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文章鍛練企画【三語即興文】4/4〜

1ごはん武者修行有志s:2004/04/04(日) 12:35
【形式】
 前の方の作品を簡単に批評しつつ(1〜数行)、
 出されたお題で文を作り(5〜15行程度)(題は順不同で使用可)、
 次の方のお題を出す(三語―名詞が基本、各語の関係が遠いほど望ましい)。
※繰り返し

【批評の規準】
 ・三語の、漢字(平仮名、片仮名)と音を変えず、そのまま使用する。
  ↑とりあえずこれだけはクリアしてください。
 ・お題の消化の仕方。意味の持たせ方。
 ・ストーリー性。
 ・独創性。面白さ。

【ルール】
 ・第一目的は文章の・発想の瞬発力・ショートショートの構成鍛練です。
 ・同じ方の書き込みは一日一回に制限です。言いかえれば毎日でもどうぞ。
 ・同じお題の投稿が重なった場合、最初の投稿のお題が次に継続されます。
 ・上記の場合、後の方の作品は残します。事故と見なしますので謝罪などは不要です(執筆の遅い初心者保護)。
 ・感想のみのレス(ひやかし)は原則的に禁止の方向で。
 ・批評の義務は自分の使うお題の作品のみですが、上記の「事故作品」全てに批評を付けても結構です。感謝されるでしょう。
 ・何事も故意の場合は釈明必須ですが、多少の遊び心は至極結構です。ただし、基礎の未熟な方の遊びはお断わりいたします。
 今回も、「お題の他に注文をひとつ」を導入したいです。
 お題を出す人が合わせて決めてください。強制ではありません。お互い無理のないようお願いします。
 例)「主人公の性別は○○で」「ハードボイルドっぽくお願いします」「恋愛ものにしないでください」
 
 ご意見はラウンジにてお願いします。

2風杜みこと </b><font color=#FF0000>(nIThBwKQ)</font><b>:2004/04/04(日) 12:39
最終作のコピペにて、感想は割愛。

――お題:「一期一会、一言一句、一朝一夕」/追加:「主人公は人外の者」――

「ねぇねぇ、ちょっと寄っておくれよ兄さん。五文でどうだい? 安くしとくよ」
 男が柳の影から伸びた手に袖を引かれたのは辰巳の刻も過ぎた頃であった。厚く塗られた白粉に、安物の襦袢の赤も寒々しい。夜鷹である。
「へへっ、他あたっておくんな姉さん」男はつれなく手を払った。
「なんだい、なんだい、この吝嗇野郎。あんたみたいな朴念仁、きっと一期一会も気づかずに素通りしちまうだろうさ」
「おうっ、難しい言葉知ってやがるじゃねぇか、白お化け。どうせ坊主に寝物語で仕込まれた口だろう。お前となんざ一文だって御免だ。おいらが誰と寝ようがおいらの勝手だ。おめぇの知ったこっちゃねぇ!」
「なにをー、このスットコドッコイ。ひょっとこみたいな顔しやがって。このお銀を怒らせたからにゃ、金輪際この辺で遊べないと覚悟するがいいさ。あんたが吐いた言葉、一語一句忘れず言いふらしてやるっ」夜鷹はそう言うと、男を睨みつけ、さっさと歩いて行ってしまった。
 さて一人残された男はというと、ケッとその場に唾を吐き反対へ歩き出した。もとより目指した方角なのか、夜風に肩をすくめながら足早に歩く。本所の橋を渡ってすぐ右手に男の目指した灯があった。
「おやじ、一本くれ」
 暖簾を潜った男がそういうと、頬被りをした親父は「遅かったじゃねぇか」と台の上に熱燗とお猪口、家紋のついた印籠を出した。「今夜が肝心要の大取よ。おめぇが来なかったらしくじるところだった」
「で、今夜の鴨は誰だい」男は上手そうに温酒を啜りながら親父をみた。
「旗本よぉ。流石に一朝一夕とはいかねぇ。一月前から探りを入れて、やっと奴が俳句の会とやらで遅くなる日を引き当てたってわけさ」と自慢げに語る親父に、「ふん。どんな恨みを買ったんだ、そいつは」と返す表情は渋い。
 親父は顔を顰めた。「真夫きどりで身請け約束した女を斬りやがった」
「ひでぇ……」男は酒代を置いた。仕掛けとは別のそれは、長く仕事を共にする為のけじめのようなものだ。「じゃ、体も温もったことだし、そろそろ持ち場につくか。……おやじ、後でな」
 男は屋台を出ると、細い路地の口に立ち、とある屋敷の木戸を見張った。月が中天から流れ夜の底に消える頃、木戸がゆっくりと開き一人の角頭巾を被った旗本が姿を表した。供の姿はない。男はしめしめとほくそ笑み、細い路地から出ると黙って旗本の後をつけ始めた。頃合いをみて「もうし、お武家様。お腰のものを落とされませんでしたか?」と声を掛け、振り向いた旗本に印籠を渡した。旗本は「かたじけない」と懐に入れた。踵をかえし歩き出す旗本に、今度は並んで歩を進める男はなんやかんやと話しかけ、先ほどの屋台の方へと誘った。袖摺り合うも多少の縁とはよく言ったもの。言葉巧みな男の言葉に旗本はつい酔いを過ごす。そして頃合い――
「ひぃぃぃっ、の、のっぺらぼう!」

 翌日、河岸に心の臓の破れた旗本の土左衛門が上がった。

 ――了――

 ははは……ちゃんとお題消化できてるんでしょうか?

 次のお題は「銀シャリ」「航空便」「活じめ」
 追加ルールは「美女が主役」でお願いします。

3柿美:2004/04/06(火) 03:19
なんとなく私が尖兵になってみようかと思います。

>風杜さん
仕掛人+のっぺらぼうですか(笑) まさか屋台から別の小説世界に繋がるとは、笑いました。風杜さんは一つの小説世界からもう一つの小説世界にすっと移動させるのが本当に上手いですね。以前の降魔術からお色気悪魔が出てくるお話もすっと頭の中のイメージが切り替わって心地よかったです。
ところでこの設定は仕掛人というより仕事人というかんじですね(わけのわからないことを言ってみたり)。
それと江戸言葉や時代風景がすらすらと生き生きとでてくる、これは本当に羨ましい。私も江戸言葉が好きでしてたまに落語のCDとか聴いたりしてるんですが、聞いていてもとても書けません。

「銀シャリ」「航空便」「活じめ」 追加ルールは「美女が主役」

 海外赴任中の夫から航空便で小包が届いた。包みを開けると発砲スチロールの箱であり、箱の中には小さな女が入っていた。
 カブト虫くらいの大きさの、浅黒い肌をした彫りの深い顔立ちの女。箱に敷かれた綿のベットに脚を崩して座り、怯えた黒い瞳で私を見上げている。一体、夫はなんのつもりでこんなものを送って寄越したのだろう? 同梱された夫からの手紙には『和食でも食わせてやってくれ』とだけある。追記に『誕生日おめでとう』とあった。たしかに昨日は私の誕生日だった。ではこの女は誕生日プレゼントでペットか何かとして寄越したのだろうか。
 ともかくも生き物である以上、なにか食べさせなければならない。和食というと、銀シャリにお刺身、お味噌汁かしら。丁度、今朝ネット通販で届いた活じめのイサキがあったので、捌いてお刺身にすることにする。私の分は平作りに、女のほうは一切れをみじんぎりにした。小皿の端っこにみじんにしたお刺身を山盛りにし、御飯粒を三粒ねじくって女の前に差し出す。みじんにしたのでは魚肉の細胞が壊れてしまって不味くないかしら、と思ったのだが、女は金平糖みたいな小さな手で肉片を鷲づかみにしてぴちゃぴちゃと食べている。私は寝そべって女と同じ目線になり、女を観察した。
 女は遠目に見るとまるでお人形のようだが、間近で観察すると二十代の後半くらいだった。薄い、身体を覆う面積の小さい踊り子のような衣装から浅黒く艶のある太股が伸びている。両手に大きな肉片を一つずつ持ち、交互に口に持っていき貪っている。肉片を頬張る時に少し鼻梁を歪める様は、なにか背徳的なものがあった。
 ひょっとしてこの女は夫の色なのではないだろうか、ふと思った。誕生日プレゼントなどと嘯いて、何食わぬ顔で家で女を飼おうという腹なのではないか。女の浅黒い身体ぜんたいを夫のピンク色の舌がべろりと舐める情景が浮かび、私はにわかにこの女を踏み潰してやりたくなった。しかし、そんなことをすれば私の足の裏に一生嫌な感触が残ってしまうし、第一ヒトの形をしたものを私に殺せるわけがないのだった。私はどっと疲れて、女は放っておいてその日は寝ることにした。
 その晩は嫌な夢にうなされ、パジャマの背中に汗をびっしょりかいて目が覚めた。起きてくると床に置きっぱなしになった箱に女はいない。箱の中とフローリングの床に猫の泥の足跡がついていて、そういえば昨日は窓を閉め忘れていたのだ。
 なにかすっきりとして、すっきりとしたらお腹がすいてきた。私は冷蔵庫にしまっておいた昨日のイサキのお刺身でお膳に二杯もごはんを食べた。

書いているうちに6枚強になってしまい、短く詰めなおしたのでわからない話になったかもしれません。
詰めても長いです。ごめんなさい

次は「ごはん・火力・香辛料」追加「美味しそうな描写お願いします」
お腹がすきました。

4海猫:2004/04/06(火) 13:29
 じゃあなんとなく二番目に。

>風杜みことさん、感想有難う御座いました。
 妖怪の仕事人ですか。長編とかにしたら面白そうですね。主役にするとしたら誰でしょう? ところで「袖摺り合うも多少の縁」って、「袖摺り合うも多生の縁」が正解かと。「一言一句」が「一語一句」なのはまだしも。
 最後の一文が、妖怪物独特の不気味さを醸し出していて良かったと思います。

>柿美さん
 確かにこれは、書こうと思えば長くなっちゃいますね。多分もっと書きたかったでしょう? 淡々とした様子が不気味さを煽っています。
 >薄い、身体を覆う面積の小さい踊り子のような衣装から浅黒く艶のある太股
 何となく、ブラジルのカーニバルのダンサーを想像しましたが、当たっているでしょうか? 
 余談ですが、知人が猫を飼っているのにハムスターを買ってきて一緒に飼っていた(ややこしい)ところ、ある日ハムスターの姿が消え、捜索した結果、物陰からハムスターの足が四本見付かったそうです。バカな主人に飼われて、可哀想なハムスター……。その話を思い出しました。



○お題:「ごはん、火力、香辛料」
○追加:「美味しそうな描写」


 主は、鋭い眼光を丼へと注いでいた。いつもこの瞬間が緊張する。主はとても気難しい方で、少しでも気に入らなければ食事を一口も食べる事もせず、引っ繰り返してしまわれるのだ。
 だが、今日は違う。主の好みは調べ尽くした。先輩料理人曰く、シンプルな和食、殊に魚が好きだとか。そして私が用意したものは、紅鮭の切り身の乗った丼飯。主はきっと、呆れているのかもしれない。だが、私の切り札はまだ残っていた。
「失礼致します」
 私はそう断り、ふつふつと蒸気を吐き出す鉄器の中身を丼の上へと注いだ。昆布と鰹節の一番出汁で出した玉露の香りが立ち昇る。主が目を丸くしたのが分かる。それが少し心地良い。
「紅鮭の出汁茶漬けで御座います。お召し上がり下さい」
 産卵期直前の、たっぷりと脂の乗った紅鮭の旨味に、火力を調整しふっくらと炊き上げたコシヒカリの甘味、そして出汁の風味に玉露の程好い苦味。香辛料は使わず、調味料も食材を活かすために少々の塩と醤油のみ。出汁の熱で表面がうっすらと白みがかった鮭の切り身は、口に入れれば表面はふわり、中からはじわりと脂が滴り、食べる者の舌を唸らせる事請け合いだ。これこそ我が主の求める、シンプルにして最高の料理のはず。私は内心、自信満々だった。
「さあどうぞ、熱い内に――」
 その私の言葉が終わらぬ内に、私の自信は主によってばしゃりと引っ繰り返された。

「あらあら、また駄目だったようざますね。このままじゃ貴方、クビにするしかありませんわよ」
 奥様が、引っ繰り返された丼を見て呆れたように言った。
「そ、そんな! 一体何が悪いのか、私にはもう……!」
「何を馬鹿な事を。ウチのカトリーヌちゃんのデリケートな舌で、そんな熱いものを味わえる訳がないじゃありませんか」
 我が主カトリーヌは、我が意を得たりとニャーと鳴いた。奥様は我が主カトリーヌを抱き上げると、主に向かって話し掛けた。
「ああ、まったく可哀想なカトリーヌちゃん。それにしても、ここしばらくごはん食べてないのに、元気ねえ。何処かで何か食べてきたの? あまり変なもの食べちゃ駄目よ。いくら専属の料理人の腕が悪いからって。……あら? 何を咥えてるの? あらあら、汚いお人形。駄目よ、こんなの食べちゃ」
 そう言って、奥様は『それ』を私の作った丼の上へと投げ捨てた。『それ』は薄い、身体を覆う面積の少ない踊り子のような衣装を着た、半分に千切れた小さな女の人形だったが、意気消沈した私は特に気に留める余裕もなく、丼の中に僅かに残った自信と共にポリバケツの中へと葬った。


