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小説スレ
19
:
スケイル幻想譚
:2005/12/11(日) 05:45:34 ID:9CvTpzGU
衝撃で、大量の砂塵が一面に舞っていた。
この曇天の下、砂埃の中はまったくの闇である。
肉体構成の際限界まで高めておいた神の視力でさえ、何人の姿も見出せなかった。
血の気が抜けて澄んだ眼を細め、神はじっと砂塵の向こうを見つめる。
――手ごたえは確かにあった。
だがなんと言えばいいだろうか……臭いのだ。
完全に不意はついたと言え、元神すら打ち砕いた油断ならぬ相手である。
この戦、『詰み』では温い。もう一手……王将を奪わねばならない。
神は息を殺し、ゆっくりと砂塵の裏へ周った。
このイーブンの状態が破られるまでに、どこまで有利になれるかで、戦況の総てが決まる。
――これならば、いくら奴と言えども……
事態の順調な好転に、神は自然と暗い笑みを浮かべていた。
首の頚動脈を狙いに据えて構えた鉤爪を、無意識に紅い舌でなめずる。
……雪がゆっくりと、だが確実に、砂埃を地面に落としていた。
コンマ一秒の遅れも取るわけにはいかない。
そしてとうとう――
どくん、と心音が一際跳ねる。
均衡が――
脳内麻薬の分泌が、極限の神経状態で手に取るようにわかる。
――破られた。
闇の向こうで、微かに蠢く影。
それを視認した途端、神は視神経を超え、脊髄で反応していた。
「――――っ!」
受身も思考も、呼吸すらも止まった、捨て身の一撃。
本能の危険信号すら無視したその一撃は、刹那だが音速を超えた。
衝撃波の奔流が、斜線上にあった腕の鱗を削ぎ飛ばす。
さらに、迸る衝撃波が、垂れ流されて吹き荒ぶ魔力を絡み取った途端――
相反する二つの力は渾然一体化、究極の破壊力として融合を遂げた。
砂塵、地面、雪、大気……直線上に存在する物質は例外なくその渦に呑まれ、一本の槍と化す。
その先にあるは、未だ気づかぬのか微動だにしない、憎き黒い影!
「殺っ……たぞぉおおおぉお人間がああぁああぁああああぁあっ!」
硬い物を砕いた指先の感触を確かに味わい、その歓喜に神は幼子の如く叫んだ。
大声で嗤いながらベクトルに従い、薄く積もった雪の上を前屈のままバウンドする。
受身を取ろうとして、神は地面を捉える物が何もないことにようやく気づいた。
――どうやら、衝撃波は思った以上に我が身を蝕んだらしいな。
神自身の目では残りの腕の遺失しか見えないが、きっとそこらじゅう生傷だらけに違いない。
しばらく跳ね回った後、ようやくその肉体は完全に静止した。
あまりに大声で嗤い続け過ぎて、酷使された肺がずきずきと痛む。
だが、腕を失った痛みも、肺の痛みも、今や神には快楽しか生まない。
――さて、最後の仕上げと行こうか。
ひくひくと頬の筋肉を痙攣させながら、神は両足で身体を起こした。
ぐずぐずしていると、いつ水晶が蘇生分の力を取り戻すかもわからない。
もう邪魔が入ることもなかろう。……入ったところで、今の神を食い止められるはずもないが。
さて、何処に水晶が吹っ飛んだのだろうか?
悠々と辺りを見回し……ずたずたになったマントが目に入る。
単純に考えれば、衝撃波を避けるためとは言え水晶を手放したなんてことは無いだろう。
おそらく、決死の思いで水晶を守ろうと、最後まで身を盾にしたと思われる。
まあ、それも無駄な努力であったが……そう思うだけで、忍び笑いが絶えず口から漏れた。
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