したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が900を超えています。1000を超えると投稿できなくなるよ。

【失敗】廃棄小説投下スレッド【放棄】

1名無しさん:2004/11/27(土) 03:12
コソーリ書いてはみたものの、様々な理由により途中放棄された小説を投下するスレ。

ストーリーなどが矛盾してしまった・話が途切れ途切れで繋がらない・
気づけば文が危ない方向へ・もうとにかく続きが書けない…等。
捨ててしまうのはもったいない気がする。しかし本スレに投下するのはチョト気が引ける。
そんな人のためのスレッドです。

・もしかしたら続きを書くかも、修正してうpするかもという人はその旨を
・使いたい!または使えそう!なネタが捨ててあったら交渉してみよう。
・人によって嫌悪感を起こさせるようなものは前もって警告すること。

271名無しさん:2005/08/09(火) 17:32:02
南海ほのぼのしてて素敵ですね。
山ちゃんモンスター系かw

272263:2005/08/11(木) 19:26:11
>>269
できるだけマターリ、を目指してたんでそう言ってもらえて嬉しいですv
>>270-271
そこに気付いてくれて㌧クスですw

実は南海話の書き手さんの連載が終わったらその後の話として
書きなおして本スレに投下したいと考えてたんですが、自分で
読み返してみると恥ずかしすぎて無理なことに気がつきorz
いつか上達したら実際に参加してみたいです。

感想ありがとうございました。

273けふえーる ◆J5DaNPfmbA:2005/08/11(木) 23:43:18
はじめまして。
けふえーると申します。
山里氏ほんわかな小説の後で申し訳ないのですが、わたくしめも駄文ながら投稿したい次第でありまして。
しかし添削スレッドに投稿する勇気が無いのと、ジャンルも外れていると思いますので、ここに投下致します。
しかしビビッてまだ胃がきりきり痛みます。コワイヨー

274黒と白 -芳香-  ◆J5DaNPfmbA:2005/08/11(木) 23:46:19
まあやは言いました。
『 いいにおいがする』と。
そうするとかみをくくった女の人が、いいました。
『わたし、こう水つけてないよ』
『そうじゃないのです。』
まあやはそう言ったきり、なにも言いませんでした。
女の人が、まあやにききました。
『ねえ、この石はなあに』
そう女の人がきいたので、まあやはにんまりとして、とくい気にこういいました。
『つかいかたは すぐに、わかります』、と。

―――たどたどしい文字と、その文字に想像される年齢の割に大人びた文章。
そして端にちびた色鉛筆を力いっぱい握り締めて線を書かれた、
緑の地に黒い線が入った丸。
「…かわいいな。…小説、なのかな。」
この原稿用紙を飛んできた方向の家に、きれいな4つ折りにして、そっとポストに押した。

ブラックアンドホワイト フレグランス


「…あなたのお名前は、まあやっていうの?」
ずっと沈んでいたはずの文字が、突然脳裏に浮かんで、無意識のうちに口をついて出て、即座にはたと唇を両の掌で押さえたが、すでに言葉は出きった後だった。

「…ごめん。ちが…」
「そうですよ」
いとうが言葉を続けようとした時、子供がにんまりと唇の端々を吊り上げて笑って、妙に大人びた物言いで言った。
「よく分かりましたね」
吊り上げた唇から小さな笑い声が洩れて、ふふと嘲笑じみた声が聞こえた。

―――まあやが突然吊り上げた唇を下ろして黙り込んだ。
「…いいにおいがする。」
先ほどとは明らかに違う様子で、子供がごねるように言って、いとうのほうを見上げた。
「私、香水付けてないよ」
「…そうじゃないのです。」
きっとそういうことではないのです、と、言いたかったのであろうまあやは、言い終わった後に頬をぷくとふくらませた。
「…この石はなあに」
いとうがそういった瞬間、まあやは膨らませた頬の空気を抜いて、ふふんとまた得意気に笑った。
「使い方は、すぐに、わかります。」
―――――――――――――――――――
一旦ここで区切りを入れさせて頂きます。
どうもはじめまして。
とても緊張シテイマス。
たまにコピペシテ抜かしているところもあるので、抜けているところがあればご指摘よろしくお願いします。
あと、お分かりでしょうがいとうさんはいとうあさこさんの方です。

275けふえーる ◆J5DaNPfmbA:2005/08/11(木) 23:49:30
ああ申し訳ございません
誤字がふたつも(汁)
とても緊張シテイマス→とても緊張しています
コピペシテ→コピペして
です。
本当に申し訳ございません。

276名無しさん:2005/08/12(金) 00:20:25
>けふ氏
内容はいい。凄いいい。
・・・でも、主役のコンビがワカンネ

277名無しさん:2005/08/12(金) 09:27:47
>けふえーるさん
おお、何だか今までになかった感じ。謎の子供が気になる。
いとうさんで来たのも何か好き。がんがってください。

278けふえーる ◆J5DaNPfmbA:2005/08/12(金) 11:08:50
ご、ご感想をさっそくありがとうございます。
>>276さま
いとうあさこさんで、コンビではなくピン芸人の方です。
>>277さま
それは私が変わり者ということでしょうか?
それはともかくがんがります。

えー続き投下致します。
稚拙なところはなにとぞご勘弁を。

279黒と白 -芳香- ◆J5DaNPfmbA:2005/08/12(金) 11:13:33

ブラックアンドホワイト フレグランス 2 

「…?…この石に使い方なんてあるの?」
いとうがそう聞いて、握っていた手を開いて緑色の石を見せると、まあやはこくりと頷いて、また話すためにいとうの目を見た。
「この石は、力があるんです。正しい方法で使えば、いざとなったとき護ってくれます。」
「…どういうこと?」
力と護ってくれるがひっかかったらしく、
「私はそれだけしか分からないです。」
「…わかんないなあ」
「要は自分で考えてくださいってことです。」
「…うん。」
いとうの言葉を完全に遮って、なかば強制的に石の話を終わらせると、まあやはそのまま黙り込んだ。
――――――――――――――
ど、どうも小説投下です。
とりあえずここで…。
ただいま続きを考え中です。
すすいませんすいません

280名無しさん:2005/08/12(金) 11:54:36
早!次回も楽しみにしてます。
いいストーリーなので、そんなにあやまんなくていいです。
本スレ投下時に「文はいいけどコメントウザス」とか書かれないように気をつけて
がんがってください!

281黒と白 -芳香- ◆J5DaNPfmbA:2005/08/12(金) 12:22:50
>>280さま
どうもありがとうございます。
根が小心なので多々謝ってしまうと思いますが…
これからはほどほどにしていこうと思います。
とりあえず段落終わりのすいませんコメントはとめます。

282280:2005/08/12(金) 15:03:22
こんなに面白い文章を書いておられるのに、
厨扱いになりでもしたらもったいないので、ぜひほどほどで。
今後の展開も楽しみにしております!

283黒と白 -芳香- ◆J5DaNPfmbA:2005/08/13(土) 15:02:02

ブラックアンドホワイト フレグランス 3 


しばしの沈黙のあと、まあやが再び口を開いた。
「この石を、どんなときも離さないでください。もし危険にさらされたら。この石に祈ってください。きっと護ってくれますから。」
そう言ってまあやはぺこりとお辞儀をするとそのまま何処かに行って、その背中を見送ったいとうはそこに残されてぼやと突っ立っていた。
「…あ。いけない。行かないと。早く。」
いとうがそう口に出して、突っ立てていた身体を動かした。

*

『次長課長 井上様 河本様』と乱雑な文字で書かれた紙が貼られて、汚い字、などと思いながらいとうはその紙に視線を寄せた。
「どしたんですか。」
うしろで特徴のある声が聴こえて振り返ると、そこに小さな男がひとり立っていた。
「うわぁっ」
「あ、いとうさん…ですか。」
驚いて小さく悲鳴を上げたいとうに向けて河本が細い声で言い、その後にいとうが向いていた視線の方向を見た。
「また何でこんなの見てたんですか?」
「…いや、汚い字だなぁって思って。すいません。」
不思議そうに河本がいとうを見ると、いとうが先ほどの河本よりもか細く小さな声で、言葉を押し出すように言った。



「…わたし、ちっちゃい女の子から綺麗な石もらったんですよ。」
少しの間黙っていたいとうが唐突に切り出して、ジーンズのポケットから石を取り出し、掌の窪みに石を置いた。
「へえ。綺麗ですね。石の名前はわかります?」
「生憎わからなくって。」
「…そうなんですか。それ―――」
「…あ、すいません、!もう行かないと!」
河本がもうひとつ言葉を続けようとしたとき、遠くでいとうを呼ぶスタッフの大きな声が聞こえて、いとうは河本の言葉を聞かぬまま、小走りで河本の元を去った。
「…トラピッチェエメラルドですよ、って言おうとしたんだけどなぁ。」
河本が続けようとした言葉を呟いたとき、もう去っていったいとうにその声は届いておらず、スニーカーを履いて急ぎ足で歩く、自らの足音だけが聞こえていた。
――――――――――――――――――――――
ブラホワフレグランス・石とまあやと河本と・出会い編はいちおうここで終了であります。
ずいぶん長々してしまって申し訳ございません。
正体解明編と戦闘編はもう少し後になるかと思われます。
それと口調がわからなかったのでどっちも敬語に致しました。
間違いがあればご指摘ください。

284名無しさん:2005/08/13(土) 16:58:15
おお、次長課長と絡めるんですね。
いとうさんの能力も気になるし、続きが楽しみです。

285 ◆BKxUaVfiSA:2005/08/13(土) 18:33:24
ビビる大木の話を書いてみました。まだ途中までですけど…
まずは投下します。

286 ◆BKxUaVfiSA:2005/08/13(土) 18:43:01
 〜コール〜

「おーい、ちょっと。俺の話ちゃんと聞いてる?」
「はいはい。もちろん聞いてますよー…」
とある喫茶店の中。二人の男が、素麺をすすりながら会話をしている。
麺が伸びてしまうのも気にしないと言った風に、箸を振りながら一方的にペラペラと喋っ
ている茶髪の男が、向かいの席に座っているやや小太りの男の顔をズイッ、と覗き込んだ。
「でさー……そんでさぁ……なっ、馬っ鹿だろー?」
「へぇ、そうなんですかー」
 ―――それは前にも聞きましたよ。何回も。
とは、いくら仲が良くても相手が先輩なので絶対言えない。それ以前に、こんなに楽しそうに話してくる彼を無責任な言葉で傷つけたくないこともあったが。
苦笑を浮かべ軽く溜息を吐く。そして再びオチの分かり切っている話に耳を傾けた。
「大木ぃー、お前のメロンソーダ旨そうじゃん。ちょっと頂戴」
茶髪の男が身を乗り出して、綺麗なグラスにアイスが盛りつけられているメロンソーダに手を伸ばした。
大木は慌ててその手を払いのける。
「だ、駄目!駄目ですよ!これ俺のなんですから!」
「じゃあアイスの部分だけでいいからさぁ〜」
「それ一番駄目なトコじゃないすか!」
テーブルをガタガタと揺らし、大声を上げながらジュースの取り合いをする。
だがさすがに周りの客の突き刺さるような視線に気付いたのか、戦いは自然と一時中断され、二人は軽く愛想笑いをすると、縮こまって再び椅子にゆっくりと腰を下ろした。