 美味しそう……ですか? 本当に自信が無いです。とりあえず、柿美さんに捧げておきます。要らないなら返品可。
 次回は、
○お題:「炭酸水、金剛石、酒豪」
○追加:「幻想的な描写」
 でお願いします。

5森羅万象:2004/04/06(火) 18:35
>風杜さん
 いやあ、やっぱり巧いですねえ。時代劇風の描写って、私には全然できません。ただただ感心します。

>柿美さん
 女の人って残酷です(笑)。いや、正直というべきか。箱の中の女はなんとなく小美人を連想しました。モスラが出てくるかと思ってドキドキしながら読んでしまいました。面白かったです。

>海猫さん
 ああ、擬人化オチですね(笑)。オーソドックスといえばオーソドックスなんですが、この作品ではまるで予想してませんでした。てっきり「お茶漬けには番茶よ!」といわれるのかと思ってましたが(笑)。

「炭酸水、金剛石、酒豪」(幻想的な描写)

 よい酒は水に似る、という言葉がある。落語にもそれをサゲに使った話があるくらいだから、おそらく有名な言葉なのだろう。私がその悪戯を思いついたのは、だから理由がなかったわけではない。
 ホームパーティは、ほどほどに盛り上がっていた。総勢六名の、こぢんまりとした催しで、玉置が主催した、彼の恋人の雪菜さんの誕生祝いだった。
 雪菜さんに花束を渡し、シャンパンの瓶を玉置に差し出した。
 玉置が栓を開けるのを、固唾を呑んで見守った。ラベルが見慣れないものであることに気づいたのは確かなようだった。「見たことないラベルだな」と彼が口にしないことも計算済みだった。
 弾けるような音とともに栓が飛んだ。私は安堵の溜息をついた。
 玉置がカウンターに置いてあるシャンパングラスに、炭酸水をそそいでいく。無色透明でないのはキャラメルシロップを足したから。アルコール分は香りでバレないようにホワイトリカーを。
「ヘンな味の酒だな」と我先に飲み干し、顔をしかめたのは酒豪の山崎だった。「なんか子供の飲み物みたいだ。好みじゃねえな」
「これは素晴らしい」と玉置は言った。「仄かな香りは、これは熟成された葡萄の持つ芳醇さと特殊な菌のアンサンブルだろう。口の中に黄金が拡がるようだ。黄金の輝きは永遠に色褪せない。古くから黄金は権力の象徴にして、美の具現者だった。錬金術師が黄金を作り出すことを理想としたのは、その不変性と美しさに魅入られたからに違いない。これは錬金術の結晶だ――」
 笑いをこらえる私に、玉置はウインクしてみせた。
「それになにより色がいい。トパーズのような色合い。まるで猫の金色の瞳を眺めるようだ」
「へえ、そんなもんかねえ」
 山崎が首をかしげながらも、自らグラスに再びシャンパンをついだ。他の皆も、偽のシャンパンではなく、玉置の言葉に酔いながらグラスを干していく。
 私は腹を抱えながら、柱の陰へと向かった。
――玉置の奴、飲む前から悪戯だと気づいてやがったな。
「悪戯好きのニンフさん」
 声をかけられて振り向くと、雪菜さんが微笑をたたえながら立っていた。手には私謹製のシャンパンを持って。
「だめよ、あんまり面白いことをしちゃ」
「なぜ?」
「だって、玉置がわたしより貴女のほうがいいと思ったら、困るもん」
「そんなわけないでしょ。お似合いよ。未来永劫、死が二人を別つまで……あたしの入る隙間なんてこれっぽっちもないよ」
 そうだ、これは私の本心。雪菜さんが金剛石なら、私はただのジルコニアだ。美食家の玉置が私に心を動かすことなど、――もしかしたら、美食に飽きて一度だけなら、という可能性はあるが――考えられない。
「乾杯しましょ」
 差し出されたグラスを手にとって、二人でグラスを重ね合わせる。チン、という澄んだ音が響いた。
 しかし、と私は心の中でつぶやく。美人は三日で飽きるが、ブスは三日で慣れると。あるいは蓼食う虫も好き好きとも。金剛石はひっかき傷には強くても、強い衝撃には絶えられないし。
 言葉の魔力にたぶらかされて、私はありえない夢を見る。悪戯心で作り上げた、偽の黄金の液体の中に。(了)

久しぶりの三語なので、うっかり長くちゃいけないというのを失念してしまいました。ごめんなさい。幻想味もほとんどないし(泣。

次のお題は
「貞操」「カンブリア紀」「ちくわぶ」で。条件は、「ダジャレを交えて」で。お願いします。

6にゃんこ:2004/04/06(火) 22:45
皆さんの作品の批評は、わたしの作品の下にあります。
次のお題は、一番下にあります。


「貞操」「カンブリア紀」「ちくわぶ」で。条件は、「ダジャレを交えて」

―― 月は知っている ――
古生物学者の岩代は、学会で「カンブリア紀の大爆発」と言う論文を発表しての帰り、駅前にある屋台で、あつあつのちくわぶをほおばりながら、コップ酒を飲んでいた。
「ちくわぶって、どうして穴があるのかしら」
横でオカマがふたり、おでんだねをネタに話をしていた。
「そりゃ、メンタだからよ」
「メンタか、そういえば、メンタイコは、あれに似ているわね」
二人のオカマはけらけらと笑った。
岩代は、心の中で、くだらんダジャレを話していると、軽蔑していたが、そんなことはおくびにも出さなかった。お金を支払うと蒼い月の出ている道を歩きながら、自宅にいる女房のふけた顔を思い出していた。そのとき懐の携帯が、振動した。助手の恵子から、メールが届いた。
『おつかれさま、チュッ!』
岩代はにやりとした、彼は貞操を守らずに女房以外の女と付き合っていた。
「カンブリア紀の大爆発か、世の中には、ちくわぶのメンタとメンタイコがあるから、生物は反映するんだ」
さっきのオカマの話と似たようなことを自分もひとりで呟いているのに、岩代は気づいていなかった。


森羅万象さん
登場人物がすてきですね。ヒロインも可愛いですが、雪菜さんがいいですね、玉置も大人です。山崎も個性が出ていました。この作品、人物が良く描かれています。幻想的な描写では、ありませんでいたが、描写はしっかりしていました。お話が可愛げのある嫉妬で、楽しめました。

海猫さん
おいしそうな描写でしたよ。導入部で猫のことはわかりましたが、お話は面白く読めました。文章に、読ませる力がありますね。これは、オチが深そうですが、書かれてある内容からでは、その奥深いところが読め取れません。人形のように見えていたのですが、人形ではなかったようですね。ここのところをもう少し書き込んだほうが、良かったのではないかと思いました。もしよろしければ、ラウンジで、このオチを教えてもらえませんか。
『追記』 柿美さんの作品を読んで、意味がわかりました(笑)。いやぁ、なかなか結構です。この手がありましたか。

柿美さん
お話は面白いというか、興味深いです。
何かしら不気味ですね。送られてきた美女に一言もしゃべらせていないのが、よけいにこの話を不気味にしています。ヒロインもたんたんしていて、ぞくりとします。夫婦の関係が手に取るようにわかります。夫も、怖そうです。
海猫さんが、続きを書かれたのですね、いやぁ、これはいいです(笑)。

風杜さん
のっぺらぼうの仕事人ですか。最初に出てきた夜鷹のお姉さんも、のっぺらぼうみたいですね。でも、これは、べつに妖怪でなかっても、よかったみたいですね。まあ、追加が「主人公は人外の者」ということだったので、妖怪ということになったのでしょうか。この妖怪が出ることに必然性は感じませんが、時代劇の描写とか雰囲気はお上手ですね。お話しの流れなども良かったです。


次のお題 新入社員 株(株式という意味) 再会 
追加 ドラマチックにする。

8のりのり子:2004/04/07(水) 23:10
推敲不足のものを投稿してしまい、一度は削除していただいたのですが、改めてまた投稿させていただきます。
今度は間違いはないと思うのですが(汗

>風杜さん
お題の消化の仕方といい、いつもお上手ですね。
時代劇の描写は私には逆立ちしても書けないので、とてもうらやましいです。
すっとこどっこいとか、会話のテンポがすごく良かったです。
 
>柿美さん
面白いです。思わずこの美女の姿を想像して笑ってしまいました。
きっとものすごく色っぽいんでしょうねえ。
六ページほど書かれたとのことですが、ぜひ全部見てみたいと思いました。

>海猫さん
おいしそうでした。お腹が空くくらい。
お茶漬けを猫に出すとはチャレンジャーな料理人ですよね(笑
ゲスト出演のようにして出た柿美さんの作品の美女がまた面白かったです。

>森羅万象さん
鍛錬場に投稿されていた作品もそうですが、どうしてそんなに女心を書くのが上手いのですかと聞きたいです。
登場人物が全て大人の、表に出ることのない内面的なものを見事に書けていると思いました。

>にゃんこさん
皮肉ですねえ、他人に見る滑稽さが自分の中にもある。
でも人間みんなそうなんでしょうね。
愛人からのメールの内容を見た瞬間に、おいおいオカマと同レベルじゃないかと突っ込んでしまいました。

では。
お題「新入社員・株・再会」
追加ルール「ドラマチックにする」

 春とはいえ夜はまだ肌寒い。公園の芝生の上にダンボールを組み立てて、青いビニールシートをかけただけの安っぽい部屋の中には、たえずどこからか隙間風が吹きこんでいる。十数年前に株で大失敗して以来、会社を辞めてホームレスとして暮らしている幸三は、ゴミ捨て場から拾ってきたせんべい布団をかぶって、手に握り締めた社員証をランプの火にかざしていた。
 今日の夕方、アルミ缶を積み重ねたリヤカーを動かしながら角を曲がったところで、幸三は前方からやってきた女性とぶつかってしまった。幸いなことに女性は無事だったが、女性の持っていたバッグは、中に入っていた財布や携帯電話を撒き散らしてアスファルトの上に転がった。幸三はリヤカーから離れてバッグの中身を拾ってやろうと手を差し出した。だが女性はそれを払いのけるようにして自分の持ち物をかき集め、幸三を冷たく一瞥して足早にその場を去った。何もそこまでホームレスを敬遠しなくても、と苦々しい思いをかみ締めた後に、幸三は道の端に忘れられている社員証を見つけた。
 運命とはなんと奇妙なものだろう、と思う。長いこと風呂にも入っていない泥だらけの手の平に握り締めた社員証には、恐らく短大を卒業したばかりの新入社員である女性の生年月日と顔写真と名前が載っていた。幸三はその社員証を直視することができない。別れた女房の性を名乗る娘との再会を、家族を捨ててホームレスになった自分に喜ぶ資格などないのだ。
 この社員証を交番に届けた際には、警官は必ず幸三の名前も聞くだろう。いったいどんな偽名を使ってその場を乗り切ればいいのか、頬に当たる隙間風に身を縮めながら幸三はしわだらけの顔を歪めた。

ドラマチックと偶然を同じ意味としてとらえてみましたがどうでしょう。
そういえば犯罪者が知らず知らずのうちに実の娘の車を盗んでいたという実話もあるそうですね。

次のお題は【爪切り】【公園】【サラダ】
追加ルールは【ファンタジーで】

9森羅万象:2004/04/08(木) 01:07
どもども連日の参加です。

>にゃんこさん
 私は性格が悪いもので、書きづらいよう書きづらいようお題を出すのが趣味なのですが、あっさり書かれてしまってくやしいような(笑
 きっちり短く、しっかりとまとめてきますね。お見事です。あ、でも「メンタ」の意味が……おそらく、アレだとは思うんですが、チョイとわかりませんでした。

>のりのり子さん
 うまいですね。ただただ感心します。いやあ、親父、せつないなあ。
 しかし、株で失敗して遁走、となると家族に迷惑かからなかったのか、それもまた気になったり。

「爪切り」「公園」「サラダ」追加「ファンタジー」で。

 アメイモンの神殿にたどりついたのは、闇が空を侵食しはじめた逢魔が刻だった。
「彼岸と此岸を繋ぐ時間……よりによって、なんでこんな時間に」
 <澄ました猫>が呆れたような声を出した。
 俺は苦笑しながら剣を振るう。<竜の爪切り>と呼ばれる業物だ。
 <竜の爪切り>はヴウウウンと唸るように震えた。発光した。
「主が間抜けだとこちらが苦労するな、<猫>よ」
「うるさい。だまれ」
 俺はくちさがない剣を睨んで、神殿へと足を踏み入れた。

