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文章鍛錬企画【三語即興文】4/12〜

1ごはん武者修行有志s:2004/04/12(月) 05:25
■執筆の狙い
だれでも書きこめます。感想レスを使った遣り取りです。
初めてのみなさんも歓迎します。
興味のあるひとは参加してください。

【形式】
 前の方の作品を簡単に批評しつつ(1〜数行)、
 出されたお題で文を作り(5〜15行程度)(題は順不同で使用可)、
 次の方のお題を出す(三語―名詞が基本、各語の関係が遠いほど望ましい)。
※繰り返し

【批評の規準】
 ・三語の、漢字(平仮名、片仮名)と音を変えず、そのまま使用する。
  ↑とりあえずこれだけはクリアしてください。
 ・お題の消化の仕方。意味の持たせ方。
 ・ストーリー性。
 ・独創性。面白さ。

【ルール】
 ・第一目的は文章の・発想の瞬発力・ショートショートの構成鍛練です。
 ・同じ方の書き込みは一日一回に制限です。言いかえれば毎日でもどうぞ。
 ・同じお題の投稿が重なった場合、最初の投稿のお題が次に継続されます。
 ・上記の場合、後の方の作品は残します。事故と見なしますので謝罪などは不要です(執筆の遅い初心者保護)。
 ・感想のみのレス(ひやかし)は原則的に禁止の方向で。
 ・批評の義務は自分の使うお題の作品のみですが、上記の「事故作品」全てに批評を付けても結構です。感謝されるでしょう。
 ・何事も故意の場合は釈明必須ですが、多少の遊び心は至極結構です。ただし、基礎の未熟な方の遊びはお断わりいたします。
 今回も、「お題の他に注文をひとつ」を導入したいです。
 お題を出す人が合わせて決めてください。強制ではありません。お互い無理のないようお願いします。
 例)「主人公の性別は○○で」「ハードボイルドっぽくお願いします」「恋愛ものにしないでください」
 
 ご意見はラウンジにてお願いします。


※前のスレッドはhttp://jbbs.shitaraba.com/bbs/read.cgi/movie/4262/1081049708/です。
※作品を投稿される方は、前の方への感想をお忘れなく。
※感想のみ投稿されたい方は、天井桟敷へお願いします。http://jbbs.shitaraba.com/bbs/read.cgi/movie/4262/1081667593/

2有志:2004/04/12(月) 05:33
(――前のスレッドの最後の作品を転載しました――)

タイ・カップさん 投稿日: 2004/04/12(月) 05:07
お題「血・氷柱・雨」追加「小説関連以外で、作者の趣味を前面に押し出す」

「危ないですよ、危ない危ない!」
放送席で格闘プロデューサー谷山が叫びを上げている。挑戦者デビル・ブラックはチャンピオン・ロードルにパンチの雨を浴び、額からたらりと血をしたたらせていた。氷の拳とよばれるロードルのパンチはいつにも増して切れ味鋭く、さながら氷柱の雨といった様相である。
 バーリ・トゥードのチャンピオンを決めるグライド・グランプリ・ヘビー級タイトルマッチは馬乗りでパンチを繰り出すロードルが圧倒的優勢を築き上げようとしていた。デビルの意識は朦朧とし、視界が白い霧に覆われつつある。このまま死ぬのも俺らしくていいかもしれねえな――消えかける意識の中、デビルはふとそんなことを思った。
 子供時代から悪事の限りを尽くしてきたデビルにとって、相手をぶちのめせば名声を得られる格闘技こそは天職であった。この白豚野郎をぶっ殺せば俺がチャンピオンだ。チョロいもんよ、と挑んだこの試合であったが、白豚野郎はバカみたいに強く、さすがのデビルも打つ手なしであった。
 その時、白い霧の中から一本の糸とともに何かが降りてくるのが見えた。タランチュラである。毒蜘蛛は言った。
「天の裁決によるとあなたはこれから地獄に送られる運命にあります。しかしあなたは生前私が暖炉の火に落ちかけているところを助けてくださいました。そこであなたの望みをかなえようと思います。もしよければ私の糸を上って天国に来てください」
 デビルはこの申し出に大喜びし、毒蜘蛛に言った。
「望みをかなえてくれるといったな。糸はいいからこの白豚野郎を一刺ししてくれねえか。ぶん殴られたままじゃ気がおさまらねえんだ。たむぜ毒蜘蛛さんよ」
 毒蜘蛛は哀しそうな目で頷くと、ロードルのうなじを一刺しした。すると彼は熊のような叫び声をあげて首に手をやった。その隙に乗じてデビルはロードルを組み伏せ、鬱憤をはらすかのごとくめった打ちし見事KO勝ちをおさめた。
「新チャンピオンの誕生です。デビルがタイトルを奪取しました!」
「VTRを見てみましょう。おや? 何か首に黒いものが見えたような気がしましたが、うーん、気のせいですかねえ」
「ええ。大方カメラにごみでも入ったんでしょう。それにしてもデビル、すばらしいファイトでした」

 天の蓮の間から事の成り行きを眺めていた神様はあきれ顔でつぶやいた。
「やれやれ、救われないやつよのう」

――了

 感想は桟敷板に記します。

本文17行目の「たむぜ毒蜘蛛さんよ」は「の」が抜けていました。正しくは「たのむぜ毒蜘蛛さんよ」です。どうもすいませんでした。
新たなお題は「雀・火山・海苔」追加「季節は春」でお願いします。

3にゃんこ:2004/04/12(月) 22:42
みなさんきょうは暖かかったですねヽ(^。^)ノ

タイ・カップさん
むにゃ……エンタメの王道ですね。面白いです。『氷の拳とよばれるロードルのパンチはいつにも増して切れ味鋭く、さながら氷柱の雨といった様相である。』お題の使い方がいいです。氷柱のような拳を雨のように連打されると、思考能力までもが凍りそうですね。
デビルの子供時代のことまでうまく作品の中に書いてあるし、そのあとの毒蜘蛛のエピソードも良かったです。自分が天国に行くよりも相手を倒すことことを願ったデビルには悪の美学があると思います。ラストの神たちが「救われないやつよのう」というのも良かったです。


お題は「雀・火山・海苔」追加「季節は春」

―― その日 ――
「おまえどうして親父の会社を継がなかったんだ、宝船海苔といえば業界で大手なんだろ」
「先生何べん言わすのですか、あなたの『富士山は必ず爆発する』の本を読んだからですよ」
「あはは、そうだったな」
ここは、富士山のふもとにある富士火山地震研究所。まわりは菜の花が咲き、富士にも遅い春が訪れていた。富士火山地震研究所とたいそうな看板をあげてはいるが、プレハブに簡単な地震予知の設備をしただけである。
金井は大学時代に吉岡の『富士山は必ず爆発する』の本を読んで、卒業と同時に従事したのであった。吉岡の説によれば、ここ十年以内に富士山が大爆発を起こすという。しかしその学説はほかの火山地震研究者からは相手にされていなかった。そしてすでに八年の歳月が流れていた。近ごろでは金井はもちろん吉岡すら本当に富士山は爆発するのだろうかと思っていた。
炊飯器がごはんの炊き上がりを知らせ、二人は食事にした。金井は自宅から送られてきた海苔でごはんを包みほおばった。吉岡も同じように海苔でごはんを食べている。おかずといえば、納豆と漬物、それにメザシ一匹という代物だった。ここ十日、朝も昼も夜も、同じような食事内容だった。金井はそろそろ吉岡のもとを離れて父親に詫びを入れ、後を継いだ弟の下で働こうかと思っていた。ここ数日微震が起こっていたが、それとてかならずしも大地震が起きる予兆とも限らない。吉岡の学説に寄れば、マグニチュード七クラスの地震が起きれば一週間以内に富士山は爆発するらしい。
二人はもくもくと食事をしていた。静か過ぎる食事風景だった。そのとき、ぐらっと揺れた。二人は茶碗を持ったまま、顔を見合わせた。
「そうえいば今朝、雀のさえずりを聞いたか」
「いいえっ先生……」
そのあとだった、縦に大きく揺れだしたのは、地の底から化け物が押し上げるような揺れだった。そして横に揺れると、金井と吉岡は叫び声を上げた。
翌日、静岡一帯でマグニチュード七の地震が起き、甚大な被害が出たことを新聞は告げていたが、金井と吉岡の死亡は片隅に小さく報じられただけだった。
それから、一週間後に富士山は大爆発を起こした。一七〇七年の宝永の噴火以来三〇〇年ぶりだった。


次のお題「文庫本」「脳」「デジカメ」
追加「時間に意味を持たせる」

4セタンタ:2004/04/13(火) 14:43
こんにちは。ようやく入れました。よかった(ほっ)
にゃんこさんの作品の感想。
組み合わせの難しいお題を無理なくまとめ、お上手です。のんびりとした食事の場面、金井の考えている事が8年という言葉と重なりました。のどかさと地震の前の不気味さ、同じだけど違う、後でわかっちゃうんですね。惜しかったのは地震の描写かな。詳しくは天井桟敷で書きます。

お題「文庫本、脳、デジカメ」 追加「時間に意味を持たせる」
 
 活字に集中できない。
 俺は文庫本をそっと閉じ、こめかみを指で揉んだ。早紀と喧嘩して10日が過ぎた。理由は他人から見れば些細な事だろう。だが、俺達にとっては、相性の悪さを最悪に露呈してしまった。
 早紀はコンピューター会社でソフトウエアの開発をしている。ガチガチの研究者って感じはしない。長い黒髪の似合う、今では死語となった、大和なでしこ、という外観で、美しく、心優しい女性だ。 
 で、俺はというと、古書店をやっている。この時代、新聞も小説も全てオンライン化され、紙に印刷された本は希少価値が年々高まっていた。どうして昔の人間は、壊れやすい紙なんかに印刷したのだろう、今、読んでいるこの文庫だって、あと30年もすればボロボロになってしまうだろう。オスカー・ワイルドが泣いちまうぜ。
 店の奥にある事務机の上のPCを見る。メールもネットも嫌いだが、全国から来る注文を捌くためには仕方ない。どうせ俺はアナログ人間、早紀の言うように、便利な機械を使おうとしない、時代に取り残された男さ、と自嘲気味に呟いた。
 PCから曲が流れた。早紀からのメールだ。俺はばっと立ち上がると、すぐに画面を開いた。メッセージが表示された。
「今日から1週間、次の画面をずっと開いていてください。1週間後にお話しましょう」
 画面いっぱいに早紀の横顔が写った。つんとすました、温かみの欠片もない横顔。
 別れ話、俺はすぐにピンときた。これからカウントダウンを始めようっていうのかよ。腹はたったが、情けない事に早紀の言うとおりにした。結局、俺は早紀を愛していたし、最後まで会い続けたかったからだ。

 変化に気がついたのは、2日後だった。早紀の横顔が少し斜め前になっている。心なしか、口角が上がり、目元が柔らかくなったようだ。俺は目をこすった。眠れなくて疲れているせいだ。今日は仕事を早く終わらせて、ぐっすりと眠ろう。薬を酒で流し込めば大丈夫だ、きっと。
 暗い店内でPCの画面が緑色に光っていた。俺は無精髭でざらざらとした顔を撫ぜた。5日後の早紀は殆ど正面を向いていた。今は目を閉じている。昨日から店は開けていない。画面の早紀を見るためだ。早紀に連絡を取ってみたが、いつでも留守電で話ができなかった。
 頭痛が続いていた。脳の中で、ゴブリンがつるはしを振り上げ採掘しているようだ。体がふらつく。家の中には食い物も酒も殆ど残っていない。最後のバーボンの口を開け、ラッパ飲みする。口から溢れた液体をぐいっと拳で拭いた。
 
 閉じていた早紀の瞼がゆっくりと開いていく。大きな黒い瞳がいたずらっぽく輝いた。形のいい唇を開き、微笑を浮かべた。
「どう? 私達のチームが開発したデジカメで撮影したの。画面の中の時間の流れを自在に変えて送受信できるのよ。驚いた? ここまで技術は進んでいるのよ。少しはそのお堅い頭を切り替えてね。会えなくて淋しかったわ…」生きている者の気配のない店内で、早紀の声だけが流れていた。

5セタンタ:2004/04/13(火) 14:52
スミマセン。やっぱり、今回も長かった。
次のお題です。「風、ソーダー水、破壊」
追加は、天使グッズ(天使の像、絵、何でもいいです)を書き入れてください。

6おづね・れお:2004/04/13(火) 17:32
おづねです。
一度書いたのですが、長くてまとまらなかったので、再チャレンジしてみました〜(^^;

》セタンタさん
 少し悲しいお話でしたね。技術が進んでも、亡くなってしまった人の時間を戻すことはできませんよね。「画面の中の時間の流れを自在に変えて」という意味がちょっとわかりませんでした。スローモーションとは違うのかなあ? このあとの早紀さんの気持ちを想像して悲しい気持ちになりました。