「あ〜あ、何かつまんねーの!面白い事ねぇかなー…」
キシキシと音がするくらいに体重を掛けて行儀悪く椅子の背にもたれかかり、茶髪が呟く。
大木はそれを見ながら、転倒しないだろうか、などと行き場の無い手を宙に彷徨わせてハラハラしている。

287 ◆BKxUaVfiSA:2005/08/13(土) 18:43:48
「あ…そういえば最近、番組で共演してるくりぃむの二人や川島君たちの様子が、何つーかちょっとおかしいんですよ」
「ふうん?」
「何か“石”がどうのこうの言ってて…」
「石…」
石。その単語を聞いた途端、茶髪男の目の色が変わった。体制を正し、テーブルの上に肘を乗せる。
「へ…?何か知ってんですか?」
「ふふーん、まあね!そっかー、お前にもついにコレを渡すときが来たな!」
どっかのゲームに出てくる師匠のような台詞に少し吹き出した。
「えー何です?何かくれるんですか?」
冗談半分で手の平を差しだしてみると、
「ほいっ!」
綺麗な石を手の中に落とされた。わずか3センチほどの、小さな赤みがかった石。
先端が曲がっていて、中学の社会の教科書で見たことがある形だ。
「勾玉じゃないすか。すげ、本物の宝石ですか?」
手の平でころころと転がしてみたり、天井のライトの光に当てて反射させてみたりと、大木は石の観察に忙しない。
その横で、茶髪の男がメモ帳を取り出して何かをサラサラと書いている。
それを小さく折りたたんで大木に握らせた。
「何ですか、コレは」
紙を開こうとすると、男に制止された。
「あー駄目駄目!いい?コレはその石とセットだから。ピンチになったら、その紙を開いて、書いてある事を読めよー」
「は…ピンチって…え?」
「はいはい、この話は終わりー!あ、それよりさぁ。さっきの話の続きなんだけど…」
男は大木の問いかけを遮りにっこりと笑ってはぐらかすと、またいつものように雑談を始めた。また以前に何度も聞かされた話だ。
大木は男の態度に疑問を持ちつつも、深く考えず、いつものように相づちを打った。

288けふえーる ◆J5DaNPfmbA:2005/08/13(土) 18:43:54
◆BKxUaVfiSAさま
ビビる大木ですか…私には考え付かない人選です。
ぜひ投下してください。楽しみにしております。

289 ◆BKxUaVfiSA:2005/08/13(土) 18:44:36

「じゃーな。ボンス、また遊ぼうな!」
妙なあだ名で大木を呼ぶ男は、大きく手を振って喫茶店から出て行った。
一人残った大木は手を振り返しながらコーヒーを飲んでいる。
テーブルの端に置いてあった紙を開こうとするが男の言ったことを思い出し、踏みとどまった。
そして、あの勾玉と一緒に鞄の中にしまい込んだ。

「どういう事なんだろ…」
大木が呟くと同時に、
「あー、そうそう!」
ドアが勢いよく開き、茶髪の男が突然戻ってきた。
その真剣な瞳にぎくっ、と身体が強ばる。
「な、何ですか…」
「お前さー、俺が話してる事何回言っても覚えねーよな?」

………………

「はぁあ!!?」
身体の力が一気に抜けた。

290 ◆BKxUaVfiSA:2005/08/13(土) 18:48:23
ここまでです。どうですかねコレ…。
あーやっぱ妙な人選だったんだ。
ちょっぴり大木さんの実話を元に書いてます。

291けふえーる ◆J5DaNPfmbA:2005/08/13(土) 18:55:01
◆BKxUaVfiSA
いや他意はないれす。純粋に個性的でいいなと思っております。
それはともかく面白いです。凄く。続き投下待っております。ボンステラワロス

292けふえーる ◆J5DaNPfmbA:2005/08/13(土) 18:56:56
うわあ様つけ忘れ
ご無礼を働きましてどうもすいません。

293名無しさん:2005/08/14(日) 09:52:13
>◆BKxUaさん
おお、大木さんで来るか!…いえ単純に感心です。
面白かったです、続きお待ちしてます。師匠ワロスw

294名無しさん:2005/08/14(日) 11:42:19
乙!
次に繋がりそうなシナリオだなあ…あと相手はやっぱりドリームボンバーかな?
あとけふえーる氏、作品投下以外はコテ名乗らない方がいいよ

295そして僕らは完全となる。 DLEARTMI:2005/08/18(木) 01:36:50
トータルテンボスのストーリーを書いているものです。
今から投稿する文章は、まとめサイトさんにまとめてもらってあるものの続きです。
死ネタではありません。
また、流血シーンがあるので、注意してください。

296そして僕らは完全となる。 DLEARTMI:2005/08/18(木) 01:41:21
「藤…田…」
みるみる廊下に広がる、真っ赤な血。


まるで嘘のように



彼は動かない。



血がポタポタと垂れ、震える体を物ともせず、俺は藤田にすがりよった。
虚ろに開いた瞳。その瞳に、俺は映っていない。
「……藤田………」

まるで心が暗黒に包まれたような絶望感が、心臓を貫く。

“俺はこいつ置いて逃げるなんてできねーよ“

どうして?

“死にたくは無い。でも俺はここを退かない”

どうして……?

コツ、コツ、コツ、………吉田が大村の前で立ち止まる。
ピクッ、と反応する体。
でも、顔を上げる事は出来ない。

その瞬間に、絶望は確実なものになるような気がして。

「大村さんが大切なあまり、未来を読み違えましたね。
だから藤田さんは直、死にます。
でも大村さんは悲しまないで下さい」
すっとしゃがみこみ、血で赤くなった手を軽く、大村の顔に翳した。

「だって あなたも死ぬんですから」

297そして僕らは完全となる。 DLEARTMI#:2005/08/18(木) 02:04:20
凍りついた神経。

視界がセピア色に染め上げられる。

とてもゆっくり
感覚の中ではとてもゆっくりと
吉田の攻撃が迫ってくる



シヌ?



―――――オレガ?







ヤダ









嫌だ









死なない





俺は





「嫌だ!!!!」





パキッ


ビッ


ピキピキ…




バン!!!!!


銃声を彷彿させるような音。
瞬間に悟る。俺は死んだんだ。
でも痛みはない。
一体どうして…?

298そして僕らは完全となる。 DLEARTMI#:2005/08/18(木) 02:30:11
「……これは………」

戸惑ったような吉田の声。
俺は強く閉じた瞳をゆっくりと開けた。
…?
俺と吉田との間に存在する空中に入った、真っ黒な空洞―――時空の歪み。
何もない。ただの黒。無空間、というのだろうか。
端々に亀裂が走っており、この時空間のものではない事がわかる。
初めて見る、こんな光景。
それなのに、その光景は何となくしっくり来て。
無意識に俺が空洞に手を翳した、その瞬間。

バキッ…バキバキバキバキバキバキ!!!!!

耳を劈くような音に比例して、暗黒の亀裂が塞がっていく。
最後に、ひどく低い音がして亀裂が埋まったかと思うと、カツン、と何かが廊下に落ちた。
血で汚れた廊下に一際目立つ、眩い光。

「……石……」

………俺の、だ。

今までは、自分の中で二の次、三の次だったはずの石が、今は言い様が無いほどいとおしく思われ、
感覚の無いはずの右手が、知らず知らずにそれを握り締める。
腕を覆い滴る紅に勝るほどの、手から溢れる光。
「………石………」

―――ほとんどの奴が石に魅了されちまうんだって

―――その中の半分が、黒に転身するらしいぜ

だらしねぇなぁ、と笑っていた自分が心の中で砕けた。



正論だった。





ちくせう。

299そして僕らは完全となる。 DLEARTMI#:2005/08/18(木) 02:33:07
黙ってその光景を眺めていた吉田は俯きながら、血濡れた手を下ろした。
顔こそ無表情であったが、頭の中では様々な考えが素早い回転を見せていた。
胸ポケットにしまわれていた吉田の石が、突如現れた大村の石に強い反応を示す。
激しい反応―――つまり、それは警告を意味する。
警告の意味を悟った吉田は静を保ったまま、スッと立ち上がった。
服についた血がポタポタと床に滴る。
大村は吉田を目で追わなかった。少なくとも、追うほどの余裕はなかった。
石の誘惑に負けたのだ、自分は。
吉田は無言で、石に依存した大村と、ぴくりとも動かない藤田を眺める。
それは、絶望を形容するにふさわしい光景だった。
彼らにあった希望はすべて絶望に変換され、未来さえも真っ黒な。
吉田はふぃと目を逸らした。これ以上、直視する意味はない。
騒がしくなってきた外界に目を細めた。そろそろ退散しなければいけない。
踵を返し、しかしぴたりと立ち止まる。

「大村さん、これだけは覚えておいてください」


血の中で、大村はゆっくりと顔を上げる。
吉田は背中に鋭い視線を感じ、微かに俯いた。



「殺せば、殺されますから」



静寂の中。

俺が何を言っているのか、意味はわからないだろう。
俺と何の関係があるんだ、と睨んでいるんだろう。

ゆっくりとした足取りが、外へ続く扉に向かう。
ガチャリ、と開いた扉に、吉田は独り言のように呟いた。

「いずれ分かります」

無表情の中に、ただの一つも正の感情はなかった。

300そして僕らは完全となる。 DLEARTMI#:2005/08/18(木) 02:35:58
吉田は血塗れた上着を階段に脱ぎ捨て、繁華街へ向かった。
鋭利になった殺意を抑えるには、それが一番良い。

包帯で隠した右手の傷口が、じんじん痛む。

「…………」

“嫌だ!!!!!”

