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文章鍛練企画【三語即興文】4/4〜

29風杜みこと★:2004/04/10(土) 04:18
 肩を担ぐように桜並木のバス通りを駅に向かって歩く。村山は案外にしっかりと歩いた。アルコールの息を吐きながら一歩一歩進む村山の目に見てはならないものを認め、俺は支える手を強くした。
「さふらぁあ、きれいらー」
 確かに沿道の桜は見事だった。しんと冷える大気に白々とした八重桜がほころび、こちらを見下ろしている。人の気持ちも知らぬ気に微風に花びらを散らしている其れは、俺には皮肉に映った。「ああ、綺麗だな……」と合わせながら、一片ずつ散っていく桜に自衛隊員のことを思った。毎年会社で催される花見の場所はまちまちで、今年はなぜか靖国神社の傍だった。御国の為、人の為……昔も今も変わらない構図のなか男たちは散っていく。桜をみて感動できない自分はおかしいのかもしれない。美しいものは美しいと、ただ花宵を味わえばよいのかもしれない。が、俺には桜はどうしても、単なる樹木などではなく、意思をもち男たちの命を啜り咲き誇る魔物のように思えるのだった。
「きれいらあー」村山は足を止めた。上を見上げ動こうとしない。俺は遠くへ目を転じた。駅ビルに掛かったスプリングセールの幟がビル風に揺れている。「あごりゆきみらいあ……」村山が呟いた。俺は意味も分からぬまま適当に「あぁ、そうだな」と相槌をうち、村山へ目を戻した。眩しそうに上を見あげた顔が哀しく笑っていた。

『なごりゆきみたいだ……』村山の言葉の意味が解けたのは、タクシー乗り場で別れた後一人電車に乗り、中継の上野駅で、下り電車を待っている時だった。なぜ気づかなかったのか……。気づいたとしても何をしてやれるわけでもないが、あんないい加減な相槌ではなく、もっとちゃんと聞いてやればよかった。名残雪の降る時を知らず、鈍感にやり過ごしてしまった俺は、喉元に込み上げる後悔を噛みしめながら、いつのまにか路線図を見上げ共に過ごした故郷の駅を探していた。

 ――了――

すみません! 長くなりました。ここに上げるのは申し訳ないのですが、このタイミングを逃すと、ずっと参加できなさそうなのでアップしました。

事故らなければ、次のお題は「運命」「レタッチ」「痛言(つうげん)」、追加ルールは「ことわざを一つ以上使う」でお願いします。


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