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小説スレ

1意識の海の名無しさん:2005/06/13(月) 18:32:37 ID:E.oF2.aQ
コンベエ氏GJ

2零時:2005/06/17(金) 16:15:41 ID:FlN0wOtU
雷が鳴り出した。

『それ』は、そこに立っていた。
紺色のマントを身にまとい、長い黒髪を後ろで括ったその姿は、どうやら女性であるらしい。
まとったマントも艶のある美しい黒髪も、降りしきる雨滴にさらされて濡れそぼっているが、
彼女自身はまったくそれを気にしている風ではなかった。
女は無表情に、ただそこに立っている。
その瞳は鋭く貫くような力を持って、自らが立つ坂の始まりを見詰めている。
その先に在るのは………その瞳が見詰めるのは、どうやら。

「気に食わんな」

私か。

「……七匹か。思ったよりは少ないな」
ナナシの隣で、クロウはそう呟いた。
たかが辺鄙な街ひとつ潰すのに、数はいらないということであろう。
しかし。
「全員……かなり、手馴れている、みたい」
応じるように呟くナナシの声色に、楽観や安堵の色は欠片も見られない。
クロウに目を向けることなく、なおも竜人の群れに視線を固定させたまま、言葉を続ける。
「それに、何より」
「ああ……間違いないと見ていいだろう」
二人の視線が、一点に向けて注がれた。
その先に在るのは………その瞳が見詰めるのは、どうやら。

「あれが、魔王」


「……たった一人で、何かできるとでも思っているのか?」
坂の上に立った人間がまるで居ないかのように、悠然とした足取りでナナシの前に立った魔王は、
ゆっくりとした口調でそう言葉を投げつけた。
冷然とした、目前の人間をケシ粒ほどにしか意識していないような口調。
大柄な竜人の中でもさらに巨大な、雲をつくような長躯がナナシを見下ろす。
女性としてはやや長身の部類に入るナナシにも、まさに壁にすら見えるような巨躯であった。
「…………」
その巨躯を前にしても、動じることなく鋭い視線を魔王の視線とぶつけて、ナナシは僅かに腰を落とした。
腰に提げた鞘から、鞘走りの澄んだ音とともにイーグルブレイドが引き抜かれる。
雷鳴。
降り注ぐ雨の中に響き渡った轟音と雷光を跳ね返し、刀身が一瞬の閃光を生み出した。
「………来るぞ」
ナナシの横で、この場ではナナシにしか聞こえない声をクロウが低く呟いた。
「……殺せ。」
魔王のその声と、低く差し上げた右手が合図となった。
思い思いに剣を引き抜いた六人の竜人が、きらめく白刃を構えてナナシへと襲い掛かった。

3零時:2005/06/17(金) 16:17:14 ID:FlN0wOtU
――六人!
とは言え、この細い坂道でなら後ろをとられる心配は薄い。
一度に掛かってくるのは三人まで、同時に襲いくる刃は二つまでだろう。
ぬかるんだ足場はフットワークを生かすには向かない、ならばその場に体を安定させて迎え撃つのが最上か。
六人の竜人が向かい来る数瞬の間に、ナナシは思考を回転させて戦法を組み立てる。
両者の間を埋めていた空気が竜人の体によって引き裂かれ、距離は瞬く間に詰まっていく。

一人目の白刃が、雨滴を切り裂いて閃いた。
迫る先は喉元、明らかに必殺を期している。
しかし、その刃は喉に触れる寸前でナナシの左腕に真下から薙ぎ払われた。
左腕に填められたガントレットが、竜人の刃を受け止め、
トーテムの憑依によって強化された腕力は事もなげにその刃を打ち払ったのである。
常の人間であれば反応すら敵わないであろう剣の一撃をあっさりと受け止められた竜人は、驚きに意識を占領された。
目の前の敵を打倒する事のみに占められるべき思考に、空白が生まれる。
その空白を貫くように、イーグルブレイドが唸りを上げて閃いた。
迫る先は喉元、明らかに必殺を期している。
その刃は、先ほど同じ部位に加えた己の一撃よりも遥かに速く、重く、回避不可能なモノで―――

ざん。

驚愕に侵された思考は、そこで途切れた。

(――ひとり!)
宙を舞う竜人の首にはもはや見向きもせず、ナナシは次なる敵へと素早く視線を走らせた。
――近い。
多人数で戦うときは、波状攻撃が基本である。
そして、彼らはそれを弁えていた。
一人目の攻撃から寸時の間もなく、剣を振り抜いた直後で僅かに体勢を崩したナナシを追い詰めにかかる。
二人目、三人目の刃がほぼ同時に、しかし僅かの誤差を持って荒波のごとくに襲い掛かってきた。
ひとつは側頭部を、ひとつは胴体を薙ぎ払うように突き進んでくる。
しかし、そこでもナナシの反応は図抜けて素早かった。
たった今そっ首を飛ばした竜人の体を覆うプレートメイルに手をかけて、思い切り引き寄せる。

己の脇腹を目掛けて伸びてきた刃が、寸分の狂いも無く突き立った。

もはや命と頭部を持たない、一人目の竜人の脇腹に。

もうひとつ。
側頭部を狙って飛び込んでくる刃、その腹に、鞭のようにしなやかな軌道を持って飛び込んできたものがあった。

足。

ぎん、と鈍い音を立てて刃が跳ね飛ぶ。
女性らしいしなやかさを持った長い足が、寸分の狂いも無く竜人の刃を蹴り飛ばしたのだ。
人間業とは思えないスピードと、細い足からは想像も出来ない脚力に、竜人の腕がびしり、と痺れる。
その寸時に足が地に付き、再び爆発的な加速力をもって竜人の首に襲い掛かる。
触れた。

ごきり。

雨音の中に鈍い音を響かせて、二撃目の足が竜人の命と首の骨を刈り取った。

(ふたり―――三人)
その一呼吸後には、同朋の肉に突き立った刃を引き抜くのに手間取った三人目の竜人の首が飛んでいる。
一瞬と言ってもいいほどの間に半数の同朋を失った竜人が、驚愕の表情とともにこちらへ憎悪の眼差しを向けていた。
(一度に――来る)
ほんの一呼吸の間を置いて、三人の竜人が意を決したようにリズムを合わせて波状攻撃をしかけてきた。

その一呼吸が。

ナナシの集中を終わらせていた。

「―――降り注げ、降り注げ、降り注げ……我等の敵を、穿ち焦がせ」

多人数との戦闘を考慮して、用意していたフォース………『雷光』。

稲光が、三人の竜人を打ち貫いた。

もとより剣によっての戦いを旨とするナナシの意思の力はさほど高くなく、故に雷光の威力も決して強いモノではない。
しかし、雨に降り込められて濡れそぼった竜人の体は、ナナシの意思力を補って余りあるほどに雷光の威力を増した。

竜人の絶叫が雨の中に響く。

その絶叫は、生まれた隙を逃さず降り注いだ三つの剣閃によって、断ち切られた。

4スケイルエンド補完みたいなの:2005/06/17(金) 22:13:29 ID:Z/FPomXM
「またいつか――きっと、会えますよね?」
誰に言うわけでもなく、ぽつりとスケイルは呟く。
……伝えたい人は、もう居ないのだから。
「あれ……」
いつの間にか頬を濡らしていた、温かな液体。
まさか、こんなものを流す日が来るとは、些かも思ってはいなかったのに。
止め処無く溢れるそれは、かつて思っていたよりも酷く塩辛かった。
「ふぇ……えぐっ……」
理解したとたん、今まで噛み殺していた嗚咽が漏れる。
短い間でも、ずっと傍に居てくれた人。一番大切な人。――一番大好きな人。
住むべき世界が違うなんて、初めからわかっていた筈なのに。
それなのに、今も眼を静かに瞑るだけで、過ごした幾夜が曇りなく鮮明に映る。
「ナナシ様……」
愛しい君の名を呟くと共に、溢れ出でる涙は更に量を増す。
霞んだ視界を凝らし、微かに温もり残る結晶を拾い集めて胸に抱いた。
――こうなるのなら、神になどなりたくなかったのに。
皆が幸せに満ちた中、ただ一人苦を背負い生きるなど、望んではいなかったのに。
もし、この身が有限ならば、想いなど自らと共に朽ち消えるであろう。
だが、『生』という概念を超越した神となり、人と竜人が互いを滅ぼす意義を失った今、
内因的にも外因的にも死を賜うことは永劫に叶わない。其れは同時に、永劫の枷をスケイルに科したに等しかった。

5スケイルエンド補完みたいなの:2005/06/17(金) 22:14:34 ID:Z/FPomXM
何時間、そうして哭していたのだろうか。
気付いたときには既に空は暗転し、頭上には微かに欠けた月が朧げに浮かんでいた。
潤んだ目尻を拭い、ぼんやりと空を見上げる。
「……ナナシ様も、同じ星を見ていますか?」
自分も星が好きだと、はにかんだ笑みで答えてくれたあの人。
きっと彼も、空をぼんやりと見上げているに違いない。
そして、同じようにスケイルに問うているのだろう。
例え住む世界が違うとしても、決して共有した時間や想いは途切れはしない。
そうだ。
それならば、何を悲しむことがあろう。
こんなにも近くにあなたが居るのに。あなたを傍に感じていられるのに。
スケイルはもう一度眼を拭い、軽く服の泥を掃うと、しっかりと二本の脚で立ち上がる。
眼に灯った決意は、いつまでも燻る迷いを綺麗に霧散させていた。
――リクレール様たちと、これからどうするかゆっくり話し合わないと。
もしかしたら、気を利かせて待っていてくれているのかもしれない。余計な心配を掛けないためにも、早く戻らねば。
ふと、立ち上がったはずみに、背負っていた荷物がこぼれ出でた。
慌てて拾い集めようとして、ふと違和感に気付く。
「あれ……」
魔王の心臓が、脈動している。
失われたはずの輝きが再びその肉塊に宿り、力強く鼓動している。
冷や汗が頬を伝い、背筋を言いようのない悪寒が襲う。
――もし直感を信じていなければ、何も知らぬまま絶命したに違いない。
突如、心臓が膨れ上がった。
咄嗟に不恰好にスケイルは横っ飛びした。受身も取れず無様に転がったが、何とか全身のバネで体勢を立て直す。
そして彼女は、混乱の中どうにか自分の身に何が起きたかを理解した。
心臓から飛び出た、グロテスクに脈動する数本の触手。
それらが、彼女が数秒前に立っていた場所を深く抉り取っていたのだ。
もし反応が遅れていれば、間違いなく心臓を抉り出されていただろう。曖昧だった悪寒が、確かな恐怖となって膝を笑わせる。

