言うと踵を返す。街を出る準備をするのだろう。

しぃは相変わらず気持ち良さそうに寝息を立てている。ドクオは起こさないように気を付けながらベッドから出ると、布団をかけてやった。

('A`)(しかし、昨夜のあれは何が目的だったんだ? 黒の魔術団にしては回りくどいやり方をしてる気がする)

貞子は王都の結界を利用し、騎士団を撹乱する大胆な計画でドクオや渡辺を追い詰めた。本人の戦闘能力もさることながらそういった作戦を考案、実行に至ったのは始めから明確な目的があったからだ。渡辺が何故狙われたのかは本人がいない以上定かではないが、彼女なりに強い意思があったのは想像に固くない。

それに対し、今回の騒動は目的が不明瞭である。村の人間を消したことは目的を隠蔽するためなのかもしれないが、大本にある悪魔という存在にどう関係しているのかが全く掴めていない。

加えて破壊と絶望を司るほどの存在を魔法使いが呼び出したとしてどう使役できるというのか。伝説や伝承の中にしか確認されていないものが本当にいるのかすら信憑性に欠けるが、それでも目撃情報がある以上それに酷似した何かがいるのは確実ではある。

黒の魔術団の目的がドクオの持つ魔剣である以上、悪魔がどれだけ有益に働くのかすら分からないのだからこの時点で敵の狙いがどこにあるのか見当がつかない。

ここまで考えれば今回の件に黒の魔術団が絡んでいるとはどうも言いづらい状況だ。昨晩の出来事は悪魔騒動と別のものではないか、とドクオには思えてならない。

もちろん完璧に無関係だとは言いづらいが、それでもその背景が見えてこないのだから判断は難しいところである。

('A`)(考えが纏まらん。煙草でも吸って落ち着くか)

393:2014/07/03(木) 18:06:21 ID:2V.Din8.0

頭をがしがしと掻いて、ドクオはドアノブに手をかけた。すると、しぃがゆっくりと顔をあげて辺りを見回していた。どうやらお目覚めらしい。

(*うー゚)「ん……具合はどうですか?」

目元を擦りながらしぃが尋ねてくる。顔色がよくないのは寝起きだからだろうか。

('A`)「ん、ああ。特に問題はないよ。夜通し治癒魔法をかけてくれたんだって? ありがとうな」

お礼を言うと、しぃは少々恥ずかしそうにそわそわと体を揺らして、

(*゚ー゚)「お荷物を抱えての名誉の負傷ですから、それくらいは当然です」

とだけ答えた。照れているのか頬が紅く染まっている。

('A`)「そういやさ、ずっと疑問だったんだが魔法使いってのは杖とか棒みたいなのがないと戦えないのか?」

ふと気になっていたことを聞いてみる。渡辺やしぃが魔法を使っているのはいつも箒やステッキを持っていた。モララーにしても多節棍を持っている時にしか魔法を使用していなかった。

(*゚ー゚)「いえ、そんなことはありません。ただ、媒体があるほうが素早く魔法を出せるんです」

('A`)「どういうことだ?」

(*゚ー゚)「簡単に言えば、ステッキや箒などに魔法陣を登録し、それを呼び出すことで詠唱を短縮しているんです。本来魔法を使う際は、魔力に適切な命令を下す術式、つまり魔法陣が必要です。ですが戦闘中や怪我人にいちいち魔法陣を描いていたのでは間に合いません」

(*゚ー゚)「魔法陣とはすなわち魔力への命令ですから言葉としても口に出すことができます。ですが当然それを口にして形にするのも時間がかかります。ですから私達は物に魔法陣をある程度登録して詠唱を短くしているということです」

394:2014/07/03(木) 18:07:23 ID:2V.Din8.0

('A`)「へぇ、よく考えられてるな」

(*゚ー゚)「もちろんそれ以外にも魔法を使う方法はありますが、基本的なことはこんな感じです。魔法というのは様々な応用がききますから」

きっと本来であれば専門的な話になるのだろうが、しぃはドクオにも分かるように言葉を選んでくれたのだろう。まだまだ子供だというのに頭の回転が速いとつくづく思う。勉強が得意ではないドクオにとって大変羨ましい限りだ。