彼がそう叫んだ瞬間、確実に彼の魂は石を呼び寄せ、体は淡く光った。
何も無かった空間に突如現れた亀裂――――時空の歪みは、俺の力をやすやすと吸収した。
その証拠に、大村を殺す為に放出した力は奴に届くことなく、しかし俺には確実な疲労感を与えた。
また、その時空の歪みは大村の力でありながら、奴は自分が発動した力の存在を知らなかった。
そして、俺にとっての最大の着目点は、
奴の呼び寄せた石の光に、明らかな『黒』の光を見出した事だった。
濁った、透明を阻む鈍いベール。
それがどういう事か。

繁華街を歩きながら、相方と待ち合わせたバス停で立ち止まる。

人通りの多い街にあるバス停は、たくさんの人が並び待っていた。
自分とは待つものが違うが、傍から見たら自分もバスを待っている事にされる。
列から一歩退き、レンガの花壇に腰掛ける。
人から離れたのは紛れも無く、血の匂いを悟られる事を危惧していたからだ。
足を組み、手を組んで目を閉じる。
人の雑踏が耳に馴染む。
自分の育っていく中で欠く事のなかった音だ。
「…………」
―――この雑踏に混じって、いっそ自分が流されてしまえばいいのに。
踏み込んでしまった弱さに眉を潜め、戻れない過去に強く目を瞑る。
自分は人を笑わせるはずなのに。 今はそれさえもできない。
殺しに手を掛けた人間の言葉を誰が笑うだろうか。
一体誰が。

301そして僕らは完全となる。 DLEARTMI#:2005/08/18(木) 02:45:13
救急車とパトカーと野次馬と。
ざわざわした雰囲気を感じながら、眠そうな感じで建物を歩く。
建物、といっても本社だ。
どこをどう歩いたら、事件現場に繋がるのかぐらいは知っている。
明らかに騒がしい下の階へ偶然を装い、降りていく。
踊り場を曲がった時見えた光景には、さすがの自分も眉を潜めた。

吉田が二人をおびき寄せるために、自分の血液を急激な気圧変化によって爆発させたであろう
この部屋には、もとは少量だったはずの血液が、満遍なく飛び散っていた。
そして驚くべきは…床に広がる、生々しい血液。
どんなに冷たくて気持ちよくても、俺は血の海じゃ泳ぎたくはない。
騒然とした雰囲気に飲まれそうな気持ちの中、聞き慣れた声が耳についた。
「藤田、おい藤田!!!!
 目ぇ開けろよ、おい!!何でだよ!!!何で寝てんだよ!!!藤田!!!藤田!!!!!」
「大村さん、落ち着いてください!大丈夫ですから!!」
「藤田!!!藤田ぁ!!!!」
押さえ込まれた大村さんは、それでも尚、暴れている。
自分のものともつかない血で体を汚している大村さんは、倒れて動かない藤田さん目の前に錯乱している。
尋常じゃない、普通じゃない、ぱんぱねぇ。そうなのかなぁ?
普段ひょうひょうとしている大村さんからは想像出来ないほどの血相と瞳の色。
自分の傷の痛みもきっと忘れているんだろう。あんなにも怪我をしているのに。
それほど大切な人ってことなのかなぁ。
担架に乗せられた藤田さんに、俺は慌てて階段を下りる。
救急隊の人が大村さんを押さえつけ担架に乗せるも、
大村さんは錯乱のあまり、藤田さんの名前を繰り返すばかりだった。
頭がぼうっとしてきたのか、静かになっていった大村さんは最後に呟いた。
「藤田…ごめん………俺が…………悪い…………」
その瞳は宙を仰ぎ、誰も、何も映っていなかった。

302そして僕らは完全となる。 DLEARTMI#:2005/08/18(木) 02:46:07
―――すみませんでした、トータルさん。
そう小さく呟いて、手中の石に力を込める。
それは突然、かぁっ、と熱くなったかと思うと、全身を劈くような痛みで体が重力に耐えられない。
辛うじて壁に手をつき、ずるり、と膝をつく。
嫌な汗が額にうっすら浮かび、すぐにポタポタと床にたれた。
こんな時は、負けてしまう。
――――あんまり痛いなら、その黒い欠片にダメージを注ぎ込めばいい。

そんな事したら、黒の組織に迷惑掛かるんじゃないですか?――――

――――それを飲み込めばいいんだよ。それはお前にも、組織にも都合がいい。

黒い石の欠片なんて飲み込んだら、どうなるんだろう。
少なくとも、本当の意味での『すべて』が支配されちゃうんじゃないだろうか。
痛みが引けない。二人分の傷はさすがに重たかったかな。胸がいっそう苦しくなる。
「君、何してるの?どうしたんだい?」
声の先を見上げると、年配らしい警察の人がこちらを眺めている。
思惑外の出来事に、痛みをぐっと堪えながら言葉を返す。
「上から来たんですけど……血、見たら…気持ち悪くなっちゃって………」
あぁ、という顔で背中をポンポンと叩く。大丈夫?という事だろうか。
「吉本の人か。………あいつら知ってるのか?」
年配らしいこの人が、親指で大村さんの方を指す。
「はい…。先輩ですよ」
もっと何かしらコメントしてみたいが、体中が痛みのピークを記録している。
この人がいなければ、黒い欠片に依存してしまっている頃だ。
「人間怖いな。
こんな事で人ってああなっちまうんだ。
覚えておいた方が良い。人なんて殺すもんじゃない
どれだけの人が悲しむか、なんて。考えたら分かる事なのにな」
「…………」
吉田の顔が頭を過ぎる。
未だ、殺す事はしていないが、もうほとんど殺人に手は掛けている。
そしてそれを止める事は、今の自分にはできない。
寂しそうな背中をただ、一番近くで眺める事だけ。
ここで、やっと痛みが引いてきた。
そうとなればこちらのものだ。もうこれ以上痛む事は無い。
「ありがとうございました、もう大丈夫です。すみませんでした」
頭を下げて、血の匂いから離れた。
玄関を通り抜けると、先程よりも増えた野次馬。救急車。
何を期待して、こんな光景を見てるんだろう。
野次馬に紛れ、壁に背を預けて救急車が出て行くのを見送る。
目を瞑り、腕を組んだ。 野次馬がぞろぞろと消えていく。
「…それはどういう事なんだ」
さっきの年配の警察さんが、どこかで怒鳴っていた。
「これが事故だって?…何抜かしてんだ、これは事件なんだぞ」
真剣な声。神経を集中させて、その声を聞き取る。
「上層部の命令?…なぜなんだ……」




「……見て見ぬふり、か」

ひどいなぁ。
そこまで手が回ってたんだ。
もともとの期待こそ無かったけれど
警察も関与しないとなると…。
寂しそうな吉田の背中が目に浮かぶ。
―――本当に誰も  助けてはくれない
う〜ん、と口を結び、俯いた。
太陽はとっくに傾いていた。

303そして僕らは完全となる。 DLEARTMI#:2005/08/18(木) 02:47:42
「…ねぇ、待ったぁ?」
背後から聞えた声。
目を閉じたまま応える。
「…うん、まぁね」
立ち上がる。着いて来る足音。
「ちゃんとやっておいたから」
「……大丈夫だった?」
「ん?あ、全然大丈夫」
「……ごめんな」
吉田が俯く。阿部はゆるい笑顔で返す。
「まぁ気にすんなよ」
“明日、仕事が入ったんだけど”
吉田にそう言われて、わかった、と軽く返して昨日の今日。
力を使いすぎていても、弱音を吐く訳にはいかない。
一度しくじれば少なくとも、二人もろとも終わってしまうのだから。

「引き込むの?」
阿部がこちらの表情を伺う。
吉田はいつもの無表情よりも柔らかい無表情で返す。
「引き込む必要もない。
 自分から入ってくる、きっと」
「…ふぅん」
阿部は、頭に両手を回して話を聞く。
吉田は続けた。
「大村さんは石の能力の中で最も開けちゃいけない扉を開けちゃったんだ。
 申し訳ないけど、もう石の争いから逃げられない」
「あーあ。残念」
「残念だけじゃすまないかもしれない」
吉田が阿部に目もくれずに答える。
「大村さん、もともとは悪の力に富んだ石を授かったみたい。
 
それを黒として使おうと思ったら…」
そこまで言いかけて、口を閉ざした。

いい。いずれ分かる事だ。

阿部もそれ以上追求する事も無く、吉田の隣を無言で歩く。

「それよりさぁ吉田、俺が3時間前に買ったこのほかほかコロッケ食べる?」

「3時間前に買ったの?」

「うん」

「だったらもうほかほかじゃないよ」

「そっかぁ。そうだっけ?」

「なんで認めてから聞いてんの」

隣を歩きながら自分の意識がだんだんしっかりしてくるのがわかる。
口にこそ出さないが、阿部が俺に対して力を発動しているのだ。
何も言わない。
それが俺には怖い。
「阿部」
「んん?」
「…お前は本当にこっちでいいの?」
吉田が立ち止まる。
阿部はそれから2、3歩進んでから立ち止まり、振り返った。
「…どうして?今更」
「望んでないんだろ、こんな争い」
「うん」
「だったら黒にいるのは俺だけでいい、と思う」
苦しいのは俺だけで十分だ。

304そして僕らは完全となる。 DLEARTMI#:2005/08/18(木) 02:50:00

あの日。
考えてみれば、絶対に俺は阿部にとって嫌悪的な決断をしたんだと思う。
脅されて、それに怯えた俺の一方的な説得で無理やり納得させられて。
今日、あの二人を見ていて思った。
あの二人は頑なに、石を使おうとしなかった。
それがあの二人の中での決め事だったのか、それとも偶然だったのかはわからない。
でも、この石には人それぞれ使い方がある。
人を傷つけるため、仲間を助けるため、生活を楽しむため、不便を補うため。
俺はこの石を、人を傷つけるための道具として使うと決められた。
「お前はその石をどう使いたい?」
「吉田の為に使いたい」
「……………」
即答。
「この間も言ったけど、俺いなかったらお前死んじゃうじゃん。
俺ぁそんなの嫌だからさぁ」
「………本当にいい?」
「本当にいい」
「……そう」
そして、何事も無かったかのように歩いていく。
―――もう後戻りは出来ないんだよ
阿部の頭には、いつだか、吉田の呟いた言葉が頭にリフレインして、闇に沈んだ。
―――本当にごめん
先を歩く吉田に首を振った。
月明かりに照らされた石が黒い光を放ち、やがて消えた。

305そして僕らは完全となる。 DLEARTMI#:2005/08/18(木) 02:59:09
一旦ここで切ります。
大村さんの能力についてですが、『嫌』という言葉に反応して、
攻撃の回避率をアップさせた、と考えてください。

私が考えるに、大村さんの石の能力にはタブー(言ってはいけない言葉。ここでいう『嫌』)
があって、それを冒してしまうとあのような力が出てきてしまう。
あの力は危険な力として扱っています。

以上です。

306名無しさん:2005/08/18(木) 07:59:11
乙・・・と言っていいよな?
文全体から出る、物語に対する負のエネルギーが凄いw
なんか読んでて圧倒された。
ところで、鳥つけれてないよ。

307 ◆EI0jXP4Qlc:2005/08/20(土) 00:11:26
したらばにお越しの皆様おはようございます。廃棄物がでたので不法投棄しに来ました。
なんかの、序章です。とりあえず設楽が出てきます。
只今南海キャンディーズの物語を絶賛執筆中の
◆8Y4t9xw7Nwさんの『鬼唄』の影響をもろに受けてます。
しかし、自分のフィルターに通して、加工しすぎました。

308title『ブラックラック』 ◆EI0jXP4Qlc:2005/08/20(土) 00:13:12
Number,零 セカンダリーズヴォイド


 留まる事無く歩き続けろ。決して振り返るな。

 「貴方は何故、ここにいて、そして何処に行きたいのですか?」
 シナリオライターが、俺にそう尋ねる。
 「……小林君は、俺を恨んでいないの?」
 逆に、そう尋ね返すと、彼は黙りこんだ。
 「……別にいいよー。だって恨まれて何ぼだもんね、俺」
 俺はそう言ってにっこり笑う。
 
 何処まで、行こう?