6スケイルエンド補完みたいなの:2005/06/17(金) 22:18:50 ID:Z/FPomXM
だが、不幸にも彼女は、回避の際抱えていた結晶を手放してしまっていた。
触手らはそれらを見逃さず、器用に各々で絡めとり、本体の心臓へ引き寄せる。
集った結晶は粒子となり、ゆっくりと意味を組み替え、新たなる質量をこの世に構築してゆく。
スケイルはただ、その最悪の事態を、力入らぬ脚を支えたまま見つめるしかできなかった。
――確かな恐怖が、現実の脅威となる。
先ほどまであれほど瞬いていた星たちはいつの間にか掻き消え、ただ漆黒なる曇天のみが頭上を包んでいる。
そして、視界を流れてゆく、幾千幾万もの白、白、白。
「まさか……」
喉さえ震え、言葉が続かない。
それを見て『奴』は嘲笑を浮かべ、代弁とばかりに小馬鹿にして呟いた。
「その通りだ、神。いや、『旧』神さんよ」
「……魔王だけでは飽き足らず、とうとうこの領域まで踏み込んだのですか」
くっくっくと、魔王――もとい『新』神は、さも楽しげに噛み殺した笑い声を上げる。
「神がキサマに力を分け与えたとき、ちゃっかり何割か吸わせて貰った」
「まだ諦めないのですか……死者は死者らしく、大人しく墓穴に潜ればよかったものを」
ふん、と神は鼻で笑う。
「ならば、キサマに代わりに入ってもらおうか。この世に神は二人も要らないのでな」
神の表情から、笑みが消えた。
同時に、心底まで凍て付くような寒風が、スケイルを煽る。
――この邪神を、倒さないと。
折角手に入れた平穏を、覆させるわけにはいかない。
だが、いくら楽観しようとも、この状況からは微塵の勝算も見出せなかった。
残っていた結晶は9個。これだけの質量の維持には3個必要としても、3度相手を滅さねばならない。
其れに対し我が身は一つ。願いの水晶を砕かれれば、リクレール力無き今最早この地に神を止める術は存在しなくなる。
――それでも。
それでも、対峙せねばならない。
それが、あの人の信念であり、私の想いだから。
覚悟完了。
スケイルは、すっかり手に馴染んだ母なる海の杖を構えた。

7スケイルエンド補完みたいなの:2005/06/17(金) 22:19:51 ID:Z/FPomXM
残Willは3。
全身に隈なく漲った意志力を確認すると、すぐさま術式展開。
「『封印』っ!」
言霊を認証し、光の五芒星が目の前に展開される。
五芒の陣は神を魔力的に拘束し、構築途中の術式を霧散させた。
「小癪な……」
忌々しげに神は吐き捨てると、今度は鉤爪を構えた。
そのまま一呼吸の間も無く、鋭い『強打』の一撃が放たれる。
一手先手が限界……軽い焦燥感と共に、スケイルは前屈してそれをギリギリ回避した。
受身を取って地面を転がり、身を起こすと同時に再び術式を展開。
「『再生』!」
温かな光の粒子が、規則的に舞ってスケイルを包み込む。
これで、即死の危険はとりあえずながら潰えた。無論、絶対的不利はこの程度で覆りはしないのだが。
「無駄な足掻きをぉっ!」
回避地点を予測した、高速の二筋の閃光。
スケイルは回避叶わぬと理解するや否や、杖を盾代わりに真っ向から受け止める。
金属が衝突したような音と共に、そのままの体勢で後方まで叩きつけられた。
「こほっ……」
一瞬呼吸ができなくなり、代わりに乾いた咳が喉から漏れる。
両腕をついて体勢復帰をしようとして――左側にバランスを崩し、がくりと身が崩れた。
過負荷の余りか、まともに衝突させた左腕が逝ってしまったようだ。
だらりと不自然なまでに力の入らぬ腕を垂れ下げると、改めて右腕で身を起こし杖を構えなおす。
「せい、やぁっ!」
型も何も無い、がむしゃらな連続攻撃。
だが杖はそれに共鳴し、軌跡を衝撃波と化し神に襲い掛かった。
咄嗟に神は鉤爪で防御を試みたが、魔を断つ閃光はそれをやすやすと打ち抜いて無防備な懐を膾に刻む。
「ぐうううぅうううぅっ!」
鮮血滴る胸を押さえ、神は苦悶の唸りを上げた。

8零時:2005/06/18(土) 00:23:05 ID:QLUXwqa.
跳ね飛ばされた三つの首が、雨に侵された地面へ落ちて重い音を立てた。
六人の同朋を失った魔王は、しかし無感情にその亡骸を見下ろす。
「ほう………」
呟かれた声は、感嘆の色に染められていた。
そこには、同朋を奪われた悲しみや憎悪、怒りの感情はまるで見受けられない。
むしろ、今現在の状況を楽しんでいるような……そんな声音ですら、あった。
「……そうか、思い出したぞ」
ぬかるんだ地面をしっかりと踏みしめ、剣を構えた姿勢のまま自らを見据えるナナシに、
低く腹の底に響くような声が声が届く。
「我らの砦を落としたのは、貴様だな」
くつくつと、小さく笑い声を漏らす姿はどうみても演技ではない。
思わぬ強敵の登場を、楽しんでいる。
「紺色の外套を纏い、人ならざる力を振るう女……か。面白いな。実に面白い、ぞ」
ナナシは変わらず、剣を構えた姿勢のままにそこから動かない。
笑みを浮かべ、言葉を飛ばしながらも……その皮膚から、発散される空気が、ナナシに油断を許さないのである。

殺気……それも、途方も無く濃密で、圧倒的な質量をもった殺気であった。
二人の間にはまだ距離が残されているが、その距離すらも今のナナシには薄皮一枚の防壁とすら感じられなかった。

―――強い。
――途轍も無く、強い。
肌に突き刺さる異様な感覚から、ナナシはそれをひしひしと実感していた。
六人の竜人と相対していたときには、こんな感覚を覚えることは無かった。
目前の魔王は……力を、解放しようとしているのだ。

「だが……」
ゆらり、と魔王の体が揺れた。
歩みを進めているのである。
悠然と、散歩にでも赴いているかのような、実に危なげの無い、警戒の色すら見受けられない、無防備な歩み。
隙だらけだ。
どこに打ち込んでも刃はその部位に深々と食い込むだろう。
どこを打つ?
どこに打ち込む?
「その命運も……ここで、終わりだ」
歩む。
歩む。
歩む。
泰然と、悠然と、しかし確実に、ナナシへと向けて歩が進む。
間合いは遅々と、しかし着実に、ナナシへと向けて縮まっていく。
ナナシの頬を、雨滴とは違うものが伝った。
恐ろしいほど濃密なプレッシャーに、冷たい汗を禁じえないのだ。
「絶望と……己の無力を、味わいながら」
ナナシの握るイーグルブレイドの切っ先が、揺れた。
焦れている。
どんな敵に対しても、常に冷静に戦闘を組み立ててきたナナシには、有り得ないことであった。
さらに、歩みは進み……剣の間合いに、踏み入った。
「……死ぬがいい」
「――――――ッッ!!!」
ナナシの脚が、ぬかるんだ大地を蹴った。

白刃が、常人では有り得ないほどの速度でもって閃いた。
目標は、魔王の頭部。
一撃で勝負を決そうとするかのような凄まじい太刀筋。

魔王は、微動だにしない。
反応できていない。
――――当たる。

当たる!

衝撃。

切っ先が、肉に食い込む衝撃が、確かに剣を握る腕に伝わって―――

衝撃?