とは言っても理解したところでドクオには魔法を使えそうにもないが。

('A`)「さてと、俺は少し散歩にでも行くが、しぃはどうするんだ?」

(*゚ー゚)「怪我人に一人歩きをされて倒れられても困りますし、私も付き合いますよ。昨晩のようなことがありましたし」

('A`)「それもそうか。なら俺は外で煙草でも吸って待ってるよ」

ドクオはそれだけ行って部屋を出る。小さな宿なので玄関はすぐそこだ。

ドクオが玄関を開けると、朝特有の清々しい空気がドクオを出迎えてくれた。

('A`)(いい朝だ。本調子なら陽気に口笛でも吹いて走り回りたいところだな)

煙草を取りだし、火を点けようとしたところで向かいの通りからモララーとショボンが歩いてくるのが見えた。

近くまで来ると相手もドクオに気づいたらしく、小走りでやってくる。

395:2014/07/03(木) 18:08:08 ID:2V.Din8.0

( ・∀・)「よう、包帯男」

('A`)y━・~~「名誉の負傷だろ。馬鹿にすんな」

( ・∀・)「油断するからそうなるんだよ。俺なら指先一つでダウンだっての」

('A`)y━・~~「よく言うぜ。最近の模擬戦じゃ俺に何回負けてんだよ」

( ・∀・)「たまには華を持たせてモチベーション保たせてやってんだ。言わせんな恥ずかしい」

すっかり気心の知れたモララーと軽口を叩きあっていると、ショボンが割って入ってきた。

(´・ω・`)「確か、一度本気でやって負けたとか愚痴をこぼしていたが、そういうことだったのか。いやはやモララーさんのサービス精神には頭が上がらないね」

( ;・∀・)「副団長! それは言わない約束では!?」

('A`)y━・~~「モララーさんの優しさは五臓六腑に染み渡るわー」

( ・∀・)「……この野郎、あとで覚えてろよ」

そこまで話したところでドクオの後ろからしぃがひょこりと顔を出した。

(*゚ー゚)「おや、モララー隊長に副団長、おはようございます」

396:2014/07/03(木) 18:08:59 ID:2V.Din8.0

( ・∀・)「おお。救世主登場だ」

(´・ω・`)「うむ。おはよう」

(*゚ー゚)「救世主?」

何のことだか分からないといった風に小首を傾げるしぃだったが、ドクオはあえてそこには突っ込まなかった。多分突っ込んだら負けだろう。

('A`)y━・~~「それじゃあ俺達は軽く散歩でもしてきます」

(´・ω・`)「なるべく早く戻るようにな」

('A`)y━・~~「ええ」

(*゚ー゚)「はい」

煙草を消して携帯灰皿に入れるとドクオは歩き出す。モララーの横を通り過ぎた際、後ろには気を付けろよ、と囁かれたが自業自得だ。

それから二人はのんびりと朝の散歩を楽しみ、次の街へと向かうこととなった。

397:2014/07/03(木) 18:09:43 ID:2V.Din8.0

◇◇◇◇

ξ#゚⊿゚)ξ「だぁかぁらぁ、ちょっと近くまで行くだけだって言ってるじゃない!! はぁ? んなこと知らないわよ、こっちは客よきゃぁぁくぅぅ」

ξ#゚⊿゚)ξ「金だってきっちり払うって言ってるじゃない!! 通常料金に上乗せ、はいこれで問題なし!!」

ξ#゚⊿゚)ξ「私達は魔法使い、騎士の卵よ? んなもん三角帽子で分かるでしょうが!!」

飛行馬車を借りに交渉すると言っていたツンは先程からあんな調子だった。怒鳴り、喚きまた怒鳴る。どうにも業者側が飛行馬車の運行を渋っているらしく、いくら言っても聞いてくれないようで、ツンはそれに腹を立てているようだ。

受付からは大分距離が空いているはずなのにここまではっきりも聞こえているということは、それだけ周りの注目を集めているのだが当のツンはお構い無しである。

从'ー'从(やっぱり難しいかなぁ)

現在モ・トコ周辺は厳戒体制を敷いているようで一般人の立ち入りを制限している、と渡辺は聞いた。原因はやはり悪魔騒動で近くの村では住民丸ごと行方不明になっているそうだ。

