[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
| |
小説スレ
22
:
スケイル幻想譚
:2005/12/23(金) 19:26:04 ID:1aLnpToQ
生命を失った肉体は、どさっ、と重力に引かれるまま崩れ落ちた。
やがて組織の崩壊が始まり、砂となって風に流されてゆく。
ナナシは一連の死を見届けると、急に顔中に吹き出た冷や汗を拭い取った。
――さっきのは、流石にヤバかった。
ここまで無傷で凌いだものの、精神的な磨耗は並々ならないほどナナシを蝕んでいた。
全力疾走の直後のように大量の血を送り続ける心臓を、服の上から鷲掴みして落ち着ける。
一旦深く息を吐き出すと、未だ脈動を続ける赤黒い肉片を睨み付けた。
雪は術者の生命を讃えるかのように、まだしんしんと世界を白に染めつくしている。
剣をゆっくりと正眼に構え、神の動向を油断無い眼で伺う。
……実のところ、ナナシは決して優勢ではなかった。
そもそも、ナナシが互角以上に渡り合えたのは、剛力や幻霧、そして剣の魔力の補正が大きい。
ナナシ単体の強さは、相手をかく乱し戦況を有利に導く狡猾さにある。
故に、熱くなりやすい神の単純さを突いた互角以上の衝突を成し遂げたのだ。
だが――先程の『雷光』からの『攻めろ』。
精神を執念で食い尽くしたあの攻撃は、あの打開策無ければ確実に甚大な被害を被ったであろう。
それほどまで、神は戦闘のプロなのだ。
純粋な力と力の衝突だけなら、ナナシを上回って余りある破壊力、戦闘技能を持ち合わせている。
……残る命は一回分。
今度こそ、神はなりふり、自我、生の執着すらも捨てて我が身の滅殺に努めるであろう。
そうなった時、果たして自分は勝てるのだろうか?
――いや。
弱気になった自分の頬を強くひっぱたき、自分に強く言い聞かせる。
――勝てる、じゃない。勝たねばならないんだ。
自分には守るべきものがある。
一度守ったこの世界を、例え自分の住む世界で無いにしろ――守りつくす義理がある。
『ナナシ様……』
「どうしたんだ?」
ふと聞こえた声に振り向くと、トーテム状態になったスケイルが漂っていた。
その瞳に浮かぶ申し訳なさに気づくと、彼女が口を開く前にナナシは呟く。
「……そんな顔するなって。俺が自分で決めたことなんだから」
『でも……』
スケイルはうつむいたまま、ぽつりぽつりと胸中を吐き出す。
『私が……全部きちんと終わらせなきゃいけなかったことなのに……』
『それなのに……ナナシ様ばかりにお手を煩わせて……戦いでもろくにお役に立てなくて』
トーテムは肉体では無いから、涙が流れることはない。
だがナナシは、スケイルが泣いていることに気づいていた。
だからあえて何も言わず、静かにスケイルの吐露に耳を傾ける。
『本当に……神様どころか、ナナシ様のトーテムだって……胸を張って、言えません……』
ひっく、とスケイルの声に嗚咽が混ざる。
――そうか。
スケイルはこの戦いの間、ずっと自分を責めていたんだろう。
自分の行動に何の責任も負えず、挙句他人の力を借りたことに、不甲斐無さを痛感していたんだろう。
ナナシは無言のまま、スケイルをぎゅっと抱きしめた。
一瞬スケイルの身体が強張ったが、無視して更に力を込める。
「……バカ野郎」
耳元で囁く様に、ナナシはゆっくりと告げた。
「自分の身を犠牲にしてでも、神に一人立ち向かったじゃねぇか」
『でも……』
「あんなに血を流して痛くても……四肢を失っても……退かなかったじゃねぇか……」
『……』
ナナシはぐいっとスケイルの顎を持ち上げ、眼と眼を合わせた。
潤んだ瞳の向こうに、自分の顔が左右対称に映っている。
その更に奥――スケイルの何かを見通すかのように見つめたまま、優しくナナシは呟く。
「誇れ。俺が全部赦す。お前の尻拭いだって喜んでしてやる。だってさ……」
ここまで言って、急に気恥ずかしさがこみ上げてきた。
照れ隠しに強く抱き寄せ、顔を見ないように呟く。
「……俺、お前のこと好きだからさ」
しばらく、沈黙が続いた。
どこか遠くて木々がざわめく音、風が吹き抜ける音、自分の心音だけが、やけに耳に残る。
『……ですよ』
「うん?」
スケイルの呟きは、小さすぎて聞こえなかった。
だが、何となくは流石のナナシでも気づいていた。だが、あえて聞き返す。
おずおずと、真っ赤な顔で貴方をスケイルは見上げた。
『卑怯……ですよ。私の台詞だったのに』
「はは、そうか?」
『ですよ……でも』
はにかみながら、スケイルは笑んだ。
それは何の屈託も無い、自然のままの笑みだった。
『私も……そんなナナシ様が……好き……ですから』
――そうだ。
――例え何があろうとも、俺はこいつを守って、こいつと手を取り合って、歩んでいくんだ。
――そう。生きる世界が違おうとも……見上げる星空は同じように。
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板