来ない。

「……可愛い玩具を、振り回しているな?」

嘲るような魔王の声が、降って来た。

確かに、ナナシの刃は魔王の頭部をしっかりと捉えている。
否……捉えている、ように見える。
実際には、両者の間にはほんの僅かな空隙があった。
その空隙を満たすように、薄っすらと青白い光が浮かび上がっているのを、ナナシはようやく理解した。
その光自体には、質量も刃を受け止めるだけの防御力も見受けられない。
しかし、その光から先に……刃が、進まない。
まるで腕の筋肉全てが、その光から先に進むことを拒否してしまっているかのように。

(―――――これが、結界!)
賢者サリムの別荘に無造作に置かれていた書物に記されていた文章が、ナナシの脳裏にフラッシュバックした。
全ての力を防ぐ、絶対の防御結界。
目前の魔王が張り巡らせているのは、まさにそれであった。

そして、理解したときには遅かった。

9スケイルエンド補完(ry:2005/06/18(土) 07:27:15 ID:2hUjOw.6
――残Willは2。
再び全身に力が満ち、即時に術式を刻む。
だが、今度は若干神に分があったらしい。封印が完成する前に、神の術式が展開した。
「砕け散れぃっ、『波動』っ!」
轟音のような咆哮と共に、スケイルの身に見えぬ嵐が叩きつけられる。
真っ向から衝撃を受け止めたせいか、直立のまま後方まで吹き飛ばされた。
「きゃああああああっ!」
深く地面を両脚で抉りながら、10メートルほど後方で停止する。
かなり両脚が悲鳴を上げているが、まだ立てる。右腕も使って身を支えると、改めて術式を叩きつけた。
「『封印』!」
五芒星が神を魔力的に拘束し、次手の追撃に保険を掛ける。
そのまま休むことなく印を結び変え、次の術式を展開。
「『雨癒』!」
とたんに、光の雫がシャワーのようにスケイルに降り注いだ。
熱を帯びた全身を冷たく濡らし、間も無く左腕と両脚の感覚を万全にまで回復させる。
すぐさま杖を両腕に構えると、地を蹴り全力で神の懐めがけ駆け出した。
神もようやく止血した胸から腕を退け、真っ向から鉤爪を構え対峙する。
「大人しく……刺身になれぃっ!」
二連続で放たれる、まさしく全力篭めているであろう『強打』の閃光。
なんとか反射的に身を翻して一方を回避したが、ちょうど回避地点をもう一筋が襲い掛かる。
もう一度杖を盾のように構え、今度はタイミングよく自ら後方に跳んだ。
次の瞬間、衝撃と正面衝突。先ほどより強烈に、両腕に衝撃が響く。
だが、威力はほとんど受け流されて殺ぎ落ちたらしい。他に目立った外傷もなく、空中復帰を決め両脚で見事に着地した。
「そっくりそのままお返ししますっ!」
そのまま跳躍し、スケイルは杖を上段に振りかぶり神に躍り掛かる。
空中で神を見据えると、杖を無数に奔らせ再び衝撃波を叩き付けた。
閃光が無数に駆け、防御に徹した腕ごと衝撃波は神の身を余すところ無く斬り刻む。
「小賢しいぃいいいいっ!」
神は苦痛と憎悪を眼に宿し、咆哮と共に吐き捨てた。

10スケイルエンド補完(ry:2005/06/18(土) 07:32:32 ID:2hUjOw.6
だが、負わせたなけなしの傷はその一切が致命傷とはなっておらず、相変わらず有利とは程遠い。
残Willは最早1のみ。
Willが尽きれば、今度こそ手加減無用に『波動』が放たれるであろう。
そうなれば、如何なる足掻きも所詮延命に過ぎない。『再生』が切れたとき、完全なる敗北が決定する。
――それでも。
絶望の中、スケイルは杖を構える。
――それでも、私は戦わなきゃならない。
瞳に、消えかけていた闘志が再燃する。
もう、馬鹿らしいのは百も承知だ。
この身が力を尽くすまで、何度でも自分は対峙しよう。
意志力が漲り、杖を掴む両腕にさらに力が篭る。
――術式展開。
「『封印』っ!」
五芒星の呪縛が神の術式を妨害し、消失させる。
何かを喚いているのが聞こえたが、もうスケイルにそれを耳に入れている余裕は無かった。
杖を無数に奔らせ、呼吸が止まろうかというほどただひたすらに閃光を放つ。
傷をめがけ何度も何度も何度も何度も、幾重にも衝撃をぶち当てた。
「シャアアアァアアァアアアアアっ!」
血溜りの中、狂ったように神は悶え叫ぶ。
自らを蝕む何かを追い出そうと、必死に鉤爪を振り回す。
スケイルの攻撃も、熾烈を極めた。
最早どこにそんな精度があったのかと思うほど、一点にひたすら打撃を集中させる。
その表情は、まさしく修羅であった。
……だが、彼女は自分が肉の身であることを失念していた。
酸素を吸って筋肉を駆動するなどという非効率な器官が、永久機関となりえるはずがない。
次第に腕は過度の酷使に硬直し、其れに伴い衝撃波の本数も眼に見えて減少してゆく。
そして、とうとう腕の力が完全に尽き、スケイルは杖を取り落とした。
神は――まだ立っている。
ようやく止んだ衝撃の嵐に、神は安らかに笑んだ。
精一杯の嘲りを、その瞳に携えて。

11スケイルエn(ry:2005/06/21(火) 06:53:12 ID:OmkaQSLY
「……今度は我の番か」
傷は眼に見えて深いものであったが、かろうじて急所を外していたらしい。
止め処無く溢れる鮮血を滴らせ、改めて神は鉤爪を構える。
――刹那、閃光が幾筋スケイルに奔った。
無論、死力を尽くしたスケイルに、回避どころか防御すら叶わない。
まともに爪を浴び、身体が錐揉みながら吹き飛ばされる。
「――っ!」
声にならない悲鳴。
更に、追い撃ちとばかりに閃光の幾つかが無防備なスケイルを非情に襲う。
焼鏝のような熱さと共に、左腕が斬り裂かれ離別したのを理解した。
続いて他の筋が、右脚を根元から分断する。
そして最後の一筋が、左胸を寸分の違い無く貫いた。
「か……はっ……」
舞い散る鮮血と、零れ落ちる血反吐。
スケイルは着地できるはずも無く、それらと共にもんどりうって墜落した。
だが、間も無く『再生』が発動。
斬り落とされた四肢が再び身に縫合され、胸の穴は塞がり、失血感が徐々に薄れてゆく。
何とか立ち上がったものの、現状理解と共に酷い絶望を覚えた。
Willが尽きた。再生も尽きた。杖は遥か前方に転がっており、拾う間もありそうにない。
それでも、スケイルは構えを取った。
せめて、もう一太刀。
眼でも胸でもなんでもいい。とにかく、もう一太刀。
そして、そんな時でも想いを馳せるは、愛しき貴方の名だった。
――ナナシ様……ごめんなさい。
――今から、ナナシ様から頂いた大切なこの身体を、捨てることになっちゃいました。
――……馬鹿なトーテムで、本当にごめんなさい。

12スケイルエn(ry:2005/06/21(火) 06:54:58 ID:OmkaQSLY
地を蹴る。
迎え撃って鉤爪が奔る。
左肩が斬り裂かれる。まだ駆ける。
連続で閃光が奔る。
右肘が分断。左脇腹が裂ける。まだ駆ける。あと18歩ほど。
あえて急所を外し苦痛を与えんがため、無数の閃光を奔らせる。
右肩が斬り裂かれる。右腿が浅く抉れる。少し脚が鈍ったが、まだ駆ける。あと11歩ほど。
いつまでも苦痛を噛み殺し悲鳴一つ上げぬ彼女に興醒めしたか、先ほどより精密な連続攻撃が奔る。
左腕が肩ごと分断。右胸が裂ける。左脛が裂ける。右膝が分断される。
とうとう地を踏みしめるものが無くなった。スケイルは受身も取れず前のめりに転倒し、前方に投げ出される。
そして、そのまま神の脚に軟衝突し、停止した。
見上げれば、にたりと満面の嗤いを浮かべた神が、自分を見下ろしている。
「どうした? もう終わりか?」
「…………」
言葉を返そうにも、肺を抉られたためただ荒い呼吸音しか喉から漏れない。
神はその光景を、心底満足げに嘲る。
「本当ならもう少し甚振ってやりたいのだが……時間が惜しい」
振りかぶられた鉤爪が、鈍い輝きを闇夜に浮かべる。
スケイルはただ、その光景を他人事のようにぼんやりと見つめていた。
「指でも咥えて、我らの世界を傍観しておるがいいっ!」
衝撃。
刹那に肋骨が砕かれ、それでも勢いは全く殺がれず心臓に到達する。
そのまま、柔らかいそれを難なく鉤爪は切り裂いた。
「ごぷっ……」
吹き上げる鮮血、口から漏れる吐血。
間も無く肉体は、その機能を完全に停止した。
とたんに質量の維持ができなくなり、身体が砂のように崩れだす。
それらは塵となって吹き荒れる風に舞い――願いの水晶だけが、ことりと地面に落ちた。
神はそれを摘みあげ、事のあまりの愉快さに高笑いする。
「これで我の、我ら竜人の悲願が叶う! もう止めることなど叶わない! ぐひゃひゃ、ぐひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!」

13零時:2005/06/22(水) 19:57:16 ID:GEJzkIjs
「我が内に流れる理の力よ、猛りてその威を知らしめよ」
抑揚のない静かな詠唱とともに、魔王の右手が緩やかな動きでもってナナシの胸に添えられた。
「『波動』」


衝撃。

「――――ッッ!!?」
ナナシの胸に、巨大な鉄槌で殴られたような衝撃が突き刺さった。
剣を振り下ろした直後の不安定な姿勢のまま、その体が木の葉のように吹き飛ぶ。
一撃で意識をもぎ取られかけたナナシは、それでも何とか空中で姿勢を整えようとするが、
胸に走った激痛に注意を奪い去られ、ろくに受身も取れないまま地面に背中から落着した。
「っか……は……!」
息が詰まる。
雨にぬかるんで柔らかくなった地面は、それでも衝撃の幾分かを吸収してくれた。
しかし、ナナシは手に持った剣をその場に取り落とし、胸を抑えて苦しみにもがく。
その姿を、ゆっくりとした足取りで近づきながら魔王が冷然と見下ろしている。
「ふん……そんな玩具で、私の結界を抜けるとでも思ったのかな」
呟くようにナナシへと落とした言葉は、嘲りの色をたっぷりと含んだ声色であった。
「………ッ……」
苦痛に喘ぎながら、それでもナナシは己を見下ろす強大な敵へと鋭い視線をたたきつけていた。
意識が遠のきかけては激痛に引き戻され、ほんの数瞬の周期で痛みが襲ってくる。
だが、ナナシはなおも瞳に力を宿して魔王を睨みつけていた。
「……まだ、そんな目ができるのか」
己の剣が通用しないという絶望と、圧倒的な力量の差。
それを見せ付けてもなお諦めることの無いナナシを見下ろし、魔王は不機嫌に鼻を鳴らした。
目下のナナシは、乱れた呼吸を整えながら激痛をコントロールし、取り落とした剣を再び握ろうとしている。
「諦めの悪い女だ……まだ、抵抗できると思っているのか」
イーグルブレイドを探り、引き寄せようとするナナシの右腕に、魔王の足が襲い掛かった。
しなやかな右腕にこれも巨大な足がのしかかり、ぎり、と力が篭められる。