そのため業者もみすみす危険をおかしてまで北へ飛行馬車を動かすのはごめんだということで頓着状態になっているのだった。

398:2014/07/03(木) 18:10:28 ID:2V.Din8.0

ξ#゚⊿゚)ξ「だぁぁぁぁぁ、もう埒が明かないわ!! どうしても出さないならここら一帯まとめて吹き飛ばすわよ!?」

从;'ー'从「ツンちゃんそれは脅迫……」

あまりにも物騒なことを言い出すツンに、傍観を決め込んでいた渡辺もさすがに宥めることにする。下手をすれば役人に連行されかねない。

ξ#゚⊿゚)ξ「だっていつまでたっても首を縦に振らないんだもの。私は気が長い方じゃないの」

从'ー'从「でもでもぉ、受付の人も困ってるよぉ」

引きつった笑みを浮かべてこくこくと頷く受付の女性に、渡辺はごめんなさいと謝って妥協案を持ちかけた。

从'ー'从「あの、せめて近くまでは行けませんか? 私達モ・トコにどうしても行かなければならないんです」

受付の女は確認するとだけ言って奥に引っ込む。上の者に確認しに行ったのだろう。時折あーだこーだと話し声が聞こえた。

ξ゚⊿゚)ξ「近くまでって、あんたそれでいいの?」

从'ー'从「うん。あとは飛んで行けばいいかなって」

実際時間はかかるが行けない距離ではないのだから、無理を言って飛行馬車を飛ばしてもらう必要はないのだ。それにお金だって持ち合わせがないわけではないが、節約するに越したことはない。

問題は荷物だが、それも休み休み行けばさしたる問題にはならないだろう。

399:2014/07/03(木) 18:11:28 ID:2V.Din8.0

それらをツンに説明すると、あっちは仕事なんだからと言っていたが彼女もそれなりに納得はしたらしくこれ以上の文句は言ってこなかった。

しばらくすると受付の女が戻ってきて、二つほど手前の街までなら馬車を飛ばしてくれるという旨を伝えてきた。かなり離れたところだが二、三時間もあれば到着するはずだ。

从'ー'从「無理を言ってすいません」

運転手に礼を言うと、逆に謝られてしまった。本当ならば彼らも目的地まで送り届けたいのだが命には代えられないのだと苦虫を噛み潰したような顔で返される。

それは仕方のないことだ。彼らはあくまで運転技術があるだけの一般人、万が一魔物や悪魔に襲われでもしたら抵抗する術がない。本来であればこんな騒動の中で馬車を飛ばすのだって相当な無理をしているのだと渡辺は思う。せめて彼の身の安全だけは守らねばなるまい。

ξ゚⊿゚)ξ「これじゃああそこでごねてた私が悪者みたいじゃない」

从'ー'从「ツンちゃんすごい顔だったよぉ」

こんな感じ〜と手で目を吊り上げる渡辺の顔を見ると、ツンはそこまで変な顔してないわよ、と憤怒の表情を見せる。

从;'ー'从「今してるよぉ〜」

運転手がはははと笑い声をあげたのを聞いてさらに腹を立てたツンは渡辺のほっぺたを両手で挟みうりうりと八つ当たりをしてきた。

从')、('从「らんれわらひにゃろぉ〜」

ξ#゚⊿゚)ξ「うっさい!! あんたが余計なこと言うからでしょうが」

从')、('从「にゃ〜へ〜れ〜」

時間はゆっくりと過ぎていく。この先に何が待っているのか渡辺には予想もつかないが、せめてツンと運転手さんだけは守ろうと誓う渡辺だった。

400:2014/07/03(木) 18:12:23 ID:2V.Din8.0

◇◇◇◇

ドクオ達がモ・トコに着いたのは夕方を回っていた。道中立ち寄った街の様子を伺ったのだが、二つ前と同じで藻抜けの空。人が生活していた痕跡があるだけの作り物のような街があるだけだった。

中を丁寧に調査するも結果は変わらず不自然なほどに何も見つからない。建物が破壊されたり物が盗られた形跡もなく、人がいないだけ。まるで絵画のように静かなワンシーンに、ドクオはうすら寒くなった。

('A`)(敵がいるのはわかっても正体不明、さらに目的も不明ときたもんだ。こりゃ今回の仕事は長引きそうだな)