セタンタさんのお題で「風、ソーダー水、破壊」、追加ルール「天使グッズ(天使の像、絵、何でもいいです)を書き入れてください」です。
(次のお題は「ソルト」「錆び」「娘」で、追加ルール「天候に触れてください」でお願いします〜)


「じゃあ俺のターン、戦闘フェイズ」
 俺の言葉に、にきびだらけのノリユキの顔が「にまっ」と笑みを浮かべるのがわかった。
 人気カードゲームの「マスター・オブ・マジック・アンド・モンスター」、通称MMMでの戦いの最中だ。
 ノリユキは二枚のドラゴンのカードを場に出している。俺の場には天使のモンスターカードが三枚あるが、ノリユキの魔法効果のせいで、全部攻撃終了状態にされていた。俺のターンで攻撃してノリユキを倒せなかったら、ノリユキのターンにはドラゴンの攻撃でこちらは負けることがほぼ決まっていた。俺の残りライフは二点。ノリユキの方は六点だ。
 俺の切り札を使うときが来た。
「魔法効果『天軍のラッパ』で、風属性のモンスターはすべて戦闘前状態に。さらに攻撃力プラス修正四点」
 ノリユキの顔から笑いが消し飛んだのを俺はしっかりと見た。
「三体の『漆黒の羽根の天使』で攻撃。それぞれ攻撃力六点」
 二体の天使はドラゴンにブロックされて破壊された。でも一体の天使の剣がノリユキ本体を貫き、残りライフを0にした。
「あーあ、負けたよ。天使デッキ対ドラゴンデッキの勝負は二勝二敗か」
「へっへっへ、今日は俺がごちそうになる番だな」
 昼休みのカードバトル。勝った方は負けた方から学食の自販機で飲み物をひとつおごってもらえることになっていた。
 十分後、ソーダー水の涼しい喉越しを俺は味わっていた。
 戦いの余韻にひたってカード談義をする俺とノリユキの横を、クラスメートの水島さんが通っていった。じつは俺のお気に入りの『漆黒の羽根の天使』はどことなく水島さんに似ていたりする。
「高校生になってもカードゲーム? 君たち、かわいいなあ」
 くすくすと笑いながら漆黒の長髪を揺らして去っていった我が天使。その後ろ姿を呆然と見送るしかない俺の肩を、ノリユキがやさしく叩いた。


−了−

7にゃんこ:2004/04/14(水) 02:10
たびたびすみませんヽ(^。^)ノ

セタンタさん
追加の「時間に意味を持たせる」が見事に描かれていますね。それに未来のデジカメはすごいです。画面の中の時間を変えるのですか。お話のストーリもいいですね。ラストもよかったのですが、問題は主人公の「俺」の「死」ですね。たしかに薬を酒で飲むところなども書かれていますが、主人公が死に近づいていくところの書き方が弱いですね。ここがしっかり書かれていれば、良かったのにと思いました。

おづねさん
ラストのところが、さりげなくいいですね。カードゲームについてはあんまりわからないので、知っている人だったら、もっと楽しめるかもしれません。だから雰囲気だけ楽しませてもらいました。この作品、人物の描写の仕方がお上手なので楽しめるのかもしれませんね。裏を返せば、おづねさんの筆の力で読ましたという感じでしょうか。前作などと比べちゃうと、手を抜いたなと思います。

お題は「ソルト」「錆び」「娘」で、追加ルール「天候に触れてください」

―― 二つの月 ――
「広島に原爆を落としたときは、曇り空から晴れ間が見えたから落としたんだと、いっていたよ」
「長崎に原爆を落としたときはどうだったんだ」
「晴れていたといっていたよ。だからモスクワが晴れていたから私は、錆びたボタンを押したんだ」
男は精神病棟の一室に隔離されていた。暴れても怪我をしないように床も壁もクッションが入っていた。そして、壁の四隅には監視カメラが付いており、男を監視していた。
「どうだ、あいつは」
モニターを見ているシルビアのもとに上司が来て尋ねた。
「いつもと変わりません。独り言をぶつぶつ呟いています。それよりもどうしてあいつを死刑にしないのですか。あいつのために第三次世界大戦がおこり世界は滅んだのですよ……」
男はポラリス型原子力潜水艦の艦長だった。すなわち男の潜水艦は核弾頭を積載しており、大統領の命令しだいで、核ボタンを押せる立場にあった。
「あはは、ソルトがなんだ。米ソの間で戦略核兵器の制限だと、ばかを言うな。原爆は落とすために作ったんだ」
ベトナム戦争の帰還兵に男の娘は惨殺された。そのときに男は、心の平静を保つために、自己保全をするようになった。その結果精神に異常をきたし、部下を先導して核のスイッチを押せる状態を作ったのであった。モスクワに大陸核弾頭が炸裂した直後に、ニューヨークの空には原子雲が浮かんだ。
シルビアの家族も核戦争のために死んだのだ。その原因の男が、モニターの中にいる。そう思うとシルビアは吐き気をもよおし、窓の外に目をやった。そこには二つの月が見えていた。
「これがパラレルワールドで、本当の世界は平和だったらいいのに……」

「これがパラレルワールドで、本当の世界は平和だったらいいのに……」
イラクの惨事を見て、日本の少年は呟いた。しかし窓からは、月はひとつしか見えていなかった。

―― 了 ――

いままでは書いてくれた批評に返信をしていませんでしたが、今回からは返信を書くことにします。失礼していました。

次のお題は「異邦人」「たこやき」「彫刻」
追加は「女性が主人公で、京都を舞台にする」

8海猫:2004/04/14(水) 08:11
>にゃんこさん
 登場人物は「男」、「シルビア」、「(シルビアの)上司」の三人ですよね? 誰がどのセリフを喋っているのかが分かりにくいように思えました。例えば、
>「あはは、ソルトがなんだ。米ソの間で戦略核兵器の制限だと、ばかを言うな。原爆は落とすために作ったんだ」
 このセリフは、誰が喋ったんでしょうか。「男」にも、「上司」にも思えるのですが。また、「世界が滅んだ」とありますが、具体的にどう「滅んだ」のか描写が無いので、ちょっとイメージが湧きにくかったです。最後の二行に風刺が効いていて、良い意味で虚しさを感じました。
 この話で思い出しましたが、タバコの銘柄である「ラッキーストライク」は原爆の暗喩だ、っていう話、本当なんでしょうか。本当なら、そのセンスを疑います。「マルボロ」の暗号もそうですが、あっちの人の考える事は分からない……。



○お題:「ソルト、錆び、娘」+「異邦人、たこやき、彫刻」
○追加:「天候に触れる」+「女性が主人公で、京都を舞台にする」


 屋台でたこやきとソルトクリームなるものの会計を済ませた私は、娘の姿が無い事に気付き、一瞬慌てた。が、すぐ近くの石の彫刻の前にしゃがんだ娘の後ろ姿を見付け、ほっと安堵した。全くこの年頃の子は、少し目を離しただけで思いもよらない場所にいたりして侮れない。ちょっと前までハイハイをしていたかと思えば、明日には元気に駆け回っているのだから。
 安堵しつつも、私は厳しい表情を作り、娘に声を掛けた。
「こら、カナエ。独りで歩き回っちゃ駄目だって――」
「ねーねー、お母さん。このヒト、だぁれ?」
 私の母としての威厳は、娘の一言の前に行き場を失った。それでもなお何か言おうと努力したものの、結局それらの文句は溜め息として消費された。娘のくりくりとした大きな瞳に、私は勝てない。チワワの出る某CMじゃあるまいし。
「……その石像はね、昔この京都にいた天狗さんよ」
「テングさん?」
「そう、天狗さん。昔ね、この街に偉い人がいっぱい住んでいた時代、この天狗さんが大陸の方から飛んできて、嵐を起こして人を困らせていたの。そこである陰陽師が、その天狗を封印する事になったんだけれど、天狗が『もう悪さはしない』って謝るから、可哀想に思った陰陽師は『ではここに座し、人々を守れ。時が来たならば封印を解いてやろう』って約束したのよ。それ以来、この天狗さんはここに石像として座って、ここを守り続けてきたの。でもこの天狗、大陸の方から飛んできたって事だから台風の化身だとか、或いは異邦人だったんじゃないか、っていう説も――」
 はっと我に返る。子供にこんな事言っても分かる訳ないじゃないの。ついいつもの民俗学マニアな癖が出てしまったようだ。娘はと言えば話に退屈したのか、天狗像が握っている、錆びた錫杖を興味深げに見つめていた。
「さ、もう行こうか。お父さん、待ってるわよ」
「……うん!」
 元気良く立ち上がった娘の手を握る。が、ふと私は、娘が持っていたはずのたこやきが無い事に気付いた。
「あら? あなた、たこやきは――」
 言い掛け、視界の端で私の見たものは、天狗像の前にお供えされた、一箱のたこやきだった。見下ろすと娘は「ダメ?」という視線で、私を見上げている。全く、その瞳には勝てっこない。
「ソルトクリーム、二人で半分こにしましょうね」
 風が吹いたのか、背後から微かに、錫杖の錆びた音が聞こえた気がした。



 作中の「ソルトクリーム」ですが、京都名物ではなく赤穂名物として実在するそうです。

 次回は、
○お題:「信号、満ち潮、後悔」
○追加:「作者自身を登場させる(フィクション、ノンフィクションともに可)」
 でお願いします。

9セドナ:2004/04/14(水) 09:58
 しばらくぶりです。

>にゃんこさん
 行間に表れるイメージが綺麗でした。シルビアの表情がありありと浮かんでくるようで。個人的には「2つの月」という題名がすごく好きです。パラレルワールドの比喩にもなっていてかっこいいなと思いました。

>海猫さん
 民族学マニアのお母さんのキャラが、味がでてておもしろかったです。天狗の話以外にもいろんな話を聞いてみたいですね。でも、ソルトクリームって初耳です。塩味のソフトクリームなんでしょうか? ちょっと食べてみたいかもしれないです。
 それと、ずいぶん前ですが石のスープの話、教えていただいてありがとうございます。ためになりました。作品を書くときに一緒にお礼を言おうと思っていたらこんなにおそくなってしまいました。申し訳ないです。

お題「異邦人」「たこやき」「彫刻」
追加ルール「女性が主人公で、京都を舞台にする」


「ちょっといいすか?」
 友達の紀子と京都の街を歩いていると、中学生らしきの男の子に声をかけられた。茶色の地味な学生服を着た男の子で、手には「修学旅行のしおり」と書かれた冊子がしっかりと握られていた。
「金閣寺ってどうやって行くの? 教えて」
 なにこの馴れ馴れしい口調は。それが人にものを訊ねる態度なの!?
 私は少しかちんときたので、不快感を露骨に顔に出して黙っていた。すると、隣にいた紀子が口をひらいた。 
「金閣寺はねぇ、この道を15分ぐらい北に上れば、北大路通りっていう大きな通りがあるから、そこで西行きの206番のバスにのって20分ぐらい行けば着くかな、わかった?」
 彼は軽くうなずくと、礼も言わずに仲間の元へ帰っていった。見ると、彼と同じような制服を着た男の子と女の子数人が道端にたむろしていた。
「生意気な中学生だね」中学生が去ったあと、私は紀子に言った。
「そうねぇ」
「教えてあげることないのに」
「うん、まあでも京都っていっつも観光客がいるから、道訊かれたら誰にでもつい親切に答えちゃう、ってのがクセになってて……」
「さすが、やっぱり紀子は京女だね。私は九州の生まれだから、嫌な物は嫌ってはっきり言っちゃうタチだよ」
 そんな会話を私たちがしていると、さっきの中学生がまた私たちのところに戻ってきた。
「この辺においしいたこ焼き屋ってある?」
 相変わらず彼は生意気な口調だった。けれど紀子はまた親切に説明した。
「たこ焼き? それなら、ここから2筋目の小道をはいって15分ぐらい歩いたところに『蛸安』っていうお店があるよ。目立たないお店だけど、店の前に大きい蛸の彫刻が置いてあるから、たぶんわかると思う」
 紀子は終始満面の笑みを浮かべていた。彼はまた礼も言わずに去っていった。
「京都って、異邦人に優しい街なんだね」
「フフフ……、表面上は、そう見えるかもね」
「表面上?」
「蛸安」が不味くて有名なたこ焼き屋と知ったのは、その後しばらくしてからのことだった。
(了)

