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文章鍛錬企画【三語即興文】4/12〜

33風杜みこと★:2004/04/20(火) 17:38
 クレゾール臭のするマンションの廊下から一歩玄関に入った途端、少年は瞳を輝かせた。壁一面に並べられた玩具のコレクション、部屋の中央に置かれたサイコロ・クッションの山、張り出し窓に置かれたぬいぐるみ、そして大型テレビの前にはゲーム機と座り心地の良さそうな動物ソファ。貴治のワンルームはまるで託児所のように子供が喜ぶもので溢れていた。
「うわぁ……うわぁ……!」夢心地にあちこちを見つめる少年を、貴治は笑顔で見守っていた。触るに任せて、簡易キッチンへ行きドリンクと御菓子をトレーに載せて戻ると、少年は窓辺に立ち降り出した空を見ていた。「ボク……帰らなきゃ。ママが心配するもん」不安気な顔に「だいじょーぶ、だいじょーぶ」と軽く返しトレーを置いた貴治は、本棚から地図を取り出しフローリングの床に広げてみせた。「ぼうず、地図読めるか? ここがさっき居た公園。ここが俺ン家。わかるか? 五十メートルも離れてないんだ。来たばっかで帰るなんて言うなよ。つまんねーだろ?」でも……と言いかけた少年にドリンクを渡し、貴治は「とりあえず、テレビでも観っか」とリモコンを大型モニターへ向けた。パツンと音がした後に『この映画はゴダールの代表作と言われ……』と髪が七三に分けた男が映る。貴治は次々にチャンネルを変え、最後にディズニー・チャンネルに合わせた。『When you wish upon a star...』流れ出るメロディーに「おっ、俺、これ好きなんだー」「えっ、お兄ちゃんも?」少年の顔に笑顔が戻ると、貴治は動物ソファに体を埋めた。貴治はトラ、少年は犬のソファに落ち着いて、しばらくミッキーの踊る画面に見入った。
「なぁ、お前、名前なんてーの?」貴治がソファの肉球を手で弄びながら聞くと、少年は戸惑いながら小さな声で「タカシ……アイダタカシ」と答えた。「えっ、イニシアル同じじゃん、俺たち」貴治はニヤリと笑い自分の名前を教えた。「ホント、一緒だねボクたち」少年は無邪気に笑った。そんな少年からフッと貴治は視線を逸らせ、窓の外を見やった。

 雨の降りしきる中、カイザのベルトをお土産に少年が帰途についたのは夕方五時を過ぎた頃だった。貴治は公園まで少年を送り、そこから真っ暗な玄関に入っていく傘を見送っていた。
「ほんと……同じかもな」
 貴治の両親は離婚していた。養育権を争った末、転勤で地方へ去った父は慰謝料代わりにマンションを残した。母は一年と経たず離婚し、貴治は両親の去ったマンションに一人住んでいた。少年の家の玄関に燈がともったのをみて、貴治は踵を返した。
「Whe you wish upon a star... 」雨に歌う貴治のシャツの胸元にはたはたと滴が落ち、インク染みのようなものを作った。

 ――了――

すみません。明るくないです。前回の作品のフォローのつもりだったのですが、かなりお題から離れてしまいました。
全然明るくも希望に満ちてもいないので、これは事故扱いにして、次のお題もセタンタさんの「インク」「スタンド」「地図」、追加ルールは「明るく、楽しく、希望を持って」でお願いします。m(^^;)m


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