べきり。

「ぁ―――ッ!」

腕の骨が二つに折られる、乾いた音。
次いで襲い掛かる激痛と、焼けるような熱。
耐えるには大きすぎる苦痛に、唇を食いしばって叫び声を上げることだけは拒む。
それでも、無意識のうちに流れる苦痛の涙を止めることは出来ず、雨に混じって両の瞳から零れ落ちていく。
溢れる涙に歪み、視界がぼやけて魔王の姿が滲んだ。
「そうだ、その表情だ」
満足げな声が、頭上から降ってくる。
踏みおられて関節が一つ増えたかのようにぶらりと不自然な位置に曲がった腕をこのうえに踏みにじられ、激痛がさらに増す。
「お前のような強い女が、涙を流しながら痛みにもがく姿は……実に滑稽で、見ごたえがある」
サディスティックな笑みを浮かべ、魔王はぐいぐいと足に力を篭めてナナシへさらなる激痛を加えていく。
「だが……なぜだ」

「何故……泣かぬ。叫ばぬ」
唇を噛み締めて、ナナシは耐えていた。
噛み締めた唇から血が流れ、雨に流されて端正な顎を汚す。
涙で目前を滲ませながら、それでもナナシは、悲鳴だけはあげなかった。
「何故、命を乞わぬ。何故……耐える!」
激昂するように、魔王が声を荒げた。
圧倒的な優位。
絶え間なく与えつづける、気が狂わんばかりの激痛。
しかし。
「何故……そんな目ができる!」
ナナシの瞳は、なおも。
強い意志を篭めて。

坂の上に立ちはだかっていた時と全く変わらない鋭さで、魔王を見上げていた。

「応えろッ!!」
炸裂するような怒気を篭めて魔王がそう叫んだとき、ナナシが動いた。
右腕を踏みつけられ、ろくに身動きも取れない状態で……しかし、左腕が素早く動く。
その腕は、先ほど右腕が追ったイーグルブレイドを目にもとまらぬ速さで掴み取る。
反応が追いついた魔王が、その抵抗を激痛で忘れさせてやろうと言わんばかりに、折れた右腕を踏みにじる。

激痛。

しかし、ナナシはなおも瞳に光を宿し、魔王を見上げて。

叫んだ。

「負けられないからだッ!!」

左手が固く掴み取ったイーグルブレイドが、ナナシの右腕を肘から斬り飛ばした。

14スケ…いいタイトル募集。:2005/06/23(木) 07:02:22 ID:sahCnt5s
あとは、指にほんの少し力を加えるだけ。
大木すらへし折るその腕力にとって、何の造作もないことだ。
――何の造作も無いからこそ。
神は、自分の身に何が起こったのかがわからなかった。
トーテムに戻り、ただ最悪の事態を傍観していたスケイルにも、その光景は信じ難いものだった。
「な……にっ……?」
神の額に、何かが刺さっている。
それはやすやすと脳天を貫き、後頭部から馬鹿みたいにその切っ先を外気に晒している。
そしてその『刀身』は……紅蓮に燃える、朱。
状況理解と共に、文字通り妬け付く激痛が神に襲い掛かった。
「ぐぎゃあああああぁああぁあああぁあぁぁあっ!?」
訳のわからぬまま脳を直に焼き尽くされ、神は一度目の死を迎えた。
肉の崩壊と共にそれは地面に突き刺さり、改めてその姿を眼に焼き付ける。
「太陽の……剣?」
これを使いこなせる人間に、スケイルは一人しか心当たりがなかった。
そういえば、握られていたはずの水晶も、いつの間にか忽然とその姿を消している。
――間に合ったか……
突然、耳元に響いた声。
ほんの微かな音量ではあったが、確かに聞き覚えがあった。
「……魔王、さん?」
自分に肉の身を与えてくれた、最初の『魔王』。
姿が見えるわけではないが、スケイルは『彼』が頷いたように感じた。
微かに笑いながら、魔王は続ける。
――サリム、と言ったかあの若造……粋なことをするものよ。
――彼奴は『もしもの時』の為に、力だけを離別して保管しておった。
「サリム……さん」
自分は、脆く弱い存在だけれども。
支えてくれる人たちが、きっと傍に居てくれる。
――そなたは、私に願ったな。『彼奴の役に立ちたい』と。
――正真正銘最後の力よ。……必ずや、あの馬鹿者を討て。
――私の、いや……我らの願いはそれだけだ――
声が、存在が、消えてゆく。
だが、スケイルは、とある確信を得ていた。
魔王の言った『彼奴』とは、つまり。
スケイルは、希望に満ちた――それこそ待ち望んでいた――予感を確かにするため、『貴方』の名を呼んだ。
「ナナシ様――っ!」
翻る漆黒のマント。
誰よりも、何よりも、正義の怒りと闘志が込められた瞳。
地面に刺さった太陽の剣を引き抜くと、その影はスケイルに振り返った。
その顔には、見覚えがあった。忘れるはずも無い顔だった。
震える喉を押さえ、もう一度『彼』の名を呼ぶ。
「ナナシ様……」
彼は、スケイルに向かって、優しい笑みを浮かべた。
もう二度と見ること叶わぬと思っていた、心安らぐ笑み。
自然と、二の句が漏れ出でる。
「……おかえりなさい」
「ただいま、スケイル」
希望が、そこに居た。

15スケ…いいタイトル募集。:2005/06/23(木) 07:03:56 ID:sahCnt5s
「どうして……?」
どうして、まだここに残っているのか。
そう問うと、彼は困ったように頭を掻いた。
ばつが悪そうに、答えを口にする。
「多分、この状況をリクレールはわかってたと思うぞ」
「え?」
思いもよらぬ名前に、スケイルは素っ頓狂な声を上げてしまった。
己の恥に頬を紅く染め、慌てて口を押さえる。
そんな彼女の仕草に軽く笑いながら、彼は続けた。
「身体が消えてからさ、そのまま意識の海に帰ろうとしたんだけど……どこにも出口が無かったんだよ」
「それって……」
嫌な予感がする。
当の本人は、スケイルの葛藤を知ってか知らずか、まだ続ける。
「んで、元の世界には帰れないし、この世界で何もできないしで、しょうがないからずっとここで突っ立ってた」
「えと……」
予感が、次第に現実味を帯びてゆく。
よく見れば、彼の眼もまた不自然に泳いでいた。
お互い、次第に空気が冷めていくのを感じる。
「……見たんですか?」
「いや、見たくて見たわけじゃ」
「見たんですよね?」
「……ひゃい」
予感的中。
つまり、別れに咽び泣いている光景を、しっかり当人に見られていたわけだ。
顔から火が出そうな羞恥が、顔を真っ赤に染め上げる。
「ううううううううう〜……」
ナナシも、もうフォローしようがなくしどろもどろに言葉を紡いだ。
「いや、ほら、あれだけ感動的に別れの演出したのに、すぐほいほいと出てくるわけにもいかないだろっ」
「だからってずーっと見てることないじゃないですかぁっ!」
「だって、帰れないのはただの手違いだと思ってたんだから、勝手に離れるわけにもいかねぇし……」
むくれながらもスケイルは、今この時をゆっくりと噛み締めていた。
――この人となら、大丈夫。
例え、どんな困難があろうとも。
彼もそんなスケイルの意を汲み取ったか、自然と二人は真っ向から見つめあった。
想いは一つ。願いも一つ。
言葉少なく、二人は頷きあう。
「一緒に、行こう。戦おうぜ、スケイル」
「……はいっ!」
――私は、この人と戦う。