 ……なんかわかりにくい文章になってしまった。ブランクのせいにしておこう。

 お題は海猫さんの「信号、満ち潮、後悔」追加「作者自身を登場させる(フィクション、ノンフィクションともに可)」でお願いします。

10のりのり子:2004/04/14(水) 23:12
お題【信号・満ち潮・後悔】
追加ルール【作者自身を登場させる】

 交差点で信号待ちをしている間に、何やら重大な間違いを犯しているような気になった。私は手に持ったスーパーの買い物袋の食料品に目をやった。鶏のもも肉、しいたけ、にんじん、大根……。少し考えただけで理由はわかった。私は今日の夜はハンバーグにしようと思っていたのだ。なのにスーパーをうろついているうちにそのことを忘れて、ただ値段が安かっただけのこれらの安い食料品を購入してしまった。どうして自分はこんなに忘れっぽいのか、満ち潮のように心を浸す後悔の念に私は顔を歪めた。と、そのとき視界の隅に人影が入ってきた。ジャージを着た中年男性が二人、首に白いタオルを巻いて足踏みをして信号が変わるのを待っている。左右に揺れる奇妙な腰のくねり方からして、どうやら競歩をしながら街を歩いているらしかった。足踏みをするたびに手前の男性の不精ヒゲが生えた顎が上下し、続いて奥の男性の頬にしわの入った横顔もテンポよく揺れた。ジョギングやウォーキングをしている男性は多いだろうが競歩は聞いたことがなかったので、平静を保ちつつも私は好奇心の目で二人を眺めた。するとそれに勘付いたのか、手前の男性が鼻の筋肉をひきつらせながらこちらに向かって、じろじろ見るな、と言った。ヘリウムガスを吸ったような甲高い声だった。私はその声にどこか空恐ろしさを感じて、頭を下げると慌てて視線を反らした。
 信号が青に変わって、男性達は悠々と競歩を再開した。一時停車している車の前を、独特のリズムで足を踏み出しながら通りすぎていくその後姿に、私は目を見開いた。横で信号待ちをしているときは死角になっていてわからなかったけれど、二人はしっかりと手を繋ぎ合っていたのだ。手をつないで寄り添いながら競歩する中年男性二人なんて、言っちゃ悪いけれど奇妙だと思う。私は家に帰ったらこのことを家族に話してやろうと思った。けれども実際に家に到着したころには、そんなことはすっかりと忘れていた。そして家を出る前にハンバーグを作ろうと思っていたことすらもまた忘れて、鼻歌を歌いながら鶏のもも肉と大根の煮物を作り始めた。まあ、人間の記憶力なんて結局そんなものだ。

実体験ということで主人公は作者である私です。
登場人物と通さずに書くせいで、皮膚の裏側がなんだか痒くなってしまいました。

次のお題は【無】【貯金箱】【フグ】
追加ルールは【屋外でのお話にしてください】

11琥珀:2004/04/14(水) 23:38
皆さん、どうもです。
FCチャットで風杜さんに誘われて、のこのことやってきました、琥珀です。メシ屋(ごはん)ではkohakuの名前でお店に出ていました。ちょっとだけ、参加させて頂きます。

>おづね・れおさん

カードバトルのシーンが、何か頭にスッと入っていかず、書き方(読ませ方)をもう少し工夫された方がもっと良い作品に仕上がるなと感じました。
ですが、ただのカードバトルの話しだけで終わるのではなく、その後にしっかりとした別のストーリーが用意されていて、更に天使のアイテムを上手に使いこなしていますね。さすがです。

>にゃんこさん

お題の1つのソルトの意味が分からず、登場人物の名前?とか、塩?とかを思い浮かべ、ネット辞書で調べてみると「戦略兵器制限交渉、またその条約」の事だったのですね。博識だ。お勉強になりました。
短い文章の中に、とても深い話が書いてあり、また思想的なことも含んでいて、上手に仕上がっていますね。

>海猫さん

ソルトクリームが気になって、検索エンジンで調べたら本当にあるんですね。一度味わってみたいものです。
作品は、頭の中にすんなりと情景が浮かび、会話と描写のリズム(テンポ)が良いですね。沢山のお題も、全て無理なく使いこなしているので、プロット段階でしっかりと物語が出来上がっているのでしょう。小説をかなり書き慣れていると感じました。

>セドナさん

しっかりとしたオチはショートの真髄ですね。三語はショートショートに向いていて鍛錬になりますよね。ショート的な話を、つなぎ合わせていくと、長編小説にもメリハリが出てくるのかな? なんてこの作品を読んで思いました。

>のりのり子さん

こちらに参加しようと思い、書き上がったらのりのり子さんが投稿されていました。
同じお題での投稿になりますが、書き上がってしまったので投稿させて下さいね。(ぺこり)
作者自身の視点で情景が描写されていて、お題を上手にこなしています。話の内容も「ありそうでなさそうなエピソード」が日常の何気ないちょっとした驚きを際だたせていますね。

●海猫さんのお題 「信号、満ち潮、後悔」+「作者自身を登場させる」

 月が満ち潮は引いていた。眼下に広がる海辺で僕はひとり佇んでいた。彼女のことは、もう後悔はしていない。それは遠い昔のお話。

 命の捨て場所を求め辿り着いた夜の海。季節は秋。彼女から別れ話を切り出され、途方に暮れていた。彼女が全てだった。生きていくたったひとつの希望だった。だから僕は死を選び夜の海にたどり着いた。
 晩秋の海は予想以上に冷たかった。深い悲しみで固まった決意も、冷感で心臓が痛み訴え、たった30秒ほどで海から這い上がっていた。僕の深い決意なんて、冷たい水にあっという間に溶けてしまった。「あなたの勇気のないところが嫌いなの」と彼女に言われた別れの言葉がみごとに的をついていた。
 砂浜から一歩づつ進んで命を消耗させていくことは不可能だと思った。だから次に選んだ場所は断崖だった。真下にはあの冷たくて暗くて深い晩秋の海がある。岩礁も突き出ているだろう。ここから飛び込めば、一気に決着をつけられる。僕に勇気があったことを最後に彼女に解らせることが出来るだろう。

 幾度となく下を覗き込んだ。荒波が絶壁にあたり凄まじい音が聞こえる。潮が舞い、肌を鼻腔を刺激する。性根から勇気を持っていない僕は、やはり30分ほど立ち竦み覚悟がつかずにいた。すると背後から人の気配を感じた。振り返ると、僕とほとんど年差がない女性。そんな彼女は僕が飛び込むの順番待ちをしている様子で、ずっと僕の動きを見守っていた。

 それが今の彼女との最初の出会いだった。心の信号が赤から青に変わった瞬間だった。

 次のお題は、のりのり子さんが出した
 【無】【貯金箱】【フグ】 追加ルール【屋外でのお話にしてください】でお願いします。

12くろ:2004/04/15(木) 01:17
以前、三語鍛練にたまーに参加させていただいていた者です。
またたまーに参加させていただいてもよろしいでしょうか…。
重複してしまっているのは承知しておりますが、書いちゃったので投稿させてください。すみません。

>琥珀様さま
はじめまして。こ、これって、実体験なんでしょうか(作者自身を登場させる、という条件を照らしあわせると)? すごい。ロマンティック。情熱的。
「月が満ち潮は引いていた」と、「満ち潮」のキーワードをうまく分解して使っていますね。
全体的な感想を言うと、<勇気とはなにか>について考えさせられます。自殺って、勇気があることを証明する行動なのかどうか。わたしの個人的な思いを書くと、例えば戦争に行って戦おうと決意するのも<勇気>で、絶対戦争に行きたくない、と徴兵逃れをするのも<勇気>だと思う(世間様の評判は悪いだろうけど)。だからこの主人公は生き残る勇気をもってたって思います。主人公が新たな出会いを通じて変わっていく様子とか、この先が楽しみですね。

海猫さんからのお題 「信号、満ち潮、後悔」
追加ルール 「作者自身を登場させる」(フィクション、ノンフィクションともに可)→わたしはバリバリのノンフィクションでいきます。

信号が変わって、それを待ちわびていたたくさんの人々が広い道路に繰り出していった。朝、駅前の信号は出勤する人たちでふくれあがり、駅からビジネス街へ、一方通行みたいな人の流れができる。横断歩道はじわじわと人の波に染まっていって、まるで満ち潮の時の砂浜みたいだった。
一人の女の子がその集団から抜け出て、大きいバッグを揺らしながら走っている。ヒールのついたサンダルか何かをはいていて足もとがおぼつかず、危ないなと思っていたら案の定ちょっとつまづいた。でも、女の子は気にせず走り続けて一番先に横断歩道を渡り切った。

と、ここまで書いてから、わたしはその文章を消してしまった。駅前の少し高い建物にある喫茶店から下の信号を見下ろして、こんな光景をイメージしてみたのだ。でも、その女の子はなぜ走っていて、なぜつまづいたのかがわからない。「コーヒーのおかわり、いかがですか」朝のモーニングサービスの時間帯からから二時間も居座っているわたしに、ウェイトレスの女性はくりかえしくりかえし、おかわりをすすめてくれる。もう三回目だ。「結構です。どうもありがとう」
わたしはさっき書いた文章を消してしまったことを後悔した。この女性をあの先頭の女の子にして話を続ければよかった。
席を立って勘定を済ませ、わたしが使っていたテーブルを片付けはじめている彼女を見た。また明日同じ時間にくればいい。そう思って、わたしは店を出た。

次のお題は(のりのり子さん御提示の)【無】【貯金箱】【フグ】
追加ルールは【屋外でのお話にしてください】

13安息仮面:2004/04/15(木) 18:20
ごぶさたしています。こんなところに三語即興が移転していたとは・・・不覚でしたw。
さっそくですが、1本書かせていただきました。お目汚しですが、ひとまず。
お題はのりのり子さんの【無】【貯金箱】【フグ】追加【屋外でのお話】です。

***以下、本編です***

からからに乾いた夏の昼下がり。わたしと父は防波堤に来ていた。
朝から釣りをしているけれど、釣れたのは小さなフグが一匹きり。気付けばエサ箱はからっぽ。
「釣れないね」
わたしがそういうと、お父さんも
「つれないね」
といった。
ここまで来るのに使ったバス代で私の貯金箱もからっぽ。お父さんと私の心も同じだった。わたしの手は父にひどく強く握られている。痛いくらいだったけど、我慢した。
ザブリ、と飛び込むと冷たい水と咽るような潮の味。私は無へと回帰できるような気がしていた。

******
うーん、ちょっと散文すぎたでしょうかw。
次回御題は差し支えなければ【敗北】【回転】【SF】追加ルールは【江戸時代が舞台でお願いします】
それでは、お邪魔しました〜。

14セタンタ:2004/04/15(木) 22:19
こんばんは。まずは感想から。
>安息仮面さん
 この作品は「わたしとお父さんの親子心中」と考えるのか、最後に海に飛び込んだ「私」はフグなのか、迷いました。多分、前者であろうと考えました。父と子の会話から「わたし」はそれ程年齢がいっていない筈ですが、そうすると、「無へと回帰」という難しい観念がこの子に思いつくのだろうか、疑問です。最後の1文までの情景が悲しいけれど、とてもいい感じだったし、最後の1文だけを切り取って読めば、私の好きな文です。が、つなげてしまうと、私にはわかりませんでした。ごめんなさい。

お題「敗北、回転、SF] 追加「江戸時代が舞台」

 この3日間というもの、おいらは箱根の山中をさ迷っていた。あと2日もしたら大岡様のお白州(しらす)でお裁きがある。小町ちゃんや大岡様をあっと言わせるようなお宝を探さないと、彦次のヤツに小町ちゃんを取られてしまう。彦次は手先の器用なヤツで、からくり人形を作ったらしい。それなのに、おいらときたら鰻を焼くのは上手いが、そんなのじゃ太刀打ちできやしねぇ。おみくじに「箱根の山に求めるものあり」って書いてあったからここに来たが、何にも見つからなかった。おいらは、ふてくされて大の字になって寝っころがった。
 ゴン! 鈍い音がした。慌てて飛び起きた。おいらは誰かの頭の上に寝転んだらしかった。「ふわあぁぁぁ〜っ、誰じゃ、わしのスリィーピングを邪魔するヤツは?」そいつはむっくりと起き上がった。金箔の髪、赤い大きな鼻、でかい体。「て、ててて、」歯がガチガチと鳴って声にならなかった。そいつはじろりとおいらを見た。秋刀魚のように青い目だった。
 天狗だ、それもバテレンの天狗。おいらは逃げようとしたが、腰が抜けちまった。天狗はむんずとおいらの腕をつかむと、大きな口を近づけてきた。食われる!、おいらは必死に南無阿弥陀仏を唱えた。
 食われたのは、鰻だった。バテレンの天狗は目を患っていて、鰻を食えば直ると聞いてきたらしい。で、おいらは鰻を捌いて、タレをつけて焼いた。どこにこんなに鰻があるのか訳はわかんないが、とりあえず、おいらは食われる事はないらしい。おいらは、彦次とおいらのどちらかが小町ちゃんと祝言を挙げられるって事や、皆があっと言うようなお宝で勝負が決まる、事などを話した。天狗は鰻丼を食いながら、ふんふんと聞いていた。たらふく食った後で、天狗はにやっと笑った。
「よし、この鰻の礼におまえに良い物をやろう」そう言って天狗が懐から出したのは、小さな扇だった。「SFじゃ」「え、えす、」「シークレット・フアン、秘密扇じゃな」「し、しーくっれくれ、な、何ですか、その秘密扇ってのは?」天狗は扇を開くと、からの丼に向かって風を送った。すると、丼には銀シャリと鰻が載っかっていた。ほかほかと湯気が上がり、ぷんと香ばしい醤油の匂いがする。おいらは飛び上がって喜んだ。これで小町ちゃんはおいらの嫁さんだ!!
 