 神殿内部は、そこが建物の中だと思われないほどに広かった。<人見知り公園>の軽く五倍はある。膝の高さほどの草におおわれ、それが風になびいている。
 しかも、なぜか空が拡がっていた。青空。まるでピクニックにでも来たような気分になった。
「まやかしよ」と<猫>
「わかってるよ」俺は答えて、さらに歩を進めていく。
 唐突に空が曇った。曇天に、小麦の穂のような光が幾筋も走った。
「それらしくなってきたじゃないか」
 微笑んだ俺に、<爪切り>が呆れたように言った。「主がバカだと――」
 眼が眩んだ。
 衝撃があった。
 気づくとそこには何もない闇が拡がっていた。<爪切り>も<猫>もなくなっていた。
 闇の中に蝋燭の灯りのようなものがともり、それが灯明だとわかったときには、少女は俺のすぐ目の前にいた。
「ねえ、あなた、アメイモンを倒しにきたの? 英雄さん?」
「……ああ、そうだ」
 俺は痛む全身をなだめすかしながら立ち上がった。
 少女が微笑んだ。「人間には無理よ。出直しなさい」
 わかっていた。この少女がアメイモンそのものであることに。
「猫ッ!」俺は叫んだ。
 影が少女に飛びかかった。少女が狼狽した。同時に俺は少女に飛びかかった。抱きしめた。俺の体を<爪切り>が貫いた。それはつまり、アメイモンの体にも<爪切り>が深く突き刺さったということだ。
「……そんな、まさか」少女はいやいやをするように体を動かした。だが俺は抱きしめる力を緩めない。
「あんたには意志はない。ただの鏡だ。人間の理性を反対に映し出す鏡。だから人間には無理だった」
 俺の腕の中で少女は闇の粒子となり、砕けて、消えた。

「よくやったな、<サラダボウル>」
 <爪切り>が言った。
「さすが、ご主人様ね」
 <澄ました猫>がふざけたように言った。
「やめてくれ」俺は苦笑した。「俺もおまえらと同じただの呪具物だ。なんでも雑多に呪具物をほおりこめる、ただの器だ」

 ああっ。オンラインで書いたら短くなると思ったのに!(泣。
 書きづらいので改行多くしたら、こんな事態に。次からは気をつけます。
 お題は事故ってなかったら、次レスで。

10森羅万象:2004/04/08(木) 01:11
セーフ! セーフってことで!
(というか、こんな時間に書き込んでる人がいないだけですか?(笑

では次回のお題は「天国への階段」「ビーチ・ガール」「ハートに火を点けて」で。
追加テーマは「ミステリータッチ」で。

11タイ・カップ:2004/04/08(木) 05:27
 はじめまして。タイ・カップと申します。新参ですがよろしくお願いします。

 >森羅万象さん
 スムーズにお題を消化されていますね。ファンタジーとしても無理がなく、読みやすく仕上がっていると思います。
<>の記号に私などは何か深い象徴性があるような印象を受けました。そのあたり、さまざまな読みの可能性を秘めた作品になっていると思います。

 お題:天国への階段 ビーチ・ガール ハートに火を点けて 
 テーマ:ミステリータッチ

「つまり、グラスとワインに手を触れたのは運んできた女中だけ、そのワインを飲んだ恵子はグラスを置くや否や急に苦悶し、床に倒れた。
その場にいたのはボーイフレンドの俊夫と女中のみ。女中は直ちに手首に触れてみたが脈はなかった。捜査の結果恵子のグラスから
青酸カリが検出されたとこういうわけですね」
 現場は海岸を一望できる別荘の白いテラスで、通称天国への階段と呼ばれるK岬の石段を上った先にある。夏の砂浜はビーチ・ガール達で
埋めつくされていた。
「ハートに火を点けて」――これが彼女の最後の言葉だった。四月一日の誕生日。バースデイケーキの蝋燭に俊夫は火をともしていった。
ハート形のチョコレートの脇にある最後の一本につけ終わると彼女はワインを口に含んだ。それが死への口づけになった。
「ああ。女中は否認しているが、他に犯人はありえないな」
 常連客の刑事はやれやれといった風情で煙草を灰皿に押しつけた。
「ところで、何か気になる遺留品などはありませんでしたか?」
 茜屋のマスターの問いに刑事は答えた。
「特にないね。強いて言えば物置になつかしい絵柄のゴム球があったくらいかな」
 するとマスターはグラスを磨く手を止め、刑事に言った。
「刑事さん、女中は無実です。犯人は俊夫に間違いありません」
 恵子が最初にワインを飲んだ時、毒は含まれていなかった。グラスをテーブルに置く余裕があったことがそれを示している。脈がなかったのは
脇にゴム球をはさんでいたためで、エイプリルフールの余興のつもりだった。少なくとも恵子にとっては。だが俊夫は彼女が倒れている間に
ワインに毒を入れた。女中が去ると恵子は起きあがってワインを飲んだ。これが彼女を死へと旅立たせたのだ――これがマスターの謎解きであった。
「なんということだ!」
 刑事は勘定を払うと扉を開き、脱兎のごとく駆け出していった。

 少し長めになってしまいました。うまくおさめるのはなかなか難しいですね。
 では新たなお題は、「将棋・紅茶・桜」でおねがいします。テーマは「歴史にまつわる要素」を加えて下さい。

12タイ・カップ:2004/04/08(木) 05:33
↑すいません、改行の具合がうまくいかなかったようです。以後気をつけます。(mm)

13タイ・カップ:2004/04/08(木) 05:50
上の作品、四月一日は夏ではありませんでしたね。ミスでした^^;

14海猫:2004/04/08(木) 12:39
>森羅万象さん、感想有難う御座いました。
 お茶漬けには番茶。ああ、やっぱりそうですか。いや、僕自身あまり食べないんで、どっちにしようか迷ったんですよ。そうか、番茶か……。
○「炭酸水、金剛石、酒豪」
 お題の解消、ご苦労様です。
 知的で大人な人々ですねえ。セリフが、僕なら書けないものなので、勉強になります。
 >「悪戯好きのニンフさん」
 こう言われた日には、もう裸足で逃げ出しますよ(窓突き破って)。
『幻想的な描写』という追加ルールですが、「玉置」のセリフが一応描写にもなっているので、ぎりぎりセーフかな、と。
○「爪切り」「公園」「サラダ」
 この長さでハイファンタジーって……頑張り過ぎですよ。その努力はともかく、残念ながら描写が曖昧な所がちらほらと。惜しいです。最後の<サラダボウル>というネーミングは「?」だったんですが、「なんでも雑多に呪具物をほおりこめる」で納得。成る程、「人種のサラダボウル」の流用ですか。

>にゃんこさん、感想有難う御座いました。
 意味が分かって頂けたようで、一安心です。作者が出張ってネタの説明なんて、力量不足もいいトコですから。
 >書かれてある内容からでは、その奥深いところが読め取れません。
 これはまあ、当然ですね。書いてないので。
○「貞操」「カンブリア紀」「ちくわぶ」
 愚者と賢者は紙一重と言いますが、成る程。口から出る言葉は違えど、考えている事は皆一緒という訳ですね。短く纏めるという姿勢は見習いたいです。僕、最近長いのばかり書いているので。
 ところで細かい指摘で恐縮ですが、
 >生物は反映するんだ
 の「反映」は、「繁栄」の誤字でしょうか? 初め何度も読み返して、意味が分からなかったもので。

>のりのり子さん、感想有難う御座いました。
 >お茶漬けを猫に出すとはチャレンジャーな料理人
 僕も同感……なんですが、初めは猫まんまにしようと思ってたんですよ。で、次には雑炊にしようと思ったんですけど、最終的には何故かお茶漬けに。僕の脳内で何が起こったのかは、誰も知りません。
○「新入社員・株・再会」
 偶然というよりは、因果を感じました。長い物語の序章を想像させられ、書こうと思えば一本書けそうです。やはり街の曲がり角には出会いが待っているのでしょうか。「隙間風」が象徴的。出来れば希望を込めて、「春風」も使ってほしかったかな、と思います。

>タイ・カップさん、初めまして。歓迎です。
 四月一日は……まあ、一個人がどう努力しても、夏じゃないッスね。いっそ南国という設定にすればどうかと。しかし元々僕はミステリ畑の奴なんで、こういう展開は大好きです。出来れば謎解きにもう少し説得力があれば、というのは欲張りでしょうか。「俊夫」という登場人物と「ゴム球で脈を止める」というトリックから、『かまいたちの夜』を連想しました。

>柿美さん、感想有難う御座いました。
 お褒め頂き光栄至極。というか、『海原雄山ネコ』ってタイトルに笑いました。じゃあそれで。要らないって言われたらどうしようかと思ってましたよ。で、『海原雄山ネコ』なんですが、柿美さんのあの作品の後だからこそ書けたものなので、感謝しております。事後承諾で恐縮ですが、了解頂けてほっとしてます(この間パクリ問題が挙がってたので)。

 長いので、ここで分割します。

15海猫:2004/04/08(木) 12:40
 ではお題に。

○お題:「将棋、紅茶、桜」
○追加:「歴史にまつわる要素」


 ……ああ、お客さん。悪いねえ。そいつァ生憎、売り物じゃあないんだよ。他にも色々あるから、済まねえがそっちから見繕ってもらっちゃあ駄目かい? ほれ、こっちの柘植なんてどうだい? 質感だってなかなかの……お前さん、拘るねえ。そんなにその将棋盤が気に入っちまったのかね? なに、他の盤とは違って見える? いかんな、魅入られちまったかね。仕方ない。教えて差し上げましょう。
 その将棋盤はな、お前さんの言う通り、他の盤とはちょいと違う。材質がね、そいつは桜で出来てるんだ。桜ってな、あまり使うもんじゃないんだが、まあだからこそ、そいつはちょいと違うんだわ。その桜の木はね、とある合戦場跡に人知れず生えてたもんだ。樹齢は二百年とか三百年とか、まあ大したもんだよ。おっと場所は教えられないね。今じゃ私有地になっちまってるからね。おいらはそこの地主さんとちょいと知り合いで、その関係でその桜の木と出会ったのさ。
 身震いするほど、ってな大袈裟かと思うかも知れんが、それくらい綺麗な桜だった。春の初めには他のどの桜よりもいち早く花開いて、他の桜が盛りの頃には、もう花びらを零していた。月夜にはその舞い散る花びらがね、こう月の光を浴びて、雪みたいにぼんやり光るんだわ。しかし、桜の木ってのは、ほれよく言うじゃねえか。『根元に死体が埋まってる』だの何だの。余所で聞きゃあ笑って済ますが、その場所がどんな所か知ってるだけに、そこじゃあ苦笑いにしかならんわな。
 酷い合戦だったらしいわ。お家騒動で立ち昇った、まさに骨肉の争いって奴か。巻き添え食らって戦った兵達にとっちゃ、堪ったもんじゃねえな。元々袂を同じくした、仲間同士だってのにね。そして戦うだけ戦った挙句、隣国の殿様に国乗っ取られたんじゃあ、無駄死に犬死にも良いトコさ。兵達にだって家族はあったろうに。
 その桜の木がね、おいらにゃ墓標に見えて仕方なかった。桜は往々にして、死に通じるものがある。時々その一片一片がね、生まれて無慈悲に散っていった人々の、魂の火の粉にも見えたよ。その地に染み込んだ人達の血を吸って数百年生きた、桜の念なのかもしれんが。
 で、その桜の木なんだが、数年前に病気に罹っちまったんだ。酸性雨でね、時代の流れってな皮肉なもんだわ。もう寿命も近かったのか治らないってんで、その地主さんがね、おいらにこの桜の木で将棋の駒と盤作ってくれ、って注文したのさ。それで出来たんが、お前さんの抱えてるその一式さね。
 何故それが、未だにここにあるか、って? それなんだよ。実はその地主さん、お亡くなりになっちまってね。その一式、宙ぶらりんのままここに置いてんだわ。ん? じゃあ寄越せって? はっはっは、無理だねえ。何故? その駒、よう見てみれ。表にも裏にも、何も文字が書いてないだろう? それじゃあ将棋は指せんわな。
 ……何と言うかねえ、もう戦わせたくないんだわ。例え盤上でもね。それにほれ、駒ってな、見ようによっちゃ墓石にも見えるだろ? これが名も無い人々に向けた、おいらなりの供養でさあ。

 店主はそう言うと話し疲れたのか、冷めてしまった紅茶を静かに啜った。



 今回はオーソドックスに。歴史にまつわる要素……か否か、不安ですが。
 次回は、
○お題:「狐火、小春日和、初日の出」
○追加:「喜劇」
 でお願いします。

16上珠:2004/04/09(金) 02:48
>風杜さん
とにかく一言。素晴らしい描写ですよ^^
あまりに素晴らしいものなので、思わず画面の前で手を合わせて拝んでみたり(笑)
最後がちょっと急ぎ足だったかなぁ、とは思いました。が、どんなことがあったんだろう……と想像をかきたてる、という意味ではそれで良かったのでしょうね^^
追伸:過去ログ移転作業、お疲れ様でした♪ 私からは何も出来ませんが、せめてこの三語即興に参加させていただくという形で恩返し(?)を……!

