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小説スレ
8
:
零時
:2005/06/18(土) 00:23:05 ID:QLUXwqa.
跳ね飛ばされた三つの首が、雨に侵された地面へ落ちて重い音を立てた。
六人の同朋を失った魔王は、しかし無感情にその亡骸を見下ろす。
「ほう………」
呟かれた声は、感嘆の色に染められていた。
そこには、同朋を奪われた悲しみや憎悪、怒りの感情はまるで見受けられない。
むしろ、今現在の状況を楽しんでいるような……そんな声音ですら、あった。
「……そうか、思い出したぞ」
ぬかるんだ地面をしっかりと踏みしめ、剣を構えた姿勢のまま自らを見据えるナナシに、
低く腹の底に響くような声が声が届く。
「我らの砦を落としたのは、貴様だな」
くつくつと、小さく笑い声を漏らす姿はどうみても演技ではない。
思わぬ強敵の登場を、楽しんでいる。
「紺色の外套を纏い、人ならざる力を振るう女……か。面白いな。実に面白い、ぞ」
ナナシは変わらず、剣を構えた姿勢のままにそこから動かない。
笑みを浮かべ、言葉を飛ばしながらも……その皮膚から、発散される空気が、ナナシに油断を許さないのである。
殺気……それも、途方も無く濃密で、圧倒的な質量をもった殺気であった。
二人の間にはまだ距離が残されているが、その距離すらも今のナナシには薄皮一枚の防壁とすら感じられなかった。
―――強い。
――途轍も無く、強い。
肌に突き刺さる異様な感覚から、ナナシはそれをひしひしと実感していた。
六人の竜人と相対していたときには、こんな感覚を覚えることは無かった。
目前の魔王は……力を、解放しようとしているのだ。
「だが……」
ゆらり、と魔王の体が揺れた。
歩みを進めているのである。
悠然と、散歩にでも赴いているかのような、実に危なげの無い、警戒の色すら見受けられない、無防備な歩み。
隙だらけだ。
どこに打ち込んでも刃はその部位に深々と食い込むだろう。
どこを打つ?
どこに打ち込む?
「その命運も……ここで、終わりだ」
歩む。
歩む。
歩む。
泰然と、悠然と、しかし確実に、ナナシへと向けて歩が進む。
間合いは遅々と、しかし着実に、ナナシへと向けて縮まっていく。
ナナシの頬を、雨滴とは違うものが伝った。
恐ろしいほど濃密なプレッシャーに、冷たい汗を禁じえないのだ。
「絶望と……己の無力を、味わいながら」
ナナシの握るイーグルブレイドの切っ先が、揺れた。
焦れている。
どんな敵に対しても、常に冷静に戦闘を組み立ててきたナナシには、有り得ないことであった。
さらに、歩みは進み……剣の間合いに、踏み入った。
「……死ぬがいい」
「――――――ッッ!!!」
ナナシの脚が、ぬかるんだ大地を蹴った。
白刃が、常人では有り得ないほどの速度でもって閃いた。
目標は、魔王の頭部。
一撃で勝負を決そうとするかのような凄まじい太刀筋。
魔王は、微動だにしない。
反応できていない。
――――当たる。
当たる!
衝撃。
切っ先が、肉に食い込む衝撃が、確かに剣を握る腕に伝わって―――
衝撃?
来ない。
「……可愛い玩具を、振り回しているな?」
嘲るような魔王の声が、降って来た。
確かに、ナナシの刃は魔王の頭部をしっかりと捉えている。
否……捉えている、ように見える。
実際には、両者の間にはほんの僅かな空隙があった。
その空隙を満たすように、薄っすらと青白い光が浮かび上がっているのを、ナナシはようやく理解した。
その光自体には、質量も刃を受け止めるだけの防御力も見受けられない。
しかし、その光から先に……刃が、進まない。
まるで腕の筋肉全てが、その光から先に進むことを拒否してしまっているかのように。
(―――――これが、結界!)
賢者サリムの別荘に無造作に置かれていた書物に記されていた文章が、ナナシの脳裏にフラッシュバックした。
全ての力を防ぐ、絶対の防御結界。
目前の魔王が張り巡らせているのは、まさにそれであった。
そして、理解したときには遅かった。
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