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文章鍛錬企画【三語即興文】4/12〜

10のりのり子:2004/04/14(水) 23:12
お題【信号・満ち潮・後悔】
追加ルール【作者自身を登場させる】

 交差点で信号待ちをしている間に、何やら重大な間違いを犯しているような気になった。私は手に持ったスーパーの買い物袋の食料品に目をやった。鶏のもも肉、しいたけ、にんじん、大根……。少し考えただけで理由はわかった。私は今日の夜はハンバーグにしようと思っていたのだ。なのにスーパーをうろついているうちにそのことを忘れて、ただ値段が安かっただけのこれらの安い食料品を購入してしまった。どうして自分はこんなに忘れっぽいのか、満ち潮のように心を浸す後悔の念に私は顔を歪めた。と、そのとき視界の隅に人影が入ってきた。ジャージを着た中年男性が二人、首に白いタオルを巻いて足踏みをして信号が変わるのを待っている。左右に揺れる奇妙な腰のくねり方からして、どうやら競歩をしながら街を歩いているらしかった。足踏みをするたびに手前の男性の不精ヒゲが生えた顎が上下し、続いて奥の男性の頬にしわの入った横顔もテンポよく揺れた。ジョギングやウォーキングをしている男性は多いだろうが競歩は聞いたことがなかったので、平静を保ちつつも私は好奇心の目で二人を眺めた。するとそれに勘付いたのか、手前の男性が鼻の筋肉をひきつらせながらこちらに向かって、じろじろ見るな、と言った。ヘリウムガスを吸ったような甲高い声だった。私はその声にどこか空恐ろしさを感じて、頭を下げると慌てて視線を反らした。
 信号が青に変わって、男性達は悠々と競歩を再開した。一時停車している車の前を、独特のリズムで足を踏み出しながら通りすぎていくその後姿に、私は目を見開いた。横で信号待ちをしているときは死角になっていてわからなかったけれど、二人はしっかりと手を繋ぎ合っていたのだ。手をつないで寄り添いながら競歩する中年男性二人なんて、言っちゃ悪いけれど奇妙だと思う。私は家に帰ったらこのことを家族に話してやろうと思った。けれども実際に家に到着したころには、そんなことはすっかりと忘れていた。そして家を出る前にハンバーグを作ろうと思っていたことすらもまた忘れて、鼻歌を歌いながら鶏のもも肉と大根の煮物を作り始めた。まあ、人間の記憶力なんて結局そんなものだ。

実体験ということで主人公は作者である私です。
登場人物と通さずに書くせいで、皮膚の裏側がなんだか痒くなってしまいました。

次のお題は【無】【貯金箱】【フグ】
追加ルールは【屋外でのお話にしてください】


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