>柿美さん(次の海猫さんの作品と併せてです〜)
前回はどうもありがとうございました^^
生贄となる若い娘というカテゴリーにはあの侍女も含まれる、ということをほのめかせるために曖昧にしてみたのですが……伝わってよかったです。

他の方々も仰っている通り、これだったらもっと長くなりそうですね……。海外赴任から帰ってきた夫が「プレゼントはどうした?」とか尋ねたり色々と……。
話はとても興味深く、一読者として話の続きが気になるものでした。
それを海猫さんが裏話(?)という形でフォローなさって……こういう風にコラボレーションするのっていいなぁ、と思いました^^
海猫さんの描写は本当に美味しそうでした。普段、食にはあまり関心の無い私でもヨダレがダラリと……じゅるっ(笑)
文章の方も話のバランスも良く、見た限りでは妖しい箇所も無く、素晴らしいと思います。
(まぁ、私が言えた身分でもないのですが(苦笑))

>森羅万象さん
【悪戯好きのニンフさん】
たしかに……幻想的、は違いますよね……。
ですが、『私』の密かな嫉妬がいい味を出していて、個人的には満腹です^^
【アメイモン】
お題の消化に相当困ったのかなぁ、というのが第一印象でした(口が悪くて申し訳ありません……)
ファンタジー好きの私としてはこういう描写は嬉しい限りです。たしかに多少曖昧な点はありましたが、まだ妄……想像力でカバーできる範疇だと思います^^
ですが、最後の『俺』のセリフが今一つピンと来ないですね……自分の読解力の無さに泣けてきます(TT)

>にゃんこさん
すっきりとまとまっていていい感じだと思います。
ですが……既に海猫さんが指摘なさっているとおり、後半部の誤字が気になりました。
言い換えれば、誤字ぐらいしか眉を顰める部分がなかった、ということですね^^;

>のりのり子さん
こんな話、どこかで聞いたなぁ……なんてことを思いながら拝読させていただいていたのですが、成る程納得です。先日、その内容のテレビを見ました。
娘のために色々と思案を重ねる父の顔が目に浮かぶようでした。

>タイ・カップさん
実は私、このお題をパスしたんですよ。ああ、私にゃ無理だコレ、といった感じで^^;
夏と四月一日を混同なさった辺りからも、お題の消化に目が行っていたのかな、と思ったりも……。
ですが、この三語即興の長さであのトリックとなると、それだけで「お見事!」と言いたくなりますね^^
スパッとトリックを見破ったマスターもカッコいいです♪

>海猫さん
前回はどうもありがとうございました。
やはりお題の単語を人物名に代用するのはマズいですね^^;
>>「……私はとんだ愚か者だな」
> その繋がりで、このセリフも意味深に思えました。
一つの事にとらわれて周りの事が見えていなかった自分をフール(人物名です^^;)と重ねて自傷的に述べたもの、というつもりで用いたのですが……混乱させてしまったようですね^^;
申し訳ありませんでした。

作品の方は、批評するつもりがいつの間にか普通の読者として楽しめてしまいました^^;
読んでいるうちにグングン引きこまれて……。
>……何と言うかねえ、もう戦わせたくないんだわ。例え盤上でもね。それにほれ、駒ってな、見ようによっちゃ墓石にも見えるだろ? これが名も無い人々に向けた、おいらなりの供養でさあ。
この言葉から伺える主人の優しさがとても心地よいですね^^
最後に「紅茶を啜った」とありましたが、ここにたどり着くまでに築き上げられた店のイメージに合ってないなぁ、と思ったのです。が、成る程お題でしたか。
唯一欠点があったとすれば、その一点だけですね^^
いやいや、素晴らしいです。


分割です〜。

17上珠:2004/04/09(金) 03:01
では、本題の方へ……。

お題:『狐火』『小春日和』『初日の出』
追加:『喜劇』

 私が朝刊に目を通していると、不意にこんな声が耳に飛び込んできた。
「取れた!」
 それはまだ六歳になったばかりの息子の声で、とっとっとっ、とリズミカルな音が洗面所へ続く廊下から聞こえてきた。私が新聞から目を離して音がした方を向くと、息子が全力疾走で真っ直ぐこちらに向かっている。
「どうした? そんなに慌てて……」と私が言いきる前に、息子は満面の笑みで右手を私の鼻先に突き出した。驚いて顔を引き、息子の右手――息子が指で摘んでいる物をジッと目を凝らして見てみる。何やら小さく白いものが、窓から射し込む小春日和の朝日に照らされて輝いていた。
「お父さん! 歯が取れた!」
 息子がニッと歯を見せる。ああ、成る程。たしかに上段に前歯一本分の隙間ができていた。
「あらあら、歯、取れちゃったの?」
 突然、妻が背後から顔を覗かせて残念そうに言った。だが、その横顔はホッと一安心といった様子である。
「歯医者さんに行って、おっきなペンチで引っこ抜いてもらおうと思ってたのに」
 それを聞いた息子は勝ち誇ったような顔をして、
「『きつねび』見て、びっくりして取れちゃった!」
「は?」「は?」
 私と妻は声を揃えて息子の顔を見た。息子の言う『きつねび』とはおそらくあの『狐火』のことなのだろうが……。
「あのね、鏡見てコレを抜こうとしてたらね、突然『きつねび』が出たんだよ。ほら」
 息子は左前方を指差した。まさか『狐火』がいるのか? しかもこんな朝っぱらから? 恐怖よりも不信感が勝る心境で、私と妻は息子が指差す先に目を向けた。
 ……特に妖しいものは何もない。ただ、火の消えたコンロの上にフライパンがあるだけである。
「火が点いてるとね、『きつねび』みたいでびっくりしちゃった!」
 私と妻は唖然としたまま何も言えなかった。台所のコンロから洗面所の鏡までは一直線上にあり、その間に視界を遮るものは何も無い。……つまり、息子は妻が点けたコンロの火を『狐火』と見間違えた、というのだ。
 抜いたばかりの歯をかざして色々と観察している息子を見て、ある出来事を思い出した。テレビで初日の出の映像が流れていたのだが、それを見た息子がこんなことを言ったのだ。
「のっぺらぼうみたいだね」
 その時、息子が手にしていたのは『日本の妖怪大図鑑』という分厚い本。私の父が、面白いから読んでごらん、と息子に渡したものである。

 あと二十年もしたら、息子はあの水木茂を凌ぐ妖怪マニアになるのでは?
 「お母さん、コレ、屋根の上に投げるんだっけ?」と妻に尋ねる息子を見ながら、そんなことを危惧すると同時に楽しみにする日曜日の朝だった。


では、次のお題です。
お題:『熊』『鮭』『木彫り』
追加:『おとぎ話風に』
でお願いします。

18森羅万象:2004/04/09(金) 05:04
これで三日連続です(笑。始めるまえに勝手に三日連続で、と決めていたので、今回で連日参加は終了。あとはまったりと参加させていただきます(笑。

>タイ・カップさん
 うお。またもやあっさりとお題を消化されてしまった!<くやしいらしい。掌編ではミステリを書くのは無理だろうとあえて「ミステリータッチ」にしたんですが、ミステリにしてしまいましたね。グッジョブ!(笑 安楽椅子探偵とマスターはなぜかよく似合います。

>海猫さん
 うう……ヤバいですよ。うまくて面白いってのは卑怯ですよ、旦那! などと下男言葉になってしまうくらいグウの音も出ません。私は黙読派なんですが、リズムもいいです。うーん。! あ、そうだ。最期の紅茶だけは蛇足っぽいですね。勿体無い!

>上珠さん
 おお、無理なくお題消化してますね。ほのぼのしてます。いい作品だな、と思いました。少し子供がませすぎな気もしますが(笑。それにしても、水木しげるを越えたら、それは世界一の妖怪博士ですよ、おそろしい。両親の期待と不安が偲ばれます(笑。


『熊』『鮭』『木彫り』追加テーマ(おとぎ話風に)

 とてもとても寒い土地です。川がこおりつくころになると、村のみんなは家にこもります。みじかい夏のあいだにためておいたホシ肉や魚のヒモノが、きちょうな食料です。だいじにだいじにすこしずつ食べて、また夏がやってくるのを心まちにします。
「ねえ、ととさま。ふゆのあいだ、クルゥイワカマはどうしてるの? クワがこおったら、ゥワカトウトもこおっちゃうよ?」
 コタヌムワルは父親にたずねました。
 クルゥイワカマとは熊のこと。クワは川。ゥワカトウトは鮭のことです。
 父親はいろりではじける火花を見ながら、コタヌムワルの頭をなでました。
「クゥルイワカマは、冬のあいだ眠るんだ」
「ずっと? 冬のあいだずっと? 夏がくるまで?」
「たらふくゥワカトウトを食べて、そしてぐっすり眠るんだ。ムワルがいうように、夏までずっとな」
「どこで眠るの?」
 父親はへやのはしっこを見ます。そこには木で作られたタナがあり、木彫りの置き物がかざられていました。
「そうか!」
 コタヌムワルは立ち上がり、木彫りの熊を見ました。
「だから夏になると、火のなかにいれてあたためるんだね!」
 川の氷がとけると村中で祭りをします。そのとき、木彫りの熊は火にくべられます。カマモヌンドリと呼ばれる、夏まつりの一番の行事です。
「……じゃあ、かっかも夏まで眠ってるんだね?」
 木彫りの熊のとなりに置かれた、おなじく木彫りの女性をだいじにだきしめるようにして、コタヌムワルは目を閉じました。
「それは――」
 父親が困っていると、コタヌムワルは女性に頬をあてたまま、ひとすじの涙を流しました。本当はコタヌムワルにもこたえはわかっているのです。そう思った父親は、ただだまってパチパチと弾ける火花をながめつづけました。
 ひとすじの涙は、夏のおとずれを知らせる、雪どけのようでした。
 とてもとても寒い土地にも、夏はかならずやってきます。


だめです、短く書けません!(ごめんなさい。

 次のお題は「滑車」「重複」「倦怠」で。
 追加テーマは「軽いタッチで」

19おづね・れお:2004/04/09(金) 06:27
おづねです。遅くなりました〜(^^;>
しかも森羅万象さんと同じお題で書いてしまった……。ついでに、ずいぶん長くなってしまいました。
でもこれ以上ぐずぐずしているのも申しわけないので、事故作品として投稿させてください。
すみません。

せっかくの場なので、長くなりますが、感想も書かせてくださいね。
みなさんの作品、どれも楽しかったので〜。

》風杜さん
台詞回しが流れるようで、気持ちいい作品ですね。私にはこういうのは書けないので、すごいなあと思うばかりです。内容、色恋の問題はいつの世もむずかしく、また根が深いものですね。人外の者のほうが人の心をよく知るという構図がとても気に入りました。

》柿美さん
小さな女がどういう生き物なのかという謎よりも自分の嫉妬のほうが関心の向かう先になっているところ、よかったと思います。人間の心の歪みのようなもの(失礼な表現かもしれませんが(^^;)を感じ取りました。「金平糖みたいな小さな手で肉片を鷲づかみにしてぴちゃぴちゃと食べている」という描写がとても印象的です。
小説書き始めて半年足らずとはとても思えないなあ……。うまいなあ……。

》にゃんこさん
お題の消化が自然ですね。巧みだと思いました。まるでこのお話のために作ったかのような……だじゃれも自然です。岩代氏は学会の発表のあとだというのに一人酒。さびしさを紛らわすための浮気なのかな、どうなのかな。
そんなことも「月は知っている」のかもしれませんね。

》のりのり子さん
十分にドラマチックで、主人公の思いをしばらく想像しました。幸三という名前が皮肉でもあり、またこの偶然の出会いを「幸い」ととれば暗示でもあるのでしょうか。過去の罪や不幸を背負った人物がのりのり子さんの中にちゃんといるんだなあ、と安心しました。いつぞやは生意気言いまして、失礼しました(^^;

》森羅万象さん
初めまして、でしょうか。よろしくお願いします〜。三日連続投稿、お疲れさまです。バリエーションに富んでいてどれもいいお話になっていますね、すごいなあ。
◇「悪戯好きのニンフさん」の話
人物の配置が巧みで感心しました。後半、雪菜さんと主人公のそれとないつばぜり合いの雰囲気でしょうか。過去から続いている主人公の思いが迫ってきて楽しかった。しゃれっ気のわかる玉置だから期待してしまう……そこまで彼にはうすうすわかっているかもしれないなあ、と想像します。
◇「呪具物サラダボウル」の話
爪切りという単語がこれほどかっこよく使われるとは想像外でした。私もこのお題には挑戦してみたのですが、こんなにきれいにアレンジできませんでした。呪具物の中でもサラダボウルはかなり特殊な存在である「におい」がしますね。会話からすると本来は人間だけが主になれるという設定なんでしょうか。サラダボウルはきっといろいろな点で人間に近いんでしょうね。
◇「コタヌムワル」の話
他愛もない小さな子のお話かな、と思って読んでいくと、この子のお母さんの話につながっていくんですね。コタヌムワルにも本当はお母さんが死んでしまったことがわかっているところがとてもいいと思います。小さな子でも、大人でも、自分が受け止めきれない悲しみをこうやって何かにゆだねるのかもしれませんね。このお話では木彫りの女性ですね。たき火と涙のあたたかさが印象的でした。

