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文章鍛練企画【三語即興文】4/4〜
37
:
セタンタ
:2004/04/11(日) 14:21
初めてそれを見たのは、裏通りの骨董屋の中だった。煤けた店内で、それは一際白く輝いていた。なだらかな曲線、ほっそりとした腕。抱いて、と誘っているようだった。アキラは知らず知らず指を伸ばし、その銀の糸をはじいていた。
「いいだろ? 先時代の70年ものだ」店の奥からしなびた老人が歩んできた。白髪を色褪せたバンダナでくるみ、皺だらけの顔でにっと笑う。曲がった腰には天然素材のジーンズをはいている。ジーンズもヴィンテージ、中身もヴィンテージ。70か80か、いや、年なんてどうでもいい。老人はそれを手に取るとバンドを肩にかけた。目を閉じて銀の糸を弾く。アキラは滑るように動く老人の左手や、節くれ立った右の指を見つめていた。メロディーが零れてくる。そうだ、ギターだ、アキラは楽器の名を思い出した。
老人が手を止めた。「エレキギターだっていうのに、電気が使えなきゃ何の意味もない」老人は吐き捨てるように言った。
電気。それはシティーに住む一部の人間だけが享受できた。ダウンタウンに住んでいるアキラ達には無縁の物だ。電気だけじゃない。この国では、音楽も映像も文学も、ありとあらゆる娯楽は禁止されていた。
でも、シュウなら? アキラは友人のハッカー、シュウの顔を思い浮かべた。 アキラはエレキギターに手を伸ばした。
シュウは渋い顔をした。さっきからアキラは必死になってシュウに頼み込んでいた。
「そこのじじぃが言うには、先時代ではゲリラライブってのが結構あったらしいんだ。サツが来る前に逃げれば大丈夫だ。器材は全部ある。あとは車と電気だけなんだ。頼むよ、シュウ!」
「暫定政府は馬鹿ばっかだし、組織にも穴があいているから、出来なくはない。蓄電器もあるし。でも、統合警察はあなどれない。2分、それでいいか?」
アキラの顔がパッと明るくなった。
3週間後、シティーの中央広場で国際的なピースメイクのデモが行われた。比較的穏やかな団体で政府公認のデモだ。突如、その人ごみの中にサイドカー付きのバイクが横付けにされた。
黒いレザーのジャンプスーツに身を包んだ男が、白い板を抱えて立ち上がる。大きな音が鳴り響き、顎につけた小さなマイクで歌いだした。人々はあっけにとられて見ていた。
パァーーンという音がし、閃光が見えた。サイドカーの男がゆっくりと崩れ落ちる。悲鳴が上がる。統合警察の制服が走り寄る。バイクが方向転換し、スピードを上げて走り去った。
シュウは低く毒づいた。サイドカーに倒れているアキラの脇腹から紅い血がゆるゆると広がっていく。アキラの唇が微かに動く。バイクの爆音がうるさい。でも、シュウにはアキラの歌が聴こえていた。祈りにも似たその歌が。
ほんのちょっとだけ、自由がほしいだけさ。
ほんのちょっとだけ、好きな事をしたいだけ。
ほんのちょっとでいいんだ、自分の言葉で叫びたい。
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