依然進展しない問題はショボンやモララーにも焦りを生んでいるようで、モ・トコに着くなりドクオとしぃに荷下ろしを命じると、現地に派遣されている騎士団の詰め所に情報の交換に行ってしまった。

(*゚ー゚)「珍しいですね、副団長が冷静じゃないなんて」

('A`)「あの人はいつも落ち着いてるからな。悪魔なんて話を聞けばいてもたってもいられないんだろうけどさ」

四人分の荷物はさして多くはない。着替えといくつかのアメニティが入っているだけで、消耗品などは現地調達という手筈だ。とはいえ、モ・トコ周辺はすでに危険区域として制限を設けていると聞いているのでお店が通常営業をしているのかは甚だ疑問だったのでドクオは部屋にあるものをいくつか持ってきている。

('A`)「えっと、今日から宿泊するのは騎士団の駐屯所か。なんか肩身が狭いな」

(*゚ー゚)「遠征する際はこんなものですし、慣れるしかないでしょう」

('A`;)「俺は今後も駆り出されるの確定なのかよ」

(*゚ー゚)「……」

いや、そこは何か言ってほしい。というか、言ってもらわないと不安になる。

401名も無きAAのようです:2014/07/03(木) 18:12:26 ID:zV6vKxlA0
わたなべの顔がww

402:2014/07/03(木) 18:13:24 ID:2V.Din8.0

('A`)「はぁ、まぁいいけどさ。とりあえず、荷物置いたらショボンさん達待ち?」

自分達が泊まる手筈になっている部屋に荷物を置くと、早速煙草に手をかけた。しぃが顔をしかめてこちらを見てきた。部屋では吸うなということか、自分の近くで吸うなということかは判断できなかったが、とりあえず煙草は戻しておく。

(*゚ー゚)「そうですね、私達は特にすることもありません」

駐屯所を出ると、目の前には高くそびえ立つ鉱山が広がっていた。よく見ると細い糸のようなものが鉱山と街を繋いでいる。あれはなんだろうか。

('A`)「なぁ、あれってなんだ?」

しぃはドクオが指を差した方をじっと見つめると、小さく声をあげた。

(*゚ー゚)「ああ、あれは鉱石や人を運ぶための荷車ですよ。魔力で動きます」

ロープウェイのようなものだろうか。異世界と言えど人が生活を便利にしようと考え付く先は似たようなものなのかとドクオは感心してしまう。

折角だからとドクオとしぃはモ・トコを少し歩くことにする。鉱山都市として名高い街は現在閑散としており、人々は家からあまり出ようとしていないようだ。店などはちらほらシャッターが閉まっているし、ドクオも事の重大さを再確認させられる。

もし、何事もない時に訪れれば筋骨粒々の男達が街を練り歩き、取れた鉱石や資源を巡って様々な人が行き交っていたのだろう。それを思うとドクオは早急に問題を解決しなければと奔走するショボンの気持ちが手に取るように分かった。

403:2014/07/03(木) 18:14:13 ID:2V.Din8.0

('A`)「鉱山都市っていうからてっきり高所に街があるのかと思ったんだけど、麓に作ってあるんだな」

(*゚ー゚)「一応中腹にも小さな街は在りますが、そこはあくまで中継点です。そこからいくつかの採掘場に分かれて仕事を分担しているようですね。中は鉱山やポイントによってもまちまちですが、どこも迷路のように広いので迂闊に近付かないようにこんな立地になったのでしょう」

('A`)「ふーん。確か、魔導鉱石だっけ? 錬金術に使うって聞いたけど、こんだけでかい街に発展するってことは日常的に使用されるくらい需要が高いのか?」

(*゚ー゚)「基本的にどんな場所でも使われていますよ。家の灯りだったり、調理器具だったり、用途は様々です」

('A`)「儲かるんだろうな」

(*゚ー゚)「意外に俗物なんですね」

('A`)「そういう生活してたから余計にな」

人の出歩いていない街をぶらぶらするのは正直なところあまり面白いとは言えなかった。偶然開いている店を覗いても売っているものはほとんどなく、この街に物資が流れてきていないのだろう。

メインで物資を届ける役目を担っている飛行馬車もまともに運行していない状況なのだから仕方がないとも言えるが、それにしたってこの広い街に自分達しか歩いていない状況はどうにも不気味だ。