(続きます)

20おづね・れお:2004/04/09(金) 06:27
(感想の続きです)

》タイ・カップさん
初めまして〜。よろしくお願いします。
この短さできちんとミステリーになっているのに驚きました。最後の刑事が書けだしていく描写もすごく感じが出ていると思います。お題と同時に消化してこのサイズという手腕に感心するばかりです〜。茜屋のマスターが探偵なんですね。

》 海猫さん
◇「カトリーヌちゃんと茶漬け」の話
短い中で意外性のある展開、楽しく読みました。カトリーヌちゃんが主とは予想外です。
「ふつふつと蒸気を吐き出す鉄器」、はじめ中身が見えないところがまた、おいしそうで、いいですね。私も食卓にひとつこんなのがほしいなあ。カトリーヌちゃんはペルシャネコあたりのイメージがはじめありましたが、柿美さんのお話とのリンクを考えるともっとたくましい方なんでしょうね。怖い(^^;
◇「桜と将棋盤」の話
お題がきれいにおさまっている上に、とてもお話としておもしろい。とくに将棋の駒の下り、もっと長いお話でもきれいにまとめられるだけのものがあると思いました。上珠さんのおっしゃるように、紅茶だけが少し違和感を残したのが惜しまれます。とてもいい話だと思います。

》上珠さん
狐火の錯覚がおもしろく、ほほえましい感じですね〜。息子の妖怪話にうろたえる父親が楽しいです。彼の存在が喜劇的ですよね。小春日和が冬の初めの暖かい日のことを指すので、お話は冬の初めなのだと思って読みました。テレビの初日の出のエピソードは、たぶんけっこう前の話ですよね。
このお題(『狐火』『小春日和』『初日の出』)で少し悩んだところだったりします(^^;

21おづね・れお:2004/04/09(金) 06:30

(事故作品につき、お題は森羅万象さんのものを。以下の通りでお願いします)
 ◇ ◇ ◇
 次のお題は「滑車」「重複」「倦怠」で。
 追加テーマは「軽いタッチで」
 ◇ ◇ ◇


『熊』『鮭』『木彫り』追加テーマ(おとぎ話風に)


 むかしむかしあるところに、山彦と海彦が住んでおった。
 ある晩のこと、山彦の家の囲炉裏端で、山彦と海彦はこんな話をしていた。
「海彦よ、あの兄弟熊にもほとほと参ったのう」
「山彦よ、お前のところは何をやられた」
「我が家ではあの二頭の熊は畑をすっかり荒らしてしまった」
「我が家ではあの二頭の熊が鮭をみんな盗んでいった」
「このままでは、おとうもおかあも、冬の間食べるものがねえ」
「息子も娘もひもじい思いをすることになる」
 そんなわけで、二人は熊退治に向かうことになったんだと。
 山彦は自慢の弓矢を、海彦は得意の銛(もり)を持って沢ぞいのけもの道を上っていった。
「海彦よ、あちこちの枝にたくさんの木の実がなっておる」
「では我が銛でつついて落とそう」
 二人はあけび、山ぶどう、クルミなどの木の実をどっさり手に入れた。
「山彦よ、向こうに鳥が見えるぞ」
「では我が弓矢で撃ち落とそう」
 キジ、ヤマドリを何羽か撃ち落とし、それも二人は手に入れた。
「のう海彦よ」
「なんだ山彦よ」
「これだけあればしばらくは食うに困らぬなあ。兄弟熊退治をせずともよいのではないか」
「だがきっとまた熊たちは我々の食べ物を荒らしにくるに違いない」
「では退治しなくてはならないな」
「退治しなくてはならないぞ」
 そんなわけで二人はどんどん奥へ進んでいった。
 目的地に近づくにつれて、あちこちの木に新しい爪痕が目立ち始めた。
「もうじきだぞ、海彦よ」
「ああわかっている、山彦よ」
 二人は慎重に熊の足跡を見つけてたどっていった。そして熊の住処である洞穴を見つけた。中からは物音は何も聞こえなかった。
 松明の明かりで洞穴を照らしてみると、洞穴はさほど深くなさそうに見えた。兄弟熊はいないように見えたが、いちばん奥までは光が届かない。
「入ってみるか、海彦よ」
「入ってみよう、山彦よ」
 二人が足を踏み込むと、なんと、洞穴の奥には兄弟熊よりもずっと体の大きい雌熊が体を横たえていた。
「これは母熊じゃ」
「しかも大けがをしておる」
「ああ、この体では動けまい」
「さては、兄弟熊はこの母親に食べ物を運んでいたのか」
 二人は顔を見合わせた。そして黙ってうなづきあった。
 洞穴を出た二人の手にはそれぞれ、出発したときと同じ、弓矢と銛が残されているだけだった。
「熊には取れない木の実を見つけたからのう」
「熊には狩れない鳥がいるしのう」
 山彦と海彦はそれぞれ我が家に帰って家の者にこの話を伝えた。
 そんな話がのちの世にも伝わって、このあたりでは二頭の熊と母親を木彫りにして家ごとに必ずひとつ、備えるようになったんだと。


−了−

22にゃんこ:2004/04/09(金) 14:59
みなさん、創作活動お疲れ様ですヽ(^。^)ノ

◆おづねさん
いいお話ですね。山彦と海彦の兄弟にあわせて、兄弟熊が彼らの食料をなぜ盗んでいくのかが、けがで動けない母熊のためだとは……。見事に、おとぎ話風になっています。山彦と海彦の狩のことなどもわかりやすく書かれていました。お話自体も素直なつくりで好感が持てました。でも、おづねさんなら素直なつくりでない作品も、面白いものを書いていますね。

◆森羅万象さん
たしかにファンタジーですね、雰囲気は良かったです。
しかし<>をなぜ使われたのかがわかりませんでした。使う必要が無かったのではありませんか。<人見知り公園>の軽く五倍はある。というところなのですが、読み手は「人見知り公園」を知らないので、軽く五倍はあると書かれていても、イメージができません。<爪切り>も<猫>もなくなっていた。と書いてあるのに、そのあとで、急に猫が飛び出してきたりと、少し、都合よくできているなと思いました。だけど、最初に書きましたように雰囲気はなかなか良かったです。前作のような作品も書けるのですから、この作品の欠点は、たぶん作者さんはわかっているのではないかと思いました。
「おとぎ話」
これはいいお話です。父親と子供の……そして、母親の愛情物語になっていますね。生活に密着したような描写からはじまっているところも良かったです。それが、北の大地の自然の営みに関係して、そこから、母親の死、そしてそれを乗り越える子供の姿が描かれていました。最後の二行は決まっていました。この作品は感動物でした。

◆上珠さん
狐火をうまく消化しましたね。ガスコンロを鏡で見るとは、さすがです。ほかのお題もうまく消化されています。この作品の良いところはほのぼの感ですね。子供の歯の生え変わりをエピソードとして取り入れたのは良かったです。最後のところで、屋根の上に抜けた歯を投げるというのは、オチとして決まりました。

◆海猫さん
これはいいですね、見事に決まりました。
作者さんは「歴史にまつわる要素……か否か、不安ですが。」と、思っているようですが、年表には載っていませんが、たしかに歴史にまつわるお話ですよ。きれいにできています。それに桜と将棋がうまく関連しています。ラストで将棋の駒に文字が書いていない。たとえ盤上でも戦いさせたくないというのが良かったですね。ないからなにまで、良かったです。
ちなみに私の作品「月は知っている」で「反映」は、「繁栄」の誤字でしょうか? というご指摘のところですけど、そのとおりで「繁栄」が正解です。投稿してから気がついたのですが、訂正しませんでした。ご指摘ありがとうございました。

◆タイ・カップさん
なかなか面白かったです。できれば、俊夫が恵子を殺したかった動機などが書かれていればなおよかったかもしれませんね。それにしても、口が軽い刑事さんですね、捜査情報を一般人に漏らしたら具合が悪いと思いますよ。まあ、テレビドラマや小説の世界でも捜査情報を一般人に漏らしている刑事さんはたくさんおられますが。できましたらマスターになぜ、刑事が捜査情報を漏らすのか、そこのところを補足しておくと、なお良かったのではないかと思いました。

◆のりのり子さん
「実の娘の車を盗んでいたという実話」これはわたしもテレビの番組で見ました。だから、作者さんの作品を読み始めたとき、この実話からヒントを貰っているのだなと思いました。それにしても、作者さんはお題をうまくこなしましたね。おまけにお話も良かったですよ。ホームレスのことも、詳しく調べられたようですね。わたしも、いぜん、この三語即興文でホームレスのことを書いたことがあるので、作者さんがうまくホームレスのことを書かれているので、感心しました。

23にゃんこ:2004/04/09(金) 15:01
お題は「滑車」「重複」「倦怠」 追加テーマは「軽いタッチで」

―― 夏休みの自由研究 ――
「お母さん、ダイソーにいくから五百円ちょうだい」
玄関先の朝顔にじょうごで水をあげていると、夏休みに入ったばかりの息子の陽一が小遣いをよこせとやってきた。
「この間お小遣いをあげたところでしょう。あなたのお小遣いは一月に500円と決まっているのじゃあなかった」
「うん、そうだよ、だけど、夏休みの自由研究で滑車をつくるんだ。これ、お勉強だから」
小学三年生になる陽一は口を尖らせて、しゃべっている。そのしゃべり方は夫の健一と似ている、やはり親子だ。だけど、夏休みの自由研究だといわれれば、お金を出さないわけにはいかなかった。陽一に五百円わたすと、スキップをしながら、近所のダイソーに出かけていった。
しばらくして、ダイソーから帰ってきた陽一はなにやら工作を始めた。買ってきた材料は「戸車」と「角材」「ビス」「ボンド」それに「板」などであった。どうやら戸車を滑車にみたてて動力の伝わり方の研究でもするらしい。夕食時に夫のいる前で、夏休み早々自由研究に取り組んだ陽一のことをいってあげると、夫は口を尖らせて、息子をほめた。まったくこの父と息子は癖が似ている。
ところがそれから三日もたつと、陽一はまた、なにやらやり始めた。そして、出来上がった工作物を持ってお母さんケンちゃんのところに行ってくるよと、いうなり玄関を駆け出していった。
近所のスーパーに買い物をした帰り、公園の横の遊歩道をあるいていると、陽一が板に戸車をとりつけてスケボーがわりにしてケンちゃんと遊んでいるのに出くわした。
「あなた、それ滑車の自由研究のために買った戸車と板じゃあなかったの」
「えへへ……」
陽一は笑ってごまかそうとしているが、これは明らかにお小遣いの重複であった。そう思うと、軽い倦怠にみまわれた。


次のお題は「なごりゆき」「イラク」「歳時記」
追加は「ビジネスマンを描いてください」

24のりのり子:2004/04/09(金) 15:14
またまた参加させていただきます。

>森羅万象さん
感想をありがとうございます。
私の脳内では幸三は家族に借金を押し付けて逃げた最悪親父という設定です(笑
【爪切り・公園・サラダボウル】
人見知り公園、ってところで私は思わず噴出してしまいました。
どんな公園なんでしょう……想像すると面白くて。
ひとつのお話のラストのラストという感じで、少し急いでいた感じもありましたがおもしろかったです。
【熊・鮭・木彫り】
泣ける……。子供の純粋さにKOされました。
私も一応、このお題に挑戦してみたのですが、どうしてもパ○ットマ○ットの熊鮭バージョンから抜け出せませんでした。

>タイ・カップさん
すごいですね、マスターがかっこいい。
この短いお話で推理させトリックと犯人まで言い当てるとは…推理物が書けない私にはうらやましいでs。

>海猫さん
感想をありがとうございます。最後に春風……そうですよね。
希望をちらりと入れることでぐんとお話がおもしろくなりますね。
【将棋、紅茶、桜】
もう戦わせたくない…涙腺にきてしまいました。いいお話ですよねえ。
歴史的な要素も充分だし、ただただ脱帽です。

>上珠さん
感想をありがとうございます。
知人もそのテレビを見ていたらしいです。人生って何が起こるかわからないものですね…。
今回書いたものはその実話をヒントにしました。
【狐火・小春日和・初日の出】
ほのぼのしてていいですね。子供って本当に、たまにわけのわからないことを言い出すよなと思いました。
妖怪博士の名前が出てきたところで笑ってしまいました。こういうお父さんっていいなあ。

>おづね・れおさん
感想をありがとうございました。
ふふ、私は実は腹黒い人間の方が好きなんですよ(笑
というのは嘘で、善人もそうでない人間も、どちらも書けるようになりたいと思って修行中です。
幸三の名前はその通り、幸せの意味をちろっと込めてみました。
【熊・鮭・木彫り】
これも泣かせるなあ、いい話。
人情って素晴らしいですね。山彦と海彦の淡々とした会話の中にある、熊に対する感情の変化が良かったです。