16タイトル募集。:2005/06/24(金) 07:06:15 ID:eZJQ3h5Q
じゃり、と地面を踏みしめる音。
そのとたん、ナナシから先ほどまでの柔らかさが抜け、彼の眼に再び闘志が宿った。
「……やっとお目覚めか」
「キサマ……人間風情が我に楯突きおって……」
肉体は完全に再生され、もう一筋の傷も残ってはいない。
その瞳には、ただ憎悪のみが煮え滾っていた。
対するナナシも、その射抜くような視線を真っ向から睨み返す。
「よかろう……楯突くのなら、それ相応の苦痛を身に刻めぃっ!」
刹那、閃光が奔った。
コンマ秒の容赦も無い、完全なる不意打ち。
地面すらも斬り裂き、閃光はナナシが立っていた場所に深いクレーターを刻んだ。
追撃とばかりに、更に閃光を砂塵に向け叩きつける。
――だが。
「どこ見てるんだ?」
耳元に、声。
突如襲った嫌な予感に、神は振り向く間も無く咄嗟に首を下げた。
次の瞬間、ちょうど脳天があった場所を紅蓮の閃光が掠める。
「いつの間にぃっ!」
「術式『幻霧』。……学習しようぜ」
小馬鹿にしながら、ナナシはさらに追い討ちの一撃を放つ。
神も、反射的に爪を振るった。
二つの閃光は真っ向からぶつかり――神はあまりの衝撃に眼を見開く。
ありえない。自分が力比べで圧されるなど……
やがて、限界はあっさりと訪れた。
爪は剣の熱と硬度に耐え切れず、鈍い音と共に砕け散る。
そのまま、威力を殺がれながらも手の甲を半分ほど斬り裂いた。
「ぎぃいいいぃいいぃいいぃっ!?」
燃え上がる刀身は、さらに傷口を焼きつくさんと責める。
文字通り焼鏝の痛みに、言葉にならぬ悲鳴を上げながら神は悶えうった。
無論、そんな好機を逃すナナシではない。
すかさず傷口から剣を抜き、容赦のない紅蓮一閃。
防御叶わず、刀身はやすやすと硬い皮膚を斬り裂いて腕を両断した。
閃光は一滴の鮮血すら蒸発させ、ナナシはそのまま転がりながら距離を取る。
息も絶え絶えに、神は殺意だけ眼光に込め睨みつけた。
「キサ……マぁぁああぁ……」
だが、神とて元は竜人を治めた猛者である。
一連の流れとかつての交戦において、状況分析は既に終了していた。
記憶が確かなら、ナナシ単体では理力対策は皆無。
――空気が鳴る。
この距離この位置ならば、回避など叶うまい。
荒い息を吐きながら術式展開、構築。
五芒の陣が、破壊の術式を寸分の違い狂いなく編み上げてゆく。
「シャアァアアァアアァアアアァアアアァアアアッ!」
怒号一喝。
咆哮と共に、回避不能の術式『波動』が、ナナシを完膚なきまでに砕き尽くす――
だが。
「な……?」
放たれる寸前、術式が霧散。
呆けたように口を開けたまま、神は我が身を襲った『術式』に慄いた。
――この、感覚は。
そう思ったのと、背後から衝撃波が襲いかかったのは同時だった。
反応すらできず、無様にも神は前方へ吹き飛ばされる。
見れば、いつの間にかナナシの姿がどこにもない。
代わりに背後で待ち受けるは――
「あなたの相手は『私たち』、なんですよ?」
初代魔王が与えた、最後の力。
それは願いの水晶を媒体に、一つの肉体において二つの精神を『存在変換』するという、世紀の大術式。
――待ち受けるは、杖を剣の如く構えた、五体満足のスケイルであった。

17零時:2005/07/20(水) 00:35:58 ID:j.dRP/JQ
鋭く重い刃が、肩口に突き刺さる感触。
やや収まりの色を見せつつも、なお耳に煩い雨音の中で――それでも。
ぐぷり、という音を、ナナシは確かに聞いた。

ぐぷり。
ず、ぅ。
ざく。

未だ魔王の足に踏みつけられたままの右腕が、肩口から切り落とされた。
「――ッ!?」
この行動は予想の埒外に有ったのであろう、驚愕に魔王の表情が変わる。
それと同時に、思考に一瞬の空白……それを見逃さず、踏みつけられた右腕を残し、
引き換えに行動の自由を得たナナシはすかさず立ち上がった。
遅れてやってきた激痛をしかし意に介することなく、残された左腕で剣を握り。
溢れ出す血液の熱さと、それに反して冷えていく体になど欠片も意識を振らず。
左手に握り締めたイーグルブレイドを、振り上げた。
「――あの子はッ……」
ナナシの口から、言葉が漏れた。

白刃が天へと振りかざされる。

――あの子は、さよならって言ったんだ……!

左腕一本に満身の力を篭めて、振り下ろす。

――今夜を、さよならになんてしない!

「無駄だッ……その程度の武器で!」
魔王が刃を防ぐように右腕を差し上げる。
その腕を覆うように、薄っすらと青白い光が浮かび上がった。
結界。
振り下ろした刃が、その光に押し留められる。
「――――ッ!」
直前の一撃と、同様に。
刃を振り下ろさんとする筋肉そのものが、進むことを。

拒否、するかのごとく………

「うあぁぁぁぁあああッッ!!!」

刃が。

進んだ。

青白い結界の光を、貫いて。

魔王の右腕を覆う固い鱗を、切り裂いて。

その腕を、満身の力で切り飛ばし。

身に纏った鎧に、食い込み。

断ち切って。



―――そこまで、だった。

……魔王の右腕と、ナナシの体が、同時に大地へと落下した。
ぬかるんだ土が、重い水音と軽い水音をひとつずつ、奏でる。
「か、ぁっ……!」
ナナシと同様に右腕を切り飛ばされた魔王が、苦悶に顔を引きつらせながら笑みを浮かべた。
「やって……くれるッ!」
倒れ伏したナナシは、そのままぴくりとも動かない。
ただ、直前まで右腕が繋がっていた傷口から、血液だけが溢れ出している。
「まさか、そこまでの覚悟を……見せる、とはな……」
驚きと苦痛から僅かに息を荒げながらも、魔王は楽しげに言葉を続ける。
傷口を抑えて握り絞め、簡単な血止めを行う。
「だが、私の、勝ちだ」
もはや命の灯火すらも燃え尽きようとしているナナシを見下ろし、魔王は歩を進め始めた。
「予定は、狂わない。あの街は……もはや、誰にも護られない」
身動きひとつ取れないナナシの耳に、その言葉と雨音だけが降り注いでくる。
「――お前の、負けだ」
……その言葉を最後に、魔王はゆっくりとシイルへの道を歩んでいった。

――負け、なの?
――もう。
――さよなら、なの?
――動け。
――動け……
――――。
――だめ。
――血が、流れすぎてる。
――ウリユ……
――ごめん、なさい。
――護れ、なかった。
――まだ、話したいことがあるのに。
――まだ、聞きたいことがあるのに。
――お守り、できたのかな。
――あの子のお守り、欲しかったのに。

――ごめん―――







「清らかなる生命の風よ―――失いし力とならん」

「『治癒』」

体が、軽くなった。
その場に落ちていた自らの右腕が、ゆっくりと肩に引き戻される。
暖かい感覚が、天から降り注いでくる。
その感覚が体に落ちるたび、失われた血液、意思、力が、戻ってくる。

「何……て…………た……………よ……」



「何やってんだまったくオメェはよ!!」


再び開けた視界に、男がひとり、立ちはだかっていた。

18雷光:2005/08/16(火) 12:43:50 ID:.q56yq5Y
「ぐ……るぁああああぁっ!」
怒号と共に鉤爪一閃。
過剰な力と魔力の奔流は衝撃波を生み、本来の間合いを超えた。
白銀の閃きはスケイルの胸を捉え――
「……ちぃっ!」
異常なまでの無抵抗感に脊髄が反応し、神はすぐさま振り貫いた腕を軸として前方へ跳躍した。
その瞬間、先ほどの位置を朱の閃光が劈く。
「……ほぅ、もう見切ったか」
「ぐぅ……賢しい、奴らよ……」
焼け爛れた傷口が疼くのか、腕のあった場所を強く握りしめながら呟く。
最早先ほどまでの優勢感など微塵も無く、今はただ焦燥と怒りに瞳が澱んでいた。
その惨めな姿に、ナナシは苦笑を漏らす。
「自分の力に溺れたから、そうなる」
重量をものともせず器用に剣を回転させ、ナナシは構えを取った。
神もゆっくりと、片腕を構える。
呼吸音が、鼓動が、吹き荒む風の音すら掻き消し耳を劈く。
先に動いたのは――やはり、怒気に理性を砕かれた神であった。
「シィ――――ッ!」
「ぬぅっ!?」
上段に構えていたナナシだったが、放たれたのは予想に反し蹴りであった。
声帯の限界高音を突破し、風鳴りのように擦れた咆哮を耳に、ナナシは咄嗟に身を伏せる。
更に剣を抱きかかえるようにして前転し交差、抜け切ると同時に剣を軸足に奔らせた。
だが、切り裂くはずだった脚はとうに地面と決別しており、空を切る。
――空かっ!?
見上げるまでもなく、ナナシは存在変換を試みた。
おそらく『封印』切れを悟り、再び術式を展開するつもりであろう。――『封印』は強力だが、どうにも維持力に欠ける。
単体では理力に脆いナナシにとってはそれは由々しき問題であり、最優先事項であった。
身に感じた重量が失われ、代わりに新たな存在が具現化を始める。
何か神はぐずぐずとしているようだが、いつ『波動』か『雷光』が放たれるかもわからない。
軽い焦燥を感じつつ、スケイルは具現化を終えた。肉に馴染む間も無く杖を振るい、術式を編み上げる。
術式妨害を象徴する、光で編まれた五芒の呪縛。何の造作もなく、スケイルはそれを神に叩きつける――
「詰めが甘いぞ、小娘ぇっ!」
スケイルは、目を疑った。
放った術式が虚空でそのベクトルを失い、何をするでもなく空中に静止している。
――これは……まさか!?
スケイル達は失念していた。神が持つ、もう一つの術式の存在を。
「『反射』……」
呆然と、その名を呟く。
神は主導奪還に笑み、返答した。
「失血が思いの他頭を冷ましてくれたわ……」
神は笑んだまま手を振りかざす。
それはまるで、キャッチボールを精一杯届かせようと力む幼子のようで――
「受け取るがいい。熨斗付きだがなぁっ!」
怒号と共に静止していた術式は逆ベクトルを得、代わりに術者を拘束した。
理力的に無防備となったスケイルの目に、淡い閃光がいくつも映る。
――変換を――っ!
刹那、追撃の『雷光』が、無数に曇天を迸った。