('A`)「暇だなぁ。早くショボンさん達戻ってこないかな。活気のない街なんか面白くもないぞ」

宿舎まで戻ってきたドクオは煙草を取りだし火を点ける。人がいるのであればおすすめの観光スポットでも見てうまいものでも食べて暇を潰せたのだろうが。

(*゚ー゚)「こういう状況ですし仕方ありませんよ」

煙を吐き出しながら空を見上げる。元の世界と何も変わらない綺麗な夕焼け。一番星が輝き、月が顔を出し始めていた。

404:2014/07/03(木) 18:15:21 ID:2V.Din8.0

('A`)y━・~~「……聞きたいことがある」

静寂の中、ぽつりとドクオが呟いた。

(*゚ー゚)「はい?」

('A`)y━・~~「今回の件でいくつか疑問に思うことがあるんだ」

(*゚ー゚)「疑問、ですか」

('A`)y━・~~「ここに来るまでいくつかの街を見てきたが、人が消えていたとこもある。それはまぁ、悪魔がなんかやったってことで一応の説明はつく」

(*゚ー゚)「そうですね」

('A`)y━・~~「けど、その他の街、例えば人がいた場所では一切悪魔の話は聞かなかった。どころか目撃情報すらなかったよな」

ショボンの説明ではモ・トコを中心にしてその周辺で目撃されているとのことだが、ここまで悪魔による被害は住民の消失以外皆無なのである。

加えて人の消えた街ですら暴れた形跡がないということがドクオの疑問を冗長していた。

(*゚ー゚)「……つまり?」

('A`)y━・~~「何故悪魔の姿が見えない?」

王都から大々的に勅命を受けて騒動の原因を探っているはずなのに、肝心の目標がここまで話にすら上がってきていない。

悪魔なんてこの世界の誰もが怖れる存在だということは渡辺が証明している。ならば、もっと事態は深刻になっているのではないか。

('A`)y━・~~「昨晩のことを考えれば、悪魔ってのが第三者によって隠蔽されている可能性もある。その場合、悪魔を呼び出した理由があるはずだが、その背景すら見えてこないってのはどういうことだ?」

(*゚ー゚)「……確かに、言われてみればおかしいですね」

('A`)y━・~~「さて、それを念頭に置いてもう一度状況を整理してみようか」

ドクオ達は王都から悪魔の討伐を依頼され、ここまで来ている。悪魔はモ・トコを中心に目撃されており、いくつかの被害届も出ている。

405:2014/07/03(木) 18:16:22 ID:2V.Din8.0

そしてドクオ達は王都を出発、いくつかの街を経由してここまで来たのだが、悪魔の話も、どこで被害があったのか、そういった話を全く聞いていない。

(;*゚ー゚)「……おかしい。何故悪魔が暴れている状況だけがはっきりしていて、ここまで誰一人悪魔の話題を口にしないんですか?」

('A`)「可能性はいくつかある。一つ、悪魔は始めから存在しない。二つ、住民消失が起こった場所でだけ悪魔が現れた。三つ」

ドクオは一拍の間を置いて、それを口にした。

('A`)「この件に他の住民達が協力しているか」

しぃは何も答えない。ドクオが出した三つの考察があまりの衝撃だったのか、顔面蒼白で目を見開いている。

(;*゚ー゚)「そんな、馬鹿なことがあるわけ……」

ようやく絞り出した声もどこか力がない。信じたくはないのだろうが、認めざるを得ない、といった感じだろう。

('A`)「確実ではない。が、可能性がないとは言えないだろう。俺的にも信じたくはない。けど、状況を鑑みるとそう考えるのがしっくりくる」

真相はまだ分からないし、もしかしたら操られているという線もあるかもしれない。

('A`)(さすがに、騎士団が一枚噛んでるってのはないだろうけど)