 人間は、生まれながら魂の容が決まっている。
 それをどう変えていくかはその人次第だけど、俺は知っている。
 結局、生まれながらの容を歪めてまでがんばっても、辛い思いをしても、ダメな時はダメ。ただただ、憐れな末路に向って歩いていくだけ。
 あぁ、可哀想に。

 「でもね、俺、別に世界征服とか、そういうのじゃないんだよ?」
 俺はシナリオライターにそう言う。
 「分かってますよ」
 彼は機嫌を損ねたのか、若干言い方が冷たい。
 「だからこそ、貴方がここにいる理由が、分からないんですよ」
と、彼は付け足す。
 「小林君はさぁ、黒い欠片を持ってなくても、こっち側にいるでしょ。それってさ、理由はどうあれ、まさしく自分に正直になってるってことだよね。俺は、それがすごくいいことだと思うんだ。何もできずに不幸になるより、自分に正直になって不幸になったほうが、いいよね」
 「……それが、理由ですか」
 「いや、これは、俺の勝手な意見」
 俺は再び笑う。なるべく自然に。
 相手が相手だから、下手に飾らないほうが得策なんだ。だけど、シナリオライターは、少しだけ辛そうに黙り込んだ。
 「あ、でもね。俺は誰かを不幸にする気なんて更々ないんだ。むしろ、みんなの幸せを願っているよ」
 俺がそういうと、シナリオライターは意外だと言う顔をする。予想通りの反応。
 しかし、その直後、なんだか納得したような顔になる。意外と、表情豊かなんだ。
 でもこれも、予想通り。
 「……でも貴方は」
 と言って、シナリオライターが口を閉ざす。非常に、言い辛そうだ。普段なら「言わなくてもいいよ」と言ってやるところだが、
 「でも、何?」
 俺は、聞くことを選んだ。
 「貴方にとって、本当に大事な人には自分のようになって欲しくない、と、思っているでしょう」
 「……」
 俺が黙ると、彼まで黙ってしまった。
 気まずい重い沈黙とは、このことなんだと思う。仕方がないので、俺が口火を切る。
 「いつか、あの「地獄主義者」と出遭ったとき、俺、感じたんだ。あの人は「世界を全部ひっくり返そう」としている。あぁいうのって、ヤバイよな? ま、俺が言うと説得力ないんだけど……」
 俺は笑って見せるものの、
 「何時までも、隠しきれると思わないでください。いつか「その時」は、必ず来ます」
シナリオライターは暗い表情のまま、至って真摯に、俺に忠告した。だから、
 俺も、宣言する。
 「……「その時」にはきっと、全ての人間の魂が、黒い魂になるね。」
 このシナリオライターは、今の俺をどう捉えているのだろうか。
 「例え小林君が、……シナリオライターが黙ってても、物語は続く。一つの終わりに向って、進んでいく。始まったんだから、必ず、終わる。ごく当たり前のことでしょ……。俺は、みんなに辛い思いをさせたくない。だから、俺は皆を、こっち側に引き込む。誰だって、自分のことを解ってもらえる誰かが、必要なんだから」

 何処まで?

 「……もっとみんな、自分に正直に生きなきゃいけない」
 俺はそう言って、一旦話を切った。なかなか話し出そうとしない両者。仕方が無いから、再び俺が口火を切る。
 「あ、「それじゃあの「地獄主義者」と大して変わらないじゃないか」って思ったでしょ?」
 「地獄主義者って誰ですか」
 「知ってるくせに。ね? 思っただろ?」
 「……」
 俺は笑う。なるべく自然に。
 「ね、小林君?」
 「思ってませんよ」
 「違うよ。何で、敬語で喋るの?」
 「……」


 Is there any continuation?
 Well,the monster will be coming.

309 ◆EI0jXP4Qlc:2005/08/20(土) 00:19:00
……。orz 以上です。
全画面だと読みづらいです。ごめんなさい。
相変わらず、続きがあるかどうかは謎ですっていうか、
現時点で続きは無いです。できるかどうかが謎です。
はい。残暑が厳しいことと思われますが、みなさま、ご自愛ください。

310名無しさん:2005/08/20(土) 10:36:51
…自分白派なのに、うっかり黒につきたくなってしまったじゃないかw
乙です。うわあ地獄主義者が気になるー。

311 ◆BKxUaVfiSA:2005/08/20(土) 14:52:43
>>289の続きです

「帰ろうか、それじゃ」
残りのコーヒーを一気に飲み干して立ち上がった。
その時、男の客が二人で、黙々とケーキを食べているのが目に入った。
(はあー…珍しいなぁ…)
最近は若い男性にもすっかり甘党が増えて、ファミレスなんかで堂々と、チョコレートパフェなどを注文する。
だが、今大木が目に留めたのは、ファミレスよりも居酒屋が似合いそうな風貌の男達だった。
セットされていない髪に、寝不足なのかとろんとした目…。
色んな人間がいるな、と大木は首を振ってレジに向かった。

外にはもう茶髪の男の姿は無く、大木は一人で歩き出した。
信号が赤だ。足を止めて、ここの信号長いんだよなあ、などと考えながら目の前を通り過ぎていく車をぼーっと眺める。
すると、後ろからぽん、と無言で肩を叩かれた。振り向くと、さっき喫茶店の中でパフェを食べていた二人組が立っていた。
そして、いきなり大木の腕を片方ずつがっしりと押さえつける。
「ちょ、何すんですか!」
と、大木は言ったが、男達の行動がいかに素早かったかは、その言葉を言い終えた瞬間には、いつの間にか目の前に停められてあった車の後部座席に座らせられていた、という点からも分かる。
「誰なんだよ、あんたら…」
「おい、車出せ」
大木の言葉を無視して、一人が言った。

車が走り出すと、やっと掴まれていた手が離される。
大木は怖いよりも何よりも、ただ呆然としていた。

312 ◆BKxUaVfiSA:2005/08/20(土) 14:53:43
「あのー…何の御用?」
恐る恐る尋ねる。
「いえ、ちょっと聞きたい事がありまして…」
聞きたいのはこっちだ、と大木は思ったが、それ以上は口を開かなかった。相手の顔がどう見ても、友好的とは言えない顔をしていたからだ。
晩飯、遅くなっちまうな…。などと暫く呑気なことを考えていたが、周りの景色が段々寂しくなっていくのに連れて、恐怖感も生まれてきた。


連れて来られたのは、人一人居ない、寂れた倉庫。今はもう使われていないのか、角材や錆びた鉄パイプなどが無造作に置かれている。
天井のトタンは所々破れ、そこから夕日が漏れている。
車から降ろされると、男達も続いて降りてきた。
「…聞きたいことって…何だよ」
振り向きざまに、大木は思い切って尋ねた。
片方の男が口を開く。
「石ですよ。大木さん、受け取ったでしょう。喫茶店で」
「石…?」
そういえば、確かに受け取った。綺麗な緑の石を、あの茶髪の先輩から。
「それを渡して欲しいんですけど」
「渡して戴ければ無事に帰してあげます」
大木は少し戸惑った。そりゃあ早く帰りたいが、こんな見ず知らずの怪しい奴らに先輩から貰った物を易々と渡す訳にもいかない。
ふいに、石を渡された時の事を思い出す。何時になく真剣な口調、詳しく聞こうとするとはぐらかされた事。
石を他の人に見えないように自分の手に握らせた事…。

313 ◆BKxUaVfiSA:2005/08/20(土) 14:54:52
「大木さん?」
「…駄目だ…」
男達は難しい表情で顔を見合わせ、大木に視線を戻す。
「これは大事な物なんだ。悪いけど…渡せない」
「じゃあ、力ずくでも…!」
男が繰り出したパンチを間一髪で避ける。石の入ったリュックを脇に抱え込んで、走り出した。
走りながら振り向くと、何故か男達が追いかけてくる様子は無い。もう諦めてくれたのだろうか、などと考えていると。
「え…!?」
片方の男が腕を前に突き出すと、赤色の光が真っ直ぐ大木に向かって放たれた。
あり得ない光景に言葉を失ったが、直ぐ我に返り、しゃがみ込んでその光を回避した。
「無駄です!」
男がくいっ、と手を引くと、赤の光がまるで蛇のようにぐにゃりと曲がってUターンし、もの凄い速さで大木に命中した。

「うああああっ!い…痛ってえ!!」
気を失いそうな程の痛みに、思わず身体を抱えて倒れ込む。その拍子に口の開いていたリュックからバラバラと中身が撒け落ちた。
目の前にヒラリ、と小さな紙切れが舞い落ちる。少し前にはあの緑色の石が転がっていた。
「よし、落としたぞ」
男達が石を拾おうと駆け寄ってくる。

やばい、石、取られちまう…。
その時、大木の頭に、あの言葉が蘇った。

―――『ピンチになったら、その紙を開いて、書いてあることを読め』

もうどうでもいい。助けてくれ…!
大木は痛む身体を起こして、縋るような気持ちで紙を開いた。

314 ◆BKxUaVfiSA:2005/08/20(土) 14:56:32
ここまでです。とりあえず評判が良ければ続き書きます。

315 ◆BKxUaVfiSA:2005/08/20(土) 15:02:46
一応これも載っけときます

男1(どっかの若手?)
能力:赤色の光線を放つ。追尾機能付き。
   5分以上休まないと次の光線は放てない。

316名無しさん:2005/08/20(土) 17:24:25
乙です
この先のバトルシーンも見たい。続編ぜひ!