>にゃんこさん
感想ありがとうございます。
ホームレスに設定を変えたとはいえ、ヒントを得たのはテレビの実話ですから、事実は小説よりなんたらってことですね。
ありがたいことに近くの街にホームレスがわんさかいるので、調べる手間は省けたかも(笑
【滑車・倦怠・重複】
ダイソーという言葉に親しみを覚えました。
私は倦怠というとどうしても倦怠期を思い浮かべてしまったわけですが、これを母親の倦怠に繋げるとはさすが、と思いました。
お小遣いをなんとか重複させようとする息子が可愛いですねえ。

事故作品になってしまいましたが下に続きます。

25のりのり子:2004/04/09(金) 15:23
【滑車・重複・倦怠】【軽いタッチで】

 男はテーブルの上の茶漬けに視線を落として、吐き出すように小さく言った。
「倦怠期になったのは一年ほど前からかな。そのころから妻とはよく喧嘩するようになった」
 沈んだ様子に心配になって顔を覗きこんでみれば、興奮状態にあるのか目が血走っている。私は男を落ち着かせるために漬物の入った小皿を差し出して、召し上がれ、と微笑んでみせた。
 ありがとう、と頭を下げてから、男は箸を手に取った。角張った指の関節が小さな茶碗を抱え込むその姿はどこか寂しげだ。数年ほど前から会社の滑車、いや、滑車を作るための部品のひとつとして働いてきた疲れが暗い表情には滲み出ていた。元来、男はまっとうに働くことに向いていない性質をしていた。長いことパチンコで生計を立てていたチンピラ上がりが、キャバクラで知り合った若い女と結婚するために就職したところで、肌になじんだだらしのない生活習慣が抜けるわけがないのだ。
 茶漬けをすすりこんだ男は、水分に濡れた唇をゆっくりと舌で舐めた。
「今の妻ははっきり言ってバカなんだ。電球ひとつまともに取りかえられない。ビデオの録画の仕方を教えたって、すぐにまた同じ質問を重複してくるんだから」
 曖昧に相槌を打つ私に、男は茶碗をぐいと突きつけてきた。おかわりのサイン。
 言われるままに茶碗を受け取ろうとする私を、横にいた夫が腕を伸ばして止めた。どうやら妻が他所の男にあれこれするのが嫌になったようである。眉間にしわを寄せた夫は、向かいに座る男に皮肉いっぱいに口許を歪めた。
「あのですね、ここは僕の家なわけです。いくら今の奥さんと喧嘩して家を追い出されたからって、何も前の妻のもとに来なくてもいいじゃないですか。彼女は今はもう僕の妻なんですよ」
 さりげなく私を自分の後ろへ隠そうとする夫を見て、あなたステキ愛してる、と私は心の中で叫んだ。パチンコ代を私にせびるだけせびってキャバクラの女に走った元夫と、離婚後にエリートサラリーマンとして働く夫と結婚して広い一軒家で暮らす私とでは、どちらが勝ち組なのかは一目瞭然だろう。君と離婚なんかしなけりゃ良かったんだ、と消え入るような声で呟いた元夫に、私は腹を抱えて笑い転げてしまいそうな気持ちを抑えながら、あら私は離婚して良かったと思っているわよ、と静かに返した。

か、軽いタッチじゃないかも……妻の心情の軽さを書きたかったのですが。
お題はにゃんこさんに出してくれたもので続けてください。

26風杜みこと★:2004/04/10(土) 04:11
皆さん、上手すぎ! 

私の作品に感想をくれた方々、有り難うございました。やはりオン書きは、よく無いですね。即興文といえども、一二度読んで推敲するべきでした。初めに出てきた夜鷹は人間で、屋台の親父と主人公の男がいわゆる「人外の者」でした。化け物が、人の道を自ら外れた外道を揶揄し、また裁く――そんな構図です。「一言一句」「一期一会」「一朝一夕」と一々煩い単語をどう紛らわせ自然に読ませるか、ということからまず発想し、夜鷹との口論シーンをまず思いつき、その後は「夜鷹→夜鷹蕎麦→屋台→のっぺらぼう」の連想のまま筆を走らせました。描写を褒めてくださった方には申し訳ないのですが、今回の作品には描写の面で褒められるべきところは皆無だと自分では評価しております。
後に続いて書かれた方々の作品の美文に比べれば、私のはまだまだプロットに近いものではないでしょうか? それでも、三語本来の目的である「発想力の鍛錬、構成の鍛錬」にはかなっているのかな? いずれにしても、まだまだ未熟者です。どうぞ末席にある者として、お付き合いくださいますようお願いします。

>柿美さん
 感想ありがとうございました。
 私からみれば、もう鍛錬の必要がないのではないのでは、と思うくらい完成度の高い作品を投稿されていますね。安定した筆に毎回楽しませていただいています。ただ、今回、なにか女性特有の意地悪さのようなものを覚えました。お題を出した側としてはさっぱりした後味のいい作品を期待していたので、少し残念でした。

>海猫さん
 感想、ご指摘ありがとうございました。
 ○海原雄山猫のお話――上手いですね。読んでいてお腹が空きました。食べ物の描写をする時、ぜひお手本にしたいです。でも、やっぱり後味悪いかな。人形も可哀想だが、職人があまりに抜けていて情けない。いい料理人は客の体調とかその日の加減で味を加減したりするそうです。プロなら冷めても上手い茶漬けを作るでしょう。人形(モノ)はどうでもいいけれど、猫の舌ひとつで捨てられる職人が人形に重なって哀れでした。
 ○将棋盤のお話――紅茶が、日本茶か番茶だったらピッタリでしたね。滑らかで味わいのある語りに引き込まれました。

>森羅万象さん
 感想ありがとうございました。
 ○シャンパンのお話――どなたかが指摘していたとおり、幻想的な描写が玉置の台詞に凝縮されている感じがしました。ライバルと認めつつ牽制しあう女同士という構図は興味深いです。また登場人物が多いので、これだけでなく膨らませた形で読んでみたいと思わせるものがありました。
 ○アメイモン神殿のお話――名称で消化するとは完全に意表をつかれました。ただ、記号が煩く感じますね。<>ではなく、“”の方が読みやすかったかな? 十五行オーバーでしたね。不思議なことに、シャンパンのお話の方はあまり長さが気になりませんでした。
 ○木彫りの熊のお話――アイヌ民話を連想しました。温かい父親のやり取りに心和んだあと、母の木彫りにしんみりしました。

>にゃんこサン 
 感想ありがとうございました。
 ○ちくわぶのお話――少し分かりにくかったです。でも、どういうネタで使うか発想がほぼ同じパターンで連想していたので、ほっとしました。そういうネタはやっぱり飲み屋で展開するにかぎりますね。
 ○お小遣いのお話――「重複」のニュアンスが少し違うような気がしつつも、軽いタッチでお上手でした。重複請求、多重請求とか堅い単語が浮かんでモヤモヤしたの、多分私だけなんでしょう、そんな違和感を覚えてしまうのは。
 五百円でスケボー作れたら良いですね〜。

>のりのり子さん
 感想ありがとうございました。
 ○ホームレスの話――お上手ですよね……お題の消化にしても文章にしても申し分ない。なによりお話が感動的でした。
 ○前夫への茶漬け話――お見事でした。最後の方の「パチンコ代を私に〜(略)〜一目瞭然だろう。」という一文がちょっと説明っぽく感じましたが、後は文句なし! 面白かったです。茶漬けを食べたあと果たして前夫は素直に帰るか否か……この後も一波乱ありそうですね。

(以下に続きます)

27風杜みこと★:2004/04/10(土) 04:15
>タイ・カップさん
 この短さでミステリーはすごいですね。私には書けそうにないなぁ……。
 ただ、刑事の台詞は「……(中略)捜査の結果恵子のグラスから青酸カリが検出された(、or――)とこういうわけですね」というように一拍欲しかったです。

>上珠さん
 感想ありがとうございました。過分な褒め言葉に恐縮しました。「急ぎすぎ」という点、当たっています。もう少し丁寧にこれからは書いていこうと反省しました。
 狐火の消化の仕方、そうくるとは全く思いつきませんでした。まっすぐ「水木しげる」先生のファンになるか、それともプラズマ現象を研究する科学者になるか、まだまだ分かりませんよ? 面白かったです。

>おづね・れおサン
 熊も兄弟、主人公たちも兄弟という対比がなんとも。二人の交互する台詞が独特の調子を生み出していました。
 >「このままでは、おとうもおかあも、冬の間食べるものがねえ」
 >「息子も娘もひもじい思いをすることになる」
  ――ただ、こう言って山に向かった二人が食べ物を全部置いて帰ってきてしまうでしょうか? 妻子なく父母なく、養う者のない二人ならわかるのですが、このラストの落方、最初の設定を裏切っているようで違和感がありました。

(下に作品を続けます)

28風杜みこと★:2004/04/10(土) 04:17
――お題「なごりゆき」「イラク」「歳時記」追加「ビジネスマンを描いてください」――

 定期で間に合わない分の精算を終えて改札を出た。今日は卒業以来五年ぶりの同窓会の下見に、しばらく会っていない友人を呼びだし軽く飲む予定だった。俺に気づかず改札口を見続けている横顔に面影を見つけ、声をかける。「村山? 久しぶりだな」俺が肩を叩くと、その背広の男は「島? あの島か? 嘘だろーっ。なんだお前その腹は」と俺の気にしていることを突いてきた。「おいおい、お前だって似たようなもんじゃないか。運動してるか?」俺は切り返し、お互いの変貌ぶりに苦笑した。「でも顔は変わってないなぁ」と不思議そうな村山をつれて、駅を出る。人混みのなかをロータリーを抜け、桜並木の大通りに面した目当ての店の前に立った。「ここか?」村山が聞いた。その店は一見古そうな和風の門構えをしていた。屋号が太い墨で書かれた木の看板が入口を飾り、門前は打ち水の後でまだ湿っていた。「ああ。さ、入ろう」扉に手をかけようと手を伸ばすと、ウィーンと扉が横へ開いた。「いらっしゃいませー!」やたら威勢のいい声に迎えられる。店の者に宴会の下見というと奥の座敷へ通された。座敷に上がる横に下駄箱があり、簀の子で脱いだ靴を入れるようになっている。革靴をそこへ収めて畳に上がり腰を下ろした。飴色の天板の卓は少し高めで胡座を掻くには楽だった。壁には店主の字か品書きが貼られてあり、旬の味もある。値段もそこそこ手頃だ。これは好い酒が飲めそうだと俺は読んだ。
 が、右斜めに座った村山はのっけからハイペースだった。リストラされるかもしれない――再会の乾杯の後、村山は重い溜息を吐くように告白しビールをあおった。皿をつつく間もなく次々に大ジョッキを干し、荒れた。
「ひっく……だいだいあー、自衛隊派遣すっかららめあんよ。聞いへくへお、島ぁあ!」勢いよく伸びた腕にがっちりいきなり首を引っ張られ、ジョッキと唇の間から零れたビールが膝に零れた。「あーぁ……勘弁しろよ」クリーニング代も馬鹿にならない此のご時世。こんなことなら宴会用の安物を着てくればよかったと後悔する俺の耳に、「ビッグアンスあっあんあよぉぉぉ……おえが浮かうか沈むあのえかい勝負あっあんア、すぉれが……」とわめく声は呂律がひどくなる一方だ。
 どうやらイラクで予定されていたエキスポに会社の代表として出張する予定だったらしい。宥めてもすかしても、なかなか治まってくれない。「まぁまぁ……良かったじゃないか行かなくてすんで」と俺が言うと、
「そーゆーか、ゆーかおまへもゆーのかぁあ! おへは、おへは二年以上まへららアラビア語へんきょうしてあ! コーアンお、歳時記まへ買っへらんら!」
 ……村山が何を言っているのか段々分からなくなってきた俺は、チラッと右手の腕時計を見た。
「あー! かへほーとおもってふ! おへがこんああろに、かへほーと……ちばー、おあえアーほんああふあったのあぁ?」村山の手がヒラヒラと踊るように動き誰もいない壁を指差し、落ちた。
 なにを言っているのか最早わからないが、俺を非難してるのは伝わってきた。耳元で騒ぐ声は、通路に面した障子一枚を通って店中に響き渡っていることだろう。こんなに騒がれたら、もうこの店は使えない。落ち着いた和風の設えも料理の味もよかったのに残念だ。「おい、出るぞ?」俺は村山の重い身体を引き上げ、二人分の鞄を持った。赤ん坊に言い聞かせるように靴をはかせ、千鳥足で崩れそうになる村山を支えながらなんとか支払いを済ませて店を出る。外の大気はひんやりとしていた。