 お白州では、彦次のからくり人形がくるりと回転した。丁稚小僧が町娘に変わり、カタカタと歩いてくる。小町ちゃんはうっとりと見ていた。見てろよ、彦次、この勝負に敗北するのはおまえだぜ。
 おいらの番になった。おいらは秘密扇を取り出した。「さあさあ、ご覧あれ。この扇を一振りすると、ああら、不思議」そう言っておいらは扇を開いた。小町ちゃんがこっちを見ている。可愛いなぁ。小町ちゃんに見とれて、ちょっと手元が狂った。扇の風は小町ちゃんに向かって吹いていった。
 ふわっと、小町ちゃんの着物の裾が持ち上がる。真っ白な綺麗な足があらわになった。「きゃあ!」と言って小町ちゃんが裾を両手で押さえようとする。大岡様もお侍も、みんな小町ちゃんの足に釘付けになった。てえへんだ、赤い腰巻きがひらりと。
 ひらりとしたのは、白い布だった。小町ちゃんの足は真っ白で綺麗だった。黒々としたスネ毛はあったが。お白州にいた男達は皆、その場で卒倒した。小町ちゃん1人を除いて。おいら達が気が付いた時は、小町ちゃんの姿は影も形もなかった。

15セタンタ:2004/04/15(木) 22:36
スミマセン。やっぱり、今回も長かった(^_^;)
でも、ぶはっ、と笑って頂ければ幸いです。江戸時代でSFという言葉。SFは違う意味で使わせてもらいました。
(バテレンは宣教師の意味だそうですが、ここでは外国人の、という意味で使いました。異人の方が良かったかなあ)

次のお題は「チャリ(自転車でも可) 辞書 ドア」
  追加は「伝えたい想い、を書いてください」で、お願いします。

16Triple-I:2004/04/15(木) 22:40
 お久しぶりに三語即興文の本隊に参加します。自分でサイトを立ち上げたり、「電撃」の応募原稿が40枚近くオーバーしたり、スクエニ用の原稿を全部棄てたり、祖母の納骨に行ったり、そのほか諸々の雑事で忙しかったTriple-Iです(今でも、この忙しさは継続中です)。

>琥珀さん
 悲哀を感じさせて、それでいて何処かコミカルな、面白い作品でした。
 この後のことを考えると、ちょっと面白いラブコメになりそうです。

>くろさん
 うーん……。
 実際のところ、お題の消化に気を取られすぎた、って感じですね。純粋にノンフィクションにするよりは、ノンフィクション風味のものにしたほうが良かったかも。

>安息仮面さん
 自殺ネタですか……。
 イメージ的に良かったのですが、ちょっとくらい捻っても良かったかな? と思います。

>セタンタさん
 時代劇+SFという感じですね。コミカルで面白かったですが、小町ちゃんがちょっと気になります。一体彼女は、元々から彼だったのか? 或いは、秘密扇の所為で、彼となってしまったのでしょうか?(僕は後者だと思ったのですが)

 お題は被りますが私の駄文を一つ。
お題:【敗北】【回転】【SF】
追加ルール:【江戸時代が舞台】

 私の元に、彼が再び現れたのは、本当に蒼い、美しい月の出ている夜であった。
「本当に、良いのか」私は彼に訊いた。
 彼の答えは、即答だった。
「はい」素早く頷き、そして、
「私はいずれ、遠からぬうちに死ぬでしょう」
 そこまで言って、彼は二、三度、強く咳をした。
 ゆっくりと顔を起こした。そのひらめ顔も、その日ばかりは、極めて美しく見えた。
「私は、土方さんや近藤さんの、足を引っ張ってばかりです。あの時も私は、この発作の所為で――」
 息苦しそうに言う彼の姿は、極めて痛々しかった。だが彼は、そんな事などお構いなしのように、
「……私は、病などに、敗北したくはありません……」
 そうだ。
 私は結局、この何処か切なげな顔に惹かれたのだ。
 この男なら――
 この男なら、永遠に私の伴侶となってくれる。ずっと、同じ所を回転しつづけるようなつまらない永久を、一緒に乗り越えてくれる。
 私は、非常に切なくなった。
「もういい……」私は言った。
「もういい。これからは、私と共に行こう」
 そう言って私は、彼の元に歩み寄った。
 私は、彼の目を、最も間近なところで見た。
 ひらめ顔だが、美しく済んだ瞳。だがそれも、『私』が彼の首筋に触れれば、紅い光を持つ、闇の者の眼へと変わる。
 彼は、ゆっくりと右手を挙げ、私の頬に指を触れさせた。
 その指先が、『SF』と書いた。
 私の為の儀式であった。私に魂を捧げることを、了承した証。
 私はゆっくりと、彼の首筋に牙を立てた。

 ちょっと長すぎました。
 一応新撰組&吸血鬼ネタです。因みに「彼」のことですが、歴史学者の間では、ひらめ顔だったというのは常識であるようです。
 被ってしまったので、次のお題はセタンタさんの

 お題:「チャリ(自転車でも可) 辞書 ドア」
 追加:「伝えたい想い、を書いてください」

 という事でお願いします。

17Triple-I:2004/04/15(木) 22:44
申し訳ない。一つ間違いを発見しました。

>ひらめ顔だが、美しく済んだ瞳。だがそれも〜

>ひらめ顔だが、美しく澄んだ瞳。だがそれも〜
という事で、よろしくお願いします。

18森羅万象:2004/04/16(金) 03:39
>安息仮面さん
 おしい! というか、文章は好きです。最期だけ、どこか浮いてしまっているような。
 あのままキャラが破綻しないで描けていたら、とてもこわい、いい作品になったかもしれません。

>セタンタさん
 面白い! これはいいですねえ。軽妙で、活き活きしてます。でも、ちょっと小町ちゃんのことだけが若干、謎でしたが。
「秘密扇」は、てっきり時間を戻すものかと思っていたのですが……秘密を暴く扇なのかな、とも思いました。

>Triple-I さん
 SFが謎です。でも耽美な雰囲気もあって、乙な作品でしたが。
 私は歴史にゃ疎くて全然わからないんですが、でも沖田総司(? あってます?)があんまり美男子じゃないってのはよく聞きます。
 ひらめですか(笑。


「チャリ、辞書、ドア」追加テーマ 「伝えたい想い」

 ヒントとなる紙を彼女の机にそっと忍ばせることにした。一日ごとに違う事柄が書かれた紙を。悪戯好きな彼女に仕掛けた、ちょっとしたジョークのつもりだった。「それは図書館にあります」「厚い本です」「あなたが好きな食べ物に関係があります」「藁という言葉が含まれています」「その本には色々な言葉が記載されています」「ビタミンAが豊富です」
 三日目、三枚目のメモをそっと彼女の机に入れたあとのことだ。
「ねえ、あたし、ちょっと気味が悪いんだけど」
 チャリを手で押しながら、彼女が眉をひそめた。部活動が終わり、空はすっかりたそがれている。僕も彼女も同じ剣道部に所属していて、おさななじみの僕らは一緒に帰途につく。
「え、なにが――?」
 最近、誰かの視線を感じる、ストーカーかもしれない、そう彼女が言い出したのは受験からくるプレッシャーだろうとタカをくくっていた。心配なら僕がガードマンになるよ、と言ったのは、そういう気易さもあった。
「机に」と彼女が言った。「机に、なんかヘンなメモが入ってるのよ、最近」
「え――?」
「なんかね、もうキモい。もしクラスメイトだったらと思うと吐き気がする……」
 彼女の家のそばまで来た。僕は「気にすんなよ!」と明るく言って、チャリに乗った。ペダルを踏む足に力を込める。
「ねえ、どこ行くの? 家と逆――!」
「忘れ物ッ!」
 ジョークで始めたことだった。だが、本の山に埋もれた、たった一枚の紙切れだけは、正真正銘の気持ちだった。だからこそ、決して彼女に見つかってはいけないのだ。
 僕は学校までの道程を、息を荒げながら乗り越えていく。学校の玄関が、図書館のドアが、まだ開いていますように――!

(了)

19森羅万象:2004/04/16(金) 03:42
ええと、ではお題をば。
「ごま豆腐」「チュロス」「デザート」(注:デザートはどんな意味でも可)
追加テーマは「ハードな感じ」で。

20森羅万象:2004/04/16(金) 14:10
あああっ、「辞書」が抜けてました。すっかり書いたつもりになってました(汗。
失礼いたしました。

末尾のほう、

だが、本の山に埋もれた、辞書の中のたった一枚の紙切れだけは、正真正銘の気持ちだった。

に変えてください。ごめんなさい。

21<削除>:<削除>
<削除>

22セドナ:2004/04/18(日) 00:41
>森羅万象さん
 彼のキャラがなかなかいいですね。彼女は気持ち悪いって言ってますが。こういうイタズラっぽい告白の仕方の方が、かえってあとあといい思い出になったりするんじゃないでしょうか。遙か昔のことなので思い出すのに苦労しましたが、思春期の頃って、電話のベルを一回だけ鳴らして切ったりとか、帰り道を待ち伏せしたりとか、けっこうみんなストーカーじみたことしてましたよね。彼にはこれに懲りず、また新たな手を考えてもらいたいです。
ただ、彼が机の中にひそませた数々のヒントがいったい何の本を表しているのか、私にはわからなかったのですが、それが少し心残りでした。

お題「ごま豆腐」「チュロス」「デザート」(注:デザートはどんな意味でも可)
追加テーマ「ハードな感じ」


 スフレと俺はアンコーの街の同じスラムで育った。親のいない俺たちが住むことを許されたのは、スラムの中でももっとも寒い、工場裏のパイプ置き場だった。一日中働いて、給料の代わりに一つまみの金平糖をもらい、帰りに豆腐屋でもらったごま豆腐のクズをおかずにして、二人でなんとか食いつなぐ生活だった。
「いつかチョコレートをどっさり食べてみたいね」「ああ、そうだな」
 舌の上で溶けてなくなるまで金平糖をころがしながら、俺たちはいつまでもそんな夢を語りあった。
 しかし、そんな俺たちにも転帰が訪れる。
 南の海に浮かぶ「デザート・アイランド」と呼ばれる島。何でもそこに行けば世界中のスイーツにただでありつける、という夢みたいな話が俺たちのスラムに入ってきた。
「世界中のスイーツかぁ……僕は栗まんじゅうが食べてみたいよ」「俺はチュロスだな」
 俺たちに迷いはなかった。スフレ、俺たちの夢を叶えに行こう。いざ、デザート・アイランドへ。

 デザート・アイランド。世界中のスイーツが集まる島。
 夢を抱いて、その島へ降り立った若者たちは皆、口を揃えてこう話す。
「あそこには何もなかった。ただあるのは見渡すかぎりの砂漠だけだ」
 デザート・アイランド。見渡すかぎりの砂漠の島。
 その島が大きな砂糖菓子でできていることはまだ誰にも知られていない。
(了)

 ……お題の「ハードな感じ」を意識して、硬質な文体を目指したつもりが、あらすじみたいになってしまいました。反省。

次のお題「銀河鉄道の夜」「注文の多い料理店」「雨にも負けず」 追加ルール「一行詩のようなタイトルをつけてください」でお願いします。

23上珠:2004/04/18(日) 03:11
しばらく来ていないうちに、こんなに話が進んでいるとは……^^;
嬉しい悲鳴を上げつつ、お邪魔させていただきます〜。

>セドナさん
二重のオチですね。こういうオチの付け方は個人的に好きです^^
ですが、『俺』とスフレはちゃんと夢を叶えることができたのかどうかがはっきりしないのが、チョット気がかりですね。
どこまでを読者の想像に任せるか、というのはとても難しいことでしょうが、この場合だったらちゃんとした結果が知りたいなぁ、と思います。


お題:『銀河鉄道の夜』『注文の多い料理店』『雨にも負けず』
追加:『一行詩のようなタイトルを付けてください』

【笑顔という名の鎖に縛られて】

「『雨にも負けず風にも負けず』、ここに宮沢賢治が込めた想いというのは――」
 体育の後の国語の授業中ほど、居眠りするのに適した時間はない。既にクラスの八割以上がそれぞれの夢の世界に浸っていた。そして、俺も間もなくクラスの大多数の仲間入りを果たすはずだった。が、突然背後から肩を叩かれ、俺の目の前で半分具象化していた夢の世界が霧散した。後ろを振り向くと、まず視界に入ったのが差し出した八つ折りのルーズリーフである。
「神田が渡せってさ」
 そう言われて最後列の神田の方を向く。だが、神田は既にクラスの大多数の仲間入りを果たしていた。
 メモを渡してくれた後ろの奴に小声で、ありがとう、と言うと、俺は神田のメモを開いた。「放課後『注文の多い科理店』に行こう」と書いてある。……高校生にもなって『料』と『科』を間違えるな。

