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小説スレ

26帰ってきたスケイル幻想譚:2006/08/15(火) 20:22:32 ID:BXF0vllc
ナナシは駆ける。
剣を左手に、我が身を抱くように構えて。
ナナシは見つめる。
醜悪な姿に堕ちた怨敵を。
極限まで研ぎ澄まされた感覚は、ナナシをヒトを超えた境地に至らせた。
――無生物と生物の、魔力のリンク。
今、彼には剣の魔力の一滴一切すらを、己の肉体の如く理解し、繰ることができた。
魔力を暴発しない、だが最大の威力を保持したまま圧縮し、弦のごとく絞る。
やがて、自らの魔力と剣の魔力が完全に同調したその刹那。
「……今だッ!」
彼は全てを解放した。
魔力は一筋となり、だが荒々しく暴れ、まさに竜の如く直進する。まるで主の意思のように。
『反射』は魔力でなく、魔法に編みこまれた式に反応して作用する術式だ。
やすやすと魔力は壁を突破し、同時に自らの身体も堪えきれず『反射』に突っ込む。
だが彼は怯まない。少し身をかがめると、万分の機を常軌を逸した精神で捉えた。
「スケイルッ! あとはまかせたァッ!」
咆哮と同時に、肉体の崩壊。魔力の竜の尾の軌跡ぴったりに、水晶だけが空を舞う。
『はいっ!』
スケイルは彼に何の疑い、何の不安も感じず、ただ頷き、自らの使命を全うする。
今の彼らに障害は微塵も無い。あるのは互いの鉄壁の信頼、ただそれだけ――
やがて、神から反撃の波動が無数に放たれた。
だが、強力な魔力は避雷針のように全てを集合させる。魔力に魔力が当たっても、多少威力が落ちるだけだ。
着弾まであと少し、肉体に戻るタイミングはシビアだが……大丈夫だ!
神もさすがに危険を感じたのか、攻撃を止めると着弾点周辺の口らしき器官をぐわっと開いた。
魔力が集合し、魔法陣が無数に描かれる。『結界』の展開は瞭然だった。
――確かに『結界』は賢明だ。
あらゆる物理干渉を防御し、純粋な魔力を微量だが消耗させる。相応の枚数があれば消滅さえも難くない。
――だが……せめて、脳は残しておいたほうがよかったぞ?
水晶が淡く輝いた。
荒い肉体の再生だった。高速だが、肉体の再現度がかなり低い。
もし、腕の怪我をそのまま放置していたら、心臓や脳にでも再現されて惨事になっていただろう。
だが、ナナシの勇気が、この荒療治を可能にした。
……完全にヒトの身となったスケイルに欠けていたのは、やはり右腕であった。
不恰好だが左手でしっかりと母なる海の杖を握り締め、怨敵をしかと睨み付ける。
――お前に脳があったら、俺だったら、きっと、その内一枚は……
スケイルは一呼吸すると、杖が暴発するギリギリの魔力を集約させた。
かなり消耗した魔力の竜は突然の強大な魔力の出現に容易に反応し、杖を包むように集合する。
そして……『その魔力ごと』術式展開。
――きっと、『反射』にしていたと思うぜ。
神の目に映ったのは、なんだったろう。
意味を持った魔力は、『結界』になんの影響を受けることもなく貫通した。
彼女は祈りのように、彼を打ち砕くモノの名をつぶやいた。
「……『雷、光』」
膨大な魔力が雷に変換され、熱と光が全てを飲み込んで――
――全ては、白く染まった。


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