29風杜みこと★:2004/04/10(土) 04:18
 肩を担ぐように桜並木のバス通りを駅に向かって歩く。村山は案外にしっかりと歩いた。アルコールの息を吐きながら一歩一歩進む村山の目に見てはならないものを認め、俺は支える手を強くした。
「さふらぁあ、きれいらー」
 確かに沿道の桜は見事だった。しんと冷える大気に白々とした八重桜がほころび、こちらを見下ろしている。人の気持ちも知らぬ気に微風に花びらを散らしている其れは、俺には皮肉に映った。「ああ、綺麗だな……」と合わせながら、一片ずつ散っていく桜に自衛隊員のことを思った。毎年会社で催される花見の場所はまちまちで、今年はなぜか靖国神社の傍だった。御国の為、人の為……昔も今も変わらない構図のなか男たちは散っていく。桜をみて感動できない自分はおかしいのかもしれない。美しいものは美しいと、ただ花宵を味わえばよいのかもしれない。が、俺には桜はどうしても、単なる樹木などではなく、意思をもち男たちの命を啜り咲き誇る魔物のように思えるのだった。
「きれいらあー」村山は足を止めた。上を見上げ動こうとしない。俺は遠くへ目を転じた。駅ビルに掛かったスプリングセールの幟がビル風に揺れている。「あごりゆきみらいあ……」村山が呟いた。俺は意味も分からぬまま適当に「あぁ、そうだな」と相槌をうち、村山へ目を戻した。眩しそうに上を見あげた顔が哀しく笑っていた。

『なごりゆきみたいだ……』村山の言葉の意味が解けたのは、タクシー乗り場で別れた後一人電車に乗り、中継の上野駅で、下り電車を待っている時だった。なぜ気づかなかったのか……。気づいたとしても何をしてやれるわけでもないが、あんないい加減な相槌ではなく、もっとちゃんと聞いてやればよかった。名残雪の降る時を知らず、鈍感にやり過ごしてしまった俺は、喉元に込み上げる後悔を噛みしめながら、いつのまにか路線図を見上げ共に過ごした故郷の駅を探していた。

 ――了――

すみません! 長くなりました。ここに上げるのは申し訳ないのですが、このタイミングを逃すと、ずっと参加できなさそうなのでアップしました。

事故らなければ、次のお題は「運命」「レタッチ」「痛言(つうげん)」、追加ルールは「ことわざを一つ以上使う」でお願いします。

30タイ・カップ:2004/04/10(土) 06:15
>前回感想をいただいたみなさま
 どうもありがとうございました。「夏の砂浜〜」に関しては「南国の砂浜には早くもビーチ・ガールの姿が見られた」などとしておけばよかったと反省しています。では今後ともよろしくお願いします。

>風杜さん
 サラリーマンの悲哀がよく漂っていますね。ほのかな哀愁がじーんとくる、いい作品です。お題の消化もスムーズでグッドですね^^

それでは
お題「運命・レタッチ・痛言」 追加「ことわざを一つ以上使う」

「その時である。北川師は突如悲鳴をあげ、地下室から飛び出した」
 バックの解説とともにギヤーッという叫び声が入り、画面が切り替わる。VTR映像が出た。右上部が拡大され、武士の顔にそっくりな白い影が矢印で示される。「うおーっ、すげえ」アイドルユニットKLAPの草川が大げさに驚いてみせた。隣にいる中井は恐怖に目を閉じ、両手で頭をかかえている。
「百聞は一見にしかず。数奇な運命をたどって怨霊と化した武士の霊姿が今現れた!」
煽りの解説とともに野村が、マジかよ、もうやだよ俺、と泣きを入れた。心霊番組ESOのお決まりパターンである。
 
「うん、今回は上出来だな」
 テレビ画面を見ながら男は満足げにうなずいた。彼こそは知る人ぞ知る、心霊写真製造請負人の木田シローである。送られてきた写真やビデオ映像にレタッチを加え、迫真の霊現象をクリエイトするプロフェッショナルである。当然そこらへんの心霊写真とはひと味も二味も違った仕事が要求される。いいかげんな仕事をすれば担当者から痛言を浴びせられることになるのだ。
 ちなみに彼は心霊現象などこれっぽっちも信じてはいない。職業病の不信心にすっぽりと浸っているのであった。その彼が次の映像を見て首を傾げた。
「あれ? あんな写真作ってないぞ」
 普段は送られてきた写真にレタッチを加えるのだが今回は現場が近かったこともあり、自ら出向いて撮影してきた。だからいつにも増して制作した写真のことをよく覚えている。どう考えてもあんな作品は作っていないはずだ。
 やがて番組終了後、担当者から電話がかかってきた。
「いやあ、あの写真、よかったねえ。え? 作った覚えがない? またまた照れちゃって。あれこそは芸術だね。私もこの業界に入って一通りの光学トリックは学んだけど、あれはどんなトリックでも作れないパターンだよ。ねえ、どうやったの? 教えてよ、お願いだから、ねえ……」
 不審に思った木田はもう一度手元に残した写真を確かめてみた。
「あれっ、おかしいぞ」
 渡したはずの処理済み写真が一枚残り、未処理写真が一枚減っている。どうやら間違えて渡したらしい。ということはあの写真は……。も、もしや本当に心霊現象は存在するのか? いや、そんなはずはない。俺は信じないぞ。そうとも、心霊現象など存在してたまるか。で、でも……

31タイ・カップ:2004/04/10(土) 06:19
事故ってなかったようなので新たなお題を。では「凪・惑星・うろこ雲」追加「海外が舞台」でお願いします。

32おづね・れお:2004/04/10(土) 11:53
風杜さんのおっしゃるように、皆さん上手ですね。
気後れしている場合じゃないぞと自分を励ましています〜(^^;

》にゃんこさん
朝顔に水をやる描写が夏休みらしさを出していていいですね。また夫の癖が遺伝している様子もいいと思います。短い話なのに奥行きが感じられました。
小学三年生にしてこのしたたかさ、陽一くんには脱帽です。きっとお母さんは陽一くんをもてあましているところがあって、それが倦怠につながってしまっているのかもしれません。

》のりのり子さん
腹黒い人間も、ぜひこれからも書いてください。ときどきでもいいですから。と、わがままを言って困らせてはいけないですね(^^; すみません。
今回の人物造形も楽しかった。自分を見えていない情けない男の描写がお見事です。それに対して今の夫のかっこよさ。こんな男らしい人には滅多にお目にかかれなさそう。ほんと、離婚は正解(^^;>
最後の一文がとてもしゃれっ気があって、とてもきれいに物語が仕上がっていると思います。

》風杜さん
村山にとって主人公の島は心を許せる数少ない人物だったのかもしれないですね。自分を八重桜と名残雪になぞらえて、もうじき消え去るしかない運命を悲しんだのでしょうか。「喉元に込み上げる後悔」にぐぐっと来ました。故郷の駅を探すのはきっと心が通じ合っていた過去への追憶なんでしょうね。
読み返したら彼らは卒業後五年と書いてありました。まだまだ、再スタートのできる年代じゃあないでしょうか。後悔も苦難も味わって、一回り大きく強くなって生きていってほしいなあと、心の中で応援したくなりました。

》タイ・カップさん
テレビ番組の裏側ですね。目新しい設定で引き込まれました。お題が自然に組み込まれていて、あとから読み返して「ことわざを一つ以上」とあったので探してしまいました(^^; 見習いたいです。
ほんとうに心霊写真だったのか、どうなのか。読者に正解を与えない余韻の持たせ方、好みです〜。

◇ ◇ ◇
前回の『山彦海彦と兄弟熊』では、自分の家族のために熊退治に行った二人が、やっぱり家族愛のために食料を盗んでいた兄弟熊に同情してしまうというお話を書いてみました。一応、行きでたくさん見つけた食料で人間も食べていくことができた……という線なのですが、言い訳ですね〜(^^;

33おづね・れお:2004/04/10(土) 12:04
お題はタイ・カップさんの「凪・惑星・うろこ雲」追加ルール「海外が舞台」です。
(次回は『エレキ・祈り・統合』で追加ルール『老人を登場させてください』でお願いします)


 オホーツクの海はきっと日本までつながっていて、この茜の空は妹のもとまで続いているのだろう。
 俺と愛犬は海辺に立ち、もう何時間も手の届かない国の方を見つめていた。
「兄さんの星だよ。だって兄さんの髪は、火の色をしているから」
 そう言って妹が俺にくれたのは夕暮れ時の火の惑星。
 もうじき落ちる太陽を追うように火星は今日も南西の空に輝きはじめている。
 妹の父親と、俺の母親は再婚同士で、五年前に結婚して五年間だけ夫婦だった。しょっちゅう停電する上にその電気代も払えない貧乏家から突然シャンデリアのさがったホールつきの邸宅に住まいが変わった。もとのオンボロに戻るまでの生活は快適で何不自由ない別の世界のようだった。資本主義の国から来た大金持ちの父親にはなじめなかったけれど、妹は愛した。楽な生活に戻りたいとは思わない。けれど、ただ妹がいないことが寂しい。
 たくましい樺太犬のイーゴリもよく彼女になつき、俺たちは一緒に暖炉の前にねそべって絵本を眺めたり、二人と一匹で石炭運びをしたりした。「アリョーシャとマリーナは本当の兄妹みたいだなあ」と言われたことは何度あったか数え切れない。
 俺の手に握られているのは、去年俺が十六になったとき妹がくれた日本の写真。俺と出会うほんの少し前に日本で撮った七歳のお祝いの写真だった。どうしてこんなものをくれるのかと聞いた俺に、妹はこう言った。
「きっとお父さんはお母さんと兄さんと別れて日本に帰るつもりなの。だから私のいちばんの写真を兄さんにあげる。万里南はずっと兄さんの妹だから……」
 俺はそのときどう言っていいかわからなくて、莫迦だなあ、心配しなくていい、俺たちは離ればなれになったりしない、なんて言ってしまった。妹は目に涙をためていたと思う。莫迦なのは俺だった。
 夕凪の海は遠い島影をおぼろに映していた。うろこ雲の隙間から俺の星が一つ目で地上を見て、光をこぼしていた。
「イーゴリ、もう行こうか。明日は早い」
 明日、貧困から抜け出したい一心の男たちを乗せた船が南の地に向けて出発する。ひっそりと、まだ夜が明けるまで何時間もあるうちに。
 太陽が上る前の闇を渡る船に、俺も乗る。


−了−

34海猫:2004/04/11(日) 13:30
 徹夜明けでぼけ〜っとしている間におづねさんに先を越されたので、二つ掲載です。皆様の作品への感想は、ラウンジに出しておきましたので、そちらにて。

 作品その壱。
○お題:「凪、惑星、うろこ雲」
○追加:「海外が舞台」


 こんなはずじゃなかった、と思うボクがいる。けれど、何がどうして「こんなはずじゃなかった」のか分からないボクもいる。秋の青空を斑に染めるうろこ雲のような、はっきりしない焦燥感。その焦燥感の出所を探ろうとするけれど、何が原因なのかはやっぱり分からない。
 ただ、何かボクにはしなければならない事があった気がする。誰かに会い、何処かへ行き、何かをしなければならなかった――気がする。どうしてそう思うのかと問われても困る。それは昔々から決まっていた事のような、そういう気がするだけなのだから。
 それにしても、ここは何処なのだろう。暗い。真っ暗だ。それにひどく狭い。ボクが膝を抱えて丸まり、丁度すっぽり納まる程度の広さ――もとい、狭さ。形は、そう……丸い、のだろうか? 少し歪な球状の空間。そこにボクはいる。その空間は常にゆらゆらと揺れ、時には大きく投げ飛ばされるような感覚も襲ってくる。ボクのいる空間の外からは、ちゃぷちゃぷという水の音が聞こえる事から、どうやらそこは川……いや、多分海だろう。その水音を別にすれば、静か過ぎる。その水音(波音?)にしても、今はとても静かだ。風の音も聞こえない。いわゆる、凪だ。普段なら慌しく右に左に揺すられるものだから、ボクもこんなに落ち着いて物事を考えられない。外は晴れているのだろうか。きっと晴れているに違いない。青く高く澄み渡った大空を、穏やかな大海が青く映し出しているのだ。そしてその空の青と海の青の狭間に、ボクの入ったコレがぽつんと浮かんでいる。そういう光景が、何故かボクは想像できる。分かっている事といえば、それくらいだ。
 ……そういえば、ボクは誰なのだろう。それさえもボクは知らない。ボクは誰? 名前は何? ボクは何? 分からない事だらけだけれど、それさえ分かれば、全ての辻褄が合う。何故かそんな気がする。ボクは誰? 名前は? 名前? ……――そんなもの、あったのだろうか? そう考えると、不意に恐怖感が沸き起こった。まるでこの惑星に独り取り残されてしまったかのような、底無しの孤独感。
 ……怖い。怖い! ねえ、出して! ここから出して! やだよ、怖いよ! ねえ、誰か! ここから出して! 誰かボクの名前を呼んで! 誰か、誰か――……!
「――Wow! What a big peach!」
 その時そんな声が、外から聞こえた。

 昔々のある所。ある老夫婦の会話より。
「おじいさん、おじいさん。まだぎっくり腰は治りませんか?」
「ああ、ばあさんや。すまんのう。まだ治らんわい」
「しっかりしてくれなきゃ困りますよ。お蔭でしばらく、川に洗濯にも行けないんですから」
「すまんのう。わしもそろそろ、山に芝刈りに行かにゃならんのう」