「え、ノに木じゃなくて米なの?」
 『注文の多い料理店』へ向かう途中、誤字を指摘された神田は、ははは、と照れ笑いを浮かべた。
「まったく、お前、一応高校生だろ。で、そうだ、『注文の多い料理店』って何?」
「店の名前。先輩に教えてもらった」
「じゃあ、近くに『銀河鉄道の夜』って店もあるのか?」
「は? 何それ」
 きょとんとした神田の顔を見て、俺は少々後悔した。
 神田は高校生にもなって『科』と『料』を素で間違えるような奴だ。宮沢賢治の著作など知っているとは思えない。
「……まぁいいや。お前さ、その店に行ったことが――」
「あ! あった!」
 突然神田は立ち止まり、目の前の店を指差した。これが『注文の多い料理店』らしい。
 見た限りでは全然普通の店だが……、と俺がまじまじと店を眺めていると、神田が「早くしろよ」と店の戸を開きながら呼びかけた。
 中に入ってカウンターに座ると中から店の主人が現れ、威勢のいい声で「君達は高校生かい?」と尋ねた。
 俺は「はい」と答えると、主人は間髪入れずに一枚の紙と赤と黒の二本のボールペンを差し出した。俺と神田は互いの顔を寄せてそこに書いてあるものを読んでみる。
「えーと、『マルを記入してください。米の種類、秋田産コシヒカリ、岩手産コシヒカリ、……米の炊き加減、硬め、やや硬め、普通、……味噌汁のダシ、昆布、鰹節、……味噌汁の味噌、赤味噌、白味噌、……』」
 どれだけの質問があるか数え切れないが、その数は軽く百を超えている。
 なるほど。確かに『注文の多い料理店』だ。

「いやー、君たちは二週間? いや、三週間ぶりのお客さんだからね。おじさん、頑張っちゃうよ!」
 ニコニコの笑顔で主人が言った。
    (了)

ちゃんと追加ルールはクリアしているでしょうか?^^;

次のお題:『辞書』『コーラス』『遺跡』
追加:『中世ヨーロッパを舞台にする』でお願いします。
最近、難しいお題で泣きを見ているので、たまにはどうでしょう?

24海猫:2004/04/18(日) 10:30
 長文防止の為、他の方への感想は天井桟敷へ。

>上珠さん
 タイトルの如く、店主にそんな笑顔向けられたら逃げられませんね。僕も洋服とかパソコン買う時接客されるの凄く嫌なんですよ。何か買わなきゃならないような、義務を背負わされた気分になるので。そういう時はわざと無愛想にして追っ払うんですが。ところでお題の使い方が、もう少し捻っても良かったと思いました。そういう意味では、お題の消化に追われたという感が否めません。ちょっとマヌケな神田のキャラも、もう少し活かしてほしかったです。

○お題:「辞書、コーラス、遺跡」
○追加:「中世ヨーロッパを舞台にする」


 この子は奇形の忌み児で御座いました。近親相姦などという背徳の罷り通る時代の犠牲者にして、賑わいが移ろい、また私のようなモノが棲みついた遺跡に捨てられた、哀れな幼子で御座いました。ところがこの子は、私のようなバンシーの姿を見ても恐れもせず、私の後をついてくるので御座います。私はほとほと困りましたものの、ついかつて己が人の子の母であった事を思い出し、この子の世話をする事にしたので御座います。
 この子は言葉を喋りませんでした。それは口が利けぬのではなく、言葉を知らぬようなので御座います。私はまず言葉を教えるため、何事となく話し掛け、また地面に文字を書いてはそれを教え、辞書を枕に眠らせる事にしたので御座います。ところが一向にその子は言葉を話さず文字も書かず、ただ私を見て切なくなるような笑顔を向けるばかりで御座いました。
 ある時――そう、それが一週間前の事で御座います。私が目を離した隙に、この子はいなくなったのです。しかし私は愚かにも、また森に遊びにでも行ったのだろうと思っておりました。ところが夕刻過ぎてもこの子は帰らず、とうとう心配になった私は、森の中を駆けながらこの子の姿を探す事にしたのです。
 ――が、私はそこで凍りつきました。何と言う事でしょう、私はこの子の名を呼ぶ術を知らなかったので御座います。私は、ああ私は……――この子に、名前すら与えていなかったので御座います。そして途方に暮れた私の目に、この子の姿が飛び込んで来たので御座います。身体中を殴りつけられ、血に塗れた、この子の姿が。
 この子は、森向こうの教会に行っていたようでした。この子は言葉が話せぬ故か、教会から聞こえてくるコーラスに心惹かれているようで御座いました。いつも定刻になると聞こえるそのコーラスに、この子は微笑みながら耳を澄ませていたのです。そしてその日、とうとう我慢し切れずに街へと赴いたこの子は……。この子の面妖なる姿を見た人間がどんな仕打ちを与えたかなど、私は想像したくも御座いませぬ。
 私が駆け寄るとこの子は、うっすらと目を開き、私を見ました。そして、何事か呟いたのです。私は急いでその口元に耳を寄せました。……しかし、その口からはもう、呼吸すら聞こえませんでした。今一度見たこの子の死に顔は――……何とも穏やかな、笑顔で御座いました。
 私は泣き続けるでしょう。一時でも涙を忘れさせてくれたこの子の笑顔を思い出し、私は泣き続けるでしょう。またこの子のような子供がいる限り、私は泣き続けるでしょう。そして人間達は、そんな私の存在など、知る事もないでしょう。


※備考:バンシーとは、ゲール語で「妖精の女」を意味し、家に住み着いて死者が出る時には泣いて教えてくれる。身篭ったまま死んだり、出産中に死んだ女性であるという伝説があり、バンシーの養子となる方法も伝えられている。
 以上、某サイトからの情報の概要です。一応参考までに。
 次回は、
○お題:「花束、太陽、塵芥」
○追加:「作者オリジナルの諺を挿入する」でお願いします。

 ……にしても長いな。短くしようと心掛けているつもりなのに……。

25にゃんこ:2004/04/18(日) 14:06

>>海猫さん
このお話はよくできているなぁ……。
自分が霧のかかったようなグレーゾーンを、とぼとぼと歩いているような気がしました。そして、いつのまにか迷い込んだ森の中で誰かに聞かされたようなお話です。その誰かというのがバンシーなのでしょう。
中世ヨーロッパでは、近親相姦などもよく行われていたというようなお話も聞いたことがあります。作者さんはそこからお話を膨らませたのでしょうね。奇形の児を育てる悲しみの女バンシー。子供には何の罪もありません。子供の哀しみ女の悲しみが、よく伝わってきました。


お題:「花束、太陽、塵芥」
追加:「作者オリジナルの諺を挿入する」

―― スカートの中の経済学 ――
「私は鏡を持っていただけだ」
植木は著名な経済学者であった。テレビのコメンテーターなどもしており、その真面目そうなキャラクターは視聴者の信頼を得ていた。その彼が迷惑条例で捕まった。わかりやすく言えば、エスカレーターで女子高生のスカートの中を手鏡で見ようとしたところを、現行犯で警察に捕まったのだ。
「教授があれでは困るよ、まったくゴミだよ」
とたんに彼が教えていた大学の生徒たちには、塵芥のような扱いを受けた。彼は最初のうちは容疑を認めていたが、じっさいのところ覗こうとはしていたが、まだ覗いてはいなかった。すなわち、まだ犯罪を犯していなかった。それで裁判を起こしたのであった。裁判は、彼の有利に運んでいった。だが、裁判が有利に運べば運ぶほど、人々からは汚いやつだとののしられ、彼の社会的地位は落ちていった。

「スカートの中の経済学」という本が書店に並んだのは、彼の存在が忘れ去られたころだった。本のカバーには、題名の下に男の写真があった。髪を紫に染め、サングラスをかけていた。それが、あの植木とは一見するとわからない。しかし人々はすぐに、男が変身した彼だとわかった。本の内容は、女子高生のショーツが使用前にくらべ、使用後でどれほどの付加価値が付くのか、などが書かれていた。そこから、本来の経済のことが、判りやすく書いてあるのだ。
たちまち彼は話題の人になった。もともと迷惑条例などは軽犯罪であり、テレビ局は争って、彼の出演依頼に走った。またまた彼はコメンテーターとして活躍するようになった。一皮むけた彼は、エロ用語を教養というオブラートに包んで、人々を笑わせて人気者へとのし上がっていった。それから数年後に彼は財務大臣になり、その後ノーベル経済学賞まで受賞した。そのときに彼は、授賞式で花束を抱えながら、「太陽はやっぱり太陽」と述べた。しかし、そんなおごりにも、彼をいさめる者はいなかった。
―― 了 ――

次のお題「化粧」「季節風」「街」
追加「せつない話にする」

26森羅万象:2004/04/18(日) 15:13
>にゃんこさん
「スカートの中の〜」というと某フェミニストでしょうか?(笑 いえ、あちらは女性でしたね。風刺がきいていると思います。にゃんこさんは名前と裏腹に黒いユーモアが得意なんですねえ。面白かったです。


「化粧、季節風、街」追加テーマ「せつない話にする」

 彼が私家版の辞書を作りはじめたのには、ただ一度だけ、私淑するD博士に「そんな言葉は辞書に載っていない」と言われたからだった。在野の錬金術師にとって、博士の言葉は絶対だった。
「人生は葉脈に似て多岐に渡る」と彼はいつも自戒していた。そのあと心の中で「葉は太陽の光を受けいつも瑞々しい、だが葉は幹の一部分に過ぎず、樹が冬を迎える頃には塵芥に還るのだ」と呟くのだった。彼のその言葉は自虐ではなく、ユーモアだと――おそらく本人だけがそう思っていた。
 彼の辞書が「季節風」の項に辿り着いたときのことだった。錬金術師的対応としては、街の無知蒙昧な連中が口にするが如き「シルフが気まぐれに大陸を眺め渡る」だの「妖精のコーラスがさざなみとなって、いずれ溢れ出すのがそうだ」だのという説はばっさりと切り捨てたいところだった。彼は島から出たことがなく、だからこそ大陸のことは伝聞の形でしか知らなかったのだが、おそらく温度差がこれを生み出しているのだろう、風とはつまり空気の流れで、流れとは高きところから低きところに向かう、自然の摂理に他ならないのだから、と考えた。実際に、そう記すことにした。
 だが、彼は真実を求める錬金術師である前に、また理想を追う一介のロマンチスストでもあった。簡潔に事実を記すべき辞書に、推測と推論、世界のあるべき指針で化粧した文章を、つらつらと書き連ねた。黴の生え始めた五大元素を持ち出して、書き上げて、それから笑みが漏れた。
――私は、辞書に載らない言葉しか載っていない辞書を作り上げようとしているのだ。だから博士よ、もうあんな台詞は言わせない。
 *
 その辞書が発見されたのは、埋もれていたメガリスの、祭壇の傍らだった。メガリスというのは、巨大な石の遺跡のことである。ストーンヘンジといったほうが通りがいいだろうか。
 それが辞書だと思われたのは、しかし最初だけであった。半ば朽ちかけた表紙に「ユニサイクロペディア」とあったからだが、しかしこれは辞書の体裁を借りた散文詩であろう、ということに落ち着いた。作者は不詳である。(了)

事故ってなければ次のお題は
「黒」「赤」「金」
追加テーマは「ストーリー重視」で。

27おづね・れお:2004/04/19(月) 02:12
おづねです。

》森羅万象さん
当時としては十分に「科学」の考えを持っていたのに、こうして歴史の空白に埋もれてしまう悲しさがありますね。発見されても散文詩であるという評価しかしてもらえないということは、きっと同時代のほかの人がもっと優れたものを残したんじゃないだろうか……なんて考えました。
博士への敵愾心(?)という動機が、もしかしたら偉大な足跡につながったの「かもしれない」ということがおもしろく思えました。人の原動力って案外ちっぽけなところにあるのかもしれませんね。

では、お題は森羅万象さんの「黒」「赤」「金」追加テーマは「ストーリー重視」で、です。
★次のお題は「MS」「端末」「戦い」追加ルールは「過去または未来のお話にしてください」です


『金魚』(三枚)