と、その時だった。

街の入り口辺りから爆発と爆発音が響き渡る。同時に誰かの叫び声。どこかで聞いたことがあるようなないような。

(*゚ー゚)「ドクオさん」

('A`)「あいよ」

しぃが走りだし、そのあとを追う。そこには━━

406:2014/07/03(木) 18:19:00 ID:2V.Din8.0

从;'ー'从

ξ;゚⊿゚)ξ

大量の魔物相手に応戦している見知った顔が二つあった。纏っている服もぼろぼろで、相当な距離を魔物と戦いながらここまで来たのだろう。

('A`;)「渡辺と、ツン? なんでこんなとこにいるんだよ!?」

(*゚ー゚)「問答はあとです。助太刀しましょう」

二人はそれぞれ得物を握りしめると魔物の群れに突撃する。

渡辺とツンが一度こちらを見たが、声をかける余裕はないだろう。

ドクオは二人の前に躍り出ると、魔物達をまとめて薙ぎ払った。

それからしばらく四人は乱戦を繰り広げたが、全ての魔物を蹴散らすまでそう時間はかからなかった。

407:2014/07/03(木) 18:19:55 ID:2V.Din8.0




( ・∀・)「どうにも今回の件違和感があるな」

現地の騎士と情報の交換を行ったあと、確認することがあるというショボンと別れ、モララーは一人ドクオとしぃを探して街を歩いていた。

得られた情報はほとんどない。モ・トコを中心に目撃されているはずなのに、現地の騎士ですら悪魔と交戦もなく、見たことすらないのだという。しかも挙げられているはずの被害もほとんどないというのだから、王都から遠路はるばるやって来た自分達の立場がない。

これではなんのためにモ・トコまで来たのか分からなくなってしまった。

( ・∀・)「悪魔、悪魔ねぇ」

モララーは悪魔をこの目で確認したことがない。知っているのは十五年前の戦争で生き残った極僅かな人間だけだ。

どんな存在か分かっているからこそショボンとドクオが派遣されたのだろうが、それにしたってまるで先が見えないこの状況はどういうことなのだろう。

名前だけが一人歩きして実害がないなんて、これでは話が根本から覆されてしまうではないか。

( ・∀・)「どこの誰がやってるのかは知らないが、悪魔の名を語って好き勝手してる馬鹿がいるのは確定だろうな」

となれば、モララーは騎士として動かなければならない。悪魔だなんていたずらに恐怖心を煽っておいて人の生活を脅かす悪党だ、容赦なくこてんぱんにのしてやろう。

だがそれには敵の目的や正体を暴かねばならない。そのためにも最低ドクオの協力は得たいところだ。

( ・∀・)(どこほっつき歩いてんだか)

408:2014/07/03(木) 18:21:13 ID:2V.Din8.0

ふとモララーは立ち止まる。人のいない道の真ん中に異彩を放つ人間が立っていた。

【+  】ゞ゚)

棺桶のような物の隙間から覗く顔。そもそも何故棺桶が道の真ん中に立っているのかが疑問だが、怪しい人間であることに違いはない。

( ・∀・)「おい、こんなとこでなにやってんだ」

一瞬声をかけるべきか迷ったが、話は聞かなければならない。それが騎士というものだ。

男から返事はない。じろりと一瞥をくれただけで、すぐに明後日の方を向いてしまった。

( #・∀・)「おい、てめえ、質問に━━」

相手の反応に語気を強くしたモララーが近付いた時だった。

( ;・∀・)(体が……動かない……)

【+  】ゞ゚)「ずいぶんといい素体だ。ぜひとも使わせていただこう」

男が何事かを呟くと、棺桶から黒い人形のようなものが何体か歩いてきた。ような、というのはここまで近くにいながら靄がかったようにそれの正体を認識できないからだ。

( ;・∀・)(くそっ、動け動け動け!!)

何かの魔法なのか、モララーはスペルキャンセラーを発動させる。体は動かずとも口は動くようで、すぐさまモララーは後方に距離をとって体制を立て直す。

黒い人形の動きはそれほど早くない。棺桶男もその場から動こうとせず、こちらの動きを観察しているように見えた。

( ・∀・)「先手必勝ってな!」

素早く得物を組み立て、モララーは疾風の如く駆ける。左右から襲ってくる人形に、槍を大きく横に薙ぐとそれだけでごみくずのようにバラバラになった。

弱い。これならば問題なく男を捕縛できそうだ。

409:2014/07/03(木) 18:22:13 ID:2V.Din8.0

【+  】ゞ゚)「まだまだ人形はある。君はどこまで耐えられるかな」

モララーが槍を構え直すとそこかしこから魔法陣が現れ、先程と同じ黒い人形が周囲を埋め尽くす。それらは一斉にモララーの方へと頭を向けると、ぎこちない動きでこちらへ攻撃を繰り出してきた。