317名無しさん:2005/08/20(土) 18:20:11
乙。大木イイヨイイヨー
あ、でもさここ最近このスレに投下する人って添削スレにはいかないのかな?
ここはあくまで話が繋がらないとかの都合でできた「廃棄」スレだから。
続きがどんどん繋がるならできればあっちに投下して欲しい。

318 ◆BKxUaVfiSA:2005/08/20(土) 18:30:35
あーそう言えばそうですね。
じゃあ次からは添削スレに投下するんで。

319けふえーる ◆J5DaNPfmbA:2005/11/12(土) 02:18:14
ブラックアンドホワイト フレグランス


「…来ましたよ。」
「どーも。」
井上が少し古くなった椅子の背に寄りかかると、きーきーと音が鳴り、それが河本には耳障りで堪らなかった。
「なぜここへ呼んだのですか。」
「…知りたいことがあんの。」
「何ですか。」
河本がおざなりな言葉を返してみると、井上は笑って河本を見つめた。
「あのいとうさんと真綾とかいうの。」
急な様子で井上が言い、椅子ごとをこちらに向けて、河本のほうを見た。
「…知らんなぁ。」
何故知っているのか、などあえて訊ねることはない。
「なぁ、教えてよ。俺相方やないかぁ」
「…今は敵や。と思うんやけれど。」
突っぱねた河本に井上が幼子が甘えるように見つめてみても、河本は井上のことなど眼中に無いように振る舞い、
それだけ言葉を返すと、くるり、っと体を翻して横を向いた。

「こっち向いてよ」

「嫌やね」

この言葉の少し後に投げられたもの。
「これは何ですかー」
「見たら分かるやろ、差し入れの林檎です。まぁやちゃんの大嫌いな。」
「どっから持ってきたねん」
「さーねー」
井上の言葉が間延びして聞こえる度、少し苛々したりして、しかし翻弄される自分自身にも苛立ちを隠せないでいた。
「…笑うなや。」
何がおかしいのかは知らないが、横を向いて笑いをかみ殺す井上に、半ば厭きれながらそう言った。
―――――――――――――――――――――――――――
お久しぶりですみません、これだけアップしたら眠ります。

320けふえーる ◆J5DaNPfmbA:2005/11/12(土) 02:19:05
sage忘れごめんなさい…

321名無しさん:2005/11/13(日) 16:49:09
黒ユニット集会編があるので白ユニット集会編を書いてみたらこんなんなったので
ここに投下します。はっきり言って大した話し合いしてません。
内容も妙にふざけが入っているので…悪しからず。

322名無しさん:2005/11/13(日) 16:50:48
〜午前三時のハイテンション〜


午前三時。人通りの最も少ない時間帯に、彼らは集まることにした。
男が一人、白い息を吐きながらゆっくりといくつもの飲食店が並ぶ道路を歩いてくる。
普段から眠そうな目を余計にとろんとさせて、「眠い」「寒い」をブツブツと繰り返していた。
ある古風な和食店の前にたどり着くと、足を止めカバンから手の平サイズの地図を広げ、店の看板と地図に記された名前とを交互に見比べる。
「ここかあ…」
少し掠れた声。黒目がちで目で何となくお坊ちゃま的な顔立ちの男は寒さに耐えられず駆け足で店の中に入っていった。


店に入ると、ふんわりと柔らかな仲居の声がした。
「いらっしゃいませ。川島様ですね?皆様が奥のお座敷でお待ちかねです」
深夜にも関わらずニコリと笑みを見せる彼女に、男もペコリと頭を下げ「あ、はい」と笑みを返す。ほっと気持ちが安らいだ。

仲居に案内され冷たい廊下を渡る。仲居は頭を下げると何処かへ行ってしまった。
襖の向こうから何やら明るい声が聞こえる。中へ入ろうと襖に手を掛けようとした瞬間…
ガラリ、と襖が開いた。
「あ〜、川島さんじゃないですかあ〜!」
梁に頭をぶつけないようこんばんは、と挨拶をする長身の男…アンガールズ田中は笑いながら「早く入ってください」と、劇団ひとりこと川島省吾の腕を引っ張った。

323名無しさん:2005/11/13(日) 16:52:15
「遅っせーぞぉ、川島!」
ぎゃははは、と大口を開けて笑うのはくりぃむしちゅーの有田。
その隣では有田と馬鹿騒ぎしていたように思われる、アンタッチャブル山崎の姿があった。
もうすでに出来上がっているではないか。川島は少し引きつった笑みを浮かべ、周りを見渡した。
かなりの数の芸人達が集まっている。黒に比べて、白なんてずっと少ないものかと思っていたが、自分の想像していた以上に、白の規模も広いようだった。

(この人達が、白いユニットか…簡単に言えば、“安全な人たち”だな)
川島が何処に座ろうかキョロキョロ見渡していると、栗色のウェーブの掛かった髪をした男が手招きをした。

「おう、こっちこっち。隣に座りな」
ビール瓶を片手に持っていたが、有田や山崎ほど酔ってはいない。川島は膳をまたいでその男、上田の隣に腰を下ろした。
「…あの、俺は“白ユニットの集会を開く”って聞いたんですが」
不思議そうに尋ねる川島の目の前に、山崎の相方の柴田が駆け寄ってくる。
「いーやぁそのつもりだったんだけどなあ、此処の飯美味いのなんのって!だから、食べ終わってからってことで!」
隣の上田ですら、うんうんと頷き、味噌汁を静かにすすっている。
「だから省吾も食べろよ!」
川島は拍子抜けした。

…こ、これが白?……こんなもんで良いのかよー…ここら辺は黒を見習って欲しいよなぁ。
黒なんて凄えんだぞ?こう、ビシッとしてるっつーか…。
「まあ、幹部があれじゃなあ…」
山崎と何やら笑い合っている有田を眺めて諦めるように首を振った。
仕方ない。そう思いながらも川島は箸に手を伸ばしたのだった。

324名無しさん:2005/11/13(日) 16:53:20

「しっかしよー…最近凄えよなあ…」
太い黒縁眼鏡の男がぽつりと漏らす。
「…どうしたの」
隣に座っている短髪でこれまた眼鏡の男が尋ねる。
「黒と白の闘い。嫌だなー俺そういうの。勝てねーもん」
「矢作は別に何もしなくていいって。俺強いから、何かあったら後ろに隠れてなよ」
「なーによ小木ぃ、お前それかっけぇなー」
川島の右隣で呑気な会話を繰り広げているおぎやはぎの二人。
「二人も白なの?」と尋ねると同時に首を振られた。
どっちでもない。と二人は言った。だが黒に味方する気は更々無いらしい。
かといって白に入るつもりもないようだ。変な争いを好まない二人らしい、と川島は思った。
「上田さん、黒については…何処まで知ってるんですか」
「ああ、黒はなぁ、何にせよ頭の良い連中が多いからなあ。秘密を隠すのも上手いんだよ」

「ちょっと、それじゃあ俺らが馬鹿みたいじゃないすか」
どこからかやって来た細身の男、インパルス板倉はやや不機嫌そうに言った。
「実際そうなんじゃないですか?」
と珍しく自分から会話に入ってきたアンガールズ山根。板倉はムッと眉をしかめて彼を見た。田中はそれを見て力なく笑う。
「何だよじゃあ、勝負するか?どっちが頭良いか」
「そういうことは、暇な人ほどやりたがるんですよねー」
そのつっけんどんな態度に、板倉は掌からバチバチと青白い電気を空気中に走らせ、山根めがけて雷を落とそうとした。
慌てて堤下が後ろから羽交い締めにして、振り上げた腕を押さえる。
「板倉さん、仲間割れはまずいよ」
田中もさりげなく板倉の肩をぽんぽんと叩き、石の力を発動させた。

325名無しさん:2005/11/13(日) 16:54:16
「ふん、……でもやっぱそうかもな。黒は何時も優勢な立場から襲ってくる。例えば一人になった時とか…」
板倉は落ち着きを取り戻し、呟いた。
「よっぽど作戦たてるのが出来る奴が居るんだろうなあ」
と、川島が言った。
「そいつが誰だか知ってるか?…渡部、お前なら分かるだろ」
「え?はい、まあ……」
気が進まないと言った風にもとれるその態度に、周りの芸人は業を煮やす。
「言いにくいんですけど…」
「今更言いにくいもクソもねーだろ、で誰なんだ?」
渡部は少しだけ戸惑いながら言った。

「設楽さんと小林さんみたいです」
えっ、と声を上げたのは矢作だった。困惑した表情を浮かべる。すかさず小木が大丈夫?と声を掛けた。
矢作には信じられなかった。
まさかあの二人が…。

「日村さんと、…えーと…モジャモジャの人は?」
「あの二人は違うみたい…でも何かあってら相方の方に付くんじゃないかな」
そんなもんなのか、と川島は思った。思えばずっとピンでやって来たもんだから、コンビの事情なんて分からない。
とにかく此処にいる芸人たちの様子を見る限り、今の所力の大きさは黒の方があるようだ。
それほど設楽と小林の存在は大きい物なのだ。

「矢作さん、大丈夫ですって!あーの…えっと、まあ大丈夫です!だいじょーぶ!」
一体何が大丈夫なのか意味が分からないが、柴田は必死に言葉を絞り出して矢作を励ました。首から提げたファイアオパールが淡く光り、矢作は「ははは…凄っげえうるさいよぉ、柴田君」と緩く笑って顔を上げた。

326名無しさん:2005/11/13(日) 16:56:14

「で〜っひゃっひゃっひゃ!柴田さん、おーざーっす!」
「おざーっす!童貞番長〜っ!!」
そんな良い感じの雰囲気をぶち壊すかの如く、酔っぱらった有田と山崎が割り込んでくる。
「俺たちも話に混ぜろよぉ〜!」
「お前なあ、“今後の白ユニットの方向を決めるために集まろう”っつったのお前だろが!」
「二人で勝手に飲み始めやがってよお!!」
切れて怒鳴りつける柴田と上田。
げらげらと笑い出す酔っぱらい二人にますます怒り出し、取っ組み合いの一歩手前まで発展した。
そのあまりの声量に、川島たちは耳を塞ぐ。
「い、今何時だと思って……!」

「はーいはいどいてどいて」
と、矢作が前に出た。有田と山崎に向かい、一呼吸置いて叫ぶ。
「睡魔に襲われて眠くなるんやー!」
すると、まるで催眠にかかったように、二人は畳の上に折り重なって倒れてしまった。
「…お見事!」と自然と拍手が起こる。

「……もうこんな時間か。そろそろ帰らねえと」
「え…結局、何も話し合えて無かったじゃないですか!幹部の名前しか分からなかったし!黒の規模についてとかは!?」
川島が嫌そうな顔をしてしゃがみ込む。
「言い出しっぺがこれじゃあ仕方ねえだろ!」
ビシッ、と上田がだらしなく寝ている有田の頭を叩く。
「僕らも仕事あるし…また今度。主催は上田さんでお願いしますね」
「小木、俺たちも帰るか」
「俺も、今日コント収録ありますから」

ぞろぞろと部屋から出て行く芸人たち。足音に仲居が気付く。一番後ろを歩く川島に声を掛けた。
「お帰りですか?」
「ええ、はい。……あ、そこの二人が起きたら、その人たちにお勘定請求してやって下さい」