「なあなあ、なんで赤いのに金魚っていうん?」
 聞きたがり屋の聡子が、真新しいピンクの浴衣の胸の前でうちわをぱたぱたやりながら聞いてきた。肩にかかっていた黒い髪がふわっと浮いて、汗の玉を二・三浮かべた頬をなでていく。こいつの肌ってけっこう白いんだな、と俺はちょっと不謹慎なことを考えてしまう。
 って、うわ、お前、胸元がはだけかけてるじゃないかよ。中学生にもなってそんな無防備なことしたら駄目だろ。
「知らねーよ。それよりちゃんと前、直せ」
「ねーねー、金魚には黒いのもいるじゃない。金色なのはいないの、なんでかなあ」
 金魚すくいの夜店のおっちゃんがこっちを迷惑そうに見ているのが視界の端に止まった。しょうがないので俺は聡子の手を引っ張ってその場を抜け出した。
「祥太は勉強できるから何でも知ってるでしょ」
 夜店は神社の裏手の空き地に立ち並んでいたので、俺たちは人気の少ない境内に移動していた。境内には、納涼祭のぼんぼりも、夜店のような派手な紅白じゃなく、もとは真っ白だったらしい黄ばんだ紙の張ってあるのが四つ五つといったところ。ちょっと離れると人の顔もよくわからないくらいの頼りない灯りだ。
 そのうす暗さに俺の緊張はちょっと高まっていた。
「俺なんてまだまだ、何にも知らないよ」
「ふうーん。たくさん本を読んでるから、なんでも知ってるのかと思ってた」
 聡子は狛犬の台座によいしょと寄りかかって、またうちわをぱたぱたやり始めた。ときどき俺のほうにも風を送ってよこしたりして。
「お前さあ、胸がはだけるからやめろって」
「祥太は何でも知ってるって思ってたな。――私の気持ちとか」
 東の空に満月が昇りはじめていた。木立の上から差してきた月光が聡子の肌を青白く燃えさせた。俺はこのとき雰囲気に呑まれていたのかもしれない。つい言ってしまってから少し慌てた。
「知ってるよ」と。
 ぱたぱたと聡子が送り込んできている風がさっきから俺の浴衣の首筋にかかっている。そのせいで俺の胸元もはだけ気味になっている。聡子は自分自身の浴衣の乱れを直そうともしていない。もしかして、さっきからわざとやってないだろうか。
 聡子の視線が俺の胸のあたりに凝らされているのをどうしても意識してしまう。俺は無言で聡子に近づいた。聡子も何も言わず、そしてずっと俺の胸のあたりを見ている。
 少しずつ、はだけかけた胸から聡子の視線が這いのぼってきた。俺の鎖骨に月光のしずくが青くたまっていて、そこをしばらく見つめているのだった。 
「なんだ、よかった」
 やっと俺の目を見て、聡子はそう言った。
 俺たちの聖なる儀式は、月光の洗礼を浴びて――。

−了−


※この年代では、女の子のほうが男の子よりも成熟が早いのじゃないかなあと思って、そのあたりを書いてみたかったのですが……。
 ちょっと恥ずかしい感じになってしまいました。修業が必要です(^^;>

28安息仮面:2004/04/19(月) 14:26
こんにちわ。

>おづねさん
おひさしぶりです。淡い思春期のお話ですね。お題の消化が不自然なく、かつ物語にも溶け込んでいるので好印象をうけました。
ピンク、青白い、真っ白、黄ばんだ、紅白などなど、お題以外の色も物語中に散りばめてありますので、工夫されたのではないでしょうか。

では、おづねさんからのお題【MS】【端末】【戦い】追加「過去または未来のお話」で書かせていただきました。

*ここから本編です*

 明るい太陽光が差し込むテラスのベンチに腰掛けた老人の男性が二人、なにやら楽しそうに話をしている。
「・・・・・・キミはMSというとやっぱりモビルスイーツかね?」
「あぁ、そうじゃね。ダンガム世代としてはMSと聞くとモビルスイーツを思い浮かべるのぅ。それもファーストシリーズじゃ」
「ワシも最終回のアメ・ロレイとラング・ド・シャアの戦いは今も目に焼きついとるよ」
 20世紀末に初放映されてからというもの、続編につぐ続編、リメイクにつぐリメイクで今もなお金字塔を打ち立て続けるアニメーションとしては異例のウルトラスーパーヒット『機動製菓ダンガム』。宇宙空間を舞台に白兵戦用人型製菓が繰り広げるリアルな戦闘シーン、子供向けとは思えない複雑な人間関係がストーリーに密接にからんでくる大傑作。ダンガムのキャラクター商品も当然ながら大ヒット。中でも前代未聞の製菓プラモデル、通称“ダンプラ”は当時の少年たちにとって憧れの存在だった。その圧倒的商品力につけこんで、他の売れ残った菓子と一緒に売る“抱き合わせ商法”が社会問題になったりもした。
「・・・・・・あれはいい! 実にいいのぅ。しかし、もうあんな戦争はこりごりじゃ」
「まったくまったく。戦争はいかん。平和が一番ですなぁ」
――びりりりりりぃん。
 話していた二人を引き裂くような電子音が周囲に鳴り響いた。そして鳴り終わると同時に差し込んでいた太陽光がみるみる遮られていく。外壁が張り出してきてテラスを覆っているのだ。ものの20秒ほどでテラスは夜が訪れたように暗くなった。老人達はうなだれながらベンチから立ち上がり、ゆっくりと隣の部屋へ戻っていく。遠くで何かのアナウンス放送が聞こえてくるようだったが、それは耳鳴りのようでもあったが、気にとめるつもりもなかった。
「・・・・・・はぁ、もう終わりかね」
 老人は部屋の壁に取り付けられた端末、ビジーフォンの画面を見ながらそう呟いた。画面には緑色の肌をした奇妙な生き物が映っている。
「キミ達はデリケートな生き物だから、ちゃんとこうやって我々が管理しているんじゃないか。もうキミたちはたった二人しかいないんだよ・・・・・・」
 老人は面倒くさくなってビジーフォンを途中で切った。この会話をするのはもううんざりだったのだ。やはり、もうできることは何もない。そう思って、ただ眠ることにした。うつろいいく意識の中で、遠くにアナウンスの声が響いていた。
「本日の開園時間は間もなく終了いたします。またのご来場お待ちしております・・・・・・」

―了―

「過去または未来のお話」ということで、過去にも未来にも思えるよう書いたつもりですが、未来っぽさが強すぎですね。
では次のお題は【くう】【ねる】【あそぶ】で、追加ルールは「すべてひらがなでかくこと」でおねがいします。

29風杜みこと★:2004/04/19(月) 15:49
>安息仮面さん
 MSといえば、やっぱりモビルスーツですよね。それにしても、生き残ったのが男二人とは……人類に何が起こったんでしょう? 
 しかし、ラング・ド・シャアは美味しい。名前がしっかり、御菓子系に改名されていたのに感心しました。上手い!

 さて、平仮名オンリー小説、いっきまーす!

――お題:「くう」「ねる」「あそぶ」/追加ルール:「すべてひらがなでかくこと」――

 あそぶって、なにをすればいいの?
 ままは、しらないおじさんと、おへやにこもってる。いつもは、あぶないからだめっていうのに、おそとであそびなさいだって。どーしよう……?
 そーだ。このあいだ、けんちゃんがやってたのしよーっと。すぐまんまえの、こーえんのすなばだったらいいよね。
 すなに、みずをたして、こねるんだ。りっぱなおしろ……けんちゃんのつくってたのより、ずっとおおきいの、つくろう。それで、ままをびっくりさせるんだ。
 こねこねこね……。
 おててが、ちょっといたいや。いし、じゃまだからすてよう。
 こねこねこね……。
「ぼうず、なにやってんだ?」
 えっ? ぼくのこと? みあげると、しらないおにいさんがたってた。
「どろだらけだな、おまえ。それにがりがり。ちゃんと、めしくってんのか?」
 ぼくは、きゅうにはずかしくなって、てをかくした。
「くうか? てーあらってこいよ」おにいさんは、あんぱんをぼくにみせると、べんちにすわった。
 ぼくは、おにいさんのいうとおり、てをあらってもどった。
「よーし、いいこだ。これたべたら、おにいさんといっしょにあそぼうな。おにいさん、いっぱいおもちゃもってるんだ。いえにいっぱいあるから、きにいったら、ひとつぐらいあげてもいい。あそびたいだろ?」
 ぼくは、あんぱんをたべながら、こくっとうなづいた。

 ――了――

底知れぬ闇に落ちていきそうで我ながら怖いです。
平仮名だけで考えていた年齢って、幼稚園生ぐらいでしたっけ。お題を消化するのに追われてしまいました。

次のお題は「ゴダール」「クレゾール」「イニシアル」
追加ルールは「三人称」でお願いします。

30セタンタ:2004/04/20(火) 03:38
こんばんは。もう投稿しない、ような事を書きましたが、投稿します。今度は下書きをしましたので、17行です。(多分)
>風杜さん
 胸が塞がれました。とても悲しくて、ここで終わってしまうのは耐えられませんでした。風杜さんの続きはあるでしょうに、勝手だとは思いましたが、私の続きを書かせてもらいました。勝手な事をしてごめんなさい。
 
 お題「ゴダール」「クレゾール」「イニシアル」 追加ルール「三人称」
 
      『ブルー・ローズ』
 空っぽの部屋の中で、聡子は1人で床に座っていた。引っ越したばかりのその部屋はクレゾールの匂いが微かにした。
 カーテンのない窓から、街路灯のオレンジが射し込んでいる。時折、車のライトがぱあっと部屋の中を照らし、冷蔵庫、食器棚、小さなダイニングテーブルと2客の椅子を浮かび上がらせた。賃貸を申し入れた時、不動産屋から「やめときなさい」と言われた。「あんたは今、まともじゃないのだから」とも。それでも聡子は押し切った。
 聡子の向かい側に置かれたテレビでは、古い外国映画が放映されていた。聡子はぬるい缶ビールを啜った。映画は終わり、FINのマークが出た。映画解説者が話し出す。「この映画はゴダールの代表作と言われ、」テレビのスイッチを消した。メンソールの煙草を手に取り、口にくわえた。舌に残ったビールの苦さと、薄荷の涼やかさが重なる。
「まま、ちゃんとごはんたべなきゃだめだよ」突然、声が聞こえた。もう1度聞きたいと、ずっと思っていたが、聞こえてくる筈のない声だった。唇から煙草が落ちた。聡子は震える手で顔を覆った。
ーーーままがないている。ぼくはだいじょうぶだよ。だいじょうぶだから、まま、なかないで。
「さあ、お父さんの所へ行こう」エムが静かに微笑んだ。子供はエムを見上げた。「お父さんもエムもぼくにいたいこと、しない?」エムは膝を落とし、子供の目を真っ直ぐに見て言った。「痛い事は何もしない、約束するよ。お友達もたくさんいる。みんなでおなかいっぱいごはんをたべよう、ね」子供はこっくりと頷いた。エム、ミカエルの名を発音するのは難しいので、イニシアルで教えていた、は立ち上がって子供の手を繋ごうとした。子供は聡子の元に駆け寄った。聡子の痩せた背中を後ろからぎゅっと抱きしめ、囁いた。そしてエムのところに戻ると、その手を握り、微笑んだ。
 聡子は顔を上げた。亡くなった子供の体温を感じたような気がしたからだ。けれど、がらんどうの部屋には誰もいなかった。「ごめんね、ごめんね」聡子は泣き崩れた。

次のお題は「インク」「スタンド」「地図」
追加ルールは「明るく、楽しく、希望を持って」で、お願いします。

31セタンタ:2004/04/20(火) 10:26
すみません。訂正です。
作品本文の下から7行目、「お父さんもエムも」を「おとうさんもえむも」に訂正してください。

32風杜みこと★:2004/04/20(火) 17:38
>セタンタさん
 悲しい想いをさせてしまって申し訳ありませんでした。
 私も書いてしまってからシマッタと後悔していたので、救われた思いがしました。
 お詫びと言っては何ですが、お話の続きを書かせていただきます。

お題は「インク」「スタンド」「地図」/追加ルールは「明るく、楽しく、希望を持って」

 貴治がその子を見つけたのは猫の額ほどの小さな公園でだった。一人砂場にうずくまり砂遊びをしている小さな男の子。路上からフェンス越しに見ている貴治に気づくことなく、下を向き一心に砂で何かを造っている。砂をいじる手も短パンからのぞいた足もガリガリに細かった。近くに親の姿はない。貴治の胸の中で何かが蠢いた。
 ムリヤリ目を逸らし表通りに向かった貴治は、表通りの角のスタンドで、牛乳を買うとあおるように一気飲みした。興奮冷めやらぬ様子でガラスケースに目を走らせ、逡巡しながらアンパンとクリームパンを買い、ポケットに突っ込むと荒立たしく道を引き返す。歩きながらブツブツと小声で呟きを漏らしていることに気づく者はいない。貴治の姿は、それ以外を除けば普通の高校生といった風で特に人目を引くものではなかった。

「ぼうず、何やってんだ?」
 貴治が声を掛けると少年はビクリと一瞬動きをとめ、それから顔を上げた。貴治を見る瞳は大きく見開かれ困惑を浮かべている。少年は小首をかしげた。
「泥だらけだな、お前。それにガリガリ。……ちゃんとメシ食ってんのか?」
 その言葉にハッと自分の姿を見下ろした少年は、真っ赤になって泥だらけの手を隠した。
「食うか? 手ー洗って来いよ」貴治はアンパンを散らつかせ、少年に水飲み場を指さした。安心させるようにベンチに座ると、少年は素直に水飲み場へと駆け出していく。貴治はその後ろ姿を笑って見送った。
 少しして戻った少年にアンパンを手渡すと、貴治は自分の隣を叩いて座るように促した。少年は大人しくベンチに腰を下ろし、アンパンの包装を破った。貴治は曇りだした空に目を向けたまま、パンを食べ始めた少年にゆっくり言葉をかけた。「よーし、いい子だ。これ食べたら、お兄さんと一緒に遊ぼうな。お兄さん、一杯おもちゃ持ってるんだ。家に一杯あるから、ぼうずが気に入ったら一つぐらいあげてもいい。遊びたいだろ?」
 少年はこくっと頷いた。