19スケイル幻想譚:2005/12/11(日) 05:45:34 ID:9CvTpzGU
衝撃で、大量の砂塵が一面に舞っていた。
この曇天の下、砂埃の中はまったくの闇である。
肉体構成の際限界まで高めておいた神の視力でさえ、何人の姿も見出せなかった。
血の気が抜けて澄んだ眼を細め、神はじっと砂塵の向こうを見つめる。
――手ごたえは確かにあった。
だがなんと言えばいいだろうか……臭いのだ。
完全に不意はついたと言え、元神すら打ち砕いた油断ならぬ相手である。
この戦、『詰み』では温い。もう一手……王将を奪わねばならない。
神は息を殺し、ゆっくりと砂塵の裏へ周った。
このイーブンの状態が破られるまでに、どこまで有利になれるかで、戦況の総てが決まる。
――これならば、いくら奴と言えども……
事態の順調な好転に、神は自然と暗い笑みを浮かべていた。
首の頚動脈を狙いに据えて構えた鉤爪を、無意識に紅い舌でなめずる。
……雪がゆっくりと、だが確実に、砂埃を地面に落としていた。
コンマ一秒の遅れも取るわけにはいかない。
そしてとうとう――
どくん、と心音が一際跳ねる。
均衡が――
脳内麻薬の分泌が、極限の神経状態で手に取るようにわかる。
――破られた。
闇の向こうで、微かに蠢く影。
それを視認した途端、神は視神経を超え、脊髄で反応していた。
「――――っ!」
受身も思考も、呼吸すらも止まった、捨て身の一撃。
本能の危険信号すら無視したその一撃は、刹那だが音速を超えた。
衝撃波の奔流が、斜線上にあった腕の鱗を削ぎ飛ばす。
さらに、迸る衝撃波が、垂れ流されて吹き荒ぶ魔力を絡み取った途端――
相反する二つの力は渾然一体化、究極の破壊力として融合を遂げた。
砂塵、地面、雪、大気……直線上に存在する物質は例外なくその渦に呑まれ、一本の槍と化す。
その先にあるは、未だ気づかぬのか微動だにしない、憎き黒い影!
「殺っ……たぞぉおおおぉお人間がああぁああぁああああぁあっ!」
硬い物を砕いた指先の感触を確かに味わい、その歓喜に神は幼子の如く叫んだ。
大声で嗤いながらベクトルに従い、薄く積もった雪の上を前屈のままバウンドする。
受身を取ろうとして、神は地面を捉える物が何もないことにようやく気づいた。
――どうやら、衝撃波は思った以上に我が身を蝕んだらしいな。
神自身の目では残りの腕の遺失しか見えないが、きっとそこらじゅう生傷だらけに違いない。
しばらく跳ね回った後、ようやくその肉体は完全に静止した。
あまりに大声で嗤い続け過ぎて、酷使された肺がずきずきと痛む。
だが、腕を失った痛みも、肺の痛みも、今や神には快楽しか生まない。
――さて、最後の仕上げと行こうか。
ひくひくと頬の筋肉を痙攣させながら、神は両足で身体を起こした。
ぐずぐずしていると、いつ水晶が蘇生分の力を取り戻すかもわからない。
もう邪魔が入ることもなかろう。……入ったところで、今の神を食い止められるはずもないが。
さて、何処に水晶が吹っ飛んだのだろうか?
悠々と辺りを見回し……ずたずたになったマントが目に入る。
単純に考えれば、衝撃波を避けるためとは言え水晶を手放したなんてことは無いだろう。
おそらく、決死の思いで水晶を守ろうと、最後まで身を盾にしたと思われる。
まあ、それも無駄な努力であったが……そう思うだけで、忍び笑いが絶えず口から漏れた。

20スケイル幻想譚:2005/12/11(日) 06:25:00 ID:9CvTpzGU
ぼろ布となったマントを、口で咥えてそっと持ち上げる。
「……ぇ?」
思わず、声が漏れた。
見えた光景に、神は己の視覚を疑った。
マントの下にあったのは――
刀身が真っ二つに割れた、太陽の剣ただ一つ――
歓喜から一変、神の背中に最悪の事態を知らせる悪寒が走る。
もし、総ての手が想定内の茶番だったとしたら?
先手を奪う以前に、既に先手を、主導権を奪われていたとすれば?
――そう、詰んでいるのは、自分だとしたら?
膝がだらしなく笑い始めた。
あのナナシを相手取ることにおいて。
後手を取ることがどれだけ愚かであるか、身をもって知っていたから。
ざわざわ、と風に煽られた木々が焦燥を代弁する。
――どこだっ!?
四方八方を見渡すが、ほぼ一色に染まった銀世界に差異を見出すことができない。
だがいるのだ、近くに、今も隙さえあらば神を殺さんと!
「上……かぁっ!」
見上げた空は、相変わらず雪がちらほらと舞うほぼ曇天一色。
その瞬間、神は自分の失態に気づいた。
そう、これが、この刹那が隙。
「いいや……」
ふと聞こえたナナシの声。
それは神にとって、死刑宣告にも等しい、冷たい声。
そして声が……笑った。
「――下だよ」
始めから、相手の手のひらの上だったのだ。
雪は薄いといえど、発見を鈍らせる程度には隠すことができる。
そして、神の行動をある程度先読みし、じっと待ち構えていた――
「ひっ……」
ただ、恐怖のみが声として漏れ出でた。
今置かれた状況にだけでなく……ナナシの、異常なまでの戦闘技能に。
身体は、とうに竦んで動きを停止していた。変換反応の光が足元から漏れる。
――最初に感じたのは、足元から脳天への焼けるような剣撃の痛み。
だが、その痛みは次第に、『冷たさ』に変わっていった。
「な……っ!?」
静止した思考の中、状況の理解が叶わない。
そんな神をあざ笑うかのように、ナナシは空を舞っていた。
その手にあるは、もう一つの剣――聖なる月の剣。
「魔力と魔力は互いに寄せ合う」
笑いながら、剣を神の頭目がけて据えた。
「剣自体が無茶な魔力放出に耐え切れなかったようだが、うまく避雷針になってくれたよ」
ナナシの力に重力加速度が加算され、鉄槌のごとく脳天に下された。
衝撃は頭蓋を砕き、切っ先を脳に到達させる。
そして、刹那に響く、絶対零度の冷気!
「ぁ――――」
「ツーアウト、ってな」
――断末魔さえ凍りついた。
直に凍結され脳細胞が膨張して破損、そして脳死。
神は、二度目の死を迎えた。

21汁脳正式公開@名無しさん:2005/12/11(日) 10:47:04 ID:qOIsukko
密かにお待ちしておりました。
…GJ!

22スケイル幻想譚:2005/12/23(金) 19:26:04 ID:1aLnpToQ
生命を失った肉体は、どさっ、と重力に引かれるまま崩れ落ちた。
やがて組織の崩壊が始まり、砂となって風に流されてゆく。
ナナシは一連の死を見届けると、急に顔中に吹き出た冷や汗を拭い取った。
――さっきのは、流石にヤバかった。
ここまで無傷で凌いだものの、精神的な磨耗は並々ならないほどナナシを蝕んでいた。
全力疾走の直後のように大量の血を送り続ける心臓を、服の上から鷲掴みして落ち着ける。
一旦深く息を吐き出すと、未だ脈動を続ける赤黒い肉片を睨み付けた。
雪は術者の生命を讃えるかのように、まだしんしんと世界を白に染めつくしている。
剣をゆっくりと正眼に構え、神の動向を油断無い眼で伺う。
……実のところ、ナナシは決して優勢ではなかった。
そもそも、ナナシが互角以上に渡り合えたのは、剛力や幻霧、そして剣の魔力の補正が大きい。
ナナシ単体の強さは、相手をかく乱し戦況を有利に導く狡猾さにある。
故に、熱くなりやすい神の単純さを突いた互角以上の衝突を成し遂げたのだ。
だが――先程の『雷光』からの『攻めろ』。
精神を執念で食い尽くしたあの攻撃は、あの打開策無ければ確実に甚大な被害を被ったであろう。
それほどまで、神は戦闘のプロなのだ。
純粋な力と力の衝突だけなら、ナナシを上回って余りある破壊力、戦闘技能を持ち合わせている。
……残る命は一回分。
今度こそ、神はなりふり、自我、生の執着すらも捨てて我が身の滅殺に努めるであろう。
そうなった時、果たして自分は勝てるのだろうか?
――いや。
弱気になった自分の頬を強くひっぱたき、自分に強く言い聞かせる。
――勝てる、じゃない。勝たねばならないんだ。
自分には守るべきものがある。
一度守ったこの世界を、例え自分の住む世界で無いにしろ――守りつくす義理がある。
『ナナシ様……』
「どうしたんだ?」
ふと聞こえた声に振り向くと、トーテム状態になったスケイルが漂っていた。
その瞳に浮かぶ申し訳なさに気づくと、彼女が口を開く前にナナシは呟く。
「……そんな顔するなって。俺が自分で決めたことなんだから」
『でも……』
スケイルはうつむいたまま、ぽつりぽつりと胸中を吐き出す。
『私が……全部きちんと終わらせなきゃいけなかったことなのに……』
『それなのに……ナナシ様ばかりにお手を煩わせて……戦いでもろくにお役に立てなくて』
トーテムは肉体では無いから、涙が流れることはない。
だがナナシは、スケイルが泣いていることに気づいていた。
だからあえて何も言わず、静かにスケイルの吐露に耳を傾ける。
『本当に……神様どころか、ナナシ様のトーテムだって……胸を張って、言えません……』
ひっく、とスケイルの声に嗚咽が混ざる。
――そうか。
スケイルはこの戦いの間、ずっと自分を責めていたんだろう。
自分の行動に何の責任も負えず、挙句他人の力を借りたことに、不甲斐無さを痛感していたんだろう。
ナナシは無言のまま、スケイルをぎゅっと抱きしめた。
一瞬スケイルの身体が強張ったが、無視して更に力を込める。
「……バカ野郎」
耳元で囁く様に、ナナシはゆっくりと告げた。
「自分の身を犠牲にしてでも、神に一人立ち向かったじゃねぇか」
『でも……』
「あんなに血を流して痛くても……四肢を失っても……退かなかったじゃねぇか……」
『……』
ナナシはぐいっとスケイルの顎を持ち上げ、眼と眼を合わせた。
潤んだ瞳の向こうに、自分の顔が左右対称に映っている。
その更に奥――スケイルの何かを見通すかのように見つめたまま、優しくナナシは呟く。
「誇れ。俺が全部赦す。お前の尻拭いだって喜んでしてやる。だってさ……」
ここまで言って、急に気恥ずかしさがこみ上げてきた。
照れ隠しに強く抱き寄せ、顔を見ないように呟く。
「……俺、お前のこと好きだからさ」
しばらく、沈黙が続いた。
どこか遠くて木々がざわめく音、風が吹き抜ける音、自分の心音だけが、やけに耳に残る。
『……ですよ』
「うん?」
スケイルの呟きは、小さすぎて聞こえなかった。
だが、何となくは流石のナナシでも気づいていた。だが、あえて聞き返す。
おずおずと、真っ赤な顔で貴方をスケイルは見上げた。
『卑怯……ですよ。私の台詞だったのに』
「はは、そうか?」
『ですよ……でも』
はにかみながら、スケイルは笑んだ。
それは何の屈託も無い、自然のままの笑みだった。
『私も……そんなナナシ様が……好き……ですから』
――そうだ。
――例え何があろうとも、俺はこいつを守って、こいつと手を取り合って、歩んでいくんだ。
――そう。生きる世界が違おうとも……見上げる星空は同じように。