こうしてただの思いつきで行われた第一回目の“白ユニット集会”は終わったのだった。
黒ユニットの集会が行われる、二日前の話。


石を巡る争いがとんでもなく酷くなっていく事を、まだ誰も知らなかった。


                        end

327322〜326:2005/11/13(日) 17:12:24
どうですかね、コレ。
午前三時にやってる和食店てあるのかな…。
そこら辺は石の力で何とかしたってことで。

328名無しさん:2005/11/13(日) 18:46:16
>>322-326
乙。久しぶりに腹抱えて笑ったよ、GJ!
本スレに投下してほしいくらいだね。

329名無しさん:2005/11/13(日) 23:24:12
>>327
小規模な居酒屋とかに置き換えればいけるんじゃないかな〜。
これ本スレに是非落として欲しい!面白い。
けど、その時期に黒幹部を白にばらされると都合が悪い人も居るかもしれない…
後一つ言うなら矢作は柴田を「柴っちょ」とか呼んでた気がする。違ってたらスルーしてください。

330名無しさん:2005/11/14(月) 00:15:35
乙です!
イメージぴったり。もっとシャキッとしろよ(笑)

331名無しさん:2005/11/14(月) 08:15:49
乙です。
キャラ凄く合っていていいですね。

332名無しさん:2005/11/14(月) 17:31:17
乙です。ぐだぐだな白トップも勿論面白かったですが、
板倉さんと山根さんのくだりがロンブー思い出して笑えました。
やっぱ仲悪いんだw

333322〜326:2005/11/14(月) 18:31:15
意見ありがとうございます。少し手直ししてから投下したいと思います。

>>329
アドバイスどうもです。
やっぱり都合悪い人居るでしょうね、多分…。番外編ってことなら何とか大丈夫かな。

334名無しさん:2005/11/14(月) 21:49:44
>>333
話し合いだけで結局ダレか分からない、と書き換えられるのなら普通に本編で成立すると思うよ。
無理なら番外とかの方が良いかもしれない。

335名無しさん:2005/11/15(火) 21:29:08
川島は劇団ひとりをやる前に6年間コンビ(スープレックス)を組んでいたから
>>325の「思えばずっとピンでやって来たもんだから、コンビの事情なんて分からない。」
という部分も手直ししたほうがいいかも。

336335:2005/11/15(火) 21:39:00
うわ、もうその台詞抜きで本スレ投下済みだったんですね。
すみません。

337322〜326:2005/11/15(火) 22:05:51
はい。私も「やべっ」と思いまして、その部分カットしました。

338名無しさん:2005/11/19(土) 17:24:18
カラテカの話を即興で書いてみました。番外編みたいな話ですが気軽に読むといいと思います。
ちなみに矢部さんの力は能力スレの>>7を参考にしました。

339名無しさん:2005/11/19(土) 17:25:55
今日は晴れ。絶好の釣り日和だ。白も黒も、石のことは今日は忘れて、楽しもう。
と言うことで。
「矢部くーん、釣れたぁ?」
「うーん、まだ」
何人かの芸人仲間を誘って、釣り堀にやって来たカラテカ矢部と相方の入江。
二人以外にも石の能力者は何人かいるが、誰も「石」なんて単語を出してこない。
くだらない日常会話に笑いあいながら、幸せな時間を過ごす。
浮きはぷかぷかとゆったり上下しているだけで、魚は一向に掛からない。
餌が悪いんだ、きっと。などと思ってたが、周りの芸人たちは、次々と魚を釣り上げて大漁のようだ。
「えー、嘘でしょー…?」
情けなく眉をハの字に顰めて、もう一度竿を握り直した。坊主頭には紫外線が痛くて堪らない。
すこしでも暑さから逃れようと鞄から帽子を取り出し、きゅっと深く被る。
「えっ、矢部くん、今時麦わら帽子って…え〜…?」
入江が笑いを含んだ口調で矢部の隣にしゃがみ込む。矢部はむっとした表情で帽子のつばを上げた。太陽の光が目に入ったのか、何度も瞬きをしている。
「麦わらを馬鹿にしないでよ。凄いよコレ、涼しいんだから」
「まあ、もやしっ子にはそれくらい無いとなぁ」
その言葉に、矢部は黙り込む。当たっているから何も言い返せないのだ。
体重39キロの、アンガールズにも劣らない細い身体は、長い間外に放っておくと、あっという間に蒸発してしまいそうだ。
入江が、これも使えと日傘をクーラーボックスに立て掛けた。
「……掛かれよぉ」
いつの間にか真上に昇り、さんさんと照りつける太陽が眩しくて堪らない。

340名無しさん:2005/11/19(土) 17:27:06
「…お客さんのハートを釣ってるみたいだな…」
「はは、言えてら」
どこかで聞いたような台詞に入江が乾いた笑い声を上げる。そのまま、何も起こることはなく、穏やかな時間だけが過ぎていく。
暇つぶしにお菓子をつまんだり、ネタ合わせしてみたり、ツバメの巣作りを観察したり。
「矢部さん、そんなにツバメが珍しい?」
じっとツバメを見つめたままの矢部に一人の後輩が声を掛けると、矢部は首を縦に振り、笑って言った。
「うん、“子供が生まれるのが楽しみ”だって」
後輩は、ふーん?と首を傾げた。
そして一時間ほど経った、その時…

「あっ、矢部さん!引いてる、引いてる!」
誰かが慌ただしい声を上げ、手招きをすると、一本の釣り竿の前に何人もの人が集まってくる。
「よぉし…絶対釣るぞ〜…!」
矢部は麦わら帽子を脱ぎ、腕捲りをして釣り竿を掴んだ。力を込めるが、一向に魚の姿は見えない。隣から後輩たちや入江が手伝うように竿に手を添える。
一瞬だった。どんな大物かと思いきや、釣れたのは一匹の小魚。

「う…うっそでしょ〜矢部く〜ん…!」
あまりの非力さにすっかり脱力する入江。
ああ、そう言えばこいつは、ワカサギ釣りに行った時も、満足に氷に穴すら開けられなかったなあ。
「ご、ごめんごめん。でもさ、やっと釣れたから、バケツ持ってきて…よ…、…?」
突然矢部の表情が強ばる。その視線は今釣ったばかりの小魚へ…。


『助けて、助けてよ〜…殺さないでよぉ〜』


矢部にだけ聞こえる声で、小魚は言う。
「こっ…!殺すなって…言われても…」
「…ヤベタロー、どうした?」
周りの後輩たちが珍しいものでも見るかのような目で矢部を見つめた。
その時、入江が魚のたくさん入ったバケツを抱えてやってくる。それを矢部の目の前にどん、と置いた。矢部の顔が少し引きつった。魚の声が、耳に響く。

341名無しさん:2005/11/19(土) 17:29:24

『後生だから、逃がしてくれー!』

『私のお腹には赤ちゃんが居るのよ…子供を産ませてよ…』

『畜生、彼女に手を出すな、俺から先に殺せ!』

『うう、済まない、父さんを許してくれ…』

『いたい、いたいよう…』

『お母さ〜ん…』

「うわーっ!!こんなの生き地獄だぁあーっ!!」
急に頭を抱えて騒ぎ出す矢部に、周りはぎょっと目を見開いた。
「入江くん、逃がしてやってよ〜!!」
「逃がすったって、ここ釣り堀だぞ!?てゆうか何で泣いてんの?」
それでも矢部は「逃がして」と懇願し続けた。入江は訳が分からなかったが、泣かれてしまっては仕方がない。
渋々魚を池に戻した。散り散りになって泳いでいく魚を、あ〜ぁ、といった顔で見送る芸人たち。

只一人、矢部太郎だけは笑いながら手を振っていたが。
「お礼なんて、いいよぉ〜、へへへ…」
あー、ちょっとイタい人だなあ、矢部さんて。という声が聞こえたけれど気にはしなかった。


この日から、矢部が暫く魚料理を食べられなくなったのは、言うまでも無いかも知れない。

                                        終
                                                                               

矢部 太郎(カラテカ)
石 …未定
能力…知性を持つ生物(外国人はもちろん動物や鳥、虫など)と会話ができる。
 ただ、相手が日本語を喋り出したり矢部が相手側の言語を用いだすのではなく
 石が言葉や仕草を翻訳して互いの意識に伝達する形になっているので、
 まわりからは危険な人に見えるw
条件…人間以外の相手に能力を使った場合、後遺症で十分〜二十分ほど
 相手の性質が移って抜けなくなる。
(犬だったら臭いをやたら気にしだし、蛇なら寒い所で動けなくなる)

342名無しさん:2005/11/19(土) 18:38:22
乙です。
石の特性をよく生かした話ですね。大笑いしました。

343名無しさん:2005/11/19(土) 18:47:17
乙!非常に楽しめましたよ。
読みきりの番外編だし、本スレ投下しても良いんじゃないでしょうか。

344名無しさん:2005/11/20(日) 01:11:35
乙です!
そうですよね〜魚だってそう思ってますよね・・・
確かに生き地獄(笑)

345 ◆/KySNfOGYA:2005/11/22(火) 19:29:46
SPWとピースの矛盾してる話、投下させていただきます。

346each other ◆/KySNfOGYA:2005/11/22(火) 19:38:56
ピース。彼らの名前はダイノジから聞いていた。腕の良いコント師だと聞く。
真面目で、直向で、面白くて。良い後輩だと、笑顔で彼らは言っていた…のに。
どうして彼らとこうして、対峙してるのだろう。
「…なんで、石の力、使わんのです?」
「そうですよ。石、使わないで勝てるとでも思ってるんですか?」
のったりした関西弁と、キッチリした声。性格が上手くかみ合ってそうな、真面目そうなコンビ。
だからこそ、黒にいるのが、不思議でならない。
「…君らこそ。何で力使わないの?」
「少なくとも、本気でない相手に力を使うのは酷なもんでしょう?」
ふ、と笑う。やっぱり。黒向きの人間じゃあない。
「やい!俺のこと無視するんじゃねぇ!」
「「「あ、忘れ(て)(とっ)た。」」」
「やい!んだよ、小沢さんまで!…畜生、ゼッテェ泣かせてやる!」
ぎり、と歯を鳴らし、二人を睨む潤。単純と言うか、何と言うか。頼もしいことだ。

347each other ◆/KySNfOGYA:2005/11/22(火) 19:49:24
そんな至って真面目な潤を嘲笑うかのように睨む。確か、綾部君とか言った。
「…君?何がおかしいの?」
「いや、大女優と結婚して浮かれてるのかなあ…って思いまして。」
くすくす、くすくす、と笑う。…ああ、潤、ちょっと怒るかも。