飛び道具は持たないらしく、全て近接攻撃だけ。ならばとモララーは中空に手をかざし、詠唱。巨大な魔法陣を作り出し、この周辺を吹き飛ばす光の魔法を繰り出した。

光はモララーの目の前一帯を飲み込み、地を剥がし建物を粉砕し、ありとあらゆる物質を破壊していく。人形達は声をあげることなく消滅していったが、棺桶の男には通用していないように見えた。

さらにもう一撃大きな魔法。今度は範囲魔法ではなく、目標を定めた強力な一点突破の魔法だ。棺桶男の周辺の光を圧縮圧縮圧縮。物体の許容量を越えて内包された光の魔力が内部から爆発を起こした。

砂煙が巻き起こり視界を奪う。しかし、モララーは動かない。

ここまでやったが、あの男は生きているという確信がモララーの中にはあった。この視界の中、何かをしているかもしれない。しかし、魔力の変動が感じられない以上、下手に動くよりは様子を見るべきだ。

念のため防御系の魔法を準備しつつ、モララーは周辺を警戒する。

煙が晴れると、男は同じ場所に立ったままだった。魔法陣を発動させた形跡もない。

( ・∀・)「こんな雑魚ばっかいくら呼び出しても意味ないぜ。やるならてめえでかかってきな」

あからさまな挑発だが、敵はそれでも動かない。何を考えているのか、表情はびくりともせず、こちらを見ているだけ。

もう一度周辺を確認し、モララーは自身の身体能力を強化する魔法を発動させ、棺桶男に向かう。

殺しはしない。しかし、痛い目にあってはもらおう。何かしらの情報を持っているかもしれない。

モララーが槍を中段に据え、溜めを作った瞬間だった。

410:2014/07/03(木) 18:22:57 ID:2V.Din8.0

( ;・∀・)「は?」

男の姿が消え、街中にいたはずなのに深い闇が一面に広がっていた。

( ;・∀・)「くそ、どうなって……」

言い終わる前に後方から何者かの気配。すぐに振り向こうとする。が、

( ;・∀・)「力……が……」

何故か力が抜けていく。モララーは為す術なく膝を折ってしまう。

敵の攻撃を避けることも出来ず、鋭く尖った何かがモララーの体を貫く。

そのまま、モララーの意識はぷつりと途切れた。

411:2014/07/03(木) 18:24:10 ID:2V.Din8.0

◇◇◇◇

大量の魔物を殲滅した四人は、傷だらけの渡辺とツンの治療のために宿舎へと足を運んでいた。随分と長い間追われていたのか魔法使いのトレードマークとも言えるマントや三角帽子は汚れ、破け若干卑猥な具合になっていてドクオは目のやり場に困ってしまう。