(以下に続く……)

33風杜みこと★:2004/04/20(火) 17:38
 クレゾール臭のするマンションの廊下から一歩玄関に入った途端、少年は瞳を輝かせた。壁一面に並べられた玩具のコレクション、部屋の中央に置かれたサイコロ・クッションの山、張り出し窓に置かれたぬいぐるみ、そして大型テレビの前にはゲーム機と座り心地の良さそうな動物ソファ。貴治のワンルームはまるで託児所のように子供が喜ぶもので溢れていた。
「うわぁ……うわぁ……!」夢心地にあちこちを見つめる少年を、貴治は笑顔で見守っていた。触るに任せて、簡易キッチンへ行きドリンクと御菓子をトレーに載せて戻ると、少年は窓辺に立ち降り出した空を見ていた。「ボク……帰らなきゃ。ママが心配するもん」不安気な顔に「だいじょーぶ、だいじょーぶ」と軽く返しトレーを置いた貴治は、本棚から地図を取り出しフローリングの床に広げてみせた。「ぼうず、地図読めるか? ここがさっき居た公園。ここが俺ン家。わかるか? 五十メートルも離れてないんだ。来たばっかで帰るなんて言うなよ。つまんねーだろ?」でも……と言いかけた少年にドリンクを渡し、貴治は「とりあえず、テレビでも観っか」とリモコンを大型モニターへ向けた。パツンと音がした後に『この映画はゴダールの代表作と言われ……』と髪が七三に分けた男が映る。貴治は次々にチャンネルを変え、最後にディズニー・チャンネルに合わせた。『When you wish upon a star...』流れ出るメロディーに「おっ、俺、これ好きなんだー」「えっ、お兄ちゃんも?」少年の顔に笑顔が戻ると、貴治は動物ソファに体を埋めた。貴治はトラ、少年は犬のソファに落ち着いて、しばらくミッキーの踊る画面に見入った。
「なぁ、お前、名前なんてーの?」貴治がソファの肉球を手で弄びながら聞くと、少年は戸惑いながら小さな声で「タカシ……アイダタカシ」と答えた。「えっ、イニシアル同じじゃん、俺たち」貴治はニヤリと笑い自分の名前を教えた。「ホント、一緒だねボクたち」少年は無邪気に笑った。そんな少年からフッと貴治は視線を逸らせ、窓の外を見やった。

 雨の降りしきる中、カイザのベルトをお土産に少年が帰途についたのは夕方五時を過ぎた頃だった。貴治は公園まで少年を送り、そこから真っ暗な玄関に入っていく傘を見送っていた。
「ほんと……同じかもな」
 貴治の両親は離婚していた。養育権を争った末、転勤で地方へ去った父は慰謝料代わりにマンションを残した。母は一年と経たず離婚し、貴治は両親の去ったマンションに一人住んでいた。少年の家の玄関に燈がともったのをみて、貴治は踵を返した。
「Whe you wish upon a star... 」雨に歌う貴治のシャツの胸元にはたはたと滴が落ち、インク染みのようなものを作った。

 ――了――

すみません。明るくないです。前回の作品のフォローのつもりだったのですが、かなりお題から離れてしまいました。
全然明るくも希望に満ちてもいないので、これは事故扱いにして、次のお題もセタンタさんの「インク」「スタンド」「地図」、追加ルールは「明るく、楽しく、希望を持って」でお願いします。m(^^;)m

34にゃんこ:2004/04/20(火) 20:14
>>セタンタさん
人様の作品に対してはいたって厳しい、にゃんこです。
これは風杜さんの作品の続きを書かれたものですね。だとしたら、「がりがり」というのをどう理解するのかが、続きの作品を書く場合の指標になると思います。わたしは、「がりがり」を母親が子供に食べさせていないと解釈しました。その子供が、誘拐されて殺された場合の母親の反応をどう描くのかが作者の腕の見せ所だと思います。
セタンタさんの作品の場合は「聡子の痩せた背中を後ろからぎゅっと抱きしめ」と、子供が慕っている描写と、母親自身がやせているところが描かれています。これは、もしかして、仕事をしていなくて、お金がなく、自分も子供も食事をしていないと解釈ができます。それで、手っ取り早くお金を稼ぐために男を連れ込んで売春行為をしたのか知れないと。そう解釈すると、すべてが納得いきます。しかしこの場合は、もう少し説明が要るようですね。主人公は引越しをしているのですから、その費用があるということは食べ物を買うお金があるということですからね。男と売春行為を一度したぐらいでは、引越しの費用は捻出できないと思いますよ。読み手にもう少し情報を与えたほうがよいかもしれませんね。母親と子供が置かれていた立場を。
それから、描写力とか構成とかはよかったですよ、イメージが浮かびました。いままでにもセタンタさんの作品を読んでいて物語を書く技術はかなりある方だとおもっていましたが、今回も感動ものでした。

◆次回のお題は「こいのぼり」「カイト(洋凧)」「漫才」
◆追加ルールは「女の子を主人公にする」


お題は「インク」「スタンド」「地図」
追加ルールは「明るく、楽しく、希望を持って」

―― 家族の地図 ――
「おとうさん、こんどのゴールデンウィークは遠出しょうよ、連休が長いしさ」
居間でビールを飲みながら、テレビの野球中継を観ていると、小学4年生になる娘が連休の話題を提供しに来た。昨年末にカーナビを買ったので、方向音痴の私にも、正月の間は車で家族旅行がすんなりとでき、気を良くしているようだ。
「そうだな、考えておくよ」
ソファにもたれながらテレビを見ていたのだが、「巨人:阪神」戦で、ひいきのチームが負けているので、私も気が乗らない。
隣に座った娘はコップにビールを注ぎ、私の膝に手を置き、ホステスのように様子を伺っている。なんともいえない沈黙が流れている。そのとき視線の先にトラ猫の良助が入った。私の足の匂いを嗅ぎに来ているのだ。良助はおかしな猫で、私以外の足の匂いは嗅ぎたがらない。妻もそうだが、この間娘が自分の足の匂いを嗅がそうとしたところ、怒った良助が噛み付いたので、それ以来娘は良助の相手をしなくなった。
「あっ〜、良助がきたかぁ〜」
私は、良助を膝に抱えると、頭をなでた。娘はあきらめたのか私へのあてつけなのか、「べんきょう、べんきょう〜」とかいいながら、自分の部屋に行った。
その夜、私は書斎で、スタンドを点けて手元を照らしながら、パソコンで地図を見た。ノートを執りながら、連休の計画を練る。ノートには万年筆のインクの匂いがするのか、机の上にあがっていた良助は飛び降りると、さっさと、部屋から出て行った。インクの匂いがきらいな猫なのだ。
私と一緒に娘が旅行に行きたいといってくれるのは、あとどれぐらいだろうか。中学生になれば無理だろうな、と思うと、また、ビールが飲みたくなった。そんな話を妻にすると、大人になったら、飲む相手をしてくれるわよ、と言われた。いつかそんな日が来ることを願いつつ、足の匂いを嗅がれて、猫の良助とはとりあえずスキンシップを結んでいる。

―― 了 ――

35作家志望:2004/04/21(水) 14:59
名前:小山田
こちらに初めて参加させていただきます。新参者で投稿の仕方がよくわからず(汗)ちょっと気が引けるのですが。これでいいのかなあ? 

 にゃんこさん へ
 お久しぶりです。時々ここを覗かせていただいていましたが、相変わらず勢力的にご活躍されていますね。
 小4の女の子といえば、どこで習ったのか媚びることを覚えたり、冷淡になってみたりと、ちょうど猫の感じに近くなるのでしょうか? そのうち「お父さん、汚い! 臭い!」などと言うようになって(足の匂いなんて、とんでもない)、お父さんの相手をしてくれるのは良助だけ、という期間がしばらく続くのでしょうね。成長の過程だとわかっているけど、覚悟してるけど、なんとも淋しい父親業というものです。嵐の前の静けさ、ひと時の平和な日常、という感じを受けました。

  ●次のお題は 「あり地獄」「サッカー」「情操教育」
  ●追加ルール 「平安時代を舞台に」

 お題は「こいのぼり」「カイト(洋凧)」「漫才」
 追加ルールは「女の子を主人公にする」

―― カイト ――

 「かわった凧だなあ、ぼうず」
五月晴れの大空をダイヤ型の凧が優美に舞うのを見て、男は思わず声をかけた。
「おっちゃん、知らんの? カイトっていうねんで」
振り返った顔を見て男は少なからず戸惑った。ふっくらと柔らかそうな唇の優しげな面差しは少女のものだったからだ。しかし、切れ長の目は生き生きと輝き、何も頓着していないようであった。
「男の子かと思ってしまったよ、悪いことを言ったね」
「かまへん、かまへん」カイトはゆっくりとはちの字を描く。
「スカタンの男の子はみーんな家でゲームばっかりしてるんや、そこへいったらウチはホンマもんの男みたいやからね。おっちゃん、東京の人?」
「東京じゃないけど、まあ、近いところに住んでるよ。しかし、見事に飛ぶものだねえ」
「そやろ? ウチ、大好きやねん、楽しいってのもあるけど、きれいやなあって思うもん。絵もウチが描いたんやで」
まさに飛び立とうとしている白鳥が描かれている。ああ、きれいや、と少女はつぶやいた。
「いつも上げてるの?」
「うん」少女はあごを突き出した。
「ほら、でっかいこいのぼり上がっとるやろ、あそこがウチの家やねん。あのこいのぼり、ウチのやで」愉快そうに笑う。
「女の子なのに?」
「お雛さんはおねえちゃんにやったらええ、うちはこいのぼりが欲しい、いうて今年買うてもらったん」
「ふうん、君のおとうさんも面白い人だねえ」男も愉快になっていた。
「うん、おとうちゃんと話してると掛け合い漫才みたいやってよく言われるねん」
 しばらく二人は並んで伸びやかに旋廻するカイトを見上げていたが、次第に空の青が濃くなって風が張り詰めてきたころ、少女はカイトを手繰り寄せはじめた。
「おっちゃん、もう帰るわ。おとうちゃん、掛け合い漫才待ってるさかいに」
「うん、おっちゃんも帰ることにしよう」
「おとうちゃん、な」うつむいて凧糸を巻きながら言った。
「去年の冬から一人ぼっちやねん。おかあちゃん、ロクに何も言わずにおねえちゃんだけ連れて家を出ていったん。おとうちゃん、毎日泣いて……だから、ウチ、男になることに決めたんよ。ダンマリのずるいおかあちゃんみたいには、なりたないんや」
 剥き出しの細い首がこまかく震え、長いまつ毛の影がいっそう濃くなった。
丁寧に糸を巻き上げ、カイトを小脇に抱えると、少女は再びにっこりと男を見上げた。
「じゃね、おっちゃん、さいなら」
男はただ頷き、軽やかに駆け出した少女の後姿を見送った。

―― 了 ――

36関西ファン:2004/04/22(木) 14:23
>小山田さん
 いや〜、お上手……! 関西弁って新鮮どすな。
 ただ、ラストの方で少女がなぜ男の子っぽく振る舞うのか種明かしする辺り、展開の無理を感じましてん。
 なんや、この子の性格ではありえんような気がしたんですわ。見ず知らずの人にそんな事まで話す子やろうかと……。
 もぅ一つ疑問なんですが、スレッドの初めの文、読んではります? 
 書き順違いも、パラドックスを含む無理なお題もイエローカッドですねん。よろしゅうー。

お題「あり地獄」「サッカー」「情操教育」
追加ルール 「平安時代を舞台に」

 今は情操教育の一環に取り入れられているサッカーもその昔、平安時代には「蹴球」と呼ばれる貴族達の遊戯であった。
 しかし、何時の世にも遊戯は単なる遊戯ではない。
 その日、業平はあり地獄の中にいた。
「こんな球も受けられないのか、業平」
 定家の球が胴を打った。
「蹴球もできぬ奴に大臣が務まるかの」
 道長が袂で笑みを隠しながら、業平の右足へと球を放った。
 が、球は蹴られることなく、そのまま地に落ちた。
「情けない奴よのぅ」
「ほんに……球はおなごのようにいかぬようじゃの」
 ほほほ、と業平を囲んだ男達が笑うのを、女房どもが遠目に見ている。
 業平の頬に刹那、朱が上った。
「ふんっ、こんなもの! しょせん唐人の真似事ではないか。もういい、沢山じゃ!」
 そう言うと、それきり業平はいくら仲間が誘おうと梨のつぶて。蹴球に戯れることは無くなった。
 業平が都を立ち東海道を下るのは、まだ少し先のことであった。

