したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

小説スレ

17零時:2005/07/20(水) 00:35:58 ID:j.dRP/JQ
鋭く重い刃が、肩口に突き刺さる感触。
やや収まりの色を見せつつも、なお耳に煩い雨音の中で――それでも。
ぐぷり、という音を、ナナシは確かに聞いた。

ぐぷり。
ず、ぅ。
ざく。

未だ魔王の足に踏みつけられたままの右腕が、肩口から切り落とされた。
「――ッ!?」
この行動は予想の埒外に有ったのであろう、驚愕に魔王の表情が変わる。
それと同時に、思考に一瞬の空白……それを見逃さず、踏みつけられた右腕を残し、
引き換えに行動の自由を得たナナシはすかさず立ち上がった。
遅れてやってきた激痛をしかし意に介することなく、残された左腕で剣を握り。
溢れ出す血液の熱さと、それに反して冷えていく体になど欠片も意識を振らず。
左手に握り締めたイーグルブレイドを、振り上げた。
「――あの子はッ……」
ナナシの口から、言葉が漏れた。

白刃が天へと振りかざされる。

――あの子は、さよならって言ったんだ……!

左腕一本に満身の力を篭めて、振り下ろす。

――今夜を、さよならになんてしない!

「無駄だッ……その程度の武器で!」
魔王が刃を防ぐように右腕を差し上げる。
その腕を覆うように、薄っすらと青白い光が浮かび上がった。
結界。
振り下ろした刃が、その光に押し留められる。
「――――ッ!」
直前の一撃と、同様に。
刃を振り下ろさんとする筋肉そのものが、進むことを。

拒否、するかのごとく………

「うあぁぁぁぁあああッッ!!!」

刃が。

進んだ。

青白い結界の光を、貫いて。

魔王の右腕を覆う固い鱗を、切り裂いて。

その腕を、満身の力で切り飛ばし。

身に纏った鎧に、食い込み。

断ち切って。



―――そこまで、だった。

……魔王の右腕と、ナナシの体が、同時に大地へと落下した。
ぬかるんだ土が、重い水音と軽い水音をひとつずつ、奏でる。
「か、ぁっ……!」
ナナシと同様に右腕を切り飛ばされた魔王が、苦悶に顔を引きつらせながら笑みを浮かべた。
「やって……くれるッ!」
倒れ伏したナナシは、そのままぴくりとも動かない。
ただ、直前まで右腕が繋がっていた傷口から、血液だけが溢れ出している。
「まさか、そこまでの覚悟を……見せる、とはな……」
驚きと苦痛から僅かに息を荒げながらも、魔王は楽しげに言葉を続ける。
傷口を抑えて握り絞め、簡単な血止めを行う。
「だが、私の、勝ちだ」
もはや命の灯火すらも燃え尽きようとしているナナシを見下ろし、魔王は歩を進め始めた。
「予定は、狂わない。あの街は……もはや、誰にも護られない」
身動きひとつ取れないナナシの耳に、その言葉と雨音だけが降り注いでくる。
「――お前の、負けだ」
……その言葉を最後に、魔王はゆっくりとシイルへの道を歩んでいった。

――負け、なの?
――もう。
――さよなら、なの?
――動け。
――動け……
――――。
――だめ。
――血が、流れすぎてる。
――ウリユ……
――ごめん、なさい。
――護れ、なかった。
――まだ、話したいことがあるのに。
――まだ、聞きたいことがあるのに。
――お守り、できたのかな。
――あの子のお守り、欲しかったのに。

――ごめん―――







「清らかなる生命の風よ―――失いし力とならん」

「『治癒』」

体が、軽くなった。
その場に落ちていた自らの右腕が、ゆっくりと肩に引き戻される。
暖かい感覚が、天から降り注いでくる。
その感覚が体に落ちるたび、失われた血液、意思、力が、戻ってくる。

「何……て…………た……………よ……」



「何やってんだまったくオメェはよ!!」


再び開けた視界に、男がひとり、立ちはだかっていた。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板