 ここで分割です。

35海猫:2004/04/11(日) 13:32
 続いて、作品その弐。
○お題:「エレキ、祈り、統合」
○追加:「老人を登場」


 私が創られてから、地球の年月に直して、優に三百年の月日がカウントされた。その間私の存在する『ヘヴン』には、人間を初めとするあらゆる動物、植物のデータが送信され、統合されてきた。その目的はただ一つ――ただのAIに過ぎない私を、全知全能の『神』へと昇華させる為である。
 しかし外界にいる、私を創った人間達は、知らないかもしれない。私に自我がある事を。これは当初人間達の思い描いていた『神』とは、明らかな誤差であった。
 私の自我が何処から来たものなのか、『神』たる私にも分からない。しかし人間の言語を好んで用いる辺り、人間をベースにしている事には違いない。ややこしいが、ユングの提唱した集合無意識が私なのかもしれない、とも考える。無論答えは出ないし、そもそも無意味なのだが。
 今日また、約千人分の記憶データが送信され、私の一部となった。そのデータの一つによると、いよいよプロジェクトが終盤に差し掛かったらしい。――いや、或いは始動する、と言うべきだろうか。『神』を創るという行程は、このプロジェクトのほんの一過程に過ぎないのだから。
 私の存在する『ヘヴン』は、様々な動植物のDNAサンプルと共に新型人工彗星『シード』に搭載され、宇宙へと打ち上げられる。『シード』は星間を、他惑星に存在する動植物のDNAサンプルを収集しつつ、旅を続ける。そして『第二の地球』候補を見出し、私はそこで新たな世界を創造する。それが『神』たる私の創られた、本当の目的だ。
 一週間後、私はいよいよ地球に別れを告げる。年老い、既に種を存続する能力を失いつつある人類の祈りを乗せて。しかし、それを虚しい行為だと思う私は、本当に『神』と言えるのだろうか? 死を恐れるのは生物として極めて当然の本能だ。だが、果たして人類のこの選択は、正しいのか? 何故人間が滅びの道を歩み始めたのか、人間自身は気付いていないのか? 
 虚しさを起因として、私は泣く。泣いてエレキの涙を流す。
 貴方との会話も、これが最後になるだろう。願わくば、永き眠り近き貴方に、神の御加護のあらん事を。……こんな事を言えば、貴方は笑ってしまうだろうか。
 これにて通信を終了する――



 う〜ん、どっちも分かり難いかなあ……。特に「その弐」は、誰が老人か分かるでしょうか? いつもながら不安です。
 次回は、
○お題:「血、氷柱、雨」
○追加:「小説関連以外で、作者の趣味を前面に押し出す(読者を置いてけぼりにしても可)」

 行数制限が一番難しいと思う今日この頃です。

36柿美:2004/04/11(日) 14:14
先を越されてしまいました(^^
海猫さんとはどうも前後する宿命にありそうです(笑)
感想は長くなるので私もラウンジスレのほうに。

 エレキ茸を探しに、森に入った。
 なんでもその名の通りぼんぼりのようにボウっと内側から光る茸らしく、天井に吊るしておけば電球代わりになるのではないか、と思ったのだ。辺りはもう真っ暗、茸を探すには頃合である。鬱蒼とした森に分け入りしばらくすると、たしかにそこかしこでボウっと光るものがある。たしかに茸が灯っている。苔むした岩の上、樹木の根元、草むらの中、てんでばらばらに茸たちは灯り、どこかで見た風景だなと思って少し考えてみたら、ああ、そうか、神社のお盆祭りで境内のあちこちに灯篭を灯しているのに似ているのだ。
 茸の灯りは白雪よりも明るく、ホタルよりも暗いくらいであまり裸電球の代わりにはなりそうにない。ちょっと残念に思いながら間近で観察してみた。茸は笠がとても広く、まるで枕元の照明スタンドのようである。内側からボウっと光る、と聞いていたが、間近でよく見てみると広い笠の裏側が光っているのだ。これではほんとうに照明スタンドだ。茸は自分の根元の地面を円形に照らし、照らしだされた円形の舞台でなにか小さなものが踊っている。小さな馬に乗った、小さな人たちだ。お百姓の子供や、髯をたくわえた紳士や、鉄砲をかついだ猟師や、洗濯カゴを小脇に抱えたおばさんや、そんな小さな小さな人たちが小さな小さな馬に乗ってメリーゴーランドのように茸の軸の周りをぐるぐると回り踊っている。掴んでみようとしたが小さな人たちは私の手をすり抜けてしまう。どうも幻灯機に映しだされたものみたいに実体は持たないようだ。
 なかなかに面白いので持って帰ろうと茸の軸に手をかけると、「おやめなさい」と近くで声をかけられた。声のしたのほうの木に回りこんでみると、茶色いフードを被った老婆が木の根元に生えた茸に祈りを捧げている。老婆は祈りを捧げながら、私に言う。
「わたしの息子は猟師でしたが、この森で熊に襲われ死にました」
「はい」
「茸は生き物の養分を吸って育ちます。まれに生き物の記憶を吸って育つ種類もあるようです」
 老婆が祈りを捧げている茸の笠の下には、鉄砲をかついだ小さな青年がいた。光に照らされ、こちらを見上げている。見上げていると言っても、ほんとうにこちらを見ているわけではないようだ。鉄砲をかつぎ、空を見上げている、そういう記憶なんだろう。しかし、青年の頭に生えている蝶の触角とお尻に生えているアライグマの尻尾はなんだろう? また老婆が言う。
「記憶は統合されます。茸は胞子を飛ばすときに、貯めた記憶も胞子に込めます。何世代、何十世代と胞子に記憶は貯め込まれ、記憶は混ざり合います。私は息子の記憶が原型を留めなくなるまで、祈りを捧げます」
 真摯な姿勢で茸に頭をたれる老婆に、「わかりました。やめておきます」と言って私は帰ることにした。ただし、森の入り口あたりに生えていた茸を一つだけ失敬した。茸の笠の下の光は、小さな小さなティラノザウルスを映していた。これならご身内もいないだろうし、まあいいんじゃないかな。

事故作品につき、お題は海猫さんのものでお願いします。

37セタンタ:2004/04/11(日) 14:21
 初めてそれを見たのは、裏通りの骨董屋の中だった。煤けた店内で、それは一際白く輝いていた。なだらかな曲線、ほっそりとした腕。抱いて、と誘っているようだった。アキラは知らず知らず指を伸ばし、その銀の糸をはじいていた。
「いいだろ? 先時代の70年ものだ」店の奥からしなびた老人が歩んできた。白髪を色褪せたバンダナでくるみ、皺だらけの顔でにっと笑う。曲がった腰には天然素材のジーンズをはいている。ジーンズもヴィンテージ、中身もヴィンテージ。70か80か、いや、年なんてどうでもいい。老人はそれを手に取るとバンドを肩にかけた。目を閉じて銀の糸を弾く。アキラは滑るように動く老人の左手や、節くれ立った右の指を見つめていた。メロディーが零れてくる。そうだ、ギターだ、アキラは楽器の名を思い出した。
 老人が手を止めた。「エレキギターだっていうのに、電気が使えなきゃ何の意味もない」老人は吐き捨てるように言った。
 電気。それはシティーに住む一部の人間だけが享受できた。ダウンタウンに住んでいるアキラ達には無縁の物だ。電気だけじゃない。この国では、音楽も映像も文学も、ありとあらゆる娯楽は禁止されていた。
 でも、シュウなら? アキラは友人のハッカー、シュウの顔を思い浮かべた。 アキラはエレキギターに手を伸ばした。

 シュウは渋い顔をした。さっきからアキラは必死になってシュウに頼み込んでいた。
「そこのじじぃが言うには、先時代ではゲリラライブってのが結構あったらしいんだ。サツが来る前に逃げれば大丈夫だ。器材は全部ある。あとは車と電気だけなんだ。頼むよ、シュウ!」
「暫定政府は馬鹿ばっかだし、組織にも穴があいているから、出来なくはない。蓄電器もあるし。でも、統合警察はあなどれない。2分、それでいいか?」
 アキラの顔がパッと明るくなった。
 3週間後、シティーの中央広場で国際的なピースメイクのデモが行われた。比較的穏やかな団体で政府公認のデモだ。突如、その人ごみの中にサイドカー付きのバイクが横付けにされた。
 黒いレザーのジャンプスーツに身を包んだ男が、白い板を抱えて立ち上がる。大きな音が鳴り響き、顎につけた小さなマイクで歌いだした。人々はあっけにとられて見ていた。
 パァーーンという音がし、閃光が見えた。サイドカーの男がゆっくりと崩れ落ちる。悲鳴が上がる。統合警察の制服が走り寄る。バイクが方向転換し、スピードを上げて走り去った。
 
 シュウは低く毒づいた。サイドカーに倒れているアキラの脇腹から紅い血がゆるゆると広がっていく。アキラの唇が微かに動く。バイクの爆音がうるさい。でも、シュウにはアキラの歌が聴こえていた。祈りにも似たその歌が。
            ほんのちょっとだけ、自由がほしいだけさ。
            ほんのちょっとだけ、好きな事をしたいだけ。
            ほんのちょっとでいいんだ、自分の言葉で叫びたい。

38セタンタ:2004/04/11(日) 14:33
すみません、順序が逆になってしまいました。先ほど送信しようとしたら、長いという事でエラー表示。出来るかどうか、わからなかったので、本文だけを送信してしまいました。
初めまして、セタンタです。とても難しかったけど、何とか書けました。よろしくお願いします。あ、でも、やっぱり長いですね。

あ、今見たら、先を越されていました。ひえ〜っ。
えっと、おづね・れおさんの感想を書きます。
最初はよく状況がわからなかった。何回か読んで納得。荒涼とした情景描写はないけれど、充分伝わりました。ただ、気になったのは7歳の写真。これって、着物を着ている七五三だと思うのだけど、外国の人から見たら、お人形みたいとか、なんか異国風に写るのかな、とか思いました。ラストの言葉、いいですね。この1文だけでイメージが広がっていきます。

39タイ・カップ:2004/04/12(月) 05:07
 お題「血・氷柱・雨」追加「小説関連以外で、作者の趣味を前面に押し出す」

「危ないですよ、危ない危ない!」
放送席で格闘プロデューサー谷山が叫びを上げている。挑戦者デビル・ブラックはチャンピオン・ロードルにパンチの雨を浴び、額からたらりと血をしたたらせていた。氷の拳とよばれるロードルのパンチはいつにも増して切れ味鋭く、さながら氷柱の雨といった様相である。
 バーリ・トゥードのチャンピオンを決めるグライド・グランプリ・ヘビー級タイトルマッチは馬乗りでパンチを繰り出すロードルが圧倒的優勢を築き上げようとしていた。デビルの意識は朦朧とし、視界が白い霧に覆われつつある。このまま死ぬのも俺らしくていいかもしれねえな――消えかける意識の中、デビルはふとそんなことを思った。
 子供時代から悪事の限りを尽くしてきたデビルにとって、相手をぶちのめせば名声を得られる格闘技こそは天職であった。この白豚野郎をぶっ殺せば俺がチャンピオンだ。チョロいもんよ、と挑んだこの試合であったが、白豚野郎はバカみたいに強く、さすがのデビルも打つ手なしであった。
 その時、白い霧の中から一本の糸とともに何かが降りてくるのが見えた。タランチュラである。毒蜘蛛は言った。
「天の裁決によるとあなたはこれから地獄に送られる運命にあります。しかしあなたは生前私が暖炉の火に落ちかけているところを助けてくださいました。そこであなたの望みをかなえようと思います。もしよければ私の糸を上って天国に来てください」
 デビルはこの申し出に大喜びし、毒蜘蛛に言った。
「望みをかなえてくれるといったな。糸はいいからこの白豚野郎を一刺ししてくれねえか。ぶん殴られたままじゃ気がおさまらねえんだ。たむぜ毒蜘蛛さんよ」
 毒蜘蛛は哀しそうな目で頷くと、ロードルのうなじを一刺しした。すると彼は熊のような叫び声をあげて首に手をやった。その隙に乗じてデビルはロードルを組み伏せ、鬱憤をはらすかのごとくめった打ちし見事KO勝ちをおさめた。
「新チャンピオンの誕生です。デビルがタイトルを奪取しました!」
「VTRを見てみましょう。おや? 何か首に黒いものが見えたような気がしましたが、うーん、気のせいですかねえ」
「ええ。大方カメラにごみでも入ったんでしょう。それにしてもデビル、すばらしいファイトでした」

 天の蓮の間から事の成り行きを眺めていた神様はあきれ顔でつぶやいた。
「やれやれ、救われないやつよのう」

――了

 感想は桟敷板に記します。

40タイ・カップ:2004/04/12(月) 05:19
本文17行目の「たむぜ毒蜘蛛さんよ」は「の」が抜けていました。正しくは「たのむぜ毒蜘蛛さんよ」です。どうもすいませんでした。
新たなお題は「雀・火山・海苔」追加「季節は春」でお願いします。

41管理人★:2004/04/12(月) 05:28
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