いやはや、歴史もんは難しゅうてかなわんわ。これ正真正銘の嘘話、誰も信じたらあかんで?
次のお題「成行き」「鳴子」「カラス」
追加ルール「登場人物三人以上」でお願い。

37おづね・れお★:2004/05/05(水) 12:04
おづねです。
連休でゆったりさせていただきました〜。三語が止まってしまっているので、書いてみました。

>関西ファンさん
難しいお題だと感じましたけれど、短くまとめていらして感心しました。定家や道長という名前はお遊びでしょうか〜。『伊勢物語』に蹴球が出てくるかは知らないのですが(^^;> こういうのも「あったかもしれないお話」だなあと思いました。

関西ファンさんのお題で、
「成行き」「鳴子」「カラス」追加ルール「登場人物三人以上」です。
●次のお題は「月食」「金」「ほうき」で追加ルール「ティーンエイジャーのお話にしてください」でお願いします。


「この水餃子がね、絶品なの!」
 神岡鳴子さんに連れ回されるのはいつものこと、今日は評判の中華飯店にやってきた。ぼくのようなオートマトン(自動人形)には食べる機能がない。だからちょっとばかり暇と言えば暇だった。
 お給仕さんがトレーに載せた水餃子を運んできた。
「鳴子さん、鳴子さん、水餃子が来ましたよ」
「テルルンたら気が利くじゃない。はいはい、ありがとう。うわあお、できたての水餃子」
 テルルンというのはぼくのあだ名で、正式にはテルマルクルトと言うんだけど、発音しづらいというのでテルルンと呼ばれている次第。鳴子さんはとてもマイペースな人なので、ぼくはいつも成り行き任せでこの人につきあわされている。
 鳴子さんは花の女子高生だというのに鼻腔を大きく開いて水餃子の器の上で大きく息を吸い込んだ。ふわふわと漂いながら天井に向かってほのかに立ち上っていた湯気が、腰をくの字に曲げた人みたいにくねっとなって鳴子さんの両鼻に吸い込まれていった。
「見て見てテルルン、こんなに透明なスープ、浮かんだ三つのむっちりしたそれでいて清楚な水餃子ちゃん! ちょんと乗った山椒の葉がなんとも言えない鮮やかさで食欲をそそるわね」
「えーと、たいへんごもっともなんですけれど、私にはそれを食べることはできませんので……」
 ずびし、と空を切って彼女の指先がぼくの眉間のぎりぎり0.5ミリの位置の空間を突いた。
「愚か者めッ!」
 小さくて赤い唇がぷりっと突き出して水餃子そっくりだった。けれど、たぶん今その比喩を口にしたらぼくは彼女の指先によってあっという間に破壊されるに違いなかった。撲針流空手師範代――このポニーテールのかわいらしいお嬢さんは、日本で何番目かにランクインされる強さを誇る人間なのだ。オートマトンを指先ひとつで破壊することなんて造作もない。たぶん。
「な、なんですか〜」
「テルルンは電子頭脳の持ち主なんだから、私の言った水餃子の匂いと味と食感を全部記憶して、あとで再現するのよ。そうすれば高いお金を出さなくてもおいしい水餃子が食べられるかもしれないじゃない!」
 そういうことだったのか、と得心つかまつった……じゃなくて。
「ちょっと鳴子さん、その行為はなんというか、黒くないですか。カラスの濡れ羽よりも真っ黒なほどに犯罪すれすれって言うか」
 鳴子さんはぼくの話なんかもう聞いていなかった。
「ああ最初にかみしめた瞬間がもう、たまらないわねえ。皮と春雨のぷつっとした軽い歯ごたえのあと、野菜と肉がたっぷり詰まった具の汁気がふわっと口の中に広がって……。筍がコリッとしてまたこれがたまらない。あら、この苦みは何かしら。今まで経験したことのない……」
「おや、これはフキノトウですよ」
「まあ、フキノトウははじめていただいたわ。ああ、これが春の味なのねえ、ほろ苦さがかえって鮮烈で具のうまみを引き立てているわあ」
 結局、水餃子だけでは満足せずに、そのあと次々と春の限定メニューを注文した鳴子さんだった。ぼくは隣の席のデート中らしい若い男女が席を立つときに忍び笑いしていたのを見てしまって体が小さくなる気がした。
「あのね、テルルン」
 帰り道、鳴子さんはこんなことを言った。
「やっぱりあの料理は再現しなくていいわ。わざわざ出かけてあの場所でいただくと思うから余計においしいのよね。いつでも我が家でテルルンが作れると思ったらありがたみもないし、なんだかバチがあたりそうな気がするわ。ね、そうでしょ、テルルン」
 なんだかよくわからないことを言っている。と思ったけれど、ぼくはそういうとき「ご説ごもっともにござります」と言って丁重に頭を下げることにしておくのだった。
 こんなとき満足げにぼくの頭をなでる鳴子さんの掌は、空手のときとも、普段の気まぐれともまったく違うやさしさをたたえている気がする――

−了−


このところ三語より長めのものを書いていたせいか、長くなりました。
失礼しました。
(鍛錬場に戻ったら改めないといけないなあ、と思っています(^^;>)

38安息仮面:2004/05/07(金) 13:41
こんにちは。三語が停滞しているようなので、私も書いてみました。コラボ即興、同一プロットも興味あるのですが、なにぶんまとまった時間がとれなくて、参加できずにいます(皆さんの力作、草葉の陰から拝読しています)。

まず感想です。
おづね・れおさん>『水餃子』のお話

明るく軽妙なお話ですね。テルルンの真面目っぷりが好感もてました。水餃子の描写もおいしそうでした。うーん、今夜には水餃子が食べたくなってきました(w)。あと余計な話ですが、アンドロイドとかそういうキャラクターって、真面目すぎるくらい真面目なところに人間とのギャップの妙があって面白いですよね(時に悲哀に映ることもありますが)。そういう意味ではスタートレックのデータ少佐が私は大好きだったりします(ご存知なければすいません)。思うのですが、おづねさん、以前とはちょっと作風が変わったような気がします。ライトというか、長調というか。きっと引き出しが多いのかな。今後も引き出しを覗かせてください。

では、お題はおづね・れおさんの【月食】【金】【ほうき】追加【ティーンエイジャーの話】

*ここから本編です*
 金色の波が幾重にも折り返す夕暮れの砂浜でふたりは寄り添って空を見上げていた。今夜は月食なのだ。その神秘的な現象は、ふだんほとんど実感できない宇宙の神秘を印象付けてくれる。太陽が完全に海へ滑り落ち、空に星と月が輝きだす。
 橙から紫、藍へと色を変えていく空の下、少年はふと波間に揺れる何かを見つけた。目で追っているうちにその何かは砂浜に打ち上げられ、姿を露にした。それは遠目に細長い筒か花瓶のように見えた。
 少年は少女の手を取ると立ち上がり、筒か花瓶のようなもののところへ行き、それを手に取った。よく見るとそれは筒でも花瓶でもなかった。あまりに細長く短刀ほどの長さがあるので戸惑ったが、蓋が付いていることから察するとおそらく壷と呼ぶのが適切なのだろう。握っている両の手に金属特有の冷たさを感じていたが、そのわりにはほとんど腐食していないことを少年は少し不思議に思った。
 壷を手にしばし呆然とする少年をじっと見ていた少女は、なにを思ったのか咄嗟に少年の手から壷を取り上げて蓋を勢いよく開けた。少年は思わず声をあげたが、それをかき消すかのように激しい雷のような轟音が周囲に響き、ふたりは思わずその場にしゃがみこんだ。音が響いたのは一瞬だったが、ふたりはあまりの突然の出来事になかなか顔をあげられなかった。おそるおそる顔をあげ壷のあった場所に目をやると、そこには驚くべきことにほうきにまたがった老人が宙に浮かんでいた。しゃがんだままふたりが困惑して思わず顔を見合わせていると、ほうき上の老人が語りかけてきた。
「我は古えの魔術師パーリン・・・・・・。我の封印を解いてくれたのはそなたらか、自由にしてくれた御礼にそれぞれひとつ、願いをなんでも叶えて進ぜよう」
 ふたりはまたしても困惑して顔を見合わせたが、しばらくして少女が立ち上がった。
「じゃぁ世界が終わる日まで、このままずっとふたりっきりでいられるようにして!」
 魔術師は小さくうなづくと、聞き取りにくい不思議な言葉を呟きながら左手の指を数回打ち鳴らした。どうやら少女の願いはこれで叶ったようだ。
「ではもうひとつの願いを聞こう」
 そういいながら魔術師は少年に目をやった。少年はすごすごと立ち上がり、魔術師を手招きし、耳打ちするように願いを囁いた。
「・・・・・・この世界がすぐに終わりますように」

―了―

【ほうき】の消化方法が難しかったので、そこから考えたのですが・・・・・・ほうき=魔法関係というのは陳腐すぎて、ちょっと反省しています。SSの切れ味が出せているか、それも心配です。

次回お題は【改札】【制服】【味噌汁】追加ルールは【地下鉄が舞台】でお願いします。

39にゃんこ:2004/05/08(土) 02:11
◆安息仮面さん
う〜ん……、そつなく、三題をこなしています。
この作品ひとつの世界観が確立されています。金色の波が打ち寄せる浜辺に10代の男女。そこに流れてくるアラビアンナイトではなく魔法使いの壷。そして箒にまたがるご老人。
「願いをかなえて進ぜよう」
恋人同士のように思える、少女のほうは少年と「世界が終わるまで一緒にいたい」と願い。少年は、それを受けて、「この世界がすぐに終わるように」と願います。

たしかに、よくできていますし、切れもよいですよ。「星真一」さんが生きていた時代なら、この作品はかなりよい評価を得られると思います。しかし、「安息仮面」さんなら、どう評価するでしょうか。多分ご自分で、この作品の価値はわかっておられると思います。

お題【改札】【制服】【味噌汁】追加ルールは【地下鉄が舞台】

―― メトロポリスにて ――
砂鉄がマグネットに吸い寄せられるように、わたしたちは、地下の入り口に吸い込まれていく。
改札は、昔は行われていたというが、いまは、行われていない。すべての地下鉄が無料になったからだ。
わたしは形だけになった、改札口を通り抜けて、プラットホームへ流れていく。
制服というスーツを着て、毎日同じ時間に、メトロポリスへ向かう。
プラットホームに立っていると、シルバーグレイのトレーンが烈風を巻き起こしながら滑り込んできた。
車内は快適だ、エアコンが18度に設定されている。あれほどの砂鉄がどこへ消えたのか、車内は空いている。無言の中に、トレーンの走行する音だけが静かに聞こえる。
いつからだろうか、通勤ごっこをするようになったのは。わたしたちは整然として、秩序を乱さない。人工物のわたしたちが、表情も言葉もなく、目的地に向かっている。
「ああ……味噌汁が飲みたい……」
誰かの呟きが聞こえた――。
絶滅危惧最高レベル「IA」の人間が、まだひとり混じっているようだ。
「ああ……味噌汁が飲みたい……」
ほかの誰かが、人間のまねをした。
あっちでもこっちでも、味噌汁、味噌汁……、という声が聞こえた。
わたしも、「味噌汁が飲みたい……」と呟いてみた。すると、なんだか、人間に一歩近づいたような気がした。
―― 了 ――

次のお題「電信柱」「ねぎ」「紙芝居」
追加「主人公は警察のひとで、事件とは関係がない話」

40にゃんこ:2004/05/08(土) 10:06
訂正
「星真一」は「星新一」さんの間違いでした。
すみませんでしたm(__)m

41文中:2004/05/08(土) 18:49
はじめまして。文中です。何度かここを見ていたのですがはじめて書き込みたいと思います。
次のお題「電信柱」「ねぎ」「紙芝居」
追加「主人公は警察のひとで、事件とは関係がない話」

太田は立ち竦んでいた。
立ち向かうのも躊躇われるような感覚が体を襲う。もう選択肢は残されていない。今更、くるくる紙芝居のようにかわる上司や、
隣の席の鈴木君が600万円の宝くじに当たったこととか、電信柱に張り付く酔っ払いを引き剥がす毎日の面白みの無さとか、
絶対結婚できないだろうと思っていた向かいの席の高橋がアイドル張りの美少女と出来ちゃった結婚したとかそんなくだらない日常が
愛おしく思える。
目の前には下卑た笑いを浮かべる上司、横には尊敬する警部。そしてここは高級料亭。
「太田君。いいから食べてごらんよ」
まただ。どうしろって言うんだこの状況。
ネギが死ぬほど嫌いな俺。
そして目の前には上司お勧めのネギレバいため。

・・・あんまり警察関係ないですが。

次のお題は「近代化」「萌え」「透明」
追加ルールは「かわいい物や人(動物などもアリ)を出来るだけ出す」です。
かなり難しいと思いますががんばってみて下さい。

42文中:2004/05/08(土) 18:53
すいません。改行忘れました。

43ごはん武者修行有志s:2004/05/10(月) 00:53
――こちらのスレッドは終了しました。次はhttp://jbbs.shitaraba.com/bbs/read.cgi/movie/4262/1084117555/です――


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