23スケイル幻想譚:2005/12/24(土) 06:18:00 ID:tqaXPt4o
どれほどの時間、抱き合っていただろうか。
ナナシは背に回した腕を放すと、地面に突っ立てた剣を引き抜く。
――覚悟はできた。
未だぐにぐにと妙な肉の動きを続ける心臓を、きっ、と睨み付ける。
今すぐにでもあの心臓を砕いてしまいたいのだが……
どう動くかわからぬ今、下手に手を出すわけにはいかない。
剣を構え、静かに動向を伺い続ける。
やがて――
――肉が、急激に質量を増した。
「え?」
しばらく見つめていたナナシだったが、急に『異変』に気づいた。
広がる肉が、『生き物のカタチ』をしていない。
始めこそ気のせいと思っていたのだが……明らかにこの肉体構成は『臭い』。
先ほどまでの強固な意志力が、何故か霧散してゆく。
――怯えているのか、俺は?
馬鹿な、と自嘲しようとしたが……笑う膝が止まらない。
――なんなんだ。何で……
「身体のパーツ配置が……めちゃくちゃなんだよっ!?」
そうなのだ。
なぜ腕が上部から幾本も生えている?
口らしきものが両脇に二つほど見えるが何だ?
濁った瞳が……奇数個の瞳がじっと虚空を見つめている。
しかも、肉はその盛り上がりを止める気配が一向に無い。
……ナナシは同じ結晶を使っていた身分として、直感で総てを理解した。
――奴は骨組織、感覚神経といった、構成にかなりの力を喰う組織を削っている。
ただ筋肉に運動神経を張り巡らせただけの、巨大な肉塊になるがためだけに。
なお盛り上がる肉の隙間から、ふと神の声が漏れた。
「ぐけぐけぐがはっがはっがははがははげほげほごほぉ!?」
いや、到底声とは呼べない、叫びと咳の中間の様な『音』。
――なんだよオイ!
ナナシは、神の覚悟を、神の本気を見くびっていた。
先ほどレベルの、捨て身でぶつかってくるならまだいい。
だが、自分の存在そのものを、摂理から踏み外すとは……
あの様子では、脳の不要な部分まで肉に換えたのだろう。
脳に喰うエネルギーの膨大さを、肉の量で皮肉に表現している。
そして数分も経った頃。
……ようやく、醜悪な膨張は止まった。
ごぼごぼ、と妙な音がそこかしこから漏れ聞こえる。
よく耳を澄ますと、意味のある単語が断続的にあることに気がついた。
だが、胸糞悪い雑音が多すぎて、聞き取る気が失せる。
そして、濁った瞳総てがナナシの姿を捉えた。
「……がぼごぼが……にん…ごぼげん……がぼがばぁ殺げぼぁす……」
肉の総てが、こちらを向いてうにょうにょと触手のように漂う。
やがて、自分の言葉の意味に気づいたかのように、何度も単語を繰り返し始めた。
「ころす……? ころ……ころすころ……すころすコロスコロス殺す殺すコロスぅっ!」
――来るっ!?
素早くナナシは剣の魔力を開放した。
そのまま躊躇い無く、冷気の塊と化した衝撃波を肉塊の中心めがけ叩きつける。
だが……
「がほげおおおほごおおごおおごおおおおおがあああああほおぅうがぼおおおっ!?」
中央から肉が真っ二つに裂けた。
そして衝撃波が着弾する刹那、光の壁が幾重にも衝撃波を囲い込む。
壁に触れるごとに衝撃波は失速し……そして最後にぶつかった瞬間霧散した。
「何ぃっ!?」
――あいつ……『結界』を何重にも展開したってのか!?
だが、驚愕はそれにとどまらない。
ナナシの見開かれた瞳に、魔力が爆ぜる光が幾つも映った。
見覚えのある光に、舌打ちをしながらさらに剣の魔力を強く開放する。
――『雷光』、か。術式を幾重にも展開、ったぁ非常識な野郎だぜ……
「ぎゃげええげああがほぁぼおおおぉおがあげえあああええっ!」
咆哮と共に雷鳴が轟き、閃光が幾重にも奔った。
ナナシは剣を振るうと、剣の魔力で雷撃を一箇所に集まるよう釣る。
ギリギリまで引きつけたところで魔力放出を止め、単調となった雷撃を軽やかに避けた。
だが、そんなナナシの眼に、さらなる術式構築の陣が映る。
「……うぉ……ッ?」
――『波動』の相乗展開……っ!?
さらにナナシは、自らを囲い込むように別の術式が存在することに気づいた。
この空間一帯を、『反射』のミラーハウスのように仕立て上げている。
――つまり、当たるまで術式を追尾させるってことだ……
冷や汗がぼたぼたと地面に垂れるが、拭う暇も無い。
魔力は、相乗すれば本来の威力がどんどん乗算されてゆく。
神の『波動』の威力は周知の通り。それが何倍にもなれば……マズい!
そして――
破壊の衝撃が――
「ごおほおおほおおごおおがおがおおがおがあぼおぼぼおおおああぁっ!」
大音量のノイズと共に、薄暗い曇天の下を白く染め上げた。