「…裕実は、関係ないだろ。」


ぞくり。
冷ややかな空気が辺りを包む。潤がキレた。正直、少し怖い。
「…フフ、じゃあ、その二つの石、貰いますよ。又吉。いくぜ。」
「おう。」
又吉君が息をすぅ、と吸い込んだ。瞬間。俺達の目の前で、何かが起こった。
彼はゆっくりと、口調を崩さず俺達に語りかけるように物語を話し出す。


「あぁぁあぁあぁ!!!!!!!」
「っひう、っさ、ん、ああっく、っふ…!!!!」


涙が溢れてくる。潤は頭を抱えてしゃがむ。俺は泣き崩れる。
脳内でどんどんと大切な人が殺されていく。消滅していく。
俺がいくら名前を呼んでも、皆は無視して俺の目の前から消えていく。


まるで、あの頃のように。

348each other ◆/KySNfOGYA:2005/11/22(火) 20:04:54
俺は、高校を中退した。全てが信じられなくなった。
ただ、それだけのこと。苦しかった。本当に、苦しかった。
でも潤はきっとこれ以上の苦痛を味わっているんだ。
俺は頭を抱え、涙を流しながら思った。(更なる苦しみによってそんな考えは頭からうせたけど)

「、さ、小沢さ、ん!大丈夫…?!」
「…潤…」

俺は安心し、さらに涙が溢れる。けれど、そんな余裕はない。
彼らのほうを見る。くすくすと笑っていた。

「どうでしょう…?素敵やありません?この物語は。」
「…これを素敵だなんていうんなら、君ら、相当趣味悪いね。」
「ほめてくれて、どうもありがとう御座います♪なぁ、又吉。」
「……そやね。」
あくまでテンションをあげようともせず、下げることもなく。ただ彼は、淡々と。
…まさか。
「…小沢さん。こりゃあ、負けてらんねぇな。」
「そうだね。…行くよ、潤。」
潤は黙って頷く。


「そんな事よりパーティ抜け出さない?」
パチン


しゅん、と。舞台は町から山に変わる。
そして連続攻撃だ。

「ミツバチ達が君を花だと勘違いして集まって来ちゃうだろ。」
パチン。

俺が指を鳴らすとピースの二人の周りにミツバチが寄ってくる。
そしてミツバチ達が攻撃してくる。
「っくそ!」
綾部君が言って、地面を触る。その時、石が光った。
地面が盛り上がり、龍の形となって俺達に向かってくる。
「!」
「、やい、あたし、認めないよ!」
潤が言うと、龍は動きを止め、崩れ落ちた。
すると俺の力も解けたようでミツバチが消え去っていた。

349each other ◆/KySNfOGYA:2005/11/22(火) 20:13:13
「…厄介な力ですね。」
「そりゃどーも。」
綾部君がチ、と舌打。
二人に僅かな隙が出来る。そこを俺は見逃さない。
「(此処は逃げたほうがいいか。)」


「君は僕のカワイイ子猫ちゃんだから!」
パチン


ぼん、と煙が二人を覆い、煙がなくなると二人は人ではなく、
ダボダボな服を身に纏う可愛らしい子猫になっていた。
「…ったく…。手ごわい奴らだった…。」
潤はふぅ、と溜息。
「俺の力の時間も少なくなってきてるし…。此処は逃げよう。」
「そうだな。」


「そんなことよりパーティ抜け出さない?」
パチン


先程の町に戻ってくる。俺達はハァ、と溜息を漏らし、顔を見合わせ、少し笑った。
「…ねぇ、潤。」
「あ?」
「……俺ね?どうも、あの二人は、望んで黒にいると思えない。特に、ホラ、物語の力を使う彼。」
「…ああ。アイツか。何で?」
俺は少し黙り、口を開いた。
「少し…悲しそうだった。戦いながら笑っている綾部君を見て…。」
俺は俯く。


「彼らの……彼らの、心の欠片<ピース>を握っているのは誰なんだろう・・・。」


潤が俺を見つめる中、おれは心の底から溜息を漏らした。

350名無しさん:2005/12/01(木) 22:40:32
廃棄させていただきます。
中途半端な波田陽区とヒロシとだいたひかるの話。

351名無しさん:2005/12/01(木) 22:40:57

「今週だけでこれだけですよ。」

ここはとある収録スタジオ。少し薄暗い楽屋内。
波田はきょとんとした顔で、そう言って突き出してきたヒロシの拳を受け止める。
下に手を添えると、指が解かれて何色もの石が波田の手に落ちた。
「…うわ〜、大量ですねぇ」
目を輝かせる波田とは対照的に、ヒロシの顔色は暗い。
「こんなのいらないですよ。朝から晩までなんだか監視されてるような気がして、落ち着かないですし…」
俯くヒロシの目の下には隈が浮き、まともに睡眠時間を取れていない事を窺わせた。
「じゃあ俺が引き取りますよ。…なんか随分濁ってますね。」
内部から沸き起こっているような薄い曇り。波田はこのくすんだ色を今まで何度も見ていた。
「黒のユニット、…ですか。」
あの組織に関わった石は大体こんな感じの色をしている。
「…俺狙われてるんでしょうかね。」
「まぁ…そうなんじゃないですか?こんなに襲ってくるんでしたら。」
波田は、懐から袋を取り出し、今しがたヒロシから譲り受けた石を丁寧に仕舞う。
随分この袋も重くなったもんだ。波田が満足気に微笑む横で、ヒロシは自分の指に光る石を眺めていた。
「僕も波田さんみたくペンダントにすれば良かったかな。」
オリーブ色の上品な石。それを、ヒロシは少しいかつい指輪に加工して自分の指にはめていた。
「そうですか?首苦しくなる時ありますよ、これ。」
「…抜けなくなっちゃったんですよ。」
「え?」と、波田が聞き返すより先に、ヒロシは不安げな顔で続けた。
「どうしても、抜けなくなっちゃったんです。引っ張ってもびくともしない。どうしたら良いんでしょう。」

352名無しさん:2005/12/01(木) 22:41:33
顔は青ざめ、何かに怯えるようにしてヒロシは指を押さえる。
「落ち着いてくださいヒロシさん。指輪が外れないだけでしょ?大丈夫ですって…」
「俺思うんです。この石は俺の皮膚と同化しているんじゃないかって。…最近、断続的に指が痛むんですよ。」
「そんなまさか…」
背中を丸め、指を押さえながらうずくまるヒロシの姿は痛々しく、波田はかける言葉が見つからなかった。
やがて、ゆっくりと顔を上げたヒロシはその手をかざし、「見てください波田さん。」と力無く言った。
「俺の石、濁ってきてませんか?少しずつですけど…」
そう言われて見ても、波田の目にはそれはただ澄んだ美しい石にしか映らなかったし、
ヒロシと違い四六時中その石を眺めていたわけでは無かったので色の違いもよくわからなかった。
「考えすぎですよ。」
「…そうでしょうか。色が…変わってきている気がするんです。
 俺が最初にこの石を手にした時はもっと澄んでたのに…なんだか…怖いんです。俺、いつか黒の…!」
「ヒロシさん!」
しっかりしてください、そう言って波田はヒロシを諌めたが、ヒロシの顔色は優れない。
「ヒロシさんノイローゼなんじゃないですか?石の事考えるの止めた方がいいですよ。
 自分をしっかり持っていないと、石に呑まれてしまいますよ。」
「…そう、ですよね…」
「もうすぐ時間ですし、スタジオ行きましょう!仕事したら忘れますって!」
なるべく怯えさせないように肩に触れると、ヒロシが小さく震えているのがわかった。
「波田さん、もし…」
「はい?」
顔を上げたヒロシと、立ち上がった波田と目線がかち合う。

「俺がもしも、石に呑まれて暴走するような事があったら、
 黒側に回ってしまったら…、俺をこの石ごと斬って下さいね…」

353名無しさん:2005/12/01(木) 22:42:07






あれから三日経った今も、その言葉はまだ波田の頭の中に反響していた。
あの時、自分は「出来ない」と言った。
石を斬るという事、石を破壊するという事、それはつまり持ち主の死を意味している。
――例え敵になったとしても、友人は殺せない。絶対に。
ヒロシの石は、本当に皮膚と同化してしまったのだろうか。
そんな事あるわけがないとわかってはいるけれど、あの時の尋常じゃない様子を思い出すと不安になる。
もしヒロシが暴走したら、自分は斬れるだろうか。一時的に石に操られているのとはわけが違う。
石と同化した人間を、自分は斬れるだろうか。いつぞや長井を斬った時のように、容赦なく刀を振るえるだろうか。

354名無しさん:2005/12/01(木) 22:42:35
「あーもう!」
波田は不安を消し去るがごとく頭を振り、頬を叩いた。
そんな馬鹿な事あるわけがない。
「俺は何を本気にしてんだ…」
ヒロシの石は澄んでいた。そうだ、一辺の曇りも無かった。心配は無い。何も。
しかし依然胸の曇りは晴れず、波田の意に反して膨張するばかりだった。
自分を見上げ、すがるような眼差しを向けてきたヒロシ。その目は必死で、どこか儚くて波田は恐ろしく感じた。
ただの杞憂であって欲しい。波田は気を紛らわせようとギターを引き寄せる。
体を曲げたはずみで首から下げた石が着流しの裾から垂れた。
ミルク色の優しい色をしたこの石、ヘミモルファイト。初めて目にした時と変わりなく澄きとおったまま。
石には意思があると、誰かから聞いた。持ち主の意思に関係なく、悪意ある石は黒へ、善意のある石は白へと
持ち主を導くらしいと。石が話しかけてくるのだと。そんな事、あるのだろうか。
だとしたら自分の石はどちら側なのだろうか。
この石も、いつか黒く染まる日が来るのだろうか…
疑問は尽きず湧いて出る。
それからため息も。

355名無しさん:2005/12/01(木) 22:42:55
「悩み事ですか?」
突然降ってきた、どこか抑揚の無い声に顔を上げると、そこには数少ない女ピン芸人だいたひかるが立っていた。
自分の世界に入っていたせいで一瞬呆けていた波田だが、ふと我に返って思い出した。
ここはテレビ局で、自分はこの後収録を控えている。廊下のソファに座って休憩していたんだ。
だいたはテレビで見る時と全く同じいつもの無表情で両手に缶コーヒーを持っていた。
軽く頭を下げて挨拶をし、少し席を詰めて、「座りますか」とそう尋ねると、だいたは苦笑して言った。
「…波田さんって無防備なんですね。私の事疑わないんですか?私、黒かもしれませんよ?」
「石を隠しもせずに堂々と指にはめている人に言われたくないですよ。…石を見ればなんとなくわかるんです。
 少し黒がかった石を持ってる人はヤバイんですけど、だいたさんの石は真っ青ですから。」
波田はそう言ってだいたの右手に輝くリングを指差した。
「そうですか。でも私白でも無いですよ。」
「そうなんですか。」
「ええ、興味ないんです。だってバカらしいじゃないですか。」
同じ芸人同士なのに。
だいたは波田の隣に腰を下ろし、けだるそうにため息をついて缶コーヒーを開けた。
「おかしいですよね。なんか最近、みんな殺気立っちゃってる。
 知ってます?誰かは私も聞かなかったけど、若手で死にかけた人がいるんですって。」
「本当ですか?」
そう聞き返すものの、内心、波田はそんなに驚いているわけではなかった。
人間の欲望や信仰心というものは凄まじいものだ。そしてこの石はその対象になるには十分なほどの魔力を秘めている。
そのため波田はいつかこうなる事を予想していたし、なって当然だとも思っていた。

