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小説スレ

13零時:2005/06/22(水) 19:57:16 ID:GEJzkIjs
「我が内に流れる理の力よ、猛りてその威を知らしめよ」
抑揚のない静かな詠唱とともに、魔王の右手が緩やかな動きでもってナナシの胸に添えられた。
「『波動』」


衝撃。

「――――ッッ!!?」
ナナシの胸に、巨大な鉄槌で殴られたような衝撃が突き刺さった。
剣を振り下ろした直後の不安定な姿勢のまま、その体が木の葉のように吹き飛ぶ。
一撃で意識をもぎ取られかけたナナシは、それでも何とか空中で姿勢を整えようとするが、
胸に走った激痛に注意を奪い去られ、ろくに受身も取れないまま地面に背中から落着した。
「っか……は……!」
息が詰まる。
雨にぬかるんで柔らかくなった地面は、それでも衝撃の幾分かを吸収してくれた。
しかし、ナナシは手に持った剣をその場に取り落とし、胸を抑えて苦しみにもがく。
その姿を、ゆっくりとした足取りで近づきながら魔王が冷然と見下ろしている。
「ふん……そんな玩具で、私の結界を抜けるとでも思ったのかな」
呟くようにナナシへと落とした言葉は、嘲りの色をたっぷりと含んだ声色であった。
「………ッ……」
苦痛に喘ぎながら、それでもナナシは己を見下ろす強大な敵へと鋭い視線をたたきつけていた。
意識が遠のきかけては激痛に引き戻され、ほんの数瞬の周期で痛みが襲ってくる。
だが、ナナシはなおも瞳に力を宿して魔王を睨みつけていた。
「……まだ、そんな目ができるのか」
己の剣が通用しないという絶望と、圧倒的な力量の差。
それを見せ付けてもなお諦めることの無いナナシを見下ろし、魔王は不機嫌に鼻を鳴らした。
目下のナナシは、乱れた呼吸を整えながら激痛をコントロールし、取り落とした剣を再び握ろうとしている。
「諦めの悪い女だ……まだ、抵抗できると思っているのか」
イーグルブレイドを探り、引き寄せようとするナナシの右腕に、魔王の足が襲い掛かった。
しなやかな右腕にこれも巨大な足がのしかかり、ぎり、と力が篭められる。

べきり。

「ぁ―――ッ!」

腕の骨が二つに折られる、乾いた音。
次いで襲い掛かる激痛と、焼けるような熱。
耐えるには大きすぎる苦痛に、唇を食いしばって叫び声を上げることだけは拒む。
それでも、無意識のうちに流れる苦痛の涙を止めることは出来ず、雨に混じって両の瞳から零れ落ちていく。
溢れる涙に歪み、視界がぼやけて魔王の姿が滲んだ。
「そうだ、その表情だ」
満足げな声が、頭上から降ってくる。
踏みおられて関節が一つ増えたかのようにぶらりと不自然な位置に曲がった腕をこのうえに踏みにじられ、激痛がさらに増す。
「お前のような強い女が、涙を流しながら痛みにもがく姿は……実に滑稽で、見ごたえがある」
サディスティックな笑みを浮かべ、魔王はぐいぐいと足に力を篭めてナナシへさらなる激痛を加えていく。
「だが……なぜだ」

「何故……泣かぬ。叫ばぬ」
唇を噛み締めて、ナナシは耐えていた。
噛み締めた唇から血が流れ、雨に流されて端正な顎を汚す。
涙で目前を滲ませながら、それでもナナシは、悲鳴だけはあげなかった。
「何故、命を乞わぬ。何故……耐える!」
激昂するように、魔王が声を荒げた。
圧倒的な優位。
絶え間なく与えつづける、気が狂わんばかりの激痛。
しかし。
「何故……そんな目ができる!」
ナナシの瞳は、なおも。
強い意志を篭めて。

坂の上に立ちはだかっていた時と全く変わらない鋭さで、魔王を見上げていた。

「応えろッ!!」
炸裂するような怒気を篭めて魔王がそう叫んだとき、ナナシが動いた。
右腕を踏みつけられ、ろくに身動きも取れない状態で……しかし、左腕が素早く動く。
その腕は、先ほど右腕が追ったイーグルブレイドを目にもとまらぬ速さで掴み取る。
反応が追いついた魔王が、その抵抗を激痛で忘れさせてやろうと言わんばかりに、折れた右腕を踏みにじる。

激痛。

しかし、ナナシはなおも瞳に光を宿し、魔王を見上げて。

叫んだ。

「負けられないからだッ!!」

左手が固く掴み取ったイーグルブレイドが、ナナシの右腕を肘から斬り飛ばした。


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