24雷光:2006/01/25(水) 07:06:55 ID:VQUGg4kU
……一瞬の判断と感覚だった。
ナナシは剣を掲げると、剣の魔力を一気に解放した。
『波動』はその魔力に釣られ、軽くベクトルを上方へ――即ち、かろうじて掠る程度までずらされる。
すぐさま魔力を止めると、ナナシは峰が自分を向くよう剣を眼前に構え、衝撃波の着弾と同時に後方へ跳ねた。
刹那に全身を襲う破壊の衝撃。
ミシミシと嫌な音が響いたが剣か自分の骨かすら判断する暇もなく、エネルギーに煽られ吹き飛ばされた。
――一瞬の辛抱だ……っ!
全身を襲う衝撃を右腕と剣の峰だけで食い止めながら、それだけを心中に留め続ける。
……ナナシは術式展開を視認してすぐ、とにかく離脱することを念頭に置いた。
例え紙一重で直撃を回避したとしても、致命傷は免れないだろう。
さらに『反射』のミラーハウスの中、何度もそんな回避が続くとも思えない。
ならば、一撃貰ってでも『反射』から逃れさえすれば――
突如、全身を襲う衝撃波が止んだ。
空中で姿勢を正し神の方を見ると。薄いオーロラのような膜が間にあるのが見える。
――突破……した!
安堵して両足を地面に着けたがベクトルは大して失われず、直立姿勢のまま後方へ滑ってゆく。
2、30mも地面を直線に抉って、ナナシはようやく一息つけた。
――直撃でなくてコレかよ……
自虐的な笑みを浮かべながら、自分の満身創痍な身を見た。
両脚はすっかり痺れ、体重を支えるのもやっとなほどがくがくと震えている。
さらに衝撃をまともに受けた剣と右腕に至っては――
「……はは、伝説の剣にヒビいれてやがる」
亀裂というほど大きなモノではないが、これ以上の酷使はできないであろう小さなヒビが至るところに奔っている。
魔力的にも物理的にも強固な剣がこのありさまだ。
だから右腕は意識できなかった。したくもなかった。
……右腕は持ち主の言うことも聞かず、ただぶらぶらと力なく垂れ下がっていた。
『ナ、ナナシ様ぁっ!』
スケイルが悲壮な声で叫ぶ。
だがナナシは笑って、片手で彼女を制した。
「代わっちゃ……ダメだ」
『でも、ナナシ様一人じゃこれ以上は――っ!』
だがナナシは無言でかぶりを振る。
「……今俺たちは、魔力を物質に強制的に変換して物理的干渉力を得ている」
ずるりと汗で剣が抜け、地面に墓標のごとくつっ刺さった。
「この状態で変換すれば、損傷がどういう形で再変換されるかわからない」
『そんな……』
スケイルの状態でこの傷を負っていれば、『雨癒』で回復できたろうに。
再変換時この傷がちゃんと『腕のまま』であるか確信が持てない以上、そうやすやすと変換ができなかった。
ふっと笑みを失い、ナナシはゆっくりと地に腰を下ろす。
神はといえば、相変わらず反射の壁に包まれたままじっとしていた。
――持久戦に持ち込む気か……
相手の目的は人類淘汰術式展開までの時間稼ぎ。
運動能力など必要なく、ただ自らを防御する手段にだけ完全を求めればよい。
――考えろ。
傷の部分さえ変換しなければ何とかなるのではないか?
いや、損傷が複雑すぎる。もう少し単純だったり微細だったならできるだろうが……
それに、傷をどうにかしても、あの防御体制を突き破れるのか?
対魔法障壁『反射』、対物理干渉障壁『結界』の二重防御幕。
魔法ならば『反射』内に入れば無問題だが、『雷光』では致命傷に至らないし自分の身の防御も疎かになる。
放ってすぐ離脱できるか、一撃で砕けない限り、身を晒してまで攻撃するのは蛮勇に過ぎない――
「……つまりだ」
――魔法的干渉で、相手を完膚なきまでに粉砕する威力を生めばよい。
ただし、失敗すれば間違いなく敵の術式をモロに浴びることになる。諸刃の賭けだ。
成功の保証はなく、逆に精密さを要するこの理論では成功率すら怪しいものだ。
ナナシは生きている左の手で剣を拾い上げた。
そして器用にくるりと回転させ、切っ先を自らに向ける。
『ナナシ様っ!? 何を……』
「……っ!」
来るであろう激痛に供え、ナナシは固く歯を食いしばった。
そして切っ先を思いっきり右腕の付け根に突き刺す!
「ぐぅぉお……」
――この程度の痛み、スケイルの受けた苦痛と比べれば微々たるものだナナシぃっ!
そのまま切っ先を抉るように回転させ、全力で腕の肉を引きちぎった。
心臓に近いゆえ、鮮血と内出血が混ざり合って一気に噴出す。
ナナシは肩口を思いっきり左手で握り締めると、小さく術式を展開した。
「『火炎』っ!」
熱を帯びた手のひらで傷を押さえつけるたび、猛烈な痛覚が責め立てる。
だが気合だけでそれを噛み殺すと、頃合を見てナナシはゆっくりと手を離した。
傷口はすっかり焼け爛れてしまったが、とにかく出血は止まっている――
「さて……一世一代最後の華と行きますか」

25がんばれ春子!@名無し:2006/07/22(土) 12:33:43 ID:XTzXz2pM
今なお密かに期待している

26帰ってきたスケイル幻想譚:2006/08/15(火) 20:22:32 ID:BXF0vllc
ナナシは駆ける。
剣を左手に、我が身を抱くように構えて。
ナナシは見つめる。
醜悪な姿に堕ちた怨敵を。
極限まで研ぎ澄まされた感覚は、ナナシをヒトを超えた境地に至らせた。
――無生物と生物の、魔力のリンク。
今、彼には剣の魔力の一滴一切すらを、己の肉体の如く理解し、繰ることができた。
魔力を暴発しない、だが最大の威力を保持したまま圧縮し、弦のごとく絞る。
やがて、自らの魔力と剣の魔力が完全に同調したその刹那。
「……今だッ!」
彼は全てを解放した。
魔力は一筋となり、だが荒々しく暴れ、まさに竜の如く直進する。まるで主の意思のように。
『反射』は魔力でなく、魔法に編みこまれた式に反応して作用する術式だ。
やすやすと魔力は壁を突破し、同時に自らの身体も堪えきれず『反射』に突っ込む。
だが彼は怯まない。少し身をかがめると、万分の機を常軌を逸した精神で捉えた。
「スケイルッ! あとはまかせたァッ!」
咆哮と同時に、肉体の崩壊。魔力の竜の尾の軌跡ぴったりに、水晶だけが空を舞う。
『はいっ!』
スケイルは彼に何の疑い、何の不安も感じず、ただ頷き、自らの使命を全うする。
今の彼らに障害は微塵も無い。あるのは互いの鉄壁の信頼、ただそれだけ――
やがて、神から反撃の波動が無数に放たれた。
だが、強力な魔力は避雷針のように全てを集合させる。魔力に魔力が当たっても、多少威力が落ちるだけだ。
着弾まであと少し、肉体に戻るタイミングはシビアだが……大丈夫だ!
神もさすがに危険を感じたのか、攻撃を止めると着弾点周辺の口らしき器官をぐわっと開いた。
魔力が集合し、魔法陣が無数に描かれる。『結界』の展開は瞭然だった。
――確かに『結界』は賢明だ。
あらゆる物理干渉を防御し、純粋な魔力を微量だが消耗させる。相応の枚数があれば消滅さえも難くない。
――だが……せめて、脳は残しておいたほうがよかったぞ?
水晶が淡く輝いた。
荒い肉体の再生だった。高速だが、肉体の再現度がかなり低い。
もし、腕の怪我をそのまま放置していたら、心臓や脳にでも再現されて惨事になっていただろう。
だが、ナナシの勇気が、この荒療治を可能にした。
……完全にヒトの身となったスケイルに欠けていたのは、やはり右腕であった。
不恰好だが左手でしっかりと母なる海の杖を握り締め、怨敵をしかと睨み付ける。
――お前に脳があったら、俺だったら、きっと、その内一枚は……
スケイルは一呼吸すると、杖が暴発するギリギリの魔力を集約させた。
かなり消耗した魔力の竜は突然の強大な魔力の出現に容易に反応し、杖を包むように集合する。
そして……『その魔力ごと』術式展開。
――きっと、『反射』にしていたと思うぜ。
神の目に映ったのは、なんだったろう。
意味を持った魔力は、『結界』になんの影響を受けることもなく貫通した。
彼女は祈りのように、彼を打ち砕くモノの名をつぶやいた。
「……『雷、光』」
膨大な魔力が雷に変換され、熱と光が全てを飲み込んで――
――全ては、白く染まった。

27帰ってきたスケイル幻想譚:2006/08/15(火) 20:24:23 ID:BXF0vllc
至近距離で全てを受けたスケイルはぼろぼろだった。
すがるものがあれば立ち上がることならできたろうが、生憎すがるものがなかった。
……そう、すがれるものは、もう粉々だった。
内なる魔力だけを使用した剣と違い、外部の魔力も回収した杖は限界を突破したらしい。
だが、今となっては、粉々だろうと健在だろうと、彼女らには必要のないものだった。
未だに目は満足に機能していない。だが、地面の振動を感じないということは――
「やりました……か?」
『砂煙で俺にも見えないが……動きはない』
「そうですか……あ、はは」
最後の力も抜け、ぐったりと彼女は地に伏した。
だが、それは彼女が最も望んだ……安堵によるものだった。
「ナナシ様」
『ん……』
スケイルは、なんとなく、今伝えなければならないと思った。
……いや、違う。伝わっている。わかっている。
これは確認だ。これは誓いだ。誰だって相応の場で、わかりきったことを、第三者から誓わされるだろう?
「……ずっと、私と」
あと、もう少し。もう少しで、私たちは――

「……甘いわ、小娘」

――え?
不相応な声だった。ありえない声だった。
スケイルの身体は衝撃と共に宙を舞い、やがて無様に墜落する。
「かは……っ! な、な、げほっ、なんでっ!?」
気管に雪が入り噎せ返っても、彼女はそう叫ばずにいられなかった。
確かに、間違いなく、この手で打ち砕いたはずなのに――
足りなかった? バカな! 伝説の武器が砕けるほどの一撃なのに!?
だが彼は、そんな焦る彼女と対照的に、冷静だった。
「まあ、聞け、な?」
「……なんで」
くく、と神は嗤った。
「まあ、なんだ。カラクリなんて言ってしまえば簡単だ」
それっきり、神はただにやにやと笑みを浮かべるだけで押し黙った。
……挑発か、違うのか。どちらにせよ、不快ではあった。
ふと、神が、なんだ、おかしいと気づいた。
さっきまでは、確かに醜悪な肉の塊だった。だが今の彼は、どう見ても、普通の竜人の姿だった。
結晶を一つだけ残していた? いや、違う。感触でわかる。
そして彼女は、神の足元に展開された術式の魔法陣を目にすることになる。
これは。
彼女は全てを悟った。神もそれを悟った。だから、いっそう嗤った。
「お前と同じだ。いや、一枚上手になったか……どちらにせよ、幸運だったな」
それは。彼女も使った、ある術式。
「……『再生』」
「ご名答、くくくくくくくくっ……」
強固な意志が、全てを砕くと、全てに打ち勝つと、信じていたのに。
神のほうが、神の生きたいという汚い願いのほうが、純粋で強固だったのだ――

28名無しのウ○コさん:2007/02/17(土) 04:14:30 ID:062sbQ.U
期待したら書いてくれそうだから期待

29とうりすがり:2008/05/25(日) 11:04:23 ID:CVf5CZsA
期待してます

30名無しのウ○コさん:2008/05/25(日) 13:04:26 ID:Mp5UXqF2
期待しても書き手が見てない可能性大だな

31名無しのウ○コさん:2009/05/08(金) 14:10:00 ID:PzBGcT36
気体あげ


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