356名無しさん:2005/12/01(木) 22:43:13
「どこか狂ってますよね。」
「狂ってますねぇ。」
こんな石に、命まで投げ出す人がいるんですねぇ。だいたは吐き捨てるように言う。
波田はヒロシの言葉を思い出していた。
『俺がもしも、石に呑まれて…暴走するような事があったら、黒側に回ってしまったら―――』
石のために命を捨てるというのなら、ヒロシも狂っているのだろうか。


「ヒロシさん…」

だいたが小さく呟いた。波田は驚いて顔を上げる。なぜここでだいたの口からその名が出たのか。
「…?ヒロシさんがどうかしました?」
さっきまでの嫌な妄想が頭を駆け巡る。
「そうだ、私ヒロシさんを探してる途中だったんですよ。」
「…探してる?」
嫌な予感が加速する。だいたはなんでも無いような声で言った。
「消えちゃったんですって。煙みたいに楽屋から。」
「えっ―――」

357 ◆LHkv7KNmOw:2006/01/24(火) 15:15:12
雨上がり決死隊中心の話を途中まで書きました。最後まで書けるか目処が立って
いないので、ここに投下してみます。あと、能力スレの>302もちょっと見てください。

358 ◆LHkv7KNmOw:2006/01/24(火) 15:18:29

故意の空騒ぎ
Ⅰ・はじまりはおだやかに



「…どうする?」
「聞かんといてくださいよ。」
周りを見渡せばざっと10人。
一体何なんだ。黒ユニットは人間のクローンでも作ってるのか?
「こうなったんも全部…。」
目の下に隈のある、やや影を背負った男が呟く。
そして、隣に突っ立っている男を横目で睨みつけ、良く通る声で叫んだ。
「お前が石を無くしたんが悪い!」

「そ、そんなんゆうても仕方ないやん。」
カメラが回っていないところでは滅多に大声を出さない筈の相方に少なからず動揺する。
電光につやつや反射する髪の毛を掻きながら、雨上がり決死隊・蛍原が困ったように言った。

そうなんです…。蛍原は石を携帯のストラップの代わりにして持っていたわけで…。
ある日その紐が切れかかっていたわけで…。
でも「まあいいか」と思った蛍原は、そのまま仕事を続けていたわけで…。
いつの間にか何処かに落としてしまったのです。

359 ◆LHkv7KNmOw:2006/01/24(火) 15:21:17
さかのぼること数時間前。

「あ、携帯がない。」
と、気付いた時にはすっかり夜も更けてしまっていた。
何気なく携帯を取り出そうとポケットに手を突っ込んだ瞬間、いつもはあるはずの物が無いことが分かった。
記憶を掘り返す。確か、最後に使ったのは控え室の中だった筈だ。
踵を返し、もう一度建物の中に入る。
歩みは段々早くなり、何時しか走り出す程になっていた。
顔に少なからず焦りの色が見える。
それは、電話が掛けたいからとか、早く帰りたいからとかそういう理由ではなく。
彼は携帯にストラップとして自らの石、モスアゲートを取り付けていたのだ。
万が一例の、最近噂になっている『黒』とかいう奴らに拾われてしまっては、という考えが頭を過ぎる。
その嫌な予感を打ち消すように、頭を振る。
それに合わせて自慢のさらさらの髪の毛が宙を踊るが、決して乱れることは無かった。
控え室の扉を勢いよく開ける。
膝に手を置き、前屈みになって二、三度大きく呼吸し、唾を飲み込む。
中では相方である宮迫が本日何本目になるのか分からない煙草を吹かしながら雑誌を黙々と読んでいた。
ドアの音に少しだけ反応し、顔を上げるも、ちらりと蛍原に目線を向けただけで、再び雑誌を捲り始めた。

宮迫の後ろの方でガサゴソ、ガタン、と耳障りな音が小さな控え室の壁に反射し、響く。
「あれ〜……?」
と、蛍原の困ったような声が時折聞こえた。
宮迫は雑誌をテーブルの上に投げ置き、
「どないしたん。」
酷く面倒くさそうな口調ではあったが、やっと口を開いた。

360 ◆LHkv7KNmOw:2006/01/24(火) 15:23:59

「いや、俺の携帯知らん?」
「え〜…?見てへんで。」
欠伸をしつつ、宮迫は答える。
なんだ、そんなことか。とでも言いたそうだ。
__あんな、あの携帯には…。
という言葉が喉まで出かかったが、まだ思い当たる場所はある。
少しでも騒ぎにしたくない事と、ついでに(あくまで“ついで”だ)相方に心配かけたくないといった理由で、この時は言わなかった。

ところが、だ。何処を探せど、携帯は見つからない。
蛍原は苛ついて髪の毛をがしがしと掻く。これはいよいよやばくなってきた。
石を無くしてしまった、という焦りと共に、心臓も早鐘の如く鼓動する。
再び控え室の近くに戻ってきてしまった。足取りは重い。

今度は静かにドアを開けた。
宮迫は未だ煙草を吸いつつ、別の本を読みふけっている。
「なあ、ホンマに見てない?」
「しつこいぞ。」
蛍原はドアの前で、身体を丸めてしゃがみ込んだ。
その尋常ではない落ち込みようにさすがに違和感を覚えたのか、宮迫が声を掛ける。
「そんなに携帯が必要なんか。やったら俺に言えばそんくらい…。」
「宮迫、俺の携帯な…。」
貸してやるのに、と言いかけた宮迫の声を遮るように、蛍原が口を開いた。

361 ◆LHkv7KNmOw:2006/01/24(火) 15:26:30


「…お前何してんねん。」
相方に事情を説明すると、酷く小さな声、且つ無表情でこう言われた。
少しだけ、背中に寒気が走った。
これなら怒鳴られてビンタされた方がまだマシかも知れない、とまで思えた。
はあ、と深い溜息をと共に乳白色の煙が吐き出される。
煙たさに咳が出そうになるも、妙な緊張感から、それさえも許されないような錯覚に陥る。
宮迫は灰皿に吸い始めたばかりの煙草をぐりぐりと押し付けた。
溢れかえった灰皿から二、三本の吸い殻がテーブルに転げ落ちる。
ゆっくり椅子から重い腰を上げ、宮迫はジャケットを羽織る。
何故か無言のままの宮迫に声を掛けることが出来ず、蛍原はその様子をじっと見詰めた。

そして宮迫は蛍原とすれ違う瞬間に、「おい、行くぞ。」と一言だけ言った。
「はは…、頼もし。」
予想外だったのか。
早歩きで楽屋を出る宮迫に、蛍原は嬉しさを隠せなかった。

362 ◆LHkv7KNmOw:2006/01/24(火) 15:29:23
とりあえず此処まで。
続きはなんとなく構想を練ってはいます。評判が良ければ頑張って書きます。

363名無しさん:2006/01/26(木) 10:06:15
>>357-362
乙。なんか面白そうだね。
もし続きを書くならここじゃなくて添削スレの方がいいかも

364 ◆k4w5bzAdTA:2006/01/30(月) 23:53:46
オリラジのちょっとした話。

**************************************

収録前の、共演者で賑わう楽屋。
隅に二人の男が輪から離れて座っていた。

「誰か持ってる人いると思う?」
二人の内の片方、眼鏡をかけた男が尋ねた。
何のことかは言わなかったが、『石』を指している事は間違いない。
「…バッドさんとか」
相方の質問にもう一人の男が共演者である先輩の名を出した。
やっぱそうかなー、と呟いた男―オリエンタルラジオ・藤森の手には小さな石があった。
彼が言うには、最近この石を―まるで石が付け回して来るかのように―色々な所で見掛けるようになり、いい加減鬱陶しくなったそうだ。
だからとりあえず拾ったらしいが、
「どうするんだ、それ」
相方の―オリエンタルラジオ・中田が言った。

365 ◆k4w5bzAdTA:2006/01/30(月) 23:55:06
決めてない、と藤森は答えた。
―どうやら本当に『鬱陶しいから拾った』だけらしい。
中田は藤森に気付かれぬようにこっそりと溜め息を吐いた。いつもの事だけど、コイツは一々危なっかしい。
拾って、誰かに襲われたりしたらどうするつもりだったのだろうか――多分そんな事思い付かなかったのだろうけど。


二人が『石』についての話を先輩から聞いたのは、結構前のことになる。

中田は正直冗談だと―からかわれているのだと思った。そんな非常識な事を信じろという方が無理だった。
だから、その先輩が目の前で起こした超常現象も暫く信じる事ができなかった。
藤森は直ぐに信用して夢中になっていたけれど。

366 ◆k4w5bzAdTA:2006/01/30(月) 23:56:15
「関わらないようにする、って言っただろ?」
石をじっと見つめている藤森に問いかける。
それは『石』のことを知った後に二人で話し合って交した約束だった。

「うん、でも面白そうだし」

中田は相方の言葉に目を丸くした。
「お前、それ」
本気で言ってるのか。そう続けようとして気付いた。

石を見つめる藤森の目が、まるで取り憑かれているかのようにギラギラと光っている事に。
思わず絶句した。
同時に―おそらく白なのであろう―先輩の言葉を思い出した。

  危ない目に合いたくなかったら、関わったらいけないよ。
  関わったら、もう戻れないから。


中田は藤森の持つ石を見た。
ざまあみろと言うかのように石が煌めいた。


何かが崩れていくのを感じた。
もう無関係ではいられないのだと、思い知った。

367名無しさん:2006/01/31(火) 12:44:45
>>364->>366
乙!続きが気になる。ぜひ書いてくれ!

368名無しさん:2006/01/31(火) 16:00:57
>>367
続き考えてないし、依頼スレの45さんがいらっしゃるので
一応ここで終わりの予定です。

369 ◆k4w5bzAdTA:2006/01/31(火) 17:15:16
トリップ付けるの忘れてた…
>>368は私です。

370名無しさん:2006/02/03(金) 16:46:47
麒麟とスピワの軽い話考えてみたんですが投下オケ?


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板