('A`)「しかしツンさんの体はひんs」

ξ#゚⊿゚)ξつ三○A`)「メメタァ」

ξ#゚⊿゚)ξ「乙女の体を貶すなんていい度胸ね」

(*)A`)「サーセン」

(;*゚ー゚)「あの、そんなことよりもどうしてお二人がこんな場所まで? 一応モ・トコ周辺は立ち入り禁止のはずですが」

ξ#゚⊿゚)ξ「あ? 今そんなことって言ったか? 私の胸はそんなこと程度だよぷすすーって言ってんのか? あ?」

(;*゚ー゚)「わ、私よりは全然大きいじゃないですか!」

ξ゚⊿゚)ξ

ξ゚⊿゚)ξ チラッ

(*゚ー゚)←つるぺた

从'ー'从←美乳

ξ゚⊿゚)ξ←微乳

('A`)←まな板

ξ゚⊿゚)ξ「まぁ、私だってこの中なら上から数えた方が早いし、別に巨乳になる必要もないっていうか」

('A`)「お前のコンプレックスがなにかは分かったけどさ、いい加減落ち着こうぜ。まだ慌てる時間じゃない」

412:2014/07/03(木) 18:25:03 ID:2V.Din8.0

自分の発言が原因だったことを申し訳なく思いながらも、ドクオは脱線した話を元に戻すことにする。このままではツンの胸の話で一日が終わってしまいかねない。

('A`)「んで、二人はこんなとこまで何しに来たんだ? 悪魔の話は王都でも噂になってただろ?」

从'ー'从「えぇっと、実はねぇ」

ドクオが尋ねると渡辺は、課題で魔導鉱石の原石が必要になったこと、それを入手するためにここまで来たことを話してくれた。

从'ー'从「それでね、モ・トコまでは行けないから二つ前の街で降ろしてくれたんだよぉ」

ξ゚?゚)ξ「そうしたら街には人っ子一人いないし、いきなり魔物がわんさか現れるしで参っちゃったわ」

ドクオとしぃは思わず顔を見合わせた。

ツンは今、街に人がいなかったと言った。ツン達が降ろしてもらった街は間違いなくドクオ達が一泊したところだが、お昼の時点では人がいないなんてことはなかったはずだ。

('A`)「どういうことだ、これ」

(*゚ー゚)「……私達が出てから夕方までの短い時間で人が消えたということでしょうか?」

順序を考えればそうなのだろうが、街中の住民全てを消すなんて芸当がこの短い時間で可能なのだろうか。王都ほどではないが、モ・トコから王都までの中継地点であるあの街は宿舎町としてそれなりに栄えていた。人の数も少なくはない。

413:2014/07/03(木) 18:25:58 ID:2V.Din8.0

('A`)「それと、魔物が街に現れたって言ったが、結界はどうなってたんだ?」

ξ゚⊿゚)ξ「結界? んなもんなかったわ。あったのは魔法陣くらいよ」

从'ー'从「広場の中心に大きいのがあってぇ、そこから魔物が一杯出てきたよぉ」

ドクオは考える。他に立ち寄った街でも魔法陣が設置されていたような形跡があったはずだ。そこに街の住民の集団失踪。

未だ正体を現さない第三者に、昨晩の襲撃。

そして、悪魔。誰も姿を見ておらず話題にすらあがらない異常とさえ言えるこの状況。

何かが繋がりそうで繋がらないもどかしさがドクオをさらに焦らせていく。

(*゚ー゚)「ドクオさん。少し落ち着きましょう。ツンさんや渡辺さんも今日はお疲れでしょうし、副団長からの指示を待つのが得策かと」

('A`)「……そう、だな」

そういえば、ショボン達は何をしているのだろうか。ツンや渡辺が合流したことは先程報告したはずだが、それにしても顔すら見せないというのは少し変ではないか。

ましてや魔物が街のすぐそばまで来ていたのだから、何かしら伝令があってもおかしくはないのだが……。

414:2014/07/03(木) 18:26:43 ID:2V.Din8.0

('A`)「……ちょっとショボンさんのとこ行ってくる。しぃは二人の手当てを頼んだ」

(*゚ー゚)「分かりました」

部屋を出て会議室へと向かう途中、数人の騎士と自警団の連中とすれ違った。皆一様に緊迫した顔で何事かを話している。

何かあったのだろうかと、ドクオは声をかけてみた。

('A`)「なんかあったのか?」

「えっと、あなたは確か……」

('A`)「今回の騒動で同行している騎士のドクオだ」

「騎士の方でしたか。実は、その……」

口ごもり、目を逸らす男にただ事ではない雰囲気を感じた。

「モララー隊長と、ショボン副団長が行方不明なのです」

415:2014/07/03(木) 18:27:28 ID:2V.Din8.0
第九話 終

416:2014/07/03(木) 18:32:37 ID:2V.Din8.0
本日の投下はこんなところで終了です
本当はもう少し文量があったのですが、ここから先はちょっと切りどころが難しいので今回はこんな感じです
次回投下は来週中、とだけ言わせていただきます
最近スランプでろくに文章が思い付きません
元々大した実力ではないのですが手直しやら何やらと時間をかけないと皆様に見てもらうのも厳しい状況です
ですので、しばし時間を空けてしまうことご了承いただきたいと思います
では今回も読んでいただきありがとうございました

417名も無きAAのようです:2014/07/03(木) 18:45:12 ID:N2qF1Yfg0
乙乙
続きが気になります

418名も無きAAのようです:2014/07/03(木) 20:27:36 ID:ZkQdQ8hE0
今回もいいね!
毎回楽しませてもらってるよ!

419名も無きAAのようです:2014/07/03(木) 20:39:07 ID:zV6vKxlA0
面白い、乙でした
次回も楽しみにしてます


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