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小説スレ
24
:
雷光
:2006/01/25(水) 07:06:55 ID:VQUGg4kU
……一瞬の判断と感覚だった。
ナナシは剣を掲げると、剣の魔力を一気に解放した。
『波動』はその魔力に釣られ、軽くベクトルを上方へ――即ち、かろうじて掠る程度までずらされる。
すぐさま魔力を止めると、ナナシは峰が自分を向くよう剣を眼前に構え、衝撃波の着弾と同時に後方へ跳ねた。
刹那に全身を襲う破壊の衝撃。
ミシミシと嫌な音が響いたが剣か自分の骨かすら判断する暇もなく、エネルギーに煽られ吹き飛ばされた。
――一瞬の辛抱だ……っ!
全身を襲う衝撃を右腕と剣の峰だけで食い止めながら、それだけを心中に留め続ける。
……ナナシは術式展開を視認してすぐ、とにかく離脱することを念頭に置いた。
例え紙一重で直撃を回避したとしても、致命傷は免れないだろう。
さらに『反射』のミラーハウスの中、何度もそんな回避が続くとも思えない。
ならば、一撃貰ってでも『反射』から逃れさえすれば――
突如、全身を襲う衝撃波が止んだ。
空中で姿勢を正し神の方を見ると。薄いオーロラのような膜が間にあるのが見える。
――突破……した!
安堵して両足を地面に着けたがベクトルは大して失われず、直立姿勢のまま後方へ滑ってゆく。
2、30mも地面を直線に抉って、ナナシはようやく一息つけた。
――直撃でなくてコレかよ……
自虐的な笑みを浮かべながら、自分の満身創痍な身を見た。
両脚はすっかり痺れ、体重を支えるのもやっとなほどがくがくと震えている。
さらに衝撃をまともに受けた剣と右腕に至っては――
「……はは、伝説の剣にヒビいれてやがる」
亀裂というほど大きなモノではないが、これ以上の酷使はできないであろう小さなヒビが至るところに奔っている。
魔力的にも物理的にも強固な剣がこのありさまだ。
だから右腕は意識できなかった。したくもなかった。
……右腕は持ち主の言うことも聞かず、ただぶらぶらと力なく垂れ下がっていた。
『ナ、ナナシ様ぁっ!』
スケイルが悲壮な声で叫ぶ。
だがナナシは笑って、片手で彼女を制した。
「代わっちゃ……ダメだ」
『でも、ナナシ様一人じゃこれ以上は――っ!』
だがナナシは無言でかぶりを振る。
「……今俺たちは、魔力を物質に強制的に変換して物理的干渉力を得ている」
ずるりと汗で剣が抜け、地面に墓標のごとくつっ刺さった。
「この状態で変換すれば、損傷がどういう形で再変換されるかわからない」
『そんな……』
スケイルの状態でこの傷を負っていれば、『雨癒』で回復できたろうに。
再変換時この傷がちゃんと『腕のまま』であるか確信が持てない以上、そうやすやすと変換ができなかった。
ふっと笑みを失い、ナナシはゆっくりと地に腰を下ろす。
神はといえば、相変わらず反射の壁に包まれたままじっとしていた。
――持久戦に持ち込む気か……
相手の目的は人類淘汰術式展開までの時間稼ぎ。
運動能力など必要なく、ただ自らを防御する手段にだけ完全を求めればよい。
――考えろ。
傷の部分さえ変換しなければ何とかなるのではないか?
いや、損傷が複雑すぎる。もう少し単純だったり微細だったならできるだろうが……
それに、傷をどうにかしても、あの防御体制を突き破れるのか?
対魔法障壁『反射』、対物理干渉障壁『結界』の二重防御幕。
魔法ならば『反射』内に入れば無問題だが、『雷光』では致命傷に至らないし自分の身の防御も疎かになる。
放ってすぐ離脱できるか、一撃で砕けない限り、身を晒してまで攻撃するのは蛮勇に過ぎない――
「……つまりだ」
――魔法的干渉で、相手を完膚なきまでに粉砕する威力を生めばよい。
ただし、失敗すれば間違いなく敵の術式をモロに浴びることになる。諸刃の賭けだ。
成功の保証はなく、逆に精密さを要するこの理論では成功率すら怪しいものだ。
ナナシは生きている左の手で剣を拾い上げた。
そして器用にくるりと回転させ、切っ先を自らに向ける。
『ナナシ様っ!? 何を……』
「……っ!」
来るであろう激痛に供え、ナナシは固く歯を食いしばった。
そして切っ先を思いっきり右腕の付け根に突き刺す!
「ぐぅぉお……」
――この程度の痛み、スケイルの受けた苦痛と比べれば微々たるものだナナシぃっ!
そのまま切っ先を抉るように回転させ、全力で腕の肉を引きちぎった。
心臓に近いゆえ、鮮血と内出血が混ざり合って一気に噴出す。
ナナシは肩口を思いっきり左手で握り締めると、小さく術式を展開した。
「『火炎』っ!」
熱を帯びた手のひらで傷を押さえつけるたび、猛烈な痛覚が責め立てる。
だが気合だけでそれを噛み殺すと、頃合を見てナナシはゆっくりと手を離した。
傷口はすっかり焼け爛れてしまったが、とにかく出血は止まっている――
「さて……一世一代最後の華と行きますか」
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